説明

重金属処理剤およびそれを用いた重金属処理方法

【課題】高濃度としても低温で固形分が析出しない、重金属処理剤として優れたピペラジンジチオカルバミン酸塩の提供。
【解決手段】
アルカリ水酸化物濃度が0.7重量%以下のピペラジンジチオカルバミン酸塩を含む重金属処理剤。36〜44重量%の高濃度においても低温で固形分の析出がなく、また硫化水素、硫化炭素等のガス発生がないため、効率的かつ安全に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属を含有する固体廃棄物、例えば、ゴミ焼却場から排出される焼却灰及び飛灰、重金属に汚染された土壌、排水処理後に生じる汚泥等に含有する鉛、水銀、クロム、カドミウム、亜鉛及び銅等の有害な重金属を簡便に固定化し、不溶出化することを可能にする重金属処理剤に関するものであり、特に高濃度でなおかつ低温において結晶の析出がない保存安定性に優れた重金属処理剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市ゴミ焼却工場などから排出される飛灰は重金属含有率が高く、重金属の溶出を抑制する処理を施すことが必要である。その様な重金属の処理方法として薬剤処理法があり、キレート系の重金属処理剤を添加して重金属を不溶化する方法が知られている。
【0003】
重金属処理剤としてはアミン誘導体のジチオカルバミン酸塩が高性能であり、特にピペラジンジチオカルバミン酸塩では硫化水素及び二硫化炭素等の有害ガス発生が少ないために広く用いられている。(特許文献1参照)
しかしピペラジンジチオカルバミン酸塩の水溶液は、常温以上ではある程度高濃度にできるが、低温にすると高濃度における安定性が悪く、ジチオカルバミン酸塩の結晶が析出するという問題があった。重金属処理剤は水溶液で用いられるため、その輸送から重金属への使用に至るまで、経済性、取扱いの観点から高濃度であることが必要である。しかし、従来のピペラジンジチオカルバミン酸塩の水溶液からなる重金属処理剤では、合成直後は40重量%程度の水溶液が得られるものの、低温での安定性を維持するためには濃度を下げることが必要であり、高濃度のままでは低温での結晶析出の問題が避けられなかった。
【0004】
重金属処理剤の低温安定性を向上させる方法として、重金属処理剤成分にカルボン酸基、スルホン酸基、水酸基、リン酸基、ホスホン酸基およびこれらのアルカリ金属塩からなる群から選ばれる1種以上の官能基を有し、数平均分子量が1000〜30000のオリゴマーを添加する方法が提案されている。(例えば特許文献2)しかし、添加するオリゴマーの種類によっては重金属処理剤の性能、物性が変化する可能性があり、事前に詳細な検討を行う必要があった。また、ジエチルジチオカルバミン酸塩に対してピペラジン及びポリアミンからなる群から選ばれる1種を0.1から5重量%含有させる方法が提案されている。(例えば特許文献3)しかしこの方法はジエチルジチオカルバミン酸塩では効果があるが、ピペラジンジチオカルバミン酸塩に対するものではなかった。さらに、これらの方法では重金属処理剤にその原料以外の特定の添加物を添加することが必要であり、製造時における工程が増え、原単位が低下するという問題もあった。
【0005】
【特許文献1】特許第3391173号(明細書第2項第0005欄1〜6行)
【特許文献2】特許第3532798号(請求項1)
【特許文献3】特開2003−105318号(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ピペラジンジチオカルバミン酸塩を含んでなる水溶液は、重金属処理剤として優れているが、高濃度にすると低温で結晶が析出するという問題があった。本発明では、低温において結晶の析出がなく、保存時及び使用時の有害ガス発生量のない、安全で高濃度のピペラジンジチオカルバミン酸塩を含んでなる重金属処理剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、高濃度のピペラジンジチオカルバミン酸塩を主成分とする重金属処理剤では、ある特定の濃度範囲のアルカリ水酸化物含有量とすることにより、低温安定性を著しく向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
以下、本発明の重金属処理剤、及びその重金属処理剤を用いた重金属汚染物質の処理方法についてその詳細を説明する。
【0009】
本発明の重金属処理剤はピペラジンジチオカルバミン酸塩を含んでなるものである。本発明のピペラジンジチオカルバミン酸塩としては、ピペラジンジチオカルバミン酸のアルカリ塩が使用でき、溶解度が高く、熱的に安定なナトリウム塩、カリウム塩であることが好ましい。ピペラジンジチオカルバミン酸塩にはビス体とモノ体とがあるが、本発明ではいずれの塩も用いることが出来るが、特にビス体が好ましい。
【0010】
本発明で用いるアルカリ水酸化物は特に限定はないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が例示でき、特に溶解度の高い水酸化カリウムを用いることが好ましい。
【0011】
本発明の重金属処理剤中のアルカリ水酸化物は、0.7重量%以下であり、特に0.3〜0.7重量%の範囲、さらに0.4〜0.5重量%の範囲とすることが好ましい。0.3重量%未満とすると、重金属処理時において二硫化炭素等の有害ガスが発生する場合がある。一方、0.7重量%を超えると、常温以上では問題ないが、低温安定性が著しく低下し、冷寒地での使用において問題となる。
【0012】
本発明の重金属処理剤中におけるアルカリ水酸化物の濃度は、酸塩基滴定等によって確認することができる。
【0013】
従来、ピペラジンジチオカルバミン酸塩を主成分とする重金属処理剤においては、分解生成物である二硫化炭素等のガス発生抑制等の目的から、アルカリ水酸化物濃度が1.0重量%以上で合成されていた。本発明の重金属処理剤はアルカリ水酸化物を0.7重量%以下、特に0.3〜0.7重量%の範囲に制御することにより、36〜44重量%の高濃度においても低温安定性が高く、かつ有害ガスの発生量の低いものである。本発明において低温安定性を付与するアルカリ水酸化物は、ピペラジンジチオカルバミン酸塩の製造に用いる原料であり、新たな化合物を必要としないため、製造工程の負荷も小さい。
【0014】
本発明のピペラジンジチオカルバミン酸塩濃度は、36〜44重量%の高濃度の範囲、好ましくは38〜42重量%の範囲であることが好ましい。44重量%を超える範囲では低温において結晶の析出を完全に抑えることは困難であり、36重量%未満の濃度では、処理に必要な添加量が増大する。
【0015】
本発明の重金属処理剤は水溶液であるため、残りの成分は水である。本発明の重金属処理剤としての性能に悪影響を及ぼさない範囲において、他の成分(添加物、有機溶媒等)を含むことを妨げるものではない。
【0016】
次に本発明は、上述の重金属処理剤を使用した重金属汚染物質の処理方法について説明する。
【0017】
本発明の方法の重金属汚染物質の処理方法は、本発明の重金属処理剤を用いること以外は通常一般の手法が適用できる。
【0018】
例えば、重金属汚染物質が飛灰の場合、飛灰中の重金属含有量によっても異なるが、飛灰に対して重金属処理剤を0.01〜30重量%、多くは0.01〜5重量%の範囲で添加する。本発明の重金属処理剤は、有効成分であるピペラジンジチオカルバミン酸塩濃度が高いため、通常の方法より添加量は少なくできる。
【0019】
また重金属処理剤と重金属汚染物質との混合時においては、処理した飛灰の廃棄を容易にするため、加湿水を混練時に添加してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の重金属処理剤は低温安定性が高く、かつ重金属処理成分の濃度が高いため、冬季、寒冷地においても結晶の析出がなく、安定して使用することができ、少ない添加率で廃棄物を処理することができる。また、保存時及び使用時の有害ガス発生量も少なく、安全に使用することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例にて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1
ピペラジンジチオカルバミン酸カリウムを40重量%、水酸化カリウムを0.3重量%となるように純水に溶解させ、ピペラジンジチオカルバミン酸カリウムと水酸化カリウムの混合水溶液を調製した。その水溶液150gとα―アルミナ0.5μm(和光純薬工業株式会社)10mg、テフロン(登録商標)回転子を150mlのガラス瓶に入れた。次に、それを恒温高湿槽LH41−13P(ナガノサイエンス株式会社)内に設置し、スターラーを用いて400〜500rpmで攪拌しながら、5℃から−5℃までの温度範囲を、−0.5℃/時間で冷却し、結晶が析出する温度を調査した。その結果を表1に示す。該溶液においては−5℃まで溶液中に結晶の析出は見られず、高い低温安定性があることを確認した。
【0023】
40mlのガラスバイアル瓶に該水溶液を3ml採り、25℃で1日静置後のバイアル瓶内の気体の二硫化炭素濃度をガスクロマトグラフィーにより測定を行った。その結果を表1に示す。その濃度は1ppm以下であり、ガス発生量が低いことが確認された。
【0024】
該ピペラジンジチオカルバミン酸カリウム水溶液を用いて、重金属含有飛灰Aの処理試験を行った。所定量(飛灰に対して1重量%、2重量%)の該水溶液と飛灰に対して30重量%の加湿水を添加し、5分間混練を行った。その混練後の灰において環境庁告示第13号試験を行った。試験に用いた飛灰Aの組成を表2、環境庁告示第13号試験結果を表3に示す。飛灰に対して2重量%の該水溶液の添加で、重金属類の溶出を基準値以下に処理でき、高い重金属処理性能であった。
【0025】
実施例2
ピペラジンジチオカルバミン酸カリウムを40重量%、水酸化カリウムを0.7重量%となるように純水に溶解させ、ピペラジンジチオカルバミン酸カリウムと水酸化カリウムの混合水溶液を調製した。実施例1と同様にして結晶析出温度を調べた。その結果を表1に示す。−5℃においても結晶の析出が見られず、高い低温安定性があることを確認した。
【0026】
また、実施例1と同様にして二硫化炭素濃度測定を行った。その結果を表1に示す。その測定濃度は1ppm以下であり、ガス発生量が低いことが確認された。
【0027】
実施例1と同様にして重金属含有飛灰Aの処理試験を行った。環境庁告示第13号試験結果を表4に示す。飛灰に対して2重量%の該水溶液の添加で、重金属類の溶出を基準値以下に処理でき、高い重金属処理性能であった。
【0028】
比較例1
ピペラジンジチオカルバミン酸カリウムを40重量%、水酸化カリウムを1.5重量%となるように純水に溶解させ、ピペラジンジチオカルバミン酸カリウムと水酸化カリウムの混合水溶液を調製した。実施例1と同様にして結晶析出温度を調べた。その結果を表1に示す。0℃において結晶の析出が確認された。実施例に比べて高い温度で結晶の析出が見られた。実施例1と同様にして重金属含有飛灰Aの処理試験を行った。環境庁告示第13号試験結果を表5に示す。
【0029】
比較例2
ピペラジンジチオカルバミン酸カリウムを40重量%、水酸化カリウムを0.8重量%となるように純水に溶解させ、ピペラジンジチオカルバミン酸カリウムと水酸化カリウムの混合水溶液を調製した。実施例1と同様にして結晶析出温度を調べた。その結果を表1に示す。−3℃において結晶の析出が確認された。実施例に比べて高い温度で結晶の析出が起こることが確認された。
【0030】
比較例3
ピペラジンジチオカルバミン酸カリウムを40重量%、水酸化カリウムを0.2重量%となるように純水に溶解させ、ピペラジンジチオカルバミン酸カリウムと水酸化カリウムの混合水溶液を調製した。実施例1と同様にして二硫化炭素濃度測定を行った。その結果を表1に示す。その測定濃度は2.4ppmであり、実施例に比べて高い値となり、実施例に比べて剤の安定性が低かった。
【0031】
比較例4
ピペラジンジチオカルバミン酸カリウムを40重量%、水酸化カリウムを0.1重量%となるように純水に溶解させ、ピペラジンジチオカルバミン酸カリウムと水酸化カリウムの混合水溶液を調製した。実施例1と同様にして二硫化炭素濃度測定を行った。その結果を表1に示す。その測定濃度は7.5ppmであり、実施例に比べて高い値となり、実施例に比べて剤の安定性が低かった。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の重金属処理剤は、低温時に結晶析出が起こりにくく、かつ、ガス発生量も少ないために、特に寒冷地における重金属汚染物質処理に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.7重量%以下のアルカリ水酸化物、36〜44重量%のピペラジンジチオカルバミン酸塩、及び水を含んでなる重金属処理剤。
【請求項2】
アルカリ水酸化物濃度が0.3〜0.7重量%である請求項1に記載の重金属処理剤。
【請求項3】
ピペラジンジチオカルバミン酸塩がピペラジンジチオカルバミン酸カリウムである請求項1に記載の重金属処理剤。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3に記載の重金属処理剤を重金属汚染物質と混合することを特徴とする重金属汚染物質の処理方法。
【請求項5】
重金属汚染物質が飛灰、土壌、スラッジである請求項4に記載の重金属汚染物質の処理方法。
【請求項6】
重金属汚染物質が鉛、カドミウム、クロム、水銀のいずれかを含有する物質である請求項4及至請求項5に記載の重金属汚染物質の処理方法。

【公開番号】特開2006−316183(P2006−316183A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140959(P2005−140959)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】