説明

重合抑制剤組成物及び蒸留可能なモノマーの重合抑制方法

本発明は、重合抑制剤組成物並びにこの重合抑制剤組成物によって液相及び蒸発/凝縮相中の蒸留可能なモノマーの重合を抑制する方法に関する。本発明の重合抑制剤組成物は製造、精製(例えば蒸留)、取扱及び貯蔵中における蒸留可能なモノマーの重合抑制に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合抑制剤組成物、並びにこの重合抑制剤組成物によって液相及び蒸発/凝縮相中の蒸留可能なモノマーの重合を抑制する方法に関する。本発明の重合抑制剤組成物は製造、精製(例えば蒸留)、取扱及び貯蔵中における蒸留可能なモノマーの重合抑制に有用である。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸系モノマーは構造フラグメント:
【0003】
【化1】

【0004】
[式中、
【0005】
【化2】

【0006】
は共有結合の部分を表す]
を有するモノマーを含む。アクリル酸系モノマーは、化学業界において、特に繊維及び他の物品の添加剤(例えばゴム、塗料及び接着剤用の添加剤)及び成分として有用なポリアクリレート系ポリマー(例えばポリ(アクリル酸)及びポリ(メタクリル酸))の製造に広く用いられている。アクリル酸系モノマーに関連して問題となるのは、主に早期重合である。充分な量の重合抑制剤が存在しない場合、アクリル酸系モノマーは製造、精製、取扱及び貯蔵作業中に不所望に重合する。
【0007】
特に難しい問題は、ヘッドスペースを有する容器や管のヘッドスペース中で蒸発及び凝縮したアクリル酸系モノマーの早期重合であった。例えば減圧蒸留による精製は、アクリル酸系モノマーを、モノマー及びヘッドスベースの体積を有する蒸留釜(pot)から蒸留カラム(ヘッドスペース)を通して蒸留する工程を含む。蒸留中に、アクリル酸系モノマーの一部は蒸発し、やがてカラム内の特定の構造(即ち「コールド」スポット)上で凝縮する。凝縮したモノマーは、重合抑制剤を含まない場合には重合し、その結果、カラム中の構造、特に、蒸留釜と直接液体連通していない構造、蒸留釜からのスプラッシュを受けるカラムゾーンからの構造を汚染し(foul)、ついには、蒸留操作の停止と、汚染カラムの清浄を余儀なくされる。これは、費用と時間を要する保守操作である。重合を抑制するため、化学業界では、これらの操作にモノマーバッチを供する前に、モノマーバッチへの重合抑制剤の添加を行い、又はあまり望ましくないが、操作中にこのような重合抑制剤を物理的添加を行っているが、望ましい結果が得られているとはいえない。
【0008】
例えば、このような先行技術の重合抑制剤の一部は、特許文献1(特にニトロソベンゼン及び4−ニトロソフェノールに言及し、場合によっては蒸留中に蒸留カラムのプレートにそれらを物理的に添加することを記載);特許文献2(特に一酸化窒素に言及);特許文献3(特に特定のN−オキシル化合物及び特定のニトロソ化合物に言及);特許文献4(特定のN−オキシ化合物及び特定のニトロソ化合物に言及);特許文献5;特許文献6(蒸留中に凝縮液又は還流液に特定のこのような重合抑制剤を物理的に添加する方法に言及);特許文献7;及び特許文献8により公表されている。同様に特許文献9参照。しかし、このような先行技術の重合抑制剤は、アクリル酸系モノマーと共に充分に蒸発及び凝縮できず、その結果、蒸留カラム中の構造表面でのアクリル酸系モノマーの凝縮液の重合抑制には不十分である。これらの重合抑制剤は、揮発性が不十分であるために蒸発した状態でカラム内の構造まで達することがないか、或いは過度に揮発性であるために凝縮したアクリル酸系モノマーと共にカラム中の構造表面で凝縮しないかのいずれかである。
【0009】
過度に揮発性の先行技術の重合抑制剤は、アクリル酸系モノマーの蒸留に好適な蒸気圧及び温度において容易に蒸発するが、カラム中の構造表面で凝縮アクリル酸系モノマーと共に凝縮しないか、又は凝縮するとしてもその凝縮量はアクリル酸系モノマー凝縮液の重合を効果的に抑制するのに必要な量より少ない。過度に揮発性の重合抑制剤の例は、酸素ガス及び一酸化窒素ガスなどの気体である。このような気体は、蒸気相重合の抑制に使用されているが、このような減圧蒸留カラム中では凝縮しない。
【0010】
揮発性の不十分な先行技術の重合抑制剤には、2つの型がある。このような揮発性の不十分な重合抑制剤の1つの型には、アクリル酸系モノマーの蒸留に好適な蒸気圧及び温度において、添加された蒸留釜中のモノマーバッチに実質的に捕捉される(captive)化合物が含まれる。揮発性の不十分な重合抑制剤のもう1つの型には、蒸発前にその場で反応して捕捉性(captive)誘導体である重合抑制剤化合物を形成する化合物が含まれる。不十分に揮発性の重合抑制剤の前者の型の例は、4−ニトロソフェノール、2−メチル−4−ニトロソフェノール、N−ニトロソジフェニルアミン及びその塩、N−ニトロソフェニルヒドロキシアミン及びその塩並びにフェニルニトロキシドである。不十分に揮発性の重合抑制剤の後者の型の例は、蒸発前に、このような蒸留中にその場で(in situ)反応してフェニルニトロキシドを形成する抑制剤、ニトロソベンゼンただ1つである。揮発性の不十分な重合抑制剤又はフェニルニトロキシドなどの揮発性の不十分な重合抑制剤の誘導体の相当量はこのような減圧蒸留操作中に蒸留釜中に残り、蒸発及び凝縮したアクリル酸系モノマーの、カラム中の構造表面での重合を本質的に抑制しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US4,210,493
【特許文献2】US5,272,231
【特許文献3】US5,504,243
【特許文献4】US5,888,356
【特許文献5】US7,241,915B2
【特許文献6】US7,319,167B2
【特許文献7】US7,319,168B2
【特許文献8】US7,388,109B2
【特許文献9】WO2009/032427
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
化学業界では、捕捉性(captive)重合抑制剤及び逃散性(fugitive)重合抑制剤を含む優れた重合抑制剤組成物であって、前記捕捉性重合抑制剤及び前記逃散性重合抑制剤が、それぞれ独立に、容器(例えば蒸留釜)及び管中における蒸留可能なモノマー(例えばアクリル酸系モノマー及び他のオレフィン系モノマー)の重合を抑制でき、前記逃散性重合抑制剤が好ましくは容器及び管のヘッドスペース中に及び蒸留カラム中に更に蒸発でき、重量抑制量で蒸留可能なモノマーと共に凝縮でき、且つ容器又は管中に残った蒸発していないアクリル酸系モノマーから遠位の(distal)構造を含む、ヘッドスペース(例えば蒸留カラム)中の構造表面における蒸発及び凝縮した蒸留可能なモノマーの重合を抑制できる重合抑制剤組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様において、本発明は、捕捉性重合抑制剤及び逃散性重合抑制剤を含んでなるモノマー重合抑制剤組成物(「組成物」)であって、前記捕捉性重合抑制剤及び前記逃散性重合抑制剤が異なり、互いに相互転化できず;逃散性重合抑制剤及び捕捉性重合抑制剤が、それぞれ独立に、同一の蒸留可能なモノマーの重合抑制剤として特徴づけることができ;そして前記逃散性重合抑制剤が、第1の位置から蒸留可能なモノマーと共に蒸発でき且つ蒸留可能なモノマーの蒸留中に第1の位置とは異なる第2の位置で蒸留可能なモノマーと共に蒸発できる組成物を提供する。
【0014】
第1の態様の一部の態様において、逃散性重合抑制剤及び捕捉性重合抑制剤は、オレフィン系モノマー又は遊離基重合可能なモノマーである蒸留可能なモノマーの抑制剤として特徴付けることができる。オレフィン系モノマーの一例は、式(M):
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、R11は水素又は(C1〜C18)アルキルであり、R12〜R14はそれぞれ独立に水素又は(C1〜C8)アルキルである)
のアクリル酸系モノマーである。
【0017】
第2の態様において、本発明は蒸留中における蒸留可能なモノマーの重合抑制方法であって、前記方法が、
(a)第1の重合抑制量の逃散性重合抑制剤及び抑制量の捕捉性重合抑制剤を含む第1の態様の本発明の組成物と分量の蒸留可能なモノマーとを第1の位置(例えば蒸留容器)で互いに接触させて、それらの第1の混合物を得;
(b)第1の位置から、蒸留可能なモノマーの少なくとも一部及び逃散性重合抑制剤の少なくとも一部を蒸発させて、蒸発した蒸留可能なモノマー及び蒸発した逃散性重合抑制剤をそれぞれ与え;そして
(c)第1の位置とは異なるが第1の位置と流体連通している第2の位置で、蒸発した蒸留可能なモノマーの少なくとも一部及び蒸発した逃散性重合抑制剤の少なくとも一部を凝縮させて、それらの凝縮液混合物を得る
工程を含んでなり;凝縮液混合物が分量の蒸留可能なポリマーの一部と第2の重合抑制量の逃散性重合抑制剤との混合物を含み;第2の位置における蒸留可能なモノマーの重合が、第2の重合抑制量の逃散性重合抑制剤によって抑制され;蒸留工程(b)及び(c)の条件中及び条件下で、逃散性重合抑制剤が、蒸留可能なモノマーの蒸気圧又は相対的揮発度蒸留性能(relative volatility distillation performance)と一致する蒸気圧又は相対的揮発度蒸留性能を有する方法を提供する。前記液体混合物と前記凝縮液混合物とは異なる。
【0018】
第2の態様の一部の態様において、蒸留可能なモノマーはオレフィン系モノマー又は遊離基重合可能なモノマーであり、捕捉性及び逃散性重合抑制剤は、いずれも、その重合の抑制剤である。一部の態様において、オレフィン系モノマーは、式(M):
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、R11は水素又は(C1〜C18)アルキルであり、R12〜R14はそれぞれ独立して水素又は(C1〜C8)アルキルである)
のアクリル酸系モノマーである。この態様において、凝縮液混合物は、蒸発及び凝縮した式(M)のアクリル酸系モノマーと第2の重合抑制量の蒸発及び凝縮した逃散性重合抑制剤とを含む。
【0021】
第1の態様の本発明の組成物は、第2の態様の方法において機能できるものである。好ましくは、本発明の組成物は、蒸留容器(例えば蒸留釜)からの蒸留可能なモノマーの蒸留に使用した場合に捕捉性重合抑制剤が蒸留容器中に残り(即ち、留去されず)且つ少なくとも蒸留抑制量に相当する逃散性重合抑制剤の部分が蒸留可能なモノマーと共に蒸留されるような方法で機能できる。例えば、第2の態様を参照されたい。
【0022】
第1の態様の組成物は、蒸留可能なモノマー(例えばアクリル酸系モノマー)の製造、精製、取扱及び貯蔵において、例えば容器及び管中における蒸留可能なモノマーの重合の抑制剤として有用である。第1の態様の少なくとも好ましい組成物(即ち、後述するような、相容性で、性能が合致する組成物)は更に、逃散性重合抑制剤によって、例えば容器及び管のヘッドスペース中の及びカラム中の構造(遠位の構造を含む)表面における、蒸発及び凝縮した蒸留可能なモノマーの遠位部位重合(distal-sited polymerization)の抑制剤としても有用である。捕捉性重合抑制剤は、好ましくは、もしあれば、逃散性重合抑制剤の、他の捕捉性重合抑制剤へのその場での(in situ)転化(例えば蒸留釜中での転化)も抑制する。第2の態様の方法は、捕捉性重合抑制剤が蒸留可能なモノマー(例えばアクリル酸系モノマー)の重合をその場で抑制する工程、及び逃散性重合抑制剤の少なくとも一部が蒸発し、その後に遠位構造において、蒸発した蒸留可能なモノマーと共に凝縮する工程を提供し、蒸発及び凝縮した逃散性重合抑制剤は遠位構造において、蒸発及び凝縮した蒸留可能なモノマーの重合を抑制する(全て、第2の態様に関して記載した通り)。このような工程は、捕捉性重合抑制剤のみ又は逃散性重合抑制剤(蒸発前にその場で反応して捕捉性誘導体である重合抑制剤化合物を形成する逃散性重合抑制剤を含む)のみを用いる、本発明でない方法では、可能でない。
【0023】
更なる態様は添付図面及び明細書の残りの部分で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明の一部の態様は、添付図面に関連して本明細書中に記載する。添付図面は、少なくともそれらの態様の種々の構成を示すのに役立つであろう。
【図1】ニトロソベンゼン、アクリル酸及びアクリル酸ノルマル−ブチル(アクリル酸n−ブチル)に関する、高温対液体蒸気圧データのグラフプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
参照によって内容を組み入れることを許可する米国などの特許実務上、この発明の詳細な説明中で参照する各米国特許、米国特許出願、米国特許出願公開公報、PCT国際特許出願及びそれに対応するWO公報の全内容(特に明記しない限り)を、参照によって組み入れる。本明細書の記載と、参照によって組み入れられる特許、特許出願若しくは特許出願公開公報又はそれらの一部分の記載とが矛盾する場合には、本明細書の記載が優先する。
【0026】
本明細書中において、表題(例えば「定義」)は、便宜上使用するのであって、本発明の開示範囲の限定の意味はなく、いずれにしても、本発明の開示範囲の限定に使用すべきでない。
【0027】
本明細書において、数値範囲の任意の下限又は数値範囲の任意の好ましい下限は、数値範囲の任意の上限又は数値範囲の任意の好ましい上限と組合せて、範囲の好ましい面又は態様を規定できる。各数値範囲は、その範囲内に含まれる全ての数値、有理数及び無理数の両方を含む(例えば約1〜約5の範囲は、例えば1、1.5、2、2.75、3、3.80、4及び5を含む)。
【0028】
化合物名とその構造との間に矛盾がある場合には構造が優先する。
【0029】
括弧を用いずに記載された単位付きの数値、例えば2インチと、括弧を用いて記載された対応する単位付き数値、例えば(5センチメートル)とが矛盾する場合には、括弧を用いずに記載された単位付きの数値が優先する。
【0030】
定義
本明細書中で使用する、「1つ(種)の(a,an)」、「その(the)」、「少なくとも1つ(種)の(at least one)」及び「1つ(種)又はそれ以上の(one or more)」は、同義で用いる。本明細書中に記載した本発明の任意の態様において、オープンエンドの用語「〜を含んでなる(comprising, comprises)」など(「〜を含む(including)」、「〜を有する(having)」及び「〜を特徴とする(characterized by)」と同義である)は、それぞれの部分的に閉じた表現「〜から本質的になる(consisting essentially of, consists essentially of)」など又はそれぞれの閉じた表現「〜からなる(consisting of, consists of)」などによって置き換えることができる。本明細書において、先行する要素(例えば成分)のリストに言及する場合、「それらの混合物」、「それらの組合せ」などの表現は、列挙される要素の全てを含む任意の2つ(種)又はそれ以上を意味する。構成員の列挙に使用する用語「又は(若しくは)」は、特に明記しない限り、列挙された構成員を個別に又は任意の組合せで意味する。
【0031】
用語「(C1〜C18)アルキル」は、非置換の、炭素数1〜18の飽和直鎖又は分岐鎖炭化水素基を意味する。(C1〜C18)アルキルの例は、(C9〜C18)アルキル[例えば、CH3(CH217−などの(C18)アルキル]並びに(C1〜C3)アルキル[メチル、エチル、1−プロピル及び2−プロピルを含む]及び(C4〜C8)アルキル[1−ブチル(ノルマル−ブチル又はn−ブチルとも称する)、2−ブチル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、1−ペンチル、1−ヘキシル、1−ヘプチル及び1−オクチルを含む]を含む(C1〜C8)アルキルである。用語「(C1〜C3)アルキル−O−」は、酸素原子ラジカルに結合した(C1〜C3)アルキルを意味する。
【0032】
用語「捕捉性重合抑制剤」は、第2の態様の方法によって生成される凝縮液混合物中の、式(M)のアクリル酸系モノマーと共に第2の重合抑制量で蒸発及び凝縮しない物質を意味する。
【0033】
用語「クロロ」及び「フルオロ」は、それぞれ、塩素原子又はフッ素原子のラジカルを意味する。
【0034】
用語「凝縮液」は気相又は蒸気相の物質から形成される液相を意味する。
【0035】
用語「蒸留可能なモノマー」は、第1の位置から蒸発し且つ第2の位置で凝縮する(即ち液体形態に戻る)ことができる、好ましくは第1の位置における化合物の初期量の少なくとも50重量%が回収された凝縮液混合物を第2の位置で生成できる、より好ましくは第1の位置の化合物純度よりも高い化合物純度の凝縮液混合物を第2の位置で生成できる化合物を意味する。蒸留可能なモノマーの例はオレフィン系モノマー及び遊離基重合可能なモノマーである。用語「オレフィン系モノマー」は炭素−炭素二重結合又は炭素−炭素三重結合を有し且つ第2の態様の方法で蒸留可能な化合物を意味する。好ましくは重合可能なモノマーは1気圧(101キロパスカル)又はそれ以下の絶対圧において250℃又はそれ以下の沸点を有する。オレフィン系モノマーの一例はビニルモノマーである。ビニルモノマーのビニル官能基は置換されている[例えば(C1〜C3)アルキル−C(H)=C(H)−部分を有する]か、非置換である[即ち、H2C=C(H)−部分を有する]。
【0036】
用語「蒸発した(された)(evaporated)」は液相から気相に転化されたことを意味する。蒸発の例としては、周囲温度(例えば25℃)及び周囲圧力(例えば101キロパスカル(kPa))における転化、並びに周囲温度より高い、周囲圧力より高い又はその両者より高い条件での転化が挙げられる。
【0037】
用語「逃散性重合抑制剤」は、第2の態様の方法によって生成される凝縮液混合物中の蒸留可能なモノマー(例えば式(M)のアクリル酸系モノマー)と共に第2の重合抑制量で蒸発及び凝縮できる物質を意味する。本発明の方法において、第2の重合抑制量の逃散性重合抑制剤は、その第1の重合抑制量に由来する。
【0038】
用語「抑制する」は、抑制しようとする事柄の開始を遅延させる、抑制しようとする事柄の程度を低下させる、又は好ましくは抑制しようとする事柄を防止することを意味する。
【0039】
「式(M)の少なくとも1種のアクリル酸系モノマーの重合の抑制剤」という表現は、少なくとも30時間の平均時間値の間、固体ポリ(式(M)のアクリル酸系モノマー)の目視可能な出現を防止する、化合物又は化合物と抑制剤改質剤(inhibitor modifier)との組合せを意味する。用語「抑制剤改質剤」は、前記化合物をその化合物の誘導体から生成又は再生する物質(例えばマンガン塩)を意味する。時間は、以下の手法を用いて測定する:式(M)のアクリル酸系モノマーと、液体混合物の総重量に基づき、100ppmの前記化合物又は100ppmの前記化合物及び20ppmの抑制剤改質剤との液体混合物を含むガラスバイアルをシールする。バイアルを、サーモスタットで113℃に制御されている鉱油浴中に入れる。バイアル中の任意の位置で(即ち、液体混合物中で又は液体混合物より上方のバイアル壁で)、固体ポリ(式(M)のアクリル酸系モノマー)の目視可能な出現が起こるまでの時間を記録する。これらを4回繰り返す。5回の平均により、平均時間値を得る。
【0040】
用語「ニトロソ」は、式
【0041】
【化5】

【0042】
(式中、
【0043】
【化6】

【0044】
は共有結合の一部分を意味する)
の構造フラグメントを有する化合物を意味する。用語「ニトロキシド」は、式
【0045】
【化7】

【0046】
(式中、
【0047】
【化8】

【0048】
はそれぞれ、共有結合の一部分を意味する)
の構造フラグメントを有する化合物を意味する。フェニルニトロキシドでは、例えばC65−(フェニル)及び水素が窒素に結合して、
【0049】
【化9】

【0050】
を生成する。
【0051】
「互いに相互転化できない」という表現は、第2の態様の方法に従って蒸留可能なモノマーの重合を抑制する過程において、1つの物質がその場で別の物質に転化されず、逆もまた同様であることを意味する。したがって、例えば第1の態様の組成物は、逃散性重合抑制剤としてのニトロソベンゼンと捕捉性重合抑制剤としての2−クロロフェニルニトロキシドとの混合物を企図するが、ニトロソベンゼンとフェニルニトロキシドとの混合物は企図としない。好ましくは、捕捉性重合抑制剤はニトロキシド化合物ではない。
【0052】
用語「重合抑制量」は、重合の開始を遅延させる、重合度を低下させる、又は好ましくは、重合を防止するのに十分な物質の絶対重量(例えばグラムで表される)又は相対重量(例えば百万分率(ppm)又は重量%(wt%)で表される)を意味する。用語「〜に充分な」は、「〜に効果的な」(例えば重合の開始の遅延、重合度の低下又は好ましくは重合の防止に効果的な)を意味する。例えば1ppmは1mg/1000g(若しくは1g/1000kgなど)又は0.0001重量%と等しい。
【0053】
「重合が抑制される」などの表現は、重合性モノマーが重合条件(重合性モノマーの2つ又はそれ以上の分子間に結合をもたらして、その有機オリゴマー又はポリマーを生成させるその化学的プロセス)に暴露され且つ重合性モノマーが捕捉性重合抑制剤、逃散性重合抑制剤又は両者と接触する場合に、このような抑制剤が存在しないその化学的プロセスの速度と比較してその化学的プロセスの速度が低下されることを意味する。
【0054】
逃散性重合抑制剤
逃散性重合抑制剤は、逃散性重合抑制剤及び蒸留可能なモノマーの凝縮が起こり得る第2の位置、例えば蒸留容器、貯蔵容器又は導管とそれぞれ流体連通している、蒸留カラム、ヘッドスペース又は気体トラップ位置において、蒸留可能なモノマーの重合を抑制するのに特に有用である。好ましくは、第2の位置は第1の位置から遠位である、即ち、第1の位置と直接液体連する範囲にない(例えば第1の位置と液はねによる接触がなく、好ましくは第1の位置から最も遠い部位を含む)。
【0055】
どの逃散性重合抑制剤を使用するかは重要ではない。逃散性重合抑制剤は蒸留可能なモノマー(例えば式(M)のアクリル酸系モノマー)の誘導体を対象としない。逃散性重合抑制剤は、好ましくは式(M)のアクリル酸系モノマーの抑制剤、より好ましくは式(I):
【0056】
【化10】

【0057】
(式中、mは1〜3の整数であり、各RAは独立して水素、(C1〜C3)アルキル、(C1〜C3)アルキル−O−、フルオロ又はクロロである)
のニトロソ化合物である。好ましいのは、mが2又は3であり且つ各RAが独立して(C1〜C3)アルキル、(C1〜C3)アルキル−O−、フルオロ又はクロロである式(I)のニトロソ化合物である。より好ましいのは、mが1であり且つRAが(C1〜C3)アルキル、(C1〜C3)アルキル−O−、フルオロ又はクロロである式(I)のニトロソ化合物である。更に好ましいのは、mが1であり且つRAが水素である式(I)のニトロソ化合物である。本発明は、更に前記の逃散性重合抑制剤の任意の2種又はそれ以上の組合せの使用を企図する。
【0058】
式(I)のニトロソ化合物の重合抑制量は、例えば抑制しようとする個々のアクリル酸系モノマー及びその量、温度及び圧力などの条件、他の重合抑制剤の有無並びに式(I)のニトロソ化合物の蒸気圧によって、異なると考えられる。本発明の方法は、必要と考えられるよりも多い重合抑制量から開始することができる。その後、その条件下で望ましい定常量の重合抑制剤が得られる(例えばカラム清浄の望ましい時間間隔を達成することによって立証される)まで、重合抑制量を減少させることができる(例えば重合抑制剤の反応につれて)。当業者ならば、必要以上の実験を行うことなく、個々の状況下で適切な重合抑制量を決定できるであろう。式(I)のニトロソ化合物の第1の重合抑制量は、液体混合物の総重量に基づき、好ましくは25ppm超〜約2000ppmであり、より好ましくは50ppm超、更に好ましくは75ppm超、更に好ましくは100ppm超であり且つより好ましくは約1000ppm又はそれ以下、更に好ましくは約500ppm又はそれ以下、更に好ましくは約200ppm又はそれ以下である。蒸発及び凝縮した式(I)のニトロソ化合物の第2の重合抑制量は、凝縮液混合物の総重量に基づき、好ましくは約25〜2000ppm未満であり、より好ましくは少なくとも約50ppm、更に好ましくは少なくとも約75ppm、更に好ましくは少なくとも約100ppmであり且つより好ましくは1000ppm未満、更に好ましくは500ppm未満、更に好ましくは200ppm未満である。
【0059】
ニトロソベンゼンの合成は知られており、式(I)の化合物の合成に容易に適合させることができる。ニトロベンゼンを還元してニトロソベンゼンを生成させる合成もあるし、フェニルヒドロキシルアミンを酸化する合成もある。例えば、(a)Organic Synthesis、Collective Volume 3、1955年、668頁;(b)同文献、Volume 23、1945年、80頁;及びFavre TLFら、Catalyst Letters 1、1988年、457〜460頁を参照のこと。
【0060】
式(I)のニトロソ化合物の合成は、本発明には重要ではなく、全ての適切な合成を企図する。一部の態様において、式(I)のニトロソ化合物は、下記スキーム1に示されるように、対応する式(IA)のニトロ化合物を還元することによって合成する。
【0061】
スキーム1
【化11】

【0062】
(式中、m及びRAは第1の態様に関して記載した通りである)。
スキーム1においては、式(IA)のニトロベンゼン化合物を、選択的還元温度、好ましくは約0〜約100℃において、好適な溶媒(例えば水)中で、選択的2−電子還元化合物(例えば促進剤が添加されていないMn34又は亜鉛(Zn)と塩化アンモニウム(NH4Cl)との混合物など)と接触させて、式(I)のニトロソ化合物を得る。スキーム1に概略を示した手法は、各RAが独立して水素、(C1〜C3)アルキル又は(C1〜C3)アルキル−O−である場合に好ましい。
【0063】
一部の態様において、式(I)のニトロソ化合物は、下記スキーム2に示されるようにして、対応する式(IB)のヒドロキシルアミノ化合物を酸化することによって合成する。
【0064】
スキーム2
【化12】

【0065】
(式中、m及びRAは第1の態様に関して記載した通りである)。
スキーム2においては、式(IB)のヒドロキシルアミン化合物を、選択的還元温度、好ましくは約0〜約100℃において、好適な溶媒(例えば水)中で、選択的2−電子酸化化合物(例えば二クロム酸ナトリウム二水和物(Na2Cr27・2H2O))などと接触させて、式(I)のニトロソ化合物を得る。スキーム2に概略を示した手法は、各RAが独立して水素、(C1〜C3)アルキル−O−、フルオロ又はクロロである場合に好ましい。
【0066】
捕捉性重合抑制剤
捕捉性重合抑制剤(及び逃散性重合抑制剤も)は蒸留容器(蒸留釜)、貯蔵容器又は導管(管)中などの第1の位置における蒸留可能なモノマーの重合を抑制するのに特に有用である。
【0067】
どの捕捉性重合抑制剤を使用するかは重要ではない。捕捉性重合抑制剤は蒸留可能なモノマー(例えば式(M)のアクリル酸系モノマー)の誘導体を対象としない。一部の態様において、捕捉性重合抑制剤は式(M)のアクリル酸系モノマーの抑制剤、より好ましくはマンガン塩[Mn(HCO2-2、Mn((C1〜C8)アルキルCO2-2又は過マンガン酸カリウム]である。一部の態様においては、マンガン塩は、第2の態様の方法に抑制剤改質剤として捕捉性重合抑制剤と組合せて使用する。好ましい式(II)の化合物の重合抑制量は、液体混合物の総重量に基づき、約5〜約500ppm、より好ましくは約10〜約250ppm、更に好ましくは約20〜約200ppm、さらに好ましくは約40〜約100ppmである。
【0068】
一部の態様において、マンガン塩はMn(HCO2-2である。一部の態様において、マンガン塩はMn((C1〜C8)アルキルCO2-2、より好ましくは酢酸マンガン(II)[酢酸マンガン(Mn(O2CCH32)及び酢酸マンガン(II)四水和物(Mn(O2CCH32・4H2Oを含む)である。一部の態様において、マンガン塩は過マンガン酸カリウムである。
【0069】
一部の態様において、捕捉性重合抑制剤はヒドロキノンである。
【0070】
一部の態様において、捕捉性重合抑制剤はフェノチアジンである。用語「フェノチアジン」は、下記式:
【0071】
【化13】

【0072】
の化合物を意味する。
【0073】
マンガン塩、ヒドロキノン又はフェノチアジンの重合抑制量は、抑制しようとする個々のアクリル酸系モノマー及びその量、温度及び圧力などの条件、他の重合抑制剤の有無、並びに存在する場合には、抑制剤改質剤の量によって、異なると考えられる。当業者ならば、必要以上の実験を行うことなく、個々の状況下で適切な重合抑制量を決定できるであろう。マンガン塩、ヒドロキノン又はフェノチアジンの好ましい重合抑制量は、独立して、液体混合物の総重量に基づき、約5〜約500ppm、より好ましくは約10〜約250ppm、更に好ましくは約20〜約200ppm、更に好ましくは約40〜約100ppmである。
【0074】
一部の態様において、捕捉性重合抑制剤は、式(II):
【0075】
【化14】

【0076】
(式中、XはS、O又はN−R3であり;R1は水素又は(C1〜C3)アルキルであり;R2はフェニルであり;R3は(C1〜C3)アルキルである)
の化合物又はその第2の酸付加塩である。一部の態様において、式(II)の化合物は、XがSであるものである。一部の態様において、XはOである。一部の態様において、XはN−R3である。好ましくはR3はメチルである。
【0077】
一部の態様において、式(II)の化合物はR1が水素であるものである。一部の態様において、R1は(C1〜C3)アルキルであり、より好ましくはR1はメチルである。
【0078】
一部の態様において、捕捉性重合抑制剤はヒドロキノンとフェノチアジン又は式(II)の化合物との組合せを含む。
【0079】
式(II)の重合抑制量は、抑制しようとする個々のアクリル酸系モノマー及びその量、温度及び圧力などの条件、他の重合抑制剤の有無並びに存在する場合には、抑制剤改質剤の量によって、異なると考えられる。当業者ならば、必要以上の実験を行うことなく、個々の状況下で適切な重合抑制量を決定できるであろう。好ましい式(II)の化合物の重合抑制量は、液体混合物の総重量に基づき、約5〜約500ppm、より好ましくは約10〜約250ppm、更に好ましくは約20〜約200ppm、更に好ましくは約40〜約100ppmである。
【0080】
式(II)の化合物の合成は本発明には重要ではなく、全ての適切な合成を企図する。一部の態様において、式(II)の化合物は、下記スキーム3に示されるように対応する式(IIA)の中間アミノ化合物をアルキル化することによって合成する。
【0081】
スキーム3
【化15】

【0082】
[式中、X、R1及びR2は第1の態様に関して記載した通りであり、LGは脱離基である]。
スキーム3においては、式(IIA)のアミノ化合物と脱離基を有する式(IIB)の化合物とを、非求核性強塩基及び非プロトン性溶媒の存在下に求核置換温度、好ましくは約0〜約100℃において接触させて、式(II)の化合物を得る。非プロトン性溶媒の例はテトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン及びジオキサンである。非求核性塩基の例は水素化ナトリウム、水素化カリウム、ヘキサメチルジシラザンカリウム(KHMDS)及びリチウムジイソプロピルアミド(LDA)である。脱離基の例はヨード、ブロモ、クロロ、活性化ヒドロキシル、トリフルオロメタンスルホネート、トリフルオロアセテート及びトシレートである。一部の態様において、前記活性化ヒドロキシルは、式(IIB)[式中、LGはHO−である]の化合物と、例えばトリフェニルホスフィン[ジイソプロピルアゾジカルボキシレート(DIAD)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミドヒドロクロリド(EDC、EDCI及びEDAC)、N,N’−カルボニルジイミダゾール(CDI)又はN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)と共に且つ場合によっては1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)と共に用いる]及び(ベンゾトリアゾル−1−イルオキシ)トリピロリジノ−ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)などのカップリング剤とから製造する。
【0083】
式(II)の化合物の他の合成も企図する。例えばR1が水素である場合には、式(II)の化合物は、式(IIA)の化合物を式ハロ−C(=O)−R2の酸ハロゲン化物又は式R2−C(=O)−O−C(=O)−R2の酸無水物とカップリングさせて式(IIC):
【0084】
【化16】

【0085】
の最後から2番目のカルボキサミドを得ることによって合成できる。次に、式(IIC)のカルボキサミドを還元させて(例えばテトラヒドロフラン中水素化アルミニウムリチウムで)式(II)の化合物を得ることができる。
【0086】
本発明は式(II)の化合物の酸付加塩の使用を更に企図する。用語「酸付加塩」は、有機陽イオンと有機又は好ましくは無機の陰イオンとを含むイオン性物質を意味する。有機陽イオンは、プロトン化型のフェノチアジン又は式(II)の化合物を含む。陰イオンは、7未満のpKaを特徴とする少なくとも1つのプロトンを有する有機又は好ましくは無機化合物の残基(即ちブレンステッド酸の残基)を含む。好ましい酸付加塩は、フェノチアジン又は式(II)の化合物のモル当たり、0.9〜1.1モル当量の一塩基ブレンステッド酸、0.45〜0.55モル当量の二塩基ブレンステッド酸又は0.3〜0.37モル当量の三塩基ブレンステッド酸を含む。好ましいブレンステッド酸としては、塩化水素酸(塩酸)、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン含有酸(phosphorus acid)、蟻酸及び酢酸が挙げられる。
【0087】
一部の態様において、捕捉性重合抑制剤は、N−オキシル化合物とマンガン塩[Mn(HCO2-2、Mn((C1〜C8)アルキルCO2-2又は過マンガン酸カリウム]との第1の混合物を含む。用語「N−オキシル化合物」は、構造フラグメント
【0088】
【化17】

【0089】
[式中、・はラジカル(電子)を表し、
【0090】
【化18】

【0091】
は、それぞれ、第4級炭素原子への共有結合の一部を表す]
を有する化学物質を意味する。好ましくはN−オキシル化合物は2,2,5,5−テトラメチル−3−オキソピロリジン−1−オキシル;2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル;トリス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル−2−イル)−ホスファイト、より好ましくは4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルである。用語「4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル」と「4−ヒドロキシ−TEMPO」とは同義であり、いずれも下記式:
【0092】
【化19】

【0093】
[式中、・はラジカル(電子)を表す]
の化合物を意味する。
【0094】
本発明は前記捕捉性重合抑制剤の任意の2種又はそれ以上の組合せの使用を更に企図する。
【0095】
4−ヒドロキシ−TEMPOの重合抑制量は、例えば抑制しようとする個々のアクリル酸系モノマー及びその量、温度及び圧力などの条件、他の重合抑制剤の有無並びに存在するマンガン塩の量によって、異なると考えられる。当業者ならば、必要以上の実験を行うことなく、個々の状況下で適切な重合抑制量を決定できるであろう。4−ヒドロキシ−TEMPOなどのN−オキシル化合物の重合抑制量は独立して、液体混合物の総重量に基づき、好ましくは約5〜約500ppm、より好ましくは約10〜約250ppm、更に好ましくは約20〜約200ppm、更に好ましくは約40〜約100ppmである。
【0096】
アクリル酸系モノマーの好ましい重合抑制剤組成物は、式(I)の好ましいニトロソ化合物の任意の1種を、本明細書中に記載した好ましい捕捉性重合抑制剤の任意の1種と組合せたものである。
【0097】
抑制剤改質剤
抑制剤改質剤の例は、分子状酸素(例えば捕捉性重合抑制剤がフェノチアジン又は式(II)の化合物である場合)及びマンガン塩(例えば捕捉性重合抑制剤がN−オキシル化合物(例えば、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)又は式(II)の化合物である場合)である。
【0098】
式(M)のアクリル酸系モノマー
好ましいのは、R11〜R14のうち1つが(C1〜C8)アルキルであり且つR11〜R14の残りが水素である式(M)のアクリル酸系モノマーである。一部の態様においては、R11が(C1〜C18)アルキルである。一部の態様においては、R11が(C9〜C18)アルキルである。一部の態様においては、R11が(C1〜C8)アルキルである。一部の態様においては、R11が(C1〜C8)アルキルであり、R12〜R14がいずれも水素である。一部の態様においては、R12が(C1〜C8)アルキルであり、R11、R13及びR14がいずれも水素である。一部の態様においては、R13が(C1〜C8)アルキルであり、R11、R12及びR14がいずれも水素である。一部の態様においては、R14が(C1〜C8)アルキルであり、R11〜R13がいずれも水素である。一部の態様においては、R11〜R14がいずれも水素である、即ち式(M)のアクリル酸系モノマーがアクリル酸自体である。
【0099】
11〜R14のうち2つが(C1〜C8)アルキルであり且つR11〜R14の残りが水素である式(M)のアクリル酸系モノマーも好ましい。より好ましくは、R11が、(C1〜C8)アルキルである前記のR11〜R14のうちの2つの一方である。
【0100】
11〜R14のうち3つが(C1〜C8)アルキルであり且つR11〜R14の残りが水素である式(M)のアクリル酸系モノマーも好ましい。
【0101】
式(M)のアクリル酸系モノマーにおいて、各(C1〜C8)アルキルは、好ましくは(C1〜C3)アルキル、より好ましくはメチルである。
【0102】
本発明において有用な式(I)、(II)及び(M)の化合物、4−ヒドロキシ−TEMPO、マンガン塩、酸付加塩、抑制剤改質剤などは、それらの水和物を含むそれらの溶媒和物を含む。
【0103】
好ましくは、第1の態様の組成物中の蒸留可能なモノマー(例えば式(M)のアクリル酸系モノマー)と逃散性重合抑制剤とが互いに蒸留相容性であり、蒸留性能が互いに一致することによって、第2の態様の方法におけるより良好なそれらの同時蒸発及び同時凝縮のための手段を確立する。よって、このような性能の合致がもたらす前者による後者の重合の抑制は、蒸留中に、例えば遠位構造において、ランダムな一致を示す蒸留可能なモノマーと逃散性重合抑制剤とによってもたらされる抑制より良好である。より好ましくは、性能の合致は、蒸留可能なモノマー(例えば式(M)のアクリル酸系モノマー)及び逃散性重合抑制剤が(i)実質的に純粋な形態のそれぞれの第1及び第2の液体蒸気圧又は(ii)蒸留可能なモノマー、逃散性重合抑制剤及び捕捉性重合抑制剤から本質的になる試験混合物の相対揮発度を特徴とする第1の態様の組成物の一部の態様を含む。前記の第1及び第2の液体蒸気圧は同じ高温において独立に測定され、前記高温は50℃又はそれ以上であり、前記の第1の液体蒸気圧と前記の第2の液体蒸気圧とは独立して少なくとも5キロパスカル(一部の態様では少なくとも10キロパスカル、一部の態様では少なくとも10キロパスカルであって200キロパスカル未満)であり、互いの差は40キロパスカル以内であり、試験混合物の相対揮発度は0.5〜10である。前記第1と第2の液体蒸気圧は高い液体混合物温度において、互いの差が約30キロパスカル以内であり、より好ましくは約20キロパスカル以内であり、そして更に好ましくは約10キロパスカル以内である。好ましくは、相対揮発度は5又はそれ以下、より好ましくは2又はそれ以下である。
【0104】
用語「相対揮発度」は、分配係数の比(αi,m)を意味する。この比は、[逃散性重合抑制剤の蒸気相モル分率(yi)÷液相モル分率(xi)]÷[蒸留可能なモノマー(例えば、式(M)のアクリル酸系モノマー)の蒸気相モル分率(ym)÷液相モル分率(xm)]に等しい。即ち、相対揮発度=αi,m=(yi/xi)/(ym/xm)である。相対揮発度は、従来の方法、例えばRobinson CS及びGilliland ER、Elements of Fractional Distilation、第4版、1950年(McGraw-Hill Book Company(New York,New York,USA))の第1章〜第4章に記載された方法によって測定する。
【0105】
用語「実質的に純粋な」は、ガスクロマトグラフィーによって測定される純度が95.1重量%(wt%)又はそれ以上、好ましくは97.1重量%又はそれ以上、より好ましくは98.1重量%又はそれ以上、更に好ましくは99.1重量%又はそれ以上であることを意味する。「〜から本質的になる試験混合物(test mixture)」という表現は、相対揮発度を測定するための材料を意味する。この材料は、この表現の直後に列挙される実質的に純粋な形態の成分を互いに充分に接触させることによって形成される。
【0106】
一部の態様において、蒸留可能なモノマー(例えば式(M)のアクリル酸系モノマー)及び逃散性重合抑制剤の特性評価は、その実質的に純粋な形態の第1及び第2の液体蒸気圧を含む。一部の態様において、蒸留可能なモノマー及び逃散性重合抑制剤の特性評価は、試験混合物の相対揮発度を含む。より好ましくは、蒸留可能なモノマー及び逃散性重合抑制剤の特性評価は、第2の態様の方法の間に、蒸発及び凝縮した逃散性重合抑制剤のより多い第2の重合抑制量を示すものである。
【0107】
蒸留可能なモノマー(例えばアクリル酸系モノマー)の重合抑制
第2の態様の方法においては、蒸留可能なモノマーは、重合条件に暴露されるので重合され易い(例えばオリゴマー又はホモポリマーを形成し易い)が本発明の方法における蒸留可能なモノマーの重合は全て逃散性及び捕捉性重合抑制剤によって抑制される。重合条件の例は、重合剤(例えば酸素ガス、水又は遊離基若しくは開始剤)又は条件(例えば紫外線又は高温ゾーンなどの遊離基発生条件)への暴露である。
【0108】
第2の態様の方法の蒸発及び凝縮工程は、凝縮液混合物が第2の位置で形成される前は、何度も繰り返すことができる(蒸留による従来の精製の場合と同様に)。その結果、このような繰り返し毎に、第1の位置と第2の位置との中間の位置で中間凝縮液混合物が形成されるであろう。前述の通り、第2の位置の凝縮液混合物は、重合抑制量(第2の重合抑制量)の逃散性抑制剤を含み、第1の位置と第2の位置との間で形成される中間凝縮液混合物はまた、好ましくはそのほとんどが、より好ましくはそのいずれもがまた独立して、重量抑制量の逃散性抑制剤を含み、このような量の任意の2つは同一であるか又は異なる。
【0109】
捕捉性重合抑制剤は、好ましくは逃散性重合抑制剤の、他の捕捉性重合抑制剤へのその場での転化(蒸留釜での転化)を抑制し、その結果、第2の態様において記載されたように、第2の重合抑制量の蒸発した逃散性重合抑制剤を第2の位置(例えば遠位構造)で凝縮させることができる。
【0110】
第2の態様の好ましい方法は、本明細書中に記載した好ましいアクリル酸系モノマー重合抑制剤の任意の1種と、本明細書中に記載した式(M)の好ましいアクリル酸系モノマーの任意の1種とを使用する。第2の態様の別の好ましい方法は、本明細書中に記載した、好ましいアクリル酸系モノマーの任意の2種又はそれ以上の混合物、例えばアクリル酸とアクリル酸エチル又はアクリル酸n−ブチルとの混合物を使用する。
【0111】
好ましくは、式(M)のアクリル酸系モノマーとその捕捉性及び逃散性重合抑制剤とを用いる第2の態様の方法において、工程(b)は、式(M)のアクリル酸系モノマーの少なくとも一部と逃散性重合抑制剤の少なくとも一部とを、90kPa未満の減圧下で50℃超、より好ましくは90℃超の高い液体混合物温度(例えば蒸留釜温度)において蒸発させる操作を含む。より好ましくは、工程(b)において、式(M)のアクリル酸系モノマーは第1の液体蒸気圧を特徴とし、逃散性重合抑制剤は第2の液体蒸気圧を特徴とし、高い液体混合物温度において第1の液体蒸気圧及び第2の液体蒸気圧は、独立に、少なくとも10キロパスカルであり、互いに約40kPa以内である。高い液体混合物温度において第1の液体蒸気圧と第2の液体蒸気圧との差は、好ましくは約30kPa以内、より好ましくは約20kPa以内、更に好ましくは約10kPa以内である。
【0112】
当業者ならば、過度の実験(undue experimentalism)を行うことなく、個々の状況下で、蒸留可能なモノマーを含む液体混合物の適切な高温を決定できるであろう。例えば、式(I)のニトロソ化合物及び式(M)のアクリル酸系モノマーの蒸気圧を、頒布文献から個別に得るか、漸増測定温度において常法によって測定する。次に、同一測定温度において式(I)のニトロソ化合物の液体蒸気圧と式(M)のアクリル酸系モノマーの液体蒸気圧とを比較して、それらと捕捉性重合抑制剤とを含む液体混合物の適切な高温を特定する。捕捉性重合抑制剤が液体蒸気圧に実質的な影響を及ぼさないことを前提とする。好ましくは、液体蒸気圧対測定温度をグラフにプロットし、このプロットから液体混合物の適切な高温を特定する。例として、種々の測定温度における、実質的に純粋な形態のニトロソベンゼン、アクリル酸及びアクリル酸n−ブチル(即ちH2C=C(H)CO2(CH23CH3)の液体蒸気圧を、それぞれ、下記表Aに示す。
【0113】
【表1】

【0114】
表Aのデータは図1にグラフプロットしてある。図1及び表Aには、式(M)のアクリル酸系モノマー並びにその捕捉性及び逃散性重合抑制剤を用いる第2の態様の方法に特に有用な高温範囲は約70〜約140℃であることが示されている。一部の態様において、約100〜約120℃の高温範囲は、ニトロソベンゼン、アクリル酸又はアクリル酸n−ブチルと捕捉性重合抑制剤とを含むそれぞれの液体混合物に適切な高温範囲である。約100〜約120℃の高温範囲は、特に製造の減圧蒸留操作においてそれぞれの液体混合物により好ましい。このより好ましい高温範囲は、蒸発及び凝縮したモノマーと共に充分な重合抑制量のニトロソベンゼンを依然として蒸発及び凝縮させながら、150℃又は160℃の場合よりも遅い、アクリル酸又はアクリル酸n−ブチルの重合速度を可能にする。約100℃の高温範囲はニトロソベンゼン、酢酸エチル及び捕捉性重合抑制剤を含む液体混合物にも好ましい。
【0115】
パイロットプラント又は製造の設定において、好ましい蒸留カラムはデュアルフロープレート又はトレイを備えるものである。このようなデュアルフロートレイカラムの一例はUS7,306,204B2に記載されている。蒸留カラムは、好ましくは底部ゾーン、中央ゾーン及び上部(upper)ゾーンを含み、底部ゾーン、中央ゾーン及び上部ゾーンと逐次流体連通している。中央ゾーンは場合によっては供給材料入口を規定する。第2の態様の方法において、好ましくは、定常状態運転中は、底部ゾーンの温度は、液体混合物の高温の約5℃以内の範囲であり、頂部(top)ゾーンの減圧は底部ゾーンの減圧の約30kPaの範囲内である。実例として、定常状態運転中の製造規模デュアルフロー40トレイカラムは、底部ゾーンでは約111℃の温度及び約35kPaの減圧、頂部ゾーンでは約46℃の温度及び約21kPaの減圧並びに中央ゾーンでは約56℃の温度を特徴とする。
【0116】
本発明は、第2の態様の回分法(蒸留可能なモノマーの単回添加)及び連続法(蒸留可能なモノマーの連続的添加又は複数回別途添加)を企図する。回分法又は連続法、特に連続法においては、好ましくは追加の重合抑制量の捕捉性重合抑制剤、逃散性重合抑制剤又は両者を蒸留可能なモノマーに1回又は複数回添加する。例えば蒸留容器(例えば蒸留釜)及びカラムを用いる連続法においては、追加の重合抑制量を、蒸留可能なモノマーを含む蒸留容器に1回又は複数回添加して、蒸留容器内の反応に失われた捕捉性重合抑制剤の量、蒸留容器若しくは蒸留カラム内の反応に失われた又は蒸留カラムから(例えば蒸留されたモノマー及び逃散性重合抑制剤を受ける留出物受け器へ)の留去によって失われた逃散性重合抑制剤の量を補うことができる。重合抑制剤の添加は独立して、連続添加又は複数回別途添加を含み、常法(例えば添加用漏斗又は弁付き供給ライン)によって行うことができる。例えば第1の位置への分量の逃散性重合抑制剤の添加は、充分な速度で行い、必要ならば、添加速度を定期的に調整して、第2の位置において所望の第2の重合抑制量の逃散性重合抑制剤を保持することができる。
【0117】
製造及び一般的方法
アクリル酸、ニトロソベンゼン、フェノチアジン、4−ヒドロキシ−TEMPO及び多くのマンガン塩は、Sigma-Aldrich Company(St. Louis,Missouri,USA)を含む種々の供給業者から市販されている。
【0118】
製造1:N−ベンジルフェノチアジン(1)の合成
【化20】

【0119】
室温において窒素ガス雰囲気下で、乾燥テトラヒドロフラン(THF)10ミリリットル(mL)中フェノチアジン2グラム(g;0.001モル(mol))を、乾燥THF20mL中水素化ナトリウム(NaH;0.042mol)1.0gの懸濁液に添加する(予め、NaHの鉱油中80%懸濁液をn−ヘキサンで洗浄することよってNaHを入手しておく)。4時間又は水素が放出され且つ混合物の色がオレンジ色に変化するまで、混合物を撹拌する。次いで、室温でこのオレンジ色の混合物に臭化ベンジル2mL(0.017mol)をゆっくり添加し、得られた混合物を一夜撹拌する。混合物を60℃に1時間加熱する。オレンジ色が薄くなる。濃塩酸でpH1に酸性化されている氷水中に反応混合物を注ぐ。得られた水性混合物を酢酸エチルで抽出し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥させ、真空下で溶媒を除去する。得られた抽出残渣を、中性アルミナ上のカラムクロマトグラフィーによって溶離剤としてn−ヘキサン:酢酸エチル(50:1)の溶媒混合物を用いて精製する。溶媒を蒸発させ、残渣をエタノールから再結晶させて、N−ベンジルフェノチアジン2g(収率60%)を白色結晶として得る。1H NMRスペクトルは、純粋なN−ベンジルフェノチアジンと一致する。1H NMR(CDCl3)(ppm):7.25〜7.40(m,5H);7.11(d,2H,J=7.5Hz);7.00(t,2H,J=8.0Hz);6.88(t,2H,J=7.5Hz);6.67(d,2H,J=8.0Hz);5.12(s,2H)。
【0120】
製造2:N−(1−フェニルエチル)−フェノチアジン(2)の合成
【化21】

【0121】
臭化ベンジルの代わりに(1−ブロモエチル)ベンゼンを用いる以外は前記製造1と同様な手法で、N−(1−フェニルエチル)−フェノチアジンを製造する。生成物は、中性アルミナ上のカラムクロマトグラフィーによって溶離剤としてn−ヘキサン:酢酸エチル(50:1)の溶媒混合物を用いて精製する。溶媒の蒸発により、N−(1−フェニルエチル)−フェノチアジンが収率65%で白色固体として得られた。1H NMRスペクトルは、純粋なN−(1−フェニルエチル)−フェノチアジンと一致する。1H NMR(CDCl3)(ppm):7.30〜7.45(m,5H,Ar−CH−);7.14(d,2H,J=7.5Hz,Ar−PTZ);6.85〜7.05(m、4H,Ar−PTZ);6.74(d,2H,J=7.0Hz,Ar−PTZ);5.42(q,1H,Ar−CH−CH3);1.98(d,3H,J=7.0Hz,CH−CH3)。
【実施例】
【0122】
ジビニルベンゼンの蒸留性能と相容性の蒸留性能を有する逃散性抑制剤を発見する最初の試みは、本出願の出願日の時点では成功していなかった。
【0123】
実施例1〜5:ニトロソベンゼンと捕捉性重合抑制剤との混合物
ニトロソベンゼンと捕捉性重合抑制剤とを、表Iに記載した量(ミリグラム(mg)で表す)で混合して、実施例1〜5の混合物を得る。実施例1〜5の混合物は、アクリル酸(例えばアクリル酸7g)の重合の抑制に特に有用である。
【0124】
【表2】

【0125】
実施例6
ニトロソベンゼン0.7mg、フェノチアジン0.7mg及び空気を混合する。
【0126】
実施例7〜12:蒸発及び凝集したアクリル酸モノマーの重合抑制
一般的手法:電磁撹拌子及び充填カラムを装着したSchlenkフラスコを含むシステムを組み立てる。別個の実験で、Schlenkフラスコに、アクリル酸7g及び実施例1〜6の任意の1つの混合物をそれぞれ装填して、アクリル酸−抑制剤混合物を得る。サーモスタットで113℃に制御されている油浴中にフラスコを入れ、電磁撹拌機を用いて混合物を撹拌する。フラスコ中の圧力を110ミリバール(11kPa)又は85ミリバール(8.5kPa)まで低下させ、システム中のどこかに固体ポリ(アクリル酸)の目視可能な出現が観察されるまでアクリル酸−抑制剤混合物を還流させ、出現までの還流時間を記録する。結果を下記表IIに示す。
【0127】
比較のために、ニトロソベンゼンの代わりに4−ニトロソフェノールを用いることを除いて、実施例13aの手法を繰り返す。結果を同様に表IIに示す。
【0128】
【表3】

【0129】
実施例13及び14:加熱された液体アクリル酸モノマーの重合抑制
一般的手法:アクリル酸及びニトロソベンゼン100ppmと、4−ヒドロキシ−TEMPO 100ppm及び酢酸マンガン10ppm(実施例13a)又はN−(1−フェニルエチル)−フェノチアジン100ppm及び酢酸マンガン10ppm(実施例14b)とを含む液体混合物を含むバイアルをシールする。このバイアルを113℃で加熱する。液体混合物中における又は液体混合物上方のバイアル壁における、固体ポリ(アクリル酸)の目視可能な出現までの時間を記録する。実施例13b〜13e及び実施例14b〜14eとして、それぞれ4回繰り返す。結果を表IIIに示す。
【0130】
【表4】

【0131】
実施例15:アクリル酸モノマーの蒸留
熱サイフォンリボイラーに5トレイ1インチ(2.5cm)Oldershawトレイセクションを装着することによって、Oldershaw蒸留ユニットを組み立てる。5トレイセクションの上部に蒸気側流引取セクションを配置し、蒸気側流引取セクションの上部に10トレイセクションを取り付ける。供給材料予熱器を有する供給セクションを10トレイセクションの上部に取り付ける。カラムの上に、凝縮器及び受け器を有する塔頂引取セクションを配置する。蒸気側流引取セクションに、カラムを凝縮器及び受け器に接続する非断熱ガラス管を取り付ける。このガラス管はコールドスポットとして作用するのに役立ち、ガラス管壁でかなりの凝縮が起こり、凝縮液が形成される。調節可能なニードル弁を用いて、塔頂受け器のヘッドスペースから側流受け器のヘッドスペースまでラインを接続する。調節可能なニードル弁を調節して、蒸気側流セクションにおけるカラムからの蒸気除去速度を制御できる。塔頂受け器及び蒸気側流受け器のいずれにもFMIポンプを装着して、受け器から液体を除去できるようにする。リボイラーに凝縮器及びポンプを装着して、カラムの底から残渣を除去する。カラムへの液体の供給は、供給セクションの予熱器に取り付けられたFNIポンプを用いて行う。塔頂凝縮器及び蒸気側流凝縮器のいずれにも抑制剤溶液(4−ヒドロキシ−TEMPO及び酢酸マンガン四水和物)を0.1mL/分の速度で供給する。凝縮器に入る前にライン中で凝縮が起こらないように、塔頂引取セクションの電気的追跡及び断熱を行う。4−ヒドロキシ−TEMPO 100ppm、ニトロソベンゼン100ppm及び酢酸マンガン四水和物10ppmを含むアクリル酸水溶液をカラムに供給する。カラムを4時間運転し、次いで30分間の物質収支を取る。この実験を4回繰り返す。各運転時間中、非断熱ガラスライン中にも、システム中の他のどこにもポリマーは形成されない。
【0132】
比較のため、ニトロソベンゼンを用いずにこの実験を繰り返す。ニトロソベンゼンを用いない運転では、30分以内に汚染が起こる。
【0133】
前記データによって示されるように、第1の態様の組成物は、蒸留可能なモノマー(特にアクリル酸系モノマー)の製造、精製、取扱及び貯蔵において、例えば容器及び管中における蒸留可能なモノマー(特にアクリル酸系モノマー)の重合の抑制剤として有用である。前記データは更に、第1の態様の少なくとも好ましい組成物が、逃散性重合抑制剤によって、例えば容器及び管のヘッドスペース中の及びカラム(例えば蒸留カラム)中の構造(遠位構造を含む)表面における、蒸発及び凝縮したアクリル酸系モノマーの遠位部位重合の抑制剤としても有用であることを示している。このデータはまた、捕捉性重合抑制剤(例えば4−ヒドロキシ−TEMPOと酢酸マンガン又はN−(1−フェニルエチル)−フェノチアジンと酢酸マンガン)が、逃散性重合抑制剤(例えば、ニトロソベンゼン)の他の捕捉性重合抑制剤(例えばフェニルニトロキシド)へのその場での(in situ)転化も抑制し、第2の位置(例えば遠位構造)において第2の重合抑制量の蒸発した逃散性重合抑制剤(例えばニトロソベンゼン)を蒸発したアクリル酸系モノマー(例えばアクリル酸)と共に凝縮させ、且つ蒸発及び凝縮したアクリル酸系モノマーの第2の位置(例えば遠位構造)における重合を抑制できることを示している。
【0134】
本発明をその好ましい態様又は態様に従って前述したが、本発明の開示の精神及び範囲内において変更が可能である。したがって、本出願は、本明細書中に開示した一般原則を用いた本発明の全ての変形形態、使用形態又は適合形態を網羅するものとする。更に、本発明は、本発明が関連する技術分野において知られている又は慣例的な実施の範囲内に入り且つ添付した「特許請求の範囲」の範囲内である、本発明の開示からの逸脱も網羅するものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
捕捉性重合抑制剤及び逃散性重合抑制剤を含む蒸留可能なモノマーの重合抑制剤組成物であって、
前記捕捉性重合抑制剤及び前記逃散性重合抑制剤が異なり、互いに相互転化できず;
前記逃散性重合抑制剤及び前記捕捉性重合抑制剤が、それぞれ独立に、同一の蒸留可能なモノマーの重合の抑制剤として特徴づけることができ;そして
前記逃散性重合抑制剤が、第1の位置から蒸留可能なモノマーと共に蒸発でき且つ蒸留可能なモノマーの蒸留中に第1の位置とは異なる第2の位置で蒸留可能なモノマーと共に蒸発できる重合抑制剤組成物。
【請求項2】
前記逃散性重合抑制剤及び前記捕捉性重合抑制剤が、それぞれ、式(M):
【化1】

(式中、R11は水素又は(C1〜C18)アルキルであり、R12〜R14は、それぞれ独立に、水素又は(C1〜C8)アルキルである)
のアクリル酸系モノマーである蒸留可能なモノマーの抑制剤として特徴づけることができる請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式(M)の前記アクリル酸系モノマー及び前記逃散性重合抑制剤が(i)実質的に純粋な形態のそれぞれの第1及び第2の液体蒸気圧又は(ii)式(M)のアクリル酸系モノマー、逃散性重合抑制剤及び捕捉性重合抑制剤から本質的になる試験混合物の相対揮発度によって特徴づけられ、前記第1及び第2の液体蒸気圧が同一の高温において、独立して測定され、前記高温が50℃又はそれ以上であり、前記第1の液体蒸気圧及び前記第2の液体蒸気圧が独立に少なくとも5キロパスカルであり、互いの40キロパスカル以内であり、前記試験混合物の相対揮発度が0.5〜10である請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記逃散性重合抑制剤が式(I):
【化2】

(式中、mは1〜3の整数であり、各RAは独立に水素、(C1〜C3)アルキル、(C1〜C3)アルキル−O−、フルオロ又はクロロである)
のニトロソ化合物である請求項2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
前記捕捉性重合抑制剤が(a)Mn(HCO2-2、Mn((C1〜C8)アルキルCO2-2若しくは過マンガン酸カリウムであるマンガン塩;(b)N−オキシル化合物とMn(HCO2-2、Mn((C1〜C8)アルキルCO2-2若しくは過マンガン酸カリウムであるマンガン塩との第1の混合物;(c)ヒドロキノン;(d)分子状酸素とフェノチアジン若しくはその第1の酸付加塩との第2の混合物;(e)式(II):
【化3】

(式中、XはS、O又はN−R3であり;
1は水素又は(C1〜C3)アルキルであり;
2はフェニルであり;
3は(C1〜C3)アルキルである)
の化合物若しくはその第2の酸付加塩の第3の混合物;又は(f)前記(a)〜(e)の任意の2種又はそれ以上の捕捉性重合抑制剤の組合せを含む請求項2〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記捕捉性重合抑制剤がMn(HCO2-2、Mn((C1〜C8)アルキルCO2-2又は過マンガン酸カリウムであるマンガン塩である請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記捕捉性重合抑制剤がN−オキシル化合物とMn(HCO2-2、Mn((C1〜C8)アルキルCO2-2若しくは過マンガン酸カリウムであるマンガン塩との第1の混合物であり、前記N−オキシル化合物が4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルである請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記マンガン塩が酢酸マンガン(II)である請求項6又は7に記載の組成物。
【請求項9】
前記捕捉性重合抑制剤が、分子状酸素とフェノチアジンとの第2の混合物である請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
前記捕捉性重合抑制剤が分子状酸素と式(II)の化合物との第2の混合物である請求項5に記載の組成物。
【請求項11】
XがSである請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
1が水素である請求項10又は11に記載の組成物。
【請求項13】
1が(C1〜C3)アルキルである請求項10又は11に記載の組成物。
【請求項14】
1がメチルである請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
mが1であり且つRAが水素である請求項2〜14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
mが1であり且つ各RAが(C1〜C3)アルキル、(C1〜C3)アルキル−O−、フルオロ又はクロロである請求項2〜14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
mが2又は3であり且つ各RAが独立に(C1〜C3)アルキル、(C1〜C3)アルキル−O−、フルオロ又はクロロである請求項2〜14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
(a)蒸留可能なモノマーの重合抑制剤組成物と分量の蒸留可能なモノマーとを第1の位置で互いに接触させて、それらの第1の混合物を得(前記組成物は第1の重合抑制量の逃散性重合抑制剤及び抑制量の捕捉性重合抑制剤を含み;前記捕捉性重合抑制剤及び前記逃散性重合抑制剤が異なり、互いに相互転化できず;前記逃散性重合抑制剤及び前記捕捉性重合抑制剤がそれぞれ独立に、前記の蒸留可能なモノマーの重合の抑制剤として特徴づけられる);
(b)第1の位置から、前記蒸留可能なモノマーの少なくとも一部及び前記逃散性重合抑制剤の少なくとも一部を蒸発させて、蒸発した蒸留可能なモノマー及び蒸発した逃散性重合抑制剤をそれぞれ与え;そして
(c)第1の位置とは異なるが第1の位置と流体連通している第2の位置で、前記の蒸発した蒸留可能なモノマーの少なくとも一部及び前記の蒸発した逃散性重合抑制剤の少なくとも一部を凝縮させて、それらの凝縮液混合物を得る(前記凝縮液混合物は、分量の前記の蒸留可能なポリマーの一部及び第2の重合抑制量の前記逃散性重合抑制剤を含む)
工程を含んでなる蒸留可能なモノマーの蒸留中の重合を抑制する方法であって;
第2の位置における前記蒸留可能なモノマーの重合が、第2の重合抑制量の前記逃散性重合抑制剤によって抑制され;蒸留工程(b)及び(c)の条件中及び条件下において、前記逃散性重合抑制剤が前記蒸留可能なモノマーの蒸気圧又は相対的揮発度蒸留性能と一致する蒸気圧又は相対的揮発度蒸留性能を有する重合抑制方法。
【請求項19】
前記蒸留可能なモノマーがアクリル酸系モノマーであり、前記捕捉性重合抑制剤及び前記逃散性重合抑制剤がそれらの重合の抑制剤であり、前記アクリル酸系モノマーが式(M):
【化4】

(式中、R11は水素又は(C1〜C18)アルキルであり、R12〜R14は、それぞれ独立に、水素又は(C1〜C8)アルキルである)
の化合物である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
式(M)の前記アクリル酸系モノマーの重合の抑制剤である前記捕捉性重合抑制剤及び前記逃散性重合抑制剤を含む組成物が請求項3〜17のいずれか1項に記載の組成物である、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−518077(P2012−518077A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551201(P2011−551201)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/024509
【国際公開番号】WO2010/096512
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【出願人】(509014858)カーネギー メロン ユニバーシティー (2)
【Fターム(参考)】