説明

重合性組成物、架橋体および架橋樹脂複合体

【課題】高周波特性、耐熱性および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れた架橋体および架橋樹脂複合体を与える重合性組成物、ならびに、これを用いて得られる架橋体および架橋樹脂複合体を提供すること。
【解決手段】シクロオレフィンモノマー、下記式(1)で例示されるフェノキシ基含有オリゴマー、およびメタセシス重合触媒を含む重合性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物、架橋体および架橋樹脂複合体に関し、さらに詳しくは高周波特性、耐熱性および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れた架橋体および架橋樹脂複合体を与える重合性組成物、およびこれを用いて得られる架橋体および架橋樹脂複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板は、一般に誘電体層と導体層とから構成される。近年、高度情報化時代を迎え、情報伝送は高速化・高周波化に向って動き出し、マイクロ波通信やミリ波通信が現実になってきている。これらの高周波化時代の回路基板の誘電体層は、高周波におけるノイズや伝送ロスを極限まで軽減する必要があり、そのためこのような誘電体層を形成する材料として、誘電正接(tanδ)の小さい誘電体材料の選定が重要な課題となってきている。
【0003】
このような誘電正接の小さい樹脂材料としてシクロオレフィンモノマーを塊状重合して得られるシクロオレフィンポリマーが注目されている。たとえば、特許文献1には、シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、架橋剤、連鎖移動剤、および特定の液状のジエン系ゴムを含有する回路基板の誘電体層用の重合性組成物が開示されている。なお、この特許文献1においては、シクロオレフィンモノマーを含有する重合性組成物に液状のジエン系ゴムを含有させることにより、樹脂材料を製造するための重合性組成物の流動性を向上させている。
【0004】
特許文献2には、シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、連鎖移動剤、および多孔質体を含む重合性組成物が開示されている。なお、特許文献2には、多孔質体として広範な無機および有機の多孔質体が記載されているものの、その具体的な実施例においては、多孔質体として多孔質シリカを用いたもののみしか開示されていない。
【0005】
また、特許文献3には、所定のメタセシス触媒を用い、難燃剤の存在下にノルボルネン系モノマーを塊状重合することにより得られるノルボルネン系樹脂成形体が開示されている。なお、この特許文献3においては、ノルボルネン系樹脂成形体の機械強度を改善するために、各種樹脂を配合できる点が記載されている。
【0006】
さらに、シクロオレフィンポリマー以外の樹脂材料を用いたものして、たとえば、特許文献4には、所定のポリビニルベンジルエーテル化合物および架橋剤を含有してなる重合性組成物およびこれを用いて得られる成形体が開示されている。この特許文献4においては、所定のポリビニルベンジルエーテル化合物を用いることで、低誘電率、低誘電正接である成形体を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−133417号公報
【特許文献2】特開2007−308685号公報
【特許文献3】特開2002−356540号公報
【特許文献4】特開2008−163249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献1〜3に記載に重合性組成物を用いて得られる成形体は、耐熱性が充分でなく、また、回路基板の使用想定環境下での繰り返し使用時の耐クラック性にも劣るという問題が認められた。また、特許文献4に記載の重合性組成物を用いて得られる成形体についても、同様に、回路基板の使用想定環境下での繰り返し使用時の耐クラック性に劣るという問題が認められた。
【0009】
本発明の目的は、高周波特性、耐熱性および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れた架橋体および架橋樹脂複合体を与える重合性組成物、ならびに、これを用いて得られる架橋体および架橋樹脂複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、シクロオレフィンモノマー、およびメタセシス重合触媒を含む重合性組成物に、所定のフェノキシ基含有オリゴマーを配合することで、高周波特性、耐熱性および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れた架橋体および架橋樹脂複合体を与える重合性組成物が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、
〔1〕シクロオレフィンモノマー、フェノキシ基含有オリゴマー、およびメタセシス重合触媒を含む重合性組成物、
〔2〕前記フェノキシ基含有オリゴマーが、下記一般式(1)または(2)で表される化合物である前記〔1〕に記載の重合性組成物、
【化1】

【化2】

(上記一般式(1)中、R,Rは、同一または異なってもよく、ハロゲン原子、アルキル基またはフェニル基であり、Xは、ハロゲン原子を含んでいても良い直鎖状、分岐状または環状の炭化水素であり、Y,Yは、水素原子、または、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子、硫黄原子、リン原子およびケイ素原子から選択される1または2以上の原子を含んでいても良い炭化水素基であり、nは、0〜4の整数を示し、a,bは、同時に0でない0〜80の整数を示す。上記一般式(2)中、R,Rは、同一または異なってもよく、ハロゲン原子、アルキル基またはフェニル基であり、Y,Yは、水素原子、または、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子、硫黄原子、リン原子およびケイ素原子から選択される1または2以上の原子を含んでいても良い炭化水素基であり、nは、0〜4の整数を示し、mは、0〜3の整数を示し、cは、1〜80の整数を示す。)
〔3〕前記一般式(1)、(2)で表される化合物のY,Y,Y,Yが、ラジカル反応性基を含有する置換基である前記〔2〕に記載の重合性組成物、
〔4〕前記フェノキシ基含有オリゴマーの数平均分子量が200〜10,000である前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の重合性組成物、
〔5〕連鎖移動剤をさらに含有する前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の重合性組成物、
〔6〕架橋剤をさらに含有する前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の重合性組成物、
〔7〕前記フェノキシ基含有オリゴマーの含有割合が、前記シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、0.1〜100重量部である前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の重合性組成物、
〔8〕前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の重合性組成物を塊状重合してなる架橋性樹脂、
〔9〕前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の重合性組成物を支持体に塗布または含浸し、塊状重合してなる架橋性樹脂複合体、
〔10〕前記〔8〕に記載の架橋性樹脂を架橋してなる架橋体、ならびに、
〔11〕前記〔10〕に記載の架橋体と支持体とを含む架橋樹脂複合体、
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高周波特性、耐熱性および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れた架橋体および架橋樹脂複合体を与える重合性組成物、ならびに、これを用いて得られる架橋体および架橋樹脂複合体が提供される。本発明の架橋体および架橋樹脂複合体は、高周波特性、耐熱性および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れているため、通信機器用途等のマイクロ波またはミリ波等の高周波回路基板に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の重合性組成物は、シクロオレフィンモノマー、フェノキシ基含有オリゴマー、およびメタセシス重合触媒を含有してなる。
【0014】
(シクロオレフィンモノマー)
本発明に使用されるシクロオレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、かつ該環構造中に重合性の炭素−炭素二重結合を1つ有する化合物である。なお、本明細書において「重合性の炭素−炭素二重結合」とは、連鎖重合(開環重合)可能な炭素−炭素二重結合をいう。開環重合には、イオン重合、ラジカル重合、メタセシス重合など種々の形態のものが存在するが、本発明においては、通常、メタセス開環重合をいう。
【0015】
シクロオレフィンモノマーの環構造としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環およびこれらを組み合わせた多環などが挙げられる。各環構造を構成する炭素数に特に限定はないが、通常、4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。
シクロオレフィンモノマーは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭素数1〜30の炭化水素基や、カルボキシル基または酸無水物基などの極性基を置換基として有していてもよいが、得られる架橋体および架橋樹脂複合体を低誘電正接とする観点から、極性基を持たないもの、すなわち、炭素原子および水素原子のみで構成されるものが好ましい。
【0016】
シクロオレフィンモノマーとしては、単環のシクロオレフィンモノマーと多環のシクロオレフィンモノマーのいずれをも用いることができる。得られる架橋体および架橋樹脂複合体の誘電特性、および耐熱性の特性を高度にバランスさせる観点から、多環のシクロオレフィンモノマーが好ましい。多環のシクロオレフィンモノマーとしては、特にノルボルネン環構造を分子内に有するノルボルネン系モノマーが好ましい。ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類などが挙げられる。
【0017】
ここで、シクロオレフィンモノマーは、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないものと、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するものとに分けられる。本明細書において「架橋性の炭素−炭素不飽和結合」とは、開環重合には関与せず、架橋反応に関与可能な炭素−炭素不飽和結合をいう。架橋反応とは橋架け構造を形成する反応であり、縮合反応、付加反応、ラジカル反応、メタセシス反応など種々の形態のものが存在するが、本発明においては、通常、ラジカル架橋反応またはメタセシス架橋反応、特にラジカル架橋反応をいう。架橋性の炭素−炭素不飽和結合としては、芳香族炭素−炭素不飽和結合を除く炭素−炭素不飽和結合、すなわち、脂肪族炭素−炭素二重結合または脂肪族炭素−炭素三重結合が挙げられ、本発明においては、通常、脂肪族炭素−炭素二重結合をいう。架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマー中、不飽和結合の位置は特に限定されるものではなく、炭素原子で形成される環構造内の他、該環構造以外の任意の位置、例えば、側鎖の末端や内部に存在していてもよい。
【0018】
架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、シクロペンテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3,5−ジメチルシクロペンテン、3−クロロシクロペンテン、シクロへキセン、3−メチルシクロへキセン、4−メチルシクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロヘキセン、3−クロロシクロヘキセン、シクロへプテンなどの単環シクロオレフィンモノマー;ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−プロピル−2−ノルボルネン、5,6−ジメチル−2−ノルボルネン、1−メチル−2−ノルボルネン、7−メチル−2−ノルボルネン、5,5,6−トリメチル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、テトラシクロドデセン、1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−ヘキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−フルオロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,5−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−シクロへキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2,3−ジクロロ−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−イソブチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,2−ジヒドロジシクロペンタジエン、5−クロロ−2−ノルボルネン、5,5−ジクロロ−2−ノルボルネン、5−フルオロ−2−ノルボルネン、5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメチル−2−ノルボルネン、5−クロロメチル−2−ノルボルネン、5−メトキシ−2−ノルボルネン、5,6−ジカルボキシル−2−ノルボルネンアンハイドレート、5−ジメチルアミノ−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができ、好ましくは架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないノルボルネン系モノマーである。
【0019】
架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、3−ビニルシクロヘキセン、4−ビニルシクロヘキセン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロへキサジエン、1,4−シクロへキサジエン、5−エチル−1,3−シクロへキサジエン、1,3−シクロへプタジエン、1,3−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィンモノマー;5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−アリル−2−ノルボルネン、5,6−ジエチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができ、好ましくは架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するノルボルネン系モノマーである。
これらのシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本発明に使用されるシクロオレフィンモノマーとしては、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマーを含むものが、得られる積層体において耐クラック性等の信頼性が向上し、好適である。
本発明の重合性組成物に配合するシクロオレフィンモノマー中における、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマーと架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの配合割合は所望により適宜選択されるが、重量比(架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有するシクロオレフィンモノマー/架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマー)で、通常、0.1/99.9〜100/0、好ましくは1/99〜90/10、より好ましくは5/95〜80/20の範囲である。これらの配合割合がこのような範囲にある場合に、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の耐熱性および冷熱衝撃試験での耐クラック性等の特性を高度に向上させることができ、好適である。
【0021】
(フェノキシ基含有オリゴマー)
本発明に使用されるフェノキシ基含有オリゴマーとしては、フェノキシ基を含有し、トルエン溶離液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて、ポリスチレン換算にて測定した数平均分子量で200以上、10,000以下程度の範囲にある化合物であれば何でも良く、特に限定されないが、下記一般式(1)または(2)で表される化合物が好ましい。重合性組成物に、フェノキシ基含有オリゴマーを含有させることにより、得られる架橋体および架橋樹脂複合体について、誘電正接を良好に保ちながら、耐熱性および冷熱衝撃試験での耐クラック性の向上が可能となる。
【化3】

【化4】

【0022】
上記一般式(1)中、R,Rは、同一または異なってもよく、ハロゲン原子、アルキル基またはフェニル基であり、好ましくはアルキル基である。また、R,Rの数を示すnは、0〜4の整数であり、好ましくは1〜3の整数であり、より好ましくは2である。なお、nが2である場合における、R,Rの置換位置は、2,5位または2,6位であることが好ましい。また、上記一般式(1)中、a,bは、同時に0でない0〜80の整数であり、好ましくは1〜50の整数、より好ましくは5〜30の整数である。a,bの値が大きすぎると、シクロオレフィンモノマーへの溶解性が低下してしまい、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の物性が低下するおそれがある。
【0023】
上記一般式(1)中、Xは、ハロゲン原子を含んでいても良い直鎖状、分岐状または環状の炭化水素であり、好ましくは、下記一般式(3)または(4)で表される置換基である。
【化5】

【0024】
上記一般式(3)、(4)中、R,R,R,Rは、同一または異なってもよく、ハロゲン原子、アルキル基またはフェニル基である。また、R,R,R,Rの数を示すnは、0〜4の整数であり、好ましくは1〜3の整数であり、より好ましくは2である。なお、nが2である場合における、R,R,R,Rの置換位置は、2,5位または2,6位であることが好ましい。さらに、上記一般式(4)中、Aは酸素原子、イオウ原子、炭素数20以下の直鎖状、分岐状または環状の炭化水素である。
【0025】
また、上記一般式(1)中、Y,Yは、水素原子、または、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子、硫黄原子、リン原子およびケイ素原子から選択される1または2以上の原子を含んでいても良い炭化水素基であり、Y,Yは、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、アミン基、チオール基および不飽和結合基から選択される1または2以上の官能基を含有する炭化水素基であることが好ましく、Y,Yのうち少なくとも一方は、ラジカル反応性基を含有する置換基であることがより好ましく、Y,Yの両方がラジカル反応性基を含有する置換基であることが特に好ましい。また、Y,Yがラジカル反応性基を含有する置換基である場合には、下記一般式(5)または(6)で表される置換基であることが好ましい。
【化6】

【0026】
上記一般式(5)中、R,R10,R11は、同一または異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはフェニル基であり、好ましくは水素原子である。
【0027】
一方、上記一般式(2)中、R,Rは、同一または異なってもよく、ハロゲン原子、アルキル基またはフェニル基である。また、Rの数を示すmは、0〜3の整数であり、好ましくは0〜2の整数であり、同様にRの数を示すnは、0〜4の整数であり、好ましくは0〜2の整数である。さらに、上記一般式(2)中、cは、1〜80の整数であり、好ましくは2〜50の整数、より好ましくは3〜30の整数である。cの値が大きすぎると、シクロオレフィンモノマーへの溶解性が低下してしまい、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の物性が低下するおそれがある。
【0028】
また、上記一般式(2)中、Y,Yは、水素原子、または、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子、硫黄原子、リン原子およびケイ素原子から選択される1または2以上の原子を含んでいても良い炭化水素基であり、Y,Yは、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、アミン基、チオール基および不飽和結合基から選択される1または2以上の官能基を含有する炭化水素基であることが好ましく、Y,Yのうち少なくとも一方は、ラジカル反応性基を含有する置換基であることがより好ましく、Y,Yのうち、少なくともYは、ラジカル反応性基を含有する置換基であることがさらに好ましく、Y,Yの両方がラジカル反応性基を含有する置換基であることが特に好ましい。また、Y,Yがラジカル反応性基を含有する置換基である場合には、上記一般式(5)または(6)で表される置換基であることが好ましい。
【0029】
なお、フェノキシ基含有オリゴマーは、1種単独で用いても良いし、あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0030】
フェノキシ基含有オリゴマーの数平均分子量は、好ましくは200〜10,000であり、より好ましくは300〜8,000、さらに好ましくは500〜5,000である。なお、フェノキシ基含有オリゴマーの数平均分子量は、トルエン溶離液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて、ポリスチレン換算にて測定することができる。分子量が小さすぎると、耐熱性および冷熱衝撃試験での耐クラック性の向上効果が得られなくなる傾向にある。一方、分子量が大きすぎると、シクロオレフィンモノマーへの溶解性が低下してしまい、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の物性が低下するおそれがある。
【0031】
また、フェノキシ基含有オリゴマーが、ラジカル反応性基を含有する置換基を含有する場合には、ラジカル反応性基の含有量は、一分子当たり、好ましくは1〜50個、より好ましくは2〜30個、さらに好ましくは2〜10個である。ラジカル反応性基の含有量を上記範囲とすることにより、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の耐熱性および冷熱衝撃試験での耐クラック性の向上効果をより高めることができる。
【0032】
本発明の重合性組成物中における、フェノキシ基含有オリゴマーの配合量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、好ましくは0.01〜100重量部、より好ましくは0.5〜50重量部、さらに好ましくは1〜30重量部の範囲である。フェノキシ基含有オリゴマーの配合量が少なすぎると、耐熱性および冷熱衝撃試験での耐クラック性の向上効果が得られなくなる傾向にある。一方、配合量が多すぎると、電気特性が悪化することがある。
【0033】
(メタセシス重合触媒)
本発明に使用されるメタセシス重合触媒としては、シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合できるものであれば良いが、通常、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオンおよび/または化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族及び8族(長周期型周期表、以下同じ)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては例えばタンタルが挙げられ、6族の原子としては、例えばモリブデンやタングステンが挙げられ、8族の原子としては、例えばルテニウムやオスミウムが挙げられる。これらの中でも、8族のルテニウムやオスミウムの錯体をメタセシス重合触媒として用いることが好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性が優れるため、架橋性樹脂の生産性に優れ、得られる架橋性樹脂の、未反応のモノマーに由来する臭気が少なく作業性に優れる。ルテニウムカルベン錯体は、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活し難いので、これを用いることにより、大気下での生産を可能とすることができる。
【0034】
ルテニウムカルベン錯体としては、下記一般式(7)または一般式(8)で表されるものが挙げられる。
【化7】

【0035】
上記一般式(1)および一般式(2)において、R12およびR13は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい炭素数1〜20の炭化水素基を表す。
【0036】
1およびZ2は、それぞれ独立して任意のアニオン性配位子を示す。アニオン性配位子とは、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、ハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、カルボキシル基などを挙げることができる。これらの中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0037】
1およびL2はそれぞれ独立して、ヘテロ原子含有カルベン化合物または中性電子供与性化合物を表す。ヘテロ原子とは、周期律表第15族および第16族の原子を意味し、具体的には、N、O、P、S、As、Se原子などを挙げることができる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、N、O、P、S原子などが好ましく、N原子が特に好ましい。
【0038】
ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、下記一般式(9)または一般式(10)で示される化合物が挙げられる。
【化8】

【0039】
式中、R14〜R17は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい炭素数1〜20個の炭化水素基を表す。また、R14〜R17は任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。
【0040】
中性の電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子であればいかなるものでもよい。その具体例としては、ホスフィン類、エーテル類およびピリジン類などが挙げられ、トリアルキルホスフィンがより好ましい。
【0041】
なお、上記式(7)および(8)において、R12とR13は互いに結合して環を形成してもよく、さらに、R12,R13,Z1,Z2,L1およびL2は、任意の組合せで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0042】
本発明においては、メタセシス重合触媒としてヘテロ環構造を有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒を用いることが、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の高周波特性、耐熱性および冷熱衝撃試験での耐クラック性の各特性を高度にバランスさせることができるため、好ましい。ヘテロ環構造を構成するヘテロ原子としては、例えば、O原子、N原子等が挙げられ、好ましくはN原子である。また、ヘテロ環構造としては、イミダゾリン構造やイミダゾリジン構造が好ましい。
【0043】
このようなヘテロ環構造を有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒としては、上記式(7)または(8)で表され、L1またはL2としてヘテロ原子含有カルベン化合物からなる配位子を有するルテニウム触媒を好適に用いることができる。ヘテロ原子含有カルベン化合物を構成するヘテロ原子としては、N原子が好ましい。このようなヘテロ原子含有カルベン化合物の具体例としては、例えば、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0044】
また、ヘテロ原子含有カルベン化合物からなる配位子を有するルテニウム触媒の具体例としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどの、配位子としてヘテロ原子含有カルベン化合物と中性電子供与性化合物とが結合したルテニウム錯体化合物が挙げられる。
【0045】
これらのメタセシス重合触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。メタセシス重合触媒の使用量は、(触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0046】
メタセシス重合触媒は必要に応じて、少量の不活性溶剤に溶解または懸濁して使用することができる。このような溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;インデン、テトラヒドロナフタレンなどの脂環と芳香環とを有する炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、および脂環と芳香環とを有する炭化水素の使用が好ましい。
【0047】
(重合性組成物)
本発明の重合性組成物は、上記シクロオレフィンモノマー、フェノキシ基含有オリゴマー、およびメタセシス重合触媒を含有してなるものである。また、本発明で用いる重合性組成物には、所望により、連鎖移動剤、架橋剤、充填剤、重合調整剤、重合反応遅延剤、老化防止剤、その他の配合剤などを添加することができる。
【0048】
本発明に使用される連鎖移動剤としては、メタセシス開環重合に関与できるものであれば良く特に限定されないが、本発明の重合性組成物を重合反応させることにより得られる架橋性樹脂の末端に結合可能な脂肪族炭素−炭素二重結合を1つ有する化合物が好ましい。このような結合可能な脂肪族炭素−炭素二重結合の例としては、末端ビニル基が挙げられる。また、連鎖移動剤は、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1以上有していてもよい。
【0049】
このような連鎖移動剤の具体例としては、1−ヘキセン、2−ヘキセン、スチレン、ビニルシクロヘキサン、アリルアミン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、エチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリンなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を持たない連鎖移動剤;ジビニルベンゼン、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ウンデセニル、アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレートなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1つ有する連鎖移動剤;アリルトリビニルシラン、テトラアリルシランなどの、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を2以上有する連鎖移動剤などが挙げられる。これらのなかでも、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の高周波特性、耐熱性および冷熱衝撃試験での耐クラック性を高度にバランスさせることができるという観点から、架橋性の炭素−炭素不飽和結合を1つ有するものが好ましい。特に、このような連鎖移動剤の中でも、ビニル基とメタクリル基とを1つずつ有する連鎖移動剤が好ましく、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、メタクリル酸ウンデセニルなどが特に好ましい。
【0050】
これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の重合性組成物への連鎖移動剤の配合量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部である。
【0051】
本発明で使用される架橋剤は、本発明の重合性組成物を塊状重合することにより得られる架橋性樹脂において、架橋反応を誘起する目的で使用される。そのため、重合性組成物に架橋剤を配合することにより、本発明の重合性組成物を塊状重合することにより得られる架橋性樹脂を、後架橋可能な熱可塑性樹脂とすることができる。本発明において、架橋剤としては、通常、ラジカル発生剤が好適に用いられる。ラジカル発生剤としては、例えば、有機過酸化物、ジアゾ化合物、および非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物、および非極性ラジカル発生剤である。
【0052】
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;3,3,5,7,7−ペンタメチル−1,2,4−トリオキセパン、3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリパーオキソナン、3,6−ジエチル−3,6−ジメチル−1,2,4,5−テトロキサンなどの環状パーオキサイド類;が挙げられる。これらのなかでも、重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシド類、ペルオキシケタール類、および環状パーオキサイド類が好ましい。
【0053】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0054】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0055】
架橋剤として、ラジカル発生剤を使用する場合、1分間半減期温度は、硬化(本発明の重合性組成物を塊状重合することにより得られる架橋性樹脂および架橋性樹脂複合体の架橋)の条件により適宜選択されるが、通常、100〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは160〜230℃の範囲である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。例えば、ジ−t−ブチルペルオキシドでは186℃、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシンでは194℃である。
【0056】
これらの架橋剤は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の重合性組成物への架橋剤の配合量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0057】
充填剤としては、工業的に一般に使用されるものであれば格別な限定はなく、無機系充填剤および有機系充填剤のいずれも用いることができるが、好適には無機系充填剤である。本発明の重合性組成物に充填剤を配合することにより、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の機械強度と耐熱性との向上が可能となる。
【0058】
無機系充填剤としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、鉛、タングステン等の金属粒子;カーボンブラック、グラファイト、活性炭、炭素バルーン等の炭素粒子;シリカ、シリカバルーン、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化ベリリウム、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の無機酸化物粒子;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等の無機炭酸塩粒子;硫酸カルシウム等の無機硫酸塩粒子;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラスバルーン等の無機ケイ酸塩粒子;チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛等のチタン酸塩粒子;窒化アルミニウム、炭化ケイ素粒子やウィスカー等が挙げられる。有機系充填剤としては、例えば、木粉、デンプン、有機顔料、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、塩化ビニル、廃プラスチック等の化合物粒子が挙げられる。これらの充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。またこれらの充填剤はシランカップ剤などで表面処理されていることが好ましい。
【0059】
充填剤の配合量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常1〜1,000重量部、好ましくは10〜500重量部、より好ましくは50〜350重量部の範囲である。
【0060】
重合調整剤は、重合活性を制御したり、重合反応率を向上させたりする目的で配合されるものである。重合調整剤としては、例えば、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。これらの重合調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合調整剤を用いる場合における、重合調整剤の配合量は、モル比(メタセシス重合触媒中の金属原子:重合調整剤)で、好ましくは1:0.05〜1:100、より好ましくは1:0.2〜1:20、さらに好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0061】
重合反応遅延剤は、本発明の重合性組成物の粘度増加を抑制し得るものである。重合反応遅延剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物;アニリン、ピリジンなどのルイス塩基;等を用いることができる。重合反応遅延剤を用いる場合における、重合反応遅延剤の配合量は、所望により適宜調整すればよい。
【0062】
老化防止剤としては、たとえば、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤、イオウ系老化防止剤などが挙げられ、これらの老化防止剤を配合することにより、架橋反応を阻害しないで、得られる架橋体および架橋樹脂複合体の耐熱性を高度に向上させることができるため、好適である。これらの中でも、フェノール系老化防止剤およびアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤がより好ましい。これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤を使用する場合における、老化防止剤の使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、好ましくは0.0001〜10重量部、より好ましくは0.001〜5重量部、さらに好ましくは0.01〜2重量部の範囲である。
【0063】
また、本発明の重合性組成物には、上記した配合剤以外のその他の配合剤を配合することができる。その他の配合剤としては、着色剤、光安定剤、顔料、発泡剤などを用いることができる。着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。これらのその他の配合剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
【0064】
本発明の重合性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、メタセシス重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(触媒液)を調製し、別にシクロオレフィンモノマー、およびフェノキシ基含有オリゴマーなどの必須の成分、ならびに所望によりその他の配合剤を配合した液(モノマー液)を調製し、該モノマー液に触媒液を添加し、攪拌することによって調製することができる。
【0065】
(架橋性樹脂、架橋性樹脂複合体)
本発明の架橋性樹脂は、上述の本発明の重合性組成物を塊状重合することによって得られる。重合性組成物を塊状重合する方法としては、(a)重合性組成物を支持体に注ぐか、あるいは塗布し、塊状重合する方法、(b)重合性組成物を型内に注ぎこみ、塊状重合する方法、(c)重合性組成物を繊維材からなる支持体に含浸し、塊状重合する方法などが挙げられる。
【0066】
上記(a)の方法によれば、架橋性樹脂と支持体とから形成される架橋性樹脂複合体が得られる。支持体としては、特に限定されないが、金属箔または樹脂フィルムが好ましい。金属箔を構成する材料としては、たとえば、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、銀などが挙げられる。また、樹脂フィルムを構成する材料としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ナイロンなどが挙げられる。支持体として、金属箔または樹脂フィルムを用いる場合における、これらの厚さは、作業性などの観点から、好ましくは1〜150μm、より好ましくは2〜100μm、さらに好ましくは3〜75μmである。これらの支持体の表面は平滑であることが好ましい。また、これらの支持体表面は、公知のシランカップリング剤などで表面処理をしてあることが好ましい。
【0067】
上記(a)の方法において、重合性組成物を支持体上へ塗布する方法は特に制限されず、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法などの公知の塗布方法が挙げられる。
【0068】
上記(a)の方法において、塊状重合はメタセシス重合触媒が機能する温度まで重合性組成物を加熱することによって開始される。重合性組成物を所定温度に加熱する方法としては特に制約されず、加熱プレート上に載せて加熱する方法、プレス機を用いて加圧しながら加熱(熱プレス)する方法、加熱したローラーで押圧する方法、加熱炉を用いる方法などが挙げられる。
【0069】
また、上記(b)の方法によれば、任意の形状の架橋性樹脂の成形体を得ることができる。その形状としては、シート状、フィルム状、柱状、円柱状、多角柱状等が挙げられる。ここで用いる型としては、従来公知の成形型、例えば、割型構造、すなわちコア型とキャビティー型とを有する成形型を用いることができ、それらの空隙部(キャビティー)に重合性組成物を注入して塊状重合させる。コア型とキャビティー型とは、目的とする成形品の形状にあった空隙部を形成するように作製される。また、成形型の形状、材質、大きさなどは特に制限されない。あるいは、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚さのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入することにより、シート状またはフィルム状の架橋性樹脂の成形体を得ることができる。
【0070】
上記(b)の方法において、重合性組成物を成形型のキャビティー内に充填する際の充填圧力(注入圧)は、通常0.01〜10MPa、好ましくは0.02〜5MPaである。充填圧力が低すぎると、キャビティー内周面に形成された転写面の転写が良好に行われない傾向にある。一方、充填圧が高すぎると、成形型の剛性を高くしなければならいため、経済的ではない。型締圧力は通常0.01〜10MPaの範囲内である。
【0071】
上記(c)の方法によれば、架橋性樹脂が強化繊維に含浸されてなる架橋性樹脂複合体であるプリプレグを得ることができる。強化繊維としては、特に限定されないが、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、アラミド繊維、超高分子ポリエチレン繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、液晶ポリエステル繊維などの有機繊維;ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、タングステン繊維、モリブデン繊維、ブデン繊維、チタン繊維、スチール繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、シリカ繊維などの無機繊維;などを挙げることができる。これらの中でも、有機繊維やガラス繊維が好ましく、特にアラミド繊維、液晶ポリエステル繊維、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維としては、Eガラス、NEガラス、Sガラス、Dガラス、Hガラス等の繊維を好適に用いることができる。
これらの強化繊維は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、所望により適宜選択されるが、プリプレグ(架橋性樹脂複合体)中において、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは20〜80重量%、さらに好ましくは30〜70重量%の範囲である。強化繊維の使用量がこの範囲にある場合に、得られるプリプレグの誘電特性と機械強度とが高度にバランスされるため、好適である。
【0072】
上記(c)の方法において、重合性組成物の強化繊維への含浸は、例えば、重合性組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の方法により繊維材に塗布し、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧することにより行うことができる。重合性組成物を繊維材に含浸させた後、含浸物を所定温度に加熱することにより、重合性組成物を塊状重合させることができ、それによって架橋性樹脂が含浸されたプリプレグが得られる。また、含浸を型内で行う場合は、型内に強化繊維を設置し、該型内に重合性組成物を注ぎ込んで行う。なお、この場合に用いる型としては、上記(b)の方法で用いるものと同様なものが使用でき、また、重合性組成物を成形型のキャビティー内に充填する際の充填圧力も上記(b)の方法と同様とすれば良い。
【0073】
上記(c)の方法において、含浸物の加熱方法は特に限定されず、上記(a)の方法と同様の方法が採用でき、含浸物を基材上に設置して加熱してもよい。また、繊維材を設置した型内に重合性組成物を注入し、重合性組成物を含浸させてから上記(b)の方法に従い塊状重合してもよい。本発明の重合性組成物は、従来の樹脂ワニスと比較して低粘度であり、強化繊維に対する含浸性に優れるので、強化繊維に架橋性樹脂を均一に含浸させることができる。また、本発明の重合性組成物は、反応に関与しない溶媒等の含有量が少ないため、強化繊維に含浸させた後に溶媒を除去するなどの工程が不要であり、生産性に優れ、残存溶媒による臭気やフクレ等も生じない。
【0074】
なお、上記(c)の方法により得られるプリプレグの厚さは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常、0.001〜10mm、好ましくは0.005〜1mm、より好ましくは0.01〜0.5mmの範囲である。この範囲にあれば、積層時の賦形性、また、架橋して得られる架橋樹脂複合体の機械強度や靭性などの特性が充分に発揮されるため、好適である。上記(c)の方法により得られるプリプレグの揮発成分量は、200℃で1時間加熱したときに揮発する量で、通常、30重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下である。プリプレグの揮発成分量が過度に多いと、プリプレグのベタつきが発生し操作性及び保存安定性が不良化する傾向がある。
【0075】
上記(a)、(b)および(c)のいずれの方法においても、重合性組成物を重合させるための加熱温度は、通常、50〜250℃、好ましくは80〜200℃、より好ましくは90〜150℃の範囲であって、架橋剤、通常、ラジカル発生剤の1分間半減期温度以下、好ましくは1分間半減期温度の10℃以下、より好ましくは1分間半減期温度の20℃以下である。また、重合時間は適宜選択すればよいが、通常、10秒間から60分間、好ましくは20分間以内である。重合性組成物を上記条件で加熱することにより、未反応モノマーの少ない架橋性樹脂および架橋性樹脂複合体が得られるため、好適である。
【0076】
本発明の架橋性樹脂、および本発明の架橋性樹脂複合体を構成する架橋性樹脂部分は、実質的に架橋構造を有さず、例えば、トルエンに可溶であり、その当分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(溶離液:トルエン)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常、1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜100,000の範囲である。
【0077】
(架橋体)
本発明の架橋体は、上記本発明の架橋性樹脂を架橋してなるものである。
架橋性樹脂の架橋は、例えば、本発明の架橋性樹脂を加熱溶融するなどして、架橋性樹脂が架橋反応を起す温度以上に維持することによって行うことができる。架橋性樹脂を架橋させる際の加熱温度は、例えば、架橋剤としてラジカル発生剤を使用する場合、通常、ラジカル発生剤の1分間半減期温度以上、好ましくは1分間半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分間半減期温度より10℃以上高い温度である。具体的には、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。加熱時間は、0.1〜180分、好ましくは1〜120分、より好ましくは2〜60分の範囲である。
【0078】
なお、架橋性樹脂がシート状またはフィルム状の成形体である場合には、必要に応じて、架橋性樹脂を基材上に積層し、熱プレスする方法が好ましい。熱プレスする際の圧力は、通常0.5〜20MPa、好ましくは3〜10MPaである。熱プレスは、真空または減圧雰囲気下で行ってもよい。熱プレスは、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて行なうことができる。
【0079】
(架橋樹脂複合体)
本発明の架橋樹脂複合体は、架橋体と支持体とを含有してなるものであり、上記(a)の方法または(c)の方法により製造された架橋性樹脂複合体を架橋することにより得られる。あるいは、本発明の架橋樹脂複合体は、上記(a)の方法または(c)の方法により製造された架橋性樹脂複合体を、別の支持体に熱プレスによって積層させ、該支持体上で加熱して架橋することによっても得ることができる。さらには、本発明の架橋樹脂複合体は、上記(b)の方法により製造された架橋性樹脂を支持体に熱プレスによって積層させ、該支持体上で加熱して架橋することによっても得ることができる。なお、架橋樹脂の複合体は複数積層したものであっても良い。
【0080】
この場合に用いられる支持体としては、銅箔、アルミ箔、ニッケル箔、クロム箔、金箔、銀箔などの金属箔;プリント配線板;導電性ポリマーフィルム、他の樹脂フィルムなどのフィルム類;などが挙げられる。また、支持体としてプリント配線板を用いると、多層プリント配線板を製造することができる。銅箔などの金属箔やプリント配線板上の導電層は、その表面が、シランカップリング剤、チオール系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、各種接着剤などで処理されているものが好ましい。これらのうちシランカップリング剤で処理されているものが特に好ましい。
【0081】
このようにして得られる本発明の架橋体および架橋樹脂複合体は、高周波特性、耐熱性および冷熱衝撃試験での耐クラック性に優れるものであるため、高周波基板材料として広く好適に用いることができる。具体的には、本発明の架橋体および架橋樹脂複合体は、通信機器用途等のマイクロ波またはミリ波等の高周波回路基板に好適に用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例、および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、および比較例における「部」および「%」は、特に断りのない限り重量基準である。
また、試験、評価は下記によった。
【0083】
(1)耐クラック性
積層板について、−40℃〜+150℃の温度範囲で100サイクルの冷熱衝撃試験を行い、冷熱衝撃試験後の積層板について、任意の1cm角の表面について50倍の倍率にて光学顕微鏡で観察を行い、以下の基準に従って耐クラック性を評価した。なお、冷熱衝撃試験は、冷熱衝撃試験装置(エスペック社製、型番;TSA−71H−W)により行った。
A:クラックの発生が確認されなかった。
B:クラックの発生が1〜5箇所に確認された。
C:クラックの発生が6箇所以上に確認された。
(2)ガラス転移温度(Tg)
積層板を構成する架橋樹脂のガラス転移温度(Tg)を、TMA(TMA6000S、セイコーインスツルメント社製)を用いて測定し、以下の基準に従って、架橋樹脂の耐熱性を評価した。
A:ガラス転移温度が155℃以上
B:ガラス転移温度が140℃以上、155℃未満
C:ガラス転移温度が140℃未満
(3)はんだ耐熱性
積層板を2cm×2cmに切り出すことにより試験片を調製し、得られた試験片を用いて、260℃のはんだ浴に10秒間浸漬し、これを引き上げて室温で30秒間放置する操作を1サイクルとするヒートサイクル試験を3サイクル行い、試験片の形状変化を観察し、以下の基準に従ってはんだ耐熱性を評価した。
○:試験片に、形状変化、および、ふくれが発生しなかった。
×:試験片に、形状変化、および/または、ふくれが発生した。
(4)誘電正接(tanδ)
積層板について、インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー社製、型番号E4991A)を用いて20℃で周波数1GHzにおける誘電正接(tanδ)を容量法にて測定し、以下の基準で評価した。
A:0.0020以下
B:0.0020超
【0084】
実施例1
ガラス製フラスコ中で、ベンジリデン(1,3−ジメチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド51部と、トリフェニルホスフィン79部とを、トルエン952部に溶解させて触媒液を調製した。これとは別に、ポリエチレン製の瓶に、シクロオレフィンモノマーとしてテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン(TCD)90部、およびジシクロペンタジエン10部を入れ、ここに連鎖移動剤としてアリルメタクリレート2.2部、架橋剤としてジ−t−ブチルペルオキシド(1分間半減期温度186℃)1.2部、フェノキシ基含有オリゴマーとしてポリフェニレンエーテルオリゴマー〔OPE−St(OPE−1000)、三菱瓦斯化学社製、Mn=1,000、上記一般式(1)に示される化合物であって、R=CH、Rのn=2、Rの置換位置は2,6位、R=CH、Rのn=2、Rの置換位置は2,6位、Y,Yが上記一般式(5)で示す官能基(R,R10,R11は水素原子)、Xは上記一般式(4)で示す置換基(R=CH、Rのn=2、Rの置換位置は2,6位、R=CH、Rのn=2、Rの置換位置は2,6位、Aは酸素原子)であり、ラジカル反応性官能基としてのビニル基の数が2個〕20部、およびシリカ(平均粒子径0.5μm、シランカップリング剤処理品、アドマテックス社製)100部を加えて混合することによりモノマー液を調製した。そして、得られたモノマー液に、上記にて調製した触媒液を、シクロオレフィンモノマー100g当たり0.12mLの割合で加えて攪拌し、重合性組成物を調製した。
【0085】
次いで、得られた重合性組成物100部をポリエチレンナフタレートフィルム(タイプQ51、厚み75μm、帝人デュポンフィルム社製)の上に流延し、その上にガラスクロス(品番2116、厚み92μm)を敷いて、さらにその上に上記重合性組成物80部を流延した。そして、その上からさらにポリエチレンナフタレートフィルムを被せて、ローラーを用いて重合性組成物をガラスクロス全体に含侵させた。次いで、これを150℃に熱した加熱炉中で、1分間加熱し、重合性組成物を塊状重合させることにより、厚さ0.13mmのプリプレグを得た。
【0086】
次いで、得られたプリプレグを100mm角の大きさに切り出し、ポリエチレンナフタレートフィルムを剥離し、これを8枚重ねて、熱プレスにて、3MPa、200℃の条件で15分間加熱圧着し、積層板を作製した。そして、得られた積層板について、上記方法に従い、耐クラック性、ガラス転移温度(Tg)、はんだ耐熱性、および誘電正接の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
実施例2
フェノキシ基含有オリゴマーとしてポリフェニレンエーテルオリゴマー〔OPE−St(OPE−2000)、三菱瓦斯化学社製、Mn=2,000、上記一般式(1)に示される化合物であって、R=CH、Rのn=2、Rの置換位置は2,6位、R=CH、Rのn=2、Rの置換位置は2,6位、Y,Yが上記一般式(5)で示す官能基(R,R10,R11は水素原子)、Xは上記一般式(4)で示す置換基(R=CH、Rのn=2、Rの置換位置は2,6位、R=CH、Rのn=2、Rの置換位置は2,6位、Aは酸素原子)であり、ラジカル反応性官能基としてのビニル基の数が2個〕20部を使用した以外は、実施例1と同様にして、プリプレグおよび積層板を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
実施例3
フェノキシ基含有オリゴマーとしてポリフェニレンエーテルオリゴマー〔OPE−AC(OPE−2000)、三菱瓦斯化学社製、Mn=2,000、上記一般式(1)に示される化合物であって、R=CH、Rのn=2、Rの置換位置は2,6位、R=CH、Rのn=2、Rの置換位置は2,6位、Y,Yが上記一般式(6)で示す官能基、Xは上記一般式(4)で示す置換基(R=CH、Rのn=2、Rの置換位置は2,6位、R=CH、Rのn=2、Rの置換位置は2,6位、Aは酸素原子)であり、ラジカル反応性官能基としてのアクリレート基の数が2個〕20部を使用した以外は、実施例1と同様にして、プリプレグおよび積層板を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
実施例4
フェノキシ基含有オリゴマーとしてV−1100X〔昭和高分子社製、Mn=880、上記一般式(2)に示される化合物であって、Rのm=0、Rのn=0、Y,Yが上記一般式(5)で示す官能基(R,R10,R11は水素原子)であり、c=3〜5、ラジカル反応性官能基としてのビニル基の数が4〜6個〕20部を使用した以外は、実施例1と同様にして、プリプレグおよび積層板を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
比較例1
フェノキシ基含有オリゴマーとしてのポリフェニレンエーテルオリゴマーを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、プリプレグおよび積層板を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
比較例2
フェノキシ基含有オリゴマーとしてのポリフェニレンエーテルオリゴマー20部の代わりに、液状ポリブタジエン(Polyoil−110、日本ゼオン社製、Mn=1,100、ラジカル反応性官能基としてのビニル基の含有量が1モル%)20部を使用した以外は、実施例1と同様にして、プリプレグおよび積層板を作製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
比較例3
フェノキシ基含有オリゴマーとしてのポリフェニレンエーテルオリゴマー20部の代わりに、ポリフェニレンエーテルポリマー(ノリルPX9701、Mn=14,000、日本GEプラスチック社製、ラジカル反応性官能基の数が0個)20部を使用した以外は、実施例1と同様にして、重合性組成物を調製したところ、ポリフェニレンエーテルポリマーとシクロオレフィンモノマーとの相溶性が極めて悪く、各種評価を行い得るような積層板を得ることができなかった。
【0093】
【表1】

【0094】
表1に示すように、重合性組成物に、フェノキシ基含有オリゴマーを配合することにより、得られる積層板は、冷熱衝撃試験での耐クラック性および耐熱性に優れ(ガラス転移温度が高く、はんだ耐熱性が良好である)、さらには優れた高周波特性(誘電正接が低く抑えられている)を有するものとなる結果となった(実施例1〜4)。
これに対して、フェノキシ基含有オリゴマーを配合しなかった場合、およびフェノキシ基含有オリゴマーの代わりに、液状ゴムを使用した場合には、冷熱衝撃試験での耐クラック性に劣る結果となった(比較例1,2)。
また、フェノキシ基含有オリゴマーの代わりに、分子量が14,000であるポリフェニレンエーテルポリマーを用いた場合には、ポリフェニレンエーテルポリマーとシクロオレフィンモノマーとの相溶性が極めて悪く、各種評価を行い得るような積層板を得ることができなかった(比較例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィンモノマー、フェノキシ基含有オリゴマー、およびメタセシス重合触媒を含む重合性組成物。
【請求項2】
前記フェノキシ基含有オリゴマーが、下記一般式(1)または(2)で表される化合物である請求項1に記載の重合性組成物。
【化9】

【化10】

(上記一般式(1)中、R,Rは、同一または異なってもよく、ハロゲン原子、アルキル基またはフェニル基であり、Xは、ハロゲン原子を含んでいても良い直鎖状、分岐状または環状の炭化水素であり、Y,Yは、水素原子、または、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子、硫黄原子、リン原子およびケイ素原子から選択される1または2以上の原子を含んでいても良い炭化水素基であり、nは、0〜4の整数を示し、a,bは、同時に0でない0〜80の整数を示す。上記一般式(2)中、R,Rは、同一または異なってもよく、ハロゲン原子、アルキル基またはフェニル基であり、Y,Yは、水素原子、または、窒素原子、酸素原子、ハロゲン原子、硫黄原子、リン原子およびケイ素原子から選択される1または2以上の原子を含んでいても良い炭化水素基であり、nは、0〜4の整数を示し、mは、0〜3の整数を示し、cは、1〜80の整数を示す。)
【請求項3】
前記一般式(1)、(2)で表される化合物のY,Y,Y,Yが、ラジカル反応性基を含有する置換基である請求項2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
前記フェノキシ基含有オリゴマーの数平均分子量が200〜10,000である請求項1〜3のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項5】
連鎖移動剤をさらに含有する請求項1〜4のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項6】
架橋剤をさらに含有する請求項1〜5のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項7】
前記フェノキシ基含有オリゴマーの含有割合が、前記シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、0.1〜100重量部である請求項1〜6のいずれかに記載の重合性組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の重合性組成物を塊状重合してなる架橋性樹脂。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の重合性組成物を支持体に塗布または含浸し、塊状重合してなる架橋性樹脂複合体。
【請求項10】
請求項8に記載の架橋性樹脂を架橋してなる架橋体。
【請求項11】
請求項10に記載の架橋体と支持体とを含む架橋樹脂複合体。

【公開番号】特開2010−168488(P2010−168488A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13334(P2009−13334)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】