説明

重量物移動装置

【課題】 型鋼からなる軌条でも直進性に優れ、更に、非平行の軌条、段差に関係なく安定した移動が可能な重量物移動装置を提供することにある。
【解決手段】 軌条5上面のレール6上に、合成樹脂製の鍔付車輪を備えた移動台車1を走行可能に載置し、該移動台車の一方端に水平押動ジャッキ2を連結すると共に、その水平押動ジャッキの他端に、前記軌条に対して固着/開放切り替え自在な反力クランプ3を連結し、移動台車の他方端には、前記軌条に対して固着/開放切り替え自在な惜しみクランプ4を連結した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重量物移動装置に係り、更に詳しくは総重量が100トン〜150トン位の比較的軽量な範囲に属する橋桁等の重量物を移動する移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
橋桁等の重量物の中でも、総重量が100トン〜150トン程度の比較的軽量な範囲に属する橋桁等を架設する場合、その重量物を載承して横送り移動するのに使用する移動装置は、1台100トンの能力を持った装置ではオーバースペックになる。
橋桁架設工事を行う場合の現場の予算は、橋桁(重量物)の重量により算出され、当然予算に合った移動装置が必要になる。
【0003】
上記したように橋桁の重量が比較的軽い場合、従来は重量物移動用エンドレスコロ(例えば、チルタンク(登録商標))とウインチ、或いはチルホール(登録商標)等の牽引手段を用い、人力で重量物を移動させていた。
例えば、図6に示すように、橋桁W’を橋脚上の所定位置へ横送り(横移動)する場合、橋脚B’上に軌条11を設置し、その軌条11上面に、橋桁(重量物)B’を載承する重量物移動用エンドレスコロA’を複数台(図面は2台)載せ、そのエンドレスコロの上に橋桁を載せ、重量物の進行方向前側と後側にそれぞれワイヤーロープ12,12’を連結し、その進行方向前側のワイヤーロープ12をチルホールなどの牽引手段13で引っ張り、進行方向後側(惜しみ側)のワイヤーロープ12’はウインチやチルホール(登録商標)等13’で該ワイヤーロープ12’の張り具合を見て、緩めて移動している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記移動装置はワイヤーロープを使用するため、スムーズな移動ができにくいという問題点を有する。特に、橋桁を横送りするのに使用する場合には、各橋脚上に軌条を平行に設置するが、何十mも離れた橋脚相互間で軌条の平行度を管理することは困難である。
一方、重量物移動用エンドレスコロのコロは金属製であり、従って、軌条との接触は金属同士の接触となる。しかし、金属同士に摩擦係数は大きいため、非平行軌条では、上記した人力による移動が困難となり、その場合は別のジャッキを用いて一旦重量物をジャッキアップし、重量物移動用エンドレスコロの方向を目測で修正し、ジャッキダウンして再度重量物を載せ替え、移動を行っていた。
【0005】
又、軌条は通常、型鋼(H型鋼)を何本か継ぎ足したものを使用するが、型鋼の繋ぎ目では、重量物側が低くなり、段差が生じる。しかし、金属製のコロでは変形しないため、軌条に段差があるときには該段差を通過することができず、この場合も一旦ジャッキアップし、低い側の軌条下にライナープレート等により高さ調整を行い、移動を行っていた。
尚、重量物移動用エンドレスコロの場合、移動は直進が原則で、その為に溝型鋼(レール)を使用し、溝内にコロを入れて移動させるのが基本であるが、橋脚上に溝型鋼を敷設することが困難であるため、型鋼を設置し、その上面を移動させている。
尚、上記移動装置に関する文献の存在については不知である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した従来の技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、型鋼からなる軌条でも直進性に優れ、更に、非平行の軌条、段差があっても安定した移動が可能な移動装置を提供することにある。
又、他の目的は、重機のない場所でも、人力で持ち運び、組み立て可能な移動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の重量物移動装置は、レール上に、合成樹脂製の鍔付車輪を備えた移動台車を走行可能に載置し、該移動台車の一方端に水平押動ジャッキ(油圧ジャッキ)を連結すると共に、その水平押動ジャッキの他端に、前記軌条に対して固着/開放切り替え自在な反力クランプを連結し、移動台車の他方端には、軌条に対して固着/開放切り替え自在な惜しみクランプを連結したことを特徴とする(請求項1)。
上記移動装置を構成する移動台車、水平押動ジャッキ、反力クランプ、惜しみクランプは人力により運搬でき、且つ各部材を人力により組み立て可能な大きさに構成する。
【0008】
上記手段によれば、移動台車上に重量物を搭載し、軌条に係合する反力クランプで水平押動ジャッキの反力を取り、水平押動ジャッキを伸長することで、前記移動台車を移動できる。そして、伸長した水平押動ジャッキを収縮する時(停止時)は、惜しみクランプを軌条に係合させて装置の逸走を防止する。前記動作を繰り返すことで重量物を所定位置へ移動することができる。
そして、移動台車の車輪が合成樹脂製の車輪である為、軌条及びレールとの摩擦係数は金属同士の摩擦係数に比べて小さく、それにより軌条が非平行でもレールと車輪間で滑りが生じ、一旦ジャッキアップするなどの盛り替えを行うことなく移動が可能となる。又、段差部があっても、車輪の変形でスムーズに乗り越えることができる。
【0009】
前記レールは、H型鋼の上フランジ上面に平鋼を載置して構成し、その平鋼を跨いで移動台車の鍔付車輪が走行するように構成する(請求項2)。
上記手段によれば、車輪の鍔の内側面が平鋼の幅方向端縁に当接するため、直進性に優れる。
【0010】
更に、前記反力クランプ及び惜しみクランプは、前記軌条を構成するH型鋼の上フランジの幅方向の一方端に当接する受けプレートと、他方端を押圧する油圧押付ジャッキとで、フランジを締め付け固定する構成とする(請求項3)。
上記手段によれば、反力クランプ及び惜しみクランプは軌条のフランジを挟み締め付けて固定するため、重量物の移動に伴う反力クランプ及び惜しみクランプの移動を、H型鋼の上下フランジ間に溶接されるリブの存在に関係なく、連続的に移動できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の重量物移動装置は、請求項1記載の構成により、
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る重量物移動装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、重量物移動装置Aの概要を示し、図中、1は重量物Wを搭載する移動台車で、その移動台車1の移動方向の一方端に水平押動ジャッキ2の基端側が連結されると共に、水平押動ジャッキ2のロッド先端に反力クランプ3が連結され、前記移動台車1の他方端には惜しみクランプ4が連結されて構成されている。
そして、この重量物移動装置Aは、橋脚B上に設置した軌条5上のレール6に沿って移動するように構成されている。
【0013】
橋脚B上に設置する軌条5としては、橋梁の架設現場等で一般的に使用されるH型鋼(例えば、幅:300mm、高さ:300mm)を使用し、このH型鋼の上フランジ5a上面に、平鋼を載置してレール6が構成されている。レール6を構成する平鋼は、例えば幅:100mm、厚さ:12mmの鋼鈑を使用する。又、軌条5を構成するH型鋼には、上下フランジ5a,5b間に所定の間隔を置いてリブ5cが溶接固定されている。
【0014】
移動台車1は、フレーム1aのセンタープレートの周囲に鍔付車輪1bを配し、その鍔付車輪1bをリンクプレートとピンでエンドレスに連結し、フレーム1aの上面に重量物を載承するブラケットプレート1cが水平に取り付けられて構成されており、その大きさは人力で運搬可能な大きさ、例えば、全長:1000mm、高さ:300mm以下とする。
上記移動台車1を前記レール6に沿って移動させる鍔付車輪1bは、合成樹脂製、例えばナイロン系の樹脂材で成形され、レール6に多少の段差があっても該鍔付車輪1bが変形して段差部を乗り越えることができるように構成されている。又、鍔付車輪1bにおけるつばの突出量は、少なくとも前記レール6を構成する平鋼の厚さの範囲内とする。
又、移動台車1におけるブラケットプレート1cの長さ方向両側の下面中央位置には取付片7,7’が溶接等によって一体的に垂下固着されている。
【0015】
上記移動台車1に推力を付与する水平押動ジャッキ2は、複動シリンダタイプの小型の油圧ジャッキ(例えば、能力:17トン、ストローク:400mm)を使用し、シリンダの基部には移動台車1の取付片7と連結する二山クレビス2aが形成され、ピン8の抜き差しにより分離/組立て自在に連結されている。
又、ロッド2b先端のピン穴部分はY形に構成され、ピン9で反力クランプ3と分離組立て自在に連結されている。尚、この水平押動ジャッキ2は、人力で運搬可能な重量、大きさのものを使用する。
更に、移動台車1の取付片7’には惜しみクランプ4がピン10で分離/組立て自在に連結されている。
【0016】
上記反力クランプ3は、前記軌条5における上フランジ5aの幅方向端面を両側から挟んで締め付け固定するもので、軌条5の上フランジ5a上に直角に交差して載置する台枠3aの下面の一側に受けプレート3bを垂下固着し、台枠3aの下面の他側に油圧押付ジャッキ3cが配置されて構成されている。
上記受けプレート3bは、軌条の上フランジ5aの長さ方向に沿って所定区間当接するように長尺棒状に形成され、表面は浸炭焼入れして耐摩耗性が向上されている。
それにより、該油圧押付ジャッキ3cを作動してロッドを突出させることで軌条5の上フランジ5aを受けプレートとで挾着し、反力クランプ3を軌条5に固定(クランプON)することができ、ロッドを元の位置に戻すことで挾着を開放(クランプOFF)することができる。尚、油圧押付ジャッキ3cのロッド先端は、上フランジ5aの端面に直接当接させてもよいが、接触面積の確保、或いは挾着部材の交換等を考慮した場合は、ロッド先端に上フランジ5aと接触する別部材を取り付けるのが有効である。尚、この反力クランプ3も人力で運搬できる範囲内の重量と大きさに形成されており、例えば、重量は約60kg、大きさは、縦:約300mm、横:約650mm、高さ:約300mmとする。
【0017】
上記惜しみクランプ4は、移動台車1の逸走を防止するもので、前記反力クランプ3と同様、軌条5の上フランジ5a上に直角に交差して載置する台枠4aの下面の一側に受けプレート4bを垂下固定し、台枠4aの下面の他側に油圧押付ジャッキ4cが配置されて構成されている。そして、上記受プレート4bは、軌条の上フランジ5aの長さ方向に沿って所定区間当接するように長尺棒状に形成され、表面は浸炭焼入れして耐摩耗性が向上されている。
それにより、該油圧押付ジャッキ4cを作動してロッドを突出させることで軌条5の上フランジ5aを受けプレート4bとで挾着し、惜しみクランプ4を軌条5に固定(クランプON)することができ、ロッドを元の位置に戻すことで挾着を開放(クランプOFF)することができる。尚、油圧押付ジャッキ4cのロッド先端は、上フランジ5aの端面に直接当接させてもよいが、接触面積の確保、或いは挾着部材の交換等を考慮した場合は、ロッド先端に上フランジ5aと接触する別部材を取り付けるのが有効である。尚、この惜しみクランプ4も人力で運搬できる範囲内の重量と大きさに形成されており、例えば、重量は約35kg、大きさは、縦:約250mm、横:約700mm、高さ:約300mmとする。
【0018】
次に、上記した重量物移動装置Aの動作を図5に基づいて説明する。
先ず、本移動装置Aを構成する移動台車1、水平押動ジャッキ2、反力クランプ3
及び惜しみクランプ4を軌条5上に運んで連結組み立て、しかる後、水平押動ジャッキ2、反力クランプ3及び惜しみクランプ4の各油圧ジャッキに油圧ユニットを接続して準備を完了する。この時、移動台車1の鍔付車輪1bは、軌条5上面に設置したレール(平鋼)6を跨ぐように載置する。
次に、反力クランプ3、惜しみクランプ4の何れか一方、又は両方をクランプONにして移動台車1が移動しないように保持し、その状態で移動台車1のブラケットプレート1c上に重量物Wを搭載する。
重量物Wを搭載した後、惜しみクランプ4を開放(クランプOFF)し、反力クランプ3を固定(クランプON)して、水平押動ジャッキ2をストロークさせる。それにより、移動台車1は図5(a)に示す矢印方向(図面では右方向)に移動される。この時、移動台車1と一緒に惜しみクランプ4も移動される。
水平押動ジャッキ2のストロークがストロークエンドに達した時点で、前記惜しみクランプ4を固定(クランプON)し、反力クランプ3は開放(クランプOFF)して、前記水平押動ジャッキ2を収縮させる。それにより、図5(b)に示すようにロッドに連結された反力クランプ3は軌条5に沿って水平押動ジャッキ2側に引き寄せられる。これで1サイクル(水平押動ジャッキの1動作)が終了したことになる。そして、停止時は惜しみクランプ4の作動で装置の逸走を防止できる。
水平押動ジャッキ2を収縮させ、反力クランプ3を引き寄せた位置で反力クランプを固定(クランプON)し、惜しみクランプ4を開放(クランプOFF)して水平押動ジャッキ2をストロークすれば、重量物Wは移動される(図5(c)参照)。
そして、重量物Wを移動する距離に応じて、上記した動作を繰り返し行うことで、該重量物Wを所定に位置まで移動することが出来る。
【0019】
上記移動装置により、重量物を搭載した移動台車1は合成樹脂製の鍔付車輪1bがレール(平鋼)6に沿ってスムーズに回転する為、直進性に優れる。しかも、樹脂製の車輪であるため、従来の金属製ローラを備えた重量物移動用エンドレスコロが軌条の繋ぎ目の段差部、或いは軌条が非平行である場合に、重量物を盛り替えるという煩わしい作業が必要とされたが、本装置においては盛り替えることなくそのまま連続して移動することができる。
【0020】
本発明の重量物移動装置は、図示の実施形態に限定されるものでは無く、本発明の要旨を変更しない範囲で変更可能である。
(1)反力クランプ及び惜しみクランプは、軌条のフランジ端面を締め付け固定する形態を図示したが、この形態に限らず、今日一般的に採用されているH鋼クランプ、例えば、楔タイプ等でもよいものである。
(2)移動台車1の鍔付車輪1bを取り付けたフレーム1aと、重量物を搭載するブラケットプレート1cは溶接等で固定してもよいが、分離/組立て自在としてもよい。その場合は、人力による運搬に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る重量物移動装置の実施の一例を示す斜視図。
【図2】同一部切欠正面図。
【図3】反力クランプ部を示す一部切欠拡大側面図。
【図4】惜しみクランプ部を示す一部切欠拡大側面図。
【図5】(a)、(b)、(c)は同装置による移動動作の工程を示す説明図。
【図6】従来の移動装置の概要を示す説明図。
【符号の説明】
【0022】
A…重量物移動装置 W…重量物
1…移動台車 1b…鍔付車輪
2…水平押動ジャッキ 3…反力クランプ
4…惜しみクランプ 5…軌条
6…レール(平鋼)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール上に、合成樹脂製の鍔付車輪を備えた移動台車を走行可能に載置し、該移動台車の一方端に水平押動ジャッキを連結すると共に、その水平押動ジャッキの他端に、前記軌条に対して固着/開放切り替え自在な反力クランプを連結し、移動台車の他方端には、軌条に対して固着/開放切り替え自在な惜しみクランプを連結したことを特徴とする重量物移動装置。
【請求項2】
前記レールは、H型鋼の上フランジ上面に平鋼を載置して構成され、その平鋼を跨いで移動台車の鍔付車輪が走行することを特徴とする請求項1記載の重量物移動装置。
【請求項3】
前記反力クランプ及び惜しみクランプは、前記軌条を構成するH型鋼の上フランジの幅方向の一方端に当接する受けプレートと、他方端を押圧する油圧押付ジャッキとで、フランジを挾着することを特徴とする請求項2記載の重量物移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−112572(P2007−112572A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305578(P2005−305578)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000200367)川田工業株式会社 (41)
【出願人】(390027513)大瀧ジャッキ株式会社 (26)