説明

重量差測定装置

【課題】自動車等の重量物であっても、加工前後の重量差を高精度に測定する。
【解決手段】揺動可能な測定台3の支点2より一方側の載置部3aに被計測物(自動車10)を載置すると共に、測定台3の支点2より他方側の錘載置部3bに自動車10とほぼ同重量の錘20を載置する。このときの測定台3の揺動により荷重測定器4が受ける荷重M1を測定し、この荷重M1に基づいて、加工前の自動車10と錘20との重量差δ1を測定する。同様にして、加工後の自動車10’及び錘20の重量差δ2を測定し、これらの重量差δ1及びδ2の差を計算することで、加工前後の自動車の重量差を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被計測物の加工前後の重量差を測定する重量差測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のような重量物の重量を測定する装置としては、例えば特許文献1に示されているようなロードセルを用いたものが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−93389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車の製造工程では、加工前後の自動車の重量差を計測することが必要な場合がある。例えば、自動車の塗布効率(自動車に塗料を効率よく塗ることができているか否か)を検証するために、塗料の塗着効率(車体に塗布した塗料の重量/使用した塗料の重量)を測定することがある。この塗着効率を測定する方法として、塗料を塗布する前の車体重量と、塗料を塗布した後の車体重量とをそれぞれ測定し、これらの測定値の差から車体に塗布された塗料の重量を測定する場合がある。しかし、一般に、荷重測定器は、最大測定可能重量が大きいほど測定精度が低くなるため、例えば上記のようなロードセルを用いて車体重量を測定する場合、測定精度はせいぜい1%程度であり、300kgの車体であれば約3kgの誤差が生じてしまう。車体に塗布される塗料の重量は数kgであり、塗着効率を測定するためには1g単位の測定精度が要求されるため、上記のような3kgの誤差が生じる測定装置では車体に塗布された塗料の重さを正確に測定することはできない。
【0005】
例えば、車体に塗布された塗料を測定する方法として、以下のような方法がある。(1)車体の表面全面をアルミ箔で被覆し、(2)この状態で車体に塗料を塗布した後、(3)車体からアルミ箔を剥がし、(4)塗布前のアルミ箔の重量と塗布後のアルミ箔の重量との差から、車体に塗布された塗料の重量を測定する。しかし、車体の表面全面をアルミ箔で被覆する工程や、車体からアルミ箔を剥がす工程は非常に手間がかかるため、作業工数が膨大となる。
【0006】
上記のような問題は、自動車の塗料の塗布前後の重量差を測定する工程に限らず、重量物の加工前後の重量差を測定する場合に同様に生じる。
【0007】
本発明の解決すべき技術的課題は、重量物であっても、加工前後の重量差を高精度に測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた本発明は、被計測物の加工前後の重量差を測定するための重量差測定装置において、支点を中心に揺動可能であって、被計測物を載置するための載置部を支点の一方側に有すると共に、錘を載置するための錘載置部を支点の他方側に有する測定台と、測定台の下方又は上方に設けられ、測定台の揺動により測定台から受ける荷重を測定する荷重測定器と、荷重測定部による測定荷重に基づいて、加工前の被計測物と錘との重量差、及び、加工後の被計測物と錘との重量差を求め、これらの重量差の差を計算する計算部とを備えたものである。
【0009】
上記の重量差測定装置によれば、測定台の支点を挟んだ両側に被計測物及び錘を載置した状態で、測定台から受ける荷重を荷重測定器で測定し、この測定荷重に基づいて被計測物と錘との重量差を求めることができる。この場合、荷重測定器は、被計測物の全重量を測定可能なものである必要はないため、最大測定可能重量が比較的小さく、測定精度が高いものを使用することができ、これにより被計測物と錘との重量差を精密に測定することが可能となる。よって、加工前の被計測物の重量W1と錘の重量Wとの差δ1(=W1−W)、及び、加工後の被計測物の重量W2と錘の重量Wとの差δ2(=W2−W)をそれぞれ測定し、これらの重量差δ1、δ2の差を計算することで、加工前後の被計測物の重量差δ(=δ2−δ1=W2−W1)を精密に測定することができる。
【0010】
載置部に載置される被計測物の位置が加工前後でずれると、特に、被計測物の重心と支点との距離が加工前後でずれると、重量差の測定精度が低下するため、載置部に、被計測物を所定位置に位置決めする位置決め部を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明の重量差測定装置によれば、自動車等の重量物であっても、加工前後の重量差を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る重量差測定装置の側面図である。
【図2】他の実施形態に係る重量差測定装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
本発明の一実施形態に係る重量差測定装置1は、図1に示すように、支点2を中心に揺動可能な測定台3と、荷重測定器4と、計算部5とを備える。本実施形態では、被計測物が自動車である場合を示す。
【0015】
測定台3は、支点2の一方側(図中左側)に、自動車10が載置される載置部3aが設けられ、支点2の他方側(図中右側)に、錘20が載置される錘載置部3bが設けられる。支点2は、測定台3の揺動中心であり、図1の紙面と直交する方向に延びる。尚、以下の説明では、測定台3の支点2に対して一方側(図中左側)を「自動車側」、他方側(図中右側)を「錘側」と言う。
【0016】
重量差測定装置1には、測定台3の揺動を所定位置で規制するストッパが設けられる。図示例では、測定台3の自動車側端部に下方から当接する第1ストッパ6aと、測定台3の錘側端部に下方から当接する第2ストッパ6bとが設けられる。第1ストッパ6a及び第2ストッパ6bは、何れも水平状態の測定台3から少し下方に離隔した位置に配される。
【0017】
荷重測定器4は、測定台3の下方で、支点2より自動車側に設けられ、測定台3の下面と当接している。荷重測定器4は、測定台3が水平状態から揺動したときに測定台3から受ける荷重を測定可能とされる。すなわち、測定台3が水平状態のときは荷重測定器4の測定荷重が0となり、測定台3の自動車側が下方に揺動することにより荷重測定器4に荷重が加わり、この荷重が測定される。荷重測定器4としては、最大測定可能重量が比較的小さく、測定精度の高いものを使用可能であり、例えば高精度電子はかりが使用可能である。
【0018】
以下、上記構成の重量差測定装置1を用いた自動車の加工前後の重量差測定方法を説明する。本実施形態では、塗装工程前後の自動車の重量差を測定することで、自動車に対する塗料の塗着効率を測定する場合を示す。
【0019】
まず、測定台3の錘載置部3bに錘20を載置する。このとき、測定台3は錘側が下方に揺動し、測定台3の錘側端部が第2ストッパ6bで下方から支持される。錘20は、自動車10とほぼ同重量であり、且つ、自動車10の重量を超えない重量とされる。具体的には、自動車10の重量W1と錘20の重量Wとの差が、荷重測定器4の最大測定可能重量の範囲内で、なるべく小さくなるように設定される。尚、測定対象の車種が異なった場合には錘20の重量を変更する必要が生じるため、錘20は重量を調整可能であることが好ましく、例えば複数の調整用錘を組み合せて重量を調整可能な構成とすることができる。
【0020】
次に、測定台3の載置部3aに塗装前の自動車10を載置する。本実施形態では、自動車10及び錘20が支点2から等距離の位置に載置される(L10=L20)。このとき、自動車10の重量W1は錘20の重量Wよりも若干重いため、測定台3の自動車側が下方に揺動し、これにより荷重測定器4が測定台3から下向きの荷重M1を受け、この荷重M1が荷重測定器4により測定される。このとき、図1に示すように、自動車10の重量W1、錘20の重量W、及び、荷重測定器4による支持力R1(測定台3から受ける荷重M1を支持する力)によるモーメントが釣り合った状態となる。このときの荷重測定器4による測定荷重M1が計算部5に伝達され、この測定荷重M1と、自動車10の重心と支点2との距離L10と、錘20の重心と支点2との距離L20と、荷重測定器4の測定点と支点2との距離LRとに基づいて、自動車10の重量W1と錘20の重量Wとの差δ1(=W1−W)が計算される。尚、自動車10及び錘20と支点2からの距離は、必ずしも等距離である必要はない。
【0021】
尚、自動車10の重量W1と錘20の重量Wとの差δ1が過大であると、測定台3の自動車側端部が下方に大きく揺動し、荷重測定器4に過剰な負荷が加わって荷重測定器4が損傷する恐れがある。このような場合、第1ストッパ6aが測定台3の自動車側端部を下方から支持することで、荷重測定器4に過剰な負荷が加わることを防止する。
【0022】
そして、塗装前の自動車10を載置部3aから搬出し、自動車10に塗装を施した後、塗装後の自動車10’を再び載置部3aに載置する。そして、自動車10’の重量W2、錘20の重量W、及び、荷重測定器4による支持力R2によるモーメントが釣り合った状態となり、このときの荷重測定器4に加わる荷重M2が測定される。この測定荷重M2が計算部5に伝達され、この測定荷重M2と、上述の距離L10、距離L20、及び距離LRとに基づいて、自動車10’の重量W2と錘20の重量Wとの差δ2(=W2−W)が計算される。
【0023】
その後、計算部5で、塗装前の自動車10と錘20との重量差δ1と、塗装後の自動車10’と錘20との重量差δ2との差δ(=δ2−δ1=W2−W1)が計算され、この値が自動車10に塗布された塗料の重量となる。このとき、錘20の重量Wがキャンセルされるため、錘20の重量Wの精度に関わらず、塗布の重量を測定することができる。また、上記のように、測定精度の高い荷重測定器4で荷重M1、M2が測定されるため、これに基づいて計算される重量差δ1、δ2の精度も高い。従って、この重量差δ1、δ2から塗料の重量を求めることで、塗料の重量を高精度に測定することが可能となる。
【0024】
本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、加工前後の被計測物の重量によるモーメントを正確に対比するには、加工前後の被計測物を載置部3a上の同じ場所に載置する必要があるため、載置部3aに位置決め部を設けることが好ましい。特に、被計測物と支点との距離はモーメントの大きさに直結するため、加工前後の被計測物と支点2との距離を等しくすることが重要となる。従って、例えば、支点2の延在方向と直交する水平方向(図1の左右方向)で被計測物と当接する位置決め部を設けることができる(図示省略)。
【0025】
また、上記の実施形態では、荷重測定器4を自動車の重心より支点2側に設けた場合(LR<L10)を示しているが、これに限られない。例えば、図2に示すように、荷重測定器4を自動車の重心の真下に配置してもよい(LR=L10)。また、同図に点線で示すように、荷重測定器4を自動車の重心より外側(支点2から離れる側)に配置してもよい(LR>L10)。あるいは、同図に一点鎖線で示すように、荷重測定部4を支点2よりも錘側に設けてもよい。この場合、荷重測定器4が測定台3の上方に設けられ、測定台3の上面に当接する。そして、測定台3の錘側が上方に揺動したとき、荷重測定器4に加わる荷重が測定される。これらの荷重測定器4の位置のうち、図2に実線で示すように自動車の重心の真下に配置することが最も好ましい。荷重測定器4を自動車より支点2側に設けると、最大測定可能重量の大きい荷重測定器4が必要となって測定精度の低下が懸念され、荷重測定器4を自動車より外側に設けると、測定台3を外側に延ばして設備スペースを拡大する必要が生じる恐れがあるためである。尚、図2では、計算部5やストッパ6a、6bの図示は省略している。
【0026】
また、上記の実施形態では、自動車の塗装前後の重量差を測定する場合を示したが、これに限られない。例えば、重量物の機械加工前後の重量差を測定することで、機械加工により除去された材料の重量を測定し、歩留まりを評価することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 重量差測定装置
2 支点
3 測定台
3a 載置部
3b 錘載置部
4 荷重測定器
5 計算部
10 (塗装前の)自動車
10’ (塗装後の)自動車
20 錘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測物の加工前後の重量差を測定するための重量差測定装置において、
支点を中心に揺動可能であって、被計測物を載置するための載置部を前記支点の一方側に有すると共に、錘を載置するための錘載置部を前記支点の他方側に有する測定台と、前記測定台の下方又は上方に設けられ、前記測定台の揺動により前記測定台から受ける荷重を測定する荷重測定器と、前記荷重測定部による測定荷重に基づいて、加工前の前記被計測物と前記錘との重量差、及び、加工後の前記被計測物と前記錘との重量差を求め、これらの重量差の差を計算する計算部とを備えた重量差測定装置。
【請求項2】
前記載置部に、前記被計測物を位置決めする位置決め部を設けた請求項1記載の重量差測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−88393(P2013−88393A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231775(P2011−231775)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)