説明

酸素を計測するための光学センサ

【課題】酸素に反応する色素が組み込まれた基質を備えており、高温度で化学的に安定であり、関連ある温度範囲において高温抵抗性を有し、高度のガス透過性を有するセンサを提供する。
【解決手段】この目的は、フッ素が添加されたシリコーン・ポリマーによって基質が構成されることにより達成される。発明は、媒体が例えばひまわり油のような消耗油である場合や、計測が比較的に高温度で行われたり化学的に活性化された環境で行われたりする場合に、とりわけ好適に用いられうる。更に有利な特性は、基質がガラスに対して十分に付着することが見つけられた、という点である。その結果、実際には、ガラス内に貯留された消耗油生成物2中において、酸素含有量が簡単に判断されうるようになっている。このことから貯留寿命を導き出すことができ、高温度環境下や化学的に活性化された環境下であっても、センサは無規律にはならない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、媒体中の酸素を計測するための光学センサに関し、有機金属の複合体が組み込まれた基質を備えている。
【背景技術】
【0002】
有機金属の複合体は、酸素に反応する蛍光色素であって、媒体中の酸素含有量に応じた蛍光発光量および蛍光寿命を有する。そのような有機金属は、典型的には、トリス(Tris)-Ru2+-4, 7-ビフェニル(biphenyl)-1, 10-フェナントロリン(phenanthroline)によって構成されている。このRu(ルテニウム)の複合体は特に酸素感度が良いが、例えばOsの複合体やPtの複合体というような他の有機金属が用いられてもよい。
【0003】
有機金属の複合体は、通常、シリカゲルに対して吸着される。シリカゲルは、それにより影響される有形物の蛍光発光特性を持たず、高濃度の色素を吸着しうる。吸着された色素を有するシリカゲルは、例えばPDMS(polydimethylsiloxane)とPTMSP(polytrimethylsilylpropyl)の混合体のように、高度のガス透過性を有する重合体の高分子材料の基質に組み込まれる。このため、酸素含有量の変化に対するセンサの反応は迅速なものとなりうる。有機金属の複合体は、基質に組み込まれることによって、例えば湿気や蛍光成分の侵出の作用のような影響を妨げることに対して鈍感となる。
【0004】
蛍光発光の計測を介して、媒体中の酸素含有量のレベルが判断されうる。当該計測は、比較的簡単に行われるが、不利点も有している。例えば高温を原因とするセンサの光退色(photobleaching)や経年変化等が生じるために、計測結果は、時が経つにつれてもはや再現可能ではなくなる。
【0005】
この現象は、魚油、ひまわり油等の消耗油によって媒体が構成されているような箇所において計測が行われる場合に、特に生じる。実際には、その媒体における貯蔵寿命を評価する目的で、そのような媒体中における酸素含有量を判断する際に、利点を有している。しかしながら、センサが用いられて媒体の化学作用を介したこれまでの計測は、時間の経過と共に信頼できないものになることが分かってきている。
【0006】
また、この現象は、センサに負荷をかける高温とした場合に生じ、例えば燃焼装置においてガス−空気比(gas-air ratio)のためのフィードバックとしてセンサを使用した場合に生じる。更に、この現象は、センサが比較的長時間に渡って露出される場合に生じ、例えば地下水における酸素含有量計測の場合に生じる。
【0007】
センサを安定させることにより、これらの問題を未然に防ぐように試みられている。これは、本質的に化学的に安定であってガス透過可能な基質部材が十分には簡単ではない、ということを示している。なぜならば、酸素に反応する特性を必須のものとして保持する組み込まれた色素と基質との化学的相互作用は、非常に複雑だからである。このため、酸素に反応する色素との組み合わせにおいて、その有利な特性を保持し続ける基質は、現在のところ知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このため、発明の目的は、上述の問題を解決して、酸素に反応する色素を組み込むための基質を提供することであって、このようにして形成されたセンサは、高温においても化学的に安定であり、関連ある温度の変動幅において高温抵抗性を有し、高度のガス透過性を有している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、フッ素が添加されたシリコーン・ポリマーによって基質が構成されることにより達成される。驚いたことには、言及された所要の特性をそのようなポリマーが保有することは、実験によって見つけられた。
【0010】
発明は、媒体が例えばひまわり油のような消耗油である場合、計測が高温で行われる場合、或いはセンサが比較的長時間に渡って露出される場合に、格別の利点をもって適用されうる。更なる有利な特性は、基質がガラスに対して十分に付着することが発見されているということである。従って、実際には、ガラス内に貯留された消耗油生成物中において、酸素含有量が簡単に判断可能となっている。それから貯蔵寿命が導き出され、センサは、高温環境下や化学的に活性化された環境下において無規律とはならないであろう。
【0011】
好ましい実施の形態では、フッ素が添加されたシリコーン・ポリマーは、Elastosil E113Fの商標名でWacker企業によって市場に出されているポリマーである。検査された基質物質のうち、このポリマーは、高温度負荷において最も良好な安定性を提示することが発見されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1aは、センサが媒体に接触して配置されうる方法を概略的に示す図を表しており、計測ユニットに関し、媒体中にセンサが配置されている。図1bは、センサ/計測ユニットが組み合わされたものの図を表している。
【図2】従来の基質及び発明に基づく基質について、光退色に対する抵抗性を示すグラフを表している。
【図3】従来の基質及び発明に基づく基質について、ひまわり油の化学作用に対する抵抗性を示すグラフを表している。
【図4】従来の基質及び発明に基づく基質について、温度負荷に対する抵抗性を示すチャートを表している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明は、添付した図面を参照して更に説明されるであろう。添付された図1aは、センサが媒体に接触して配置されうる方法を概略的に示す図を表しており、計測ユニットに関し、媒体中にセンサが配置されている。図1bは、センサ/計測ユニットが組み合わされたものの図を表している。図2は、従来の基質及び発明に基づく基質について、光退色に対する抵抗性を示すグラフを表している。図3は、従来の基質及び発明に基づく基質について、ひまわり油の化学作用に対する抵抗性を示すグラフを表している。図4は、従来の基質及び発明に基づく基質について、温度負荷に対する抵抗性を示すチャートを表している。
【0014】
図1に言及すると、例えばガラス製である光送達容器1は、例えば消耗油である媒体2を収容している。そのような配置において、油2における酸素含有量が計測されうるようになっている。この酸素は、空気11における酸素と油2における酸素との間において平衡が生じているような油に溶解している。発明の光学センサ3は、壁12に対して取り付けられることにより、容器1内に配置されている。センサは、基質4と酸素反応色素5とを備えており、有機金属の複合体によって構成されている。特有の波長スペクトルの光9は、検出器6のランプ7からやってきて、センサ3を照らす。それにより、色素5における蛍光発光が増大することとなる。蛍光発光は、異なる波長スペクトルの光10を有しており、検出器に対して発せられ、光電変換器(photoelectric converter)8で受け取られる。発明によれば、基質4は、フッ素が添加されたシリコーン・ポリマーによって構成されている。基質4のガス透過性のために、オイル2からの酸素は、有機金属の複合体と触れ合う。結果として、蛍光発光量は、媒体中の酸素量に影響される。蛍光発光10の放出強度や放出期間(寿命)を計測することによって、影響の程度、従って酸素含有量、が明らかにされうるようになっている。
【0015】
図1bに言及すれば、組み合わされたセンサ/計測ユニット13は、ランプ7と、光電変換器8と、センサ/計測ユニット13の外側に配置されたセンサ3と、を有している。そのような配置において、例えば燃焼装置内のガス−空気比が計測されうるようになっている。
【0016】
図2は、図1において参照番号3によって示されているセンサであって、一定量の高光強度の光が1時間照らされたセンサの状態を反映したグラフを示しており、二つ図案化されている。光退色の効果によって、数分後には蛍光発光が減少し、その結果としてセンサはますます反応しなくなる。グラフにおいて、y軸は、センサによって放出された光強度を座標で示したものであり、一定量の光によるセンサの放出なので、1において標準化されている。x軸は、蛍光発光を計測した時間を分単位によって座標で示したものである。従来のシリコーン・ポリマーの基質を有するセンサの場合(下方のライン)に比べて、フッ素が添加されたシリコーン・ポリマーによって構成された基質を有するセンサの場合(上方のライン)には、光退色の効果がかなり減少する、ということが導き出されうる。通常の操作環境下では、使用される光強度は非常に低級であるため、現象がそんなにすぐには生じない、ということが付随的に言及される。しかしながら、逸脱は、比例的に同様のままである。
【0017】
図3は、従来の基質の場合および発明に基づく基質の場合についての、ひまわり油の化学作用に対する抵抗性を示すグラフである。両テストにおいて、センサは、数週間の長期に渡ってひまわり油中に配置され、ひまわり油は空気に対して露出されていた。規則的な間隔で、蛍光発光の減衰時間、すなわち、強度が1/eまで減少する時間、が計測された。油の作用のために、従来の基質の場合、この減衰時間は暫く後に増加する。すなわち、酸素濃度は変わらないままであるという事実にもかかわらず、反応物質は、油の作用が生じない場合よりも長く蛍光発光した状態となっている。それ故に、センサの感度はその作用によって影響され、このため、信頼できる酸素含有量の計測を行うことができない。グラフにおいて、y軸は、この減衰時間を座標で示し、1において標準化されている。それに対し、x軸は、計測時間を日単位によって座標で示している。フッ素が添加されたシリコーン・ポリマーによって構成される基質を有するセンサの場合(下方のライン)は、従来のシリコーン・ポリマーの基質を有するセンサの場合(上方のライン)に比べて、良好で略一定の化学作用に対する抵抗性を有している。
【0018】
図4は、従来の基質の場合および発明に基づく基質の場合についての、温度負荷に対する抵抗性を示すチャートである。両テストにおいて、センサは、5週間に渡って高周囲温度の空気に露出されていた。チャートでは、この温度に露出された後は、蛍光発光が減縮し、このため、センサの感度が減少するということが分かりうる。チャートにおいて、y軸は、センサから放出された光強度を座標で示しており、一定量の光によるセンサの放出なので、100%で標準化されている。x軸は、三つの異なる基質物質の各々に関して、二つのそれぞれの計測を座標で示しており、そのうちの一つはセンサが20℃で貯留され、そのうちの一つは90℃で貯留されていた。チャートから、従来のシリコーン・ポリマーの場合(a)、センサの強度は常温で貯留されたセンサに対して20%の値まで減少している、ということが導き出されうる。それ故に、センサの感度はかなり減少する。発明に基づく基質を有するセンサの場合(企業United ChemicalsのPS184.5及びPS9120の混合体)(c)、感度は比較的に約30%まで減少する。従って、従来のセンサに比べて、改善された温度抵抗性が達成される。より好ましい実施の形態に基づくセンサの場合(b)、すなわち、企業WackerのElastosil E113Fタイプの基質を有するセンサの場合、この温度の影響は、高くはない要素2であり、強度は、常温における値の70%に至ったままである。
【0019】
本発明は、ここで説明され表された模範的な実施の形態のいかなるものにも限定されるものではなく、当然のことながら、特許請求の範囲における各請求項の保護範囲内に収まるあらゆる種類の変形を包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体中の酸素を計測するための光学センサにおいて、
有機金属複合体が組み込まれた基質を備え、
基質は、フッ素が添加されたシリコン・ポリマーによって構成されていることを特徴とする光学センサ。
【請求項2】
シリコン・ポリマーは、Elastosil E113Fの商標名でWacker企業によって市場に出されているポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の光学センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−81010(P2011−81010A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276186(P2010−276186)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【分割の表示】特願2001−562181(P2001−562181)の分割
【原出願日】平成13年2月22日(2001.2.22)
【出願人】(501259662)ネイダーランゼ、オルガニザティー、ボー、トゥーゲパストナトゥールウェテンシャッペルーク、オンダーツォーク、ティーエヌオー (28)
【氏名又は名称原語表記】NEDERLANDSE ORGANISATIE VOOR TOEGEPASTNATUURWETENSCHAPPELIJK ONDERZOEK TNO
【Fターム(参考)】