説明

重炭酸透析用剤

【課題】重炭酸ナトリウムと塩化カルシウム及び/又は塩化マグネシウムが存在する任意濃度の透析液中において炭酸塩の析出を抑制する事ができる重炭酸透析用剤を提供する事を目的とする。
【解決手段】塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、pH調整剤、ブドウ糖及び重炭酸ナトリウムを含有する重炭酸透析用剤において、更に炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物を含むことを特徴とする重炭酸透析用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎不全患者の透析療法に使用される重炭酸透析液調製用の透析用剤に関し、詳しくは、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物を含有していることにより、混合濃厚液調製の際に炭酸塩の析出を抑制することができる重炭酸透析用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
透析療法は、腎不全患者の治療法として確立されており、老廃物の除去、電解質の調節等を目的に定期的な永続的治療として行われている。透析療法に用いられる透析液は、正常な血清電解質濃度に類似した組成を持つように調製されており、近年では生体に負担の少ない重炭酸透析用剤が用いられている。
【0003】
重炭酸透析液は、重炭酸ナトリウムが塩化カルシウムや塩化マグネシウムと反応して炭酸塩の沈殿を生じるため、一般的に塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、pH調整剤及びブドウ糖を含む製剤(A剤)と重炭酸ナトリウムだけの製剤(B剤)の2剤に分けられている。A剤は、使用目的により、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム及びpH調整剤を含む製剤(A−1剤)とブドウ糖だけの製剤(A−2剤)に更に分けられる。また、重炭酸透析液は、細菌の増加など衛生的な問題もあり、希釈液で長時間放置しておくことは困難であるため、A剤及びB剤のそれぞれの濃厚液を調製した後、使用直前に希釈・混合されて重炭酸透析液が調製される。
【0004】
現在、血液透析で使用されている主な製剤の形式は、A剤濃厚液+B剤濃厚液の「液液タイプ」、A剤濃厚液+B剤粉末剤の「液粉タイプ」、A剤粉末剤+B剤粉末剤の「粉粉タイプ」の3種類があり、「粉粉タイプ」においては、A−1剤とA−2剤とB剤に分かれた三剤型、A剤とB剤に分かれた二剤型、A剤とB剤がいっしょになった一剤型がある。また、「液液タイプ」、「液粉タイプ」における濃厚液の製剤は、通常ポリエチレン製の容器に10kg前後の濃厚液が充填されているため容器の嵩が大きく質量があり、輸送、搬入、保管スペース、取り扱い方法、使用済み容器の廃棄等について、種々の課題を抱えていたが、現在は「粉粉タイプ」の普及によりこれらの課題が大幅に改善されている。しかし、「粉粉タイプ」となっても、A剤粉末剤やB剤粉末剤から調製した各濃厚液を混合し混合濃厚液とする際には、重炭酸ナトリウムが塩化カルシウムや塩化マグネシウムと反応して炭酸塩を生じてしまう。
【0005】
そこで、pH調整剤の組み合わせを変えることにより、炭酸塩の析出を抑制できるのではないかという試みのもと、一剤型が開発されるようになってきたが、やはり、混合濃厚液を調製する際には、重炭酸ナトリウムが塩化カルシウムや塩化マグネシウムと反応し、炭酸塩を生じてしまうという問題を依然として抱えたままである。
【0006】
例えば、特許文献1では、pH調整剤としてクエン酸と酢酸ナトリウムを用いることにより、透析液調製時に炭酸塩の生ずることがない透析用固形製剤が開示されている。しかし、この製剤から得られる混合濃厚液は、pH調整剤が慣用される酢酸と酢酸ナトリウムの場合と比べて、若干炭酸塩の生成を抑制できる程度である。
【0007】
また、特許文献2では、pH調整剤としてクエン酸とクエン酸ナトリウムを用いることにより、炭酸塩を生じることなく混合濃厚液を調製できる重炭酸固形透析用剤が開示されている。しかし、この製剤においても、得られる混合濃厚液は、若干炭酸塩の生成を抑制できる程度である。
【0008】
更に、特許文献3及び特許文献4では、pH調整剤として酢酸と酢酸ナトリウムを用いて調製を行った固体透析用剤について開示されている。しかしこれらの製剤では、保存時に炭酸塩が生じないように、重炭酸ナトリウムと、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムとを別個に造粒を行っただけのものであり、これらの製剤から混合濃厚液を調製する時に炭酸塩の析出を抑制するには不十分である。
【特許文献1】特許第3635653号
【特許文献2】特開平10−87478号公報
【特許文献3】特開平11−114054号公報
【特許文献4】特開2005−200373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、pH調整剤、ブドウ糖及び重炭酸ナトリウムを含有する重炭酸透析用剤から混合濃厚液を調製する際において、炭酸塩の析出が長時間抑制でき、更には、この混合濃厚液から所定濃度の透析液(最終希釈液)を調製することができる重炭酸透析用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成する為鋭意研究を重ねた結果、少なくとも塩化カルシウム及び/又は塩化マグネシウム及び重炭酸ナトリウムが存在する系内において、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物を含有していることにより、混合濃厚液で好ましくは6時間以上、更に好ましくは24時間以上炭酸塩の析出が抑制され、更には、この混合濃厚液から所定濃度の透析液(最終希釈液)を調製することができ、上記の課題が達成された重炭酸透析用剤が得られる事を見出した。
【0011】
即ち、本発明(1)は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、pH調整剤、ブドウ糖及び重炭酸ナトリウムを含有する重炭酸透析用剤において、更に炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物を含むことを特徴とする重炭酸透析用剤である。
【0012】
また、本発明(2)は、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物がリン酸基、水酸基、カルボキシル基からなる群から選ばれた少なくとも一種以上の基を有する化合物である、前記発明(1)の重炭酸透析用剤である。
【0013】
更に、本発明(3)は、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物が糖類である、前記発明(1)の重炭酸透析用剤である。
【0014】
また、本発明(4)は、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物が金属イオンと相互作用を有する化合物である、前記発明(1)の重炭酸透析用剤である。
【0015】
更に、本発明(5)は、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物がポリアクリル酸及び/又はカゼインホスホペプチドである、前記発明(1)の重炭酸透析用剤である。
【0016】
更に、本発明(6)は、ポリアクリル酸の添加量が透析用剤中の塩化カルシウム1g当り0.05〜2.0gであり、又はカゼインホスホペプチドの添加量が透析用剤中の塩化カルシウム1g当り0.5〜5.0gである、前記発明(5)の重炭酸透析用剤である。
【0017】
また、本発明(7)は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、pH調整剤、ブドウ糖及び重炭酸ナトリウムに加えて、更に炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物を含有する重炭酸透析用剤であって、重炭酸透析用剤から調製した2〜15質量%濃度の混合濃厚液が保存安定性に優れている、重炭酸透析用剤である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る重炭酸透析用剤によれば、重炭酸ナトリウムと、塩化カルシウム及び/又は塩化マグネシウムとの反応により生成する炭酸塩の析出を抑制することができ、更には、A剤濃厚液とB剤濃厚液とから調製される混合濃厚液から所定濃度の透析液を調製することができるという効果を奏する。また、pH調整剤が酢酸−酢酸ナトリウムの系においても、長時間安定に保存できる混合濃厚液の調製を可能とすることによって、現行の設備等のシステムで行える可能性があると共に、新しいタイプの重炭酸透析用剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
まず、本発明に係る重炭酸透析用剤について説明する。本発明に係る重炭酸透析用剤は、組成的には、各種電解質組成物(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウム)、pH調整剤、ブドウ糖及び重炭酸ナトリウムに加えて、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物を含むものである。炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物を除けば、慣用される重炭酸透析用剤と同様な組成及び剤形を有する。ここで使用するpH調整剤としては、重炭酸透析用剤に使用されている公知のものが使用でき、例えば、酢酸、二酢酸ナトリウム、クエン酸、乳酸、りんご酸等を挙げることができ、これらを単独で又は複数組み合わせて用いてもよい。好適には、酢酸である。尚、本発明において、塩化カルシウムは塩化カルシウム二水和物、塩化マグネシウムは塩化マグネシウム六水和物、酢酸ナトリウムは無水酢酸ナトリウムのことである。
【0020】
また、本発明に係る重炭酸透析用剤の剤形は、液剤であっても固形剤であってもよいし、一剤型であっても二剤型であっても三剤型であってもよい。
【0021】
液剤においては、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物は、A剤濃厚液又はB剤濃厚液の少なくとも一方に含有させることができる。但し、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物がB剤と反応する可能性がある場合は、B剤濃厚液に含有することはできない。
【0022】
固形剤の一剤型においては、混合透析液を調製する際に、重炭酸ナトリウムと塩化カルシウム及び/又は塩化マグネシウムとが随時溶解して接触する前に炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物が溶解する粒子設計が好ましい。例えば、多層構造における粒子設計の場合、重炭酸ナトリウムと塩化カルシウム及び/又は塩化マグネシウムとが接触しない層構造であると共に、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物を最外層又は最外層に近い層に存在させることにより、(1)塩化カルシウム及び塩化マグネシウム並びに重炭酸ナトリウムを実質的に溶解させる前に、(2)塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを実質的に溶解させた後であって、重炭酸ナトリウムを実質的に溶解させる前に、(3)塩化カルシウムを実質的に溶解させた後であって、塩化マグネシウム及び重炭酸ナトリウムを実質的に溶解させる前に、(4)塩化マグネシウムを実質的に溶解させた後であって、塩化カルシウム及び重炭酸ナトリウムを実質的に溶解させる前に、あるいは(5)重炭酸ナトリウムを実質的に溶解させた後であって、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを実質的に溶解させる前に、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物を溶解することが好ましい(例えば実施例21)。但し、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物が重炭酸ナトリウムと反応する可能性がある場合は、これらが接触しない構造が好ましい。
【0023】
固形剤の二剤型においては、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物は、A剤又はB剤の少なくとも一方に含有させることができる。三剤型においては、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物は、A−1剤若しくはA−2剤又はB剤の少なくとも一つに含有させることができる。更に、固形剤の二剤型及び三剤型の粒子設計においては、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物を造粒物中に含有している形態でも、各製剤(A剤及びA−1剤及びA−2剤及びB剤)と粉末混合している形態でも良い。但し、固形剤の二剤型及び三剤型において、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物がB剤と反応する可能性がある場合は、これをB剤に含有することはできない。
【0024】
本発明に係る重炭酸透析用剤の特徴は、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物を含有していることにより、重炭酸透析用剤から調製した混合濃厚液において、重炭酸ナトリウムと塩化カルシウム及び/又は塩化マグネシウムとの反応により生成する炭酸塩の析出を抑制できる点にあり、重炭酸透析用剤から調製した混合濃厚液中に炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物が含まれる限り、混合濃厚液を長時間安定に保存できるという効果を奏する。
【0025】
また、水溶液中(混合濃厚液及び希釈液を示す)に含有している炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物は膜分離法(精密ろ過法、限外ろ過法、逆浸透法、透析法)で除去することができる。但し、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物の分子量の大きさによって分離法を選定することが望ましい。例えば、試験例2より、平均分子量25,000のポリアクリル酸を除去するために限外ろ過法を用いると94%の除去が可能である。また、カゼインホスホペプチドは、限外ろ過法を用いると80%の除去が可能である。
【0026】
更に、膜分離法によって炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物を除去した後の混合濃厚液を希釈した水溶液、あるいは、混合濃厚液を希釈して膜分離法によって炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物を除去した後の水溶液は、所定濃度の透析液になる。
【0027】
次に、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物について説明する。本発明に係る炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物とは、水溶液中において、重炭酸ナトリウムと塩化カルシウム及び/又は塩化マグネシウムとの反応を阻害及び/又はその反応により生成する炭酸塩の析出を抑制することができる物質(塩を含む)を総称したものを意味し、透析用剤において、一般的に含有されている、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、pH調整剤、ブドウ糖及び重炭酸ナトリウムとは別の物質である。
【0028】
炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物としては、重炭酸ナトリウムと塩化カルシウム及び/又は塩化マグネシウムとの反応を阻害する物質(塩を含む)及び/又はその反応により生成する炭酸塩の析出を抑制する物質(塩を含む)であれば特に限定されないが、リン酸基、水酸基及びカルボキシル基からなる群から選ばれた少なくとも一種以上の基を有する化合物(塩を含む)、あるいは糖類、あるいは金属イオン(カルシウムイオン等)と相互作用(キレート作用など)をする化合物(塩を含む)が好ましい。炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物としては、例えば、ポリアスパラギン酸及びその塩(その分子量は例えば2000〜50000である)、ポリグルタミン酸及びその塩(その分子量は例えば10000〜6000000)、カゼインホスホペプチド、カゼイン、大豆タンパク質、大豆ペプチド(例えば2〜6個のアミノ酸からなるペプチド)等のポリアミノ酸、ペプチド及びタンパク質;ポリガラクツロン酸、ペクチン、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース及びその塩、カルボキシメチルデキストラン及びその塩、カルボキシメチルキチン、グルコン酸及びその塩、グルコサミン酸及びその塩、グアーガム、アルギン酸及びその塩等の糖類;コハク酸、アジピン酸、ヒドロキシクエン酸、ポリアクリル酸及びその塩(その分子量は例えば5000〜4000000)等のカルボン酸;ポリりん酸及びその塩、メタりん酸及びその塩;エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸などのキレート化剤等が挙げられ、この中で好ましいのは、ポリアスパラギン酸塩、ポリグルタミン酸、カゼインホスホペプチド、カゼイン、大豆タンパク質、大豆ペプチド、ペクチン、ヒドロキシクエン酸、ポリアクリル酸及びその塩、ポリりん酸塩、メタりん酸塩、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸が挙げられる。更に好ましくは、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物は、混合濃厚液濃度4〜15質量%において、炭酸塩の析出抑制時間が6時間以上の効果を奏するものであり、これには、カゼインホスホペプチド、大豆タンパク質、ペクチン、ポリアクリル酸、メタりん酸塩、トリエチレンテトラミン六酢酸が挙げられ、最も好ましくは、前記混合濃厚液濃度において、炭酸塩の析出抑制時間が24時間以上の効果を奏するものであり、これには、ポリアクリル酸又はカゼインホスホペプチドが挙げられる。
【0029】
次に、混合濃厚液の濃度について説明する。本発明における混合濃厚液の濃度は、A剤及びB剤を所定の水に溶解し、混合して調製したA剤とB剤を含む混合濃厚液の濃度のことである。詳細には、
混合濃厚液の濃度(質量%)=(固形剤(A剤+B剤)の質量)÷(固形剤(A剤+B剤)を溶解した後の水溶液の質量)×100 (1)
により算出し、これを混合濃厚液の濃度とした。混合濃厚液の濃度は、2〜15質量%であることが好ましく、ハンドリング面を考えると、より好ましくは7.5〜15質量%であり、更に、炭酸塩の析出抑制効果がより得られるようにするためには、7.5〜10質量%であることが好ましい。
【0030】
重炭酸透析用剤に対する炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物の添加量は、添加すべき炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物によって変化するので、一概に規定できないが、後述の実施例に基いて容易に定めることができる。炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物がポリアクリル酸の場合、ポリアクリル酸の添加量は、透析用剤中の塩化カルシウム1g当り、好ましくは0.05〜2.0gであり、より好ましくは0.1〜2.0gであり、更に好ましくは0.2〜0.6gである。
【0031】
また、ポリアクリル酸の添加量について、最小添加量は、炭酸塩析出の抑制効果が得られる最低限の量であり、最大添加量は、それ以上の効果は期待できない最大の量である。
【0032】
更に、ポリアクリル酸の平均分子量については、特に限定されないが、好ましくは5000〜1000000、より好ましくは5000〜100000である。
【0033】
炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物がカゼインホスホペプチドの場合、その添加量は、透析用剤中の塩化カルシウム1g当り、好ましくは0.5〜5.0gであり、より好ましくは0.7〜5.0gであり、更に好ましくは0.7〜3.5gである。尚、添加量が3.5g以上であれば、炭酸塩の析出抑制時間が24時間以上の効果を奏すが、膜分離法で分離する際に除去時間が長くなる。
【0034】
また、カゼインホスホペプチドの添加量について、最小添加量は、炭酸塩析出の抑制効果が得られる最低限の量であり、最大添加量は、溶解性に限度があり、ある量以上添加すると懸濁溶液になってしまうため、溶解可能量を最大添加量とした。
【0035】
本発明に係る重炭酸透析用剤は、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物としてポリアクリル酸を用いた場合、2〜15質量%の濃度に調製した混合濃厚液は、長期にわたって炭酸塩の沈殿を生じることがなく、更に、この混合濃厚液を膜分離法で分離して希釈することにより、あるいは、この混合濃厚液を希釈して膜分離法で分離することにより、所定濃度の透析液を得ることができ、また、炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物としてカゼインホスホペプチドを用いた場合、2〜10質量%の濃度に調製した混合濃厚液は、長期にわたって炭酸塩の沈殿を生じることがなく、更に、この混合濃厚液を膜分離法で分離して希釈することにより、あるいは、この混合濃厚液を希釈して膜分離法で分離することにより、所定濃度の透析液を得ることができる。
【0036】
本発明に係る重炭酸透析用剤を所定の水に溶解すれば、炭酸塩を生じることなく調製を行うことができるため、重炭酸透析液を、例えば下記の濃度に調整することができる:
Na 125〜150 mEq/L
1.0〜3.0 mEq/L
Ca2+ 1.5〜3.5 mEq/L
Mg2+ 0.5〜1.5 mEq/L
Cl 90.0〜135 mEq/L
CHCO 5.0〜10.0 mEq/L
HCO 20.0〜35.0 mEq/L
ブドウ糖 0.5〜2.5 g/L
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例を示して、更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
塩化ナトリウム43.34g、塩化カリウム1.06g、塩化カルシウム二水和物1.57g、塩化マグネシウム六水和物0.73g、無水酢酸ナトリウム3.51g、酢酸0.86g、ブドウ糖7.13g、ポリアクリル酸(和光純薬工業株式会社;和光一級;平均分子量25,000)0.56gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム29.96gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0038】
[実施例2]
塩化ナトリウム30.96g、塩化カリウム0.76g、塩化カルシウム二水和物1.12g、塩化マグネシウム六水和物0.52g、無水酢酸ナトリウム2.50g、酢酸0.61g、ブドウ糖5.09g、ポリアクリル酸(和光純薬工業株式会社;和光一級;平均分子量25,000)0.40gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム21.40gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0039】
[実施例3]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、無水酢酸ナトリウム1.88g、酢酸0.46g、ブドウ糖3.82g、ポリアクリル酸(和光純薬工業株式会社;和光一級;平均分子量25,000)0.04gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0040】
[実施例4]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、無水酢酸ナトリウム1.88g、酢酸0.46g、ブドウ糖3.82g、ポリアクリル酸(和光純薬工業株式会社;和光一級;平均分子量25,000)0.05gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0041】
[実施例5]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、無水酢酸ナトリウム1.88g、酢酸0.46g、ブドウ糖3.82g、ポリアクリル酸(和光純薬工業株式会社;和光一級;平均分子量25,000)0.10gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0042】
[実施例6]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、無水酢酸ナトリウム1.88g、酢酸0.46g、ブドウ糖3.82g、ポリアクリル酸(和光純薬工業株式会社;和光一級;平均分子量25,000)0.30gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0043】
[実施例7]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、無水酢酸ナトリウム1.88g、酢酸0.46g、ブドウ糖3.82g、ポリアクリル酸(和光純薬工業株式会社;和光一級;平均分子量25,000)0.85gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0044】
[実施例8]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、無水酢酸ナトリウム1.88g、酢酸0.46g、ブドウ糖3.82g、ポリアクリル酸(和光純薬工業株式会社;和光一級;平均分子量25,000)1.68gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0045】
[実施例9]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、無水酢酸ナトリウム1.88g、酢酸0.46g、ブドウ糖3.82gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05g、ポリアクリル酸(和光純薬工業株式会社;和光一級;平均分子量25,000)0.50gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0046】
[実施例10]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、無水酢酸ナトリウム1.88g、酢酸0.46g、ブドウ糖3.82g、カゼインホスホペプチド(和光純薬工業株式会社;生化学用)0.59gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0047】
[実施例11]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、無水酢酸ナトリウム1.88g、酢酸0.46g、ブドウ糖3.82g、カゼインホスホペプチド(和光純薬工業株式会社;生化学用)0.64gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0048】
[実施例12]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、無水酢酸ナトリウム1.88g、酢酸0.46g、ブドウ糖3.82g、カゼインホスホペプチド(和光純薬工業株式会社;生化学用)2.94gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0049】
[実施例13]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、無水酢酸ナトリウム1.88g、酢酸0.46g、ブドウ糖3.82g、カゼインホスホペプチド(和光純薬工業株式会社;生化学用)3.36gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0050】
[実施例14]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、無水酢酸ナトリウム1.88g、酢酸0.46g、ブドウ糖3.82gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05g、カゼインホスホペプチド(和光純薬工業株式会社;生化学用)1.07gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0051】
[実施例15]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、無水酢酸ナトリウム1.88g、酢酸0.46g、ブドウ糖3.82g、メタりん酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社;和光一級)0.50gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0052】
[実施例16]
塩化ナトリウム12.39g、塩化カリウム0.30g、塩化カルシウム二水和物0.45g、塩化マグネシウム六水和物0.21g、無水酢酸ナトリウム1.00g、酢酸0.24g、ブドウ糖2.04g、大豆タンパク質(日清コスモフーズ株式会社;ソルピー5000)0.30gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム8.56gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0053】
[実施例17]
塩化ナトリウム12.39g、塩化カリウム0.30g、塩化カルシウム二水和物0.45g、塩化マグネシウム六水和物0.21g、無水酢酸ナトリウム1.00g、酢酸0.24g、ブドウ糖2.04g、トリエチレンテトラミン六酢酸(和光純薬工業株式会社)0.50gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム8.56gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0054】
[実施例18]
塩化ナトリウム12.39g、塩化カリウム0.30g、塩化カルシウム二水和物0.45g、塩化マグネシウム六水和物0.21g、無水酢酸ナトリウム1.00g、酢酸0.24g、ブドウ糖2.04g、ペクチン(和光純薬工業株式会社;りんご由来)0.60gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム8.56gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0055】
[実施例19]
塩化ナトリウム192.9gを精製水578.7gに溶解して水溶液とした。トップスプレー式流動層造粒装置(FL−LABO フロイント産業株式会社製)に、母粒子として重炭酸ナトリウム100g(平均粒子径:280μm)を投入し、給気温度60℃、風量0.4m/minの条件下で前記水溶液を噴霧すると同時に乾燥させて塩化ナトリウムでプレコーティングされた重炭酸ナトリウム粒子を得た(プレコーティング率;80%)。ここで、プレコーティング率とは、重炭酸ナトリウムの表面を所定量(透析用固形剤に含有される塩化ナトリウムの量であり、一般的に、重炭酸ナトリウムに対して、2.0〜3.5質量倍の任意量)の塩化ナトリウムでコーティングした時を100%とした場合に、実際にコーティングされた塩化ナトリウムの量の割合である。
【0056】
[実施例20]
図1に示される晶析装置を用いて塩化ナトリウム結晶成長による重炭酸ナトリウムの被覆造粒物を得た。すなわち、攪拌モーターbを具備する1000ml四つ口フラスコ(槽a)に塩化ナトリウム380.5gと精製水1000gを仕込んで45℃に設定したオイルバス(図示せず)で飽和水溶液を調製した。次に、晶析槽eに実施例19で得られた造粒物20gを仕込んだ後、熱交換器dに3〜10℃の冷水を循環した。次いで、オイルバスの温度を95℃に設定して、ポンプcにより0.325L/minの速度で塩化ナトリウム水溶液を循環させた。総コーティング率が100%になったときに結晶成長を止め、ろ過し、40℃で乾燥して塩化ナトリウムの結晶成長により更に密な被覆層を形成した造粒物を得た。ここで、総コーティング率とは、重炭酸ナトリウムの表面を所定量(透析用固形剤に含有される塩化ナトリウムの量であり、一般的に重炭酸ナトリウムに足して、2.0〜3.5質量倍の任意量)の塩化ナトリウムでコーティングした時を100%とした場合に、プレコーティングされた塩化ナトリウムと結晶成長により被覆された塩化ナトリウムの合計の割合である。
【0057】
[実施例21]
実施例20から得られた被覆造粒物100gをトップスプレー式流動層造粒装置(FL−LABO フロイント産業株式会社製)に母粒子として投入し、給気温度60℃、風量0.4m/minの条件下で、塩化カルシウム2.6g、塩化マグネシウム1.2g及び酢酸ナトリウム5.7gを精製水28.5gに溶解した水溶液を噴霧すると同時に乾燥させた。更に、ポリアクリル酸0.94gを精製水100gに溶解した水溶液を噴霧すると同時に乾燥させた。次いで、得られた造粒物に酢酸1.4gを添加して混合後、塩化カリウム1.7g及びブドウ糖11.6gを混合して一剤型透析用固形剤を得た。
【0058】
[比較例1]
塩化ナトリウム43.34g、塩化カリウム1.06g、塩化カルシウム二水和物1.57g、塩化マグネシウム六水和物0.73g、無水酢酸ナトリウム3.51g、酢酸0.86g、ブドウ糖7.13gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム29.96gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0059】
[比較例2]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、無水酢酸ナトリウム1.88g、酢酸0.46g、ブドウ糖3.82gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0060】
[比較例3]
塩化ナトリウム12.39g、塩化カリウム0.30g、塩化カルシウム二水和物0.45g、塩化マグネシウム六水和物0.21g、無水酢酸ナトリウム1.00g、酢酸0.24g、ブドウ糖2.04gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム8.56gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0061】
[比較例4]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、無水酢酸ナトリウム1.88g、クエン酸0.61g、ブドウ糖3.82gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0062】
[比較例5]
塩化ナトリウム23.22g、塩化カリウム0.57g、塩化カルシウム二水和物0.84g、塩化マグネシウム六水和物0.39g、クエン酸ナトリウム2.25g、クエン酸0.61g、ブドウ糖3.82gを水に溶解し、200mlとした(A液)。また、重炭酸ナトリウム16.05gを水に溶解し、500mlとした(B液)。
【0063】
[試験例1]
実施例1〜18、比較例1〜5で調製を行ったA液200mlとB液300mlを攪拌混合して、各混合濃厚液を調製した。各混合濃厚液の濃度を表1に示す。なお、混合濃厚液の濃度は、式(1)により計算され、例えば実施例1については、次のとおりに計算される。
(58.20+29.96×3/5)÷544×100=14(質量%)
【0064】
【表1】

【0065】
攪拌状態における混合濃厚液中のCa2+濃度を測定した。Ca2+濃度の測定は、「カルシウムC−テストワコー(OCPC法)」に準じて行った。更に詳細には、試料0.05mlに0.88Mモノエタノールアミン緩衝液(pH11.0)5.0mlを添加してよく混合した後、オルトクレゾールフタレインコンプレクソン(OCPC)0.63mmol/lと8−キノリノール69mmol/lとを混合した発色試薬0.5mlを添加してよく混合し、5分以上恒温槽(25℃)にて放置した後、2時間以内に波長570nmにおける吸光度の測定を行った。尚、測定は株式会社島津製作所製紫外可視分光光度計UV−2450を使用した。Ca2+濃度の測定結果及びこの結果から評価した炭酸塩の析出抑制効果を表2に示す。炭酸塩が生成すると混合濃厚液中のCa2+濃度が低下することから、Ca2+濃度の測定結果により炭酸塩の析出抑制効果が評価できる。この結果より、ポリアクリル酸を用いて、混合濃厚液を7.5〜15質量%に調製した時、24時間以上の炭酸塩の析出抑制効果が得られた。また、カゼインホスホペプチドを用いて、混合濃厚液を7.5〜10質量%に調製した時、6時間の炭酸塩の析出抑制効果が得られた。尚、抑制時間については、Ca2+濃度が0時間経過時(理論値3.00mEq/L;上限5%増、下限5%減とし、その値は2.85〜3.15mEq/Lを考慮)に比べ5%以下の減少を許容範囲とし、評価を行った。尚、0時間後は、混合直後の値である。
【0066】
【表2】

【0067】
[試験例2]
〔実施例6〕で調製を行った混合濃厚液を24時間経過後に、及び〔実施例11〕で調製を行った混合濃厚液を6時間経過後に、それぞれサンプリングした後、各サンプルを1質量%になるように希釈し、希釈液中のポリアクリル酸及びカゼインホスホペプチド含有量の測定を行った。また、調製を行った希釈液を限外ろ過法(sartorius社製;ビバスピン20;分画分子量3,000)によりろ過し、ろ過後の水溶液についても同様にポリアクリル酸及びカゼインホスホペプチド含有量の測定を行った。尚、測定は株式会社島津製作所製紫外可視分光光度計UV−2450を使用した。測定波長については下記に示す。ポリアクリル酸及びカゼインホスホペプチド含有量の測定結果及びこの結果から評価したポリアクリル酸又はカゼインホスホペプチドの膜除去率を表3に示す。この結果より、ポリアクリル酸を用いて混合濃厚液を調製した場合、限外ろ過法を用いることにより、94%除去できることが確認できた。また、カゼインホスホペプチドを用いて混合濃厚液を調製した場合、限外ろ過法を用いることにより、80%除去できることが確認できた。
測定波長
ポリアクリル酸;207.0nm
カゼインホスホペプチド;205.0nm
【0068】
【表3】

【0069】
〔試験例3〕
〔実施例6〕で調製を行った混合濃厚液を0時間又は24時間経過後に、〔実施例11〕で調製を行った混合濃厚液を0時間又は6時間経過後に、及び〔比較例2〕で調製を行った混合濃厚液を0時間又は6時間経過後に、それぞれサンプリングした後、各サンプルを1質量%になるように希釈し、この希釈液を試験例2と同様にしてろ過した。得られたろ液を10倍希釈してNa、K、Mg2+、Ca2+,CHCO、HCOの各電解質濃度を東ソー株式会社製イオンクロマトグラフにより測定を行った。分析条件を下記に示す。但し、〔比較例2〕のろ過法に関してはADVANTEC社製のディスミック25HP020AN(孔径0.20μm)によりろ過を行った。また、各電解質濃度測定結果を表4に示す。
アニオン測定(CHCO
装置;TOSOH ION CHROMATOGRAPH
カラム;TSKguardcolumn SuperIC−AP
TSKgel SuperIC−AP
カラム温度;40℃
サンプル量;30μL
溶離液;0.3mmol/L Na・10HO+2.1mmol/L NaHCO+2.5mmol/L NaCO
流量;0.80ml/min
アニオン測定(HCO
装置;TOSOH ION CHROMATOGRAPH
カラム;TSKgel SCX(H
カラム温度;40℃
サンプル量;30μL
溶離液;0.2mmol/L HPO
流量;0.40ml/min
カチオン測定
装置;TOSOH ION CHROMATOGRAPH
カラム;TSKguardcolumn SuperIC−C
TSKgel SuperIC−Cation
カラム温度;40℃
サンプル量;30μL
溶離液;2.5mmol/L HNO+0.5mmol/L L−ヒスチジン
流量;1.00ml/min
【0070】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の重炭酸透析用剤は、腎不全患者の透析療法に使用される重炭酸透析液調製用の透析用剤として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】図1は、実施例20で用いた晶析装置を説明する図である。
【符号の説明】
【0073】
a:飽和水溶液を調製する槽
b:攪拌モーター
c:ポンプ
d:熱交換器
e:晶析槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、pH調整剤、ブドウ糖及び重炭酸ナトリウムを含有する重炭酸透析用剤において、更に炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物を含むことを特徴とする重炭酸透析用剤。
【請求項2】
炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物がリン酸基、水酸基、カルボキシル基からなる群から選ばれた少なくとも一種以上の基を有する化合物である、請求項1記載の重炭酸透析用剤。
【請求項3】
炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物が糖類である、請求項1記載の重炭酸透析用剤。
【請求項4】
炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物が金属イオンと相互作用を有する化合物である、請求項1記載の重炭酸透析用剤。
【請求項5】
炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物がポリアクリル酸及び/又はカゼインホスホペプチドである、請求項1記載の重炭酸透析用剤。
【請求項6】
ポリアクリル酸の添加量が透析用剤中の塩化カルシウム1g当り0.05〜2.0gであり、又はカゼインホスホペプチドの添加量が透析用剤中の塩化カルシウム1g当り0.5〜5.0gである、請求項5記載の重炭酸透析用剤。
【請求項7】
塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、pH調整剤、ブドウ糖及び重炭酸ナトリウムに加えて、更に炭酸塩の析出抑制効果を有する化合物を含有する重炭酸透析用剤であって、重炭酸透析用剤から調製した2〜15質量%濃度の混合濃厚液が保存安定性に優れている、重炭酸透析用剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−264508(P2008−264508A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47905(P2008−47905)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】