説明

重合体乾燥物の製造方法

【課題】乾燥が十分な重合体乾燥物および/または水分含有量が均一な重合体乾燥物の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の重合体乾燥物の製造方法は、複数のフィードロールを備えた加熱面密着型乾燥機を用いて重合体溶液を乾燥させる方法である。本発明においては、最下流のフィードロールの直下流側に形成された膜のロール幅方向における最高温度と最低温度との差が15℃以下である。好ましくは、隣接する2つのフィードロールへの重合体溶液の給液位置が不整列である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱面密着型乾燥機を用いた重合体乾燥物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体乾燥物の製造においては、従来から、加熱面密着型乾燥機を用いた重合体溶液の乾燥が行われている。例えば、多段に設けたフィードロールで重合体溶液をドラムドライヤーの加熱面に2回以上重ねて被覆乾燥する方法が開示されている(特許文献1)。この方法によれば、嵩比重が高い重合体乾燥物を得ることができる。しかしながら、得られる重合体乾燥物の乾燥が不十分であること、重合体乾燥物中の水分含有量が不均一となること等の問題がある。
【特許文献1】特開2002−146033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、乾燥が十分な重合体乾燥物および/または水分含有量が均一な重合体乾燥物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明の重合体乾燥物の製造方法は、複数のフィードロールを備えた加熱面密着型乾燥機を用いて重合体溶液を乾燥させる重合体乾燥物の製造方法であって、最下流のフィードロールの直下流側に形成された膜のロール幅方向における最高温度と最低温度との差が15℃以下である。
好ましい実施形態においては、隣接する2つのフィードロールへの重合体溶液の給液位置が不整列である。さらに好ましい実施形態においては、上記最下流側の2つのフィードロールへの重合体溶液の給液位置が不整列である。さらに好ましい実施形態においては、すべてのフィードロールへの重合体溶液の給液位置が不整列である。
別の好ましい実施形態においては、フィードロールの幅方向全体にわたってカーテン状に重合体溶液を給液する。
好ましい実施形態においては、40〜70℃の重合体溶液を各フィードロールへ給液する。
好ましい実施形態においては、上記重合体がビニルピロリドン系重合体である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の製造方法によれば、複数のフィードロールを備えた加熱面密着型乾燥機を採用し、最下流のフィードロールの直下流側に形成された膜のロール幅方向における最高温度と最低温度との差が15℃以下に制御する。これにより、重合体溶液の乾燥が均一に行われるので、乾燥が十分な重合体乾燥物および/または水分含有量が均一な重合体乾燥物が得られ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
A.重合体溶液
重合体溶液とは、少なくとも1種類の重合体を含む溶液をいう。このような重合体溶液としては、重合反応後の反応液であってもよく、重合体を溶媒に溶解させた溶液であってもよい。なお、本明細書において、用語「重合体溶液」は、完全な溶液だけでなく、エマルションやスラリーをも含む。
【0007】
上記重合体溶液は、好ましくは高粘度の溶液である。25℃における重合体溶液の粘度は、一般に3,000mPa・s以上、好ましくは5,000〜100,000mPa・sである。当該範囲の粘度である場合、重合体溶液を乾燥機の加熱面へ塗布する際の操作性が向上し得る。なお、粘度は、B型粘度計等により測定することができる。
【0008】
上記重合体溶液のK値は、好ましくは40〜130、より好ましくは50〜120である。当該範囲のK値である場合、重合体溶液が加熱面上での良好な皮膜形成性を示し得る。ここで、K値とは、測定された粘度を用いて次のフィケンチャー式から計算される値である。
【数1】

【0009】
上記重合体溶液は、5重量%濃度の水溶液としたときのpHが4〜11であることが好ましく、5〜10であることがより好ましい。当該範囲のpHである場合、乾燥時における不溶物の生成およびK値の激しい低下が抑制され得る。
【0010】
上記重合体としては、任意の適切なものが用いられる。例えば、ビニルピロリドン系重合体、アクリルアミド系重合体、ポリビニルアルコール、でんぷん変性物が挙げられる。なかでも、水溶液重合によって好適に得られるビニルピロリドン系重合体は、重合反応後の重合体水溶液をそのまま乾燥に供し得ることから、本発明の製造方法に好適に用いられ得る。
【0011】
上記ビニルピロリドン系重合体は、N−ビニル−2−ピロリドンの単独重合体またはN−ビニル−2−ピロリドンと他のモノマーとの共重合体である。共重合する他のモノマーとしては、N−ビニル−β−プロピオラクタム、N−ビニルコハク酸イミド、N−ビニル−δ−バレロラクタム、N−ビニル−ε−カプロラクタム、N−ビニル−グリコシアミジン、N−ビニルオキサゾリドン等の4〜7員環(好ましくは、5〜6員環)の環状N−ビニル系モノマー;N−ビニルホルムアミド類(N−ビニルホルムアミド、N−ビニル−N−メチルホルムアミド等のN−ビニル−N−C0−3アルキルホルムアミド等)、N−ビニルアセトアミド類(N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド等のN−ビニル−N−C0−3アルキルアセトアミド等)、N−ビニルプロピオンアミド類等のN−ビニルC1−4カルボン酸アミド(N−ビニルアミド)等の非環状N−ビニル系モノマー;N−ビニル−カルバミン酸メチル類(N−ビニルカルバミン酸メチル、N−ビニル−N−C1−4アルキルカルバミン酸メチル等)、N−ビニル−カルバミン酸エチル類、N−ビニル−カルバミン酸プロピル類等のN−ビニル−カルバミン酸C1−4アルキルエステル等の非環状N−ビニル系モノマー;N−ビニルイミダゾリジン、N−ビニルピペラジン、N−ビニルモルホリン等の、複数の複素原子(窒素原子、酸素原子、硫黄原子等)を環の構成原子として有する複素環化合物モノマー(好ましくは4〜7員環化合物、より好ましくは5〜6員環化合物);(メタ)アクリル系モノマー[(メタ)アクリル酸C1−6アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシC1−6アルキルエステル等の(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、N−モノC1−3アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジC1−3アルキル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類等];塩基性不飽和モノマー類[(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等];不飽和カルボン酸またはその酸無水物[(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等];ビニルエステル類[酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等];ビニルエチレンカーボネート類;スチレン類;(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エステル類(エチルエステル等);ビニルスルホン酸類;ビニルエーテル類[メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等];オレフィン類[エチレン、プロピレン、オクテン、ブタジエン等];等を挙げることができる。上記他のモノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ビニルピロリドン系重合体におけるN−ビニル−2−ピロリドンの含有量は、全モノマー成分中、好ましくは20モル%以上、より好ましくは40モル%以上である。
【0012】
上記ビニルピロリドン系重合体は、バルク重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、沈殿重合等の任意の適切な重合方法によって得られ得る。
【0013】
上記重合体溶液は、必要に応じて、加工安定剤、可塑剤、分散剤、充填剤、老化防止剤、顔料、硬化剤等の各種添加剤を含有してもよい。
【0014】
B.加熱面密着型乾燥機
加熱面密着型乾燥機は、任意の適切な重合体溶液の供給手段によって、重合体溶液を乾燥機の加熱面に供給(塗布)して乾燥させ、掻取手段(スクレーパー)で乾燥物を掻き取る装置である。本発明で用いられる加熱面密着型乾燥機においては、重合体溶液の供給手段として、多段ロールフィード方式が採用される。ロールフィード方式は、乾燥機の加熱面とフィードロールとの間にノズル等の給液手段により重合体溶液を供給し、加熱面に付着させる方式である。当該方式によれば、高粘度の重合体溶液の供給が容易であること、加熱面からの溶液のはね返りによる溶液のロスや装置の汚れが生じにくいこと等の効果が奏され得る。
【0015】
本発明においては、多段ロールフィード方式が採用されることから、加熱面密着型乾燥機は、複数のフィードロールを備える。フィードロールの数は、2本以上、好ましくは2〜6本、より好ましくは2〜5本である。これにより、重合体溶液が乾燥機の加熱面に2回以上重ねて供給(塗布)されるので、重合体溶液の供給(塗布)と乾燥とが繰り返し行われる。その結果、気泡が少なく、十分に乾燥した重合体乾燥物が得られ得る。
【0016】
本発明においては、給液手段は、最下流のフィードロールの直下流側に形成される膜のロール幅方向における最高温度と最低温度との差を15℃以下に制御し得るように構成される。1つの実施形態においては、図1に示すように、給液手段はノズル型である。好ましい実施形態においては、少なくとも最下流側の2つのフィードロールへの重合体溶液の給液位置(ノズル位置)が不整列である(図1参照)。本明細書において「不整列」とは、1つのフィードロールへの給液位置が、他のフィードロールへの給液位置と異なることをいう。より具体的には、1つのフィードロールへの給液位置と他のフィードロールへの給液位置とが、回転ドラムの円周方向において一直線上に位置しないことをいう。図示例においては、最下流(最下段)のフィードロール23への給液位置(給液手段53の位置)と、隣接するフィードロール22への給液位置(給液手段52の位置)とは、回転ドラム10の円周方向において一直線上に位置しない。別の好ましい実施形態においては、隣接する2つのフィードロールへの重合体溶液の給液位置が不整列である。図示例においては、給液手段50と51、51と52、および、52と53の位置がそれぞれ不整列である。さらに別の好ましい実施形態においては、すべての給液手段の位置が不整列である(図示せず)。このような構成を採用することにより、最下流のフィードロールの直下流側に形成される膜のロール幅方向における最高温度と最低温度との差が15℃以下に制御することができる。最下流のフィードロールの直下流側に形成される膜の温度(表面温度)の詳細については、後述のC項で説明する。膜のロール幅方向の表面温度の差を制御することにより、より均一に重合体溶液の乾燥が行われるという効果が奏され得る。
【0017】
不整列である重合体溶液の給液位置は、フィードロールと加熱面とのクリアランス、重合体溶液の粘度、供給速度等に応じて、適切に設定され得る。例えば、少なくとも1つの給液位置が他の給液位置のいずれかに対してフィードロールの幅方向の長さの1/(給液手段の数×6)以上離れていることが好ましく、1/(給液手段の数×5)以上離れていることがより好ましい。1つの好ましい実施形態において、異なる給液位置がX箇所ある場合、フィードロールを幅方向にX等分した領域のそれぞれに給液位置があることが好ましく、フィードロールの幅方向の長さを略(X+1)等分する位置にあることがより好ましい。例えば、3箇所の異なる給液位置がある場合、フィードロールを幅方向に3等分した領域のそれぞれに給液位置があることが好ましく、フィードロールの幅方向の長さを略4等分する位置にあることがより好ましい。
【0018】
不整列である重合体溶液の給液位置は、最上流(最上段)のフィードロールへの給液位置から最下流(最下段)のフィードロールへの給液位置に向けて、一方向に(右から左または左から右)にずれるように配置されていてもよく、各段の給液位置が規則的に(例えば、ジグザグに)ずれて配置されていてもよく、各段の給液位置がランダムにずれて配置されていてもよい。
【0019】
本発明で用いられる加熱面密着型乾燥機としては、多段ロールフィード方式であれば、任意の適切なものが採用され得る。具体的には、ドラムドライヤー、ベルトドライヤー等が挙げられる。なかでも、熱効率、迅速性、連続操作性に優れることから、ドラムドライヤーが好ましく用いられ得る。ドラムドライヤーとしては、任意の適切なものが採用され得る。例えば、シングルドラムドライヤー、ダブルドラムドライヤー、ツインドラムドライヤー等が挙げられる。
【0020】
本発明で好ましく用いられるドラムドライヤーの概略断面図を図2に示す。図2に示されるとおり、ドラムドライヤー100は、回転ドラム10、第1〜第4のフィードロール(最上段のフィードロールを第1のフィードロールとする)20〜23、および乾燥物の掻取手段30を備える。ドラムドライヤー100は、必要に応じて、粉砕手段40をさらに備える。このようなドラムドライヤー100において、回転ドラム10の表面(加熱面)は、水蒸気等の熱媒体で内側より加熱される。重合体溶液70は、不整列に設けられた第1〜第4の給液手段(最上段のフィードロールへの給液手段を第1の給液手段とする)50〜53から第1〜第4のフィードロール20〜23に給液される。給液された重合体溶液70は、フィードロール20〜23により、回転ドラム10の加熱面に供給(塗布)され、該ドラムが1回転する間に蒸発乾燥され、掻取手段30によって掻き取られる。このようにして得られた重合体乾燥物60は、必要に応じて、粉砕手段40により粉砕される。なお、回転ドラムとフィードロールとの直径の比(回転ドラム/フィードロール)は、好ましくは3〜7、より好ましくは約5である。
【0021】
本発明の別の実施形態においては、図3に示すように、給液手段はスリット型である。この実施形態においては、重合体溶液は、フィードロールの幅方向全体にわたってカーテン状に給液される。この実施形態においては、重合体溶液は、少なくとも1つのフィードロールに給液されればよい。例えば、重合体溶液は、最上流のフィードロールのみに給液されてもよく、ランダムに選択された複数のフィードロールに給液されてもよく、すべてのフィードロールに給液されてもよい。
【0022】
C.重合体乾燥物の製造方法
本発明の重合体乾燥物の製造方法においては、上記の通り、重合体溶液を、加熱面密着型乾燥機の加熱面に多段ロールフィード方式で供給(塗布)し、乾燥を行う。次いで、生成されるシート状乾燥物を、掻取手段によって掻き取ることにより、重合体乾燥物が得られる。
【0023】
好ましい実施形態においては、乾燥中に発生する蒸気が排気手段により排気され、吸気手段により外気が吸気される。これにより、重合体溶液の乾燥速度を向上させ得る。排気手段は加熱面密着型乾燥機の上方に設けられることが好ましく、吸気手段は下方に設けられることが好ましい。すなわち、上記乾燥は、発生する蒸気を加熱面密着型乾燥機の上方から排気し、外気を下方から吸気しながら行われ得る。加熱面密着型乾燥機がドラムドライヤーである場合、排気手段は回転ドラムの中心からフィードロール側にずれた位置の上方に設けることにより、重合体溶液の乾燥速度をさらに向上させ得る。なお、排気手段および吸気手段としては、任意の適切なものが採用され得る。この場合、外気を、除湿された空気および/または水分含有量の少ない窒素等の不活性ガスとすることにより、さらに乾燥速度を向上させ得る。また、得られる重合体乾燥物に外気中のゴミ、塵埃等の異物が混入することを防止するために、HEPAフィルターに代表される異物除去フィルターを通過させた外気を吸気することが好ましい。
【0024】
重合体溶液の供給速度は、生産性と乾燥物の品質(水分)とのバランスを考慮して、適切に設定され得る。加熱面密着型乾燥機がドラムドライヤーである場合、回転ドラムの単位加熱面積当りの供給速度としては、1〜100kg/(m2・hr)が好ましく、5〜50kg/(m2・hr)がより好ましい。
【0025】
供給時の重合体溶液の温度は、好ましくは30〜90℃、より好ましくは40〜80℃である。当該範囲の温度である場合、操作性が良好であると共に、効率的に乾燥が行われ得る。
【0026】
重合体溶液の塗布厚みは、重合体の種類、粘度等に応じて、適切に設定され得る。好ましくは0.01〜5mm程度、より好ましくは0.05〜3mm程度である。塗布厚みを調整する方法としては任意の適切な方法が採用され得る。例えば、フィードロールと加熱面とのクリアランスを調整すること、重合体溶液の粘度を調整すること等が挙げられる。
【0027】
本発明では多段ロールフィード方式を採用していることから、重合体溶液の供給(塗布)と乾燥とを繰り返して、乾燥物を得ることができる。ここで、2回目以降の重合体溶液の供給において、それ以前に供給した重合体溶液は完全に乾燥している必要はなく、2回目以降の重合体溶液の供給に支障がない程度に実質的に乾燥していればよい。
【0028】
加熱面の温度(給液前のフィードロールの表面温度)は、重合体の種類、重合体溶液の温度等に応じて、適切に設定され得る。当該加熱面の温度は、重合体溶液の溶媒の沸点以上が好ましく、沸点より10℃以上高い温度がより好ましい。また、加熱面の温度は、重合体溶液に含まれる重合体のガラス転移温度より10℃以上低いことが好ましい。当該範囲の温度である場合、重合体の皮膜形成性が良好となるため、多段ロールフィード方式による重ね塗りが容易になる。例えば、重合体溶液がポリビニルピロリドン含有水溶液であり、かつ、大気圧下で乾燥する場合、加熱面の温度は、好ましくは110〜200℃、より好ましくは115〜190℃、さらに好ましくは120〜180℃である。
【0029】
本発明においては、最下流のフィードロールの直下流側に形成される膜のロール幅方向における最高温度と最低温度との差は、小さいほど好ましい。当該温度差が小さければ小さいほど、均一な乾燥が行われるので、十分に乾燥され、かつ、水分含有量が均一な重合体乾燥物が得られる。本発明においては、当該温度差は15℃以下であり、好ましくは10℃以下であり、さらに好ましくは8℃以下である。当該温度差は、例えば、放射型非接触温度計をロール幅方向全体にわたって走査してロール幅方向の温度分布を測定し、当該温度分布における最高温度と最低温度から算出される。本明細書において、「最下流のフィードロールの直下流側」とは、最下流のフィードロールの下流側であって、かつ、当該フィードロールに温度測定可能に最も近接した位置をいう。より具体的には、温度測定手段(例えば、非接触温度計)を温度測定可能に配置することができる、フィードロールに最も近接した位置をいう。実用的には、最下流のフィードロールを側面視した場合に、円周最下部から水平方向に引いた接線とドラム表面との交点に対応する位置で、温度が測定される。
【0030】
加熱面密着型乾燥機がドラムドライヤーである場合、ドラムの回転速度は、重合体の種類、重合体溶液の温度、所望する重合体乾燥物の物性等に応じて、適切に設定され得る。通常は、0.1〜6rpm、好ましくは0.3〜5rpm、より好ましくは0.5〜3rpmである。
【0031】
一回目の重合体溶液の供給から掻取までの乾燥時間は、重合体の種類、重合体溶液の温度、所望する重合体乾燥物の物性等に応じて、適切に設定され得る。通常は、0.1〜5分の範囲である。
【0032】
上記のようにして得られたシート状の重合体乾燥物を、ドクターナイフ等の任意の適切な掻取手段で掻取り、必要に応じて粉砕することにより、重合体乾燥物を得ることができる。粉砕手段としてはパドルタイプ、ハンマーミル、ピンミル、ボールミル、うす式ミル、振動ミル等が挙げられる。これらの粉砕手段により、例えば平均粒子径が50〜1000μmの重合体乾燥物粉体を得ることができる。
【0033】
本発明によれば、各フィードロールへの重合体溶液の給液位置(給液手段の位置)が不整列である多段ロールフィード方式または重合体溶液をカーテン状に供給し得る給液手段を備えた多段ロールフィード方式を採用しているので、最下流のフィードロールの直下流側に形成される膜のロール幅方向における最高温度と最低温度との差を非常に小さくすることができ、結果として、乾燥が十分な重合体乾燥物および/または水分含有量が均一な重合体乾燥物が得られ得る。したがって、1つの好ましい実施形態において、得られた重合体乾燥物の含有水分量は、5重量%以下、より好ましくは4重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下であり得る。また、別の好ましい実施形態において、掻取られたシート状重合体乾燥物を幅方向の長さを3等分するように、右部、中央部、左部の3つに分割した場合、各部分の水分含有量とそれらの平均値との差の最大値は、2重量%以下、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下であり得る。
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。
【0035】
[実施例1]
(重合体溶液)
マックスブレンド型撹拌羽根(SUS304製)を備えた撹拌機、モノマー供給槽、温度計、冷却管および窒素ガス導入管を備えた1L容フラスコ(SUS304製)にイオン交換水 640g、N−ビニル−2−ピロリドン 400g、およびジエタノールアミン 0.024gを入れ、200rpmで撹拌しながら、窒素ガスを導入して溶存酸素を除去した。次いで、フラスコ内温が70℃になるように加熱した。このフラスコ内に2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(和光純薬社製 試薬1級) 0.352gを添加して重合を開始した。2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)添加後3分以内に重合反応が開始し、約20分後に97℃に到達した。次いで、97℃に到達してから160分間フラスコ内温を90℃以上に維持した後、マロン酸 0.144gを添加し、90℃以上で1時間保持した。次いで、ジエタノールアミン 0.2gを添加し、30分間フラスコ内温を90℃で保持してポリビニルピロリドン含有水溶液を得た。このようにして得られたポリビニルピロリドン水溶液のポリビニルピロリドン含有量は20重量%であり、K値は85.0であり、粘度(25℃)は10,000mPa・sであった。
【0036】
(加熱面密着型乾燥機)
加熱面密着型乾燥機として、直径が800mmであり、幅が1000mmである回転ドラムを有するドラムドライヤー(カツラギ工業社製)を用いた。該ドラムドライヤーに、直径が160mmであり、幅が1000mmである第1〜第4のフィードロールを取り付けた。このとき、回転ドラムの加熱面と第1〜第3のフィードロールとのクリアランスを0.1mm未満、加熱面と第4のフィードロールとのクリアランスを約0.3mmにした。各フィードロールの取り付け位置は、ドラム本体の回転軸の水平方向を0°として、第1のフィードロールの回転軸が65°、第2のフィードロールの回転軸が37.5°、第3のフィードロールの回転軸が10°、第4のフィードロールの回転軸が−17.5°となるように設定した。また、第1のフィードロールへ重合体溶液を給液する給液ノズルを、ロールの左端から250mmおよび750mmの位置に、第2のフィードロールへ重合体溶液を給液する給液ノズルを、ロールの左端から500mmの位置に、第3のフィードロールへ重合体溶液を給液する給液ノズルを、ロールの左端から250mmおよび750mmの位置に、第4のフィードロールへ重合体溶液を給液する給液ノズルを、ロールの左端から500mmの位置に設置した。また、フィードロールと回転ドラム間に滞留する重合体溶液の液量が一定になるように滞留液部に温度センサーを2本設置し、滞留液量の上限から下限の範囲内に液面が維持されるようにセットした。
【0037】
(重合体乾燥物の製造)
回転ドラムに蒸気を導入し、該ドラムの伝熱面の温度を140℃にした。回転ドラムを1.5rpmの速度で定速回転させ、フィードロールの外周部の周速を回転ドラムの外周部の周速となるようにフィードロールを回転させた。60℃に調整した上記ポリビニルピロリドン水溶液を給液ノズルから各フィードロールへ給液し、回転ドラムの単位加熱面積当り28kg/(m2・hr)の供給速度で加熱面に塗布および乾燥させた。第4のフィードロール(最下流のフィードロール)の直下流側に形成された膜のロール幅方向の温度分布を放射型非接触温度計(株式会社キーエンス製、IT2−60)で測定したところ、幅方向における最高温度は124℃、最低温度は116℃、最高温度と最低温度との差ΔTは8℃であった。次いで、乾燥物をスクレーパーで掻き取ることにより、シート状のポリビニルピロリドン乾燥物を得た。なお、乾燥は、発生した蒸気を回転ドラムに取り付けたフィードロールの上方から排出し、かつ、回転ドラムの下方から外気を吸気しながら行った。得られたシート状乾燥物(長さ:300mm、幅:1000mm)を、幅方向の長さを3等分するように分割し、右部試料、中央部試料、および左部試料を得た。
【0038】
[比較例1]
(重合体乾燥物の製造)
第4のフィードロールの左端から250mmの位置に給液ノズルをさらに設置したこと以外は、実施例1と同様にしてシート状のポリビニルピロリドン乾燥物を得た。得られたシート状乾燥物(長さ:300mm、幅:1000mm)を、幅方向の長さを3等分するように分割し、右部試料、中央部試料、および左部試料を得た。第4のフィードロール(最下流のフィードロール)の直下流側に形成された膜のロール幅方向の温度分布を放射型非接触温度計(株式会社キーエンス製、IT2−60)で測定したところ、幅方向における最高温度は125℃、最低温度は99℃、最高温度と最低温度との差ΔTは26℃であった。
【0039】
実施例1および比較例1で得られた各試料の水分含有量を以下の測定方法により測定した。結果を表1に示す。
【0040】
[水分含有量の測定方法]
25℃−30%RH雰囲気下の室内で、各試料を卓上粉砕機にて粉砕した後、1,000μmの目開きの篩を通過させて分級した。次いで、該分級粉体約2gをアルミカップにすばやく採取し、重量を測定した。該粉体を150℃に調整した熱風乾燥機中で1時間静置した。その後、乾燥機からアルミカップを取り出し、直ちに蓋をしてデシケーター中で1時間静置し、冷却した。次いで、乾燥後の粉体の重量を測定した。乾燥前の粉体の重量から乾燥後の粉体の重量を減じた値を乾燥前の粉体の重量で除して100を乗じた値を水分含有量(重量%)とした。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示されるとおり、本発明によれば、乾燥が十分であり、水分含有量が均一な重合体乾燥物が得られる。このような効果が奏される理由としては、各フィードロールへの重合体溶液の給液位置が不整列である多段ロールフィード方式または重合体溶液をカーテン状に供給し得る給液手段を備えた多段ロールフィード方式を採用した結果、均一な乾燥が行われることが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、十分に乾燥した重合体乾燥物および/または均一に乾燥した重合体乾燥物が得られることから、重合体の製造分野において好適に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明で好ましく用いられるドラムドライヤーの一例の概略斜視図である。
【図2】本発明で好ましく用いられるドラムドライヤーの概略断面図である。
【図3】本発明で好ましく用いられるドラムドライヤーの別の一例の概略斜視図である。
【符号の説明】
【0045】
100 ドラムドライヤー
10 回転ドラム
20〜23 重合体溶液の供給手段(フィードロール)
30 掻取手段
40 粉砕手段
50〜53 給液手段
60 重合体乾燥物
70 重合体溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフィードロールを備えた加熱面密着型乾燥機を用いて重合体溶液を乾燥させる重合体乾燥物の製造方法であって、
最下流のフィードロールの直下流側に形成された膜のロール幅方向における最高温度と最低温度との差が15℃以下である、製造方法。
【請求項2】
隣接する2つのフィードロールへの重合体溶液の給液位置が不整列である、請求項1記載の重合体乾燥物の製造方法。
【請求項3】
最下流側の2つのフィードロールへの重合体溶液の給液位置が不整列である、請求項1または2記載の重合体乾燥物の製造方法。
【請求項4】
すべてのフィードロールへの重合体溶液の給液位置が不整列である、請求項1から3のいずれかに記載の重合体乾燥物の製造方法。
【請求項5】
フィードロールの幅方向全体にわたってカーテン状に重合体溶液を給液する、請求項1記載の重合体乾燥物の製造方法。
【請求項6】
40〜70℃の重合体溶液を各フィードロールへ給液する、請求項1から5のいずれかに記載の重合体乾燥物の製造方法。
【請求項7】
前記重合体がビニルピロリドン系重合体である、請求項1から6のいずれかに記載の重合体乾燥物の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−70707(P2010−70707A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242078(P2008−242078)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】