説明

金ナノ粒子製造の方法および物品

【課題】金ナノ粒子を安定化させる方法、及び、金ナノ鎖を作製する方法を提供する。
【解決手段】金ナノ粒子を作製する方法の例示的な実施形態は、金塩にホスフィノアミノ酸を反応させるステップを含む。例示的なホスフィノアミノ酸はトリマーであり、詳細な例は1個のホスフィノ基を含有するトリマーアミノ酸コンジュゲートである。本発明の例示的な方法において、金ナノ粒子は約3分未満の期間で、約30℃未満の温度にて製造され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、ナノ鎖を含む、金ナノ粒子を製造する方法である。別の本発明の技術分野は、ナノ鎖を含む、金ナノ粒子を安定化する方法である。
【背景技術】
【0002】
金ナノ粒子は、触媒としての、半導体における、ナノサイエンスおよびナノテクノロジー、医療撮像、生物医学、治療学およびその他の急速な出現において、多数の貴重な用途を有する。金の強力な表面プラズモン吸収はたとえば、金粒子をバイオセンサなどの用途で有用にする。それらは環境的および生物学的に穏和である。他の例示的な金ナノ粒子用途としては、スマートウィンドウ、書き換え可能な電子ペーパー、電子パネルディスプレイ、メモリ構成部品、およびその他が挙げられる。
【0003】
金ナノ粒子製造の伝統的な方法の多くは、長い合成プロセスにおける、潜在的に有害な化学薬品、たとえばヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウムおよびジメチルホルムアミド(「DMF」)の使用を必要とする。これらの化学薬品は、取扱い、貯蔵、および輸送上のリスクを引き起こし、金ナノ粒子製造に実質的なコストおよび問題を追加する。これらの有害な化学薬品も、不可能でない場合には、金ナノ粒子を生体内で製造することを非実際的にしている。ある製造方法は、金塩を還元して金ナノ粒子を製造するための、水素化ホウ素ナトリウムの利用を含む。本製造方法は、水素化ホウ素ナトリウムがペプチド主鎖上に存在する化学官能基を還元して、それゆえ生体分子の生物特異性を低下または排除するので、標的特異性ペプチドの存在下では不適である。金ナノ粒子を製造する多くの方法のなお別の利点は、その産生に必要な熱に関連する。これは金ナノ粒子の製造にさらなるコストおよび複雑さを追加する。
【0004】
当分野のなお他の問題は、金ナノ粒子チェーンおよびアレイの製造に関する。多くの用途は、ナノ鎖対ナノ粒子の使用から恩恵を受けている。ある撮像用途では、たとえば個々のナノ粒子は検知できない。ナノ鎖またはナノアレイは他方、より用意に検知される。従来技術において、ナノ鎖およびアレイを製造するための予測可能で一貫した方法は知られていない。
【0005】
なお他の問題は、ナノ粒子の相対的な不安定性に関する。金ナノ粒子は、迅速に凝集および/または酸化する傾向がある。公知の安定化方法は、クエン酸塩での貯蔵を含む。クエン酸塩は強い酸性であり、その取扱いおよび使用を困難にしている。また金ナノ粒子の安定化クエン酸塩からの移行も困難である。硝酸塩、グルコース、デンプン、および窒素ベース物質などの物質では、たとえばクエン酸塩安定剤からの金ナノ粒子の移行は非常に困難であるか、または不可能なことさえある。水素化ホウ素ナトリウム還元法は通例、金ナノ粒子を安定化させるためにチオールを使用する。チオールによって安定化された金ナノ粒子は、金金属とチオール基との強い相互作用のために、ペプチドまたは他の生体分子上へただちに交換できない。
【0006】
なお他の問題は、所望のサイズの金ナノ粒子を得ることに関する。現在公知の製造方法は、金ナノ粒子の明確なサイズ分布を可能にしない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
当分野の他の問題は、放射性金ナノ粒子に関する。放射性金ナノ粒子は、たとえばナノ医学分野で有用である。金ナノ粒子は、それらが薬剤を癌性細胞および細胞構成要素(たとえば腫瘍部位)中に、より高濃度の放射能(より高い線量の放射能)を送達できるので、疾患の治療に潜在的に有用である。各金ナノ粒子は、通例は放射性Au−198/199である、金の複数の原子を含有する。放射性金ナノ粒子は、罹患組織によって過剰発現された受容体に対して選択性であるオリゴヌクレオチドおよびペプチドによっても容易に標識され得る。
【0008】
これらの独自の利点は、癌治療のための腫瘍特異性ナノ治療剤の設計および開発での有望な機会を与える。都合の悪いことに、金ナノ粒子の伝統的な製造方法は、放射性金を使用するときに問題があることが判明している。一例として、巨視的レベルでの金ナノ粒子の製造のためにNaBH(または他の還元剤)を利用する伝統的な方法は、ナノ微粒子放射性Au−198/199を製造するためにトレーサレベルで使用されるときに失敗することが多い。
【課題を解決するための手段】
【0009】
金ナノ粒子を作製するための例示的な一実施形態は、金含有物質を提供するステップと、ホスフィノアミノ酸を提供するステップと、金ナノ粒子を作製するために金塩にホスフィノアミノ酸を反応させるステップとを含む。例示的なホスフィノアミノ酸はトリマーを含み、詳細な例は1個のホスフィノ基を含有するトリマーアミノ酸コンジュゲートである。例示的な金含有物質は、金塩である。本発明の追加の実施形態は、複数の密封コンパートメントを備え、前記コンパートメント各々が金含有物質およびホスフィノアミノ酸を含有する、物品である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の方法の例は、金ナノ粒子を作製する方法を含む。本発明のある方法は一般に、好ましくはNaAuClXHOまたはNaAuClなどの金塩である、金含有物質をホスフィノアミノ酸と反応させるステップを含む。本発明の方法は、従来技術に勝る多くの貴重な利点を提供することが見出されている。たとえば金塩およびホスフィノアミノ酸反応体は、特殊な取扱いまたは貯蔵を必要としない環境的および生物学的に穏和な物質である。本発明の反応は、生理学的pHまたはその付近で実施される。本発明の方法はしたがって、生体内金ナノ粒子製造に有用である。金ナノ粒子は、本発明の方法によって、周囲温度にて比較的高い変換で製造され得る。したがって周囲温度での金ナノ粒子のワンポットの環境的および生物学的に穏和な合成方法が提供される。これらおよび他の利点は、続く本発明の例示的な方法の詳細な説明を考慮するときに、当業者に明らかとなる。
本発明の1つの例示的な方法は、金塩をホスフィノアミノ酸と反応させるステップを含み、1つの詳細な例示的な方法は、反応、
【0011】
【化2】

を実施するステップを含み、
【0012】
式中、
R’=水素、アルキル(C〜C)、またはアミノ保護基
R”=OR、NRまたはR;ここでR=R=水素、アルキル、フェニル、ベンジル、またはカルボニル保護基;あるいはR=R=ピロリジノ、ピペリジノ、またはチオモルホリノ環であり;R=アルキル、フェニル、またはベンジル;
【0013】
Y=アミノ酸の残基。トリマーアミノ酸が例証され、好ましいが、ダイマー、ポリマー、またはモノマーも使用に適していると考えられる。
ホスフィノアミノ酸は、好ましくはコンジュゲートアミノ酸である。好ましいホスフィノアミノ酸は、トリマーアラニンホスフィンコンジュゲート(「TAAC」すなわちP(CHNHCHCOOH))であり、水中、25℃で、生理学的pHでのNaAuClとの相互作用時に、優れた収率および数密度で金ナノ粒子を製造する。TAACは構造、
【0014】
【化3】

【0015】
を有する。TAACは、Katti,Kavita K.;Kannan,Raghuraman;Casteel,Stan W.;Katti,Kattesh Vによる、WIPO国際出願番号PCT/US03/05678、国際公開第WO03/072053号パンフレット、“Compounds for treatment of copper overload,”はもちろんのこと、Raghuraman,K.;Katti,K.K.;Barbour,L.J.;Pillarsetty,N.;Barnes,C.L.;Katti,K.V.による“Characterization of Supramolecular(HO)18 Water Morphology and Water−Methanol(HO)15(CHOH) Clusters in a Novel Phosphorus Functionalized Trimeric Amino Acid Host,”J.Am.Chem.Soc;2003;125(23);6955−6961;に記載されており、そのそれぞれは、本発明の分野および背景をさらに例証する目的で参照により本明細書に組み入れられている。TAACが一例である、本発明の方法で有用なホスフィノアミノ酸は安定性であり、容易に取扱いされる環境的および生物学的に穏和な化合物である。そのようなものとして、それらの使用は、貯蔵および取扱いがより困難でコストのかかる、危険で生物学的/環境的に優しくない反応体を必要とする従来技術の方法に勝る実質的な利点を提供する。
【0016】
金ナノ粒子を作製する例示的な方法は、次の通りである。
例示的手順#1(25℃にて実施):
・デンプン0.1875グラムをDI水50mlに添加して、約100℃に加熱してデンプンを溶解させた。
・別の容器で、DI水1mlにTAAC 0.0337グラムを溶解させた。
・DI水1mlにNaAuCl0.039グラムを溶解させて、金原液を調製した。
・別の20mlバイアルで、デンプン溶液6mlにNaAuCl溶液100μlを撹拌しながら合せた。
・デンプン/金溶液を含有する20mlバイアルに、TAAC溶液20μlを撹拌しながら添加した。
【0017】
実質的に瞬時の黄褐色への色変化は、金塩中の金の金ナノ粒子への変換を示す。撹拌を約30分間継続して、確実に完全変換させる。本例示的方法によって製造された金ナノ粒子は、DI中で7日間、凝集せずに貯蔵された。
【0018】
例示的手順#2(25℃にて実施)
金ナノ粒子のある生物医学用途では、X線コントラスト増強剤での、またX線ベース療法でのその使用を含めて、金ナノ粒子を製造して、生体適合性調合物中で安定させることが重要である。生体適合性調合物は、強刺激性化学薬品を伴わない合成を可能にする合成プロセスの開発を含む。次のプロセスは、溶媒としての水の使用、また生体適合性リン酸緩衝液およびナノ粒子開始剤および安定剤としての食用アラビアゴムの使用を可能にする。
【0019】
・アラビアゴム(GA)溶液は、リン酸緩衝液濃縮物(7pH)6ml中に12mgを溶解させて調製する。
・GA溶液の還流溶液に、0.1M NaAuCl0.1mlを絶えず撹拌しながら添加する。
・溶液の色は透明から暗赤色にただちに変化して、金ナノ粒子の生成を示す。
・撹拌は2分間継続する。
【0020】
金ナノ粒子の生成の最終確認は、プラズモン共鳴を示すUV分光法から、また15〜30nmサイズ範囲の均一サイズの金ナノ粒子を示す電子顕微鏡法によって得られた。上で製造されたような金ナノ粒子は、生理学的pHの水中で6ヶ月を超えて安定である。これらのナノ粒子は、CT(コンピュータ断層撮影法)、X線撮像、超音波撮像、X線療法、を含めて、たとえば水性溶媒中のナノ粒子を静脈内に(IV)注入することによる、生物医学用途に十分に適している。
【0021】
金ナノ粒子の生成のための本発明の反応は定量的である。経済的および他の理由で、比較的高価な金塩の完全な変換を確実にするために、好ましくは過剰なホスフィノアミノ酸が供給される。反応は好ましくは、少なくとも約98%の変換で進行する。つまり金塩中の少なくとも約98%の金が金ナノ粒子に変換される。実質的に副生成物はない。つまりホスフィノアミノ酸は、対応する酸化物を生じる反応中に酸化され、対応する酸化物は金塩の金ナノ粒子への変換を補助するために消費される。金塩の還元はホスフィンによって開始される。ホスフィンは次に、ホスフィンオキシド(たとえばTAACオキシド)に酸化される。これらの初期ステップの後、ホスフィンオキシド中のアミノカルボキシレートは、金塩を金ナノ粒子に還元するための還元剤として作用する。反応を補助するために、デンプン剤などの安定剤と共に水などの溶媒が供給されることが好ましい。
【0022】
反応は、室温にて約3分を超えずに、好ましくは約1分未満で、最も好ましくは30秒未満で実質的に完了まで進行する。金塩とTAACとの間の反応が室温において実質的に瞬時に合理的な変換で発生し得ると考えられる。しかしながら撹拌、温度、および他の条件に応じて、本発明の方法を実施するために他の期間も有用であり得る。たとえば約10分までの期間が最大の変換を保証するのに有用であり得る。室温を超えたある温度上昇は、最大の変換および反応速度を保証するのに有用であるが、高温は必要ではない。一例として、室温(約25℃)に加えて、本発明の例示的な方法は、約35℃〜40℃の、または約30℃〜35℃の、または約25℃〜30℃の上昇させた温度においても実施され得る。
【0023】
本発明の方法により与えられる金塩の金ナノ粒子への比較的高い変換率は、本発明の別の重要な利点を示している。たとえば金塩に含有される金の少なくとも70%のナノ粒子への変換は、存在する反応体の濃度、温度、撹拌などを含む条件に応じて、上記の期間(すなわち約3分未満、好ましくは約1分未満、そしてさらに好ましくは約30秒未満)で達成され得る。本発明の方法ではより高い変換も可能であり、これらの期間では少なくとも約90%または少なくとも約98%がさらに好ましい。比較的低温および高い変換率での本発明の実施は、従来技術に勝る重要な利点および利益を与えることが認識される。
【0024】
本発明の方法のなお別の貴重な利点は、得られた金ナノ粒子のサイズ分布が少なくとも部分的に調整され得ることである。本発明の1つの例示的な方法において、得られた金ナノ粒子のサイズは安定剤の選択によって調整される。本発明の方法の実施に有用な各種の安定剤および前記安定剤の使用から生じると考えられる、得られた粒径範囲(直径で表す)は、
【0025】
・安定化デンプン:約18〜22nm、平均約20nm
・安定化アガロース:約11〜15nm、平均約13nm
・安定化グルコース:約20〜24nm、平均約22nm
・安定化アラビアゴム:約8〜12nm、平均約10nm
を含む。これらの安定剤すべてによって比較的狭い分布が達成されることに注意する。一例として、本発明の方法によって製造された金ナノ粒子の少なくとも約80%が、上記の対応する範囲内で均一サイズ範囲を有し得る(たとえば18〜22nm、11〜15nm、または8〜12nmのいずれかにおいて少なくとも約80%)。これらの各種安定剤すべてが、生物医学用途を含む用途に十分に適した金ナノ粒子平均直径(10nm〜22nm)を生じたことにさらに注目する。他のサイズが検討され、代わりの安定剤、還元剤および比の選択によって達成可能であり、追加の例示的なサイズは約3〜30nmおよびその他である。
【0026】
ナノ粒子サイズの分布も、存在するホスフィノアミノ酸の濃度を変更することによって少なくとも部分的に調整され得る。TAACを例示的なホスフィノアミノ酸と考えると、TAACはサイズ約5nmの分子空洞を含む。金ナノ粒子がTAACの表面またはその空洞内に形成されることが考えられる。表面に形成された粒子は、5nm空洞に形成された粒子よりも大きいサイズを有する傾向がある。小型の金ナノ粒子の数を増加させるために、より多くの空洞を供給するために存在するTAACの量が増加される。粒径の大きい金ナノ粒子の数を増加させるために、TAACの量を減少させることができ、そのときより多くの金ナノ粒子がTAAC表面に形成される。
【0027】
粒径を調整することに加えて、安定剤の重要な目的は、貯蔵中の金ナノ粒子の凝集および/または酸化を防止することである。上に明示した安定剤すべてが、本発明の方法によって製造される金ナノ粒子の有益な安定性を供給することが見出されている。TAACはたとえば、金ナノ粒子の酸化を「防止する」のに役立つことが見出されている。炭水化物は、本発明の方法の実施で有用であることが見出されているさらなる安定剤である。1つを超える安定剤が利用され得る。いずれの選択された安定剤もナノ粒子の合成中にいつでも添加され得る。好ましくは、安定剤は最終反応体の導入前に溶液に存在する(すなわち金塩およびホスフィノアミノ酸の一方または両方が、安定剤をすでに含有する溶液に添加される)。
【0028】
金ナノ粒子の溶液での安定性は、広範囲の標識および試験条件にわたるその保持する強い光物理的特性に加えて、生物医学撮像または治療用途にとって重要な前提条件である。本発明の方法によって作製および安定化した金ナノ粒子の安定性は、これらおよび同様の用途に適することが見出されている。金塩およびTAACを使用して作製した金ナノ粒子は、デンプンによって安定化したときよりも、グルコースによって安定化したときに多少より狭いサイズ分布を有することが見出されたが、どちらも生物医学用途に適することが見出されている。
【0029】
生物医学および同様の用途において、金ナノ粒子溶液の希釈がその特徴的な化学的および光物理的特性を変化させないことも望ましい。希釈は、金ナノ粒子の安定性に影響を及ぼす可能性を有する。TAACを使用して本発明の方法によって作製した金ナノ粒子に対する希釈効果が調査されてきた。本発明の方法によって製造した金ナノ粒子の安定性は、10M、6M、および8M(溶媒1リットル当たりの金のモル数)の範囲の希釈物では変化しないことが見出されている。これらは、細胞レベルでの作業時に遭遇する代表的な濃度である。
【0030】
生体内撮像用途を含む多くの金ナノ粒子用途にとって重要な別の問題は、合理的な期間にわたる金ナノ粒子の安定性である。TAACを使用して本発明の方法によって製造した金ナノ粒子の安定性を、7日間にわたって調査した。デンプンによって安定化した金ナノ粒子は、感知できる凝集を受けることが見出された。対照的に、グルコースによって安定化した金ナノ粒子は、実質的に安定なままであり、7日間の期間にわたって感知可能な凝集を示さなかった。これはグルコースがデンプンよりも好ましいことを示唆している。
【0031】
本発明の追加の方法は、アガロースを安定剤として使用するステップを含む。アガロースは、アガロビノースモノマーを含有するポリサッカライドである。アガロースは、生体組織の機械的特性を模倣するゲルマトリクスを形成することが公知である。結果として、金ナノ粒子のアガロースマトリクスとの相互作用は、金ナノ粒子と腫瘍組織との相互作用を理解するための良好なモデルであると見なされる。金ナノ粒子は、水性媒体中の高温(約60〜75℃)の0.1%アガロース溶液の存在下で、NaAuClをTAACによって還元することにより、本発明の方法によって製造された。金ナノ粒子の調査は、7日間の期間にわたって多少の凝集を示したが、デンプンによって安定化したときに同様に製造された金ナノ粒子よりも、少ない凝集が生じた。このより低い凝集速度は、アガロースマトリクス内の孔への金ナノ粒子の捕捉に起因し得る。
【0032】
本発明の方法によって、金ナノ粒子およびナノアレイは鎖形成剤の添加によって製造され得ることが見出された。本明細書において、「ナノ粒子鎖」および/または「ナノ鎖」という用語は、少なくとも5個のナノ粒子の結合された配列として広範に解釈されるものであり、「ナノアレイ」という用語は、ナノ鎖のサブセットを指すものである。ナノアレイは一般に、ある2または3次元結合形状を作るために線形形状以外で結合されたナノ粒子を含む。ナノ鎖は、電子共有を通じて共に結合でき、その長さに沿って可撓性であると特徴付けられる。ナノ鎖は線形形態に限定されないが、他の結合形態も取り得る。一例として、リングまたは他のクラスタリングも形成され得る。
【0033】
鎖形成剤は、安定剤である2つの役割を有し得る。好ましくは、鎖形成剤は金ナノ粒子生成後に供給される。1つの例示的な鎖形成剤は、金ナノ粒子を相互に近接して保持することによって鎖の形成を促進する表面孔または空洞などの空隙スペースを含む。たとえば少なくとも5個のナノ粒子を相互に近接して収容する孔は、ナノ鎖の形成を促進することが見出されている。粒子が孔内で相互に近接して包含されているときに、電子共有結合が発生すると考えられる。
【0034】
好ましい鎖形成剤としてはアラビアゴムが挙げられ、アガロースが一例である。アガロースはナノアレイを製造するのに有用である。アラビアゴムは環境的および生物学的に穏和であり、一般に日常的な物品として入手可能である。アラビアゴムは、金ナノ鎖の形成を促進する表面孔、空洞および/または他の空隙スペースを含むことが見出されている。金ナノ鎖を形成する方法で有用であることが判明した1つの例示的なアラビアゴムは、糖タンパク質である。他のタンパク質が鎖を形成するのに有益な空隙スペースを含み、したがって本発明の方法においてまた有用な鎖形成剤であることが考えられる。
【0035】
ナノ鎖またはアレイを形成する1つの例示的な方法において、ナノ粒子をナノ鎖の内部に配列することが好ましい。撮像可能な金ナノ粒子のこのような配列は、生体内用途でのその使用のためのモデルを与え得る(たとえばX線コンピュータ断層撮影法(CT)撮像において)。アガロースは、複合炭水化物の混合物であり、ゲル材料として周知である。アガロースによるゲル形成は、糖部分内の複雑な水素結合によって媒介される。糖部分間の相互貫入水素結合は狭いチャネルを形成し、その多くは約100〜約300ナノメートルである。ナノチャネルの直径は、所望の幅に操作することによって拡大または縮小可能であり、1つの例示的なステップは集束レーザビームの使用である。例示的な幅は、ほぼミクロンである(すなわちマイクロチャネル)。レーザビームは糖分子内の水素結合構造を再配列して、ナノチャネルをマイクロチャネルに拡大する。
【0036】
ナノ鎖を形成する本発明の1つの例示的な方法は、ナノ粒子のナノチャネルへの直接充填を含み、それゆえナノ粒子にチャネル内部の空間を占有させて、空洞も充填させる。順序の点から、本例示的な方法は、最初にナノ粒子を形成することと、次にナノ粒子を鎖形成剤に露出させることとを含む。これはたとえば、水性媒体中の容器内でナノ粒子を形成することと、次にアガロースゲルを容器に導入することとを含む。粒子は、水性媒体がその中に流入するときに、ゲルのナノ粒子に入る。ナノ粒子がゲルの空洞に強く固着されていない場合、ナノ粒子はナノチャネルから逆浸透によって浸出し得る。本方法実施形態は、本明細書で「方法A」と呼ぶ。
【0037】
ナノ鎖を形成するための本発明の別の例示的な方法は、空洞内でナノ粒子を産生することを含む。本実施形態において、ナノチャネルは金塩(金ナノ粒子の前駆体物質)の水溶液中に浸漬され、金属イオンによるチャネル内の空洞の充填を促進する。本段階でナノ粒子開始剤は、チャネル内に流されることができる。本ナノ粒子開始剤は、前駆体金物質と相互作用して、金属イオン+3酸化状態から0/+1へ還元し、ナノ粒子の形成を開始する。本方法実施形態は、本明細書で「方法B」と呼ぶ。
【0038】
ナノ粒子のサイズは、空洞サイズによってある程度決定される。本発明の方法AおよびBのある実施形態の追加ステップにおいて、水または他の適切な溶媒で洗浄することによって、空洞に結合していないナノ粒子および未反応ナノ粒子開始剤分子をチャネルから除去する追加のステップ。空洞に結合されたナノ粒子は永久に結合され、洗浄によって容易に除去されない。洗浄のステップはしたがって、得られた粒径をさらに制御するために有用であり得る。チャネル内の空洞は密接に配置され、ナノ粒子を相互に作用させてナノ鎖またはナノアレイを形成させる。
【0039】
方法AおよびBの両方がナノアレイを製造するのに有用であることが見出されている。方法Aを使用して製造されたナノアレイは、ゲルの水中への懸濁によってナノ粒子を「ウィープ」アウト(浸出)し得る。対照的に、方法Bを使用して作製したナノ粒子は、非常に安定であるように見え、ゲルを水に最大15日の長期間にわたって懸濁させた後でさえ、ナノ粒子を「ウィープ」アウト(浸出)するように見えない。
【0040】
金ナノアレイの合成のための方法Bの例示的な実験手順は、水中でのアガロースゲルへのNaAuClの添加を含む。2分後、還元剤(TAAC)を添加して、さらに1分間撹拌した。本例示的な方法によって形成されたナノアレイは、透過型電子顕微鏡法(TEA)および原子間力顕微鏡法(AFM)画像によって確認された。多くの重複アレイは、TEMを使用して検査したときに本方法によって製造されることが見出され、銅TEMグリッドへの単層のコートを一般に生成しないアガロースゲルと予想される。AFMによる調査は、アガロースゲルの長い円柱状構造を示す。測定は、形成されたアレイが約270nmまでの長さを有することと、ナノチャネル内のナノ粒子が約13nmの直径であることとを示す。
【0041】
ナノアレイ内部のナノ粒子の安定性も、本発明の方法をさらに特徴付けるために調査された。たとえばナノアレイ内部のナノ粒子の表面活性はシステインとの直接相互作用によって調査された。システイン分子はナノチャネル内に入り、内部のナノ粒子と相互作用する。これらの調査の結果は、金ナノアレイが生物学的に穏和な基質を使用してただちに製造され得ることを証明する。
【0042】
アラビアゴムなどの鎖形成剤は環境的および生物学的に穏和であるため、ナノ鎖は生体内で形成され、例は人間などの哺乳類中を含む。このことはたとえば医学および外科用途に有用であり得る。本発明の方法によって製造されたナノアレイはたとえば、X線造影CT撮像および超音波撮像での続いての利用のための生体内植え込み用の事前に製造された金ナノ粒子プローブを含む用途で有益である。本発明のナノアレイを作製する方法は、金属ナノ粒子による高エネルギー照射の選択的吸収のためにX線照射が特定の腫瘍を収縮させ(または排除して)、したがって健康な組織を温存する潜在的な診断および治療用途にも有用である、多数の金ナノ粒子の有効な局在化を生じる。
【0043】
ある医学用途および同様の用途での本発明の金ナノ粒子の使用をさらに提供するために、本発明の例示的方法は、ナノ粒子をさらに強化する追加のステップを含む。これらのステップはたとえば、金ナノ粒子を1個以上の生体分子によって官能化することを含み得る。「生体分子」という用語は本明細書において、広範に解釈されるものとし、生物科学からのまたは生物科学に由来する分子を含み得る。詳細な例はこれに限定されるわけではないが、ペプチド、タンパク質、抗体、および生物学的に穏和な有機化合物を含む。「官能化する」という用語も本明細書において、広範に解釈されるものとし、たとえば付着することを含み得る。本発明の各種の方法で有用な1つの詳細な例示的なステップは、金ナノ粒子に生物学的に穏和なペプチド、または生物学的に穏和なタンパク質をコンジュゲートすることである。
生体分子によって官能化するさらなる例示的なステップは、次のように提供される。
【0044】
システインとのコンジュゲーションによるハイブリッド金ナノ粒子の合成
本発明の方法によって作製された金ナノ粒子の例示的な用途としては、腫瘍を検知、撮像、および腫瘍の縮小を補助するために、腫瘍と共に使用することが挙げられる。腫瘍細胞を標的化するための金ナノ粒子の適合性に関する重要なパラメータは、金ナノ粒子がハイブリッド生体分子によって官能化され得る有効性である。本発明の方法では、金ナノ粒子の標的特異性を達成することは、腫瘍指向性ペプチドまたは他の生体分子とのそのコンジュゲーションのステップによって実施され得る。生体分子の受容体結合親和性に悪影響を及ぼさないコンジュゲーションプロトコルを開発することが望ましい。約25℃および生理学的pHにて金ナノ粒子をコンジュゲートするステップは、金ナノ粒子による標識プロトコルで使用される標的特異性ペプチドの結合親和性の保持に十分に適している。本明細書において、「標識」という用語は広範に解釈されるものとし、付着またはコンジュゲーションを含み得る。
【0045】
金ナノ粒子は水硫(SH)基との高い反応性を有するので、本発明の例示的な方法は、水硫基を有する生体分子を利用する。システインは、金ナノ粒子標識プロトコルを最適化するのに有用な生体分子の好ましい例である。金ナノ粒子のシステインへの効率的な標識化は、腫瘍特異性金ナノ粒子ベース造影/治療剤の設計および開発のための、SH官能化標的特異性ペプチドへの同様の標識プロトコルの移行を可能にする。金ナノ粒子のシステインへの標識化も、これが複数の生物学的に関連性のタンパク質および合成ペプチド中に存在する一般的なチオール化アミノ酸であるために有益である。
【0046】
金ナノ粒子をコンジュゲートおよび飽和するのに必要なシステインの量を決定するステップが実施され得る。そのようにするための1つの例示的なステップは、システインなどの強力なリガンドによってコンジュゲートされないナノ粒子がNaClの添加時に凝集する条件を利用する。したがってシステインによってコンジュゲートされない金ナノ粒子の数は、NaClがナノ粒子に添加されるときに生成される凝集度を決定する。凝集度は、TEMを含む当分野で周知の複数の適切な方法のいずれかを使用して測定され得る。低いシステイン濃度では、少数の金ナノ粒子がシステインによってコンジュゲートされ、したがって凝集はNaClの添加時に観察される。他方、最適なシステイン濃度では、すべての金ナノ粒子部位がシステインによって飽和される。金ナノ粒子−システイン滴定のこの終点において、NaClのさらなる添加は著しい凝集を引き起こさない。金ナノ粒子の平均サイズは、システインコンジュゲーションの下では実質的に不変のままである。これらの結果は、金ナノ粒子のシステインコンジュゲーションが金ナノ粒子の有用な光物理的特性の保持を生じることを示唆する。システインコンジュゲート金ナノ粒子の生体外安定性は、これらのハイブリッド金ナノ粒子が2日間超にわたって安定であることを明らかにした。
【0047】
糖タンパク質を用いたバイオコンジュゲーションによる金ナノ鎖製造
本発明の例示的な方法の他のステップは、標識特異性生体タンパク質またはペプチドを金ナノ粒子で標識することなどの潜在的用途のための実行可能な金ナノ粒子標識手法を開発するために、金ナノ粒子をタンパク質などの生体分子によってコンジュゲートすることを含む。例示的なタンパク質はアラビアゴムであり、アラビノガラクタン(AG)は好ましい例である。AGは、食品産業で広範に使用される糖タンパク質である。AGは、より低い分子量ポリサッカライド(分子量約0.25×10;主成分)およびより高い分子量の、ヒドロキシプロリンが豊富な糖タンパク質(分子量約2.5×10;副成分)の混合物である。本発明の例示的な実施形態は、ナノ粒子が製造されるのと同時に、アラビノガラクタン(AG)タンパク質を金ナノ粒子によって標識することを含む。
【0048】
例示的なステップは、水中溶媒中にてAGの存在下で、NaAuClなどの金塩をTAACなどのホスフィノアミノ酸によって還元することを含む。このように形成された金ナノ粒子はAGによって標識される。吸収測定は、得られたAGコンジュゲート金ナノ粒子(AG−金ナノ粒子)のプラズモン共鳴波長およびプラズモン線幅がそれぞれ約540nmおよび約151nmであることを示す。AG−金ナノ粒子のサイズは、約10nmであることが見出された。AG−金ナノ粒子の安定性は、プラズモン共鳴波長およびプラズモン線幅を28日間の期間にわたって監視することによって評価した。
【0049】
最初の4日間では、ナノ鎖形成のある徴候が見出された。ナノ鎖の形成は時間とほぼ線形であることが見出される。興味深いことに、20日後にナノ鎖の著しい形成が示される。その上、新しいおよび20日齢のAG−金ナノ粒子のTEM画像は、AG−金ナノ粒子のアマルガム化による長鎖様構造の形成を明らかにする。形成されたナノ鎖は、単一のAG分子によるより多いナノ粒子の送達−潜在的な撮像、治療および他の用途にとってかなりの値の結果を可能にする。金ナノ鎖形成は、腫瘍細胞/腫瘍組織に対する金ナノ粒子の濃度を最大化する、それゆえ金ナノ粒子の診断/治療用量を増加するための新たな手段を提供し得る。
【0050】
腫瘍特異性ペプチドによって官能化されたハイブリッド金ナノ粒子
本発明の例示的な方法によって、金ナノ粒子は、癌診断/治療剤の開発における潜在的な用途のために腫瘍部位へ方向付けられ得る。1つの例示的な目的は、X線コンピュータ断層撮影法(CT)および超音波(US)撮像技法における金ナノ粒子のコントラスト増強を利用することである。金ナノ粒子の治療用類似体は、本発明の方法内で対応する放射性Au−198同位体を使用して製造され得る。本発明の例示的な方法は、金ナノ粒子にペプチドをコンジュゲートするステップを含み得る。金ナノ粒子に腫瘍指向性ペプチドを結合するためのコンジュゲートのステップは、癌特異性診断および治療剤の設計および開発のために有益および有利であり得る。
【0051】
金および他の金属のナノ粒子に腫瘍特異性ペプチドによって標識するためのコンジュゲーションプロトコルが開発されている。本発明の例示的な方法は、ボンベシンペプチドの利用を検討するが、他の多くのペプチドが本発明の方法での使用に適切である。両生類スズガエルの皮膚から単離した14アミノ酸ペプチドのボンベシン(BBN)および関連するガストリン放出ペプチド(GRP)は、各種の腫瘍組織において、たとえば小細胞肺癌、前立腺癌、乳癌、および結腸癌において応答の向上を示す。修飾された構造を有するボンベシンの類似体は、これらの受容体に対して同様のまたはさらに高い親和性を示した。合成ペプチドは、自動化固相技法によってただちに産生され得る。本発明の例示的な方法内で、7アミノ酸切断ボンベシン類似体(BBN)が産生され、GRP受容体を標的化するためのビヒクルとして利用されている。ペプチドBBNは、強力なGRPアゴニストであるとして文献に示されている。BBNは、GRP受容体に対する高い結合親和性のその保持により、潜在的な核医学用途のために123/131I、99mTcまたは105Rhによって放射性標識され得る。
【0052】
本発明の例示的な方法の追加ステップは、ペプチドの受容体結合C末端へのキレート化部分の干渉を回避するために、追加のスペーサ機能(たとえば5−アミノペンタン酸の形で)のペプチドのN末端領域への導入を含む。これらのステップは、金ナノ粒子標識ペプチドの、前立腺癌細胞で過剰発現された受容体との結合を最大化することが考えられる。5炭素リンカに付着されたボンベシンは、標準固相ペプチド合成技法によって合成された。チオクト酸コンジュゲートボンベシン(SS−NH−5C−BBN)は、HBTIによるカルボキシレート基の在来の活性化と、続いてのNH2−5C−BBNによる処理によって合成された。SS−NH−5C−BBNの形成は、マススペクトルデータから証明された。SS−NH−5C−BBNは金ナノ粒子(20nm)にコンジュゲートされて、ハイブリッドナノ粒子金ナノ粒子−SS−NH−5C−BBNを産生した。ハイブリッドナノ粒子金ナノ粒子−BBNコンジュゲートの形成は、UV−可視分光法、TEMおよびMS分析によって確認された。
【0053】
放射性金ナノ粒子の合成
本発明の他の例示的な方法としては、放射性金ナノ粒子の製造が挙げられる。また医療処置などのある用途でも、放射性金ナノ粒子が有用であることが判明し得る。放射性金含有物質は、上記のように放射性金ナノ粒子を製造するために本発明の方法で有用であり得る。たとえば金塩に、好ましい例はトリマーホスフィノアミノ酸TAAC(P(CHNHCH(CH)COOH))であるホスフィノアミノを反応させることは、ナノ微粒子金の形成を生じる。例が15〜20nmである明確な微粒子サイズが得られる。好ましい反応の一般反応スキームは:
【0054】
【化4】

【0055】
である。放射性金ナノ粒子を製造するこのおよび同様の方法は、ナノ粒子開始剤TAACの非毒性性質のために、そして本方法による金ナノ粒子形成が水性媒体中で進行するので、医学および生物用途で特に有用である。他の利点は、反応が10〜12Mの濃度ですら放射性ナノ微粒子金の製造に効率的であるので達成される。
【0056】
1つの例示的な手順において、Au−198/Au−199の製造のためにMURR照射設備を使用した。金箔(5〜30mg)に約8×1013n/cm/秒の線束で照射した。放射性箔を王水に溶解させて、乾燥させ、0.05N HCl 0.5〜1mLで再構成して、HAuClを形成した。放射性金(50〜100mL)溶液に、グルコースまたはアラビノガラクタンなどのデンプンまたは他の安定剤を含有する水溶液(6mL)、続いて上の好ましい反応による放射性ナノ粒子の形成を開始するためにTAAC(20μL)を含有する溶液を添加した。pHを調整するためにリン酸緩衝生理食塩水を添加した。他の緩衝溶液は使用に適している。たとえばアラビアゴムなどの鎖形成剤の添加を含む、本発明の他の例示的な方法の他のステップも実施され得る。
【0057】
TAACの添加は、黄色から暗赤紫色への色変化を生じた。この色変化は、ナノ微粒子金に存在するプラズモン−プラズモン遷移の指標である。Au−198/Au−199ナノ粒子のトレーサレベルでの本プラズモン遷移は、UV−可視分光計を使用する測定によってさらに確認された。
【0058】
金ナノ粒子安定化/貯蔵
本発明のさらなる例は、金ナノ粒子を貯蔵および/または安定化する方法に関する。TAACが好ましい例であるホスフィノアミノ酸の使用は、金ナノ粒子を貯蔵するために有益なレベルの安定性を与えることが見出されている。本発明の例示的な方法において、金ナノ粒子(たとえば本発明の方法以外の方法によって製造された)は、TAACなどのホスフィノアミノ酸に暴露されてその凝集を防止する。これらの例示的なステップが7日、14日、および30日もの期間にわたって凝集を実質的に防止するために有用であり得ることが見出されている。
【0059】
生体内用途
本発明の方法はそれにより従来技術に勝る重要および貴重な利点を与えることが認識される。たとえば金ナノ粒子は室温、生理学的pH、高い変換率にて、非毒性および危険性である生物学的に穏和な反応体を用いて製造され得るので、本発明の方法は生体外または生体内での実施の両方に特に十分に適している。
【0060】
金ナノ粒子はたとえば、哺乳類などの生物において作製され得る。一例として、ヒトまたは動物における医薬、研究、または他の目的のために金ナノ粒子のマーキングまたは追跡特性を利用することが望ましい。このような場合、金塩を対象の範囲に分散させて(たとえば臓器への外科手術の間に)、次にホスフィノアミノ酸溶液をたとえば滴加または噴霧によってその範囲に導入することができる。金ナノ粒子が生じる。さらに、金塩を導入することによって金ナノ粒子を製造するために、タンパク質中に存在するホスフィノアミノ酸に依存することが実際的であり得る。金ナノ鎖が所望である場合、例が糖タンパク質などのアラビアゴムである生物学的に穏和な鎖形成剤を同様に添加できる。同様に患者が反応体の一方または両方(および鎖形成剤)を摂取して、要望通りに口、喉、胃、または消化管にて金ナノ粒子を製造することができる。
【0061】
本発明の方法が有用性を見出し得る他の用途は、金ナノ粒子および/またはナノ鎖を迅速に野外の現場で、そして撮像、タギングなどを含む目的のために簡単な手順によって製造することが望ましい軍事または商業用途である。たとえば戦闘中の兵士または現場業務技術者は潜在的に、一方のコンパートメントに少量の金塩溶液を含み、第2のコンパートメントに少量のTAACを含む2コンパートメント式フォイルパケットを引き裂いて開くことができる。対象の範囲にて2つの物質を化合させると、後での追跡または検知のためにそこで金ナノ粒子が製造される。第3のコンパートメントは、同様に添加され得る鎖形成剤を含み得る。
【0062】
本発明の他の実施形態は実際に、本発明の方法を実施するのに有用な反応体を含有する物品に関する。本発明の1つの例示的な物品は、少なくとも第1および第2のコンパートメントを有する。各コンパートメントは、本発明の方法を実施するのに有用である本明細書で上述したような、本発明の方法を実施するのに有用な物質を含有する。たとえば第1コンパートメントは金塩などの金含有物質を含有し、第2コンパートメントはTAACなどのホスフィノアミノ酸を含有し得る。鎖形成剤、安定剤、または他の物質を含み得る第3および追加のコンパートメントが供給され得る。あるいは鎖形成剤および/または安定剤は、2コンパートメント式物品では第2コンパートメント内に存在し得る。溶媒、安定剤、および他の物質はコンパートメントの1つ以上に提供され得る。コンパートメントは潜在的な空気または液体への汚染暴露を防止するために、実質的に密閉されるべきである。物品は好ましくは小型で携帯式であり、例示的な物品は使い捨ての小型フォイルまたはポリマー物品を含む。
【0063】
図1は、本発明の1つの例示的な物品を図式的に示す。物品10は、両面式の実質的に平坦なパケットである。パケットの両面は、気体または液体に対して実質的に不浸透性であるフォイル、ポリマー、または他の材料の薄い平坦なシートによって画成される。シートは、その間の2個のコンパートメントを画成するためにその縁または他の場所の付近で密閉され得る。側面12の一方が図1に示され、2個のコンパートメント14はそれらを包囲する側面12の密封領域によって画成されている。このような物品は、引き裂きまたは切断により容易に開封されるように構成でき、容易な引き裂きのためにたとえばミシン目または他の脆弱化部16を含み得る。各コンパートメント14および16は、わずか数ミリまたはなおマイクログラムの反応体を含有し得る。パケット10は、サイズが非常に小さく、例は2平方インチ未満である。使用者は、コンパートメント12および14をライン16に沿った引き裂きまたは切断によって開封して、反応体を所望の位置で化合させることができる。パケット10などの本発明の物品の使用のための例示的な用途としては、外科手術などの医療処置中にコンパートメント12および14を開封して、内容物を患者の所望の位置に置いてそこで金ナノ粒子を形成させる外科医または他者による医学用途が挙げられる。本発明の別の例示的な物品は、患者によって摂取でき、内部で溶解して反応体を放出する物品である。1つの例は、独立したコンパートメントを有するカプセルである。
【0064】
本発明の具体的な実施形態が提示または記載されたが、他の変更、置換および代案が関与する分野の当業者に明らかとなることが理解されるはずである。たとえば本発明の方法はステップの特定の順序を使用して記載されているが、特に記載しない限り他の順序が可能であることが認識される。またある状況において、対応する塩が酸の代わりに使用され得ることが認識される。つまり本明細書において、「酸」という用語は対応する塩も含むことが認識されるである。このような変更、置換および代案は、次の特許請求の範囲で述べるように本発明の精神および範囲から逸脱せずに行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の物品の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金ナノ粒子を製造する方法であって、
金含有物質を供給するステップと;
ホスフィノアミノ酸を供給するステップと;
金ナノ粒子を作製するために前記金含有物質に前記ホスフィノアミノ酸を反応させるステップと;
からなることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ホスフィノアミノ酸がトリマーまたはダイマーの1つ以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アミノ酸がトリマーアラニンおよび1つのホスフィン基を含有するトリマーアミノ酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ホスフィンアミノ酸が
【化1】

を含み、式中、
R’=水素、アルキル(C〜C)、またはアミノ保護基
R”=OR、NRまたはR;R=R=水素、アルキル、フェニル、ベンジル、またはカルボキシル保護基;あるいはR=R=ピロリジノ、ピペリジノ、またはチオモルホリノ環;R=アルキル、フェニル、またはベンジル;そして
Y=アミノ酸の残基
である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
金ナノ粒子を作製するために前記金含有物質に前記ホスフィノアミノ酸を反応させるステップが、約30℃未満の温度で実施され、約1分未満の期間中に前記金含有物質中の金の少なくとも約70%を金ナノ粒子に変換する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記金含有物質に前記ホスフィノアミノ酸を反応させるステップが、その少なくとも80%が約10〜約22nmのサイズを有する金ナノ粒子を生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記金含有物質が金塩であり、前記金含有物質と前記ホスフィノアミノ酸を反応させるステップが生理学的pHで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記金ナノ粒子をアラビアゴムに暴露することによって金ナノ鎖を形成するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記方法がさらに金ナノ粒子のナノ鎖を作製するためであり、前記金ナノ粒子が相互に近接して保持されている空隙スペースを有するナノ鎖形成剤に前記金ナノ粒子を暴露させるステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ナノ鎖形成剤がアガロースであり、前記ナノ鎖がナノアレイを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ナノチャネルを有する鎖形成剤を供給するステップをさらに含み、金塩を供給するステップが前記金塩を前記ナノチャネル中に導入することを含み、前記ホスフィノアミノ酸を供給するステップが前記ナノチャネル内に前記金塩が存在した状態で前記ホスフィノアミノ酸を前記ナノチャネル内に導入することを含み、前記ナノチャネルを溶媒で洗浄するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記金ナノ粒子を、デンプン、アガロースおよびグルコースの安定剤の群より選択される1つ以上の安定剤に暴露するステップと;
前記金ナノ粒子の実質的な凝集を伴わずに、前記金ナノ粒子を少なくとも約2週間の期間貯蔵するステップと;
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が哺乳類内で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記哺乳類がヒトであり、金含有物質にホスフィノアミノ酸を反応させるステップが、前記金含有物質および前記ホスフィノアミノ酸を前記ヒトの選択した範囲に導入して、前記金ナノ粒子を前記選択した範囲にて製造することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記金ナノ粒子を生体分子によって官能化するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記金ナノ粒子を生体分子によって官能化するステップが、前記金ナノ粒子に約25℃および生理学的pHにおいて前記生体分子を結合することを含み、前記生体分子がペプチド、タンパク質および水硫基を有する生体分子の少なくとも1つを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記金含有物質が放射性金同位体を含み、前記金ナノ粒子が放射性である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
金ナノ粒子を製造する方法であって、
金ナノ粒子を形成するために金塩にホスフィノアミノ酸を反応させるステップと;
相互に近接しており、金ナノ粒子を相互に近接して保持するように操作可能である複数の空洞であって、そこで金のナノ鎖が形成される空洞を有する鎖形成剤に前記金ナノ粒子を暴露するステップと;
からなることを特徴とする方法。
【請求項19】
前記ナノ鎖がナノアレイを含み、前記鎖形成剤がアガロースを含む、請求項18に記載の金ナノ鎖を形成する方法。
【請求項20】
金ナノ粒子を形成するための物品であって、
金塩を含有する第1密封コンパートメントと;
前記第1コンパートメントから隔離され、ホスフィノアミノ酸を含有する第2密封コンパートメントと;
を備え;
前記第1コンパートメントおよび第2コンパートメントが開かれるように構成され、そこで前記金塩および前記ホスフィノアミノ酸が化合して金ナノ粒子を形成することを特徴とする物品。
【請求項21】
前記物品が相互に密封された2個の実質的に平坦なシートを含み、前記第1コンパートメントおよび第2コンパートメントをその間に画成する、請求項20に記載の金ナノ粒子を形成するための物品。

【図1】
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【公表番号】特表2009−509032(P2009−509032A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529296(P2008−529296)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際出願番号】PCT/US2006/034166
【国際公開番号】WO2007/027978
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(504238378)ザ キュレイターズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミズーリ (3)
【Fターム(参考)】