説明

金属ナノ粒子のクリーニング方法

【課題】簡便な方法で金属ナノ粒子表面をクリーニングする方法を提供すること。
【解決手段】粒径1〜100nm程度の金属ナノ粒子が付着している基板に対してナノインプリント法を応用し、基板上に付着した金属ナノ粒子の表面及びその周辺部に存在する不純物を取り除き、金属ナノ粒子の表面及びその周辺部を清浄化せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子のクリーニング方法、例えば燃料電池等の金属触媒ナノ粒子形成後や、カーボンナノチューブの下地膜としての金属触媒ナノ粒子形成後等に、この金属ナノ粒子をクリーニングする方法に関する。本発明において金属ナノ粒子といった場合のナノオーダは、30nm程度以下で、かつ1nm程度以上をいうものとする。
【背景技術】
【0002】
従来、ドライプロセスによりナノオーダの金属粒子(このナノオーダとは、上記したような範囲内である)を作製する場合には、電子ビーム蒸着法や抵抗加熱蒸着法等により、グラファイト又はアモルファスカーボン等からなる基板を200〜500℃に加熱しながら、その基板上に金属粒子を数nm蒸着し、凝集させて作製している。
【0003】
上記電子ビーム蒸着法の場合、例えば、図1に模式的に示す電子ビーム蒸着装置を用いて金属ナノ粒子を作製している。
【0004】
図1に示すように、電子ビーム蒸着装置は、円筒形状の真空チャンバ1からなる。この真空チャンバ1内には、その下部の底フランジに取り付けられた電子ビーム蒸着源12が設けられ、電子ビーム蒸着源12には蒸着材料13を収納するための空間(ルツボ)が設けられ、そして電子ビーム蒸着源12に対向して基板ステージ14が設けられている。この基板ステージ14は、その電子ビーム蒸着源12側に、金属ナノ粒子を蒸着するための基板Sが取り付けられるようになっている。基板ステージ14の電子ビーム蒸着源側と反対の側には、その中心に、基板マニピュレータ15が真空チャンバ1上部壁面を貫通して取り付けられ、基板Sが基板ステージ14と共に、基板マニピュレータ15により回転できるように構成されている。そして、基板Sを取り付ける基板ステージ14の面と反対側の面にはヒータ等の加熱手段16が取り付けられ、基板ステージ14、ひいては基板Sを加熱できるように構成されている。
【0005】
基板Sの近傍には膜厚測定子17が取り付けられて、基板に付着する金属ナノ粒子の厚みを測定できるように構成されている。
【0006】
真空チャンバ1には、その壁面に真空排気系18がターボ分子ポンプ18−1、バルブ18−2及びロータリポンプ18−3の順序で設けられ、ターボ分子ポンプ18−1からロータリポンプ18−3まで金属製の真空配管18−4で接続され、真空チャンバ1内の真空排気を行うことができるように構成されている。真空チャンバ1内は、この真空排気系により10−5Pa以下に保つことができるようになっている。
【0007】
図1に示す電子ビーム蒸着装置を用いて金属ナノ粒子を作製するプロセスの一例について以下説明する。例えば、基板Sとして高配向耐熱グラファイト(High Orientated Pyretic Graphite、以下、HOPGと称す)基板を用い、このHOPG基板を基板ステージ14上に載置し、加熱手段16により600℃まで加熱する。蒸着材料13としての白金を電子ビーム蒸着源12のルツボ内へ充填し、電子ビーム蒸着源を稼働させて電子ビームをルツボに投入し、白金を溶融、蒸発させてHOPG基板上に所定の厚みの白金を蒸着する。蒸着粒子の厚みは、膜厚測定子17に付着した重量から、その同じ量がHOPG基板に均一に付着したものとして、その重量を基板面積と蒸着材料の比重とから計算して算出する。蒸着した金属粒子の大きさは、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて粒子の高さを測定し、粒子の高さが粒子の直径と比例すると仮定して算出する。
【0008】
上記したようにして基板Sの表面に蒸着された白金ナノ粒子のAFM像写真を図2に示し、また、蒸着された白金ナノ粒子の断面TEM像写真を図3に示す。これらの図面から、所定の粒径(8〜10nm)の白金ナノ粒子が得られており、この白金ナノ粒子の表面がアモルファスカーボンで被覆されていることが分かる(基板温度が600℃なので、白金が基板上で動いて基板由来のカーボンで被覆される)。白金ナノ粒子が、アモルファスカーボンにより被覆されているために、図2に示すように、その粒子自体が不鮮明に観察される。
【0009】
従来は、上記したようにして得られたアモルファスカーボン被覆白金ナノ粒子を酸素プラズマ中に曝すことにより、表面のアモルファスカーボンを燃焼させて除去している。しかし、白金ナノ粒子を酸素プラズマ中で曝露すると、結晶化した白金ナノ粒子にイオンエネルギによるダメージが入って、結晶性が壊れたり、また、酸素が白金ナノ粒子に触れることにより、白金ナノ粒子の表面が酸化して酸化白金が生じるので、触媒活性が死活又は劣化するという問題が生じており、より簡便かつ有用なアモルファスカーボン等の不純物の除去方法の開発が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、極めて簡便な方法で金属ナノ粒子表面をクリーニングする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の金属ナノ粒子のクリーニング方法は、粒径1〜100nm程度の金属ナノ粒子が付着している基板に対してナノインプリント法を応用することにより、基板上に付着した金属ナノ粒子の表面及びその周辺部に存在する不純物を取り除き、金属ナノ粒子の表面及びその周辺部を清浄化せしめることを特徴とする。ここで、ナノインプリントの手順としては、サファイア板を押し付けて重ね合わせた後に、このサファイア板を剥がすことにより行う。
【0012】
前記サファイア板は、アニール処理して表面を清浄化したものが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基板上に付着されている金属ナノ粒子に対して、その上からサファイア板を押し付けて重ね合わせた後、このサファイア板を剥がすことにより、金属ナノ粒子の表面及びその周辺部に付着している不純物を、金属ナノ粒子の結晶性を劣化させずに、かつ表面酸化も起こさせずに、簡単に剥離することができるので、金属ナノ粒子表面を清浄化し得るというクリーニング効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る金属ナノ粒子のクリーニング方法の一実施の形態として、電子ビーム蒸着法により基板上に蒸着せしめた金属ナノ粒子に対するクリーニング方法について説明するが、この金属ナノ粒子は、電子ビーム蒸着法や抵抗加熱蒸着法等で基板上に蒸着したものでも、また、その他の方法(例えば、スパッタ法、アーク蒸着法)で基板上に付着せしめたものでも良い。
【0015】
本発明に係るクリーニング方法の一実施の形態によれば、電子ビーム蒸着法により、公知のプロセス条件で粒径1〜100nm程度の金属ナノ粒子を基板上に蒸着させ、この金属ナノ粒子が基板上に付着している状態の基板を用いてクリーニングを行う。
【0016】
上記基板上の金属ナノ粒子に対しサファイア板を押し付けて、金属ナノ粒子が付着した基板とサファイア板とを重ね合わせ、所定の時間、例えば1時間程度放置した後にサファイア板を剥がすことにより、基板上に付着した金属ナノ粒子の表面及びその周辺部に存在している不純物膜が除去され、金属ナノ粒子表面及びその周辺部が清浄化される。このように、金属ナノ粒子及びその周辺部が清浄化されるのは、アモルファスカーボン等のような不純物からなる膜が金属ナノ粒子表面及びその周辺部から剥がれ、サファイア板に密着して除去されるからである。
【0017】
本実施の形態で用いる金属ナノ粒子を蒸着せしめた基板を作製する電子ビーム蒸着装置としては、図1に示す装置を用い、また、その蒸着プロセスは上記したプロセスと同様にして行う。
【0018】
本発明によれば、金属ナノ粒子を付着せしめるための基板としては、例えばHOPGのようなグラファイト、シリコン、アモルファスカーボン、シリカ等からなる基板を挙げることができる。
【0019】
また、付着せしめる金属ナノ粒子の金属材料としては、例えば白金、コバルト、鉄、ニッケル、クロム等を挙げることができる。
【0020】
サファイア板は、例えば所定の温度(例えば、1300℃等)でアニール処理して表面を清浄化したものが好ましく、アニール処理により表面にステップ構造が形成されたもの等でも良い。
【0021】
金属ナノ粒子が付着した基板とサファイア板とを重ね合わせて放置する時間は、特に制限はないが、例えば1〜4時間程度で良い。また、その重ね合わせる力は、金属ナノ粒子が圧壊されない程度であれば良く、例えばサファイア板の自重であっても、1kg程度までのおもりを載せても良い。
【実施例1】
【0022】
図1に示す電子ビーム蒸着装置を用いて、1cm×1cm角のHOPG基板S上に白金ナノ粒子を蒸着せしめた。
【0023】
まず、このHOPG基板Sを基板ステージ14上に載置し、加熱手段16により500℃まで加熱した。蒸着材料としての白金を電子ビーム蒸着源12のルツボ内へ充填し、電子ビーム蒸着源を稼働させて電子ビームをルツボに投入し、白金を溶融、蒸発させてHOPG基板S上に所定の厚みの白金ナノ粒子を蒸着せしめた。蒸着粒子の大きさは、膜厚測定子17に付着した重量から、その同じ量がHOPG基板Sに均一に付着したものとして、その重量を基板面積と蒸着材料の比重とから計算して算出したところ、粒径8〜10nmであった。HOPG基板S上に蒸着された白金ナノ粒子のAFM像は図2に示したものと同様であり、粒子表面及びその周辺部に基板由来のアモルファスカーボンが存在していることが、AMF像が不鮮明なことにより確認された。
【0024】
次いで、サファイア板として、1300℃でアニール処理した12mm×12mm角のサファイア板を用い、このサファイア板を、上記白金ナノ粒子の蒸着されたHOPG基板Sに対して、大気中、室温で載せて重ね合わせ、100g重の圧力をかけた状態で1時間放置した。
【0025】
その後、サファイア板を剥がし、HOPG基板Sの表面をAFM観察した。このAFM像を図4に示す。図4から明らかなように、AFM像で示される白金ナノ粒子の像が図2で示される白金ナノ粒子の像よりも鮮明になっていた。これは、アモルファスカーボンとサファイア板との密着性が白金とアモルファスカーボンとの密着性より強いため、白金ナノ粒子の最表面及び粒子周辺部に付着していたアモルファスカーボンが剥離してサファイア板へと移行したためである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、基板上に付着した金属ナノ粒子の表面及びその周辺部を被覆していた不純物膜を、金属ナノ粒子の結晶性を劣化させずに、かつ表面酸化も起こさせずに、簡単に剥離して、金属ナノ粒子表面を清浄化することができるので、本発明は、燃料電池の触媒粒子形成技術の分野や、半導体分野における配線形成技術の分野や、カーボンナノチューブの下地膜としての触媒層形成技術の分野等において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】電子ビーム蒸着装置の一構成例を模式的に示す構成図。
【図2】従来の電子ビーム蒸着法により蒸着された白金ナノ粒子のAFM像写真。
【図3】図2における白金ナノ粒子の断面TEM像写真。
【図4】実施例1で得られたクリーニング後の白金ナノ粒子のAFM像写真。
【符号の説明】
【0028】
1 真空チャンバ 12 電子ビーム蒸着源
13 蒸着材料 14 基板ステージ
15 基板マニピュレータ 16 加熱手段
17 膜厚測定子 18 真空排気系
18−1 ターボ分子ポンプ 18−2 バルブ
18−3 ロータリポンプ 18−4 真空配管
S 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径1〜100nm程度の金属ナノ粒子が付着している基板に対してナノインプリント法を応用し、基板上に付着した金属ナノ粒子の表面及びその周辺部に存在する不純物を取り除き、金属ナノ粒子の表面及びその周辺部を清浄化せしめることを特徴とする金属ナノ粒子のクリーニング方法。
【請求項2】
前記ナノインプリント法の手順として、前記基板に対してサファイア板を押し付けて重ね合わせた後に、このサファイア板を剥がすことを特徴とする請求項1記載の金属ナノ粒子のクリーニング方法。
【請求項3】
前記サファイア板が、アニール処理したものであることを特徴とする請求項2記載の金属ナノ粒子のクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−156674(P2008−156674A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343794(P2006−343794)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、文部科学省、科学技術試験研究「ナノテクノロジー総合支援プロジェクト」にかかる委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】