説明

金属ペール缶

【課題】金属ペール缶として、落下や衝突等によって蔓形把手の枢着部に内向きの衝撃力が加わっても、缶本体の缶壁に亀裂を生じず、内容物の漏出を確実に回避できるものを提供する。
【解決手段】缶本体1の外周面上部の径方向両側に帽子形の把手取付金具4が溶接固着され、蔓形把手3を構成する湾曲した金属線材31の両端の折返しフック部31a,31aが各々把手取付金具4の頂面4aの差込み穴41に挿嵌係止された金属ペール缶において、各把手取付金具4の内側空間40に、缶本体1と折返しフック部31aとの間に介在する緩衝材5が装填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料油、潤滑油、塗料、溶剤、インキ、接着剤、食用油等の液状製品の容器として汎用される金属ペール缶に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、金属ペール缶は、図1に示すように、略縦円筒形の缶本体1と、その上端開口部に嵌着される円板状の蓋板2と、該缶本体1に取り付けられた蔓形把手3とで構成されている。その缶本体1は、金属板を円筒状に曲げ加工して端部同士をシーム溶接して得られる胴部11の下端に、円板状の地板(底板)12が巻締め固着されており、シーム溶接部sの上部位置とその径方向対向位置とに、イヤー(耳)と称される帽子形の把手取付金具4がスポット溶接等によって開放側の周縁部4bで固着されている。また、蔓形把手3は、全体が略半円状に湾曲した金属線材31の中間位置に、木製や合成樹脂製の円筒状の握り部32が嵌装されている。
【0003】
しかして、図4(a)に示すように、把手取付金具4の頂面4a中央には差込み穴41が形成される一方、蔓形把手3の金属線材31の両端は各々略円弧状に曲成されて折返しフック部31aをなしており、該折返しフック部31aを把手取付金具4の差込み穴41に挿嵌係止することにより、蔓形把手3が缶本体1に対して上下回動自在に枢着されている。
【0004】
なお、缶本体1の胴部11は、厚さ0.34〜0.5mm程度の表面処理鋼板が多用されており、上部には補強のために外側へ膨出する上下2本の環状ビード11a,11bが形成されている。一方、蔓形把手3の金属線材31には、径3〜5mm程度の鋼線が汎用されている。また、蓋板2としては、図1では周縁のラグ21─を介して缶本体1の開口周縁に固着する方式を例示しているが、断面コ字形形の締付バンド(図示省略)を介して缶本体1の開口縁に着脱可能に嵌着する方式も多用されると共に、開閉キャップ付きの注出口を備えるものもある(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−231526号公報
【特許文献2】特開2008−100715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、このような金属ペール缶では、取り扱い中に誤って落下したり他物品と衝突した場合等で、図4(b)に示すように、その衝撃力Iが蔓形把手3の一端側の枢着部に内向きに加わった際、把手取付金具4の内側空間40に入り込んでいる折返しフック部31aの先端側が缶本体1の缶壁10に衝当して食い込み、図4(c)に示すように、該缶壁10が内側へ畝状に膨れるように変形すると共に往々にして亀裂Cを生じ、この亀裂Cから内容物が漏出するという問題があった。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みて、金属ペール缶として、落下や衝突等によって蔓形把手の枢着部に内向きの衝撃力が加わっても、蔓形把手の折返しフック部の先端側が缶本体の缶壁に食い込んで亀裂を生じることがなく、もって該亀裂に起因した内容物の漏出を確実に回避できるものを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための手段を図面の参照符号を付して示せば、請求項1の発明は、缶本体1の外周面上部の径方向両側に帽子形の把手取付金具4がその開放側の周縁部で溶接固着され、蔓形把手3を構成する湾曲した金属線材31の両端の折返しフック部31a,31aが各々把手取付金具4の頂面4aに設けた差込み穴41に挿嵌係止された金属ペール缶において、各把手取付金具4の内側空間40に、缶本体1と折返しフック部31aとの間に介在する緩衝材5が装填されていることを特徴としている。
【0009】
請求項2の発明は、上記請求項1の金属ペール缶において、緩衝材5が金属又は合成樹脂からなる厚さ0.5〜3mmの板体である構成としている。
【発明の効果】
【0010】
次に、本発明の効果を図面の参照符号を付して説明する。請求項1の発明に係る金属ペール缶によれば、取り扱い中に誤って落下したり他物品と衝突した場合等で、その衝撃力Iが蔓形把手3の一端側の枢着部に内向きに加わっても、把手取付金具4内に挿嵌している折返しフック部31aと缶本体1の缶壁10との間に緩衝材5が介在しており、該折返しフック部31aに加わる衝撃力Iが緩衝材5を介して広面積に分散して缶壁10に負荷することになるから、該缶壁10が緩衝材5と共に内側へ広く緩やかに変形しても亀裂を生じる懸念は殆どなく、もって従来のような該亀裂によって内容物が漏出するという問題は解消される。
【0011】
請求項2の発明によれば、上記の緩衝材5が金属又は合成樹脂からなる特定厚みの板体がらなるため、上記衝撃力Iがより効率よく分散して缶壁10に負荷し、もって該缶壁10の亀裂発生をより確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用する金属ペール缶の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る金属ペール缶における蔓形把手の取付部分の縦断側面図である。
【図3】同蔓形把手の取付部分に衝撃が加わった際の縦断側面図である。
【図4】従来例の金属ペール缶における蔓形把手の取付部分を示し、(a)は衝撃前、(b)は衝撃時、(c)は衝撃後、の各々縦断側面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の一実施形態に係る金属ペール缶について、図面を参照して具体的に説明する。この金属ペール缶の基本構成は、既述した従来のものと同様であり、図1で示すように、略縦円筒形の缶本体1と、その上端開口部に嵌着される円板状の蓋板2と、該缶本体1に取り付けられた蔓形把手3とからなる。そして、蔓形把手3は、缶本体1の外周面上部の径方向両側に溶接固着された把手取付金具4,4に、金属線材31の両端の各折返しフック部31aを挿嵌係止することにより、該缶本体1に対して上下回動自在に枢着されている。また、把手取付金具4自体も従来と同様の帽子形であり、図2で示すように、缶本体1に対して開放側の周縁部で溶接固着され、頂面4aの中央に蔓形把手3の折返しフック部31aを挿嵌させる差込み穴41を有している。
【0014】
しかるに、本実施形態の金属ペール缶では、図2に示すように、把手取付金具4の内側空間40に円板状の緩衝材5が装填され、この緩衝材5が内側空間40に入り込んだ折返しフック部31aの先端側と缶本体1の缶壁10との間に介在している。
【0015】
上記構成の金属ペール缶では、取り扱い中に誤って落下させたり、他物品に衝突させたり、逆に保管中や定置中に誤って他物品を打ち当てたりして、その衝撃力Iが蔓形把手3の一端側の枢着部に内向きに加わった場合、図3で示すように、把手取付金具4内に嵌入している折返しフック部31aの先端側は緩衝材5に衝当し、該折返しフック部31aに加わる衝撃力Iが緩衝材5にて広面積に分散して缶壁10に負荷する。従って、該衝撃力Iが極端に大きくない限りは、缶壁10が図示の如く緩衝材5と共に内側へ広く緩やかに変形することがあっても、該缶壁10に亀裂を生じる懸念はない。従って、この金属ペール缶によれば、上記のような衝撃を受けても、従来のように発生した亀裂から内容物が漏出する事態を確実に回避できる。
【0016】
このような緩衝材5としては、特に制約はないが、金属又は合成樹脂からなる厚さ0.5〜3mm程度の板体が好適である。すなわち、緩衝材5が不織布や合成樹脂スポンジのような柔軟性に富む材質であったり、硬質でも薄すぎるものでは、簡単に変形するために衝撃力Iの分散が不充分になり、缶壁10が折返しフック部31aの衝当部で局所的に変形して亀裂に発展する可能性がある。
【0017】
また、緩衝材5の大きさは、蔓形把手3の折返しフック部31aが直接に缶壁10に当接するのを阻止する上で、把手取付金具4の内側面積をほぼ満たすが、該把手取付金具4内で移動可能なサイズ(径)であることが望ましい。これは、缶本体1に把手取付金具4を溶接する際、予め該把手取付金具4内に緩衝材5を装填しておくが、溶接終了までは緩衝材5が抜落しないように内奥に位置させる必要がある一方、その溶接後の蔓形把手3の取り付けの際には、該把手取付金具4の差込み穴41に金属線材31の折返しフック部31aを挿嵌する上で、内奥側(差込み穴41側)にあった緩衝材5が缶壁10側へ押し込まれる必要があることによる。
【0018】
なお、本発明の金属ペール缶は、缶本体1及び蓋板2の細部形状、缶本体1に対する蓋板2の封着構造、蔓形把手3における金属線材31の折返しフック部31aの曲げ形状等、細部構成については実施形態以外に種々設計変更可能である。
【符号の説明】
【0019】
1 缶本体
10 缶壁
2 蓋板
3 蔓形把手
31 金属線材
31a 折返しフック部
4 把手取付金具
4a 頂面
40 内側空間
41 差込み穴41
5 緩衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶本体の外周面上部の径方向両側に帽子形の把手取付金具がその開放側の周縁部で溶接固着され、蔓形把手を構成する湾曲した金属線材の両端の折返しフック部が各々把手取付金具の頂面に設けた差込み穴に挿嵌係止された金属ペール缶において、
前記の各把手取付金具の内側空間に、缶本体と前記折返しフック部との間に介在する緩衝材が装填されていることを特徴とする金属ペール缶。
【請求項2】
前記緩衝材が金属又は合成樹脂からなる厚さ0.5〜3mmの板体である請求項1記載の金属ペール缶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−148521(P2011−148521A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10636(P2010−10636)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(399031643)株式会社長尾製缶所 (6)
【Fターム(参考)】