説明

重金属処理剤及びそれを用いた重金属処理方法

【課題】アルカリ性における鉛の不溶化能が著しく向上し、アルカリ性の重金属汚染物の処理、及びpHの変動がある重金属汚染物質の処理に用いることが可能なジエチレントリアミンのカルボジチオ酸塩を用いた重金属処理剤の提供。
【解決手段】ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩にピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を30重量%以下添加した重金属処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属を含有する土壌、廃水、焼却灰又は飛灰等の重金属を安定化する重金属処理剤に関し、特に少量の薬剤でもって有害な鉛を処理できる重金属処理剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重金属を含有し、汚染された飛灰、土壌、廃水等は、重金属が環境中に拡散しない様に、重金属の不溶化処理を施すことが必要である。特に廃棄物の焼却によって発生する飛灰は一般に強アルカリ性であり、その様な強アルカリ性においても重金属、特に鉛の溶出がない様に処理することが求められている。
【0003】
この様な強アルカリ性の飛灰、土壌、廃水等の重金属の不溶化処理には主に重金属処理剤としてアミンのカルボジチオ酸塩が用いられており、例えばピペラジンのカルボジチオ酸塩等が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、ジエチレントリアミンのカルボジチオ酸塩は、中性もしくは弱酸性では鉛の不溶化能を有するが、アルカリ性における鉛の不溶化能が低いという問題を有している(特許文献2参照)。そのためアルカリ性の飛灰の処理、或いは鉛以外の金属を処理するためにアルカリ性の雰囲気とすることが必要となる重金属汚染物質の処理には用いることができず、その使用範囲が極めて制限されていた。
【0005】
また、硫黄原子を含み塩形成性もしくは錯体形成性である官能基を分子内に1個有するジエチルアミン−N−カルボジチオ酸塩と、硫黄原子を含み塩形成性もしくは錯体形成性である官能基を分子内に2個以上有するジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩からなる重金属固定化剤が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、特許文献3に記載の重金属処理剤では、鉛の溶出が多く、重金属処理剤として満足するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3391173号
【特許文献2】特開平6−79254号
【特許文献3】特開平8−269434号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ジエチレントリアミンのカルボジチオ酸塩のアルカリ性における重金属不溶化能を向上することにより、ジエチレントリアミンのカルボジチオ酸塩を主成分とする重金属処理剤をアルカリ性の重金属汚染物質に使用する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、アルカリ性において鉛の不溶化能が低いジエチレントリアミンのカルボジチオ酸塩であるジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩の重金属不溶化能の向上について鋭意検討を重ねた結果、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩に僅かにピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を添加して用いた場合、アルカリ性での鉛の不溶化能が著しく向上し、なおかつ不溶化処理後に酸性物質(酸性雨等)と処理物が接触した際の重金属の再溶出を著しく低減できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の要旨を有するものである。
(1)重金属汚染物質に、水と、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩を含んでなる重金属処理剤を混合して処理する方法において、さらにピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を添加することを特徴とする重金属の無害化処理方法。
(2)ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の量が、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩とピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の総量に対して30重量%以下である上記(1)に記載の無害化処理方法。
(3)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩が、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸カリウム及び/又はジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸ナトリウムである上記(1)又は(2)に記載の無害化処理方法。
(4)ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩が、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム及び/又はピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸ナトリウムである上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の無害化処理方法。
(5)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩及びピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を必須に含んでなる重金属処理剤。
(6)ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の量が、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩とピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の総量に対して30重量%以下である上記(5)に記載の重金属処理剤。
(7)ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩が、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸カリウム及び/又はジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸ナトリウムである上記(5)又は(6)に記載の重金属処理剤。
(8)ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩が、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム及び/又はピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸ナトリウムである上記(5)乃至(7)のいずれかに記載の重金属処理剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法では、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩を主成分とする重金属処理剤を用いて、アルカリ性の重金属汚染物中からの重金属の溶出がなく、重金属汚染物質を無害化処理することができ、なおかつ不溶化処理後に酸性物質(酸性雨等)と処理物が接触した際の重金属の再溶出を著しく低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の重金属の処理方法について説明する。
【0012】
本発明の方法は、重金属汚染物質に、水と、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩からなる重金属処理剤を混合して処理する方法において、さらにピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を添加する方法である。
【0013】
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を添加することにより、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩のアルカリ性における重金属の不溶化能、特に有害な鉛の不溶化能が著しく向上し、なおかつ不溶化処理後に酸性物質(酸性雨等)と処理物が接触した際の重金属の再溶出を著しく低減(安定化)できる。
【0014】
本発明の方法における重金属の不溶化能及びその安定性の向上は、単にアルカリ性での重金属の不溶化能及び処理物の安定性に優れたピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩そのものが重金属を不溶化することによるものではない。そのことは本発明の方法で添加する同量(もしくはそれ以上)のピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を単独で同一の重金属汚染物質に添加しても、同レベルに重金属を不溶化できないこと、及び重金属の再溶出量が低減していることによって示される。
【0015】
本発明の方法において、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を添加することによって重金属不溶化能及びその安定性が向上する理由は必ずしも定かではないが、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩とピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩とが重金属と複合錯体を形成している可能性が考えられる。
【0016】
本発明の方法において添加されるピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の量は限定されるものではないが、特にジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩とピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の総量に対して、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩が30重量%以下が好ましく、さらに20重量%以下で十分である。
【0017】
一方、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の添加量の下限としては、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩とピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の総量に対して、1重量%以上、さらに5重量%以上、特に10重量%以上が好ましい。ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の添加量が少なすぎると、アルカリ性における重金属不溶化能及びその安定性向上効果が小さくなるためである。
【0018】
上記の各組成において、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩としては、水溶性の高いピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム及び/又はピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸ナトリウムであることが好ましく、どちらか一方でも、両方の混合物として用いてもかまわない。
【0019】
上記の各組成において、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩としては、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩と同様に、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸カリウム及び/又はジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸ナトリウムであることが好ましく、どちらか一方でも、両方の混合物として用いてもかまわない。
【0020】
上記のジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩には、ジエチレントリアミン−N1,N2−ビスカルボジチオ酸塩、ジエチレントリアミン−N−カルボジチオ酸塩等が含まれてもよい。
【0021】
これらの含有量は、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩に対して、0.01〜10重量%が好ましく、0.1〜5重量%が特に好ましい。
【0022】
本発明の重金属処理剤は、重金属で汚染された土壌、汚泥、廃水、焼却灰又は飛灰と混合することによって重金属を処理することができる。混合する際には、水と混合して用いることが好ましい。
【0023】
上記混合は、スクリューニーダータイプの混練機、攪拌タイプ或いは振動式のミキサー等の装置により、温度0〜80℃で、5秒〜30分間行うことが好ましく、温度10〜65℃、15秒〜10分間行うことが特に好ましい。
【0024】
重金属汚染物質に添加する重金属処理剤の添加量は、含有する重金属の濃度(汚染度合い)によっても異なるが、一般に、重金属汚染物質(例えば飛灰)に対して固形分換算で0.1〜20重量%、特に0.3〜10重量%、さらには0.5〜5重量%混合して用いることが好ましい。
【0025】
本発明の方法で用いる重金属処理剤は、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩にピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を別々に用いてもよいが、特にこれらの有効成分を混合して水に溶解した水溶液であることが好ましい。
【0026】
重金属処理剤が水溶液の場合、水溶液中のジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩とピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩のトータル(総量)の含有量は特に限定はすることなく、水溶液における固形分濃度が20重量%以上であることが好ましく、特に30重量%以上であることが好ましい。一方、濃度が高すぎると固形分(結晶)析出の問題が生じるため、50重量%以下とすることが好ましい。
【0027】
本発明の重金属処理剤では、本発明の効果、即ち、少量の使用量で重金属を不溶化できるという効果を損なわない範囲において、他の成分を含んでもよい。他の成分としては、pH調整のためのアルカリ成分、他の特定の重金属を不溶化するための硫黄化合物、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の製造において副生するピペラジン−N−カルボジチオ酸塩、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩の製造において副生するジエチレントリアミンのモノカルボジチオ酸塩やジカルボジチオ酸塩等が例示できる。
【実施例】
【0028】
以下本発明を実施例で説明するが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1〜3
アルカリ性(pH=12.2)の飛灰(Pb含有量:1630ppm、Zn含有量:8100ppm、Ca含有量:30.2重量%)に対し、表1及び表2に示される各種重金属処理剤を添加し、飛灰100重量部に対して、30重量部の水とともに、25℃で、3分間混練した。その後、環境庁告示第13号試験に従い溶出試験を行った。
【0030】
参考例として、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩単独、及びピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩単独で添加した場合の結果を表1に示す。
【0031】
表1において、重金属処理剤(固形分濃度)とは、重金属処理剤の水溶液中のカルボジチオ酸塩の重量%である。また、総添加量(水分含む)(重量%)とは、飛灰の重量に対する添加した重金属処理剤の水溶液の重量のパーセントである。各成分(固形分)(重量%)とは、固形分濃度に総添加量を掛けたものである。
【0032】
【表1】

【0033】
ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩(表中「DETA」と略記)としてはナトリウム塩の40重量%水溶液、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩(表中「PIP」と略記)としてはカリウム塩の40重量%水溶液を用いた。
【0034】
アルカリ性(特にpH>12の強アルカリ性)では、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩単独を添加しても鉛の溶出量が0.1mg/L以下にならなかった。
【0035】
一方、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩単独では、1重量%の添加では鉛を十分に不溶化できなかったが、2重量%では鉛の溶出量が0.1mg/L以下で、十分に不溶化できた。
【0036】
次にジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩に対するピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の混合比率を変えて試験を行った。
【0037】
なお、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩(表中「DETA」と略記)としてはナトリウム塩の40重量%水溶液、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩(表中「PIP」と略記)としてはカリウム塩の40重量%水溶液を用いた。
【0038】
実施例1〜3の結果を表2に示す。
【0039】
なお、表2における総添加量(水分含む)(重量%)、及び各成分(固形分)添加量(重量%)は、表1と同様である。
【0040】
【表2】

【0041】
ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩に少量のピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を混合して用いることにより、それぞれ単独の成分の能力から期待できる以上の重金属不溶化能力が発揮され、少量の薬剤使用量で鉛の溶出が防止された。
【0042】
比較例1
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の替わりにエチレンジアミン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム(表中「EDA」と略記)とした以外は実施例1と同様の処理を行った。結果を表2に示す。
【0043】
エチレンジアミン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウムでは、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩の重金属処理能を向上する作用は観測されなかった。
(処理物の安定性評価)
実施例4
実施例2の比率で混合した重金属処理剤をPb1000mg/Lの水溶液20L(pH=7)に76g添加し、30分攪拌した後、生成した不溶物をろ過・洗浄し、50℃で3日間乾燥させ処理物を得た。得られた処理物10gに水100gを加えてpH4とし、6時間攪拌を行った。結果を表3に示す。Pb溶出濃度は溶出基準値(金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令に基づく溶出基準値)である0.3mg/L未満であった。
【0044】
比較例2
使用する重金属処理剤をジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩40重量%の水溶液とする以外は実施例4と同様の操作を行った。ここで、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩(表中「DETA」と略記)としてはナトリウム塩の40重量%水溶液を用いた。結果を表3に示す。Pbの溶出濃度は1.0mg/Lであり、溶出基準値である0.3mg/Lを超えた。
【0045】
比較例3
使用する重金属処理剤をジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩32重量%及びジエチルアミン−N−カルボジチオ酸塩(表中DEAと略記)8重量%を含有する水溶液とする以外は実施例4と同様の操作を行った。ここで、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩(表中「DEA」と略記)としてはカリウム塩の40重量%水溶液を用いた。結果を表3に示す。Pbの溶出濃度は4.5mg/Lであり、溶出基準値である0.3mg/Lを大きく超えた。
【0046】
比較例2の結果から、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸は中性では鉛と不溶性塩を形成するが、酸性では一部再溶出することが確認された。
【0047】
一方、実施例4で得られたジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸鉛とピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸鉛からなる不溶性塩では、酸性において鉛の再溶出が著しく低減された。このことは、生成した不溶性塩が、それぞれの塩の単なる混合物ではなく、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸とピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸の複合錯体となっているためと考えられた。
【0048】
また、比較例3で得られたジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸鉛とジエチルアミン−N−カルボジチオ酸鉛からなる不溶性塩では、酸性において鉛の再溶出が著しく増加した。このことは、ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を用いなかったことから、生成した不溶性塩が、それぞれの塩の単なる混合物であり、複合錯体となっていないためと考えられた。
【0049】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の重金属処理剤は、強アルカリ性の飛灰、土壌、汚泥、廃水等に含まれる重金属の無害化処理に用いられ、さらに、その処理後においてpH変動に曝される可能性の高い重金属汚染物質に用いた場合においても、処理物からの重金属の再溶出が著しく低い等、産業上極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属汚染物質に、水と、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩を含んでなる重金属処理剤を混合して処理する方法において、さらにピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を添加することを特徴とする重金属の無害化処理方法。
【請求項2】
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の量が、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩とピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の総量に対して30重量%以下である請求項1に記載の無害化処理方法。
【請求項3】
ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩が、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸カリウム及び/又はジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸ナトリウムである請求項1又は請求項2に記載の無害化処理方法。
【請求項4】
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩がピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム及び/又はピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸ナトリウムである請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の無害化処理方法。
【請求項5】
ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩及びピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩を必須に含んでなる重金属処理剤。
【請求項6】
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の量が、ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩とピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩の総量に対して30重量%以下である請求項5に記載の重金属処理剤。
【請求項7】
ジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸塩がジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸カリウム及び/又はジエチレントリアミン−N1,N2,N3−トリスカルボジチオ酸ナトリウムである請求項5又は請求項6に記載の重金属処理剤。
【請求項8】
ピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸塩がピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸カリウム及び/又はピペラジン−N,N’−ビスカルボジチオ酸ナトリウムである請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の重金属処理剤。

【公開番号】特開2012−120819(P2012−120819A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292577(P2010−292577)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】