金型およびこれを用いた金属容器の製造方法
【課題】 1台のプレス装置にセットした金型で、途中で金型を交換する作業を行わずに深い有底容器を製造することができるようにする。
【解決手段】 (a) 最も外側の補助パンチ22を下降して円環状の溝を成形する工程、(b)前工程で下降した補助パンチを戻した後、1つ内側の補助パンチを下降して円環状の溝を成形し、以後、1つずつ内側の補助パンチに対して同様の下降と戻しを繰り返す工程、(c)補助パンチを戻した後、成形ダイの外周側に形成された垂直壁が消失しない範囲で絞り加工を行う工程、(d)成形ダイの外側に金属素材が残っているときは、以後(b)〜(c)の工程を繰り返し、すべての金属素材に対し成形パンチと成形ダイにより絞り加工を行うようにして有底容器を製造する。
【解決手段】 (a) 最も外側の補助パンチ22を下降して円環状の溝を成形する工程、(b)前工程で下降した補助パンチを戻した後、1つ内側の補助パンチを下降して円環状の溝を成形し、以後、1つずつ内側の補助パンチに対して同様の下降と戻しを繰り返す工程、(c)補助パンチを戻した後、成形ダイの外周側に形成された垂直壁が消失しない範囲で絞り加工を行う工程、(d)成形ダイの外側に金属素材が残っているときは、以後(b)〜(c)の工程を繰り返し、すべての金属素材に対し成形パンチと成形ダイにより絞り加工を行うようにして有底容器を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属容器を製造するための金型および金属容器製造方法に関する。
ここでいう「容器」の用語は、底壁と側壁とを有する有底のカップ状製品をいい、完成品、半製品を問わず「容器」に含まれるものとする。その用途は特に限定されない。例えば、最終製品としての金属製圧力容器とともに、最終製品に加工される前の中間加工品である有底筒状ライナーのような半製品も含まれる。
【背景技術】
【0002】
高圧ガスを充填する圧力容器には、従来から、アルミ、鉄、ステンレス等の金属容器が用いられている。このような金属容器を製造する際に、円板状の金属素材(ブランク)を被加工部材として用いて、絞り加工によって円筒形の有底容器を製作することがなされている。
一般に、絞り加工では、孔(ダイ孔という)が形成されたダイの上に、被加工部材である板状素材を載せる。次いで、パンチをダイ孔に向けて圧下させ、板状素材をダイス孔に押し込むことにより底壁及び側壁の加工が行われる(特許文献1参照)。
【0003】
側壁を長くした深い容器を製造したい場合、一工程による絞り加工では限界絞り比を超えてしまい、破断するおそれがある。その場合は、大径の金型(パンチとダイ)による絞り加工によって被加工部材を大径のカップ形状に成形しておき、ついで小径の金型に交換して二回目の絞り加工を施して所望のカップ形状に加工する再絞り加工が利用されている(特許文献2参照)。さらに深い容器を形成する場合は、3つ以上の金型を交換するようにして、限界絞り比を超えないようにして再絞り加工を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−305359号公報
【特許文献2】特開平06−234029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガソリンなどの化石燃料で走行する車に代わる次世代の自動車として、燃料電池走行車の開発が進められている。燃料電池走行車では、燃料として使用される水素ガスを充填するための車載用高圧ガス容器が搭載される。この車載用高圧ガス容器は、車幅以内の長さで、できるだけ長い容器にすることで、大容量の容器にすることが求められている。
【0006】
円板状の金属素材(ブランク)から長い容器を製造するには、上述したように限界絞り比を超えないように加工する必要があり、そのため、従来は複数の金型を用意しておく必要があった。また、加工時に作業者はそれぞれ異なる金型を取り付けた複数のプレス装置間で金属素材を移動して加工したり、1台のプレス装置で金型を交換しながら加工したりする必要があり、手間がかかった。
【0007】
そこで、本発明は、1つの金型を用いて通常の絞り加工で製造すれば、限界絞り比を超えてしまうため、決して加工できない深さの金属容器を、1台のプレス装置にセットした金型で、途中で金型を交換する作業を行わずに製造することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の金型は、円板状の金属素材から有底容器を製造するための金型であって、円筒状の成形パンチと、この成形パンチの外側下方の位置で成形パンチと同軸状に対向配置され、加工時に前記成形パンチが内側に挿入可能な中空円筒状の成形ダイとを備える。また、この成形ダイの外径より大径であり、成形パンチの外側の位置および成形ダイの外側の位置で交互に、かつ、同軸状に対向配置され、成形パンチと成形ダイとによる加工前に補助的な曲げ加工を行う少なくとも1つの中空円筒状の補助パンチおよび少なくとも1つの中空円筒状の補助ダイとを備える。さらに、成形ダイの上面および各補助ダイの上面は、円板状の金属素材の下面を同時に支持するように同一高さに合わされる。そして、各補助パンチは、加工時に各補助パンチの外側下方位置に対向配置される補助ダイ、内側下方位置に対向配置される補助ダイまたは成形ダイの間に挿入され、金属素材に曲げ加工が行われて垂直壁が含まれる円環状の溝が形成されるようにしてある。
【0009】
ここで、「補助的な曲げ加工」とは、加工の中間段階で行う一時的な仮の曲げ加工をいう。このときの曲げ加工によって形成された円環状の溝は、後の工程でさらに変形されることになる。
また、「円筒状の成形パンチ」、「中空円筒状の成形ダイ」、「中空円筒状の補助パンチ」、「中空円筒状の補助ダイ」は、金型として金属素材の加工に寄与する部分の形状をいい、これらをプレス装置に取り付ける取り合い部分の形状や取り付け構造については特に限定されない。
【0010】
また、上記課題を解決するためになされた本発明の金属容器製造方法は、上述した金型を用いて、成形ダイおよび補助ダイの上に載置した円板状の金属素材から有底容器を製造する金属容器製造方法であって、(a)最も外側の補助パンチを下降して補助的な曲げ加工を行い、円板状の金属素材に垂直壁が含まれる円環状の溝を成形する工程、(b)前工程で下降した補助パンチを戻した後、1つ内側の補助パンチを、直前工程で形成された円環状溝の内側垂直壁が消失しない範囲で下降して補助的な曲げ加工を行い、新たに垂直壁を有する円環状の溝を成形し、以後、1つずつ内側の補助パンチに対して同様の下降と戻しを行い、最も内側の補助パンチを下降するまで繰り返す工程、(c)最も内側の補助パンチを戻した後、成形ダイの外周側に形成された垂直壁が消失しない範囲で成形パンチを下降して絞り加工を行うことにより、有底容器を底側から成形する工程、(d)前工程で、成形ダイの外側に残っている金属素材を、その時点で金属素材に補助的な曲げ加工を行うことができる最も外側の補助パンチを下降して補助的な曲げ加工を行い、以後(b)〜(d)の工程を繰り返し、すべての金属素材に対し成形パンチと成形ダイにより絞り加工を行うようにして有底容器を製造するようにしている。
【0011】
本発明によれば、まず、(a)の工程で、最も外側の補助パンチを下降して補助的な曲げ加工を行い、金属素材上で当該補助パンチが圧下される位置に、円環状の溝を成形する。このとき円環状溝内に(ダイの側壁に沿って)垂直壁が形成されるまで補助パンチを下降する。
続いて、(b)の工程で、最も外側の補助パンチを元の位置に戻し、1つ内側の補助パンチを下降して2本目の円環状溝を形成する。このとき、2本目の円環状溝の領域に部分的な絞り加工が行われることになり、先ほど形成された1本目の円環状溝の内側の垂直壁が変形(少しずつ短くなる)することになるが、この垂直壁が短くなって完全消失するまでは、当該垂直壁よりも外側にある金属素材の縮径変化を一時抑えることができるようになる。すなわち、加工に必要な力は、垂直壁を曲げ変形することに要する力(曲げ成形力F2という)が主となり、当該垂直壁より外側にある金属素材が縮径変化するのに要する力(縮みフランジ成形力F1という)が加わるのを抑えることができる。
よって、比較的小さな曲げ成形力F2による曲げ加工によって、2本目の円環状溝を形成することができるので、加工時に破断のおそれがなくなる。以後同様に、順次、1つずつ内側の補助パンチを下降させて、当該補助パンチに対向する位置に次々と垂直壁が含まれる円環状溝を形成する。
続いて、(c)工程で、最も内側の補助パンチを戻した後、成形ダイの外周側に形成された垂直壁が完全に消失するまでの範囲で、成形パンチを下降して絞り加工を行う。これにより、有底容器を底側から成形する。このように少しずつ絞り加工を行うことで、限界絞り比を超えないようにしながら絞り加工を行う。
続いて、(d)工程では、前工程までで、成形ダイの外側に残っている金属素材を、その時点で金属素材に補助的な曲げ加工を行うことができる最も外側の補助パンチを下降して補助的な曲げ加工を行う。以後(b)〜(d)の工程を繰り返し、すべての金属素材に対し成形パンチと成形ダイにより絞り加工が行われるまで、同様の加工を繰り返すことで、有底容器を完成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属素材から有底容器を加工する際に、多段の補助パンチおよび補助ダイによって円環状溝を外側から次々と形成し、そのときに形成される円環状溝の垂直壁を利用して、垂直壁が消失しない範囲で少しずつ絞り加工を進展させるようにしているので、垂直壁が変形している間は金属素材に縮径変化が生じず、金属素材に対し縮径変化するのに要する力が加わるのを抑えることができる。これにより、限界絞り比を超えた加工が行われるのを避けることができ、1つのプレス装置に取り付けた金型だけで、金型交換作業を行うことなく、安全に絞り加工を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態である金型およびこれを用いた金属容器製造装置の概略構成図である。
【図2】図1のA−A’断面図である。
【図3】図1のB−B’断面図である。
【図4A】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【図4B】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【図4C】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【図4D】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【図4E】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【図4F】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【図4G】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【図4H】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の金型、および、これを用いた金属容器製造方法について、図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態である金型を取り付けた金属容器製造用プレス装置の全体構成を示す概略断面図、図2はそのA−A’断面図、図3はそのB−B’断面図である。
【0015】
プレス装置10は、装置下方側に複合ダイ11が設置され、複合ダイ11の上方側には対向する位置に複合パンチ12が取り付けられる。
複合パンチ12は、中央に配置される円筒状の成形パンチ21と、その外側に多段に配置される中空円筒状の補助パンチ22、23、24とからなる。このうち、成形パンチ21については、中空の円筒形状でも中実の円筒形状でもよい。中空円筒にすれば軽量化が図れ、中実円筒にすれば、底壁の形状を丸くしたり、任意の形状にしたりすることができる。
なお、本実施形態では補助パンチは3段であるが、加工対象である円板状金属素材Mの直径に応じて、段数を増減すればよい。具体的には、金属素材の直径が大きくなるにつれて段数を増やすことで限界絞り比を超えない加工ができるようにする。
【0016】
複合ダイ11は、成形パンチ21の下方外側に配置される中空円筒状の成形ダイ31と、その外側に多段に配置される中空円筒状の補助ダイ32、33、34とからなる。補助ダイの段数は、上述した補助パンチの段数に合わせるようにしてある。
成形ダイ31および補助ダイ32、33、34は上面の高さを揃えるようにしてあり、これにより、円板状の金属素材Mをセットしたときに、それぞれのダイによって支持されるようにしてある。
【0017】
本実施形態では成形ダイ31および補助ダイ32、33、34が一体になるように固定してあるが、金属素材の板厚によってダイとパンチとの隙間距離を変更できるように、それぞれ別々に分割して取り付けるようにしてもよい。
【0018】
また、図に示されるように、成形ダイ31、成形パンチ21、補助ダイ32、33、34、補助パンチ22、23、24は、共通の軸線を中心軸にして同軸状に配置され、かつ、交互に配置されるようにしてある。そして成形パンチ21は成形ダイ31の中空内に挿入され、各補助パンチ22、23、24はそれぞれの内側と外側に隣接する成形ダイ31または補助ダイ31、32、33の間に緩やかに挿入されるようにしてある。各パンチおよび各ダイの径は、挿入された状態のときに金属素材を曲げることができるが、板厚が極端に延伸され薄くならないようにするために、金属素材の板厚とほぼ同程度またはわずかに小さい隙間がパンチとダイとの間に形成されるように設計してある。
また、各パンチおよび各ダイが金属素材と当接する端面は曲面にしてあり、この端面が当接する金属素材に曲面壁が形成されるようにしてある。
【0019】
そして、成形パンチ21と各補助パンチ22、23、24は、それぞれが独立に油圧シリンダ41〜44のピストン45〜48に接続してあり、油圧シリンダ内に供給する油量を調整することによってピストンを上下移動することにより、各パンチが上下に移動するようにしてある。
【0020】
また、成形パンチ21は、製造する有底容器の深さに応じた長さが必要であるため、他の補助パンチ22〜24よりも側壁の長さを長くしてある。同様に、成形ダイ31についても、製造する有底容器の深さに応じて他の補助ダイ32〜34よりも側壁を長くしてある。なお、本実施形態では補助パンチ22、23、24の長さを同じにし、補助ダイ32、33、34の長さも同じにしてあるが、内側になるほど長くして、補助パンチを押し込むときのストロークを内側ほど大きくするようにしてもよい。
【0021】
プレス装置10は通常のプレス装置と同様にコンピュータ制御されるが、制御パラメータとして、各パンチの初期設定位置、押し込み開始位置、押し込み開始時間、押し込み距離、押し込み終了時間、引き戻し開始時間、引き戻し距離、引き戻し終了時間、静止位置、押し込み速度、引き戻し速度、押し込み力について、予め、数値設定できるようにしてある。これらの数値設定は、製品を加工する前の予備試験や試行錯誤により、最適な条件を求めるようにする。
【0022】
次に、上記プレス装置10による容器製造方法について説明する。図4(a)〜図4(j)は金属素材(ブランク材)から有底容器を製造するときの工程を順次説明する図である。以下の図では便宜上、複合ダイ11(成形ダイ31、補助ダイ32、33、34)と、複合パンチ12(成形パンチ21、補助パンチ22、23、24)と、金属素材Mとの位置関係のみを示している。
【0023】
まず、図4(a)に示すように、加工対象である円板状の金属素材Mを、成形ダイ31および補助ダイ32、33、34の上に載せる。このとき金属素材Mの中心が、パンチおよびダイの中心軸と一致するように位置決めする。
続いて、図4(b)に示すように、最も外側の補助パンチ22を下降し、補助パンチ22の外側に位置する補助ダイ32と補助パンチ22の内側に位置する補助ダイ33との間に挿入することにより、円環状の溝G1を形成する。
このとき、補助パンチ22の端面と当接する部位に曲面壁P1、補助ダイ33の端面と当接する部位に曲面壁P2が形成されるが、これらとともに曲面壁P1と曲面壁P2の間に垂直壁T1が形成されるように補助パンチ22を十分に押し込むようにする。垂直壁T1は補助パンチ22の側面と補助ダイ33の側面とによって挟まれた部位に形成される。
【0024】
続いて、図4(c)に示すように、補助パンチ22を元に戻し、1つ内側の補助パンチ23を下降して、補助パンチ23の外側に位置する補助ダイ33、内側に位置する補助ダイ33の間に挿入することにより、円環状の溝G2を形成する。このとき、前工程(図4(b)参照)で形成された溝G1の一部が、溝G2側に順次引き込まれていくように変形するが、垂直壁T1が完全に消失してしまわない範囲を限度に、補助パンチ23の押し込み深さ(すなわち図1のピストン47の押し込み長さ)を制限する。
【0025】
補助パンチ23の押し込み深さをこの範囲に制限することで、(垂直壁T1が縮んで)曲面壁P1が下から上に動く変化が生じるだけで、曲面壁P1の径方向の縮み変形は生じないようにすることができる。これにより、溝G2が形成されるときに金属素材Mに加わる力を、曲げ変形に要する力だけが加わるようにし、垂直壁T1よりも外側の曲面壁P1が引き込まれ始めたときに、新たに加わることになる縮み変形に要する大きな力が加わらないようにする。このようにして、誤って金属素材Mに大きな力が加わり破断してしまう不具合をなくす。
【0026】
そして、補助パンチ23と補助ダイ33との間に垂直壁T2が形成され、補助パンチ23の端面と当接する部分に曲面壁P3が形成され、補助パンチ23と補助ダイ34との間に垂直壁T3が形成され、補助ダイ34の端面と当接する部分に曲面壁P4が形成されるようにする。その結果、溝G1は変形し、元の位置から浮き上がるようになる。
【0027】
続いて、図4(d)に示すように、補助パンチ23を元に戻し、補助パンチ24を下降して、補助ダイ34と成形ダイ31との間に挿入することにより、円環状の溝G3を形成する。このとき、前工程(図4(c)参照)で形成された溝G2の一部が溝G3側に順次引き込まれていくように変形するが、垂直壁T3が完全に消失してしまわない範囲を限度に、補助パンチ24の押し込み深さ(すなわち図1のピストン46の押し込み長さ)を制限する。
これにより、溝G3が形成されるときに金属素材Mに加わる力を、曲げ変形に要する力だけが加わるようにし、垂直壁T3よりも外側の曲面壁P3が引き込まれ始めたときに、新たに加わることになる縮み変形に要する大きな力が加わらないようにする。このようにして、誤って金属素材Mに大きな力が加わり破断してしまう不具合をなくす。そして、補助パンチ24と補助ダイ34との間に垂直壁T4が形成され、補助パンチ24の端面に当接する部分に曲面壁P5が形成され、補助パンチ24と成形ダイ31との間に垂直壁T5が形成され、成形ダイの端面に当接する部分に曲面壁P6が形成されるようにする。このとき溝G1、G2は変形し、浮き上がるようになる。
【0028】
続いて、図4(e)に示すように、補助パンチ24を元に戻し、成形パンチ21を下降して、成形ダイ31の内側に挿入する。このとき、容器の底壁U0が形成される。さらに成形パンチ21を押し込むことにより、側壁U1が形成されていく。
このとき、前工程(図4(d)参照)で形成された溝G3が、底壁U0および側壁U1側に、順次引き込まれていくように変形するが、垂直壁T5が完全に消失してしまわないまでを限度に、成形パンチ21の押し込み深さを制限するようにする。これにより、底壁U0および側壁U1が形成されるときに金属素材Mに加わる力を、曲げ変形に要する力だけが加わるようにし、垂直壁T5よりも外側の曲面壁P5が引き込まれ始めたときに、新たに加わることになる縮み変形に要する大きな力が加わらないようにする。このようにして、誤って金属素材Mに大きな力が加わり破断してしまう不具合をなくす。
【0029】
以上の工程により、有底容器の一部が形成されるが、成形ダイ31の外側には、まだ波形に変形した金属素材Mの一部が残っている。図4(e)では補助ダイ32と補助ダイ33との間の位置まで金属素材Mの残り部分が存在しているので、以後は補助パンチ22から加工を続ける。
【0030】
すなわち、図4(f)に示すように、補助パンチ22を下降し、補助ダイ32と補助ダイ33との間に挿入することにより、一部が欠けた円環状の溝G1を再び形成する。この場合曲面壁P1が図4(b)のときより短くなっているが、垂直壁T1は形成されている。
【0031】
その後は、図4(c)〜図4(f)で説明した動作を何回か繰り返し、側壁U1を少しずつ延ばしていく。このとき、垂直壁T5の長さが1回あたりの側壁U1の長さ変化の上限となる。そして、完成直前になると、図4(g)に示すように、補助パンチ24による垂直壁T5の最後の加工が行われる。
【0032】
続いて、図4(h)に示すように、補助パンチ24を元に戻し、成形パンチ21を下降する。これにより、すべての金属素材Mが成形パンチ21と成形ダイ31によって絞られ、所望の有底容器U2が形成される。
以上の手順により、円板状の金属素材から有底容器を製造する際に、1つのプレス装置で確実に破断を生じることなく絞り加工を行うことができる。
【0033】
(他の形実施形態)
上述した金属容器製造装置10では補助パンチ22、23、24と、補助ダイ32、33、34とを、同じ高さにしたが、外側の補助パンチ22、および補助ダイ32を浅く、内側になるほど深くするようにしてもよい。
これにより、形成される円環溝を内側になるほど深くすることができるので、効率的に加工することができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、円板状の金属素材から有底容器を製造する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
10: 金属容器製造装置
11: 複合ダイ
12: 複合パンチ
21: 成形パンチ
22、23、24: 補助パンチ
31: 成形ダイ
32、33、34: 補助ダイ
41、42、43、44: 油圧シリンダ
45、46、47、48: ピストン
T1〜T5: 垂直壁
P1〜P6: 曲面壁
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属容器を製造するための金型および金属容器製造方法に関する。
ここでいう「容器」の用語は、底壁と側壁とを有する有底のカップ状製品をいい、完成品、半製品を問わず「容器」に含まれるものとする。その用途は特に限定されない。例えば、最終製品としての金属製圧力容器とともに、最終製品に加工される前の中間加工品である有底筒状ライナーのような半製品も含まれる。
【背景技術】
【0002】
高圧ガスを充填する圧力容器には、従来から、アルミ、鉄、ステンレス等の金属容器が用いられている。このような金属容器を製造する際に、円板状の金属素材(ブランク)を被加工部材として用いて、絞り加工によって円筒形の有底容器を製作することがなされている。
一般に、絞り加工では、孔(ダイ孔という)が形成されたダイの上に、被加工部材である板状素材を載せる。次いで、パンチをダイ孔に向けて圧下させ、板状素材をダイス孔に押し込むことにより底壁及び側壁の加工が行われる(特許文献1参照)。
【0003】
側壁を長くした深い容器を製造したい場合、一工程による絞り加工では限界絞り比を超えてしまい、破断するおそれがある。その場合は、大径の金型(パンチとダイ)による絞り加工によって被加工部材を大径のカップ形状に成形しておき、ついで小径の金型に交換して二回目の絞り加工を施して所望のカップ形状に加工する再絞り加工が利用されている(特許文献2参照)。さらに深い容器を形成する場合は、3つ以上の金型を交換するようにして、限界絞り比を超えないようにして再絞り加工を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−305359号公報
【特許文献2】特開平06−234029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガソリンなどの化石燃料で走行する車に代わる次世代の自動車として、燃料電池走行車の開発が進められている。燃料電池走行車では、燃料として使用される水素ガスを充填するための車載用高圧ガス容器が搭載される。この車載用高圧ガス容器は、車幅以内の長さで、できるだけ長い容器にすることで、大容量の容器にすることが求められている。
【0006】
円板状の金属素材(ブランク)から長い容器を製造するには、上述したように限界絞り比を超えないように加工する必要があり、そのため、従来は複数の金型を用意しておく必要があった。また、加工時に作業者はそれぞれ異なる金型を取り付けた複数のプレス装置間で金属素材を移動して加工したり、1台のプレス装置で金型を交換しながら加工したりする必要があり、手間がかかった。
【0007】
そこで、本発明は、1つの金型を用いて通常の絞り加工で製造すれば、限界絞り比を超えてしまうため、決して加工できない深さの金属容器を、1台のプレス装置にセットした金型で、途中で金型を交換する作業を行わずに製造することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の金型は、円板状の金属素材から有底容器を製造するための金型であって、円筒状の成形パンチと、この成形パンチの外側下方の位置で成形パンチと同軸状に対向配置され、加工時に前記成形パンチが内側に挿入可能な中空円筒状の成形ダイとを備える。また、この成形ダイの外径より大径であり、成形パンチの外側の位置および成形ダイの外側の位置で交互に、かつ、同軸状に対向配置され、成形パンチと成形ダイとによる加工前に補助的な曲げ加工を行う少なくとも1つの中空円筒状の補助パンチおよび少なくとも1つの中空円筒状の補助ダイとを備える。さらに、成形ダイの上面および各補助ダイの上面は、円板状の金属素材の下面を同時に支持するように同一高さに合わされる。そして、各補助パンチは、加工時に各補助パンチの外側下方位置に対向配置される補助ダイ、内側下方位置に対向配置される補助ダイまたは成形ダイの間に挿入され、金属素材に曲げ加工が行われて垂直壁が含まれる円環状の溝が形成されるようにしてある。
【0009】
ここで、「補助的な曲げ加工」とは、加工の中間段階で行う一時的な仮の曲げ加工をいう。このときの曲げ加工によって形成された円環状の溝は、後の工程でさらに変形されることになる。
また、「円筒状の成形パンチ」、「中空円筒状の成形ダイ」、「中空円筒状の補助パンチ」、「中空円筒状の補助ダイ」は、金型として金属素材の加工に寄与する部分の形状をいい、これらをプレス装置に取り付ける取り合い部分の形状や取り付け構造については特に限定されない。
【0010】
また、上記課題を解決するためになされた本発明の金属容器製造方法は、上述した金型を用いて、成形ダイおよび補助ダイの上に載置した円板状の金属素材から有底容器を製造する金属容器製造方法であって、(a)最も外側の補助パンチを下降して補助的な曲げ加工を行い、円板状の金属素材に垂直壁が含まれる円環状の溝を成形する工程、(b)前工程で下降した補助パンチを戻した後、1つ内側の補助パンチを、直前工程で形成された円環状溝の内側垂直壁が消失しない範囲で下降して補助的な曲げ加工を行い、新たに垂直壁を有する円環状の溝を成形し、以後、1つずつ内側の補助パンチに対して同様の下降と戻しを行い、最も内側の補助パンチを下降するまで繰り返す工程、(c)最も内側の補助パンチを戻した後、成形ダイの外周側に形成された垂直壁が消失しない範囲で成形パンチを下降して絞り加工を行うことにより、有底容器を底側から成形する工程、(d)前工程で、成形ダイの外側に残っている金属素材を、その時点で金属素材に補助的な曲げ加工を行うことができる最も外側の補助パンチを下降して補助的な曲げ加工を行い、以後(b)〜(d)の工程を繰り返し、すべての金属素材に対し成形パンチと成形ダイにより絞り加工を行うようにして有底容器を製造するようにしている。
【0011】
本発明によれば、まず、(a)の工程で、最も外側の補助パンチを下降して補助的な曲げ加工を行い、金属素材上で当該補助パンチが圧下される位置に、円環状の溝を成形する。このとき円環状溝内に(ダイの側壁に沿って)垂直壁が形成されるまで補助パンチを下降する。
続いて、(b)の工程で、最も外側の補助パンチを元の位置に戻し、1つ内側の補助パンチを下降して2本目の円環状溝を形成する。このとき、2本目の円環状溝の領域に部分的な絞り加工が行われることになり、先ほど形成された1本目の円環状溝の内側の垂直壁が変形(少しずつ短くなる)することになるが、この垂直壁が短くなって完全消失するまでは、当該垂直壁よりも外側にある金属素材の縮径変化を一時抑えることができるようになる。すなわち、加工に必要な力は、垂直壁を曲げ変形することに要する力(曲げ成形力F2という)が主となり、当該垂直壁より外側にある金属素材が縮径変化するのに要する力(縮みフランジ成形力F1という)が加わるのを抑えることができる。
よって、比較的小さな曲げ成形力F2による曲げ加工によって、2本目の円環状溝を形成することができるので、加工時に破断のおそれがなくなる。以後同様に、順次、1つずつ内側の補助パンチを下降させて、当該補助パンチに対向する位置に次々と垂直壁が含まれる円環状溝を形成する。
続いて、(c)工程で、最も内側の補助パンチを戻した後、成形ダイの外周側に形成された垂直壁が完全に消失するまでの範囲で、成形パンチを下降して絞り加工を行う。これにより、有底容器を底側から成形する。このように少しずつ絞り加工を行うことで、限界絞り比を超えないようにしながら絞り加工を行う。
続いて、(d)工程では、前工程までで、成形ダイの外側に残っている金属素材を、その時点で金属素材に補助的な曲げ加工を行うことができる最も外側の補助パンチを下降して補助的な曲げ加工を行う。以後(b)〜(d)の工程を繰り返し、すべての金属素材に対し成形パンチと成形ダイにより絞り加工が行われるまで、同様の加工を繰り返すことで、有底容器を完成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属素材から有底容器を加工する際に、多段の補助パンチおよび補助ダイによって円環状溝を外側から次々と形成し、そのときに形成される円環状溝の垂直壁を利用して、垂直壁が消失しない範囲で少しずつ絞り加工を進展させるようにしているので、垂直壁が変形している間は金属素材に縮径変化が生じず、金属素材に対し縮径変化するのに要する力が加わるのを抑えることができる。これにより、限界絞り比を超えた加工が行われるのを避けることができ、1つのプレス装置に取り付けた金型だけで、金型交換作業を行うことなく、安全に絞り加工を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態である金型およびこれを用いた金属容器製造装置の概略構成図である。
【図2】図1のA−A’断面図である。
【図3】図1のB−B’断面図である。
【図4A】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【図4B】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【図4C】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【図4D】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【図4E】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【図4F】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【図4G】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【図4H】図1の金属容器製造装置による加工状態の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の金型、および、これを用いた金属容器製造方法について、図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態である金型を取り付けた金属容器製造用プレス装置の全体構成を示す概略断面図、図2はそのA−A’断面図、図3はそのB−B’断面図である。
【0015】
プレス装置10は、装置下方側に複合ダイ11が設置され、複合ダイ11の上方側には対向する位置に複合パンチ12が取り付けられる。
複合パンチ12は、中央に配置される円筒状の成形パンチ21と、その外側に多段に配置される中空円筒状の補助パンチ22、23、24とからなる。このうち、成形パンチ21については、中空の円筒形状でも中実の円筒形状でもよい。中空円筒にすれば軽量化が図れ、中実円筒にすれば、底壁の形状を丸くしたり、任意の形状にしたりすることができる。
なお、本実施形態では補助パンチは3段であるが、加工対象である円板状金属素材Mの直径に応じて、段数を増減すればよい。具体的には、金属素材の直径が大きくなるにつれて段数を増やすことで限界絞り比を超えない加工ができるようにする。
【0016】
複合ダイ11は、成形パンチ21の下方外側に配置される中空円筒状の成形ダイ31と、その外側に多段に配置される中空円筒状の補助ダイ32、33、34とからなる。補助ダイの段数は、上述した補助パンチの段数に合わせるようにしてある。
成形ダイ31および補助ダイ32、33、34は上面の高さを揃えるようにしてあり、これにより、円板状の金属素材Mをセットしたときに、それぞれのダイによって支持されるようにしてある。
【0017】
本実施形態では成形ダイ31および補助ダイ32、33、34が一体になるように固定してあるが、金属素材の板厚によってダイとパンチとの隙間距離を変更できるように、それぞれ別々に分割して取り付けるようにしてもよい。
【0018】
また、図に示されるように、成形ダイ31、成形パンチ21、補助ダイ32、33、34、補助パンチ22、23、24は、共通の軸線を中心軸にして同軸状に配置され、かつ、交互に配置されるようにしてある。そして成形パンチ21は成形ダイ31の中空内に挿入され、各補助パンチ22、23、24はそれぞれの内側と外側に隣接する成形ダイ31または補助ダイ31、32、33の間に緩やかに挿入されるようにしてある。各パンチおよび各ダイの径は、挿入された状態のときに金属素材を曲げることができるが、板厚が極端に延伸され薄くならないようにするために、金属素材の板厚とほぼ同程度またはわずかに小さい隙間がパンチとダイとの間に形成されるように設計してある。
また、各パンチおよび各ダイが金属素材と当接する端面は曲面にしてあり、この端面が当接する金属素材に曲面壁が形成されるようにしてある。
【0019】
そして、成形パンチ21と各補助パンチ22、23、24は、それぞれが独立に油圧シリンダ41〜44のピストン45〜48に接続してあり、油圧シリンダ内に供給する油量を調整することによってピストンを上下移動することにより、各パンチが上下に移動するようにしてある。
【0020】
また、成形パンチ21は、製造する有底容器の深さに応じた長さが必要であるため、他の補助パンチ22〜24よりも側壁の長さを長くしてある。同様に、成形ダイ31についても、製造する有底容器の深さに応じて他の補助ダイ32〜34よりも側壁を長くしてある。なお、本実施形態では補助パンチ22、23、24の長さを同じにし、補助ダイ32、33、34の長さも同じにしてあるが、内側になるほど長くして、補助パンチを押し込むときのストロークを内側ほど大きくするようにしてもよい。
【0021】
プレス装置10は通常のプレス装置と同様にコンピュータ制御されるが、制御パラメータとして、各パンチの初期設定位置、押し込み開始位置、押し込み開始時間、押し込み距離、押し込み終了時間、引き戻し開始時間、引き戻し距離、引き戻し終了時間、静止位置、押し込み速度、引き戻し速度、押し込み力について、予め、数値設定できるようにしてある。これらの数値設定は、製品を加工する前の予備試験や試行錯誤により、最適な条件を求めるようにする。
【0022】
次に、上記プレス装置10による容器製造方法について説明する。図4(a)〜図4(j)は金属素材(ブランク材)から有底容器を製造するときの工程を順次説明する図である。以下の図では便宜上、複合ダイ11(成形ダイ31、補助ダイ32、33、34)と、複合パンチ12(成形パンチ21、補助パンチ22、23、24)と、金属素材Mとの位置関係のみを示している。
【0023】
まず、図4(a)に示すように、加工対象である円板状の金属素材Mを、成形ダイ31および補助ダイ32、33、34の上に載せる。このとき金属素材Mの中心が、パンチおよびダイの中心軸と一致するように位置決めする。
続いて、図4(b)に示すように、最も外側の補助パンチ22を下降し、補助パンチ22の外側に位置する補助ダイ32と補助パンチ22の内側に位置する補助ダイ33との間に挿入することにより、円環状の溝G1を形成する。
このとき、補助パンチ22の端面と当接する部位に曲面壁P1、補助ダイ33の端面と当接する部位に曲面壁P2が形成されるが、これらとともに曲面壁P1と曲面壁P2の間に垂直壁T1が形成されるように補助パンチ22を十分に押し込むようにする。垂直壁T1は補助パンチ22の側面と補助ダイ33の側面とによって挟まれた部位に形成される。
【0024】
続いて、図4(c)に示すように、補助パンチ22を元に戻し、1つ内側の補助パンチ23を下降して、補助パンチ23の外側に位置する補助ダイ33、内側に位置する補助ダイ33の間に挿入することにより、円環状の溝G2を形成する。このとき、前工程(図4(b)参照)で形成された溝G1の一部が、溝G2側に順次引き込まれていくように変形するが、垂直壁T1が完全に消失してしまわない範囲を限度に、補助パンチ23の押し込み深さ(すなわち図1のピストン47の押し込み長さ)を制限する。
【0025】
補助パンチ23の押し込み深さをこの範囲に制限することで、(垂直壁T1が縮んで)曲面壁P1が下から上に動く変化が生じるだけで、曲面壁P1の径方向の縮み変形は生じないようにすることができる。これにより、溝G2が形成されるときに金属素材Mに加わる力を、曲げ変形に要する力だけが加わるようにし、垂直壁T1よりも外側の曲面壁P1が引き込まれ始めたときに、新たに加わることになる縮み変形に要する大きな力が加わらないようにする。このようにして、誤って金属素材Mに大きな力が加わり破断してしまう不具合をなくす。
【0026】
そして、補助パンチ23と補助ダイ33との間に垂直壁T2が形成され、補助パンチ23の端面と当接する部分に曲面壁P3が形成され、補助パンチ23と補助ダイ34との間に垂直壁T3が形成され、補助ダイ34の端面と当接する部分に曲面壁P4が形成されるようにする。その結果、溝G1は変形し、元の位置から浮き上がるようになる。
【0027】
続いて、図4(d)に示すように、補助パンチ23を元に戻し、補助パンチ24を下降して、補助ダイ34と成形ダイ31との間に挿入することにより、円環状の溝G3を形成する。このとき、前工程(図4(c)参照)で形成された溝G2の一部が溝G3側に順次引き込まれていくように変形するが、垂直壁T3が完全に消失してしまわない範囲を限度に、補助パンチ24の押し込み深さ(すなわち図1のピストン46の押し込み長さ)を制限する。
これにより、溝G3が形成されるときに金属素材Mに加わる力を、曲げ変形に要する力だけが加わるようにし、垂直壁T3よりも外側の曲面壁P3が引き込まれ始めたときに、新たに加わることになる縮み変形に要する大きな力が加わらないようにする。このようにして、誤って金属素材Mに大きな力が加わり破断してしまう不具合をなくす。そして、補助パンチ24と補助ダイ34との間に垂直壁T4が形成され、補助パンチ24の端面に当接する部分に曲面壁P5が形成され、補助パンチ24と成形ダイ31との間に垂直壁T5が形成され、成形ダイの端面に当接する部分に曲面壁P6が形成されるようにする。このとき溝G1、G2は変形し、浮き上がるようになる。
【0028】
続いて、図4(e)に示すように、補助パンチ24を元に戻し、成形パンチ21を下降して、成形ダイ31の内側に挿入する。このとき、容器の底壁U0が形成される。さらに成形パンチ21を押し込むことにより、側壁U1が形成されていく。
このとき、前工程(図4(d)参照)で形成された溝G3が、底壁U0および側壁U1側に、順次引き込まれていくように変形するが、垂直壁T5が完全に消失してしまわないまでを限度に、成形パンチ21の押し込み深さを制限するようにする。これにより、底壁U0および側壁U1が形成されるときに金属素材Mに加わる力を、曲げ変形に要する力だけが加わるようにし、垂直壁T5よりも外側の曲面壁P5が引き込まれ始めたときに、新たに加わることになる縮み変形に要する大きな力が加わらないようにする。このようにして、誤って金属素材Mに大きな力が加わり破断してしまう不具合をなくす。
【0029】
以上の工程により、有底容器の一部が形成されるが、成形ダイ31の外側には、まだ波形に変形した金属素材Mの一部が残っている。図4(e)では補助ダイ32と補助ダイ33との間の位置まで金属素材Mの残り部分が存在しているので、以後は補助パンチ22から加工を続ける。
【0030】
すなわち、図4(f)に示すように、補助パンチ22を下降し、補助ダイ32と補助ダイ33との間に挿入することにより、一部が欠けた円環状の溝G1を再び形成する。この場合曲面壁P1が図4(b)のときより短くなっているが、垂直壁T1は形成されている。
【0031】
その後は、図4(c)〜図4(f)で説明した動作を何回か繰り返し、側壁U1を少しずつ延ばしていく。このとき、垂直壁T5の長さが1回あたりの側壁U1の長さ変化の上限となる。そして、完成直前になると、図4(g)に示すように、補助パンチ24による垂直壁T5の最後の加工が行われる。
【0032】
続いて、図4(h)に示すように、補助パンチ24を元に戻し、成形パンチ21を下降する。これにより、すべての金属素材Mが成形パンチ21と成形ダイ31によって絞られ、所望の有底容器U2が形成される。
以上の手順により、円板状の金属素材から有底容器を製造する際に、1つのプレス装置で確実に破断を生じることなく絞り加工を行うことができる。
【0033】
(他の形実施形態)
上述した金属容器製造装置10では補助パンチ22、23、24と、補助ダイ32、33、34とを、同じ高さにしたが、外側の補助パンチ22、および補助ダイ32を浅く、内側になるほど深くするようにしてもよい。
これにより、形成される円環溝を内側になるほど深くすることができるので、効率的に加工することができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、円板状の金属素材から有底容器を製造する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
10: 金属容器製造装置
11: 複合ダイ
12: 複合パンチ
21: 成形パンチ
22、23、24: 補助パンチ
31: 成形ダイ
32、33、34: 補助ダイ
41、42、43、44: 油圧シリンダ
45、46、47、48: ピストン
T1〜T5: 垂直壁
P1〜P6: 曲面壁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状の金属素材から有底容器を製造するための金型であって、
円筒状の成形パンチと、
前記成形パンチの外側下方の位置で前記成形パンチと同軸状に対向配置され、加工時に前記成形パンチが内側に挿入可能な中空円筒状の成形ダイと、
前記成形ダイの外径より大径であり、前記成形パンチの外側の位置および前記成形ダイの外側の位置で交互に、かつ、同軸状に対向配置され、前記成形パンチと前記成形ダイとによる加工前に補助的な曲げ加工を行う少なくとも1つの中空円筒状の補助パンチおよび少なくとも1つの中空円筒状の補助ダイとからなり、
前記成形ダイの上面および前記各補助ダイの上面は前記円板状の金属素材の下面を同時に支持するように同一高さに合わされ、
前記各補助パンチは、加工時に各補助パンチの外側下方位置に対向配置される補助ダイと内側下方位置に対向配置される補助ダイまたは成形ダイとの間に挿入されて金属素材に垂直壁が含まれる円環状の溝を形成することを特徴とする金型。
【請求項2】
成形ダイの軸方向の長さは、補助ダイよりも長く形成される請求項1に記載の金型。
【請求項3】
成形ダイおよび各補助ダイは、一体になるように固定してある請求項1に記載の金型。
【請求項4】
成形ダイおよび各補助ダイは、それぞれ別々に分割して取り付けられる請求項1に記載の金型。
【請求項5】
円筒状の成形パンチと、前記成形パンチの外側下方の位置で前記成形パンチと同軸上に対向配置され、前記成形パンチが内側に挿入可能な中空円筒状の成形ダイと、前記成形ダイの外径より大径であり、前記成形パンチの外側の位置および前記成形ダイの外側の位置を交互に、かつ、同軸状に対向配置される少なくとも1つの中空円筒状の補助パンチおよび少なくとも1つの中空円筒状の補助ダイとを備え、さらに、前記成形ダイの上面および前記各補助ダイの上面は前記円板状の金属素材の下面を同時に支持するように同一高さに合わされ、前記各補助パンチは、各補助パンチの外側位置に対向配置される補助ダイと内側位置に対向配置される補助ダイまたは成形ダイとの間に挿入される構造の金型を用いて、前記成形ダイおよび前記補助ダイの上に載置した円板状の金属素材から有底容器を製造する金属容器製造方法であって、
(a) 最も外側の補助パンチを下降して補助的な曲げ加工を行い、円板状の金属素材に垂直壁が含まれる円環状の溝を成形する工程、
(b) 前工程で下降した補助パンチを戻した後、1つ内側の補助パンチを直前工程で形成された垂直壁が消失しない範囲で下降して補助的な曲げ加工を行い、垂直壁が含まれる円環状の溝を成形し、以後、1つずつ内側の補助パンチに対して同様の下降と戻しを行い、最も内側の補助パンチを下降するまで繰り返す工程、
(c) 最も内側の補助パンチを戻した後、成形ダイの外周側に形成された垂直壁が消失しない範囲で成形パンチを下降して絞り加工を行うことにより、有底容器を底側から成形する工程、
(d) 前工程の後、成形ダイの外側に残っている金属素材を、その時点で金属素材に補助的な曲げ加工を行うことができる最も外側の補助パンチを下降して補助的な曲げ加工を行い、以後(b)〜(c)の工程を繰り返し、すべての金属素材に対し成形パンチと成形ダイにより絞り加工を行うようにして有底容器を製造する金属容器製造方法。
【請求項1】
円板状の金属素材から有底容器を製造するための金型であって、
円筒状の成形パンチと、
前記成形パンチの外側下方の位置で前記成形パンチと同軸状に対向配置され、加工時に前記成形パンチが内側に挿入可能な中空円筒状の成形ダイと、
前記成形ダイの外径より大径であり、前記成形パンチの外側の位置および前記成形ダイの外側の位置で交互に、かつ、同軸状に対向配置され、前記成形パンチと前記成形ダイとによる加工前に補助的な曲げ加工を行う少なくとも1つの中空円筒状の補助パンチおよび少なくとも1つの中空円筒状の補助ダイとからなり、
前記成形ダイの上面および前記各補助ダイの上面は前記円板状の金属素材の下面を同時に支持するように同一高さに合わされ、
前記各補助パンチは、加工時に各補助パンチの外側下方位置に対向配置される補助ダイと内側下方位置に対向配置される補助ダイまたは成形ダイとの間に挿入されて金属素材に垂直壁が含まれる円環状の溝を形成することを特徴とする金型。
【請求項2】
成形ダイの軸方向の長さは、補助ダイよりも長く形成される請求項1に記載の金型。
【請求項3】
成形ダイおよび各補助ダイは、一体になるように固定してある請求項1に記載の金型。
【請求項4】
成形ダイおよび各補助ダイは、それぞれ別々に分割して取り付けられる請求項1に記載の金型。
【請求項5】
円筒状の成形パンチと、前記成形パンチの外側下方の位置で前記成形パンチと同軸上に対向配置され、前記成形パンチが内側に挿入可能な中空円筒状の成形ダイと、前記成形ダイの外径より大径であり、前記成形パンチの外側の位置および前記成形ダイの外側の位置を交互に、かつ、同軸状に対向配置される少なくとも1つの中空円筒状の補助パンチおよび少なくとも1つの中空円筒状の補助ダイとを備え、さらに、前記成形ダイの上面および前記各補助ダイの上面は前記円板状の金属素材の下面を同時に支持するように同一高さに合わされ、前記各補助パンチは、各補助パンチの外側位置に対向配置される補助ダイと内側位置に対向配置される補助ダイまたは成形ダイとの間に挿入される構造の金型を用いて、前記成形ダイおよび前記補助ダイの上に載置した円板状の金属素材から有底容器を製造する金属容器製造方法であって、
(a) 最も外側の補助パンチを下降して補助的な曲げ加工を行い、円板状の金属素材に垂直壁が含まれる円環状の溝を成形する工程、
(b) 前工程で下降した補助パンチを戻した後、1つ内側の補助パンチを直前工程で形成された垂直壁が消失しない範囲で下降して補助的な曲げ加工を行い、垂直壁が含まれる円環状の溝を成形し、以後、1つずつ内側の補助パンチに対して同様の下降と戻しを行い、最も内側の補助パンチを下降するまで繰り返す工程、
(c) 最も内側の補助パンチを戻した後、成形ダイの外周側に形成された垂直壁が消失しない範囲で成形パンチを下降して絞り加工を行うことにより、有底容器を底側から成形する工程、
(d) 前工程の後、成形ダイの外側に残っている金属素材を、その時点で金属素材に補助的な曲げ加工を行うことができる最も外側の補助パンチを下降して補助的な曲げ加工を行い、以後(b)〜(c)の工程を繰り返し、すべての金属素材に対し成形パンチと成形ダイにより絞り加工を行うようにして有底容器を製造する金属容器製造方法。
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図4H】
【図1】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図4H】
【図1】
【公開番号】特開2011−613(P2011−613A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145685(P2009−145685)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(593166462)サムテック株式会社 (12)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(593166462)サムテック株式会社 (12)
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