説明

重量コンクリートの打継方法

【課題】
コンクリートのスランプを大きくすると、コンクリート中の骨材が沈降し、鉛直方向に密度のバラツキを生じる。放射線遮蔽体として用いる場合、この密度のバラツキを補正し、必要な密度を確保する必要がある。
本発明では、施工性の良いスランプが大きい重量コンクリートを、鉛直方向のいずれの位置に置いても水平方向の密度に不足がないよう施工できるようにした。
【解決手段】
スランプの大きい重量コンクリートでは、コンクリート中で骨材が沈降し、打継高さの上方では密度が不足し、下方では密度が大きくなる。又、打ち込み高さが高くなるほど、その上方と下方の差は大きくなる。水平方向で密度を一定値以上にするには、この密度の小さい上方の部分に密度の大きい下方部分が組み合わさればよい。そのため、打継部に複数の段差を設け、水平方向の密度を一定値以上にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量コンクリート打継方法に関し、特にスランプの大きい重量コンクリートを鉛直方向のいずれの位置においても水平方向に一定以上の密度を確保する打継方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線遮断等に用いられる重量コンクリートは、骨材に鉄鉱石等の密度の大きいものを使用し、その密度を普通のコンクリートの密度(2.2t/m)より大きく(3.0〜4.0t/m)している。
【0003】
従来の重量コンクリートは、
1.骨材の沈下を防止するため、スランプが0〜5cm程度であった。
【0004】
2.コンクリートミキサー車での運搬・荷下ろしが困難であるため、施工現場内でコンクリートを製造していた。
【0005】
3.ポンプ車での圧送は不可能であり、ホッパー等を使って打設せざるをえず、打ち足し部でのコールドジョイントの不安があった。
【0006】
4.1日の打設量も30m程度であり、大量の重量コンクリートを打設するには日数が必要であった。
【0007】
又、重量コンクリートの骨材が分離しないための方法として、重量骨材とモルタルでフレッシュコンクリートを構成するとともにモルタルに短繊維等の移動阻害材を添加する方法(特許文献1)、又はコンクリートに水溶性メチルセルロース等の増粘材を添加する方法が行われている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2001−48624号公報
【特許文献2】特開平8−283058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
重量コンクリートのスランプを大きくすることにより、コンクリートミキサー車での運搬・荷下ろしが容易となり、又、ポンプ圧送が可能になるなど、施工性の改善が可能である。又、ミキサー車での運搬が可能になると既存のコンクリートプラントでのコンクリート製造が可能になり、施工現場が狭くても重量コンクリートを施工することができる。更に、施工性が改善されることにより、1日の打設量も増やすことができ、大量の重量コンクリートを短期間で施工することができる。しかし、スランプを大きくすると、コンクリート中の骨材が沈降し、鉛直方向に密度のバラツキを生じる。遮蔽体として用いる場合、この密度のバラツキを補正し、必要な密度を確保する必要がある。
【0009】
本発明では、施工性の良いスランプが大きい重量コンクリートを、鉛直方向のいずれの位置においても水平方向の密度に不足がないよう施工できるようにした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
スランプの大きい重量コンクリートでは、コンクリート中で骨材が沈降し、打継高さの上方では密度が不足し、下方では密度が大きくなる。又、打ち込み高さが高くなるほど、その上方と下方の差は大きくなる。水平方向で密度を一定値以上にするには、この密度の小さい上方の部分に密度の大きい下方部分が組み合わさればよい。そのため、本発明においては、打継部に複数の段差を設け、水平方向の密度を一定値以上にする。実施方法は、重量コンクリートの鉛直方向の密度分布傾向を実験により把握し、確認された密度分布に従って、打継部の階段状段差の高さと数を決定する。
【0011】
即ち、本発明は、壁体の厚さ方向の段差が設けられるように打継部に仕切り壁を設け、それぞれの高さまでコンクリートを打設して高さ方向に段差のある下方壁体を形成し、その下方壁体上にコンクリートを打設して上方壁体を形成することにより、コンクリートからなる壁体の水平方向の密度が一定値以上になるように、打継部に複数の段差を設けた重量コンクリートの打継方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、施工性のよい重量コンクリートを施設建設工事に適用することが可能となり、工期の短縮や工事費の低減といった効果が期待できる。
【実施例】
【0013】
本発明は、J−PARC(大強度陽子加速器施設)の物質・生命科学実験施設中性子源ターゲット生体遮蔽体の重量コンクリート打設に用いられた。
【0014】
図1は、上記生体遮蔽体のコンクリート打設において行われた事前試験で得られた重量コンクリートの鉛直方向の密度分布を示す図であり、打継高さ575mm、バイブレーターによる加振時間30秒のものである。試験方法は、高さ1300mm、縦1000mm、横1800mmの型枠に、横方向の中央に150mmの打継段差を設けた試験体に、300mm程度の高さ毎にコンクリートの打ち込みを行い、バイブレーターによりそれぞれ15秒間と30秒間の加振を行った。初日に575mm及び725mmの高さまでコンクリートを打設し、2日後その上に13000mmまでコンクリートの打設を行った。コンクリートの硬化後、縦方向にコア試験体を採取し、高さ方向に100mmごとに切断し密度を計測した。図において各高さの密度はその切断片の中心高さで表している。打継部の上下に関わらず、コンクリートの密度はその打ち込み高さの下層ほど大きく、上層へ行くにしたがって小さくなっている。特に打継部下方は打継部近辺で、打継部上方では最上部近辺で密度が極端に小さくなっている。
【0015】
図2は、事前試験で得られた重量コンクリートの密度分布から求めた、打ち込み高さごとの密度分布予測値を示す図であり、重量コンクリートの打設高さが、それぞれ、600mm、850mm、1,100mm、1、450mmの場合の高さ方向の密度分布を示したものである。この図において密度はその平均値である3.723t/m3を基準値として1.0とし、それぞれ3.723t/m3で除した値で表されている。
【0016】
図3に、1層目の重量コンクリートの打ち込み高さを850mm±250mm、2層目を1450mmとし、打継段差は250mmを3段とした場合の遮蔽体の厚さ方向の断面が示されている。
【0017】
図4に、図3に示した遮蔽体の、密度分布予測に基づく各高さでの水平方向の密度分布が示されている。そこでは図2で示したそれぞれの打設高さの密度分布を組み合わせることにより、鉛直方向のいずれの位置でも、水平方向で一定の値(管理値=3.5t/m,0.940)以上を満足している。例えば、600mmの高さでの密度は、600mmの打設高さのみでは、0.90程度となり一定値を満足できないが、打設高さ850mmと1100mmを組み合わせることによって0.97程度となり一定値を満足している。また、1100mmの高さでは、250mm及び500mm下方から打ち込まれているコンクリートにより0.98以上と一定値よりかなり大きくなっている。更に、2層目の最も低い打継となる2050mmの高さでも、段差を設けることにより一定値以上の密度を確保している。これ以上の層についても同様の効果が得られるため、鉛直方向のいずれの位置においても、水平方向の密度は一定値以上を確保することが出来る。したがって、本発明においては、打継部に複数の段差を設けて重量コンクリートを打継ぐことにより、重量コンクリートの水平方向の密度が一定値以上になるようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
放射線を利用する実験施設や医療施設の計画において、遮蔽体に重量コンクリートを適用することが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例で行った、事前試験で得られた重量コンクリートの鉛直方向の密度分布を示す図である。
【図2】事前試験で得られた重量コンクリートの密度分布から求めた、打ち込み高さごとの密度分布予測値を示す図である。
【図3】実施例で行った打継部の位置及び形状を示す図である。
【図4】密度分布予測に基づく、各高さでの横方向の密度分布を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量コンクリートの横段方向の密度が一定値以上になるように、打継部に複数の段差を設けた重量コンクリートの打継方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−231692(P2007−231692A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57652(P2006−57652)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】