説明

重度の腎機能障害の患者における静脈血栓塞栓症の治療のためのAVE5026の用量

本発明は、重度の腎機能障害の患者における静脈血栓塞栓症の治療のためのAVE5026の10mgの用量に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重度の腎機能障害の患者における静脈血栓塞栓症の治療のためのAVE5026の規定用量に関する。
【背景技術】
【0002】
AVE5026(sanofi−aventis研究所コード)は、新世代の半合成ヘパリンに属する。AVE5026は、2000から3000ダルトンの平均分子量ならびに高い抗Xa因子活性および残留抗IIa因子活性から得られる新規抗血栓プロファイルを有する新規超低分子量ヘパリンである。AVE5026は、特許出願WO2004/033503に記載の通り、ヘパリンの選択的および制御された解重合により得られる。
【0003】
AVE5026は、静脈血栓塞栓症(VTE)予防のための臨床開発におけるものである(The Pink Sheet,October 1st,2007,Vol.69,No.040,page 19を参照のこと)。第II相のTREK試験において、エノキサパリン(商標Lovenox(登録商標)またはClexane(登録商標)で市販されている低分子量ヘパリン)と比較して、AVE5026の20mgおよび40mg用量が確定診断のついたVTEについて優れた有効性を示し、良好な安全性プロファイルを有した。AVE5026の20mg用量が、VTE予防の臨床試験における将来調査について選択されている。
【0004】
低分子量ヘパリン生成物による治療法の分野において、重度の腎機能障害の患者はより高い出血リスクを有することが知られている。実際、これらの患者は、その腎機能の障害に起因して薬物に対する曝露が増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/033503号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】The Pink Sheet,October 1st,2007,Vol.69,No.040,page 19
【発明の概要】
【0007】
本出願人は、目下のところ、AVE5026の規定用量、すなわち、10mgが、重度の腎機能障害の患者において有効であり、安全であることを見出した。
【0008】
従って、本発明の主題は、重度の腎機能障害の患者における治療法において使用されるAVE5026の10mg用量である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明によれば、以下の用語は、以下の意味を有する:
−「治療法」は、薬物AVE5026による治癒的治療と予防的治療のいずれも意味し;
−「治療」は、血栓予防を必要とする患者に対する静脈血栓予防的治療を意味し;
−「重度の腎機能障害の患者」は、クレアチニンクリアランス値が30mL/分よりも低い患者を指定する。
【0010】
有利には、本発明の治療法レジメンに、後続のモニタリングおよび用量調整は要求されない。
【0011】
一実施形態において、本発明は、1日1回投与のためのAVE5026の上記用量に関する。
【0012】
別の実施形態において、本発明は、皮下経路による投与のためのAVE5026の上記用量に関する。
【0013】
別の実施形態において、本発明は、静脈血栓塞栓症の予防のための、重度の腎機能障害の患者のためのAVE5026の10mgの用量に関する。より具体的には、本発明は、肺塞栓症(PE)をもたらし得る深部静脈血栓症(DVT)予防のための、重度の腎機能障害の患者のためのAVE5026の上記用量に関する。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、血栓塞栓性合併症のリスクを抱える、
膝関節置換術、股関節置換術もしくは股関節骨折手術施行患者、または
腹部手術施行患者における、
静脈血栓塞栓症の予防のための、重度の腎機能障害の患者のためのAVE5026の10mgの用量に関する。
【0015】
本発明はまた、重度の腎機能障害の患者において、治療法、より具体的には、静脈血栓塞栓症の予防の治療法において使用される医薬品の調製のための、AVE5026の10mg用量における使用に関する。上記実施形態は全て、AVE5026の前記使用にも当てはまる。
【0016】
本発明はまた、活性成分として10mg用量のAVE5026、および少なくとも1種の医薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物に関する。前記賦形剤は、所望の医薬形態および投与経路に従って、当業者に公知の慣用の賦形剤の中から選択される。
【0017】
本発明による医薬組成物は、好ましくは、皮下経路に適合された注射液剤である。
【0018】
本発明を目下詳細に説明したが、同一のことが以下の本発明の実施例を参照することによってより明白に理解され、実施例は、本発明の説明の目的のために本明細書に含まれるにすぎず、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0019】
1)AVE5026の調製
AVE5026は、ホスファゼン塩基(BEMP:2−tert−ブチルイミノ−2−ジエチルアミノ−1,3−ジメチルペルヒドロ−1,2,3−ジアザホスホリン)により有機媒体中でヘパリンのベンジルエステルの第四級アンモニウム塩を解重合し、解重合されたヘパリンのベンジルエステルの第四級アンモニウム塩をナトリウム塩に変換し、残留エステルを鹸化し、最後に精製することにより調製する。
【0020】
解重合工程は、有利には、0.6%未満の水の割合を含有する非プロトン性溶媒、例えば、ジクロロメタン中で実施する。好ましくは、この水の割合は、0.3%未満、さらに特定すると、0.2%未満で選択すべきである。
【0021】
有利には、ホスファゼン塩基/エステルのモル比は、0.2から5の間、好ましくは、0.6から2の間、最も好ましくは、0.8から1.2の間である。等モル比の使用が好ましい。
【0022】
ヘパリンのベンジルエステルの第四級アンモニウム塩は、有利には、ベンゼトニウム塩である。
【0023】
従って、AVE5026を調製する方法は、以下の工程を含む:
a)ヘパリンナトリウムを塩化ベンゼトニウムの作用により塩交換(transalification)し、
b)ベンゼトニウムへパリナートを塩化ベンジルの作用によりエステル化し、
c)得られたヘパリンベンジルエステルをベンゼトニウム塩により第四級アンモニウム塩に塩交換し、
d)ヘパリンのベンジルエステルのベンゼトニウム塩を上記定義の方法により解重合し、
e)ベンゼトニウム塩をナトリウム塩に変換し、
f)塩基、例えば、水酸化ナトリウムの作用により鹸化し、
g)特に、酸化剤、例えば、過酸化水素の作用により精製する。
【0024】
工程e)は、一般に、反応媒体を、15から25℃の間の温度において、酢酸ナトリウムのアルコール性溶液により、好ましくは、酢酸ナトリウムのメタノール中10%溶液(重量/容量)により処理することにより実施する。添加される酢酸塩の重量当量は、好ましくは、解重合反応において使用されるヘパリンのベンジルエステルのベンゼトニウム塩の質量の3倍超である。
【0025】
鹸化(工程f)は、一般に、0から20℃の間、好ましくは、0から10℃の間の温度において、水性媒体中で、アルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化リチウムにより実施する。一般に、アルカリ金属水酸化物1から5モル当量を使用する。好ましくは、鹸化はアルカリ金属水酸化物1から2モル当量の存在下で実施する。
【0026】
精製(工程g)は、10から50℃の温度において水性媒体中で過酸化水素により実施する。好ましくは、この操作は20から40℃の間で実施する。
【0027】
ヘパリンのベンジルエステルの第四級アンモニウム塩(ベンゼトニウム塩)は、以下の反応スキームに従って調製する:
a)ヘパリンを塩化ベンゼトニウムによりナトリウム塩の形態に変換してベンゼトニウムヘパリネートを得(塩交換)、
b)上記の通り得られたベンゼトニウム塩を塩化ベンジルによりエステル化し、酢酸ナトリウムのアルコール性溶液により処理してヘパリンのベンジルエステルのナトリウム塩を得、
c)ヘパリンのベンジルエステルのナトリウム塩を第四級アンモニウム塩(ベンゼトニウム塩)に塩交換する。
【0028】
工程a)の反応は、15から25℃付近の温度において、ヘパリンナトリウムに対して過剰の塩化ベンゼトニウムの作用により実施する。有利には、塩/ヘパリンナトリウムのモル比は3から4の間である。
【0029】
使用される出発ヘパリンは、好ましくは、ブタヘパリンである。ブタヘパリンは、特許FR2663639に記載の方法に従って予め精製してその硫酸デルマタンレベルを低減することができる。
【0030】
工程b)のエステル化は、25から45℃の間、好ましくは30から40℃の間の温度において、塩素化有機溶媒(例えば、クロロホルムまたは塩化メチレン)中で好ましくは実施する。次いで、ベンゼトニウム塩の形態のエステルを、アルコール、例えば、メタノール中10重量%の酢酸ナトリウムによる沈殿によりナトリウム塩の形態で回収する。一般に、反応媒体1容量当たりアルコール1から1.2容量を使用する。塩化ベンジルの量および反応時間は、エステル化度を50から100%の間、好ましくは70から90%の間で得るように調節する。好ましくは、塩化ベンジル0.5から1.5質量部をヘパリンのベンゼトニウム塩1質量部に対して使用する。同様に、好ましくは、反応時間は10から35時間の間である。
【0031】
工程c)の塩交換は、10から25℃の間の温度において水性媒体中で塩化ベンゼトニウムにより実施する。有利には、塩化第四級アンモニウム/ヘパリンのベンジルエステルのナトリウム塩のモル比は2から3の間である。
【0032】
WO 2004/033503に記載のこの方法により、平均分子量2000から3000ダルトンであり、抗Xa因子活性150から200IU/mg(さらに特定すると、150から180IU/mg)であり、抗IIa因子活性5IU/mg未満、さらに特定すると、0.5から3.5IU/mgであり、抗Xa因子/抗IIa因子活性の比が30超である低分子量ヘパリンを得ることができる。そのような生成物は、その極めて低分子量が付与されるため、「超低」分子量ヘパリンとも呼ばれる。
【0033】
抗Xa活性は、標準品として、低分子量ヘパリンについての第1国際標準品を用いてTeien et al.,Thromb.Res.,10,399−410(1977)に記載の発色基質に対するアミド分解法により計測する。抗IIa活性は、標準品として、低分子量ヘパリンについての第1国際標準品を用いてAnderson L.O.et al.,Thromb.Res.,15,531−541(1979)に記載の技術により計測する。
【0034】
2)AVE5026を含む医薬組成物
AVE5026は、皮下経路に適合された注射液剤として配合する。
【0035】
そのような配合物の例は、以下の通りである:塩化ナトリウム0.9%を有する注射用水中50mg/mLのAVE5026溶液の滅菌等張液0.2mL。
【0036】
AVE5026の医薬組成物は、使用準備済みプレフィルドシリンジ中で提供することができる。
【0037】
3)SRI患者における投与量
3.1:POP6240試験
この試験は、7日間1日1回のAVE5026の反復皮下投与後、正常な腎機能の対象と比較することにより、腎機能障害(RI)のヒトについての薬物動態(PK)および安全性を評価するために実施した。AVE5026の1日用量は、40mg(正常な腎機能または軽度もしくは中程度の腎機能障害の対象)または20mg(重度の腎機能障害の対象)とした。
【0038】
腎機能群を、周知のCockroft−Gault式を使用して計算したクレアチニンクリアランス(CLcr)値に従って定義し、以下の特徴に従って分類した:
−腎機能群I:正常な腎機能(CLcr>80mL/分)の8人の対象;
−腎機能群II:軽度のRI(50≦CLcr≦80mL/分)の8人の対象;
−腎機能群III:中程度のRI(30≦CLcr<50mL/分)の8人の対象;
−腎機能群IV:重度のRI(CLcr<30mL/分であるが血液透析は不要)の8人の対象。
【0039】
以下のPKパラメータを、抗ヒト血液凝固Xa因子(抗Xa)活性に基づき決定した:
−1および7日目に観察される最大血漿中濃度(Cmax)、時間0から時間24時間の血漿中濃度対時間曲線下面積(AUC0−24)、ならびに観察される最大血漿中濃度到達時間(tmax);
−7日目の見かけの血漿クリアランス(CL/F)、定常状態における見かけの分布容積(Vss/F)、および見かけの終末相半減期(t1/2z);
−蓄積比(Rac):Cmax(7日目)/Cmax(1日目)、AUC0−24(7日目)/AUC0−24(1日目)。
【0040】
軽度のRIの対象において、曝露パラメータは、1および7日目に正常な対象において観察されたものと同様であり、同様のRacを有した。
【0041】
中程度のRIの対象において、AUC0−24は、1日目および7日目において正常な対象よりも大きかった。これらの対象において、終末相半減期は正常な対象よりも長く、AUC0−24についてのRacは高かった。
【0042】
AVE5026を20mgのみ(正常な対象および他の群の半分)受けた重度のRIの対象において、7日目のAUC0−24は正常な対象よりも小さく、終末相半減期は長く、AUC0−24についてのRacは高かった。腎排泄は、正常、軽度および中程度のRIの対象と比較して重度のRIの対象において最低のAVE5026用量部分を表した。
【0043】
3.2:SRI患者における投与量調整
投与量調整は、上記第I相試験(POP6240)およびPK予測の結果に基づくものであった。POP6240試験を含む第I相試験のプールに対して実施された薬物動態分析は、クレアチニンクリアランス(CLcr)がAVE5026クリアランスに影響を及ぼす主要な共変量であることを示した。第I相試験のプールに対して構築された母集団薬物動態モデルを使用してTREK第II相患者母集団の中央値に設定された人口統計値を有する典型的患者を予測した。これらのシミュレーションにより、SRI患者について10mg用量を選択することができ、正常な腎機能の患者に近い薬物への曝露を可能とする一方、安全面を支持した。
【0044】
軽度および中程度の腎機能障害の患者については、第I相試験のプールに対して構築された母集団薬物動態モデルは、正常な腎機能患者に投与された用量と同一の用量を安全に使用することができることを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重度の腎機能障害の患者における治療法において使用されるAVE5026の10mgの用量。
【請求項2】
1日1回投与のための、請求項1に記載の用量。
【請求項3】
皮下経路による投与のための、請求項1または2に記載の用量。
【請求項4】
静脈血栓塞栓症の予防のための、請求項1から3のいずれかに記載の用量。
【請求項5】
深部静脈血栓症の予防のための、請求項1から4のいずれかに記載の用量。
【請求項6】
肺塞栓症をもたらし得る深部静脈血栓症の予防のための、請求項1から5のいずれかに記載の用量。
【請求項7】
血栓塞栓性合併症のリスクを抱える、膝関節置換術、股関節置換術もしくは股関節骨折手術施行患者、または腹部手術施行患者における、静脈血栓塞栓症の予防のための、請求項1から6のいずれかに記載の用量。
【請求項8】
重度の腎機能障害の患者における治療法において使用される医薬品の調製のための、AVE5026の10mg用量における使用。
【請求項9】
活性成分として10mg用量のAVE5026、および少なくとも1種の医薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。

【公表番号】特表2012−520869(P2012−520869A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500359(P2012−500359)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際出願番号】PCT/IB2010/051186
【国際公開番号】WO2010/106519
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】