説明

酸素発生電極触媒、酸素発生電極および水電解装置

【課題】本発明において、遷移金属または貴金属が、不安定な高原子価の状態を保持できる安定した有機金属高分子を提供する。また、高い触媒効率で、ニッケルと同程度あるいは、それ以上の酸素発生能力を発揮する酸素発生電極触媒を提供する。
【解決手段】有機金属高分子を含む酸素発生電極触媒であって、前記有機金属高分子が、有機高分子と遷移金属または貴金属を含み、前記有機高分子は、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)から選択される少なくとも一種を含む複素5員環、または複素6員環あるいは、これらの縮合環を含む導電性配位子を含み、前記遷移金属または貴金属は前記導電性配位子に配位していることを特徴とする酸素発生電極触媒を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素発生電極触媒、酸素発生電極および水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水電解は電気エネルギーにより、水から電気化学的に水素と酸素を生成させる。この水素と酸素の製造技術は、化学工業用の原料水素製造技術として広く用いられている。また、近年、環境問題とエネルギー問題を解決可能な代替エネルギーが大きな問題となっている。この代替エネルギーである水素の製造手段として、上記水電解の技術は、大きく注目されている。水電解は有害ガスや温室効果ガスをほとんど発生しない。また、水素製造技術は、水力、風力、太陽光などの自然エネルギーを必要なエネルギーとして、効率よく供給でき、環境負荷を大きく低減できる。しかし、水電解を水素エネルギー供給手段として実用化させるためにはさらなる高い効率と経済性が求められている。高い効率と経済性を得るために、電極、隔膜、電解質、構造において改良の余地がある。アノードの酸素発生電極においては、過電圧の低下、電流密度の向上、電極材料の低コスト化、電極材料使用量の抑制が図られている。
【0003】
水電解はアルカリ水溶液、酸性水溶液の両水溶液中において可能である。アルカリ水溶液において、従来利用されているアノード極は、酸素発生過電圧が比較的小さく安価なNiで、電流密度を上げるため表面積を大きくしたもの(表面拡大ニッケル電極)が用いられている。
【0004】
酸性水溶液中における水電解法は、構造的特徴からアルカリ型の水電解法よりもエネルギー効率が良い。そのため、アノード極には酸性溶液に耐えうるPtなどの貴金属やその合金の微粒子が用いられている。しかし、Ptなどの貴金属の酸素発生能はニッケルよりも低く、上記用途の酸素発生電極として用いるには大量の貴金属が必要である。さらに、Ptなどの貴金属は高価であるため、大量の貴金属を電極材料として用いることはコスト面で実用上問題がある。
【0005】
特許文献1には、複素単環式化合物、またはこれから導かれる多核錯体分子で被覆された導電性材料の、多核錯体分子が構成する配位部分に触媒金属を配位せしめた触媒材料およびその製造方法が記載されている。
【特許文献1】特開2005−66592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の特許文献1では、高原子価の金属が配位した多くの錯体は、非常に不安定で壊れやすく、高原子価の金属の状態を保持することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、有機金属高分子を含む酸素発生電極触媒であって、
前記有機金属高分子が、有機高分子と遷移金属または貴金属を含み、
前記有機高分子は、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)から選択される少なくとも一種を含む複素5員環、または複素6員環あるいは、これらの縮合環を含む導電性配位子を含み、前記遷移金属または貴金属は前記導電性配位子に配位していることを特徴とする酸素発生電極触媒が提供される。
【0008】
本発明において、有機高分子は導電性配位子を含み、この導電性配位子に、遷移金属または貴金属が配位されている。これにより、これらの金属が不安定な高原子価の状態を保持することができる。したがって、安定した有機金属高分子を提供することが可能となる。これにより、安定した有機金属高分子は、酸素発生反応を促進させ、高い酸素発生能を持つ酸素発生電極触媒を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明において、遷移金属または貴金属が、不安定な高原子価の状態を保持できる安定した有機金属高分子を提供する。また、高い触媒効率で、ニッケルと同程度あるいは、それ以上の酸素発生能力を発揮する酸素発生電極触媒を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明における酸素発生電極触媒は、有機金属高分子を含む酸素発生電極触媒であって、前記有機金属高分子が、有機高分子と遷移金属または貴金属を含み、前記有機高分子は、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)から選択される少なくとも一種を含む複素5員環、または複素6員環あるいは、これらの縮合環を含む導電性配位子を含み、前記遷移金属または貴金属は前記導電性配位子に配位していることを特徴とする。
【0011】
本発明の有機金属高分子を含む酸素発生電極触媒において、酸素発生反応における水分子または水酸化物の直接的な吸着サイトは、導電性配位子に配位した遷移金属または貴金属原子である。この金属原子が、酸素発生の反応サイトとなる。
【0012】
酸素発生反応は、水分子(H2O、酸性溶液中)または、水酸化物イオン(OH-、アルカリ電解液中)が酸素分子に酸化される4電子反応である (2HO→O+4H+4e標準酸化還元電位E=1.23V vs SHE(標準水素電極) (酸性電解液中)、4OH→O+2HO+4e=0.40V vs SHE(標準水素電極) (アルカリ性電解液中)) 。
【0013】
その反応機構は(1)水分子または、水酸化物イオンが金属原子上に吸着する。(HO→OHad+H+e (酸性)、OH→OHad+e (アルカリ性)) (2)吸着中間体OHadからプロトンが脱離する。(OHad→Oad+H+e)、(3)2つのOadが結合、脱離してOが発生する(2Oad→O)。
【0014】
この反応機構において、(2)のOHadの酸化反応が律速段階である。そのため、OHadからプロトンの脱離と電子の獲得を促進させることで、酸素発生反応の全体の速度を上昇させ、酸素発生能を向上させることができると考えられる。
【0015】
錯体において、高い原子価の金属イオンから価数の低い安定な金属イオンに還元される際に、水が酸化されて酸素が発生することが知られている。
【0016】
このメカニズムは、高い原子価の金属イオンが還元することで、その金属に吸着したOHadはOadに酸化されると考えられる(Mn+1−OHad→M−Oad+H) 。
【0017】
具体的には、水溶液中において、錯体中の金属イオンの価数は自然電位より貴な電位に保持することにより、高原子価の不安定な金属イオンに酸化される。
【0018】
水分子または水酸化物イオンが酸化される電極電位付近において、錯体中の金属イオンの価数が不安定な高原子価の金属イオンに、OHadが吸着する。高原子価の金属イオンは安定なより低原子価の金属イオンになろうと、吸着したOHadからプロトンを脱離させ、電子を獲得すると考えられる。
【0019】
一方、吸着したOHadはプロトンが脱離して、Oadが生成する。このOadが結合し酸素が発生する。
【0020】
しかし、金属が高原子価の状態で配位した多くの錯体は非常に不安定で壊れてしまう。そのため、金属の高原子価の状態を保持することが困難であった。
【0021】
本発明において、有機高分子を形成する導電性配位子に、遷移金属または貴金属を配位させることで、これらの金属が不安定な高原子価の状態を保持できる安定した有機金属高分子を提供することが可能となる。
【0022】
このため、水分子または水酸化物イオンが酸化される電極電位付近(酸性;1.23V vs SHE、アルカリ性;0.40V vs SHE)において、有機金属高分子上の導電性配位子を介して配位した上記金属が不安定な高原子価の状態を保持できる。
【0023】
そのため、酸素発生反応の律速段階である上記OHadの酸化反応を促進することができると考えられる。これにより、本発明の酸素発生電極触媒は、高い酸素発生活性を持つことが可能となる。
【0024】
さらに、本発明において、有機金属高分子が、有機高分子を形成する導電性配位子を含むことを特徴とする。この構造を持つことにより、有機金属高分子上の導電性を有する上記配位子を介して、反応サイトの配位金属の電子状態を容易に変え、電子移動が速やかに行われるため、酸素発生反応を優位に起こさせることが可能になる。
【0025】
上記有機金属高分子全体で、高い酸素発生活性と導電性を有することになるので、酸素発生能と電流密度を向上させることが可能になる。
【0026】
本発明において、反応サイトあたりの上記金属原子の隣接原子間距離は、水分子または水酸化物イオンと反応するのに適当な距離を保っている。そのため、金属微粒子触媒と比較して、本発明の反応サイトあたりの利用効率が高い。
【0027】
さらに、有機金属高分子中の利用効率が高い反応サイトには、高い酸素発生活性を持つ高原子価の金属と、導電性配位子を有するので、本発明の酸素発生電極触媒は、高い触媒効率で、ニッケルと同程度あるいは、それ以上の酸素発生能力を発揮する
【0028】
また、本発明の酸素発生電極触媒は、有機金属高分子上の導電性配位子に配位した金属原子の最隣接金属原子間の距離が、0.25nm以上、0.55nm以下であることが好ましい。この範囲であれは、上記金属を高密度に配置することができる。
【0029】
上記金属が高密度で配置された有機金属高分子は、単位面積あたりの反応サイト数を増加させることができ、高い触媒効率で、ニッケルと同程度あるいは、それ以上の酸素発生能力を発揮させることが可能となる。
【0030】
本発明において、遷移金属または貴金属が配位する導電性配位子が有機金属高分子の主鎖あるいは、主鎖の一部を構成してもよい。
【0031】
この場合、上記有機金属高分子の主鎖あるいは、主鎖の一部は、上記導電性配位子が重合した有機高分子を含んでもよい。
【0032】
また、本発明において、導電性配位子は、上記有機金属高分子の主鎖に結合して側鎖、または側鎖の一部を形成してもよい。
【0033】
さらに、前記側鎖は、導電性配位子が重合した有機高分子でもよい。
【0034】
また、本発明において、上記有機金属高分子の主鎖、または主鎖の一部は、上記導電性配位子以外で構成された高分子でもよい。
【0035】
この場合、上記高分子の主鎖の主成分としてプロパンやアセチレン等を挙げることができる。
なお、主鎖、または主鎖の一部が、上記導電性配位子以外である場合には、側鎖、または側鎖の一部は、導電性配位子または、重合した導電性配位子を含むことが必要となる。
【0036】
導電性を有する導電性配位子が有機金属高分子の主鎖もしくは側鎖、または主鎖もしくは側鎖の一部であるため、有機金属高分子上の導電性配位子を介して、反応サイトの配位金属の電子状態を容易に変え、電子移動が速やかに行われることにより、酸素発生反応を優位に起こさせることが可能になる。
【0037】
また、本発明の有機金属高分子が多孔質構造を有してもよい。これにより、上記有機金属高分子を含む本発明の電極触媒は、酸素発生能と電流密度を向上させることが可能になる。
【0038】
導電性配位子としては、
ピロール、イミダゾール、ピラゾール、テルラゾール、イソテルラゾール、セレナゾール、イソセレナゾール、チオゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザン、トリアゾール、からなる窒素(N)を含む複素5員環;
フラン、ジオキサン、からなる酸素(O)を含む複素5員環;
チオフェン、からなる硫黄(S)を含む複素5員環;
セレノフェン、からなるセレン(Se)を含む複素5員環;
ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラジン、ピペラジン、ピリダジン、セレノモルホリン、モルホリン、からなるNを含む複素6員環;
ピラン、ジオキセン、からなるOを含む複素6員環;
チオピラン、トリチアン、チオキサン、からなるSを含む複素6員環;
セレニン、からなるSeを含む複素6員環;
キナゾリン、イソキノリン、キノリン、ナフチリジン、アクリジン、ベンゾキノリン、フェナントロリン、キノキサリン、インドール、インドリン、インダゾール、カルバゾール、ベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール、ピロロピリジン、からなるNを含む複合化合物;
ベンゾフラン、ジヒドロベンゾフラン、フェノキサチイン、ジベンゾフラン、ジベンゾジオキシン、メチレンジオキシベンゼン、ベンズオキサゾール、からなるOを含む複合化合物; および、
ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、チアントレンからなるSを含む複合化合物;などが挙げられる。
【0039】
上記有機金属高分子において、この実施形態に限定されないが、導電性配位子のすべて、または一部が置換基、官能基、配位子に置換することも可能である。
【0040】
上記有機金属高分子は、置換基を有する導電性配位子を重合させて得ることができるが、この方法に限定されない。
【0041】
これにより、上記有機金属高分子を含む本発明の電極触媒は、酸素発生能と電流密度を向上させることが可能になる。
【0042】
導電性配位子に配位する金属は、酸素の吸着サイトとして作用することが可能な遷移金属や貴金属ならばいずれを用いてもよい。そのなかでも、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Zn、Ir、Pt、Auから選ばれる少なくとも一種類以上の金属が配位することが好ましい。
【0043】
金属原子は、水分子または水酸化物の直接的な吸着サイトであると同時に、酸素発生の反応サイトとなる。単位表面積あたりの反応サイト数を増加させる観点から、金属原子は、主鎖を構成する導電性配位子に配位することが好ましい。
【0044】
さらに金属が配位した反応サイトを増加させるために、側鎖にも導電性配位子を導入し、上記金属を配位させることも可能である。側鎖に含まれる導電性配位子としては、主鎖に用いられるものを導入することができる。
【0045】
置換基としてはアルキル基、ビニル基、官能基としてはハロゲン、スルホン酸基、金属配位子としては、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)からなる少なくとも一種を含む複素5員環、および複素6員環、もしくはこれらの縮合環、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、オキシム基、ケトン基、アルデヒド基、チオール基、ホスフィン基、アルシン、セレニド、チオカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、および、ジチオカルバナトを用いることができる。
【0046】
これらの置換を行うことによって、配位する金属の電子状態や反応サイト数、その最隣接原子間距離を調整できる。さらに、置換基などの親水性、疎水性および分極を利用して、電極触媒反応やそれに伴う物質輸送を改善したりすることもできる。
【0047】
上記有機金属高分子において、この実施形態に限定されないが、導電性配位子のすべてまたは一部が、アルキル基、またはビニル基からなる群から選ばれる少なくとも一種以上の置換基を有してよい。
【0048】
上記有機金属高分子は、置換基を有する導電性配位子を重合させて得ることができるが、この方法に限定されない。
【0049】
導電性配位子が上記置換基を有する場合、置換基の分極により、水分子や水酸化物イオンが吸着サイトに到達する頻度が上昇することや、上記金属の最隣接原子間距離が調整されることなどが考えられる。これにより、上記有機金属高分子を含む本発明の電極触媒は、酸素発生能と電流密度を向上させることが可能になる。
【0050】
上記有機金属高分子において、この実施形態に限定されないが、導電性配位子のすべてまたは一部が、ハロゲン、またはスルホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一種以上の置換基を官能基として有してよい。
【0051】
上記有機金属高分子は、官能基を有する導電性配位子を重合させて得ることができるが、この方法に限定されない。
【0052】
導電性配位子が上記官能基を有する場合、反応サイト周辺の親水性の向上や官能基の分極などにより、水分子や水酸化物イオンが吸着サイトに到達する頻度が上昇することなどが考えられる。これにより、上記有機金属高分子を含む本発明の電極触媒は、酸素発生能と電流密度を向上させることが可能になる。
【0053】
上記有機金属高分子において、この実施形態に限定されないが、導電性配位子のすべてまたは一部が、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)からなる少なくとも一種を含む複素5員環、および複素6員環、もしくはこれらの縮合環、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、オキシム基、ケトン基、アルデヒド基、チオール基、ホスフィン基、アルシン、セレニド、チオカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、および、ジチオカルバナトからなる群から選ばれる少なくとも一種の置換基を金属配位子として有してよい。
【0054】
上記有機金属高分子は、金属配位子を有する導電性配位子を重合させて得ることができるが、この方法に限定されない。
【0055】
さらに、上記有機金属高分子は、この実施形態に限定されないが、導電性配位子のすべてまたは一部を置換した金属配位子に、上記遷移金属および貴金属のうち少なくとも1種の金属が配位してもよい。
【0056】
導電性配位子が上記金属配位子を有する場合、金属配位子に上記金属が配位することで、酸素発生の反応サイトが増加することなどが考えられる。これにより、上記有機金属高分子を含む本発明の電極触媒は、酸素発生能と電流密度を向上させることが可能になる。
【0057】
また、有機金属高分子の主鎖あるいは側鎖は、導電性を持つことが望ましい。電極触媒反応時の電子移動が速やかに行われるため、触媒活性が高くなるからである。導電性を高めるために、主鎖あるいは側鎖にドーパントをドーピングしてもよい。
【0058】
有機金属高分子の主鎖あるいは側鎖にドーピングするためのドーパントとしては、電子受容性ドーパンと電子供与性ドーパントなどが挙げられる。
【0059】
上記電子受容性ドーパントとして、ヨウ素、臭素などのハロゲン分子、五フッ化砒素、五フッ化アンチモニー、三塩化鉄などの強いルイス酸、硫酸、フルオロ硫酸などのプロトン酸、三塩化鉄、四塩化チタン等の遷移金属化合物、塩素イオン、過塩素酸イオンなどの電解質アニオン他、電子親和力の大きい物質などが挙げられる。
【0060】
上記電子供与性ドーパントとして、Li、Na、K、Rb、Csなどのアルカリ金属、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属、ユウロピウムなどの希土類など、一般的にイオン化ポテンシャルの小さい物質が挙げられる。
【0061】
さらに、有機金属高分子の主鎖、および側鎖に導電性付与剤を添加してよい。
有機金属高分子の主鎖、および側鎖の導電性が低い場合でも、導電性付与剤を添加することにより、本発明の有機金属高分子を酸素還元触媒として用いることができる。
【0062】
導電性を付与するために、繊維状のカーボン、粒子状カーボン、カーボンナノチューブやその誘導体、フラーレンおよびその誘導体などを添加することも可能である。
【0063】
さらには、導電性のある酸化物や窒化物などの無機化合物、金属、ならびに導電性高分子、分子結晶などを添加してもよい。有機金属高分子の主鎖および側鎖が導電性を持つ場合でも、導電性付与剤を添加することによって、電極触媒反応時の電子移動が速やかに行われるため、触媒活性を高めることができる。
【0064】
配位子に金属を配位させる場合は、配位子を含む高分子を合成した後、高分子が溶解する溶媒中に所望の金属を含む金属塩や合成した配位子を含む高分子より配位能力の低い配位子を含む錯体を混合することにより得ることができる。
【0065】
配位子を含む高分子への置換反応が遅い場合は、配位子を含む高分子の投入量を多くしたり、加熱攪拌したりすることにより反応を促進してもよい。また、同じ金属イオンの酸化状態の変化により置換活性から置換不活性の錯体、またはその逆になる金属イオンを用いてもよい。
【0066】
この性質を利用して、置換活性な状態ですばやく置換反応を行った後、酸化あるいは還元により置換不活性な状態にして新たな錯体を作製することもできる。
【0067】
この場合、酸化剤、還元剤ともに一般的なものが用いられ、酸化剤としては、過マンガン酸カリウム、二酸化マンガン、四酸化オスミウム、硝酸等、還元剤としてはシュウ酸、二酸化硫黄、チオ硫酸ナトリウム、硫化水素、水素化ホウ素、ジボラン、チオ硫酸ナトリウム、硫化水素等が挙げられる。また、電気化学的手法により、金属を配位させたり、高分子を合成し同時に金属を配位させたりすることも可能である。
【0068】
本発明の酸素発生電極触媒は、この実施形態に限定されないが、導電性のある担体をさらに含み、上記担体に有機金属高分子が担持されてもよい。
【0069】
また、有機金属高分子は、触媒の合成時に担体と混合してもよいし、高分子触媒の合成後に混合してもよい。さらに、担持した触媒を触媒電極とする際には、バインダーなどのイオン導電性を持つ添加物を加えることもできる。ただし、この触媒担持方法は、上記に限定されるものではなく、触媒と電極が電気的に接触すればよい。
【0070】
これにより、本発明の酸素発生電極触媒は、酸素発生能と電流密度を向上させることが可能になる。
【0071】
有機金属高分子を含む酸素発生電極触媒を、水電解アノード極の電極触媒として用いてもよい。この場合、集電電極上に直接、分散あるいは、塗布してもよいし、カーボン微粒子などのような比表面積の大きな導電性を持つ担体の上に分散、塗布してもよい。金属量を少なくおさえる観点から、比表面積の大きな担体上に、少なくとも2層以上の有機金属高分子の層を担持させることが望ましい。
【0072】
本発明の電極は、特に限定されないが、上記酸素発生電極触媒を含有してよい。
これにより、電流密度を向上させることが可能となる。
【0073】
上記電極を、水電解アノード極として用いてもよい。さらに、この水電解アノード極を水電解装置の電極に用いてもよい。
本発明の水電解装置は、この実施形態に限定されないが、隔膜と、隔膜を介してカソード極と、上記アノード極と、これらの電極が配置してなる電解槽を含んでよい。
これにより、電流密度を向上させることが可能になる。
【0074】
上記水電解装置において、酸性溶液、アルカリ溶液、中性溶液のいかなる性質をもつ電解液も限定されることなく使用することが可能である。さらに、水電解装置は、水素製造装置、酸素製造装置として使用してもよい。この場合も同様に、なんら電解液や負極活物質に限定されることなく使用することが可能である。
【0075】
以下、本発明の詳細を具体的に実施例において示す。
【実施例】
【0076】
実施例1 (有機金属高分子の合成)
硫黄(S)を含む複素五員環および窒素(N)を含む複素六員環から成る高分子に、Co、Ni、Fe、Ptが配位した有機金属高分子を以下の方法により作製した。
【0077】
Sを含む複素五員環からなる高分子は、以下の手順で作製した。2,5ジブロモチオフェンとMgをテトラヒドロフラン溶媒中で反応させ、グリニャール試薬を合成した後、二塩化ニッケルビピリジン錯体を加えると、暗褐色の析出物ができる。それを塩酸酸性のメタノール水溶液で洗浄し、無機物等の不純物を除去することにより目的の高分子を得た(以下、チオフェン含有高分子とする。)。
【0078】
Nを含む複素六員環からなる高分子の合成は以下の手順により作製した。初めにジメチルホルムアルデヒドを溶媒とし、2,2'-ジブロモ-5,5'-ビピリミジン、ビス(1,5シクロオクタジエン)ニッケル、1,5シクロオクタジエン、ビピリジンを溶解する。
【0079】
その後、作製した溶液にジメチルフランを加えて60℃で二時間攪拌させると黄色い固体が析出する。その析出物をトルエン、pH=3のエチレンジアミン四酢酸、pH=9のエチレンジアミン四酢酸、pH=9の水酸化ナトリウム、蒸留水、ベンゼンの順で洗浄することにより目的の高分子を得た。(以下、ビピリミジン含有高分子とする。)
【0080】
次に得られたチオフェン含有高分子及びビピリミジン含有高分子を真空乾燥し、以下の方法により、チオフェン及びビピリミジンからなる配位子にCo、Ni、Fe、Ptを配位させた。
【0081】
Coの配位は窒素雰囲気下でジメチルホルムアミド溶液にチオフェン含有高分子またはビピリミジン含有高分子と二臭化コバルトを溶解し、攪拌することで作製した。
【0082】
Niの配位は窒素雰囲気中下でビス(1,5シクロオクタジエン)ニッケルを溶解させたトルエン溶液を攪拌しながら、チオフェン含有高分子またはビピリミジン含有高分子が溶解したトルエン溶液をゆっくりと加えることにより行った。
【0083】
Feの高分子への配位は窒素雰囲気中、チオフェン含有高分子またはビピリミジン含有高分子と二臭化鉄を含むジメチルホルムアミド溶液を還流、攪拌し行った。
【0084】
Ptの配位は窒素雰囲気下、攪拌しているビス(1,5シクロオクタジエン)白金−トルエン溶液にチオフェン含有高分子またはビピリミジン含有高分子が溶解されたトルエン溶液をゆっくりと加えることにより行った。その後、各々の析出物をろ過し、真空乾燥させた。
【0085】
実施例2 (有機金属高分子の構造)
得られた有機金属高分子を紫外・可視・近赤外分光法(UV-Vis-NIR)、X線吸収分光(EXAFS)、X線光電子分光(XPS)、赤外吸収分光(IR)により構造解析を行った。
【0086】
解析の結果、成長したチオフェン含有高分子またはビピリミジン含有高分子の間において、Co、Ni、Fe、Ptのおのおのの金属が存在し、ビピリミジン含有高分子ではNとチオフェン含有高分子ではSと配位結合していた。
【0087】
図1にビピリミジン含有高分子にPtが配位した有機金属高分子のモデル図を、図2にチオフェン含有高分子にNiが配位した有機金属高分子のモデル図を示す。
【0088】
図1においてピリミジンの間にPtが存在し、1つのPt原子はピロールの4つのNと配位結合し、安定化している。この時、最隣接したPt原子間の距離は0.45nmである。図2においてチオフェンの間にNiが存在し、チオフェンの4つのSと1つのNi原子が配位結合している。この時、最隣接したNi原子間の距離は0.38nmである。
【0089】
また、他のビピリミジンおよびチオフェンにCo、Ni、Fe、Ptの何れかが配位した有機金属高分子の最隣接金属間距離は以下のようであった。ビピリミジンにNiが配位した有機金属高分子(Ni−ビピリミジン含有高分子;以下、左記のように略す):0.40nm、Co−ビピリミジン含有高分子:0.42nm、Fe−ビピリミジン含有高分子:0.53nm、Pt−チオフェン含有高分子:0.31nm、Co−チオフェン含有高分子:0.33nm、Fe−チオフェン含有高分子:0.26nmとなった。
【0090】
このように作製した有機金属高分子は反応サイトが一原子からなり、0.25nm以上、0.55nm以下の距離を維持して高密度に分布していると考えられる。
【0091】
実施例3 (有機金属高分子の電気化学特性)
作製した有機金属高分子の酸素発生能評価を以下の方法により行った。電極の作製は乳鉢で粉末状にした有機金属高分子に蒸留水を加えて超音波照射により分散液を作製した。
【0092】
その分散液をよく研磨した直径3mmのグラッシカーボン(GC)電極上に10μgの有機金属高分子が担持されるように滴下し、乾燥することによりGC-有機金属高分子電極を作製した。
【0093】
窒素飽和させた0.5M H2SO4水溶液(酸性;pH=1)及び窒素飽和させた1M KOH水溶液(アルカリ性;pH=14)中のビピリミジン含有高分子、チオフェン含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptが配位したGC-有機金属高分子電極の自然電位とそこからアノード側に現れM?Mn+1+e-(M;Co、Ni、Fe、Pt)に相当するレドックス電位を図4に示す。
【0094】
全ての有機金属高分子において、自然電位と酸素発生の平衡電極電位の間にレドックス電位が存在し、レドックス電位よりアノード側で高原子価の金属イオンが存在するのを確認した。
【0095】
図3はそのGC-有機金属高分子電極の電流電位曲線の結果である。測定溶液は、窒素飽和させた0.5M H2SO4水溶液(酸性;pH=1)及び窒素飽和させた1M KOH水溶液(アルカリ性;pH=14)で、掃印速度は10mV/sである。
【0096】
点線は従来の水電解で使用されるNiメッシュ(アルカリ性、200メッシュ)、Ptメッシュ(酸性、200メッシュ)の測定結果である。酸性中、Ptメッシュは1.59Vよりアノード側で酸素発生反応が起こり、電流値が指数関数的に増加していた。実線はビピリミジン含有高分子、チオフェン含有高分子の有機金属高分子の結果である。
【0097】
ビピリミジン含有高分子において、Co、Ni、Feは1.51V付近より酸素発生し、その電流値もPtメッシュより大きく、酸素発生電位、電流密度共にPtメッシュより優れており、高い触媒効率を有する。
【0098】
配位金属がPtの時もPtメッシュとほぼ同等の酸素発生能を持っているものの、酸素発生電位は大きく、電流密度は小さかった。しかし、有機金属高分子は上述したように一つの吸着サイトは金属原子、イオンであるため、μオーダのPt線からなるPtメッシュと比較すると、その利用効率はきわめて高い。
【0099】
これより、Ptの有機金属高分子は、Ptメッシュと同等の酸素発生能を有しながらも、Pt使用量を大幅に削減できる。一方、チオフェン含有高分子においても、Co、Ni、FeはPtメッシュより酸素発生能が大きく、Ptでは、Ptメッシュと同等の酸素発生能を有しながら、Pt使用量が大幅に削減され、高い触媒効率を有する。
【0100】
また、アルカリ中で、Niメッシュは0.65Vよりアノード側で酸素発生反応が起こった。実線はビピリミジン含有高分子、チオフェン含有高分子の有機金属高分子の結果だが、ビピリミジン含有高分子において、Co、Ni、FeはNiメッシュと比較して酸素発生電位は小さく、電流密度は大きく、酸素発生能は優れていた。
【0101】
また、Ptでも、Pt使用量は極めて少ないにもかかわらず、高い触媒効率で、Niメッシュと同等の酸素発生能を有するのが確認された。
【0102】
実施例4 (置換基の導入および導入の効果)
ビピリミジン含有高分子、チオフェン含有高分子にヘキシル基を導入したヘキシルビピリミジン含有高分子またはヘキシルチオフェン含有高分子に、Co、Ni、Fe、Ptを配位させた有機金属高分子の電気化学特性を測定し、置換基導入の効果について検討した。
【0103】
高分子の合成方法は2,5ジブロモチオフェンを3ヘキシルチオフェン及び2,2'-ジブロモ-5,5'-ビピリジンを、それぞれ2,5-ジブロモ-3ヘキシル-チオフェン、2,2'-ジブロモ-6,6'ヘキシル-5,5'-ビピリミジンに交換して実施例1と同様の方法で行った。また、各種金属の配位も実施例1と同様の方法で行った。
【0104】
GC電極にヘキシルビピリミジン含有高分子、ヘキシルチオフェン含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptが配位した有機金属高分子を担持したGC-有機金属高分子電極は実施例3と同様の方法で作製した。
【0105】
ヘキシルビピリミジン含有高分子、ヘキシルチオフェン含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptが配位したGC-有機金属高分子電極の窒素飽和させた0.5M H2SO4水溶液(酸性;pH=1)及び窒素飽和させた1M KOH水溶液(アルカリ性;pH=14)中の自然電位と配位金属イオンのレドックス電位の結果を図5に示す。
【0106】
全てのヘキシルビピリミジン含有高分子、ヘキシルチオフェン含有高分子のGC-有機金属高分子電極は自然電位と酸素発生の平衡電位の間に金属イオンのレドックス電位があり、酸素発生の平衡電位で高原子価の金属イオンが存在するのが確認された。ヘキシルビピリミジン含有高分子、ヘキシルチオフェン含有高分子のGC-有機金属高分子電極の電流電位曲線の結果を図6にまとめた。
【0107】
参照試料として実施例3で最も酸素発生能のある配位金属をNiとするビピリミジン含有高分子、チオフェン含有高分子の有機金属高分子の結果を示してある。全ての電極で酸素発生電位よりアノード側に電位掃印するに連れて指数関数的に酸素発生電流が増加した。酸素発生電流5mA/cm2における酸素発生電位と、酸性中で1.7V、アルカリ中で0.85Vにおける酸素発生電流の大きさから電流密度を判断した。
【0108】
全ての配位金属のヘキシルビピリミジン含有高分子、ヘキシルチオフェン含有高分子は、おのおのの参照試料と比較して、酸素発生電位は低く、電流密度は大きく、酸素発生能が向上していた。
【0109】
これはアルキル基が及ぼす相互作用により、金属高分子の層間距離が長くなるなど有機金属高分子の構造秩序性の向上、置換基の分極などの影響で反応物の水分子や水酸化物イオンが吸着サイトに到達する頻度が上昇したためと考えられる。
【0110】
実施例5 (官能基の導入および導入の効果)
ビピリミジン含有高分子、チオフェン含有高分子にスルホン酸基を導入したビピリミジンスルホン酸含有高分子、チオフェンエタンスルホン酸含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptを配位させた有機金属高分子の電気化学特性を測定し、官能基導入の効果ついて検討した。
【0111】
ビピリミジンスルホン酸含有高分子の合成は実施例1で合成したビピリミジン含有高分子を濃硫酸で処理した。その後、沈殿物をろ過し、真空乾燥させた。チオフェンエタンスルホン酸含有高分子の合成は窒素雰囲気下でチオフェンエタンスルホン酸中に塩化アルミニウム、塩化第二銅を1:1の割合で混合して、約40℃で数時間反応させた。得られた沈殿物をベンゼン、塩酸、沸騰水で洗浄し、真空乾燥させた。その後、各種金属の配位は実施例1と同様の方法で行った。
【0112】
有機金属高分子の酸素発生能測定は実施例3と同様の方法で電極を作製し、同様の条件で測定を行った。ビピリミジンスルホン酸含有高分子、チオフェンエタンスルホン酸含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptが配位したGC-有機金属高分子電極の自然電位と配位金属イオンのレドックス電位の結果を図7に示す。
【0113】
全てのビピリミジンスルホン酸含有高分子、チオフェンエタンスルホン酸含有高分子のGC-有機金属高分子電極は自然電位と酸素発生の平衡電位の間に高原子価の金属イオンが存在するのが確認された。ビピリミジンスルホン酸含有高分子、チオフェンエタンスルホン酸含有高分子のGC-有機金属高分子電極の電流電位曲線の結果を図8にまとめた。
【0114】
参照試料として実施例3で最も酸素発生能のあるNiのビピリミジン含有及びチオフェン含有高分子の結果を示してある。実施例4と同様の方法で酸素発生電位と電流密度を判断した。
【0115】
全ての配位金属のビピリミジンスルホン酸含有高分子、チオフェンエタンスルホン酸含有高分子は、おのおのの参照試料より、酸素発生電位は低く、電流密度は大きく、酸素発生能が向上していた。これは、スルホン基による有機金属高分子の親水性の向上や官能基の分極などの影響により、反応物の水分子や水酸化物イオンの供給が向上したことを示している。
【0116】
実施例6 (側鎖配位子の導入および導入の効果)
ピリミジン含有高分子にエチルチオール基、チオフェン含有高分子にカルボキシル基を導入したフェニルエチルメルカプタン含有高分子、テノイル酸含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptを配位させた有機金属高分子の電気化学特性を測定し、側鎖配位子導入の効果ついて検討した。
【0117】
フェニルエチルメルカプタン含有高分子の合成方法はモノマーを1,1'エチルチオール-2,2'-ジブロモ-5,5'-ピリミジンに交換して実施例1と同様の方法で行った。テノイル酸含有高分子の合成方法はモノマーをテノイル酸に交換して実施例5のチオフェンエタンスルホン酸含有高分子の合成と同様の方法で行った。その後、各種金属の配位は実施例1と同様の方法で行った。
【0118】
実施例3と同様の方法で電極を作製し、同様の条件で有機金属高分子の酸素発生能測定を行った。フェニルエチルメルカプタン含有高分子、テノイル酸含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptが配位したGC-有機金属高分子電極の自然電位と配位金属イオンのレドックス電位の結果を図9に示す。
【0119】
全てのフェニルエチルメルカプタン含有高分子、テノイル酸含有高分子のGC-有機金属高分子電極は酸素発生の平衡電位で高原子価の金属イオンが存在するのが確認された。フェニルエチルメルカプタン含有高分子、テノイル酸含有高分子のGC-有機金属高分子電極の電流電位曲線の結果を図10にまとめた。
【0120】
参照試料として実施例3のNiのビピリミジン含有及びチオフェン含有有機金属高分子の結果を示してある。実施例4と同様の方法で酸素発生電位と電流密度を判断したところ、全ての配位金属のフェニルエチルメルカプタン含有、テノイル酸含有有機金属高分子は、おのおのの参照試料より、酸素発生能が向上していた。
【0121】
これは側鎖に導入されたチオール基及びカルボキシル基が配位子として働き、金属を配位し、反応サイトが増加したためと考えられる。反応サイトが増加した結果、反応量が増え電流値が増加したためである。
【0122】
実施例7 (ドーパントの導入および導入の効果)
ドーパントを注入したビピリミジン含有高分子、チオフェン含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptを配位させた有機金属高分子の電気化学特性を測定し、ドーパントの導入の効果ついて検討した。
【0123】
実施例1の方法で合成したビピリミジン含有高分子、チオフェン含有高分子に以下の方法によりドーピングを行った。ビピリミジン含有高分子へのNaのドーピングはビピリミジン含有高分子を窒素雰囲気下でナフタレンとNaを含むテトラヒドロフラン溶媒に浸しておこなった。チオフェン含有高分子へのヨウ素のドーピングはヨウ素を溶かしたクロロホルム溶媒にチオフェン含有高分子を浸して行った。その後、おのおのの固形物を真空乾燥した。
【0124】
実施例3と同様の方法で電極を作製し、同様の条件で有機金属高分子の酸素還元能測定を行った。ドーパントを注入したビピリミジン含有高分子、チオフェン含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptが配位したGC-有機金属高分子電極の電流電位曲線の結果を図11にまとめた。
【0125】
全ての配位金属のドーパントを注入したビピリミジン含有、チオフェン含有有機金属高分子は、のドーパントを注入していないものより、酸素発生能が向上していた。これは、炭素骨格である導電性高分子のビピリミジン含有高分子、チオフェン含有高分子の電子伝導度がドーピングにより増加したため、電極触媒反応時の電子移動が速やかに行われ、触媒活性が高くなったと考えられる。
【0126】
実施例8 (水電解装置の製造、および特性評価)
本発明の有機金属高分子をアノード電極触媒に用いた水電解装置を作製し、その特性評価を行った。
実施例1で作製したビピリミジン含有高分子にNiが配位した有機金属高分子をアノード電極触媒として用いて、以下の手順に従い、アルカリ性及び酸性の小型試験型水電解装置を作製した。アルカリ性水電解装置作製において、電解質には1M KOHを用いた。
【0127】
カソード極にはNiメッシュ(200メッシュ)を用いて、アノード極はビピリミジン含有高分子にNiが配位した有機金属高分子をアニオン交換膜樹脂溶液と混合し、混合物をカーボン電極上に塗布・乾燥することにより作製した。電極面積は共に5cm×5cm四方である。両極室生成物の混合を防止し、かつイオンを透過させる隔膜にはポリエステル製の多孔質膜に用いた。これらを炭素鋼の電解槽に設置して単槽の水電解装置とした。
【0128】
水温70℃、常圧下でセル電圧1.8Vで運転させたところ、20mA/cm2と高い電流密度の電流が検出された。カソード極からは純度、99.9%の水素が200Nm3/hで発生した。また、アノード極からは99.5%の酸素ガスが検出された。このように、Ni-ビピリミジン含有高分子をアノード電極触媒用いたアルカリ型水電解装置が作製できた。
【0129】
酸性水電解装置作製は、まず、拡散層として、カーボンクロスの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンで撥水化したカーボンブラックを塗布し、撥水化処理したものを用意した。
【0130】
次に、撥水化処理された拡散層の表面にビピリミジン含有高分子にNiが配位した有機金属高分子の粉末をナフィオン溶液(ポリマー分5%wt、アルドリッチ社製)と混合する。混合物を塗布・乾燥することによって、拡散層の表面にアノード極触媒層を形成した。一方、カソード極はPtメッシュ(200メッシュ)を用いた。電極面積は共に5cm×5cm四方である。
【0131】
その後、電解質膜(厚さ約50μmのナフィオン(登録商標)膜、デュポン社製)の両面に、アノード極の触媒層とカソード極のPtメッシュを熱圧着し、膜と電極から成る接合体を作製した。さらに、接合体をグラファイト板にガス流路を設けた集電体で挟んで、試験装置とした。
【0132】
水温70℃、常圧下でセル電圧1.6Vで運転させたところ、50mA/cm2と高い電流密度の電流が流れた。カソード極からは99.995%もの高純度の水素が検出された。このように、Ni-ビピリミジン含有高分子をアノード電極触媒を用いた酸性型水電解装置が作製できた。
【0133】
実施例9 (他の高分子成分、配位子、金属など)
実施例1〜8に記載されていない他の高分子主鎖、側鎖、配位子、官能基、置換基、金属成分などを含む有機金属高分子を合成し、それらの有効性を検討した。合成方法、および構造の評価方法は、それぞれ、実施例1、2に記載したものと同様の方法で行った。
【0134】
酸素発生能の評価は、実施例3記載の方法によって行った。
【0135】
主鎖に配位子を含む種々の有機金属高分子を酸素発生電極触媒とした結果のうち、酸性の結果を図12−1〜図12−3、アルカリ性の結果を図13−1〜図13−3に、主鎖に配位子を含まない触媒の結果のうち、酸性のものを図14−1〜図14−5、アルカリ性のものを図15−1〜図15−5に示す。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】ピリミジン含有高分子にPtが配位した有機金属高分子の構造モデル図。
【図2】チオフェン含有高分子にNiが配位した有機金属高分子の構造モデル図。
【図3】GC及びビピリミジン含有高分子、チオフェン含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptが配位したGC-有機金属高分子電極の酸性中及びアルカリ中における電流電位曲線。
【図4】GC及びビピリミジン含有高分子、チオフェン含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptが配位したGC-有機金属高分子電極の酸性中及びアルカリ中における自然電位とレドックス電位。
【図5】ヘキシルビピリミジン含有高分子、ヘキシルチオフェン含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptが配位したGC-有機金属高分子電極の酸性中及びアルカリ中における自然電位とレドックス電位。
【図6】ヘキシルビピリミジン含有高分子、ヘキシルチオフェン含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptが配位したGC-有機金属高分子電極の酸性中及びアルカリ中における酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位:1.7V <酸性>、0.85V <アルカリ性>時)。
【図7】ビピリミジンスルホン酸含有高分子、チオフェンエタンスルホン酸含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptが配位したGC-有機金属高分子電極の酸性中及びアルカリ中における自然電位とレドックス電位。
【図8】ビピリミジンスルホン酸含有高分子、チオフェンエタンスルホン酸含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptが配位したGC-有機金属高分子電極の酸性中及びアルカリ中における酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位:1.7V <酸性>、0.85V <アルカリ性>時)。
【図9】フェニルエチルメルカプタン含有高分子、テノイル酸含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptが配位したGC-有機金属高分子電極の酸性中及びアルカリ中における自然電位とレドックス電位。
【図10】フェニルエチルメルカプタン含有高分子、テノイル酸含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptが配位したGC-有機金属高分子電極の酸性中及びアルカリ中における酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位:1.7V <酸性>、0.85V <アルカリ性>時)。
【図11】ドーパントを注入したビピリミジン含有高分子、チオフェン含有高分子にCo、Ni、Fe、Ptが配位したGC-有機金属高分子電極の酸性中及びアルカリ中における酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位:1.7V <酸性>、0.85V <アルカリ性>時)。
【図12−1】主鎖に配位子を含む種々の有機金属高分子の酸性中における自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位:1.7V時)。
【図12−2】主鎖に配位子を含む種々の有機金属高分子の酸性中における自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位:1.7V時)。
【図12−3】主鎖に配位子を含む種々の有機金属高分子の酸性中における自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位:1.7V時)。
【図13−1】主鎖に配位子を含む種々の有機金属高分子のアルカリにおける自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位: 0.85V時)。
【図13−2】主鎖に配位子を含む種々の有機金属高分子のアルカリにおける自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位: 0.85V時)。
【図13−3】主鎖に配位子を含む種々の有機金属高分子のアルカリにおける自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位: 0.85V時)。
【図14−1】主鎖に配位子を含まない種々の有機金属高分子を酸素還元触媒の酸性中における自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位:1.7V時)。
【図14−2】主鎖に配位子を含まない種々の有機金属高分子を酸素還元触媒の酸性中における自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位:1.7V時)。
【図14−3】主鎖に配位子を含まない種々の有機金属高分子を酸素還元触媒の酸性中における自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位:1.7V時)。
【図14−4】主鎖に配位子を含まない種々の有機金属高分子を酸素還元触媒の酸性中における自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位:1.7V時)。
【図14−5】主鎖に配位子を含まない種々の有機金属高分子を酸素還元触媒の酸性中における自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位:1.7V時)。
【図15−1】主鎖に配位子を含まない種々の有機金属高分子を酸素還元触媒のアルカリ性中における自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位: 0.85V時)
【図15−2】主鎖に配位子を含まない種々の有機金属高分子を酸素還元触媒のアルカリ性中における自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位: 0.85V時)
【図15−3】主鎖に配位子を含まない種々の有機金属高分子を酸素還元触媒のアルカリ性中における自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位: 0.85V時)
【図15−4】主鎖に配位子を含まない種々の有機金属高分子を酸素還元触媒のアルカリ性中における自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位: 0.85V時)
【図15−5】主鎖に配位子を含まない種々の有機金属高分子を酸素還元触媒のアルカリ性中における自然電位、レドックス電位、酸素発生電位(電流値:5mA/cm2時)と酸素発生電流(電位: 0.85V時)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属高分子を含む酸素発生電極触媒であって、
前記有機金属高分子が、有機高分子と遷移金属または貴金属を含み、
前記有機高分子は、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)から選択される少なくとも一種を含む複素5員環、または複素6員環あるいは、これらの縮合環を含む導電性配位子を含み、前記遷移金属または貴金属は前記導電性配位子に配位していることを特徴とする酸素発生電極触媒。
【請求項2】
前記遷移金属または貴金属の最隣接金属原子間の距離が0.25nm以上、0.55nm以下である請求項1記載の酸素発生電極触媒。
【請求項3】
前記導電性配位子が、前記有機金属高分子の主鎖もしくは側鎖、または主鎖もしくは側鎖の一部である請求項1または2記載の酸素発生電極触媒。
【請求項4】
前記導電性配位子が、前記有機金属高分子の主鎖、または主鎖の一部である請求項3記載の酸素発生電極触媒。
【請求項5】
前記導電性配位子が、前記有機金属高分子の側鎖、または側鎖の一部である請求項3記載の酸素発生電極触媒。
【請求項6】
窒素(N)を含む前記複素5員環が、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、テルラゾール、イソテルラゾール、セレナゾール、イソセレナゾール、チオゾール、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザンおよび、トリアゾールから選択され;
酸素(O)を含む前記複素5員環が、フラン、およびジオキサンから選択され;
硫黄(S)を含む前記複素5員環が、チオフェンから選択され;
セレン(Se)を含む前記複素5員環が、セレノフェンから選択され;
Nを含む前記複素6員環が、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラジン、ピペラジン、ピリダジン、セレノモルホリン、およびモルホリンから選択され;
Oを含む前記複素6員環が、ピラン、およびジオキセンから選択され;
Sを含む前記複素6員環が、チオピラン、トリチアン、およびチオキサンから選択され;
Seを含む前記複素6員環が、セレニンであるか;または、
前記縮合環が、キナゾリン、イソキノリン、キノリン、ナフチリジン、アクリジン、ベンゾキノリン、フェナントロリン、キノキサリン、インドール、インドリン、インダゾール、カルバゾール、ベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール、ピロロピリジン、ベンゾフラン、ジヒドロベンゾフラン、フェノキサチイン、ジベンゾフラン、ジベンゾジオキシン、メチレンジオキシベンゼン、ベンズオキサゾール、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、およびチアントレンから選択される請求項1から請求項5のいずれかに記載の酸素発生電極触媒。
【請求項7】
Nを含む前記複素6員環がピリミジンを含むかまたは、硫黄(S)を含む前記複素5員環がチオフェンを含む請求項1から請求項6のいずれかに記載の酸素発生電極触媒。
【請求項8】
前記遷移金属が、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、およびMoから選択され、前記貴金属か゛、Ru、Rh、Pd、Ag、Zn、Ir、Pt、およびAuから選択される請求項1から請求項7のいずれかに記載の酸素発生電極触媒。
【請求項9】
前記導電性配位子が、アルキル基、またはビニル基を有する請求項1から請求項8のいずれかに記載の酸素発生電極触媒。
【請求項10】
前記導電性配位子が、ハロゲン、またはスルホン酸基を有する請求項1から請求項9のいずれかに記載の酸素発生電極触媒。
【請求項11】
前記導電性配位子が、窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)、およびセレン(Se)から選択される少なくとも一種を含む前記複素5員環、および前記複素6員環、またはこれらの前記縮合環、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、オキシム基、ケトン基、アルデヒド基、チオール基、ホスフィン基、アルシン、セレニド、チオカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、および、ジチオカルバナトからなる群から選ばれる少なくとも一種の置換基を有する請求項1から請求項10のいずれかに記載の酸素発生電極触媒。
【請求項12】
前記置換基に配位した、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Zn、Ir、Pt、および、Auからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属をさらに含む請求項11記載の酸素発生電極触媒。
【請求項13】
導電性付与剤をさらに含む請求項1から請求項12のいずれかに記載の酸素発生電極触媒。
【請求項14】
導電性を有する担体をさらに含み、前記担体に前記有機金属高分子が担持されたことを特徴とする請求項1から請求項13のいずれかに記載の酸素発生電極触媒。
【請求項15】
請求項1から請求項14のいずれかに記載の酸素発生電極触媒を含有する酸素発生電極。
【請求項16】
請求項15記載の電極を用いた水電解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図12−3】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図13−3】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図14−3】
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【図14−4】
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【図14−5】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【図15−3】
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【図15−4】
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【図15−5】
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【公開番号】特開2009−299111(P2009−299111A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153249(P2008−153249)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】