説明

金属の選択的抽出剤

【課題】ベースメタル及び白金族金属のイオンを含有する溶液からRh又はPdイオンを選択的に抽出する手段を提供する。
【解決手段】以下の式I:


[式中、R1及びR2は、互いに独立して、水素、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1-18アルキル等であり(但し、R1及びR2は同一であることはない);R3及びR4は、互いに独立して、水素、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1-4アルキル等であるか、又はR3及びR4は、それらが結合するイミダゾール環上の炭素原子と一緒になってイミダゾール環と縮合するシクロアルキル若しくはアリール(前記イミダゾール環と縮合するシクロアルキル若しくはアリールは、非置換であるか、或いは1個若しくは複数個のハロゲンによって置換されている)を形成する]で表される化合物を含有する、金属イオンの抽出剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属を選択的に吸着する化合物を含有する金属の抽出剤、及び該化合物を用いる金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国は、世界の希少金属の約20%を消費している希少金属消費大国であるにも関わらず、主要な資源の大部分を輸入に依存している。そのため、希少金属の安定供給を確保することは難しい課題となっている。希少金属の中でも、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)及び白金(Pt)のような白金族金属は、天然鉱物からの産出量が少ないため、銅(Cu)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)のようなベースメタルの精錬に伴って排出される副生成物として分離、回収されているだけでなく、電子機器の廃棄物、並びにオキソ反応によるアルデヒド製造廃液及び自動車の排ガス触媒のような廃触媒からも分離、回収されている。
【0003】
白金族金属の回収方法としては、溶媒抽出法、沈殿分離法及びイオン交換法等を挙げることができる。このうち、経済性及び操作性の観点から、溶媒抽出法が広く用いられている。
【0004】
特許文献1は、ビフェニルアルキルピリジンであるRhの抽出剤を記載する。当該文献によれば、上記の抽出剤により、Rhを含有する溶液から、Rhのみを選択的に高効率で分離することができる。
【0005】
特許文献2は、ホスファイト及びRhを含有する溶液を、カルボン酸を含有する極性溶液及び特定のホスホネートの存在下、酸化剤で処理した後、極性溶媒相と、より非極性の有機溶媒相に相分離し、極性溶媒中にRhを回収することを特徴とするRhの回収方法を記載する。当該文献によれば、例えばオキソ反応(ヒドロホルミル化反応)の反応後の触媒液のように、ホスファイト及びRhを含有する溶液から、効率的にRhを分離することができる。
【0006】
特許文献3は、不純物金属を含む白金族金属含有物から白金族金属を相互分離する方法を記載する。当該文献によれば、不純物金属を含む白金族金属含有物から特定の抽出剤を用いてPd、Pt、Ru、Ir及びRhを段階的に回収することにより、上記の白金族金属を高純度で相互分離することができる。
【0007】
特許文献4は、チオグリコールアミド化合物、3,3’-チオジプロピオンアミド化合物及び3,6-ジチアオクタンジアミド化合物のような硫黄含有ジアミド化合物からなるパラジウム抽出剤を記載する。当該文献によれば、硫黄含有ジアミド化合物を用いることにより、ジヘキシルスルフィド(DHS)のような従来の抽出剤と比較して、短時間でPdを抽出することができる。
【0008】
特許文献5は、N-n-ヘキシル-ビス(N-メチル-N-n-オクチルエチルアミド)アミンのようなアミド含有三級アミン化合物を有効成分とする白金族金属分離試薬を記載する。当該文献によれば、上記のようなアミド含有三級アミン化合物を分離試薬として用いることにより、Rh、Pt及びPdからなる白金族金属を含有する酸性被処理溶液から、Rh、Pt及びPdを抽出することができる。さらに、金属抽出後の分離試薬含有溶液を高濃度の塩酸溶液と接触させることにより、Rhを選択的に回収することができ、Rh分離後の分離試薬含有溶液を高濃度の硝酸溶液と接触させることにより、Pt及びPdを回収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5-295458号公報
【特許文献2】特開2000-325802号公報
【特許文献3】特開2005-97695号公報
【特許文献4】国際公開第2005/083131号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2009/001897号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、溶媒抽出法による白金族金属の回収方法として、様々な技術が開発されているが、白金族金属を効率よく分離、回収し得る方法は未だ提供されていない。通常、ベースメタルの精錬に伴って排出される廃液及び廃触媒の処理液は塩酸酸性水溶液であるため、金属イオンは塩化物イオンとクロロ錯体を形成し得る。例えば、Rhイオンは、[RhCl5]-、[RhCl5(H2O)]2-又は[RhCl6]3-のような錯体の形態で存在する。このようなRhイオンのクロロ錯体は、ベースメタル及び他の白金族金属のイオン及び錯体と比較して、抽出又は吸着され難い化学種である。それ故、Rhイオンは、専らベースメタル及び他の白金属金属のイオンを抽出又は吸着する工程を実施した後の残液から回収されている。しかしながら、このような方法では、Rhイオンを選択的に抽出することができないため、Rh純度の向上が困難である。また、先行する工程において他の白金族金属の回収率向上を図ると、結果として最終工程の残液から得られるRhの回収率低下を招くこととなる。
【0011】
それ故、本発明は、ベースメタル及び白金族金属のイオンを含有する溶液からRh又はPdイオンを選択的に抽出する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、イミダゾールに脂溶性置換基を導入したイミダゾール誘導体を用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 以下の式I:
【化1】

[式中、
R1及びR2は、互いに独立して、水素、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1-18アルキル、C2-18アルケニル若しくはC2-18アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C7-18アリールアルキル若しくはC8-18アリールアルケニルであり(但し、
R1及びR2は同一であることはない);
R3及びR4は、互いに独立して、水素、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1-4アルキル、C2-4アルケニル若しくはC2-4アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C7-18アリールアルキル若しくはC8-18アリールアルケニルであるか、又は
R3及びR4は、それらが結合するイミダゾール環上の炭素原子と一緒になってイミダゾール環と縮合するシクロアルキル若しくはアリール(前記イミダゾール環と縮合するシクロアルキル若しくはアリールは、非置換であるか、或いは1個若しくは複数個のハロゲンによって置換されている)を形成する]
で表される化合物を含有する、金属イオンの抽出剤。
(2) 金属イオンがロジウム及びパラジウムからなる群より選択される白金族金属のイオンである、前記(1)の抽出剤。
(3) 金属イオンを含有する水相を、式I:
【化2】

[式中、
R1及びR2は、互いに独立して、水素、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1-18アルキル、C2-18アルケニル若しくはC2-18アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C7-18アリールアルキル若しくはC8-18アリールアルケニルであり(但し、R1及びR2は同一であることはない);
R3及びR4は、互いに独立して、水素、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1-4アルキル、C2-4アルケニル若しくはC2-4アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C7-18アリールアルキル若しくはC8-18アリールアルケニルであるか、又は
R3及びR4は、それらが結合するイミダゾール環上の炭素原子と一緒になってイミダゾール環と縮合するシクロアルキル若しくはアリール(前記イミダゾール環と縮合するシクロアルキル若しくはアリールは、非置換であるか、或いは1個若しくは複数個のハロゲンによって置換されている)を形成する]
で表される化合物を含有する有機相に接触させて、金属イオンを該有機相に抽出する抽出工程を含む、金属イオンの回収方法。
(4) 金属イオンがロジウム及びパラジウムからなる群より選択される白金族金属のイオンである、前記(3)の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ベースメタル及び白金族金属のイオンを含有する溶液からRh又はPdイオンを選択的に抽出する手段を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の金属イオンの回収方法の一実施形態を示す工程図である。
【図2】実施例1〜5の化合物を含む有機相において、クロロホルムを希釈剤に用いた結果を示す図である。
【図3】実施例1〜5の化合物を含む有機相において、10体積%の2-エチルヘキシルアルコールを含むトルエン溶液を希釈剤に用いた結果を示す図である。
【図4】実施例4の化合物を含む有機相を用いた場合のRh (III)イオンの分配比と平衡塩酸濃度との関係を示す図である。
【図5】実施例4の化合物を含む有機相を用いた場合のRh (III)イオンの分配比と平衡水素イオン濃度との関係を示す図である。
【図6】実施例4の化合物を含む有機相を用いた場合のRh (III)イオンの分配比と平衡塩化物イオン濃度との関係を示す図である。A:初期水素イオン濃度が1.0 Mの場合;B:初期水素イオン濃度が3.0 Mの場合。
【図7】実施例4の化合物を含む有機相を用いた場合のRh (III)イオンの分配比と初期化合物濃度との関係を示す図である。
【図8】使用例2〜5で行った実験結果と式(8)から算出される計算値との関係を示す図である。A:Rh (III)イオンの分配比と平衡塩酸濃度との関係;B:Rh (III)イオンの分配比と平衡水素イオン濃度との関係;C:Rh (III)イオンの分配比と平衡塩化物イオン濃度との関係;D:Rh (III)イオンの分配比と初期化合物濃度との関係。
【図9】実施例4の化合物(UDIM)とRh (III)との錯体の推定構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
<1. イミダゾール誘導体>
本発明は、式I:
【化3】

で表される化合物を含有する金属の抽出剤に関する。
【0017】
本明細書において、「アルキル」は、特定の数の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の脂肪族炭化水素基を意味する。例えば、「C1-18アルキル」は、少なくとも1個且つ多くても18個の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の炭化水素鎖を意味する。好適なアルキルは、限定するものではないが、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、3-メチル-1-イソプロピルブチル、2-メチル-1-イソプロピルブチル、1-tert-ブチル-2-メチルプロピル、n-ノニル、3,5,5-トリメチルヘキシル、n-デシル、n-ウンデシル及びn-ドデシル等を挙げることが出来る。
【0018】
本明細書において、「アルケニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。好適なアルケニルは、限定するものではないが、例えばビニル、1-プロペニル、アリル、1-メチルエテニル(イソプロペニル)、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-メチル-2-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-メチル-1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、n-ヘプテニル、1-オクテニル、1-ノネニル、1-デセニル及びオレイル((Z)-オクタデカ-9-エニル)等を挙げることが出来る。
【0019】
本明細書において、「アルキニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された基を意味する。好適なアルキニルは、限定するものではないが、例えばエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-メチル-2-プロピニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニル、1-ヘプチニル、1-オクチニル、1-ノニニル及び1-デシニル等を挙げることが出来る。
【0020】
本明細書において、「アリール」は、6〜15の炭素原子数を有する芳香環基を意味する。好適なアリールは、限定するものではないが、例えばフェニル、ナフチル及びアントリル(アントラセニル)等を挙げることが出来る。
【0021】
本明細書において、「アリールアルキル」は、前記アルキルの水素原子の1個が前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールアルキルは、限定するものではないが、例えばベンジル、1-フェネチル及び2-フェネチル等を挙げることが出来る。
【0022】
本明細書において、「アリールアルケニル」は、前記アルケニルの水素原子の1個が前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールアルケニルは、限定するものではないが、例えばスチリル等を挙げることが出来る。
【0023】
上記で説明した基は、それぞれ独立して、非置換であるか、又は1個若しくは複数個のC1-18アルキル、C2-18アルケニル、C2-18アルキニル、C6-15アリール、C7-18アリールアルキル、C8-18アリールアルケニル、C(O)Z(Zは水素、ヒドロキシル、C1-18アルキル、C2-18アルケニル、C2-18アルキニル若しくはNH2である)、OH、Q-C1-18アルキル、Q-C2-18アルケニル、Q-C2-18アルキニル、Q-C6-15アリール、Q-C7-18アリールアルキル(QはO若しくはSである)、ハロゲン、NO2、若しくはNRARB(RA及びRBは、互いに独立して、水素、C1-18アルキル、C2-18アルケニル若しくはC2-18アルキニルである)によって置換することも出来る。
【0024】
なお、本明細書において、「ハロゲン」又は「ハロ」は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を意味する。
【0025】
本発明者は、式Iで表されるイミダゾール誘導体を用いることにより、ベースメタルのイオン及び白金族金属のイオンを含有する溶液からロジウム(Rh)又はパラジウム(Pd)イオンを選択的に抽出できることを見出した。それ故、本発明は、式Iで表される化合物を含有する金属の抽出剤に関する。
【0026】
式Iで表される化合物において、R1及びR2は、互いに独立して、水素、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1-18アルキル、C2-18アルケニル若しくはC2-18アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C7-18アリールアルキル若しくはC8-18アリールアルケニル(但し、R1及びR2は同一であることはない)であることが好ましい。
【0027】
式Iで表される化合物において、R3及びR4は、互いに独立して、水素、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1-4アルキル、C2-4アルケニル若しくはC2-4アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C7-18アリールアルキル若しくはC8-18アリールアルケニルであることが好ましい。
【0028】
或いは、R3及びR4は、それらが結合するイミダゾール環上の炭素原子と一緒になってイミダゾール環と縮合するシクロアルキル若しくはアリール(前記イミダゾール環と縮合するシクロアルキル若しくはアリールは、非置換であるか、或いは1個若しくは複数個のハロゲン、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1-4アルキル、C2-4アルケニル若しくはC2-4アルキニルによって置換されている)を形成することが好ましい。
【0029】
好ましくは、式Iで表される化合物は、R1及びR2が、互いに独立して、水素、非置換の直鎖状C9-18アルキル又は非置換の直鎖状C2-18アルケニルであり(但し、R1及びR2は同一であることはない);
R3及びR4が、互いに独立して、水素若しくはメチルであるか、又はそれらが結合するイミダゾール環上の炭素原子と一緒になってイミダゾール環と縮合する非置換フェニルを形成する。
【0030】
より好ましくは、式Iで表される化合物は、R1及びR2が、互いに独立して、水素、非置換の直鎖状C9-12アルキル又は非置換の直鎖状C17-18アルケニルであり(但し、R1及びR2は同一であることはない);
R3及びR4が、互いに独立して、水素若しくはメチルであるか、又はそれらが結合するイミダゾール環上の炭素原子と一緒になってイミダゾール環と縮合する非置換フェニルを形成する。
【0031】
特に好ましくは、式Iで表される化合物は、以下:
1-ドデシルイミダゾール (DIM);
4-メチル-1-ドデシルイミダゾール (MDIM);
1-オレイルイミダゾール (OLIM);
ウンデシルイミダゾール(UDIM);及び
ノニルベンゾイミダゾール (NBIM);
からなる化合物群から選択される。
【0032】
本発明の式Iで表される化合物は、塩又は溶媒和物の形態であってもよい。本明細書において、「式Iで表される化合物」は、該化合物自体だけでなく、その塩又は溶媒和物も意味する。式Iで表される化合物の塩としては、限定するものではないが、例えば塩酸、リン酸、硝酸、硫酸、炭酸、過塩素酸、ギ酸、酢酸、マレイン酸、フマル酸又は安息香酸のような無機酸又は有機酸との塩が好ましい。
【0033】
上記のような形態の式Iで表される化合物を用いることにより、ベースメタルのイオン及び白金族金属のイオンを含有する溶液からRh又はPdイオンを選択的に抽出することが可能となる。
【0034】
本発明の式Iで表される化合物は、市販品をそのまま用いてもよく、例えば、イミダゾールとハロゲン化アルキル、ハロゲン化アルケニル若しくはハロゲン化アルキニルとの求核置換反応のような、当該技術分野で公知の合成反応を用いて製造してもよい。
【0035】
例えば、式I[式中、R1〜R4は、上記と同様の意味を表す]で表される化合物は、式II:
【化4】

[式中、R3及びR4は、式Iと同様の意味を表す]
で表されるイミダゾールと、式III:
R1-X III
[式中、R1は、式Iと同様の意味を表し、Xはハロゲンである]
で表されるハロゲン化アルキル、ハロゲン化アルケニル若しくはハロゲン化アルキニルとを、塩基存在下、非プロトン性極性溶媒中で反応させる置換工程;
を含む方法によって製造することができる。
上記の反応により、式Iで表される化合物を製造することが可能となる。
【0036】
<2. 金属の抽出剤>
本明細書において、「ベースメタル」は、非鉄金属のうち、貴金属に含まれない金属を意味し、具体的には、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、亜鉛(Al)及び鉛(Pb)等の金属、並びにチタン(Ti)、ニッケル(Ni)及びタングステン(W)のようなレアメタルを挙げることができる。
【0037】
本明細書において、「白金族金属」は、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)及び金(Au)からなる貴金属のうち、Ptと類似の性質を有するRu、Rh、Pd、Os、Ir及びPtを意味する。
【0038】
本発明の金属の抽出剤は、Al、Cu、Al、Pb、Ti、Ni及びWからなる群より選択される1種以上のベースメタルのイオン、Ru、Rh、Pd、Os、Ir及びPtからなる群より選択される1種以上の白金族金属のイオンを含有する溶液から、Rh及びPdからなる群より選択される白金族金属のイオンを選択的に抽出するために使用することができる。Rhイオンを選択的に抽出するために使用することが好ましい。
【0039】
本発明の金属の抽出剤は、式Iで表される化合物のみを含有してもよく、該化合物に加えて、1種類以上の有機溶媒及び/又は1種類以上の添加剤を含有する希釈剤を更に含有してもよい。有機溶媒としては、限定するものではないが、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、四塩化炭素、n-ヘキサン及びシクロヘキサンを挙げることができる。トルエン又はクロロホルムが好ましい。添加剤としては、限定するものではないが、例えば、2-エチルヘキシルアルコール、オクタノール、デカノール及びノニルフェノールを挙げることができる。2-エチルヘキシルアルコールが好ましい。添加剤の濃度は、金属の抽出剤の総質量に対して、5〜20質量%の範囲であることが好ましい。特に好ましくは、本発明の金属の抽出剤に含有される希釈剤は、金属の抽出剤の総質量に対して、10〜20質量%の範囲で2-エチルヘキシルアルコールを含有する、クロロホルム又はトルエンである。
【0040】
上記のような成分を含有することにより、本発明の金属の抽出剤は、ベースメタルのイオン及び白金族金属のイオンを含有する溶液からRh又はPdイオンを選択的に抽出することが可能となる。
【0041】
<3. 金属イオンの回収方法>
通常、金属イオンの酸性水溶液において、金属イオンは酸の共役塩基とアニオン性の錯体イオンを形成する。このため、金属イオンは、酸濃度及びpHに依存して、金属イオン及びいくつかの形態の錯体イオンからなる平衡状態を形成し得る。
【0042】
本発明の式Iで表される化合物は、アニオンと錯体を形成し得るアミノ基を有する。本発明者は、ベースメタルのイオン及び白金族金属のイオンを含有する水溶液の酸濃度及び/又はpHを適宜調整して、該水溶液からなる水相を、本発明の式Iで表される化合物を含有する有機相に接触させることにより、Rh又はPdイオンを有機相中に選択的に抽出できることを見出した。それ故、本発明は、本発明の式Iで表される化合物を用いる金属イオンの回収方法に関する。
【0043】
図1は、本発明の金属イオンの回収方法の一実施形態を示す工程図である。以下、図1に基づき、本発明の方法の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0044】
[3-1. 抽出工程]
本発明の方法は、金属イオンを含有する水相を、式Iで表される化合物(本発明の金属の抽出剤)を含有する有機相に接触させて、金属イオンを該有機相に抽出する抽出工程(工程S1)を含む。
【0045】
本明細書において、「金属イオンを含有する水相」は、金属イオンを含有する水溶液(水相)を意味する。ここで、上記の金属イオンは、Rh及びPdイオンからなる群より選択される白金族金属のイオンであることが好ましく、Rhイオンであることがより好ましい。白金族金属イオンは、水相中において、1×10-4〜1×10-1Mの濃度であることが好ましく、1×10-4〜1×10-2 Mの濃度であることがより好ましい。
【0046】
本工程において使用される水相は、Rh及びPdイオンからなる群より選択される白金族金属のイオンに加え、上記で説明したベースメタルのイオン及び他の白金族金属のイオンからなる他の金属イオンを含有してもよい。この場合、他の金属イオンは、それぞれ独立して、1×10-4〜1×10-1 Mの濃度であることが好ましく、1×10-4〜1×10-2Mの濃度であることがより好ましい。かかる水相としては、例えば、電子機器の廃棄物、並びにオキソ反応によるアルデヒド製造廃液及び自動車の排ガス触媒などの廃触媒のような酸性廃液を挙げることができる。本工程において使用される水相が他の金属イオンを含有する場合であっても、本発明の方法により、Rh又はPdイオンを選択的に抽出することが可能となる。
【0047】
水相中の金属イオンは、通常、酸の共役塩基との塩又は錯体イオンの平衡状態で存在する。例えば、Rhイオンを含有する水相が塩酸酸性水溶液の場合、Rhイオンは、[RhCl5]-、[RhCl5(H2O)]2-又は[RhCl6]3-のような錯体の形態で存在する。ここで、上記の錯体の形態の金属イオンを含有する水相を、式Iで表される化合物を含有する有機相に接触させると、式Iで表される化合物のアミノ基がRhの錯体アニオンに配位して新たな錯体を形成し得る。当該錯体は、式Iで表される化合物が有する脂溶性置換基の寄与により有機相中で安定に存在し得るため、Rhイオンを該有機相に抽出することが可能となる。
【0048】
上記のように、水相中の金属イオンは塩又は錯体イオンの平衡状態で存在するため、水相の酸濃度及び/又はpHに依存してその平衡状態は変化し得る。それ故、水相の酸濃度及び/又はpHを適宜調整することにより、ベースメタルのイオン及び白金族金属のイオンを含有する水溶液から所望の金属イオンを選択的に抽出することができる。
【0049】
水相に含有される酸としては、限定するものではないが、例えば、塩酸、硝酸、硫酸のような鉱酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸のような有機酸を挙げることができる。塩酸又は硝酸が好ましい。かかる酸は、1種類のみであってもよく、2種類以上の酸からなる混合物であってもよい。上記の酸は、1×10-2〜10 Mの濃度であることが好ましい。
【0050】
pHを調整するために使用する酸としては、上記の酸を挙げることができる。また、pHを調整するために使用する塩基としては、限定するものではないが、例えば、NaOH、KOH、LiOH及びNH3を挙げることができる。
【0051】
より具体的には、本工程に使用される水相は、1×10-2〜10 Mの酸を含有することが好ましい。この場合、使用する酸は、塩酸又は硝酸が好ましい。或いは、pHを-1〜0.5の範囲に調整することが好ましい。この場合、塩酸でpHを調整することが好ましい。
【0052】
本工程において使用される有機相は、本発明の式Iで表される化合物又は金属の抽出剤を含有する。有機相は、液相の形態であってもよく、本発明の式Iで表される化合物を固体の形態で含有するか、或いは該化合物を担体に結合若しくは含浸させた固相の形態であってもよい。
【0053】
有機相が液相の形態の場合には、本発明の式Iで表される化合物、及び場合により上記で説明した1種類以上の有機溶媒及び/又は1種類以上の添加剤を含有する希釈剤を更に含有する溶液又は分散液を有機相として使用し得る。式Iで表される化合物が常温で液体の形態である場合、該化合物をそのまま、又は上記の希釈剤で希釈した形態で使用することが好ましい。この場合、式Iで表される化合物は、0.05〜1 Mの濃度であることが好ましい。
【0054】
有機相が固相の形態の場合には、式Iで表される化合物が常温で固体の形態であれば、そのまま水相中で使用することができる。また、式Iで表される化合物を有機溶媒に溶解し、担体に含浸して使用してもよい。含浸するための担体(樹脂)としては、限定するものではないが、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂や、活性炭、疎水性ゼオライト、シリカ及びポリ塩化ビニル樹脂等を挙げることができる。ポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸エステル又はポリ塩化ビニル樹脂が好ましい。この場合、式Iで表される化合物は、1〜5 mmol/g担体の範囲で担体に含浸していることが好ましい。
【0055】
本工程において、水相と有機相とを接触させる手段としては、当該技術分野で慣用される様々な手段を使用し得る。有機相が液相の形態の場合、バッチ法又は連続抽出法を使用することが好ましい。また、有機相が固相の形態の場合、バッチ法又はカラム法を使用することが好ましい。
【0056】
有機相が液相の形態の場合、水相と有機相との体積比は、1:10〜10:1の範囲であることが好ましく、1:5〜5:1の範囲であることがより好ましい。水相と有機相とを接触させる温度は、5〜50℃の範囲であることが好ましい。また、バッチ法の場合、水相と有機相とを接触させる時間は、0.5〜48時間の範囲であることが好ましい。
【0057】
有機相が、常温で固体の形態である式Iで表される化合物を含む場合、或いは該化合物が担体に含浸された形態である場合、水溶液中の金属イオン濃度にもよるが、一般的には1 Lの液相に対して1〜5 g程度の有機相を使用することが好ましい。水相と有機相とを接触させる温度は、5〜50℃の範囲であることが好ましい。また、バッチ法の場合、水相と有機相とを接触させる時間は、0.5〜48時間の範囲であることが好ましい。
【0058】
上記の条件で本工程を実施することにより、所望の金属を選択的に有機相に抽出することが可能となる。
【0059】
[3-2. 脱離工程]
本発明の方法は、金属イオンを含有する有機相を水相と相分離させた後、脱離水溶液に接触させて、有機相から脱離水溶液中に金属イオンを脱離(逆抽出)させる脱離工程(工程S2)を含んでもよい。
【0060】
本工程で使用される脱離水溶液としては、限定するものではないが、例えば、塩酸、硝酸及び硫酸からなる群より選択される1種以上の酸性水溶液、アンモニア、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムからなる群より選択される1種以上のアルカリ性水溶液、チオ尿素及びチオシアン酸アンモニウム、並びにこれらの混合物(例えばチオ尿素及び塩酸の混合物)を挙げることができる。塩酸、硝酸、硫酸又はアンモニア水からなる単一成分の水溶液であることが好ましい。塩酸の場合、1〜8 Mの濃度であることが好ましい。硝酸の場合、1〜8 Mの濃度であることが好ましい。アンモニア水の場合、1〜5 Mの濃度であることが好ましい。
【0061】
有機相が液相の形態の場合、有機相と脱離水溶液との体積比は、1:10〜10:1の範囲であることが好ましく、1:5〜5:1の範囲であることがより好ましい。有機相と脱離水溶液とを接触させる温度は、5〜50℃の範囲であることが好ましい。また、バッチ法の場合、有機相と脱離水溶液とを接触させる時間は、0.5〜48時間の範囲であることが好ましい。
【0062】
有機相が、常温で固体の形態である式Iで表される化合物を含む場合、或いは該化合物が担体に含浸された形態である場合、1 gに対して30〜100 mLの脱離水溶液を使用することが好ましい。有機相と脱離水溶液とを接触させる温度は、5〜50℃の範囲であることが好ましい。また、バッチ法の場合、有機相と脱離水溶液とを接触させる時間は、0.5〜48時間の範囲であることが好ましい。
【0063】
上記の条件で本工程を実施することにより、所望の金属イオンを効率的に回収することが可能となる。
【0064】
式Iで表される化合物は、本工程の終了後、強酸(塩酸又は硝酸など)及び/又は強アルカリ(水酸化ナトリウムなど)で処理して夾雑物を除去することにより、洗浄してもよい。洗浄後の化合物は、本発明の方法に再使用することができる。それ故、本発明の方法は、脱離水溶液中に金属を脱離させた後、有機相を強酸及び/又は強アルカリで処理する洗浄工程(工程S3)を含んでもよい。
【0065】
以上のように、本発明の方法を実施することにより、ベースメタル及び白金族金属のイオンを含有する溶液からRh又はPdイオンを選択的に抽出することが可能となる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0067】
実施例1:1-ドデシルイミダゾール (DIM)
【化5】

【0068】
34.04 g (0.50 mol)のイミダゾールを1000 cm3の三つ口フラスコに入れ、500 cm3の1,4-ジオキサンに溶解させた。約50.59 g (0.50 mol)のトリエチルアミンを混合物に加えた後、24.92 g (0.10 mol)の1-ブロモドデカンを、撹拌している該混合物に室温で約30分間に亘り滴下漏斗を用いて徐々に滴下した。滴下終了後、反応混合物を、マントルヒーターを用いて80℃で48時間還流させた。反応の進行状況は、薄層クロマトグラフィー(展開溶媒 エタノール:クロロホルム=1:5)を用いて確認した。
【0069】
反応終了後、減圧蒸留により1,4-ジオキサンを留去して、残留物にクロロホルムを加えて残余の水溶液を相分離した。得られたクロロホルム溶液を、1.0 mol dm-3の塩酸で3回、1.0 mol dm-3の水酸化ナトリウム水溶液で1回洗浄し、未反応のイミダゾール及び塩酸を除去した。得られたクロロホルム溶液には水酸化ナトリウムが残っているため、該クロロホルム溶液に蒸留水を加えて相分離する操作を、相分離後の水相のpHが約7になるまで繰り返し、水酸化ナトリウムを除去した。硫酸マグネシウムを用いてクロロホルム溶液を脱水した後、減圧蒸留によりクロロホルムを留去した。その後、生成物を留出させ、溶媒をヘキサンに替えて不純物を除去した。
【0070】
最終生成物を黄褐色の液体として得た。収率85%。生成物の1H-NMR及び13C-NMRスペクトルを測定して、当該スペクトル及びTLC分析の結果から、生成物が標題の化合物であることを同定した。
【0071】
本化合物(DIM)はトルエンに不溶であるが、クロロホルムに可溶であった。それ故、希釈剤としてクロロホルムを用いて以下の抽出実験を行った。
【0072】
実施例2:1-ドデシル-4-メチルイミダゾール (MDIM)
【化6】

【0073】
41.05 g (0.50 mol)の4-メチルイミダゾールを1000 cm3の三つ口フラスコに入れ、500 cm3の1,4-ジオキサンに溶解させた。約50.59 g (0.50 mol)のトリエチルアミンを混合物に加えた後、24.92 g (0.10 mol)の1-ブロモドデカンを、撹拌している該混合物に室温で約30分間に亘り滴下漏斗を用いて徐々に滴下した。滴下終了後、反応混合物を、マントルヒーターを用いて80℃で48時間還流させた。反応の進行状況は、薄層クロマトグラフィー(展開溶媒 エタノール:クロロホルム=1:5)を用いて確認した。
【0074】
反応終了後、減圧蒸留により1,4-ジオキサンを留去して、残留物にクロロホルムを加えて残余の水溶液を相分離した。得られたクロロホルム溶液を、1.0 mol dm-3の塩酸で3回、1.0 mol dm-3の水酸化ナトリウム水溶液で1回洗浄し、未反応の4-メチルイミダゾール及び塩酸を除去した。得られたクロロホルム溶液には水酸化ナトリウムが残っているため、該クロロホルム溶液に蒸留水を加えて相分離する操作を、相分離後の水相のpHが約7になるまで繰り返し、水酸化ナトリウムを除去した。硫酸マグネシウムを用いてクロロホルム溶液を脱水した後、減圧蒸留によりクロロホルムを留去した。その後、生成物を留出させ、溶媒をヘキサンに替えて不純物を除去した。
【0075】
最終生成物を黄褐色の液体として得た。収率80%。生成物の1H-NMR及び13C-NMRスペクトルを測定して、当該スペクトル及びTLC分析の結果から、生成物が標題の化合物であることを同定した。
【0076】
本化合物(MDIM)はトルエンに不溶であるが、クロロホルムに可溶であった。それ故、希釈剤としてクロロホルムを用いて以下の抽出実験を行った。
【0077】
実施例3:1-オレイルイミダゾール (OLIM)
【化7】

【0078】
34.04 g (0.50 mol)のイミダゾールを1000 cm3の三つ口フラスコに入れ、500 cm3の1,4-ジオキサンに溶解させた。約50.59 g (0.50 mol)のトリエチルアミンを混合物に加えた後、28.69 g (0.10 mol)のオレイルクロリドを、撹拌している該混合物に室温で約30分間に亘り滴下漏斗を用いて徐々に滴下した。滴下終了後、反応混合物を、マントルヒーターを用いて80℃で48時間還流させた。反応の進行状況は、薄層クロマトグラフィー(展開溶媒 エタノール:クロロホルム=1:5)を用いて確認した。
【0079】
反応終了後、減圧蒸留により1,4-ジオキサンを留去して、残留物にクロロホルムを加えて残余の水溶液を相分離した。得られたクロロホルム溶液を、1.0 mol dm-3の塩酸で3回、1.0 mol dm-3の水酸化ナトリウム水溶液で1回洗浄し、未反応のイミダゾール及び塩酸を除去した。得られたクロロホルム溶液には水酸化ナトリウムが残っているため、該クロロホルム溶液に蒸留水を加えて相分離する操作を、相分離後の水相のpHが約7になるまで繰り返し、水酸化ナトリウムを除去した。硫酸マグネシウムを用いてクロロホルム溶液を脱水した後、減圧蒸留によりクロロホルムを留去した。その後、生成物を留出させ、溶媒をヘキサンに替えて不純物を除去した。
【0080】
最終生成物を黄褐色の液体として得た。収率85%。生成物の1H-NMR及び13C-NMRスペクトルを測定して、当該スペクトル及びTLC分析の結果から、生成物が標題の化合物であることを同定した。
【0081】
本化合物(OLIM)はトルエンに不溶であるが、クロロホルムに可溶であった。それ故、希釈剤としてクロロホルムを用いて以下の抽出実験を行った。
【0082】
実施例4:2-ウンデシルイミダゾール (UDIM)
【化8】

上記の化合物は、市販品(東京化成株式会社)をそのまま用いた。
【0083】
実施例5:2-ノニルベンゾイミダゾール (NBIM)
【化9】

上記の化合物は、市販品(東京化成株式会社)をそのまま用いた。
【0084】
使用例1:抽出率と塩酸濃度との関係
50 cm3三角フラスコに、水相(1 mmol dm-3塩化ロジウムを含む0.56, 1.0, 1.8, 3.2, 5.6又は8.0 M塩酸水溶液)を15 cm3、有機相(0.5 mol dm-3実施例化合物を含むクロロホルム溶液又は10体積%の2-エチルヘキシルアルコールを含むトルエン溶液)を15 cm3ずつ入れ、恒温槽を用いて30℃で24時間振とうさせた。次に、水相を採取し、原子吸光光度計を用いてRhイオン濃度を測定した。クロロホルムを希釈剤に用いた結果を図2に、10体積%の2-エチルヘキシルアルコールを含むトルエン溶液を希釈剤に用いた結果を図3に、それぞれ示す。
【0085】
図2及び3に示すように、いずれの化合物を用いた場合でも、塩酸濃度が上昇するにしたがって抽出率は低下した。減少した塩化物イオン濃度におけるRh (III)イオンの存在分率を比較すると、実施例1〜5の化合物により、[RhCl5(H2O)]-が選択的に抽出されたと推測される。
【0086】
同一化合物に関し、使用される希釈剤による抽出率の差を比較すると、10体積%の2-エチルヘキシルアルコールを含むトルエン溶液を希釈剤に用いた場合の方が、クロロホルムを希釈剤に用いた場合と比較して塩酸濃度の上昇に対する抽出率の低下がより顕著であった(図2及び3)。この結果は、希釈剤に対する実施例1〜5の化合物の溶解度の差と関連があると推測される。
【0087】
1-置換イミダゾール型の化合物(実施例1〜3)を含む有機相(クロロホルム溶液)を用いた場合、1.0〜3.2 Mの範囲の塩酸濃度で約80%の抽出率を示した(図2)。なお、0.1 mol dm-3実施例化合物を含む有機相を用いた場合、抽出率は約20%であった。
【0088】
実施例1の化合物(DIM)を含む有機相(10体積%の2-エチルヘキシルアルコールを含むトルエン溶液)を用いた場合、3.2 Mの塩酸濃度で最も効率的にRh (III)イオンが抽出され、それを超える塩酸濃度で抽出率が徐々に低下した(図3)。これに対し、イミダゾール環の4-位にメチル基を有する実施例2の化合物(MDIM)を含む有機相(10体積%の2-エチルヘキシルアルコールを含むトルエン溶液)を用いた場合、1.8 Mの塩酸濃度で最も効率的にRh (III)イオンが抽出されたが、それを超える塩酸濃度では抽出率が急激に低下した。また、実施例3の化合物(OLIM)を含む有機相(10体積%の2-エチルヘキシルアルコールを含むトルエン溶液)を用いた場合、3.0 Mの塩酸濃度では最も効率的にRh (III)イオンが抽出されたが、8.0 Mの塩酸濃度ではほとんど抽出されなかった。
【0089】
以上の結果より、1-置換イミダゾール型の化合物(実施例1〜3)のうち、実施例3の化合物(OLIM)が、Rh (III)イオンの回収方法にもっとも好ましい化合物であると推測される。
【0090】
二級アミノ基を有する2-置換イミダゾール型又はベンゾイミダゾール型の化合物(実施例4又は5)を含む有機相を用いた場合、1.0 Mの塩酸濃度で最も高い抽出率を示し、それを超える塩酸濃度で抽出率は緩やかに低下した(図2及び3)。実施例4の化合物(UDIM)を含む有機相を用いた場合と比較して、実施例5の化合物(NBIM)を含む有機相を用いた場合に全体として低い抽出率を示したのは、実施例5の化合物(NBIM)のベンゼン環の立体障害によって錯体形成が阻害されることに起因すると推測される。
【0091】
使用例2:分配比と平衡塩酸濃度との関係
50 cm3三角フラスコに、水相(1 mmol dm-3塩化ロジウムを含む1.0, 1.8, 3.2, 5.6又は8.0 M塩酸水溶液)を15 cm3、有機相(0.5 mol dm-3実施例4の化合物を含むクロロホルム溶液)を15 cm3ずつ入れ、恒温槽を用いて30℃で24時間振とうさせた。次に、水相を採取し、原子吸光光度計を用いてRhイオン濃度を測定した。抽出平衡に到達した時点の水相を採取し、中和滴定によって塩酸濃度を定量した。
【0092】
実施例4の化合物を含む有機相を用いた場合のRh (III)イオンの分配比と平衡塩酸濃度との関係を図4に示す。
【0093】
図4に示すように、Rh (III)イオンの分配比と平衡塩酸濃度とは傾き=-1の相関関係を示すことが明らかとなった。
【0094】
使用例3:分配比と平衡水素イオン濃度との関係
塩酸及び塩化リチウム混合水溶液により、塩化物イオン濃度を一定にしつつ水素イオン濃度を所定の範囲で変化させた。50 cm3三角フラスコに、水相(1 mmol dm-3塩化ロジウムを含む塩酸及び塩化リチウム混合水溶液(水素イオン濃度:1.0, 1.8, 3.2又は6.0 M;塩化物イオン濃度:6.0 M))を15 cm3、有機相(0.5 mol dm-3実施例4の化合物を含むクロロホルム溶液)を15 cm3ずつ入れ、恒温槽を用いて30℃で24時間振とうさせた。次に、水相を採取し、原子吸光光度計を用いてRhイオン濃度を測定した。抽出平衡に到達した時点の水相を採取し、中和滴定によって水素イオン濃度を定量した。
【0095】
実施例4の化合物を含む有機相を用いた場合のRh (III)イオンの分配比と平衡水素イオン濃度との関係を図5に示す。
【0096】
図5に示すように、Rh (III)イオンの分配比と平衡水素イオン濃度とは、約1.0 Mの平衡水素イオン濃度において分配比の極大値を有する相関関係を示すことが明らかとなった。
【0097】
使用例4:分配比と平衡塩化物イオン濃度との関係
塩酸及び塩化リチウム混合水溶液により、水素イオン濃度を一定にしつつ塩化物イオン濃度を所定の範囲で変化させた。50 cm3三角フラスコに、水相(1 mmol dm-3塩化ロジウムを含む塩酸及び塩化リチウム混合水溶液(水素イオン濃度:1.0又は3.0 M;塩化物イオン濃度:0.3, 1.0, 1.8又は3.0 M))を15 cm3、有機相(0.1 mol dm-3実施例4の化合物を含むクロロホルム溶液)を15 cm3ずつ入れ、恒温槽を用いて30℃で24時間振とうさせた。次に、水相を採取し、原子吸光光度計を用いてRhイオン濃度を測定した。抽出平衡に到達した時点の水相を採取し、中和滴定によって塩酸濃度を定量した。
【0098】
実施例4の化合物を含む有機相を用いた場合のRh (III)イオンの分配比と平衡塩化物イオン濃度との関係のうち、初期水素イオン濃度が1.0 Mの場合を図6Aに、初期水素イオン濃度が3.0 Mの場合を図6Bに、それぞれ示す。
【0099】
図6Aに示すように、初期水素イオン濃度が1.0 Mの場合、Rh (III)イオンの分配比と平衡塩化物イオン濃度とは、傾き=-0.5の相関関係を示すことが明らかとなった。また、図6Bに示すように、初期水素イオン濃度が3.0 Mの場合、Rh (III)イオンの分配比と平衡塩化物イオン濃度とは、傾き=-2の相関関係を示すことが明らかとなった。
【0100】
使用例5:分配比と初期抽出剤化合物濃度との関係
50 cm3三角フラスコに、水相(1 mmol dm-3塩化ロジウムを含む1.0又は3.0 M塩酸水溶液)を15 cm3、有機相(0.1, 0.18, 0.32又は0.56 mol dm-3実施例4の化合物を含むクロロホルム溶液)を15 cm3ずつ入れ、恒温槽を用いて30℃で24時間振とうさせた。次に、水相を採取し、原子吸光光度計を用いてRhイオン濃度を測定した。
【0101】
実施例4の化合物を含む有機相を用いた場合のRh (III)イオンの分配比と初期化合物濃度との関係を図7に示す。
【0102】
図7に示すように、初期水素イオン濃度が1.0及び3.0 Mのいずれの場合とも、Rh (III)イオンの分配比と初期化合物濃度とは、傾き=2の相関関係を示すことが明らかとなった。この結果から、実施例4の化合物は、1分子のRh (III)イオンに対し2分子が配位していると推測される。
【0103】
使用例6:Rh (III)イオンの抽出平衡
上記の結果に基づきRh (III)イオンの抽出平衡を以下のように仮定した。なお、種々の塩酸濃度におけるRh (III)−塩化物錯体の錯体平衡を鑑みれば、本実施例の塩酸濃度範囲においてはRhCl5-が主として存在するため、本実施例の化合物を含む有機相を用いた場合にはRhCl5-が選択的に抽出されると仮定した。
【0104】
【化10】

【0105】
式(1)及び(2)の平衡式の平衡定数は、それぞれ以下のように表すことができる。
【0106】
【化11】

【0107】
化学量論的には、
【化12】

であり、本実施例の反応系では、実施例4の化合物はRh (III)と比較して大過剰に存在しているので、近似的には、
【化13】

である。
【0108】
上記の式に式(3)を代入すると、以下の式を得ることができる。
【0109】
【化14】

【0110】
式(4)に上記の式(5)を代入して整理すると、分配比Dは以下のように表すことができる。
【0111】
【化15】

【0112】
ここで、α5は、式(7)で表すことができる。
【0113】
【化16】

【0114】
以上より、分配比Dは、以下の式(8)で表すことができる。
【0115】
【化17】

【0116】
式(8)において、塩化物イオン濃度依存性より、
K1 = 1.09×10-1 (mol/dm3)-2
K2 = 1.61×103 (mol/dm3)2
を得た。また、Rh (III)の全安定度定数は、以下の値である。
β1 = 2.81×102 (mol/dm3)-1
β2 = 3.47×104 (mol/dm3)-2
β3 = 8.32×105 (mol/dm3)-3
β4 = 1.20×107 (mol/dm3)-4
β5 = 5.62×108 (mol/dm3)-5
β6 = 2.69×108 (mol/dm3)-6
【0117】
使用例2〜5で行った実験結果と式(8)から算出される計算値との関係を図8A〜Dに示す。
【0118】
図8A〜Dに示すように、使用例2〜5で行った実施例4の化合物(UDIM)を含む有機相を用いた場合のRh (III)イオンの抽出結果と式(8)から算出される計算値とはよく一致した。それ故、実施例4の化合物(UDIM)によるRh (III)イオンの抽出反応は、上記で仮定した式(1)及び(2)の平衡式で表されることが明らかとなった。この場合、実施例4の化合物(UDIM)とRh (III)との錯体の推定構造を図9に示す。
【0119】
使用例7:貴金属イオンの逆抽出実験(1)
50 cm3三角フラスコに、水相(1 mmol dm-3塩化ロジウム、テトラクロロ金(III)酸四水和物及びヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物を含む3.0 M塩酸水溶液)を10 cm3、有機相(0.5 mol dm-3実施例1、4又は5の化合物を含むクロロホルム溶液)を10 cm3ずつ入れ、恒温槽を用いて30℃で24時間振とうさせた。水相を採取し、原子吸光光度計を用いて各貴金属イオン濃度を測定した。
【0120】
50 cm3三角フラスコに、上記の有機相を入れ、これに所定の濃度の逆抽出剤を含有する水相(脱離水溶液)を加えて、恒温槽を用いて30℃で24時間振とうさせた。水相を採取し、原子吸光光度計を用いて逆抽出された各貴金属イオン濃度を測定した。
【0121】
各実施例化合物を含む有機相を用いた場合において、種々の逆抽出剤によるRh (III)イオン、Au (III)イオン及びPt (IV)イオンの逆抽出率を表1に示す。なお、逆抽出率(%)は、抽出工程で有機相に抽出された各貴金属イオンの総量に対する逆抽出された各貴金属イオンの割合を意味する。
【0122】
【表1】

【0123】
実施例1(DIM)の化合物を含む有機相を用いた場合、36質量%塩酸による逆抽出率は高くなかったが、実施例4(UDIM)又は5(NBIM)の化合物を含む有機相を用いた場合には、70%を超える逆抽出率を示した。以上の結果より、実施例4(UDIM)及び5(NBIM)の化合物は、自動車の三元触媒の廃触媒のようにPt (IV)、Pd (II)及びRh (III)イオンを含有する酸性処理液からRh (III)イオンを選択的に回収するために使用し得ることが示唆された。
【0124】
使用例8:貴金属イオンの逆抽出実験(2)
50 cm3三角フラスコに、水相(1 mmol dm-3塩化ロジウムを含む3.0 M塩酸水溶液)を10 cm3、有機相(0.5 mol dm-3実施例3の化合物を含む10体積%の2-エチルヘキシルアルコールを含むトルエン溶液)を10 cm3ずつ入れ、恒温槽を用いて30℃で24時間振とうさせた。水相を採取し、原子吸光光度計を用いてRh (III)イオン濃度を測定した。
【0125】
50 cm3三角フラスコに、上記の有機相を入れ、これに所定の濃度の逆抽出剤を含有する水相(脱離水溶液)を加えて、恒温槽を用いて30℃で24時間振とうさせた。水相を採取し、原子吸光光度計を用いて逆抽出されたRh (III)イオン濃度を測定した。
種々の逆抽出剤によるRh (III)イオンの逆抽出率を表2に示す。
【0126】
【表2】

【0127】
実施例3(OLIM)の化合物を含む有機相を用いた場合、36質量%塩酸及び8 mol dm-3塩酸水溶液のいずれとも高い逆抽出率を示した。
【0128】
使用例9:貴金属イオンの逆抽出実験(3)
50 cm3三角フラスコに、水相(1 mmol dm-3塩化ロジウム、塩化パラジウム、テトラクロロ金(III)酸四水和物及びヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物を含む3.0 M塩酸水溶液)を10 cm3、有機相(0.5 mol dm-3実施例3の化合物を含む10体積%の2-エチルヘキシルアルコールを含むトルエン溶液)を10 cm3ずつ入れ、恒温槽を用いて30℃で24時間振とうさせた。水相を採取し、原子吸光光度計を用いて各貴金属イオン濃度を測定した。
【0129】
50 cm3三角フラスコに、上記の有機相を入れ、これに所定の濃度の逆抽出剤を含有する水相(脱離水溶液)を加えて、恒温槽を用いて30℃で24時間振とうさせた。水相を採取し、原子吸光光度計を用いて逆抽出された各貴金属イオン濃度を測定した。
種々の逆抽出剤による各貴金属イオンの逆抽出率を表3に示す。
【0130】
【表3】

【0131】
36質量%塩酸を用いた場合、Rh (III)だけでなくPd (II)も高い逆抽出率を示した。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の抽出剤は、ベースメタル及び白金族金属のイオンを含有する溶液からRhイオンを選択的に抽出することができる。これにより、自動車用の三元触媒のようにPt、Pd及びRhイオンを含有する材料からRhイオンを選択的に回収することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式I:
【化1】

[式中、
R1及びR2は、互いに独立して、水素、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1-18アルキル、C2-18アルケニル若しくはC2-18アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C7-18アリールアルキル若しくはC8-18アリールアルケニルであり(但し、R1及びR2は同一であることはない);
R3及びR4は、互いに独立して、水素、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1-4アルキル、C2-4アルケニル若しくはC2-4アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C7-18アリールアルキル若しくはC8-18アリールアルケニルであるか、又は
R3及びR4は、それらが結合するイミダゾール環上の炭素原子と一緒になってイミダゾール環と縮合するシクロアルキル若しくはアリール(前記イミダゾール環と縮合するシクロアルキル若しくはアリールは、非置換であるか、或いは1個若しくは複数個のハロゲンによって置換されている)を形成する]
で表される化合物を含有する、金属イオンの抽出剤。
【請求項2】
金属イオンがロジウム及びパラジウムからなる群より選択される白金族金属のイオンである、請求項1の抽出剤。
【請求項3】
金属イオンを含有する水相を、式I:
【化2】

[式中、
R1及びR2は、互いに独立して、水素、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1-18アルキル、C2-18アルケニル若しくはC2-18アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C7-18アリールアルキル若しくはC8-18アリールアルケニルであり(但し、R1及びR2は同一であることはない);
R3及びR4は、互いに独立して、水素、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C1-4アルキル、C2-4アルケニル若しくはC2-4アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C7-18アリールアルキル若しくはC8-18アリールアルケニルであるか、又は
R3及びR4は、それらが結合するイミダゾール環上の炭素原子と一緒になってイミダゾール環と縮合するシクロアルキル若しくはアリール(前記イミダゾール環と縮合するシクロアルキル若しくはアリールは、非置換であるか、或いは1個若しくは複数個のハロゲンによって置換されている)を形成する]
で表される化合物を含有する有機相に接触させて、金属イオンを該有機相に抽出する抽出工程を含む、金属イオンの回収方法。
【請求項4】
金属イオンがロジウム及びパラジウムからなる群より選択される白金族金属のイオンである、請求項3の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−32563(P2013−32563A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168676(P2011−168676)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】