説明

金型の製造方法及び金型の製造装置

【課題】加工範囲が金型母体の加工対象面積より狭くても、汎用の加工装置で金型母体の加工を行うことができる金型の製造方法を提供する。
【解決手段】金型の製造方法は、金型母体200の被加工面に複数のアライメントマーク144を形成する工程と、金型母体200の被加工領域を切削装置の加工範囲210以下の大きさの複数の領域202,204,206,208に分割し、この分割された領域単位で金型母体200を切削装置の加工範囲210に対して相対的に移動させ、各領域の金型母体200を加工する工程と、を備え、複数のアライメントマーク144のうち少なくとも2つが前記相対移動前後で切削装置の加工範囲210に含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金型の製造方法及び金型の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学レンズの製造分野においては、ガラス基板に対し硬化性樹脂からなるレンズ部を設けることで、耐熱性の高い光学レンズを得る技術が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
この技術を適用した光学レンズの製造方法の一例として、ガラス基板の表面に硬化性樹脂からなる光学部材によって構成されるレンズ部を複数設けたいわゆる「ウエハレンズ」を形成し、その後にレンズ部ごとにガラス基板をカットする方法が用いられている。
ガラス基板上に樹脂製のレンズ部を成形する場合や、ウエハレンズを成形するための樹脂製の転写型を製造するために、しばしば金属製成形型(金型)が使用される。ウエハレンズの製造に用いられる金型には、成形によって得られるレンズ部が、設計者の意図した光学性能を満たすように、凹部や凸部の形状が正確に形成されていることに加えて、レンズ部の成形以降の工程(例えば、別の光学部材との積層など)が精度よく行えるように、凹部や凸部が規則正しく配列されていることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3926380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この場合に、金型にはレンズ形状に対応した凹部または凸部が汎用の切削装置により形成されるが、ウエハレンズに対応した金型は現状では8インチ(φ200mm)と大きく、このような金型を得るための大径の金型母体に加工を行おうとすると、汎用の切削装置では加工範囲が金型母体の加工対象面積より狭く、大径金型母体の加工に対応することができない。もちろん、ウエハサイズに対応した大型の切削装置を導入して大径金型母体の加工に対応することは考えられるが、このような大型の切削装置は非常に高価であり、また、設置スペースを大きく確保する必要がある。
従って、本発明の主な目的は、加工範囲が金型母体の加工対象面積より狭くても、汎用の加工装置で金型母体の加工を行うことができる金型の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明によれば、
金型母体の被加工面の大きさよりも小さい加工範囲を有する切削装置を用いて前記金型母体を加工するようにした金型の製造方法であって、
前記金型母体の被加工面に複数のアライメントマークを形成する工程と、
前記金型母体の被加工領域を前記切削装置の加工範囲以下の大きさの複数の領域に分割し、この分割された領域単位で前記金型母体を前記切削装置の加工範囲に対して相対的に移動させ、各領域の前記金型母体を加工する工程と、を備え、
前記複数のアライメントマークのうち少なくとも2つが前記相対移動前後で前記切削装置の加工範囲に含まれていることを特徴とする金型の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、金型母体の被加工面に複数のアライメントマークを形成し、金型母体の加工対象領域を複数の領域に分割して、この分割された領域単位で金型母体を切削装置の加工範囲に対して相対移動させ、各領域の金型母体を加工する。そして、金型母体と切削装置の加工範囲の相対移動の前後で、複数のアライメントマークのうち少なくとも2つが前記相対移動前後で切削装置の加工範囲に含まれているので、容易に精度よく加工を行うことができる。従って、切削装置の加工範囲が金型母体の加工対象面積より狭くても、汎用の切削装置で精度よく大径サイズの金型を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】凹状金型の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1のI−I線に沿う断面図である。
【図3A】切削装置の概略構成を示す(a)斜視図(b)部分拡大図である。
【図3B】図3Aの切削装置の変形例を示す(a)斜視図(b)部分拡大図である。
【図4】ボールエンドミルの概略構成を示す(a)平面図(b)側面図である。
【図5】図4の切削刃の変形例を示す平面図である。
【図6】図4の切削刃の変形例を示す(a)平面図(b)側面図である。
【図7】金型の製造方法を経時的に示す概略図である。
【図8】仕上げ加工の様子を概略的に説明するための図面である。
【図9】アライメントマークの態様などを概略的に説明するための平面図である。
【図10】アライメントマークの顕微鏡写真であって(a)バリ除去前(b)バリ除去後を示す図面である。
【図11】大径金型の一例を示す外観図である。
【図12】大径金型の製造方法を概略的に説明するための図面である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
まず初めに、理解を容易にするために単純な形状の金型を例にして基本的な加工手順を説明する。
【0009】
[金型]
図1に示すとおり、金型100は略直方体状を呈しており、表面に複数の凹部102(キャビティ)がアレイ状に形成されている。金型100はアレイレンズ用金型の一例であり、特にウエハレンズの樹脂製レンズ部を成形するのに好適に使用される。ウエハレンズを成形するための樹脂製転写型を製造する場合にも使用され得る。
【0010】
凹部102が形成された1ブロックを詳しく断面視すると、図2に示すとおり、凹部102の周辺には平面部104、斜面部106、平面部108、斜面部110、平面部112が形成されており、凹部102を中心として同心円状にこれらの部位が順に形成されている。凹部102の中心部には光軸(金型100又は金型100によって製造される樹脂製転写型を用いて成形される光学素子の光軸)が直交するようになっている。
なお、図2に示す断面形状はあくまでも一例であって、目的とする用途や光学性能に合った任意の形状とすればよい。例えば、図1や図2ではレンズ部に相当する部分を複数の球面状の凹部102としているが、最終的に得ようとするレンズの形状に合わせて凸部にしたり、非球面形状にしてもよい。
金型100の形状は略直方体に限らず、略円柱状や分割円状、円盤状を呈してもよい。
【0011】
[切削装置]
図3A(a)に示すとおり、切削装置120Aは定盤122を有している。定盤122上には、直交軸および旋回軸を有するステージ124が設けられている。ステージ124は、駆動機構を内蔵した2段のスライド板上に保持され、X軸方向,Z軸方向に沿って移動可能であるとともに、Y軸に平行な軸(B軸)を中心とする円の周方向(B方向)に回動可能となっている。ステージ124上にはスピンドル126が設置されている。定盤122には切削対象物(ワーク材)140を固定するための固定具128が設けられている。定盤122上では、スピンドル126と固定具128とが対向配置されている。固定具128は、駆動機構を内蔵したスライド部材に保持され、Y軸方向に移動可能となっており、スピンドル126と切削対象物140とが相対的に移動できるようになっている。また、固定具128は、Y軸方向に移動するスライド部材に対して固定及び固定解除できるように構成されており、固定解除した場合には、Z軸方向に平行な回転軸を中心にしてD方向に回動可能とされている。
【0012】
切削装置120Aは、固定部128に固定される切削対象物140の被加工面を観察するための観察機構を有している。観察機構の観察対象領域は、切削装置120Aの加工範囲と関連づけられている。観察機構で切削対象物140の位置を確認して固定部128の初期位置を決定した後は、制御プロプログラムに従って各部が動作し、初期位置を基準にして正確に切削対象物140を加工してゆく。観察機構の観察視野内には、加工領域内における水平方向及び垂直方向に一致するように、目盛あるいは参照ラインが設けられている。切削対象物140に後述するアライメントマークが形成された後は、このアライメントマークが観察機構の観察視野内に含まれるように切削装置の固定部128の位置を調整し、アライメントマークと観察視野内の目盛又は参照ラインとをほぼ一致させる。そして、固定部128の位置を固定した後、観察視野内の目盛又は参照ラインとアライメントマークとのずれを計測する。こうして計測されたずれを、切削加工を行う際の制御にフィードバックする。
【0013】
スピンドル126はスピンドルモータを内蔵している。図3A(b)に示すとおり、スピンドルモータの主軸130にはボールエンドミル132が設置されている。ボールエンドミル132は切削工具の一例である。
ボールエンドミル132が設置されたスピンドル126は、光学面を高精度に加工するため、エアベアリングを有するスピンドルであることが望ましい。スピンドル126を回転させる動力には、スピンドルモータを内蔵するスピンドルモータ方式と、高圧エアを供給するエアタービン方式とがある。当該動力としては、高剛性化のため、スピンドルモータ方式を採用するのが望ましい。
【0014】
なお、図3Aの切削装置120Aに代えて、図3Bの切削装置120Bが用いられてもよい。
図3B(a)に示すとおり、切削装置120Bは、スピンドル126(ボールエンドミル132)がY軸に垂直な軸(A軸)を中心とする円の周方向(A方向),Y軸及びA軸に垂直な軸(C軸)を中心とする円の周方向(C方向)にも回動可能である。A軸,B軸,C軸の各回転軸は互いに直交している。切削装置120Bのこれ以外の構成は、切削装置120Aと同様である(図3B(b)参照)。
切削装置120Bによれば、ボールエンドミル132の先端刃先(後述の切削刃134など)の任意点における刃先輪郭線との法線と、加工面の法線とが常に平行になるように、ボールエンドミル132の姿勢を制御することができる。その結果、工具刃先の1点で加工することができ、加工形状に対する工具刃先輪郭誤差の影響を小さくすることができる。
【0015】
図4に示すとおり、ボールエンドミル132の先端部には切削刃134がロウ付けされ固定されている。切削刃134は単結晶ダイヤモンドで構成されたダイヤモンドチップである。
切削刃134を平面視すると、図4(a)に示すとおり、切削刃134は円弧部134aと直線部134bとを有している。切削刃134を側面視すると、図4(b)に示すとおり、切削刃134は直線部134c,134d,134eを有している。円弧部134a,直線部134b〜134eは切削刃134を構成する各平面が交わる稜線に相当する。
【0016】
スピンドル126では、スピンドルモータが回転すると、これに連動して切削刃134が半球状の軌跡を描きながら回転するようになっている(図4(a),(b)中2点鎖線参照)。この場合、円弧部134a,直線部134b,134c,134dの接点がスピンドル126の回転中心部134fとなっており、回転中心部134fはスピンドル126の回転によっては実質的に移動しない。
なお、切削刃134の回転とともに、Y軸、X軸、及び、Z軸方向の駆動機構が協働してボールエンドミル132を、Z軸方向を中心にして渦巻き状に旋回させるように構成されている(図3A(b)、図3B(b)参照)。
【0017】
図4に示すとおり、切削刃134はボールエンドミル132の回転軸250(回転中心軸)上に配置されている。切削刃134の中でも、回転中心部134fが回転軸250上に配置されている。
【0018】
図4の切削刃134に代えて、図5の切削刃136が用いられてもよい。
図5に示すとおり、切削刃136は直線部136a,136b,円弧部136c,直線部136d,136eを有している。直線部136aから直線部136bにかけて屈曲しており、直線部136bから直線部136dにかけて円弧部136cを介して湾曲している。直線部136dから直線部136eにかけては屈曲しており、直線部136eと交差する位置に回転軸250が配置されるようになっている。
直線部136dはいわゆる底刃に対応する部位であり、回転軸250を法線とする面との間で一定の角度θをなしている。角度θは、回転軸250を法線とする面と平行な角度を0°として、式(1)の条件を満たしている。
−0.9°≦θ≦+0.9° … (1)
切削刃136が切削加工に使用される場合は、切削刃136の切削速度F(mm/min(分))とスピンドル126の回転数S(rpm)との関係が、式(2)の条件を満たしている。
S>(F/0.00005)×|tanθ| … (2)
直線部136dの幅W1と、回転半径(回転軸250から直線部136dの末端までの距離)の幅W2との関係が、式(3)の条件を満たしている。
W2−W1≧1μm … (3)
【0019】
図4の切削刃134に代えて、図6の切削刃138が用いられてもよい。
切削刃138を平面視すると、図6(a)に示すとおり、切削刃138は直線部138a,円弧部138b,直線部138cを有している。直線部138cと交差する位置に回転軸250が配置されるようになっている。切削刃138を側面視すると、図6(b)に示すとおり、切削刃138は直線部138d,138e,138f,円弧部138g,直線部138hを有している。
【0020】
[金型の製造方法]
図7に示すとおり、金型100は下記(a)〜(g)の各工程を経て製造される。
(a)切削対象物(金型母体)140を準備して所定領域にブランク加工を施す。
(b)切削対象物140の所定領域に無電解ニッケルリンめっき処理を施し、めっき層142を形成する。
(c)汎用のマシニングセンタを用いて切削対象物140の表面(めっき層142)を粗加工し、凹部102などの原形(凹凸形状)を形成する。
(d)粗加工後の切削対象物140の表面を研磨して滑らかにする。
(e)ダイヤモンド切削刃を用いて凹部102などを仕上げ加工する。
(f)切削対象物140の表面を平面加工して基準面を形成し、その基準面に対しアライメントマーク144を形成する。
基準面は他の部材との間で高さ位置を調整する際に基準となる面である。
アライメントマーク144は後述するように、切削装置120A,120Bの加工範囲と金型100の加工対象領域との位置合わせに用いられる。
なお、アライメントマーク144を他の目的、例えば、他の部材との位置合わせや、金型100の成形物とその他の部材との位置合わせなどに用いるようにしてもよい。
加工面(基準面)の表面状態によっては、(e),(f)の工程の後に、表面を滑らかにする研磨を行う。
(g)切削対象物140を洗浄して加工屑などを除去し、切削対象物140の表面にSiO膜などの下地層を形成して離型剤を塗布する。
SiO膜は離型剤を塗布する際の下地として機能する。SiO膜の形成は蒸着,CVD,スパッタのいずれかの処理で行う。切削対象物140の表面にSiO膜を均一な膜厚で形成するには、CVD処理を行うのが望ましい。
離型剤は金型100から成形物の離型を容易にするものである。
【0021】
(e)の工程では、基本的に切削装置120Aを使用する。
図3A(b)に示すとおり、スピンドル126のスピンドルモータを作動させ、ボールエンドミル132を高速で回転させる。併せて、ステージ124のX軸方向,Z軸方向の移動と固定具128のY軸方向の移動とを協働させ、切削対象物140に対しボールエンドミル132を旋回させる。すなわち、ボールエンドミル132を回転させながら渦巻状に旋回させ、凹部102の表面を仕上げ加工する。
【0022】
この場合、図8に示すとおり、最も外側の領域154から領域152を経て中央の領域150にかけて、ボールエンドミル132を、光軸に平行な状態に保持した状態で、回転させながら渦巻状に旋回・当接させ、凹部102と平面部104の一部または全部を加工する。
領域150は凹部102の中央部であって光軸と直交する領域を含む。
領域152は凹部102の周辺部であって領域150に隣接する領域である。
領域154は平面部104の一部または全部であって領域152と隣り合う領域である。
【0023】
なお、(e)の工程では、切削装置120Bを使用してもよい。
切削装置120Bを使用した場合も、切削装置120Aを使用した場合と同様に、図3B(b)に示すとおり、スピンドル126のスピンドルモータを作動させ、ボールエンドミル132を高速で回転させる。併せて、ステージ124のX軸方向,Z軸方向の移動と固定具128のY軸方向の移動とを協働させ、切削対象物140に対しボールエンドミル132を旋回させる。
このとき、ボールエンドミル132を、A軸,C軸方向にも回動させながら、工具刃先(切削刃134,136)の一点で常に加工するように渦巻状に旋回させ、凹部102や平面部104,108,112の表面を仕上げ加工する。
【0024】
(f)の工程でも、切削装置120A,120Bを使用する。
この場合、切削刃134を図5の切削刃136に代え、ボールエンドミル132を回転させながら旋回させ、平面部104(仕上げ加工した領域を除く残りの領域),108,112の表面を平面(平滑)加工する。
以上の切削刃136によれば、特殊な形状を有するから、工具半径や加工時間の増大を抑えながら、鏡面性に優れた平滑面を形成することができる。すなわち、理論上発生する凹凸を50nm以下に抑えることが可能であり、平面部104,108,112を高精度・高効率に加工することができる。その結果、凹状金型100から形成されるレンズ等の光学素子の鏡面部分を高精度化したり、平面部104,108,112における汚れや樹脂(凹状金型100から転写される樹脂など)の付着を低減したりすることができる。
【0025】
その後、平面部112に対し、図9(a)に示すとおり、一定の線幅を有する十字状のアライメントマーク144(溝)を形成する。アライメントマーク144は、縦の線幅と横の線幅との各中心線の交点が位置合わせに使用される。
アライメントマーク144を形成する場合、切削刃136を図6の切削刃138に代え、ボールエンドミル132を回転させながら、図9(b)の順方向146(実線部)に沿って直線的に移動させる。その後、ボールエンドミル132を、回転方向を変えずに回転させながら、順方向146の移動軌跡を辿るように、順方向146と反対の逆方向148(点線部)に沿って移動させる。
順方向146に沿う移動ではダウンカット(加工対象物に向き合う部位における切削刃138の移動方向と、加工対象物に対する切削刃138の相対的な移動方向とが逆方向となる切削)とし、逆方向148に沿う移動ではアップカット(加工対象物に向き合う部位における切削刃138の移動方向と、加工対象物に対する切削刃138の相対的な移動方向とが順方向となる切削)とする。
【0026】
ボールエンドミル132を順方向146にのみ移動させると、図9(c)に示すとおり、ボールエンドミル132の順方向146への移動で形成された加工面160には微小な凹凸(いわゆるバリ162)が形成されるため、ここでは逆方向148にも移動させバリ162を除去する。
この場合、切削刃138の先端部と加工面160との間に間隔164をあけた状態で(切削刃138を少し浮かせた状態で)ボールエンドミル132を移動させる。間隔164として好ましくは20nm程度確保する。
【0027】
アライメントマーク144を実際に形成した場合の顕微鏡写真をみると、ボールエンドミル132を順方向146にのみ移動させた場合は、図10(a)に示すとおり、アライメントマーク144の側縁部にバリ162が形成されているのがわかる。これに対し、ボールエンドミル132を逆方向148にも移動させた場合には、図10(b)に示すとおり、バリ162が十分に除去されているのが確認できる。
【0028】
以上のアライメントマーク144を形成するための切削加工方法によれば、ボールエンドミル132を順方向146に移動させた後に、その移動軌跡を辿るように逆方向148に移動させるから、図10(b)に示すとおり、バリ162を十分に除去する(間隔164に対応した20nm以下に抑える)ことができ、アライメントマーク144の形成面(加工面)を高精度に加工することができる。その結果、金型100を用いた樹脂の転写工程において問題となる樹脂の付着を低減することができる。また、アライメントマーク144の形状が正確になるので、切削装置120A,120Bの加工範囲と金型母体の加工対象領域との位置合わせを正確に行いやすくなる。
【0029】
[大径金型]
図11に示すとおり、平面視した場合の金型300は金型100(図1参照)より大径であり、ウエハ状を呈している。金型300には複数の凹部102がマトリクス状に形成されており、金型300は凹部102の数が金型100より多い。
なお、金型100と同様に、凹部102間には平面部104、斜面部106、平面部108、斜面部110、平面部112が同心円状に形成されている。
【0030】
金型300の中央部には凹部102が形成されていない4つの領域があり、当該領域にはアライメントマーク144が1つずつ形成されている。つまり、4つのアライメントマーク144が、マトリクス状に並ぶ凹部102の行及び列に沿って配置されている。
なお、アライメントマーク144については、本実施形態に示したものに限らず種々の態様を採用することができる。例えば、凹部102が形成されていない4つの領域にそれぞれ複数のアライメントマーク144が形成されていてもよい。また、全ての領域に凹部102を形成した上で、隣り合う凹部102間にアライメントマーク144を形成するようにしてもよい。凹部102が形成されていない領域にアライメントマーク144を形成する場合は、アライメントマーク144を形成しやすくなる。全ての領域に凹部102を形成し、隣り合う凹部102間にアライメントマーク144を形成する場合は、レンズ部をより多く形成することができる。
【0031】
金型300は金型100と同様に切削装置120A,120Bにより金型母体200を加工することによって製造されるが、その加工範囲は金型母体200の平面面積より狭く、金型母体200の1/4程度となっている。
なお、金型300における凹部102の数や、金型300の径に対する凹部102の径の大きさ等はあくまでも一例であり、用途や求められる光学性能に応じて任意に決めることができる。
【0032】
[大径金型の製造方法]
金型300の製造方法は基本的には金型100の製造方法と同じであり、下記の点で異なっている。
金型300の製造装置として切削装置120A,120Bが使用される。
金型母体200が大径であり、切削装置120A,120Bの加工範囲210が金型母体200の1/4程度であるため、図12(a)に示すとおり、金型母体200の加工対象領域を4つの領域202,204,206,208に分割し、図7の(e)及び(f)の工程の処理を4回に分けて領域202,204,206,208ごとに繰り返し行う。
但し、(f)の工程のうちアライメントマーク144を形成するのは第1回のみである。
なお、図7の(a)及び(b)の工程を4つの領域202,204,206,208に対して一括して行った上で、(c)〜(f)の工程を4回に分けて領域202,204,206,208毎に繰り返すようにしてもよい(この場合も、第2回以降は(f)の工程ではアライメントマークの形成は行わない)。
【0033】
1回目では、図12(a)に示すとおり、加工範囲210に包含される領域202とその周辺の凹部102などの加工を行うとともに、各領域202,204,206,208に1つずつアライメントマーク144を形成する。
2回目では、図12(b)に示すとおり、加工範囲210に対し金型母体200を1/4回転させ、加工範囲210に包含される領域204の凹部102などの加工を行う。ここでは、切削装置120A,120Bの固定具128を固定解除してZ軸に平行な回転軸を中心にしてD方向に回転させることにより、金型母体200と切削装置120A,120Bの加工範囲210とを相対移動させる。この場合、固定具128を回転させる機構が移動手段となる。当該機構にクラッチを設けるなどして、所定角度毎に回転が進むようにすると2回目以降の固定具128の設定が容易になる。もちろん、金型母体200を一旦取り外して1/4回転させた後再度切削装置120A,120Bに取り付けるようにしても構わない。
【0034】
金型母体200と切削装置120A,120Bの加工範囲210とを相対移動させた後、切削装置120A,120Bの観察装置により、金型母体200上に形成されたアライメントマーク144を観察する。そして、観察視野内の目盛又は参照ラインとアライメントマーク144の並び方向とを比較する。必要に応じて両者の差異が小さくなるように固定具128の位置を調整する。その後、両者の比較結果からずれ量を計測し、このずれ量が補正されて加工されるように加工プログラムにフィードバックする。
なお、凹部102の並び方向に沿った少なくとも2箇所のアライメントマーク144が観察視野内に含まれるようにしておけば、観察視野内の目盛や参照ラインとの比較でずれ量を把握することができるが、本実施形態のように4箇所設けておくと、ずれ量の検出の仕方が各回共通にできるという利点がある。
このようにすることで、領域204のアライメントマーク144を領域202のアライメントマーク144が存在していた位置にほぼ合致し、また、両者のずれは制御プログラムで補正加工されるようにフィードバックされることにより、1回目から2回目に切り替わる際の金型母体200と切削装置120A,120Bの加工範囲210との位置決めが実質的に完了する。本実施形態によれば、被加工物である金型母体200を回転させることにより加工対象領域を切り替えるので、加工対象領域の切り替えの際に切削装置120A,120Bの周囲に大きなスペースがいらないという利点がある。
【0035】
3回目では、図12(c)に示すとおり、金型母体200をさらに1/4回転させ、加工範囲210に包含される領域206の凹部102などの加工を行う。
この場合も、領域206のアライメントマーク144を領域202のアライメントマーク144が存在していた位置に合致するように2回目と同様の手順を実行し、2回目から3回目に切り替わる際の金型母体200の位置決めを行う。
最後の4回目でも、2回目,3回目と同様に、金型母体200をさらに1/4回転させ(領域208のアライメントマーク144を領域202のアライメントマーク144が存在していた位置に合致するように金型母体200の位置決めを行い)、加工範囲210に包含される領域206の凹部102などの加工を行う。こうして、大径金型300を得る。
こうして、金型母体200を1/4ずつ移動させる際に、移動前後で切削装置120A,120Bの加工範囲210の一部が重複しており、この重複した加工範囲210内に相当する金型母体200の加工対象領域に、複数のアライメントマーク144が形成されている。従って、金型母体200を回転させても常に切削装置120A,120Bの観察視野内にアライメントマーク144が含まれることとなり、ひいては、加工範囲210内に常にアライメントマーク144を存在させながら加工を行うことができるため、金型母体200の移動の度にアライメントマーク144を用いた位置合わせが可能となり、精度よい加工を容易に行うことができる。
【0036】
以上の大径金型300の製造方法によれば、金型母体200の加工対象領域を4つの領域202,204,206,208に分割して領域202,204,206,208ごとに位置合わせしながら金型母体200を加工するから、切削装置120A,120Bの加工範囲210が金型母体200の面積より狭くても、汎用の切削装置120A,120Bで大径サイズの金型母体200を加工することができる。その結果、大型の切削装置を導入する必要もなくなり、切削装置にかかる導入コストやその設置スペースの確保を考慮する必要がなくなる。
【0037】
なお、金型母体200の加工は上記のとおり4回に分けて行われその加工時間が長くなりがちなので、環境温度の変化の影響を受け加工精度が低下するのを防止するために、金型200の素材として好ましくは低熱膨張係数の材料を使用する。
金型母体200の加工領域は領域202,204,206,208の4つに限らず、加工範囲210に応じた領域数に分割してもよい。
なお、2回目以降の処理で使用する切削装置120A,120Bの加工範囲210の位置決め用のアライメントマーク144の他に、1回目から最終回までの間に別の目的で(例えば、成形用の)アライメントマークを形成してもよい。
【符号の説明】
【0038】
100 金型
102 凹部(キャビティ)
104 平面部
106 斜面部
108 平面部
110 斜面部
112 平面部
120A,120B 切削装置
122 定盤
124 ステージ
126 スピンドル
128 固定具
130 (スピンドルモータの)主軸
132 ボールエンドミル
134 切削刃
134a 円弧部
134b 直線部
134c,134d,134e 直線部
134f 回転中心部
136 切削刃
136a,136b 直線部
136c 円弧部
136d,136e 直線部
138 切削刃
138a 直線部
138b 円弧部
138c 直線部
138d,138e,138f 直線部
138g 円弧部
138h 直線部
140 切削対象物(金型母体)
142 メッキ層
144 アライメントマーク
146 順方向
148 逆方向
150,152,154 領域
160 加工面
162 バリ
164 間隔
200 金型母体
202,204,206,208 領域
210 加工範囲
300 大径金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型母体の被加工面の大きさよりも小さい加工範囲を有する切削装置を用いて前記金型母体を加工するようにした金型の製造方法であって、
前記金型母体の被加工面に複数のアライメントマークを形成する工程と、
前記金型母体の被加工領域を前記切削装置の加工範囲以下の大きさの複数の領域に分割し、この分割された領域単位で前記金型母体を前記切削装置の加工範囲に対して相対的に移動させ、各領域の前記金型母体を加工する工程と、を備え、
前記複数のアライメントマークのうち少なくとも2つが前記相対移動前後で前記切削装置の加工範囲に含まれていることを特徴とする金型の製造方法。
【請求項2】
前記相対移動後に前記少なくとも2つのアライメントマークを使って前記切削装置の前記金型母体に対する位置調整を行う請求項1に記載の金型の製造方法。
【請求項3】
前記金型母体の被加工面に、前記分割された領域のそれぞれに対応づけて前記アライメントマークが形成されている請求項1又は2に記載の金型の製造方法。
【請求項4】
前記アライメントマークは、切削刃を往復させて加工されることにより前記金型母体上に形成される請求項1〜3のいずれか一項に記載の金型の製造方法。
【請求項5】
前記金型母体を被加工面に垂直な回転軸を中心にして回転させることにより、前記相対移動を行う請求項1〜4のいずれか一項に記載の金型の製造方法。
【請求項6】
前記複数のアライメントマークは、前記回転軸の近傍に形成されている請求項5に記載の金型の製造方法。
【請求項7】
前記相対移動と前記金型母体の加工とを繰り返すことにより、前記金型母体の被加工領域全体を加工する請求項1〜6のいずれか一項に記載の金型の製造方法。
【請求項8】
前記金型母体の被加工面には、加工によって、マトリクス状に配置された複数の加工形状が形成され、前記少なくとも2つのアライメントマークは、上記加工形状のマトリクス配列の列又は行に沿って配置されている請求項7に記載の金型の製造方法。
【請求項9】
前記相対移動前後で、前記切削装置の加工範囲の一部が重複しており、該重複した加工範囲内に相当する前記金型母体の加工対象領域に、前記複数のアライメントマークが形成されている請求項1〜8のいずれか一項に記載の金型の製造方法。
【請求項10】
金型母体の被加工面の大きさよりも小さい加工範囲を有する金型の製造装置であって、
前記金型母体の被加工面に複数のアライメントマークを形成するボールエンドミルと、
前記金型母体の被加工領域を前記加工範囲以下の大きさの複数の領域に分割し、この分割された領域単位で前記金型母体を前記加工範囲に対して相対的に移動させる移動手段と、
を備え、
前記複数のアライメントマークのうち少なくとも2つが前記相対移動前後で前記加工範囲に含まれていることを特徴とする金型の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−30414(P2012−30414A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170158(P2010−170158)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】