説明

重力鋳造用鋳型

【課題】鋳造品の品質を向上させるために、鋳型への溶湯の充填が完了した後直ちに鋳型を反転させることができ、かつ、溶湯が鋳型から流出することがない重力鋳造用鋳型を提供する。
【解決手段】溶湯11の供給口である湯口2と、該湯口2から供給された溶湯11を成形空間たる製品部5へ案内する湯道3と、該湯道3と製品部5との間に配置される押湯部4と、が形成され、湯道3の途中に該湯道3を閉塞可能な閉塞手段たる閉塞部材8を有し、水平方向に軸支される反転軸10によって支持され、反転軸10回りに上下反転される反転工程を有する重力鋳造方法に用いられる鋳型1であって、閉塞部材8は、鋳型1を構成する素材(例えば、鋳砂)に比して熱伝導率が十分に高い素材(例えば、銅)によって構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造中に鋳型を上下方向に180度反転させる工程を含む重力鋳造方法に用いられる鋳型の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳造工程の途中で鋳型を上下方向に180度反転させる工程を含む重力鋳造方法が知られている。一般的な反転工程を含む重力鋳造方法では、鋳型の中に溶湯が注入されると同時に溶湯の凝固が始まるため、溶湯の注入後できるだけ早く鋳型を上下方向に180度反転させることが望ましいとされている。また、重力鋳造において押湯を効果的に効かせるためには、鋳型の反転時に充填された溶湯を流出させないことが望ましいため、従来は湯口に蓋をしたり、また湯口表面の溶湯が凝固するのを待ったりしてから、鋳型を反転させていた。このため、反転工程を実施するタイミングが遅れてしまい、鋳造品の品質に悪影響を及ぼす場合があった。
【0003】
そこで、鋳型から溶湯が流出することを防止する技術として、鋳型を上下方向に180度反転させる前に、溶湯の供給系(即ち、湯口や湯道等)を機械的に閉鎖する技術が知られており、以下に示す特許文献1にその技術が開示され公知となっている。
係る特許文献1に示されている従来技術では、鋳造品の実質的固化(凝固)が起こる前に、閉鎖手段を動かして湯道を遮断してから、鋳型を上下方向に180度反転させて、重力方式で溶湯を凝固させる構成としている。
【0004】
しかしながら、係る特許文献1に示される従来技術では、機械的な閉鎖手段を採用しているため、閉鎖手段たる鋼や鋳鉄製の金属プレートを案内する部位では隙間を確保しなければならず、係る隙間を通じて溶湯が流出する可能性があった。
【特許文献1】特開平11−320071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、係る現状を鑑みてなされたものであり、鋳造品の品質を向上させるために、鋳型への溶湯の充填が完了した後直ちに鋳型を反転させることができ、かつ、溶湯が鋳型から流出することがない重力鋳造用鋳型を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、溶湯の供給口である湯口と、該湯口から供給された溶湯を成形空間へ案内する湯道と、該湯道と成形空間との間に配置される押湯部と、が形成され、前記湯道の途中に該湯道を閉塞可能な閉塞手段を有し、水平方向に軸支される反転軸によって支持され、前記反転軸回りに上下反転される反転工程を有する重力鋳造方法に用いられる鋳型であって、前記閉塞手段は、前記鋳型を構成する素材に比して熱伝導率が十分に高い素材によって構成されるものである。
【0008】
請求項2においては、前記閉塞手段は、前記湯道に配設されるフィルターと置換されて、所定の閉塞位置に配設されるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0010】
請求項1においては、押湯部に貯溜される溶湯が反転工程時にこぼれ出ることを確実に防止できる。
【0011】
請求項2においては、湯道の長さを従来と同等に保持でき、閉塞手段を有する鋳型をコンパクトに構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明の一実施例に係る重力鋳造用鋳型の全体構成について、図1および図2を用いて説明をする。図1は本発明の一実施例に係る鋳型の全体構成を示す模式図、(a)注入工程時の姿勢を示す側面断面模式図、(b)反転工程後の姿勢を示す側面断面模式図、図2は本発明の一実施例に係る鋳型の全体構成(分解した状態)を示す模式図、(a)側面断面模式図、(b)底面模式図である。
【0013】
図1(a)・(b)に示す如く、本発明の一実施例に係る重力鋳造用鋳型である鋳型1は、主に鋳砂を用いて成形されるものであり、湯口2、湯道3、押湯部4、製品部5等が形成されている。また、鋳型1は、反転軸10によって、回転可能に支持されており、反転軸10を軸心として上下方向に180度反転させて、図1(a)に示す状態(注入工程時の姿勢)から図1(b)に示す状態(反転工程後の姿勢)へと姿勢を変更することが可能な構成とされている。
【0014】
湯口2は、鋳型1に対して溶湯を供給するための供給口となる略擂鉢状に形成された部位である。また、湯道3は、湯口2と押湯部4とを連通する部位として形成される流路であり、湯口2から注入された溶湯を流通させて、押湯部4に連設される製品部5へ案内する役割を果たすものである。
【0015】
押湯部4は、図1(a)に示す注入工程時の姿勢において、成形空間となる製品部5の下方にあたる部位に形成される空隙部であり、湯道3と製品部5とを連通する部位として形成されている。そして押湯部4は、図1(b)に示す反転工程後の姿勢においては、製品部5の上方に位置し、押湯部4に充填された溶湯によって製品部5を押湯する役割を果たすものである。
【0016】
湯道3の中途部にはフィルター6が配設されており、湯道3を通って押湯部4に流入する溶湯に抵抗を付与して溶湯の流れを整流するとともに、溶湯に混入した異物等を捕集する役目を果たして、鋳造品の品質確保に寄与している。そして、湯口2から注入された溶湯は、湯道3、フィルター6および押湯部4を介して製品部5に供給される。
【0017】
製品部5は、最終製品である鋳造品の製品形状をなす空隙部であり、製品部5に注入された溶湯を、製品部5内で凝固させることによって、凝固された溶湯を製品形状に形成するための部位である。
【0018】
ここで、フィルター6周辺部の構成について、さらに詳述すると、図2に示す如く、本発明の一実施例に係る鋳型1には、湯道3の中途部に湯道3の口径に比して拡径された内部空間を有する部位であって、鋳型1の外部と連通する部位である収納部9が形成されている。
【0019】
収納部9の平面視(あるいは底面視)における内形形状は、フィルター6の平面視における外形形状と略同一に形成されており、収納部9に対してフィルター6をほぼ隙間無く挿入することができ、かつ、収納部9の内部で、収納部9に沿ってフィルター6を移動することができる構成としている。
【0020】
そして係る収納部9には、フィルター6の他に、さらに弾性部材7、閉塞部材8の各部材が挿入される。これらの各部材6・7・8は、弾性部材7、フィルター6、閉塞部材8の順序で、収納部9に挿入される。
【0021】
弾性部材7は、例えば、金属製のバネ部材が用いられており、各部材6・7・8が収納部9に挿入された状態においては、フィルター6に対して、定常状態に比して短縮させた状態で当接させる構成としている。これにより、フィルター6は、収納部9に挿入された状態においては、弾性部材7によって、該フィルター6が収納部9から排除される方向へ常時付勢される構成としている。
【0022】
また、フィルター6の下方には、閉塞部材8を当接させているため、弾性部材7による付勢力によってフィルター6が鋳型1から脱落してしまうことはない。このように本発明の一実施例に係る鋳型1では、フィルター6に対して、上方からは弾性部材7によって弾性力を付勢し、かつ、下方には閉塞部材8を当接させることによって、フィルター6が収納部9の内部でがたつくことを防止する構成としている。
【0023】
閉塞部材8は、例えば銅等の金属によって形成される板状の部材であり、平面視における形状は、フィルター6の形状と略同一に形成されている。このためフィルター6と同様に、閉塞部材8もまた、収納部9に対してほぼ隙間が無い状態で挿入することができ、かつ、収納部9の内部で収納部9の内部形状に沿って移動することが可能な構成としている。
【0024】
また、本実施例における閉塞部材8は、鋳砂(熱伝導率0.8W/(m・k)程度)に比して十分大きな熱伝導率を有する素材である銅(熱伝導率398W/(m・k)程度)によって構成されている。このため、閉塞部材8に溶湯を接触させることによって、その接触した溶湯を直ちに凝固させることができる。
尚、本実施例では、閉塞部材8を構成する素材として銅を採用した場合を例示しているが、これに限定するものではなく、閉塞部材8を構成する素材には、鋳型1を構成する素材に比して十分に大きい熱伝導率を有する素材を適宜選択して採用することができる。
【0025】
フィルター6および閉塞部材8と、これらが移動する際に案内をする役目を果たす収納部9との間には微小な隙間が存在しているが、係る隙間から流出しようとする溶湯は、確実に閉塞部材8と接触する。閉塞部材8と接触した溶湯は急速に放熱(冷却)され直ちに凝固されるため、隙間から流出することはなく、また、その凝固した溶湯がさらに隙間を封止するため、本発明の一実施例に係る鋳型1では、閉塞部材8と収納部9によって形成される隙間から溶湯が流出することが確実に防止される。
【0026】
また、閉塞部材8を弾性部材7による付勢力に抗して収納部9内に押し込むことによって、弾性部材7を短縮させるとともに、フィルター6が収納部9に収納されて、フィルター6が配設されていた位置に閉塞部材8を配置して、閉塞部材8によって、湯道3を閉塞させることができる。
【0027】
このように、従来から通常鋳型に備えられているものであるフィルター6の配設場所において、フィルター6と閉塞部材8を置換して湯道3を閉塞させる構成とすることにより、閉塞部材8の配設場所を新たに確保する必要が無くなるため、鋳型1をコンパクトな構成とすることができる。
【0028】
即ち、本発明の一実施例に係る鋳型1においては、閉塞部材8は、湯道3に配設されるフィルター6と置換されて、所定の閉塞位置に配設されるものであり、湯道3を閉塞可能な部材である。
このような構成により、湯道3の長さを従来と同等に保持でき、閉塞手段たる閉塞部材8を有する鋳型1をコンパクトに構成することができる。
【0029】
次に、本発明の一実施例に係る鋳型1を用いた重力鋳造方法について、図3および図4を用いて説明をする。図3は本発明の一実施例に係る鋳型を用いた重力鋳造方法(注入工程)を示す模式図、(a)注入状態を示す側面断面模式図、(b)注入完了状態を示す側面断面模式図、図4は本発明の一実施例に係る鋳型を用いた重力鋳造方法(反転工程〜押湯工程)を示す模式図、(a)反転状態を示す側面断面模式図、(b)反転完了後の押湯状態を示す側面断面模式図である。
【0030】
(注入工程)
図3(a)に示す如く、鋳型1に対して溶湯11を注入する注入工程では、湯口2から溶湯11が注入される。湯口2から注入された溶湯11は、湯道3、フィルター6および押湯部4を介して製品部5に供給される。
【0031】
そして、図3(b)に示す如く、所定量の溶湯11が鋳型1に注入され、製品部5が溶湯11によって充満された状態になると、溶湯11の供給を停止する。
【0032】
そして、それと同時に、閉塞部材8を収納部9の内部に押し込んで、フィルター6と置換する。このとき、収納部9に隣接する湯道3に貯溜されている溶湯11は、閉塞部材8と接触することによって急速に放熱(冷却)され凝固するため、収納部9に隣接する湯道3が確実に閉塞される。
【0033】
(反転工程)
図4(a)に示す如く、鋳型1を上下180度反転させる反転工程では、鋳型1に対して所定量の溶湯11が注入され、閉塞部材8が収納部9の内部に押し込まれると直ぐに、鋳型1が反転軸10回りに回転される。この回転時に、鋳型1の傾斜角がある一定以上の角度になると、湯口2および湯道3に貯溜されていた溶湯11が湯口2の傾斜に沿って重力の作用によって自然に流出し始める。
【0034】
このとき、本発明の一実施例に係る鋳型1では、湯道3は、閉塞部材8と、該閉塞部材8と隣接する湯道3において凝固した溶湯11によって確実に閉塞されているため、押湯部4および製品部5は溶湯11で満たされた状態に確実に保持される。また、押湯部4および製品部5を満たしている溶湯11が鋳型1の外部に流出し、押湯部4に貯溜される溶湯11が減少することもない。
【0035】
即ち、本発明の一実施例に係る鋳型1においては、溶湯11の供給口である湯口2と、該湯口2から供給された溶湯11を成形空間たる製品部5へ案内する湯道3と、該湯道3と製品部5との間に配置される押湯部4と、が形成され、湯道3の途中に該湯道3を閉塞可能な閉塞手段たる閉塞部材8を有し、水平方向に軸支される反転軸10によって支持され、反転軸10回りに上下反転される反転工程を有する重力鋳造方法に用いられる鋳型1であって、閉塞部材8は、鋳型1を構成する素材(例えば、鋳砂)に比して熱伝導率が十分に高い素材(例えば、銅)によって構成されるものである。
このような構成により、押湯部4に貯溜される溶湯11が反転工程時に流出することを確実に防止できる。
【0036】
(押湯工程)
そして、図4(b)に示す如く、鋳型1を180度上下に反転させた状態とし、押湯部4内の溶湯11に作用する重力によって製品部5を押湯しながら製品部5内の溶湯11を凝固させる。すると、製品部5内の溶湯11が凝固するのに伴って体積が収縮しても、その収縮した体積分の溶湯11を押湯部4から補給することができ、品質の安定した鋳造品を得ることができる。
【0037】
このとき、本発明の一実施例に係る鋳型1では、湯道3が、閉塞部材8と、該閉塞部材8と隣接する湯道3において凝固した溶湯11によって確実に閉塞されているため、鋳型1が180度上下に反転された状態でも、押湯部4および製品部5を満たしている溶湯11が鋳型1の外部に流出することがない。
【0038】
このように、本発明の一実施例に係る鋳型1を用いれば、鋳型1への溶湯11の充填が完了した後直ちに鋳型1を反転させることができ、かつ、このとき、押湯部4および製品部5を満たしている溶湯11が鋳型1から流出することがないため、効果的に押湯を行うことができ、鋳造品の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例に係る鋳型の全体構成を示す模式図、(a)注入工程時の姿勢を示す側面断面模式図、(b)反転工程後の姿勢を示す側面断面模式図。
【図2】本発明の一実施例に係る鋳型の全体構成(分解した状態)を示す模式図、(a)側面断面模式図、(b)底面模式図。
【図3】本発明の一実施例に係る鋳型を用いた重力鋳造方法(注入工程)を示す模式図、(a)注入状態を示す側面断面模式図、(b)注入完了状態を示す側面断面模式図。
【図4】本発明の一実施例に係る鋳型を用いた重力鋳造方法(反転工程〜押湯工程)を示す模式図、(a)反転状態を示す側面断面模式図、(b)反転完了後の押湯状態を示す側面断面模式図。
【符号の説明】
【0040】
1 鋳型
2 湯口
3 湯道
4 押湯部
5 製品部
6 フィルター
7 弾性部材
8 閉塞部材
9 収納部
10 反転軸
11 溶湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯の供給口である湯口と、
該湯口から供給された溶湯を成形空間へ案内する湯道と、
該湯道と成形空間との間に配置される押湯部と、
が形成され、
前記湯道の途中に該湯道を閉塞可能な閉塞手段を有し、
水平方向に軸支される反転軸によって支持され、
前記反転軸回りに上下反転される反転工程を有する重力鋳造方法に用いられる鋳型であって、
前記閉塞手段は、
前記鋳型を構成する素材に比して熱伝導率が十分に高い素材によって構成される、
ことを特徴とする重力鋳造用鋳型。
【請求項2】
前記閉塞手段は、
前記湯道に配設されるフィルターと置換されて、
所定の閉塞位置に配設される、
ことを特徴とする請求項1に記載の重力鋳造用鋳型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−131648(P2010−131648A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311243(P2008−311243)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】