説明

金属の鍛造方法及び金属の鍛造装置

【課題】加工用工具や鍛造用金型を超音波で加振することにより金属材料の変形抵抗を低下させ、少ない加圧力で成型する金属の鍛造方法及び鍛造装置を提供することを課題とする。
【解決手段】被加工物を挟んで塑性加工するための移動工具及び固定工具を有し、移動工具側に取り付けられた超音波振動を発振する超音波振動子と、これらを保持する本体フレームを備え、フレーム自体を押し出す機構を備えた鍛造装置および金属を鍛造する方法において、金型に鍛造方向と同一方向の振動を付与すること特徴とする鍛造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の加振鍛造方法及び鍛造装置に関し、特に鍛造機金型を超音波で加振することにより金属材料の変形抵抗を低下させ、少ない加圧力で成型する鍛造方法及び鍛造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工具に振動を加えながら加工を行う従来技術として、例えば、非特許文献1では、超音波振動の線引加工への応用例が報告されている。本例では、線引用のダイスを超音波で振動させることにより、加工抵抗の低減効果や工具と材料間の摩擦抵抗の減少効果が認められ、難加工材への適用が提案されているが、この試験は線引き加工による試験であり、超音波の効果は極表層に留まり、素材全体に大加工が要求される鍛造に適用することは困難であった。
【0003】
また、特許文献1に記載の幅圧縮加工機では、プレス工具に振動を与え、材料の幅方向の共振振動数付近の振動数で加振することにより、材料中央部での変形を大きくし、幅圧下効率を高める技術が提案されているが、圧縮工具に与える振動周波数が材料の幅に依存するため、鍛造のような大変形加工では、圧下中に超音波の周波数を変える必要があり、鍛造への適用は困難である。
【0004】
また、特許文献2では、板圧延機のロール表面にのみ微小振動を与える技術が報告されているが、表面のみを振動させるために超音波の減衰が大きく、十分な効果を上げることが困難であった。また、超音波出力を上げ、効果を得ようとすると、振動によりロール表面が発熱し、圧延によるロール摩耗が大きくなるという欠点があった。この方法を鍛造に適用したとしても、摩耗が問題となることが予測される。また、超音波の効果は極表層に留まり、素材全体に大加工が要求される鍛造に適用することは困難であった。
【0005】
一方、超音波を用いた加工方法としては、特許文献3等に、超音波カッターの技術が開示されているが、この技術は、超音波振動により被切断材を削り取ること、即ち、切削することにより成り立っており、鍛造に適用することはできない。また、切削では超音波による極表層の変形抵抗低減が有効であるが、素材全体に大加工が要求される鍛造に適用することは困難であった。
【0006】
また、特許文献4には、部品の表面を超音波振動子で打撃することにより、表面に圧縮残留応力を付与することを目的とした技術が紹介されているが、この技術は、超音波による局所的な塑性変形を用いるものであり、鍛造のような全体の変形に活用することは困難であった。
【0007】
【特許文献1】特開昭61−262401号公報
【特許文献2】特開平9−174115号公報
【特許文献3】特開2001−334494号公報
【特許文献4】特開2006−104551号公報
【非特許文献1】第20回塑性加工連合講演会(講演論文集413頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、加工用工具や鍛造用金型を超音波で加振することにより金属材料の変形抵抗を低下させ、少ない加圧力で成型することが可能な、金属の鍛造方法及び鍛造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨とするところは、特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1) 金属を鍛造金型で鍛造する方法であって、超音波振動子からの振動を固定側金型又は可動側金型のいずれかに伝達して、前記超音波振動が伝達された金型を前記金属の加工方向と同一方向に振動させて鍛造することを特徴とする、金属の鍛造方法。
(2) 前記超音波振動は、前記固定側金型に伝達されており、前記超音波振動子からの振動を、前記金属に可動側金型が接している間付与することを特徴とする、(1)記載の金属の鍛造方法。
(3) 前記超音波振動子の振動数を10〜60(kHz)とし、被加工物体積をV(mm)としたとき、超音波の出力を5×V(W)以上、100000(W)以下とし、導波コーンを介して振動させることを特徴とする、(1)または(2)に記載の金属の鍛造方法。
(4) 金属を鍛造する鍛造金型を有する鍛造装置であって、可動側金型または固定側金型のいずれか一方に対して導波コーンを介して超音波振動を印加する超音波振動子を少なくとも有し、前記超音波振動子は、前記金属の加工方向と同一の方向に前記超音波振動を印加可能な位置に設けられていることを特徴とする、金属の鍛造装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、少ない加圧力で金属材料を塑性加工することが可能であるため、加工装置をコンパクトにすることが可能である。また、変形抵抗の低下により材料を精度良く仕上げることが可能である。鍛造機への適用以外にも、リベット締結機や刻印打刻機等、塑性加工を利用する加工方法への適用が可能であり、産業上有用な著しい効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
本発明は、加工用工具を加工方向と同一方向の超音波振動により、変形抵抗を減少させて、小さな加圧力で大変形を起こさせる技術である。
【0013】
以下、基本原理について説明する。
【0014】
通常、金属材料を塑性変形させて加工するには、極めて大きな力を要する。例えば、鋼材を熱間で鍛造する場合、鍛造部品の大きさにもよるが、普通、数百トンから数千トンの加圧力が必要である。また、この力に耐えるため、プレス機自体も頑丈に造られ、その重さも数十トン以上にもなる。
【0015】
この単位面積当たり加圧力である変形抵抗は、温度の上昇と共に低下し、例えば、JIS鋼SCr420では、図1に示すように、800℃の加熱で室温の1/2、1000℃の加熱で室温の1/3、1200℃の加熱で室温の1/6程度に減少する。そのため、同じ形状の部品を、温度を変えて鍛造した場合は、高温での鍛造の方がより少ない加圧力で成形できるため、装置の小型化に有利である。しかしながら、高温に加熱する際に、スケールの生成による歩留まりの悪化や鍛造仕上げ肌の荒れ、更に鍛造後の熱歪みによる鍛造精度の劣化が生じるという不利がある。このため、熱間鍛造は、主に熱間鍛造でしか鍛造できない大形の部品の鍛造に用いられている。
【0016】
一方、ある一定の出力以上の超音波を金型に付与し鍛造を行うと、超音波振動により被加工部材(金属)表層のみならず内部の転位の運動が促進され、全体の変形抵抗の低減が生じる。また、金型と被加工部材間の動摩擦係数の低減も期待できる。更に、超音波振動の振動エネルギーの多くは熱エネルギーになるため、被鍛造品(金属)の発熱を促し、温度上昇により変形抵抗は、より一層低減する。本発明に係る超音波振動による被鍛造品の発熱は、超音波振動する金型が被鍛造品に接した時点より始まり、金型が離れた時に終わるため、加熱時間は極めて短時間で、更に超音波振動による発熱は被鍛造品内部で生じるため、スケールは発生しない。
【0017】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0018】
まず、超音波振動の方向であるが、超音波の振動エネルギーを被鍛造材(金属)に効率よく伝えるために、圧下方向と同一方向の振動であることが望ましい。圧下方向と垂直方向の振動では、内部に被鍛造材内部に超音波振動が伝わり難い。
【0019】
次に、超音波の伝達方法であるが、超音波振動子を直接工具につけると、エネルギーのロスが大きいため、超音波振動子と工具の間に、超音波の振幅を効率よく増幅するための導波コーンを設けることが望ましい。
【0020】
次に、金型に加える振動数であるが、被鍛造材にエネルギーを伝達するため10〜60kHzの超音波が好ましい。また、超音波の出力は、大きければ大きいほど、転位が運動し易くなり、また、発熱も大きくなるため、変形抵抗は低下する。このため、出力は大きい方が望ましいが、装置の大型化を招くため、限界がある。
【0021】
超音波の振動は、常時与えている必要は無く、鍛造時に金型が被鍛造材に接している間だけ付与すれば良い。また、鍛造下死点で金型を保持し、超音波振動を与えれば、鍛造精度が向上するため有効である。更に、下死点で保持したまま、超音波振動を停止すれば、超音波により発熱した被鍛造品は、金型により抜熱されて、拘束冷却されることにより熱歪も低減し、更に鍛造精度が向上する。
【0022】
金型への超音波振動は、上金型・下金型のどちらか一方に付与すれば良い。可動側金型である上金型に付与する場合は、超音波発信器及び金型を保持するフレームを用意し、そのフレームごと移動して、被鍛造材を圧下する機構が必要である。固定側金型である下金型に付与する場合は、上記フレームは必要ないが、超音波振動により被鍛造材の位置がずれる恐れがあるため、超音波振動は上金型が被鍛造材に接した後に付与することが望ましい。
【0023】
なお、本発明では、被鍛造材の変形抵抗が低減するため、金型の強度を弱めること即ち金型の小型化が可能である。また、金型を小型化することにより、超音波の伝達効率も上がるため、装置全体が小型化できる。
【0024】
図2及び図3に、本発明の一実施形態に係る鍛造装置の概略図を示す。
【0025】
図2は、上金型に超音波振動を付与する場合の鍛造装置の一例である。上金型に超音波振動を付与する場合の鍛造装置は、例えば図2に示したように、圧下装置1と、本体フレーム2と、可動側金型の一例である上金型3と、固定側金型の一例である下金型4と、導波コーン5と、超音波振動子の一例である超音波発生器6と、サブフレーム7と、を主に備える。
【0026】
図2に示したように、上金型3の上方には導波コーン5が設けられ、導波コーン5の上方に超音波発生器6が設置されている。超音波発生器6で発生した振動は、導波コーン5を通して増幅され、上金型3に伝えられる。なお、超音波発生器6で発生する振動は、上金型3の移動方向(すなわち、金属の加工方向)と同一方向である、上下方向の振動である。超音波発生器6、導波コーン5及び上金型3は、サブフレーム7に固定され、サブフレーム7は油圧等の圧下装置1によって下方に押し出され、下金型4との間で鍛造が行われる。
【0027】
図3は、下金型に超音波振動を付与する場合の鍛造装置の一例である。下金型に超音波振動を付与する場合の鍛造装置は、例えば図3に示したように、圧下装置1と、本体フレーム2と、可動側金型の一例である上金型3と、固定側金型の一例である下金型4と、導波コーン5と、超音波振動子の一例である超音波発生器6と、を主に備える。
【0028】
図3に示したように、下金型4の下方には導波コーン5が設けられ、導波コーン5の下方に超音波発生器6が設置されている。超音波発生器6で発生した振動は、導波コーン5を通して増幅され、下金型4に伝えられる。なお、超音波発生器6で発生する振動は、上金型3の移動方向(すなわち、金属の加工方向)と同一方向である、上下方向の振動である。上金型3は、圧下装置1によって下方に押し出され、下金型4との間で鍛造が行われる。
【0029】
以下に、本実施形態で用いられる超音波振動子について述べる。
【0030】
超音波振動子の振動数は、例えば、10〜60kHzであることが好ましい。10kHz未満では、変形抵抗の減少効果が少なくなるおそれがあるからである。また、60kHz超の周波数でも、変形抵抗の減少効果が少なくなるおそれがある。
【0031】
被加工物体積をV(mm)とした時、超音波振動子で発生する超音波の出力を5×V(W)以上、100000(W)以下とすることが好ましい。5×V(W)未満では、被加工物の超音波振動子に接触している部位(すなわち、被加工物において、超音波振動が伝達されている金型が接触している部位)のみが変形し、均一変形にならない可能性があり、結果として、変形抵抗の軽減効果が少ないおそれがあるからである。超音波出力の下限値は、8×V(W)以上が望ましい。また、上限を100000Wとしたのは、100000W超の超音波出力を得ることが困難であるからである。
【実施例】
【0032】
図2に示した装置のミニチュアにより、超音波付与により変形抵抗がどれくらい下がるかのテストを実施した。超音波発生器は、出力は700W、振動数は27kHzの磁励式のものを用いた。試験片は、超音波発生器の出力が小さいため、φ4.0mm×6.0mmの円筒形試験片で、試験片材質は純度99.5mass%のアルミと純度99.0mass%の鉛で試験を行った。この円筒形試験片の体積Vは、約75.4mmである。試験は、平板圧縮試験の定加重とし、超音波で振動する上金型はφ30mm×10mmのSKD61を導波コーン先端に固定し、下金型は50mm×100mm×100mmのS45Cのブロックを用いた。試験は、超音波の有無による、圧縮率の変化を調べた。
【0033】
図4に、アルミを用いて試験を行った結果を示した。また、図4では、出力が400W、500Wおよび600Wの場合における試験結果についても、あわせて示した。300Nの荷重では、超音波なしの対数歪み0.015に対し、700Wにおける結果では0.199の歪みが発生し、同荷重で10倍以上の歪みが生じている。なお、横軸は、対数歪みln(元厚/仕上げ厚)で表している。
【0034】
同様に、図5に、鉛を用いて試験を行った結果を示した。100Nの荷重では、超音波なしの対数歪み0.013に対し、超音波あり(700W)では3.20の歪みが発生し、同荷重で約250倍の変形が生じている。
【0035】
以上のように、本発明によれば、少ない加重で大きな変形が得られ、即ち、変形抵抗が大幅に軽減されることが判った。アルミ・鉛以外であっても、例えば、鋼の場合も、超音波の出力さえ増やせば、同様に変形抵抗の軽減がなされる。以上のことから、本発明は有効であることが判明した。
【0036】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】変形抵抗の温度依存性を例示するグラフ図である。
【図2】本発明の一実施形態において、上金型に超音波を付与する場合の鍛造装置を模式的に例示する概略図である。
【図3】同実施形態において、下金型に超音波を付与する場合の鍛造装置を模式的に例示する概略図である。
【図4】本発明において、アルミを用いた場合の歪み−加重の関係に及ぼす超音波の影響を例示するグラフ図である。
【図5】本発明において、鉛を用いた場合の歪み−加重の関係に及ぼす超音波の影響を例示するグラフ図である。
【符号の説明】
【0038】
1 圧下装置
2 本体フレーム
3 可動側金型
4 固定側金型
5 導波コーン
6 超音波振動子
7 サブフレーム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を鍛造金型で鍛造する方法であって、
超音波振動子からの振動を固定側金型又は可動側金型のいずれかに伝達して、前記超音波振動が伝達された金型を前記金属の加工方向と同一方向に振動させて鍛造することを特徴とする、金属の鍛造方法。
【請求項2】
前記超音波振動は、前記固定側金型に伝達されており、
前記超音波振動子からの振動を、前記金属に可動側金型が接している間付与することを特徴とする、請求項1記載の金属の鍛造方法。
【請求項3】
前記超音波振動子の振動数を10〜60(kHz)とし、被加工物体積をV(mm)としたとき、超音波の出力を5×V(W)以上、100000(W)以下とし、導波コーンを介して振動させることを特徴とする、請求項1または2に記載の金属の鍛造方法。
【請求項4】
金属を鍛造する鍛造金型を有する鍛造装置であって、
可動側金型または固定側金型のいずれか一方に対して導波コーンを介して超音波振動を印加する超音波振動子を少なくとも有し、
前記超音波振動子は、前記金属の加工方向と同一の方向に前記超音波振動を印加可能な位置に設けられていることを特徴とする、金属の鍛造装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−279596(P2009−279596A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131907(P2008−131907)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】