説明

金属フタロシアニンナノワイヤーの製造方法

【課題】金属フタロシアニンを含むナノワイヤーの、簡便で工業的に優れた製造方法を提供する。
【解決手段】水溶性多価アルコール中において、金属フタロシアニンスルファモイル化合物の存在下、イソインドリン化合物と金属イオンとを反応させる金属フタロシアニンナノワイヤーの製造方法を提供する。該製造方法により金属フタロシアニンの結晶成長が、環状面に対し水平方向には抑制され、環状面に対し垂直方向に結晶成長するので、簡便に金属フタロシアニンナノワイヤーを提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属フタロシアニンを含むナノワイヤーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属フタロシアニンナノワイヤーとしては、特許文献1には、導電性ナノワイヤーの製造装置および製造方法について、幅が構成分子1個分〜1μmで、長さが1nm〜500μmであり、π電子系を持つ有機化合物から成る有機伝導体を構成分子として含む分子集合体について記載があり、π電子を含む有機伝導体が、テトラフェニルホスホニウム・ジシアノコバルト(III)フタロシアニンであることが記載されている。また、該導電性ナノワイヤーの製造方法として、2本の電極と、電極液と2本の電極とを保持する電極セルとを含み、前記2本の電極の間隔が1nm〜100μmであり、前記電極セルに分子集合体を構成する分子を含む電極液を保持させ、電極液と前記2本の電極とが接触した状態で前記2本の電極に電圧を印加することにより分子集合体を製造することが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、非導電性ナノワイヤーとして、幅が構成分子1個分〜1μmであり、長さが1nm〜500μmであり、有機モット絶縁体である非導電性ナノワイヤーが記載されており、前記有機モット絶縁体が、有機化合物の結晶を含む有機モット絶縁体である非導電性ナノワイヤーであること、前記有機化合物の結晶がフタロシアニン誘導体であることが記載されている。
【0004】
一方、フタロシアニン化合物は印刷インキや塗料、プラスチック着色剤等に用いられる顔料として重要な有機化合物であり、その分子中に金属原子を含む金属フタロシアニン、中でも銅原子を含む銅フタロシアニンは極めて重要な有機顔料である。
【0005】
このような金属フタロシアニンの合成方法としては、使用する主な原料種の観点から、フタロニトリル化合物若しくはその誘導体と金属塩等を原料とするフタロジニトリル法や、無水フタル酸若しくはその誘導体と、尿素若しくはその誘導体とを、金属塩等と共にモリブデン化合物等の触媒存在下で反応させるワイラー法が知られている。
【0006】
また、上述のフタロジニトリル法やワイラー法において、原料以外に希釈液として有機溶剤等を用い、該有機溶剤中で合成するソルベント法と、有機溶剤を使用せず無溶剤下で原料のみを加熱溶融して合成するベーキング法が知られている。
【0007】
ソルベント法は反応温度の制御や撹拌混合が容易であることから、産業的に広く採用されているが、有機溶剤を多量に使用することから製造コストの増大及び臭気対策等の環境負荷が大きく、かつ、生成する金属フタロシアニンが有機溶剤中で、針状の粗大粒子となり、結晶の成長方向の制御が困難であった。
【0008】
ベーキング法は希釈液としての有機溶剤を使用しないので環境負荷の小さいプロセスを構築できるが、撹拌混合の効率が低下しやすく、反応温度の制御が困難となる場合もあり、工業的規模での実施が困難である場合もあり、ソルベント法と同じく、結晶成長の制御が困難であった。
【0009】
フタロジニトリル法又はワイラー法による金属フタロシアニン化合物の理想的な製造方法としては、ソルベント法のように希釈液を用いることなく、ベーキング法よりも低温、短時間で合成することが可能で、かつ、多大の機械的エネルギーを投入しなくても、合成段階で結晶成長を制御した金属フタロシアニンを得ることにあるが、従来のソルベント法やベーキング法、いずれを用いても、金属フタロシアニン化合物の粗大な針状結晶を得ることはできても、結晶の成長方向が制御された、本発明で目的とするナノワイヤーを得ることは不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2003/076332号公報
【特許文献2】特開2007−000991号公報
【特許文献3】特開2005−145896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、金属フタロシアニンを含むナノワイヤーの工業的に優れた製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ポリマー鎖を有する金属フタロシアニンスルファモイル化合物の存在下で、イソインドリン化合物と金属イオンとを反応させたところ、金属フタロシアニンの環状面に対して水平方向への結晶成長が抑制されて、一方向(環状面と垂直方向)にのみ結晶成長が促され、これにより金属フタロシアニンがナノワイヤー状に合成される現象を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、水溶性多価アルコール中において、金属フタロシアニンスルファモイル化合物の存在下、イソインドリン化合物と金属イオンとを反応させることを特徴とする金属フタロシアニンナノワイヤーの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便な方法で金属フタロシアニンナノワイヤーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で得られた銅フタロシアニンナノワイヤーの透過電子顕微鏡写真。
【図2】実施例2で得られた銅フタロシアニンナノワイヤーの透過電子顕微鏡写真。
【図3】実施例3で得られた銅フタロシアニンナノワイヤーの透過電子顕微鏡写真。
【図4】比較例で得られた銅フタロシアニン微粒子の透過電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の金属フタロシアニンナノワイヤーの製造方法は、水溶性多価アルコール中において、金属フタロシアニンスルファモイル化合物の存在下、イソインドリン化合物と金属イオンとを反応させることを特徴とする。以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0017】
水溶性多価アルコールに、金属フタロシアニンスルファモイル化合物と、イソインドリン化合物と、金属イオンとを溶解させ、十分攪拌することにより、均一な混合溶液を得る。
撹拌時の温度が80℃よりも高い場合は混合が不十分な段階で一部に不均一な形状のフタロシアニン化合物が生成したり、収率が低下したりする場合もあるため、80℃以下で行うことが好ましい。
【0018】
該金属フタロシアニンスルファモイル化合物、該イソインドリン化合物および金属塩の多価アルコール溶液を80℃以下の温度で混合して混合溶液を得た後、この混合溶液を攪拌しながら80〜200、100〜180℃に加熱することによりイソインドリン化合物と金属イオンとを反応させて固形の反応生成物を得る。
【0019】
あるいは該金属フタロシアニンスルファモイル化合物を溶解させた水溶性多価アルコール溶液に、該イソインドリン化合物および金属塩を含む混合多価アルコール溶液を滴下し、上記と同じ温度範囲に設定しておくことで、イソインドリン化合物と金属イオンとを反応させて、固形の反応生成物を得ることもできる。
【0020】
該イソインドリン化合物と金属塩の混合比に関しては、化学量論的な観点から原料のフタロニトリル化合物4モルに対して金属イオンが1〜4モルになるように調整することが好ましい。
【0021】
本発明で用いることができる水溶性多価アルコールはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオールなどのα−グリコール類およびグリセリンであり、その分子構造中の2つもしくは3つの水酸基が結合している炭素原子が隣接しているものが良い。
【0022】
本発明で用いる金属フタロシアニンスルファモイル化合物としては、フタロシアニン環が少なくとも1個以上のスルファモイル基で置換され、かつ多価アルコールに対して溶解性を示す化合物を挙げることができ、より具体的には、一般式(1)
【0023】
【化1】

で表される化合物を挙げることができる。
式中、導入されるスルファモイル基は、フタロシアニン環1個あたり少なくとも1個であれば特に限定なく用いることができるが、好ましくは1または2個、より好ましくは1個である。置換される位置は、特に限定はない。
【0024】
式中、フタロシアニンと錯体を形成する金属原子Xとしては、特に限定はないが、好ましい金属原子として、Xは銅、亜鉛、コバルト、ニッケル及び鉄からなる群から選ばれるいずれか一種の金属原子を挙げることができ、このうち、銅または亜鉛であることが好ましく、銅であることが特に好ましい。
【0025】
本発明の一般式(1)におけるYは、数平均分子量が1000以上の水溶性ポリマー鎖であれば特に制限は無いが、より好ましくは1000以上10000以下の水溶性ポリマーが挙げられる。この様な水溶性ポリマー鎖としては、水溶性を有し水溶性多価アルコールに対して親和性を示すものであれば特に限定無く用いることができるが、より具体的には、ポリアルキレンオキシドを部分構造として有するポリマーの残基が挙げられ、より詳しくは、エチレンオキシドポリマーおよびエチレンオキシド/プロピレンオキシドコポリマーなどのあらゆるポリアルキレンオキシドを部分構造として有するポリマー鎖であり、ブロック重合したものでも、ランダム重合したものでも用いることができる。好ましくは、Yは一般式(2)で表される基
【0026】
【化2】

であるアルキレンオキシドコポリマーに由来するポリマー鎖であり、用いる多価アルコールへの溶解性に応じて、その親水性や親油性を最適化するのが望ましい。ここで、Qは各々独立に水素原子またはメチル基であり、Q’は、炭素数1〜30に非環状炭化水素基として、直鎖状炭化水素基でも分岐状炭化水素基でもどちらでもよく、炭化水素基は、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基のどちらでもよい。このような非環状炭化水素基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチル−ヘキシル基、n−ドデシル基、ステアリル基、n−テトラコシル基、n−トリアコンチル基等の直鎖状或いは分岐状飽和炭化水素基を挙げることができる。
【0027】
また、直鎖状或いは分岐状不飽和炭化水素基としては、炭化水素基が二重結合または三重結合を有してもよく、例えば、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、イソプレン基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基、ゲラニル基、エチニル基、2−プロピニル基、2−ペンテン−4−イニル基等の直鎖状或いは分岐状不飽和炭化水素基を挙げることができる。
【0028】
ポリアルキレンオキシド部分の繰り返し数nは4以上100以下であることが好ましく、より好ましくは5以上80以下、更により好ましくは10以上50以下である。繰り返し数nは4未満では分散媒との親和性が不足し、100を超えると分散安定性が低下する傾向がある。
【0029】
本発明で用いる一般式(1)で表される金属フタロシアニンスルファモイル化合物は、公知慣用の方法を注意深く組み合わせることにより、例えば、銅フタロシアニンスルホニルクロライドとポリエーテル主鎖の末端にアミンを持つポリエーテルアミン(以下、「ポリエーテルモノアミン」と略記)とを反応させて製造できる。原料となる銅フタロシアニンスルホニルクロライドは、銅フタロシアニンとクロロスルホン酸および/または塩化チオニルとの反応により得ることができる。他方の原料であるポリエーテルモノアミンは、公知慣用の方法で得ることができる。例えば、ポリエーテル骨格の末端にある水酸基をニッケル/銅/クロム触媒を用いて還元的にアミノ化することにより得ることができるし、ポリエーテル骨格の末端にある水酸基を光延反応(参考文献:Synthesis,1−28(1981))によりイミド化したのち、ヒドラジン還元によりアミノ化(参考文献:Chem.Commun.,2062−2063(2003))することにより得ることができる。ポリエーテルモノアミンは市販品としても提供されており、例えばアメリカHuntsman Corporationから「JEFFAMINE(商品名)Mシリーズ」がある。本発明で用いられる一般式(1)で表される金属フタロシアニンスルファモイル化合物としては、例えば下記式(3)の化合物が挙げられるが、これに限定されるわけではない。
【0030】
【化3】

(但し、式中、Qは水素原子またはメチル基を表し、プロピレンオキシド/エチレンオキシド=30/70(モル比)、nの平均値=47である。)
【0031】
本発明に用いるイソインドリン化合物は、公知の方法によって合成されうる。例えば、オルトフタロニトリルなどのフタロニトリル化合物をα−グリコールまたはグリセリンなどの多価アルコールに加熱溶解させながら、1,2−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7(以下、「DBU」という)などの有機塩基や金属アルコキシドの存在下または非存在下で反応させ、水溶性多価アルコールに可溶なフタロニトリル化合物と該多価アルコール反応生成物を合成する。該反応生成物の構造については、既に我々の研究によりイソインドリン化合物と推定されている(特許文献3参照)。このため、本発明においては、以下、当該反応生成物をイソインドリン化合物と言う。
【0032】
以下、イソインドリン化合物の製造方法について説明する。
本発明で用いることができるフタロニトリル化合物は、オルトフタロニトリルをはじめ、ベンゼン環またはナフタレン環のオルト位に−CN基を2つ有するものをいい、例えば、下記一般式(4)
【0033】
【化4】

(式中の環Aは、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン基の置換基を有していてもよいベンゼン環又はナフタレン環を示す。)が挙げられる。一般式(4)の環Aがベンゼン環である場合に、その他の部位にハロゲン原子やアルキル基などの官能基が導入されているものでもよい。
【0034】
フタロニトリル化合物と水溶性多価アルコールの反応温度は有機塩基や金属アルコキシドを添加しない場合、80℃以上ならば問題ないが、高い温度では無金属フタロシアニン化合物を生じるので、濾過などの工程が必要になり好ましくない。また温度が低い場合は反応が長時間化する場合もあるので、実用上は100℃から130℃の範囲で15分から8時間反応させることが好ましく、さらに好ましくは1時間から3時間反応させるとよい。得られたイソインドリン化合物を含む溶液は反応終了後、直ちに80℃以下に冷却し、それ以上の反応の進行を停止させることが好ましい。また反応中は窒素雰囲気下に置くなど、大気中の水分の混入を避けることが好ましく、該水溶性多価アルコールもあらかじめ脱水しておくことが好ましい。
【0035】
DBUなどの有機塩基を添加してフタロニトリル化合物と多価アルコールを反応させる場合は、該有機塩基を用いない場合に比べてより低い温度で反応させることができ、無金属フタロシアニン化合物の生成を抑制する上でも都合がよい。具体的には30℃から100℃の範囲で10分から2時間で反応させるとよい。
【0036】
フタロニトリル化合物と水溶性多価アルコールとを反応させる際の質量比に関しては特に限定はないものの、フタロニトリル化合物の濃度が2%よりも低い場合は、後に金属フタロシアニン化合物を合成する際の生産性が低くなり、40%よりも高い場合は得られた溶液の粘度が著しく高くなり、かつ、無金属フタロシアニン化合物の生成量が多くなる場合もあるため、フタロニトリル化合物の濃度が2質量%から40質量%、特に5質量%から20質量%の範囲とすることが好ましい。
【0037】
本発明で用いることができる金属イオンとしては金属フタロシアニンの中心金属となり得るすべての金属イオンを挙げることができ、具体的には銅イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、鉄イオンなどが挙げられる。これらの金属イオンは、通常、金属塩を水溶性多価アルコールに溶解させることによって反応に供される。塩としては、ハロゲン化物や硫酸塩などを挙げることができる。例えば銅塩の場合は塩化銅(II)や硫酸銅(II)を好ましい塩として挙げることができる。
【0038】
金属フタロシアニンスルファモイル化合物の存在下で、イソインドリン化合物と金属イオンとを反応させる際、これらの化合物および金属イオンを含む水溶性多価アルコール溶液に対して、グリコール系溶剤を加えてもよい。グリコール系溶剤は、生成する金属フタロシアニンナノワイヤーとの親和性及び加熱可能な温度を考慮すると、特にグリコールエステル系溶剤が好ましい。具体的な溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを挙げることができるが、これに限定されるものではない。グリコール系溶剤が好ましい理由として本発明のフタロシアニンをナノワイヤー化させるための一方向の結晶成長を促進させる作用を挙げることができる。
【0039】
本発明の製造方法により得られる金属フタロシアニンナノワイヤーは、金属フタロシアニンと金属フタロシアニンスルファモイル化合物を含む固体である。ここで、本発明でいうナノワイヤーとは、その短径、即ち、ワイヤーの幅がナノサイズの細線状の結晶構造を有する分子集合体であれば特に制限はないが、好ましくは分子1個分から500nm、より好ましくは10nmから200nm、さらに好ましくは10nmから20nm以下であり、一方、長径、即ち、ワイヤーの長さとの比率が2以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上(長径/短径≧10)である。
【0040】
そして、本発明の金属フタロシアニンナノワイヤーは、実質的に、金属フタロシアニンと金属フタロシアニンスルファモイル化合物から成るものであっても、例えばフタロシアニンスルホン酸のようなフタロシアニン誘導体を含むものであっても、好適に用いることができるが、好ましくは、実質的に、金属フタロシアニンと金属フタロシアニンスルファモイル化合物から成るものを挙げることができる。
【0041】
本発明の金属フタロシアニンナノワイヤーは、金属フタロシアニンスルファモイル化合物に由来する溶媒親和性の高いポリマー鎖を有することから、溶媒に対する分散性、分散安定性が高く、塗布成膜性に優れることから塗布用途に好ましく供することができる。本発明により得られる金属フタロシアニンナノワイヤーは、安定性の高い導電性を有するナノサイズ径の細線材料として、例えばナノデバイスの配線材料として利用可能である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例等により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
オルトフタロニトリル(和光純薬工業(株)社製)1.0gとエチレングリコール(和光純薬工業(株)社製)19.0g、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7)(和光純薬工業(株)社製)0.1gとを容量50mlの丸底フラスコに投入し、ついで攪拌しながら50℃に調節したウォーターバスで90分間かけてオルトフタロニトリルを加熱溶解させて、イソインドリン化合物の溶液を調製した(第一工程)。なお、この溶液は黄色で未溶解のオルトフタロニトリルは見られなかった。
【0043】
一方、塩化銅(II)(和光純薬工業(株)製)0.5gとエチレングリコール(和光純薬工業(株)社製9.5gとを容量50mlの丸底フラスコに投入し、ついで攪拌しながら100℃に調節したオイルバスで60分間かけて塩化銅(II)を加熱溶解させて、エチレングリコール溶液を調製した(第二工程)。
【0044】
次に、第一工程で得られたイソインドリン化合物のエチレングリコール溶液10.0gと第二工程で得られた塩化銅(II)のエチレングリコール溶液5.24g分取し、さらに、下記式(3)
【0045】
【化5】

(但し、式中、Qは水素原子またはメチル基を表し、プロピレンオキシド/エチレンオキシド=30/70(モル比)、nの平均値=47である。)で表される銅フタロシアニンスルファモイル化合物0.05gとを容量100ml丸底フラスコに投入し、60℃に調整したオイルバス中で30分間、撹拌子で攪拌して均一の混合溶液を調製した(第三工程)。
【0046】
その後、オイルバスを150℃に設定して、該混合溶液を加熱し、反応を30分間実施した(第四工程)。
【0047】
反応終了後、80℃以下に冷却して1Nの塩酸水溶液20gを投入し、30分間攪拌した。その後、内容物を0.1μmのメンブレンフィルターで濾過して、さらに水洗し、次いで濃度が5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、続いてメタノールで洗浄して濾残を80℃で2時間乾燥し、青色固形物を得た。
【0048】
ここで得られた青色固形物を透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、短径が5〜10nm程度で長径が短径の10倍以上にまで成長したナノワイヤー形状を有することが確認された(図1)。
【0049】
(実施例2)
実施例1の第三工程において、銅フタロシアニンスルファモイル化合物を0.2g添加する以外は(実施例1)と同様に処理して、青色固形物を得た。ここで得られた青色固形物を透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、短径が5〜10nm程度で長径が短径の10倍以上にまで成長したナノワイヤー形状を有することが確認された(図2)。
【0050】
(実施例3)
実施例1の第三工程において、あらかじめ、銅フタロシアニンスルファモイル化合物を0.2gをエチレングリコールに9.8gに加熱溶解させて、銅フタロシアニンスルファモイル化合物溶液を調製し、実施例1の第一工程で得られたイソインドリン化合物溶液10.0gと、第二工程で得られた塩化銅(II)溶液5.24gとを混合し、該混合溶液を150℃に加熱した先の銅フタロシアニンスルファモイル化合物溶液に10分間かけて滴下して反応させる以外は(実施例1)と同様に処理して、青色固形物を得た。ここで得られた青色固形物を透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、短径が5〜10nm程度で長径が短径の10倍以上にまで成長したナノワイヤー形状を有することが確認された(図3)。
【0051】
(比較例1)
実施例1の第三工程において、銅フタロシアニンスルファモイル化合物を用いない以外は実施例1と同様にして第一工程から第四工程まで処理して、青色固形物を得た。ここで得られた固形物を実施例1と同様にろ過、洗浄して透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、粒子径10〜100nm程度の微粒子状であり、ナノワイヤーは得られなかった(図4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性多価アルコール中において、金属フタロシアニンスルファモイル化合物の存在下、イソインドリン化合物と金属イオンとを反応させることを特徴とする金属フタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【請求項2】
水溶性多価アルコールがα−グリコールまたはグリセリンである請求項1記載の金属フタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【請求項3】
前記金属フタロシアニンスルファモイル化合物が一般式(1)
【化1】

(式中、Xは金属原子を表し、Yは数平均分子量が1000以上の水溶性ポリマー鎖を表し、a、b、cおよびdは各々独立に0〜2の整数を表すが、そのうち少なくとも一つは1である。)で表される請求項1記載の金属フタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【請求項4】
一般式(1)において、Xが銅である請求項3記載の金属フタロシアニンナノワイヤーの製造方法。
【請求項5】
一般式(1)において、Yが下記一般式(2)

(式中、nは4〜100の整数であり、Qは各々独立に水素原子又はメチル基であり、Q’は炭素原子数1〜30の非環状炭化水素基である。)で表される請求項3記載の金属フタロシアニンナノワイヤーの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−253598(P2010−253598A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105175(P2009−105175)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】