金属ナノ粒子の製造方法及びその粒子径の制御方法
【課題】金属ナノ粒子を製造する際に、安定性が良いマイクロエマルションが得られ、またその粒子径を制御する。
【解決手段】ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、遷移金属化合物水溶液を混合してなる第1逆ミセル溶液と、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、還元剤水溶液を混合してなる第2逆ミセル溶液と、を混合して前記遷移金属化合物と前記還元剤を反応させることにより金属ナノ粒子エマルションを調製する際に、前記界面活性剤としてエステル化度の異なる脂肪酸エステルを用いる。特には、平均エステル化度の異なる2種以上のショ糖脂肪酸エステルの配合比率を変えることによって金属ナノ粒子の粒子径を制御する。
【解決手段】ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、遷移金属化合物水溶液を混合してなる第1逆ミセル溶液と、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、還元剤水溶液を混合してなる第2逆ミセル溶液と、を混合して前記遷移金属化合物と前記還元剤を反応させることにより金属ナノ粒子エマルションを調製する際に、前記界面活性剤としてエステル化度の異なる脂肪酸エステルを用いる。特には、平均エステル化度の異なる2種以上のショ糖脂肪酸エステルの配合比率を変えることによって金属ナノ粒子の粒子径を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子の製造方法に関する。また、金属ナノ粒子エマルションを調製する際における金属ナノ粒子の粒子径を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粒子径が100nm以下の金属ナノ粒子は、その特徴を活かして、例えば、研磨材、封止材のフィラー、各種のフィルムや塗料の機能性フィラー、導電ペーストの添加剤、セラミックスの添加剤、電子部品の添加剤、トナーの外添剤、金属触媒など、様々な分野で利用されている。
【0003】
かかる金属ナノ粒子の製造方法として、下記特許文献1には、界面活性剤によって有機溶媒中に安定に分散したナノサイズの水滴を反応場として利用する逆ミセル法による強磁性合金ナノ粒子の製造方法が開示されている。しかしながら、同文献では、界面活性剤として、イオン性のものや、ノニオン界面活性剤であってもポリオキシエチレン型のものが用いられており、そのため、得られるW/Oマイクロエマルションの安定性に欠けるという問題がある。
【0004】
また、下記非特許文献1にも、同様の逆ミセル法を用いたPd(NH3)4Cl2のヒドラジンによる還元によりパラジウムのナノ粒子を調製する方法が開示されている。しかしながら、この文献でも、界面活性剤として、スルフォコハク酸塩型のアニオン界面活性剤を用いており、得られるマイクロエマルションの安定性に欠ける。
【0005】
一方、下記特許文献2には、逆ミセル法によって、希土類イオンを含む水溶液を逆ミセル内部で加水分解することで、単分散希土類酸化物超微粒子を製造する方法が開示されている。しかしながら、この方法は、希土類の酸化物の微粒子を得るものであり、金属粒子を得るものではなく、また、界面活性剤の種類についても開示されていない。同様に、下記特許文献3も逆ミセル法を適用したものであるが、希土類元素含有遷移金属の水酸化物又は酸化物からなるナノ粒子エマルションを調製するものであり、また、界面活性剤についても、スルホン塩型、4級アンモニウム型、エーテル型が開示されているだけである。
【0006】
また、下記非特許文献2及び3には、逆ミセル法を適用し、糖エステルのノニオン界面活性剤を含むW/Oマイクロエマルションを用いた硫化物(NiS,CdS,PbS)のナノ粒子の調製方法が開示されている。しかしながら、これらの文献は、硫化物のナノ粒子を得るものであって金属粒子を得るものではなく、また、界面活性剤としてもショ糖脂肪酸のモノエステルが用いられている。そのため、エステル化度の異なるショ糖脂肪酸エステルを組み合わせてその配合比率を変えることで、得られる金属ナノ粒子の粒子径を制御できることについては何ら開示されていない。
【特許文献1】特開2003−297617号公報
【特許文献2】特開平09−255331号公報
【特許文献3】特開2005−344177号公報
【非特許文献1】Dong-Hwang Chen、他2名、「Preparation of Palladium Ultrafine Particles in Reverse Micelles」、Journal of Colloid and Interface Science 210、p.123-129、1999年
【非特許文献2】P.S. Khiew、他3名、「Synthesis of NiS nanoparticles using a sugar-ester nonionic water-in-oil microemulsion」、Materials Letters 58、p.762-767、2004年
【非特許文献3】P.S. Khiew、他3名、「Studies on the growth and characterization of CdS and PbS nanoparticles using sugar-ester nonionic water-in-oil microemulsion」、Journal of Crystal Growth 254、p.235-243、2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安定性が良いマイクロエマルションが得られ、また得られる金属ナノ粒子の粒子径を制御することができる金属ナノ粒子の製造方法、及びその粒子径の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る金属ナノ粒子の製造方法は、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤であってエステル化度の異なる脂肪酸エステルの混合物からなる界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、遷移金属化合物水溶液とを混合してなる第1逆ミセル溶液と、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤であってエステル化度の異なる脂肪酸エステルの混合物からなる界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、還元剤水溶液とを混合してなる第2逆ミセル溶液と、を混合して前記遷移金属化合物と前記還元剤を反応させることにより金属ナノ粒子エマルションを調製する、という工程を含むものである。
【0009】
また、本発明に係る金属ナノ粒子の粒子径制御方法は、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、遷移金属化合物水溶液とを混合してなる第1逆ミセル溶液と、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、還元剤水溶液とを混合してなる第2逆ミセル溶液と、を混合して前記遷移金属化合物と前記還元剤を反応させることにより金属ナノ粒子エマルションを調製する際に、前記界面活性剤としてエステル化度の異なる2種以上の脂肪酸エステルを用いて、前記2種以上の脂肪酸エステルの配合比率を変えることによって前記金属ナノ粒子の粒子径を制御するものである。
【0010】
本発明に係る金属ナノ粒子の粒子径制御方法は、他の形態によれば、上記金属ナノ粒子エマルションを調製する際に、前記界面活性剤におけるモノエステルの比率と、ジエステル及びトリエステルの比率と、テトラエステル以上のエステル成分の比率と、前記金属ナノ粒子の粒子径との関係を求めておき、該関係に基づいて前記界面活性剤のエステル組成を変えることにより前記金属ナノ粒子の粒子径を制御するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、W/Oマイクロエマルションを形成するための界面活性剤として、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤であってエステル化度の異なる脂肪酸エステルの混合物からなるものを用いたことにより、安定性の良い金属ナノ粒子エマルションが再現性良く得られる。また、上記界面活性剤のエステル化度の組成を変えることにより、得られる金属ナノ粒子の粒子径を制御することができるので、目的とする上記各種の用途に好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、金属ナノ粒子を、界面活性剤を用いたW/Oマイクロエマルションを鋳型(制限反応場)として、遷移金属化合物の還元反応により製造する方法に係るものであり、以下、その実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明における上記第1逆ミセル溶液は、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、遷移金属化合物水溶液とを混合してなるものである。この溶液は、遷移金属化合物水溶液からなる水滴が、前記界面活性剤の親水性基に囲繞された状態で、非水溶性有機溶媒中に分散したW/Oエマルションである。
【0014】
上記遷移金属化合物水溶液において、遷移金属化合物は主として遷移金属塩として用いられ、その濃度は特に限定されないが、0.001〜1mol/Lであることが好ましい。遷移金属としては、特に限定されないが、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、鉄(Fe)が好ましい。
【0015】
上記界面活性剤としては、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤であってエステル化度の異なる脂肪酸エステルの混合物からなるものが用いられる。このような多成分系の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を用いることにより、安定性の良い逆ミセル溶液、即ちW/Oマイクロエマルションを得ることができる。また、多成分界面活性剤の組成をコントロールすることにより、得られる金属ナノ粒子の粒子径を制御することができる。
【0016】
より詳細には、平均エステル化度の異なる2種以上の脂肪酸エステルの混合物を用いることである。かかる平均エステル化度の異なる脂肪酸エステルの配合比率を変えることによって、金属ナノ粒子の粒子径を制御することができる。ポリオキシ化合物の脂肪酸エステルは、OH基を複数有するポリオキシ化合物のエステル化反応により合成する際に、エステル化度の異なる脂肪酸エステルの混合物として得ることができる。該エステル化の反応条件によって平均エステル化度を変えることができることから、平均エステル化度の異なるものが種々市販されている。本発明では、このような平均エステル化度の異なる複数の市販の脂肪酸エステルを組み合わせて用いることができる。
【0017】
かかるポリオキシ化合物の脂肪酸エステルの具体例としては、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられ、より好ましくは、ショ糖脂肪酸エステルを用いることである。従って、本発明では、エステル化度の異なるショ糖脂肪酸エステルの混合物からなる界面活性剤を用いることが好ましく、より好ましくは、平均エステル化度の異なる2種以上のショ糖脂肪酸エステルを混合して用いることである。
【0018】
より詳細には、界面活性剤、特にはショ糖脂肪酸エステルにおけるモノエステルの比率(重量分率)(x)と、ジエステル及びトリエステルの比率(重量分率)(y)と、テトラエステル以上のエステル成分の比率(重量分率)(z)と、前記金属ナノ粒子の平均粒子径(v)との関係を求めておき、該関係に基づいて、界面活性剤のエステル組成を変えることにより、金属ナノ粒子の粒子径を制御することができる。
【0019】
後記の実施例に示されるように、得られる金属ナノ粒子の粒子径は、ショ糖脂肪酸エステルのエステル組成に大きく依存し、テトラエステル以上の比率(z)が多いほど、平均粒子径(v)が大きくなる傾向がある。また、ジエステル及びトリエステルの比率(y)が多いほど、平均粒子径(v)がやや小さくなる傾向がある。更に、モノエステルの比率(x)が多いほど、平均粒子径(v)がやや大きくなる傾向がある。そのため、これらの関係は、下記一般式(1)で表される。
【0020】
v=ax−by+cz …(1)
式中、a、b及びcは、正の数であり、c>aの関係を満たす。
【0021】
よって、このような関係式を求めておけば、界面活性剤のエステル組成を変更することにより、金属ナノ粒子の粒子径を制御することができる。例えば、平均粒子径(v)を大きくしたい場合には、テトラエステル以上の比率(z)を大きくしたり、モノエステルの比率(x)を大きくすればよい。また、平均粒子径(v)を小さくしたい場合には、ジエステル及びトリエステルの比率(y)を大きくすればよい。
【0022】
上記式(1)は、対象とする遷移金属の種類や、界面活性剤の構成脂肪酸の組成などにより異なるため、それらに応じて上記係数a、b及びcを設けておけばよい。
【0023】
具体的な制御方法としては、市販のショ糖脂肪酸エステルは、上記のようにエステル化度の異なるエステルの混合物であるため、平均エステル化度の異なる2種以上のショ糖脂肪酸エステルの配合比率を変えることにより、界面活性剤の上記エステル組成を適宜変更することができる。その場合、平均エステル化度のできるだけ異なるものを組み合わせることがエステル組成を大きく変更させる上で有効である。
【0024】
上記脂肪酸エステルにおける脂肪酸の構成としては、特に限定されないが、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などが挙げられ、これらはそれぞれ単独又は2種以上組み合わせて用いられる。好ましくは、複数の脂肪酸を組み合わせて用いることである。
【0025】
非水溶性有機溶媒中の上記界面活性剤の配合量は、特に限定されないが、10〜100g/Lであることが好ましい。
【0026】
上記界面活性剤を溶解する非水溶性溶媒としては、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、シクロヘキサン、トルエンなどの無極性溶媒が好ましく用いられる。
【0027】
第1逆ミセル溶液は、上記非水溶性有機溶媒に上記界面活性剤を溶解させた溶液に、上記遷移金属化合物水溶液を添加し、均一に混合することにより調製することができる。遷移金属化合物水溶液の配合量は、特に限定されないが、逆ミセル溶液中に含まれる水の量である含水量として、1〜15g/Lであることが好ましい。また、該非水溶性有機溶媒には、共溶媒として、n−ブタノール、イソプロパノール、アミルアルコール、ヘキサノールなどの炭素数1〜6の低級アルコールを配合してもよい。
【0028】
本発明における上記第2逆ミセル溶液は、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、還元剤水溶液とを混合してなるものであり、還元剤水溶液からなる水滴が、前記界面活性剤の親水性基に囲繞された状態で、非水溶性有機溶媒中に分散したW/Oエマルションである。
【0029】
上記還元剤水溶液において、還元剤としては、上記遷移金属化合物を還元することができるものであれば特に限定されないが、例えば、ヒドラジン、ホウ水素化物(例えば、テトラヒドロホウ酸ナトリウム(NaBH4)、テトラヒドロホウ酸カリウム、テトラヒドロホウ酸リチウム)などが挙げられる。また、還元剤の濃度は特に限定されないが、0.1〜10mol/Lであることが好ましい。
【0030】
第2逆ミセル溶液における界面活性剤の種類及び配合量、非水溶性有機溶媒の種類、並びに含水量については、上記第1逆ミセル溶液の場合と同様である。第2逆ミセル溶液における界面活性剤の種類及び配合量、並びに非水溶性有機溶媒の種類は、第1逆ミセル溶液における界面活性剤の種類及び配合量、並び非水溶性有機溶媒の種類と、それぞれ異なるものとすることもできるが、それぞれ同一であることが、得られるマイクロエマルションの安定性等の点より、好ましい。
【0031】
以上よりなる第1逆ミセル溶液と第2逆ミセル溶液とを混合することで、金属ナノ粒子エマルションが生成される。混合方法は、均一に混ぜ合わせることができれば特に限定されない。両溶液を混ぜ合わせた後、一定時間、所定温度(好ましくは15〜40℃)で、静置条件下に保持することにより、上記遷移金属化合物の還元反応が完結し、金属ナノ粒子エマルションが得られる。
【0032】
詳細には、第1逆ミセル溶液と第2逆ミセル溶液を混合すると、上記界面活性剤に囲繞された状態で非水溶性有機溶媒中に分散したナノサイズの水滴中において、上記遷移金属化合物が還元剤により還元されて単体の遷移金属となり、よって、遷移金属のナノ粒子からなる金属ナノ粒子エマルションが得られる。ここで、ナノ粒子とは、100nm以下の粒子が50%以上を占めているものをいう。
【0033】
得られた金属ナノ粒子エマルションは、冷却等によって不溶化(沈殿)させることができ、濃縮することができる。また、沈殿後に適宜洗浄、乾燥することもできる。このようにして得られた金属ナノ粒子は、例えば、研磨材、封止材のフィラー、各種のフィルムや塗料の機能性フィラー、導電ペーストの添加剤、セラミックスの添加剤、電子部品の添加剤、トナーの外添剤、金属触媒に好適に用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
塩化パラジウム(II)と塩酸を反応させることにより0.1mol/Lのテトラクロロパラジウム酸(H2PdCl4)水溶液を調製した。n−ブタノールとイソオクタンを体積比でブタノール:イソオクタン=3:7にて含有する溶媒に、第一工業製薬株式会社製のノニオン界面活性剤「DKエステルF−110」を50g/Lで溶解させた。得られた界面活性剤溶液に、上記テトラクロロパラジウム酸水溶液を含水量が7.6g/Lとなるように添加して、第1逆ミセル溶液を調製した。また、上記と同じ界面活性剤溶液に、1mol/Lのヒドラジン(N2H5OH)水溶液を含水量が7.6g/Lとなるように添加して、第2逆ミセル溶液を調製した。
【0036】
DKエステルF−110は、エステル化度の異なるショ糖脂肪酸エステルの混合物であり、詳細は次の通り、
・エステル分布:モノエステル=57重量%、ジエステル+トリエステル=41重量%、テトラエステル以上=2重量%、平均エステル化度=1.48、
・構成脂肪酸:ステアリン酸70重量%、パルミチン酸30重量%。
【0037】
得られた第1逆ミセル溶液と第2逆ミセル溶液を同量均一に混合した後、25℃で3時間、静置条件下にて保持することで、下記還元反応により、パラジウムナノ粒子のエマルションを調製した。
【0038】
2H2PdCl4+N2H5OH → 2Pd+8HCl+N2+H2O
【0039】
500nmにおける吸光度を測定することにより、パラジウムナノ粒子形成反応の経時変化を調べたところ、図1に示すように、25℃でのナノ粒子の合成反応は50分経過後にほぼ完結した。
【0040】
反応後の液を銅のマイクログリッド指示膜に一滴たらし、減圧下デシケーター内で一昼夜乾燥させ、カーボンコーティングを施し、透過型電子顕微鏡(TEM)測定を行った。その結果、図2に示すように、平均粒子径が4.1nmの均一な球状粒子が得られた(変動係数=12.1%)。平均粒子径は、得られた粒子が球状であることから、代表長さ径を測定し、平均算術径を算出した。
【0041】
得られたパラジウムナノ粒子エマルションは、常温にて凝集することなく、少なくとも2ヶ月、安定な分散状態が保持されており、安定性に優れていた。また、このエマルションは5℃以下に冷却するだけで不溶化し、濃縮可能であり、取り扱い性に優れるものであった。
【0042】
(実施例2)
上記実施例1において、第1逆ミセル溶液と第2逆ミセル溶液の各含水量を変化させて、得られるパラジウムナノ粒子の粒子径との関係を調べた。その結果、図3に示すように、含水量の増加とともに平均粒子径がわずかながら上昇傾向を示したが、その依存性はわずかであった。
【0043】
(実施例3)
界面活性剤の濃度を50g/Lから25g/Lに変更し、その他は実施例1と同様にして、パラジウムナノ粒子エマルションを調製した。その結果、得られたパラジウムナノ粒子の粒子径は、実施例1とほぼ同等であり、そのため、ショ糖脂肪酸エステルからなる界面活性剤の濃度による依存性はみられなかった。
【0044】
(実施例4)
界面活性剤として、「DKエステルF−110」の代わりに、第一工業製薬株式会社製「DKエステルF−10」と「DKエステルSS」を組み合わせてその配合比率(重量比)を変えながら用い、その他は、実施例1と同様にして、パラジウムナノ粒子エマルションを調製した。
【0045】
DKエステルF−10は、モノエステルからオクタエステルまでのショ糖脂肪酸エステルの混合物であり、詳細は次の通り、
・エステル分布:モノエステル=1重量%、ジエステル+トリエステル=13重量%、テトラエステル以上=86重量%、平均エステル化度=4.85、
・構成脂肪酸:ステアリン酸70重量%、パルミチン酸30重量%。
【0046】
また、DKエステルSSは、モノエステルを99重量%含むショ糖脂肪酸エステルであり(平均エステル化度=1.01)、構成脂肪酸は、ステアリン酸60重量%、パルミチン酸40重量%である。
【0047】
各配合比率における平均粒子径と変動係数の結果を下記表1に示す。また、図4〜8に、各配合比率における粒子径分布のグラフを示し、図9に、パラジウムナノ粒子の平均粒子径と、界面活性剤のモノエステル重量分率との関係を示す。
【0048】
その結果、モノエステルの重量分率が増加すると(即ち、界面活性剤全体でのエステル化度が下がると)、パラジウムナノ粒子の粒子径は減少傾向を示し、特に、モノエステルの重量分率が0.5のときに、粒子径は極小値を示しており、粒子径が界面活性剤の組成に依存することが判明した。かかる重量分率と粒子径の関係は、繰り返して実験したところ、再現性良く保たれていた。そのため、界面活性剤の組成をコントロールすることで、得られるパラジウムナノ粒子の粒子径を制御できる。
【0049】
また、各パラジウムナノ粒子エマルションは、常温にて凝集することなく、少なくとも2ヶ月、安定な分散状態が保持されており、安定性に優れていた。また、このエマルションは5℃以下に冷却するだけで不溶化し、濃縮可能であった。
【表1】
【0050】
(実施例5)
界面活性剤として、「DKエステルF−110」の代わりに、第一工業製薬株式会社製「DKエステルF−20W」と「DKエステルSS」を組み合わせてその配合比率(重量比)を変えながら用い、その他は、実施例1と同様にして、パラジウムナノ粒子エマルションを調製した。
【0051】
DKエステルF−20Wは、モノエステルからオクタエステルまでのショ糖脂肪酸エステルの混合物であり、詳細は次の通り、
・エステル分布:モノエステル=11重量%、ジエステル+トリエステル=36重量%、テトラエステル以上=53重量%、平均エステル化度=3.1、
・構成脂肪酸:ステアリン酸70重量%、パルミチン酸30重量%。
【0052】
各配合比率における平均粒子径と変動係数の結果を下記表2に示す。また、図10に、パラジウムナノ粒子の平均粒子径と、界面活性剤のモノエステル重量分率との関係を示す。
【0053】
その結果、モノエステルの重量分率が増加すると(即ち、界面活性剤全体でのエステル化度が下がると)、パラジウムナノ粒子の粒子径は減少傾向を示しており、粒子径が界面活性剤の組成に依存していた。かかる重量分率と粒子径の関係は、繰り返して実験したところ、再現性良く保たれていた。そのため、界面活性剤の組成をコントロールすることで、得られるパラジウムナノ粒子の粒子径を制御できる。
【0054】
また、DKエステルF−10を用いた実施例4に比べて、DKエステルF−20Wを用いた実施例5では、全体的に粒子径が小さめであった。
【0055】
また、各パラジウムナノ粒子エマルションは、常温にて凝集することなく、少なくとも2ヶ月、安定な分散状態が保持されており、安定性に優れていた。また、このエマルションは5℃以下に冷却するだけで不溶化し、濃縮可能であった。
【表2】
【0056】
(実施例6)
界面活性剤として、「DKエステルF−110」の代わりに、第一工業製薬株式会社製「DKエステルF−50」と「DKエステルSS」を組み合わせてその配合比率(重量比)を変えながら用い、その他は、実施例1と同様にして、パラジウムナノ粒子エマルションを調製した。
【0057】
DKエステルF−50は、モノエステルからオクタエステルまでのショ糖脂肪酸エステルの混合物であり、詳細は次の通り、
・エステル分布:モノエステル=35重量%、ジエステル+トリエステル=53重量%、テトラエステル以上=12重量%、平均エステル化度=1.7、
・構成脂肪酸:ステアリン酸70重量%、パルミチン酸30重量%。
【0058】
各配合比率における平均粒子径と変動係数の結果を下記表3に示す。また、図11に、パラジウムナノ粒子の平均粒子径と、界面活性剤のモノエステル重量分率との関係を示す。
【0059】
その結果、モノエステルの重量分率が増加すると(即ち、界面活性剤全体でのエステル化度が下がると)、パラジウムナノ粒子の粒子径は増加傾向を示しており、粒子径が界面活性剤の組成に依存していた。かかる重量分率と粒子径の関係は、繰り返して実験したところ、再現性良く保たれていた。そのため、界面活性剤の組成をコントロールすることで、得られるパラジウムナノ粒子の粒子径を制御できる。
【0060】
また、各パラジウムナノ粒子エマルションは、常温にて凝集することなく、少なくとも2ヶ月、安定な分散状態が保持されており、安定性に優れていた。また、このエマルションは5℃以下に冷却するだけで不溶化し、濃縮可能であった。
【表3】
【0061】
(実施例7)
0.1mol/Lのテトラクロロパラジウム酸水溶液の代わりに、0.1mol/Lの硝酸銀(AgNO3)を用い、その他は実施例5と同様にして、Agナノ粒子エマルションを調製した。還元反応は次の通りである。
【0062】
4AgNO3+N2H5OH → 4Ag+4HNO3+N2+H2O
【0063】
DKエステルF−20WとDKエステルSSの各配合比率における平均粒子径と変動係数の結果を下記表4に示す。また、図12に、Agナノ粒子の平均粒子径と、界面活性剤のモノエステル重量分率との関係を示す。なお、Agナノ粒子の平均粒子径の測定方法は、上記パラジウムナノ粒子の場合と同じである。
【0064】
かかる重量分率と粒子径の関係は、繰り返して実験したところ、再現性良く保たれていた。そのため、界面活性剤の組成をコントロールすることで、得られるAgナノ粒子の粒子径を制御できる。また、各Agナノ粒子エマルションは、常温にて凝集することなく、少なくとも2ヶ月、安定な分散状態が保持されており、安定性に優れていた。また、このエマルションは5℃以下に冷却するだけで不溶化し、濃縮可能であった。
【表4】
【0065】
(比較例1)
界面活性剤として、「DKエステルF−110」の代わりに、第一工業製薬株式会社製「NL−60(DP−6)」を用い、その他は、実施例1と同様にして、第1及び第2逆ミセル溶液を調製し、両溶液を同量、均一に混合した後、25℃で3時間、静置条件下にて保持して反応させた。得られた液について、実施例1と同様にして、透過型電子顕微鏡(TEM)測定を行ったが、ナノ粒子は観察されなかった。NL−60は、ラウリルアルコールの6EO付加物からなるポリエーテル型ノニオン界面活性剤である。
【0066】
(比較例2)
界面活性剤として、「DKエステルF−110」の代わりに、第一工業製薬株式会社製「NL−60(DP−6)」を用い、また、0.1mol/Lのテトラクロロパラジウム酸水溶液の代わりに、0.1mol/Lの硝酸銀(AgNO3)を用い、その他は、実施例1と同様にして、第1及び第2逆ミセル溶液を調製し、両溶液を同量、均一に混合した後、25℃で3時間、静置条件下にて保持して反応させた。反応進行中において凝集が進んだ。得られた液について、実施例1と同様にして、透過型電子顕微鏡(TEM)測定を行ったところ、Agの凝集物が観察された。
【0067】
(比較例3)
界面活性剤として、「DKエステルF−110」の代わりに、第一工業製薬株式会社製「ノイゲンEA−80(NP−6)」を用い、また、0.1mol/Lのテトラクロロパラジウム酸水溶液の代わりに、0.1mol/Lの硝酸銀(AgNO3)を用い、その他は、実施例1と同様にして、第1及び第2逆ミセル溶液を調製し、両溶液を同量、均一に混合した後、25℃で3時間、静置条件下にて保持して反応させた。反応進行中において凝集が進んだ。得られた液について、実施例1と同様にして、透過型電子顕微鏡(TEM)測定を行ったところ、Agの凝集物が観察された。ノイゲンEA−80は、ノニルフェノールの6EO付加物からなるポリエーテル型ノニオン界面活性剤である。
【0068】
(実施例8)
上記実施例のデータを用いて、界面活性剤のエステル組成と得られたナノ粒子の平均粒子径との関係を調べた。上記エステル組成として、用いた界面活性剤におけるモノエステルの比率(x)と、ジエステル及びトリエステルのエステル成分の比率(y)と、テトラエステル以上のエステル成分の比率(z)とを求めて、これら各比率と平均粒子径との関係を求めた。用いたデータは下記表5の通りである。
【0069】
その結果、下記式(2)で表される関係が得られた。
【0070】
v=6.364x −2.281y+15.866z …(2)
この関係を図13に示す。同図からも明らかなように、テトラ成分以上のエステル成分が多いほど(左奥方向)、平均粒子径は大きくなる。また、ジ成分とトリ成分の合計量が多いほど(右方向)、平均粒子径はやや小さくなる。また、モノ成分が多いほど(左手前方向)、平均粒子径はやや大きくなる。
【0071】
この関係式(2)に当てはめて計算した計算値は、表5に示すように、実験値によく整合していた。そのため、この式(2)に基づき、界面活性剤のエステル組成を変更することにより、金属ナノ粒子の粒子径を制御できることが確認された。
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、例えば、研磨材、封止材のフィラー、各種のフィルムや塗料の機能性フィラー、導電ペーストの添加剤、セラミックスの添加剤、電子部品の添加剤、トナーの外添剤、金属触媒などに用いられる金属ナノ粒子を製造するために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1におけるナノ粒子形成反応の経時変化を示すグラフ
【図2】実施例1のナノ粒子の粒子径分布を示すグラフ
【図3】実施例2のナノ粒子の粒子径と含水量との関係を示すグラフ
【図4】SS/F−10=2/8系におけるナノ粒子の粒子径分布を示すグラフ
【図5】SS/F−10=4/6系におけるナノ粒子の粒子径分布を示すグラフ
【図6】SS/F−10=5/5系におけるナノ粒子の粒子径分布を示すグラフ
【図7】SS/F−10=6/4系におけるナノ粒子の粒子径分布を示すグラフ
【図8】SS/F−10=10/0系におけるナノ粒子の粒子径分布を示すグラフ
【図9】実施例4におけるナノ粒子の粒子径と界面活性剤組成との関係を示すグラフ
【図10】実施例5におけるナノ粒子の粒子径と界面活性剤組成との関係を示すグラフ
【図11】実施例6におけるナノ粒子の粒子径と界面活性剤組成との関係を示すグラフ
【図12】実施例7におけるナノ粒子の粒子径と界面活性剤組成との関係を示すグラフ
【図13】界面活性剤のエステル組成とナノ粒子の平均粒子径との関係を示すグラフ
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子の製造方法に関する。また、金属ナノ粒子エマルションを調製する際における金属ナノ粒子の粒子径を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粒子径が100nm以下の金属ナノ粒子は、その特徴を活かして、例えば、研磨材、封止材のフィラー、各種のフィルムや塗料の機能性フィラー、導電ペーストの添加剤、セラミックスの添加剤、電子部品の添加剤、トナーの外添剤、金属触媒など、様々な分野で利用されている。
【0003】
かかる金属ナノ粒子の製造方法として、下記特許文献1には、界面活性剤によって有機溶媒中に安定に分散したナノサイズの水滴を反応場として利用する逆ミセル法による強磁性合金ナノ粒子の製造方法が開示されている。しかしながら、同文献では、界面活性剤として、イオン性のものや、ノニオン界面活性剤であってもポリオキシエチレン型のものが用いられており、そのため、得られるW/Oマイクロエマルションの安定性に欠けるという問題がある。
【0004】
また、下記非特許文献1にも、同様の逆ミセル法を用いたPd(NH3)4Cl2のヒドラジンによる還元によりパラジウムのナノ粒子を調製する方法が開示されている。しかしながら、この文献でも、界面活性剤として、スルフォコハク酸塩型のアニオン界面活性剤を用いており、得られるマイクロエマルションの安定性に欠ける。
【0005】
一方、下記特許文献2には、逆ミセル法によって、希土類イオンを含む水溶液を逆ミセル内部で加水分解することで、単分散希土類酸化物超微粒子を製造する方法が開示されている。しかしながら、この方法は、希土類の酸化物の微粒子を得るものであり、金属粒子を得るものではなく、また、界面活性剤の種類についても開示されていない。同様に、下記特許文献3も逆ミセル法を適用したものであるが、希土類元素含有遷移金属の水酸化物又は酸化物からなるナノ粒子エマルションを調製するものであり、また、界面活性剤についても、スルホン塩型、4級アンモニウム型、エーテル型が開示されているだけである。
【0006】
また、下記非特許文献2及び3には、逆ミセル法を適用し、糖エステルのノニオン界面活性剤を含むW/Oマイクロエマルションを用いた硫化物(NiS,CdS,PbS)のナノ粒子の調製方法が開示されている。しかしながら、これらの文献は、硫化物のナノ粒子を得るものであって金属粒子を得るものではなく、また、界面活性剤としてもショ糖脂肪酸のモノエステルが用いられている。そのため、エステル化度の異なるショ糖脂肪酸エステルを組み合わせてその配合比率を変えることで、得られる金属ナノ粒子の粒子径を制御できることについては何ら開示されていない。
【特許文献1】特開2003−297617号公報
【特許文献2】特開平09−255331号公報
【特許文献3】特開2005−344177号公報
【非特許文献1】Dong-Hwang Chen、他2名、「Preparation of Palladium Ultrafine Particles in Reverse Micelles」、Journal of Colloid and Interface Science 210、p.123-129、1999年
【非特許文献2】P.S. Khiew、他3名、「Synthesis of NiS nanoparticles using a sugar-ester nonionic water-in-oil microemulsion」、Materials Letters 58、p.762-767、2004年
【非特許文献3】P.S. Khiew、他3名、「Studies on the growth and characterization of CdS and PbS nanoparticles using sugar-ester nonionic water-in-oil microemulsion」、Journal of Crystal Growth 254、p.235-243、2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安定性が良いマイクロエマルションが得られ、また得られる金属ナノ粒子の粒子径を制御することができる金属ナノ粒子の製造方法、及びその粒子径の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る金属ナノ粒子の製造方法は、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤であってエステル化度の異なる脂肪酸エステルの混合物からなる界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、遷移金属化合物水溶液とを混合してなる第1逆ミセル溶液と、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤であってエステル化度の異なる脂肪酸エステルの混合物からなる界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、還元剤水溶液とを混合してなる第2逆ミセル溶液と、を混合して前記遷移金属化合物と前記還元剤を反応させることにより金属ナノ粒子エマルションを調製する、という工程を含むものである。
【0009】
また、本発明に係る金属ナノ粒子の粒子径制御方法は、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、遷移金属化合物水溶液とを混合してなる第1逆ミセル溶液と、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、還元剤水溶液とを混合してなる第2逆ミセル溶液と、を混合して前記遷移金属化合物と前記還元剤を反応させることにより金属ナノ粒子エマルションを調製する際に、前記界面活性剤としてエステル化度の異なる2種以上の脂肪酸エステルを用いて、前記2種以上の脂肪酸エステルの配合比率を変えることによって前記金属ナノ粒子の粒子径を制御するものである。
【0010】
本発明に係る金属ナノ粒子の粒子径制御方法は、他の形態によれば、上記金属ナノ粒子エマルションを調製する際に、前記界面活性剤におけるモノエステルの比率と、ジエステル及びトリエステルの比率と、テトラエステル以上のエステル成分の比率と、前記金属ナノ粒子の粒子径との関係を求めておき、該関係に基づいて前記界面活性剤のエステル組成を変えることにより前記金属ナノ粒子の粒子径を制御するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、W/Oマイクロエマルションを形成するための界面活性剤として、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤であってエステル化度の異なる脂肪酸エステルの混合物からなるものを用いたことにより、安定性の良い金属ナノ粒子エマルションが再現性良く得られる。また、上記界面活性剤のエステル化度の組成を変えることにより、得られる金属ナノ粒子の粒子径を制御することができるので、目的とする上記各種の用途に好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、金属ナノ粒子を、界面活性剤を用いたW/Oマイクロエマルションを鋳型(制限反応場)として、遷移金属化合物の還元反応により製造する方法に係るものであり、以下、その実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明における上記第1逆ミセル溶液は、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、遷移金属化合物水溶液とを混合してなるものである。この溶液は、遷移金属化合物水溶液からなる水滴が、前記界面活性剤の親水性基に囲繞された状態で、非水溶性有機溶媒中に分散したW/Oエマルションである。
【0014】
上記遷移金属化合物水溶液において、遷移金属化合物は主として遷移金属塩として用いられ、その濃度は特に限定されないが、0.001〜1mol/Lであることが好ましい。遷移金属としては、特に限定されないが、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、鉄(Fe)が好ましい。
【0015】
上記界面活性剤としては、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤であってエステル化度の異なる脂肪酸エステルの混合物からなるものが用いられる。このような多成分系の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を用いることにより、安定性の良い逆ミセル溶液、即ちW/Oマイクロエマルションを得ることができる。また、多成分界面活性剤の組成をコントロールすることにより、得られる金属ナノ粒子の粒子径を制御することができる。
【0016】
より詳細には、平均エステル化度の異なる2種以上の脂肪酸エステルの混合物を用いることである。かかる平均エステル化度の異なる脂肪酸エステルの配合比率を変えることによって、金属ナノ粒子の粒子径を制御することができる。ポリオキシ化合物の脂肪酸エステルは、OH基を複数有するポリオキシ化合物のエステル化反応により合成する際に、エステル化度の異なる脂肪酸エステルの混合物として得ることができる。該エステル化の反応条件によって平均エステル化度を変えることができることから、平均エステル化度の異なるものが種々市販されている。本発明では、このような平均エステル化度の異なる複数の市販の脂肪酸エステルを組み合わせて用いることができる。
【0017】
かかるポリオキシ化合物の脂肪酸エステルの具体例としては、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられ、より好ましくは、ショ糖脂肪酸エステルを用いることである。従って、本発明では、エステル化度の異なるショ糖脂肪酸エステルの混合物からなる界面活性剤を用いることが好ましく、より好ましくは、平均エステル化度の異なる2種以上のショ糖脂肪酸エステルを混合して用いることである。
【0018】
より詳細には、界面活性剤、特にはショ糖脂肪酸エステルにおけるモノエステルの比率(重量分率)(x)と、ジエステル及びトリエステルの比率(重量分率)(y)と、テトラエステル以上のエステル成分の比率(重量分率)(z)と、前記金属ナノ粒子の平均粒子径(v)との関係を求めておき、該関係に基づいて、界面活性剤のエステル組成を変えることにより、金属ナノ粒子の粒子径を制御することができる。
【0019】
後記の実施例に示されるように、得られる金属ナノ粒子の粒子径は、ショ糖脂肪酸エステルのエステル組成に大きく依存し、テトラエステル以上の比率(z)が多いほど、平均粒子径(v)が大きくなる傾向がある。また、ジエステル及びトリエステルの比率(y)が多いほど、平均粒子径(v)がやや小さくなる傾向がある。更に、モノエステルの比率(x)が多いほど、平均粒子径(v)がやや大きくなる傾向がある。そのため、これらの関係は、下記一般式(1)で表される。
【0020】
v=ax−by+cz …(1)
式中、a、b及びcは、正の数であり、c>aの関係を満たす。
【0021】
よって、このような関係式を求めておけば、界面活性剤のエステル組成を変更することにより、金属ナノ粒子の粒子径を制御することができる。例えば、平均粒子径(v)を大きくしたい場合には、テトラエステル以上の比率(z)を大きくしたり、モノエステルの比率(x)を大きくすればよい。また、平均粒子径(v)を小さくしたい場合には、ジエステル及びトリエステルの比率(y)を大きくすればよい。
【0022】
上記式(1)は、対象とする遷移金属の種類や、界面活性剤の構成脂肪酸の組成などにより異なるため、それらに応じて上記係数a、b及びcを設けておけばよい。
【0023】
具体的な制御方法としては、市販のショ糖脂肪酸エステルは、上記のようにエステル化度の異なるエステルの混合物であるため、平均エステル化度の異なる2種以上のショ糖脂肪酸エステルの配合比率を変えることにより、界面活性剤の上記エステル組成を適宜変更することができる。その場合、平均エステル化度のできるだけ異なるものを組み合わせることがエステル組成を大きく変更させる上で有効である。
【0024】
上記脂肪酸エステルにおける脂肪酸の構成としては、特に限定されないが、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などが挙げられ、これらはそれぞれ単独又は2種以上組み合わせて用いられる。好ましくは、複数の脂肪酸を組み合わせて用いることである。
【0025】
非水溶性有機溶媒中の上記界面活性剤の配合量は、特に限定されないが、10〜100g/Lであることが好ましい。
【0026】
上記界面活性剤を溶解する非水溶性溶媒としては、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、シクロヘキサン、トルエンなどの無極性溶媒が好ましく用いられる。
【0027】
第1逆ミセル溶液は、上記非水溶性有機溶媒に上記界面活性剤を溶解させた溶液に、上記遷移金属化合物水溶液を添加し、均一に混合することにより調製することができる。遷移金属化合物水溶液の配合量は、特に限定されないが、逆ミセル溶液中に含まれる水の量である含水量として、1〜15g/Lであることが好ましい。また、該非水溶性有機溶媒には、共溶媒として、n−ブタノール、イソプロパノール、アミルアルコール、ヘキサノールなどの炭素数1〜6の低級アルコールを配合してもよい。
【0028】
本発明における上記第2逆ミセル溶液は、ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、還元剤水溶液とを混合してなるものであり、還元剤水溶液からなる水滴が、前記界面活性剤の親水性基に囲繞された状態で、非水溶性有機溶媒中に分散したW/Oエマルションである。
【0029】
上記還元剤水溶液において、還元剤としては、上記遷移金属化合物を還元することができるものであれば特に限定されないが、例えば、ヒドラジン、ホウ水素化物(例えば、テトラヒドロホウ酸ナトリウム(NaBH4)、テトラヒドロホウ酸カリウム、テトラヒドロホウ酸リチウム)などが挙げられる。また、還元剤の濃度は特に限定されないが、0.1〜10mol/Lであることが好ましい。
【0030】
第2逆ミセル溶液における界面活性剤の種類及び配合量、非水溶性有機溶媒の種類、並びに含水量については、上記第1逆ミセル溶液の場合と同様である。第2逆ミセル溶液における界面活性剤の種類及び配合量、並びに非水溶性有機溶媒の種類は、第1逆ミセル溶液における界面活性剤の種類及び配合量、並び非水溶性有機溶媒の種類と、それぞれ異なるものとすることもできるが、それぞれ同一であることが、得られるマイクロエマルションの安定性等の点より、好ましい。
【0031】
以上よりなる第1逆ミセル溶液と第2逆ミセル溶液とを混合することで、金属ナノ粒子エマルションが生成される。混合方法は、均一に混ぜ合わせることができれば特に限定されない。両溶液を混ぜ合わせた後、一定時間、所定温度(好ましくは15〜40℃)で、静置条件下に保持することにより、上記遷移金属化合物の還元反応が完結し、金属ナノ粒子エマルションが得られる。
【0032】
詳細には、第1逆ミセル溶液と第2逆ミセル溶液を混合すると、上記界面活性剤に囲繞された状態で非水溶性有機溶媒中に分散したナノサイズの水滴中において、上記遷移金属化合物が還元剤により還元されて単体の遷移金属となり、よって、遷移金属のナノ粒子からなる金属ナノ粒子エマルションが得られる。ここで、ナノ粒子とは、100nm以下の粒子が50%以上を占めているものをいう。
【0033】
得られた金属ナノ粒子エマルションは、冷却等によって不溶化(沈殿)させることができ、濃縮することができる。また、沈殿後に適宜洗浄、乾燥することもできる。このようにして得られた金属ナノ粒子は、例えば、研磨材、封止材のフィラー、各種のフィルムや塗料の機能性フィラー、導電ペーストの添加剤、セラミックスの添加剤、電子部品の添加剤、トナーの外添剤、金属触媒に好適に用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
塩化パラジウム(II)と塩酸を反応させることにより0.1mol/Lのテトラクロロパラジウム酸(H2PdCl4)水溶液を調製した。n−ブタノールとイソオクタンを体積比でブタノール:イソオクタン=3:7にて含有する溶媒に、第一工業製薬株式会社製のノニオン界面活性剤「DKエステルF−110」を50g/Lで溶解させた。得られた界面活性剤溶液に、上記テトラクロロパラジウム酸水溶液を含水量が7.6g/Lとなるように添加して、第1逆ミセル溶液を調製した。また、上記と同じ界面活性剤溶液に、1mol/Lのヒドラジン(N2H5OH)水溶液を含水量が7.6g/Lとなるように添加して、第2逆ミセル溶液を調製した。
【0036】
DKエステルF−110は、エステル化度の異なるショ糖脂肪酸エステルの混合物であり、詳細は次の通り、
・エステル分布:モノエステル=57重量%、ジエステル+トリエステル=41重量%、テトラエステル以上=2重量%、平均エステル化度=1.48、
・構成脂肪酸:ステアリン酸70重量%、パルミチン酸30重量%。
【0037】
得られた第1逆ミセル溶液と第2逆ミセル溶液を同量均一に混合した後、25℃で3時間、静置条件下にて保持することで、下記還元反応により、パラジウムナノ粒子のエマルションを調製した。
【0038】
2H2PdCl4+N2H5OH → 2Pd+8HCl+N2+H2O
【0039】
500nmにおける吸光度を測定することにより、パラジウムナノ粒子形成反応の経時変化を調べたところ、図1に示すように、25℃でのナノ粒子の合成反応は50分経過後にほぼ完結した。
【0040】
反応後の液を銅のマイクログリッド指示膜に一滴たらし、減圧下デシケーター内で一昼夜乾燥させ、カーボンコーティングを施し、透過型電子顕微鏡(TEM)測定を行った。その結果、図2に示すように、平均粒子径が4.1nmの均一な球状粒子が得られた(変動係数=12.1%)。平均粒子径は、得られた粒子が球状であることから、代表長さ径を測定し、平均算術径を算出した。
【0041】
得られたパラジウムナノ粒子エマルションは、常温にて凝集することなく、少なくとも2ヶ月、安定な分散状態が保持されており、安定性に優れていた。また、このエマルションは5℃以下に冷却するだけで不溶化し、濃縮可能であり、取り扱い性に優れるものであった。
【0042】
(実施例2)
上記実施例1において、第1逆ミセル溶液と第2逆ミセル溶液の各含水量を変化させて、得られるパラジウムナノ粒子の粒子径との関係を調べた。その結果、図3に示すように、含水量の増加とともに平均粒子径がわずかながら上昇傾向を示したが、その依存性はわずかであった。
【0043】
(実施例3)
界面活性剤の濃度を50g/Lから25g/Lに変更し、その他は実施例1と同様にして、パラジウムナノ粒子エマルションを調製した。その結果、得られたパラジウムナノ粒子の粒子径は、実施例1とほぼ同等であり、そのため、ショ糖脂肪酸エステルからなる界面活性剤の濃度による依存性はみられなかった。
【0044】
(実施例4)
界面活性剤として、「DKエステルF−110」の代わりに、第一工業製薬株式会社製「DKエステルF−10」と「DKエステルSS」を組み合わせてその配合比率(重量比)を変えながら用い、その他は、実施例1と同様にして、パラジウムナノ粒子エマルションを調製した。
【0045】
DKエステルF−10は、モノエステルからオクタエステルまでのショ糖脂肪酸エステルの混合物であり、詳細は次の通り、
・エステル分布:モノエステル=1重量%、ジエステル+トリエステル=13重量%、テトラエステル以上=86重量%、平均エステル化度=4.85、
・構成脂肪酸:ステアリン酸70重量%、パルミチン酸30重量%。
【0046】
また、DKエステルSSは、モノエステルを99重量%含むショ糖脂肪酸エステルであり(平均エステル化度=1.01)、構成脂肪酸は、ステアリン酸60重量%、パルミチン酸40重量%である。
【0047】
各配合比率における平均粒子径と変動係数の結果を下記表1に示す。また、図4〜8に、各配合比率における粒子径分布のグラフを示し、図9に、パラジウムナノ粒子の平均粒子径と、界面活性剤のモノエステル重量分率との関係を示す。
【0048】
その結果、モノエステルの重量分率が増加すると(即ち、界面活性剤全体でのエステル化度が下がると)、パラジウムナノ粒子の粒子径は減少傾向を示し、特に、モノエステルの重量分率が0.5のときに、粒子径は極小値を示しており、粒子径が界面活性剤の組成に依存することが判明した。かかる重量分率と粒子径の関係は、繰り返して実験したところ、再現性良く保たれていた。そのため、界面活性剤の組成をコントロールすることで、得られるパラジウムナノ粒子の粒子径を制御できる。
【0049】
また、各パラジウムナノ粒子エマルションは、常温にて凝集することなく、少なくとも2ヶ月、安定な分散状態が保持されており、安定性に優れていた。また、このエマルションは5℃以下に冷却するだけで不溶化し、濃縮可能であった。
【表1】
【0050】
(実施例5)
界面活性剤として、「DKエステルF−110」の代わりに、第一工業製薬株式会社製「DKエステルF−20W」と「DKエステルSS」を組み合わせてその配合比率(重量比)を変えながら用い、その他は、実施例1と同様にして、パラジウムナノ粒子エマルションを調製した。
【0051】
DKエステルF−20Wは、モノエステルからオクタエステルまでのショ糖脂肪酸エステルの混合物であり、詳細は次の通り、
・エステル分布:モノエステル=11重量%、ジエステル+トリエステル=36重量%、テトラエステル以上=53重量%、平均エステル化度=3.1、
・構成脂肪酸:ステアリン酸70重量%、パルミチン酸30重量%。
【0052】
各配合比率における平均粒子径と変動係数の結果を下記表2に示す。また、図10に、パラジウムナノ粒子の平均粒子径と、界面活性剤のモノエステル重量分率との関係を示す。
【0053】
その結果、モノエステルの重量分率が増加すると(即ち、界面活性剤全体でのエステル化度が下がると)、パラジウムナノ粒子の粒子径は減少傾向を示しており、粒子径が界面活性剤の組成に依存していた。かかる重量分率と粒子径の関係は、繰り返して実験したところ、再現性良く保たれていた。そのため、界面活性剤の組成をコントロールすることで、得られるパラジウムナノ粒子の粒子径を制御できる。
【0054】
また、DKエステルF−10を用いた実施例4に比べて、DKエステルF−20Wを用いた実施例5では、全体的に粒子径が小さめであった。
【0055】
また、各パラジウムナノ粒子エマルションは、常温にて凝集することなく、少なくとも2ヶ月、安定な分散状態が保持されており、安定性に優れていた。また、このエマルションは5℃以下に冷却するだけで不溶化し、濃縮可能であった。
【表2】
【0056】
(実施例6)
界面活性剤として、「DKエステルF−110」の代わりに、第一工業製薬株式会社製「DKエステルF−50」と「DKエステルSS」を組み合わせてその配合比率(重量比)を変えながら用い、その他は、実施例1と同様にして、パラジウムナノ粒子エマルションを調製した。
【0057】
DKエステルF−50は、モノエステルからオクタエステルまでのショ糖脂肪酸エステルの混合物であり、詳細は次の通り、
・エステル分布:モノエステル=35重量%、ジエステル+トリエステル=53重量%、テトラエステル以上=12重量%、平均エステル化度=1.7、
・構成脂肪酸:ステアリン酸70重量%、パルミチン酸30重量%。
【0058】
各配合比率における平均粒子径と変動係数の結果を下記表3に示す。また、図11に、パラジウムナノ粒子の平均粒子径と、界面活性剤のモノエステル重量分率との関係を示す。
【0059】
その結果、モノエステルの重量分率が増加すると(即ち、界面活性剤全体でのエステル化度が下がると)、パラジウムナノ粒子の粒子径は増加傾向を示しており、粒子径が界面活性剤の組成に依存していた。かかる重量分率と粒子径の関係は、繰り返して実験したところ、再現性良く保たれていた。そのため、界面活性剤の組成をコントロールすることで、得られるパラジウムナノ粒子の粒子径を制御できる。
【0060】
また、各パラジウムナノ粒子エマルションは、常温にて凝集することなく、少なくとも2ヶ月、安定な分散状態が保持されており、安定性に優れていた。また、このエマルションは5℃以下に冷却するだけで不溶化し、濃縮可能であった。
【表3】
【0061】
(実施例7)
0.1mol/Lのテトラクロロパラジウム酸水溶液の代わりに、0.1mol/Lの硝酸銀(AgNO3)を用い、その他は実施例5と同様にして、Agナノ粒子エマルションを調製した。還元反応は次の通りである。
【0062】
4AgNO3+N2H5OH → 4Ag+4HNO3+N2+H2O
【0063】
DKエステルF−20WとDKエステルSSの各配合比率における平均粒子径と変動係数の結果を下記表4に示す。また、図12に、Agナノ粒子の平均粒子径と、界面活性剤のモノエステル重量分率との関係を示す。なお、Agナノ粒子の平均粒子径の測定方法は、上記パラジウムナノ粒子の場合と同じである。
【0064】
かかる重量分率と粒子径の関係は、繰り返して実験したところ、再現性良く保たれていた。そのため、界面活性剤の組成をコントロールすることで、得られるAgナノ粒子の粒子径を制御できる。また、各Agナノ粒子エマルションは、常温にて凝集することなく、少なくとも2ヶ月、安定な分散状態が保持されており、安定性に優れていた。また、このエマルションは5℃以下に冷却するだけで不溶化し、濃縮可能であった。
【表4】
【0065】
(比較例1)
界面活性剤として、「DKエステルF−110」の代わりに、第一工業製薬株式会社製「NL−60(DP−6)」を用い、その他は、実施例1と同様にして、第1及び第2逆ミセル溶液を調製し、両溶液を同量、均一に混合した後、25℃で3時間、静置条件下にて保持して反応させた。得られた液について、実施例1と同様にして、透過型電子顕微鏡(TEM)測定を行ったが、ナノ粒子は観察されなかった。NL−60は、ラウリルアルコールの6EO付加物からなるポリエーテル型ノニオン界面活性剤である。
【0066】
(比較例2)
界面活性剤として、「DKエステルF−110」の代わりに、第一工業製薬株式会社製「NL−60(DP−6)」を用い、また、0.1mol/Lのテトラクロロパラジウム酸水溶液の代わりに、0.1mol/Lの硝酸銀(AgNO3)を用い、その他は、実施例1と同様にして、第1及び第2逆ミセル溶液を調製し、両溶液を同量、均一に混合した後、25℃で3時間、静置条件下にて保持して反応させた。反応進行中において凝集が進んだ。得られた液について、実施例1と同様にして、透過型電子顕微鏡(TEM)測定を行ったところ、Agの凝集物が観察された。
【0067】
(比較例3)
界面活性剤として、「DKエステルF−110」の代わりに、第一工業製薬株式会社製「ノイゲンEA−80(NP−6)」を用い、また、0.1mol/Lのテトラクロロパラジウム酸水溶液の代わりに、0.1mol/Lの硝酸銀(AgNO3)を用い、その他は、実施例1と同様にして、第1及び第2逆ミセル溶液を調製し、両溶液を同量、均一に混合した後、25℃で3時間、静置条件下にて保持して反応させた。反応進行中において凝集が進んだ。得られた液について、実施例1と同様にして、透過型電子顕微鏡(TEM)測定を行ったところ、Agの凝集物が観察された。ノイゲンEA−80は、ノニルフェノールの6EO付加物からなるポリエーテル型ノニオン界面活性剤である。
【0068】
(実施例8)
上記実施例のデータを用いて、界面活性剤のエステル組成と得られたナノ粒子の平均粒子径との関係を調べた。上記エステル組成として、用いた界面活性剤におけるモノエステルの比率(x)と、ジエステル及びトリエステルのエステル成分の比率(y)と、テトラエステル以上のエステル成分の比率(z)とを求めて、これら各比率と平均粒子径との関係を求めた。用いたデータは下記表5の通りである。
【0069】
その結果、下記式(2)で表される関係が得られた。
【0070】
v=6.364x −2.281y+15.866z …(2)
この関係を図13に示す。同図からも明らかなように、テトラ成分以上のエステル成分が多いほど(左奥方向)、平均粒子径は大きくなる。また、ジ成分とトリ成分の合計量が多いほど(右方向)、平均粒子径はやや小さくなる。また、モノ成分が多いほど(左手前方向)、平均粒子径はやや大きくなる。
【0071】
この関係式(2)に当てはめて計算した計算値は、表5に示すように、実験値によく整合していた。そのため、この式(2)に基づき、界面活性剤のエステル組成を変更することにより、金属ナノ粒子の粒子径を制御できることが確認された。
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、例えば、研磨材、封止材のフィラー、各種のフィルムや塗料の機能性フィラー、導電ペーストの添加剤、セラミックスの添加剤、電子部品の添加剤、トナーの外添剤、金属触媒などに用いられる金属ナノ粒子を製造するために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1におけるナノ粒子形成反応の経時変化を示すグラフ
【図2】実施例1のナノ粒子の粒子径分布を示すグラフ
【図3】実施例2のナノ粒子の粒子径と含水量との関係を示すグラフ
【図4】SS/F−10=2/8系におけるナノ粒子の粒子径分布を示すグラフ
【図5】SS/F−10=4/6系におけるナノ粒子の粒子径分布を示すグラフ
【図6】SS/F−10=5/5系におけるナノ粒子の粒子径分布を示すグラフ
【図7】SS/F−10=6/4系におけるナノ粒子の粒子径分布を示すグラフ
【図8】SS/F−10=10/0系におけるナノ粒子の粒子径分布を示すグラフ
【図9】実施例4におけるナノ粒子の粒子径と界面活性剤組成との関係を示すグラフ
【図10】実施例5におけるナノ粒子の粒子径と界面活性剤組成との関係を示すグラフ
【図11】実施例6におけるナノ粒子の粒子径と界面活性剤組成との関係を示すグラフ
【図12】実施例7におけるナノ粒子の粒子径と界面活性剤組成との関係を示すグラフ
【図13】界面活性剤のエステル組成とナノ粒子の平均粒子径との関係を示すグラフ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤であってエステル化度の異なる脂肪酸エステルの混合物からなる界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、遷移金属化合物水溶液とを混合してなる第1逆ミセル溶液と、
ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤であってエステル化度の異なる脂肪酸エステルの混合物からなる界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、還元剤水溶液とを混合してなる第2逆ミセル溶液と、
を混合して前記遷移金属化合物と前記還元剤を反応させることにより金属ナノ粒子エマルションを調製する、
ことを特徴とする金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記界面活性剤が、平均エステル化度の異なる2種以上の脂肪酸エステルの混合物である、請求項1記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記脂肪酸エステルがショ糖脂肪酸エステルである請求項1又は2記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、遷移金属化合物水溶液とを混合してなる第1逆ミセル溶液と、
ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、還元剤水溶液とを混合してなる第2逆ミセル溶液と、
を混合して前記遷移金属化合物と前記還元剤を反応させることにより金属ナノ粒子エマルションを調製する際に、
前記界面活性剤としてエステル化度の異なる2種以上の脂肪酸エステルを用いて、前記2種以上の脂肪酸エステルの配合比率を変えることによって前記金属ナノ粒子の粒子径を制御する、
ことを特徴とする金属ナノ粒子の粒子径制御方法。
【請求項5】
ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、遷移金属化合物水溶液とを混合してなる第1逆ミセル溶液と、
ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、還元剤水溶液とを混合してなる第2逆ミセル溶液と、
を混合して前記遷移金属化合物と前記還元剤を反応させることにより金属ナノ粒子エマルションを調製する際に、
前記界面活性剤におけるモノエステルの比率と、ジエステル及びトリエステルの比率と、テトラエステル以上のエステル成分の比率と、前記金属ナノ粒子の粒子径との関係を求めておき、該関係に基づいて前記界面活性剤のエステル組成を変えることにより前記金属ナノ粒子の粒子径を制御する、
ことを特徴とする金属ナノ粒子の粒子径制御方法。
【請求項1】
ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤であってエステル化度の異なる脂肪酸エステルの混合物からなる界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、遷移金属化合物水溶液とを混合してなる第1逆ミセル溶液と、
ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤であってエステル化度の異なる脂肪酸エステルの混合物からなる界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、還元剤水溶液とを混合してなる第2逆ミセル溶液と、
を混合して前記遷移金属化合物と前記還元剤を反応させることにより金属ナノ粒子エマルションを調製する、
ことを特徴とする金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記界面活性剤が、平均エステル化度の異なる2種以上の脂肪酸エステルの混合物である、請求項1記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記脂肪酸エステルがショ糖脂肪酸エステルである請求項1又は2記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、遷移金属化合物水溶液とを混合してなる第1逆ミセル溶液と、
ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、還元剤水溶液とを混合してなる第2逆ミセル溶液と、
を混合して前記遷移金属化合物と前記還元剤を反応させることにより金属ナノ粒子エマルションを調製する際に、
前記界面活性剤としてエステル化度の異なる2種以上の脂肪酸エステルを用いて、前記2種以上の脂肪酸エステルの配合比率を変えることによって前記金属ナノ粒子の粒子径を制御する、
ことを特徴とする金属ナノ粒子の粒子径制御方法。
【請求項5】
ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、遷移金属化合物水溶液とを混合してなる第1逆ミセル溶液と、
ポリオキシ化合物の脂肪酸エステル型ノニオン界面活性剤を含む非水溶性有機溶媒と、還元剤水溶液とを混合してなる第2逆ミセル溶液と、
を混合して前記遷移金属化合物と前記還元剤を反応させることにより金属ナノ粒子エマルションを調製する際に、
前記界面活性剤におけるモノエステルの比率と、ジエステル及びトリエステルの比率と、テトラエステル以上のエステル成分の比率と、前記金属ナノ粒子の粒子径との関係を求めておき、該関係に基づいて前記界面活性剤のエステル組成を変えることにより前記金属ナノ粒子の粒子径を制御する、
ことを特徴とする金属ナノ粒子の粒子径制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−231489(P2008−231489A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71406(P2007−71406)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]