説明

重金属吸着繊維構造体

【課題】 天然に産する物質を吸着剤として利用した、浄化効率及び取り扱い性に優れた重金属吸着繊維構造体を提供する。
【解決手段】 合成繊維で構成され、粘土鉱物アロフェンを含有することを特徴とする重金属吸着繊維構造体である。粘土鉱物アロフェンは、合成繊維中に練り込まれ、あるいは、後加工で合成繊維に付与される。合成繊維にポリ乳酸系繊維が用いられていることにより生分解性に優れたものともなり、重金属吸着繊維構造体としては、膜体の形態で利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水質浄化を目的に使用される重金属吸着繊維構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水質浄化に使用される材料として、汚染物質を吸着する活性炭や木炭をはじめ特殊セラミックスなど自然に優しい材料が注目され使用されている。しかし、該物質は木材を窯で焼いたり、無機物を焼成させる工程を通過して得られるものであり、天然物ではないためにコストがかかるものであった。そのようなものの一種である吸着作用を有する竹炭と並んで、吸着作用のある鉱物や貝殻を微粉末状に形成した汚染物質吸着剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。鉱物や貝殻の場合、焼成工程などは特に要しないと思われる。
【0003】
ところが、それらの微粉末状の吸着剤を河川等の水質浄化に用いる場合、効率的な浄化や吸着剤の回収を考慮すれば、一定の場所に固定することが望ましく、そのための方法としては、当該吸着剤を通水性の良い袋体等に投入して河川等に設置することが一般的に行われている。そして、そのような方法を採用した場合、袋体内にあることから吸着剤と水との接触効率という点で不利であり、袋体内でも比較的外部に近いところにある吸着剤は浄化作用に十分寄与できるものの、中心部にある吸着剤は浄化作用に十分寄与できず非効率であるという問題があった。
【特許文献1】特開2002−370023号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような現状を鑑みてなされたものであり、天然に産する物質を吸着剤として利用した、浄化効率及び取り扱い性に優れた重金属吸着繊維構造体を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記の課題を解決するものであり、以下の構成によりなるものである。
1.合成繊維で構成され、粘土鉱物アロフェンを含有することを特徴とする重金属吸着繊維構造体。
2.粘土鉱物アロフェンが練り込まれた合成繊維で構成されることを特徴とする上記1の重金属吸着繊維構造体。
3.粘土鉱物アロフェンが後加工で付与された合成繊維で構成されることを特徴とする上記1の重金属吸着繊維構造体。
4.合成繊維にポリ乳酸系繊維が用いられていることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の重金属吸着繊維構造体。
5.膜体であることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の重金属吸着繊維構造体。
【発明の効果】
【0006】
本発明の重金属吸着繊維構造体は、重金属吸着性能に優れ、取り扱いやすく、天然に産する物質を有効に利用して簡便に得られるものであり、水質浄化等に有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明の重金属吸着繊維構造体は、水質浄化等を目的として水中等に設置され重金属(イオン)を吸着するのに用いられる繊維構造体である。繊維構造物とは、規則的或いは不規則的に繊維が集合した構成物を言い、例えば、糸条等の繊維束や、編物、織物、組物、不織布、多軸積層体等の布帛等をいう。本発明の重金属吸着繊維構造体(以下、本発明の繊維構造体ということがある)は、合成繊維で構成されているものであり、粘度鉱物アロフェンを含有することが重要である。
【0009】
本発明に使用されるアロフェンは粘土鉱物であり、学術的に「アロフェン」(allophane)と呼ばれる非晶質性シリカ・アルミナゲルである。このアロフェンは多孔質であり、通常その細孔は平均直径が35〜50オングストロームであり、充填密度は0.35〜0.45g/ccである。
【0010】
本発明者らは、アロフェンが陽イオン交換能と陰イオン交換能を有する物質であり、重金属を吸着する能力に優れていることを見出して、本発明に用いることに着想したものである。すなわち、本発明では、繊維構造体にアロフェンを含有させて重金属吸着繊維構造体とする。
【0011】
本発明の繊維構造体にアロフェンを含有させる手段としては、特に制限されるものではない。例えば合成繊維にアロフェンを練り込む等の方法で合成繊維自体にアロフェンを含有するものとして、この合成繊維を用いて繊維構造体を構成することができる。具体的には、紡糸時に合成繊維を形成するポリマーにアロフェンを添加する方法や、予め合成繊維の主体ポリマー中に高濃度でアロフェンを混合しておいて紡糸時に該高濃度ポリマーと主体ポリマーを混合して紡糸するマスターバッチ法が採用できる。あるいは、合成繊維で繊維構造体を構成し、コーティングやディッピング等の後加工で繊維構造体にアロフェンを含有させること、すなわちアロフェンが後加工で付与された合成繊維で繊維構造体が構成されたものとすることもできる。例えばアロフェンをバインダーと共にコーティングする方法が採用できる。
【0012】
本発明の繊維構造体におけるアロフェンの含有量としては、用途や繊維構造体の態様により適宜設計することができる。例えば、合成繊維に練り込む場合には、重金属吸着効果及び生産性を考慮すれば、当該アロフェンを含む合成繊維の全質量中、アロフェンの量が0.1〜30質量%となるようにすることが好ましい。また、合成繊維に後加工でアロフェンを含有させる場合、例えばコーティングによる場合には、コーティング剤の被膜強度を考慮すると、コーティング被膜中のアロフェンの量が0.1〜30質量%となるようにすることが好ましい。
【0013】
本発明の繊維構造体に用いる合成繊維の種類としては、特に制限されるものではなく、繊維製造時に練り込む等の方法でアロフェンを混合できるか、もしくはコーティング等の後加工でアロフェンを付与することができる合成繊維であればよい。そのような合成繊維としては、ポリアミド系、ポリアラミド系、ポリビニルアルコール系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリ塩化ビニル系、芳香族ポリエステル系、脂肪族ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリウレタン系、ポリアルキレンパラオキシベンゾエート系、フェノール系及びポリフルオロエチレン系等の汎用の合成繊維を例示することができる。中でも、使用後の産業廃棄物量の低減を考慮すれば、脂肪族ポリエステル系繊維に代表される生分解性繊維が好ましい。生分解性繊維としては、ジオール成分とジカルボン酸とから合成される脂肪族ポリエステルポリマー、すなわちポリ乳酸系、ポリアルキレンアルカノエート、ポリβヒドロキシアルカノエート等の重合体及びこれらの共重合体からなる繊維が挙げられ、中でもポリ乳酸繊維が好ましい。本発明の繊維構造体を生分解性繊維で構成することにより、使用後に自然環境下やコンポスト中で微生物により徐々にあるいは速やかに分解させることができるので、産業廃棄物量の低減になる。
【0014】
また合成繊維の形態についても特に制限されるものではなく、モノフィラメント、マルチフィラメント及びステープル等、用途に応じて種々選択することができる。軽量化やハリを考慮して中空断面や異型断面形状を有する繊維を採用したり、必要に応じて異種ポリマーからなる芯鞘型やサイドバイサイド型の複合繊維、例えば芯鞘型バインダー複合繊維等を採用してもよい。
【0015】
本発明の繊維構造体として特に好ましいのは、膜体であり、重金属吸着膜として海洋の水質浄化等に好適に使用できる。膜体としては、繊維構造物である布帛を単体もしくは組み合わせて構成したものを使用できる。
【0016】
膜体としての本発明の繊維構造体を製造する方法としては、合成繊維で膜体を構成して、その膜体にアロフェンを含むコーティング剤を使用してコーティングする方法が好ましく採用される。
【0017】
そのようなコーティングに用いるコーティング剤としては、特に限定されるものではなく、従来公知のものを使用すればよい。具体的には、生分解を有するコーティング剤として、でんぷん、カゼイン、にかわ、天然ゴム、ポリビニルアルコールおよび脂肪族ポリエステル等のコーティング剤を用いることができる。また、生分解性を有さないコーティング剤として、ニトロセルロース、アセチルセルロース、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、NBR系ゴム及びSBR系ゴム等の合成樹脂系のコーティング剤を用いることができる。好ましくは、生分解性を有するコーティング剤が用いられる。
【0018】
コーティング方法等も用途や必要に応じて任意の加工方法を行うことができ、ディッピング加工、コーターによるコーティング方法およびラミネート方法などが挙げられる。
【0019】
本発明の繊維構造物においては、必要に応じてアロフェンによる重金属吸着の効率を高める目的で、繊維中に含有されるアロフェンを繊維表面に露出させるための処理を施してもよい。具体的には、繊維を構成するポリマーを溶解させる溶液での処理や、機械的研磨による処理等が挙げられる。
【実施例】
【0020】
次に本発明を実施例により具体的に説明する。実施例における性能の評価は次の方法によりおこなった。
(1)重金属吸着率
図1に示すような幅0.5m×長さ1m×高さ0.5mの容器内に膜体試料(幅50cm×長さ50cm)を20枚重ねて設置した。この容器内に、予め準備した鉛濃度0.05ppm、カドミウム濃度0.02ppmの汚染水200リットルを、循環ポンプを用いて1リットル/分の速度で30日間循環させた。なお、期間中の水温は平均21℃であった。そして、30日間循環後の鉛とカドミウムの濃度を測定し、下記式により吸着率を算出した。
[吸着率]=(1−[循環後の濃度]/[初期濃度])×100 (%)
【0021】
2.生分解性
各実施例および比較例の膜体試料をコンポスター(80℃)に投入し、14日後の外観を目視することにより分解度合いを評価した。
【0022】
(実施例1)
アロフェン(品川化成社製 セカードOW)を平均粒径0.8ミクロンになるまで乾式粉砕法で粉砕した後、ポリ乳酸チップ(カーギルダウ社製4020)と混合し、230℃で2軸押出機で押出し、アロフェン20質量%濃度のマスターチップを得た。次にこのマスターチップと他のポリ乳酸チップとを混合し、溶融紡糸法にて、アロフェンを5質量%含有する1100dtex/96fのマルチフィラメント(強度1.5cN/dtex、切断伸度20%)を得た。得られたアロフェン含有(5質量%)のポリ乳酸マルチフィラメントを4本合撚し、経糸密度20本/2.54cm、緯糸密度20本/2.54cmとして2/2ななこ組織にてレピア織機で目付620g/m2に製織し、膜体としての重金属吸着繊維構造体を得た。
【0023】
(実施例2)
アロフェン(品川化成社製 セカードOW)を平均粒径0.8ミクロンになるまで乾式粉砕法で粉砕した後、ポリエステルチップ(ユニチカ株式会社製BRF)と混合し、300℃で2軸押出機で押出し、アロフェン20質量%濃度のマスターチップを得た。次にこのマスターチップと他のポリエステルチップとを混合し、溶融紡糸法にて、アロフェンを5質量%含有する1100dtex/96fのマルチフィラメント(強度5.5cN/dtex、切断伸度12%)を得た。得られたアロフェン含有(5質量%)のポリエステルマルチフィラメントを4本合撚し、経糸密度20本/2.54cm、緯糸密度20本/2.54cmとして2/2ななこ組織にてレピア織機で目付625g/m2に製織し、膜体としての重金属吸着繊維構造体を得た。
【0024】
(実施例3)
ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント1100dtex/96fを80T/mで4本合撚し、経糸密度20本/2.54cm、緯糸密度20本/2.54cmとして2/2ななこ組織にてレピア織機で目付620g/m2に製織して織物を得た。この織物を、ポリ乳酸エマルジョン(第一工業製薬社製 プラセマL110、固形分濃度50%)100質量部にアロフェン(品川化成社製 セカードOW)5質量部を加えて調整したディッピング液中に浸し、その後に100℃で乾燥させて、アロフェンを含有するコーティング剤が両面に付与された、膜体としての重金属吸着繊維構造体を得た(質量650g/m)。
【0025】
(比較例1)
ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント1100dtex/96fを80T/mで4本合撚し、経糸密度20本/2.54cm、緯糸密度20本/2.54cmとして2/2ななこ組織にてレピア織機で目付620g/m2に製織して得た織物を、比較用の膜体としての繊維構造体とした。
【0026】
実施例1、2、3および比較例1の膜体について、重金属吸着繊維構造体としての吸着性能(吸着率)及び生分解性を評価した結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1からわかるように、実施例1〜3では、鉛やカドミウムなどの重金属を吸着して水質を浄化することが確認された。これに対し、アロフェンを含有しない比較例1では、重金属の吸着能がほとんど認められなかった。実施例1については、生分解性も良好であり、産業廃棄物量の低減にも効果のあることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】膜体の重金属吸着率を評価するために用いた装置の該略図である。
【符号の説明】
【0030】
1.容器
2.膜体試料
3.汚染水
4.汚染水の循環


【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維で構成され、粘土鉱物アロフェンを含有することを特徴とする重金属吸着繊維構造体。
【請求項2】
粘土鉱物アロフェンが練り込まれた合成繊維で構成されることを特徴とする請求項1記載の重金属吸着繊維構造体。
【請求項3】
粘土鉱物アロフェンが後加工で付与された合成繊維で構成されることを特徴とする請求項1記載の重金属吸着繊維構造体。
【請求項4】
合成繊維にポリ乳酸系繊維が用いられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の重金属吸着繊維構造体。
【請求項5】
膜体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の重金属吸着繊維構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−218403(P2006−218403A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34512(P2005−34512)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】