説明

重金属類の溶出抑制方法

【課題】重金属類による汚染の程度の高い土壌等の処理対象物に対しても、少ない添加量で、重金属類の溶出を十分に抑制することができる重金属類の溶出抑制方法を提供する。
【解決手段】処理対象物100質量部に対し、軽焼マグネシアを部分的に水和してなる軽焼マグネシア部分水和物(A)1〜30重量部と、アロフェン定量試験による、粘土からのSiO及びAlの合計の抽出率が20質量%以上である粘土(B)1〜10重量部とを、(A)/(B)=0.2〜20(質量比)の範囲で添加し混合する重金属類の溶出抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属類を含む汚染土壌等の処理対象物を固化して、重金属類の溶出を抑制することができる溶出抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場、事業所又は廃棄物処理場の跡地等の土壌が、鉛、6価クロム又はヒ素等の重金属やフッ素等により汚染されているという事例が、近年、多数報告されている。
重金属等により土壌が汚染されると、重金属等の汚染域が地下水にまで拡散し、汚染された地下水を経由して最終的には人体や穀物に重金属等が蓄積され、健康に悪影響を及ぼす事態が懸念されている。
また、土壌中の重金属等の濃度が環境基準値を超えると、跡地をそのまま利用できなくなり、土地の有効利用の観点からも問題である。
【0003】
かかる問題に対処するために、汚染土壌中の重金属を不溶化して、重金属が土壌から溶出するのを抑制又は防止する技術が種々提案されている。
例えば、特許文献1には、酸化マグネシウムを含む重金属溶出抑制固化材が提案されている。
特許文献2には、MgO及び/又はMgO含有材からなる有害物質汚染土壌用の固化不溶化剤が提案されている。
特許文献3には、700〜1,000℃で焼成され、粉末度4,000cm/g以上に調整した酸化マグネシウムを、汚染土壌等に添加・混合することにより、該汚染土壌等を固化して、汚染物質の不溶化を行う汚染土壌等の固化・不溶化方法が提案されている。
特許文献4には、固化可能なバインダー中に物質を取り込む方法であって、当該方法が、スラリーとして、又は次のスラリーの形成のために、物質をバインダーと混合する工程を含み、該バインダーが苛性酸化マグネシウム源を含んでおり、及び、スラリーに、バインダーの固化を促進する固化剤を加える工程を含む方法が提案されている。
特許文献5には、酸化マグネシウム(好ましくは、軽焼マグネシウム)と、石膏等の硫酸塩とを主成分とする土壌固化材が提案されている。
特許文献6には、特定の酸化マグネシウムと、マグネシウム等の硫酸塩と、炭酸カルシウムとを特定の質量割合で含む土壌固化材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−117532号公報
【特許文献2】特開2003−225640号公報
【特許文献3】特開2003−334526号公報
【特許文献4】特表2005−523990号公報
【特許文献5】特開2003−193050号公報
【特許文献6】特開2007−161839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
不溶化材として酸化マグネシウムを用いる特許文献1〜6に記載の技術は、汚染の程度の低い土壌に適用した場合に重金属の溶出を抑制することができる。しかし、酸化マグネシウムや硫酸塩を通常の使用量で添加しても、汚染の程度の高い土壌に対し未だ重金属の溶出抑制効果は不十分である。一方、重金属の溶出量を所定の値(例えば、環境基準値)以下にしようとすると、不溶化材の使用量が過度に増大する。この場合、(a)高コストになる、(b)不溶化材を添加した後の処理土のpHが高くなる、(c)不溶化材を添加した後の処理土の容積が過度に増大し、その後処理に手間とコストがかかる、などの問題がある。
そこで、本発明は、重金属類による汚染の程度の高い土壌等の処理対象物に対しても、少ない添加量で、重金属類の溶出を十分に抑制することができる重金属類の溶出抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、軽焼マグネシア部分水和物と特定の粘土を特定の添加量で処理対象物に添加し混合すれば、前記本発明の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[4]を提供する。
[1]処理対象物100質量部に対し、軽焼マグネシアを部分的に水和してなる軽焼マグネシア部分水和物(A)1〜30質量部と、アロフェン定量試験による、粘土からのSiO(シリカ)及びAl(アルミナ)の合計の抽出率が20質量%以上である粘土(B)1〜10質量部とを、(A)/(B)=0.2〜20(質量比)の範囲で添加し混合する重金属類の溶出抑制方法。
[2]前記軽焼マグネシア部分水和物が、酸化マグネシウム65〜96.5質量%、及び、水酸化マグネシウム3.5〜30質量%を含有する前記[1]に記載の重金属類の溶出抑制方法。
[3]前記処理対象物100質量部に対し、炭酸カルシウム含有物1〜30質量部、及び/又は、石膏含有物0.3〜10質量部を添加し混合する前記[1]又は[2]に記載の重金属類の溶出抑制方法。
[4]前記処理対象物100質量部に対し、酸性剤1〜60質量部を添加し混合する前記[1]〜[3]のいずれかに記載の重金属類の溶出抑制方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の重金属類の溶出抑制方法は、処理対象物に対し、軽焼マグネシア部分水和物と特定の粘土を特定の添加量で添加し混合するため、汚染の程度の高い土壌等の処理対象物に対しても、少ない添加量で重金属類の溶出を十分に抑制することができる。また、このように添加量が少なくて済むため、低コストであり、処理対象物のpHの上昇幅が小さく、固化処理物の容積の過度の増大を避けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の重金属類の溶出抑制方法は、処理対象物100質量部に対し、軽焼マグネシアを部分的に水和してなる軽焼マグネシア部分水和物(A)1〜30質量部と、アロフェン定量試験による、粘土からのSiO及びAlの合計の抽出率が20質量%以上である粘土(B)1〜10質量部とを、(A)/(B)=0.2〜20(質量比)の範囲で添加し混合するものである。
【0010】
本発明で溶出抑制の対象となる重金属類とは、カドミウム、鉛、六価クロム、ヒ素、総水銀、アルキル水銀、セレン、フッ素、ホウ素、及び、シアンの第二種特定有害物質、並びに、要監視項目として注意が必要な、ニッケル、モリブデン、アンチモン、硝酸性窒素、及び、亜硝酸性窒素等をいう。
【0011】
軽焼マグネシア部分水和物の添加量は、処理対象物100質量部に対し、1〜30質量部、好ましくは2〜20質量部、より好ましくは4〜15質量部である。該添加量が1質量部未満では、該軽焼マグネシア部分水和物を処理対象物中に均一に混合するのが困難となり、重金属類の溶出抑制効果が十分ではない。また、該添加量が30質量部を超えると、コストが増大したり、固化処理物のpHが大きく上昇したり、また、固化処理物の容積が増大して、その後処理に手間とコストがかかるなどの問題が生じ得る。
【0012】
また、粘土の添加量は、処理対象物100質量部に対し、1〜10質量部、好ましくは2〜8質量部、より好ましくは3〜6質量部である。該添加量が1質量部未満では、該粘土を処理対象物中に均一に混合するのが困難となり、重金属類の溶出抑制効果が十分ではない。また、該添加量が10質量部を超えると、コストが増大したり、固化処理物の容積が増大して、その後処理に手間とコストがかかるなどの問題が生じ得る。
【0013】
また、軽焼マグネシア部分水和物(A)と粘土(B)の質量比((A)/(B))は、0.2〜20、好ましくは0.3〜10、より好ましくは0.5〜5、特に好ましくは1〜4である。該質量比が0.2〜20の範囲から外れると、重金属類の溶出抑制効果が十分でない場合がある。
【0014】
次に、本発明の第1の必須添加材である軽焼マグネシア部分水和物について説明する。
軽焼マグネシアは、例えば、炭酸マグネシウム、及び/又は、水酸化マグネシウムを含む固形物を、650〜1,300℃で焼成することによって得ることができる。
【0015】
前記固形物中の炭酸マグネシウム、及び/又は、水酸化マグネシウムの含有率は80質量%以上であり、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。該含有率が80質量%未満では、軽焼マグネシアに含まれる酸化マグネシウム成分が少なく、重金属類の溶出抑制効果が低下する傾向がある。
【0016】
前記固形物としては、マグネサイト、ドロマイト、ブルーサイト、又は、海水中のマグネシウム成分を消石灰等のアルカリで沈殿させて得た水酸化マグネシウム等の、塊状物又は粉粒状物が挙げられる。
【0017】
前記固形物の焼成温度は、通常、650〜1,300℃であり、750〜950℃が好ましく、800〜900℃がより好ましい。該焼成温度が650℃未満では、軽焼マグネシアが生成し難く、該焼成温度が1,300℃を超えると、重金属類の溶出抑制効果が低下する虞がある。前記固形物の焼成時間は、固形物の仕込み量や粒度等にもよるが、通常、30分間〜5時間である。
【0018】
本発明に使用する軽焼マグネシア部分水和物は、前記軽焼マグネシアを粉砕した後、当該粉砕物に水を添加して撹拌し混合するか、又は、当該粉砕物を相対湿度80%以上の雰囲気下に1週間以上保持することにより得られる。
【0019】
前記軽焼マグネシア部分水和物は、酸化マグネシウムを65〜96.5質量%、及び、水酸化マグネシウムを3.5〜30質量%含有するものが好ましく、酸化マグネシウムを70〜95質量%、及び、水酸化マグネシウムを5〜20質量%含有するものがより好ましく、酸化マグネシウムを75〜90質量%、及び、水酸化マグネシウムを7〜17質量%含有するものが特に好ましい。該値を好ましい範囲内とすれば、重金属類の溶出抑制効果をより高めることができる。
【0020】
軽焼マグネシア部分水和物は、前記の成分の他、酸化カルシウム、及び/又は、水酸化カルシウムを含有してもよい。軽焼マグネシア部分水和物中の酸化カルシウム、及び/又は、水酸化カルシウムの合計の含有率は、酸化物換算で、3.0質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、2.0質量%以下が更に好ましい。該含有率が3.0質量%を超えると、重金属類による汚染の程度の高い土壌に使用した場合、重金属類の溶出抑制効果が低下することがある。
【0021】
なお、軽焼マグネシア部分水和物は、前記成分(酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム)以外の成分(例えば、シリカ、酸化鉄等の夾雑物)を好ましくは4.0質量%以下で含むことができる。該含有率が4.0質量%を超えると、重金属類による汚染の程度の高い土壌に使用した場合、重金属類の溶出抑制効果が低下することがある。
【0022】
軽焼マグネシア部分水和物のブレーン比表面積は3,000〜7,000cm/gが好ましく、4,000〜6,800cm/gがより好ましい。該値が3,000〜7,000cm/gの範囲内であると、重金属類の溶出抑制効果は増大する。
【0023】
次に、本発明の第2の必須添加材である粘土について説明する。
本発明に使用する粘土は、アロフェン定量試験における粘土からのSiO及びAlの合計の抽出率が20質量%以上のものである。該抽出率が20質量%未満では、重金属類の溶出抑制効果が低下する傾向にある。
【0024】
アロフェン定量試験における粘土からの抽出率は、SiOにおいて5質量%以上、Alにおいて15質量%以上、及び、Feにおいて9〜30質量%であることがより好ましい。Feの抽出率が9〜30質量%であると、重金属類の溶出抑制効果が高まる傾向にある。
【0025】
本発明でいうアロフェン定量試験とは、地盤工学会のアロフェン定量試験(発行:社団法人地盤工学会、地盤添加材試験の方法と解説−二分冊の2− pp970に記載)をいう。
【0026】
アロフェン定量試験によるSiO等の抽出率は、以下の(1)〜(6)の手順により求める。
(1)粘土の乾燥と粉砕
粘土を40℃の乾燥機内に入れ24時間乾燥させた後に粉砕する。次に、この粉砕した粘土を0.42mmの篩にかけて、篩を通過した粘土を回収する。
【0027】
(2)有機物の分解
前記篩を通過した粘土2gに、10質量%の過酸化水素水50mlを加え撹拌し、次いで、30質量%の過酸化水素水50mlを加え撹拌し、更に、30質量%の過酸化水素水50mlを再度加え撹拌して、粘土に含まれる有機物を酸化分解する。
なお、前記30質量%の過酸化水素水を加える時点、及び、有機物分解処理の終了時点は、いずれも発泡の終了時(酸化分解反応の終了時)を目安とする。
【0028】
(3)有機物含有量の測定
前記有機物分解後の粘土を濾別し、これに蒸留水50mlを加えて分解有機物等を洗浄する。洗浄後の粘土は105℃の乾燥機内に入れ24時間乾燥させた後、乾燥粘土の質量を測定して粘土中の有機物の含有量を求める。
【0029】
(4)酸抽出液等の回収
前記有機物分解後の乾燥粘土1gに8mol/LのHCl水溶液50mlを加え、振動数200回/分で30分間振とうして酸抽出した後、濾別して抽出液(a)を回収するとともに、濾別した酸抽出後の粘土に蒸留水50mlを加えて粘土に含まれる酸を洗浄して洗浄液(b)を回収する。
【0030】
(5)アルカリ抽出液等の回収
前記(4)の洗浄後の粘土に、0.5mol/LのNaOH水溶液50mlを加え、前記振動数で5分間振とうしてアルカリ抽出処理をした後、濾別して抽出液(c)を回収するとともに、濾別したアルカリ抽出処理後の粘土に蒸留水50mlを加えて粘土に含まれるアルカリを洗浄して洗浄液(d)を回収する。
【0031】
(6)SiO等の抽出率の算定
前記(5)の洗浄後の粘土を前記(4)の処理に戻し、(4)及び(5)の処理を更に続けて4回(合計で5サイクル)繰り返した後、各サイクルにおいて回収した抽出液(a)、(c)及び洗浄液(b)、(d)に含まれる、SiO(シリカ)、Al(アルミナ)、及び、Fe(酸化鉄)の全濃度を測定して、それぞれの化合物の抽出量を算定する。
【0032】
そして、粘土からのSiO、Al、及び、Feの抽出率は、有機物分解処理前の粘土(乾燥状態)1g当たりの、SiO、Al、及び、Feの抽出量に換算して表示する。
【0033】
なお、本発明に用いる粘土に含まれる粘土鉱物としては、特に、イモゴライト、オパールシリカ、アロフェン、活性アルミ、鉄とアルミの非晶質和水酸化物、ギプサイト、ハロイサイト、バーミキュライト、カオリナイト、加水ハロイサイト、スメクタイト、及び、クロライトから選ばれる1種又は2種以上の鉱物が挙げられる。
【0034】
また、粘土中のこれら粘土鉱物の含有率は、20質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。該含有率が20質量%未満では、処理物のpHの低減能力が低くなったり、あるいは、重金属類の溶出抑制効果が低下することがある。
【0035】
また、本発明に用いる粘土は、重金属類の溶出抑制効果の観点から、750℃における強熱減量が10%以上であって、SiOの含有率が30質量%以上、Feの含有率が8質量%以上、及びAlの含有率が20質量%以上であるものが好ましい。
なお、前記強熱減量の試験は、日本工業規格「土の強熱減量試験方法」(JIS
A 1226:2009)に従って行う。
更に、本発明に用いる粘土の最大粒径は、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下である。最大粒径が3mm以下であると、重金属類の溶出抑制効果が増大する傾向にある。
【0036】
本発明において、処理対象物100質量部に対し、更に、炭酸カルシウム含有物1〜30質量部、及び/又は、石膏含有物0.3〜10質量部を添加し混合することができる。
炭酸カルシウム含有物の添加量が1〜30質量部であると、重金属類の溶出抑制効果を高めることができる。また、石膏含有物の添加量が0.3〜10質量部であると、同様に、重金属類の溶出抑制効果を高めることができる。
【0037】
ここで、前記炭酸カルシウム含有物は、炭酸カルシウムを80質量%以上含むものが好ましく、85質量%以上含むものがより好ましく、90質量%以上含むものが更に好ましい。炭酸カルシウム含有物としては、例えば、工業用炭酸カルシウム粉末、試薬の炭酸カルシウム粉末、石灰石粉末、炭酸カルシウムを主成分とする貝殻の粉砕物又はサンゴの粉砕物等が挙げられる。その中でも、石灰石粉末は低コストであるため好適である。
【0038】
また、前記石膏含有物は、硫酸カルシウム、又は、硫酸カルシウム水和物を、80質量%以上含むものが好ましく、85質量%以上含むものがより好ましく、90質量%以上含むものが更に好ましい。石膏含有物としては、例えば、無水石膏、半水石膏、リン酸石膏、又は、二水石膏等が挙げられる。具体的には、無水石膏としては、天然無水石膏、フッ酸の製造時に副生するフッ酸無水石膏が使用でき、二水石膏としては、天然二水石膏、排脱二水石膏等が使用できる。前記石膏のうち、無水石膏は、固化処理土等の固化処理物のpHを低減する効果に優れる。無水石膏の中でも、有害物質の含有量が少ない天然無水石膏が好適である。
【0039】
炭酸カルシウム含有物又は石膏含有物のブレーン比表面積は、3,000〜7,000cm/gが好ましく、4,000〜6,000cm/gがより好ましい。該値が3,000cm/g未満では、重金属類の溶出抑制効果が低くなることがある。該値が7,000cm/gを超えると、粉砕の手間、及び、粉砕コストが高くなる。
【0040】
本発明の溶出抑制方法において、固化処理物のpHの上昇を抑えるために、酸性剤を添加し混合することができる。
酸性剤の添加量は、軽焼マグネシア部分水和物の添加量や処理対象物のpHにも依るが、通常、処理対象物100質量部に対し、1〜60質量部であり、好ましくは3〜50質量部であり、更に好ましくは5〜40質量部である。該配合量が1質量部未満では、固化処理物のpHの低減効果を高めることが困難になる場合がある。該配合量が60質量部を超えると、重金属類の溶出抑制効果の更なる向上が得られないばかりか、コスト高になる。
【0041】
前記酸性剤としては、塩酸、硫酸、硼酸等の無機酸、及び、蓚酸、クエン酸、リンゴ酸、ベンゼンスルホン酸等の有機酸、並びに、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アンモニウム、ミョウバン、塩化アンモニウム、硫酸第1鉄、塩化第2鉄、ベンゼンスルホン酸アンモニウム等の、強酸と弱塩基からなる酸性塩等から選ばれる1種、又は、2種以上を使用することができる。特に、安価な工業製品である、(無水)硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム、ミョウバン、硫酸第一鉄、又は、塩化第二鉄等が、本発明に用いる酸性剤として好ましい。
本発明における酸性剤の使用形態は粉末が好ましい。当該粉末の粒径は、当該粉末が水溶性であることから特に限定されないが、作業性等の観点からは、1mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましい。
【0042】
本発明において使用する軽焼マグネシア部分水和物、及び、石膏等の添加材(粉体)の添加方法としては、処理対象物に粉体のまま添加し混合するドライ添加方法、若しくは、粉体に水を加えてスラリー、又は、水溶液とした後に、該スラリー等を処理対象物に添加し混合するスラリー(水溶液)添加方法を採用することができる。当該スラリー又は水溶液の水/粉体の質量比は、処理対象物の性状や重金属類の含有量にもよるが、0.5〜1.5が好ましく、0.8〜1.2がより好ましい。
【0043】
処理対象物に対し、軽焼マグネシア部分水和物(A)、及び、粘土(B)を添加し混合する順序としては、例えば、以下の(i)及び(ii)を挙げることができる。なお、軽焼マグネシア部分水和物(A)、及び、粘土(B)を、処理対象物に対して同時に添加し混合してもよい。
(i)A→B
(ii)B→A
【0044】
また、更に、炭酸カルシウム含有物(C)、石膏含有物(D)、及び、酸性剤(E)から選ばれる1種、又は、2種以上の添加材を使用する場合は、例えば、以下の(iii)及び(iv)を挙げることができる。
(iii)(A+C等)→B
(iv)A→(B+C等)
【0045】
ここで、前記(iii)における(A+C等)は、(A)と、(C)、(D)及び(E)から選ばれる1種又は2種以上の物質との混合物を意味し、(A+C等)→Bは、処理対象物に当該混合物(A+C等)を添加し混合した後に、Bを添加し混合することを意味する。また、前記(iv)における(B+C等)、及び、A→(B+C等)も同様の意味である。
【0046】
本発明の溶出抑制方法が適用される処理対象物としては、重金属類を含有する土壌、焼却灰類、ダスト類等を挙げることができる。また、該処理対象物は、本発明の効果の一つである固化処理物のpH上昇の抑制効果を十分に得る観点から、処理対象物1mに対し市販の酸化マグネシウム(例えば、関東化学社製の特級試薬)を100kg/m添加し混合して得た混合物のpHが、10.3以上となるものが好ましく、10.6以上となるものがより好ましい。なお、当該pHの測定方法は、JGS0211−2009に準拠して行なう。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
1.各種添加材の調製
(1)軽焼マグネシア粉砕物(M1)及び軽焼マグネシア部分水和物(W1)
炭酸マグネシウムを97質量%含むマグネサイトを、850℃で30分間、電気炉(中外エンジニアリング社製、型式;KSL−2)で焼成して軽焼マグネシアを得た。次に、当該軽焼マグネシアを粉砕してブレーン比表面積6,500cm/gの軽焼マグネシア粉砕物(M1)を得た。更に、当該粉砕物を温度20℃、相対湿度100%の恒温恒湿槽に10日間放置し、軽焼マグネシアの一部を水和させて、ブレーン比表面積6,500cm/gの軽焼マグネシア部分水和物(W1)を得た。
軽焼マグネシア部分水和物(W1)は、酸化マグネシウムを88.0質量%、及び、水酸化マグネシウムを8.5質量%含有するものであった。
【0048】
(2)軽焼マグネシア粉砕物(M2)及び軽焼マグネシア部分水和物(W2)
炭酸マグネシウムを95質量%含むマグネサイトを、870℃で30分間、前記電気炉で焼成して軽焼マグネシアを得た。次に、当該軽焼マグネシアを粉砕してブレーン比表面積5,900cm/gの軽焼マグネシア粉砕物(M2)を得た。更に、当該粉砕物を温度20℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽に20日間放置し、軽焼マグネシアの一部を水和させて、ブレーン比表面積5,900cm/gの軽焼マグネシア部分水和物(W2)を得た。
軽焼マグネシア部分水和物(W2)は、酸化マグネシウムを79.5質量%及び水酸化マグネシウムを17.0質量%含有するものであった。
【0049】
(3)粘土粉砕物
表1に示す成分組成、及び、アロフェン定量試験における抽出率を有する5種類の粘土a〜eの粘土を粉砕し、2mm篩を全通する粘土粉砕物を得た。なお、表1中の強熱減量は、750℃における値である。
なお、使用した粘土は、いずれも、粘土鉱物を70質量%以上含有するものであった。
【0050】
【表1】

【0051】
(4)炭酸カルシウム含有物
炭酸カルシウムを92質量%含む粒状の石灰石を粉砕し、ブレーン比表面積が5,500cm/gの炭酸カルシウム含有物を得た。
(5)石膏含有物
硫酸カルシウムを91質量%含む塊状の天然無水石膏を粉砕し、ブレーン比表面積が5,000cm/gの石膏含有物を得た。
(6)酸性剤
無水硫酸アルミニウム(関東化学社製;粉末)を、そのまま用いた。
【0052】
2.重金属類の溶出試験、及びpHの測定
(1)添加材としてマグネシア及び粘土を用いた場合
表2の添加例1に従い、マグネシア(軽焼マグネシアと軽焼マグネシア部分水和物の総称:MG)粉砕物、及び、粘土(B)粉砕物に、それぞれ水を加えて、水/粉体=1(質量比)のスラリー(MG)、及び、スラリー(B)を調製した。次に、ヒ素を含有する汚染土壌(含水比70%)、フッ素を含有する汚染土壌(含水比65%)、及び、鉛を含有する焼却飛灰(含水比50%)を処理対象物として用い、当該処理対象物に対し、スラリー(MG)→スラリー(B)の順に添加し混合した。混合後、JGS0821−2009「安定処理土の締固めをしない供試体作製方法」に準拠して供試体を作製した。また、スラリー(MG)、及び、スラリー(B)を添加しない前記処理対象物を対照例(比較例7)とした。
【0053】
得られた供試体を20℃の恒温室にて湿空養生した後、材齢7日の供試体のpHを地盤工学会基準JGS0211−2009に準拠して測定した。また、当該供試体からの重金属類の溶出試験は、ヒ素では、環境省告示46号法、及び、JIS K
0120−2008 61.4「ICP質量分析法」に準拠して、フッ素では、環境省告示46号、及び、昭和46年12月環境庁告示第59号付表6「イオンクロマトグラフ法」に準拠して、また、鉛では、環境省告示46号、及び、JIS K 0120−2008 5.4「ICP質量分析法」に準拠して行なった。
【0054】
なお、前記重金属類の環境基準値は、ヒ素では0.01mg/L、フッ素では0.8mg/L、鉛では0.01mg/Lである。
各種重金属類の溶出試験、及び、供試体のpH測定の結果を表3に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
表3に示すように、処理対象物100質量部に対し、軽焼マグネシア部分水和物(A)1〜30重量部と、アロフェン定量試験による、粘土からのSiO及びAlの合計の抽出率が20質量%以上である粘土(B)1.5〜10重量部とを、(A)/(B)=0.2〜20(質量比)の範囲で添加し混合した実施例1〜10では、ヒ素等の溶出量は全て環境基準値以下であった。
【0058】
これに対し、(A)/(B)が0.2〜20の範囲外で添加し混合した比較例1((A)/(B)=0.1)では、ヒ素とフッ素の溶出量が環境基準値を超え、また、同じく前記の範囲外で添加し混合した比較例2((A)/(B)=26.7)では、鉛の溶出量が環境基準値を超えていた。アロフェン定量試験による、粘土からのSiO及びAlの合計の抽出率が20質量%未満である比較例3(抽出率:18.9質量%)では、フッ素の溶出量が環境基準値を超え、また、同じく前記抽出率が20質量%未満である比較例4(抽出率:17.6質量%)では、ヒ素の溶出量が環境基準値を超えていた。また、軽焼マグネシアを添加し混合した比較例5では、鉛が環境基準値を超え、また、同じく軽焼マグネシアを添加し混合した比較例6では、フッ素と鉛の溶出量が環境基準値を超えていた。
【0059】
(2)添加材として更に炭酸カルシウム含有物等を用いた場合
マグネシア(MG)と粘土(B)に加え、更に、炭酸カルシウム含有物(C)、石膏含有物(D)、及び、酸性剤として無水硫酸アルミニウム(E)から選ばれる1種又は2種以上の添加材を用いて、重金属類の溶出試験、及びpHの測定を行なった。
具体的には、表4の添加例2に従い、マグネシア(MG)に、予め、炭酸カルシウム含有物(C)、石膏含有物(D)、及び、無水硫酸アルミニウム(E)から選ばれる1種又は2種以上を添加し混合して、混合物(G)を調製した。
【0060】
次に、当該混合物(G)及び粘土(B)に、それぞれ水を加えて、水/粉体=1(質量比)のスラリー(G)及びスラリー(B)を調製した。
その後、前記(1)と同じヒ素を含有する汚染土壌(含水比70%)、フッ素を含有する汚染土壌(含水比65%)、及び、鉛を含有する焼却飛灰(含水比50%)を処理対象物として用い、それぞれの処理対象物に対し、スラリー(G)→スラリー(B)の順に添加し混合した。混合後、JGS0821−2009「安定処理土の締固めをしない供試体作製方法」に準拠して供試体を作製した。
各種重金属類の溶出試験、及び、供試体のpH測定は、前記(1)と同様に行なった。その結果を表5に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
表5に示すように、処理対象物100質量部に対し、更に、炭酸カルシウム含有物0.5〜30質量部を添加し混合した実施例11〜14は、該添加量が40質量部である実施例15に比べ、ヒ素とフッ素の溶出抑制効果がより高かった。なお、該添加量が0.5質量部である実施例14では、該添加量が0質量部である実施例3に比べて、pH上昇抑制効果が認められなかった。また、処理対象物100質量部に対し、石膏含有物0.4〜10質量部を添加し混合した実施例16〜19は、該添加量が12.0質量部である実施例20に比べ、ヒ素とフッ素の溶出抑制効果がより高かった。
また、更に、酸性剤である無水硫酸アルミニウムを添加し混合した実施例21及び23は、それぞれ対照となる、無水硫酸アルミニウム無添加の実施例3及び22と比べ、固化処理土等のpH上昇抑制効果がより高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物100質量部に対し、軽焼マグネシアを部分的に水和してなる軽焼マグネシア部分水和物(A)1〜30重量部と、アロフェン定量試験による、粘土からのSiO及びAlの合計の抽出率が20質量%以上である粘土(B)1〜10重量部とを、(A)/(B)=0.2〜20(質量比)の範囲で添加し混合することを特徴とする重金属類の溶出抑制方法。
【請求項2】
前記軽焼マグネシア部分水和物が、酸化マグネシウム65〜96.5質量%、及び、水酸化マグネシウム3.5〜30質量%を含有する請求項1に記載の重金属類の溶出抑制方法。
【請求項3】
前記処理対象物100質量部に対し、更に炭酸カルシウム含有物1〜30質量部、及び/又は、石膏含有物0.3〜10質量部を添加し混合する請求項1又は2に記載の重金属類の溶出抑制方法。
【請求項4】
前記処理対象物100質量部に対し、酸性剤1〜60質量部を添加し混合する請求項1〜3のいずれか1項に記載の重金属類の溶出抑制方法。

【公開番号】特開2012−55815(P2012−55815A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200528(P2010−200528)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】