説明

重金属類の不溶化材および重金属類の不溶化方法

【課題】陽イオンの形態の重金属のみならず、陰イオンの形態の重金属類に対しても、重金属類の周辺への拡散を防止することができる重金属類の不溶化材、および、それを用いた重金属類の不溶化方法を提供する。
【解決手段】母材100質量部に対し、軽焼マグネシアおよび/または軽焼マグネシア部分水和物を0.1〜50質量部と、層状複水酸化物および/または層状複水酸化物の焼成物を0.1〜50質量部含む重金属類の不溶化材。および、重金属類の不溶化材を層状に敷設した重金属類不溶化層の上に、重金属類を含む被処理物を敷設する重金属類の不溶化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレン、ヒ素、六価クロム、鉛、フッ素等の重金属類を含む土壌や廃棄物等から、降雨等により溶出する重金属類を不溶化することができる重金属類の不溶化材、および、それを用いた重金属類の不溶化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や事業所の跡地等の土壌が、セレン、ヒ素、六価クロム、鉛、フッ素等の重金属類により汚染されているという事例が、近年、多数報告されている。土壌中の重金属類の濃度が環境基準値を超える場合に、その土地はそのままでは利用することができない。当該土地を有効利用するためには、汚染された土壌を掘削し除去した後、掘削された土地の上に、汚染されていない土壌を用いて盛土をすることが必要になる。しかし、次に、除去された汚染土壌の取扱いが問題となり、汚染土壌を掘削し除去しただけでは、問題の最終的な解決にはならない。
【0003】
また、廃棄物処分場において、降雨等により、廃棄物に含まれる重金属類が、廃棄物処分場から溶出するという問題もある。このように溶出した重金属類の汚染域が周辺の土壌や地下水にまで拡散すると、重金属類は汚染された地下水を経由して最終的には人体や穀物に蓄積され、健康に悪影響を及ぼす事態が生じうる。
【0004】
その他、重金属類を含み処理の対象となるべき物(被処理物)としては、湖沼堆積物、下水汚泥、建設残土等が知られており、これらを掘削等することにより発生する被処理物の取扱いに課題があった。
【0005】
かかる被処理物からの重金属類の溶出に対処するために、被処理物中の重金属類を不溶化して、重金属類の拡散を防止する不溶化材が、種々知られている。
【0006】
例えば、特許文献1には、酸化マグネシウムを含む重金属溶出抑制固化材が提案されている。
また、特許文献2には、MgOおよび/またはMgO含有材からなる有害物質汚染土壌用の固化不溶化剤が提案されている。
更に、特許文献3には、酸化マグネシウム(好ましくは、軽焼マグネシウム)と、石膏等の硫酸塩とを主成分とする土壌固化材が提案されている。
特許文献4には、特定の酸化マグネシウムと、マグネシウム等の硫酸塩と、炭酸カルシウムとを特定の質量割合で含む土壌固化材が提案されている。
【0007】
その他、重金属の不溶化剤を用いた重金属の不溶化方法も提案されている。
例えば、特許文献5の請求項4において、盛土を構成する底部に不溶化剤を含有する吸着層を施工し、その上部に重金属等で汚染された土壌層を施工する土壌の不溶化方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献6には、建設残土の下層に、汚染物質を吸着する吸着層を敷設し、建設残土から溶出する汚染物質を吸着層で吸着し、吸着層から流出する浸出水に含まれる汚染物質の濃度を、上記建設残土から流出する浸出水に含まれる汚染物質の濃度より低減させる建設残土処理方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−117532号公報
【特許文献2】特開2003−225640号公報
【特許文献3】特開2003−193050号公報
【特許文献4】特開2007−161839号公報
【特許文献5】特開2009−249554号公報
【特許文献6】特開2008−212771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、酸化マグネシウムを必須成分として用いる特許文献1〜4に記載の重金属類の不溶化材はいずれも、鉛(Pb2+)等の陽イオンの形態で水に溶存する重金属類に対しては有効であるが、セレン(SeO2−等)、六価クロム(CrO2−、Cr2−)、ヒ素(AsO4−)等の陰イオンの形態で水に溶存する重金属類に対しては不溶化効果が低い傾向にある。
そこで、本発明は、陽イオンの形態の重金属のみならず、陰イオンの形態の重金属類に対しても、重金属類の周辺への拡散を防止することができる重金属類の不溶化材および重金属類の不溶化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、重金属類を含まない土壌等を母材とし、これに特定量の軽焼マグネシア等および層状複水酸化物等を含む、重金属類の不溶化材を用いれば、前記本発明の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[6]を提供する。
[1]母材100質量部に対し、軽焼マグネシアおよび/または軽焼マグネシア部分水和物を0.1〜50質量部と、層状複水酸化物および/または層状複水酸化物の焼成物を0.1〜50質量部含む重金属類の不溶化材。
[2]母材100質量部に対し、更に、炭酸カルシウム含有物を0.1〜50質量部含む前記[1]に記載の重金属類の不溶化材。
[3]前記母材が、石灰石微粉末、石灰石細骨材、コンクリート用細骨材、土壌、高炉スラグ微粉末、高炉スラグ細骨材、砂質土および珪砂から選ばれる1種または2種以上である前記[1]または[2]に記載の重金属類の不溶化材。
[4]前記層状複水酸化物が下記式で表わされる化合物である前記[1]〜[3]に記載の重金属類の不溶化材。
[M2+1−x3+(OH)X+[An−x/y・mHO]X−
〔上記式において、M2+は、Mg、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選ばれた少なくとも1種である2価の金属イオンである。また、上記式において、M3+は、Al、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、LaおよびGaからなる群から選ばれた少なくとも1種である3価の金属イオンである。そして、An−は、OH、ClO3、ClO4、F、Cl、Br、I、CO32−、NO3およびSO42−からなる群から選ばれた少なくとも1種であるn価の無機アニオンである。ここで、xは、0<x<0.5の正数であり、mは、0<mの正数であり、nは、上記無機アニオンの価数である。〕
[5]前記層状複水酸化物の焼成物が、層状複水酸化物を200〜1000℃で焼成してなるものである前記[1]〜[4]に記載の重金属類の不溶化材。
[6]前記請求項[1]〜[5]のいずれか1項に記載の重金属類の不溶化材を層状に敷設してなる重金属類不溶化層の上に、重金属類を含む被処理物を敷設して、該被処理物から溶出する重金属類を不溶化することを特徴とする重金属類の不溶化方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の重金属類の不溶化材によれば、陽イオンの形態の重金属のみならず、陰イオンの形態の重金属類に対しても、重金属類の拡散を防止することができる。また、本発明の重金属類の不溶化方法によれば、前記重金属類不溶化層の上に、重金属類を含む被処理物を単に敷設するだけで、被処理物を簡易に処理することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の重金属類の不溶化材は、母材100質量部に対し、軽焼マグネシアおよび/または軽焼マグネシア部分水和物を0.1〜50質量部と、層状複水酸化物および/または層状複水酸化物の焼成物を0.1〜50質量部含むものである。
【0015】
本発明において不溶化の対象となる重金属類は、例えば、カドミウム(Cd2+)、鉛(Pb2+)およびニッケル(Ni2+)等の陽イオン種、セレン(SeO2−、SeO2−)、フッ素(F)、六価クロム(CrO2−、Cr2−)、ヒ素(AsO3−、AsO3−)、ホウ素(B2−)、モリブデン(MoO2−)、アンチモン(SbO)、シアン(CN)、硝酸性窒素(NO)および亜硝酸性窒素(NO)等の陰イオン種、並びに、水銀およびアルキル水銀等の中性種が挙げられる。
【0016】
軽焼マグネシアおよび/または軽焼マグネシア部分水和物の含有量は、母材100質量部に対し、0.1〜50質量部、好ましくは1〜40質量部、より好ましくは5〜30質量部である。該含有量が0.1質量部未満では、軽焼マグネシア等と母材を均一に混合するのが困難となり、重金属類の不溶化効果は十分ではなく、該含有量が50質量部を超えると、コストが増大して好ましくない。
【0017】
また、層状複水酸化物および/または層状複水酸化物の焼成物の含有量は、母材100質量部に対し、0.1〜50質量部、好ましくは1〜40質量部、より好ましくは5〜30質量部である。該含有量が0.1質量部未満では、層状複水酸化物等と母材を均一に混合するのが困難となり、重金属類の不溶化効果は十分ではなく、該含有量が50質量部を超えると、コストが増大して好ましくない。
【0018】
軽焼マグネシア等や層状複水酸化物等の含有量は、主に被処理物中の重金属類の含有量に依存するため、予め測定した、被処理物中の重金属類の含有量に基づき、適宜、前記含有量の範囲から選択する。
【0019】
次に、本発明における第1の必須の不溶化材成分である母材について説明する。
母材は、重金属類の不溶化を担う軽焼マグネシア等や層状複水酸化物等を、均一に分布させて保持するための担体である。母材が軽焼マグネシア等や層状複水酸化物等による重金属類の不溶化に悪影響を与えないためには、母材は水溶性の塩類を含まないものが好ましく、また、母材をスラリーにした場合のpHは、中性または弱アルカリ性(pH6〜8)であるものが好ましい。かかる母材として、例えば、石灰石微粉末、石灰石細骨材、コンクリート用細骨材、土壌、高炉スラグ微粉末、高炉スラグ細骨材、砂質土および珪砂から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0020】
次に、本発明における第2の必須の不溶化材成分である軽焼マグネシアとその部分水和物について説明する。
軽焼マグネシアは、例えば、炭酸マグネシウムおよび/または水酸化マグネシウムを含む固形物を、650〜1300℃で焼成することにより得られる。
【0021】
前記固形物中の炭酸マグネシウムおよび/または水酸化マグネシウムの含有率は、80質量%以上であり、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。該含有率が80質量%未満では、軽焼マグネシアに含まれる酸化マグネシウム成分が少なく、重金属類の不溶化効果が低下する傾向がある。
【0022】
前記固形物としては、マグネサイト、ドロマイト、ブルーサイト、または、海水中のマグネシウム成分を消石灰等のアルカリで沈殿させて得た水酸化マグネシウム等の、塊状物または粉粒状物が挙げられる。
【0023】
前記固形物の焼成温度は、通常、650〜1300℃であり、750〜950℃が好ましく、800〜900℃がより好ましい。該焼成温度が650℃未満では、軽焼マグネシアが生成し難く、該焼成温度が1300℃を超えると、重金属類の不溶化効果が低下する虞がある。前記固形物の焼成時間は、固形物の仕込み量や粒度等にもよるが、通常、30分〜5時間である。
【0024】
本発明に使用する軽焼マグネシア部分水和物は、前記軽焼マグネシアを粉砕した後、当該粉砕物に水を添加して撹拌し混合するか、または、当該粉砕物を相対湿度80%以上の雰囲気下に1週間以上保持することにより得られる。
【0025】
前記軽焼マグネシア部分水和物は、酸化マグネシウムを65〜96.5質量%および水酸化マグネシウムを3.5〜30質量%含有するものが好ましく、酸化マグネシウムを70〜95質量%および水酸化マグネシウムを5〜20質量%含有するものがより好ましく、酸化マグネシウムを75〜90質量%および水酸化マグネシウムを7〜17質量%含有するものが特に好ましい。該値を前記の好ましい範囲とすれば、重金属類の不溶化効果をより高めることができる。
【0026】
軽焼マグネシアまたは軽焼マグネシア部分水和物は、前記の成分の他、酸化カルシウムおよび/または水酸化カルシウムを含有してもよい。軽焼マグネシアまたは軽焼マグネシア部分水和物中の酸化カルシウムおよび/または水酸化カルシウムの合計の含有率は、酸化物換算で、3.0質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、2.0質量%以下が更に好ましい。該含有率が3.0質量%を超えると、重金属類による汚染の程度の高い被処理物に使用した場合、重金属類の不溶化効果が低下することがある。
【0027】
なお、軽焼マグネシアまたは軽焼マグネシア部分水和物は、前記成分(酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム)以外の成分(例えば、シリカ、酸化鉄等の夾雑物)を好ましくは4.0質量%以下で含むことができる。該含有率が4.0質量%を超えると、重金属類による汚染の程度の高い土壌に使用した場合、重金属類の不溶化効果が低下することがある。
【0028】
また、軽焼マグネシアまたは軽焼マグネシア部分水和物のブレーン比表面積は3000〜7000cm/gが好ましく、4000〜6800cm/gがより好ましい。該値が3000〜7000cm/gの範囲であると、重金属類の不溶化効果は増大する。
【0029】
次に、本発明における第3の必須の不溶化材成分である層状複水酸化物とその焼成物について説明する。
層状複水酸化物は、一般式が
[M2+1−x3+(OH)X+[An−x/y・mHO]X−
で表される化合物であることが好ましい。ここで、M2+は、Mg、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選ばれた少なくとも1種である2価の金属イオンである。また、上記式において、M3+は、Al、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、LaおよびGaからなる群から選ばれた少なくとも1種である3価の金属イオンである。そして、An−は、OH、ClO3、ClO4、F、Cl、Br、I、CO32−、NO3およびSO42−からなる群から選ばれた少なくとも1種であるn価の無機アニオンである。ここで、xは、0<x<0.5の正数であり、mは、0<mの正数であり、nは、上記無機アニオンの価数である。
本発明において用いる層状複水酸化物は、例えば、ハイドロタルサイト(MgAl(OH)16CO・4HO)やハイドロカルマイト(3CaO・Al・CaA・mHO)が、入手容易であることから、好適である。
【0030】
また、層状複水酸化物の焼成物は、前記層状複水酸化物を200〜1000℃、好ましくは300〜800℃、より好ましくは400〜600℃で焼成したものである。該温度が200℃未満では、焼成しない場合と比べて陰イオンの不溶化効果に差はなく、該温度が1000℃を超えると、陰イオンの不溶化効果が低下する。
前記層状複水酸化物の焼成時間は、層状複水酸化物の仕込み量、化学組成、粒度等にもよるが、通常、10分〜6時間が好ましく、30分〜2時間がより好ましい。
【0031】
本発明の重金属類の不溶化材は、更に、炭酸カルシウム含有物を母材100質量部に対し、0.1〜50質量部含有することができる。該含有量が0.1〜50質量部であると、重金属類の不溶化効果を高めることができる。
【0032】
ここで、前記炭酸カルシウム含有物は、炭酸カルシウムを80質量%以上含むものが好ましく、85質量%以上含むものがより好ましく、90質量%以上含むものが更に好ましい。炭酸カルシウム含有物としては、例えば、工業用炭酸カルシウム粉末、試薬の炭酸カルシウム粉末、石灰石粉末、炭酸カルシウムを主成分とする貝殻の粉砕物またはサンゴの粉砕物等が挙げられる。その中でも、石灰石粉末は低コストであるため好適である。
【0033】
炭酸カルシウム含有物のブレーン比表面積は、3000〜7000cm/gが好ましく、4000〜6000cm/gがより好ましい。該値が3000cm/g未満では、重金属類の不溶化効果が低くなることがある。該値が7000cm/gを超えると、粉砕に手間がかかり粉砕コストが高くなる。
【0034】
本発明の重金属類の不溶化方法は、重金属類の不溶化材を敷設してなる重金属類不溶化層の上に、重金属類を含む被処理物を敷設して、該被処理物から溶出する重金属類を不溶化する方法である。
前記重金属類の不溶化材は、軽焼マグネシア等や層状複水酸化物等の粉体を、粉体のまま母材に添加し混合するドライ添加方法や、粉体に水を加えてスラリーとした後に、該スラリーを母材に添加し混合するスラリー添加方法により調製することができる。当該スラリーの水/粉体の質量比は、軽焼マグネシア等と層状複水酸化物等の性状にもよるが、母材との混合性等の観点から、0.5〜1.5が好ましく、0.8〜1.2がより好ましい。
【0035】
また、重金属類不溶化層は、前記重金属類の不溶化材を所定の厚さに敷設して形成される。重金属類不溶化層の厚みは、不溶化材中の軽焼マグネシア等や層状複水酸化物等の含有量のほか、被処理物中の重金属類の含有量に依存し、該含有量を予め調べることにより、適宜、決定する。
なお、本発明において、被処理物が風等により飛散しないために、被処理物の上から盛土等で覆ってもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
1.各種不溶化材の調製
(1)母材
母材として、砂質土(含水比30質量%、湿潤密度1800kg/m)、石灰石細骨材(表乾密度2600kg/m)、高炉スラグ細骨材(絶乾密度2600kg/m)、および、硅砂(絶乾密度2610kg/m)を使用した。
【0037】
(2)軽焼マグネシア粉砕物および軽焼マグネシア部分水和物
炭酸マグネシウムを97質量%含むマグネサイトを、850℃で30分間、電気炉(中外エンジニアリング社製、型式;KSL−2)で焼成して軽焼マグネシアを得た。次に、当該軽焼マグネシアを粉砕して、ブレーン比表面積6500cm/gの軽焼マグネシア粉砕物(M1)を得た。更に、当該粉砕物を温度20℃、相対湿度100%の恒温恒湿槽に10日間放置し、軽焼マグネシアの一部を水和させて、ブレーン比表面積6500cm/gの軽焼マグネシア部分水和物(M2)を得た。
軽焼マグネシア部分水和物(M2)は、酸化マグネシウムを88.0質量%、および、水酸化マグネシウムを8.5質量%含有するものであった。
【0038】
(3)層状複水酸化物および層状複水酸化物の焼成物
層状複水酸化物は、市販品(富田製薬(株)製SX−1(Cl型ハイドロカルマイト)、密度2900kg/m。以下「H1」と表示する。)を用いた。また、層状複水酸化物(富田製薬(株)製AD−500(CO型ハイドロタルサイト)を、それぞれ300℃および500℃で1時間、前記電気炉で焼成して、層状複水酸化物の焼成物H2およびH3を得た。
【0039】
(4)炭酸カルシウム含有物
炭酸カルシウムを92質量%含む粒状の石灰石を粉砕し、ブレーン比表面積が5500cm/gの炭酸カルシウム含有物を得た。
【0040】
2.重金属類の溶出試験
(1)不溶化材が母材(砂質土)、軽焼マグネシア粉砕物等および層状複水酸化物等からなる場合
砂質土を母材として、表1に示す配合の不溶化材310gを調製した後、これを直径30mm、長さ250mmのガラス製カラムに充填した。次に、該充填物の上から、それぞれ濃度が0.05mg/Lの、鉛、セレンおよびヒ素が共存している水溶液15Lを1.5mL/分の流速で滴下して、充填物を通過した水溶液を採取した。なお、鉛は硝酸鉛を、セレンはセレン酸ナトリウムを、ヒ素はヒ酸水素二ナトリウム七水和物を使用した。
なお、表1において、「M」は軽焼マグネシア粉砕物および/またはその部分水和物を示し、「H」は層状複水酸化物および/またはその焼成物を示す。また、前記水溶液の滴下量は、前記カラムの断面積当たりに換算した日本の年間降雨量に準じた。
【0041】
採取した水溶液中の各種重金属の濃度は、鉛では、環境省告示46号およびJIS K 0102−2008 54.4「ICP質量分析法」に準拠して、セレンでは、JIS K0102−2008 67.4「ICP質量分析法」に準拠して、ヒ素では、環境省告示46号法およびJIS K 0102−2008 61.4「ICP質量分析法」に準拠して測定した。その結果を表2に示す。
なお、環境基準値は、鉛、セレンおよびヒ素共に、0.01mg/Lである。
また、定量下限値(検出限界値)は、鉛では0.005mg/L、セレンでは0.001mg/L、ヒ素では0.002mg/Lである。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
表1に示すように、母材100質量部に対し、軽焼マグネシア等を0.1〜50質量部と、層状複水酸化物等を0.1〜50質量部含む本発明の不溶化材(実施例1〜10)は、母材のみを使用した比較例3と比べ、鉛、セレンおよびヒ素のいずれの溶出量も、1/10程度に低減することができた。特に、実施例2〜10では、該溶出量を、ほぼ環境基準値以下に不溶化することができた。
【0045】
これに対し、層状複水酸化物の焼成物を含むが軽焼マグネシア等は含まない比較例1では、比較例3と比べ、鉛の溶出量は変わらないことから、鉛の不溶化効果は確認できなかった。また、焼成マグネシアの部分水和物を含むが層状複水酸化物等は含まない比較例2では、比較例3と比べ、セレンの溶出量を63%にしか低減することができず、セレンの不溶化効果は不十分であった。
【0046】
(2)不溶化材が更に炭酸カルシウム含有物を含む場合
砂質土を母材として、表3に示す配合の不溶化材310gをカラムに充填した以外は、前記(1)と同様にして、重金属の溶出試験を行った。その結果を表4に示す。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
表4に示すように、母材100質量部に対し、更に、炭酸カルシウム含有物0.1質量部、20質量部および50質量部を含む実施例11〜13は、鉛、セレンおよびヒ素のすべての溶出量を、環境基準値未満に不溶化することができた。
【0050】
(3)母材を変更する場合
表5に示す母材を使用し、表5に示す配合の不溶化材310g(粉体質量)のスラリーをカラムに充填した以外は、前記(1)と同様にして、重金属の溶出試験を行った。その結果を表6に示す。
【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
表6に示すように、母材に石灰石細骨材、スラグ細骨材、硅砂を用いた実施例14〜16では、鉛、セレンおよびヒ素をすべて環境基準値未満に不溶化することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材100質量部に対し、軽焼マグネシアおよび/または軽焼マグネシア部分水和物を0.1〜50質量部と、層状複水酸化物および/または層状複水酸化物の焼成物を0.1〜50質量部含むことを特徴とする重金属類の不溶化材。
【請求項2】
母材100質量部に対し、更に、炭酸カルシウム含有物を0.1〜50質量部含む請求項1に記載の重金属類の不溶化材。
【請求項3】
前記母材が、石灰石微粉末、石灰石細骨材、コンクリート用細骨材、土壌、高炉スラグ微粉末、高炉スラグ細骨材、砂質土および珪砂から選ばれる1種または2種以上である請求項1または2に記載の重金属類の不溶化材。
【請求項4】
前記層状複水酸化物が下記式で表わされる化合物である請求項1〜3に記載の重金属類の不溶化材。
[M2+1−x3+(OH)X+[An−x/y・mHO]X−
〔上記式において、M2+は、Mg、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群から選ばれた少なくとも1種である2価の金属イオンである。また、上記式において、M3+は、Al、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、LaおよびGaからなる群から選ばれた少なくとも1種である3価の金属イオンである。そして、An−は、OH、ClO3、ClO4、F、Cl、Br、I、CO32−、NO3およびSO42−からなる群から選ばれた少なくとも1種であるn価の無機アニオンである。ここで、xは、0<x<0.5の正数であり、mは、0<mの正数であり、nは、上記無機アニオンの価数である。〕
【請求項5】
前記層状複水酸化物の焼成物が、層状複水酸化物を200〜1000℃で焼成してなるものである請求項1〜4に記載の重金属類の不溶化材。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれか1項に記載の重金属類の不溶化材を敷設してなる重金属類不溶化層の上に、重金属類を含む被処理物を敷設して、該被処理物から溶出する重金属類を不溶化することを特徴とする重金属類の不溶化方法。

【公開番号】特開2012−82330(P2012−82330A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230280(P2010−230280)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】