説明

金属アルコキシドによる、ナノスケールの凹凸を有する基材の表面処理方法

【課題】 ナノスケールの凹凸を有する基材表面を金属アルコキシド溶液により処理して該基材上に薄膜を形成するか又は該基材表面の機能化を行う方法において、ナノスケールの凹凸内部まで金属アルコキシドで充填する、あるいはナノスケールの凹凸内部表面を金属アルコキシドで効果的に機能化する方法を提供する。
【解決手段】 金属アルコキシド溶液により処理して基材上に薄膜を形成するか又は該基材表面の機能化を行う前に、該基材を無水溶媒中で加熱処理することにより、ナノスケールの凹凸の内部及び外表面に付着している水分を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノスケールの凹凸を有する基材への薄膜形成及び/又は該基板の機能化技術に関し、特に、金属アルコキシド溶液により処理して該基材上に薄膜を形成するか又は該基材表面の機能化を行う表面処理方法、及びこの表面処理方法により金属アルコキシド溶液による処理が施された、ナノスケールの凹凸を有する基材に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の物質表面に新たな機能を付加する表面処理技術は、ドライプロセスとウェットプロセスに分類されるが、ウェットプロセスでは、機能化またはコーティングしたい物質を薬液に加え、この薬液中に浸漬・攪拌する、あるいは該薬液をキャスト、ディップコーティング、スピンコーティング、交互積層するなどして、新たな機能を付加するものである
【0003】
ところで金属アルコキシドを加水分解すると金属酸化物のゾルもしくはゲルが生成することはよく知られている。
前述の薄膜形成または機能化方法において、この金属アルコキシドのゾル/ゲル法を用いた方法が用いられるが、この場合、一般的には、アルコール系溶媒を用い、これに金属アルコキシドを溶解した溶液中に、浸漬・攪拌処理するか、あるいはディップコーティング処理、スピンコーティング処理などにより、基材表面に新たな機能を付加している。また、金属アルコキシドに対して、無水溶媒を利用し、表面機能化に取り組む例も見られる。
【0004】
例えば、非特許文献1では、無水溶媒中でキレート剤を利用して金属アルコキシドの安定なゾル溶液を調整したのちに、この溶液に紙をディップすることで、紙上に光触媒を生成している。本手法の場合、多量の金属アルコキシドを基材に添着することが可能となる。
また、特許文献1では、無水溶媒により金属ハロゲン化アルコキシドを安定化させ、その溶液中に基板を浸漬し、その後この溶液中にハロゲン化アルコキシドを少なくとも加水分解するための化学量の「水」を添加している。
【0005】
一方、既存の物質表面に新たな機能を付加する表面修飾技術は、気相中又は液相中での有害分子除去をするために吸着剤やフィルタ、或いは繊維の撥水性又は親水性コーティングなどの分野においても重要な問題であり、金属アルコキシドによる修飾が用いられている。
【0006】
すなわち、吸着剤やフィルタの性能は、面積当たりの官能基数と表面積により基本的に決定される。現存のフィルタは、活性炭のように高表面積の場合、面積あたりの化学的官能基数が少ないため、吸着量は大きくみえるが、脱着を起こす。つまり、吸着除去した分子は再放出されてしまう。
そこで、吸着剤やフィルタ表面に、前述の金属アルコキシド修飾を施すことが提案されている。
例えば、特許文献2では、活性炭と金属アルコキシドを、密閉した容器内あるいは乾燥気流中に別々に置き、金属アルコキシドの蒸気を発生させ、次いで活性炭に吸着させた後、水蒸気と接触させて、吸着された金属アルコキシドを加水分解することで金属酸化物を担持した活性炭を得ている。
【0007】
また、基材の撥水性は、表面の物理的構造と化学的性質の二つが揃って発現する。つまり、撥水コーティングを施したい基材表面に物理的凹凸構造を形成し、その表面を低表面エネルギーにする必要がある。現状では、ディップコーティングやスピンコーティング、スプレー法で凹凸を形成し、その後、化学的処理を施す方法や、前記の方法で凹凸の形成と化学的処理を同時に行う方法などが行われている。
いずれの手法においても、凹凸構造が脆いため、耐久性に欠けるという欠点がある。つまり高耐久性の撥水加工を施すには、撥水性に寄与する凹凸構造を維持しつつ、物理的凹凸構造を強化する必要がある。
その一例として、非特許文献2では、TEOS(tetraethyl orthosilane)とコロイド状シリカとFOETES((heptadecafluoro-1,1,2,2-tetrahydrodecyl) triethoxysilane)の3成分を原材料として、フッ素化アルキル官能基被覆シリカ粒子の膜を一段階で製造しており、この技術では、微粒子同士及び微粒子と基材表面とのネッキング(接着)を促進するバインダーとして、金属アルコキシドが用いられている。
【特許文献1】特開平8−239202号公報
【特許文献2】特開平8−245210号公報
【非特許文献1】浦元明、高橋雅樹、市浦英明「ゾル−ゲル法を用いたナノ薄膜の創製に関する開発研究」 愛媛県工業系研究報告 No.45 第64〜65頁
【非特許文献2】M.Hikita,et al.,Langmuir,21,7299(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、金属アルコキシドを用いた薄膜形成または表面機能化では、基材表面に存在するナノスケールの凹凸内部までは、薄膜形成または機能化がされていないのが実情である。
すなわち、特許文献1のような最終的に溶液中に水分を添加し、金属アルコキシドの加水分解・重縮合を促すプロセスを採った場合、ナノスケール微細凹凸内部表面を効果的に修飾することはできない。そのため、該手法により薄膜を形成する場合は、ナノスケールの凹凸内部を充填することができないため、その密着性は低く、耐久性に劣る膜が作製される。一方、該手法により多孔材を機能化する場合、ナノスケール凹凸内部表面を効果的に機能化することができないので、修飾効率の低い、つまり機能レベルの低い修飾方法となる。
【0009】
また、非特許文献1の手法の場合、多量の金属アルコキシドを基材に添着することが可能となる。しかしながら、後で詳しく述べるが、基材表面の水分の影響を考慮していないため、基材と金属アルコキシドの密着性が弱く、またナノスケールの微量凹凸内部を修飾することはできない。
同様に、活性炭を金属アルコキシドで化学修飾する場合、高表面積の由来であるナノスケールの細孔を閉塞している可能性が高い。また、特許文献2のように蒸気を用いる場合は、大規模な装置が必要であるばかりでなく、ガス分子の細孔内凝縮により数nmオーダの細孔が閉塞される可能性が高い。
さらに、非特許文献2の技術では、そのバインダーが金属アルコキシドであるため、ナノスケール凹凸間の水分を考慮していないことから、効果的・効率的なバインディング効果が発現されていない。
【0010】
以上のように、従来の金属アルコキシドを用いた薄膜形成または表面機能化方法では、基材表面に存在するナノスケールの凹凸内部まで薄膜形成または機能化がされておらず、また、機能化の効率をあげるために金属アルコキシドの量を増やした場合には、基材の表面のみが金属アルコシキドで覆われてしまうため、ナノスケールの凹凸が閉塞されてしまう、或いは基材とのネッキング力(接着性)に欠けるなどの問題が発生していた。
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、ナノスケールの凹凸を有する基材表面を金属アルコキシド溶液により処理して該基材上に薄膜を形成するか又は該基材表面の機能化を行う方法において、ナノスケールの凹凸内部まで金属アルコキシドで充填する、あるいはナノスケールの凹凸内部表面を金属アルコキシドで効果的に機能化することを目的とするものである。言いかえれば、本発明は、ナノスケールの凹凸を考慮し、密着性の高い薄膜形成及び高密度表面機能化を実現することを目的とするものである。
なお、ここで、「高密着性」とは、ナノスケールの凹凸内部にまでコーティング剤が充填され、コーティング剤と基材に空気界面がない場合をいい、また、「高密度機能化」とは、ナノスケールの凹凸を維持しつつその内部表面に金属アルコキシドを添着した状態、つまりナノスケールの微細凹凸を考慮した比表面積あたりの官能基数が従来機能化よりも高い場合をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が、上記目的を達成すべく検討したところ、基材表面に存在するナノスケールの凹凸内部が、薄膜形成または機能化されないのは、金属アルコキシドが水と反応しやすいこと、及びナノスケールの凹凸内部には水が吸着していることに起因することが判明した。すなわち、従来の金属アルコキシドを用いた薄膜形成または表面機能化方法では、溶媒中の水分の影響は考慮されているが(特許文献1参照)、基材表面(外表面及び微細凹凸内部)に存在する水の影響は考慮されていないために、前述のような問題が生じる。
そこで、本発明者らは、基材表面の凹凸の内部及び外表面に付着している水分を除去することが重要であると考え、検討した結果、予め、基材を無水溶媒中で加熱処理することにより、その凹凸の内部及び外表面に付着している水分を取り除くことができきるという知見を得た。
【0012】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を提供するものである。
[1]ナノスケールの凹凸を有する基材表面を金属アルコキシド溶液により処理して該基材上に薄膜を形成するか又は該基材表面の機能化を行う方法であって、予め、該基材を無水溶媒中で加熱処理することにより、前記凹凸の内部及び外表面に付着している水分を除去する工程を設けたことを特徴とする表面処理方法。
[2]前記機能が、ガス吸着性、撥水性、及び撥油性のうちの少なくとも1つである上記[1]の表面処理方法。
[3]前記金属アルコキシドが、前記機能化に必要な官能基を少なくとも1つ有していることを特徴とする上記[1]又は[2]の表面処理方法。
[4]前記金属アルコキシド溶液は、金属アルコキシドが無水溶剤中に溶解されて安定化されていることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかの表面処理方法。
[5]前記基材を、金属アルコキシド溶液中に浸漬することにより、薄膜の形成又は機能化をおこなうことを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかの表面処理方法。
[6]ナノスケールの凹凸を有する基材が、活性アルミナ、活性炭、メソポーラスシリカ、ナノファイバ、又は交互積層膜のいずれかであることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかの表面処理方法。
[7]ナノスケールの凹凸を有する基材であって、その表面に、上記[1]〜[6]のいずれかの表面処理方法により金属アルコキシド溶液による処理が施されていることを特徴とする基材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ナノスケールの凹凸内部まで金属アルコキシドで充填する、あるいはナノスケールの凹凸内部表面を金属アルコキシドで効果的に機能化することができる。言いかえれば、ナノスケールの凹凸を考慮し、密着性の高い薄膜形成及び高密度表面機能化を実現することができる。
そして、本発明を空気・水質浄化フィルタに適用することにより、フィルタ性能が向上する。すなわち、本発明によれば、金属アルコキシドをナノスケールの微細凹凸を閉塞させることなく、その内部を機能化できるため、基材の表面積を維持しつつ、高密度に所望官能基を生成することができる。そのため、単位重量あたりの吸着量が大きく、脱着を起こさない有害分子除去フィルタが実現できる。
また、本発明を撥水コーティング方法に適用することにより、撥水性を減少させることなく、高耐久性の撥水加工を施すことができる。つまり、撥水性に必要な凹凸構造は維持しつつ、その凹凸構造同士及び凹凸と基材表面とのネッキング(接着)を強化でき、これにより、撥水性表面の物理的耐久性を著しく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、ナノスケールの凹凸を有する基材表面を金属アルコキシド溶液により処理して該基材上に薄膜を形成するか又は該基材表面の機能化を行う方法において、予め、該基材を無水溶媒中で加熱処理することにより、前記凹凸の内部及び外表面に付着している水分を除去する工程を設けたことを特徴としている。
図1は、本発明の方法と、従来の方法の違いを、模式的に説明する図である。
すなわち、図の上段に示すとおり、従来、ナノスケールの凹凸の内部には、水分が残存しており、金属アルコキシドは水と反応しやすいために、凹凸の表面を覆ってしまう結果となり、凹凸内部には薄膜形成や機能化がされないままとなっている。
本発明では、該凹凸の内部及び外表面に付着している水分を除去する工程を設けることにより、図の下段に示すとおり、ナノスケールの凹凸内部まで金属アルコキシドで充填する、あるいはナノスケールの凹凸内部表面を金属アルコキシドで効果的に機能化することができる。
【0015】
本発明において、ナノスケールの凹凸を有する基材は、その表面を金属アルコキシド溶液で処理して薄膜形成又は表面の機能化ができるものであれば、その形状及び材質は特に限定されるものでなく、例えば、テクスチャ構造を有するポリマー、活性炭、活性アルミナ、メソポーラスシリカ、ナイロンナノファイバ、カーボンナノファイバなどの繊維状物質など、吸着剤あるいはフィルタ材として用いられているものがあげられる。
【0016】
本発明の方法を用いて、これらのナノスケールの凹凸を有する基材表面上に薄膜を形成する場合又は該基板の表面を機能化する場合、具体的には、以下の4つの工程を行う。
【0017】
工程1:ナノスケールの凹凸を有する基材に、無水溶媒中での加温処理を施し、基材の凹凸内部の水分を減少させる工程
本工程により、基材の凹凸内部の水分が減少するため、その後の工程において、金属アルコキシド分子が凹凸内部まで侵入することが可能となる。
本発明において、無水溶媒中での加熱処理により凹凸内部の水分を減少させるのに必要な加熱処理の温度は、水の沸点以上で、無水溶媒の沸点以下であり、かつ、基材の耐熱温度以下の温度を選ぶ必要がある。
【0018】
工程1に用いる無水溶媒は、トルエン、ヘキサン、DMF、2−アミノエタノール、1−ブタノール、ジメチルスルホキシド、アセト酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アニソール・エチルラクテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルなど及びそれらの無水物が使用できる。
このような溶媒が利用可能な理由は、溶媒中で金属アルコキシドを安定に存在させることができ、且つ基材に存在する水分量を減少させることができるためである。
【0019】
工程2:金属アルコキシドの安定な溶液を作成する工程
次に、無水溶媒に、所望金属を持つ金属アルコキシド、或いは、所望の官能基を有する金属アルコキシドを加えて、金属アルコキシドの安定溶液とする。
本発明において、本工程を適用することで、金属アルコキシドが金属アルコキシド分子として安定して存在することが可能となる。
【0020】
前記所望の金属としては、たとえば、超親水性薄膜を形成したい場合には、チタンを用い、また、複合金属薄膜を形成したい場合は、複合したい複数の金属を持つ金属アルコキシドが用いられる。
また、前記所望の官能基としては、本発明の方法により機能化したい基材に対して、その機能を付加できる官能基が用いられ、たとえば、アルデヒドを除去する機能を付加するならアミン基を、アミンを除去する機能を付加するならカルボキシル基を、また、撥水性コーティングを施すならFあるいはメチル基を有するものを用いる。
【0021】
本工程において、金属アルコキシドの活性度が高い場合は、キレート剤等の安定化剤を加える。キレート剤は、配位結合により金属イオンに結合し、反応抑制効果を示す。エタノールアミン類やアルコキシアルコール類などがキレート剤としての効果を発現する。
金属アルコキシドは金属原子を核とし、側鎖にアルコキシ基を持つ分子である。この側鎖の一つを官能基に置き換えたものが多数存在し、そのため金属アルコキシドの種類を選ぶことで、新たな金属的性質及び官能基的性質を付加できる。
官能基的性質とは、加水分解あるいは脱アルコールを起こさない金属アルコキシドの側鎖の性質である。例えば3−aminopropyltrimethoxysilane(APTMS)の場合、3つのメトキシ基は加水分解・脱アルコールを行う。しかし、残りのアミノプロピル基はそれらの反応を起こさず、最終的な物質中に残る。そして、APTMSの場合、アミノプロピル基が残るため、タンパク質固定やアルデヒド類吸着などの性質を示す。
金属アルコキシドは、その後の工程において、水と反応し、加水分解・重縮合を開始する。
【0022】
工程3:基材の浸漬及び撹拌工程
前記工程2で得られた溶液に、前記工程1で水分を減少させた基材を加え、浸漬及び攪拌する。
該工程において、溶液中の金属アルコキシドは、分子として対象基材表面に吸着し、その後拡散する。工程1の処理により、基材表面の水は減少しているが、極微小のナノスケール領域(小さなメソ孔やミクロ孔領域)には水がトラップされているので、表面拡散した金属アルコキシドは、この無数に存在する水と出会うまで拡散し、その後、加水分解・重縮合を開始する。しかし、一つのサイトに存在する水の量は非常に少ないため、重縮合により凹凸が完全に閉塞することはない。
本工程においては、ナノスケールの凹凸内部表面に金属アルコキシドゲルを生成し、ナノスケールの空間内部は未反応の金属アルコキシドで充填されている。
【0023】
工程4(その1):洗浄なしで乾燥する工程
高密着性薄膜を作製する場合は、溶液から基材を引き上げ、そのまま乾燥処理を施す。
乾燥処理は、無水溶媒の沸点以上の温度で数時間乾燥させるものであり、たとえば、無水トルエンを溶媒に選定した場合、120℃で3時間の処理を行う。
ナノスケールの空間は、基材壁・金属アルコキシドゲル・未反応金属アルコキシドで構成されている。
本工程において、基材を洗浄せずに乾燥させることで、二つの現象が起こる。1つ目は、ゲルが固化し基材と強固に接続することであり、2つ目は、未反応金属アルコキシドが加水分解・重縮合を開始し、元々のゲルと強固につながり、ナノ空間を充填することである。
本工程を適用することで、ナノスケールの凹凸空間は金属アルコキシドで充填され、高密着性薄膜が生成する。
なお、本発明において、微細凹凸内部を金属アルコキシドが充填している状態を、「高密着性」というものとする。一方、ナノスケールの微細凹凸が、金属アルコキシドで充填されておらず、作製された薄膜に対してナノスケールの微細凹凸と薄膜の間に空気界面が存在する場合を、「低密着性」ということとする。
【0024】
工程4(その2):洗浄後、乾燥する工程
一方、高密度表面機能化を実現する場合は、溶液から取り出し、基材を溶媒で洗浄し、その後乾燥処理を施す。
該工程における乾燥処理も、無水溶媒の沸点以上の温度で数時間乾燥させるものであり、たとえば、無水トルエンを溶媒に選定した場合、120℃で3時間の処理を行う。
なお、本発明において、微細凹凸空間を閉塞させることなく、しかし微細凹凸内部表面に金属アルコキシドが添着している状態を「高密度表面機能化」ということとする。
【実施例】
【0025】
以下、本発明について、種々の基材を用いて、具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0026】
実施例1
本実施例では、平均粒径2mm程度の、市販の活性アルミナ(住友化学工業社製、KHD−12 60604)を用いた。
(前処理)
まず、活性アルミナ表面の不純物を超音波処理で取り除き60℃で24時間乾燥させた。以下、これを、「未処理の活性アルミナ」と称す。
(脱水処理)
この未処理の活性アルミナ1.0gを、20mlの無水トルエンに加え、105℃で、0〜5時間、加熱処理を施した。なお、加熱処理時間は、容積55ml、底面積が直径36mmの円であるホットプレートに基材を載せた時点を、「脱水処理時間0時間」としてカウントし、加熱時間1時間後、105℃に達したところで、温度を105℃に保持した。
(金属アルコキシド容液による処理及び乾燥)
次に、脱水処理後の活性アルミナを、2.5mlの無水トルエンに4.0gのAPTMSを溶解させた溶液に加え、6時間浸漬・攪拌した。その後、トルエンと2−プロパノールで洗浄し、120℃で3時間乾燥させた。
【0027】
ナノスケール凹凸内部水分量を直接測定することができないため、APTMS修飾の程度を、窒素吸着法(装置shimazu micromeritics ASAP2010)により観察した。
図2は、得られた活性アルミナの窒素ガスの物理吸着等温線であり、図3は、得られた活性アルミナの孔径分布を示す図である。
各図において、「WR0h」、「WR1h」、「WR3h」及び「WR5h」は、それぞれ加熱処理時間が、0時間、1時間、3時間、及び5時間であることを表しており、「Control」は、未処理の活性アルミナを表している。
【0028】
図2によれば、加熱処理時間と金属アルコキシド(APTMS)の修飾具合には関係があることがわかる。
すなわち、加熱処理時間には最適値が存在する。実施例1では、3時間の加熱処理時間(WR3h)において、窒素の吸着量が最大となっており、基材微細凹凸間の残存水分量が、内部機能化にとって最適値となることが分かる。また、3時間の脱水処理時間における物理吸着等温線がヒステリシスを有していており、これは、ナノスケールの凹凸が閉塞されずに残っていることを示すものである。
そして、脱水処理をしすぎると(WR5h参照)、微細凹凸内部の水分量が減少しすぎ、凹凸内部を効率的に被覆することはできないと考えられる。
また、未処理の活性アルミナ(WR0h)のほうが、加熱処理1時間の活性アルミナ(WR1h)よりも吸着量が多いが、これは、この間液温が上昇しているものの、水分が除去できる100度以上には達しておらず、むしろ、無水トルエンと水の相溶性の悪さから水が凹凸内部に押し込まれたためと考えられる。
【0029】
また、図3から明らかなように、APTMSによる修飾により、活性アルミナの細孔内部の凹凸構造が減少している。
すなわち、脱水処理時間が最適の3時間のもの(WR3h)の孔径分布は、未処理の活性アルミナと同様に、ナノサイズにピークを有するものであった、そのピークは未処理の活性アルミナのものより小さくなっている。このことから、APTMSによる修飾後もナノサイズの凹凸空間を閉塞させることなく、かつ、その凹凸内部表面に金属アルコキシドが添着してサイズが小さくなっていることがわかる。
【0030】
このような現象(最適値)が現れる理由は以下の通りと考えられる。
すなわち、基材を無水溶媒に加えることで、基材外表面ないし微細凹凸内部に存在している水は基材に強く密着する。このため、脱水処理が不十分な場合、凹凸内部を修飾することはできず、凹凸の入口を金属アルコキシドが塞いでしまう。脱水処理時間の経過と伴に、凹凸内部水分が減少し、金属アルコキシドが凹凸内部に吸着可能となる。凹凸内部に残存している水分と金属アルコキシドが反応することで、凹凸内部から外へと加水分解・重縮合が進行する。一方、過剰な脱水処理は凹凸内部の水分を減少しすぎるため、細孔内部に金属アルコキシドが吸着しても、凹凸内部表面で重縮合はおこらない。よって、過剰脱水処理は、凹凸内部に金属アルコキシドの分子充填を起こし、小さな微細凹凸を閉塞させてしまう。
【0031】
実施例2
本実施例は、加熱処理時間を、実施例1において最適であった3時間とし、その後の無水トルエンに溶解したAPTMS溶液中での処理時間を、14時間に増加させた以外は、実施例1と同様にして、APTMSで修飾された活性アルミナを得た。
図4は、得られた活性アルミナの窒素ガスの物理吸着等温線であり、図5は、得られた活性アルミナの孔径分布を示す図である。各図において、「Control」は、未処理の活性アルミナを表している。
図4から明らかなように、得られた活性アルミナは、未処理の活性アルミナより窒素ガスの吸着量は減っているが、実施例1の場合と同様にヒステリシスを有しており、また、図5から明らかなように、孔径分布のそのピークは未処理の活性アルミナのものより小さくなっていることから、APTMSによる修飾後もナノサイズの凹凸空間を閉塞させることなく、かつ、その凹凸内部表面に金属アルコキシドが添着してサイズが小さくなっていることがわかる。
【0032】
図6は、活性アルミナの細孔内部の機能化を示すTEM像であり、左上は、未処理のもの、右上は、従来法(溶媒にエタノール使用)によりAPTMS修飾したもの、左下は脱水処理せずにAPTMS修飾したもの、右下が、本発明の方法によりAPTMS修飾したものである。
左上(未処理アルミナ)の写真(スケールバー:2nm)は、アルミナに固有の格子像が表れており、メソ孔があることがわかる。また、右上(従来法)の写真(スケールバー:20nm)では、格子像が一部見えており、APTMS固有のアモルファス像が多く見られないことから、表面修飾(機能化)が不完全であることがわかる。さらに、左下(脱水なし)の写真(スケールバー:10nm)では、メソ孔が完全にAPTMSで完全に充填してしまっていることがわかる。
これに対し、右下(本発明の方法による)の写真(スケールバー:10nm)では、表面が完全にAPTMSで完全に覆われているが、メソ孔が存在していることがわかる。
【0033】
以上のことから、本発明の方法により、基材(活性アルミナ)が有するメソ孔を活かし、且つその細孔内部表面をAPTMSで機能化できるといえる。
【0034】
実施例3
基材として、メソポーラスシリカ(太陽化学(株)製 TMPS−4)を用いた以外は、実施例2と同様にして、APTMS処理されたメソポーラスシリカを得た。
図7は、得られたメソポーラスシリカの窒素ガスの物理吸着等温線であり、図8は、得られたメソポーラスシリカの孔径分布を示す図である。各図において、「Control」は、未処理のメソポーラスシリカを表している。
図7及び図8は、それぞれ、実施例1,2で得られたAPTMDS修飾された活性アルミナと同様の結果を示しており、メソポーラシシリカの場合においても、APTMSによる修飾後もナノサイズの凹凸空間を閉塞させることなく、かつ、その凹凸内部表面に金属アルコキシドが添着してサイズが小さくなっていることがわかる。
【0035】
図9は、メソポーラスシリカの細孔内部の機能化を示すTEM像であり、上段は、未処理のもの、下段が、本発明の方法によりAPTMS修飾したもののであり、左が低倍率(スケールバー:100nm)の写真であり、右が高倍率(スケールバー:20nm)の写真である。
左の低倍率のTEM像より、メソポーラスシリカ微粒子表面にAPTMSのコーティング膜ができていることがわかる。また、右の高倍率のTEM像からは、微孔内部までAPTMSが導入されていることがわかる。
【0036】
実施例4
本実施例においては、基材として、ナイロンナノファイバを用い、(1)繊維基材の表面のみを金属アルコキシド(APTMS)で効果的にコーティングができること(表面機能化)、及び(2)ナノファイバに存在するファイバ間のナノスケールの空間を充填し、金属アルコキシドとナノファイバの高密着性薄膜を形成できること(充填)を確かめた。
(1)表面機能化
ナイロンを88%の蟻酸に15wt%で溶解させ、この溶液をエレクトロスピニングによりファイバ化した(電圧 25.0kV、フローレート 0.1ml/h、コレクターシリンジ間距離 15cm)。
次に、作製されたナイロンナノファイバを、無水トルエンに加え、実施例1と同様にして、3時間脱水処理を施した。その後、脱水ナイロンナノファイバを5.2g/10mlの無水トルエンに溶解させたAPTMS溶液に2時間浸漬させた。浸漬後、トルエンで十分に洗浄し、120℃で3時間乾燥処理を施した。この際、ナノファイバの隙間として存在するナノスケールの間隙は維持される。
(2)充填
ナイロンナノファイバの作製方法は実施例4の表面機能化処理と同じである。
作製したナイロンナノファイバを同様の方法で脱水処理し、同濃度のAPTMS溶液に浸漬させる。浸漬後、溶液から取り出し、そのまま120℃で3時間乾燥処理を施した。
【0037】
図10は、ナイロンナノファイバのSEM像(スケールバー:2μm)であり、図中、上段は断面を観察したもの、下段は真上から観察したものである。
図中、左側は未処理のナイロンナノファイバであり、中央が、前記(1)の処理方法で得られたナイロンナノファイバのSEM像であり、右側が、前記(2)の処理方法で得られたナイロンナノファイバのSEM像である。
中央のSEM像から明らかなうように、洗浄して基材表面のAPTMS溶液を取り除いてから乾燥すると、表面機能化したナイロンナノファイバが得られることがわかる。すなわち、ファイバ内部は、ファイバ表面にくらべ、水のトラップされている密度が高く、金属アルコキシドは、加水分解・重縮合を開始した場所を核とし微粒子成長する。これにより、ファイバ内部(内部ファイバ表面)は金属アルコキシドで機能化される。これは、ナノファイバの機械的強度の向上と、エアフィルタ・水中フィルタとしての機能を向上させるものである。
また、右側のSEM像から明らかなように、金属アルコキシド(APTMS)は、ナイロンナノファイバのもつナノスケールの間隙を隙間なく充填していることがわかる。予備加水分解(溶液中での浸漬処理)を行わないと、右図のような充填は起こらず、ナノファイバと金属アルコキシド界面に隙間が生成される。
【0038】
実施例5
本実施例においては、基材として、ナイロンナノファイバを用い、Tip(チタンイソプロポキシド)による処理をおこなった。
ナイロンナノファイバの作製方法は実施例4と同じである。
次に、作製されたナイロンナノファイバを、無水トルエンに加え、実施例4と同様にして、3時間脱水処理を施した。その後、脱水ナイロンナノファイバを5.2g/10mlの無水トルエンに溶解させたTip溶液に2時間浸漬させた。
浸漬後、トルエンで十分に洗浄し、120℃で3時間乾燥処理を施したもの(表面機能化)と、浸漬後、溶液から取り出し、そのまま120℃で3時間乾燥処理を施したもの(充填)を作製した。
【0039】
図11は、そのSEM像(スケールバー:上段2μm、下段1μm)であり、上段は、未処理のナイロンナノファイバ、下段左側は、本発明の方法によりTipで表面機能化したナイロンナノファイバ、下段右側は、本発明の方法によりTipで充填したナイロンナノファイバである。
左のSEM像から明らかなうように、洗浄して基材表面のAPTMS溶液を取り除いてから乾燥すると、表面機能化したナイロンナノファイバが得られることがわかる。また、右のSEM像から明らかなように、金属アルコキシド(APTMS)は、ナイロンナノファイバのもつナノスケールの間隙を隙間なく充填している。
【0040】
実施例6
本実施例においては、基材として、アルミナPVPコンポジットナノファイバを用い、APTMSによる処理をおこなった。
最初に、以下の手順で、アルミナPVPコンポジットナノファイバを作成した。
(1)アルミナの前駆体aluminum tri sec butoxide 4.0gを29mlの水に溶かした。
(2)これに、硝酸を3.6mlをゆっくりと滴下し、透明で安定なアルミナゾルを得た。
(3)ついで、PVPを1.5g溶解させた。
(4)これにアンモニア水溶液2.0gをゆっくりと滴下し、十分に攪拌した。
(5)この溶液を用いて、エレクトロスピニング法によりファイバを形成した。形成条件は、電圧:25kV、フローレート(溶液押し出し速度);1m/h、TCD(溶液が噴出するシリンジ先端からコレクタまでの距離);20cm、常温常圧
(6)得られたナノファイバを120℃で乾燥させる。
【0041】
こうして得られたアルミナPVPコンポジットナノファイバを、実施例4と同様の方法で、APTMSで表面機能化したナノファイバを得た。
図12は、得られたアルミナPVPコンポジットナノファイバのSEM像(スケールバー:5μm)であり、左側は未処理のもののSEM像であり、右側はAPTMSにより表面機能化したもののSEM像である。左右のSEM像から、本実施例により、表面機能化したナイロンナノファイバが得られていることがわかる。
【0042】
実施例7
本実施例においては、基材として、交互積層膜を用い、TEOS(テトラエトキシシラン)による処理をおこなった。
最初に、以下の手順で交互積層膜を作成した。
(1)0.1mol/lのPDDA(poly(diallyl dimethyl ammonium chloride))を調整した。
(2)これとは別に、PVA(Poly(vinyl alcohol))とPAA(poly (acrylic acid))の混合溶液を、前者は1wt%、後者は20mmol/lの濃度で調整した。
(3)ガラス基材をPDDA溶液に15分間浸漬し、その後、純水中に4分間浸漬した。
(4)(3)の工程を経たガラス基材をPVA/PAA混合溶液に15分浸漬し、その後純水中に4分間浸漬した。
(5)(3)と(4).の工程を計5回繰り返した。
(6)交互積層((5)の工程)終了後、80℃で1時間乾燥した。
【0043】
こうして得られた交互積層膜を、無水トルエンに加え、実施例1と同様にして、3時間脱水処理を施した。その後、交互積層膜を16g/10mlの無水トルエンに溶解させたTEOS溶液に3時間浸漬させた。浸漬後、トルエンで十分に洗浄し、80℃で3時間乾燥処理を施した。
図13は、得られた交互積層膜のSEM像であり、左側は未処理のもののSEM像であり、右側はTEOSにより表面機能化したもののSEM像である。左右のSEM像から、本実施例により、表面機能化した交互積層膜が得られていることがわかる。
【0044】
実施例8
本実施例では、本発明をアルデヒド除去フィルタに適用した場合の性能を確かめるため、実施例2で得られたAPTMSで処理された活性アルミナと各種フィルタの基礎的な物性を比較した。
その結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例9
本実施例では、実施例2で得られたAPTMSで処理された活性アルミナと各種フィルタの官能基密度を比較するために、比表面積当たりのp−アミノベンゼンスルホン酸の吸着量を測定した。
その結果を、図14に示す。左端より順に、活性炭(未処理)、活性アルミナ(未処理)、従来のAPTMS修飾した活性アルミナ(脱水処理なし)、及び実施例2で得られたAPTMS修飾した活性アルミナ(右端)を表している。
図14から、本発明の方法を、APTMS処理を活性アルミナに施した場合、比表面積当たりのp−アミノベンゼンスルホン酸の吸着量は、未処理アルミナの27倍にも及び、従来製法のものよりも大きい吸着能を有することがわかる。
【0047】
実施例10
本実施例では、本発明の方法で処理された活性アルミナのアセトアルデヒド除去性能について、その他の多孔体を用いて比較した。
まず、アルミナの細孔内部水分を減少させるために、アルミナを無水トルエンに加え(1.0g/20ml)、その後105℃で3時間加熱処理を施した。次に、スラリー状になった活性アルミナ1.0gを2.5mlの無水トルエンに加え、その後APTMSを1.0g加え12時間攪拌した。攪拌後、トルエンで十分に洗浄し、その後IPAで洗浄をし、最後に120℃で3時間乾燥させた。
比較として、前記の無水トルエン中での加熱処理を行わないこと以外は同様にして、APTMS処理活性アルミナを得た。
【0048】
これらの2種類のAPTMS処理活性アルミナ、並びに、活性炭及びメソポーラスシリカのそれぞれについて、9リットルの系に135ppmのアセトアルデヒドガスを初期濃度として加え、ガスクロマトグラフにより濃度の経時変化を測定した。
結果を図15、16に示す。
図15は、本発明のAPTMにより表面機能化した活性アルミナと、加熱処理による脱水なしでAPTMにより表面機能化した活性アルミナについて、アルデヒド除去量を比較した図であり、図16は、本発明のAPTMにより表面機能化した活性アルミナ、活性炭、及びメゾポーラスシリカについて、アルデヒド除去量を比較した図である。
図15、16から明らかなように、本発明の方法で得られたものが、高吸着量活性炭に比べ、80分経過後で約2.4倍の性能を誇ることがわかる。
【0049】
また、FTIR(赤外分光法)より、本発明のAPTMにより表面機能化した活性アルミナにおいては、吸着したアセトアルデヒドが脱着を起こさないことを確認した。
図17は、赤外吸収スペクトルを示す図であり、図中、実線は、アセトアルデヒドを吸着する前のもの(コントロール)、点線は、アセトアルデヒドを吸着したものの、破線は、60℃で、3時間加熱した後のものである。
図17において、矢印はAPTMS由来のアミン基に化学吸着したアセトアルデヒドの存在を表しており、加熱後も脱着していないことがわかる。
【0050】
本実施例から明らかなように、メソポーラスシリカや活性アルミナのような多孔体に本発明を適用することで、高性能吸着剤として知られる活性炭よりも優れた分子除去性能を示す。また、活性アルミナにAPTMS(3-aminopropyltrimethoxysilane)で処理を施した場合、脱着を起こさず、未処理の活性炭よりも優れたアセトアルデヒド除去フィルタとなる。
【0051】
実施例11
本実施例では、基材表面に形成した凹凸構造の物理的耐久性を強化できることを確認するために、基材表面に作製したシリカ微粒子凹凸に対し、本発明を適用した。
まず、40nmのシリカ微粒子をアルコール溶媒(エタノール)に分散させ、ディップコーティングにより基材表面に凹凸構造を形成させた。
次に、この基材を無水トルエンに浸漬させ、105℃で加熱処理することにより、凹凸内部の水分を減少させた。ついで、FAS(フルオロアルキルシラン)を無水トルエンに分散させ、脱水後の基材を4時間浸漬させた。その後、基材をトルエン溶媒に移し105℃で加熱した。最後に、120℃で乾燥を行った。
比較として、従来法(EtOH法)、すなわち、前記基材を、エタノールに2wt%で分散させたFAS溶液に4時間浸漬し、その後120℃で乾燥させたものを用いた。
【0052】
得られた撥水コーティング層の耐久性を調べるため、粘着テープによる剥離性の試験を以下のようにして行った。
粘着テープとして、3MのScotchテープを用い、該テープを基材表面に気泡が入らないように密着させる。その後、一気に剥がす。この工程をテープテスト1回としてカウントし、規定回数テープテストを行った基材の接触角を測定し、耐久性を調べた。
【0053】
図18は、本発明の方法により得られたシリカ微粒子凹凸表面についての結果を示す図であり、図19は、従来法により得られたシリカ微粒子凹凸表面についての結果を示す図である。図18に示したとおり、本発明の方法により得られたものは、テープテスト80回後でも基材の接触角に大きな変化が見られなかったが、従来法により得られたものは、テープテスト17回後には、接触角が半減少しており、撥水性コーティング層が剥離していることが窺える。
これらの図から、基材表面に作製したシリカ微粒子凹凸に対し、本発明を適用することで、高耐久性撥水コーティングができることがわかった。
【0054】
図20は、基材表面に作製したシリカ微粒子凹凸のSEM像(スケールバー:1μm)であり、左は、前述の従来法によりFAS被覆をしたものであり、右は、本発明の方法によりFAS被覆をしたものである。
図から、左に示した従来技法に比べ、本発明の方法を適用したものは、微粒子同士のネッキング(接着)そして粒子と基材とのネッキング(接着)が強化されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の方法と従来の方法の違いを模式的に説明する図
【図2】APTMS(アミノプロピルトリメチルシラン)処理した活性アルミナのN2吸着等温線。
【図3】APTMS処理した活性アルミナの孔サイズ分布を示す図。
【図4】実施例2で得られたAPTMS処理された活性アルミナのN2吸着等温線。
【図5】実施例2で得られたAPTMS処理された活性アルミナの孔サイズ分布を示す図。
【図6】活性アルミナの細孔内部の機能化を示すTEM像であり、左上は、未処理のもの、右上は、従来法(溶媒にエタノール使用)によりAPTMS修飾したもの、左下は脱水処理せずにAPTMS修飾したもの、右下が、実施例2で得られたAPTMS処理された活性アルミナ。
【図7】実施例3で得られたAPTMS処理されたメソポーラスシリカのN2吸着等温線。
【図8】実施例3で得られたAPTMS処理されたメソポーラスシリカの孔サイズ分布を示す図。
【図9】メソポーラスシリカの細孔内部の機能化を示すTEM像であり、上段は、未処理のもの、下段が、実施例3で得られたAPTMS処理されたメソポーラスシリカ(左:低倍率、右:高倍率)。
【図10】ナイロンナノファイバのSEM像(上段:断面、下段:真上からの観察)であり、左側は、未処理のナイロンナノファイバ、中央が、実施例4で得られたAPTMSで表面機能化したナイロンナノファイバ、右側が、実施例4で得られたAPTMSで充填したナイロンナノファイバ。
【図11】ナイロンナノファイバのSEM像であり、上段は、未処理のナイロンナノファイバ、下段左側は、実施例5で得られたTipで表面機能化したナイロンナノファイバ、下段右側は、実施例5で得られたTipで充填したナイロンナノファイバ。
【図12】アルミナPVPコンポジットナノファイバのSEM像であり、左側は、未処理のもの、右側は実施例6で得られたAPTMSにより表面機能化したもの。
【図13】交互積層膜のSEM像であり、左側は、未処理の交互積層膜、右側は、実施例7で得られたTEOSにより表面機能化した交互積層膜。
【図14】実施例2で得られたAPTMS処理された活性アルミナの比表面積当たりのp−アミノベンゼンスルホン酸の吸着を示す図。
【図15】実施例10で得られたAPTMにより表面機能化した活性アルミナと、加熱処理による脱水処理がないのものとの、アルデヒド除去量を比較した図。
【図16】実施例10で得られたAPTMにより表面機能化した活性アルミナと、他の多孔体との、アルデヒド除去量を比較した図。
【図17】実施例10のAPTMにより表面機能化した活性アルミナの赤外吸収スペクトルを示す図。
【図18】本発明の方法によりFAS被覆をしたシリカ微粒子凹凸表面の、テープテストの結果を示す図。
【図19】従来法によりFAS被覆をしたシリカ微粒子凹凸表面の、テープテストの結果を示す図。
【図20】実施例11の、基材表面に作製したシリカ微粒子凹凸のSEM像であり、左は、従来法によりFAS被覆をしたもの、右は、本発明の方法によりFAS被覆をしたもの。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノスケールの凹凸を有する基材表面を金属アルコキシド溶液により処理して該基材上に薄膜を形成するか又は該基材表面の機能化を行う方法であって、予め、該基材を無水溶媒中で加熱処理することにより、前記凹凸の内部及び外表面に付着している水分を除去する工程を設けたことを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
前記機能が、ガス吸着性、撥水性、及び撥油性のうちの少なくとも1つである請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記金属アルコキシドが、前記機能化に必要な官能基を少なくとも1つ有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記金属アルコキシド溶液は、金属アルコキシドが無水溶剤中に溶解されて安定化されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記基材を、金属アルコキシド溶液中に浸漬することにより、薄膜の形成又は機能化をおこなうことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項6】
ナノスケールの凹凸を有する基材が、活性アルミナ、活性炭、メソポーラスシリカ、ナノファイバ、又は交互積層膜のいずれかであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項7】
ナノスケールの凹凸を有する基材であって、その表面に、請求項1〜6のいずれか1項に記載された表面処理方法により金属アルコキシド溶液による処理が施されていることを特徴とする基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−142732(P2010−142732A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322725(P2008−322725)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】