説明

重合体含有組成物、セメント混和剤及びセメント組成物

【課題】各種用途に有用であり、特にセメント混和剤に用いることによって、セメント組成物におけるセメント分散性及びセメント保持性をバランスよく発現し、また、セメント組成物の状態を良好にでき、更には、セメント混和剤の添加量を低減することができることから、セメント混和剤として好適に用いることができるポリアルキレングリコール系重合体を含む重合体含有組成物を提供する。
【解決手段】ビニル系単量体由来の構造単位における酸量が異なる2種以上のポリアルキレングリコール系重合体(A)とポリアルキレングリコール系重合体(B)とを含む重合体含有組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアルキレングリコール鎖を有する重合体を含む重合体含有組成物、及び、それを用いて得られるセメント混和剤、セメント組成物に関する。より詳しくは、セメント混和剤を始め、ソフトセグメントとして接着剤やシーリング剤用途、柔軟性付与成分用途、洗剤ビルダー用途等の様々な用途に用いられるポリアルキレングリコール系重合体を含む重合体含有組成物、及び、それを用いて得られるセメント混和剤、セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアルキレングリコール系重合体を含む重合体含有組成物は、そのポリアルキレングリコール系重合体における、ポリアルキレングリコール鎖の鎖長や構成するアルキレンオキシドを適宜調整することによって親水性や疎水性、立体反発等の特性が付与され、ソフトセグメントとして接着剤やシーリング剤用途、柔軟性付与成分用途、洗剤ビルダー用途等の様々な用途に広く用いられている。そして近年では、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物に添加されるセメント混和剤用途が検討されている。このようなセメント混和剤は、通常、減水剤等として用いられ、セメント組成物の流動性を高めてセメント組成物を減水させることにより、硬化物の強度や耐久性等を向上させる作用を発揮させることを目的として使用される。減水剤としては、従来、ナフタレン系等の減水剤が使用されていたが、ポリアルキレングリコール鎖がその立体反発によりセメント粒子を分散させる分散基として作用することができるため、ポリアルキレングリコール鎖を含有するポリカルボン酸系減水剤が高い減水作用を発揮するものとして新たに提案され、最近では高性能AE減水剤として多くの使用実績を有するに至っている。
【0003】
従来のポリアルキレングリコール鎖を含有する重合体に関し、例えば、両末端又は片末端に二重結合を有するポリエーテルにチオカルボン酸を付加させた後、生成するチオエステル基を分解して得られる両末端又は片末端にメルカプト基を有するポリエーテル(例えば、特許文献1参照。)や、洗剤ビルダーに用いる生分解性水溶性重合体として、メルカプト基を有する化合物をポリエーテル化合物にエステル反応で導入した変性ポリエーテル化合物に対し、モノエチレン性不飽和単量体成分をブロック又はグラフト重合させて得られる重合体が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。また、ポリアルキレングリコール鎖と、該鎖の少なくとも一端に結合した不飽和単量体由来の構成単位とを含むポリマー単位を有する新規な重合体が、特にセメント混和剤として有用である旨が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。更には、ポリアルキレングリコール鎖が活性水素を3個以上有する化合物の残基に結合し、かつ、そのポリアルキレングリコール鎖の他末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、ビニル系単量体成分由来の構成単位を含む重合体の主鎖末端と有機残基を介して結合した構造を有する多分岐ポリアルキレングリコール系重合体が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−13141号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開平7−109487号公報(第1−2頁)
【特許文献3】特開2007−119736号公報(第1−2頁)
【特許文献4】特開2010−65145号公報(第1−2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、ポリアルキレングリコール鎖を含有する重合体について様々な検討が行われている。しかしながら、従来のポリアルキレングリコール系重合体では未だ、昨今要望される極めて高度のセメント分散性(減水性)を充分に発揮できる程度には至っていないものが多く、減水性以外のセメント混和剤に求められる性質を含め、セメント混和剤用途として好適に用いることのできるものとするためには工夫の余地があった。したがって、セメント混和剤の用途にも好適なものとすることによって、より多くの分野において有用なものとするためには工夫の余地があるものであった。
また、従来のポリアルキレングリコール鎖を含有する重合体を用いたセメント混和剤においては、セメント分散能力を充分なものとするためにはその添加量を多くしなければならず、経済的に不利益が生じるという問題点も残されていた。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、各種用途に有用であり、特にセメント混和剤に用いることによって、セメント組成物におけるセメント分散性及びセメント保持性をバランスよく発現し、また、セメント組成物の状態を良好にでき、更には、セメント混和剤の添加量を低減することができることから、セメント混和剤として好適に用いることができるポリアルキレングリコール系重合体を含む重合体含有組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ポリアルキレングリコール鎖を含有する重合体について種々検討し、重合体の主鎖にポリアルキレングリコール鎖とビニル系単量体由来の構造単位とを有するポリアルキレングリコール系重合体に着目した。そして、ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接結合又は有機残基を介してビニル系単量体由来の構造単位の主鎖末端と結合した構造を有するものとし、更に、上記ビニル系単量体が酸基を有する単量体を含むものとし、ビニル系単量体由来の構造単位における酸量が異なる2種以上のポリアルキレングリコール系重合体(A)とポリアルキレングリコール系重合体(B)とを含むような重合体含有組成物の形態とすると、例えば、上記ポリアルキレングリコール系重合体1種類をセメント混和剤として用いた場合に比べて、そのような重合体含有組成物をセメント混和剤として用いた場合には、酸量の多い方の重合体に起因して、セメント組成物の分散性をより向上させ、酸量の少ない方の重合体に起因して、セメント組成物のセメント保持性をより向上させることが可能となり、これらの作用効果が相まって、セメント組成物を作業しやすい良好な状態とすることができることを見出した。そしてまた、セメント混和剤をこのような形態とすることにより、セメント組成物の分散性を向上させることができることから、該セメント混和剤の添加量を低減することも可能となるものである。このように、上記酸量の異なる特定のポリアルキレングリコール系重合体を2種以上含む重合体含有組成物の形態とすることによって、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、重合体の主鎖にポリアルキレングリコール鎖とビニル系単量体由来の構造単位とを有する重合体を含む重合体含有組成物であって、上記重合体は、上記ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接結合又は有機残基を介して、上記ビニル系単量体由来の構造単位の主鎖末端と結合した構造を有し、上記ビニル系単量体は、酸基を有する単量体を必須として含み、上記重合体含有組成物は、ビニル系単量体由来の構造単位における酸量が異なる2種以上のポリアルキレングリコール系重合体(A)とポリアルキレングリコール系重合体(B)とを含む重合体含有組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の重合体含有組成物は、ポリアルキレングリコール系重合体を含むものであり、該重合体は、ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接結合又は有機残基を介してビニル系単量体由来の構造単位の主鎖末端と結合した構造を有し、該ビニル系単量体は、酸基を有する単量体を含むものである。
本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体の構造については、後述する。
以下では、本発明における、ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接結合又は有機残基を介してビニル系単量体由来の構造単位の主鎖末端と結合した構造を有し、該ビニル系単量体は、酸基を有する単量体を含むポリアルキレングリコール系重合体を「重合体(i)」、そのポリアルキレングリコール鎖が直接結合又は有機残基を介して結合することになるビニル系単量体由来の構造単位を形成する重合体を「重合体(ii)」ともいう。
【0010】
上記重合体含有組成物は、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)における酸量が異なる2種以上の重合体(i)を含むものであり、そのうち上記酸量の異なっている2種類の重合体(i)において、酸量のより多い方をポリアルキレングリコール系重合体(A)、より少ない方をポリアルキレングリコール系重合体(B)とすると、上記重合体含有組成物は、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)における酸量が異なる2種以上のポリアルキレングリコール系重合体(A)とポリアルキレングリコール系重合体(B)とを含むものということができる。ここで、2種以上の重合体を含むとは、特定の性質を有することにより1つの重合体であると評価されるものが2種以上含まれていることを表している。
以下においては、重合体含有組成物が含む2種類の重合体(i)のうち、酸量のより多い方をポリアルキレングリコール系重合体(A)、少ない方をポリアルキレングリコール系重合体(B)とする。
なお、本明細書においては、上記ビニル系単量体由来の構造単位(BL)における酸量を単に「酸量」ともいう。
【0011】
上記重合体含有組成物は、少なくとも2種類のポリアルキレングリコール系重合体(A)とポリアルキレングリコール系重合体(B)とを含んでいれば、更に、本発明の重合体(i)に該当し、上記重合体(A)及び(B)とは異なる構造を有するポリアルキレングリコール系重合体を1種以上含んでいてもよい。
上記重合体(A)及び(B)とは異なる構造を有するポリアルキレングリコール系重合体を含む場合、上記重合体(A)及び(B)とは異なる重合体の酸量は、重合体(A)又は(B)のいずれかの酸量と同じであってもよいし、いずれとも異なっていてもよい。すなわち、上記重合体含有組成物が、重合体(i)を3種類以上含む場合、組成物中に含まれる重合体(i)の酸量はそれぞれに異なっていてもよいし、酸量が同じ重合体(i)が少なくとも2種上記重合体含有組成物に含まれていてもよい。
【0012】
上記重合体含有組成物が、本発明の重合体(i)に該当するポリアルキレングリコール系重合体を3種類以上含む場合、重合体(A)及び(B)の合計の含有量は、重合体含有組成物に含まれる全重合体100質量%に対して、10質量%以上であることが好ましい。重合体含有組成物における重合体(A)及び(B)の合計の含有量がこのような範囲である重合体含有組成物をセメント混和剤として用いると、セメント組成物におけるセメント分散性及びセメント保持性をよりバランスよく発現することができ、また、セメント組成物の状態もより良好なものとすることが可能となる。重合体(A)及び(B)の合計の含有量としてより好ましくは、重合体含有組成物に含まれる全重合体100質量%に対して、30質量%以上であり、更に好ましくは、50質量%以上であり、最も好ましくは、70質量%以上である。
なお、重合体含有組成物が重合体(i)に該当するポリアルキレングリコール系重合体を3種類以上含む場合、これら3種類のうち、酸量の異なる任意の2種類のポリアルキレングリコール系重合体をポリアルキレングリコール系重合体(A)及び(B)とすることができる。本発明の重合体含有組成物においては、後述するように、ポリアルキレングリコール系重合体(A)と(B)との酸量の差が、当該重合体1g当たりの酸基のミリ当量数(meq/g)で0.1以上であるものが好ましいため、酸量の差がこのようなものとなる2種類のポリアルキレングリコール系重合体の組み合わせがあれば、それらをポリアルキレングリコール系重合体(A)と(B)とし、それらが上記含有量を満たすのが好ましい。
【0013】
上記重合体含有組成物は、少なくとも2種類のポリアルキレングリコール系重合体(A)とポリアルキレングリコール系重合体(B)とを含むものであるが、このようなポリアルキレングリコール系重合体以外のその他の重合体(本発明の重合体(i)に該当しない重合体)を含んでいてもよい。
このように、本発明の重合体含有組成物が、その他の重合体を含む場合、ポリアルキレングリコール系重合体(本発明の重合体(i))の合計の含有量は、重合体含有組成物に含まれる全重合体100質量%に対して、10質量%以上であることが好ましい。重合体含有組成物におけるポリアルキレングリコール系重合体の合計の含有量をこのような範囲とすることによって、ポリアルキレングリコール系重合体の有する減水性能等の特性を損なわずに発揮することのできる重合体含有組成物とすることができる。ポリアルキレングリコール系重合体の合計の含有量としてより好ましくは、重合体含有組成物に含まれる全重合体100質量%に対して、30質量%以上であり、更に好ましくは、50質量%以上であり、最も好ましくは、70質量%以上である。
【0014】
上記重合体含有組成物における、重合体(A)と、重合体(B)との含有比としては、1/99〜99/1(重合体(A)/重合体(B)(質量比))であることが好ましい。このような範囲であることによって、セメント組成物におけるセメント分散性及びセメント保持性を充分にバランスよくすることができ、また、セメント組成物の状態をも充分に良好なものとすることができる。重合体(A)と(B)との含有比としてより好ましくは、10/90〜90/10であり、更に好ましくは、20/80〜80/20である。
【0015】
上記酸量の多いポリアルキレングリコール系重合体(A)と酸量の少ないポリアルキレングリコール系重合体(B)とのビニル系単量体由来の構造単位における酸量の差は、該重合体1g当たりの酸基のミリ当量数(meq/g)で0.1以上であることが好ましい。酸量の差がこのような範囲である重合体含有組成物をセメント混和剤として用いると、セメント組成物におけるセメント分散性及びセメント保持性をよりバランスよく発現することができ、また、セメント組成物の状態もより良好なものとすることができる。酸量の差としてより好ましくは、0.2以上であり、更に好ましくは、0.3以上である。
上記酸量の差は、重合体(A)の酸量をA、重合体(B)の酸量をBとすると、A−Bとして表されるものである。
【0016】
上記ポリアルキレングリコール系重合体(A)のビニル系単量体由来の構造単位における酸量は、要求される性能によって1〜100モル%の間で任意に調整すればよい。セメント組成物におけるセメント分散性をより充分なものとする観点から、20モル%以上であることが好ましい。より好ましくは40モル%以上であり、さらに好ましくは50モル%以上であり、最も好ましくは60モル%以上である。またセメント組成物の硬化速度をより充分なものとする観点から、95モル%以下であることが好ましい。より好ましくは90モル%以下であり、さらに好ましくは85モル%以下であり、最も好ましくは80モル%以下である。
【0017】
上記ポリアルキレングリコール系重合体(B)のビニル系単量体由来の構造単位における酸量は、要求される性能によって0〜99モル%の間で任意に調整すればよい。セメント組成物における保持性(流動性の経時的な保持性)をより充分なものとする観点から、80モル%以下であることが好ましい。より好ましくは70モル%以下であり、さらに好ましくは65モル%以下であり、最も好ましくは60モル%以下である。またセメント組成物の分散性をより充分なものとする観点から、10モル%以上であることが好ましい。より好ましくは20モル%以上であり、さらに好ましくは30モル%以上であり、最も好ましくは35モル%以上である。
なお、上記ポリアルキレングリコール系重合体(A)及びポリアルキレングリコール系重合体(B)のビニル系単量体由来の構造単位における酸量は、それらの差(A−B)が上述した範囲となるように、適宜設定されるものである。
【0018】
上記ポリアルキレングリコール系重合体1g当たりの酸基のミリ当量数(meq/g)とは、上記ポリアルキレングリコール系重合体中のビニル系単量体由来の構造単位に含まれる酸基を未中和型に換算した該重合体1g当たりの酸基のミリ当量数(meq/g)を表し、当該重合体中のビニル系単量体由来の構造単位を構成する酸基を有する単量体に由来する酸基を未中和型に換算した該重合体1g当たりの酸基のミリ当量数(meq/g)に相当するものである。
【0019】
上記ポリアルキレングリコール系重合体中のビニル系単量体由来の構造単位を構成する酸基を有する単量体に由来する酸基を未中和型に換算した該重合体1g当りの酸基のミリ当量数(meq/g)は、例えば、以下のようにして算出することができる。
(算出例1)
上記酸基を有する単量体としてアクリル酸を用い、全ビニル系単量体成分/酸基を有する単量体=100/10(重量%)の組成比として共重合した場合、アクリル酸の分子量は72であるので、酸基を有する単量体に由来する酸基を未中和型に換算した該重合体1g当りの酸基のミリ当量数(meq/g)=(0.1/72)×1000=1.39となる。
【0020】
(算出例2)
上記酸基を有する単量体としてメタクリル酸ナトリウムを用い、全ビニル系単量体成分/酸基を有する単量体=100/10(重量%)の組成比として共重合した場合、メタクリル酸ナトリウムの分子量は108、メタクリル酸の分子量は86であるので、酸基を有する単量体に由来する酸基を未中和型に換算した該重合体1g当りの酸基のミリ当量数(meq/g)=(0.1×86/108)/(0.9+0.1×86/108)/86×1000=0.95となる。尚、重合時にはメタクリル酸を用い、重合後にメタクリル酸に由来するカルボキシル基を水酸化ナトリウムで完全に中和した場合も、この算出例と同様となる。
【0021】
(算出例3)
上記酸基を有する単量体としてマレイン酸ナトリウムを用い、全ビニル系単量体成分/酸基を有する単量体=100/10(重量%)の組成比として共重合した場合、マレイン酸ナトリウムの分子量は160、マレイン酸の分子量は116であり、かつ、マレイン酸は1分子中に2個のカルボキシル基を有する2価の酸であるので、酸基を有する単量体に由来する酸基を未中和型に換算した該重合体1g当りの酸基のミリ当量数(meq/g)=(0.1×116/160)/(0.9+0.1×116/160)/(116/2)×1000=1.29となる。
【0022】
なお、ポリアルキレングリコール系重合体として、(メタ)アクリル酸系単量体、すなわち、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸のいずれかを必須成分として含む単量体成分を重合して得られる重合体のカルボキシル基の少なくとも一部に対して、片末端に炭素原子数1以上の炭化水素基を有するアルコキシポリアルキレングリコールを直接エステル化して製造した重合体を用いる場合には、上述したように単量体に基づいて酸基のミリ当量数を算出することは困難であるので、該重合体のカルボキシル基の対イオン種、すなわち、後述する一般式(1)におけるMの種類を考慮した上で、該重合体の酸価を測定することによって上記ポリアルキレングリコール系重合体中のビニル系単量体由来の構造単位を構成する酸基を有する単量体に由来する酸基を未中和型に換算した該重合体1g当りの酸基のミリ当量数(meq/g)を算出することができる。
上記酸基としては、カルボキシル基、スルホン基等が好適である。
【0023】
上記ポリアルキレングリコール系重合体は、セメント組成物におけるセメント分散性をより充分なものとする観点から、その重量平均分子量(Mw)が、1000以上であることが好ましく、より好ましくは5000以上、更に好ましくは10000以上、特に好ましくは20000以上、最も好ましくは30000以上である。中でも、40000以上が最適である。またセメント組成物における作業性をより充分なものとする観点から、100万以下であることが好ましく、より好ましくは50万以下、更に好ましくは30万以下、特に好ましくは20万以下、最も好ましくは15万以下である。
上記ポリアルキレングリコール系重合体はまた、数平均分子量(Mn)が50万以下であることが好適である。より好ましくは25万以下、更に好ましくは15万以下、特に好ましくは10万以下、最も好ましくは75000以下である。Mnはまた、1000以上であることが好ましい。より好ましくは2500以上であり、更に好ましくは5000以上であり、特に好ましくは10000以上であり、最も好ましくは15000以上である。
上記ポリアルキレングリコール系重合体はまた、ピークトップ分子量(Mp)が100万以下であることが好適である。より好ましくは50万以下、更に好ましくは30万以下、特に好ましくは20万以下である。Mpはまた、1000以上であることが好ましい。より好ましくは5000以上であり、更に好ましくは10000以上であり、特に好ましくは20000以上である。
なお、上記重量平均分子量、数平均分子量及びピークトップ分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という)によるポリエチレングリコール換算により測定することができ、以下のような測定条件により測定することができる。
【0024】
〔重量平均分子量測定条件〕
装置:Waters Alliance(2695);
解析ソフト:Waters社製、Empowerプロフェッショナル+GPCオプション;
使用カラム:東ソー社製、TSK guard columns SWXL+TSKgel G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL;
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters社製 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters社製 2996);
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶解し、更に酢酸でpH6.0に調整した溶液を使用した;
較正曲線作成用標準物質:ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp):272500、219300、107000、50000、24000、12600、7100、4250、1470);
較正曲線:上記ポリエチレングリコールのMp値と溶出時間とを基礎にして3次式で作成した;
流量:1.0mL/min;
カラム温度:40℃;
測定時間:45分;
試料液注入量:100μL(試料濃度:0.5質量%)。
【0025】
次に、本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体(重合体(i))の構造について説明する。
本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体は、重合体の主鎖にポリアルキレングリコール鎖とビニル系単量体由来の構造単位とを有し、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接結合又は有機残基を介してビニル系単量体由来の構造単位(BL)の主鎖末端と結合した構造を有し、該ビニル系単量体は、酸基を有する単量体を必須として含むものである。なお、上記ポリアルキレングリコール系重合体は、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)、及び、該ポリアルキレングリコール鎖と直接結合又は有機残基を介して結合するビニル系単量体由来の構造単位(BL)を有する限り、その他の構造部位を有していてもよい。
【0026】
上記ポリアルキレングリコール鎖(PAG)とビニル系単量体由来の構造単位(BL)との間の直接結合又は有機残基をYとすると、本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体は、その構造がポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位から構成されるもの(以下、重合体(i−1)ともいう)と、更に水素原子以外のその他の構造部位とを有するもの(以下、重合体(i−2)ともいう)とに分けることができる。
ポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位から構成される重合体(i−1)としては、例えば、以下のような構造のものがある。
【0027】
下記一般式(a);
(BL)−Y−(PAG)−Y−(BL) (a)
で表されるように、ポリアルキレングリコール鎖の両端に直接結合又は有機残基を介して上記重合体(ii)が結合した形態、
下記一般式(b);
(PAG)−Y−(BL) (b)
で表されるように、ポリアルキレングリコール鎖の一端に直接結合又は有機残基を介して上記重合体(ii)が結合した形態、
下記一般式(c);
(PAG)−Y−(BL)−Y−(PAG) (c)
で表されるように、上記重合体(ii)の両端に直接結合又は有機残基を介してポリアルキレングリコール鎖が結合した形態、
下記一般式(d);
−[(PAG)−Y−(BL)]− (d)
で表される繰り返し単位の繰り返しにより構成される形態等。なお、これら(a)〜(d)の重合体において、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)が重合体の構造の末端に位置する場合、該ポリアルキレングリコール鎖(PAG)は、末端に水素原子を有することになる。すなわち、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)の末端構造は、水酸基となる。
【0028】
以下では、上記一般式(a)〜(d)において「PAG」で表されるポリアルキレングリコール鎖を「ポリアルキレングリコール鎖(I)」ともいい、「BL」で表されるビニル系単量体由来の構造部位における、当該ビニル系単量体が、後述するように不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を含む場合の、該不飽和ポリアルキレングリコール系単量体の有するポリアルキレングリコール鎖を「ポリアルキレングリコール鎖(II)」ともいう。なお、ポリアルキレングリコール鎖(I)及び(II)は、実質的に直鎖状であることが好適である。
なお、本発明の重合体含有組成物が、重合体(i)に該当するポリアルキレングリコール系重合体を3種類以上含む場合、ポリアルキレングリコール鎖(I)及び(II)は、それぞれ同一であっても良いし、異なっていても良い。
【0029】
上記ポリアルキレングリコール鎖(I)としては、炭素数2以上のアルキレンオキシドから構成されるもの(ポリアルキレンオキシド)であればよく、該アルキレンオキシドとしては、炭素数2〜18のアルキレンオキシドが好適である。より好ましくは、炭素数2〜8のアルキレンオキシドであり、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、トリメチルエチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラメチルエチレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、オクチレンオキシド等が挙げられる。また、ジペンタンエチレンオキシド、ジヘキサンエチレンオキシド等の脂肪族エポキシド;トリメチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、オクチレンオキシド等の脂環エポキシド;スチレンオキシド、1,1−ジフェニルエチレンオキシド等の芳香族エポキシド等を用いることもできる。
【0030】
上記ポリアルキレングリコール鎖(I)を構成するアルキレンオキシドとしては、本発明の重合体含有組成物に求められる用途等に応じて適宜選択することが好ましく、例えば、セメント混和剤成分の製造のために用いる場合には、セメント粒子との親和性の観点から、炭素数2〜8程度の比較的短鎖のアルキレンオキシド(オキシアルキレン基)が主体であることが好適である。より好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2〜4のアルキレンオキシドが主体であることであり、更に好ましくは、エチレンオキシドが主体であることである。
【0031】
ここでいう「主体」とは、ポリアルキレングリコール鎖(I)が2種以上のアルキレンオキシドにより構成されるときに、全アルキレンオキシドの存在数において、大半を占めるものであることを意味する。「大半を占める」ことを全アルキレンオキシド100モル%中のエチレンオキシドのモル%で表すとき、50〜100モル%が好ましい。これにより、上記重合体(i)がより高い親水性を有することとなる。より好ましくは60モル%以上であり、更に好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上である。
【0032】
上記ポリアルキレングリコール鎖(I)としてはまた、その一部に、より疎水性の高い炭素数3以上のオキシアルキレン基を含むものであってもよい。このような疎水性基が導入されると、セメント混和剤(分散剤)として使用した場合、水溶液中でポリアルキレングリコール鎖同士が軽い疎水的相互作用を示すことにより、セメント組成物の粘性が調整され、作業性が改善されることがあるためである。炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入する場合、その導入量としては、例えば、ポリアルキレングリコール鎖を構成する全オキシアルキレン基(アルキレングリコール単位)100モル%に対し、充分な水溶性を保つためには、50モル%以下であることが好適である。より好ましくは25モル%以下であり、更に好ましくは10モル%以下である。また、作業性の改善のために、1モル%以上であることが好ましい。より好ましくは2.5モル%以上であり、更に好ましくは5モル%以上である。
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、製造の容易さの観点から、プロピレンオキシド基及びブチレンオキシド基が好ましく、中でも、プロピレンオキシド基がより好適である。
なお、上記重合体(i)に求められる用途によっては、炭素数3以上のアルキレンオキシドを含まない態様が好ましい場合もある。
【0033】
上記ポリアルキレングリコール鎖(I)が、炭素数2のオキシエチレン基と炭素数3以上のオキシアルキレン基とから構成されるものである場合、これらの配列はランダムであってもブロックであってもよいが、ブロック配列にすると、ランダム配列に比較して、親水性ブロックの親水性はより強く発現され、疎水性ブロックの疎水性はより強く発現されるようであり、結果として、セメント組成物の分散性や作業性がより改善されるため好適である。特に、(炭素数2のオキシエチレン基)−(炭素数3以上のオキシアルキレン基)−(炭素数2のオキシエチレン基)のように、A−B−Aブロック状に配列することが好ましい。
【0034】
ここで、「PAG」で表されるポリアルキレングリコール鎖(I)と、「BL」で表されるビニル系単量体由来の構造単位とは、「Y」で表される構造によっては加水分解により切断されることがある。耐加水分解性の向上が必要な場合、ポリアルキレングリコール鎖の末端に炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入することが好ましい。
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシスチレン基、アルキルグリシジルエーテル残基等が挙げられる。中でも、製造の容易さからオキシプロピレン基、オキシブチレン基が好ましい。
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基の導入量としては、求められる耐加水分解性の程度によるが、ポリアルキレングリコール鎖(I)の両末端に対して、導入量が50モル%以上であることが好ましくい。より好ましくは100モル%以上であり、更に好ましくは150モル%以上であり、特に好ましくは200モル%以上である。
【0035】
また耐加水分解性の向上には、上記ポリアルキレングリコール鎖(I)の末端が二級アルコール残基であることが好ましい。ポリアルキレングリコール鎖(I)の末端に二級アルコール基を導入するには通常用いられる方法を用いればよいが、例えば、ポリアルキレングリコール鎖(I)の原料となるポリアルキレングリコールに、炭素数3以上のアルキレンオキシドを付加すればよい。この付加反応の際には、二級アルコール基の導入率を高めるために、触媒としてアルカリ金属、アルカリ土類金属及びそれらの酸化物又は水酸化物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を用いることが好ましい。より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムであり、最も好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。
また付加反応の際の反応温度は、二級アルコール基の導入率を高めるために50〜200℃であることが好ましい。より好ましくは70〜170℃、更に好ましくは90〜150℃、特に好ましくは100〜130℃である。
【0036】
上記ポリアルキレングリコール鎖(I)におけるアルキレンオキシドの平均繰り返し数n(オキシアルキレン基の平均付加モル数)としては、1〜1000であることが好適である。1以上の数とすることにより、上記重合体(i)にポリアルキレングリコール鎖(I)に基づく性能を充分に発揮させることが可能となり、また、nが1000を超える場合には、上記重合体(i)を製造するために使用する原料化合物の粘性が増大したり、反応性が充分とはならない等、作業性の点で好適なものとはならないおそれがある。上記平均繰り返し数の下限値としては、より好ましくは5、更に好ましくは7、特に好ましくは10であり、上限値としては、より好ましくは800であり、更に好ましくは600である。
なお、上記アルキレンオキシドの平均繰り返し数n(オキシアルキレン基の平均付加モル数)とは、上記重合体(i)が有するポリアルキレングリコール鎖1モル中において付加しているアルキレンオキシドのモル数の平均値を意味する。
【0037】
上記Yは、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)とビニル系単量体由来の構造単位(BL)との間の直接結合又は有機残基を表すが、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)とビニル系単量体由来の構造単位(BL)との結合を容易にすることができる点で、有機残基であることが好ましい。より好ましくは、分子量が1000以下の有機残基である。分子量が1000を超えると、該基自体が加水分解し易くなり、安定的に重合体(ii)とポリアルキレングリコール鎖とを結合することができないおそれがあり、また、該基の導入が困難になり、経済性が損なわれるおそれがある。より好ましくは500以下であり、更に好ましくは300以下である。
【0038】
上記有機残基としてはまた、硫黄原子を含むものであることが好適であり、具体的には、例えば、−S−Y−COO−、−S−Y−CO−、−S−Y−CO−NH−、−S−Y−CO−NH−CH−CH−、−S−Y−、−S−Y−O−、−S−Y−N−、−S−Y−S−等であることが好ましい。ここで、Yは、2価の有機残基であり、好ましくは、炭素数1〜18の直鎖状、分岐状又は環状のアルキレン基や、炭素数6〜11の芳香族基(フェニル基、アルキルフェニル基、ピリジニル基、チオフェン、ピロール、フラン、チアゾール等)等であって、例えば、水酸基、アミノ基、アセチルアミノ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、ハロゲン基、スルホニル基、ニトロ基、ホルミル基等の置換基で一部置換されていてもよい基である。
このように上記有機残基が硫黄原子を有する場合には、該硫黄原子を介して上記重合体(ii)の主鎖末端とが結合することが好適である。このような形態では、後述するように、その製造時に、硫黄原子の反応性に起因して硫黄原子を介して単量体が次々に付加し、重合体(ii)部位を形成することになるため、製造に有利である。
【0039】
上記硫黄原子を含む有機残基の中でも、カルボニル基(−C(O)−)又はアミド基(−N(H)−C(O)−)を含むものが好適であり、このように上記硫黄原子を含む有機残基が、カルボニル基又はアミド基を含む形態もまた、本発明の好適な形態の1つである。このような形態は、製造が容易であり、しかも低コストで製造できるため、工業生産的に有用である。
この場合、上記有機残基とポリアルキレングリコール鎖との結合部位においては、カルボニル基(アミド基中の−CO基を含む)に含まれる炭素原子と、ポリアルキレングリコール鎖の末端酸素原子とが隣接することが好適である。すなわち、上記重合体(i)は、ポリアルキレングリコール鎖とYとがエステル結合又はアミド結合を介して結合したものであることが好ましい。
【0040】
上記ビニル系単量体由来の構造単位(BL)を形成する重合体(ii)としては、1種の重合体であってもよいし、2種以上の重合体の混合物であってもよいが、それを形成するビニル系単量体成分は、酸基を有する単量体を必須に含むものである。すなわち、上記重合体(ii)は、酸基を有する単量体由来の構造単位を含むものである。なお、上記酸基を有する単量体由来の構造単位とは、重合反応によって酸基を有する単量体の有する重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
上記酸基を有する単量体は、ビニル系単量体であって、上述した酸基を分子内に1つ以上有していればよい。1分子内に2個以上の酸基を有する場合には、該酸基は同じ種類であってもよく、異なる種類であってもよい。また、上記酸基を有する単量体としては、酸基の種類が同じである単量体(1分子内に2個以上の酸基を有する場合にはその組合せが同じである単量体)のみを用いてもよく、酸基の種類(又は組合せ)が異なる単量体を併用してもよい。
また、本発明の重合体含有組成物が、重合体(i)に該当するポリアルキレングリコール系重合体を3種類以上含む場合、上記酸基を有する単量体(又は組合せ)は、それぞれ同一であっても良いし、異なっていても良い。
【0041】
上記酸基を有する単量体が有する酸基としては、カルボキシル基、スルホン基、リン酸基が好適であるが、中でも、カルボキシル基であることが特に好ましい。すなわち、上記ビニル系単量体は、不飽和カルボン酸系単量体を必須として含むこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。これにより、ポリアルキレングリコール系重合体の親水性が向上され、ポリアルキレングリコール系重合体を含む重合体含有組成物を、各種の用途により有用なものとすることが可能となる。また、セメント混和剤等の用途に使用する場合には、分散性能をより高めるため、ビニル系単量体は、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を含むことが好適である。すなわち、ビニル系単量体は、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を必須として含むこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。この場合には、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体に由来するポリアルキレングリコール鎖の立体反発により、セメント粒子を分散させる性能が向上するものと考えられる。より好ましくは、上記ビニル系単量体が、不飽和カルボン酸系単量体(a)(以下、単に「単量体(a)」ともいう。)と不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)(以下、単に「単量体(b)」ともいう。)とを含む形態である。このような形態とすることによって、これらの相乗効果によりセメント粒子を極めて効果的に分散させることができるものと考えられる。すなわち、上記ビニル系単量体由来の構造単位が、不飽和カルボン酸系単量体(a)由来の構造単位と不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)由来の構造単位とを含む形態であることが好適である。
【0042】
上記不飽和カルボン酸系単量体(a)の含有量は、必要とされる性能に応じて適宜調整すればよい。単量体(a)由来の性能を充分に発揮する観点から、全ビニル系単量体100質量%に対し、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましく、7.5質量%以上が最も好ましい。また他のビニル系単量体の性能を充分に発揮する観点から、99質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましく、25質量%以下が最も好ましい。
【0043】
上記不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)の含有量は、必要とされる性能に応じて適宜調整すればよい。単量体(b)由来の性能を充分に発揮する観点から、全ビニル系単量体100質量%に対し、1質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更に好ましく、60質量%以上が最も好ましい。また他のビニル系単量体の性能を充分に発揮する観点から、99質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が更に好ましく、80質量%以下が最も好ましい。
【0044】
上記不飽和カルボン酸系単量体(a)としては、例えば、下記一般式(1);
【0045】
【化1】

【0046】
(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子、メチル基又は(CHCOOMを表す。なお、−(CHCOOMは、−COOM又は他の−(CHCOOMと無水物を形成していてもよい。xは、0〜2の整数である。M及びMは、同一若しくは異なって、水素原子、一価金属、二価金属、三価金属、第四級アンモニウム塩基又は有機アミン塩基を表す。)で表される化合物が好適である。
なお、上記単量体(a)由来の構造単位とは、重合反応によって上記一般式(1)で表される単量体(a)の重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
【0047】
上記一般式(1)において、M及びMで表される金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の一価金属原子;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子等の二価金属原子;アルミニウム、鉄等の三価金属原子が挙げられる。また、有機アミン塩基としては、例えば、エタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基や、トリエチルアミン基等が挙げられる。
【0048】
上記一般式(1)で表される不飽和カルボン酸系単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系単量体;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のジカルボン酸系単量体;これらのカルボン酸の無水物又は塩(例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、三価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩)等が挙げられる。中でも、重合性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸及びこれらの塩が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの塩がより好適である。単量体(a)としては、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0049】
上記不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)としては、例えば、下記式(2);
【0050】
【化2】

【0051】
(式中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。Rは、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。AOは、同一若しくは異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基の1種又は2種以上を表す。なお、AOで表されるオキシアルキレン基が2種以上ある場合、当該基は、ブロック状に導入されていてもよく、ランダム状に導入されていてもよい。yは、0〜2の整数である。zは、0又は1である。rは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。)で表される化合物が好適である。
なお、上記単量体(b)由来の構造単位とは、重合反応によって上記一般式(2)で表される単量体(b)の重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
また、本発明の重合体含有組成物が、重合体(i)に該当するポリアルキレングリコール系重合体を3種類以上含む場合、上記不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(又は組合せ)は、それぞれ同一であっても良いし、異なっていても良い。
【0052】
上記一般式(2)において、Rで表される末端基のうち、炭素数1〜20の炭化水素基としては、炭素数1〜20の脂肪族アルキル基、炭素数3〜20の脂環式アルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基等が挙げられる。
上記Rで表される末端基としては、セメント混和剤用途に用いる場合には、セメント粒子の分散性の観点から親水性基であることが好適であり、具体的には、水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素基が好ましい。より好ましくは、水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基であり、更に好ましくは、水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基であり、特に好ましくは、水素原子又はメチル基である。
【0053】
また上記一般式(2)において、(AO)rで表されるポリアルキレングリコール鎖(II)は、主として炭素数2のオキシエチレン基(エチレンオキシド)から構成されるものであることが好適である。これにより、得られるビニル系単量体由来の構造単位が充分に親水性となり、本発明のポリアルキレングリコール系重合体に充分な水溶性及びセメント粒子の分散性能が付与されることとなる。
ここで、「主として」とは、例えば、ポリアルキレングリコール鎖(II)を構成する全オキシアルキレン基(アルキレングリコール単位)100モル%中のオキシエチレン基をモル%で表すとき、50〜100モル%となるものであることが好ましい。50モル%未満であると、オキシアルキレン基の親水性が充分とはならず、セメント粒子の分散性能を充分に付与することができないおそれがある。より好ましくは60モル%以上であり、更に好ましくは70モル%以上であり、特に好ましくは80モル%以上であり、最も好ましくは90モル%以上である。
【0054】
上記(AO)rで表されるポリアルキレングリコール鎖(II)としてはまた、その一部に、より疎水性の高い炭素数3以上のオキシアルキレン基を含むものであってもよい。このような疎水性基が導入されると、セメント混和剤(分散剤)として使用した場合、水溶液中でポリアルキレングリコール鎖同士が軽い疎水的相互作用を示すことにより、セメント組成物の粘性が調整され、作業性が改善されることがあるためである。炭素数3以上のオキシアルキレン基を導入する場合、その導入量としては、例えば、ポリアルキレングリコール鎖(II)を構成する全オキシアルキレン基(アルキレングリコール単位)100モル%に対し、充分な水溶性を保つためには、50モル%以下であることが好適である。より好ましくは25モル%以下であり、更に好ましくは10モル%以下である。また、作業性の改善のために、1モル%以上であることが好ましい。より好ましくは2.5モル%以上であり、更に好ましくは5モル%以上である。
上記炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、製造の容易さの観点から、プロピレンオキシド基及びブチレンオキシド基が好ましく、中でも、プロピレンオキシド基がより好適である。
なお、上記重合体(ii)に求められる用途によっては、炭素数3以上のアルキレンオキシドを含まない態様が好ましい場合もある。
【0055】
上記ポリアルキレングリコール鎖(II)が、炭素数2のオキシエチレン基と炭素数3以上のオキシアルキレン基とから構成されるものである場合、これらの配列はランダムであってもブロックであってもよいが、ブロック配列にすると、ランダム配列に比較して、親水性ブロックの親水性はより強く発現され、疎水性ブロックの疎水性はより強く発現されるようであり、結果として、セメント組成物の分散性や作業性がより改善されるため好適である。特に、(炭素数2のオキシエチレン基)−(炭素数3以上のオキシアルキレン基)−(炭素数2のオキシエチレン基)のように、A−B−Aブロック状に配列することが好ましい。
【0056】
上記一般式(2)におけるrは、1〜300の数であるが、300を超えると、製造上の不具合が生じるおそれがあり、また、セメント混和剤として使用した際にセメント組成物の粘性が高くなって作業性が充分とはならないおそれがある。製造上の観点から、rは300以下が適当であり、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、更に好ましくは100以下、特に好ましくは75以下、最も好ましくは50以下である。また、セメント粒子を強く分散させる観点から、rは4以上であることが好ましい。より好ましくは6以上、更に好ましくは10以上、特に好ましくは25以上である。
【0057】
上記一般式(2)で表される不飽和ポリアルキレングリコール系単量体の具体例としては、例えば、不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物、ポリアルキレングリコールエステル系単量体が挙げられる。
上記不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物としては、不飽和基を有するアルコールにポリアルキレングリコール鎖が付加した構造を有する化合物であればよい。
上記ポリアルキレングリコールエステル系単量体としては、不飽和基とポリアルキレングリコール鎖とがエステル結合を介して結合された構造を有する単量体であればよく、不飽和カルボン酸ポリアルキレングリコールエステル系化合物が好適であり、中でも、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好適である。
【0058】
上記不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物としては、例えば、ビニルアルコールアルキレンオキシド付加物、(メタ)アリルアルコールアルキレンオキシド付加物、3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、イソプレンアルコール(3−メチル−3−ブテン−1−オール)アルキレンオキシド付加物、3−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−3−ブテン−2−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物が好適である。重合時の反応性と経済性の観点から、好ましくは(メタ)アリルアルコールアルキレンオキシド付加物、3−メチル−3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物である。
単量体(b)としては、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0059】
上記ビニル系単量体由来の構造単位を得るために使用されるビニル系単量体成分にはまた、上述した不飽和カルボン酸系単量体(a)及び不飽和ポリアルキレングリコール系単量体(b)以外のその他の共重合可能な単量体(以下、「単量体(c)」ともいう。)を含んでいてもよい。
この場合、上記ビニル系単量体由来の構造単位は、更に上記単量体(c)由来の構造単位を含むことになるが、上記単量体(c)由来の構造単位とは、重合反応によって単量体(c)の有する重合性二重結合が開いた構造(二重結合(C=C)が、単結合(−C−C−)となった構造)に相当する。
上記単量体(c)を用いる場合、その含有量としては、全ビニル系単量体成分100質量%に対し、30質量%以下とすることが好適である。より好ましくは25質量%以下であり、更に好ましくは20質量%以下である。
【0060】
上記単量体(c)の具体例としては、例えば、以下の化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素原子数23〜30のアルコールとのハーフエステル、ジエステル類;上記不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素原子数23〜30のアミンとのハーフアミド、ジアミド類;上記アルコールやアミンに炭素原子数2〜18のアルキレンオキシドを1〜500モル付加させたアルキル(ポリ)アルキレングリコールと上記不飽和ジカルボン酸系単量体とのハーフエステル、ジエステル類;上記不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素原子数5〜18のグリコール若しくはこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフエステル、ジエステル類;マレアミン酸と炭素原子数5〜18のグリコール若しくはこれらのグリコールの付加モル数2〜500のポリアルキレングリコールとのハーフアミド類;
【0061】
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類;トリエチレングリコールジマレート、ポリエチレングリコールジマレート等の(ポリ)アルキレングリコールジマレート類;ビニルスルホネート、(メタ)アリルスルホネート、2−(メタ)アクリロキシエチルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホネート、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホフェニルエーテル、3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシスルホベンゾエート、4−(メタ)アクリロキシブチルスルホネート、(メタ)アクリルアミドメチルスルホン酸、(メタ)アクリルアミドエチルスルホン酸、2−メチルプロパンスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、並びに、それらの一価金属塩、二価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩;
【0062】
メチル(メタ)アクリルアミドのように不飽和モノカルボン酸類と炭素原子数1〜30のアミンとのアミド類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン等のビニル芳香族類;1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールモノ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールモノ(メタ)アクリレート類;ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン等のジエン類;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアルキルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;(メタ)アクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等の不飽和シアン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エステル類。
【0063】
本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体のうち、その構造がポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位に加え、更に水素原子以外のその他の構造部位を有する重合体(i−2)としては、下記一般式(3);
【0064】
【化3】

【0065】
(式中、Xは、活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Yは、同一若しくは異なって、直接結合又は有機残基を表す。Zは、同一又は異なって、酸基を有するビニル系単量体由来の構造単位である。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。mは、1〜50の整数である。)で表されるものが好ましい。すなわち、上記ポリアルキレングリコール系重合体が、上記一般式(3)で表されることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0066】
上記一般式(3)において、AOで表されるオキシアルキレン基の具体例、及び、好ましいものは、上述したポリアルキレングリコール鎖(PAG)を構成する炭素数2〜18のアルキレンオキシドと同様である。
また、Yで表される直接結合又は有機残基、及び、Zで表される酸基を有するビニル系単量体由来の構造単位としては、それぞれ、上述したY、及び、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)を形成する重合体(ii)と同様である。またmは、上記Xで表される活性水素を1又は2個以上有する化合物に結合する、直接結合又は有機残基を介して上記ビニル系単量体由来の構造単位が結合したポリアルキレングリコール鎖の数を表す。
【0067】
上記一般式(3)で表される重合体は、多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体と、多分岐構造を有さない非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体とを含む。ここでいう多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体とは、活性水素を3個以上有する化合物の活性水素を有する部位の少なくとも3つ以上に、ポリアルキレングリコール鎖を含有する重合鎖が結合し、該活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として、該重合鎖が放射線状に枝分かれした構造を意味し、非多分岐構造のポリアルキレングリコール系重合体とは、このような活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として放射線状に枝分かれした上記重合鎖を有さない構造を意味する。
なお、非多分岐構造のポリアルキレングリコール系重合体は、活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として上記重合鎖が放射線状に枝分かれした構造を有さないものであれば、例えば、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)が、ポリアルキレングリコール鎖を有する不飽和単量体を原料として用いて形成されたものである場合のように、主鎖から枝分かれした分岐構造を有するものであってもよい。
【0068】
上記非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体は、活性水素を1若しくは2個以上有する化合物の残基に、1又は2個のポリアルキレングリコール鎖が結合し、かつ、ポリアルキレングリコール鎖の他末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接結合又は有機残基を介して、ビニル系単量体由来の構造単位の主鎖末端と結合した構造を有するものである。この場合、非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体の構造は、(1)活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基にポリアルキレングリコール鎖が1つ結合し、該重合体は、活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基がポリアルキレングリコール系重合体の構造の末端に位置する構造のもの、(2)活性水素を2個以上有する化合物の残基にポリアルキレングリコール鎖が2つ結合し、該重合体は、2つのポリアルキレングリコール鎖の間に活性水素を2個以上有する化合物の残基が位置する構造のもの、のいずれかの構造を有するものとなる。
【0069】
上記(1)の形態の非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体は、活性水素を1個有する化合物の残基にポリアルキレングリコール鎖が1つ結合した構造のものであることが好ましい。また、上記(2)の形態の非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体は、活性水素を2個有する化合物の残基にポリアルキレングリコール鎖が2つ結合した構造のものであることが好ましい。
【0070】
上記多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体は、活性水素を3個以上有する化合物の残基にポリアルキレングリコール鎖が3個以上結合し、かつ、ポリアルキレングリコール鎖の他末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接結合又は有機残基を介して、ビニル系単量体由来の構造単位の主鎖末端と結合した構造を有するものである。
上記多分岐ポリアルキレングリコール系重合体は、多分岐構造を有するが、上述したように、多分岐構造とは、活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点としてポリアルキレングリコール鎖を含有する重合鎖が放射線状に枝分かれした構造であることを意味する。すなわち、活性水素を3個以上有する化合物の残基を基点として、そこからポリアルキレングリコール鎖及び有機残基を介して、上記重合体(ii)が結合した構造を意味する。この多分岐構造に起因する立体反発により、セメント粒子を分散させる性能が飛躍的に向上する。
本発明の重合体含有組成物が多分岐ポリアルキレングリコール系重合体を含む場合、該重合体が酸基を有することに起因して、また、多分岐構造による立体反発との相乗効果により、特にセメント分散性能、セメント保持性能に優れるものとなる。
【0071】
本発明の重合体含有組成物は、ビニル系単量体由来の構造単位における酸量が異なる2種以上のポリアルキレングリコール系重合体(A)とポリアルキレングリコール系重合体(B)とを含むものであり、ポリアルキレングリコール系重合体は、多分岐構造のもの、非多分岐構造のものがあるが、重合体(A)が多分岐構造のものであっても非多分岐構造のものであってもよく、重合体(B)が多分岐構造のものであっても非多分岐構造のものであってもよい。
【0072】
上記活性水素を有する化合物が、多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体の製造に用いられる場合、活性水素を有する化合物の活性水素数は、3個以上であることが必要であり、また、上記多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体を合成する際の合成容易性の観点から、50個以下であることが好適である。上記活性水素数の下限値としては、好ましくは4個であり、より好ましくは5個であり、また、上限値としては、より好ましくは20個であり、更に好ましくは10個である。
【0073】
上記活性水素を有する化合物の残基とは、活性水素を有する化合物から活性水素を除いた構造を有する基を意味し、該活性水素とは、アルキレンオキシドが付加できる水素を意味する。
活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基としては、具体的には、例えば、1価又は多価アルコールの水酸基から活性水素を除いた構造を有するアルコール残基、1価又は多価アミンのアミノ基から活性水素を除いた構造を有するアミン残基、1価又は多価イミンのイミノ基から活性水素を除いた構造を有するイミン残基、1価又は多価アミド化合物のアミド基から活性水素を除いた構造を有するアミド残基等が好適である。中でも、アミン残基、イミン残基及びアルコール残基が好ましい。これによって、各種用途に好適な化合物とすることが可能となる。
なお、活性水素を有する化合物残基の形態としては、鎖状、分岐状、三次元状に架橋された構造のいずれであってもよい。
【0074】
上記活性水素を有する化合物の残基の好ましい形態において、多価アミン(ポリアミン)としては、1分子中に平均3個以上のアミノ基を有する化合物であればよく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、2−エチルブチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジプロピルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、シクロブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ラウリルアミン等のアルキルアミン;アリルアミン等のアルキレンアミン;アニリン、ジフェニルアミン等の芳香族アミン;アンモニア、尿素、チオ尿素等の窒素化合物等のモノアミン化合物の1種又は2種以上を常法により重合して得られる単独重合体や共重合体等が好適である。このような化合物により、後述するポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の多価アミン残基が形成されることになる。更に、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン、テトラプロピレンペンタミン等であってもよく、これらのポリアミンでは、通常、構造中に第3級アミノ基の他、活性水素原子をもつ第1級アミノ基や第2級アミノ基(イミノ基)を有することになる。
これらの中でも、ポリアルキルアミンを用いることが好ましく、ポリアルキルアミンを構成するアルキルアミンとしては、ラウリルアミン等の炭素数8〜18のアルキルアミンが好適である。
【0075】
またポリアルキレンイミンとしては、1分子中に平均3個以上のイミノ基を有する化合物であればよく、例えば、エチレンイミン、プロピレンイミン、1,2−ブチレンイミン、2,3−ブチレンイミン、1,1−ジメチルエチレンイミン等の炭素数2〜8のアルキレンイミンの1種又は2種以上を常法により重合して得られる単独重合体や共重合体等が好適である。このような化合物により、後述するポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物のポリアルキレンイミン残基が形成されることになる。なお、ポリアルキレンイミンは重合により三次元に架橋され、通常、構造中に第3級アミノ基の他、活性水素原子を持つ第1級アミノ基や第2級アミノ基(イミノ基)を有することになる。
これらの中でも、上記多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体が奏する性能の観点から、エチレンイミンが主体を占めるポリアルキレンイミンであることがより好適である。
【0076】
この場合の「主体」とは、ポリアルキレンイミンが2種以上のアルキレンイミンにより形成されるときに、全アルキレンイミンの存在数において、大半を占めるものであることを意味する。本発明においては、ポリアルキレンイミン鎖を形成するアルキレンイミンにおいて、大半を占めるものがエチレンイミンであることにより、上記多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体の親水性が向上し、多くの用途に好適なものとなるという作用効果が充分に発揮されることから、上記作用効果が充分に発揮される程度に、ポリアルキレンイミン鎖(ポリアルキレンイミン残基)を形成するアルキレンイミンとしてエチレンイミンを用いることをもって、上記にいう「大半を占める」こととなる。「大半を占める」ことを全アルキレンイミン100モル%中のエチレンイミンのモル%で表すと、50〜100モル%であることが好ましい。50モル%未満であると、ポリアルキレンイミン鎖の親水性が充分とはならないおそれがある。より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、特に好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上である。
【0077】
上記ポリアルキレンイミン鎖1つあたりのアルキレンイミンの平均重合数としては、2以上であることが好ましく、また、300以下であることが好ましい。このような範囲とすることによって、上記多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体の構造に起因した作用効果をより充分に発揮することが可能となり、例えば、セメント分散性能を発揮してセメント混和剤等の用途に好適なものとすることができる。下限値としては、より好ましくは3であり、更に好ましくは5であり、特に好ましくは10である。また、上限値としては、より好ましくは200であり、更に好ましくは100であり、特に好ましくは50であり、最も好ましくは25である。なお、ジエチレントリアミンの平均重合数は2、トリエチレンテトラミンの平均重合数は3となる。
【0078】
上記多価アミン及びポリアルキレンイミンの数平均分子量としては、100〜100000が好ましく、より好ましくは300〜50000、更に好ましくは600〜10000であり、特に好ましくは800〜5000である。
【0079】
上記多価アルコールとしては、1分子中に平均3個以上の水酸基を含有する化合物であればよいが、炭素、水素及び酸素の3つの元素から構成される化合物であることが好適である。具体的には、例えば、ポリグリシドール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−ペンタトリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等が好適である。また、糖類として、グルコース、フルクトース、マンノース、インド−ス、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、プシコース、アルトロース等のヘキソース類の糖類;アラビノース、リブロース、リボース、キシロース、キシルロース、リキソース等のペントース類の糖類;トレオース、エリトルロース、エリトロース等のテトロース類の糖類;ラムノース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュウクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトース等のその他糖類;これらの糖アルコール、糖酸(糖類;グルコース、糖アルコール;グルシット、糖酸;グルコン酸)等も好適である。更に、これら例示化合物の部分エーテル化物や部分エステル化物等の誘導体も好適である。このような化合物により、後述するポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の多価アルコール残基を形成することができる。
これらの中でも、工業的な生産効率の観点から、より好ましくは、トリメチロールプロパンやソルビトールである。
【0080】
上記多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体において、活性水素を3個以上有する化合物が結合するポリアルキレングリコール鎖の数としてはまた、上記活性水素を3個以上有する化合物中の活性水素数に等しいことが好ましい。すなわち、上記活性水素を3個以上有する化合物中の活性水素原子全てにポリアルキレングリコール鎖が結合した構造を有することが好適である。これによって、更に優れた分散性能を発揮し得るセメント混和剤を与えることが可能となるため、様々な用途に適用可能な化合物とすることができる。
【0081】
ここで、上記活性水素を3個以上有する化合物が結合するポリアルキレングリコール鎖の数が、上記活性水素を3個以上有する化合物中の活性水素数に等しい場合の構造を模式的に示すと、以下のように表すことができる。
下記式(A)は、活性水素を3個以上有する化合物の残基がグリセリン残基(多価アルコール残基)であり、グリセリンが有する活性水素全てに、ポリアルキレングリコール鎖と、硫黄原子を含む有機残基を介してビニル系単量体由来の構造単位とが結合した構造を模式的に示したものである。
また下記式(B)は、活性水素を3個以上有する化合物の残基がソルビトール残基(多価アルコール残基)であり、ソルビトールが有する活性水素全てに、ポリアルキレングリコール鎖と、硫黄原子を含む有機残基とが結合し、更に硫黄原子のいくつかにビニル系単量体由来の構造単位が結合した構造を模式的に示したものである。
【0082】
【化4】

【0083】
上記多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体における、上記ポリアルキレングリコール鎖の構造及び鎖長としては、上記ポリアルキレングリコール鎖(I)における構造及び鎖長と同様である。
【0084】
上記非多分岐(直鎖)構造のポリアルキレングリコール系重合体、及び、多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体はまた、上記ビニル系単量体由来の構造単位に結合しないポリアルキレングリコール鎖を有していてもよい。
このようなポリアルキレングリコール鎖の末端(活性水素を3個以上有する化合物の残基とは反対側の末端)は、例えば、水素原子、1価金属原子、2価金属原子、アンモニウム基、有機アミン基、炭素数1〜30の炭化水素基、オキソ炭化水素基、アミド炭化水素基、カルボキシル炭化水素基、炭素数0〜30のスルホニル(炭化水素)基等のいずれかに結合した構造を有することが好適であり、1分子内に2つ以上の当該ポリアルキレングリコール鎖を有する場合には、その末端構造が同一であってもよく異なっていてもよい。このような末端構造の中でも、汎用性の点から、水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基、より好ましくは、水素原子又は炭素数1〜10の炭素水素基に結合した構造であり、炭素数1〜10の炭化水素基の中でもアルキル基やアルキレン基が好適である。
すなわち、例えば上記ポリアルキレングリコール系重合体(i)が上記一般式(3)で表される重合体である場合、該重合体は、下記一般式(4);
【0085】
【化5】

【0086】
(式中、Xは、活性水素を3個以上有する化合物の残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Yは、同一若しくは異なって、直接結合又は有機残基を表す。Zは、同一又は異なって、酸基を有するビニル系単量体由来の構造単位を表す。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。mは、1〜50の整数である。n’は、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数であり、好ましい形態は、上記nと同様の形態が挙げられる。なお、nとn’とは同一であってもよいし異なっていてもよい。Qは、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基若しくはアルキレン基、又は、−O−C(=O)−R−SH(Rは炭素数1〜30の炭化水素基を表す。)で表されるメルカプトカルボン酸残基を表す。pは、0以上の整数であって、Xで表される活性水素を3個以上有する化合物の活性水素数及びmの数に依存して最大数が決まる数である。)で表される化合物であってもよい。
は、上述したYと同様である。
上記pは、Xで表される活性水素を3個以上有する化合物の活性水素数及びmの数に依存して最大数が決まる数であるが、有機残基を介してビニル系単量体由来の構造単位が結合するポリアルキレングリコール鎖に起因した効果を充分に発揮させるため、活性水素を3個以上有する化合物に結合する該ポリアルキレングリコール鎖の数が3以上となるように、pが、〔(活性水素を3個以上有する化合物の全活性水素数)−3〕以下の数であることが好適である。
【0087】
本発明のポリアルキレングリコール系重合体の好適な形態の一例として、例えば、下記一般式(5);
【0088】
【化6】

【0089】
(式中、X’は、活性水素を1若しくは2個以上有する化合物の残基、Z−Y−で表される基又は水素原子を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Yは、同一若しくは異なって、直接結合又は有機残基を表す。Zは、同一又は異なって、酸基を有するビニル系単量体由来の構造単位を表す。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。mは、1〜50の整数である。)で表される構造を有する形態を挙げることができる。
上記一般式(5)におけるAO、Y、Z、n及びmについては上述したとおりである。上記一般式(5)においてX’がZ−Y−で表される基又は水素原子である場合、mは1である。
上記一般式(5)においてX’がZ−Y−で表される基であり、かつmが1である形態は、上記一般式(a)で表される構造を有する重合体に該当し、X’が水素原子であり、かつmが1である形態は、上記一般式(b)においてポリアルキレングリコール鎖(PAG)の一末端が水素原子である構造を有する重合体に該当する。また、X’が活性水素を1若しくは2個以上有する化合物の残基である形態は、上記一般式(3)で表される構造を有する重合体に該当する。
このように、上記ポリアルキレングリコール系重合体が上記一般式(5)で表される構造を有するものであることは、本発明における好ましい実施形態の1つである。
【0090】
次に、本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体の製造方法について説明する。
本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体の製造方法としては、(A)ポリアルキレングリコール鎖とラジカル発生部位とを有する高分子開始剤の存在下で、上記ビニル系単量体成分を重合させる方法、(B)ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物の存在下で、上記ビニル系単量体成分を重合させる方法等が挙げられる。上記高分子開始剤や、ポリアルキレングリコール鎖含有化合物を使用することによって、本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体にポリアルキレングリコール鎖が導入されることとなる。
上記重合反応において、上記ポリアルキレングリコール鎖の使用量と、上記ビニル系単量体成分の単量体、単量体(a)、単量体(b)及び単量体(c)の使用量(質量%)との関係は、上記ポリアルキレングリコール鎖/(単量体(a)+単量体(b)+単量体(c))の比率として表すと、単量体(a)が主成分である場合には、好ましくは5/95〜99/1、より好ましくは10/90〜97/3、さらに好ましくは20/80〜95/5、特に好ましくは30/70〜92.5/7.5である。また、単量体(b)が主成分である場合には、好ましくは2/98〜95/5、より好ましくは4/96〜90/10、さらに好ましくは8/92〜80/20、さらに好ましくは、10/90〜75/25、さらに好ましくは15/85〜70/30、さらに好ましくは17.5/82.5〜65/35、特に好ましくは20/80〜60/40である。特に、単量体(a)は、単量体(a)/(上記ポリアルキレングリコール鎖+単量体(b)+単量体(c))の比率(単位は質量%)で、好ましくは1〜50/99〜50、より好ましくは2.5〜40/97.5〜60、さらに好ましくは5〜35/95〜65である。
【0091】
まず、(A)ポリアルキレングリコール鎖とラジカル発生部位とを有する高分子開始剤の存在下で、ビニル系単量体成分を重合させることによって、本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体を製造する方法について説明する。
ポリアルキレングリコール鎖とラジカル発生部位とを有する高分子開始剤の存在下で、ビニル系単量体成分を重合させる方法(以降、製造方法(A)ともいう。)においては、後述するポリアルキレングリコール鎖とラジカル発生部位とを有する高分子アゾ開始剤を用いることにより、該高分子アゾ開始剤中のアゾ基が熱で分解して、ラジカルが発生し、そこからビニル系単量体成分の重合が開始されることとなる。
【0092】
まず、上記重合体(i−1)、すなわち、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位から構成されるものを製造する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。
【0093】
下記一般式(e);
−[Y―N=N−Y−(PAG)]− (e)
で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤の存在下で、ビニル系単量体成分を重合させる方法、
下記一般式(f);
(PAG)−Y−N=N−Y−(PAG) (f)
で表される高分子アゾ開始剤の存在下で、ビニル系単量体成分を重合させる方法等。なお、これら(e)〜(f)の高分子アゾ開始剤において、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)が構造の末端に位置する場合、該ポリアルキレングリコール鎖(PAG)は、末端に水素原子を有することになる。すなわち、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)の末端構造は、水酸基となる。
上記一般式(e)〜(f)における「PAG」及び「Y」は、上記一般式(a)〜(d)と同様である。
上記一般式(e)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤の好ましい形態としては、下記一般式(6);
【0094】
【化7】

【0095】
(式中、Yは、同一又は異なって、有機残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤が挙げられる。これらの高分子アゾ開始剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0096】
上記一般式(6)において、Yで表される有機残基は、上記一般式(3)のYにおける有機残基と同様である。AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基、及び、nで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。上記一般式(e)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤のより好ましい形態としては、下記一般式(7);
【0097】
【化8】

【0098】
(式中、Rは、同一若しくは異なって、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、カルボニル基、カルボキシル基、又は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボキシル基に結合した基を表す。Rは、同一若しくは異なって、炭素数1〜20のアルキル基、カルボキシル基で置換された炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を表す。R10は、同一若しくは異なって、シアノ基、アセトキシ基、カルバモイル基又は炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されたカルボニル基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤が挙げられる。
【0099】
上記一般式(7)におけるRの置換基としては、アルキル基、アルケニル基、水酸基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。また、AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基、及び、nで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。
上記一般式(e)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤の更に好ましい形態としては、下記一般式(8);
【0100】
【化9】

【0101】
(式中、AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤が挙げられる。
上記一般式(8)における、AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基、及び、nで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。
【0102】
上記一般式(6)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤のうち、AOがオキシエチレン基である繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤が特に好適であり、その具体例としては、和光純薬工業株式会社から市販されている高分子アゾ開始剤VPEシリーズ、例えば、VPE−0201(数平均分子量約1.5〜3万、ポリエチレンオキシド部分の分子量約2,000、m=45)、VPE−0401(数平均分子量約2.5〜4万、ポリエチレンオキシド部分の分子量約4,000、m=90)、VPE−0601(数平均分子量約2.5〜4万、ポリエチレンオキシド部分の分子量約6,000、m=135)等が挙げられる。
【0103】
上記一般式(f)で表される高分子アゾ開始剤の好ましい形態としては、下記一般式(9);
【0104】
【化10】

【0105】
(式中、Yは、同一又は異なって、有機残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。kは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される高分子アゾ開始剤が挙げられる。これらの高分子アゾ開始剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0106】
上記一般式(9)において、Yで表される有機残基は、上記一般式(3)のYにおける有機残基と同様である。AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基は、上記一般式(3)のAOと同様である。kで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数は、上記一般式(3)のnと同様である。上記一般式(f)で表される高分子アゾ開始剤のより好ましい形態としては、下記一般式(10);
【0107】
【化11】

【0108】
(式中、R11は、同一若しくは異なって、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基、カルボニル基、カルボキシル基、又は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基がカルボニル基若しくはカルボキシル基に結合した基を表す。R12は、同一若しくは異なって、炭素数1〜20のアルキル基、カルボキシル基で置換された炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を表す。R13は、同一若しくは異なって、シアノ基、アセトキシ基、カルバモイル基又は炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されたカルボニル基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。kは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される高分子アゾ開始剤が挙げられる。
【0109】
上記一般式(10)におけるR11の置換基としては、アルキル基、アルケニル基、水酸基、シアノ基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。また、AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基、及び、kで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。
上記一般式(f)で表される高分子アゾ開始剤の更に好ましい形態としては、下記一般式(11);
【0110】
【化12】

【0111】
(式中、AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。kは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される高分子アゾ開始剤が挙げられる。
上記一般式(11)における、AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基、及び、kで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。
【0112】
上記一般式(9)で表される高分子アゾ開始剤は、例えば、アゾ基の両末端にカルボキシル基を有するアゾ開始剤(V−501など、和光純薬工業社製)と、ポリアルキレングリコールとをエステル化することにより得ることができる。エステル化の方法としては、加熱工程を行うとアゾ開始剤が分解するので、加熱工程を含まない製法が必要である。そのような製法としては、(1)アゾ開始剤に塩化チオニルを反応させて酸塩化物を合成した後、ポリアルキレングリコールを反応させて高分子アゾ開始剤を得る方法;(2)アゾ開始剤とポリアルキレングリコールとを、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)および必要に応じて4−ジメチルアミノピリジンを用いて、脱水縮合することにより高分子アゾ開始剤を得る方法;等が挙げられる。
【0113】
上記一般式(6)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤、又は、上記一般式(9)で表される高分子アゾ開始剤の使用量(質量%)と、上記ビニル系単量体成分の単量体(a)、単量体(b)及び単量体(c)の使用量(質量%)との関係は、高分子アゾ開始剤/(単量体(a)+単量体(b)+単量体(c))の比率として表すと、単量体(a)が主成分である場合には、好ましくは5/95〜99/1、より好ましくは10/90〜97/3、さらに好ましくは20/80〜95/5、特に好ましくは30/70〜92.5/7.5である。また、(b)が主成分である場合には、好ましくは2/98〜95/5、より好ましくは4/96〜90/10、さらに好ましくは8/92〜80/20、さらに好ましくは、10/90〜75/25、さらに好ましくは15/85〜70/30、さらに好ましくは17.5/82.5〜65/35、特に好ましくは20/80〜60/40である。特に、単量体(a)は、単量体(a)/(高分子アゾ開始剤+単量体(b)+単量体(c))の比率(単位は質量%)で、好ましくは1〜50/99〜50、より好ましくは2.5〜40/97.5〜60、さらに好ましくは5〜35/95〜65である。
【0114】
次に、上記重合体(i−2)、すなわち、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位に加え、更に、水素原子以外のその他の構造部位を有するものを製造する方法としては、下記一般式(12);
【0115】
【化13】

【0116】
(式中、Xは、活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基を表す。R14は、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。Yは、同一又は異なって、有機残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。kは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される高分子アゾ開始剤の存在下で、ビニル系単量体成分を重合させる方法が好適である。
【0117】
上記一般式(12)において、Xで表される活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基は、上記一般式(3)のXと同様である。Yで表される有機残基は、上記一般式(3)のYにおける有機残基と同様である。AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基は、上記一般式(3)のAOと同様である。kで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数は、上記一般式(3)のnと同様である。また、上記mについても上述したとおりである。
【0118】
上記一般式(12)におけるR14は、炭素数1〜20の炭化水素基を表すが、例えば、炭素数1〜4の炭化水素基等が好適である。より好ましくは、メチル基である。
なお、上記一般式(12)におけるmが1又は2である高分子アゾ開始剤を用いることで、上記非多分岐構造のポリアルキレングリコール系重合体を製造することができ、上記一般式(12)におけるXが活性水素を3個以上有する化合物の残基であり、mが3以上である高分子アゾ開始剤を用いた場合に、上記多分岐構造を有するポリアルキレングリコール系重合体を製造することができる。
【0119】
上記重合反応においては、上記一般式(6)で表される繰り返し単位を有する高分子アゾ開始剤、又は、上記一般式(9)で表される高分子アゾ開始剤以外に、通常使用されるラジカル重合開始剤を併用してもよい。通常使用されるラジカル重合開始剤としては、既知のあらゆるラジカル重合開始剤が使用可能である。
上記ラジカル重合開始剤の使用量は、上記高分子アゾ開始剤の種類や量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、ラジカル重合開始剤が重合する単量体に対して少なすぎると、ラジカル濃度が低すぎて重合反応が遅くなるおそれがある。上記ラジカル重合開始剤の使用量は、不飽和単量体成分100モル%に対して、好ましくは0.001モル%以上、より好ましくは0.01モル%以上、更に好ましくは0.1モル%以上、特に好ましくは0.2モル%以上であり、また、好ましくは5モル%以下、より好ましくは2モル%以下、更に好ましくは1モル%以下、特に好ましくは0.5モル%以下である。
【0120】
上記重合反応としては、溶液重合や塊状重合等の方法により行うことができる。溶液重合は、回分式でも連続式でもそれらの2種以上の組み合わせでも行うことができる。また、重合の際、必要に応じて使用される溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の芳香族又は脂肪族炭化水素類;酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類;等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、例えば、セメント混和剤用途のように水溶液として使用されることが多い用途に用いる場合には、水溶液重合法により重合することが好ましい。
【0121】
上記溶液重合のうち、水を溶媒に用いて溶液重合を行う場合には、重合後に不溶成分を除去する必要がないため、水溶性のラジカル重合開始剤を用いることが好適である。
例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩等のアゾアミジン化合物、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩等の環状アゾアミジン化合物、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物、2,4’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}等のアゾアミド化合物、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)と(アルコキシ)ポリエチレングリコールとのエステル等のマクロアゾ化合物等の水溶性アゾ開始剤;等が使用される。これらのラジカル重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。中でも、後述する水溶性アゾ系開始剤が好ましい。
【0122】
この際、亜硫酸水素ナトリウム等のアルカリ金属亜硫酸塩、メタ二亜硫酸塩、次亜リン酸ナトリウム、モール塩等のFe(II)塩、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物、ヒドロキシルアミン塩酸塩、チオ尿素、L−アスコルビン酸又はその塩、エリソルビン酸又はその塩若しくはエステル等の促進剤(還元剤)を併用することもできる。これらの促進剤(還元剤)は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。特に、過酸化水素と有機系還元剤との組み合わせが好ましく、有機系還元剤としては、L−アスコルビン酸又はその塩、L−アスコルビン酸エステル、エリソルビン酸又はその塩、エリソルビン酸エステル等が好適である。なお、促進剤(還元剤)の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、使用される単量体に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、0.1質量%以上であり、更に好ましくは、0.2質量%以上であり、また、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、10質量%以下であり、更に好ましくは、5質量%以下である。
【0123】
また、上記重合反応において、低級アルコール類、芳香族若しくは脂肪族炭化水素類、エステル類、ケトン類を溶媒に用いて溶液重合を行う場合、又は、塊状重合を行う場合には、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ナトリウムパーオキシド等のパーオキシド;t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)等のアゾアミド化合物、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩等の環状アゾアミジン化合物、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ化合物、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)と(アルコキシ)ポリエチレングリコールとのエステル等のマクロアゾ化合物;等の水溶性アゾ系開始剤がラジカル重合開始剤として使用される。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0124】
この際、アミン化合物等の促進剤を併用することもできる。なお、促進剤の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、使用される単量体に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは、0.1質量%以上であり、更に好ましくは、0.2質量%以上であり、また、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは、10質量%以下であり、更に好ましくは、5質量%以下である。
【0125】
上記重合反応において、水と低級アルコールとの混合溶媒を用いる場合には、上記ラジカル重合開始剤、又は、上記ラジカル重合開始剤と促進剤との組合せの中から適宜選択して用いることができる。
【0126】
上記重合反応においては、通常使用される連鎖移動剤を使用してもよい。
上記通常使用される連鎖移動剤としては、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、2−メルカプトエタンスルホン酸等のチオール系連鎖移動剤;イソプロピルアルコール等の2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等)、亜硫酸、亜硫酸水素、亜二チオン酸、メタ重亜硫酸及びその塩(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等)の低級酸化物及びその塩;等の通常使用される親水性連鎖移動剤が挙げられる。
【0127】
上記連鎖移動剤としてはまた、疎水性連鎖移動剤を使用することもできる。疎水性連鎖移動剤としては、ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等の炭素数3以上の炭化水素基を有するチオール系連鎖移動剤を用いることが好ましい。
なお、上記連鎖移動剤としては、1種又は2種以上使用することができ、また、親水性連鎖移動剤と疎水性連鎖移動剤とを組み合わせて用いてもよい。
【0128】
上記連鎖移動剤の使用量は、特に限定されるものではないが、単量体成分の合計モル数100モル%に対して、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.25モル%以上、更に好ましくは0.5モル%以上であり、また、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下、更に好ましくは10モル%以下である。
【0129】
上記重合反応において、重合温度は、使用する溶媒や重合開始剤の種類に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは0℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは50℃以上である。また、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、更に好ましくは100℃以下である。
【0130】
また単量体成分の反応容器への添加方法としては特に限定されず、例えば、全量を反応容器に初期に一括投入する方法;全量を反応容器に分割又は連続投入する方法;一部を反応容器に初期に投入し、残りを反応容器に分割又は連続投入する方法;のいずれであってもよい。また、ラジカル重合開始剤や連鎖移動剤は、反応容器に初めから仕込んでもよく、反応容器へ滴下してもよく、また、目的に応じてこれらを組み合わせてもよい。
【0131】
上記重合反応において、所定の分子量の共重合体を再現性よく得るには、重合反応を安定に進行させることが必要であることから、溶液重合する場合には、使用する溶媒の25℃における溶存酸素濃度を5ppm以下の範囲とすることが好ましい。より好ましくは、0.01〜4ppmであり、更に好ましくは、0.01〜2ppmであり、最も好ましくは、0.01〜1ppmである。なお、溶媒に単量体を添加後、窒素置換等を行う場合には、単量体をも含んだ系の溶存酸素濃度を上記範囲内とすることが好ましい。
【0132】
上記溶媒の溶存酸素濃度の調整は、重合反応槽で行ってもよく、予め溶存酸素量を調整したものを用いてもよいが、溶媒中の酸素を追い出す方法としては、例えば、下記の(1)〜(5)の方法が挙げられる。
(1)溶媒を入れた密閉容器内に窒素等の不活性ガスを加圧充填後、密閉容器内の圧力を下げることで溶媒中の酸素の分圧を低くする。窒素気流下で、密閉容器内の圧力を下げてもよい。
(2)溶媒を入れた容器内の気相部分を窒素等の不活性ガスで置換したまま液相部分を長時間激しく攪拌する。
(3)容器内に入れた溶媒に窒素等の不活性ガスを長時間バブリングする。
(4)溶媒を一旦沸騰させた後、窒素等の不活性ガス雰囲気下で冷却する。
(5)配管の途中に静止型混合機(スタティックミキサー)を設置し、溶媒を重合反応槽に移送する配管内で窒素等の不活性ガスを混合する。
【0133】
上記重合反応により得られた重合体は、取り扱い性の観点から、水溶液状態で弱酸性以上のpH範囲に調整しておくことが好ましい。より好ましくは、pH4以上、更に好ましくはpH5以上、特に好ましくはpH6以上である。一方、重合反応をpH7以上で行ってもよいが、その場合、重合率の低下が起こると同時に、重合性が充分とはならず分散性能が低下するため、酸性から中性のpH範囲で共重合反応を行うことが好ましい。より好ましくはpH6未満であり、更に好ましくはpH5.5未満であり、特に好ましくは、pH5未満である。このように重合系がpH7.0以下になる好ましい重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、アゾビス−2−メチルプロピオンアミジン塩酸塩等のアゾアミジン化合物等の水溶性アゾ開始剤、過酸化水素、過酸化水素と有機系還元剤との組み合わせを用いることが好ましい。
従って、低いpHで重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してより高いpHに調整することが好ましい。
【0134】
好適な実施形態として、具体的には、pH6未満で共重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH6以上に調整する方法;pH5未満で共重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH5以上に調整する方法;pH5未満で共重合反応を行った後にアルカリ性物質を添加してpH6以上に調整する方法等が挙げられる。pHの調整は、例えば、一価金属又は二価金属の水酸化物や炭酸塩等の無機塩;アンモニア;有機アミン等のアルカリ性物質を用いて行うことができる。また、pHを下げる必要がある場合、特に、重合の際にpHの調整が必要な場合は、例えば、リン酸、硫酸、硝酸、アルキルリン酸、アルキル硫酸、アルキルスルホン酸、(アルキル)ベンゼンスルホン酸等の酸性物質を用いてpHの調整を行うことができ、これらの酸性物質の中では、pH緩衝作用がある点等からリン酸が好ましい。また、反応終了後、必要ならば濃度調整を行うこともできる。
【0135】
上記重合反応により得られる重合体は、必要に応じて、単離する工程に付してもよいが、作業効率や製造コスト等の観点から、単離せずに、例えば、分散剤(特にセメント混和剤)等の各種用途に使用することができる。
【0136】
本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体はまた、(B)ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物の存在下で、上記ビニル系単量体成分を重合させる方法によっても、製造することができる。このような製造方法としては、例えば、下記一般式(13):
【0137】
【化14】

【0138】
(式中、AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Yは、直接結合又は有機残基を表す。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。)で表される構造を有するポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下、ビニル系単量体成分を重合する工程を含む製造方法を採用することが好ましい。
【0139】
上記ポリアルキレングリコール系重合体の製造方法(B)において、ポリアルキレングリコール鎖含有化合物としては、上記一般式(13)で表される構造を有するものであればよい。
上記一般式(13)におけるAOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基、及び、nで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。また、Yで表される有機残基は、上記一般式(3)のYにおける有機残基と同様である。
なお、上記製造方法(B)により得ようとするポリアルキレングリコール系重合体が上記重合体(i−1)、すなわち、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位から構成される重合体である場合には、(AO)で表されるポリアルキレングリコール鎖が上記ポリアルキレングリコール鎖含有化合物の構造の末端に位置する場合、該ポリアルキレングリコール鎖は、末端に水素原子を有することになる。すなわち、該ポリアルキレングリコール鎖の末端構造は、水酸基となる。
【0140】
上記一般式(13)において、Yで表される有機残基としては、上述したように硫黄原子を含む基であることが好ましいが、この場合は、硫黄原子と上記一般式(13)の末端に存在する水素原子とが結合した形態であることが好適である。すなわち、上記一般式(13)で表されるポリアルキレングリコール鎖含有化合物は、メルカプト基(チオール基、SH基)を有する化合物であることが好適である(以下、このような化合物を「ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物」ともいう。)。これにより、メルカプト基が持つ特異な反応性を利用して重合を行うことが可能となり、より効率的かつ簡便に、しかも低コストで本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体を製造することができることとなる。
【0141】
上記製造方法(B)において、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を用いた場合には、そのメルカプト基から熱や光、放射線等によって発生したラジカル若しくは必要に応じて別に使用した重合開始剤によって発生したラジカルが、メルカプト基に連鎖移動するか、又は、メルカプト基同士が結合してジスルフィド結合を形成していた場合にはそのジスルフィド結合を開裂させ、該硫黄原子(S)を介して単量体が次々に付加してビニル系単量体由来の構成単位(重合体(ii)の部位)を形成し、よって本発明におけるポリアルキレングリコール系重合体が効率的に得られることになる。
なお、このようなポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物以外にも、上記ポリアルキレングリコール鎖含有化合物として、メルカプト基以外の、重合体(ii)の主鎖末端との反応性を有するものであって、連鎖移動剤又はラジカル開始剤となり得る基を有するものを用いることも可能である。このような基としては、例えば、過酸化物基、アゾ基が挙げられる。このような化合物でも、ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物と同様に重合反応が行われることになる。
【0142】
上記製造方法(B)によって、上記ポリアルキレングリコール系重合体(i−1)、すなわち、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位から構成されるポリアルキレングリコール系重合体を製造する場合、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物としては、(ポリ)アルキレングリコールと、カルボキシル基を有するチオール化合物(以下、単に「チオール化合物」ともいう。)とを脱水縮合させる工程を含む製造方法により得られるものであることが好適である。
上記脱水縮合工程において、カルボキシル基を有するチオール化合物とは、1分子中にカルボキシル基(カルボン酸基)とメルカプト基とを有するメルカプトカルボン酸基含有化合物であればよい。
このようなメルカプトカルボン酸基含有化合物としては、例えば、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、メルカプトイソブチル酸、チオリンゴ酸、メルカプトステアリン酸、メルカプト酢酸、メルカプト酪酸、メルカプトオクタン酸、メルカプト安息香酸、メルカプトニコチン酸、システイン、N−アセチルシステイン、メルカプトチアゾール酢酸等が挙げられる。中でも、チオグリコール酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、メルカプトイソブチル酸が好適である。
【0143】
上記(ポリ)アルキレングリコールとチオール化合物との脱水縮合工程では、上記(ポリ)アルキレングリコールが有する水酸基と、上記チオール化合物が有するカルボキシル基との間で脱水縮合反応が行われることが好適であるが、このような反応は、通常の液相におけるエステル反応の常法を用いて行うことができる。また、減圧したり、キシレン等のエントレーナーを用いて行ってもよい。
なお、上記チオール化合物が有するメルカプト基の性質上、上記脱水縮合工程は、酸触媒下で行うことが好適である。酸触媒としては、上述したとおりである。
このように上記(ポリ)アルキレングリコールとチオール化合物との脱水縮合工程は、酸触媒を用いたエステル化反応工程であることが好適である。
【0144】
上記(ポリ)アルキレングリコールとチオール化合物との混合比としては、望まれるポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の純度やコスト、反応速度、合成法等に応じて適宜設定すればよい。例えば、短時間で純度の高いポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を得たい場合は、上記(ポリ)アルキレングリコールが有する反応に供される水酸基量に対し、上記チオール化合物が有するカルボキシル基をモル比で大過剰とすることが好適である。具体的には、反応速度の観点から、モル比は、2倍以上とすることが好ましく、より好ましくは3倍以上であり、また、製造コストの観点から、10倍以下とすることが好ましく、より好ましくは5倍以下である。なお、反応後の粗生成物はそのまま用いてもよいが、必要に応じて精製し、未反応物を除去してもよい。
【0145】
上記混合比としてはまた、反応後の粗生成物量を低減させたい場合は、上記(ポリ)アルキレングリコールが有する反応に供される水酸基量に対し、上記チオール化合物が有するカルボキシル基をモル比で2倍以下とすることが好適である。具体的には、収率の観点から、モル比は、0.3倍以上とすることが好ましく、より好ましくは0.5倍以上、更に好ましくは0.7倍以上、特に好ましくは0.8倍以上であり、また、未反応物の残存量の観点から、1.8倍以下とすることが好ましく、より好ましくは1.6倍以下、更に好ましくは1.4倍以下、特に好ましくは1.3倍以下である。なお、反応後の粗生成物は必要に応じて精製してもよいが、この方法では未反応のチオール化合物が少ないため、これを除去する操作を省略できることが多く、製造工程をより簡略化することができる。
【0146】
上記脱水縮合工程の反応時間は、用いる酸触媒の種類や量、上記(ポリ)アルキレングリコールとチオール化合物との混合比、溶液濃度等に応じて適宜設定すればよい。
【0147】
上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の製造方法においてはまた、脱水縮合工程後の反応溶液のpHを調整する工程を含んでもよく、これにより、生じたエステルが脱溶媒工程によって加水分解されることを防ぐことができる。pHの調整は、上記脱水縮合工程によって得られた反応溶液中に、例えば水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリを投入することによって行うことができる。加水分解反応を抑制するためには、反応溶液のpHとしては、3以上とすることが好ましく、より好ましくは4以上であり、また、7以下とすることが好ましく、より好ましくは6以下であり、更に好ましくは5.5以下である。
【0148】
上記脱水縮合工程により得られた反応粗生成物は、脱水縮合工程を行った後の反応溶液(すなわち、pH未調整の反応溶液)又はpH調整後の反応溶液を室温まで冷却することによって固化することが好適である。これにより、反応溶液から反応粗生成物を容易に取得することができる。得られた反応粗生成物の固化物は、精製してもよいが、この場合には、反応粗生成物の固化物を乾燥・粉砕した後、未反応の原料化合物等の不純物は溶解するもののチオール化合物は溶解しない溶剤、例えばジエチルエーテル等を用いて固化物を洗浄してもよい。
なお、作業工程が増えることによる製造コストの高騰、及び、溶剤の使用による環境への負荷を考慮すると、上記溶剤を用いた洗浄作業は避けることが好ましい。この場合、原料化合物である上記(ポリ)アルキレングリコールとチオール化合物との混合比は、上述したように上記(ポリ)アルキレングリコールが有する反応に供される水酸基量に対し、上記チオール化合物が有するカルボキシル基をモル比で2倍以下とすることが好適である。
【0149】
ところで、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の製造方法により得られた反応粗生成物の固化物を乾燥したり、この乾燥固化物に更にジエチルエーテル等を用いて洗浄したりして反応粗生成物からポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を取得しようとすると、自己多量化して多量化物が発生する。そして、多量化物の含有量は、生成物総量100質量%中、30質量%を超える場合もある。この反応経路は不明であるものの、この多量化の原因は反応粗生成物の固化物を乾燥することにあると推測され、乾燥状態にあれば、真空状態にあるか否かを問わず、また、脱水反応や中和反応の有無にも関係なく、多量化が進行する。
【0150】
上記多量化反応は、上記ポリアルキレングリコール系重合体(i−1)を製造する場合に好適に用いられる上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を製造する際に進行する他、後述する上記ポリアルキレングリコール系重合体(i−2)を製造する場合に好適に用いられるポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を製造する際にも進行するものである。そこで、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の多量化物の一例として、カルボニル基を有する基を介してメルカプト基と結合したポリアルキレングリコール鎖が、ソルビトールの有する活性水素全てに結合した形態である場合を例にその多量化物の一例を示す。下記式は、2つのメルカプト基がジスルフィド結合を生成して二量体を生成した形態を模式的に示したものである。
【0151】
【化15】

【0152】
ここで、例えば、ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物又はその溶液の粘度が低いことが求められる場合は、多量化物は少ない方が望まれるが、この場合には、反応粗生成物の固化物を乾燥しないように取り扱うことが好適である。これにより、多量化物の生成を効果的に抑制して、ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物中の多量化物の含有量を、該化合物100質量%に対し、1〜30質量%の範囲内に留めることが可能となる。
【0153】
また逆に、反応粗生成物を単に一定時間乾燥することによって、多量化物量を大幅に高めることができる。多量化物の構造は、2以上のチオール化合物がメルカプト基のジスルフィド化により結合され、ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物残基の繰り返しを持つポリジスルフィド構造を有するものと推測されるが、ジスルフィド結合はメルカプト基同様、種々の方法で容易にラジカルを発生することができることから、この多量化物は連鎖移動剤として使用することができる。また、多量化物は、ラジカル発生により分子量が低下し、最終的にはポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物残基の構造まで分解される。したがって、多量化物を各種ラジカル重合の連鎖移動剤として使用すれば、反応前の多量化物は分子量が高いため粘度が大きく、反応後のポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物残基は分子量が低下するため粘度が小さくなる。このため、反応中の系内の粘度を調整しながら重合反応を進めることができ、ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物とは異なった応用が可能である。
【0154】
上記多量化物としてはまた、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物から、様々な方法で合成することができる。例えば、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物のメルカプト基を、熱や光、放射線、ラジカル発生剤等を用いてラジカル化させ、硫黄ラジカル経由でジスルフィド化させたり、酸化剤で処理したり、アルカリで処理し、硫黄アニオン経由でジスルフィド化させたりすることにより多量化物を得ることが可能である。
【0155】
上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の製造方法においてはまた、粘度等の観点から多量化物量を抑える必要がある場合は、酸化防止剤を添加する工程を含むことが好適である。これは、多量化の要因の一つとして、上記(ポリ)アルキレングリコールとチオール化合物との反応を加熱下で行うことによる、上記チオール化合物のメルカプト基からの熱ラジカルの発生が考えられるためであり、ラジカル捕捉能を持つ酸化防止剤を添加することによって、メルカプト基から熱ラジカルが発生することに起因する多量化を効果的に抑制することが可能となる。
【0156】
上記酸化防止剤の添加は、いずれの製造工程でなされてもよく、例えば、脱水縮合工程時や、脱溶媒工程時、精製工程時等のいずれの段階でなされてもよく、各工程の途中でなされてもよい。
上記酸化防止剤としては特に限定されず、通常使用されているものを用いればよいが、例えば、フェノチアジン及びその誘導体;ハイドロキノン、カテコール、レゾルシノール、メトキノン、ブチルハイドロキノン、ブチルカテコール、ナフトハイドロキノン、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、トコフェロール、トコトリエノール、カテキン等のフェノール化合物;トリ−p−ニトロフェニルメチル、ジフェニルピクリルヒドロジン、ピクリン酸等のニトロ化合物;ニトロソベンゼン、クペロン等のニトロソ化合物;ジフェニルアミン、ジ−p−フルオロフェニルアミン、N−(3−N−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド等のアミン系化合物;TEMPOラジカル(2,2,6,6−tetramethyl−1−piperidinyloxyl)、ジフェニルピクリルヒドラジル、ガルビノキシル、フェルダジル等の安定ラジカル;アルコルビン酸やエリソルビン酸及びその塩又はエステル;ジチオベンゾイルジスルフィド;塩化銅(II)等が挙げられ、これらは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。中でも、フェノチアジン及びその誘導体、フェノール系化合物、アルコルビン酸やエリソルビン酸及びそのエステルが好適であり、フェノチアジン、ハイドロキノン、メトキノンがより好適である。これらの酸化防止剤は、脱水縮合工程においても溶剤留去工程においても極めて有効に重合禁止能を発揮することができる点から有用である。
【0157】
上記酸化防止剤の添加量としては、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の多量化を効果的に防止できれば特に限定されるものではないが、例えば、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の質量(固形分)に対し、酸化防止剤の質量で10ppm以上であることが好ましく、また、5000ppm以下であることが好ましい。この範囲内に設定することによって、上記チオール化合物の特性を充分に保持したまま、酸化防止剤の作用効果をより充分に発揮することができるが、5000ppmを超えると、上記チオール化合物の性能をより充分に発揮できなかったり、着色したりするおそれがある。より好ましくは20ppm以上であり、更に好ましくは50ppm以上であり、特に好ましくは100ppm以上である。また、より好ましくは2000ppm以下であり、更に好ましくは1000ppm以下であり、特に好ましくは500ppm以下である。
【0158】
このように、脱水縮合工程後の反応溶液から反応粗生成物の固化物を得る方法として、反応溶液を加熱して溶媒を留去する方法を採用しても、酸化防止剤を添加することによって、得られるポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物中の多量化物の含有量を、該化合物100質量%中、30質量%以下の範囲内に留めることが可能となる。
【0159】
上記のようにして得られたポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の固化物は、上述したように乾燥させると多量化し易い傾向があるため、溶液状態で保存することが好適である。より好ましくは、水溶液状態で保存することである。また、溶液のpHを4以上に設定することが好ましく、より好ましくは5以上、更に好ましくは5.5以上、特に好ましくは6以上である。また、pH7以下に設定することが好適である。
【0160】
上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の製造方法ではまた、上述したように、得られるポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が容易に多量化し易いため、該ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物から多量化物を除去する工程を含んでいてもよい。除去工程としては、例えば、透析や限外ろ過、GPC(ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー)分取等の分子量分画法等が挙げられる。なお、このような多量化物の除去工程の追加は、製造コストの高騰等を招くおそれがあるため、多量化物を含むポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物をそのまま、例えば、後述する重合体の調製等に利用することとしてもよい。
【0161】
上記製造方法(B)においては、このようにして得られるポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物に代表されるポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下で、ビニル系単量体成分の重合反応を行うことになる。
例えば、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物の存在下で重合反応を行った場合には、上述したように末端の硫黄原子(S)を介して単量体が次々に付加して上記重合体(ii)が形成され、よって、本発明の重合体(i)が主成分として生成することになるが、上記重合体(ii)の構造が2以上繰り返されている形態や、単量体(a)、単量体(b)及び単量体(c)のうち1以上の単量体に由来する構成単位を有する重合体が副次的に生成することもある。
【0162】
上記重合反応に使用する上記ポリアルキレングリコール鎖含有化合物(好ましくはポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物)の使用量としては、ビニル系単量体成分100重量部に対し、1〜99重量部とすることが好ましい。1重量部以下であると、上記ポリアルキレングリコール鎖含有化合物に起因する効果が充分に発揮できないおそれがあり、99重量部を超えると、ビニル系単量体由来の性能が充分に発揮されないおそれがある。上記使用量の下限値としては、より好ましくは2重量部であり、更に好ましくは4重量部であり、特に好ましくは、8重量部である。また、上限値としては、より好ましくは80重量部であり、更に好ましくは50重量部であり、特に好ましくは30重量部であり、最も好ましくは15重量部である。
【0163】
上記製造方法(B)における重合反応は、上記製造方法(A)と同様に、必要に応じてラジカル重合開始剤を使用し、溶液重合や塊状重合等の方法により行うことができる。溶液重合は、回分式でも連続式でも又はそれらの組み合わせでも行うことができる。その際に使用される溶媒としては、上述した製造方法(A)における重合反応時に使用することができる溶媒と同様の溶媒を用いることができる。また、上記ラジカル重合開始剤としては、上述した製造方法(A)における重合反応時に使用することができるラジカル開始剤と同様のものを用いることができる他、上記製造方法(A)において用いられるポリアルキレングリコール鎖とラジカル発生部位とを有する高分子開始剤を用いることもできる。
ただし上記製造方法(B)においては、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が有するメルカプト基や、その多量体中のジスルフィド結合から熱や光、放射線等によってラジカルが発生することを考えると、重合開始剤として、メルカプト基やジスルフィド結合からラジカルを発生させ易い炭素ラジカル発生剤を使用することが好適である。中でも、アゾ系開始剤が好適であり、これにより、上記ポリアルキレングリコール系重合体を効率よく得ることが可能となる。より好ましくは、上述した水溶性アゾ系開始剤である。
なお、重合開始剤として、過硫酸塩や過酸化水素を用いた場合には、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物が有するメルカプト基が酸化され、得られる重合体の収率が充分とはならないおそれがある。
また、ラジカル重合開始剤を使用する際、上記製造方法(A)と同様に、同様の促進剤(還元剤)を併用することもできる。
【0164】
上記製造方法(B)における重合反応はまた、上記製造方法(A)と同様に、通常の連鎖移動剤を併用してもよい。使用可能な連鎖移動剤及びその使用量は、上記製造方法(A)と同様である。
なお、上記製造方法(B)におけるその他の製造条件は、上記製造方法(A)と同様である。
【0165】
上記製造方法(B;ポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下、ビニル系単量体成分を重合する工程を含む製造方法)によって、上記ポリアルキレングリコール系重合体(i−2)、すなわち、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)、及び、Yの3つの構造部位に加え、更に水素原子以外のその他の構造部位を有するポリアルキレングリコール系重合体を製造する場合、該製造方法は、下記一般式(14);
【0166】
【化16】

【0167】
(式中、Xは、活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Yは、有機残基を表す。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。mは、1〜50の整数である。)で表されるポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下、ビニル系単量体成分を重合する工程を含むことが好適である。
【0168】
上記一般式(14)において、Xで表される活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基、上記一般式(3)のXと同様である。Yで表される有機残基は、上記一般式(3)のYにおける有機残基と同様である。AOで表される炭素数2〜18のオキシアルキレン基、及び、nで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数については、上述したとおりである。またmは、上記Xで表される活性水素を有する化合物が結合する、有機残基を介して水素原子に結合したポリアルキレングリコール鎖の数を表し、これについても上述したとおりである。
【0169】
上記ポリアルキレングリコール系重合体(i−2)を製造する場合、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物としては、活性水素を有する化合物にアルキレンオキシドを付加してなる化合物と、カルボキシル基を有するチオール化合物とを脱水縮合させる工程を含む製造方法により得られるものであることが好適である。
このような製造方法において、上記活性水素を有する化合物としては、上述したように、アルコール、アミン、イミン、アミド化合物等が好ましく、中でも、アミン、(ポリ)アルキレンイミン及びアルコールが好適である。これらについては、上述したとおりである。
上記アルキレンオキシドもまた、上述したとおりである。
また上記活性水素を有する化合物と、アルキレンオキシドとの反応モル比としては、上述したポリアルキレングリコール鎖におけるアルキレンオキシドの平均繰り返し数の好適範囲になるよう、適宜設定することが好ましい。
【0170】
上記活性水素を有する化合物にアルキレンオキシドを付加させる方法としては、通常の方法で重合することにより行うことができ、酸触媒又はアルカリ触媒を用いる方法が好適である。酸触媒としては、三フッ化ホウ素等のルイス酸触媒である金属及び半金属のハロゲン化合物;塩化水素、臭化水素、硫酸等の鉱酸;パラトルエンスルホン酸等が好適であり、アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水素化ナトリウムが好適である。
【0171】
上記付加反応工程の反応時間は、用いる触媒の種類や量、上記アルキレンオキシドの活性水素を1又は2個以上有する化合物への付加モル数、溶液濃度等に応じて適宜設定すればよい。
なお、上記活性水素を有する化合物にアルキレンオキシドを付加してなる化合物(以下、単に「付加物」ともいう。)として、市販の化合物を用いることもできる。
【0172】
上記製造方法においては、このようにして得られる活性水素を有する化合物にアルキレンオキシドを付加してなる化合物と、カルボキシル基を有するチオール化合物とを脱水縮合させることにより、上記ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物を得ることができる。この脱水縮合工程については、上述したとおりである。
また、このようにして得られるポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物に代表されるポリアルキレングリコール鎖含有化合物の存在下で、ビニル系単量体成分の重合反応を行うことにより、上記ポリアルキレングリコール系重合体(i−2)を得ることができる。上記ビニル系単量体成分の重合反応については、上述したとおりである。
【0173】
上述したように、重合体含有組成物を、ビニル系単量体由来の構造単位(BL)における酸量が異なる少なくとも2種類のポリアルキレングリコール系重合体を含むものとすることによって、そのような重合体含有組成物をセメント混和剤として用いると、セメント組成物におけるセメント分散性及びセメント保持性がバランスよく発現され、また、セメント組成物の状態を良好にすることができるものである。そして更には、セメント混和剤の添加量も低減することができるものである。
このような効果を奏する重合体含有組成物の形態としては、上述した形態の他に、以下のような3つの形態が挙げられる。
【0174】
上記その他の重合体含有組成物の形態としては、1つ目には、ポリアルキレングリコール系重合体を2種以上含む重合体含有組成物であって、上記重合体は、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接結合又は有機残基を介してビニル系単量体由来の構造単位(BL)の主鎖末端と結合した構造を有し、上記ポリアルキレングリコール系重合体の少なくとも1種は、ビニル系単量体が不飽和ジカルボン酸系単量体を含む重合体含有組成物の形態が挙げられる。以下、この形態を、第1のその他の重合体含有組成物の形態ともいう。
【0175】
上記第1のその他の重合体含有組成物においては、ポリアルキレングリコール系重合体を2種以上含んでおり、該ポリアルキレングリコール系重合体の少なくとも1種において、ビニル系単量体が不飽和ジカルボン酸系単量体を含むものであればよい。そのようなポリアルキレングリコール系重合体を少なくとも1種含み、該ポリアルキレングリコール系重合体とは異なるポリアルキレングリコール系重合体を少なくとも1種含んでいれば、更に、それらとは異なるポリアルキレングリコール系重合体を含んでいてもよいし、ポリアルキレングリコール系重合体以外の重合体を含んでいてもよい。
上記ポリアルキレングリコール系重合体、上記ビニル系単量体、及び、不飽和ジカルボン酸系単量体としては、上述したものと同様である。
【0176】
2つ目には、ポリアルキレングリコール系重合体を2種以上含む重合体含有組成物であって、上記重合体は、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接結合又は有機残基を介してビニル系単量体由来の構造単位(BL)の主鎖末端と結合した構造を有し、上記重合体含有組成物は、ポリアルキレングリコール系重合体(K)とポリアルキレングリコール系重合体(L)とを含み、上記ポリアルキレングリコール系重合体(K)は、ビニル系単量体が不飽和カルボン酸系単量体を含み、該不飽和カルボン酸系単量体が不飽和モノカルボン酸系単量体のみからなり、上記ポリアルキレングリコール系重合体(L)は、ビニル系単量体が不飽和カルボン酸系単量体を含み、該不飽和カルボン酸系単量体が不飽和ジカルボン酸系単量体のみからなる重合体含有組成物が挙げられる。以下、この形態を、第2のその他の重合体含有組成物の形態ともいう。
【0177】
上記第2のその他の重合体含有組成物においては、ポリアルキレングリコール系重合体(K)とポリアルキレングリコール系重合体(L)とを含んでおり、上記ポリアルキレングリコール系重合体(K)において、ビニル系単量体が不飽和カルボン酸系単量体を含み、該不飽和カルボン酸系単量体が不飽和モノカルボン酸系単量体のみからなっており、上記ポリアルキレングリコール系重合体(L)において、ビニル系単量体が不飽和カルボン酸系単量体を含み、該不飽和カルボン酸系単量体が不飽和ジカルボン酸系単量体のみからなっていればよい。そのようなポリアルキレングリコール系重合体(K)及び(L)を含んでいれば、更に、それらとは異なるポリアルキレングリコール系重合体を含んでいてもよいし、ポリアルキレングリコール系重合体以外の重合体を含んでいてもよい。
上記ポリアルキレングリコール系重合体、上記ビニル系単量体、不飽和モノカルボン酸系単量体、及び、不飽和ジカルボン酸系単量体としては、上述したものと同様である。
【0178】
3つ目には、ポリアルキレングリコール系重合体を2種以上含む重合体含有組成物であって、上記重合体は、ポリアルキレングリコール鎖(PAG)の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接結合又は有機残基を介してビニル系単量体由来の構造単位(BL)の主鎖末端と結合した構造を有し、上記重合体含有組成物は、ポリアルキレングリコール系重合体(M)とポリアルキレングリコール系重合体(N)とを含み、上記ポリアルキレングリコール系重合体(M)は、ビニル系単量体が不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を含み、該不飽和ポリアルキレングリコール系単量体におけるアルキレンオキシドの平均繰り返し数が1〜100であり、上記ポリアルキレングリコール系重合体(N)は、ビニル系単量体が不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を含み、該不飽和ポリアルキレングリコール系単量体におけるアルキレンオキシドの平均繰り返し数は、上記重合体(M)のそれとは異なって、4〜300である重合体含有組成物が挙げられる。以下、この形態を、第3のその他の重合体含有組成物の形態ともいう。
【0179】
上記第3のその他の重合体含有組成物においては、ポリアルキレングリコール系重合体(M)とポリアルキレングリコール系重合体(N)とを含んでおり、上記ポリアルキレングリコール系重合体(M)において、ビニル系単量体が不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を含み、該不飽和ポリアルキレングリコール系単量体におけるアルキレンオキシドの平均繰り返し数が1〜100であり、上記ポリアルキレングリコール系重合体(N)において、ビニル系単量体が不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を含み、該不飽和ポリアルキレングリコール系単量体におけるアルキレンオキシドの平均繰り返し数は、上記重合体(M)のそれとは異なって、4〜300であればよい。そのようなポリアルキレングリコール系重合体(M)及び(N)を含んでいれば、更に、それらとは異なるポリアルキレングリコール系重合体を含んでいてもよいし、ポリアルキレングリコール系重合体以外の重合体を含んでいてもよい。
上記ポリアルキレングリコール系重合体、上記ビニル系単量体、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体、及び、アルキレンオキシドとしては、上述したものと同様であるが、上記ポリアルキレングリコール系重合体(M)における上記アルキレンオキシドの平均繰り返し数としては、1〜75であることが好ましく、より好ましくは、4〜50であり、更に好ましくは、6〜25である。また、上記ポリアルキレングリコール系重合体(N)における上記アルキレンオキシドの平均繰り返し数としては、4〜200であることが好ましく、より好ましくは、10〜150であり、更に好ましくは、25〜100である。
さらに上記ポリアルキレングリコール系重合体(N)における上記アルキレンオキシドの平均繰り返し数は、上記ポリアルキレングリコール系重合体(M)における上記アルキレンオキシドの平均繰り返し数より3以上大きいことが好ましく、5以上大きいことがより好ましく、10以上大きいことがさらに好ましい。
【0180】
本発明の重合体含有組成物は、例えば、接着剤、シーリング剤、各種重合体への柔軟性付与成分、セメント混和剤、洗剤ビルダー等の種々の用途に好適に用いることができ、中でも、そのような用途に用いることができるように、微粒子の分散性に優れていることから、微粒子の分散剤用途に好適に用いることができる。このように、上記重合体含有組成物を含む微粒子分散剤もまた、本発明の1つである。更には、上述したように極めて高度のセメント分散性能を発揮できることから、セメント混和剤用途に用いることが好適であり、上記重合体含有組成物を含むセメント混和剤もまた、本発明の1つである。
上記セメント混和剤は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物に加えて用いることができ、このような上記セメント混和剤を含んでなるセメント組成物、すなわち、上記重合体含有組成物を含むセメント組成物もまた、本発明の1つである。
【0181】
上記セメント組成物としては、セメント、水、細骨材、粗骨材等を含むものが好適であり、セメントとしては、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩、及びそれぞれの低アルカリ形);各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント);白色ポルトランドセメント;アルミナセメント;超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント);グラウト用セメント;油井セメント;低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント);超高強度セメント;セメント系固化材;エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)等の他、これらに高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加したもの等が挙げられる。
上記骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材等が挙げられる。
【0182】
上記セメント組成物の1mあたりの単位水量、セメント使用量及び水/セメント比(質量比)としては、例えば、単位水量100〜185kg/m、使用セメント量200〜800kg/m、水/セメント比(質量比)=0.1〜0.7とすることが好適であり、より好ましくは、単位水量120〜175kg/m、使用セメント量250〜800kg/m、水/セメント比(質量比)=0.2〜0.65とすることである。このように、本発明の重合体(i)を含むセメント混和剤は、貧配合から富配合に至るまでの幅広い範囲で使用可能であり、高減水率領域、すなわち、水/セメント比(質量比)=0.15〜0.5(好ましくは0.15〜0.4)といった水/セメント比の低い領域でも使用可能であり、更に、単位セメント量が多く水/セメント比が小さい高強度コンクリート、単位セメント量が300kg/m以下の貧配合コンクリートのいずれにも有効である。
【0183】
本発明のセメント混和剤としては、高減水率領域においても流動性、保持性及び作業性をバランスよく高性能で発揮でき、優れた作業性を有することから、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品(プレキャストコンクリート)用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等にも有効に使用することが可能であり、更に、中流動コンクリート(スランプ値が22〜25cmの範囲のコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50〜70cmの範囲のコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効である。
【0184】
上記セメント混和剤をセメント組成物に使用する場合、その配合割合としては、本発明の重合体含有組成物が、固形分換算で、セメント質量の全量100質量%に対して、0.01〜10質量%となるように設定することが好ましい。0.01質量%未満では性能的に充分とはならないおそれがあり、逆に10質量%を超えると、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となるおそれがある。より好ましくは0.02〜8質量%であり、更に好ましくは0.05〜6質量%である。
【0185】
上記セメント混和剤としてはまた、他のセメント添加剤と組み合わせて用いることもできる。他のセメント添加剤としては、例えば、以下に示すようなセメント添加剤(材)等の1種又は2種以上を使用することができる。中でも、オキシアルキレン系消泡剤や、AE剤を併用することが特に好ましい。
なお、セメント添加剤の添加割合としては、上記重合体(i)の固形分100重量部に対し、0.0001〜10重量部とすることが好適である。
【0186】
(1)水溶性高分子物質:ポリアクリル酸(ナトリウム)、ポリメタクリル酸(ナトリウム)、ポリマレイン酸(ナトリウム)、アクリル酸・マレイン酸共重合物のナトリウム塩等の不飽和カルボン酸重合物;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオキシエチレンあるいはポリオキシプロピレンの重合体又はそれらの共重合体;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の非イオン性セルロースエーテル類;酵母グルカンやキサンタンガム、β−1,3グルカン類(直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよく、一例を挙げれば、カードラン、パラミロン、パキマン、スクレログルカン、ラミナラン等)等の微生物醗酵によって製造される多糖類;ポリアクリルアミド;ポリビニルアルコール;デンプン;デンプンリン酸エステル;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン;分子内にアミノ基を有するアクリル酸の共重合体及びその四級化合物等。
【0187】
(2)高分子エマルジョン。
(3)遅延剤:グルコン酸、リンゴ酸又はクエン酸、及び、これらの、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、トリエタノールアミン等の無機塩又は有機塩等のオキシカルボン酸並びにその塩;グルコース、フラクトース、ガラクトース、サッカロース;ソルビトール等の糖アルコール;珪弗化マグネシウム;リン酸並びにその塩又はホウ酸エステル類;アミノカルボン酸とその塩;アルカリ可溶タンパク質;フミン酸;タンニン酸;フェノール;グリセリン等の多価アルコール;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)及びこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等のホスホン酸及びその誘導体等。
【0188】
(4)早強剤・促進剤:塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム等の可溶性カルシウム塩;アルカノールアミン;アルミナセメント;カルシウムアルミネートシリケート等。
(5)鉱油系消泡剤:燈油、流動パラフィン等。
(6)油脂系消泡剤:動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物等。
(7)脂肪酸系消泡剤:オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等。
(8)脂肪酸エステル系消泡剤:グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックス等。
【0189】
(9)オキシアルキレン系消泡剤:(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン−2−エチルヘキシルエーテル、炭素数12〜14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等の(ポリ)オキシアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の(ポリ)オキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、3−メチル−1−ブチン−3−オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等の(ポリ)オキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;(ポリ)オキシエチレンステアリルリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルアミン等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド等。
【0190】
(10)アルコール系消泡剤:オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、グリコール類等。
(11)アミド系消泡剤:アクリレートポリアミン等。
(12)リン酸エステル系消泡剤:リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等。
(13)金属石鹸系消泡剤:アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等。
(14)シリコーン系消泡剤:ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油等。
(15)AE剤:樹脂石鹸、飽和又は不飽和脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ラウリルサルフェート、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸)、LAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸)、アルカンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸エステル又はその塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテルリン酸エステル又はその塩、蛋白質材料、アルケニルスルホコハク酸、α−オレフィンスルホネート等。
【0191】
(16)その他界面活性剤:オクタデシルアルコールやステアリルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂肪族1価アルコール、アビエチルアルコール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する脂環式1価アルコール、ドデシルメルカプタン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有する1価メルカプタン、ノニルフェノール等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアルキルフェノール、ドデシルアミン等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するアミン、ラウリン酸やステアリン酸等の分子内に6〜30個の炭素原子を有するカルボン酸に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを10モル以上付加させたポリアルキレンオキシド誘導体類;アルキル基又はアルコキシル基を置換基として有しても良い、スルホン基を有する2個のフェニル基がエーテル結合した、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩類;各種アニオン性界面活性剤;アルキルアミンアセテート、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等の各種カチオン性界面活性剤;各種ノニオン性界面活性剤;各種両性界面活性剤等。
(17)防水剤:脂肪酸(塩)、脂肪酸エステル、油脂、シリコン、パラフィン、アスファルト、ワックス等。
(18)防錆剤:亜硝酸塩、リン酸塩、酸化亜鉛等。
(19)ひび割れ低減剤:ポリオキシアルキルエーテル類;2−メチル−2,4−ペンタンジオール等のアルカンジオール類等。
(20)膨張材:エトリンガイト系、石炭系等。
【0192】
その他のセメント添加剤(材)として、例えば、セメント湿潤剤、増粘剤、分離低減剤、凝集剤、乾燥収縮低減剤、強度増進剤、セルフレベリング剤、防錆剤、着色剤、防カビ剤、高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石膏等が挙げられる。
【発明の効果】
【0193】
本発明の重合体含有組成物は、上述の構成よりなり、特にセメント混和剤に用いることによって、セメント組成物におけるセメント分散性及びセメント保持性をバランスよく発現し、また、セメント組成物の状態を良好にでき、更には、セメント混和剤の添加量を低減することができることから、各種用途、特にセメント混和剤用途に有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0194】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「重量部」をそれぞれ意味するものとする。また、「wt%」は「質量%」を意味するものとする。
まず、ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物やその重合体及び比較用重合体の分析方法として、液体クロマトグラフィー(LC)分析条件・解析条件、及び、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)分析条件・解析条件について説明する。また、これらの固形分を求める測定法についても説明する。
【0195】
<LC分析法>
装置:Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製 Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
カラム:Waters社製 Atlantis dC18 ガードカラム+カラム(粒径5μm、内径4.6mm×250mm×2本)
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:アセトニトリル/100mM酢酸イオン交換水溶液=40/60(質量%)の混合物に30%NaOH水溶液を加えてpH4.0に調整したもの
流量:1.0mL/分
カラム温度:40℃
試料液注入量:100μL(試料濃度1〜2質量%の溶離液溶液)
【0196】
<LC解析条件:原料アルコール(付加物)の消費率及び平均SH導入数>
原料成分であるアルコール(付加物)の消費率は、以下のようにして概算した。
LC分析により、メルカプト基が全く導入されなかったもの(未反応原料)、メルカプト基が1つ導入されたポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物(「PAGチオール化合物」ともいう。)、・・・、メルカプト基が(m+p)個導入されたPAGチオール化合物のピークが分離される。これらのRI(示差屈折率計)面積比(%)をS、S、・・・Sm+pとし、原料成分のアルコールの消費率は、以下の式(1)により概算した。
【0197】
【数1】

【0198】
またPAGチオール化合物中の平均SH導入数は、以下の式(2)により概算した。
【0199】
【数2】

【0200】
<GPC分析法>
ポリアルキレングリコール鎖含有チオール系重合体や比較用重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びピークトップ分子量(Mp)は、以下の測定条件により測定した。
装置:Waters Alliance(2695)
解析ソフト:Waters社製、Empowerプロフェッショナル+GPCオプション
使用カラム:東ソー(株)製、TSKguardcolumnsSWXL+TSKgel G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)、多波長可視紫外(PDA)検出器(Waters 2996)
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶解し、更に酢酸でpH6.0に調整したもの
較正曲線作成用標準物質:ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp)272500、219300、107000、50000、24000、12600、7100、4250、1470)
較正曲線:上記ポリエチレングリコールのMp値と溶出時間とを基礎にして3次式で作成した
流量:1mL/分
カラム温度:40℃
測定時間:45分
試料液注入量:100μL(PAG、PAGチオール化合物は試料濃度0.4質量%、重合体は試料濃度0.5質量%の溶離液溶液)
【0201】
<GPC解析条件1(PAGチオール化合物(単量体)の分析)>
RIクロマトグラムにおいて、溶出直前・溶出直後のベースラインにおいて平らに安定している部分を直線で結び、ピークを検出・解析した。多量体や不純物が目的ピークに一部重なって測定された場合は、ピークの重なり部分の最凹部において垂直分割し、目的物の分子量を測定した。
単量体純分量及び多量化物量の計算;
RI検出器によるピーク面積の比より、下記のようにして計算した。
単量体純分量=(PAGチオール化合物面積)/(多量化物ピーク面積+PAGチオール化合物面積)
多量化物量=(多量化物ピーク面積)/(多量化物ピーク面積+PAGチオール化合物面積)
【0202】
<GPC解析条件2(重合体の分析)>
得られたRIクロマトグラムにおいて、重合体溶出直前・溶出直後のベースラインにおいて平らに安定している部分を直線で結び、重合体を検出・解析した。ただし、単量体や単量体由来の不純物のピークが重合体ピークに一部重なって測定された場合、それらと重合体の重なり部分の最凹部において垂直分割して重合体部と単量体部とを分離し、重合体部のみの分子量・分子量分布を測定した。重合体部とそれ以外が完全に重なり分離できない場合はまとめて計算した。
重合体純分の計算:
RI検出器によるピーク面積の比より、下記のようにして計算した。
重合体純分=(重合体ピーク面積)/(重合体ピーク面積+単量体や不純物のピーク面積)
【0203】
<固形分の測定法(PAGチオール化合物及び重合体の分析)>
サンプル約0.5gをアルミ皿に量り採り、水約1gで希釈して均一に広げた。窒素雰囲気下、130℃で1時間乾燥させ、デシケーター中で放冷した後、乾燥後質量を量った。乾燥前後の質量差により固形分(不揮発分)濃度を計算した。
PAGチオール化合物や重合体の水溶液の濃度としては、特に断りがない限り、上記の手順で測定した固形分を用いた。
【0204】
<ポリアルキレングリコール鎖含有チオール化合物(PAGチオール化合物)>
製造例1
(1)脱水エステル化反応工程
ジムロート冷却管付のディーン・スターク装置、テフロン(R)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、ガラス保護管付温度センサーを備えたガラス製反応器内に、エチレンオキシドの付加モル数100のポリアルキレングリコール(PEG−100、1500.00g)、3−メルカプトプロピオン酸(和光純薬社製、3−MPA、80.34g)、p−トルエンスルホン酸−水和物(和光純薬社製、PTS・1HO、31.61g)、フェノチアジン(和光純薬社製、PTZ、0.7902g)、シクロへキサン(79.02g)を仕込んだ。ディーン・スターク装置をシクロへキサンで満たした後、反応系内を撹拌しながら、還流するまで加温した。また、加温用オイルバスの温度は120±5℃とした。反応系内の温度が110±5℃になるように途中でシクロヘキサンを加えながら、40.0時間加温還流して反応終了とした。
反応終了後のLC分析結果は、PEG−100の消費率98.4%、PEG−100一分子に対する平均SH導入数は1.95個であった。また、GPC分析の結果、単量体量94.5%、残りが多量体であった。
【0205】
(2)脱溶媒工程
反応終了後、固化しないように撹拌しながら60℃まで放冷した後、30%NaOH水溶液(21.05g)に水(1507.51g)を加えた水溶液を、速やかに反応器内に投入した。続いて徐々に約100℃まで加温し、シクロへキサンを留去した。加温を停止し、放冷しながら窒素を30mL/分で90分バブリングして残存シクロへキサンを除去し、目的化合物(PAGチオール化合物(T−51))の水溶液を得た。
得られた目的化合物のLC分析結果は、PEG−100の消費率100.0%、PEG−100一分子に対する平均SH導入数は1.95個であった。また、GPC分析結果は、単量体量94.2%、残りが多量体であった。
【0206】
製造例2
(1)脱水エステル化反応工程
ジムロート冷却管付のディーン・スターク装置、テフロン(R)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、ガラス保護管付温度センサーを備えたガラス製反応器内に、トリメチロールプロパン1モルにエチレンオキシドを225モル付加したポリアルキレングリコール鎖含有トリオール(TMP−225、1500.00g)、3−メルカプトプロピオン酸(和光純薬社製、3−MPA、52.30g)、p−トルエンスルホン酸−水和物(和光純薬社製、PTS・1HO、31.05g)、フェノチアジン(和光純薬社製、PTZ、0.7762g)、シクロへキサン(77.62g)を仕込んだ。ディーン・スターク装置をシクロへキサンで満たした後、反応系内を撹拌しながら、還流するまで加温した。また、加温用オイルバスの温度は120±5℃とした。反応系内の温度が110±5℃になるように途中でシクロヘキサンを加えながら、42.0時間加温還流して反応終了とした。
反応終了後のLC分析結果は、TMP−225の消費率99.9%、TMP−225一分子に対する平均SH導入数は2.79個であった。またGPC分析結果は、単量体量90.2%、残りが多量体であった。
(2)脱溶媒工程
反応終了後、固化しないように撹拌しながら60℃まで放冷した後、30%NaOH水溶液(20.67g)に水(1487.29g)を加えた水溶液を、速やかに反応器内に投入した。続いて徐々に約100℃まで加温し、シクロへキサンを留去した。加温を停止し、放冷しながら窒素を30mL/分で90分バブリングして残存シクロへキサンを除去し、目的化合物(PAGチオール化合物(T−42))の水溶液を得た。
得られた目的化合物のLC分析結果は、TMP−225の消費率99.8%、TMP−225一分子に対する平均SH導入数は2.76個であった。またGPC分析結果は、単量体量88.5%、残りが多量体であった。
【0207】
製造例3
(1)脱水エステル化反応工程
ジムロート冷却管付のディーン・スターク装置、テフロン(R)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、ガラス保護管付温度センサーを備えたガラス製反応器内に、ソルビトール1モルにエチレンオキシドを450モル付加したポリアルキレングリコール鎖含有ヘキサオール(SB−450、1500.00g)、3−メルカプトプロピオン酸(和光純薬社製、3−MPA、52.53g)、p−トルエンスルホン酸−水和物(和光純薬社製、PTS・1HO、31.05g)、フェノチアジン(和光純薬社製、PTZ、0.7763g)、シクロへキサン(77.63g)を仕込んだ。ディーン・スターク装置をシクロへキサンで満たした後、反応系内を撹拌しながら、還流するまで加温した。また、加温用オイルバスの温度は120±5℃とした。反応系内の温度が110±5℃になるように途中でシクロヘキサンを加えながら、42.0時間加温還流して反応終了とした。
反応終了後のLC分析結果は、SB−450の消費率100%、SB−450一分子に対する平均SH導入数は5.17個であった。またGPC分析結果は、単量体量86.2%、残りが多量体であった。
(2)脱溶媒工程
反応終了後、固化しないように撹拌しながら60℃まで放冷した後、30%NaOH水溶液(20.68g)に水(1487.45g)を加えた水溶液を、速やかに反応器内に投入した。続いて徐々に約100℃まで加温し、シクロへキサンを留去した。加温を停止し、放冷しながら窒素を30mL/分で90分バブリングして残存シクロへキサンを除去し、目的化合物(PAGチオール化合物(T−45))の水溶液を得た。
得られた目的化合物のLC分析結果は、SB−450の消費率100%、SB−450一分子に対する平均SH導入数は5.05個であった。またGPC分析結果は、単量体量84.2%、残りが多量体であった。
製造例1〜3における原料化合物や反応条件、脱溶媒工程後のLC分析結果及びGPC分析結果を表1及び表2に示す。
【0208】
【表1】

【0209】
【表2】

【0210】
表1及び表2における略称は以下のとおりである。
PEG−100:ポリエチレングリコールのエチレンオキシド100モル付加物
TMP−225:トリメチロールプロパンのエチレンオキシド225モル付加物
SB−450:ソルビトールのエチレンオキシド450モル付加物
3−MPA:3−メルカプトプロピオン酸
PTS・1HO:p−トルエンスルホン酸−水和物
PTZ:フェノチアジン
【0211】
<ポリアルキレングリコール鎖含有チオール重合体>
製造例4
単量体溶液として、メタクリル酸ナトリウム(日本触媒社製、SMAA、2.67g)、メタクリル酸(日本触媒社製、MAA、19.16g)、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(平均エチレンオキシド付加モル数25、ME25E、187.12g)、チオールとして製造例3で得たPAGチオール化合物(T−45、固形分換算で16.04g)、水酸化ナトリウム(NaOH、0.89g)、イオン交換水(86.61g)の溶液を調製した。
開始剤溶液として、2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩(和光純薬社製、V−50、0.22g)、イオン交換水(49.78g)の溶液を調製した。
ジムロート冷却管、テフロン(R)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、窒素導入管、温度センサーを備えたガラス製反応容器にイオン交換水(137.50g)を仕込み(釜仕込み)、300rpmで撹拌下、窒素を200mL/分で導入しながら80℃に加温した。
続いて上記の単量体溶液を4時間、開始剤溶液を5時間かけて反応容器中に滴下した。滴下完了後1時間、80℃に保って重合反応を完結させた。室温まで冷却後、30%NaOH水溶液を加えてpHを6.0に調整し、目的重合体(重合体245)の水溶液を得た。
GPC分析の結果、重合体はMw=158800、Mp=145800、Mn=57500であった。また重合体純分は95.3%であった。
【0212】
製造例5〜15
単量体溶液及び開始剤溶液等の仕込み量を表3に記載のように変更した以外は、製造例4と同様にして目的重合体の水溶液を得た。
仕込み組成及びGPC分析結果を表4に示す。
【0213】
【表3】

【0214】
【表4】

【0215】
表3及び表4における略称は以下のとおりである。
末端数:1分子中の構造末端に存在するチオール基の数
EOmol:エチレンオキシドの付加モル数
SMAA:メタクリル酸ナトリウム
MAA:メタクリル酸
ME25E:メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(平均エチレンオキシド付加モル数25)
NaOH:水酸化ナトリウム
V−50:2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩
酸量:重合体1g当たりの酸基のミリ当量数
【0216】
製造例16
単量体溶液として、アクリル酸(日本触媒社製、AA、17.09g)、チオールとして製造例2で得たPAGチオール化合物(T−42、固形分換算で26.77g)、イオン交換水(158.41g)の溶液を調製した。
開始剤溶液として、2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩(和光純薬社製、V−50、0.17g)、イオン交換水(37.33g)の溶液を調製した。
ジムロート冷却管、テフロン(R)製の撹拌翼と撹拌シール付の撹拌器、窒素導入管、温度センサーを備えたガラス製反応容器に3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキシド付加物(平均エチレンオキシド付加数50モル、MB−E50、156.14g)、水酸化ナトリウム(NaOH、0.08g)、イオン交換水(104.02g)を仕込み(釜仕込み)、300rpmで撹拌下、窒素を200mL/分で導入しながら80℃に加温した。
続いて上記の単量体溶液を3時間、開始剤溶液を3.5時間かけて反応容器中に滴下した。
滴下完了後1時間、80℃に保って重合反応を完結させた。室温まで冷却後、30%NaOH水溶液を加えてpHを6.0に調整し、目的重合体(重合体37)の水溶液を得た。
GPC分析の結果、重合体はMw=35700、Mp=35800、Mn=20000であった。また重合体純分は87.6%であった。
【0217】
製造例17〜18
単量体溶液、開始剤溶液等の仕込み量を表5に記載のように変更した以外は、製造例16と同様にして目的重合体の水溶液を得た。
仕込み組成及びGPC分析結果を表6に示す。
【0218】
【表5】

【0219】
【表6】

【0220】
表5及び表6における略称は以下のとおりである。
末端数:1分子中の構造末端に存在するチオール基の数
EOmol:エチレンオキシドの付加モル数
MAanh:マレイン酸無水物(日本触媒社製)
MB−E50:3−メチル−3−ブテン−1−オールのエチレンオキシド付加物(平均エチレンオキシド付加数50モル)
NaOH:水酸化ナトリウム
AA:アクリル酸
V−50:2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩
SMAA:メタクリル酸ナトリウム
S2MA:マレイン酸ジナトリウム
酸量:重合体1g当たりの酸基のミリ当量数
なお、表3〜6中、重合体の組成は、NaOHでの完全中和換算(カルボン酸をNaOHで完全中和した場合)の質量比で表しており、また、PAGチオール化合物は外割で考慮しているため合計は100%になっていない。
【0221】
<セメント分散性能の評価方法:モルタル試験>
実施例1〜9、比較例1〜7
モルタル試験は、温度が20℃±1℃、相対湿度が60%±10%の環境下で行った。
モルタル配合は、C/S/W=550/1350/220(g)とした。ただし、
C:普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製)
S:セメント強さ試験用標準砂(セメント協会製)
W:本発明重合体又は比較重合体、及び、消泡剤のイオン交換水溶液
Wとして、表7に示した添加量の重合体水溶液を量り採り、消泡剤MA−404(ポゾリス物産製)を有姿で重合体固形分に対して10質量%加え、更にイオン交換水を加えて所定量とし、充分に均一溶解させた。表7において重合体の添加量は、セメント質量に対する重合体固形分の質量%で表されている。
ホバート型モルタルミキサー(型番N−50;ホバート社製)にステンレス製ビーター(撹拌羽根)を取り付け、C、Wを投入し、1速で30秒間混練した。更に1速で混練しながら、Sを30秒かけて投入した。S投入終了後、2連で30秒間混練した後、ミキサーを停止し、15秒間モルタルの掻き落としを行い、その後、75秒間静置した。75秒間静置後、更に60秒間2速で混練を行い、モルタルを調製した。
【0222】
モルタルを混練容器からポリエチレン製1L容器に移し、スパチュラで20回撹拌した後、直ちにフローテーブル(JIS R5201−1997に記載)に置かれたフローコーン(JIS R5201−1997に記載)に半量詰めて15回つき棒で突き、更にモルタルをフローコーンのすりきりいっぱいまで詰めて15回つき棒で突き、最後に不足分を補い、フローコーンの表面をならした。その後、直ちにフローコーンを垂直に引き上げ、広がったモルタルの直径(最も長い部分の直径(長径)及び前記長径に対して90度をなす部分の直径)を2箇所測定し、その平均値を0打フロー値とした。0打フロー値を測定後、直ちに15秒間に15回の落下運動を与え、広がったモルタルの直径(最も長い部分の直径(長径)及び前記長径に対して90度をなす部分の直径)を2箇所測定し、その平均値を15打フロー値とした。モルタル調製直後における15打フロー値(初期15打フロー値)を表7に示す。また、モルタル調製直後におけるモルタル空気量(初期空気量)の測定も行った。
なお、0打フロー値及び15打フロー値は、数値が大きいほど、分散性能が優れている。
【0223】
<モルタル空気量の測定法>
モルタルを500mLのガラス製メスシリンダーに約200mL詰め、径8mmの丸棒で突き、手で軽く振動させて粗い気泡を抜いた。更にモルタルを約200mL加えて同様に気泡を抜いた後、モルタルの体積と質量を測り、各材料の密度から空気量を計算した。
【0224】
【表7】

【0225】
表7中、初期15打フロー値における、「実測」とは、重合体の混合物をモルタル試験に供した際の15打フロー値の実測値を表し、「予測」とは、重合体それぞれを単独でモルタル試験に供した場合の15打フロー値を、重合体の混合比により単純に比例配分した予測値を表している。そして、「実測−予測」とは、上記実測値から上記予測値を引いた値を表している。
また、判定の欄の評価基準は次のとおりである。
評価基準
++(非常に良好):重合体の混合物をモルタル試験に供した際の15打フロー値の実測値が、重合体それぞれを単独でモルタル試験に供した場合のいずれの15フロー値をも上回っている。
+(良好):上記実測値が上記予測値を上回っている。
【0226】
実施例及び比較例の結果から、以下のことが分かった。
ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接結合又は有機残基を介して、ビニル系単量体由来の構造単位の主鎖末端と結合した構造を有するポリアルキレングリコール系重合体を単独で用いる場合に比べて、ビニル系単量体由来の構造単位における酸量が異なる2種以上のポリアルキレングリコール系重合体(A)とポリアルキレングリコール系重合体(B)とを含む重合体含有組成物を用いた場合には、モルタルの流動性が重合体を単独で用いた場合の平均値以上となり、混合物とすることによって相乗効果が得られることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体の主鎖にポリアルキレングリコール鎖とビニル系単量体由来の構造単位とを有する重合体を含む重合体含有組成物であって、該重合体は、該ポリアルキレングリコール鎖の末端の少なくとも1つにおける末端酸素原子が、直接結合又は有機残基を介して、該ビニル系単量体由来の構造単位の主鎖末端と結合した構造を有し、該ビニル系単量体は、酸基を有する単量体を必須として含み、該重合体含有組成物は、ビニル系単量体由来の構造単位における酸量が異なる2種以上のポリアルキレングリコール系重合体(A)とポリアルキレングリコール系重合体(B)とを含むことを特徴とする重合体含有組成物。
【請求項2】
前記ポリアルキレングリコール系重合体は、下記一般式(3);
【化1】

(式中、Xは、活性水素を1又は2個以上有する化合物の残基を表す。AOは、同一又は異なって、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を表す。Yは、同一若しくは異なって、直接結合又は有機残基を表す。Zは、同一又は異なって、酸基を有するビニル系単量体由来の構造単位を表す。nは、同一又は異なって、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜1000の数である。mは、1〜50の整数である。)で表されることを特徴とする請求項1に記載の重合体含有組成物。
【請求項3】
前記重合体含有組成物は、酸量の多いポリアルキレングリコール系重合体(A)と酸量の少ないポリアルキレングリコール系重合体(B)との酸量の差が、該重合体1g当りの酸基のミリ当量数(meq/g)で0.1以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の重合体含有組成物。
【請求項4】
前記ビニル系単量体は、不飽和カルボン酸系単量体を必須として含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の重合体含有組成物。
【請求項5】
前記ビニル系単量体は、不飽和ポリアルキレングリコール系単量体を必須として含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の重合体含有組成物。
【請求項6】
前記有機残基は、硫黄原子を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の重合体含有組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の重合体含有組成物を含むことを特徴とする微粒子分散剤。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の重合体含有組成物を含むことを特徴とするセメント混和剤。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の重合体含有組成物を含むことを特徴とするセメント組成物。

【公開番号】特開2012−116706(P2012−116706A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267914(P2010−267914)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】