説明

重合液の処理方法及び該重合液を用いて形成された導電性高分子

【課題】高分子を形成するために用いる重合液は、時間の経過と共に劣化してしまうため、再利用化が難しい。本発明は、重合液の再利用化を可能とし、生産時のコストの削減や、環境負荷の低減等を達成する技術を確立することを目標とする。
【解決手段】高分子化合物を形成するのに用いられる重合液の再利用化のための処理方法において、前記処理方法は該重合液をフィルターで濾過する濾過工程を有する。濾過工程は複数回行われ、回数を重ねるにつれて孔径が小さいフィルターを用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物を生成するために用いる重合液の再利用を可能にする重合液の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子の例として、導電性高分子を形成する方法は、化学酸化重合法や電解酸化重合法等が知られている。化学酸化重合法は、導電性高分子を形成するモノマーと酸化剤を含む重合液に基体を浸漬するか、基体に該重合液を塗布する等して、基体の周囲に導電性高分子を形成する方法であり、電解酸化重合法は、モノマーと支持電解質を含む重合液中に陽極及び陰極となる金属部材を夫々配設し、該陽極、陰極間に電流を流すことにより、電気化学的に酸化反応を引き起こすことによって、導電性高分子を形成する方法である。
【0003】
上記のような方法で形成された導電性高分子の応用例として、固体電解コンデンサの固体電解質への応用がある。導電性高分子を固体電解質として用いた固体電解コンデンサにおいて、低ESR化、低インピーダンス化、高耐熱性等の様々な特性の改善が求められており、これらを実現するために導電性高分子の形成に用いられる支持電解質や、モノマー等の材料を変更することが検討されている。(例えば特許文献1、特許文献2)
【特許文献1】特開平2−119212号公報。
【特許文献2】特開平5−326338号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の化学酸化重合法及び電解酸化重合法は、簡便に良質な導電性高分子膜を作製することができるという点において優れている。上記の重合法に用いられた重合液には、未反応のモノマーや支持電解質等の添加材のほか、オリゴマーや重合中に混入してくる金属イオン等が含まれていることがある。このようなオリゴマーや金属イオンは、重合を行う前の重合液中には含まれていない不純物であり、重合反応に寄与しないだけでなく、重合液中で副反応を起こし、該重合反応を阻害してしまう可能性もある。重合反応が阻害されてしまうと、良質な導電性高分子を形成することができなくなったり、形成された導電性高分子の特性が悪化してしまう。したがって、現在では重合液を再利用せずに、重合の度に重合液を調製している。
【0005】
また、重合後においても重合液中にはモノマーや支持電解質等の添加材が多く残っているが、現在の方法では重合液中の再利用可能なモノマーや支持電解質等の添加材を廃棄しており、コスト面や環境面での改善が求められている。また、重合の度に重合液を調製する工程が必要となっており、コスト面のみでなく生産効率の改善も必要とされている。上記のような現状から、早急な重合液の再利用化の技術の確立が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の問題を鑑みて考え出されたものであり、重合液の再利用を可能とすること、及び再利用した重合液を用いて良好な特性を有する高分子を形成することを目的とする。また本発明の別の目的は、再利用した重合液を用いて導電性の良好な導電性高分子を形成し、これを固体電解質に用いても良好なコンデンサ特性を有する固体電解コンデンサを提供することにある。
【0007】
すなわち、本発明は、高分子化合物を形成するのに用いられる重合液の再利用化のための処理方法であって、該重合液をフィルターで濾過する濾過工程を有することを特徴とする。前記濾過工程は、複数回行われ、回を重ねるにつれてフィルターの孔径が小さいものを用いることが好ましい。
【0008】
さらに、前記濾過工程の後にイオン交換処理工程またはイオン捕捉工程またはpH調整工程を有することが好ましく、前記イオン交換処理工程またはイオン捕捉工程と前記pH調整工程の双方を有することがより好ましい。
【0009】
また、本発明の導電性高分子は、上記の処理方法を経て調製された重合液を用いて形成されていることを特徴とし、本発明の固体電解コンデンサは、前記導電性高分子を電解質として用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
一度重合に用いた重合液をフィルターで濾過することにより、該重合液中に残存しているオリゴマー等の不純物を除去することができる。これにより、不純物の少ない重合液を調製することができ、従って重合液の再利用が可能となる。また、重合液の再利用が可能となることにより、高分子の製造工程においてコストの削減が実現でき、さらに環境への負荷も軽減することができる。
【0011】
また、本発明の処理方法を用いて調製された重合液は重合反応を阻害する不純物の含有量が少ないので、該重合液を用いると導電性に優れた良質な導電性高分子を形成することができる。さらにこのような導電性高分子を電解質として用いると、ESR特性の良好な固体電解コンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施のための最良の形態について、以下に説明する。尚、以下の実施形態においては、高分子化合物として導電性高分子を例に挙げ、また導電性高分子の利用例として、固体電解コンデンサの固体電解質への利用を挙げる。
(1.再利用のための重合液の処理方法)
まず、導電性高分子の形成に用いた重合液を準備する。
【0013】
導電性高分子の形成方法は、導電性高分子を形成するモノマーと、支持電解質及び/または酸化剤を含有する重合液を用意し、電解酸化重合法、化学酸化重合法等の既知の方法により、導電性高分子を形成する。
【0014】
(濾過工程)
上記導電性高分子の形成に用いた重合液を、フィルターを用いて濾過する。フィルターの材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ナイロン、ポリフェニレンサルファイド、ビスコースレーヨン、ポリフェノール、漂白コットン等があり、これらの中から任意で1種以上を選択して用いることができる。また、前述の材料を、グラスファイバーや珪藻土、活性炭等と混合して用いることもできる。前記フィルターに重合液を通すことにより濾過を行う。前述の材料を用いて濾過を行うことにより、フィルターの孔径より大きな径を有する粒子を、重合液から取り除くことができる。
【0015】
前記濾過工程は、複数回行われることが好ましい。複数回行うことで、一度では取りきれなかったオリゴマー等の不純物を重合液から除去することができるため、より不純物の少ない重合液を調製することができる。このとき、フィルターの材料は同一であっても異なっていてもよいが、濾過工程の回数を重ねるにつれてフィルターの孔径が小さくなるようにフィルターの材料を適宜選別、変更することが好ましい。初めに孔径の比較的大きなフィルターを用いて粒子径の大きな不純物を除去し、順次フィルターの孔径を小さくして粒子径の小さい不純物を除去していく方法が好ましい。
【0016】
(イオン交換処理工程)
上記濾過工程の後に、イオン交換処理が行われることが好ましい。該イオン交換処理によって、重合液中に重合反応に影響を及ぼす不純物である金属イオンが存在していた場合、該金属イオンを重合反応に影響を及ぼさない金属イオンに交換することが可能であり、該イオン交換処理された重合液を用いて重合反応を行うと、良質で特性の優れた導電性高分子を形成させることができる。
【0017】
イオン交換処理の方法としては、予めイオン交換樹脂が充填されている充填槽に重合液を通過させる方法等が考えられる。また、イオン交換樹脂として、従来周知の陽イオン交換樹脂のなかから適宜選択して用いることができる。
【0018】
イオン交換樹脂としては陽イオン交換樹脂を用いることが好ましく、例えばオルガノ株式会社製のアンバーライトIR120BNa、IR124Na、200CTNa、252Na、アンバージェット1020H、1024H、三菱化学株式会社製のゲル型ダイヤイオンSK1B、SK110、SK112、ポーラス型ダイヤイオンPK220、PK228、メタクリル系ダイヤイオンWK10、WK100、アクリル系ダイヤイオンWK40L等を用いることができる。前述の陽イオン交換樹脂の中でも酸(H)型陽イオン交換樹脂を用いることが好ましく、具体的にはオルガノ株式会社製のアンバージェット1020H、1024H、三菱化学株式会社製のメタクリル系ダイヤイオンWK10、WK100、アクリル系ダイヤイオンWK40L等が好ましい。このような酸(H)型陽イオン交換樹脂は、重合液中の不純物金属イオン捕捉するとともに重合液中に水素イオンを提供するので、重合液中の酸性度が高くなる。重合反応は酸性下で行われることが好ましく、酸(H)型陽イオン交換樹脂を用いると重合液のpH調整の役割も担うため、良質な重合液を得ることができる。
【0019】
(イオン捕捉工程)
上記のイオン交換処理工程の代わりに、イオン捕捉工程を行ってもよい。イオン捕捉工程とは、具体的にはキレート剤を重合液に添加することにより行われる。キレート剤は重合液中に混入している不純物金属イオンを捕捉することができるので、該重合液を用いて重合反応を行ったときに、重合反応を阻害する副反応の発生を防ぐことができ、従って良質で優れた特性を有する導電性高分子を形成することができる。
【0020】
キレート剤を添加する場合、キレート剤として金属イオンに対してキレートの安定度定数が高いものが好ましく、このようなキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸、トリエチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ヒドロキシイミノ二酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、ヒドロキシイミノジコハク酸、エチレンジアミンジコハク酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノカルボン酸型キレート剤が挙げられる。重合反応は酸性下で行われることが好ましいことから、上記のキレート剤のなかでも塩で置換されていないキレート剤を用いることが好ましい。無置換のキレート剤は、重合液中に水素イオンを提供するため重合液のpHを下げることができ、未使用の重合液により近いpHにすることができる。すなわち無置換のキレート剤を用いることで、イオン捕捉の機能だけでなく、pH調整としての機能も有し、このような重合液を用いると、良質で特性のよい導電性高分子を形成することができる。添加するキレート剤の量は、重合液の量や、重合液中に含まれるモノマーや支持電解質等の添加材の量等により、適宜決定することができる。
【0021】
(pH調整工程)
上記濾過工程の後には、重合液のpH調整を行うことが好ましい。未使用時の重合液のpHと同等になるように重合液のpHを調整することで、本発明の重合液が、未使用時の重合液の状態に近くなり、より好適に重合反応を行うことができる。また、濾過工程、及びpH調整工程を経て作製された重合液を用いると、良質で特性の優れた導電性高分子を形成することができる。
【0022】
ここで、pH調整は重合液に酸などの添加材を投入することにより行われる。投入する酸の種類は、既知のもののなかから適宜選択することができる。また、投入する量は、重合前後の重合液のpH、投入する添加材の種類、重合液の量等を考慮して決定することができる。
【0023】
さらに、前記濾過工程の後には、前記イオン交換処理工程と上記pH調整工程の双方が行われることが好ましい。イオン交換処理工程とpH調整工程の順序はイオン交換処理工程が先であっても、pH調整工程が先であっても構わない。上記の方法を用いると、濾過工程で重合液中のオリゴマー等の不純物を除去でき、イオン交換処理工程では、重合液中の不純物金属イオンを除去することができ、pH調整工程では、重合液を使用前の重合液のpHと同等のpHを有するように調整することができ、したがって本発明の重合液をより使用前の重合液の状態に近くなるようにすることが可能である。このような重合液を用いて重合反応を行うと、新しく調製した重合液を用いて重合を行ったときと同様の特性を有する良質な導電性高分子を形成することができる。
(その他)
上記のような工程を経た重合液に、必要に応じてモノマーや支持電解質等の添加材を追加することが可能である。
(2.導電性高分子の形成)
上記のような工程を経て調製された重合液を用いて重合を行い、導電性高分子を形成する。導電性高分子を形成する方法としては、例えば化学酸化重合法や、電解酸化重合法等があるが、ここでは電解酸化重合法を例に挙げるものとする。
【0024】
まず、陽極金属部材および陰極金属部材が配設されている装置に、上記の工程を経て調製された重合液を投入する。次に、陽極金属部材、陰極金属部材間に電流を流すことにより、陽極金属部材近傍で酸化反応がおこり、該陽極金属部材の周面に導電性高分子が形成される。
(3.導電性高分子の固体電解コンデンサへの応用)
上記のようにして形成される導電性高分子は、例えば固体電解コンデンサの固体電解質への応用が可能である。
【0025】
固体電解コンデンサは、例えば陽極ワイヤが植立されている陽極体の周面に誘電体層、固体電解質層、陰極引出層を具えたコンデンサ素子を有しており、該コンデンサ素子は外装樹脂によって被覆され、また該コンデンサ素子の陽極ワイヤと陽極端子、陰極引出層と陰極端子が接続されてなる構造をしている。前記陽極端子及び前記陰極端子の少なくとも一部は、前記外装樹脂から露出している。
【0026】
固体電解コンデンサの製造方法は、従来周知の材料、方法等により陽極ワイヤが植立されている陽極体の周面に誘電体層を形成し、その上に固体電解質を形成する。上記のように電解酸化重合法で導電性高分子を形成する場合、誘電体層は非導電性であるので、誘電体層の上に導電性のプレコート層を形成しておく。プレコート層は、化学酸化重合法を用いて導電性高分子や、二酸化マンガン等の半導体層を用いることができる。前記プレコート層の周面に本発明の導電性高分子を形成する。すなわち、陽極体を陽極部材と接触させ、重合液中に配設されている陰極部材と該陽極部材間に電流を通すことによって電解酸化反応を行い、陽極体の周面に導電性高分子の層を形成する。ここで、固体電解質に用いることのできる導電性高分子として、ポリピロールやポリチオフェン、ポリフラン等の複素間化合物の高分子及びそれらの誘導体や、ポリアニリンやその誘導体等があり、これらの中から1種以上を選択して用いることが可能である。また、導電性高分子層は、単層からなっていてもよいし、複数の層から形成されていてもよい。複数の導電性高分子の層を形成する際、各々の導電性高分子層は異なる導電性高分子を有していてもよいし、すべて同じ導電性高分子からなっていてもよい。
【0027】
上記のようにして固体電解質層を形成したのち、該固体電解質層の周面に陰極引出層を形成し、コンデンサ素子を作製する。陰極引出層は、従来公知の材料、方法を用いて形成することができる。
【0028】
次に作製されたコンデンサ素子を陽極端子と陰極端子を有するリードフレームにコンデンサ素子を載置し、該陽極端子と陽極ワイヤ、該陰極端子と陰極引出層を夫々接続した後、前記陽極端子と前記陰極端子の一部を露出させるように前記コンデンサ素子を外装樹脂で被覆し、所定の形状に切断して固体電解コンデンサが作製される。
【0029】
このようにして作製されたコンデンサは、本発明の処理工程を経て調製された重合液を用いて形成された導電性高分子を有している。本発明の方法により調製された重合液は、一度重合に使用したものではあるが、該重合液を用いて形成された導電性高分子は、新しく調製された重合液を用いて形成された導電性高分子と同等の、良質で導電性に優れた導電性高分子であるので、本発明の固体電解コンデンサは、良好なESR特性を有する。したがって本発明によって、ESR特性に優れた固体電解コンデンサを提供することができる。また、重合液の再利用が可能となるので、コンデンサの生産コストを低減することができると共に、環境への負荷も軽減することができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の内容を実施例を用いて説明する。
(重合液中の処理及び調製)
(実施例1)
まず、モノマーとしてピロールと、支持電解質としてアルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムとを有する重合液(8.5 l)を準備し、電解酸化重合を行った。
その後、孔径0.5μmのポリプロピレンからなるフィルター(「ポリネット」:キュノ株式会社製)を用いた濾過装置に該重合液を通過させた。次いで孔径0.1μmのナイロン66からなるフィルター(「ライフアシュアIMC」:キュノ株式会社製)を用いた濾過装置に該重合液を通過させた。
【0031】
上記のようにして不純物が除去された重合液中に1mol/lの硫酸を1ml程度添加し、さらに陽イオン交換樹脂が充填されている充填槽に重合液を通過させて、重合液の調製を行った。
(実施例2)
実施例1の工程に加え、さらに孔径0.02μmのポリプロピレン中空糸から形成されるフィルター(「ナノシールド」:キュア株式会社製)を用いた濾過装置に重合液を通過させた。
【0032】
上記のようにして不純物が除去された重合液中に1mol/lの硫酸を1ml程度添加し、さらに陽イオン交換樹脂が充填されている充填槽に重合液を通過させて、重合液の調製を行った。
(固体電解コンデンサの作製)
(実施例3)
弁作用金属からなり、陽極ワイヤを植立した焼結体からなる陽極体を準備し、硫酸等の酸水溶液に該陽極体を浸漬して化成処理を行い、陽極体の周面に誘電体層を形成した。次いで、モノマーとしてピロールと酸化剤として過酸化水素とを有する重合液を用意し、化学酸化重合法により誘電体層の周面に導電性プレコート層を形成した。その後、陽極金属部材及び陰極金属部材が予め配設されている重合槽に、実施例1によって調製された重合液を投入した。この重合液中に表面に導電性プレコート層が形成された陽極体を浸漬し、該陽極体と陽極金属部材を接触させ、陽極金属部材・陰極金属部材間に電流を通して電解酸化重合させて、導電性プレコート層上に導電性高分子層を形成させた。
【0033】
その後、導電性高分子層の表面に導電性炭素層、銀ペースト層からなる陰極引出層を形成し、コンデンサ素子を作製した。
【0034】
作製したコンデンサ素子を、陽極端子と陰極端子を有するリードフレームに載置し、陽極端子と陽極ワイヤ、陰極端子と陰極引出層を夫々接続した。その後、陽極端子と陰極端子の一部を露出させるようにコンデンサ素子を外装樹脂で被覆して、固体電解コンデンサを完成させた。
(実施例4)
実施例1によって調製された重合液を用いる代わりに実施例2によって調製された重合液を用いること以外は実施例3と同様にして固体電解コンデンサを作製した。
(比較例1)
実施例1によって調製された重合液を用いる代わりに、重合後全く処理を行っていない重合液を再度使用すること以外は実施例3と同様にして、固体電解コンデンサを作製した。
(比較例2)
実施例によって調製された重合液を用いる代わりに、重合反応に用いていない新規の重合液を用いること以外は実施例3と同様にして、固体電解コンデンサを作製した。
【0035】
上記のようにして調製された実施例1および2の重合液について、波長 600nmでの吸光度を測定した。また、重合後本発明の重合液の処理を行っていない重合液(「未処理重合液」)についても、同様に吸光度の測定と重合液の色の変化の観察を行った。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1より、本発明によって処理、調製された重合液は、未使用重合液より吸光度が小さくなっている。これは、波長 600nm付近の領域にあるオリゴマー等の不純物が重合液から除去されていることを示す。また、電解酸化重合法を用いた重合液は、時間が経つにつれて劣化すると共に重合液の色も黒く濁液であったが、フィルターを用いた濾過を行うことによって、重合液の色も極薄色になった。このことからも、重合液中の不純物が取り除かれていることが分かる。
【0038】
また、実施例3、4及び比較例1、2の固体電解コンデンサについて、100kHzでのESRを測定した。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2より、実施例3及び4の固体電解コンデンサは、比較例1の固体電解コンデンサに比べて優れたESR特性を示し、実施例3及び4の固体電解コンデンサのESRの値は、新しい重合液を使用した比較例2の固体電解コンデンサのESRに近くなることがわかる。実施例3及び4と比較例1の固体電解コンデンサとの違いが固体電解質層中の電解酸化重合法による導電性高分子層の形成に用いられる重合液のみであることから、本発明の方法により処理、調製された重合液を用いることで、導電性に優れた良質な導電性高分子が形成されると共に、該導電性高分子を固体電解質層として用いた固体電解コンデンサは、ESR特性に優れていることがわかる。
上記実施例は、本発明を説明するためのものに過ぎず、特許請求の範囲に記載の発明を限定する様に解すべきでない。本発明は、特許請求の範囲内及び均等の意味の範囲内で自由に変更することができる。例えば、本発明の実施例は、pH調整工程のあとにイオン交換処理を行ったが、この順番は特定されるべきでなく、イオン交換処理を行ったあとにpH調整を行ってもよい。また、実施の形態では、本発明の方法によって再利用化された重合液を用いて形成された高分子化合物の実例として、固体電解コンデンサの固体電解質への応用を例示したが、高分子化合物の応用例はこれに限ったことではなく、従来公知の種々のものへの適用が可能である。
【0041】
上記の実施形態や実施例に示す方法により重合液の再利用化が可能となり、製造コストの削減が達成できる。また、環境への負荷を軽減することができる。さらに、本発明の手法により再利用した重合液を用いて導電性高分子を形成し、これを固体電解質として用いた固体電解コンデンサを作製することにより、再利用した重合液を用いても、ESR特性に優れた固体電解コンデンサを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物を形成するのに用いられる重合液の再利用化のための処理方法であって、
該重合液をフィルターで濾過する濾過工程を有することを特徴とする重合液の処理方法。
【請求項2】
前記濾過工程が複数回行われることを特徴とする請求項1に記載の重合液の処理方法。
【請求項3】
前記濾過工程の回数を重ねるにつれて、用いる前記フィルターの孔径が小さくなることを特徴とする請求項2に記載の重合液の処理方法。
【請求項4】
前記濾過工程の後に、イオン交換処理工程を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の重合液の処理方法。
【請求項5】
前記濾過工程の後に、イオン捕捉工程を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の重合液の処理方法。
【請求項6】
前記濾過工程の後に、pH調整工程を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の重合液の処理方法。
【請求項7】
前記pH調整工程をさらに有することを特徴とする請求項4に記載の重合液の処理方法。
【請求項8】
前記pH調整工程をさらに有することを特徴とする請求項5に記載の重合液の処理方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかの処理方法を経て調製された重合液を用いて形成された導電性高分子。
【請求項10】
請求項9に記載の導電性高分子を電解質として用いた固体電解コンデンサ。

【公開番号】特開2009−197170(P2009−197170A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42332(P2008−42332)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】