重力変動ストレスの負荷方法、航空機、航空機の運転方法、セロトニン合成系遺伝子発現促進方法、セロトニン合成方法、中枢神経系刺激方法、および薬効測定方法
【課題】被検者または実験動物等に対して新たな急性ストレス反応を生じさせることを可能とする重力変動ストレスの負荷方法を提供することを目的の一つとする。
【解決手段】微小重力により被検者または実験動物にストレスを負荷する第一のストレス負荷ステップS1を少なくとも1回含む重力変動ストレスの負荷方法を提供する。
【解決手段】微小重力により被検者または実験動物にストレスを負荷する第一のストレス負荷ステップS1を少なくとも1回含む重力変動ストレスの負荷方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重力変動ストレスの負荷方法、航空機、航空機の運転方法、セロトニン合成系遺伝子発現促進方法、セロトニン合成方法、中枢神経系刺激方法、および薬効測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のストレス負荷方法として、高架式十字迷路や高架式プラットホームを用いて高所恐怖を与えることにより、実験動物に急性ストレスを負荷する方法が知られている(例えば、非特許文献1および非特許文献2参照。)。
上記高架式十字迷路により実験動物が引き起こす生体反応は、不快や恐怖などのストレスが引き起こす情動による反応であることが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
上記高架式プラットホーム試験法は、抗不安薬のスクリーニング法としても知られている。また、上記高架式プラットホーム試験法を用いて、ストレス抵抗性と糖尿病等疾病の関係についても研究が行われている(例えば、非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】山口拓、外3名、「高架式十字迷路試験を用いた不安水準の評価とその応用」日本薬理学雑誌、2005年、126(2)p.99−105
【非特許文献2】宮田茂雄、外2名、「高架式プラットホーム試験法:ストレス抵抗性の評価に適した簡便な行動解析法」日本薬理学雑誌、2008年、132(4)p.213−216
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の高架式十字迷路を用いたストレス負荷方法では、セロトニン以外に、ドーパミン、GABA(Gamma-Amino Butyric Acid)等の複数のアミノ酸が脳内で遊離することを促進しているため、セロトニンを選択的に分泌させること、つまりセロトニン合成系遺伝子を特異的に発現させることはできなかった。
また、非特許文献2に記載の高架式プラットホームを用いたストレス負荷方法では、上記急性ストレスを負荷することによる生体反応とセロトニン神経系が何らかの形で関与していることが確認されているものの、そのメカニズムの解明を可能とするような具体的な手段は開発されていない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、被検者または実験動物に新たな急性ストレス反応を生じさせることを可能とする重力変動ストレスの負荷方法、航空機、航空機の運転方法、セロトニン合成系遺伝子発現促進方法、セロトニン合成方法、中枢神経系刺激方法、および薬効測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の重力変動ストレスの負荷方法、航空機、航空機の運転方法、セロトニン合成系遺伝子発現促進方法、セロトニン合成方法、中枢神経系刺激方法、および薬効測定方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明は、微小重力により被検者または実験動物にストレスを負荷する第一のストレス負荷ステップを少なくとも1回含む重力変動ストレスの負荷方法を提供する。
【0007】
本発明の重力変動ストレスの負荷方法によれば、地上では得られない微小重力(μG)による物理的刺激を被検者または実験動物に与えることができる。なお、微小重力とは、約1G未満の重力であって、例えば航空機によるパラボリックフライトでは約10−2G程度の重力となる。好ましくは、上記微小重力が約3×10−2G以下に保たれることとする。
発明者らは、上記微小重力によるストレス負荷方法が、従来のストレス負荷方法では生じさせることができなかった新たなストレス応答を生じさせることを発見した。上記新たなストレス応答とは、中枢神経系が特異的経路により刺激されること、つまりセロトニン特異的に刺激されることによる急性ストレス応答である。
また、発明者らは、本発明の重力変動ストレスの負荷方法が、神経伝達物質であるセロトニンを合成・保持するように働く遺伝子系を選択的に発現させることを発見した。
【0008】
また、本発明の重力変動ストレスの負荷方法によれば、上記新たなストレス応答を生じさせたストレス応答発生モデルを作成することができる。このストレス応答発生モデルを用いて、セロトニンが関与する中枢神経系に作用させるための新たな創薬対象分子を探索することができる。
また、本発明の重力変動ストレスの負荷方法によれば、セロトニンが関与するとされる中枢神経系の疾病であるパニック障害や不安障害が発生するメカニズムを解明するツールとして、上記ストレス応答発生モデルを用いることができる。
【0009】
上記、本発明の重力変動ストレスの負荷方法においては、過重力により前記被検者または前記実験動物にストレスを負荷する第二のストレス負荷ステップを少なくとも1回さらに含むこととしてもよい。
このようにすることで、地上では得られない微小重力と過重力の重力変動による物理的刺激を被検者または実験動物に与えることができる。なお、過重力とは、例えば1Gから2.5Gといった1Gより大きな重力であって、通常重力よりも過大な重力の状態をいう。好ましくは、上記過重力が約1.4G以下に保たれることとする。
【0010】
上記本発明の重力変動ストレスの負荷方法においては、前記第一のストレス負荷ステップと前記第二のストレス負荷ステップとを交互に繰り返すこととしてもよい。
このようにすることで、地上では得られない微小重力と過重力の重力変動による交互の物理的刺激を被検者または実験動物に与えることができる。
【0011】
上記本発明の重力変動ストレスの負荷方法においては、前記第一のストレス負荷ステップを1時間に20回以下の回数で行うこととしてもよい。好ましくは、前記第一のストレス負荷ステップを少なくとも8回以上行うこととする。
このようにすることで、1回の第一のストレス負荷ステップにおいて、微小重力によるストレス負荷時間を少なくとも約15秒から20秒間確保することができるため、微小重力環境でのストレス負荷を十分に行うことができる。
【0012】
また、本発明の重力変動ストレスの負荷方法が航空機等により行われる場合には、航空機等の機体姿勢回復時に過重力が生じることとなる。この場合、通常約2.0Gから2.5Gの過重力が生じるところ、約1.3Gから約2.0Gの過重力に抑えつつ、機体の姿勢を回復させるための時間を十分に確保することができる。
これにより、第二のストレス負荷ステップにおいて、必要以上の過重力の発生により過大な負荷を被検者または実験動物に与えることなく、第一のストレス負荷ステップと第二のストレス負荷ステップを交互に繰り返し行うことができる。
【0013】
また、本発明は、パラボリックフライトを行うことにより機内に微小重力環境を作り出して被検者または実験動物に微小重力ストレスを負荷する第一のストレス負荷ステップを少なくとも1回含む重力変動ストレスの負荷方法を行う航空機を提供する。
上記本発明の航空機によれば、パラボリックフライトにより航空機内に微小重力環境を作り出して、地上では得られない微小重力による物理的刺激を与えることができるため、上記新たなストレス応答を被検者または実験動物に生じさせることができる。なお、パラボリックフライトは放物線飛行とも呼ばれ、放物線運動を行うように航空機等を速度調整しながら操縦し、機内に無重力状態を作り出す飛行方法をいう。
なお実験動物とは、一般の動物実験等の利用に供する哺乳類に属する動物をいう。また被験者とは、実験内容についてのインフォームドコンセントを得た上で、無重力フライトのための健康診断条件を満たした健常人をいう。
【0014】
また、本発明は、パラボリックフライトを行うことにより航空機内に微小重力環境を作り出して被検者または実験動物に微小重力ストレスを負荷する第一のストレス負荷ステップを少なくとも1回含む航空機の運転方法を提供する。
上記本発明の航空機の運転方法によれば、パラボリックフライトにより航空機内に微小重力環境を作り出して、地上では得られない微小重力による物理的刺激を与える航空機の運転を行うことができるため、上記新たなストレス応答を被検者または実験動物に生じさせることができる。
【0015】
また、本発明は、前記重力変動ストレスの負荷方法を用いたセロトニン合成系遺伝子発現促進方法であって、前記第一のストレス負荷ステップを行うことによりストレス応答を前記被検者または前記実験動物に発生させるストレス応答発生ステップと、前記被検者または前記実験動物の細胞においてセロトニン合成系遺伝子を選択的に発現させる遺伝子発現ステップとを含むセロトニン合成系遺伝子発現促進方法を提供する。
上記本発明のセロトニン合成系遺伝子発現促進方法によれば、微小重力による物理的刺激で生じさせる上記新たなストレス応答が染色体DNAのセロトニン合成系遺伝子に特異的に作用して、セロトニン合成系遺伝子を選択的に発現させることができるため、セロトニン合成系遺伝子を用いた様々な実験系に用いることができる。
【0016】
また、本発明は、前記セロトニン合成系遺伝子発現促進方法を用いたセロトニン合成方法であって、前記遺伝子発現ステップを行うことにより、前記細胞でセロトニンを合成させる合成ステップを含むセロトニン合成方法を提供する。
上記本発明のセロトニン合成方法によれば、セロトニン合成系遺伝子を選択的に発現させることにより、中枢神経系に作用するセロトニンを選択的に合成させることができるため、まだ解明されていない部分が多いセロトニンの神経系への作用についてin vivoで分析する等、そのメカニズムを解明する手段として用いることができる。
【0017】
また、本発明は、前記セロトニン合成方法を用いた中枢神経系刺激方法であって、前記合成ステップを行うことにより、合成された前記セロトニンを用いて前記被検者または前記実験動物の中枢神経系を刺激する神経刺激ステップを含む中枢神経系刺激方法を提供する。
上記本発明の中枢神経系刺激方法によれば、選択的に合成されたセロトニンを用いて、セロトニン特異的刺激により中枢神経系を刺激することができる。
また、上記本発明の中枢神経系刺激方法によれば、上記セロトニン特異的刺激により中枢神経系を刺激した実験動物等の検体をセロトニンが関与するとされる中枢神経系の疾病であるパニック障害や不安障害が発生するメカニズムを解明するための検体として用いることができる。
また、前記被検者または前記実験動物から採取した検体および測定値をツールとして神経系に作用させるための創薬対象分子の探索および新薬の開発を行うことができる。特に、セロトニンが関与する中枢神経系の疾患に有用な薬物のスクリーニングに用いることもできる。
【0018】
また、本発明は、上記重力変動ストレスの負荷方法を用いた薬効測定方法であって、前記第一のストレス負荷ステップを行うことによりストレス応答を前記被検者または前記実験動物に発生させるストレス応答発生ステップと、前記被検者または前記実験動物に薬物を投与する薬物投与ステップと、前記薬物の薬効を測定する測定ステップとを含む薬効測定方法を提供する。
【0019】
上記本発明の薬効測定方法によれば、神経系に作用して効果を発揮する可能性がある創薬対象分子を発見または開発した場合に、上記新たなストレス応答を発生させた被検査対象である被検者または実験動物に創薬対象分子を含む薬物を投与して、当該創薬対象分子の神経系への作用や効力を観察・測定することができる。
これにより、創薬対象分子の神経系への有効性を確認することができるため、パニック障害や不安障害等、神経系の疾病に有効な創薬対象分子を探索・提起するための新たなツールとして活用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、被検者または実験動物に新たな急性ストレス反応を生じさせることができるという効果を奏する。また、上記新たな急性ストレス反応により、神経伝達物質であるセロトニンを合成・保持するように働く遺伝子系を、選択的に発現させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るパラボリックフライトを説明する図である。
【図2】図1のパラボリックフライトにおける環境加速度データを示す図である。
【図3】高所恐怖によるストレス負荷方法を説明する図である。
【図4】本発明の重力変動ストレスの負荷方法による血中の血清コルチコステロンの変化を示すグラフである。
【図5】ストレス負荷による遺伝子発現の解析結果を示す図表である。
【図6】本発明の重力変動ストレスの負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図7】本発明の重力変動ストレスの負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図8】本発明の重力変動ストレスの負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図9】本発明の重力変動ストレスの負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図10】本発明の重力変動ストレスの負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図11】高所恐怖ストレスのストレス負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図12】高所恐怖ストレスのストレス負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図13】高所恐怖ストレスのストレス負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図14】高所恐怖ストレスのストレス負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図15】高所恐怖ストレスのストレス負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図16】セロトニン合成系について説明する図である。
【図17】セロトニン代謝系について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
次に、本発明の第1の実施形態について説明する。
本実施形態は、航空機を用いたパラボリックフライトによる重力変動により、物理的刺激を実験動物等に与える重力変動ストレスの負荷方法である。
以下、本実施形態について、図1および図2を用いて説明する。
【0023】
図1は航空機を用いたパラボリックフライトによる重力変動ストレス負荷方法を説明する図である。
本実施形態では、実験動物としてマウスを用いた。このマウスを乗せた航空機は離陸し、所定の高さ(パラボリックフライト開始高さT1)まで上昇して高度を保つ。検査対象となるマウスはボックスに入れられている。このボックスは航空機の座席等、安全が確保される所定の位置にベルト等を用いて固定されている。
【0024】
所定の高度に達して機体が安定した後、パラボリックフライト開始高さT1からパラボリックフライトを開始する。所定の高度に下がるまで、パラボリックフライトによる高度の低下を継続させる(第一のストレス負荷ステップS1)。1回のパラボリックフライトの継続時間は約15秒であり、微小重力環境を十分維持している。この微小重力環境における微小重力は約10−2Gである。
【0025】
所定の高さまで高度を下げた後、パラボリックフライトを停止し(パラボリックフライト停止高さT2)、地上方向を向いている航空機の頭部が上空方向に向くように機体姿勢を回復させながら、パラボリックフライト開始高さT1の高度に再び達するまで徐々に機体を上昇させる(第二のストレス負荷ステップS2)。航空機が上昇している間機内は過重力環境を形成している。この過重力環境における過重力は約1.4Gである。
【0026】
図1に示されるように、離陸した航空機はパラボリックフライト開始高さT1まで上昇した後に2回目の第一のストレス負荷ステップS1を開始する。このように、第一のストレス負荷ステップS1と第二のストレス負荷ステップS2をそれぞれ8回繰り返した後、パラボリックフライト開始高さT1から徐々に高度を下げて着陸する。このように、第一のストレス負荷ステップS1と第二のストレス負荷ステップS2をそれぞれ8回繰り返したときの所要時間は約1時間である。
【0027】
図2は、図1に示される方法で第一のストレス負荷ステップS1と第二のストレス負荷ステップS2をそれぞれ8回繰り返したときの環境加速度を示す図である。縦軸は航空機の加速度を示しており、横軸は時間を示している。横軸の1目盛りは6分である。
また、加速度Gxは航空機の進行方向に対して前後方向、加速度Gyは進行方向に対して横方向、加速度Gzは進行方向に対して上下方向の加速度をそれぞれ示している。
【0028】
図2に示されるように、加速度Gyで示される横方向の加速度は航空機の離陸時から着陸時まで略ゼロとなっており、航空機が進行方向に対して左右方向にブレることなくまっすぐに飛行していることが分かる。
【0029】
加速度Gzで示される上下方向の加速度は、パラボリックフライト開始直前に一旦加速度が少し低下し、第一のストレス負荷ステップS1でパラボリックフライトを行っている間は、下方向の加速度が増してグラフが上方向に大きく変動する。そして、パラボリックフライト停止高さT2に達すると一旦加速度が略ゼロとなる。その後、第二のストレス負荷ステップS2で機体姿勢を回復させながら高度がパラボリックフライト開始高さT1となるまで上昇している間は、上方向の加速度が増してグラフが上方向に変動している。航空機の上昇に伴い徐々に上方向の加速度が低下し、航空機がパラボリックフライト開始高さT1の高度に達すると、パラボリックフライト開始前の加速度と略同じになる。
【0030】
加速度Gxで示される前後方向の加速度は、第一のストレス負荷ステップS1でパラボリックフライトを行っている間および第二のストレス負荷ステップS2で機体姿勢を回復させて上昇している間は主に進行方向に対して上下方向に飛行することとなるため、前後方向の加速度が略ゼロとなっている。
【0031】
図3は、比較対照実験として用いる高所恐怖ストレス(EPS:Elevated-platform stress)によるストレス負荷方法を説明する図である。
高さ約140センチの足つき棒状部材に透明な円筒状の部材を乗せて円形の足場を作成し、この円形足場にケージから出したマウスを乗せて10分間高所恐怖ストレスをマウスに与えた。
【0032】
上記方法により10分間高所恐怖ストレスを与えた後マウスをケージに戻し、マウスをケージに戻してから30分経過後に採血してコルチコステロンの血中濃度を測定した。コルチコステロンはストレスを感じたときに副腎皮質で産生が促進されるホルモンとして知られる。
図3に示されるように、10分間高所恐怖ストレスを負荷したマウスのコルチコステロンの血中濃度は、高所恐怖ストレスを負荷していないコントロール群のマウスのコルチコステロンの血中濃度と比較して有意に上昇した。これにより、マウスに対して高所恐怖によるストレスが負荷されていることが分かる。
【0033】
図4は、図1に示されるパラボリックフライトによる重力変動ストレス負荷方法によりストレス負荷を行った後のマウス(C57BLK/6J,雄,8週齢)のコルチコステロンの血中濃度を示すグラフである。
具体的には、図1に示されるパラボリックフライトによる重力変動ストレス負荷方法を1回行った後(Parab flight 1)、8回行った後(Parab flight 8)、パラボリックフライト終了から3時間後(post 3hr)、6時間後(post 6hr)、24時間後(post 24hr)のマウスについてコルチコステロンの血中濃度を測定した結果である。コントロールとして、地上にいるマウスについてのコルチコステロン血中濃度(Grd Cont)、およびパラボリックフライトを行う前に航空機内で測定したマウスのコルチコステロン血中濃度(Flight Cont)を測定した。グラフの括弧内の数字は測定した個体数を示している。
図4によれば、パラボリックフライトを行う前に航空機内で測定したマウスのコルチコステロン血中濃度であるFlight Cont 2と比較して、パラボリックフライトを8回行った場合に有意にコルチコステロンの血中濃度が上昇していることがわかる。これにより、マウスに対してパラボリックフライトによるストレスが負荷されていることが分かる。
また、パラボリックフライト終了から3時間経過以降は、有意にコルチコステロンの血中濃度が低下していることから、パラボリックフライトによるストレスから開放されていることがわかる。
【0034】
ストレス負荷による遺伝子発現の変化について図5から図17を用いて説明する。
図5は、図1に示される重力変動ストレス、図3に示される高所恐怖負荷ストレス、および社会的ストレス(図示せず)を負荷することによる細胞中の遺伝子発現を比較する表である。
【0035】
図5中の紙面に対して上方向の黒い矢印は、ストレス負荷後の遺伝子発現がストレス負荷前と比較して高まる方向に有意差があったことを示している。
紙面に対して上方向の白の矢印は、ストレス負荷後の遺伝子発現がストレス負荷前と比較して有意差はなかったものの、遺伝子発現が高まる傾向にあったことを示している。
紙面に対して下方向の矢印は、ストレス負荷後の遺伝子発現がストレス負荷前と比較して低下する方向に有意差があったことを示している。
マイナス(−)の表示は、遺伝子発現が検出限界以下または有意差がなかったことを示している。なお、NDの表示は、対象遺伝子について解析がされていないことを示している。
【0036】
図6から図10は、図1に示される重力変動ストレス負荷前と負荷後の中枢神経系を代表する中脳(mid brain)および抹消神経系を代表する小腸(small intestine)における遺伝子発現の変化を示すグラフである。
図11から図15は、図3に示される高所恐怖負荷ストレス負荷前と負荷後の中脳および小腸における遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【0037】
図1に示される重力変動ストレス負荷前後および図3に示される高所恐怖負荷ストレス負荷前後の遺伝子発現の解析は、目的遺伝子および標準遺伝子に対して合成したcDNAを鋳型としてSYBR Premix Ex Taq II(タカラバイオ株式会社製)を用いてインターカーレータ法により、リアルタイムPCR反応から定量的にRNAの発現量を算出して行った。
【0038】
図5の社会的と記載された欄の遺伝子発現の結果は、5週間毎日にわたって実験用ラット対し、大きく獰猛などぶネズミへの接触ストレスを負荷することによる慢性的社会ストレスを負荷した後、サブトラクティブハイブリダイゼーション法を用いて目的遺伝子のセロトニン神経核(DRN:背側縫線核)における遺伝子発現が解析されたものである(Abumaria,et al. 「Identification of Genes Regulated by Chronic Social Stress in the Rat Dorsal Raphe Nucleus」 Cellular and Molecular Neurobiology、2006年3月、26(2)p.145−162より引用。)。
【0039】
図5に示されている重力変動と記載された欄の遺伝子発現解析結果は、図1に示されるパラボリックフライトによる重力変動ストレス負荷方法によりストレス負荷を行った後のマウスの遺伝子解析結果である。
具体的には、図1に示されるパラボリックフライトによる重力変動ストレス負荷方法を行って航空機が着陸した後、8回のパラボリックフライトのうち1回目のパラボリックフライトを行ってから6時間経過後にマウスの中脳の細胞および小腸の細胞の遺伝子発現を測定した解析結果である(図6から図10のpost PF)。パラボリックフライトの維持時間は、1回につき約15秒間である。6時間経過後に測定したのは遺伝子発現のための時間を十分に確保するためである。
また、航空機が離陸した後最初にパラボリックフライト開始高さT1に達して高度が安定した時にマウス(C57BLK/6J,雄,8週齢)の細胞の遺伝子発現を解析し、その結果をパラボリックフライト前の解析結果(図6から図10のbefore PF)として用いた。
【0040】
図5に示されている高所恐怖と記載された欄の遺伝子発現解析結果は、図3に示される高所恐怖ストレス負荷方法によりストレス負荷を行った後のマウスの遺伝子解析結果である。
具体的には、図3に示される方法で10分間高所恐怖ストレスをマウスに与えた後マウスをケージに戻し、マウスをケージに戻してから6時間経過後にマウスの縫線核を含む中脳の細胞およびクロム親和性細胞を含む小腸の細胞の遺伝子発現を解析した(図11から図15のEPS)。
また、ケージに入ったままのマウスについて遺伝子発現を解析し、その結果を高所恐怖ストレス負荷前の解析結果(図11から図15のHomecage)として用いた。
【0041】
Tph1(tryptophan hydroxylase 1)は小腸等の抹消神経系に作用するトリプトファン水酸化酵素に関する遺伝子として知られている。Tph2(tryptophan hydroxylase 2)は脳等の中枢神経系に作用するトリプトファン水酸化酵素に関する遺伝子として知られている。Tph1とTph2はいずれもセロトニン合成系遺伝子として知られている。
【0042】
図16は、セロトニン合成系について説明する図である。図16に示されるように、トリプトファン水酸化酵素の作用によりセロトニンが合成されることから、Tph1の発現が高まることにより、小腸等の抹消神経系でセロトニン合成が促進されるといえる。
また、Tph2の発現が高まることにより、脳等の中枢神経系でセロトニン合成が促進されるといえる。
【0043】
図5、図6(a)、および図11(a)に示されるように、中脳および小腸におけるTph1の遺伝子発現は、重力変動ストレス負荷と高所恐怖ストレス負荷のいずれによっても発現量に大きな変化がないことが分かる。
これに対し、図5、図6(b)、および図11(b)に示されるように、中脳および小腸におけるTph2の遺伝子発現は、高所恐怖ストレス負荷では遺伝子発現量に変化がなく、重力変動ストレス負荷では中脳においてのみ有意に遺伝子発現が亢進されていることが分かる。また、社会的ストレス負荷によってもTph2の遺伝子発現に変化は生じていない。
【0044】
上記の結果から、重力変動ストレス負荷により、中脳で中枢神経系に作用するTph2発現が特異的に亢進されていることが分かる。
よって、本実施形態によれば、航空機を用いた重力変動ストレス負荷により新たなストレス応答を生じさせて、脳内でのセロトニンの合成を選択的に促進させることができる。
【0045】
Maoa(Monoamine oxidase A)はセロトニンを基質とするセロトニン分解系酵素に関する遺伝子として知られている。Maob(Monoamine oxidase B)はドーパミンを基質とするドーパミン分解系酵素に関する遺伝子として知られている。
図17は、セロトニン代謝系について説明する図である。図17に示されるように、セロトニンを基質とするセロトニン分解系酵素Maoaの作用によりセロトニンが代謝されることから、Maoaの発現が亢進されことによりセロトニン代謝が促進されるといえる。
また、ドーパミンを基質とするドーパミン分解系酵素Maobの作用によりドーパミンは代謝されるもののセロトニンは代謝されないことから、Maobの発現が亢進されることによりドーパミン代謝のみが促進されるといえる。
【0046】
図5、図7(a)、および図12(a)に示されるように、中脳および小腸におけるMaoaの遺伝子発現は、重力変動ストレス負荷前後および高所恐怖ストレス負荷前後でともに遺伝子発現に変化が生じていないことが分かる。
これに対し、図5、図7(b)、および図12(b)に示されるように、中脳および小腸におけるMaobの遺伝子発現は、高所恐怖ストレス負荷では遺伝子発現量に変化がなく、重力変動ストレス負荷では中脳においてのみ有意に遺伝子発現が亢進されていることが分かる。
【0047】
上記の結果から、重力変動ストレス負荷により、脳内でドーパミン分解系酵素Maobの発現が特異的に高められ、ドーパミンの代謝が選択的に促進されていることが分かる。つまり、セロトニンを代謝せず保持する方向に働くように遺伝子発現が選択的に亢進されているといえる。
よって、本実施形態によれば、航空機を用いた重力変動ストレス負荷により新たなストレス応答を生じさせて、脳内でのセロトニンの保持を選択的に促進させることができる。
【0048】
Sert(セロトニントランスポータ)はセロトニン伝達物質に関し、合成されたセロトニンを有効に使おうとするセロトニンリサイクルに関する遺伝子として知られている。
Slc7a5(Solute Carrier Family 7 Member 5)は大型中性アミノ酸輸送体として知られている。また、トリプトファンはセロトニンの合成材料として知られている。トリプトファンは上記輸送体の働きで細胞内に取り込まれ、そこで酵素反応を受けることによりセロトニンが合成される。
【0049】
図5、図8(a)、および図13(a)に示されるように、中脳におけるSertの遺伝子発現は、高所恐怖ストレス負荷では遺伝子発現量に変化がなく、重力変動ストレス負荷では有意に遺伝子発現が亢進されていることが分かる。
小腸におけるSertの遺伝子発現は、重力変動ストレス負荷では発現量に変化がなく、高所恐怖ストレス負荷では有意に遺伝子発現が低下していることが分かる。
また、社会的ストレス負荷ではSertの遺伝子発現に変化は生じていない。
【0050】
図5、図8(b)、および図13(b)に示されるように、中脳におけるSlc7a5の遺伝子発現は、高所恐怖ストレス負荷では遺伝子発現量に変化がなく、重力変動ストレス負荷では有意に遺伝子発現が亢進されていることが分かる。
小腸におけるSlc7a5の遺伝子発現は、重力変動ストレス負荷前後および高所恐怖ストレス負荷前後でともに遺伝子発現量に変化が生じていないことが分かる。
【0051】
上記の結果から、重力変動ストレス負荷により、脳内でSertの遺伝子発現量が特異的に増加し、セロトニンの再利用が選択的に促進されていることが分かる。また、小腸ではSertの遺伝子発現が低下していることから、脳内でのセロトニンの再利用率を高めて中枢神経を特異的に刺激するように遺伝子発現が亢進されていることがわかる。
よって、本実施形態によれば、航空機を用いた重力変動ストレス負荷により実験動物であるマウスに新たなストレス応答を生じさせて、脳内でのセロトニンの再利用率を選択的に促進させることができる。
【0052】
また、上記の結果から、脳内でSlc7a5の遺伝子発現が特異的に高められ、これにより細胞外のトリプトファンが細胞内に取り込まれ、セロトニンの生成が選択的に促進されていることが分かる。また、小腸にてはSlc7a5の遺伝子発現が変化していないことから、脳内でセロトニンを産生して中枢神経系を特異的に刺激するように遺伝子発現が亢進されていることがわかる。
【0053】
よって、本実施形態によれば、航空機を用いた重力変動ストレス負荷により新たなストレス応答を生じさせて脳内でのセロトニンの産生・保持・再利用率を選択的に促進させることにより中枢神経を特異的な経路、つまりセロトニン選択的な経路で刺激することができる。
これにより、セロトニンが関与するとされる中枢神経系の疾病であるパニック障害や不安障害が発生するメカニズムを解明するツールとして活用することができる。特に、セロトニンが関与する中枢神経系の疾患に有用な薬物のスクリーニングに用いることもできる。
【0054】
Htr1a(セロトニン1A受容体)は合成されたセロトニンを受け取るセロトニン受容体に関する遺伝子として知られている。
Th(チロシンヒドロキシラーゼ)はアドレナリン、ノルアドレナリンやドーパミンの材料であるチロシンの第一段階の合成酵素に関する遺伝子として知られている。
【0055】
Gad1(グルタミン酸脱炭酸酵素1)は分子量67kDaのグルタミン酸脱炭酸酵素であり、脳の活性化を抑制する方向に働く神経伝達物質であるGAVAに関する遺伝子として知られている。
Gad2(グルタミン酸脱炭酸酵素2)は分子量65kDaのグルタミン酸脱炭酸酵素であり、Gad1と同様GAVAに関する遺伝子として知られている。
【0056】
図5、図9、および図14に示されるように、中脳におけるHtr1aの遺伝子発現は、重力変動ストレス負荷では遺伝子発現量に変化がなく、高所恐怖ストレス負荷では有意に遺伝子発現が亢進されていることが分かる。また、社会的ストレス負荷によってはHtr1aの遺伝子発現に変化は生じていない。
中脳におけるThの遺伝子発現は、高所恐怖ストレス負荷では発現量に変化がなく、重力変動ストレス負荷では有意差まではないものの、遺伝子発現が高まる傾向にあることが分かる。
また、図10および図15に示されるように、中脳および小腸におけるGad1およびGad2の遺伝子発現は、重力変動ストレス負荷前後および高所恐怖ストレス負荷前後でともに遺伝子発現量に変化がないことが分かる。
【0057】
上記の結果から、重力変動ストレス負荷により、脳内でThの遺伝子発現が高められる傾向にあるといえるため、アドレナリン神経系、ノルアドレナリン神経系やドーパミン神経系等の活性化を促して神経系全体を活性化しようとする傾向があるといえる。しかし、Thの遺伝子発現の程度は有意差があるとまではいえないため、遺伝子発現亢進傾向にあるものの、その影響は少ないものであると考えられる。
【0058】
以上の結果から、本実施形態によれば、航空機を用いた重力変動ストレス負荷により従来のストレス負荷方法では生じさせることができなかった新たなストレス応答を生じさせることができるといえる。
【0059】
なお、本実施形態では、第一のストレス負荷ステップS1と第二のストレス負荷ステップS2をそれぞれ8回繰り返すこととしたが、これに限定されるものではなく、例えば第一のストレス負荷ステップS1を1回のみ行うこととしてもよい。1度だけでも微小重力環境を形成すれば、本願発明の効果を奏することができるからである。また、第一のストレス負荷ステップS1と第二のストレス負荷ステップS2をそれぞれ8回以上行うこととしてもよい。
【0060】
また、本実施形態では、第一のストレス負荷ステップS1と第二のストレス負荷ステップS2を含む重力変動ストレス負荷時間を約1時間であることとしたが、これに限定されるものではなく、第一のストレス負荷ステップS1と第二のストレス負荷ステップS2を行う回数に応じて1時間以上であってもよく、また1時間以下であってもよい。
【0061】
本実施形態では、第一のストレス負荷ステップS1の微小重力が約10−2Gであることとしたが、これに限定されるものではなく、1G以下の10−6Gから10−2Gといった範囲であることとしてもよい。
また、本実施形態では第二のストレス負荷ステップS2の過重力が約1.4Gであることとしたが、これに限定されるものではなく、1Gから2.5Gといった範囲であることとしてもよい。
【0062】
また、本実施形態では、パラボリックフライト開始高さT1、パラボリックフライト停止高さT2はそれぞれ所定の高さであることとしたが、これに限定されるものではなく、航空機内に所定の間微小重力環境を維持することができれば、例えば1回目のパラボリックフライトと2回目以降のパラボリックフライトの開始高さは異なる高さであってもよく、1回目のパラボリックフライト停止高さと2回目以降のパラボリックフライト停止高さが異なる高さであってもよい。
【0063】
また、本実施形態では、パラボリックフライト開始高さT1、パラボリックフライト停止高さT2がそれぞれ所定の高さであることとしたため、1回目から8回目のパラボリックフライトの維持時間は一定であることになるが、これに限定されるものではなく、例えば1回目のパラボリックフライトの維持時間を15秒とし、2回目以降のパラボリックフライトの維持時間は20秒としてもよい。また、パラボリックフライトの維持時間は、例えば10秒とする等15秒以下であってもよく、特に限定されるものではない。
【0064】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
本実施形態は、例えばマウス等の実験動物または被験者を被検査対象として、上記第1の実施形態の重力変動ストレス負荷を行った後、薬物を投与してその薬効を測定する薬効測定方法である。
投与する薬物としては、例えばうつ病、パニック障害や不安障害等、その他神経系の疾病に作用して効果を発揮する可能性が発見された創薬対象分子を含む薬物であることとするが、これに限定されるものではない。
【0065】
測定対象としては、例えば薬物投与後の創薬対象分子の血中濃度を経時的に測定することとするが、これに限定されるものではなく、血液、細胞、染色体DNA、タンパク質等の上記被検査対象から採取可能な検体または測定可能なパラメータであればよい。
薬効を測定する方法としては、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)、液体クロマトグラフ(HPLC)、フローサイトメータ等の測定装置を用いることとするが、これに限定されるものではなく、あらゆる公知の測定装置を組み合わせて用いてもよい。また、置換基の少なくとも1つが125I、3H、14C等の放射性標識で標識されている創薬対象分子を用いて薬効測定を行い、放射活性を測定してもよい。
【0066】
本実施形態によれば、第1の実施形態の重力変動ストレス負荷方法を用いて新たなストレス応答を実験動物や被験者に発生させた後に創薬対象分子を含む薬物を投与して、その創薬対象分子が神経系にどのように作用するかを観察・測定することができる。
【0067】
これにより、創薬対象分子を含む薬物の有効性を研究・開発することができるため、パニック障害や不安障害等、神経系の疾病に有効な創薬対象分子を探索・提起するための新たなツールとして活用することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0068】
S1 第一のストレス負荷ステップ
S2 第二のストレス負荷ステップ
T1 パラボリックフライト開始高さ
T2 パラボリックフライト停止高さ
【技術分野】
【0001】
本発明は、重力変動ストレスの負荷方法、航空機、航空機の運転方法、セロトニン合成系遺伝子発現促進方法、セロトニン合成方法、中枢神経系刺激方法、および薬効測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のストレス負荷方法として、高架式十字迷路や高架式プラットホームを用いて高所恐怖を与えることにより、実験動物に急性ストレスを負荷する方法が知られている(例えば、非特許文献1および非特許文献2参照。)。
上記高架式十字迷路により実験動物が引き起こす生体反応は、不快や恐怖などのストレスが引き起こす情動による反応であることが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
上記高架式プラットホーム試験法は、抗不安薬のスクリーニング法としても知られている。また、上記高架式プラットホーム試験法を用いて、ストレス抵抗性と糖尿病等疾病の関係についても研究が行われている(例えば、非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】山口拓、外3名、「高架式十字迷路試験を用いた不安水準の評価とその応用」日本薬理学雑誌、2005年、126(2)p.99−105
【非特許文献2】宮田茂雄、外2名、「高架式プラットホーム試験法:ストレス抵抗性の評価に適した簡便な行動解析法」日本薬理学雑誌、2008年、132(4)p.213−216
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の高架式十字迷路を用いたストレス負荷方法では、セロトニン以外に、ドーパミン、GABA(Gamma-Amino Butyric Acid)等の複数のアミノ酸が脳内で遊離することを促進しているため、セロトニンを選択的に分泌させること、つまりセロトニン合成系遺伝子を特異的に発現させることはできなかった。
また、非特許文献2に記載の高架式プラットホームを用いたストレス負荷方法では、上記急性ストレスを負荷することによる生体反応とセロトニン神経系が何らかの形で関与していることが確認されているものの、そのメカニズムの解明を可能とするような具体的な手段は開発されていない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、被検者または実験動物に新たな急性ストレス反応を生じさせることを可能とする重力変動ストレスの負荷方法、航空機、航空機の運転方法、セロトニン合成系遺伝子発現促進方法、セロトニン合成方法、中枢神経系刺激方法、および薬効測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の重力変動ストレスの負荷方法、航空機、航空機の運転方法、セロトニン合成系遺伝子発現促進方法、セロトニン合成方法、中枢神経系刺激方法、および薬効測定方法は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明は、微小重力により被検者または実験動物にストレスを負荷する第一のストレス負荷ステップを少なくとも1回含む重力変動ストレスの負荷方法を提供する。
【0007】
本発明の重力変動ストレスの負荷方法によれば、地上では得られない微小重力(μG)による物理的刺激を被検者または実験動物に与えることができる。なお、微小重力とは、約1G未満の重力であって、例えば航空機によるパラボリックフライトでは約10−2G程度の重力となる。好ましくは、上記微小重力が約3×10−2G以下に保たれることとする。
発明者らは、上記微小重力によるストレス負荷方法が、従来のストレス負荷方法では生じさせることができなかった新たなストレス応答を生じさせることを発見した。上記新たなストレス応答とは、中枢神経系が特異的経路により刺激されること、つまりセロトニン特異的に刺激されることによる急性ストレス応答である。
また、発明者らは、本発明の重力変動ストレスの負荷方法が、神経伝達物質であるセロトニンを合成・保持するように働く遺伝子系を選択的に発現させることを発見した。
【0008】
また、本発明の重力変動ストレスの負荷方法によれば、上記新たなストレス応答を生じさせたストレス応答発生モデルを作成することができる。このストレス応答発生モデルを用いて、セロトニンが関与する中枢神経系に作用させるための新たな創薬対象分子を探索することができる。
また、本発明の重力変動ストレスの負荷方法によれば、セロトニンが関与するとされる中枢神経系の疾病であるパニック障害や不安障害が発生するメカニズムを解明するツールとして、上記ストレス応答発生モデルを用いることができる。
【0009】
上記、本発明の重力変動ストレスの負荷方法においては、過重力により前記被検者または前記実験動物にストレスを負荷する第二のストレス負荷ステップを少なくとも1回さらに含むこととしてもよい。
このようにすることで、地上では得られない微小重力と過重力の重力変動による物理的刺激を被検者または実験動物に与えることができる。なお、過重力とは、例えば1Gから2.5Gといった1Gより大きな重力であって、通常重力よりも過大な重力の状態をいう。好ましくは、上記過重力が約1.4G以下に保たれることとする。
【0010】
上記本発明の重力変動ストレスの負荷方法においては、前記第一のストレス負荷ステップと前記第二のストレス負荷ステップとを交互に繰り返すこととしてもよい。
このようにすることで、地上では得られない微小重力と過重力の重力変動による交互の物理的刺激を被検者または実験動物に与えることができる。
【0011】
上記本発明の重力変動ストレスの負荷方法においては、前記第一のストレス負荷ステップを1時間に20回以下の回数で行うこととしてもよい。好ましくは、前記第一のストレス負荷ステップを少なくとも8回以上行うこととする。
このようにすることで、1回の第一のストレス負荷ステップにおいて、微小重力によるストレス負荷時間を少なくとも約15秒から20秒間確保することができるため、微小重力環境でのストレス負荷を十分に行うことができる。
【0012】
また、本発明の重力変動ストレスの負荷方法が航空機等により行われる場合には、航空機等の機体姿勢回復時に過重力が生じることとなる。この場合、通常約2.0Gから2.5Gの過重力が生じるところ、約1.3Gから約2.0Gの過重力に抑えつつ、機体の姿勢を回復させるための時間を十分に確保することができる。
これにより、第二のストレス負荷ステップにおいて、必要以上の過重力の発生により過大な負荷を被検者または実験動物に与えることなく、第一のストレス負荷ステップと第二のストレス負荷ステップを交互に繰り返し行うことができる。
【0013】
また、本発明は、パラボリックフライトを行うことにより機内に微小重力環境を作り出して被検者または実験動物に微小重力ストレスを負荷する第一のストレス負荷ステップを少なくとも1回含む重力変動ストレスの負荷方法を行う航空機を提供する。
上記本発明の航空機によれば、パラボリックフライトにより航空機内に微小重力環境を作り出して、地上では得られない微小重力による物理的刺激を与えることができるため、上記新たなストレス応答を被検者または実験動物に生じさせることができる。なお、パラボリックフライトは放物線飛行とも呼ばれ、放物線運動を行うように航空機等を速度調整しながら操縦し、機内に無重力状態を作り出す飛行方法をいう。
なお実験動物とは、一般の動物実験等の利用に供する哺乳類に属する動物をいう。また被験者とは、実験内容についてのインフォームドコンセントを得た上で、無重力フライトのための健康診断条件を満たした健常人をいう。
【0014】
また、本発明は、パラボリックフライトを行うことにより航空機内に微小重力環境を作り出して被検者または実験動物に微小重力ストレスを負荷する第一のストレス負荷ステップを少なくとも1回含む航空機の運転方法を提供する。
上記本発明の航空機の運転方法によれば、パラボリックフライトにより航空機内に微小重力環境を作り出して、地上では得られない微小重力による物理的刺激を与える航空機の運転を行うことができるため、上記新たなストレス応答を被検者または実験動物に生じさせることができる。
【0015】
また、本発明は、前記重力変動ストレスの負荷方法を用いたセロトニン合成系遺伝子発現促進方法であって、前記第一のストレス負荷ステップを行うことによりストレス応答を前記被検者または前記実験動物に発生させるストレス応答発生ステップと、前記被検者または前記実験動物の細胞においてセロトニン合成系遺伝子を選択的に発現させる遺伝子発現ステップとを含むセロトニン合成系遺伝子発現促進方法を提供する。
上記本発明のセロトニン合成系遺伝子発現促進方法によれば、微小重力による物理的刺激で生じさせる上記新たなストレス応答が染色体DNAのセロトニン合成系遺伝子に特異的に作用して、セロトニン合成系遺伝子を選択的に発現させることができるため、セロトニン合成系遺伝子を用いた様々な実験系に用いることができる。
【0016】
また、本発明は、前記セロトニン合成系遺伝子発現促進方法を用いたセロトニン合成方法であって、前記遺伝子発現ステップを行うことにより、前記細胞でセロトニンを合成させる合成ステップを含むセロトニン合成方法を提供する。
上記本発明のセロトニン合成方法によれば、セロトニン合成系遺伝子を選択的に発現させることにより、中枢神経系に作用するセロトニンを選択的に合成させることができるため、まだ解明されていない部分が多いセロトニンの神経系への作用についてin vivoで分析する等、そのメカニズムを解明する手段として用いることができる。
【0017】
また、本発明は、前記セロトニン合成方法を用いた中枢神経系刺激方法であって、前記合成ステップを行うことにより、合成された前記セロトニンを用いて前記被検者または前記実験動物の中枢神経系を刺激する神経刺激ステップを含む中枢神経系刺激方法を提供する。
上記本発明の中枢神経系刺激方法によれば、選択的に合成されたセロトニンを用いて、セロトニン特異的刺激により中枢神経系を刺激することができる。
また、上記本発明の中枢神経系刺激方法によれば、上記セロトニン特異的刺激により中枢神経系を刺激した実験動物等の検体をセロトニンが関与するとされる中枢神経系の疾病であるパニック障害や不安障害が発生するメカニズムを解明するための検体として用いることができる。
また、前記被検者または前記実験動物から採取した検体および測定値をツールとして神経系に作用させるための創薬対象分子の探索および新薬の開発を行うことができる。特に、セロトニンが関与する中枢神経系の疾患に有用な薬物のスクリーニングに用いることもできる。
【0018】
また、本発明は、上記重力変動ストレスの負荷方法を用いた薬効測定方法であって、前記第一のストレス負荷ステップを行うことによりストレス応答を前記被検者または前記実験動物に発生させるストレス応答発生ステップと、前記被検者または前記実験動物に薬物を投与する薬物投与ステップと、前記薬物の薬効を測定する測定ステップとを含む薬効測定方法を提供する。
【0019】
上記本発明の薬効測定方法によれば、神経系に作用して効果を発揮する可能性がある創薬対象分子を発見または開発した場合に、上記新たなストレス応答を発生させた被検査対象である被検者または実験動物に創薬対象分子を含む薬物を投与して、当該創薬対象分子の神経系への作用や効力を観察・測定することができる。
これにより、創薬対象分子の神経系への有効性を確認することができるため、パニック障害や不安障害等、神経系の疾病に有効な創薬対象分子を探索・提起するための新たなツールとして活用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、被検者または実験動物に新たな急性ストレス反応を生じさせることができるという効果を奏する。また、上記新たな急性ストレス反応により、神経伝達物質であるセロトニンを合成・保持するように働く遺伝子系を、選択的に発現させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るパラボリックフライトを説明する図である。
【図2】図1のパラボリックフライトにおける環境加速度データを示す図である。
【図3】高所恐怖によるストレス負荷方法を説明する図である。
【図4】本発明の重力変動ストレスの負荷方法による血中の血清コルチコステロンの変化を示すグラフである。
【図5】ストレス負荷による遺伝子発現の解析結果を示す図表である。
【図6】本発明の重力変動ストレスの負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図7】本発明の重力変動ストレスの負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図8】本発明の重力変動ストレスの負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図9】本発明の重力変動ストレスの負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図10】本発明の重力変動ストレスの負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図11】高所恐怖ストレスのストレス負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図12】高所恐怖ストレスのストレス負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図13】高所恐怖ストレスのストレス負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図14】高所恐怖ストレスのストレス負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図15】高所恐怖ストレスのストレス負荷方法による遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【図16】セロトニン合成系について説明する図である。
【図17】セロトニン代謝系について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
次に、本発明の第1の実施形態について説明する。
本実施形態は、航空機を用いたパラボリックフライトによる重力変動により、物理的刺激を実験動物等に与える重力変動ストレスの負荷方法である。
以下、本実施形態について、図1および図2を用いて説明する。
【0023】
図1は航空機を用いたパラボリックフライトによる重力変動ストレス負荷方法を説明する図である。
本実施形態では、実験動物としてマウスを用いた。このマウスを乗せた航空機は離陸し、所定の高さ(パラボリックフライト開始高さT1)まで上昇して高度を保つ。検査対象となるマウスはボックスに入れられている。このボックスは航空機の座席等、安全が確保される所定の位置にベルト等を用いて固定されている。
【0024】
所定の高度に達して機体が安定した後、パラボリックフライト開始高さT1からパラボリックフライトを開始する。所定の高度に下がるまで、パラボリックフライトによる高度の低下を継続させる(第一のストレス負荷ステップS1)。1回のパラボリックフライトの継続時間は約15秒であり、微小重力環境を十分維持している。この微小重力環境における微小重力は約10−2Gである。
【0025】
所定の高さまで高度を下げた後、パラボリックフライトを停止し(パラボリックフライト停止高さT2)、地上方向を向いている航空機の頭部が上空方向に向くように機体姿勢を回復させながら、パラボリックフライト開始高さT1の高度に再び達するまで徐々に機体を上昇させる(第二のストレス負荷ステップS2)。航空機が上昇している間機内は過重力環境を形成している。この過重力環境における過重力は約1.4Gである。
【0026】
図1に示されるように、離陸した航空機はパラボリックフライト開始高さT1まで上昇した後に2回目の第一のストレス負荷ステップS1を開始する。このように、第一のストレス負荷ステップS1と第二のストレス負荷ステップS2をそれぞれ8回繰り返した後、パラボリックフライト開始高さT1から徐々に高度を下げて着陸する。このように、第一のストレス負荷ステップS1と第二のストレス負荷ステップS2をそれぞれ8回繰り返したときの所要時間は約1時間である。
【0027】
図2は、図1に示される方法で第一のストレス負荷ステップS1と第二のストレス負荷ステップS2をそれぞれ8回繰り返したときの環境加速度を示す図である。縦軸は航空機の加速度を示しており、横軸は時間を示している。横軸の1目盛りは6分である。
また、加速度Gxは航空機の進行方向に対して前後方向、加速度Gyは進行方向に対して横方向、加速度Gzは進行方向に対して上下方向の加速度をそれぞれ示している。
【0028】
図2に示されるように、加速度Gyで示される横方向の加速度は航空機の離陸時から着陸時まで略ゼロとなっており、航空機が進行方向に対して左右方向にブレることなくまっすぐに飛行していることが分かる。
【0029】
加速度Gzで示される上下方向の加速度は、パラボリックフライト開始直前に一旦加速度が少し低下し、第一のストレス負荷ステップS1でパラボリックフライトを行っている間は、下方向の加速度が増してグラフが上方向に大きく変動する。そして、パラボリックフライト停止高さT2に達すると一旦加速度が略ゼロとなる。その後、第二のストレス負荷ステップS2で機体姿勢を回復させながら高度がパラボリックフライト開始高さT1となるまで上昇している間は、上方向の加速度が増してグラフが上方向に変動している。航空機の上昇に伴い徐々に上方向の加速度が低下し、航空機がパラボリックフライト開始高さT1の高度に達すると、パラボリックフライト開始前の加速度と略同じになる。
【0030】
加速度Gxで示される前後方向の加速度は、第一のストレス負荷ステップS1でパラボリックフライトを行っている間および第二のストレス負荷ステップS2で機体姿勢を回復させて上昇している間は主に進行方向に対して上下方向に飛行することとなるため、前後方向の加速度が略ゼロとなっている。
【0031】
図3は、比較対照実験として用いる高所恐怖ストレス(EPS:Elevated-platform stress)によるストレス負荷方法を説明する図である。
高さ約140センチの足つき棒状部材に透明な円筒状の部材を乗せて円形の足場を作成し、この円形足場にケージから出したマウスを乗せて10分間高所恐怖ストレスをマウスに与えた。
【0032】
上記方法により10分間高所恐怖ストレスを与えた後マウスをケージに戻し、マウスをケージに戻してから30分経過後に採血してコルチコステロンの血中濃度を測定した。コルチコステロンはストレスを感じたときに副腎皮質で産生が促進されるホルモンとして知られる。
図3に示されるように、10分間高所恐怖ストレスを負荷したマウスのコルチコステロンの血中濃度は、高所恐怖ストレスを負荷していないコントロール群のマウスのコルチコステロンの血中濃度と比較して有意に上昇した。これにより、マウスに対して高所恐怖によるストレスが負荷されていることが分かる。
【0033】
図4は、図1に示されるパラボリックフライトによる重力変動ストレス負荷方法によりストレス負荷を行った後のマウス(C57BLK/6J,雄,8週齢)のコルチコステロンの血中濃度を示すグラフである。
具体的には、図1に示されるパラボリックフライトによる重力変動ストレス負荷方法を1回行った後(Parab flight 1)、8回行った後(Parab flight 8)、パラボリックフライト終了から3時間後(post 3hr)、6時間後(post 6hr)、24時間後(post 24hr)のマウスについてコルチコステロンの血中濃度を測定した結果である。コントロールとして、地上にいるマウスについてのコルチコステロン血中濃度(Grd Cont)、およびパラボリックフライトを行う前に航空機内で測定したマウスのコルチコステロン血中濃度(Flight Cont)を測定した。グラフの括弧内の数字は測定した個体数を示している。
図4によれば、パラボリックフライトを行う前に航空機内で測定したマウスのコルチコステロン血中濃度であるFlight Cont 2と比較して、パラボリックフライトを8回行った場合に有意にコルチコステロンの血中濃度が上昇していることがわかる。これにより、マウスに対してパラボリックフライトによるストレスが負荷されていることが分かる。
また、パラボリックフライト終了から3時間経過以降は、有意にコルチコステロンの血中濃度が低下していることから、パラボリックフライトによるストレスから開放されていることがわかる。
【0034】
ストレス負荷による遺伝子発現の変化について図5から図17を用いて説明する。
図5は、図1に示される重力変動ストレス、図3に示される高所恐怖負荷ストレス、および社会的ストレス(図示せず)を負荷することによる細胞中の遺伝子発現を比較する表である。
【0035】
図5中の紙面に対して上方向の黒い矢印は、ストレス負荷後の遺伝子発現がストレス負荷前と比較して高まる方向に有意差があったことを示している。
紙面に対して上方向の白の矢印は、ストレス負荷後の遺伝子発現がストレス負荷前と比較して有意差はなかったものの、遺伝子発現が高まる傾向にあったことを示している。
紙面に対して下方向の矢印は、ストレス負荷後の遺伝子発現がストレス負荷前と比較して低下する方向に有意差があったことを示している。
マイナス(−)の表示は、遺伝子発現が検出限界以下または有意差がなかったことを示している。なお、NDの表示は、対象遺伝子について解析がされていないことを示している。
【0036】
図6から図10は、図1に示される重力変動ストレス負荷前と負荷後の中枢神経系を代表する中脳(mid brain)および抹消神経系を代表する小腸(small intestine)における遺伝子発現の変化を示すグラフである。
図11から図15は、図3に示される高所恐怖負荷ストレス負荷前と負荷後の中脳および小腸における遺伝子発現の変化を示すグラフである。
【0037】
図1に示される重力変動ストレス負荷前後および図3に示される高所恐怖負荷ストレス負荷前後の遺伝子発現の解析は、目的遺伝子および標準遺伝子に対して合成したcDNAを鋳型としてSYBR Premix Ex Taq II(タカラバイオ株式会社製)を用いてインターカーレータ法により、リアルタイムPCR反応から定量的にRNAの発現量を算出して行った。
【0038】
図5の社会的と記載された欄の遺伝子発現の結果は、5週間毎日にわたって実験用ラット対し、大きく獰猛などぶネズミへの接触ストレスを負荷することによる慢性的社会ストレスを負荷した後、サブトラクティブハイブリダイゼーション法を用いて目的遺伝子のセロトニン神経核(DRN:背側縫線核)における遺伝子発現が解析されたものである(Abumaria,et al. 「Identification of Genes Regulated by Chronic Social Stress in the Rat Dorsal Raphe Nucleus」 Cellular and Molecular Neurobiology、2006年3月、26(2)p.145−162より引用。)。
【0039】
図5に示されている重力変動と記載された欄の遺伝子発現解析結果は、図1に示されるパラボリックフライトによる重力変動ストレス負荷方法によりストレス負荷を行った後のマウスの遺伝子解析結果である。
具体的には、図1に示されるパラボリックフライトによる重力変動ストレス負荷方法を行って航空機が着陸した後、8回のパラボリックフライトのうち1回目のパラボリックフライトを行ってから6時間経過後にマウスの中脳の細胞および小腸の細胞の遺伝子発現を測定した解析結果である(図6から図10のpost PF)。パラボリックフライトの維持時間は、1回につき約15秒間である。6時間経過後に測定したのは遺伝子発現のための時間を十分に確保するためである。
また、航空機が離陸した後最初にパラボリックフライト開始高さT1に達して高度が安定した時にマウス(C57BLK/6J,雄,8週齢)の細胞の遺伝子発現を解析し、その結果をパラボリックフライト前の解析結果(図6から図10のbefore PF)として用いた。
【0040】
図5に示されている高所恐怖と記載された欄の遺伝子発現解析結果は、図3に示される高所恐怖ストレス負荷方法によりストレス負荷を行った後のマウスの遺伝子解析結果である。
具体的には、図3に示される方法で10分間高所恐怖ストレスをマウスに与えた後マウスをケージに戻し、マウスをケージに戻してから6時間経過後にマウスの縫線核を含む中脳の細胞およびクロム親和性細胞を含む小腸の細胞の遺伝子発現を解析した(図11から図15のEPS)。
また、ケージに入ったままのマウスについて遺伝子発現を解析し、その結果を高所恐怖ストレス負荷前の解析結果(図11から図15のHomecage)として用いた。
【0041】
Tph1(tryptophan hydroxylase 1)は小腸等の抹消神経系に作用するトリプトファン水酸化酵素に関する遺伝子として知られている。Tph2(tryptophan hydroxylase 2)は脳等の中枢神経系に作用するトリプトファン水酸化酵素に関する遺伝子として知られている。Tph1とTph2はいずれもセロトニン合成系遺伝子として知られている。
【0042】
図16は、セロトニン合成系について説明する図である。図16に示されるように、トリプトファン水酸化酵素の作用によりセロトニンが合成されることから、Tph1の発現が高まることにより、小腸等の抹消神経系でセロトニン合成が促進されるといえる。
また、Tph2の発現が高まることにより、脳等の中枢神経系でセロトニン合成が促進されるといえる。
【0043】
図5、図6(a)、および図11(a)に示されるように、中脳および小腸におけるTph1の遺伝子発現は、重力変動ストレス負荷と高所恐怖ストレス負荷のいずれによっても発現量に大きな変化がないことが分かる。
これに対し、図5、図6(b)、および図11(b)に示されるように、中脳および小腸におけるTph2の遺伝子発現は、高所恐怖ストレス負荷では遺伝子発現量に変化がなく、重力変動ストレス負荷では中脳においてのみ有意に遺伝子発現が亢進されていることが分かる。また、社会的ストレス負荷によってもTph2の遺伝子発現に変化は生じていない。
【0044】
上記の結果から、重力変動ストレス負荷により、中脳で中枢神経系に作用するTph2発現が特異的に亢進されていることが分かる。
よって、本実施形態によれば、航空機を用いた重力変動ストレス負荷により新たなストレス応答を生じさせて、脳内でのセロトニンの合成を選択的に促進させることができる。
【0045】
Maoa(Monoamine oxidase A)はセロトニンを基質とするセロトニン分解系酵素に関する遺伝子として知られている。Maob(Monoamine oxidase B)はドーパミンを基質とするドーパミン分解系酵素に関する遺伝子として知られている。
図17は、セロトニン代謝系について説明する図である。図17に示されるように、セロトニンを基質とするセロトニン分解系酵素Maoaの作用によりセロトニンが代謝されることから、Maoaの発現が亢進されことによりセロトニン代謝が促進されるといえる。
また、ドーパミンを基質とするドーパミン分解系酵素Maobの作用によりドーパミンは代謝されるもののセロトニンは代謝されないことから、Maobの発現が亢進されることによりドーパミン代謝のみが促進されるといえる。
【0046】
図5、図7(a)、および図12(a)に示されるように、中脳および小腸におけるMaoaの遺伝子発現は、重力変動ストレス負荷前後および高所恐怖ストレス負荷前後でともに遺伝子発現に変化が生じていないことが分かる。
これに対し、図5、図7(b)、および図12(b)に示されるように、中脳および小腸におけるMaobの遺伝子発現は、高所恐怖ストレス負荷では遺伝子発現量に変化がなく、重力変動ストレス負荷では中脳においてのみ有意に遺伝子発現が亢進されていることが分かる。
【0047】
上記の結果から、重力変動ストレス負荷により、脳内でドーパミン分解系酵素Maobの発現が特異的に高められ、ドーパミンの代謝が選択的に促進されていることが分かる。つまり、セロトニンを代謝せず保持する方向に働くように遺伝子発現が選択的に亢進されているといえる。
よって、本実施形態によれば、航空機を用いた重力変動ストレス負荷により新たなストレス応答を生じさせて、脳内でのセロトニンの保持を選択的に促進させることができる。
【0048】
Sert(セロトニントランスポータ)はセロトニン伝達物質に関し、合成されたセロトニンを有効に使おうとするセロトニンリサイクルに関する遺伝子として知られている。
Slc7a5(Solute Carrier Family 7 Member 5)は大型中性アミノ酸輸送体として知られている。また、トリプトファンはセロトニンの合成材料として知られている。トリプトファンは上記輸送体の働きで細胞内に取り込まれ、そこで酵素反応を受けることによりセロトニンが合成される。
【0049】
図5、図8(a)、および図13(a)に示されるように、中脳におけるSertの遺伝子発現は、高所恐怖ストレス負荷では遺伝子発現量に変化がなく、重力変動ストレス負荷では有意に遺伝子発現が亢進されていることが分かる。
小腸におけるSertの遺伝子発現は、重力変動ストレス負荷では発現量に変化がなく、高所恐怖ストレス負荷では有意に遺伝子発現が低下していることが分かる。
また、社会的ストレス負荷ではSertの遺伝子発現に変化は生じていない。
【0050】
図5、図8(b)、および図13(b)に示されるように、中脳におけるSlc7a5の遺伝子発現は、高所恐怖ストレス負荷では遺伝子発現量に変化がなく、重力変動ストレス負荷では有意に遺伝子発現が亢進されていることが分かる。
小腸におけるSlc7a5の遺伝子発現は、重力変動ストレス負荷前後および高所恐怖ストレス負荷前後でともに遺伝子発現量に変化が生じていないことが分かる。
【0051】
上記の結果から、重力変動ストレス負荷により、脳内でSertの遺伝子発現量が特異的に増加し、セロトニンの再利用が選択的に促進されていることが分かる。また、小腸ではSertの遺伝子発現が低下していることから、脳内でのセロトニンの再利用率を高めて中枢神経を特異的に刺激するように遺伝子発現が亢進されていることがわかる。
よって、本実施形態によれば、航空機を用いた重力変動ストレス負荷により実験動物であるマウスに新たなストレス応答を生じさせて、脳内でのセロトニンの再利用率を選択的に促進させることができる。
【0052】
また、上記の結果から、脳内でSlc7a5の遺伝子発現が特異的に高められ、これにより細胞外のトリプトファンが細胞内に取り込まれ、セロトニンの生成が選択的に促進されていることが分かる。また、小腸にてはSlc7a5の遺伝子発現が変化していないことから、脳内でセロトニンを産生して中枢神経系を特異的に刺激するように遺伝子発現が亢進されていることがわかる。
【0053】
よって、本実施形態によれば、航空機を用いた重力変動ストレス負荷により新たなストレス応答を生じさせて脳内でのセロトニンの産生・保持・再利用率を選択的に促進させることにより中枢神経を特異的な経路、つまりセロトニン選択的な経路で刺激することができる。
これにより、セロトニンが関与するとされる中枢神経系の疾病であるパニック障害や不安障害が発生するメカニズムを解明するツールとして活用することができる。特に、セロトニンが関与する中枢神経系の疾患に有用な薬物のスクリーニングに用いることもできる。
【0054】
Htr1a(セロトニン1A受容体)は合成されたセロトニンを受け取るセロトニン受容体に関する遺伝子として知られている。
Th(チロシンヒドロキシラーゼ)はアドレナリン、ノルアドレナリンやドーパミンの材料であるチロシンの第一段階の合成酵素に関する遺伝子として知られている。
【0055】
Gad1(グルタミン酸脱炭酸酵素1)は分子量67kDaのグルタミン酸脱炭酸酵素であり、脳の活性化を抑制する方向に働く神経伝達物質であるGAVAに関する遺伝子として知られている。
Gad2(グルタミン酸脱炭酸酵素2)は分子量65kDaのグルタミン酸脱炭酸酵素であり、Gad1と同様GAVAに関する遺伝子として知られている。
【0056】
図5、図9、および図14に示されるように、中脳におけるHtr1aの遺伝子発現は、重力変動ストレス負荷では遺伝子発現量に変化がなく、高所恐怖ストレス負荷では有意に遺伝子発現が亢進されていることが分かる。また、社会的ストレス負荷によってはHtr1aの遺伝子発現に変化は生じていない。
中脳におけるThの遺伝子発現は、高所恐怖ストレス負荷では発現量に変化がなく、重力変動ストレス負荷では有意差まではないものの、遺伝子発現が高まる傾向にあることが分かる。
また、図10および図15に示されるように、中脳および小腸におけるGad1およびGad2の遺伝子発現は、重力変動ストレス負荷前後および高所恐怖ストレス負荷前後でともに遺伝子発現量に変化がないことが分かる。
【0057】
上記の結果から、重力変動ストレス負荷により、脳内でThの遺伝子発現が高められる傾向にあるといえるため、アドレナリン神経系、ノルアドレナリン神経系やドーパミン神経系等の活性化を促して神経系全体を活性化しようとする傾向があるといえる。しかし、Thの遺伝子発現の程度は有意差があるとまではいえないため、遺伝子発現亢進傾向にあるものの、その影響は少ないものであると考えられる。
【0058】
以上の結果から、本実施形態によれば、航空機を用いた重力変動ストレス負荷により従来のストレス負荷方法では生じさせることができなかった新たなストレス応答を生じさせることができるといえる。
【0059】
なお、本実施形態では、第一のストレス負荷ステップS1と第二のストレス負荷ステップS2をそれぞれ8回繰り返すこととしたが、これに限定されるものではなく、例えば第一のストレス負荷ステップS1を1回のみ行うこととしてもよい。1度だけでも微小重力環境を形成すれば、本願発明の効果を奏することができるからである。また、第一のストレス負荷ステップS1と第二のストレス負荷ステップS2をそれぞれ8回以上行うこととしてもよい。
【0060】
また、本実施形態では、第一のストレス負荷ステップS1と第二のストレス負荷ステップS2を含む重力変動ストレス負荷時間を約1時間であることとしたが、これに限定されるものではなく、第一のストレス負荷ステップS1と第二のストレス負荷ステップS2を行う回数に応じて1時間以上であってもよく、また1時間以下であってもよい。
【0061】
本実施形態では、第一のストレス負荷ステップS1の微小重力が約10−2Gであることとしたが、これに限定されるものではなく、1G以下の10−6Gから10−2Gといった範囲であることとしてもよい。
また、本実施形態では第二のストレス負荷ステップS2の過重力が約1.4Gであることとしたが、これに限定されるものではなく、1Gから2.5Gといった範囲であることとしてもよい。
【0062】
また、本実施形態では、パラボリックフライト開始高さT1、パラボリックフライト停止高さT2はそれぞれ所定の高さであることとしたが、これに限定されるものではなく、航空機内に所定の間微小重力環境を維持することができれば、例えば1回目のパラボリックフライトと2回目以降のパラボリックフライトの開始高さは異なる高さであってもよく、1回目のパラボリックフライト停止高さと2回目以降のパラボリックフライト停止高さが異なる高さであってもよい。
【0063】
また、本実施形態では、パラボリックフライト開始高さT1、パラボリックフライト停止高さT2がそれぞれ所定の高さであることとしたため、1回目から8回目のパラボリックフライトの維持時間は一定であることになるが、これに限定されるものではなく、例えば1回目のパラボリックフライトの維持時間を15秒とし、2回目以降のパラボリックフライトの維持時間は20秒としてもよい。また、パラボリックフライトの維持時間は、例えば10秒とする等15秒以下であってもよく、特に限定されるものではない。
【0064】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
本実施形態は、例えばマウス等の実験動物または被験者を被検査対象として、上記第1の実施形態の重力変動ストレス負荷を行った後、薬物を投与してその薬効を測定する薬効測定方法である。
投与する薬物としては、例えばうつ病、パニック障害や不安障害等、その他神経系の疾病に作用して効果を発揮する可能性が発見された創薬対象分子を含む薬物であることとするが、これに限定されるものではない。
【0065】
測定対象としては、例えば薬物投与後の創薬対象分子の血中濃度を経時的に測定することとするが、これに限定されるものではなく、血液、細胞、染色体DNA、タンパク質等の上記被検査対象から採取可能な検体または測定可能なパラメータであればよい。
薬効を測定する方法としては、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)、液体クロマトグラフ(HPLC)、フローサイトメータ等の測定装置を用いることとするが、これに限定されるものではなく、あらゆる公知の測定装置を組み合わせて用いてもよい。また、置換基の少なくとも1つが125I、3H、14C等の放射性標識で標識されている創薬対象分子を用いて薬効測定を行い、放射活性を測定してもよい。
【0066】
本実施形態によれば、第1の実施形態の重力変動ストレス負荷方法を用いて新たなストレス応答を実験動物や被験者に発生させた後に創薬対象分子を含む薬物を投与して、その創薬対象分子が神経系にどのように作用するかを観察・測定することができる。
【0067】
これにより、創薬対象分子を含む薬物の有効性を研究・開発することができるため、パニック障害や不安障害等、神経系の疾病に有効な創薬対象分子を探索・提起するための新たなツールとして活用することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0068】
S1 第一のストレス負荷ステップ
S2 第二のストレス負荷ステップ
T1 パラボリックフライト開始高さ
T2 パラボリックフライト停止高さ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小重力により被検者または実験動物にストレスを負荷する第一のストレス負荷ステップを少なくとも1回含む重力変動ストレスの負荷方法。
【請求項2】
過重力により前記被検者または前記実験動物にストレスを負荷する第二のストレス負荷ステップを少なくとも1回さらに含む請求項1に記載の重力変動ストレスの負荷方法。
【請求項3】
前記第一のストレス負荷ステップと前記第二のストレス負荷ステップとを交互に繰り返す請求項2に記載の重力変動ストレスの負荷方法。
【請求項4】
前記第一のストレス負荷ステップを1時間に20回以下の回数で行う請求項1〜3のいずれかに記載の重力変動ストレスの負荷方法。
【請求項5】
パラボリックフライトを行うことにより機内に微小重力環境を作り出して被検者または実験動物に微小重力ストレスを負荷する第一のストレス負荷ステップを少なくとも1回含む重力変動ストレスの負荷方法を行う航空機。
【請求項6】
パラボリックフライトを行うことにより航空機内に微小重力環境を作り出して被検者または実験動物に微小重力ストレスを負荷する第一のストレス負荷ステップを少なくとも1回含む航空機の運転方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の重力変動ストレスの負荷方法を用いたセロトニン合成系遺伝子発現促進方法であって、
前記第一のストレス負荷ステップを行うことによりストレス応答を前記被検者または前記実験動物に発生させるストレス応答発生ステップと、
前記被検者または前記実験動物の細胞においてセロトニン合成系遺伝子を選択的に発現させる遺伝子発現ステップとを含むセロトニン合成系遺伝子発現促進方法。
【請求項8】
請求項7に記載のセロトニン合成系遺伝子発現促進方法を用いたセロトニン合成方法であって、
前記遺伝子発現ステップを行うことにより、前記細胞でセロトニンを合成させる合成ステップを含むセロトニン合成方法。
【請求項9】
請求項8に記載のセロトニン合成方法を用いた中枢神経系刺激方法であって、
前記合成ステップを行うことにより、合成された前記セロトニンを用いて前記被検者または前記実験動物の中枢神経系を刺激する神経刺激ステップを含む中枢神経系刺激方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の重力変動ストレスの負荷方法を用いた薬効測定方法であって、
前記第一のストレス負荷ステップを行うことによりストレス応答を前記被検者または前記実験動物に発生させるストレス応答発生ステップと、
前記被検者または前記実験動物に薬物を投与する薬物投与ステップと、
前記薬物の薬効を測定する測定ステップとを含む薬効測定方法。
【請求項1】
微小重力により被検者または実験動物にストレスを負荷する第一のストレス負荷ステップを少なくとも1回含む重力変動ストレスの負荷方法。
【請求項2】
過重力により前記被検者または前記実験動物にストレスを負荷する第二のストレス負荷ステップを少なくとも1回さらに含む請求項1に記載の重力変動ストレスの負荷方法。
【請求項3】
前記第一のストレス負荷ステップと前記第二のストレス負荷ステップとを交互に繰り返す請求項2に記載の重力変動ストレスの負荷方法。
【請求項4】
前記第一のストレス負荷ステップを1時間に20回以下の回数で行う請求項1〜3のいずれかに記載の重力変動ストレスの負荷方法。
【請求項5】
パラボリックフライトを行うことにより機内に微小重力環境を作り出して被検者または実験動物に微小重力ストレスを負荷する第一のストレス負荷ステップを少なくとも1回含む重力変動ストレスの負荷方法を行う航空機。
【請求項6】
パラボリックフライトを行うことにより航空機内に微小重力環境を作り出して被検者または実験動物に微小重力ストレスを負荷する第一のストレス負荷ステップを少なくとも1回含む航空機の運転方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の重力変動ストレスの負荷方法を用いたセロトニン合成系遺伝子発現促進方法であって、
前記第一のストレス負荷ステップを行うことによりストレス応答を前記被検者または前記実験動物に発生させるストレス応答発生ステップと、
前記被検者または前記実験動物の細胞においてセロトニン合成系遺伝子を選択的に発現させる遺伝子発現ステップとを含むセロトニン合成系遺伝子発現促進方法。
【請求項8】
請求項7に記載のセロトニン合成系遺伝子発現促進方法を用いたセロトニン合成方法であって、
前記遺伝子発現ステップを行うことにより、前記細胞でセロトニンを合成させる合成ステップを含むセロトニン合成方法。
【請求項9】
請求項8に記載のセロトニン合成方法を用いた中枢神経系刺激方法であって、
前記合成ステップを行うことにより、合成された前記セロトニンを用いて前記被検者または前記実験動物の中枢神経系を刺激する神経刺激ステップを含む中枢神経系刺激方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の重力変動ストレスの負荷方法を用いた薬効測定方法であって、
前記第一のストレス負荷ステップを行うことによりストレス応答を前記被検者または前記実験動物に発生させるストレス応答発生ステップと、
前記被検者または前記実験動物に薬物を投与する薬物投与ステップと、
前記薬物の薬効を測定する測定ステップとを含む薬効測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−97839(P2011−97839A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253133(P2009−253133)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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