量子計算方法および量子計算機
【課題】デコヒーレンスの抑制
【解決手段】光共振器101の内部に含まれ、少なくとも3つのエネルギー状態(|0>、|1>、|3>)と2つのエネルギー状態(|2>、|4>)を有し、|0>、|1>、|3>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系102を用意し、複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の量子ビットに2量子ビットゲートを行う際に、第1物理系と第2物理系の|0>と|1>以外の状態と光共振器を利用して、第1物理系と第2物理系以外が変化することなく2量子ビットゲートを行い、全ての物理系の量子ビットを反転し、2量子ビットゲートの実行に要した時間だけ何もせず待機し、待機後、全ての物理系の量子ビットを反転するように制御する。
【解決手段】光共振器101の内部に含まれ、少なくとも3つのエネルギー状態(|0>、|1>、|3>)と2つのエネルギー状態(|2>、|4>)を有し、|0>、|1>、|3>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系102を用意し、複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の量子ビットに2量子ビットゲートを行う際に、第1物理系と第2物理系の|0>と|1>以外の状態と光共振器を利用して、第1物理系と第2物理系以外が変化することなく2量子ビットゲートを行い、全ての物理系の量子ビットを反転し、2量子ビットゲートの実行に要した時間だけ何もせず待機し、待機後、全ての物理系の量子ビットを反転するように制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デコヒーレンスの制御および光共振器と原子の結合を利用した量子計算機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年盛んに研究されている量子計算機において、重ね合わせの状態を壊すデコヒーレンスが1つの大きな問題となっている。デコヒーレンス(位相緩和)はbang−bang制御という手法で抑制できることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。Bang−bang制御によって、結晶中の希土類イオンの核スピンのコヒーレンス時間を100msから30sへ伸ばす実験が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【非特許文献1】L. Viola and S. Lloyd, Phys. Rev. A 58, 2733 (1998).
【非特許文献2】E. Fraval, M. J. Sellars, and J. J. Longdell, Phys. Rev. Lett. 95, 030506 (2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようにbang−bang制御はデコヒーレンスを抑制する有効な手法ではあるが、状態の反転を繰り返す必要があるため、bang−bang制御でデコヒーレンスを抑制しながら量子計算を実行できるかどうかは自明ではない。特に、光共振器を利用した量子計算機において、bang−bang制御を利用する提案は報告されていない。
【0004】
本発明の目的は、光共振器を利用して2量子ビットゲートを行う量子計算機において、2量子ビットゲート実行中に起こるデコヒーレンスをbang−bang制御によって抑制する量子計算方法および量子計算機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、本発明の量子計算方法は、共鳴周波数を有する光共振器を用意し、前記光共振器の内部に含まれ、少なくとも3つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記3つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系を用意し、前記複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の量子ビットに2量子ビットゲートを行う際に、前記第1物理系と第2物理系の|0>と|1>以外の状態と前記光共振器を利用して、前記第1物理系と第2物理系以外が変化することなく前記2量子ビットゲートを行い、前記2量子ビットゲート実行直後に、全ての前記物理系の量子ビットを反転し、前記量子ビットを反転した後、前記2量子ビットゲートの実行に要した時間だけ何もせず待機し、待機後、全ての物理系の量子ビットを反転することを特徴とする。
【0006】
本発明の量子計算方法は、共鳴周波数を有する光共振器を用意し、前記光共振器の内部に含まれ、4つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記4つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>、|5>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>、|5>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系を用意し、前記複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の|0>を|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|3>へ変換し、前記第1物理系および前記第2物理系の|1>を、|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|5>へ変換し、前記共鳴周波数を有する単一光子パルスを光共振器に照射し、前記第1物理系および前記第2物理系以外の物理系の量子ビットを反転し、前記第1物理系および前記第2物理系の|3>と|5>を反転し、前記単一光子パルスを光共振器に照射するのに要した時間だけ何もせずに待機し、前記第1物理系および前記第2物理系の|3>を、|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|0>へ戻し、前記第1物理系および前記第2物理系の|5>を、|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|1>へ戻し、全ての物理系の量子ビットを反転することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の量子計算方法および量子計算機によれば、光共振器を利用して2量子ビットゲートを行う量子計算機において、2量子ビットゲート実行中に起こるデコヒーレンスをbang−bang制御によって抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る量子計算方法および量子計算機について詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行うものとして、重ねての説明を省略する。
まず、bang−bang制御によってデコヒーレンス(位相緩和)を抑制できるための条件を述べる(L. Viola and S. Lloyd, Phys. Rev. A 58, 2733 (1998)参照)。2つの量子状態|0>と|1>からなる量子系(量子ビット)のデコヒーレンスを抑制するには、ある時間間隔Tで|0>と|1>の反転操作を繰り返せばよい。そうすると、時刻t〜t+Tに起こる状態変化が時刻t+T〜t+2Tに起こる状態変化と打ち消し合って位相緩和が抑制される(時刻t+Tとt+2Tに反転が行われたとする)。これがbang−bang制御である。この打ち消し合いがうまくいくためには、次の条件が必要である。
【0009】
1.時間間隔Tが十分短い。
2.2つの反転操作の間では状態|0>と|1>の存在確率が変化しない。
【0010】
条件1に関しては、結晶中の希土類イオンの核スピンを用いた実験ではT<5msであればよいことが知られている(E. Fraval, M. J. Sellars, and J. J. Longdell, Phys. Rev. Lett. 95, 030506 (2005))。Bang−bang制御を行いながら量子計算を行うには、上の条件2に注意しなくてはならない。
【0011】
本実施形態では、光共振器を利用して2量子ビットゲートを行う量子計算機において、2量子ビットゲート実行中に起こるデコヒーレンスをbang−bang制御によって抑制する手法を2つ提案する。第1の手法は、手続きは単純だが、2量子ビットゲートを行う2つの量子ビットに対してはデコヒーレンスを抑制できない(それら以外のすべての量子ビットに対するデコヒーレンスが抑制できる)。第2の手法は、手続きは複雑だが、すべての量子ビットに対してbang−bang制御が有効となる。
【0012】
以下、第1の手法、第2の手法を使用した本実施形態の量子計算方法および量子計算機について図1、図2を参照して説明する。
量子計算機は、図2に示すように、光源201、制御装置202、光共振器101、複数の物理系102、磁場発生器203を含む。
光源201は、周波数安定化した光源として使用したり、単一光子パルスを発生する。光源201は、結晶892物理系102の状態を操作するため、量子ビットをゲート操作する場合に使用する。
制御装置202は、光源201のオンオフ、光源201の周波数、磁場発生器203の磁場発生のオンオフを制御する。
光共振器101は、共鳴周波数を有している。
複数の物理系102は、光共振器内に設置された図1のようなものである。
磁場発生器203は、コイルからなり、高周波の振動磁場を発生し物理系102に磁場を印加する。磁場発生器203は、物理系の特定の2状態間に共鳴するπパルスを発生する。πパルスは特定の2状態を反転する。
【0013】
(第1の手法)
光共振器中に図1に示されているようなエネルギー準位を有する複数の原子(またはイオン)を配置する。基底状態(安定な下準位)が3つ以上あり(図1では4つ:|0>,|1>,|3>,|5>)、そのうち2つ(図1の|0>と|1>)を量子ビットとして用いる。利用する励起状態(上準位)は2つあり、そのうちの1つ(図1の|2>)と量子ビットに使う2状態以外の基底状態の1つ(図1の|3>)との間の遷移は共振器モードと強く結合しているものとする。原子の選択は、原子の位置の違いを使うか、共振器モードと結合しない励起状態(図1の|4>)と基底状態の間の遷移周波数が各原子で大きく異なるようにすることで可能である。
【0014】
図1の原子1と原子2の量子ビットに対して2量子ビットゲートを行う場合を考え、本実施形態の量子計算機が第1の手法を行う動作の一例について図3を参照して説明する。
初め(時刻:t=0)、すべての原子は状態|0>と状態|1>のある重ね合わせの状態にあったとする。まず、既存の手法によって原子1と原子2に対して2量子ビットゲートを実行する(ステップS301)。この際、原子1と原子2以外の原子の状態は変化しないようにする。利用できる既存の手法としては、例えば次の2つの論文で開示されている2つの手法がある: L.-M. Duan, B. Wang, and H. J. Kimble, Phys. Rev. A 72, 032333 (2005); Hayato Goto and Kouichi Ichimura, Phys. Rev. A 70, 012305 (2004)。具体的な手順についてはそれぞれ後に図4、図5を参照して説明する。この2量子ビットゲート実行に要する時間T2とすると、2量子ビットゲート実行直後の時刻t=T2である。
【0015】
次に、bang−bang制御の反転操作を行う(ステップS302)。つまり、制御装置202が磁場発生器203を制御して振動磁場(πパルス)を発生し、すべての原子の|0>と|1>をπパルスにより反転する。この反転操作にかかる時間は無視できるものとする。ここで、πパルスとは、2状態間に共鳴する周波数のパルスで、それら2つの状態を反転するものである。ここでは反転する2状態がスピンに起因するものと仮定し、パルスは振動磁場とする(2状態間が電気双極子遷移許容の場合はπパルスとして電磁波が利用できる)。
【0016】
そしてその後、制御装置202が磁場発生器203による振動磁場の発生を止め、光源201からの光も出さず、時刻がt=2T2になるまで何もせずに待つ(ステップS303)。
【0017】
最後に、制御装置202が磁場発生器203を制御して振動磁場(πパルス)を発生し、再びすべての原子の|0>と|1>をπパルスにより反転する(bang−bang制御の2回目の反転操作;ステップS304)。
【0018】
こうして、時間2T2の間に起こったデコヒーレンスをbang−bang制御によって抑制できる。ただし、原子1と原子2には2量子ビットゲート実行に必要な様々な操作を行っているため、bang−bang制御の条件2を満たさず、この間のデコヒーレンスの影響を受ける。しかし、この2原子の量子ビット以外のすべての量子ビットに対してはbang−bang制御が有効なので、全体としてはbang−bang制御を行わない場合に比べデコヒーレンスの影響を低減できる。
【0019】
次に、図3のステップS301の2量子ビットゲートを実行するための具体的な手順を説明する。まず、Duanらの手法を使う場合について図4を参照して説明し、次にGotoらの手法を使う場合について図5を参照して説明する。
【0020】
Duanらの手法で原子1と原子2に制御位相反転ゲートを実行する手順について図4を参照して説明する。制御位相反転ゲートとは、
【数1】
【0021】
という操作によって定義される2量子ビットゲートであり、これと1量子ビットゲートを組み合わるだけで任意の量子ゲートを構成できるという基本的なゲートの1つである。
まず、原子1と原子2の状態|0>を|3>に変換する(ステップS401)。これを行うには、制御装置202が光源201を制御し、共振器モードと結合しない励起状態(図1の|4>)を利用したラムダ型STIRAP(stimulated Raman adiabatic passage; K. Bergmann, H. Theuer, and B. W. Shore, Rev. Mod. Phys. 70, 1003 (1998)参照)を行えばよい。
【0022】
次に、光源201が共振器に共鳴する単一光子パルスを共振器に照射することで、|3>と|1>を量子ビットとみなした制御位相反転ゲートを実行する(L.-M. Duan, B. Wang, and H. J. Kimble, Phys. Rev. A 72, 032333 (2005)参照;ステップS402)。Duanらの手法を使う場合、光共振器は全反射ミラーと一部透過ミラー891からなる片側共振器で、光源201は一部透過ミラー891の方から共振器の共鳴周波数と同じ周波数の単一光子パルスを照射する。
【0023】
その後、制御装置202が光源201を制御し、再びラムダ型STIRAPにより原子1と原子2の|3>を|0>へ戻す変換を行う(ステップS403)。
以上で原子1と原子2の量子ビットに対して制御位相反転ゲートが実行される。この間、その他の原子の状態は変化しない。
【0024】
次に、Gotoらの手法で原子1と原子2に制御位相シフトゲートを実行する手順について図5を参照して説明する。制御位相シフトゲートとは、
【数2】
【0025】
という操作によって定義される2量子ビットゲートであり、上述の制御位相反転ゲートを含む基本的な2量子ビットゲートである(θ=πのとき制御位相反転ゲートとなる)。
まず、制御装置202が光源201を制御し、励起状態|4>を使ったラムダ型STIRAPにより、原子1の|1>を|5>へ、原子2の|1>を|3>へ変換する(ステップS501)。
【0026】
次に、光源201が原子1と原子2の|5>−|2>遷移に共鳴する光パルスを照射して、共振器を利用したアディアバティック・パッセージによって、原子1の|5>を|3>へ、原子2の|3>を|5>へ変換する(Hayato Goto and Kouichi Ichimura, Phys. Rev. A 70, 012305 (2004)参照;ステップS502)。
【0027】
そして、光源201を使用して、ステップS502とは相対位相がθだけ異なる|5>−|2>間に共鳴する光パルスを用いて、共振器を利用したアディアバティック・パッセージによって、原子1の|3>を|5>へ、原子2の|5>を|3>へ戻す(ステップS503)。
【0028】
その後、制御装置202が光源201を制御し、励起状態|4>を使ったラムダ型STIRAPにより、原子1の|5>を|1>へ、原子2の|3>を|1>へ戻す変換を行う(ステップS504)。
以上で原子1と原子2の量子ビットに対して位相をθだけシフトする制御位相シフトゲートが実行される。この間、その他の原子の状態は変化しない。
【0029】
(第2の手法)
第2の手法を実現する量子計算機は第1の手法と同じく図1、図2に示されたものである。
光共振器中に図2に示されているようなエネルギー準位を有する複数の原子(またはイオン)を配置する。基底状態(安定な下準位)が4つあり(|0>,|1>,|3>,|5>)、そのうち2つ(図1の|0>と|1>)を量子ビットとして用いる。利用する励起状態(上準位)は2つあり、そのうちの1つ(図1の|2>)と量子ビットに使う2状態以外の基底状態の1つ(図1の|3>)との間の遷移は共振器モードと強く結合しているものとする。原子の選択は、原子の位置の違いを使うか、共振器モードと結合しない励起状態(図1の|4>)と基底状態との間の遷移周波数が各原子で大きく異なるようにすることで可能である。
【0030】
第2の手法では、Duanらの手法に基づき制御位相反転ゲートを行う。原子1と原子2の量子ビットに対して制御位相反転ゲートを行う場合を考え、本実施形態の量子計算機が第2の手法で行う動作の一例について図6を参照して説明する。
初め(時刻:t=0)、すべての原子は状態|0>と状態|1>のある重ね合わせの状態にあったとする。まず、制御装置202が光源201を制御し、励起状態|4>を使ったラムダ型STIRAPにより、原子1と原子2の状態|0>と状態|1>を、それぞれ|3>と|5>へ変換する(ステップS601)。1回の変換に要する時間をT1とすると、この変換直後の時刻はt=4T1である。
【0031】
次に、光源201が共振器に共鳴する単一光子パルスを共振器に照射することで、|3>と|5>を量子ビットとみなした制御位相反転ゲートを実行する(ステップS602)。この制御位相反転ゲートの実行に要する時間をT2とすると、制御位相反転ゲート実行直後の時刻はt=4T1+T2である。
【0032】
第2の手法ではここでbang−bang制御の反転操作を行う。まず、原子1と原子2以外のすべての原子の量子ビットに対して反転操作を行う(ステップS603)。つまり、制御装置202が磁場発生器203を制御して振動磁場(πパルス)を発生し、原子1と原子2以外のすべての原子の|0>と|1>をπパルスにより反転する。
【0033】
次に、制御装置202が磁場発生器203を制御して振動磁場(πパルス)を発生し、原子1と原子2の|3>と|5>をπパルスにより反転する(ステップS604)。|3>と|5>を反転するπパルスは|0>−|1>間遷移と十分に非共鳴なため、原子1と原子2以外の原子に影響を与えないとする。以上のπパルスによる反転操作にかかる時間は無視できるものとする。
【0034】
その後、制御装置202が磁場発生器203による振動磁場の発生を止め、光源201からの光も出さず、時間T2だけ何もせずに待つ(ステップS605)。
【0035】
次に、制御装置202が光源201を制御し、励起状態|4>を使ったラムダ型STIRAPにより、原子1と原子2の|3>と|5>をそれぞれ|0>と|1>へ戻す変換を行う(ステップS606)。この変換直後の時刻はt=2(4T1+T2)である。
【0036】
最後に、制御装置202が磁場発生器203を制御して振動磁場(πパルス)を発生し、すべての原子の|0>と|1>をπパルスにより反転する(bang−bang制御の2回目の反転操作;ステップS304)。こうして、bang−bang制御によって時間2(4T1+T2)の間に起こったデコヒーレンスを抑制できる。ただし、原子1と原子2は1回目の反転の前後T2(合計時間2T2)の間のデコヒーレンスは打ち消し合うが、それ以外の時間8T1の間のデコヒーレンスの影響は受ける(8T1の間では、状態が|3>と|5>ではなく、|0>と|1>にあるからである)。第2の手法の場合では第1の手法の場合と異なり、2量子ビットゲートを実行する2つの原子に対しても上記の時間2T2の間bang−bang制御の条件2を満たす。T1がT2に比べ十分短い場合、原子1と原子2に対してデコヒーレンスを抑制できる時間2T2と全時間2(4T1+T2)がほぼ等しいので、それら2つの原子に対してもbang−bang制御が有効であり、bang−bang制御を行わない場合に比べてデコヒーレンスの影響を大幅に低減できる。
【0037】
次に、本実施形態の量子計算機の変形例について図7を参照して説明する。
図7の量子計算機と、図1の量子計算機とは、状態を反転する手法が異なる。図7の量子計算機は、図2に光源701が追加されている。
【0038】
光源701は、制御装置の制御によって、|3>と|5>を反転するのに、振動磁場のπパルスの代わりに、|3>−|5>間遷移に2光子共鳴し|3>−|2>間遷移および|5>−|2>間遷移とは比較的共鳴に近いが|2>にほとんど励起されない程度に非共鳴な2つの光パルスを原子に照射する。振動磁場のπパルスの場合とは異なり、この光パルスを用いれば、|3>−|5>間遷移と|0>−|1>間遷移の遷移周波数が近くても原子1と原子2以外の原子に影響を与えずに原子1と原子2の|3>と|5>を反転できる。
【0039】
以上の実施形態によれば、基底状態4つと励起状態2つの原子に制御位相シフトゲートまたは基底状態3つと励起状態2つの原子に制御位相反転ゲートを使用してbang−bang制御を行うことにより、2量子ビットゲートを行う2つの量子ビット以外のすべての量子ビットに対するデコヒーレンスを抑制することができる。また、基底状態4つと励起状態2つの原子に制御位相反転ゲートを使用してbang−bang制御を行うことにより、2量子ビットゲートを行う量子ビットを含めすべての量子ビットに対するデコヒーレンスを抑制することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例について説明する。
以下の実施例の量子計算機について図8を参照して説明する。
本実施例の量子計算機は、色素レーザー801、色素レーザー802、光子検出器811、単一光子発生器821、透過率可変ミラー831、832、ビームスプリッター841〜844、音響光学効果素子851〜854、磁場発生器203,861、全反射ミラー871,872、制御装置881、一部透過ミラー891、結晶892、クライオスタット893を含む。
【0041】
ビームスプリッター841〜844は、透過光と反射光に分けあるいは透過光と反射光とを合わせて光を次段に導く。
音響光学効果素子851〜854は、制御装置881による制御信号に基づいて、入射した光の周波数を設定した周波数に変更し、入射した光の強度を設定した強度に変更し、変更した周波数および強度の光を出力する。また、音響光学効果素子851,852は離調を調整する。
透過率可変ミラー831、832は、高反射と高透過が切り替えられる特殊なミラーであり、制御装置881によって透過率が制御される。透過率可変ミラー831、832は、例えば図10のようなリング型共振器によって実現できる。位相調整器1001の位相を調整することで透過率を変えることができる。この図10では、1021,1022は全反射ミラーを示し、1011,1012は一部透過ミラーを示す。一部透過ミラー1011と1012の透過率は等しいとする。
色素レーザー801,802は、光源として利用され、周波数が安定化されている。色素レーザー802から出力した光は、ビームスプリッター841,842,843で分けて各ビームを音響光学効果素子851,852,853に通して周波数が適切に設定される。
【0042】
結晶892は、例えば、表面をミラー加工したPr3+:Y2SiO5であり、光共振器に含まれる。結晶892は、Pr3+:Y2SiO5結晶であるが、本実施形態による作用効果が現れる物質であれば結晶に限定されない。また、全反射ミラー872と一部透過ミラー891も光共振器の構成要素である。例えば、物理系としてY2SiO5結晶中にドープされたPr3+イオンを用いる。
【0043】
磁場発生器861は、磁場を発生させ、結晶892に磁場を印加することによって、エネルギー状態の縮退をとく。本実施形態では、磁場発生器861は常に一定強度の磁場を発生させる。磁場発生器861は、結晶892に磁場をかけて、ゼーマン分裂を起こしておく。図11、図12に示した状態|0>、|1>、|3>、|5>をPr3+イオンの基底状態3H4の4つの超微細準位とし、図11、図12に示した状態|2>を励起状態1D2の中の1つの超微細準位とする。また、各量子ビットを個別に操作するために必要な、もう1つの励起状態|4>を励起状態3P0の中の1つの超微細準位からとる。また、結晶表面をミラー加工することで光共振器を構成する。Pr3+イオンのうち、|3>−|2>遷移がちょうど共振器モードと共鳴するイオンを使うことにし、それらのイオンの|0>および|1>を量子ビットとして利用する。
【0044】
光子検出器811は、光子を受け取ったか否かを検出する。光子検出器811は、光共振器から出てくる光子を、高感度、高効率に検出する。
単一光子発生器821は、光共振器に共鳴する単一光子を発生する。
(第1の実施例)
Duanらの手法を利用する場合の、本発明の第1の手法を実施例について、図8を参照して説明する。
本実施例において、前記の原子(またはイオン)として、Y2SiO5結晶892の中にドープされたPr3+イオンを用いる。コヒーレンス時間を延ばすために、試料には適切な方向・大きさの磁場がかけられる(E. Fraval, M. J. Sellars, and J. J. Longdell, Phys. Rev. Lett. 95, 030506 (2005)参照)。磁場発生器861によって磁場がかけられたPr3+:Y2SiO5のPr3+イオンの基底状態は、図9のように6つの超微細準位に分裂するので、そのうちの3つを上述した状態|0>、|1>、|3>とする。また、上述した状態|2>を励起状態1D2の中の1つとし、上述した状態|4>を励起状態3P0の中の1つとする。結晶892の表面をミラー加工することで光共振器が構成される。1つのミラーは全反射ミラー872、もう1つのミラーは一部透過ミラー891とし、片側共振器となるようにする。Pr3+イオンのうち、|2>−|3>遷移がちょうど共振器モードと共鳴するイオンを使うことにし、それらのイオンの状態|0>および状態|1>を量子ビットとして利用する。結晶892の全体がクライオスタット893の中に置かれ、液体ヘリウム温度4Kに保たれる。
【0045】
光源は周波数安定化した色素レーザー801、802を2台用い、ビームスプリッター841〜844で分けて各ビームを音響光学効果素子に通して周波数と強度を適切に調整した光を用いる。色素レーザー802は|0>−|2>間、|1>−|2>間、|3>−|2>間遷移に共鳴する光を用意するために、色素レーザー801は|0>−|4>間、|1>−|4>間、|3>−|4>間遷移に共鳴する光を用意するために用いる。
【0046】
まず、初期化のプロセスについて説明する。
まず、制御装置881が、透過率可変ミラー831を100%透過、透過率可変ミラー832を100%反射に設定し、共振器に共鳴する光を外部から共振器にしばらく照射する。次に、|2>−|3>遷移がちょうど共振器モードと共鳴するイオンのすべての基底状態と励起状態|2>に共鳴する光を、結晶中央の共振器モードの位置に共振器側面からしばらく照射し、その後|0>−|2>間遷移に共鳴する光のみ照射を止めその他の光は再びしばらく照射する。こうして、結晶892の中央の共振器モードの位置にあるイオンで、|2>−|3>遷移が共振器と共鳴するイオンを|0>へ初期化することができる。これらのイオンの状態|0>と状態|1>を量子ビットとして用いる。励起状態3P0の不均一広がりのために、ある程度イオン濃度が低ければ、すべての基底状態と励起状態|4>の間の遷移周波数は異なるイオンの間で大きく異なる。また、すべての基底状態と励起状態|4>の間の遷移周波数はすべての基底状態と励起状態|2>の間の遷移周波数と大きく異なる。よって、あるイオンのすべての基底状態と励起状態|4>の間の遷移に共鳴する光は、他のイオンのすべての光遷移と十分に非共鳴となる。(励起状態の不均一幅のオーダーは10GHz、基底状態間の周波数差のオーダーは10MHzなので、利用するイオンの数Nが1000よりも小さければ、|2>−|4>間の遷移周波数の分布の幅が基底状態間の遷移周波数に比べN倍以上大きくとることが可能。)こうして、|0>−|4>間、|1>−|4>間、|3>−|4>間遷移に共鳴する光を利用することで個々のイオンを区別して操作することができる。
【0047】
次に、Duanらの手法を利用する本発明の第1の手法の具体的な手順について図3、図4を参照して説明する。制御位相反転ゲートを実行する2つのイオンをイオン1、イオン2と呼ぶこととする。
まず、イオン1およびイオン2の|0>を|3>へ変換する(ステップS401)。|0>を|3>に変換するには、|0>−|4>間および|3>−|4>間遷移に共鳴する光を共振器の側面から照射し、ラムダ型STIRAPによって|0>を|3>へ変化させる。この変換1回にかかる時間は、今の場合10μs程度である。
【0048】
次に、透過率可変ミラー831、832をともに100%透過とし、共振器に共鳴する単一光子パルスを単一光子発生器821から共振器へ照射する(共振器の一部透過ミラー891の方から入射する)。これにより、|3>と|1>を量子ビットとみなした制御位相反転ゲートが実行される(ステップS402)。この制御位相反転ゲートにかかる時間は、共振器寿命や共振器とイオンの結合定数で決まる。イオンと共振器の結合定数を約100kHz、共振器の減衰率を約10kHzとすると、この時間はおよそ1msとなる。
【0049】
この後、イオン1およびイオン2の|3>を前と同様にラムダ型STIRAPによって|0>へ戻す(ステップS403)。以上でイオン1とイオン2の量子ビットに制御位相反転ゲートが実行される。
【0050】
以上の操作にかかる時間T2はおよそ1msである。ここで、πパルス(スピンの反転なので、本実施例では磁場発生器203を用いた振動磁場のパルス。以下も同様。)によってすべてのイオンの|0>と|1>を反転する(bang−bang制御の1回目の反転操作;ステップS302)。この反転操作にかかる時間は10μs程度である。
【0051】
その後、時間T2=1msの間何もせずに待つ(ステップS303)。そして最後に再びπパルスによってすべてのイオンの|0>と|1>を反転する(bang−bang制御の2回目の反転操作;ステップS304)。反転に要する時間は十分短く、また、反転の間隔は5msより短いので、bang−bang制御は成功し、この間にイオン1とイオン2以外のイオンに生じるデコヒーレンスは抑制される。
【0052】
最後に量子ビットの読み出しの手法を説明する。
イオン1の最終的な状態が|0>なのか|1>なのかを読むには、まず、イオン1の|1>−|4>間および|3>−|4>間遷移に共鳴する光を側面から照射し、ラムダ型STIRAPによってイオン1の状態|1>を状態|3>へ変化させる。次に、透過率可変ミラー831を50%透過、透過率可変ミラー832を100%透過とし、単一光子発生器821から単一光子パルスを共振器に照射する(共振器の一部透過ミラー891の方から入射する)。ここで、全反射ミラー871の位置は、単一光子パルスが共振器に共鳴して反射された場合100%光子検出器811の方へ導かれるようにあらかじめ設定しておく。そして、共振器で反射された光子を光子検出器811で検出する。もし、イオン1の状態が|0>にあれば、光子は共振器に共鳴し、100%光子検出器811に導かれ、光子が検出される。一方、もし、イオン1の状態が|2>にあれば、真空ラビ分裂によって光子は共振器に共鳴せず、共鳴する場合に比べて位相が180度ずれるため、光子は100%単一光子発生器821の方へ戻り、光子は光子検出器811によって検出されない。よって、光子が検出されればイオン1の最終的な状態は|0>であり、検出されなければイオン1の最終的な状態は|1>であるとわかる。
【0053】
(第2の実施例)
Gotoらの手法を利用する場合の、本発明の第1の手法を実施例について、図8を参照して説明する。
本実施例において、前記の原子(またはイオン)として、Y2SiO5結晶中にドープされたPr3+イオンを用いる。コヒーレンス時間を延ばすために、試料には適切な方向・大きさの磁場がかけられる(E. Fraval, M. J. Sellars, and J. J. Longdell, Phys. Rev. Lett. 95, 030506 (2005)参照)。磁場のかけられたPr3+:Y2SiO5のPr3+イオンの基底状態は、図11のように6つの超微細準位に分裂するので、そのうちの4つを上述した状態|0>、|1>、|3>、|5>とする。また、上述した状態|2>を励起状態1D2の中の1つとし、上述した状態|4>を励起状態3P0の中の1つとする。結晶表面をミラー加工することで光共振器が構成される。1つのミラーは全反射ミラー872、もう1つのミラーは一部透過ミラー891とし、片側共振器となるようにする。Pr3+イオンのうち、|2>−|3>遷移がちょうど共振器モードと共鳴するイオンを使うことにし、それらのイオンの状態|0>および状態|1>を量子ビットとして利用する。結晶全体がクライオスタット893の中に置かれ、液体ヘリウム温度4Kに保たれる。
【0054】
光源は周波数安定化した色素レーザー801、802を2台用い、ビームスプリッター841〜844で分けて各ビームを音響光学効果素子に通して周波数と強度を適切に調整した光を用いる。色素レーザー802は|0>−|2>間、|1>−|2>間、|3>−|2>間、|5>−|2>間遷移に共鳴する光を準備するために、色素レーザー801は|0>−|4>間、|1>−|4>間、|3>−|4>間、|5>−|4>間遷移に共鳴する光を準備するために用いる。
【0055】
初期化および読み出しのプロセスは第1の実施例と全く同様であるので、省略する。
【0056】
次に、Gotoらの手法を利用する本発明の第1の手法の具体的な手順について図3、図5を参照して説明する。制御位相シフトゲートを実行する2つのイオンをイオン1、イオン2と呼ぶこととする。
まず、イオン1の|1>を|5>へ、イオン2の|1>を|3>へ変換する(ステップS501)。イオン1の|1>を|5>に変換するには、イオン1の|1>−|4>間および|5>−|4>間遷移に共鳴する光を共振器の側面から照射し、ラムダ型STIRAPによって|1>を|5>へ変化させる。イオン2の|1>を|3>に変換するには、イオン2の|1>−|4>間および|3>−|4>間遷移に共鳴する光を共振器の側面から照射し、ラムダ型STIRAPによって|1>を|3>へ変化させる。この変換1回にかかる時間は、今の場合10μs程度である。
【0057】
次に、イオン1とイオン2の|5>−|2>遷移に共鳴する光パルスを共振器側面から照射して、共振器を利用したアディアバティック・パッセージによって、イオン1の|5>を|3>へ、イオン2の|3>を|5>へ変換する(ステップS502)。このアディアバティック・パッセージにかかる時間は、共振器寿命や共振器とイオンの結合定数で決まる。イオンと共振器の結合定数を約100kHz、共振器の減衰率を約10kHzとすると、この時間はおよそ0.5msとなる。
【0058】
次に、先ほどとは相対位相がθだけ異なる|5>−|2>間に共鳴する光パルスを用いて、共振器を利用したアディアバティック・パッセージによって、イオン1の|3>を|5>へ、イオン2の|5>を|3>へ戻す(ステップS503)。
【0059】
その後、ラムダ型STIRAPによって、イオン1の|5>を|1>へ、イオン2の|3>を|1>へ戻す変換を行う(ステップS504)。以上でイオン1とイオン2の量子ビットに対して位相をθだけシフトする制御位相シフトゲートが実行される。以上の操作にかかる時間T2はおよそ1msである。ここで、πパルスによってすべてのイオンの|0>と|1>を反転する(bang−bang制御の1回目の反転操作)。この反転操作にかかる時間は10μs程度である。
【0060】
その後、時間T2=1msの間何もせずに待つ(ステップS303)。そして最後に再びπパルスによってすべてのイオンの|0>と|1>を反転する(bang−bang制御の2回目の反転操作;ステップS304)。反転に要する時間は十分短く、また、反転の間隔は5msより短いので、bang−bang制御は成功し、この間にイオン1とイオン2以外のイオンに生じるデコヒーレンスは抑制される。
【0061】
(第3の実施例)
本発明の第2の手法の実施例について、図8を参照して説明する。
本実施例において、前記の原子(またはイオン)として、Y2SiO5結晶中にドープされたPr3+イオンを用いる。コヒーレンス時間を延ばすために、試料には適切な方向・大きさの磁場がかけられる(E. Fraval, M. J. Sellars, and J. J. Longdell, Phys. Rev. Lett. 95, 030506 (2005)参照)。磁場のかけられたPr3+:Y2SiO5のPr3+イオンの基底状態は、図11のように6つの超微細準位に分裂するので、そのうちの4つを前記の状態|0>、|1>、|3>、|5>とする。また、前記の状態|2>を励起状態1D2の中の1つとし、前記の状態|4>を励起状態3P0の中の1つとする。結晶表面をミラー加工することで光共振器が構成される。1つのミラーは全反射ミラー872、もう1つのミラーは一部透過ミラー891とし、片側共振器となるようにする。Pr3+イオンのうち、|2>−|3>遷移がちょうど共振器モードと共鳴するイオンを使うことにし、それらのイオンの状態|0>および状態|1>を量子ビットとして利用する。結晶全体がクライオスタット893の中に置かれ、液体ヘリウム温度4Kに保たれる。
【0062】
光源は周波数安定化した色素レーザー801、802を2台用い、ビームスプリッター841〜844で分けて各ビームを音響光学効果素子に通して周波数と強度を適切に調整した光を用いる。色素レーザー802は|0>−|2>間、|1>−|2>間、|3>−|2>間、|5>−|2>間遷移に共鳴する光を準備するために、色素レーザー801は|0>−|4>間、|1>−|4>間、|3>−|4>間、|5>−|4>間遷移に共鳴する光を準備するために用いる。
【0063】
初期化と読み出しのプロセスは第1の実施例と全く同様であるので、省略する。
【0064】
本発明の第2の手法の具体的な手順について図6を参照して説明する。制御位相反転ゲートを実行する2つのイオンをイオン1、イオン2と呼ぶこととする。
【0065】
まず、イオン1およびイオン2の|0>と|1>をそれぞれ|3>と|5>へ変換する(ステップS601)。|0>を|3>に変換するには、|0>−|4>間および|3>−|4>間遷移に共鳴する光を共振器の側面から照射し、ラムダ型STIRAPによって|0>を|3>へ変化させる。|1>を|5>に変換するには、|1>−|4>間および|5>−|4>間遷移に共鳴する光を共振器の側面から照射し、ラムダ型STIRAPによって|0>を|3>へ変化させる。1回の変換にかかる時間T1は、今の場合10μs程度である。
【0066】
次に、透過率可変ミラー831、832をともに100%透過とし、共振器に共鳴する単一光子パルスを単一光子発生器821から共振器へ照射する(共振器の一部透過ミラー891の方から入射する)。これにより、|3>と|5>を量子ビットとみなした場合の制御位相反転ゲートが実行される(ステップS602)。この制御位相反転ゲートにかかる時間T2は、共振器寿命や共振器とイオンの結合定数で決まる。イオンと共振器の結合定数を約100kHz、共振器の減衰率を約10kHzとすると、T2はおよそ1msとなる。以上の操作にかかる時間は4T1+T2=1.04msである。ここで、πパルスによってイオン1とイオン2以外のイオンの|0>と|1>を反転し(ステップS603)、次に、πパルスによってイオン1とイオン2の|3>と|5>を反転する(bang−bang制御の1回目の反転操作;ステップS604)。(|0>−|1>間遷移は約8.6MHz、|0>−|1>間遷移は約31MHzである。よって、最初の反転は大きな離調のためにイオン1とイオン2の状態を変化しない。また、その次の反転はやはり大きな離調のためにイオン1とイオン2以外のイオンの状態を変化しない。また、図12のように、|3>と|5>を反転するのに、πパルスの代わりに、|3>−|5>間遷移に2光子共鳴し|3>−|2>間遷移および|5>−|2>間遷移とは比較的共鳴に近いが|2>にほとんど励起されない程度に非共鳴な2つの光パルスを用い手も良い。)この反転操作1回にかかる時間は10μs程度である。
【0067】
その後、T2=1msの間何もせずに待つ(ステップS605)。そして、イオン1およびイオン2の|3>と|5>を前と同様にラムダ型STIRAPによってそれぞれ|0>と|1>へ戻す(ステップS606)。最後に、πパルスによってすべてのイオンの|0>と|1>を反転する(bang−bang制御の2回目の反転操作;ステップS304)。以上により、すべてのイオンに対して、2(4T1+T2)≒2T2=2msの間に起こるデコヒーレンスが抑制される。
【0068】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施形態の量子計算機で使用する原子のエネルギー準位を示す図。
【図2】実施形態の量子計算機のブロック図。
【図3】図2の量子計算機が第1の手法を使用する場合の動作の一例を示すフローチャート。
【図4】図3のステップS301の2量子ビットゲートを実行するDuanらの手順を示すフローチャート。
【図5】図3のステップS301の2量子ビットゲートを実行するGotoらの手順を示すフローチャート。
【図6】図2の量子計算機が第2の手法を使用する場合の動作の一例を示すフローチャート。
【図7】実施形態の変形例の量子計算機のブロック図。
【図8】実施例の量子計算機のブロック図。
【図9】第1の手法でDuanらの手法を利用する場合のイオンのエネルギー準位を示す図。
【図10】図8の透過率可変ミラーを実現するリング型共振器の模式図。
【図11】第1の手法でGotoらの手法を利用する場合および第2の手法の場合のイオンのエネルギー準位を示す図。
【図12】πパルスの代わりに使うことができる2光子共鳴パルスの周波数設定を示す図。
【符号の説明】
【0070】
101・・・光共振器、102・・・物理系、201,701・・・光源、202,702,881・・・制御装置、203,861・・・磁場発生器、801,802・・・色素レーザー、811・・・光子検出器、821・・・単一光子発生器、831,832・・・透過率可変ミラー、841,842,843・・・ビームスプリッター、851,852,853・・・音響光学効果素子、871,872,1021,1022・・・全反射ミラー、891,1011,1012・・・一部透過ミラー、892・・・結晶、893・・・クライオスタット、1001・・・位相調整器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、デコヒーレンスの制御および光共振器と原子の結合を利用した量子計算機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年盛んに研究されている量子計算機において、重ね合わせの状態を壊すデコヒーレンスが1つの大きな問題となっている。デコヒーレンス(位相緩和)はbang−bang制御という手法で抑制できることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。Bang−bang制御によって、結晶中の希土類イオンの核スピンのコヒーレンス時間を100msから30sへ伸ばす実験が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【非特許文献1】L. Viola and S. Lloyd, Phys. Rev. A 58, 2733 (1998).
【非特許文献2】E. Fraval, M. J. Sellars, and J. J. Longdell, Phys. Rev. Lett. 95, 030506 (2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようにbang−bang制御はデコヒーレンスを抑制する有効な手法ではあるが、状態の反転を繰り返す必要があるため、bang−bang制御でデコヒーレンスを抑制しながら量子計算を実行できるかどうかは自明ではない。特に、光共振器を利用した量子計算機において、bang−bang制御を利用する提案は報告されていない。
【0004】
本発明の目的は、光共振器を利用して2量子ビットゲートを行う量子計算機において、2量子ビットゲート実行中に起こるデコヒーレンスをbang−bang制御によって抑制する量子計算方法および量子計算機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、本発明の量子計算方法は、共鳴周波数を有する光共振器を用意し、前記光共振器の内部に含まれ、少なくとも3つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記3つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系を用意し、前記複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の量子ビットに2量子ビットゲートを行う際に、前記第1物理系と第2物理系の|0>と|1>以外の状態と前記光共振器を利用して、前記第1物理系と第2物理系以外が変化することなく前記2量子ビットゲートを行い、前記2量子ビットゲート実行直後に、全ての前記物理系の量子ビットを反転し、前記量子ビットを反転した後、前記2量子ビットゲートの実行に要した時間だけ何もせず待機し、待機後、全ての物理系の量子ビットを反転することを特徴とする。
【0006】
本発明の量子計算方法は、共鳴周波数を有する光共振器を用意し、前記光共振器の内部に含まれ、4つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記4つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>、|5>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>、|5>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系を用意し、前記複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の|0>を|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|3>へ変換し、前記第1物理系および前記第2物理系の|1>を、|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|5>へ変換し、前記共鳴周波数を有する単一光子パルスを光共振器に照射し、前記第1物理系および前記第2物理系以外の物理系の量子ビットを反転し、前記第1物理系および前記第2物理系の|3>と|5>を反転し、前記単一光子パルスを光共振器に照射するのに要した時間だけ何もせずに待機し、前記第1物理系および前記第2物理系の|3>を、|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|0>へ戻し、前記第1物理系および前記第2物理系の|5>を、|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|1>へ戻し、全ての物理系の量子ビットを反転することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の量子計算方法および量子計算機によれば、光共振器を利用して2量子ビットゲートを行う量子計算機において、2量子ビットゲート実行中に起こるデコヒーレンスをbang−bang制御によって抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る量子計算方法および量子計算機について詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行うものとして、重ねての説明を省略する。
まず、bang−bang制御によってデコヒーレンス(位相緩和)を抑制できるための条件を述べる(L. Viola and S. Lloyd, Phys. Rev. A 58, 2733 (1998)参照)。2つの量子状態|0>と|1>からなる量子系(量子ビット)のデコヒーレンスを抑制するには、ある時間間隔Tで|0>と|1>の反転操作を繰り返せばよい。そうすると、時刻t〜t+Tに起こる状態変化が時刻t+T〜t+2Tに起こる状態変化と打ち消し合って位相緩和が抑制される(時刻t+Tとt+2Tに反転が行われたとする)。これがbang−bang制御である。この打ち消し合いがうまくいくためには、次の条件が必要である。
【0009】
1.時間間隔Tが十分短い。
2.2つの反転操作の間では状態|0>と|1>の存在確率が変化しない。
【0010】
条件1に関しては、結晶中の希土類イオンの核スピンを用いた実験ではT<5msであればよいことが知られている(E. Fraval, M. J. Sellars, and J. J. Longdell, Phys. Rev. Lett. 95, 030506 (2005))。Bang−bang制御を行いながら量子計算を行うには、上の条件2に注意しなくてはならない。
【0011】
本実施形態では、光共振器を利用して2量子ビットゲートを行う量子計算機において、2量子ビットゲート実行中に起こるデコヒーレンスをbang−bang制御によって抑制する手法を2つ提案する。第1の手法は、手続きは単純だが、2量子ビットゲートを行う2つの量子ビットに対してはデコヒーレンスを抑制できない(それら以外のすべての量子ビットに対するデコヒーレンスが抑制できる)。第2の手法は、手続きは複雑だが、すべての量子ビットに対してbang−bang制御が有効となる。
【0012】
以下、第1の手法、第2の手法を使用した本実施形態の量子計算方法および量子計算機について図1、図2を参照して説明する。
量子計算機は、図2に示すように、光源201、制御装置202、光共振器101、複数の物理系102、磁場発生器203を含む。
光源201は、周波数安定化した光源として使用したり、単一光子パルスを発生する。光源201は、結晶892物理系102の状態を操作するため、量子ビットをゲート操作する場合に使用する。
制御装置202は、光源201のオンオフ、光源201の周波数、磁場発生器203の磁場発生のオンオフを制御する。
光共振器101は、共鳴周波数を有している。
複数の物理系102は、光共振器内に設置された図1のようなものである。
磁場発生器203は、コイルからなり、高周波の振動磁場を発生し物理系102に磁場を印加する。磁場発生器203は、物理系の特定の2状態間に共鳴するπパルスを発生する。πパルスは特定の2状態を反転する。
【0013】
(第1の手法)
光共振器中に図1に示されているようなエネルギー準位を有する複数の原子(またはイオン)を配置する。基底状態(安定な下準位)が3つ以上あり(図1では4つ:|0>,|1>,|3>,|5>)、そのうち2つ(図1の|0>と|1>)を量子ビットとして用いる。利用する励起状態(上準位)は2つあり、そのうちの1つ(図1の|2>)と量子ビットに使う2状態以外の基底状態の1つ(図1の|3>)との間の遷移は共振器モードと強く結合しているものとする。原子の選択は、原子の位置の違いを使うか、共振器モードと結合しない励起状態(図1の|4>)と基底状態の間の遷移周波数が各原子で大きく異なるようにすることで可能である。
【0014】
図1の原子1と原子2の量子ビットに対して2量子ビットゲートを行う場合を考え、本実施形態の量子計算機が第1の手法を行う動作の一例について図3を参照して説明する。
初め(時刻:t=0)、すべての原子は状態|0>と状態|1>のある重ね合わせの状態にあったとする。まず、既存の手法によって原子1と原子2に対して2量子ビットゲートを実行する(ステップS301)。この際、原子1と原子2以外の原子の状態は変化しないようにする。利用できる既存の手法としては、例えば次の2つの論文で開示されている2つの手法がある: L.-M. Duan, B. Wang, and H. J. Kimble, Phys. Rev. A 72, 032333 (2005); Hayato Goto and Kouichi Ichimura, Phys. Rev. A 70, 012305 (2004)。具体的な手順についてはそれぞれ後に図4、図5を参照して説明する。この2量子ビットゲート実行に要する時間T2とすると、2量子ビットゲート実行直後の時刻t=T2である。
【0015】
次に、bang−bang制御の反転操作を行う(ステップS302)。つまり、制御装置202が磁場発生器203を制御して振動磁場(πパルス)を発生し、すべての原子の|0>と|1>をπパルスにより反転する。この反転操作にかかる時間は無視できるものとする。ここで、πパルスとは、2状態間に共鳴する周波数のパルスで、それら2つの状態を反転するものである。ここでは反転する2状態がスピンに起因するものと仮定し、パルスは振動磁場とする(2状態間が電気双極子遷移許容の場合はπパルスとして電磁波が利用できる)。
【0016】
そしてその後、制御装置202が磁場発生器203による振動磁場の発生を止め、光源201からの光も出さず、時刻がt=2T2になるまで何もせずに待つ(ステップS303)。
【0017】
最後に、制御装置202が磁場発生器203を制御して振動磁場(πパルス)を発生し、再びすべての原子の|0>と|1>をπパルスにより反転する(bang−bang制御の2回目の反転操作;ステップS304)。
【0018】
こうして、時間2T2の間に起こったデコヒーレンスをbang−bang制御によって抑制できる。ただし、原子1と原子2には2量子ビットゲート実行に必要な様々な操作を行っているため、bang−bang制御の条件2を満たさず、この間のデコヒーレンスの影響を受ける。しかし、この2原子の量子ビット以外のすべての量子ビットに対してはbang−bang制御が有効なので、全体としてはbang−bang制御を行わない場合に比べデコヒーレンスの影響を低減できる。
【0019】
次に、図3のステップS301の2量子ビットゲートを実行するための具体的な手順を説明する。まず、Duanらの手法を使う場合について図4を参照して説明し、次にGotoらの手法を使う場合について図5を参照して説明する。
【0020】
Duanらの手法で原子1と原子2に制御位相反転ゲートを実行する手順について図4を参照して説明する。制御位相反転ゲートとは、
【数1】
【0021】
という操作によって定義される2量子ビットゲートであり、これと1量子ビットゲートを組み合わるだけで任意の量子ゲートを構成できるという基本的なゲートの1つである。
まず、原子1と原子2の状態|0>を|3>に変換する(ステップS401)。これを行うには、制御装置202が光源201を制御し、共振器モードと結合しない励起状態(図1の|4>)を利用したラムダ型STIRAP(stimulated Raman adiabatic passage; K. Bergmann, H. Theuer, and B. W. Shore, Rev. Mod. Phys. 70, 1003 (1998)参照)を行えばよい。
【0022】
次に、光源201が共振器に共鳴する単一光子パルスを共振器に照射することで、|3>と|1>を量子ビットとみなした制御位相反転ゲートを実行する(L.-M. Duan, B. Wang, and H. J. Kimble, Phys. Rev. A 72, 032333 (2005)参照;ステップS402)。Duanらの手法を使う場合、光共振器は全反射ミラーと一部透過ミラー891からなる片側共振器で、光源201は一部透過ミラー891の方から共振器の共鳴周波数と同じ周波数の単一光子パルスを照射する。
【0023】
その後、制御装置202が光源201を制御し、再びラムダ型STIRAPにより原子1と原子2の|3>を|0>へ戻す変換を行う(ステップS403)。
以上で原子1と原子2の量子ビットに対して制御位相反転ゲートが実行される。この間、その他の原子の状態は変化しない。
【0024】
次に、Gotoらの手法で原子1と原子2に制御位相シフトゲートを実行する手順について図5を参照して説明する。制御位相シフトゲートとは、
【数2】
【0025】
という操作によって定義される2量子ビットゲートであり、上述の制御位相反転ゲートを含む基本的な2量子ビットゲートである(θ=πのとき制御位相反転ゲートとなる)。
まず、制御装置202が光源201を制御し、励起状態|4>を使ったラムダ型STIRAPにより、原子1の|1>を|5>へ、原子2の|1>を|3>へ変換する(ステップS501)。
【0026】
次に、光源201が原子1と原子2の|5>−|2>遷移に共鳴する光パルスを照射して、共振器を利用したアディアバティック・パッセージによって、原子1の|5>を|3>へ、原子2の|3>を|5>へ変換する(Hayato Goto and Kouichi Ichimura, Phys. Rev. A 70, 012305 (2004)参照;ステップS502)。
【0027】
そして、光源201を使用して、ステップS502とは相対位相がθだけ異なる|5>−|2>間に共鳴する光パルスを用いて、共振器を利用したアディアバティック・パッセージによって、原子1の|3>を|5>へ、原子2の|5>を|3>へ戻す(ステップS503)。
【0028】
その後、制御装置202が光源201を制御し、励起状態|4>を使ったラムダ型STIRAPにより、原子1の|5>を|1>へ、原子2の|3>を|1>へ戻す変換を行う(ステップS504)。
以上で原子1と原子2の量子ビットに対して位相をθだけシフトする制御位相シフトゲートが実行される。この間、その他の原子の状態は変化しない。
【0029】
(第2の手法)
第2の手法を実現する量子計算機は第1の手法と同じく図1、図2に示されたものである。
光共振器中に図2に示されているようなエネルギー準位を有する複数の原子(またはイオン)を配置する。基底状態(安定な下準位)が4つあり(|0>,|1>,|3>,|5>)、そのうち2つ(図1の|0>と|1>)を量子ビットとして用いる。利用する励起状態(上準位)は2つあり、そのうちの1つ(図1の|2>)と量子ビットに使う2状態以外の基底状態の1つ(図1の|3>)との間の遷移は共振器モードと強く結合しているものとする。原子の選択は、原子の位置の違いを使うか、共振器モードと結合しない励起状態(図1の|4>)と基底状態との間の遷移周波数が各原子で大きく異なるようにすることで可能である。
【0030】
第2の手法では、Duanらの手法に基づき制御位相反転ゲートを行う。原子1と原子2の量子ビットに対して制御位相反転ゲートを行う場合を考え、本実施形態の量子計算機が第2の手法で行う動作の一例について図6を参照して説明する。
初め(時刻:t=0)、すべての原子は状態|0>と状態|1>のある重ね合わせの状態にあったとする。まず、制御装置202が光源201を制御し、励起状態|4>を使ったラムダ型STIRAPにより、原子1と原子2の状態|0>と状態|1>を、それぞれ|3>と|5>へ変換する(ステップS601)。1回の変換に要する時間をT1とすると、この変換直後の時刻はt=4T1である。
【0031】
次に、光源201が共振器に共鳴する単一光子パルスを共振器に照射することで、|3>と|5>を量子ビットとみなした制御位相反転ゲートを実行する(ステップS602)。この制御位相反転ゲートの実行に要する時間をT2とすると、制御位相反転ゲート実行直後の時刻はt=4T1+T2である。
【0032】
第2の手法ではここでbang−bang制御の反転操作を行う。まず、原子1と原子2以外のすべての原子の量子ビットに対して反転操作を行う(ステップS603)。つまり、制御装置202が磁場発生器203を制御して振動磁場(πパルス)を発生し、原子1と原子2以外のすべての原子の|0>と|1>をπパルスにより反転する。
【0033】
次に、制御装置202が磁場発生器203を制御して振動磁場(πパルス)を発生し、原子1と原子2の|3>と|5>をπパルスにより反転する(ステップS604)。|3>と|5>を反転するπパルスは|0>−|1>間遷移と十分に非共鳴なため、原子1と原子2以外の原子に影響を与えないとする。以上のπパルスによる反転操作にかかる時間は無視できるものとする。
【0034】
その後、制御装置202が磁場発生器203による振動磁場の発生を止め、光源201からの光も出さず、時間T2だけ何もせずに待つ(ステップS605)。
【0035】
次に、制御装置202が光源201を制御し、励起状態|4>を使ったラムダ型STIRAPにより、原子1と原子2の|3>と|5>をそれぞれ|0>と|1>へ戻す変換を行う(ステップS606)。この変換直後の時刻はt=2(4T1+T2)である。
【0036】
最後に、制御装置202が磁場発生器203を制御して振動磁場(πパルス)を発生し、すべての原子の|0>と|1>をπパルスにより反転する(bang−bang制御の2回目の反転操作;ステップS304)。こうして、bang−bang制御によって時間2(4T1+T2)の間に起こったデコヒーレンスを抑制できる。ただし、原子1と原子2は1回目の反転の前後T2(合計時間2T2)の間のデコヒーレンスは打ち消し合うが、それ以外の時間8T1の間のデコヒーレンスの影響は受ける(8T1の間では、状態が|3>と|5>ではなく、|0>と|1>にあるからである)。第2の手法の場合では第1の手法の場合と異なり、2量子ビットゲートを実行する2つの原子に対しても上記の時間2T2の間bang−bang制御の条件2を満たす。T1がT2に比べ十分短い場合、原子1と原子2に対してデコヒーレンスを抑制できる時間2T2と全時間2(4T1+T2)がほぼ等しいので、それら2つの原子に対してもbang−bang制御が有効であり、bang−bang制御を行わない場合に比べてデコヒーレンスの影響を大幅に低減できる。
【0037】
次に、本実施形態の量子計算機の変形例について図7を参照して説明する。
図7の量子計算機と、図1の量子計算機とは、状態を反転する手法が異なる。図7の量子計算機は、図2に光源701が追加されている。
【0038】
光源701は、制御装置の制御によって、|3>と|5>を反転するのに、振動磁場のπパルスの代わりに、|3>−|5>間遷移に2光子共鳴し|3>−|2>間遷移および|5>−|2>間遷移とは比較的共鳴に近いが|2>にほとんど励起されない程度に非共鳴な2つの光パルスを原子に照射する。振動磁場のπパルスの場合とは異なり、この光パルスを用いれば、|3>−|5>間遷移と|0>−|1>間遷移の遷移周波数が近くても原子1と原子2以外の原子に影響を与えずに原子1と原子2の|3>と|5>を反転できる。
【0039】
以上の実施形態によれば、基底状態4つと励起状態2つの原子に制御位相シフトゲートまたは基底状態3つと励起状態2つの原子に制御位相反転ゲートを使用してbang−bang制御を行うことにより、2量子ビットゲートを行う2つの量子ビット以外のすべての量子ビットに対するデコヒーレンスを抑制することができる。また、基底状態4つと励起状態2つの原子に制御位相反転ゲートを使用してbang−bang制御を行うことにより、2量子ビットゲートを行う量子ビットを含めすべての量子ビットに対するデコヒーレンスを抑制することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例について説明する。
以下の実施例の量子計算機について図8を参照して説明する。
本実施例の量子計算機は、色素レーザー801、色素レーザー802、光子検出器811、単一光子発生器821、透過率可変ミラー831、832、ビームスプリッター841〜844、音響光学効果素子851〜854、磁場発生器203,861、全反射ミラー871,872、制御装置881、一部透過ミラー891、結晶892、クライオスタット893を含む。
【0041】
ビームスプリッター841〜844は、透過光と反射光に分けあるいは透過光と反射光とを合わせて光を次段に導く。
音響光学効果素子851〜854は、制御装置881による制御信号に基づいて、入射した光の周波数を設定した周波数に変更し、入射した光の強度を設定した強度に変更し、変更した周波数および強度の光を出力する。また、音響光学効果素子851,852は離調を調整する。
透過率可変ミラー831、832は、高反射と高透過が切り替えられる特殊なミラーであり、制御装置881によって透過率が制御される。透過率可変ミラー831、832は、例えば図10のようなリング型共振器によって実現できる。位相調整器1001の位相を調整することで透過率を変えることができる。この図10では、1021,1022は全反射ミラーを示し、1011,1012は一部透過ミラーを示す。一部透過ミラー1011と1012の透過率は等しいとする。
色素レーザー801,802は、光源として利用され、周波数が安定化されている。色素レーザー802から出力した光は、ビームスプリッター841,842,843で分けて各ビームを音響光学効果素子851,852,853に通して周波数が適切に設定される。
【0042】
結晶892は、例えば、表面をミラー加工したPr3+:Y2SiO5であり、光共振器に含まれる。結晶892は、Pr3+:Y2SiO5結晶であるが、本実施形態による作用効果が現れる物質であれば結晶に限定されない。また、全反射ミラー872と一部透過ミラー891も光共振器の構成要素である。例えば、物理系としてY2SiO5結晶中にドープされたPr3+イオンを用いる。
【0043】
磁場発生器861は、磁場を発生させ、結晶892に磁場を印加することによって、エネルギー状態の縮退をとく。本実施形態では、磁場発生器861は常に一定強度の磁場を発生させる。磁場発生器861は、結晶892に磁場をかけて、ゼーマン分裂を起こしておく。図11、図12に示した状態|0>、|1>、|3>、|5>をPr3+イオンの基底状態3H4の4つの超微細準位とし、図11、図12に示した状態|2>を励起状態1D2の中の1つの超微細準位とする。また、各量子ビットを個別に操作するために必要な、もう1つの励起状態|4>を励起状態3P0の中の1つの超微細準位からとる。また、結晶表面をミラー加工することで光共振器を構成する。Pr3+イオンのうち、|3>−|2>遷移がちょうど共振器モードと共鳴するイオンを使うことにし、それらのイオンの|0>および|1>を量子ビットとして利用する。
【0044】
光子検出器811は、光子を受け取ったか否かを検出する。光子検出器811は、光共振器から出てくる光子を、高感度、高効率に検出する。
単一光子発生器821は、光共振器に共鳴する単一光子を発生する。
(第1の実施例)
Duanらの手法を利用する場合の、本発明の第1の手法を実施例について、図8を参照して説明する。
本実施例において、前記の原子(またはイオン)として、Y2SiO5結晶892の中にドープされたPr3+イオンを用いる。コヒーレンス時間を延ばすために、試料には適切な方向・大きさの磁場がかけられる(E. Fraval, M. J. Sellars, and J. J. Longdell, Phys. Rev. Lett. 95, 030506 (2005)参照)。磁場発生器861によって磁場がかけられたPr3+:Y2SiO5のPr3+イオンの基底状態は、図9のように6つの超微細準位に分裂するので、そのうちの3つを上述した状態|0>、|1>、|3>とする。また、上述した状態|2>を励起状態1D2の中の1つとし、上述した状態|4>を励起状態3P0の中の1つとする。結晶892の表面をミラー加工することで光共振器が構成される。1つのミラーは全反射ミラー872、もう1つのミラーは一部透過ミラー891とし、片側共振器となるようにする。Pr3+イオンのうち、|2>−|3>遷移がちょうど共振器モードと共鳴するイオンを使うことにし、それらのイオンの状態|0>および状態|1>を量子ビットとして利用する。結晶892の全体がクライオスタット893の中に置かれ、液体ヘリウム温度4Kに保たれる。
【0045】
光源は周波数安定化した色素レーザー801、802を2台用い、ビームスプリッター841〜844で分けて各ビームを音響光学効果素子に通して周波数と強度を適切に調整した光を用いる。色素レーザー802は|0>−|2>間、|1>−|2>間、|3>−|2>間遷移に共鳴する光を用意するために、色素レーザー801は|0>−|4>間、|1>−|4>間、|3>−|4>間遷移に共鳴する光を用意するために用いる。
【0046】
まず、初期化のプロセスについて説明する。
まず、制御装置881が、透過率可変ミラー831を100%透過、透過率可変ミラー832を100%反射に設定し、共振器に共鳴する光を外部から共振器にしばらく照射する。次に、|2>−|3>遷移がちょうど共振器モードと共鳴するイオンのすべての基底状態と励起状態|2>に共鳴する光を、結晶中央の共振器モードの位置に共振器側面からしばらく照射し、その後|0>−|2>間遷移に共鳴する光のみ照射を止めその他の光は再びしばらく照射する。こうして、結晶892の中央の共振器モードの位置にあるイオンで、|2>−|3>遷移が共振器と共鳴するイオンを|0>へ初期化することができる。これらのイオンの状態|0>と状態|1>を量子ビットとして用いる。励起状態3P0の不均一広がりのために、ある程度イオン濃度が低ければ、すべての基底状態と励起状態|4>の間の遷移周波数は異なるイオンの間で大きく異なる。また、すべての基底状態と励起状態|4>の間の遷移周波数はすべての基底状態と励起状態|2>の間の遷移周波数と大きく異なる。よって、あるイオンのすべての基底状態と励起状態|4>の間の遷移に共鳴する光は、他のイオンのすべての光遷移と十分に非共鳴となる。(励起状態の不均一幅のオーダーは10GHz、基底状態間の周波数差のオーダーは10MHzなので、利用するイオンの数Nが1000よりも小さければ、|2>−|4>間の遷移周波数の分布の幅が基底状態間の遷移周波数に比べN倍以上大きくとることが可能。)こうして、|0>−|4>間、|1>−|4>間、|3>−|4>間遷移に共鳴する光を利用することで個々のイオンを区別して操作することができる。
【0047】
次に、Duanらの手法を利用する本発明の第1の手法の具体的な手順について図3、図4を参照して説明する。制御位相反転ゲートを実行する2つのイオンをイオン1、イオン2と呼ぶこととする。
まず、イオン1およびイオン2の|0>を|3>へ変換する(ステップS401)。|0>を|3>に変換するには、|0>−|4>間および|3>−|4>間遷移に共鳴する光を共振器の側面から照射し、ラムダ型STIRAPによって|0>を|3>へ変化させる。この変換1回にかかる時間は、今の場合10μs程度である。
【0048】
次に、透過率可変ミラー831、832をともに100%透過とし、共振器に共鳴する単一光子パルスを単一光子発生器821から共振器へ照射する(共振器の一部透過ミラー891の方から入射する)。これにより、|3>と|1>を量子ビットとみなした制御位相反転ゲートが実行される(ステップS402)。この制御位相反転ゲートにかかる時間は、共振器寿命や共振器とイオンの結合定数で決まる。イオンと共振器の結合定数を約100kHz、共振器の減衰率を約10kHzとすると、この時間はおよそ1msとなる。
【0049】
この後、イオン1およびイオン2の|3>を前と同様にラムダ型STIRAPによって|0>へ戻す(ステップS403)。以上でイオン1とイオン2の量子ビットに制御位相反転ゲートが実行される。
【0050】
以上の操作にかかる時間T2はおよそ1msである。ここで、πパルス(スピンの反転なので、本実施例では磁場発生器203を用いた振動磁場のパルス。以下も同様。)によってすべてのイオンの|0>と|1>を反転する(bang−bang制御の1回目の反転操作;ステップS302)。この反転操作にかかる時間は10μs程度である。
【0051】
その後、時間T2=1msの間何もせずに待つ(ステップS303)。そして最後に再びπパルスによってすべてのイオンの|0>と|1>を反転する(bang−bang制御の2回目の反転操作;ステップS304)。反転に要する時間は十分短く、また、反転の間隔は5msより短いので、bang−bang制御は成功し、この間にイオン1とイオン2以外のイオンに生じるデコヒーレンスは抑制される。
【0052】
最後に量子ビットの読み出しの手法を説明する。
イオン1の最終的な状態が|0>なのか|1>なのかを読むには、まず、イオン1の|1>−|4>間および|3>−|4>間遷移に共鳴する光を側面から照射し、ラムダ型STIRAPによってイオン1の状態|1>を状態|3>へ変化させる。次に、透過率可変ミラー831を50%透過、透過率可変ミラー832を100%透過とし、単一光子発生器821から単一光子パルスを共振器に照射する(共振器の一部透過ミラー891の方から入射する)。ここで、全反射ミラー871の位置は、単一光子パルスが共振器に共鳴して反射された場合100%光子検出器811の方へ導かれるようにあらかじめ設定しておく。そして、共振器で反射された光子を光子検出器811で検出する。もし、イオン1の状態が|0>にあれば、光子は共振器に共鳴し、100%光子検出器811に導かれ、光子が検出される。一方、もし、イオン1の状態が|2>にあれば、真空ラビ分裂によって光子は共振器に共鳴せず、共鳴する場合に比べて位相が180度ずれるため、光子は100%単一光子発生器821の方へ戻り、光子は光子検出器811によって検出されない。よって、光子が検出されればイオン1の最終的な状態は|0>であり、検出されなければイオン1の最終的な状態は|1>であるとわかる。
【0053】
(第2の実施例)
Gotoらの手法を利用する場合の、本発明の第1の手法を実施例について、図8を参照して説明する。
本実施例において、前記の原子(またはイオン)として、Y2SiO5結晶中にドープされたPr3+イオンを用いる。コヒーレンス時間を延ばすために、試料には適切な方向・大きさの磁場がかけられる(E. Fraval, M. J. Sellars, and J. J. Longdell, Phys. Rev. Lett. 95, 030506 (2005)参照)。磁場のかけられたPr3+:Y2SiO5のPr3+イオンの基底状態は、図11のように6つの超微細準位に分裂するので、そのうちの4つを上述した状態|0>、|1>、|3>、|5>とする。また、上述した状態|2>を励起状態1D2の中の1つとし、上述した状態|4>を励起状態3P0の中の1つとする。結晶表面をミラー加工することで光共振器が構成される。1つのミラーは全反射ミラー872、もう1つのミラーは一部透過ミラー891とし、片側共振器となるようにする。Pr3+イオンのうち、|2>−|3>遷移がちょうど共振器モードと共鳴するイオンを使うことにし、それらのイオンの状態|0>および状態|1>を量子ビットとして利用する。結晶全体がクライオスタット893の中に置かれ、液体ヘリウム温度4Kに保たれる。
【0054】
光源は周波数安定化した色素レーザー801、802を2台用い、ビームスプリッター841〜844で分けて各ビームを音響光学効果素子に通して周波数と強度を適切に調整した光を用いる。色素レーザー802は|0>−|2>間、|1>−|2>間、|3>−|2>間、|5>−|2>間遷移に共鳴する光を準備するために、色素レーザー801は|0>−|4>間、|1>−|4>間、|3>−|4>間、|5>−|4>間遷移に共鳴する光を準備するために用いる。
【0055】
初期化および読み出しのプロセスは第1の実施例と全く同様であるので、省略する。
【0056】
次に、Gotoらの手法を利用する本発明の第1の手法の具体的な手順について図3、図5を参照して説明する。制御位相シフトゲートを実行する2つのイオンをイオン1、イオン2と呼ぶこととする。
まず、イオン1の|1>を|5>へ、イオン2の|1>を|3>へ変換する(ステップS501)。イオン1の|1>を|5>に変換するには、イオン1の|1>−|4>間および|5>−|4>間遷移に共鳴する光を共振器の側面から照射し、ラムダ型STIRAPによって|1>を|5>へ変化させる。イオン2の|1>を|3>に変換するには、イオン2の|1>−|4>間および|3>−|4>間遷移に共鳴する光を共振器の側面から照射し、ラムダ型STIRAPによって|1>を|3>へ変化させる。この変換1回にかかる時間は、今の場合10μs程度である。
【0057】
次に、イオン1とイオン2の|5>−|2>遷移に共鳴する光パルスを共振器側面から照射して、共振器を利用したアディアバティック・パッセージによって、イオン1の|5>を|3>へ、イオン2の|3>を|5>へ変換する(ステップS502)。このアディアバティック・パッセージにかかる時間は、共振器寿命や共振器とイオンの結合定数で決まる。イオンと共振器の結合定数を約100kHz、共振器の減衰率を約10kHzとすると、この時間はおよそ0.5msとなる。
【0058】
次に、先ほどとは相対位相がθだけ異なる|5>−|2>間に共鳴する光パルスを用いて、共振器を利用したアディアバティック・パッセージによって、イオン1の|3>を|5>へ、イオン2の|5>を|3>へ戻す(ステップS503)。
【0059】
その後、ラムダ型STIRAPによって、イオン1の|5>を|1>へ、イオン2の|3>を|1>へ戻す変換を行う(ステップS504)。以上でイオン1とイオン2の量子ビットに対して位相をθだけシフトする制御位相シフトゲートが実行される。以上の操作にかかる時間T2はおよそ1msである。ここで、πパルスによってすべてのイオンの|0>と|1>を反転する(bang−bang制御の1回目の反転操作)。この反転操作にかかる時間は10μs程度である。
【0060】
その後、時間T2=1msの間何もせずに待つ(ステップS303)。そして最後に再びπパルスによってすべてのイオンの|0>と|1>を反転する(bang−bang制御の2回目の反転操作;ステップS304)。反転に要する時間は十分短く、また、反転の間隔は5msより短いので、bang−bang制御は成功し、この間にイオン1とイオン2以外のイオンに生じるデコヒーレンスは抑制される。
【0061】
(第3の実施例)
本発明の第2の手法の実施例について、図8を参照して説明する。
本実施例において、前記の原子(またはイオン)として、Y2SiO5結晶中にドープされたPr3+イオンを用いる。コヒーレンス時間を延ばすために、試料には適切な方向・大きさの磁場がかけられる(E. Fraval, M. J. Sellars, and J. J. Longdell, Phys. Rev. Lett. 95, 030506 (2005)参照)。磁場のかけられたPr3+:Y2SiO5のPr3+イオンの基底状態は、図11のように6つの超微細準位に分裂するので、そのうちの4つを前記の状態|0>、|1>、|3>、|5>とする。また、前記の状態|2>を励起状態1D2の中の1つとし、前記の状態|4>を励起状態3P0の中の1つとする。結晶表面をミラー加工することで光共振器が構成される。1つのミラーは全反射ミラー872、もう1つのミラーは一部透過ミラー891とし、片側共振器となるようにする。Pr3+イオンのうち、|2>−|3>遷移がちょうど共振器モードと共鳴するイオンを使うことにし、それらのイオンの状態|0>および状態|1>を量子ビットとして利用する。結晶全体がクライオスタット893の中に置かれ、液体ヘリウム温度4Kに保たれる。
【0062】
光源は周波数安定化した色素レーザー801、802を2台用い、ビームスプリッター841〜844で分けて各ビームを音響光学効果素子に通して周波数と強度を適切に調整した光を用いる。色素レーザー802は|0>−|2>間、|1>−|2>間、|3>−|2>間、|5>−|2>間遷移に共鳴する光を準備するために、色素レーザー801は|0>−|4>間、|1>−|4>間、|3>−|4>間、|5>−|4>間遷移に共鳴する光を準備するために用いる。
【0063】
初期化と読み出しのプロセスは第1の実施例と全く同様であるので、省略する。
【0064】
本発明の第2の手法の具体的な手順について図6を参照して説明する。制御位相反転ゲートを実行する2つのイオンをイオン1、イオン2と呼ぶこととする。
【0065】
まず、イオン1およびイオン2の|0>と|1>をそれぞれ|3>と|5>へ変換する(ステップS601)。|0>を|3>に変換するには、|0>−|4>間および|3>−|4>間遷移に共鳴する光を共振器の側面から照射し、ラムダ型STIRAPによって|0>を|3>へ変化させる。|1>を|5>に変換するには、|1>−|4>間および|5>−|4>間遷移に共鳴する光を共振器の側面から照射し、ラムダ型STIRAPによって|0>を|3>へ変化させる。1回の変換にかかる時間T1は、今の場合10μs程度である。
【0066】
次に、透過率可変ミラー831、832をともに100%透過とし、共振器に共鳴する単一光子パルスを単一光子発生器821から共振器へ照射する(共振器の一部透過ミラー891の方から入射する)。これにより、|3>と|5>を量子ビットとみなした場合の制御位相反転ゲートが実行される(ステップS602)。この制御位相反転ゲートにかかる時間T2は、共振器寿命や共振器とイオンの結合定数で決まる。イオンと共振器の結合定数を約100kHz、共振器の減衰率を約10kHzとすると、T2はおよそ1msとなる。以上の操作にかかる時間は4T1+T2=1.04msである。ここで、πパルスによってイオン1とイオン2以外のイオンの|0>と|1>を反転し(ステップS603)、次に、πパルスによってイオン1とイオン2の|3>と|5>を反転する(bang−bang制御の1回目の反転操作;ステップS604)。(|0>−|1>間遷移は約8.6MHz、|0>−|1>間遷移は約31MHzである。よって、最初の反転は大きな離調のためにイオン1とイオン2の状態を変化しない。また、その次の反転はやはり大きな離調のためにイオン1とイオン2以外のイオンの状態を変化しない。また、図12のように、|3>と|5>を反転するのに、πパルスの代わりに、|3>−|5>間遷移に2光子共鳴し|3>−|2>間遷移および|5>−|2>間遷移とは比較的共鳴に近いが|2>にほとんど励起されない程度に非共鳴な2つの光パルスを用い手も良い。)この反転操作1回にかかる時間は10μs程度である。
【0067】
その後、T2=1msの間何もせずに待つ(ステップS605)。そして、イオン1およびイオン2の|3>と|5>を前と同様にラムダ型STIRAPによってそれぞれ|0>と|1>へ戻す(ステップS606)。最後に、πパルスによってすべてのイオンの|0>と|1>を反転する(bang−bang制御の2回目の反転操作;ステップS304)。以上により、すべてのイオンに対して、2(4T1+T2)≒2T2=2msの間に起こるデコヒーレンスが抑制される。
【0068】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施形態の量子計算機で使用する原子のエネルギー準位を示す図。
【図2】実施形態の量子計算機のブロック図。
【図3】図2の量子計算機が第1の手法を使用する場合の動作の一例を示すフローチャート。
【図4】図3のステップS301の2量子ビットゲートを実行するDuanらの手順を示すフローチャート。
【図5】図3のステップS301の2量子ビットゲートを実行するGotoらの手順を示すフローチャート。
【図6】図2の量子計算機が第2の手法を使用する場合の動作の一例を示すフローチャート。
【図7】実施形態の変形例の量子計算機のブロック図。
【図8】実施例の量子計算機のブロック図。
【図9】第1の手法でDuanらの手法を利用する場合のイオンのエネルギー準位を示す図。
【図10】図8の透過率可変ミラーを実現するリング型共振器の模式図。
【図11】第1の手法でGotoらの手法を利用する場合および第2の手法の場合のイオンのエネルギー準位を示す図。
【図12】πパルスの代わりに使うことができる2光子共鳴パルスの周波数設定を示す図。
【符号の説明】
【0070】
101・・・光共振器、102・・・物理系、201,701・・・光源、202,702,881・・・制御装置、203,861・・・磁場発生器、801,802・・・色素レーザー、811・・・光子検出器、821・・・単一光子発生器、831,832・・・透過率可変ミラー、841,842,843・・・ビームスプリッター、851,852,853・・・音響光学効果素子、871,872,1021,1022・・・全反射ミラー、891,1011,1012・・・一部透過ミラー、892・・・結晶、893・・・クライオスタット、1001・・・位相調整器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共鳴周波数を有する光共振器を用意し、
前記光共振器の内部に含まれ、少なくとも3つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記3つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系を用意し、
前記複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の量子ビットに2量子ビットゲートを行う際に、前記第1物理系と第2物理系の|0>と|1>以外の状態と前記光共振器を利用して、前記第1物理系と第2物理系以外が変化することなく前記2量子ビットゲートを行い、
前記2量子ビットゲート実行直後に、全ての前記物理系の量子ビットを反転し、
前記量子ビットを反転した後、前記2量子ビットゲートの実行に要した時間だけ何もせず待機し、
待機後、全ての物理系の量子ビットを反転することを特徴とする量子計算方法。
【請求項2】
前記2量子ビットゲートを行うことは、
前記第1物理系および前記第2物理系の|0>を、|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|3>へ変換し、
前記共鳴周波数を有する単一光子パルスを前記光共振器に照射し、
前記第1物理系および前記第2物理系の|3>を、|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|0>へ戻すことであることを特徴とする請求項1に記載の量子計算方法。
【請求項3】
前記2量子ビットゲートを行うことは、
前記3つのエネルギー状態に加え|2>、|4>が有するエネルギーよりも小さい|5>を設定し、
前記第1物理系の|1>を|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する第1光パルスによって|5>へ変換し、
前記第2物理系の|1>を|1>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する第2光パルスによって|3>へ変換し、
前記第1物理系および前記第2物理系の|5>−|2>間遷移に共鳴する2つの第3光パルスを前記第1物理系および前記第2物理系に照射して光共振器を利用したアディアバティック・パッセージを行い、前記第1物理系の|5>を|3>へ、前記第2物理系の|3>を|5>へ変換し、
2つの前記第3光パルスとは相対位相が異なる、前記第1物理系および前記第2物理系の|5>−|2>間遷移に共鳴する2つの第4光パルスを前記第1物理系および前記第2物理系に照射して光共振器を利用したアディアバティック・パッセージを行い、前記第1物理系の|3>を|5>へ、前記第2物理系の|5>を|3>へ戻し、
前記第1物理系の|5>を前記第1光パルスによって|1>へ戻し、前記第2物理系の|3>を前記第2光パルスによって|1>へ戻すことであることを特徴とする請求項1に記載の量子計算方法。
【請求項4】
共鳴周波数を有する光共振器を用意し、
前記光共振器の内部に含まれ、4つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記4つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>、|5>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>、|5>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系を用意し、
前記複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の|0>を|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|3>へ変換し、
前記第1物理系および前記第2物理系の|1>を、|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|5>へ変換し、
前記共鳴周波数を有する単一光子パルスを光共振器に照射し、
前記第1物理系および前記第2物理系以外の物理系の量子ビットを反転し、
前記第1物理系および前記第2物理系の|3>と|5>を反転し、
前記単一光子パルスを光共振器に照射するのに要した時間だけ何もせずに待機し、
前記第1物理系および前記第2物理系の|3>を、|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|0>へ戻し、
前記第1物理系および前記第2物理系の|5>を、|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|1>へ戻し、
全ての物理系の量子ビットを反転することを特徴とする量子計算方法。
【請求項5】
前記第1物理系および前記第2物理系の|3>と|5>の反転は、前記第1物理系および前記第2物理系の|3>−|5>間遷移に2光子共鳴する2つの光パルスによって行われることを特徴とする請求項4に記載の量子計算方法。
【請求項6】
共鳴周波数を有する光共振器と、
前記光共振器の内部に含まれ、少なくとも3つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記3つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系と、
前記物理系の状態を操作する光源と、
ビット反転を行う振動磁場を発生する磁場発生部と、
前記複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の量子ビットに2量子ビットゲートを行う際に、前記第1物理系と第2物理系の|0>と|1>以外の状態と前記光共振器と前記光源を利用して、前記第1物理系と第2物理系以外が変化することなく前記2量子ビットゲートを行い、前記2量子ビットゲート実行直後に、前記磁場発生装置によって全ての前記物理系の量子ビットを反転し、前記量子ビットを反転した後、前記2量子ビットゲートの実行に要した時間だけ何もせず待機し、待機後、前記磁場発生装置によって全ての物理系の量子ビットを反転するように制御する制御部と、を具備することを特徴とする量子計算機。
【請求項7】
全反射ミラーと一部透過ミラーを含み、共鳴周波数を有する片側共振器と、
前記片側共振器の内部に含まれ、少なくとも3つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記3つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系と、
前記物理系の状態を操作する光源と、
ビット反転を行う振動磁場を発生する磁場発生部と、
前記複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の量子ビットに2量子ビットゲートを行う際に、前記第1物理系と第2物理系の|0>と|1>以外の状態と前記片側共振器と前記光源を利用して、前記第1物理系と第2物理系以外が変化することなく前記2量子ビットゲートを行い、前記2量子ビットゲート実行直後に、前記磁場発生装置によって全ての前記物理系の量子ビットを反転し、前記量子ビットを反転した後、前記2量子ビットゲートの実行に要した時間だけ何もせず待機し、待機後、前記磁場発生装置によって全ての物理系の量子ビットを反転するように制御する制御部と、を具備し、
前記2量子ビットゲートは、|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスを前記光源が前記第1物理系および前記第2物理系に照射して、前記第1物理系および前記第2物理系の|0>を|3>へ変換し、前記光源が前記共鳴周波数を有する単一光子パルスを前記片側共振器に照射し、|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスを前記光源が前記第1物理系および前記第2物理系に照射して、前記第1物理系および前記第2物理系の|3>を|0>へ戻すことであることを特徴とする量子計算機。
【請求項8】
全反射ミラーと一部透過ミラーを含み、共鳴周波数を有する片側共振器と、
前記片側共振器の内部に含まれ、4つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記4つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>、|5>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>、|5>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系と、
前記物理系の状態を操作する光源と、
ビット反転を行う振動磁場を発生する磁場発生部と、
前記複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の量子ビットに2量子ビットゲートを行う際に、前記第1物理系と第2物理系の|0>と|1>以外の状態と前記片側共振器と前記光源を利用して、前記第1物理系と第2物理系以外が変化することなく前記2量子ビットゲートを行い、前記2量子ビットゲート実行直後に、前記磁場発生装置によって全ての前記物理系の量子ビットを反転し、前記量子ビットを反転した後、前記2量子ビットゲートの実行に要した時間だけ何もせず待機し、待機後、前記磁場発生装置によって全ての物理系の量子ビットを反転するように制御する制御部と、を具備し、
前記2量子ビットゲートは、|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する第1光パルスを前記光源が前記第1物理系に照射して前記第1物理系の|1>を|5>へ変換し、|1>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する第2光パルスを前記光源が前記第2物理系に照射して前記第2物理系の|1>を|3>へ変換し、前記第1物理系および前記第2物理系の|5>−|2>間遷移に共鳴する2つの第3光パルスを前記光源が前記第1物理系および前記第2物理系に照射して前記片側共振器を利用したアディアバティック・パッセージを行い、前記第1物理系の|5>を|3>へ、前記第2物理系の|3>を|5>へ変換し、2つの前記第3光パルスとは相対位相が異なる、前記第1物理系および前記第2物理系の|5>−|2>間遷移に共鳴する2つの第4光パルスを前記光源が前記第1物理系および前記第2物理系に照射して片側共振器を利用したアディアバティック・パッセージを行い、前記第1物理系の|3>を|5>へ、前記第2物理系の|5>を|3>へ戻し、前記第1光パルスを前記光源が前記第1物理系に照射して前記第1物理系の|5>を|1>へ戻し、前記第2光パルスを前記光源が前記第2物理系に照射して前記第2物理系の|3>を|1>へ戻すことであることを特徴とする量子計算機。
【請求項9】
全反射ミラーと一部透過ミラーを含み、共鳴周波数を有する片側共振器と、
前記片側共振器の内部に含まれ、4つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記4つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>、|5>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>、|5>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系と、
前記物理系の状態を操作する第1光源と、
前記共鳴周波数を有する単一光子パルスを発生する第2光源と、
ビット反転を行う振動磁場を発生する磁場発生部と、
|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスを前記第1光源が前記複数の物理系に含まれる第1物理系および第2物理系に照射して前記第1物理系および前記第2物理系の|0>を|3>へ変換し、|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する光パルスを前記第1光源が前記第1物理系および前記第2物理系に照射して前記第1物理系および前記第2物理系の|1>を|5>へ変換し、前記第2光源が前記単一光子パルスを前記片側共振器に照射して前記第1物理系および前記第2物理系以外の物理系の量子ビットを反転し前記第1物理系および前記第2物理系の|3>と|5>を反転し、前記単一光子パルスを前記片側共振器に照射するのに要した時間だけ何もせずに待機し、|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスを前記第1光源が前記第1物理系および前記第2物理系に照射して前記第1物理系および前記第2物理系の|3>を|0>へ戻し、|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する光パルスを前記第1光源が前記第1物理系および前記第2物理系に照射して前記第1物理系および前記第2物理系の|5>を|1>へ戻し、全ての物理系の量子ビットを反転するように制御する制御部と、を具備することを特徴とする量子計算機。
【請求項10】
前記物理系が、結晶中にドープされた希土類イオンであることを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の量子計算機。
【請求項11】
前記|3>および前記|4>が前記希土類イオンの異なる電子励起状態であることを特徴とする請求項10に記載の量子計算機。
【請求項1】
共鳴周波数を有する光共振器を用意し、
前記光共振器の内部に含まれ、少なくとも3つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記3つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系を用意し、
前記複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の量子ビットに2量子ビットゲートを行う際に、前記第1物理系と第2物理系の|0>と|1>以外の状態と前記光共振器を利用して、前記第1物理系と第2物理系以外が変化することなく前記2量子ビットゲートを行い、
前記2量子ビットゲート実行直後に、全ての前記物理系の量子ビットを反転し、
前記量子ビットを反転した後、前記2量子ビットゲートの実行に要した時間だけ何もせず待機し、
待機後、全ての物理系の量子ビットを反転することを特徴とする量子計算方法。
【請求項2】
前記2量子ビットゲートを行うことは、
前記第1物理系および前記第2物理系の|0>を、|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|3>へ変換し、
前記共鳴周波数を有する単一光子パルスを前記光共振器に照射し、
前記第1物理系および前記第2物理系の|3>を、|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|0>へ戻すことであることを特徴とする請求項1に記載の量子計算方法。
【請求項3】
前記2量子ビットゲートを行うことは、
前記3つのエネルギー状態に加え|2>、|4>が有するエネルギーよりも小さい|5>を設定し、
前記第1物理系の|1>を|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する第1光パルスによって|5>へ変換し、
前記第2物理系の|1>を|1>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する第2光パルスによって|3>へ変換し、
前記第1物理系および前記第2物理系の|5>−|2>間遷移に共鳴する2つの第3光パルスを前記第1物理系および前記第2物理系に照射して光共振器を利用したアディアバティック・パッセージを行い、前記第1物理系の|5>を|3>へ、前記第2物理系の|3>を|5>へ変換し、
2つの前記第3光パルスとは相対位相が異なる、前記第1物理系および前記第2物理系の|5>−|2>間遷移に共鳴する2つの第4光パルスを前記第1物理系および前記第2物理系に照射して光共振器を利用したアディアバティック・パッセージを行い、前記第1物理系の|3>を|5>へ、前記第2物理系の|5>を|3>へ戻し、
前記第1物理系の|5>を前記第1光パルスによって|1>へ戻し、前記第2物理系の|3>を前記第2光パルスによって|1>へ戻すことであることを特徴とする請求項1に記載の量子計算方法。
【請求項4】
共鳴周波数を有する光共振器を用意し、
前記光共振器の内部に含まれ、4つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記4つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>、|5>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>、|5>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系を用意し、
前記複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の|0>を|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|3>へ変換し、
前記第1物理系および前記第2物理系の|1>を、|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|5>へ変換し、
前記共鳴周波数を有する単一光子パルスを光共振器に照射し、
前記第1物理系および前記第2物理系以外の物理系の量子ビットを反転し、
前記第1物理系および前記第2物理系の|3>と|5>を反転し、
前記単一光子パルスを光共振器に照射するのに要した時間だけ何もせずに待機し、
前記第1物理系および前記第2物理系の|3>を、|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|0>へ戻し、
前記第1物理系および前記第2物理系の|5>を、|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する光パルスによって|1>へ戻し、
全ての物理系の量子ビットを反転することを特徴とする量子計算方法。
【請求項5】
前記第1物理系および前記第2物理系の|3>と|5>の反転は、前記第1物理系および前記第2物理系の|3>−|5>間遷移に2光子共鳴する2つの光パルスによって行われることを特徴とする請求項4に記載の量子計算方法。
【請求項6】
共鳴周波数を有する光共振器と、
前記光共振器の内部に含まれ、少なくとも3つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記3つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系と、
前記物理系の状態を操作する光源と、
ビット反転を行う振動磁場を発生する磁場発生部と、
前記複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の量子ビットに2量子ビットゲートを行う際に、前記第1物理系と第2物理系の|0>と|1>以外の状態と前記光共振器と前記光源を利用して、前記第1物理系と第2物理系以外が変化することなく前記2量子ビットゲートを行い、前記2量子ビットゲート実行直後に、前記磁場発生装置によって全ての前記物理系の量子ビットを反転し、前記量子ビットを反転した後、前記2量子ビットゲートの実行に要した時間だけ何もせず待機し、待機後、前記磁場発生装置によって全ての物理系の量子ビットを反転するように制御する制御部と、を具備することを特徴とする量子計算機。
【請求項7】
全反射ミラーと一部透過ミラーを含み、共鳴周波数を有する片側共振器と、
前記片側共振器の内部に含まれ、少なくとも3つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記3つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系と、
前記物理系の状態を操作する光源と、
ビット反転を行う振動磁場を発生する磁場発生部と、
前記複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の量子ビットに2量子ビットゲートを行う際に、前記第1物理系と第2物理系の|0>と|1>以外の状態と前記片側共振器と前記光源を利用して、前記第1物理系と第2物理系以外が変化することなく前記2量子ビットゲートを行い、前記2量子ビットゲート実行直後に、前記磁場発生装置によって全ての前記物理系の量子ビットを反転し、前記量子ビットを反転した後、前記2量子ビットゲートの実行に要した時間だけ何もせず待機し、待機後、前記磁場発生装置によって全ての物理系の量子ビットを反転するように制御する制御部と、を具備し、
前記2量子ビットゲートは、|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスを前記光源が前記第1物理系および前記第2物理系に照射して、前記第1物理系および前記第2物理系の|0>を|3>へ変換し、前記光源が前記共鳴周波数を有する単一光子パルスを前記片側共振器に照射し、|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスを前記光源が前記第1物理系および前記第2物理系に照射して、前記第1物理系および前記第2物理系の|3>を|0>へ戻すことであることを特徴とする量子計算機。
【請求項8】
全反射ミラーと一部透過ミラーを含み、共鳴周波数を有する片側共振器と、
前記片側共振器の内部に含まれ、4つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記4つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>、|5>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>、|5>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系と、
前記物理系の状態を操作する光源と、
ビット反転を行う振動磁場を発生する磁場発生部と、
前記複数の物理系に含まれる第1物理系と第2物理系の量子ビットに2量子ビットゲートを行う際に、前記第1物理系と第2物理系の|0>と|1>以外の状態と前記片側共振器と前記光源を利用して、前記第1物理系と第2物理系以外が変化することなく前記2量子ビットゲートを行い、前記2量子ビットゲート実行直後に、前記磁場発生装置によって全ての前記物理系の量子ビットを反転し、前記量子ビットを反転した後、前記2量子ビットゲートの実行に要した時間だけ何もせず待機し、待機後、前記磁場発生装置によって全ての物理系の量子ビットを反転するように制御する制御部と、を具備し、
前記2量子ビットゲートは、|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する第1光パルスを前記光源が前記第1物理系に照射して前記第1物理系の|1>を|5>へ変換し、|1>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する第2光パルスを前記光源が前記第2物理系に照射して前記第2物理系の|1>を|3>へ変換し、前記第1物理系および前記第2物理系の|5>−|2>間遷移に共鳴する2つの第3光パルスを前記光源が前記第1物理系および前記第2物理系に照射して前記片側共振器を利用したアディアバティック・パッセージを行い、前記第1物理系の|5>を|3>へ、前記第2物理系の|3>を|5>へ変換し、2つの前記第3光パルスとは相対位相が異なる、前記第1物理系および前記第2物理系の|5>−|2>間遷移に共鳴する2つの第4光パルスを前記光源が前記第1物理系および前記第2物理系に照射して片側共振器を利用したアディアバティック・パッセージを行い、前記第1物理系の|3>を|5>へ、前記第2物理系の|5>を|3>へ戻し、前記第1光パルスを前記光源が前記第1物理系に照射して前記第1物理系の|5>を|1>へ戻し、前記第2光パルスを前記光源が前記第2物理系に照射して前記第2物理系の|3>を|1>へ戻すことであることを特徴とする量子計算機。
【請求項9】
全反射ミラーと一部透過ミラーを含み、共鳴周波数を有する片側共振器と、
前記片側共振器の内部に含まれ、4つのエネルギー状態と2つのエネルギー状態を有し、前記4つのエネルギー状態を|0>、|1>、|3>、|5>と表示し、前記2つのエネルギー状態を|2>、|4>と表示すると、|0>、|1>、|3>、|5>のそれぞれが有するエネルギーよりも|2>、|4>が有するエネルギーの方が高く、|3>−|2>間遷移の遷移周波数が前記共鳴周波数に等しく、|0>と|1>とで量子ビットを表現する複数の物理系と、
前記物理系の状態を操作する第1光源と、
前記共鳴周波数を有する単一光子パルスを発生する第2光源と、
ビット反転を行う振動磁場を発生する磁場発生部と、
|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスを前記第1光源が前記複数の物理系に含まれる第1物理系および第2物理系に照射して前記第1物理系および前記第2物理系の|0>を|3>へ変換し、|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する光パルスを前記第1光源が前記第1物理系および前記第2物理系に照射して前記第1物理系および前記第2物理系の|1>を|5>へ変換し、前記第2光源が前記単一光子パルスを前記片側共振器に照射して前記第1物理系および前記第2物理系以外の物理系の量子ビットを反転し前記第1物理系および前記第2物理系の|3>と|5>を反転し、前記単一光子パルスを前記片側共振器に照射するのに要した時間だけ何もせずに待機し、|0>−|4>間遷移および|3>−|4>間遷移に共鳴する光パルスを前記第1光源が前記第1物理系および前記第2物理系に照射して前記第1物理系および前記第2物理系の|3>を|0>へ戻し、|1>−|4>間遷移および|5>−|4>間遷移に共鳴する光パルスを前記第1光源が前記第1物理系および前記第2物理系に照射して前記第1物理系および前記第2物理系の|5>を|1>へ戻し、全ての物理系の量子ビットを反転するように制御する制御部と、を具備することを特徴とする量子計算機。
【請求項10】
前記物理系が、結晶中にドープされた希土類イオンであることを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の量子計算機。
【請求項11】
前記|3>および前記|4>が前記希土類イオンの異なる電子励起状態であることを特徴とする請求項10に記載の量子計算機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−198829(P2009−198829A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40616(P2008−40616)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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