説明

酸性薬液供給方法及びこれを用いたアスベスト含有吹付け材の除去方法

【課題】簡単な作業により作業時間の低減が図れ、しかも狭小な作業空間や基材形状が複雑な場合であってもアスベスト含有吹付け材を確実に除去することができる酸性薬液供給方法及びアスベスト含有吹付け材の除去方法を提供する。
【解決手段】本発明は、基材1の表面に吹き付けられたアスベスト含有吹付け材2に対する酸性薬液供給方法であって、酸性液Tを浸透させる吸液性素材3をアスベスト含有吹付け材2の表面2aに配置した後に、吸液性素材3に酸性薬液Tを吹き付けて浸透させ、アスベスト含有吹き付け材2に酸性薬液Tを浸透させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に吹き付けられているアスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液供給方法及びこれを用いたアスベスト含有吹付け材の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吹付けアスベスト材やアスベスト含有吹付けロックウールなどのアスベスト含有吹付け材の除去方法として、ケレン棒等の工具による粗落し後、例えばブラシ等を用いてセメント成分を主体とした残留付着物を削ぎ落として磨き上げる作業が行われている。また、人力の場合に比べて作業効率を高めた除去方法として、除去装置等を使用するものが例えば特許文献1から3に開示されている。
【0003】
特許文献1は、マニピュレータの先端に設けたバケット内に適宜駆動するブラシやスクレーパが備えられており、バケットの開口をアスベスト表面に押し付けた状態で、その内部でブラシやスクレーパを作動し、剥離したアスベストをそのままバケット内に落下させて、バケットから処理容器等に移すことで処理する装置について記載したものである。
【0004】
特許文献2には、アスベスト含有物を剥離するカットブラシ(剥離手段)と、剥離手段を包囲する内側フードと、さらに内側フードを取り囲む外側フードと、剥離したアスベスト含有物を内側フード内から処理タンクへ吸引する吸引手段とを備えたアスベスト除去装置について開示されている。
【0005】
特許文献3には、フード付きノズルから噴霧状のアスベスト除去剤をアスベストに供給する方法と、該アスベスト除去剤の供給によりアスベストを除去する方法が開示されている。
この方法は、ノズルヘッダーから噴出する噴霧状の除去剤をアスベストに噴霧しながら、所定の時間(数分間)、押しつけ、その後、別の箇所にノズルヘッダーのフードをあてがい、同様の作業を繰返す。そして、2〜3m間の吹付けアスベストに同様の作業を繰返した後、ヘラ等で機械的にアスベストを除去するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−104122号公報
【特許文献2】特開平8−199832号公報
【特許文献3】特開2008−253857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のアスベスト除去方法では以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1、2に示すようなアスベスト除去装置を用いたアスベスト除去方法では、装置が設置できないような作業空間が狭小な場所であったり、また例えばH型鋼材等のように複雑な形状の基材に対してアスベスト含有吹付け材を被覆したりしたものに対しては、アスベスト除去装置を使用することが困難となっていた。そのため、このような除去装置の適用が困難な条件にあっては、人力による除去方法に頼らざるを得ない現状があり、手間と作業時間がかかるという問題があった。
【0008】
また、特許文献3に示すアスベスト除去剤の供給方法及びアスベストの除去方法では、噴霧上の除去剤をアスベストに噴霧しながらノズルヘッダー及びフードを数分間あてがう作業を繰り返すことが必要であり、作業者に過大な労力がかかるという問題があった。
また、かかる方法では、アスベスト除去剤をアスベストに十分に浸透させることができないまま剥離作業を行うこととなり、アスベストの剥離残しが生じるという問題があった。
【0009】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、簡単な作業により作業時間の低減が図れ、しかも狭小な作業空間や基材形状が複雑な場合であってもアスベスト含有吹付け材を確実に除去することができる酸性薬液供給方法及びアスベスト含有吹付け材の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るアスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液供給方法は、基材の表面に吹き付けられたアスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液供給方法であって、酸性液を浸透させる吸液性素材をアスベスト含有吹付け材の表面に配置した後に、前記吸液性素材に前記酸性薬液を吹き付けて浸透させ、前記アスベスト含有吹き付け材に前記酸性薬液を浸透させることを特徴とする。
【0011】
本発明は、吸液性素材を酸性薬液で満たしてアスベスト含有吹付け材の表面に配し、該酸性薬液が基材とアスベスト含有吹付け材との境界に到達するまで吸液性素材の配置を継続すればよいので、人的な負担を最小限にして確実かつ効率的に酸性薬液をアスベスト含有吹付け材に供給することができるという効果を奏する。
【0012】
また、吸液性素材がアスベスト含有吹付け材に配置された後に該吸液性素材に酸性薬液を吹き付けることにより、吸液性素材をアスベスト含有吹付け材に簡便に配備し、酸性薬液を吸液性素材に容易に可能な限り含ませることが可能となるため、酸性薬液を浸透させた吸液性素材のアスベスト含有吹付け材への配置作業が効率的となるという効果を奏する。また、酸性薬液がアスベスト含有吹付け材に浸透し始めた後で、吸液性素材に追加的に酸性薬液を含ませて、アスベスト含有吹付け材の全体に酸性薬液を浸透し得るようにすることができるという効果を奏する。
【0013】
本発明に係るアスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液供給方法は、基材の表面に吹き付けられたアスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液供給方法であって、酸性薬液を浸透させた吸液性素材をアスベスト含有吹付け材の表面に配置し、前記アスベスト含有吹付け材に前記酸性薬液を浸透させることを特徴としている。
【0014】
本発明によれば、酸性薬液を浸透させた吸液性素材をアスベスト含有吹付け材の表面に配置し、アスベスト含有吹付け材に酸性薬液を浸透させるものであるため、アスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液の供給を確実かつ均一に行うことが可能となるとともに、酸性薬液のアスベスト吹付け材への供給作業を簡便かつ低コストで行うことができるという効果を奏する。
また、酸性薬液が基材とアスベスト含有吹付け材との境界に到達するまで吸液性素材の配置を継続すればよいので、人的な負担を最小限にして確実かつ効率的に酸性薬液をアスベスト含有吹付け材に供給することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係るアスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液供給方法では、基材とアスベスト含有吹付け材との間に酸性薬液を注入してもよい。
基材とアスベスト含有吹付け材との間(接着面)に酸性薬液を注入することで、酸性薬液が浸透するのに時間が掛かるアスベスト含有吹付け材と基材との接触面付近に確実に酸性薬液を供給することが可能となり、アスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液の供給の効率を高めることができる。
【0016】
また、本発明に係るアスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液供給方法では、吸液性素材をアスベスト含有吹付け材の表面に配置した後に、吸液性素材のアスベスト含有吹付け材に対する密着性を維持する保持材を配することが望ましい。
吸液性素材のアスベスト含有吹付け材に対する密着性を維持する保持材を配することで、アスベスト含有吹付け材の表面に配された吸液性素材に酸性薬液を吸液させても、該吸液性素材を撓ませることなくアスベスト含有吹付け材の表面に密着した状態を維持することができ、アスベスト含有吹付け材に酸性薬液を効率的に浸透させることができる。
【0017】
この保持材は、透水性を有するシート状網部材からなり前記吸液性素材の表面に配置されているのがより好ましい。
透水性を有するシート状網部材からなる保持材を吸液性素材の表面に配置することにより、吸液性素材は、その表面側からシート状網部材からなる保持材によって押さえられた状態でより確実に保持され、アスベスト含有吹付け材に対する密着性を高めることができる。
【0018】
また、本発明に係るアスベスト含有吹付け材の除去方法では、上記したように、酸性薬液をアスベスト含有吹付け材に確実に供給し得るので、アスベスト含有吹付け材の全体を確実に溶解し、基材に対してほぼ付着残しのないように自然落下させて除去し得るという効果を奏する。また、酸性薬液の供給を上記したように人的な負担を軽減して簡便になし得るので、従来のような大型の除去装置やマニピュレータを備えた除去ロボットや、ケレン棒で粗落としを行った後に磨き上げを行うといった手間のかかる作業を不要として、アスベスト含有吹付け材を容易かつ作業効率よく除去することが可能となるという効果を奏する。
【0019】
また、吸水性素材を配置する方法であるため、狭小な作業空間や、例えば基材がH型鋼材やボルトといった複雑な形状物に設けられたアスベスト含有吹付け材を容易に除去することができるという効果を奏する。
また更に、基材とアスベスト含有吹付け材との間に酸性薬液を注入した場合には、アスベスト含有吹付け材の全体を素早く溶解させて自然に落下させることができ、アスベスト含有吹付け材の作業効率を一層高めることができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のアスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液供給方法によれば、酸性薬液を浸透させた吸液性素材をアスベスト含有吹付け材の表面に配置し、アスベスト含有吹付け材の内部に酸性薬液を浸透させるものであるため、アスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液の供給を確実かつ均一に行うことが可能となるとともに、酸性薬液のアスベスト吹付け材への供給作業を簡便かつ低コストで行うことができるという効果を奏する。また、アスベスト含有吹付け材の除去が容易かつ効率的となるとともに、狭小な作業空間や、例えば基材がH型鋼材やボルトといった複雑な形状物に設けられたアスベスト含有吹付け材を確実かつ容易に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】は、本発明の第1の実施形態によるアスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液の供給方法の概略構成を説明するための図である。
【図2】は、本発明の第2の実施形態によるアスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液の供給方法の概略構成を説明するための図である。
【図3】は、図2に示す注射器の拡大図である。
【図4】は、図2に示す注射器の針孔を示す拡大図である。
【図5】は、本発明の第2の実施形態によるアスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液の供給作業状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図を参照して本発明の第1の実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施の形態によるアスベスト含有吹付け材の除去方法は、建物などの鉄筋コンクリート造のスラブ1Aやこのスラブ1Aを下方より支持するH型鋼材1Bからなる基材1の表面に被覆されたアスベスト含有吹付け材(以下、単に「アスベスト含有材」という)2を除去する施工に適用されるものである。基材1は、スラブ1Aの下面がH型鋼材1Bとともに例えば吹付け厚25〜60mm程度のアスベスト含有材2によって吹付け施工された状態となっている。
【0023】
アスベスト含有材2としては、例えば、吹付けアスベスト材やアスベスト含有吹付けロックウール等が挙げられる。
【0024】
アスベスト含有材2の除去方法は、吸液性素材3を密着させて配置し、支保工4及びシャコ万力5により固定した状態で、酸性薬液Tを噴射する手持ち可能な噴射冶具7の噴射ヘッド8を吸液性素材3に向けて酸性薬液Tを噴射させ、吸液性素材3を酸性薬液Tで満たし、該酸性薬液Tを吸液性素材3からアスベスト含有材2に浸透させて該酸性薬液Tをアスベスト含有材2に反応させて溶解させることで、アスベスト含有材2を基材1から剥離させつつ自然に落下させるものである。
【0025】
吸液性素材3は、酸性薬液Tを吸液して該吸液性素材3の内部に保持する機能を有するものであり、例えば多孔性の合成樹脂素材や綿等の繊維地からなるものが好適に用いられる。具体的には、スポンジ材やタオル地などの吸液性の高い素材で柔軟性を有し、例えば厚さ10mm〜500mmのパネル状に形成された部材がより好適に用いられる。
【0026】
吸液性素材3の表面には、例えば、ラス網又はサランネットのようなシート状網部材からなる保持材6が配置、固定されており、吸液性素材3が酸性薬液を含んだ場合に自重で撓むことのないようになっている。
【0027】
支保工4は、スラブ1Aの表面に配された吸液性素材3を支持するために用いられ、シャコ万力5は、H型鋼材1Bの表面に配された吸液性素材3を支持するために用いられている。
【0028】
酸性薬液Tとしては、例えば塩酸等の鉱物酸、酢酸、クエン酸等の有機酸水溶液が用いられる。この酸性薬液Tは、アスベスト含有材2に反応させて溶解させる作用を有しており、アスベスト含有材2に浸透させることで基材1からの剥離を生じさせて分離させるためのものであり、アスベスト含有材2の材質、その吹付け厚さ寸法、基材1の材質などの条件に応じて例えばPH値を1〜4程度に調整して使用される。
【0029】
酸性薬液Tをアスベスト含有材2に向けて噴射するための噴射冶具7は、適量の酸性薬液Tを吸引可能であり、ガン本体9と、ガン本体9から延ばされた支持棒10と、この支持棒10の先端10aに設けられた前記噴射ヘッド8とを備えている。
【0030】
ガン本体9は、酸性薬液Tを貯留させる薬液槽11に液送管12によって連結され、操作部を操作することで液送管12に接続されている圧送ポンプ13を作動させ、薬液槽11内の酸性薬液Tを噴射ヘッド8側へ送出するようになっている。
支持棒10は、内部に流路を有しており、ガン本体9を介して液送管12に連通している。支持棒10の先端部10aには不図示の複数の噴射孔を有した噴射ヘッド8が具備されている。これら噴射孔は、ヘッド7内の酸性薬液Tの流路に通じており、ガン本体9から送出される酸性薬液Tを吸液性素材3に向けて噴射させるように構成されている。
【0031】
次に、アスベスト含有材2の除去方法について、図面に基づいてさらに具体的に説明する。
先ず、図1に示すように、除去するアスベスト含有材2の表面2aには、例えばアステクターS(登録商標)などの飛散抑制剤を散布しておく。
そして、吸液性素材3をスラブ1A及びH型鋼材1Bに吹き付けられているアスベスト含有材2の表面に略隙間なく配置する。吸液性素材3の表面には保持材6を撓みが生じないように配置して固定し、更に支保工4及びシャコ万力5により固定する。なお、支保工4及びシャコ万力5は、吸液性素材3が酸性薬液Tを含んだ状態で撓むことのないように、一定間隔で配する。
【0032】
この状態で、薬液槽11に接続された噴射冶具7を使用し、噴射ヘッド8を吸液性素材3に向ける。そして、噴射冶具7の操作部を操作して複数の噴射孔から酸性薬液Tを噴射させ、吸液性素材3全体に酸性薬液Tを吹き付け吸液、保持させていく。
【0033】
そして、吸液性素材3が酸性薬液Tによって満たされた状態で安置し、吸液性素材3に保持された酸性薬液Tがアスベスト含有材2に移行し浸透するのを待つ。この際、アスベスト含有材2の吹付け厚みによっては、吸液性素材3に酸性薬液Tを適宜補充し、アスベスト含有材2の全体に酸性薬液Tを十分に行き渡らせる。
【0034】
酸性薬液Tがアスベスト含有材2の内部から基材1との境目まで行き渡ると、アスベスト含有材2のセメント分と有機物とが酸により化学反応で分解して溶解するため、アスベスト含有材2をスラブ1A及びH型鋼材3との境界面で剥離させ自然落下させることができる。そして、落下したアスベスト含有材2は、適宜な回収手段により取り除く。
なお、本実施の形態では、予めアスベスト含有材2の表面2aに飛散抑制剤を散布しておくため、アスベスト含有材2が剥離落下する際に生じるアスベストの飛散を抑制することができる。
【0035】
上述のように本実施の形態によるアスベスト含有材2に対する酸性薬液3の供給方法及びアスベスト含有材2の除去方法によれば、吸液性素材3をアスベスト含有材2の表面に配置し、吸液性素材3に酸性薬液Tを浸透させることによりアスベスト含有材2の内部に酸性薬液Tを浸透させて溶解し、除去するものであるため、酸性薬液Tのアスベスト含有材2への供給が簡便であり、更に、アスベスト含有材2を容易かつ短時間で除去することが可能となる。また、狭小な作業空間や、H型鋼材やボルトといった複雑な形状物に設けられたアスベスト含有材2を容易に除去することができる。
【0036】
また、吸液性素材3を酸性薬液Tで満たしてアスベスト含有材2の表面に配し、酸性薬液Tを基材1とアスベスト含有材2との境界まで浸透させることにより、アスベスト含有材2を自然に落下させることができるとともに、基材1に対してほぼ付着残しのないように除去することが可能となる。
【0037】
また、吸液性素材3をアスベスト含有材2に簡便に配備することができ、その上で酸性薬液Tを吸液性素材3に可能な限り含ませることが可能となるため、酸性薬液Tを浸透させた吸液性素材3のアスベスト含有材2への配置作業が効率的となる。また、酸性薬液Tがアスベスト含有材2に浸透し始めた後で、吸液性素材3に追加的に酸性薬液Tを含ませて、アスベスト含有材2の全体に酸性薬液Tを十分に浸透させることができる。
【0038】
本実施形態においては、吸液性素材3をアスベスト含有材2の表面2aに配した後で酸性薬液Tを吸液させることとしたが、これに限られるものではなく、吸液性素材3に酸性薬液Tを吸液させてからアスベスト含有材2の表面2aに該吸液性素材3を当接配置するものであってもよい。
このようにアスベスト含有材2の表面2aに配置する前に吸液性素材3に酸性薬液Tを含ませると、酸性薬液Tを吸液性素材3に無駄なく供給できるという効果が得られる。
【0039】
次に、図2から図4を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態において、第1の実施形態と同一の構成については同一の符号を付しその説明を省略する。
本発明の第2の実施形態は、アスベスト含有材2の表面に吸液性素材3を配置する前に、基材1とアスベスト含有材2との接着面に酸性薬液Tを注入することを特徴とするものである。
【0040】
図2に示すように、アスベスト含有材2は、第1の実施形態で示されたものと同様のものであり、その強度は、通常、後述する注射器20の注射針21を挿入可能な程度の材料強度となっている。
【0041】
酸性薬液Tを接着面1aに注入するための注射器(注入器)20は、図3に示すように、適宜量の酸性薬液Tを吸引可能であり、シリンジ及びプランジャからなる本体22と、注射針21とからなる手持ち可能な周知の形態のものを採用することができる。注射器20における注射針21は、図4に示すように、先端部21aの針孔が横向きに開口した横孔21bが形成されている。つまり、注射針21の針孔が横向きに開いているので、アスベスト含有材2に注射針21を挿入する際、アスベスト含有材2が針孔に入り込んで目詰まりを起こし、酸性薬液Tの注入が妨げられるといった不具合を抑えることができる構造となっている。
【0042】
さらに具体的なアスベスト含有材2の除去方法について、図5に基づいて説明する。ここで、図5では、注射器20の注射針21のみが表示され、各注入位置に注射針21が記載された状態を示している。
先ず、除去するアスベスト含有材2の表面2aには、例えばアステクターS(登録商標)などの飛散抑制剤25を散布する。次に、上述した酸性薬液Tを吸引させた図3、図4に示す注射器20を使用し、注射針21の先端部21a(横孔21b)が適宜な注入位置(接着面1b、1c付近)となるように挿入し、酸性薬液Tを注入する。なお、注射器20による注入は人力により行われる。
【0043】
このときの酸性薬液Tの注入位置は所定の間隔をもって注入されるが、例えばH型鋼材1Bなどの基材1の形状が複雑となる箇所においては、前記形状が平坦な箇所に比べて注入箇所を増加し、注入間隔を小さくして集中的に注入することで、その箇所の接着面全体にわたって酸性薬液Tを浸透させ、基材1に対してアスベスト含有材2を確実に剥離させることができる。ここで、符号R1が平坦部(スラブ1Aとアスベスト含有材2との接着面1b)における第1注入領域を示し、符号R2が複雑な形状部(H型鋼材1Bとアスベスト含有材2との接着面1c)における第2注入領域を示している。
【0044】
次に、図1において第1の実施形態で示したのと同様に、アスベスト含有材2の表面に吸液性素材3及び保持材6を配し、支保工4及びシャコ万力5とで支持した上で、噴射冶具7により吸液性素材3上の保持材6の表面に酸性薬液Tを噴射して吸液させ、アスベスト含有材2に酸性薬液Tを浸透させる。
【0045】
以上のようにして、アスベスト含有材2の素材1との接着面1aとアスベスト含有材2の表面側の両面から酸性薬液Tをしみこませることで、アスベスト含有材2が該両面側で酸により速やかに分解して溶解し、アスベスト含有材2が基材1から剥離し、さらに自然に落下する。このときの基材1とアスベスト含有材2との接着面1aは、アスベスト含有材2が溶解により剥離して落下しているので、アスベスト含有材2の残留付着物がほとんど残らない状態でとなる。なお、落下したアスベスト含有材2は、適宜な回収手段により取り除き、アスベスト含有材2の除去作業を完了させることができる。ここで、本実施の形態では、予めアスベスト含有材2の表面2aに飛散抑制剤25を散布しておくため、アスベスト含有材2が剥離落下する際に生じるアスベストの飛散を抑制することができる。
【0046】
上記のように、基材1とアスベスト含有材2との間(接着面)に酸性薬液Tを注入した上で、アスベスト含有材2の表面2aからも酸性薬液Tを浸透させることにより、浸透し難いアスベスト含有材2と基材1との接着面1a付近を素早く溶解させることができ、アスベスト含有材2全体の剥離を一層早めて、除去作業効率を高めることができる。
【0047】
以上、本発明によるアスベスト含有材2の除去方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0048】
例えば、本実施の形態では注射器20を使用しているが、これに限定されることはなく、例えば注入用の針孔を有するピストル状の注入具であって、その注入具が酸性薬液Tを収容する容器に繋がるホースの先端部に連結されている構成のものであってもよい。要は、手持ちが可能な軽量、小型であり、狭小な作業空間であっても容易に持ち運びが可能であり、且つ注入箇所の作業空間での取り扱いが容易とされる注入具であればよいのである。なお、注射器を使用する場合、本実施の形態のように針孔の位置が横向きに開口したものだけでなく、通常の針軸方向に穴の開いた注射針であってもかまわない。
【0049】
また、酸性薬液Tの、種類、注入量、注入位置、注入間隔等は、上述したようにアスベスト含有材の材質、その吹付け材の厚さ寸法、基材の材質等の条件に応じて適宜設定することができる。
【0050】
なお、吸液性素材3に酸性薬液Tを吸液させてからアスベスト含有材2の表面2aに該吸液性素材3を当接配置してもよい。
アスベスト含有材2の表面に配置する前に吸液性素材3に酸性薬液Tを含ませる場合には、酸性薬液Tを吸液性素材3に無駄なく供給できるという効果が得られる。
【符号の説明】
【0051】
1 基材
2 アスベスト含有吹付け材
2a 表面
3 吸液性素材
6 保持材
T 酸性薬液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に吹き付けられたアスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液供給方法であって、
酸性液を浸透させる吸液性素材をアスベスト含有吹付け材の表面に配置した後に、前記吸液性素材に前記酸性薬液を吹き付けて浸透させ、
前記アスベスト含有吹き付け材に前記酸性薬液を浸透させることを特徴とする酸性薬液供給方法。
【請求項2】
基材の表面に吹き付けられたアスベスト含有吹付け材に対する酸性薬液供給方法であって、
酸性薬液を浸透させた吸液性素材をアスベスト含有吹付け材の表面に配置し、
前記アスベスト含有吹付け材に前記酸性薬液を浸透させることを特徴とする酸性薬液供給方法。
【請求項3】
前記基材と前記アスベスト含有吹付け材との間に酸性薬液を注入する工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の酸性薬液供給方法。
【請求項4】
前記吸液性素材を前記アスベスト含有吹付け材の表面に配置した後に、前記吸液性素材の前記アスベスト含有吹付け材に対する密着性を維持する保持材を配することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の酸性薬液供給方法。
【請求項5】
前記保持材は、透水性を有するシート状網部材からなり、前記吸液性素材の表面に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の酸性薬液供給方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の酸性薬液供給方法を用いてなされるアスベスト含有吹付け材の除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−17592(P2012−17592A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155053(P2010−155053)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】