説明

重合体微粒子及びその製造方法、ならびに、その用途

【課題】粒子径の粒度分布が狭く、且つ、溶剤などへの分散性に優れた重合体微粒子及びその製造方法、ならびに、その用途を提供する。
【解決手段】ポリマー系シード粒子と、この粒子の周囲に形成されるポリマー系被覆層とから構成される重合体微粒子の製造方法であって、前記ポリマー系シード粒子を構成する第1モノマーは、1分子中に2個以上のビニル基を有する架橋性モノマーを、第1モノマー100質量部に対して、20質量部以上含むものであり、前記ポリマー系被覆層を構成する第2モノマーは、1分子中に1個以上のビニル基を有するものであり、前記シード粒子と、アニオン性乳化剤およびレドックス系重合開始剤との存在下、前記第2モノマーを水性溶媒中で重合することで、シード粒子を第2モノマーの重合体で被覆することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体微粒子及びその製造方法に関するものであり、詳細には、粒度分布が狭く、且つ、有機溶剤などへの分散性に優れた重合体微粒子、および、当該重合体微粒子を用いた絶縁被覆導電性微粒子用の絶縁被覆材料、絶縁被覆導電性微粒子、異方性導電接着剤組成物、異方性導電成形体、およびトナー用外添剤に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体微粒子は、樹脂成形品の光拡散性、耐ブロッキング性および滑り性などの物性の向上や更なる特性の付与を目的として、また、電子機器類の微小部位間のスペーサや電気的接続を担う導電性微粒子の基材粒子として用いられている。したがって、重合体微粒子は用いられる用途に応じて様々な特性が要求されており、かかる要求を満足すべく様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、特定の粒子径を有し、且つ、粒子径分布の狭い重合体粒子を得る方法としては、所定の水性重合体分散体(シード粒子)に重合性不飽和単量体を吸収させた後、重合反応を行う方法(特許文献1)、特定組成の単量体混合物を、アニオン性乳化剤の存在下、特定の酸化剤と還元剤とを組み合わせてなる重合開始剤を用いて重合する方法(特許文献2)等がある。また、特許文献3、4には、重合体粒子の機械的強度、耐熱性や耐溶剤性の向上を目的として、2個以上の重合性不飽和基を有する化合物を使用して重合体粒子に架橋構造を導入する方法等が記載されており、さらに、特許文献5には、シード粒子に重合性単量体を吸収させて重合体粒子を得る際に、当該重合性単量体として2個以上の重合性不飽和基を有する単量体を使用する方法が記載されている。また、特許文献6,7には、単量体成分としてフッ素原子を含む化合物を使用することで、撥水撥油性などを、重合体粒子に付与する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−206803号公報
【特許文献2】特開平1−182313号公報
【特許文献3】特開2000−204275号公報
【特許文献4】特開2001−163985号公報
【特許文献5】特開平1−315454号公報
【特許文献6】特開昭62−135531号公報
【特許文献7】特開2005−298541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、重合体微粒子の用途は多岐にわたっており、粒子径や粒子径分布など、単一の特性のみならず、耐熱性、機械的および化学的特性など全ての特性をバランスよく備えた重合体粒子が求められている。また、重合体微粒子は、樹脂や溶剤などの媒体に分散させた状態で用いられることが多く、これらの媒体に対する分散性が良好であること、また、樹脂等との親和性や密着性の経時的な低下を防ぐ観点からは、吸湿し難いものであることが求められている。
【0006】
本発明は、上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、粒子径の粒度分布が狭く、且つ、有機溶剤などへの分散性に優れ、吸湿性の抑えられた重合体微粒子及びその製造方法、ならびに、その用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、粒度分布が狭く、且つ、有機溶剤などへの分散性に優れた重合体微粒子を得るべく研究を重ねていたところ、シード粒子を被覆するポリマー系被覆層の形成を、特定の乳化剤と重合開始剤の存在下で行うことで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明に係る重合体微粒子の製造方法とは、ポリマー系シード粒子と、この粒子の周囲に形成されるポリマー系被覆層とから構成される重合体微粒子の製造方法であって、前記ポリマー系シード粒子を構成する第1モノマーは、1分子中に2個以上のビニル基を有する架橋性モノマーを、全第1モノマー100質量部に対して、20質量部以上含むものであり、前記ポリマー系被覆層を構成する第2モノマーは、1分子中に1個以上のビニル基を有するものであり、前記シード粒子と、アニオン性乳化剤およびレドックス系重合開始剤との存在下、前記第2モノマーを水性溶媒中で重合することで、シード粒子を第2モノマーの重合体で被覆するところに特徴を有するものである。
【0009】
上記アニオン性乳化剤は、ポリマー系シード粒子と第2モノマーの合計100質量部に対して0.01質量部〜1質量部使用するのが好ましい。本発明においては、上記ポリマー系被覆層を構成する第2モノマーが、1分子中に2個以上のビニル基を有する架橋性モノマーを、全第2モノマー100質量部に対して、20質量部以上含むものであるのが好ましい。上記アニオン性乳化剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩よりなる群から選択される1種以上を使用することが望ましい。また、レドックス系重合開始剤としては、アスコルビン酸、酒石酸およびエリソルビン酸よりなる群から選択される1種以上の還元剤と、過酸化水素とを組み合わせたものを使用することが推奨される。
【0010】
本発明の重合体微粒子とは、ポリマー系シード粒子と、このシード粒子の周囲に形成されるポリマー系被覆層とから構成される重合体微粒子であって、前記ポリマー系シード粒子を構成する第1モノマーは、1分子中に2個以上のビニル基を有する架橋性モノマーを、全第1モノマー100質量部に対して、20質量部以上含むものであり、前記ポリマー系被覆層を構成する第2モノマーは、1分子中に1個以上のビニル基を有するものであり、重合体微粒子の粒子径の変動係数が20%以下であり、メタノールに分散させた重合体微粒子溶液から測定される体積平均粒子径と、水に分散させた重合体微粒子水溶液から測定される体積平均粒子径との比(分散粒子径比=メタノール分散時の平均粒子径/水分散時の平均粒子径)が1.2以下であり、且つ、飽和吸湿量が1.5質量%以下、であるところに特徴を有している。
【0011】
また、前記ポリマー系被覆層が、1分子中に1個のビニル基を有する非架橋性モノマーと、1分子中に2個以上のビニル基を有する架橋性モノマーとを含む前記第2モノマーを重合してなるものであることが推奨される。さらに、前記ポリマー系被覆層の厚みは50nm以上であるのが好ましく、前記重合体微粒子の体積平均粒子径が0.05μm〜3μmであることが望ましい。
【0012】
さらに、本発明には上記重合体粒子を用いた絶縁被覆導電性粒子用の絶縁被覆材料、絶縁被覆導電性微粒子、異方性導電接着剤組成物、異方性導電成形体および、上記重合体粒子を用いたトナー用外添剤も含まれる。
【発明の効果】
【0013】
アニオン性乳化剤およびレドックス系重合開始剤の存在下で、シード粒子を被覆するポリマー系被覆層を形成する本発明の製造方法により得られる重合体微粒子は、粒子径の粒度分布が狭く、且つ、分散性にも優れるものである。したがって、樹脂などの他の材料と混合して用いる場合も凝集が生じ難いものであると考えられる。また、本発明法により得られる重合体粒子は、吸湿性が極低レベルにまで抑制されているので、絶縁性、帯電特性に優れる。したがって、本発明の重合体微粒子は、フィルムやシートの改質材料、導電性微粒子の基材粒子や絶縁被覆材料などの絶縁材料、トナー用外添剤などの帯電制御材料に用いられる微粒子として特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の重合体微粒子の製造方法とは、ポリマー系シード粒子(以下、シード粒子と略す場合がある)と、この粒子の周囲に形成されるポリマー系被覆層とから構成される重合体微粒子の製造方法であって、前記ポリマー系シード粒子を構成する第1モノマーは、1分子中に2個以上のビニル基を有する架橋性モノマーを、全第1モノマー100質量部に対して、20質量部以上含むものであり、前記ポリマー系被覆層を構成する第2モノマーは、1分子中に1個以上のビニル基を有するものであり、前記シード粒子と、アニオン性乳化剤およびレドックス系重合開始剤との存在下、前記第2モノマーを水性溶媒中で重合することで、シード粒子を第2モノマーの重合体で被覆するところに特徴を有するものである。まず、ポリマー系シード粒子について説明する。
【0015】
本発明の重合体微粒子の製造方法で用いられるシード粒子は、第1モノマーを重合してなるものであって、第1モノマーは、1分子中に2個以上のビニル基を有する架橋性モノマーを、全第1モノマー100質量部に対して、20質量部以上含むものである。架橋性モノマー量が少なすぎる場合には、シード粒子を構成するポリマー鎖の分子運動の自由度が高くなり、シード粒子同士が接近した際に、互いの粒子のポリマー鎖が絡み合いやすくなり、一体化(合一)しやすくなると考えられる。しかしながら、架橋性モノマーをシード粒子の必須の構成成分とすることで、シード粒子間の合一が抑制され、粒度分布の揃ったシード粒子を得ることができる。
【0016】
なお、本発明に係るシード粒子を構成する第1モノマーは、上記架橋性モノマー以外の成分を含んでいてもよく、他のモノマー成分としては、例えば、1分子中に1個のビニル基を有する非架橋性モノマーが挙げられる。なお、本発明に係るシード粒子としては、上記架橋性モノマーのみを重合してなるビニル系ポリマーを用いてもよいが、上記非架橋性モノマーと架橋性モノマーとを含むモノマー混合物(第1モノマー)を重合してなるものであるのが好ましい。これにより、最終的に得られる重合体微粒子の機械的強度や耐熱性等の物性を制御し易くなる。
【0017】
上記架橋性モノマーとしては、分子中に2個以上のビニル基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコール系ジ(メタ)アクリレート類や、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ブチルエチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,7−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート等のアルカンジオール系ジ(メタ)アクリレートや、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレートなどの2官能(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート、ジアリルフタレートおよびその異性体、トリアリルイソシアヌレートおよびその誘導体等の3官能以上の(メタ)アクリレート類;ジビニルベンゼン(DVB)、ジビニルナフタレン、および、これらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの共役ジオレフィン化合物;N,N−ジビニルアニリン;ジビニルエーテル;ジビニルサルファイド;ジビニルスルホン酸等が挙げられる。これらの架橋性モノマーは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、2官能および3官能以上の多官能(メタ)アクリレート類、芳香族ジビニル化合物類が好ましく、さらに、機械的強度や耐熱性等の物性を制御し易い点でジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが特に好適である。
【0018】
非架橋性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類;スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−フェニルスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、パラヒドロキシスチレン等のスチレン系モノマー;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル類;2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル等の水酸基含有アリルエーテル類等が挙げられる。尚、非架橋性モノマーとして(メタ)アクリル酸を用いる場合は、部分的にアルカリ金属で中和してもよい。上述の非架橋性モノマーは1種を単独で使用してもよく、また、2種以上を併用してもよい。これらの非架橋性モノマーの中でも、粒子径の均一な粒子を製造し易い点でアルキル(メタ)アクリレート類、スチレン系モノマーが好ましい。
【0019】
シード粒子を構成する架橋性モノマーと非架橋性モノマーとの共重合比は、架橋性モノマーがシード粒子を構成する全第1モノマー100質量部中20質量部以上である限り特に限定されないが、好ましくは22質量部以上であり、より好ましくは25質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上である。また、架橋性モノマーは全第1モノマー100質量部に対して、90質量部以下であるのが好ましく、より好ましくは80質量部以下であり、さらに好ましくは70質量部以下である。第1モノマー中の架橋性モノマー量を上記範囲とすることで、シード粒子の架橋度が向上するため、シード粒子同士が反応系中において合一して粒度分布が広くなるという問題が起こり難くなり粒度分布の揃ったシード粒子を得ることができる。
【0020】
なお、シード粒子の物性を損なわない範囲であれば、上記例示以外の化合物を第1モノマーとして用いてもよい。例えば、フッ素含有ビニル系モノマーを第1モノマーとして用いるのが好ましい。フッ素含有ビニル系モノマーを使用することで、加熱下における重合体微粒子の機械的強度を向上させることができる。
【0021】
フッ素含有ビニル系モノマーとしては分子中に1個以上のフッ素原子と、1個以上のビニル基を有する化合物が好ましい。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の一部または全部の水素原子がフッ素原子に置換された炭素数1〜20のフルオロアルキル基を有するフルオロアルキル(メタ)アクリレート類を用いるのが好ましく、より好ましくはトリフロロエチル(メタ)アクリレート、テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフロロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフロロペンチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフロロデシル(メタ)アクリレートなどの炭素数2〜17のフルオロアルキル基を有するフルオロアルキル(メタ)アクリレートが挙げられるが、中でもトリフロロエチル(メタ)アクリレートは同時に使用する他のビニル系モノマーとの共重合性に優れるため好ましい。
【0022】
上記フッ素含有ビニル系モノマーは、全第1モノマー100質量部に対して、例えば0.1量部以上80質量部以下用いるのが好ましい。より好ましくは5質量部以上であり、さらに好ましくは10質量部以上である。また、フッ素含有ビニル系モノマーは、好ましくは70質量部以下であり、より好ましくは60質量部以下であり、更に好ましくは50質量部以下である。フッ素含有ビニル系モノマーの使用量が少な過ぎると、加熱下における機械的強度の向上効果や、吸湿性、疎水性が得られ難い場合があり、一方、多量に用いても使用量に応じた効果は得られ難く、不経済となる。
【0023】
本発明に係るシード粒子の粒子径(体積平均粒子径)は、好ましくは0.01μm〜1μm、より好ましくは0.01μm〜0.8μm、さらに好ましくは0.05μm〜0.5μmである。シード粒子の粒子径が小さすぎる場合には、重合体微粒子の機械的強度が得られ難くなる傾向があり、また、所望の粒子径の重合体粒子を得るため、厚い被覆層を形成しなければならなく作業性に劣るといった問題がある。一方、粒子径が大きすぎる場合には、ポリマー系被覆層を形成する過程において、粒子径分布が広くなり粒子径の均一な重合体微粒子が得られない虞がある。なお、本発明において平均粒子径とは、光散乱粒度分布測定機(たとえば、Particle Sizing Systems社製の「Nicomp MODEL 380」など)を用いた測定により求められる体積平均粒子径の値を意味する。
【0024】
次にポリマー系被覆層(以下、単に被覆層と称する場合がある)について説明する。本発明に係るポリマー系被覆層とは、本発明の重合体微粒子を構成するシード粒子を被覆する重合体である。本発明において、ポリマー系被覆層は、シード粒子の表面全てを被覆するものであるのが好ましいが、シード粒子表面の一部にポリマー系被覆層が形成されていない部分が存在していてもよい。
【0025】
本発明に係るポリマー系被覆層は、1分子中に1個以上のビニル基を有する重合性モノマーを含む第2モノマーを重合してなるビニル系ポリマーからなるものである。1分子中に1個以上のビニル基を有する重合性モノマーとしては、1分子中に1個のビニル基を有する非架橋性モノマーや、1分子中に2個以上のビニル基を有する架橋性モノマーが挙げられるが、本発明に係るポリマー系被覆層は、上記非架橋性モノマーと架橋性モノマーとを含む第2モノマーを重合してなるものであるものが好ましい。これにより、最終的に得られる重合体微粒子の機械的強度や耐熱性等の物性を制御し易くなる。
【0026】
上記架橋性モノマーとしては、第1モノマーで例示した架橋性モノマーと同じものを使用することができる。上記例示の架橋性モノマーの中でも、多官能(メタ)アクリレート類、芳香族ジビニル化合物類が好ましく、さらに機械的強度や耐熱性等の物性を制御しやすい点で、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートは、ポリマー系被覆層を構成する架橋性モノマーとして特に好適である。また、非架橋性モノマーとしては、第1モノマーで例示した非架橋性モノマーと同じものが使用できる。第1モノマーで例示した非架橋性モノマーの中でも、アルキル(メタ)アクリレート類、スチレン系単量体は粒子径の均一な重合体微粒子が得られやすいため好ましい。
【0027】
なお、全第2モノマー100質量部中の架橋性モノマーの割合は20質量部以上であるのが好ましく、より好ましく25質量部以上であり、さらに好ましくは30質量部以上である。架橋性モノマーは、全第2モノマー100質量部中、好ましくは90質量部以下であり、より好ましくは80質量部以下であり、さらに好ましくは60質量部以下である。架橋性モノマーを上記範囲で使用することにより、ポリマー系被覆層ひいては本発明の重合体微粒子の耐溶剤性や耐熱性を高められ、機械的強度などの特性を適正に制御することができる。
【0028】
本発明に係るポリマー系被覆層は、上記架橋性モノマー、非架橋性モノマーに加えて、フッ素含有ビニル系モノマーを含むものであるのが好ましい。フッ素含有ビニル系モノマーを第2モノマーとして用いることにより、加熱下における機械的強度に一層優れた重合体微粒子となるからである。また、この場合、得られる重合体微粒子は、その表面及び表面近傍にフッ素原子が存在することになるため、吸湿性が低く、疎水性を有するものとなる。
【0029】
フッ素含有ビニル系モノマーとしては、分子中に1個以上のフッ素原子と、1個以上のビニル基を有する化合物が好ましい。具体的には、第1モノマーで例示したフッ素含有ビニル系モノマーを好適に用いることができる。フッ素含有ビニル系モノマーとしては炭素数2〜17のフルオロアルキル基を有するフルオロアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、トリフロロエチル(メタ)アクリレートはさらに好ましい。トリフロロエチル(メタ)アクリレート同時に使用する他のビニル系モノマーとの共重合性に優れ、均一な被覆層を形成できる。
【0030】
上記フッ素含有ビニル系モノマーは、全第2モノマー100質量部に対して、0.1質量部以上80質量部以下用いるのが好ましい。より好ましくは5質量部以上であり、さらに好ましくは10質量部以上であり、好ましくは70質量部以下であり、より好ましくは60質量部以下であり、さらに好ましくは50質量部以下である。フッ素含有ビニル系モノマー成分の使用量が少な過ぎると、加熱下における機械的強度の向上効果や、吸湿性、疎水性が得られ難い場合があり、一方、多量に用いても使用量に応じた効果は得られ難く、非経済となる。
【0031】
ポリマー系被覆層の厚みは50nm以上であるのが好ましい。より好ましくは70nm以上、さらに好ましくは100nm以上である。被覆層の厚みが50nm未満では、得られる重合体微粒子の吸湿性が高くなったり、機械的強度が低下する虞がある。また、ポリマー系被覆層の厚みの上限は1μm以下であることが好ましい。より好ましくは500nm、更に好ましくは300nmである事が好ましい。被覆層の厚みが1μmを超えると得られる重合体微粒子の粒子径の均一性が損なわれる虞がある。
【0032】
上記シード粒子、ポリマー系被覆層のそれぞれを構成する架橋性モノマーおよび非架橋性モノマーの組み合わせは特に限定されず、シード粒子、ポリマー系被覆層に同じ架橋性モノマーおよび/または非架橋性モノマーを使用してもよく、また、異なる架橋性モノマーおよび/または非架橋性モノマーを使用してもよい。したがって、本発明の重合体微粒子には、シード粒子と、ポリマー系被覆層とが同一の組成である重合体微粒子と、シード粒子と、ポリマー系被覆層の組成が異なる重合体微粒子(コアシェル構造)が含まれる。これらの中でも、シード粒子とポリマー系被覆層の組成の異なるコアシェル構造の重合体微粒子であるのが好ましい。重合体微粒子がコアシェル構造である場合、コア部とシェル部の組成を変化させることで、コア部とシェル部とが同一組成である重合体微粒子とは異なる光散乱、反射、透過特性を重合体微粒子に付与することができる。
【0033】
次に、本発明の重合体微粒子の製造方法について説明する。
【0034】
本発明の重合体微粒子の製造方法とは、予め製造したシード粒子と、乳化剤および重合開始剤の存在下、第2モノマーを重合させて、上記シード粒子の周囲を第2モノマーの重合体で被覆するところに特徴を有するものである。
【0035】
まず、本発明の重合体微粒子に係るシード粒子の製造方法から説明する。本発明に係るシード粒子とは、上述したシード粒子を構成する第1モノマーを重合させることで得られる。また、第1モノマーとしては、上述の架橋性モノマーおよび非架橋性モノマーに加えて、フッ素含有ビニル系モノマーを採用してもよい。さらに、シード粒子の物性を高めるための各種添加剤を加えてもよい。かかる添加剤としては、無機超微粒子、顔料、可塑剤、重合安定剤、蛍光増白剤、磁性粉、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、連鎖移動剤等が挙げられる。添加剤の使用量は、全第1モノマー100質量部に対して0.01質量部〜10質量部とするのが好ましい。より好ましくは0.05質量部〜8.0質量部であり、さらに好ましくは0.1質量部〜5.0質量部である。
【0036】
重合方法は特に限定されず、懸濁重合、乳化重合、分散重合等の公知の重合方法を採用することができる。これらの中でも乳化重合が好ましい。
【0037】
乳化重合法を採用する場合、乳化剤の存在下、第1モノマーを反応溶媒に分散させて(ラジカル)重合反応を行う。乳化剤としては従来公知の乳化剤が使用可能であるが、本発明ではアニオン性乳化剤を使用するのが好ましい。アニオン性乳化剤を使用することによってモノマー成分およびシード粒子の分散安定性が良好で、粒度分布の狭い重合体(シード粒子)が得られる。
【0038】
アニオン性乳化剤としては、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリウム等の脂肪酸油;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩等のポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系乳化剤が好適である。これらの中でもアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩が好ましい。これらアニオン性乳化剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0039】
アニオン性乳化剤の使用量は、全第1モノマー100質量部に対して0.01質量部〜1.0質量部とするのが好ましい。より好ましくは0.05質量部〜0.8質量部であり、さらに好ましくは0.1質量部〜0.5質量部である。
【0040】
シード粒子の製造の際に使用可能な反応溶媒としては、第1モノマーを完全に溶解しないものであれば特に限定されないが、水;アルコール類、ケトン類などの有機溶媒;水と有機溶媒とを混合した水性溶媒;などが挙げられる。好ましくは水性溶媒が用いられる。反応溶媒は、全第1モノマー100質量部に対して、通常100質量部以上1900質量部以下の範囲内で使用すればよい。
【0041】
乳化重合の開始方法は特に限定されず、ラジカル重合開始剤を用いる方法、紫外線や放射線を照射する方法、熱を加える方法等、いずれも採用可能であるが、本発明では、ラジカル重合開始剤を使用するのが好ましく、ラジカル重合開始剤としては、酸化剤と還元剤との組み合わせからなるレドックス系のラジカル重合開始剤を使用するのが好ましい。これにより、分散性が良好で、粒子径が揃った重合体微粒子が得られやすいからである。
【0042】
酸化剤としては、レドックス系重合開始剤に用いられる従来公知の酸化剤を用いることができる。具体的には、過酸化水素;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩類;などの無機過酸化物、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルヒドロパーオキサイド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−ハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルケトンパーオキサイドなどケトンパーオキサイド類;などの有機過酸化物が挙げられる。これらの過酸化物は1種で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
還元剤としては、レドックス系重合開始剤に用いられる従来公知の還元剤が用いられる。例えば、アスコルビン酸およびアスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウムなどのアスコルビン酸塩類;エリソルビン酸およびエリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸カリウムなどのエリソルビン酸塩類;酒石酸および酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウムなどの酒石酸塩類;亜燐酸および亜燐酸ナトリウム、亜燐酸カリウムなどの亜燐酸塩類;亜燐酸水素ナトリウム、亜燐酸水素カリウムなどの亜燐酸水素塩類;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウムなどの亜硫酸塩類;亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムなどの亜硫酸水素塩類;チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウムなどのチオ硫酸塩類;チオ亜硫酸ナトリウム、チオ亜硫酸カリウムなどのチオ亜硫酸塩類;ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウムなどのピロ亜硫酸塩類;ピロ亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸水素カリウムなどのピロ亜硫酸水素塩類;ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウムなどのピロリン酸塩類;ヒドロキシメタンスルホン酸ナトリウム(ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム)等が挙げられる。これらの還元剤は1種で又は2種以上を組み合わせで用いてもよい。また、必要に応じてレドックス系重合開始剤の活性化剤として、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、あるいはセリウムなどの重金属の硫酸塩または塩化物塩を併用することもできる。
【0044】
本発明においては、上述の酸化剤および還元剤を適宜組み合わせて用いればよく、その組み合わせは特に限定されるものではないが、工業的に入手容易なものを組み合わせて用いるのが好ましい。さらに、上記酸化剤および還元剤の中でも、イオン成分の含有量が少ないもの、あるいは、イオン成分を含まないものが推奨される。好ましい組み合わせとしては、過酸化水素やt−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルヒドロパーオキサイドなどヒドロパーオキサイド類などの過酸化物から選択される1種以上の酸化剤と、アスコルビン酸、酒石酸およびエリソルビン酸から選択される1種以上の還元剤との組み合わせが好ましい。特に、過酸化水素を酸化剤として、アスコルビン酸、酒石酸、エリソルビン酸から選択される1種以上の化合物を還元剤とする組み合わせが好ましい。
【0045】
レドックス系重合開始剤の使用量は、第1モノマー100質量部に対して、0.1質量部以上とすることが好ましく、より好ましく0.5質量部以上、さらに好ましくは1.0質量部以上であり、5.0質量部以下であることが好ましく、より好ましくは4.0質量部以下、さらに好ましくは3.0質量部以下である。重合開始剤の使用量が少なすぎる場合は、第1モノマーの重合度が上がらない場合がある。重合開始剤の使用量が多すぎる場合は、重合反応が暴走して突沸、若しくは異常反応により粒子が凝集を起こす虞がある。
【0046】
反応系内への第1モノマーの添加態様については特に限定されず、重合開始剤の添加前に全量を一度に反応容器へと仕込む態様;第1モノマーの一部を重合させた後、残部を一度に、あるいは、分割して反応系内へと添加する態様;第1モノマーを一定の割合で連続的に反応系内へと添加する態様;などさまざまな態様を採用することができる。粗大な重合体が生成するのを防止する観点から、第1モノマーの一部を重合させた後、残部を反応系内へと(一度または連続的に)添加する態様が好ましい。
【0047】
また、重合開始剤の反応溶媒への仕込み方についても特に限定はなく、最初(反応開始前)に全量仕込む方法(重合開始剤を第1モノマーと共に乳化分散させておく態様);最初に一部を仕込んでおき、残りを連続フィード添加する方法、または、断続的にパルス添加する方法、あるいは、これらを組み合わせた手法等、従来公知の手法はいずれも採用できる。
【0048】
上記第1モノマーの重合反応を行う際の条件は特に限定されないが、例えば反応温度は30℃以上とするのが好ましく、より好ましくは60℃以上であり、100℃以下が好ましく、より好ましくは95℃以下である。反応温度が低すぎる場合には、重合反応が進行し難い場合があり、一方、反応温度が高すぎる場合には、重合中に粒子間の凝集が起こりやすくなる傾向がある。なお、ラジカル重合を行う際の反応時間は、使用する原料や用いる重合開始剤の種類に応じてシード粒子が所望の粒子径となるように適宜変更すればよいが、通常、10分〜1200分が好ましく、より好ましくは30分〜360分である。反応時間が短すぎる場合には、重合度が十分に上がらない場合があり、反応時間が長すぎる場合には、粒子間で凝集が起こり易くなる傾向がある。
【0049】
次いで、得られたシード粒子の存在下、第2モノマーの重合反応を行って、シード粒子を被覆するポリマー系被覆層を形成する。シード粒子の場合と同様、ポリマー系被覆層の特性向上を目的として各種添加剤を使用してもよい。かかる添加剤の使用量は、全第2モノマー100質量部に対して、0.01質量部〜10質量部とするのが好ましい。より好ましくは0.05質量部〜8.0質量部であり、さらに好ましくは0.1質量部〜5.0質量部である。
【0050】
第2モノマーの仕込み量は、用いるシード粒子の質量に対して0.1質量倍以上、50質量倍以下とすることが好ましい。第2モノマーの仕込み量が少なすぎると、ポリマー系被覆層の厚みが薄くなり、一方、多すぎるとポリマー系被覆層が厚くなり過ぎたり、また、第2モノマーのみが単独で重合して異常粒子を生成する虞がある。より好ましくは0.5質量倍〜30質量倍であり、さらに好ましくは1質量倍〜20質量倍である。
【0051】
本発明の製造方法では、シード粒子と、乳化剤および重合開始剤とを含む水性溶媒中で、第2モノマーを重合させることによって、シード粒子の周囲を被覆するポリマー系被覆層を形成する。シード粒子と第2モノマーの混合方法は特に限定されない。したがって、シード粒子を分散させた溶媒中に第2モノマーを加えてもよいし、第2モノマーを含む溶媒中にシード粒子を加えてもよい。これらの中でも前者の態様が好ましく、さらに、予めシード粒子を分散させた溶媒中に、第2モノマーを乳化分散させた状態で加える態様が好ましい。上記乳化剤および重合開始剤は、反応系内に存在していればよい。したがって、予めシード粒子および/または第2モノマーに混合して反応系内に添加してもよいし、また、シード粒子や第2モノマーとは別に反応系内に添加してもよい。なお、第2モノマーのみの単独重合を抑制し、粒度分布の狭い重合体微粒子を得る観点からは、乳化剤は、シード粒子および/または第2モノマーと混合して反応系内に添加するのが好ましく、一方、重合開始剤は、シード粒子や第2モノマーとは分けて反応系内に添加するのが好ましい。
【0052】
本発明では、第2モノマーを乳化分散させるために用いる乳化剤として、アニオン性乳化剤を使用する。カチオン系やノニオン系の乳化剤を使用した場合には、乳化安定性が低下して、粒子径の粒度分布がブロードになったり、凝集物が生成する傾向があるが、アニオン性乳化剤を用いた場合には、第2モノマーおよびシード粒子の分散安定性が良好となり、粒度分布の揃った重合体微粒子が得られ易いからである。アニオン性乳化剤としては上述のものが使用できる。好ましくは、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩である。
【0053】
アニオン性乳化剤の使用量は、全第2モノマーとシード粒子の質量の総量100質量部に対して0.01質量部〜1質量部とするのが好ましい。なお、アニオン性乳化剤の使用量が少なすぎる場合には、反応系内が不安定となり凝集が起こり易くなり、多すぎる場合には、重合体微粒子中に乳化剤が残留し、重合体微粒子が吸湿し易くなる傾向がある。したがって、乳化剤の使用量は上記範囲とするのが好ましく、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上であり、0.9質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.8質量部以下、さらに好ましくは0.7質量部以下である。
【0054】
なお、ポリマー系被覆層の形成は、シード粒子の製造後、シード粒子を単離することなく続けて実施することができる。この場合、反応系内には、シード粒子の製造で使用した乳化剤が残存しているので、ポリマー系被覆層に際して新たに添加する乳化剤量は、シード粒子製造の際に使用した乳化剤と新たに添加する乳化剤との総量が上記範囲内となるように調整する。
【0055】
本発明では、第2モノマーの重合反応に、重合開始剤として、酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系重合開始剤を用いる。ラジカル重合反応の重合開始剤として知られる過酸化物系開始剤を単独で使用した場合、またアゾ系の開始剤を使用した場合には、重合反応系が不安定になり、シャープな粒度分布を有する重合体微粒子が得られ難い場合がある。また、この場合には、極性官能基や不純なイオン成分が粒子表面に残留し易くなり、得られる重合体微粒子の吸湿性が高くなる虞がある。一方で、レドックス系重合開始剤を用いる場合にはこのような問題は生じ難く、得られる重合体微粒子の粒子径が均一になり易く、また、分散性の良好な重合体微粒子が得られる。
【0056】
ポリマー系被覆層を形成する際のレドックス系重合開始剤を構成する成分として上述の酸化剤および還元剤が好ましく使用できる。また、酸化剤と還元剤との組み合わせも同様であり、具体的には、t−ブチルハイドロパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオイキサイドや過酸化水素など過酸化物から選択される1種以上の酸化剤と、アスコルビン酸、酒石酸およびエリソルビン酸から選択される1種以上の還元剤との組み合わせが好ましく、過酸化水素を酸化剤として、アスコルビン酸、酒石酸、エリソルビン酸から選択される1種以上の化合物を還元剤とする組み合わせが特に好ましい組み合わせとして挙げられる。
【0057】
重合開始剤の使用量は、全第2モノマーの質量とシード粒子の質量の総量100質量部に対して0.1質量部以上とすることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上であり、5.0質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは3.0質量部以下である。
【0058】
ポリマー系被覆層を形成する際の反応溶媒としては、水性溶媒を使用する。水性溶媒としては、第2モノマーを完全に溶解しないものであれば特に限定されないが、水;アルコール類、ケトン類などの有機溶媒;水と有機溶媒とを混合した水性溶媒;などが挙げられる。好ましくは水性溶媒が用いられる。反応溶媒は、全第2モノマー100質量部に対して、通常100質量部以上1900質量部以下の範囲内で使用すればよい。
【0059】
重合反応を行う際の条件は特に限定されないが、反応温度は30℃以上が好ましく、より好ましくは60℃以上であり、100℃以下が好ましく、より好ましくは95℃以下である。反応温度が低すぎる場合には、重合反応が進行し難い場合があり、一方、反応温度が高すぎる場合には、重合中に粒子間の凝集が起こりやすくなる傾向がある。なお、反応時間は、被覆層が所望の厚みとなるまで、用いる重合開始剤の種類に応じて適宜変更すればよいが、通常、10分〜1200分が好ましく、より好ましくは30分〜360分である。反応時間が短すぎる場合には、重合度が十分に上がらない場合があり、反応時間が長すぎる場合には、粒子間で凝集が起こり易くなる傾向がある。
【0060】
重合反応を終了した後、反応溶液より得られた重合体微粒子を分離し、洗浄、乾燥などすれば、下記特性を有する本発明の重合体微粒子が得られる。
【0061】
本発明においては、1分子中に2個以上のビニル基を有する架橋性モノマーを、全第1モノマー100質量部に対して、20質量部以上含む第1モノマーを重合してなるポリマー系シード粒子を用い、さらに、当該ポリマー系シード粒子と、前記アニオン性乳化剤およびレドックス系重合開始剤の存在下、前記第2モノマーを水性溶媒中で重合して、ポリマー形被覆層を形成している。したがって、本発明法によれば、重合工程全域にわたって、粒子の凝集が防止され、且つ、均一に分散した状態を保つことができる。また、これによって、反応系内に生成する重合体の粒子径の粒度分布も均一に維持することができる。したがって、最終的に得られる重合体微粒子の粒子径の粒度分布が非常にシャープになる。
【0062】
また、本発明に係るシード粒子は所定の架橋度を有しているので、本発明の重合体微粒子は吸湿性も非常に低いものとなる。この要因は明らかではないが、シード粒子の架橋度が高い場合には、ポリマーのネットワークが緻密になるため、イオン性の不純物など吸湿性を発現させる成分がシード粒子内に取り込まれ難くなると考えられる。
【0063】
なお、第2モノマーの重合体でシード粒子を被覆する工程においても、重合反応の初期段階でイオン性不純物などの極性成分が被覆層内に取り込まれると、これが基点となって、さらなる極性成分が被覆層を形成するポリマー分子鎖中に取り込まれ、その結果、得られる重合体微粒子が吸湿性を示すようになる。しかしながら、本発明の製造方法では、シード粒子が所定の架橋度を有しており、極性成分を取り込み難いものである。したがって、第2モノマーの重合体でシード粒子を被覆する工程においても、被覆層内に極性成分が取り込まれ難くなり、得られる重合体微粒子の吸湿性が非常に低いものとなると考えられる。さらに、前述のアニオン性乳化剤およびレドックス系重合開始剤の使用量を好ましい範囲とすることにより、一層効果的に、重合体微粒子の吸湿性を抑えることができる。
【0064】
上述の製造方法により得られる本発明の重合体微粒子の形状は特に限定されるものではなく、例えば、球状、回転楕円体状、金平糖状、薄板状、針状、まゆ状のいずれでも良く、粒子表面の形状も平滑状、襞状、多孔状のいずれでもよい。
【0065】
重合体微粒子の大きさは、平均粒子径で0.05μm〜3μmであるのが好ましい。より好ましくは0.10μm〜2μmであり、さらに好ましくは0.2μm〜1μmである。なお、本発明において平均粒子径とは、光散乱粒度分布測定機(たとえば、Particle Sizing Systems社製の「Nicomp MODEL 380」など)を用いた測定により求められる体積平均粒子径の値を意味する。
【0066】
また、本発明の重合体微粒子の粒子径の変動係数(CV値)は、20%以下であるのが好ましく、10%以下であるのがより好ましく、8%以下であるのがさらに好ましい。CV値が小さいほど、粒子径が均一であることを示す。なお、本発明では、CV値は、上記体積平均粒子径の測定により得られた粒子径の値を元に算出した標準偏差の値(%)を、重合体微粒子の粒子径の変動係数(%)とする。
【0067】
また、本発明の重合体微粒子は分散性に優れるものであり、具体的に、本発明の重合体粒子を所定の有機溶剤(好ましくはメタノール等のアルコール類が好ましい)に分散させた溶液を試料として測定された体積平均粒子径の、上記試料の溶剤を水に変えて同様の測定を行った際に得られる体積平均粒子径に対する比(分散粒子径比=有機溶剤分散時の平均粒子径/水分散時の平均粒子径)が1.2以下であるのが好ましい。より好ましくは1.15以下であり、さらに好ましくは1.10以下である。分散粒子径比が1に近いほど、媒体の種類によらず、溶液中における重合体微粒子の分散や凝集の挙動が安定であり、本発明においては、重合体微粒子が凝集せずに分散して存在していることを意味する。
【0068】
さらに、本発明の重合体微粒子は、後述する実施例に記載の方法により測定される飽和吸湿量が1.5質量%以下であるのが好ましい。より好ましくは1.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.9質量%以下であり、特に好ましくは0.8質量%以下である。下限は特に限定されないが、重合体微粒子の過剰な乾燥は、作業効率を低下させる結果となる。したがって、吸湿量の下限は0.1質量%程度であればよい。なお、上記飽和吸湿量は、水分測定装置(例えば、平沼産業株式会社製のカールフィッシャー水分計)を使用して、後述する実施例に記載の手順により測定される値である。
【0069】
なお、重合体微粒子に残留する乳化剤や重合開始剤の量が多い場合には、吸湿性が高くなる傾向がある。したがって、重合体微粒子に残留する乳化剤や重合開始剤量は少ないほど好ましい。乳化剤や重合開始剤に由来する成分としては、例えば、Na,Kなどのアルカリ金属や、SO4およびSO3などの硫酸系イオン成分が挙げられる。本発明の重合体微粒子においては、Na,Kなどのアルカリ金属の含有量が200ppm以下であるのが好ましく、150ppm以下であるのがより好ましく、100ppm以下であるのがさらに好ましい。また、SO4およびSO3などの硫酸系イオン成分の含有量は、1000ppm以下であるのが好ましく800ppm以下であるのがより好ましく、600ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0070】
本発明の重合体微粒子は、空気気流下における熱分解開始温度が280℃以上であるのが好ましい。より好ましくは285℃以上であり、さらに好ましくは290℃以上である。熱分解開始温度が280℃より低い重合体微粒子は、酸素存在下での酸化反応が起こり易いため、熱分解開始温度より十分低い温度域においても酸化により重合体粒子の骨格の劣化が進行し易い。
【0071】
尚、本発明においては上記熱分解開始温度として、熱分析装置(例えば、マックサイエンス社製の「TG−DTA」)を使用して、後述する実施例に記載の条件下で重合体微粒子を熱分解させ、このとき得られたTG曲線のベースラインをもとに、質量減少が開始する温度を読みとった値を熱分解開始温度として採用する。
【0072】
本発明の重合体微粒子は加熱下における機械的特性も良好である。かかる機械的特性は、例えば、加熱下における圧縮変形率で評価することができる。ここで、圧縮変形率とは、下記手順により測定、算出される値であり、その値が小さいほど、重合体微粒子が加熱下でも変形し難く、耐熱性、及び、高温環境下における機械的強度に優れることを意味する。なお、本発明の重合体微粒子の加熱下圧縮変形率は60%以下であるのが好ましく、より好ましくは50%以下であり、さらに好ましくは40%以下である。
【0073】
[加熱下圧縮変形率の測定方法]
1)フローテスタ(例えば、島津製作所製の「CFT−500」)に備えられている円柱型シリンダ(内径10mmφ、ダイ穴無し)に、重合体微粒子0.5gを充填し、当該重合体微粒子に対して3kgf/cm2の一定荷重を掛けながら100℃まで昇温した時の試料の高さを0とする
2)その後、3kgf/cm2の一定荷重下で240℃まで昇温したときの高さの変化量h1を計測する
3)充填された粒子量から六方最密充填時の高さh2を求める
4)充填された粒子の全容量(体積)を求め完全溶融物とみなしたときの高さh3を求める
5)下記式に基づいて圧縮変形率(%)を算出する
圧縮変形率(%)=100×[h1/(h2−h3)]
【0074】
なお、六方最密充填構造での充填率は74%であるので、この値を基に、下記式より、h2およびh3のそれぞれを算出した。
粒子全体積(A)=0.5g(重合体微粒子の質量)/粒子の比重
圧縮断面の面積(B)=(D2×π/4) (D:円柱型シリンダの内径)
六方最密充填時の高さ(h2)=[(A)/0.74]÷(B)
完全溶融時の高さ(h3)=(A)/(B)
【0075】
本発明の重合体微粒子は、実施例に記載の方法により測定されるゼータ電位が−50mV以下であるのが好ましい。より好ましくは−90mV以下であり、さらに好ましくは−100mV以下である。ゼータ電位は、粒子の分散性を示す指標となるものであり、ゼータ電位の絶対値が0(ゼロ)に近づくほど粒子が凝集しやすく、一方、ゼータ電位の絶対値が増加するほど粒子間の反発力が強くなり粒子の安定性が高いことを示す。ゼータ電位の絶対値が大きすぎる場合は、帯電による二次凝集が発生し、分散性に欠けることがある。したがって、好ましくは−500mV以上であるのが好ましく、より好ましくは−300mV以上である。なお、ゼータ電位は、重合体微粒子を固形分濃度10質量%になるようにエチルアルコール(試薬特級)と混合した後、データ電位測定機により測定した値である。
【0076】
本発明の重合体微粒子は、粒子径分布が狭く、分散性に優れ、耐熱性が高く、また、吸湿性が抑制されているので、各種用途に好適に用いられる。例えば、本発明の重合体微粒子を包装用あるいは光学フィルム用の添加剤として用いれば、フィルム表面に微細な突起を形成できるので、フィルムの滑り性を改善でき、また、フィルムに防眩性を付与することもできる。また、本発明の重合体微粒子は、表面に導電層が形成されてなる導電性微粒子の基材粒子として、あるいは、絶縁被覆導電性粒子において、導電性粒子表面を被覆する絶縁粒子としても好適に用いられる。さらには、トナー用の外添剤、樹脂成形品、塗料あるいは化粧料などの添加剤としても好適に用いられる。
【0077】
具体的に、本発明の重合体微粒子を電子写真機、複写機、プリンターなどに使用される現像剤(トナー粒子)の流動性などを向上させるトナー用外添剤として用いる場合について以下に説明する。
【0078】
本発明のトナー用外添剤とは、本発明の重合体微粒子を用いてなるトナー用外添剤である。一般的に、電子写真に用いられる現像剤(トナー粒子)を帯電させる方法(現像方式)としては、一成分現像方式と二成分現像方式の2種がある。二成分現像方式では、一般にキャリアと呼ばれる物質にトナー粒子を混合、拡散させて、キャリアとの摩擦帯電によりトナー粒子に荷電を付与している。一方、一成分現像方式では、トナー粒子と、現像スリーブやトナー規制ブレードなどとの接触により、トナー粒子に荷電を付与している。いずれの方式においても、トナー粒子に、均一かつ安定な荷電が付与されていなければ、現像および転写の際に問題が生じる。例えば、現像ローラーからトナーが脱落するという問題や、現像像の転写性の悪さから感光面が汚染され易いという問題が生じる。そこで、トナー粒子の流動性、帯電性、感光ドラムのクリーニング性等を向上させるために、外添剤を添加することが知られている。
【0079】
上述のように本発明の重合体微粒子は、吸湿性が非常に低く、耐熱性に優れ、また、加熱下においても機械的強度が低下し難いという特性を有している。したがって、本発明の重合体微粒子をトナー用外添剤として用いた場合には、いわゆるカブリの発生や、画像濃度の低下などが起こり難くなる。なお、トナー用外添剤として従来から用いられているシリカ粒子などの無機微粒子は、それ自体が硬すぎるため、トナー粒子同士の接触や衝突によって、トナー粒子表面に存在する該無機微粒子が、トナー粒子に埋没しやすく、外添剤としての効果が発現し難いといった問題がある。これに対して、本発明の重合体微粒子は、適度な硬度および強度を有するため、このような問題が起こり難く、カブリの発生を抑制できると共に、安定した画像濃度を発現できる。また、トナー粒子内部への埋没も抑制されるので、外添剤としての効果を十分に発現できる。
【0080】
なお、本発明の重合体微粒子をトナー用外添剤として使用する場合、その配合量は、トナー100質量部に対して重合体微粒子0.1質量部〜20質量部とするのが好ましい。
【0081】
次に、本発明の重合体微粒子を、表面に導電層が形成されてなる導電性粒子の基材粒子として、あるいは、絶縁被覆導電性粒子において、導電性粒子表面を被覆する絶縁材料として用いる場合について詳細に説明する。
【0082】
本発明の重合体微粒子を基材粒子として、その表面に導電性金属層を形成すれば、本発明の導電性微粒子となる。上記導電性金属層を構成する金属としては特に限定されないが、例えば、金、銀、銅、白金、鉄、鉛、アルミニウム、クロム、パラジウム、ニッケル、ロジウム、ルテニウム、アンチモン、ビスマス、ゲルマニウム、スズ、コバルト、インジウムおよびニッケル−リン、ニッケル−ホウ素等などの金属や金属化合物、および、これらの合金などが挙げられる。これらの中でも、ニッケル、金、銀および銅が導電性に優れており、工業的にも安価であるため好ましい。なお、導電性金属層の形成方法は特に限定されず、例えば、無電解めっき、置換めっきなどめっきによる方法;金属微粉を単独、または、バインダーに混ぜ合わせて得られるペーストを基材粒子にコーティングする方法;真空蒸着、イオンプレーティング、イオンスパッタリング等の物理的蒸着方法等、従来公知の方法で形成すればよい。
【0083】
上記導電性金属層の厚みは、重合体微粒子の特性と、良好な導電性を確保する観点から、10nm〜500nmとするのが好ましく、より好ましくは20nm〜400nmであり、さらに好ましくは50nm〜300nmである。
【0084】
さらに、本発明の重合体微粒子は導電性微粒子の導電性金属層の表面を被覆する絶縁材料としても有用である。導電性微粒子表面に絶縁材料を被覆する方法としては、任意の適切な被覆方法を採用し得る。例えば、無電解めっき処理後の導電性微粒子と、本発明の重合体微粒子とを、有機溶媒あるいは水性溶媒などの液体中に分散させた後、スプレードライを行う方法;有機溶媒あるいは水性溶媒などの液体中で導電性微粒子の表面に重合体微粒子を付着させた後、導電性微粒子と重合体微粒子を化学結合させる方法;導電性微粒子の粉体と重合体微粒子との共存下で、高速撹拌機による撹拌や、ハイブリダイゼーション処理を行う方法;などが挙げられる。ここで、本発明の重合体微粒子は、溶剤等への分散性に優れる為、導電性微粒子表面に、均一に重合体微粒子を被覆することができる点で有利である。
【0085】
本発明の絶縁被覆導電性微粒子において、重合体微粒子による導電性微粒子の被覆率は、好ましくは1%〜70%、より好ましくは5%〜60%、さらに好ましくは10%〜40%である。重合体微粒子による導電性微粒子の被覆率が1%未満では、隣接する絶縁被覆導電性微粒子間での絶縁性を確保できない虞がある。一方、重合体微粒子による導電性微粒子の被覆率が70%を超えると、十分な導通性が得られ難くなる虞がある。
【0086】
本発明の絶縁被覆導電性微粒子は、異方性導電材料の構成材料として好適である。上記異方性導電材料とは、様々な形態により相対向する基板同士や電極端子同士を電気的に接続するものである。
【0087】
本発明の異方性導電接着剤組成物は、本発明の絶縁被覆導電性微粒子がバインダー樹脂中に分散してなるものである。前記バインダー樹脂中に絶縁被覆導電性微粒子を分散させるにあたっては、通常バインダー樹脂と絶縁被覆導電性微粒子とを、ビーズミル等の分散方法で均一混合させてスラリー(絶縁被覆導電性微粒子分散体)を調製すればよい。なお、本発明の絶縁被覆導電微粒子において絶縁材料を構成する重合体微粒子は、加熱下においても適度な硬度および強度を有するため、スラリー調整時に、導電性金属層へのダメージや、絶縁層の剥離や変形が起こりにくい。
【0088】
上記バインダー樹脂としては、任意の適切なバインダー樹脂を採用し得る。例えば、アクリレート樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、スチレン−ブタジエンブロック共重合体等の熱可塑性樹脂;グリシジル基を有するモノマーやオリゴマー、及び、イソシアネート等の硬化剤を含む光および/または熱硬化性樹脂組成物;等が挙げられる。
【0089】
上記異方性導電接着剤組成物としては、任意の適切な用途に適用し得る。例えば、異方性導電ペースト、異方性導電インク、異方性導電接着剤、液晶表示素子(LCD)のシール剤に含有される導電性スペーサ等が挙げられる。
【0090】
上記異方性導電ペーストは、例えば、異方性導電接着剤組成物をペースト状にすることにより得られる。得られた異方性導電ペーストは、例えば、適当なディスペンサーに入れられ、接続すべき電極上に所望の厚さに塗工され、塗工された異方性導電ペースト上に対向電極を重ね合わせ、加熱すると共に加圧して樹脂を硬化させることにより、電極間の接続に使用される。
【0091】
上記異方性導電インクは、例えば、異方性導電接着剤組成物に溶媒を加えて印刷に適した粘度に調整することにより得られる。得られた異方性導電インクは、例えば、接着すべき電極上にスクリーン印刷し、その溶媒を蒸発させた後、印刷された異方性導電インクの上に対向電極を重ね合わせ、加熱圧縮することにより電極間の接続に使用される。
【0092】
本発明の異方性導電成形体は、本発明の異方性導電接着剤組成物から得られる。本発明の異方性導電成形体の具体例としては、例えば、異方性導電膜、異方性導電フィルム、異方性導電シートなどが挙げられる。
【0093】
本発明の異方性導電成形体は、例えば、本発明の異方性導電接着剤組成物に溶媒を加えて溶液状にし、この溶液を剥離処理済みPETフィルムなどの離型フィルム上に流し込んだ後、溶媒を蒸発させて異方性導電接着剤組成物を被膜状にすることにより得られる。
【0094】
本発明の異方性導電成形体は、例えば、接着すべき電極上に配置され、配置された異方性導電成形体上に対向電極を重ね合わせ、加熱圧縮することにより電極間の接続に使用される。
【0095】
本発明の絶縁被覆導電性微粒子を用いた異方性導電成形体は、高い導電性を示すばかりでなく、加熱、圧縮した際にも金属層の剥離や、破壊を生じ難い。また、その一方で、導通が要される箇所においては、本発明の重合体微粒子からなる絶縁層が効率よく排除されるため、相対向する電極基板間の電気的な接続を確保することができる。また、経時安定性にも優れるので、長期間の使用においてもメッキ割れ等による導電性の低下を来すことなく、電極基板間の電気的な接続を堅持し信頼性の向上を図ることができる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0097】
(1)重合体微粒子の体積平均粒子径および変動係数(CV値)の測定
得られた重合体微粒子の分散液をイオン交換水で希釈して光散乱粒度分布測定機(Particle Sizing Systems社製、「NicompMODEL380」)にて測定して、体積平均粒子径(μm)を求め、この値を重合体微粒子の平均粒子径とした。
【0098】
また、重合体微粒子におけるポリマー系被覆層の厚みは、シード粒子の体積平均粒子径、得られた重合体微粒子の体積平均粒子径の値をもとに、下式により算出した。
ポリマー系被覆層厚み(μm)=(重合体微粒子の体積平均粒子径−シード粒子の体積平均粒子径)/2
【0099】
また、上記装置により得られた体積平均粒子径、及び粒子径を基に算出した標準偏差の結果より変動係数(CV値:%)を下式より求めた。
変動係数(CV値:%)=100×(標準偏差/体積平均粒子径)
【0100】
(2)飽和吸湿量
下記実施例および比較例で得られた重合体微粒子を温度30℃、湿度90%RHの雰囲気下に24時間放置した後、重合体微粒子1.0gを測定試料とし、カールフィッシャー水分計(平沼産業株式会社製)を用いて水分量の測定を行った。得られた水分量の百分率を飽和吸湿量(%)とした。
【0101】
(3)圧縮変形率
下記手順により、実施例および比較例で得られた重合体微粒子(乾燥粉体)の加熱下における圧縮変形率を測定した。
1)フローテスタ(島津製作所製の「CFT−500」)に備えられている円柱型のシリンダ(内径10mmφ、ダイ穴無し)に、重合体微粒子0.5gを充填し、当該重合体微粒子に対して3kgf/cm2の一定荷重を掛けながら100℃まで昇温した時の試料の高さを0とする
2)その後、3kgf/cm2の一定荷重下で240℃まで昇温したときの高さの変化量h1を計測する
3)充填された粒子量から六方最密充填時の高さh2を求める
4)充填された粒子の全容量(体積)を求め完全溶融物とみなしたときの高さh3を求める
5)下記式に基づいて圧縮変形率(%)を算出する。
圧縮変形率(%)=100×[h1/(h2−h3)]
【0102】
なお、h2およびh3は、六方最密充填構造での充填率(74%)の値を基に、下記式よりそれぞれ算出した。
粒子全体積(A)=0.5g(重合体微粒子の質量)/粒子の比重
圧縮断面の面積(B)=(π/4×D2) (D:円柱型シリンダの内径)
六方最密充填時の高さ(h2)=[(A)/0.74]÷(B)
完全溶融時の高さ(h3)=(A)/(B)
【0103】
(4)熱分解開始温度
熱分析装置(「TG−DTA」、マックサイエンス社製)を使用して、重合体微粒子10mgを空気気流下において、10℃/分で500℃まで昇温した際の質量減少を測定した。このとき得られたTG曲線のベースラインを元に、質量減少が開始する温度を読みとり、この値を熱分解開始温度(℃)とした。
【0104】
(5)溶剤分散径
固形分濃度が10質量%となるように、重合体微粒子とメタノールとを混合し、超音波分散機にて10分間分散させたものを測定試料とした。この試料を(1)と同様の方法にて測定し、得られた体積平均粒子径を溶剤分散径(μm)とした。
【0105】
(6)フッ素原子の存在の確認
重合体微粒子におけるフッ素原子の存在の確認は、X線光電子分析装置(ESCA:アルバック・ファイ株式会社製、走査型X線光電子分光装置「PHI Quantera SXM (Scanning X-ray Microprobe)」)を用い、フッ素原子のF1sに対応する688eVのピーク強度を読み取り、検出された全ての元素のピーク強度に対する688eVのピーク強度の割合(Atomic%)を算出した。
【0106】
(7)ゼータ電位測定
重合体微粒子の固形分濃度が10質量%になるようにエチルアルコール(試薬特級)と混合した後、超音波分散機で30分間照射し、分散状態になった試料を得た。該試料をゼータ電位測定機(Matec Applied Science社製の「ESA−9800」)を用いた。各測定条件設定には真比重計(ユアサアイオニクス社製の「ウルトラピクノメーター1000」)で測定した粒子の真比重と、光散乱粒度分布測定機(Particle Sizing Systems社製、「NicompMODEL380」)で測定した体積平均粒子径を入力した。電極は水系用を用い、試料測定前には校正液(LudoxTM/シリカ10%水分散体:25℃時のゼータ電位38mV)を用いて校正を行った後、測定試料の液温を25℃に保ちゼータ電位を測定した。
【0107】
実施例1
[シード粒子の作製]
攪拌機、温度計および冷却機を備えた容量3Lステンレス鋼製の反応釜に、脱イオン水820部およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.7部(有効成分60%、以下「DBSNa」と称する)を加え、内温を70℃まで昇温し、同温度に保った。
【0108】
上記反応釜とは異なる反応容器で、メタクリル酸メチル(以下「MMA」と称する)140部と、ジビニルベンゼン(有効成分81%、以下「DVB」と称する)60部とを混合して、第1モノマー液を調製した。
【0109】
次いで、反応釜内を窒素ガスで置換した後、別途調製した第1モノマー20部(全第1モノマーの10%)と、0.4質量%過酸化水素水50部と、0.4質量%L−アスコルビン酸水溶液50部とを、上記反応釜内に添加して重合反応を行い、重合体分散液(平均粒子径:約70nm)を得た。
【0110】
さらに、上記第1モノマーの残部180部、0.4質量%過酸化水素水450部、0.4質量%L−アスコルビン酸水溶液450部を、各々異なる投入口より反応釜へ6時間にわたって均一に滴下した。その後、液温を85℃まで昇温し、同温で6時間保持した後、反応溶液を冷却して、シード粒子の分散液1を得た(固形分濃度:10.0%、光散乱粒度分布径で測定した平均粒子径:0.154μm、CV値:11%)。
【0111】
[ポリマー系被覆層の形成]
攪拌機、温度計および冷却機を備えた容量3Lのステンレス鋼製の反応釜に、脱イオン水620部と、DBSNa0.7部(有効成分60%)と、シード粒子分散液1(固形分濃度10%、平均粒子径0.154μm)200部とを加え、液温を70℃まで昇温し、同温度に保った。
【0112】
次いで、反応釜内を窒素ガスで置換した後、MMA140部、DVB60部からなる第2モノマーと、0.4質量%過酸化水素水500部と、0.4質量%L−アスコルビン酸水溶液500部とを、6時間に亘って均一に反応釜内に滴下した。滴下終了後、内温を85℃まで昇温し、同温度で6時間反応を行った後、反応溶液を冷却し、重合体微粒子分散液を得た(固形分濃度10%、平均粒子径0.343μm、CV値:8%、ポリマー系被覆層の厚み0.095μm)。
【0113】
得られた重合体微粒子分散液を、四流体ノズルを兼ね備えたスプレードライヤー(機内出口温度95℃)にて噴霧乾燥して乾燥粉体を得た。得られた粉体を使用して、飽和吸湿量、圧縮変形率、熱分解開始温度、溶剤分散径の評価を行った。
【0114】
次いで、固形分濃度が10%になるように、得られた乾燥粉体とメタノールをビーカーに移し取り、超音波分散機にて30分間分散させ重合体微粒子懸濁液を得た。この懸濁液を遠心分離機(遠心力:10000G)にかけて固液分離を行い、沈降したケーキを取り出した。このケーキに、再度メタノールを加えて固形分濃度を10%に調整し、上記と同様の操作を3回繰り返して洗浄して、沈降ケーキを得た。このケーキを、真空乾燥機にて80℃、50torr(6.67kPa)で12時間乾燥させ、重合体微粒子の粉体を得た。得られた粉体を使用して、ESCA測定(表面F定量)、ゼータ電位測定を行った。
【0115】
実施例2
実施例1で得られたシード粒子分散液1を用いたこと、ポリマー系被覆層の形成において、第2モノマーの組成比を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして重合反応を行って、重合体微粒子を得た。なお、表1に示した第2モノマーの組成は、全第2モノマー量に対する各成分の割合であり、アニオン系乳化剤及び重合開始剤の量は、シード粒子および第2モノマーの総量に対する割合を示す。
【0116】
実施例3
実施例1で得られたシード粒子を使用して、下記手順によりポリマー系被覆層を形成して重合体微粒子を作製した。なお、実施例3では、シード粒子と、ポリマー系被覆層の組成が異なるので、得られる重合体微粒子はコアシェル構造を有するものである。
【0117】
[ポリマー系被覆層の形成]
攪拌機、温度計および冷却機を備えた容量3Lのステンレス鋼製の反応釜に、脱イオン水620部と、DBSNa0.7部(有効成分60%)と、シード粒子分散液1(固形分濃度10%、平均粒子径0.154μm)200部とを加え、液温を70℃まで昇温し、同温度に保った。
【0118】
次いで、反応釜内を窒素ガスで置換した後、MMA100部、DVB80部、トリフルオロエチルメタクリレート(以下「TFEMA」と称する)20部からなる第2モノマーと、0.4質量%過酸化水素水500部と、0.4質量%L−アスコルビン酸水溶液500部とを、6時間に渡って均一に反応釜内に滴下した。滴下終了後、内温を85℃まで昇温し、同温度で6時間反応を行った後、反応溶液を冷却し、コアシェル型の重合体微粒子分散液を得た(固形分濃度10%、平均粒子径0.350μm、CV値:9%、被覆層の厚み0.098μm)。
【0119】
得られた重合体微粒子分散液を、四流体ノズルを兼ね備えたスプレードライヤー(機内出口温度95℃)にて噴霧乾燥して乾燥粉体を得た。得られた粉体を使用して、飽和吸湿量、圧縮変形率、熱分解開始温度、溶剤分散径の評価を行った。また、実施例1と同様にして、ESCA測定(表面F定量)、ゼータ電位測定用の重合体粉体を調製した。
【0120】
実施例4〜6
ポリマー系被覆層の形成において、第2モノマーの組成比を表1に示すように変更したこと以外は実施例3と同様にして重合体微粒子を得た。
【0121】
実施例7
[シード粒子の作製]
第1モノマーとして、TFEMA96部とDVB64部との混合物及びDBSNa1.3部を用いたこと以外は実施例3と同様にして重合体粒子(シード粒子)の分散液2を得た(固形分濃度:8.2%、平均粒子径:0.095μm、CV値:10%)。
【0122】
[ポリマー系被覆層の形成]
得られたシード粒子の分散液2を用いたこと以外は実施例3と同様にして重合反応を行ってコアシェル型の重合体微粒子を得た(重合後の重合体微粒子分析結果:固形分濃度10%、平均粒子径0.210μm、CV値:7%、被覆層の厚み0.058μm)。
【0123】
実施例8
ポリマー系被覆層形成において実施例1で得られたポリマー系被覆層を形成した重合体分散微粒子分散液(0.343μm/CV8%)をシード粒子として用い、実施例1の同様の操作で重合反応を行ってポリマー系被覆層を形成し、重合体微粒子分散液を得た。
【0124】
実施例9
ポリマー系被覆層の形成において、DBSNaの使用量を2.1部に変更したこと以外は実施例1と同様の操作で重合反応を行って、重合体微粒子分散液を得た。
【0125】
比較例1
[重合体粒子の作製]
攪拌機、温度計および冷却機を備えた容量3Lのステンレス鋼製の反応釜に、脱イオン水820部と、DBSNa0.7部(有効成分60%)とを加え、液温を70℃まで昇温し、同温度に保った。
【0126】
次いで、反応釜内を窒素ガスで置換した後、MMA140部、DVB60部からなるモノマー混合物の内の10%分(20部)と、重合開始剤として0.2質量%に調整された過硫酸カリウム水溶液(以下「KPS」と称する)1000部の内の10%分(100部)とを投入して重合体が生成した後、モノマー混合物の残部90%(180部)と0.2質量%KPS水溶液の残部90%(900部)を反応釜内に6時間掛けて滴下していたところ、滴下途中で生成した重合体の凝集が生じたため、この時点で、単量体混合物の滴下、並びに、重合反応を終了した。したがって、比較例1では、重合体微粒子は得られなかった。
【0127】
比較例2
重合開始剤として0.2質量%に調整された2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド(和光純薬製の「V−50」)水溶液1000部を使用したこと以外は、比較例1と同様にして重合体微粒子の作製を試みたが、比較例1と同様、モノマー混合物の滴下途中に、生成した重合体の凝集が生じたため、この時点で、モノマー混合物の滴下、並びに、重合反応を終了した。したがって、比較例2では、重合体微粒子は得られなかった。
【0128】
比較例3
攪拌機、温度計および冷却機を備えた容量3Lのステンレス鋼製の反応釜に、脱イオン水820部と、DBSNa3.4部(有効成分60%)を加え、液温を70℃まで昇温し、同温度に保った。
【0129】
次いで、反応釜内を窒素ガスで置換した後、MMA140部、DVB60部からなるモノマー混合物の内の10%分(20部)と、0.2質量%に調整されたKPS1000部の内の10%分(100部)とを、投入してシード粒子を得た後、モノマー混合物の残部90%(180部)と0.2質量%KPS水溶液の残部90%(900部)を6時間に亘って均一に反応釜内に滴下した。滴下終了後、内温を85℃まで昇温し、同温度で6時間反応を行った後、反応溶液を冷却し、重合体微粒子分散液を得た(固形分濃度10%、平均粒子径0.127μm、CV値:19%)。
【0130】
得られた重合体微粒子分散液を、実施例1と同様の方法で四流体ノズルを兼ね備えたスプレードライヤー(機内出口温度95℃)にて噴霧乾燥して乾燥粉体を得た。得られた粉体を使用して、飽和吸湿量、圧縮変形率、熱分解開始温度、溶剤分散径の評価を行った。
【0131】
比較例4、5
[シード粒子の作製]
第1モノマーの組成を表2に示す組成割合に変更したこと以外は実施例1と同様にして重合反応を行って、シード粒子の分散液3を得た(固形分濃度:10%、平均粒子径:0.119μm、CV値:15%)。
【0132】
[ポリマー系被覆層の形成]
シード粒子の分散液3を用い、第2モノマーの組成を表2に示す組成割合に変更したこと以外は実施例1と同様にして重合反応を行って、シード粒子の周囲が第2モノマーの重合体で被覆された重合体微粒子分散液を得た。また、実施例1と同様の方法で乾燥を行い、重合体粉体を調製した。得られた粉体を使用して、飽和吸湿量、圧縮変形率、熱分解開始温度、溶剤分散径の評価を行った。
【0133】
比較例6
実施例1で得られたシード粒子を使用したこと、ポリマー系被覆層の形成において、アニオン性の界面活性剤(DBSNa)に代えて、ノニオン性の界面活性剤(花王社製「エマルゲン430」、ポリオキシエチレンオレイルエーテル)0.4部使用したこと以外は実施例1と同様にして重合反応を行ってポリマー系被覆層の形成を行ったが、第2モノマーの添加途中で、重合体の凝集が生じたため、モノマー混合物の滴下、並びに、重合反応を終了した。したがって、比較例6では、重合体微粒子は得られなかった。
【0134】
比較例7
実施例1で得られたシード粒子を使用したこと、ポリマー系被覆層の形成において、レドックス系の重合開始剤に代えて、0.2質量%KPS水溶液1000部使用したこと以外は実施例1と同様にして重合反応を行ってシード粒子を被覆するポリマー系被覆層が形成された重合体微粒子分散液を得た。また、実施例1と同様の方法で乾燥を行い、重合体粉体を調製した。得られた粉体を使用して、飽和吸湿量、圧縮変形率、熱分解開始温度、溶剤分散径の評価を行った。
【0135】
【表1】

【0136】
【表2】

【0137】
なお、比較例4の重合体微粒子は、140℃以上に加熱した際に多量のガスが発生したため、一定荷重を負荷し続けることができず、正常な測定ができなかった。また、表中、Na,K,SO4およびSO3の含有量は、出発原料の使用量から算出して求めた値である。
【0138】
表1、2より、ポリマー系被覆層を形成する際に、アニオン性重合開始剤、レドックス系重合開始剤を使用した実施例1〜9の重合体は分散粒子径比が小さく、分散性に優れるものであることが分かる。また、これらの例の重合体微粒子は、飽和吸湿量も比較例に比べて低いものであった。
【0139】
また、フッ素原子含有単モノマーを含む第2モノマーを重合して得られる実施例3〜7の重合体微粒子は、第2モノマーとしてフッ素含有ビニル系モノマーを使用しなかった実施例1,2,8および9の重合体微粒子や比較例の微粒子に比べて、加熱下における圧縮変形率が小さく、高温環境下における機械的強度に優れていた。具体的に、実施例3〜5と実施例2とを比較してみると、実施例3〜5の重合体微粒子は、実施例2の重合体微粒子において、被覆層(シェル)を構成する非架橋性モノマー(MMA)の一部をフッ素含有ビニル系モノマー(TFEMA)に置き換えたものである。ここで、MMAのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)は105℃であるのに対して、TFEMAのホモポリマーのTgは82℃と、MMAに比べて低いのにも拘わらず、実施例3〜7の重合体微粒子では、加熱下における圧縮変形率が向上している。この結果より、フッ素を含有するビニル系モノマーを、第2モノマーの必須成分とすることにより、各モノマーの特性からは予測し難い新たな効果が得られることが分かる。
【0140】
また、実施例5,7の重合体微粒子の加熱下圧縮変形率が同程度の値であることから、シェルのみにフッ素含有ビニル系モノマーを用いた場合でも、加熱下における機械的強度が充分に高められた重合体微粒子となることが分かる。
【0141】
比較例1,2は、シード粒子を使用せず、重合開始剤として過酸化物系またはアゾ系の重合開始剤を使用した例であるが、これらの例では、重合反応の途中で、重合体の凝集が生じ、重合体微粒子を得ることができなかった。また、比較例7は、過酸化物系の重合開始剤の存在下で、シード粒子を被覆するポリマー系被覆層を形成した例であるが、この例では、粒子径の粒度分布がブロードであった。これらの結果より、アニオン乳化剤を使用していても、過酸化物系またはアゾ系の重合開始剤を使用した場合には、反応系内におけるシード粒子や第2モノマーの分散状態が不安定となり、その結果、粒度分布がブロードになったり、シード粒子を有さない重合物などが生成するものと考えられる。また、ノニオン性乳化剤を使用した場合も(比較例6)、同様に、反応系における乳化安定性が得られ難く、重合物の凝集が生じたものと考えられる。
【0142】
比較例3は、比較例1,2の結果を受け、使用する乳化剤量を増加した例であるが、乳化剤量を増加しても反応系内の乳化安定性は向上させた難く、却って、乳化剤を重合体微粒子中に残留させてしまい、その結果、吸湿性も高いものとなっている。
【0143】
比較例4,5では、シード粒子を使用したが、シード粒子および/またはポリマー系被覆層を構成する架橋性モノマーが少なかったため、耐熱性が低く、また、吸湿性も高くなっていた。
【0144】
実施例10 絶縁被覆導電性微粒子の作製と評価
[導電性微粒子の作製]
冷却管、温度計、滴下口を備えた四つ口フラスコに、界面活性剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬社製、ハイテノールNF−08)2部を脱イオン水に溶解した水溶液150部を仕込んだ。
【0145】
この水溶液に、予め調整しておいたDVB50部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート50部からなるモノマー混合物と、重合開始剤として2、2’−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、V−65)2部とを添加し、乳化分散させて懸濁液を調整した。得られた懸濁液に、さらに脱イオン水250部を加え、窒素雰囲気下で65℃まで昇温させて、同温度で2時間保持し、モノマー成分のラジカル重合を行った。
【0146】
ラジカル重合後、生成した乳濁液を固液分離し、得られたケーキを脱イオン水、次いでメタノールで洗浄し、さらに分級操作を行った後、窒素雰囲気下120℃で2時間真空乾燥して重合体粒子を得た。重合体粒子の粒子径をコールタ−マルチサイザーIII型(ベックマンコールター社製)により測定したところ、平均粒子径は3.0μm、変動係数は3.8%であった。
【0147】
得られた重合体粒子を、二塩化スズ(SnCl2)溶液によるセンシタイジングに続いて、二塩化パラジウム(PdCl2)溶液によるアクチベーションを行い、重合体粒子表面にPd核を生成させた。次いで、得られた重合体粒子を無電解ニッケルメッキ浴に浸漬して、重合体粒子表面にNiメッキを行い、さらに置換メッキによりニッケル層表面に金メッキを行い、導電性微粒子を得た。
【0148】
[絶縁性微粒子被覆導電性粒子の作製]
実施例2で得られた重合体微粒子を、粒子濃度が5.0質量%になるようにメタノールに分散させた。得られた重合体微粒子分散液100部に、導電性微粒子50部を加え、均一に分散させた後、エバポレーターでメタノールを留去して、導電性微粒子の表面を重合体微粒子で被覆し、絶縁性微粒子被覆導電性微粒子を得た。
【0149】
[異方性導電接着剤組成物の作製]
絶縁性微粒子被覆導電性微粒子20部と、エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製の「YL980」)65部、エポキシ硬化剤(旭化成工業社製の「ノバキュアHX3941HP」)35部、1mmφのジルコニアビーズ200部を混合し、30分間ビーズミル分散を行い、異方性導電接着剤組成物を得た。
【0150】
[異方性導電成形体の作製]
表面に、シリコーン樹脂やフッ素樹脂による剥離処理(離型処理)が施されたポリエチレンテレフタレートフィルムに、乾燥厚みで25μmとなるように異方性導電接着剤組成物を塗布して接着層を形成し、異方性導電成形体として異方性導電シートを作製した。
【0151】
(8)導通性、絶縁性の評価
異方性導電成形体を、150μm幅のパターンを有するITO付きガラス基板2枚の間に挟み、200℃で15秒間加熱加圧して、導電接続構造体を得た。得られた導電接続構造体について、下記の基準にしたがい、導通性および絶縁性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0152】
(8−1)導通性の評価
上記導電接続構造体を測定試料として、対向する電極間の導通抵抗を測定した。抵抗値が20Ω以下の場合を○、20Ωを超える場合を×として評価した。
【0153】
(8−2)絶縁性の評価
上記導電接続構造体を測定試料として、対向する電極間の絶縁抵抗を測定した。抵抗値が100MΩ以上の場合を○、100MΩ未満の場合を×として評価した。
【0154】
(9)絶縁性微粒子の被覆状態の評価
異方性導電接着剤組成物を酢酸エチルで希釈した後、これを濾過して絶縁性微粒子被覆導電性微粒子を取り出した。走査型電子顕微鏡(SEM、日立製作所社製の走査型電子顕微鏡「S−3500N」)により絶縁性微粒子被覆導電性微粒子を観察し、絶縁性微粒子による導電性微粒子表面の被覆状態を下記の基準にしたがって評価した。結果を表3に示す。
(評価基準)
○:均一な被覆状態を保持している。
×:絶縁性微粒子が凝集している箇所が認められる。
【0155】
比較例8
実施例2で得られた重合体微粒子に代えて、比較例4で得られた重合体微粒子を用いたこと以外は、実施例10と同様にして、絶縁被覆導電性微粒子、異方性導電接着剤組成物、異方性導電成形体を得た。評価結果を表2に示す。
【0156】
【表3】

【0157】
実施例11 静電荷像現像用トナーの作製
トナー用外添剤として、実施例2で得られた重合体微粒子を用いて、トナーを作製した。スチレン−n−ブチルアクリレート共重合体からなる結着用樹脂剤100部に、着色剤としてカーボンブラック5部を分散させた平均粒子径8μm〜12μmのトナー100gと、実施例1で得られた重合体微粒子1gとを、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、静電荷像現像用トナーを作製した。得られた静電荷像現像用トナーを使用して、下記手順に従って、30℃、85%RHの条件下での5万枚連続複写試験を行った。
【0158】
比較例9
トナー用外添剤として比較例4で得られた重合体微粒子を用いたこと以外は、実施例11と同様の手順で静電荷像現像用トナーを作製した。得られた静電荷像現像用トナーを使用して、30℃、85%RHの条件下での5万枚連続複写試験を行った。
【0159】
(10)30℃、85%RHの条件下での5万枚連続複写試験
市販の複写機のトナーとして実施例及び比較例で作製した静電荷像現像用トナーをそれぞれ使用し、30℃、85%RHの条件下で5万枚の連続複写を行い、カブリの発生レベルを目視で判定した。下記基準のランクBまでを合格レベルとして評価した。結果を表4に示す。
(評価基準)
ランクA:カブリが認められない
ランクB:カブリが僅かに認められるが目立たない。
ランクC:カブリが認められ目立つ。
【0160】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0161】
シード粒子を被覆するポリマー系被覆層の形成を、特定の乳化剤および重合開始剤の存在下で行う本発明の製造方法によれば、粒子径の粒度分布が狭く、分散性や耐熱性に優れ、且つ、吸湿の抑制された重合体微粒子が得られる。したがって、本発明の重合体微粒子は、樹脂や溶剤、塗料などと混合して製造された成形体や塗膜中で、凝集を生じ難い。また、本発明の重合体微粒子は吸湿性が抑制されているので、バインダー樹脂との親和性や密着性の低下を生じ難く、また、絶縁性、帯電特性に優れるものである。したがって、本発明の重合体微粒子は、導電性微粒子の基材粒子や絶縁被覆材料などの絶縁材料、トナー用外添剤などの帯電制御材料などの微粒子、各種フィルム膜の改質材料として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー系シード粒子と、この粒子の周囲に形成されるポリマー系被覆層とから構成される重合体微粒子の製造方法であって、
前記ポリマー系シード粒子を構成する第1モノマーは、1分子中に2個以上のビニル基を有する架橋性モノマーを、全第1モノマー100質量部に対して、20質量部以上含むものであり、
前記ポリマー系被覆層を構成する第2モノマーは、1分子中に1個以上のビニル基を有するものであり、
前記シード粒子と、アニオン性乳化剤およびレドックス系重合開始剤との存在下、前記第2モノマーを水性溶媒中で重合することで、シード粒子を第2モノマーの重合体で被覆することを特徴とする重合体微粒子の製造方法。
【請求項2】
ポリマー系シード粒子と、第2モノマーの合計100質量部に対して、0.01質量部〜1質量部のアニオン性乳化剤を使用する請求項1に記載の重合体微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第2モノマーは、1分子中に2個以上のビニル基を有する架橋性モノマーを、全第2モノマー100質量部に対して、20質量部以上含むものである請求項1または2に記載の重合体微粒子の製造方法。
【請求項4】
アニオン性乳化剤として、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩よりなる群から選択される1種以上を使用する請求項1〜3のいずれかに記載の重合体微粒子の製造方法。
【請求項5】
レドックス系重合開始剤として、アスコルビン酸、酒石酸およびエリソルビン酸よりなる群から選択される1種以上の還元剤と、過酸化水素とを組み合わせて使用する請求項1〜4のいずれかに記載の重合体微粒子の製造方法。
【請求項6】
ポリマー系シード粒子と、このシード粒子の周囲に形成されるポリマー系被覆層とから構成される重合体微粒子であって、
前記ポリマー系シード粒子を構成する第1モノマーは、1分子中に2個以上のビニル基を有する架橋性モノマーを、全第1モノマー100質量部に対して、20質量部以上含むものであり、
前記ポリマー系被覆層を構成する第2モノマーは、1分子中に1個以上のビニル基を有するものであり、
重合体微粒子の粒子径の変動係数が20%以下であり、
メタノールに分散させた重合体微粒子溶液から測定される体積平均粒子径と、水に分散させた重合体微粒子水溶液から測定される体積平均粒子径との比(分散粒子径比=メタノール分散時の平均粒子径/水分散時の平均粒子径)が1.2以下であり、且つ、
飽和吸湿量が1.5質量%以下、
であることを特徴とする重合体微粒子。
【請求項7】
前記ポリマー系被覆層が、1分子中に1個のビニル基を有する非架橋性モノマーと、1分子中に2個以上のビニル基を有する架橋性モノマーとを含む第2モノマーを重合してなるものである請求項6に記載の重合体微粒子。
【請求項8】
前記ポリマー系被覆層の厚みが50nm以上である請求項6または7に記載の重合体微粒子。
【請求項9】
前記重合体微粒子の体積平均粒子径が0.05μm〜3μmである請求項6〜8のいずれかに記載の重合体微粒子。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかに記載の重合体微粒子を用いた、絶縁被覆導電性微粒子用の絶縁被覆材料。
【請求項11】
請求項10に記載の絶縁被覆材料を用いてなる絶縁被覆導電性微粒子。
【請求項12】
請求項11に記載の絶縁被覆導電性微粒子を用いてなる異方性導電接着剤組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の異方性導電接着剤組成物を用いてなる異方性導電成形体。
【請求項14】
請求項6〜9のいずれかに記載の重合体微粒子を用いたトナー用外添剤。

【公開番号】特開2011−173965(P2011−173965A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37873(P2010−37873)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】