酸洗設備
【課題】酸洗槽からの酸性薬液の漏洩によって周辺設備に与える影響を軽減しうる酸洗設備を提供する。
【解決手段】鋼帯を酸性薬液によって酸洗する酸洗設備１は、酸性薬液を貯留する耐酸性樹脂製の酸洗槽１０と伸縮吸収台１１とを備えている。伸縮吸収台１１は、熱により伸縮する酸洗槽１０を摺動可能に支持する支持面３０と、支持面３０から流体を排出する第１の排出口３１ａ及び第２の排出口３１ｂとを有する。更に、酸洗設備１は、第１の排出口３１ａ及び第２の排出口３１ｂから排出される流体のｐＨ値を計測することにより酸洗槽１０の漏洩を検出する第１の漏洩検出ユニット１４ａ及び第２の漏洩検出ユニット１４ｂを備えている。
【解決手段】鋼帯を酸性薬液によって酸洗する酸洗設備１は、酸性薬液を貯留する耐酸性樹脂製の酸洗槽１０と伸縮吸収台１１とを備えている。伸縮吸収台１１は、熱により伸縮する酸洗槽１０を摺動可能に支持する支持面３０と、支持面３０から流体を排出する第１の排出口３１ａ及び第２の排出口３１ｂとを有する。更に、酸洗設備１は、第１の排出口３１ａ及び第２の排出口３１ｂから排出される流体のｐＨ値を計測することにより酸洗槽１０の漏洩を検出する第１の漏洩検出ユニット１４ａ及び第２の漏洩検出ユニット１４ｂを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、酸洗設備に関する。
【背景技術】
【０００２】
加工過程において鋼帯の表面に形成されたスケールを除去するために、酸性薬液に鋼帯を浸漬させる連続酸洗設備が使用される。酸性薬液としては、例えば、塩酸や硫酸が使用され、酸性薬液はスケール除去に適した９０℃程度の高温となっている。
【０００３】
酸性薬液を貯留する従来の酸洗槽は、酸洗槽の外形を形作る鉄皮タンクと、鉄皮タンクの内面を覆う耐熱性及び耐酸性を備えたライニング材と、ライニング材の内面に敷き詰められた耐熱性及び耐酸性を備えたレンガとで構成されている。ライニング材は、酸性薬液による鉄皮タンクの腐食を防止する。レンガは、酸性薬液からライニング材及び鉄皮タンクに伝わる熱を遮断して、熱によるライニング材及び鉄皮タンクの変形及び破損を抑制している（例えば、特許文献１）。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００４】
【特許文献１】実開平５−４５０７１号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００５】
酸洗槽に貯留された酸性薬液からは、塩化水素や硫化水素などの酸ヒュームが発生する。酸ヒュームが酸洗槽から漏れると周辺の設備を腐食するおそれが高い。また、高温の酸ヒュームが酸洗槽から大量に漏れると、熱気によって酸洗槽付近での作業が困難となる。そのため、従来は、酸洗槽の隙間を可能な限り塞ぐことにより酸ヒュームを酸洗槽内に閉じ込めたり、連続酸洗設備と他の設備とを別の建屋に収容することにより酸ヒュームを他の設備に到達させないようにしたりしている。
【０００６】
ところが、酸洗槽を密閉していても、経年劣化、鋼帯の衝突、その他の種々の原因によって、酸洗槽に損傷が発生する場合がある。酸洗槽に損傷が発生すると、外部に漏れた酸性薬液が周辺設備に損傷を与えたり、酸性薬液から発生する酸ヒュームが周辺設備に損傷を与えたりしてしまう。このように、酸洗槽から酸性薬液が漏れると、周辺設備等に与える影響は大きいものの、漏れの確認は遅れることが多く、周辺設備等に与える影響は甚大なものとなりがちであった。とくに、酸洗槽は、鉄皮タンクとライニング材とレンガとで構成されているので、たとえ酸性薬液が漏れていたとしても、どこから漏れているかまでは把握することが困難であった。
【０００７】
本発明は、酸洗槽からの酸性薬液の漏洩によって周辺設備に与える影響を軽減しうる酸洗設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【０００８】
本発明の第１の酸洗設備は、鋼帯を酸性薬液によって酸洗する酸洗設備であって、前記酸性薬液を貯留し、熱により伸縮する耐酸性樹脂製の酸洗槽と、熱による前記酸洗槽の伸縮を吸収すべく、前記酸洗槽を摺動可能に支持する支持面を有する伸縮吸収台とを備え、前記伸縮吸収台は、前記酸洗槽から漏洩した流体を排出する排出口を有しており、さらに、前記排出口から排出される流体のｐＨ値を計測することにより前記酸洗槽の漏洩を検出する漏洩検出手段を備える。
【０００９】
本発明の第１の酸洗設備によれば、単層の耐酸性樹脂製の酸洗槽に酸性薬液を貯留するので、酸洗槽から酸性薬液が漏れたときに、当該漏れを迅速に確認することが可能となる。ところで、熱により伸縮する耐酸性樹脂製の酸洗槽としては、例えばポリプロピレン製の酸洗槽が相当する。そこで、本発明の第１の酸洗設備では、酸洗槽の伸縮を吸収すべく、当該酸洗槽との間で摺動可能な支持面を有する伸縮吸収台を備えている。そして更に、酸洗槽から酸性薬液が漏洩した場合には、この伸縮吸収台を利用して漏洩した流体を受けることができるように構成されている。また、伸縮吸収台は流体を排出する排出口を有しており、漏洩した流体は、この排出口から排出される。排出口から排出された流体は、漏洩検出手段においてｐＨ値が自動的に検出されるので、酸洗槽からの酸性薬液の漏洩を迅速に検出することが可能となる。また、レンガ及び鉄皮タンクに比較して熱によって容易に伸縮するポリプロピレン製の酸洗槽を採用した酸洗装置では、伸縮吸収台によって酸洗槽を支持することにより酸洗槽が伸縮しやすくなるため、酸洗槽を固定する場合に比較して酸洗槽に加わる負荷を小さくすることができる。更に、伸縮吸収台に流れ出る酸性薬液を検出することにより酸洗槽を加工しなくても酸洗槽の漏洩検出が可能となるため、漏洩検出手段によって酸洗槽に傷を与えるおそれが実質的に無くなる。
【００１０】
本発明の第２の酸洗設備は、第１の酸洗設備において、複数の漏洩検出手段を備えている。更に、伸縮吸収台が、複数の漏洩検出手段に対応するように複数の排出口を有している。また更に、複数の漏洩検出手段が、それぞれ異なる排出口から排出される流体のｐＨ値を計測する。
【００１１】
本発明の第２の酸洗設備によれば、複数の漏洩検出手段において検出されたｐＨ値を参照することにより、いずれの排出口付近で漏洩が発生したか知ることが可能となる。すなわち、酸洗槽における漏洩箇所を迅速に検出することが可能となる。
【発明の効果】
【００１２】
本発明の酸洗設備によれば、酸洗槽からの酸性薬液の漏洩によって周辺設備に与える影響を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【００１３】
【図１】図１は、一実施形態に係る連続酸洗設備の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【００１４】
図１は、一実施形態に係る連続酸洗設備１の概略構成図である。図１に示すように、連続酸洗設備１は、酸洗槽１０、伸縮吸収台１１、第１の排出ダクト１２ａ、第２の排出ダクト１２ｂ、廃液ピット１３、第１の漏洩検出ユニット１４ａ、第２の漏洩検出ユニット１４ｂ、及び、操作室１５により構成されている。
【００１５】
本実施形態の酸洗槽１０は、ポリプロピレン（ＰＰ：ｐｏｌｙｐｒｏｐｙｌｅｎｅ）を材料として略直方体形状に形成されている。酸洗槽１０は、従来のようにレンガ、ライニング材及び鉄皮タンクを積層して形成されているのではなく、ポリプロピレンにより単層で形成されている。酸洗槽１０の底部２０の４つの直線状の端縁部から略垂直に４つの壁部２１が立設されている。４つの壁部２１の全上端部により長方形状に囲われた酸洗槽１０上部の開口２２は、蓋部２３により開閉可能に覆われている。
【００１６】
鋼帯を酸洗する際、酸洗槽１０の内部に酸性薬液が貯留されている。鋼帯が酸性薬液の中を移動すると、加工過程において鋼帯の表面に形成されたスケールが除去されていく。酸性薬液としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸（フッ酸）が使用され、酸性薬液はスケール除去に適した９０℃程度の高温となっている。ただし、酸性薬液の温度は９０℃程度の高温が好ましいが、少なくとも７０℃以上であればよい。
【００１７】
伸縮吸収台１１は、地面に固定されており、鉛直上方を臨むように略水平に形成された支持面３０を有する。支持面３０は、酸洗槽１０を載置することができ、且つ、酸洗槽１０から酸性薬液が漏洩したときに、この漏洩した酸性薬液を支持面３０で受けることができるように、酸洗槽１０の下方において水平面に沿って底部２０を覆うかたちで（すなわち底部２０の面積よりも広く）形成されている。また、伸縮吸収台１１の縁部には、上方に向けて立設するフランジが形成されており、これにより、酸洗槽１０から漏洩した酸性薬液が伸縮吸収台１１から流出することを防止できる。なお、酸洗槽１０は、熱によって伸縮したときに支持面３０上を摺動する。また、伸縮吸収台１１は、耐酸性樹脂（例えばポリプロピレン）で構成されているので、酸洗槽１０から酸性薬液が漏洩したとしても、伸縮吸収台１１の腐食を防止することができる。
【００１８】
伸縮吸収台１１は、更に、支持面３０に、開口した第１の排出口３１ａ及び第２の排出口３１ｂを有している。酸洗槽１０から酸性薬液が漏れて支持面３０に到達すると、第１の排出口３１ａ又は第２の排出口３１ｂから流れ出る。第１の排出口３１ａから流れ出た酸性薬液は、第１の排出ダクト１２ａを通って廃液ピット１３に排出される。第２の排出口３１ｂから流れ出た酸性薬液は、第２の排出ダクト１２ｂを通って廃液ピット１３に排出される。
【００１９】
第１の排出ダクト１２ａの途中には、第１の漏洩検出ユニット１４ａが配設されている。第１の漏洩検出ユニット１４ａは、酸洗槽１０から廃液ピット１３に向かう流体の一部を分流させる分岐管４０と、分岐管４０によって分流された流体を一時的に貯留する計測槽４１と、計測槽４１に貯留された流体のｐＨ値を測定するｐＨ計４２とにより構成されている。ｐＨ計４２で測定されたｐＨ値は、操作室１５に伝達される。計測槽４１に流れ込んだ流体は、最終的に廃液ピット１３に排出される。
【００２０】
第２の漏洩検出ユニット１４ｂは、分岐管４０、計測槽４１及びｐＨ計４２を備えている点で第１の漏洩検出ユニット１４ａと構造的に同じである。ただし、第１の漏洩検出ユニット１４ａが、第１の排出ダクト１２ａを流れる流体のｐＨ値を検出するのに対し、第２の漏洩検出ユニット１４ｂは、第２の排出ダクト１２ｂを流れる流体のｐＨ値を検出する。
【００２１】
第１の排出口３１ａ付近において酸洗槽１０から酸性薬液が漏れると、第１の排出ダクト１２ａに酸性薬液が流れ込んで、第１の漏洩検出ユニット１４ａのｐＨ計４２によって示されるｐＨ値が酸性薬液のｐＨ値に等しくなる。一方、第２の排出口３１ｂ付近において酸洗槽１０から酸性薬液が漏れると、第２の排出ダクト１２ｂに酸性薬液が流れ込んで、第２の漏洩検出ユニット１４ｂのｐＨ計４２によって示されるｐＨ値が酸性薬液のｐＨ値に等しくなる。
【００２２】
操作室１５の制御部５０は、第１の漏洩検出ユニット１４ａのｐＨ計４２において酸性薬液のｐＨ値が検出されたときは、警報装置５１を動作させることにより、第１の排出口３１ａ付近において酸洗槽１０から酸性薬液が漏れていることを報知する。更に、制御部５０は、第２の漏洩検出ユニット１４ｂのｐＨ計４２において酸性薬液のｐＨ値が検出されたときは、警報装置５１を動作させることにより、第２の排出口３１ｂ付近において酸洗槽１０から酸性薬液が漏れていることを報知する。警報装置５１による報知方法としては、ランプの点灯、電光掲示板による文字の表示、スピーカから音声などが例示される。
【００２３】
図１は、酸洗槽１０に亀裂６０が発生した場合の一例を示している。亀裂６０は、第１の排出口３１ａよりも第２の排出口３１ｂに近いため、亀裂６０から流れ出た酸性薬液は、支持面３０から第２の排出口３１ｂに流れる。更に、亀裂６０から流れ出た酸性薬液は、第２の排出ダクト１２ｂを通って第２の漏洩検出ユニット１４ｂに流れ込む。更に、第２の漏洩検出ユニット１４ｂのｐＨ計４２において酸性薬液のｐＨ値が検出されたことが制御部５０に伝わる。制御部５０は、警報装置５１を動作させることにより、第２の排出口３１ｂ付近において酸洗槽１０から酸性薬液が漏洩したことを報知する。
【００２４】
なお、伸縮吸収台１１には、上記の第１の排出口３１ａ及び第２の排出口３１ｂだけに限られず、伸縮吸収台１１の長手方向（ひいては酸洗槽１０の長手方向）に沿って、複数の排出口が規則的に（例えば略等間隔で）形成されていてもよい。
【００２５】
本実施形態の連続酸洗設備１は、鋼帯を７０℃以上の酸性薬液によって酸洗する連続酸洗設備１に関し、酸性薬液を貯留し、熱により伸縮するポリプロピレン製の酸洗槽１０と、熱による酸洗槽１０の伸縮を吸収すべく、酸洗槽を摺動可能に支持する支持面３０を有する伸縮吸収台１１とを備えている。そして、酸洗槽からの酸性薬液の漏洩をこの伸縮吸収台１１を利用して迅速に確認できるようにする思想のもと、当該伸縮吸収台１１は、酸洗槽１０から漏洩した流体を受けることができるように、酸洗槽１０の下方にて当該酸洗槽１０の底部２０を覆うかたちで配置されるとともに、この酸洗槽１０から漏洩した流体（酸性薬液を含むドレン）を排出する排出口３１ａ，３１ｂを有している。そして、この排出口３１ａ，３１ｂから排出される流体のｐＨ値を、漏洩検出ユニット１４ａ，１４ｂにより計測することで、酸洗槽１０からの酸性薬液の漏洩を検出することができる。このようにして、酸洗槽１０から酸性薬液が漏洩したとしても、作業者による目視検査に比べて迅速且つ確実に酸性薬液の漏洩を把握することができる。
【００２６】
更に、本実施形態の連続酸洗設備１によれば、第１の漏洩検出ユニット１４ａによって第１の排出口３１ａ付近における酸洗槽１０の漏洩箇所を検出するとともに、第２の漏洩検出ユニット１４ｂによって第２の排出口３１ｂ付近における酸洗槽１０の漏洩箇所を検出することにより、酸洗槽１０の漏洩箇所を詳細に特定することができる。とくに、伸縮吸収台１１の長手方向（ひいては酸洗槽１０の長手方向）に沿って当該伸縮吸収台１１に複数の排出口を規則的に（例えば略等間隔で）形成し、各排出口に流れ込む酸性薬液を異なる漏洩検出ユニットによって検出するように構成することにより、酸洗槽１０の漏洩箇所を更に詳細に特定できるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【００２７】
本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の連続酸洗設備に適用することができる。
【符号の説明】
【００２８】
１ 連続酸洗設備
１０ 酸洗槽
１１ 伸縮吸収台
１２ａ 第１の排出ダクト
１２ｂ 第２の排出ダクト
１３ 廃液ピット
１４ａ 第１の漏洩検出ユニット
１４ｂ 第２の漏洩検出ユニット
１５ 操作室
２０ 底部
２１ 壁部
２２ 開口
２３ 蓋部
３０ 支持面
３１ａ 第１の排出口
３１ｂ 第２の排出口
４０ 分岐管
４１ 計測槽
４２ ｐＨ計
５０ 制御部
５１ 警報装置
６０ 亀裂
【技術分野】
【０００１】
本発明は、酸洗設備に関する。
【背景技術】
【０００２】
加工過程において鋼帯の表面に形成されたスケールを除去するために、酸性薬液に鋼帯を浸漬させる連続酸洗設備が使用される。酸性薬液としては、例えば、塩酸や硫酸が使用され、酸性薬液はスケール除去に適した９０℃程度の高温となっている。
【０００３】
酸性薬液を貯留する従来の酸洗槽は、酸洗槽の外形を形作る鉄皮タンクと、鉄皮タンクの内面を覆う耐熱性及び耐酸性を備えたライニング材と、ライニング材の内面に敷き詰められた耐熱性及び耐酸性を備えたレンガとで構成されている。ライニング材は、酸性薬液による鉄皮タンクの腐食を防止する。レンガは、酸性薬液からライニング材及び鉄皮タンクに伝わる熱を遮断して、熱によるライニング材及び鉄皮タンクの変形及び破損を抑制している（例えば、特許文献１）。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００４】
【特許文献１】実開平５−４５０７１号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００５】
酸洗槽に貯留された酸性薬液からは、塩化水素や硫化水素などの酸ヒュームが発生する。酸ヒュームが酸洗槽から漏れると周辺の設備を腐食するおそれが高い。また、高温の酸ヒュームが酸洗槽から大量に漏れると、熱気によって酸洗槽付近での作業が困難となる。そのため、従来は、酸洗槽の隙間を可能な限り塞ぐことにより酸ヒュームを酸洗槽内に閉じ込めたり、連続酸洗設備と他の設備とを別の建屋に収容することにより酸ヒュームを他の設備に到達させないようにしたりしている。
【０００６】
ところが、酸洗槽を密閉していても、経年劣化、鋼帯の衝突、その他の種々の原因によって、酸洗槽に損傷が発生する場合がある。酸洗槽に損傷が発生すると、外部に漏れた酸性薬液が周辺設備に損傷を与えたり、酸性薬液から発生する酸ヒュームが周辺設備に損傷を与えたりしてしまう。このように、酸洗槽から酸性薬液が漏れると、周辺設備等に与える影響は大きいものの、漏れの確認は遅れることが多く、周辺設備等に与える影響は甚大なものとなりがちであった。とくに、酸洗槽は、鉄皮タンクとライニング材とレンガとで構成されているので、たとえ酸性薬液が漏れていたとしても、どこから漏れているかまでは把握することが困難であった。
【０００７】
本発明は、酸洗槽からの酸性薬液の漏洩によって周辺設備に与える影響を軽減しうる酸洗設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【０００８】
本発明の第１の酸洗設備は、鋼帯を酸性薬液によって酸洗する酸洗設備であって、前記酸性薬液を貯留し、熱により伸縮する耐酸性樹脂製の酸洗槽と、熱による前記酸洗槽の伸縮を吸収すべく、前記酸洗槽を摺動可能に支持する支持面を有する伸縮吸収台とを備え、前記伸縮吸収台は、前記酸洗槽から漏洩した流体を排出する排出口を有しており、さらに、前記排出口から排出される流体のｐＨ値を計測することにより前記酸洗槽の漏洩を検出する漏洩検出手段を備える。
【０００９】
本発明の第１の酸洗設備によれば、単層の耐酸性樹脂製の酸洗槽に酸性薬液を貯留するので、酸洗槽から酸性薬液が漏れたときに、当該漏れを迅速に確認することが可能となる。ところで、熱により伸縮する耐酸性樹脂製の酸洗槽としては、例えばポリプロピレン製の酸洗槽が相当する。そこで、本発明の第１の酸洗設備では、酸洗槽の伸縮を吸収すべく、当該酸洗槽との間で摺動可能な支持面を有する伸縮吸収台を備えている。そして更に、酸洗槽から酸性薬液が漏洩した場合には、この伸縮吸収台を利用して漏洩した流体を受けることができるように構成されている。また、伸縮吸収台は流体を排出する排出口を有しており、漏洩した流体は、この排出口から排出される。排出口から排出された流体は、漏洩検出手段においてｐＨ値が自動的に検出されるので、酸洗槽からの酸性薬液の漏洩を迅速に検出することが可能となる。また、レンガ及び鉄皮タンクに比較して熱によって容易に伸縮するポリプロピレン製の酸洗槽を採用した酸洗装置では、伸縮吸収台によって酸洗槽を支持することにより酸洗槽が伸縮しやすくなるため、酸洗槽を固定する場合に比較して酸洗槽に加わる負荷を小さくすることができる。更に、伸縮吸収台に流れ出る酸性薬液を検出することにより酸洗槽を加工しなくても酸洗槽の漏洩検出が可能となるため、漏洩検出手段によって酸洗槽に傷を与えるおそれが実質的に無くなる。
【００１０】
本発明の第２の酸洗設備は、第１の酸洗設備において、複数の漏洩検出手段を備えている。更に、伸縮吸収台が、複数の漏洩検出手段に対応するように複数の排出口を有している。また更に、複数の漏洩検出手段が、それぞれ異なる排出口から排出される流体のｐＨ値を計測する。
【００１１】
本発明の第２の酸洗設備によれば、複数の漏洩検出手段において検出されたｐＨ値を参照することにより、いずれの排出口付近で漏洩が発生したか知ることが可能となる。すなわち、酸洗槽における漏洩箇所を迅速に検出することが可能となる。
【発明の効果】
【００１２】
本発明の酸洗設備によれば、酸洗槽からの酸性薬液の漏洩によって周辺設備に与える影響を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【００１３】
【図１】図１は、一実施形態に係る連続酸洗設備の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【００１４】
図１は、一実施形態に係る連続酸洗設備１の概略構成図である。図１に示すように、連続酸洗設備１は、酸洗槽１０、伸縮吸収台１１、第１の排出ダクト１２ａ、第２の排出ダクト１２ｂ、廃液ピット１３、第１の漏洩検出ユニット１４ａ、第２の漏洩検出ユニット１４ｂ、及び、操作室１５により構成されている。
【００１５】
本実施形態の酸洗槽１０は、ポリプロピレン（ＰＰ：ｐｏｌｙｐｒｏｐｙｌｅｎｅ）を材料として略直方体形状に形成されている。酸洗槽１０は、従来のようにレンガ、ライニング材及び鉄皮タンクを積層して形成されているのではなく、ポリプロピレンにより単層で形成されている。酸洗槽１０の底部２０の４つの直線状の端縁部から略垂直に４つの壁部２１が立設されている。４つの壁部２１の全上端部により長方形状に囲われた酸洗槽１０上部の開口２２は、蓋部２３により開閉可能に覆われている。
【００１６】
鋼帯を酸洗する際、酸洗槽１０の内部に酸性薬液が貯留されている。鋼帯が酸性薬液の中を移動すると、加工過程において鋼帯の表面に形成されたスケールが除去されていく。酸性薬液としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸（フッ酸）が使用され、酸性薬液はスケール除去に適した９０℃程度の高温となっている。ただし、酸性薬液の温度は９０℃程度の高温が好ましいが、少なくとも７０℃以上であればよい。
【００１７】
伸縮吸収台１１は、地面に固定されており、鉛直上方を臨むように略水平に形成された支持面３０を有する。支持面３０は、酸洗槽１０を載置することができ、且つ、酸洗槽１０から酸性薬液が漏洩したときに、この漏洩した酸性薬液を支持面３０で受けることができるように、酸洗槽１０の下方において水平面に沿って底部２０を覆うかたちで（すなわち底部２０の面積よりも広く）形成されている。また、伸縮吸収台１１の縁部には、上方に向けて立設するフランジが形成されており、これにより、酸洗槽１０から漏洩した酸性薬液が伸縮吸収台１１から流出することを防止できる。なお、酸洗槽１０は、熱によって伸縮したときに支持面３０上を摺動する。また、伸縮吸収台１１は、耐酸性樹脂（例えばポリプロピレン）で構成されているので、酸洗槽１０から酸性薬液が漏洩したとしても、伸縮吸収台１１の腐食を防止することができる。
【００１８】
伸縮吸収台１１は、更に、支持面３０に、開口した第１の排出口３１ａ及び第２の排出口３１ｂを有している。酸洗槽１０から酸性薬液が漏れて支持面３０に到達すると、第１の排出口３１ａ又は第２の排出口３１ｂから流れ出る。第１の排出口３１ａから流れ出た酸性薬液は、第１の排出ダクト１２ａを通って廃液ピット１３に排出される。第２の排出口３１ｂから流れ出た酸性薬液は、第２の排出ダクト１２ｂを通って廃液ピット１３に排出される。
【００１９】
第１の排出ダクト１２ａの途中には、第１の漏洩検出ユニット１４ａが配設されている。第１の漏洩検出ユニット１４ａは、酸洗槽１０から廃液ピット１３に向かう流体の一部を分流させる分岐管４０と、分岐管４０によって分流された流体を一時的に貯留する計測槽４１と、計測槽４１に貯留された流体のｐＨ値を測定するｐＨ計４２とにより構成されている。ｐＨ計４２で測定されたｐＨ値は、操作室１５に伝達される。計測槽４１に流れ込んだ流体は、最終的に廃液ピット１３に排出される。
【００２０】
第２の漏洩検出ユニット１４ｂは、分岐管４０、計測槽４１及びｐＨ計４２を備えている点で第１の漏洩検出ユニット１４ａと構造的に同じである。ただし、第１の漏洩検出ユニット１４ａが、第１の排出ダクト１２ａを流れる流体のｐＨ値を検出するのに対し、第２の漏洩検出ユニット１４ｂは、第２の排出ダクト１２ｂを流れる流体のｐＨ値を検出する。
【００２１】
第１の排出口３１ａ付近において酸洗槽１０から酸性薬液が漏れると、第１の排出ダクト１２ａに酸性薬液が流れ込んで、第１の漏洩検出ユニット１４ａのｐＨ計４２によって示されるｐＨ値が酸性薬液のｐＨ値に等しくなる。一方、第２の排出口３１ｂ付近において酸洗槽１０から酸性薬液が漏れると、第２の排出ダクト１２ｂに酸性薬液が流れ込んで、第２の漏洩検出ユニット１４ｂのｐＨ計４２によって示されるｐＨ値が酸性薬液のｐＨ値に等しくなる。
【００２２】
操作室１５の制御部５０は、第１の漏洩検出ユニット１４ａのｐＨ計４２において酸性薬液のｐＨ値が検出されたときは、警報装置５１を動作させることにより、第１の排出口３１ａ付近において酸洗槽１０から酸性薬液が漏れていることを報知する。更に、制御部５０は、第２の漏洩検出ユニット１４ｂのｐＨ計４２において酸性薬液のｐＨ値が検出されたときは、警報装置５１を動作させることにより、第２の排出口３１ｂ付近において酸洗槽１０から酸性薬液が漏れていることを報知する。警報装置５１による報知方法としては、ランプの点灯、電光掲示板による文字の表示、スピーカから音声などが例示される。
【００２３】
図１は、酸洗槽１０に亀裂６０が発生した場合の一例を示している。亀裂６０は、第１の排出口３１ａよりも第２の排出口３１ｂに近いため、亀裂６０から流れ出た酸性薬液は、支持面３０から第２の排出口３１ｂに流れる。更に、亀裂６０から流れ出た酸性薬液は、第２の排出ダクト１２ｂを通って第２の漏洩検出ユニット１４ｂに流れ込む。更に、第２の漏洩検出ユニット１４ｂのｐＨ計４２において酸性薬液のｐＨ値が検出されたことが制御部５０に伝わる。制御部５０は、警報装置５１を動作させることにより、第２の排出口３１ｂ付近において酸洗槽１０から酸性薬液が漏洩したことを報知する。
【００２４】
なお、伸縮吸収台１１には、上記の第１の排出口３１ａ及び第２の排出口３１ｂだけに限られず、伸縮吸収台１１の長手方向（ひいては酸洗槽１０の長手方向）に沿って、複数の排出口が規則的に（例えば略等間隔で）形成されていてもよい。
【００２５】
本実施形態の連続酸洗設備１は、鋼帯を７０℃以上の酸性薬液によって酸洗する連続酸洗設備１に関し、酸性薬液を貯留し、熱により伸縮するポリプロピレン製の酸洗槽１０と、熱による酸洗槽１０の伸縮を吸収すべく、酸洗槽を摺動可能に支持する支持面３０を有する伸縮吸収台１１とを備えている。そして、酸洗槽からの酸性薬液の漏洩をこの伸縮吸収台１１を利用して迅速に確認できるようにする思想のもと、当該伸縮吸収台１１は、酸洗槽１０から漏洩した流体を受けることができるように、酸洗槽１０の下方にて当該酸洗槽１０の底部２０を覆うかたちで配置されるとともに、この酸洗槽１０から漏洩した流体（酸性薬液を含むドレン）を排出する排出口３１ａ，３１ｂを有している。そして、この排出口３１ａ，３１ｂから排出される流体のｐＨ値を、漏洩検出ユニット１４ａ，１４ｂにより計測することで、酸洗槽１０からの酸性薬液の漏洩を検出することができる。このようにして、酸洗槽１０から酸性薬液が漏洩したとしても、作業者による目視検査に比べて迅速且つ確実に酸性薬液の漏洩を把握することができる。
【００２６】
更に、本実施形態の連続酸洗設備１によれば、第１の漏洩検出ユニット１４ａによって第１の排出口３１ａ付近における酸洗槽１０の漏洩箇所を検出するとともに、第２の漏洩検出ユニット１４ｂによって第２の排出口３１ｂ付近における酸洗槽１０の漏洩箇所を検出することにより、酸洗槽１０の漏洩箇所を詳細に特定することができる。とくに、伸縮吸収台１１の長手方向（ひいては酸洗槽１０の長手方向）に沿って当該伸縮吸収台１１に複数の排出口を規則的に（例えば略等間隔で）形成し、各排出口に流れ込む酸性薬液を異なる漏洩検出ユニットによって検出するように構成することにより、酸洗槽１０の漏洩箇所を更に詳細に特定できるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【００２７】
本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の連続酸洗設備に適用することができる。
【符号の説明】
【００２８】
１ 連続酸洗設備
１０ 酸洗槽
１１ 伸縮吸収台
１２ａ 第１の排出ダクト
１２ｂ 第２の排出ダクト
１３ 廃液ピット
１４ａ 第１の漏洩検出ユニット
１４ｂ 第２の漏洩検出ユニット
１５ 操作室
２０ 底部
２１ 壁部
２２ 開口
２３ 蓋部
３０ 支持面
３１ａ 第１の排出口
３１ｂ 第２の排出口
４０ 分岐管
４１ 計測槽
４２ ｐＨ計
５０ 制御部
５１ 警報装置
６０ 亀裂
【特許請求の範囲】
【請求項１】
鋼帯を酸性薬液によって酸洗する酸洗設備であって、
前記酸性薬液を貯留し、熱により伸縮する耐酸性樹脂製の酸洗槽と、
熱による前記酸洗槽の伸縮を吸収すべく、前記酸洗槽を摺動可能に支持する支持面を有する伸縮吸収台と、
を備え、
前記伸縮吸収台は、流体を排出する排出口を有しており、
さらに、
前記排出口から排出される流体のｐＨ値を計測することにより前記酸洗槽の漏洩を検出する漏洩検出手段を備える
酸洗設備。
【請求項２】
前記複数の漏洩検出手段を複数備えるとともに、
前記伸縮吸収台が、前記複数の漏洩検出手段に対応するように複数の前記排出口を有し、
前記複数の漏洩検出手段が、それぞれ異なる前記排出口から排出される流体のｐＨ値を計測する
請求項１に記載の酸洗設備。
【請求項１】
鋼帯を酸性薬液によって酸洗する酸洗設備であって、
前記酸性薬液を貯留し、熱により伸縮する耐酸性樹脂製の酸洗槽と、
熱による前記酸洗槽の伸縮を吸収すべく、前記酸洗槽を摺動可能に支持する支持面を有する伸縮吸収台と、
を備え、
前記伸縮吸収台は、流体を排出する排出口を有しており、
さらに、
前記排出口から排出される流体のｐＨ値を計測することにより前記酸洗槽の漏洩を検出する漏洩検出手段を備える
酸洗設備。
【請求項２】
前記複数の漏洩検出手段を複数備えるとともに、
前記伸縮吸収台が、前記複数の漏洩検出手段に対応するように複数の前記排出口を有し、
前記複数の漏洩検出手段が、それぞれ異なる前記排出口から排出される流体のｐＨ値を計測する
請求項１に記載の酸洗設備。
【図１】
【公開番号】特開２０１２−７２１４（Ｐ２０１２−７２１４Ａ）
【公開日】平成２４年１月１２日（２０１２．１．１２）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２０１０−１４４８３４（Ｐ２０１０−１４４８３４）
【出願日】平成２２年６月２５日（２０１０．６．２５）
【出願人】（０００００４５８１）日新製鋼株式会社 (1,178)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２４年１月１２日（２０１２．１．１２）
【国際特許分類】
【出願日】平成２２年６月２５日（２０１０．６．２５）
【出願人】（０００００４５８１）日新製鋼株式会社 (1,178)
【Ｆターム（参考）】
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