説明

重合体溶液および重合体溶液の製造方法および重合体膜

【課題】溶解が困難な高濃度においても均一に溶解している重合体溶液を得る。
【解決手段】ポリアリーレンビニレン系重合体と、有機溶媒と、少なくとも表面の一部に共役系重合体の付着したカーボンナノチューブを含み、前記カーボンナノチューブの含有量がポリアリーレンビニレン系重合体に対して0.01重量%以上10重量%以下である重合体溶液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンビニレン系重合体と溶媒からなる重合体溶液と、該重合体溶液から得られる重合体膜に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性や半導体性を有する重合体として、ポリチオフェンやポリアニリン、ポリフェニレンビニレン、ポリピロールなどの共役系重合体が知られている。しかし、これらの重合体は溶媒に不溶、あるいは溶解性が著しく低いためにその応用には限りがあった。そこで、これらの重合体を可溶性にするために、各重合体の側鎖にアルキル基やアルコキシ基などを導入することが図られてきた。たとえばポリフェニレンビニレンでは側鎖にアルコキシ基を導入することで溶媒に可溶になり、均一な重合体溶液が得られる。またポリチオフェンでは側鎖に炭素数が4〜22の直鎖アルキル基を導入することで溶媒に可溶になり、均一な重合体溶液が得られる(非特許文献1参照)。しかし、側鎖が大きくなるにつれて、溶解性は向上するものの、共役系重合体の本来の特性である導電性や半導体特性は低下する傾向にある。フェニレンビニレン系重合体の場合、ベンゼン環の2位と5位にそれぞれメトキシ基とメチルエチルヘキシルオキシ基を導入したものがあり、適度な溶解性と導電性あるいは半導体特性を有している。この重合体の溶解性については、トルエン中へは2重量%(17.4g/L)の濃度で溶解可能であること(特許文献1、2参照)や、また、クロロホルム中へは0.5g/Lで溶解可能である(特許文献3参照)ことが示されている。しかし、実際に上述よりも高い濃度の重合体溶液を調製してみても、重合体の一部がゲル状に膨潤したものが残存し、均一な溶液は得ることができない。
【0003】
一方、少なくとも一部に共役系重合体が付着したCNTが溶媒中に均一分散できることが知られている(特許文献4参照)。しかし、特許文献4に示された共役系重合体の有機溶媒に対する濃度は0.2g/Lであり、非常に希薄なものである。また、共役系重合体中にCNTを分散した重合体コンポジット溶液についても知られている(特許文献5参照)。特許文献5ではポリフェニレンビニレン系重合体の濃度を20g/Lという高い濃度で調製を行い、塗布を行っているが、その溶液の溶解性や、その溶液から得られた膜の均一性について示されておらず、溶媒中に懸濁しているCNTに共役系重合体が付着していないので、溶解性は小さいと推察される。
【特許文献1】特表平8−510483号公報(実施例7)
【特許文献2】特開2005−82730号公報(実施例1)
【特許文献3】特開2004−323258号公報(実施例2)
【特許文献4】特開2005−89738号公報(請求項1、実施例1)
【特許文献5】特開2003−347565号公報(実施例2)
【非特許文献1】ジャパニーズ ジャーナル オブ アプライド フィジクス パート2(Japanese Journal of Applied Physics Part2)(日本)、1987年、26巻、6号、1038〜1039頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光起電力素子などの素子に用いられる、導電性が大きく、厚膜でかつ表面が平滑で均一な重合体膜を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、ポリアリーレンビニレン系重合体と、有機溶媒と、少なくとも表面の一部に共役系重合体の付着したカーボンナノチューブを含み、前記カーボンナノチューブの含有量がポリアリーレンビニレン系重合体に対して0.01重量%以上10重量%以下である重合体溶液である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、これまで重合体を充分に溶解させることができなかった濃度においても、均一に溶解させることが可能になる。さらに、本発明の重合体溶液は膜厚が厚く、さらに表面が平滑な重合体膜を形成することができる。得られた膜は、高い導電性を有する膜や、高性能な光起電力素子として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の重合体溶液は、ポリアリーレンビニレン系重合体と有機溶媒に、少なくとも表面の一部に共役系重合体の付着したカーボンナノチューブ(以下、CNTと略)を含むことによって、重合体の有機溶媒へ溶解性を向上させ、高濃度に調製しても良好な溶解性を得ることができる。
【0008】
本発明はポリアリーレンビニレン系重合体を用いる。ポリアリーレンビニレン系重合体とは、下記一般式(1)で表される構造を重合体の構成ユニットのうち、ユニットのモル数に換算して50%以上含むものである。下記一般式(1)で表される重合体は、芳香環とビニレン基が交互に結合した重合体である。
【0009】
【化1】

【0010】
ここでArは芳香環を表し、具体的には2置換性のベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、ピレン、トリフェニレン、クリセン、テトラフェンなどが挙げられる。なお、ここで芳香環の主鎖への結合は共役系が連続していることが好ましく、たとえば2置換性のベンゼンではp−位であることが好ましい。また、RとRはそれぞれ独立に水素原子、または炭素数1〜20のアルキル基、置換アルキル基、アルコキシ基、置換アルコキシ基などの置換基である。たとえば、アルコキシ基ではメトキシ基、エトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基が、置換アルコキシ基では、2−エチルヘキシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基などが用いられる。
【0011】
nはポリマーの重合度を示し、5〜2000の範囲であることが好ましい。nは、2000以下であることによって重合体の有機溶媒への溶解性が確保される。重合度は数平均分子量から求めることができ、数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定し、ポリスチレンの標準試料に換算して求めることができる。また、上記重合体は必ずしも高分子量である必要はなく、nが5〜20程度のオリゴマーであってもよい。
【0012】
本発明の重合体溶液には、少なくとも表面の一部に共役系重合体の付着したCNTを添加する。CNTの添加によってポリアリーレン系重合体の溶解性が向上するメカニズムの詳細については不明であるが、共役系重合体の付着しているCNTは溶媒中に均一分散しているので、CNT濃度が数重量%以下であってもCNTの数としては非常に多く存在していることと、しかもCNTに付着している共役系重合体はポリアリーレン系重合体に対して親和性が高いことから、CNTがポリアリーレン系重合体の溶解補助剤的な役割をしていると推測される。
【0013】
本発明に用いられる有機溶媒は目的に応じて選択され、その種類としては、メタノール、エタノール、ブタノール、トルエン、キシレン、o−クロロフェノール、アセトン、酢酸エチル、エチレングリコール、クロロホルム、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。しかし、これらに限定されるものではなく、必要に応じて有機溶媒を選ぶことができる。中でもトルエン、キシレン、クロロホルム、クロロベンゼンなどが好ましく用いられる。
【0014】
本発明のCNTを含む重合体溶液は、CNTを添加することでより高い濃度での溶解が可能になる。例えばポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン](以下、MEH−PPVと略する)の場合には、有機溶媒にクロロホルムを用いると5g/Lまでクロロホルムのみでも溶解できるが、それ以上の濃度では未溶解物が残り、完全に溶解できない。しかし少なくとも表面の一部に共役系重合体の付着したCNTを用いることで7g/Lにしても溶解が可能になる。また、溶媒にトルエンまたはキシレンを用いると17g/Lまで溶媒のみでも溶解できるが、それ以上の濃度では未溶解物が残り、完全に溶解できない。しかし少なくとも表面の一部に共役系重合体の付着したCNTを用いることで20g/Lにしても溶解が可能になる。この場合、濃度の上限については、30g/Lを超えても溶解可能であるが、重合体溶液の粘度が著しく上がり、溶解の程度の評価が困難になるので、実質的には濃度の上限は30g/Lである。少なくとも表面の一部に共役系重合体の付着したCNTを0.01重量%以上10重量%用いることによって、高濃度でかつ均一な重合体溶液を得ることができる。
【0015】
ポリアリーレンビニレン系重合体の溶媒に対する溶解性は次の方法で確認できる。まず、ポリアリーレンビニレン系重合体を有する重合体溶液をガラス等の無色透明の容器中に入れて未溶解物やゲル状物の有無を目視で調べる。未溶解物やゲル状物が見られなければ、次に孔径10μmのメンブレンフィルターを用いて重合体溶液のろ過を行う。フィルター上に残留物が無い状態であれば、溶解性が良好と判断することができる。
【0016】
本発明に用いられるポリアリーレンビニレン系重合体は、導電性や半導体特性を有しており、ポリアリーレンビニレン系重合体溶液中に、前述の少なくとも表面の一部に共役系重合体の付着したCNTを添加してもこれらの特性は損なわれず、むしろ向上する。例えば、半導体特性を利用する場合には前記CNTの添加量を重合体に対して0.01〜1重量%にすることで半導体特性は同等もしくは向上し、導電性を利用する場合には前記CNTの添加量を重合体に対して1〜10重量%にすることで導電性が向上する。導電性を変化させない場合は0.01〜1重量%の添加が好ましい。また、本発明に用いる少なくとも表面の一部に共役系重合体の付着したCNTは、後述するように微細に分散することができるため可視光の吸収が小さく、0.01〜1重量%の添加では、膜やフィルムを形成した場合に、CNTを添加しなかった膜に比べて透過率の低下を10%以下にすることができる。
【0017】
また、本発明の重合体溶液は、少なくとも表面の一部に共役系重合体の付着したCNTを添加することによって、重合体溶液の粘度を低減化することができる。
【0018】
本発明の重合体溶液の製造方法は、ポリアリーレンビニレン系重合体と、CNT分散液を混合してから超音波照射、加熱、撹拌のうちの少なくとも1種類の方法を用いて溶解することが好ましい。ポリアリーレンビニレン系重合体がCNTを含まない有機溶媒に接触すると重合体表面にゲル状界面が形成され、そのために重合体内部への有機溶媒の浸透が妨げられ、均一に溶解できなくなってしまう。それを防ぐために、超音波照射、加熱、撹拌と行う前に、溶媒とCNTを有するCNT分散液とポリアリーレンビニレン系重合体を混合しておく。
【0019】
本発明の重合体溶液は、溶媒と少なくとも表面の一部に共役系重合体の付着したCNTを含むCNT分散液にポリアリーレンビニレン系重合体を加え、超音波照射、加熱、撹拌のうちの少なくとも1種類の方法を用いて調製する。ここで調製方法として、ポリアリーレンビニレン系重合体が有機溶媒と作用してゲル状物質を形成している重合体溶液に、CNT分散液を加えても均一溶解することはできないので、固体状のポリアリーレンビニレン系重合体とCNT分散液とを初めに接触させることが好ましい。重合体を有機溶媒に溶解させる溶解工程として、固体状のポリアリーレンビニレン系重合体とCNT分散液との混合物に、超音波、加熱、攪拌のうちの少なくとも1種類の方法を用いる。
【0020】
超音波照射は超音波洗浄機を用いた間接照射が好ましく用いられる。超音波ホモジナイザーを用いた直接照射も可能であるが、この場合は超音波の照射出力をできるだけ小さくし、出力200W以下で照射することが好ましい。加熱する温度は、ポリアリーレンビニレン系重合体の溶解性や溶媒の沸点にもよるが、40℃以上、溶媒の沸点以下で行うことが好ましい。撹拌はマグネチックスターラーや撹拌羽根を用いた撹拌が好ましく用いられ、ミキサーやブレンダーなどの混合撹拌装置を用いてもよい。液量が0.5mL〜50mLではマグネチックスターラーが、液量50mL以上では撹拌羽根を用いた撹拌やミキサーが好ましく用いられる。これらの溶解方法のうち、40℃程度に加熱しながら超音波洗浄機を用いる方法が最も好ましく用いられる。こうすることでポリアリーレンビニレン系重合体の主鎖が切断されることなく、かつCNTが有効に作用して効率よく重合体を溶解させることができる。
【0021】
本発明には、少なくとも表面の一部に共役系重合体の付着したCNTが用いられる。本来CNTはその表面が不活性であるため有機溶媒や重合体中への分散ができないが、少なくとも表面の一部に共役系重合体を付着させておくことによって分散性が飛躍的に向上できる。CNTの分散には、一般的には界面活性剤などが用いられるが、この場合は、CNTに絶縁性の物質が付着するため、アリーレンビニレン系重合体の導電性や半導体特性が損なわれてしまうため好ましく用いることができない。
【0022】
CNT表面に付着させる共役系重合体の種類は、ポリチオフェン系重合体、ポリピロール系重合体、ポリアニリン系重合体、ポリアセチレン系重合体、ポリ−p−フェニレン系重合体、ポリ−p−フェニレンビニレン系重合体などが好ましく用いられる。これらの重合体は、直鎖状共役系重合体であることが好ましく、ポリチオフェン系重合体、ポリピロール系重合体はそれぞれチオフェン環、ピロール環の2、5位でモノマーユニットがつながっていることが好ましい。また、ポリ−p−フェニレン系重合体、ポリ−p−フェニレンビニレン系重合体ではフェニレン基のパラ位で重合体の骨格がつながっていることが好ましい。上記重合体は単一のモノマーユニットが並んだものが好ましく用いられるが、異なるモノマーユニットをブロック共重合したもの、ランダム共重合したものも用いられる。また、グラフト重合したものも用いることができる。共重合されるユニットとしては、フルオレン系、トリアリールアミン系などを用いることができる。なお、ここで直鎖状とは、重合体の骨格構造が安定状態(外力が加わっていない状態)において螺旋構造を取らず、まっすぐ延びているものを意味し、また、共役系重合体とは重合体の骨格の炭素−炭素の結合が1重結合と2重結合が交互に連なっている重合体を意味する。共役系重合体は共役系構造が伸びた構造であるので、共役系構造の発達したカーボンナノチューブとの親和性が高く、カーボンナノチューブが分散しやすい。
【0023】
なかでもポリチオフェン系重合体が好ましく、有機溶媒に可溶性であることが望ましい。有機溶媒に可溶であるためにはチオフェン環の3位または4位に置換基を有することが好ましく、例えば3位に炭素数1〜20の脂肪族基、置換脂肪族基、アルコキシ基、チオアルキル基などを有することが好ましい。炭素数1〜20の脂肪族基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基のような直鎖アルキル基、または、直鎖アルキル基の異性体である分岐アルキル基などが挙げられる。側鎖の炭素数は20を超えると立体障害によりカーボンナノチューブの分散性が低下してくるので、炭素数は1〜20であることが好ましい。置換脂肪族基は、アルコキシアルキル基、シロキシ置換アルキル基、ハロゲン置換アルキル基などが挙げられる。アルコキシ基は上記のアルキル、アルキル誘導体を含むアルコキシ基である。チオアルキル基は上記のアルキル、アルキル誘導体を含むチオアルキル基である。これらの有機基を有することで共役系重合体の有機溶媒への溶解性が向上し、カーボンナノチューブの分散性が向上する。ただし、溶解性が確保されている場合に限っては共重合体成分として3,4位に置換基をもたないチオフェン環ユニットを、上述の置換基を有するチオフェン環ユニットの間に存在させることも可能である。
【0024】
本発明で用いられる共役系重合体のより好ましい具体例としては、ポリ−3−ブチルチオフェン、ポリ−3−ヘキシルチオフェン、ポリ−3−オクチルチオフェン、ポリ−3−ドデシルチオフェンなどのポリ−3−アルキルチオフェン、または、ポリ−3−エトキシチオフェン、ポリ−3−ドデシルオキシチオフェンなどのポリ−3−アルコキシチオフェン、または、ポリ−3−メトキシ−4−メチルチオフェン、ポリ−3−ドデシルオキシ−4−メチルチオフェンなどのポリ−3−アルコキシ−4−アルキルチオフェン、または、ポリ−3−チオヘキシルチオフェンやポリ−3−チオドデシルチオフェンなどのポリ−3−チオアルキルチオフェンが挙げられる。中でも、ポリ−3−アルキルチオフェン、ポリ−3−アルコキシチオフェンが好ましく、前者としては特にポリ−3−ヘキシルチオフェンが好ましい。
【0025】
上述のポリチオフェン系の共役系重合体は、重合したときの置換基の向きによって、置換基の向きが一方向に規則正しく並んだレジオレギュラーと、不規則に向いて並んだレジオランダムのものが存在するが、いずれも好ましく用いることができる。
【0026】
上述の共役系重合体の好ましい分子量は、重量平均分子量で800〜100000である。なお、重量平均分子量はゲルパーミエションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレンを標準試料とした相対的な値として求めることができる。また、上記重合体は直鎖状共役系からなるオリゴマーであってもよい。
【0027】
本発明で用いるCNTは、アーク放電法、化学気相成長法(CVD法)、レーザー・アブレーション法等によって作製されるが、本発明に使用されるカーボンナノチューブはいずれの方法によって得られたものであってもよい。また、カーボンナノチューブには1枚の炭素膜(グラッフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層カーボンナノチューブ(以下SWCNTと言う)と、2枚のグラッフェン・シートが同心円状に巻かれた2層カーボンナノチューブ(以下DWCNTと言う)と、複数のグラッフェン・シートが同心円状に巻かれた多層カーボンナノチューブ(以下MWCNTと言う)とがあり、本発明においてSWCNT、DWCNT、MWCNTをそれぞれ単体で、もしくは複数を同時に使用できる。特に、SWCNTとDWCNTと直径が15nm以下のMWCNTは導電性および半導体特性において優れた性質を持つので好ましく用いることができるが、中でも特にSWCNTまたはDWCNTを用いることが好ましい。
【0028】
上記の方法でSWCNT、DWCNTやMWCNTを作製する際には、同時にフラーレンやグラファイト、非晶性炭素が副生産物として生成され、またニッケル、鉄、コバルト、イットリウムなどの触媒金属も残存するので、これらの不純物を除去し精製することが好ましい。不純物の除去には、硝酸、硫酸などによる酸処理とともに超音波処理が有効であり、またフィルターによる分離を併用することは純度を向上させる上でさらに好ましい。本発明で用いられるカーボンナノチューブの直径は特に限定されないが、0.8nm以上100nm以下が好ましく、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは15nm以下である。
【0029】
本発明に用いる少なくとも表面の一部に共役系重合体の付着したCNTは、バンドルまたは凝集を解きほぐし、数本以下、好ましくは1本ずつのCNTとして分散溶液中に細かく分散しておくことが望ましい。一般にCNTは、生成された状態では繊維状のカーボンナノチューブが多数集まったバンドル(束)構造をとっている。またバンドル構造をとらないCNTにおいてはCNT同士が凝集しているが、有機溶媒中で凝集したCNTを解く方法としては、CNTを、共役系重合体の溶解した有機溶液中に加えて超音波照射する方法が好ましく用いることができる。溶媒に対するCNT濃度を0.001〜1g/L、溶媒に対する共役系重合体の濃度を0.001〜30g/Lに調製し、超音波照射を5〜120分間行うことが好ましい。超音波照射方法としては、共役系重合体の溶解した有機溶液と、CNTとからなるCNT混合液の中に照射用のプローブを入れて直接的に照射する方法があり、超音波ホモジナイザーが好ましく用いられる。超音波の照射出力は、超音波ホモジナイザーなどを用いて直接照射装置する場合は100〜500Wであることが好ましい。また、上記CNT混合液の入った容器の周囲から間接的に照射する方法もあり、超音波洗浄機が用いることもできる。
【0030】
上述の方法でバンドルまたは凝集の解かれたCNTは、少なくとも表面の一部に共役系重合体が付着しているが、共役系重合体が付着していることは次の方法で確かめることができる。均一分散したCNTを孔径0.1μmのフィルター上に捕集すると膜状のCNTのシートが得られる。この膜状のCNTを溶媒で洗浄したあとSi基板に転写し、X線光電子分光法(XPS)によって解析を行うと、共役系重合体にポリチオフェン系重合体を用いた場合にはチオフェン環の硫黄が検出され、CNT表面に共役系重合体が付着していることが確認できる。また、上述のCNTのシートを溶媒中に入れ超音波照射を行うと有機溶媒中への均一分散が可能である。一方、共役系重合体の付着していないCNTでは溶媒中に入れて超音波照射しても均一分散ができないことから、上述のシート状のCNTには共役系重合体が付着していることが確認できる。なお、ここではCNT表面に共役系重合体が付着していることが確認するために、CNTを単離したが、実際には、CNTを単離せずとも、上述のCNT分散液をそのまま使用することができる。
【0031】
本発明の重合体溶液から、溶媒を除去することによって重合体膜が形成でき、導電体や半導体などに用いることができる。重合体膜の形成には、スピンコート塗布、ブレードコート塗布、スリットダイコート塗布、スクリーン印刷塗布、バーコーター塗布、鋳型塗布、印刷転写法、浸漬引き上げ法、インクジェット法などいずれの方法を用いることができ、塗膜厚さ制御や配向制御など、得ようとする塗膜特性に応じて塗布方法を選択することができる。例えばスピンコート塗布を行う場合には、濃度が7〜30g/Lの重合体溶液から、厚みが約50〜1000nmの膜を得ることができる。しかも得られた膜は均質で、表面形状をAFMで評価すると表面粗さRaが0.1〜20nmの膜を得ることができる。ここで表面粗さRa(算術平均粗さ)は、JISのB0601(1994年)に準じて測定する。また、測定範囲によって表面粗さRaの値が異なる場合があるが、ここでは測長の長さは1〜50μmとする。得られた測定値に基づいて粗さ曲線を作成し、粗さ曲線からその平均線の方向に長さlだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値とする。また、形成した膜から、溶媒をできるだけ除去するために、減圧下または不活性雰囲気下(窒素やアルゴン雰囲気下)などでアニーリング処理を行うことも有効である。
【0032】
また、本発明の重合体膜は、導電膜、トランジスタ、光電変換デバイスなどに用いることができる。特に光電変換デバイスとして、光起電力素子や、光センサ、光スイッチ、フォトトランジスタ、光メモリなどの光記録材などとして用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1
CNT(SWCNT:サイエンスラボラトリーズ社製、純度95%)1mgと、共役系重合体であるポリ−3−ヘキシルチオフェン(以下、P3HTと略する。アルドリッチ社製、レジオレギュラー、分子量(Mn):13000)1mgと、クロロホルム10mLを、20mLのサンプル管に入れ、超音波破砕機(東京理化器械(株)製VCX−502、出力250W、直接照射)を用いて氷冷しながら30分間超音波照射した。超音波照射を30分行った時点で一度照射を停止し、P3HTを1mg追加し、さらに1分間超音波照射することによって、CNT分散液(CNT濃度0.1g/L)を得た。このときCNTは溶媒中に均一分散していた。
次いで、上述のCNT濃度0.1g/LのCNT分散液0.7mLとクロロホロム0.3mLをガラス管に分取し、ポリアリーレンビニレン系重合体としてポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン](以下、MEH−PPVと略する。アルドリッチ社製、分子量:Mn86,000)7mgを加え、超音波洗浄機((株)井内盛栄堂製US−2、出力120W)を用いて2時間超音波照射した。このとき、MEH−PPVのクロロホルムに対する濃度が7g/L、CNTのMEH−PPVに対する濃度が1重量%に調製した。得られたMEH−PPV溶液は目視ではクロロホルムに均一に溶解しており、10μm孔径のメンブレンフィルターを用いてろ過したところ、フィルター上にはゲル状物や凝集物は全く見られなかった。このことからMEH−PPVはクロロホルム中に完全に溶解していることがわかった。また、MEH−PPV溶液をガラス基板上にスピンコートし(1000rpm×30秒)、真空乾燥機で80℃2時間乾燥した後に得られた膜を光学顕微鏡(ニコン(株)製OPTIPHOT300、倍率500倍)で観察したところ、膜は均一でゲル状物や凝集物は全く見られなかった。次にAFM(原子間力顕微鏡、ディジタルインスツルメンツ社製ナノスコープIIIa、タッピングモード、10μm視野)を用いて膜厚と表面粗さRa(算術平均粗さ)を測定したところ、厚みは80nm、表面粗さRaは10nmであった。
【0035】
次に、得られた膜の導電率を測定した。まず2cm角のガラス基板上全面にITO(酸化インジウムすず)をスパッタリングし、この上に上述のCNTを含んだMEH−PPV溶液を0.2mL滴下し、1000rpm×30秒の条件でスピンコートし、真空乾燥機で80℃2時間乾燥して、厚み80nm、CNTのMEH−PPVに対する含有量が1重量%の重合体膜を得た。次に該膜の上にメタルマスクを介して直径1cmの円形のアルミニウム電極を蒸着法によって形成した。ITOとアルミニウムの両電極間のI−V特性から次式によって導電率s(S/cm)を計算した。
【0036】
s=(I/V)×(t/A)×(1/100) (1)
ここでIは電流量(A)、Vは電圧(V)、tは重合体膜の厚み(m)、Aは電極の面積(m)、である。上述の膜の導電率を求めたところ、2×10−4S/cmであった。
【0037】
比較例1
クロロホルム1mLを分取したガラス管に、MEH−PPV7mg加え、超音波洗浄機を用いて2時間超音波照射した。CNT分散液は用いなかった。このときMEH−PPVの溶媒に対する濃度が25g/Lになるように調製した。その結果、MEH−PPVはゲル状に膨潤したのみで溶解には至らなかった。
【0038】
実施例2
実施例1で調製したCNT分散液(溶媒:クロロホルム)0.5mLとトルエン0.5mLをサンプル管に入れて混合し、MEH−PPV25mgを加え、超音波洗浄機を用いて2時間超音波照射した。このとき、MEH−PPVの溶媒に対する濃度は25g/L、CNTのMEH−PPVに対する濃度が0.2重量%に調製した。得られたMEH−PPVは目視ではクロロホルムとトルエンの混合溶媒に均一に溶解しており、10μm孔径のメンブレンフィルターを用いてろ過したところ、フィルター上にはゲル状物や凝集物は全く見られなかった。このことからMEH−PPVは溶媒中に完全に溶解していることがわかった。また、MEH−PPV溶液をガラス基板上にスピンコートし(1000rpm×30秒)、乾燥後に得られた膜を光学顕微鏡(倍率500倍)で観察したところ、膜は均一でゲル状物や凝集物は全く見られなかった。次にAFMを用いて膜厚と表面粗さRaを測定したところ、厚みは500nm、表面粗さRaは10nmであった。
【0039】
次に、得られた膜の導電率を実施例1と同様の方法で測定したところ、重合体膜の導電率は3×10−5S/cmであった。
【0040】
比較例2
トルエン0.5mL、クロロホルム0.5mLをガラス管中に分取して混合し、MEH−PPV25mg加え、超音波洗浄機を用いて2時間超音波照射した。CNT分散液は用いなかった。このとき調製したMEH−PPVの溶媒に対する濃度は25g/Lであった。その結果、MEH−PPVはゲル状に膨潤したのみで溶解には至らなかった。
【0041】
比較例3
トルエン1mLをガラス管中に分取し、MEH−PPV25mg加え、超音波洗浄機を用いて2時間超音波照射した。CNT分散液は用いなかった。このとき調製したMEH−PPVの溶媒に対する濃度は25g/Lであった。その結果、MEH−PPVはゲル状に膨潤したのみで溶解には至らなかった。
【0042】
実施例3
MEH−PPVのクロロホルムに対する濃度が7g/L、CNTのMEH−PPVに対する含有量が5重量%のMEH−PPV溶液を調製した。MEH−PPV溶液の調製に使用したCNT分散液の濃度を0.1g/Lから0.5g/Lに換えて調製した以外は実施例1と全く同様の手順を行った。
【0043】
得られたMEH−PPV溶液は目視ではクロロホルムに均一に溶解しており、10μm孔径のメンブレンフィルターを用いてろ過したところ、フィルター上にはゲル状物や凝集物は全く見られなかった。このことからMEH−PPVはクロロホルム中に完全に溶解していることがわかった。MEH−PPV溶液をガラス基板上にスピンコートし、得られた膜を光学顕微鏡で観察したところ、膜は均一でゲル状物や凝集物は全く見られなかった。AFMを用いて膜厚と表面粗さRa(算術平均粗さ)を測定したところ、厚みは80nm、表面粗さRaは12nmであった。得られた膜の導電率を測定したところ、6×10−3S/cmであった。
【0044】
実施例4
MEH−PPVを溶解する溶媒としてクロロベンゼンとクロロホルムの混合溶媒を用いた。実施例2で用いたトルエンをクロロベンゼンに換えたことと、溶解方法を超音波照射から加熱撹拌に換えたこと以外は実施例2と同様の操作を行った。
【0045】
実施例1で調製したCNT分散液(溶媒:クロロホルム)0.5mLとクロロベンゼン0.5mLをフラスコに入れて混合し、MEH−PPV25mgを加え、オイルバスとマグネチックスターラーを用いて60℃で加熱撹拌した。このとき、MEH−PPVの溶媒に対する濃度は25g/L、CNTのMEH−PPVに対する濃度が0.2重量%に調製した。得られたMEH−PPVは目視ではクロロホルムとクロロベンゼンの混合溶媒に均一に溶解しており、10μm孔径のメンブレンフィルターを用いてろ過したところ、フィルター上にはゲル状物や凝集物は全く見られなかった。このことからMEH−PPVは溶媒中に完全に溶解していることがわかった。また、MEH−PPV溶液をガラス基板上にスピンコートし(1000rpm×30秒)、乾燥後に得られた膜を光学顕微鏡(倍率500倍)で観察したところ、膜は均一でゲル状物や凝集物は全く見られなかった。次にAFMを用いて膜厚と表面粗さRaを測定したところ、厚みは600nm、表面粗さRaは15nmであった。次に、得られた膜の導電率を実施例1と同様の方法で測定したところ、重合体膜の導電率は1×10−5S/cmであった。
【0046】
比較例4
クロロベンゼン0.5mL、クロロホルム0.5mLをガラス管中に分取して混合し、MEH−PPV25mg加え、超音波洗浄機を用いて2時間超音波照射した。CNT分散液は用いなかった。このとき調製したMEH−PPVの溶媒に対する濃度は25g/Lであった。その結果、MEH−PPVはゲル状に膨潤したのみで溶解には至らなかった。
【0047】
比較例5
実施例1で調製したCNT分散液(溶媒:クロロホルム)1mL中にポリ−3−ブチルチオフェン(以下P3BTと略する。アルドリッチ社製、レジオレギュラー)5mg加え、オイルバスとマグネチックスターラーを用いて60℃で加熱撹拌した。このとき調製したP3BTの溶媒に対する濃度は5g/L、CNTのP3BTに対する濃度は2重量%に調製した。その結果、P3BTは加熱撹拌中にはオレンジ色で透明に溶解したが、オイルバスから取り出すとすぐに不透明に変化した。P3BT溶液をガラス基板上にスピンコートし(1000rpm×30秒)、乾燥後に得られた膜を光学顕微鏡(倍率500倍)で観察したところ、膜は不均一で、直径1〜10μmの塊状の凝集物が多く見られた。AFMを用いて膜厚と表面粗さRaを測定したところ、厚みは約70nm、表面粗さRaは80nmであった。
【0048】
続いて、クロロホルム1mL中に、ポリ−3−ブチルチオフェン5mg加え、オイルバスとマグネチックスターラーを用いて60℃で加熱撹拌した。CNT分散液は用いなかった。このとき調製したP3BTの溶媒に対する濃度は5g/Lであった。その結果、P3BTは加熱撹拌中にはオレンジ色で透明に溶解したが、オイルバスから取り出すとすぐに不透明に変化した。P3BT溶液をガラス基板上にスピンコートし(1000rpm×30秒)、乾燥後に得られた膜を光学顕微鏡(倍率500倍)で観察したところ、膜は不均一で、線幅約1μmの筋状の模様が多く見られた。AFMを用いて膜厚と表面粗さRaを測定したところ、厚みは約70nm、表面粗さRaは40nmであった。
【0049】
比較例6
MEH−PPVのクロロホルムに対する濃度が7g/L、CNTのMEH−PPVに対する含有量が12重量%のMEH−PPV溶液を調製した。CNT分散液の濃度を0.1g/Lから1.2g/Lに換えて調製した以外は実施例1と全く同様の手順を行った。
【0050】
得られたMEH−PPV溶液は目視ではクロロホルムに均一に溶解していたが、10μm孔径のメンブレンフィルターを用いてろ過を試みたところ、粘度が高く、ろ過ができなかった。MEH−PPV溶液をガラス基板上にスピンコートし、得られた膜を光学顕微鏡で観察したところ、膜には厚みムラがあった。AFMを用いて膜厚を測定したところ、80〜120nmであり、膜は不均一であった。
【0051】
比較例7
MEH−PPVのクロロホルムに対する濃度が7g/L、CNTのMEH−PPVに対する含有量が1重量%のMEH−PPV溶液を調製した。ただし、CNTには共役系重合体の付着していないものを使用した。CNT分散液の調製の際に共役系重合体を用いなかった以外は実施例1と全く同様の手順を行った。その結果、CNTはクロロホルム中に懸濁するのみであった。この懸濁液にMEH−PPVを加えて2時間超音波照射したが、ゲル状に膨潤したMEH−PPVが残存し、完全には溶解しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の重合体溶液および重合体溶液から得られた重合体膜は導電膜や電界効果型トランジスタや、光電変換素子等に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンビニレン系重合体と、有機溶媒と、少なくとも表面の一部に共役系重合体の付着したカーボンナノチューブを含み、前記カーボンナノチューブの含有量がポリアリーレンビニレン系重合体に対して0.01重量%以上10重量%以下である重合体溶液。
【請求項2】
ポリアリーレンビニレン系重合体がポリフェニレンビニレン系重合体である請求項1記載の重合体溶液。
【請求項3】
カーボンナノチューブに付着している共役系重合体がポリチオフェン系重合体である請求項1記載の重合体溶液。
【請求項4】
有機溶媒と少なくとも表面の一部に共役系重合体の付着したカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ分散液にポリアリーレンビニレン系重合体を加え、超音波照射、加熱、撹拌のうちの少なくとも1種類の方法を用いて作製する請求項1記載の重合体溶液の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか記載の重合体溶液を塗布し、有機溶媒を除去して得られる重合体膜。

【公開番号】特開2008−88341(P2008−88341A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272627(P2006−272627)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】