説明

重合体エマルション及び水性被覆材

【課題】重合安定性及び貯蔵安定性に優れ、水性塗料に用いた場合に耐候性、耐水性等の諸物性に優れる重合体エマルション、及び該重合体エマルションを含有する水性被覆材。
【解決手段】酸性基含有エチレン性不飽和単量体(a1)を含む単量体(a)を、pHを調整せずに重合し、得られる重合体(X)を含有するエマルションをpH6〜11に調整した後、該エマルションの存在下、下記に示す単量体(b)を、単量体(a)と単量体(b)との合計量を100質量%としたとき、1〜10質量%使用して重合して得られる重合体エマルション。及び該重合体エマルションを含有する水性被覆材。
単量体(b):分子内にピペリジル基を有する特定のエチレン性不飽和単量体(b1)を、単量体(b)の全量に対して6〜60質量%含有する単量体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体エマルション及び水性被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、メンテナンスコスト低減や省資源化による環境負荷低減の観点から、屋外等の過酷な環境下で用いられる高分子材料の高耐久化が強く求められている。このうち、塗料分野においては、地球環境や塗装作業環境等への配慮から、有機溶剤を媒体とする溶剤系塗料から、水を分散媒とする水性塗料への変換が図られており、水性塗料の用途が急速に拡大している。そのため、水性塗料への要求性能も高度になってきており、高度な耐候性能を有する水性塗料が提案されている。
【0003】
特許文献1には、分子内に不飽和二重結合を有するヒンダードアミン型光安定剤(以下、反応性HALS)を、疎水性の高いシクロヘキシル基含有重合性単量体と共重合することにより、形成した塗膜から反応性HALS成分がブリードアウトすることなく、長期間に渡り優れた耐候性が得られる塗料用組成物が示されている。
【0004】
また、特許文献2には、pH6〜10の条件下で、ある特定の組成の重合性単量体と特定の乳化剤を用いて反応性HALSを乳化重合することにより、得られるエマルションからなる塗料が長期間に渡り優れた耐候性を示すことが示されている。
【0005】
また、特許文献3には、シクロヘキシル基含有シランカップリング剤存在下で多段乳化重合を行い、最終段にて反応性HALSを共重合させたエマルションからなる塗料が、相溶性、造膜性に優れ、長期間に渡り優れた耐候性が得られることが示されている。
【0006】
また、特許文献4には、酸成分を非含有とすることで、反応性HALSを多量に共重合できるようにし、かつ反応性HALSの効果を最大限発現させることで、得られたエマルションからなる塗料が長期間に渡り優れた耐候性を示すことが示されている。
【特許文献1】特許第2637574号公報
【特許文献2】特開2002−234917号公報
【特許文献3】特開2004−10805号公報
【特許文献4】国際公開第2006/126680号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では、酸性官能基含有不飽和単量体(以下、酸成分という)と反応性HALSとを同一乳化物として重合するため、重合安定性を保つために耐水性に劣る乳化剤を使用しなければならないという制限があった。また、酸成分と反応性HALSとを同一乳化物として重合しているため、酸成分により反応性HALSによるラジカル補足能が低下し、耐候性が不充分であることがあった。
また、特許文献2では、酸成分と反応性HALSを同一乳化物として重合するが、塩基性成分を添加してpHを6〜10に調整し、特定の組成物と特定の非反応性のアニオン乳化剤とを用いて乳化重合を行うことで安定に重合が行える。しかし、この様な条件で重合を行うと、中和された酸成分とその他成分との間で反応が起こり、水溶性ポリマーが生成してしまう課題があり、また乳化剤についても前記特定の非反応性のアニオン乳化剤を用いる必要があり、耐水性、耐候性の面でも不充分である。
また、特許文献3では、酸成分を共重合して中和した後、最終段にて反応性HALSを共重合させるため、重合安定性に優れる。しかし、酸成分を含有する層と、酸成分を含まない層との相互作用が強いために、耐候性、耐水性等の物性が不充分である。
また、特許文献4の塗料は、酸成分を非含有としたエマルションをバインダーとして塗膜を形成するため、塗料系や塗色、塗装方法によっては色分かれや貯蔵安定性に劣る場合があり、単体で塗料として用いる場合には性能が不充分なことがあった。
【0008】
また、長期間の耐候性を達成するために、フッ素系の樹脂成分を含有する水性塗料も開発されている。しかし、該水性塗料は、顔料分散性や塗装作業性に劣り、形成された塗膜が高い撥水性を示すことで汚染性に課題がある。また、住宅の改修時等におけるリコート性も不充分である。
また、前記課題に対し、アクリル成分とフッ素成分とがハイブリッドされた水性塗料も知られているが、フッ素成分の効果により光沢保持性が良好であるものの、アクリル部位の分子量が低いために塗膜の強度や付着性が低下し、耐候性を維持できる期間が不充分である。
【0009】
そこで、本発明は、重合安定性及び貯蔵安定性に優れ、水性塗料に用いた場合に耐候性、耐水性等の諸物性に優れ、かつ、他の水性塗料に添加した場合に被添加塗料に優れた耐候性を付与できる重合体エマルション、及び該重合体エマルションを含有する水性被覆材を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の重合体エマルションは、酸性基含有エチレン性不飽和単量体(a1)を含む単量体(a)を重合し、得られる重合体(X)を含有するエマルションをpH6〜11に調整した後、該エマルションの存在下、下記に示す単量体(b)を、単量体(a)と単量体(b)との合計量(100質量%)に対する質量割合が1〜10質量%となるように重合して得られる重合体エマルションである。
単量体(b):下記式(I)で表される、分子内にピペリジル基を有するエチレン性不飽和単量体(b1)を、単量体(b)の全量に対して6〜60質量%含有する単量体。
【化1】

(式中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜2のアルキル基であり、Xは酸素原子又はイミノ基であり、Yは水素原子又は炭素原子数1〜20のアルキル基又はアルコキシ基であり、Zは水素原子又はシアノ基である。)
【0011】
また、本発明の重合体エマルションは、前記エチレン性不飽和単量体(a1)の使用量が、単量体(a)と単量体(b)との合計量を100質量%としたとき0.1〜5質量%であることが好ましい。
また、前記重合体(X)が、2種以上の異なる組成の単量体(a)を多段重合して得られる重合体であることが好ましい。
また、前記単量体(a)と単量体(b)とを合計した全単量体(100質量%)中、10〜50質量%がシクロヘキシル(メタ)アクリレート及び/又はt−ブチル(メタ)アクリレートであることが好ましい。
また、前記重合体(X)(100質量%)中のSi原子の含有量が0.1〜10質量%であることが好ましい。
【0012】
本発明の水性被覆材は、前記いずれかの重合体エマルションを含有する。
また、本発明の水性被覆材は、さらに、分子量2000以下のヒンダードアミン型光安定剤及び/又は分子量2000以下の紫外線吸収剤を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の重合体エマルションは、製造における重合安定性、及び貯蔵安定性に優れており、耐候性、耐水性等の諸物性に優れた水性塗料を得ることができ、また他の水性塗料に添加した場合には、被添加塗料に優れた耐候性を付与できる。また、本発明によれば、前記重合体エマルションを含有する水性被覆材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の重合体エマルション及び水性被覆材について詳細に説明する。
[重合体エマルション]
本発明の重合体エマルションは、酸性基含有エチレン性不飽和単量体(a1)を含む単量体(a)を重合し、得られる重合体(X)を含有するエマルションをpH6〜11に調整した後、該エマルションの存在下で単量体(b)を重合することにより得られる重合体エマルションである。
【0015】
単量体(a)は、酸性基含有エチレン性不飽和単量体(a1)を含む単量体である。単量体(a)が酸性基含有エチレン性不飽和単量体(a1)を含むことにより、得られる重合体エマルション粒子の分散液の貯蔵安定性、及び顔料や添加物を入れて塗料化する際の配合安定性が良好となり、レオロジーコントロールが容易となる。
【0016】
酸性基含有エチレン性不飽和単量体(a1)としては、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和リン酸、エチレン性不飽和スルホン酸等が挙げられる。
エチレン性不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノブチル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、5−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフタル酸モノヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
エチレン性不飽和リン酸としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−3−クロロプロピルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルフェニルリン酸等が挙げられる。
エチレン性不飽和スルホン酸としては、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
酸性基含有エチレン性不飽和単量体(a1)は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
酸性基含有エチレン性不飽和単量体(a1)の使用量は、単量体(a)と単量体(b)との合計量(100質量%)に対して、0.1〜5質量%であることが好ましく、0.5〜3質量%であることが好ましい。
前記酸性基含有エチレン性不飽和単量体(a1)の含有量が0.1質量%以上であれば、得られる重合体エマルションの貯蔵安定性を向上させる等の効果が得られやすい。また、前記酸性基含有エチレン性不飽和単量体(a1)の含有量が5質量%以上であれば、後述するエチレン性不飽和単量体(b1)による耐候性向上効果を低下させすぎることを防ぎやすい。
【0018】
また、単量体(a)は、酸性基含有エチレン性不飽和単量体(a1)以外のエチレン性不飽和単量体(a2)を含んでいることが好ましい。
エチレン性不飽和単量体(a2)は、ラジカル重合が可能なものであればよく、例えば、メチル(メタ)アクリレートやエチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、p−t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや2−(3−)ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ヒドロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリプロピレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド-プロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−ポリテトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシド−テトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリプロピレンオキシド−ポリテトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(ポリプロピレンオキシド−ポリテトラメチレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、アリロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、オクトキシ(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシ(ポリエチレンオキシド-プロピレンオキシド)モノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレンオキシド基含有(メタ)アクリレート類;p−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシシクロアルキル(メタ)アクリレート類;ラクトン変性ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリレート類;ジ(メタ)アクリル酸亜鉛等の金属含有(メタ)アクリレート類;γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のシリコン含有(メタ)アクリレート;2−(2’−ヒドロキシ−5’−(メタ)アクリロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールや、1−(メタ)アクリロイル−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−アミノ−4−シアノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等の耐紫外線基含有(メタ)アクリリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチルクロライド塩、アリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等の他の(メタ)アクリル系単量体;アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、ピバリンアルデヒド、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニトリルアクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルデヒド基またはケト基に基づくカルボニル基含有単量体;スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン等の芳香族ビニル系単量体;1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロル−1,3―ブタジエン等の共役ジエン系単量体;酢酸ビニル、塩化ビニル、エチレン、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
特に高度な耐候性能を必要とする場合は、t−ブチル(メタ)アクリレート及び/又はシクロヘキシル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
【0019】
エチレン性不飽和単量体(a2)の使用量は、得られる重合体エマルションの質量を100質量%としたとき、10〜50質量%であることが好ましく、15〜35質量%であることが特に好ましい。エチレン性不飽和単量体(a2)の使用量が前記範囲内であれば、得られる重合体エマルションが高い耐凍害性を発現する。
【0020】
単量体(a)を重合して重合体(X)を得る重合方法は、特に限定されず、公知の乳化重合、ミニエマルション重合等の方法により行うことができる。
重合体(X)は単層構造であっても、多層構造であってもよく、耐ブロッキング性と最低造膜温度(MFT)とのバランス、耐凍害性と耐汚染性とのバランスを高度に制御する点、シリコーン樹脂とのグラフト化等が実施可能である点等から多層構造であることが好ましい。また、多層構造としては2層構造、又は3層構造であることが生産性の点から好ましく、シリコーンとの複合化の点から3層構造であることが特に好ましい。また、得られた重合体エマルションを窯業建材塗料分野に用いる場合は、多層構造を有し、内層部が高Tg(ガラス転移温度)、かつ外層部が低Tgであり、内層部と外層部のTg差が30℃以上であることが好ましい。また、高い耐候性、MFT、耐ブロッキング性が得られることから、重合体(X)中に占める内層部の割合は外層部の割合よりも少ないことがさらに好ましい。また、更に高い耐候性、耐凍害性が得られることから、内層部にシリコーン樹脂をグラフトさせることが特に好ましい。
【0021】
ただし、本発明におけるTg(ガラス転移点)とは、重合体エマルション粒子を構成する単量体に由来する構造単位のTgを、Foxの計算式により求めた計算ガラス転移温度を使用する。ただし、Foxの式とは、下式に示すような、共重合体のガラス転移温度(℃)と、共重合モノマーのそれぞれを単独重合したホモポリマーのガラス転移温度(℃)との関係式である。
1/(273+Tg)=Σ(W/(273+Tg))
(式中、Wはモノマーiの質量分率、TgはモノマーiのホモポリマーのTg(℃)を示す。)
なお、ホモポリマーのTgとしては、具体的には、「Polymer Handbook 3rd Edition」(A WILEY−INTERSCIENCE PUBLICATION、1989年)に記載された値が使用できる。
【0022】
前記グラフト用のシリコーン樹脂としては、得られる重合体エマルションの耐凍害性が良好になる点から、公知のシランカップリング剤を用いて、オルガノシロキサンとグラフト交叉剤の脱水縮合により製造されるシリコーンエマルションを用いることが好ましい。
オルガノシロキサンとしては、例えば、一般式RSiO(4−m)/2(式中、Rは置換又は非置換の1価の炭化水素基であり、mは0〜3の整数を表す)で表される構造単位を有し、直鎖状、分岐状もしくは環状構造を有するものである。
オルガノシロキサンが有する置換又は非置換の1価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、フェニル基、及びそれらの水素原子をハロゲン原子又はシアノ基で置換した置換炭化水素基等が挙げられる。
【0023】
オルガノシロキサンの具体例としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン等の環状化合物の他に、直鎖状あるいは分岐状のオルガノシロキサンが挙げられる。
なお、このオルガノシロキサンは、予め重合されたポリオルガノシロキサン重合体であってもよい。その場合には、該ポリオルガノシロキサン重合体の分子鎖末端は水酸基、アルコキシ基、トリメチルシリル基、ジメチルビニルシリル基、メチルフェニルビニルシリル基、メチルジフェニルシリル基等で封鎖されていてもよい。また、この他に、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン等の加水分解性シランをポリオルガノシロキサン重合体の架橋成分として用いることができる。これらの成分は、必要に応じて単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
グラフト交叉剤としては、例えば、分子内に1個以上の加水分解性シリル基と、グラフト点となる1個以上のエチレン性不飽和基又はメルカプト基を含有するものが挙げられる。
加水分解性シリル基としては、重合反応性、取り扱いの容易さ等の点からアルコキシシリル基が好ましい。
グラフト交叉剤の具体例としては、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルシラン類や、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリロキシアルキルシラン類、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のメルカプトアルキルシラン類等が挙げられる。これらの成分は、必要に応じて単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
グラフト交叉剤の使用量は、オルガノシロキサン成分とグラフト交叉剤成分とを合計した質量(100質量%)に対して、0.1〜30質量%であることが好ましく、0.5〜20質量%であることがより好ましい。
前記グラフト交叉剤の使用量が0.1質量%以上であれば、高分子量のポリオルガノシロキサン重合体と単量体(a)とのグラフト重合が効率良く行われ、塗膜外観や耐候性、耐水性をより向上させやすい。また、前記グラフト交叉剤の使用量が30質量%以下であれば、耐候性をより向上させやすい。
【0026】
また、脱水縮合反応を行う際の水の量は特に規定されず、安定性、粘度の点から、オルガノシロキサン成分とグラフト交叉剤成分とを合計した質量を100質量部としたとき、100質量部〜500質量部の範囲で行うことが好ましい。
ポリオルガノシロキサン重合体は、前記オルガノシロキサンとグラフト交叉剤とをホモミキサーや圧力型ホモジナイザー等で水中に強制的に乳化分散させたものに、重合開始剤としてアルキルベンゼンスルホン酸等の酸触媒を加えて重縮合させることにより製造することができる。また、前記酸触媒は、この重縮合の後にアルカリ成分で中和することにより乳化剤としても使用できる。
【0027】
前記酸触媒の使用量は、特に規定されるものではなく、目的とするポリオルガノシロキサン重合体の分子量、固形分量、及び重合温度等の重合条件により任意に設定すればよい。得られる重合体エマルションを用いた塗料により形成した塗膜の外観を向上させる場合には、得られるポリオルガノシロキサン重合体の重量平均粒子径を5〜150nmにし得る量に設定することが好ましい。ただし、酸触媒を大量に使用すると塗膜の耐水性が低下してしまうことも考慮し、酸触媒の使用量はオルガノシロキサン成分とグラフト交叉剤成分の合計量(100質量%)に対して2〜12質量%とすることが好ましい。
【0028】
ポリオルガノシロキサン重合体の平均分子量は5,000以上であればよく、50,000以上であることが好ましい。また、三次元架橋により分子量が測定困難なものであっても充分な耐水性向上能を発揮できる。
ポリオルガノシロキサン重合体の使用量は、重合体(X)中のシリコーン樹脂の含有量が0.5〜20質量%となる範囲であることが好ましい。
【0029】
また、本発明における重合体(X)(100質量%)中のSi原子の含有量は、0.1〜10質量%であることが好ましい。
【0030】
また、重合体(X)を多段重合法により重合する場合には、各段における単量体全てに酸性基含有エチレン性不飽和単量体(a1)が含有されている必要はなく、重合体(X)の製造に使用する全単量体(a)中に含まれていればよい。
【0031】
本発明の重合体エマルションでは、前述のようにして得られた重合体(X)を含有するエマルションのpHを6〜11の範囲内に調整する。特に、pH調整の後に高濃度のエチレン性不飽和単量体(b1)を共重合する場合には、pHは7.5〜10.5の範囲に調整しておくことが好ましい。
【0032】
本発明におけるpHの調整は、重合安定性に優れる点から、単量体(a)を重合して重合体(X)を含有するエマルションを得た後に行うことが好ましい。また、多段重合法による重合体(X)の製造等においては、重合安定性を低下させすぎない範囲内であれば、酸性基含有エチレン性不飽和単量体(a1)を含む単量体(a)を重合する前であってもよい。
【0033】
重合体(X)を含有するエマルションのpHを6〜11に調整する手法としては、pHを前記範囲に調整できる方法であればよく、例えば、塩基性化合物を添加する方法が挙げられる。
塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジブチルアミン、アミルアミン、1−アミノオクタン、2−ジメチルアミノエタノール、エチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、2−プロピルアミノエタノール、エトキシプロピルアミン、アミノベンジルアルコール、モルホリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。内装用途の塗料等、得られる重合体エマルションに揮発性有機化合物(VOC)を含まないことが望まれる場合には、無機系塩基化合物を用いることが好ましい。さらに、僅かな臭気も生じないことが望まれる場合には、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の不揮発性無機系塩基化合物を用いることが好ましい。
【0034】
pHを前記範囲内に調整した後、得られた重合体(X)を含有するエマルションの存在下、単量体(b)を重合する。単量体(b)を用いることにより、得られる重合体エマルションが、適用する塗料等に高い耐候性を付与できるようになる。
単量体(b)は、下記式(I)で表される、分子内にピペリジル基を有するエチレン性不飽和単量体(b1)(反応性HALS)を含む。
【0035】
【化2】

(式中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜2のアルキル基であり、Xは酸素原子又はイミノ基であり、Yは水素原子又は炭素原子数1〜20のアルキル基又はアルコキシ基であり、Zは水素原子又はシアノ基である。)
【0036】
エチレン性不飽和単量体(b1)は、紫外線安定化機能(ラジカル捕捉機能)を有するものを使用することができ、例えば、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1−メチルカルバモイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が挙げられる。
エチレン性不飽和単量体(b1)は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
エチレン性不飽和単量体(b1)は、得られる重合体エマルションを用いた水性塗料の耐候性が良好になることから、一般式(I)におけるR1がメチル基であるメタクリレート構造を有するものを単独、又は2種以上組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0037】
また、単量体(b)は、エチレン性不飽和単量体(b1)の他に単量体(b2)を含む。
単量体(b2)は特に限定されず、例えば、前述した酸性基含有エチレン性不飽和単量体(a1)、エチレン性不飽和単量体(a2)で挙げたものと同じものを用いることができる。ただし、単量体(b2)は、酸性基含有エチレン性不飽和単量体を用いる場合には、耐水性、耐候性が低下しすぎないようにするため、単量体(b)(100質量%)中の酸性基含有エチレン性不飽和単量体(単量体(b2)として)の質量割合を0.5質量%以下とすることが好ましく、酸性基含有エチレン性不飽和単量体を用いないことが特に好ましい。
【0038】
単量体(b)の使用量は、単量体(a)と単量体(b)とを合計した質量(100質量%)に対して1〜10質量%である。単量体(b)の使用量を前記範囲内とすることで、重合体(X)に起因する塗料としての諸物性を阻害することなく高い耐候性と重合安定性を実現できる。また、前記単量体(b)の使用量は、2〜9質量%であることが好ましく、3〜9質量%であることがより好ましい。
【0039】
単量体(b)(100質量%)中に含まれるエチレン性不飽和単量体(b1)の含有量は6〜60質量%である。エチレン性不飽和単量体(b1)の含有量を前記範囲内とすることにより、得られる耐候性と重合安定性とが共に良好となる。また、前記エチレン性不飽和単量体(b1)の含有量は、20〜60質量%であることが好ましく、20〜50質量%であることがより好ましい。
【0040】
エチレン性不飽和単量体(b1)の使用量は、単量体(a)と単量体(b)とを合計した質量(100質量%)に対して0.5〜5質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましい。単量体(b1)の使用量が前記範囲内であれば、得られた重合体エマルションが高い耐候性を示す。
【0041】
得られる重合体エマルションのうちエチレン性不飽和単量体(b1)からなる構成部分を除く部分の計算Tgは、特に規定はないが、耐候性、耐水性、耐汚染性の点から20℃以上であることが好ましい。得られた重合体エマルションを特に耐ブロッキング性が必要な用途で用いる場合には、前記計算Tgが35℃以上であることが特に好ましい。
重合体エマルションの最低造膜温度(MFT)についても特に規定はなく、成膜性の点から60℃以下であることが好ましい。得られた重合体エマルションを特に窯業系建材等のラインで使用する場合には、塗装作業性の点から50℃以下であることが好ましく、ラインの乾燥炉による熱乾燥にて充分な耐ブロッキング性を発現させる場合には40℃以下であることが特に好ましい。
特に好ましい重合体エマルションは、前記計算Tgが35℃以上であり、かつMFTが40℃以下のものである。
【0042】
重合体エマルションを重合する際に用いる乳化剤としては、特に規定はなく、従来公知の各種アニオン性、またはノニオン性の乳化剤、さらには高分子乳化剤等を用いることができる。また、分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する反応性乳化剤を用いると、得られた重合体エマルションを水性塗料又は水性塗料用耐候性向上材として使用した場合、塗装皮膜に、より高度な耐水性、耐候性を付与できる。また、更に高度な耐水性及び耐候性を付与したい場合は、乳化剤として反応性アニオン性乳化剤を使用することが好ましい。また、得られる重合体エマルションを特に高い機械安定性が必要な用途で用いる場合は、反応性アニオン性乳化剤と反応性ノニオン性乳化剤とを併用することがより好ましい。反応性アニオン性乳化剤(質量:Ma)と反応性ノニオン性乳化剤(質量:Mb)とを併用する際は、それらの比率がMa:Mb=8:2〜2:8(質量比)であることが好ましい。ただし、前記反応性乳化剤は、本発明における単量体には含まないものとする。
【0043】
非反応性乳化剤としては、例えば、商品名「ニューコール560SF」、「同562SF」、「同707SF」、「同707SN」、「同714SF」、「同723SF」、「同740SF」、「同2308SF」、「同2320SN」、「同1305SN」、「同271A」、「同271NH」、「同210」、「同220」、「同RA331」、「同RA332」(以上、日本乳化剤社製)、商品名「ラテムルB−118E」、「レベノールWZ」、「ネオペレックスG15」(以上、花王社製)、商品名「ハイテノールN08」(第一工業製薬社製)等のアニオン性乳化剤、商品名「ノニポール200」、「ニューポールPE−68」(以上、三洋化成社製)等のノニオン性乳化剤等が挙げられる。
高分子乳化剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
反応性乳化剤としては、例えば、商品名「Antox MS−60」、「同MS−2N」(以上、日本乳化剤社製)、商品名「エレミノールJS−2」(三洋化成社製)、商品名「ラテムルS−120」、「同S−180」、「同S−180A」、「同PD−104」(以上、花王社製)、商品名「アデカリアソープSR−10」、「同SE−10」(以上、旭電化社製)、商品名「アクアロンKH−05」、「同KH−10」、「同HS−10」(以上、第一工業製薬社製)等の反応性アニオン性乳化剤、商品名「アデカリアソープNE−10」、「同ER−10」、「同NE−20」、「同ER−20」、「同NE−30」、「同ER−30」、「同NE−40」、「同ER−40」(以上、旭電化社製)、商品名「アクアロンRN−10」、「同RN−20」、「同RN−30」、「同RN−50」(以上、第一工業製薬社製)等の反応性ノニオン性乳化剤等が挙げられる。
これらの乳化剤は、1種のみを単独で使用することもでき、2種以上を併用することもできる。
【0044】
得られる重合体エマルションを特に高度な耐温水性、耐候性が必要な用途に用いる場合は、使用する乳化剤の全量を100質量%としたときに、反応性乳化剤が50〜100質量%であることが好ましく、80〜100質量%であることが特に好ましい。
【0045】
本発明の重合体エマルションを構成するエマルション粒子の重合に用いる重合開始剤は、一般的にラジカル重合に使用されるものを使用することができ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類;2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}及びその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)及びその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピンアミジン)及びその塩類、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]及びその塩類等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類等が挙げられる。
これらの重合開始剤は、単独でも使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
また、重合速度の促進、70℃以下における低温での重合が望まれる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、アスコルビン酸塩等の還元剤を前記重合開始剤と組み合わせて用いると有利である。
重合開始剤の添加量は、ラジカル重合性の成分全量に対して0.01〜10質量%とするのが好ましい。
【0047】
また、本発明の重合体エマルションを構成するエマルション粒子の分子量を調整する場合は、重合開始剤の使用量を調整する方法の他、連鎖移動剤を用いる方法も有効である。
連鎖移動剤は、公知の連鎖移動剤を用いることができ、例えば、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー等が挙げられる。これらの連鎖移動剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
連鎖移動剤の使用量は、使用する連鎖移動剤の種類や不飽和単量体の構成比に応じて変化させればよい。
【0048】
本発明の重合体エマルションは、通常粒子状で得られる。重合体エマルションの粒子径は特に規定されないが、重量平均粒子径で220nm以下であるのが好ましく、170nm以下であることがより好ましく、140nm以下であることが特に好ましい。重合体エマルションの重量平均粒子径が220nm以下であれば、水性塗料として用いた場合の成膜性、耐水性、耐候性がさらに良好となる。
【0049】
[水性被覆材]
本発明の水性被覆材は、前記重合体エマルションを含有する。
また、本発明の水性被覆材は、含まれる重合体エマルションの固形分濃度を20〜80質量%として使用することが好ましい。また、高度な性能を発現させるために、各種顔料、消泡剤、顔料分散剤、レベリング剤、たれ防止剤、艶消し剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、スリップ剤、防腐剤を含んでいてもよい。
水性被覆材が特に高い耐候性を必要とする場合は、水系に使用可能な、分子量2000以下の低分子量の紫外線吸収剤(UVA)、及びヒンダードアミン型光安定剤(HALS)等を添加併用することが好ましい。
【0050】
紫外線吸収剤(UVA)は、公知のものを使用することができ、例えば、ベンゾフェノン系UVA、ベンゾトリアゾール系UVA、無機系UVA、ヒドロキシフェニルトリアジン系UVA等が挙げられる。なかでも、水性塗料用途であれば、ベンゾトリアゾール系UVA、ヒドロキシフェニルトリアジン系UVAを用いることが好ましく、塗装皮膜の耐候性及び下地保護の点から、ベンゾトリアゾール系UVAとヒドロキシフェニルトリアジン系UVAとの併用が特に好ましい。
【0051】
ベンゾフェノン系UVAとしては、例えば、商品名「スミソーブ130」(住友化学社製)、商品名「Uvinul3049」、「同3050」(以上、BASFジャパン社製)等が挙げられる。
ベンゾトリアゾール系UVAとしては、例えば、商品名「チヌビン PS」、「同99−2」、「同109」、「同384−2」、「同900」、「同928」、「同1130」(以上、チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)、商品名「スミソーブ200」、「同250」、「同300」(以上、住友化学社製)、商品名「ULS−1935LH」(一方社油脂工業社製)、商品名「JF−77」、「同78」、「同79」、「同80」、「同83」(以上、城北化学工業社製)等が挙げられる。
無機系UVAとしては、例えば、商品名「ニードラール W−100」(多木化学社製)等が挙げられる。
ヒドロキシフェニルトリアジン系UVAとしては、例えば、商品名「チヌビン400」、「同405」、「同460」、「同477DW」、「同479」(以上、チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)等が挙げられる。
これらのUVAは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
水性被覆材へのUVAの添加量は、特に規定されず、水性被覆材中の固形分及びUVAを合計した質量を100質量部としたとき、0.1〜2.0質量部となるように添加することが好ましい。前記UVAの添加量が0.1質量部以上であれば、UVAによる充分な耐候性向上効果が得られやすい。また、前記UVAの添加量が2.0質量部以下であれば、水性被覆材によりクリアー塗膜を形成する際に着色性に問題を生じ難い。
【0053】
ヒンダードアミン型光安定剤(HALS)は、特に規定されないが、例えば、「N−Hタイプ」、「N−Rタイプ」、「N−O−Rタイプ」等の公知のヒンダードアミン型光安定剤が使用できる。なかでも、水性被覆材により形成される塗装皮膜の耐候性向上の点から、「N−O−Rタイプ」のヒンダードアミン型光安定剤が特に好ましい。
【0054】
「N−Hタイプ」のヒンダードアミン型光安定剤としては、例えば、商品名「チヌビン770」(チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)、商品名「アデカスタブ LA−57」、「同LA−63P」、「同LA−68P」(以上、ADEKA社製)等が挙げられる。
「N−Rタイプ」のヒンダードアミン型光安定剤としては、例えば、商品名「チヌビン292」、「同144」、「同765」、「キマソーブ119FL」(以上、チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)、商品名「アデカスタブ LA−52」、「同LA−62」、「同LA−67」(以上、ADEKA社製)等が挙げられる。
「N−O−Rタイプ」のヒンダードアミン型光安定剤としては、例えば、商品名「チヌビン123」、「同494AR」、「同NOR371FF」、「フレームスタブ NOR116FF」(以上、チバ・スペシャルティーケミカルズ社製)等が挙げられる。
これらのヒンダードアミン型光安定剤は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
水性被覆材中へのヒンダードアミン型光安定剤の添加量は、特に規定されず、水性被覆材中の固形分量を100質量部としたとき、0.05〜1質量部とすることが好ましい。
前記添加量が0.05質量部以上であれば、ヒンダードアミン型光安定剤による充分な耐候性向上能が得られやすい。また、前記添加量が1質量部以下であれば、水性被覆材により形成した塗装皮膜の耐水性を低下させ難い。
【0056】
本発明の水性被覆材としては、重合体エマルションと他の水性樹脂とを混合して塗料化したものとして使用できる。
他の水性樹脂としては、特に規定はなく、例えば、(メタ)アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系、アルキッド系等の各種高分子が挙げられる。例えば、重合体エマルションとウレタン樹脂とを併用して塗料化すれば、そのウレタン塗料の黄変を大幅に抑制できるために非常に有用である。また、重合体エマルションとエポキシ樹脂とを併用して塗料化すれば、低分子量ヒンダードアミン型光安定剤に比べて反応性が低いため、ラジカル補足能を長期間維持できる。
【0057】
これら他の水性樹脂と混合して用いる場合における重合体エマルションと他の水性樹脂との比率には、特に規定はないが、耐候性の面からは、製造した塗料(100質量%)中の重合体エマルションの含有量が20〜80質量%であり、塗料(100質量%)中のエチレン性不飽和単量体(b1)の含有量が0.5〜3質量%であることが特に好ましい。
また、前記他の水性樹脂を含む水性塗料により各種材料の表面に塗膜を形成するには、例えば、噴霧コート法、フローコーター法、ローラーコート法、バーコート法、エアナイフコート法、刷毛塗り法、ディッピング法等の各種の塗装法を適宜選択して実施すればよい。
【0058】
以上説明した、本発明の重合体エマルションは、重合安定性、機械安定性、及び貯蔵安定性に優れており、光沢保持性、耐候性、耐水性、耐凍害性等に優れた水性塗料を得ることもできる。また、本発明の重合体エマルション及び水性被覆材は、他の水性塗料に添加した場合には被添加塗料の耐候性を大幅に向上させることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。なお、本実施例において「部」は質量部を意味する。
[重合体エマルション]
(合成例1)ポリオルガノシロキサンエマルションの作成
オクタメチルシクロテトラシロキサン(95部)と、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(5部)、水(310部)、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(1部)からなる組成物をホモミキサーで予備混合した後、圧力式ホモジナイザーにより19.6MPa(200kg/cm)の圧力で強制乳化してシリコーン原料エマルジョンを得た。
次いで、水(50部)及びドデシルベンゼンスルホン酸(5部)を、攪拌機、コンデンサー、加熱ジャケット、及び滴下ポンプを備えたフラスコに仕込み、攪拌下に、フラスコ内の温度を85℃に保ちながら5時間かけて前記シリコーン原料エマルジョンを滴下した。滴下終了後、さらに1時間重合を進行させた後、冷却してアンモニア水を加えて中和し、エチレン性不飽和基を有するポリオルガノシロキサン重合体の水性分散体を得た。該水性分散体の固形分は20質量%、重量平均粒子径は110nmであった。
【0060】
(実施例1)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプ、及び窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水(75部)、SR−10(0.5部)、及び表1に示す割合で配合した1段目乳化物(単量体(a−1)、乳化剤、及び水の混合物)のうち15部を反応容器内に仕込み、反応容器内部を窒素で置換しながら70℃まで昇温した後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム(0.1部)を水(1部)に溶解した開始剤溶液を加えてシード粒子を形成した。溶液の温度を温度計にて計測し、発熱ピークを確認した後、1段目乳化物の残りを反応容器の内温を80℃として4時間かけて滴下し、内温80℃のまま1時間熟成した。続いて25%アンモニアを投入してpHを8に調整した後、表1に示す割合で配合した最終段乳化物(単量体(b)、乳化剤、連鎖移動剤、及び水の混合物)を一括投入し、1時間熟成した後、冷却することで重合体エマルションを得た。得られた重合体エマルションの固形分量(NV)、pH、粘度、MFT、Tgを表1に示す。
【0061】
(実施例2)
1段目乳化物及び最終段乳化物の組成を表1示す通りに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、重合体エマルションを得た。得られた重合体エマルションの固形分量、pH、粘度、MFT、Tgを表1に示す。
【0062】
(実施例3)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプ、及び窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水(75部)、SR−10(0.5部)、表1に示す割合で配合した1段目乳化物(単量体(a)、乳化剤、及び水の混合物)のうち15部を反応容器内に仕込み、反応容器内部を窒素で置換しながら70℃まで昇温した後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム(0.1部)を水(1部)に溶解した開始剤溶液を加えてシード粒子を形成した。溶液の温度を温度計にて計測し、発熱ピークを確認した後、1段目乳化物の残りを反応容器の内温を80℃として1時間かけて滴下し、内温80℃のまま1時間熟成した。その後、表1に示す割合で配合した2段目乳化物(単量体(a−2)、乳化剤、及び水の混合物)を3時間かけて滴下し、1時間熟成した。続いて、25%アンモニアを投入してpHを9に調整した後、表1に示す割合で配合した最終段乳化物(単量体(b)、乳化剤、連鎖移動剤、及び水の混合物)を一括投入し、1時間熟成した後、冷却することで重合体エマルションを得た。得られた重合体エマルションの固形分量、pH、粘度、MFT、Tgを表1に示す。
【0063】
(実施例4)
1段目乳化物、2段目乳化物、及び最終段乳化物の組成を表1に示す通りに変更した以外は実施例3と同様の操作を行い、重合体エマルションを得た。得られた重合体エマルションの固形分量、pH、粘度、MFT、Tgを表1に示す。
【0064】
(実施例5)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプ、及び窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水(40部)、合成例1で得られたエチレン性不飽和基を有するポリオルガノシロキサン重合体の水性分散体(50部)、及び表1に示す割合で配合した1段目乳化物のうち15部を反応容器内に仕込み、反応容器内部を窒素で置換しながら70℃まで昇温した後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム(0.1部)を水(1部)に溶解した開始剤溶液を加えてシード粒子を形成した。溶液の温度を温度計にて計測し、発熱ピークを確認した後、1段目乳化物の残りを反応容器の内温を80℃として1時間かけて滴下し、内温80℃のまま1時間熟成した。その後、表1に示す割合で配合した2段目乳化物を3時間かけて滴下し、1時間熟成した。続いて、25%アンモニアを投入してpHを9に調整した後、表1に示す割合で配合した最終段乳化物を一括投入し、1時間熟成した後、冷却することで重合体エマルションを得た。得られた重合体エマルションの固形分量、pH、粘度、MFT、Tgを表1に示す。
【0065】
(実施例6〜7及び9)
2段目乳化物及び最終段乳化物の組成を表1に示す通りに変更した以外は実施例5と同様の操作を行い、重合体エマルションを得た。得られた重合体エマルションの固形分量、pH、粘度、MFT、Tgを表1に示す。
【0066】
(実施例8)
2段目乳化物及び最終段乳化物の組成を表1に示す通りに変更し、2段目乳化物を滴下する前のpHをアンモニアで中和することにより6に調整した以外は実施例5と同様の操作を行い、重合体エマルションを得た。得られた重合体エマルションの固形分量、pH、粘度、MFT、Tgを表1に示す。
【0067】
(比較例1)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプ、及び窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水(75部)、SR−10(0.5部)、及び表2に示す割合で配合した1段目乳化物のうち15部を反応容器内に仕込み、反応容器内部を窒素で置換しながら70℃まで昇温した後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム(0.1部)を水(1部)に溶解した開始剤溶液を加えてシード粒子を形成した。溶液の温度を温度計にて計測し、発熱ピークを確認した後、1段目乳化物の残りを反応用器の内温を80℃として4時間かけて滴下し、内温80℃のまま2時間熟成した。その後、60℃以下まで冷却して25%アンモニアを投入し、pHを9に調整することで重合体エマルションを得た。得られた重合体エマルションの固形分量、pH、粘度、MFT、Tgを表2に示す。
【0068】
(比較例2)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプ、及び窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水(75部)、SR−10(0.5部)、及び表2に示す割合で配合した1段目乳化物のうち15部を反応容器内に仕込み、反応容器内部を窒素で置換しながら70℃まで昇温した後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム(0.1部)を水(1部)に溶解した開始剤溶液を加えてシード粒子を形成した。溶液の温度を温度計にて計測し、発熱ピークを確認した後、1段目乳化物の残りを反応容器の内温を80℃として4時間かけて滴下し、内温80℃のまま1時間熟成した。続いて、25%アンモニアを投入してpHを9に調整した後、表2に示す割合で配合した最終段乳化物を一括投入した。しかし、20分経過後、凝集物を多量に生じたため重合を中止した。
【0069】
(比較例3)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプ、及び窒素導入管を備えたフラスコに、脱イオン水(75部)、SR−10(0.5部)、及び表1に示す割合で配合した1段目乳化物のうち15部を反応容器内に仕込み、反応容器内部を窒素で置換しながら70℃まで昇温した後、重合開始剤である過硫酸アンモニウム(0.1部)を水(1部)に溶解した開始剤溶液を加えてシード粒子を形成した。溶液の温度を温度計にて計測し、発熱ピークを確認した後、1段目乳化物の残りを反応容器の内温を80℃として3時間かけて滴下し、内温80℃のまま1時間熟成した。続いて、25%アンモニアを投入してpHを9に調整した後、表2に示す割合で配合した最終段乳化物を1時間かけて滴下し、1時間熟成、その後冷却することで重合体エマルションを得た。得られた重合体エマルションの固形分量、pH、粘度、MFT、Tgを表2に示す。
【0070】
(比較例4)
表2に示す割合で配合した1段目乳化物に、25%アンモニアをpH9となるまで加えて重合を行う点以外は比較例1と同様の操作を行い、重合体エマルションを得た。得られた重合体エマルションの固形分量、pH、粘度、MFT、Tgを表2に示す。
【0071】
(比較例5)
1段目乳化物の組成を表1に示す通りに変更した以外は比較例1と同様の操作を行い、重合体エマルションを得た。得られた重合体エマルションの固形分量、pH、粘度、MFT、Tgを表2に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

ただし、表1及び表2中の略称は以下の意味を示す。また、( )内の数値は各単量体のTgの計算値である。
AA:アクリル酸
MMA:メチルメタクリレート(105℃)
St:スチレン(100℃)
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート(83℃)
t−BMA:ターシャリーブチルメタクリレート(108℃)
n−BMA:ノルマルブチルメタクリレート(20℃)
2−EHMA:2−エチルヘキシルメタクリレート(−45℃)
n−BA:ノルマルブチルアクリレート(−55℃)
2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート(66℃)
EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
SZ−6030:γメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン「SZ−6030」(商品名、東レダウ(株)製)
ラテムルE−118B:非応型アニオン性界面活性剤「ラテムルE−118B」(商品名、花王(株)製)
ノニポール200:非応型ノニオン性界面活性剤「ノニポール−200」(商品名、三洋化成(株)製)
SR−10:反応型アニオン性界面活性剤「アデカリアソープSR−10」(商品名、(株)ADEKA製)
ニューコール707SF:反応型ノニオン性界面活性剤「ニューコール707SF」(商品名、日本乳化剤(株)製)
NDM:ノルマルドデシルメルカプタン
【0074】
また、表1及び表2に示した最低造膜温度(MFT)は、各重合体エマルション3gを用いて、最低造膜温度測定装置(井本製作所製)にて、「JIS K 6828 5.11」に準拠した方法で測定した。また、粘度は、得られた重合体エマルションの温度を25℃とし、R−100型粘度計(東機産業株式会社製)にて測定した値を用いた。また、平均粒子径は、重合体エマルションを濃度1%に調整した試料を濃厚系アナライザーFPAR−1000(大塚電子株式会社製)により25℃にて測定して得られたキュムラント解析平均粒子径の値を用いた。
【0075】
以下、実施例1〜9、及び比較例1、3〜5の重合体エマルションの評価方法について説明する。
(重合安定性)
前記実施例及び比較例における重合時のカレットについて、100メッシュのナイロン紗で濾過捕集し、50℃の乾燥炉で24時間乾燥させ、その重量を測定して以下の基準で評価した。
「◎」:ドライ状態のカレット量が100ppm未満である。
「○」:ドライ状態のカレット量が100ppm以上1000ppm未満である。
「△」:ドライ状態のカレット量は1000ppm以上であるが、重合可能である。
「×」:不安定なため、重合不可能である。
【0076】
(機械安定性)
前記実施例及び比較例で得られた重合体エマルション各100gをマローン試験機にて一定のシェアをかけて15分間試験を行い、100メッシュのナイロン紗によって濾過し、その残渣の量を測定して以下の基準で評価した。
「◎」:15kg荷重における試験にて、残渣の量が0.01g未満であるか、ほとんど見られない。
「○」:10kg荷重における試験にて、残渣の量が0.01g未満であるか、ほとんど見られない。
「△」:10kg荷重における試験にて、残渣の量が0.01以上0.1g未満である。
「×」:残渣の量が0.1g以上である、又は試験中にゲル化する。
【0077】
(貯蔵安定性)
前記実施例及び比較例で得られた重合体エマルション各200gを密栓可能なガラスビンに入れ、50℃の恒温水槽で1週間温置する。その後、ガラスビンを取り出して凝固物の有無と粘度を確認し、以下の基準で評価した。
「○」:凝固物も無く、粘度の変化率が絶対値で20%未満である。
「△」:凝固物も無く、粘度の変化率が絶対値で0%以上35%未満である。
「×」:凝固物があるか、粘度の変化率が絶対値で35%以上である。
【0078】
[つや消しクリアー塗料]
(実施例10)
実施例1で得られた重合体エマルションを表3に示す割合で配合し、ディスパーにて1000rpmで10分間攪拌混合した後、1000mPa・Sとなるよう水希釈し、1日間静置後、100メッシュのナイロン紗で濾過することで、水性被覆材としてつや消しクリアー塗料を製造した。
【0079】
(実施例11〜20)
実施例2〜10で得られた重合体エマルションを表3に示す割合で配合した以外は実施例10と同様にしてつや消しクリアー塗料を得た。
【0080】
(比較例6〜9)
比較例1〜5で得られた重合体エマルションを表3に示す割合で配合した以外は実施例10〜20と同様にしてつや消しクリアー塗料を得た。
【0081】
実施例10〜20及び比較例1〜9で得られたつや消しクリアー塗料の評価は、耐候性、耐温水性、凍害性、シリカ分散安定性、耐ブロッキング性を試験することにより行った。
(耐候性)
耐候性試験においては、リン酸亜鉛処理鋼鈑(ボンデライト#100処理鋼鈑、板厚0.8mm、70mm×150mm)に、前記実施例10〜20及び比較例1〜9で得られた塗料を乾燥膜厚が50μmになるようにスプレー塗装し、その後に100℃で1時間乾燥したものを試験塗板とした。
前記試験塗板について、サンシャインカーボンウエザオメーター(スガ試験機製、WEL−SUN−HC−B型)耐候試験機(ブラックパネル温度63±3℃、降雨12分間、照射48分間のサイクル)を用いて試験を行い、5000時間、7500時間、10000時間試験後の光沢保持率、色差を測定し、以下の基準で判定した。
「5」:10000時間経過時の光沢保持率が70%以上であり、ΔEが3以下である。
「4」:7500時間経過時の光沢保持率が70%以上であり、ΔEが3以下である。
「3」:5000時間経過時の光沢保持率が70%以上であり、ΔEが3以下である。
「2」:5000時間経過時の光沢保持率が40%以上であり、ΔEが10以下である。
「1」:5000時間経過時の光沢保持率が40%未満である、又はΔEが10以上である。
【0082】
(耐温水性)
ガラス板上に、6MILアプリケーターを用いて実施例10〜20、比較例6〜9で得られたつや消しクリアー塗料を塗布し、室温にて1時間乾燥させた後、100℃で1時間強制乾燥したものを耐温水性評価用の塗板とした。評価塗板を60℃の温水に1日間浸漬させた。その後評価塗板を取り出し、5分後の塗膜白化度(ΔL)をスペクトロカラーメーターSE−2000(日本電色工業株式会社製)にて測定した。
「◎」:ΔLが2以下である。
「○」:ΔLが2より大きく5以下である。
「△」:ΔLが5より大きく10以下である。
「×」:ΔLが10より大きいである。
【0083】
(凍害性)
石膏スラグパーライト板(厚12mm×縦150mm×横70mm)にシーラーとしてダイヤナールLX−1010(三菱レイヨン(株)製)を使用した白エナメル塗料(顔料重量濃度40%)を塗着量が90〜100g/m(湿潤質量)となるように室温にてスプレー塗装し、130℃で5分間乾燥した。次いで、該シーラーの上に中塗り層としてダイヤナールLX−2011(三菱レイヨン(株)製)を使用した白エナメル塗料(顔料重量濃度30%)を塗着量が90〜100g/m(湿潤質量)となるように室温にてスプレー塗装し、130℃で5分間乾燥した。次いで、該中塗り層の上に上塗り層として実施例10〜20、比較例6〜9で得られたつや消しクリアー塗料を塗着量が50〜60g/m(湿潤質量)となるように室温にてスプレー塗装し、100℃で20分間乾燥させ、試験板を作製した。該試験板を1日室温で放置した後、溶剤系の2液硬化型アクリル樹脂を用いて試験板の側面及び背面を、防水機能を有するようにシールした。1日経過後に、凍結融解試験機にて耐凍害性試験を行った。凍結融解条件は、−20℃/2時間(空気中)及び20℃/2時間(水中)のサイクル試験とした。
30倍ルーペを用いて試験板にクラックが入るまでのサイクル数を測定し、下記の基準に従って評価した。
「5」:300サイクルでクラックなし。
「4」:200サイクル以上、300サイクル未満でクラックあり。
「3」:100サイクル以上、200サイクル未満でクラックあり。
「2」:50サイクル以上、100サイクル未満でクラックあり。
「1」:50サイクル未満でクラックあり。
【0084】
(シリカ分散安定性)
実施例10〜20、比較例6〜9で得られたつや消しクリアー塗料について、各塗料200gを密栓可能なガラスビンに入れ、50℃の恒温水槽に1週間温置する。その後、ガラスビンを取り出し、ガラスビンの下部を確認して以下の基準に従って評価した。
「○」:ガラスビン下部にシリカの沈殿がほとんど見られない。
「×」:ガラスビン下部にシリカの沈殿が激しく見られる。
【0085】
(耐ブロッキング性)
実施例10〜20、比較例6〜9で得られたつや消しクリアー塗料をガラス板に6ミルアプリケーターにて塗装(縦80mm×横80mm)し、100℃で20分間強制乾燥させた。次いで、50℃まで冷却した後、50℃雰囲気下で塗膜表面にガーゼを載せ、更にその上に事前に50℃まで加温した分銅を置き、1kg/cmの荷重をかけて30分間維持した。次いで、常温まで冷却した後、ゆっくりとガーゼを剥がし、その時の剥がし難さ及びガーゼの痕跡を目視にて観察し、下記の基準に従って評価した。
「◎」:ガーゼが自然に落下し、塗膜上にガーゼの痕跡がほとんど残っていない。
「○」:軽く1度振ることでガーゼが落下し、塗膜上にガーゼの痕跡はほとんど残っていない。
「△」:2回以上〜30回以内振ることでガーゼが落下し、ガーゼの痕跡が多少残っている。
「×」:ガーゼを剥離しないと剥がれず、剥離後にはガーゼの痕跡がはっきり残っている。
実施例10〜20及び比較例1〜9で得られたつや消しクリアー塗料についての、耐候性、耐温水性、凍害性、シリカ分散安定性、耐ブロッキング性の試験の結果を表3に示す。
【0086】
【表3】

ただし、表3中における略称は以下の意味を示す。
Tinuvin477DW:ヒドロキシルフェニルトリアジン系UVA水分散樹脂(商品名、チバ・スペシャリティケミカルズ・ジャパン(株)製)
Tinuvin292:HALS(商品名、チバ・スペシャリティケミカルズ・ジャパン(株)製)
Tinuvin1130:ベンゾトリアゾール系UVA(商品名、チバ・スペシャリティケミカルズ・ジャパン(株)製)
BYK−028:消泡剤(商品名、ビックケミー(株)製)
ダルパットD:造膜助剤(商品名、ダウケミカル(株)製)
SPシールH:シリカ系つや消し剤(商品名、(株)カレイド製)
【0087】
表1に示すように、本発明の重合体エマルションは重合安定性、機械安定性、貯蔵安定性に優れる。また、表3に示すように、本発明の重合体エマルションを用いたつや消し水性塗料は、耐候性、耐温水性、凍害性、シリカ分散安定性、耐ブロッキング性に優れる。
【0088】
一方、表2に示すように、比較例2では、単量体(b1)の単量体(b)における濃度が高すぎるため、重合安定性が著しく損なわれ、重合体エマルションが得られなかった。また、単量体(b1)の量が少ない比較例3では、機械安定性が劣っていた。
また、表3に示すように、重合が可能であったとしても、水性塗料として用いた場合(比較例6〜9)には、耐候性、耐温水性、凍害性、シリカ分散安定性、耐ブロッキング性のいずれか1つ以上が劣っていた。
以上のように、本発明によれば、重合安定性、機械的安定性、貯蔵安定性に優れた重合体エマルションが得られ、該重合体エマルションを用いることにより、顕著な耐水性向上機能、耐候性向上機能を有する水性被覆材が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の重合体エマルション及び水性被覆材は、セメントモルタル、スレート板、石膏ボード、押し出し成形板、発泡性コンクリート、金属、ガラス、磁器タイル、アスファルト、木材、防水ゴム材、プラスチック、珪酸カルシウム基材等の各種素材の表面仕上げに使用される水性塗料に用いることにより、長期間に渡って各種素材を保護可能であり、工業上極めて有益なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基含有エチレン性不飽和単量体(a1)を含む単量体(a)を重合し、得られる重合体(X)を含有するエマルションをpH6〜11に調整した後、該エマルションの存在下、下記に示す単量体(b)を、単量体(a)と単量体(b)との合計量(100質量%)に対する質量割合が1〜10質量%となるように重合して得られる重合体エマルション。
単量体(b):下記式(I)で表される、分子内にピペリジル基を有するエチレン性不飽和単量体(b1)を、単量体(b)の全量に対して6〜60質量%含有する単量体。
【化1】

(式中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜2のアルキル基であり、Xは酸素原子又はイミノ基であり、Yは水素原子又は炭素原子数1〜20のアルキル基又はアルコキシ基であり、Zは水素原子又はシアノ基である。)
【請求項2】
前記エチレン性不飽和単量体(a1)の使用量が、単量体(a)と単量体(b)との合計量を100質量%としたとき0.1〜5質量%である、請求項1に記載の重合体エマルション。
【請求項3】
前記重合体(X)が、2種以上の異なる組成の単量体(a)を多段重合して得られる重合体である、請求項1又は2に記載の重合体エマルション。
【請求項4】
前記単量体(a)と単量体(b)とを合計した全単量体(100質量%)中、10〜50質量%がシクロヘキシル(メタ)アクリレート及び/又はt−ブチル(メタ)アクリレートである、請求項1〜3のいずれかに記載の重合体エマルション。
【請求項5】
前記重合体(X)中のSi原子の含有量が0.1〜10質量%である、請求項1〜4のいずれかに記載の重合体エマルション。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の重合体エマルションを含有する水性被覆材。
【請求項7】
さらに、分子量2000以下のヒンダードアミン型光安定剤及び/又は分子量2000以下の紫外線吸収剤を含有する、請求項6に記載の水性被覆材。

【公開番号】特開2009−144047(P2009−144047A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322569(P2007−322569)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】