説明

金属メッシュ

【課題】濡れ性及び抜け性の向上を図ることができる金属メッシュの製造方法及び金属メッシュを提供する。
【解決手段】金属メッシュ1を構成する線材2表面の分子結合を、プラズマ照射装置4から照射されるプラズマPにより表面改質して、濡れ性(親性)の高いプラズマ被膜Paを線材2の表面全体に対して略均一に形成する。線材2表面に付着する異物EをプラズマPの分子と結合させるか、線材2表面に付着する異物EにプラズマPを衝突させる等して、線材2表面から分離除去する。線材2及びプラズマ被膜Paの表面全体に微細な凹凸を多数形成して、濡れ性を向上させ、被接触物に付与される表面張力及び接触抵抗を小さくするので、緻密なスクリーン印刷、微細な異物を分離するフィルタ等の処理に適した抜け性能が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば緻密な印刷パターンを印刷する印刷用スクリーン、微細な異物を分離する濾過用フィルタ等に用いられる金属メッシュの製造方法及び金属メッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述例の緻密な印刷パターンを印刷する方法としては、例えばポリエステル製メッシュ表面にプラズマ重合膜を生成せしめる特許文献1のスクリーン印刷用メッシュの製造方法がある。しかし、感光性の乳剤をメッシュ上に塗布する際、或いは、転写物を転写する際に付与される圧力により、ポリエステル製の線材が蛇行するか、線材の間隔が変位しやすく、緻密な印刷パターンを印刷する作業には適さない。また、例えば複雑な回路パターンを転写基材上に形成する作業に適したフォト法がある。しかし、レジストの塗布、露光、現像、エッチング等の処理を行わなければならず、全体の工程数が多く、回路パターンを印刷する作業に手間及び時間が掛かるため、作業能率が悪い。
【0003】
上記以外の方法として、例えば図14に示すように、スクリーンメッシュ1Aを金属製や樹脂製の線材2Aにより形成した後、スクリーンメッシュ1A上に塗布された乳剤5Aを感光させ、未感光部分の乳剤5Aを除去して印刷パターンである開口部6Aを複数形成する。印刷パターンが形成されたスクリーンメッシュ1Aを図示しない被転写物に重ね合わせた後、スクリーンメッシュ1A上に供給される転写物を、乳剤5Aに形成した開口部6Aを通過させて被転写物に印刷するスクリーン印刷法がある。
【特許文献1】特許第3090535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記スクリーン印刷法は、スクリーンメッシュ1Aの線材2A表面が平滑な状態であるため、線材2Aと乳剤5Aの濡れ性(親性)が悪く、乳剤5Aに付与される表面張力が大きい。スクリーンメッシュ1A上に塗布された乳剤5Aと、乳剤5Aを除去してなる開口部6Aの輪郭(エッジ)が歪んでしまい、印刷パターンが不鮮明となる(図14参照)。また、インク等の転写物を、乳剤5Aの開口部6Aを通り抜けさせて被転写物へ印刷した際に、印刷パターンの輪郭が滲んだ様に呆けてしまうので、緻密な印刷パターンを印刷することが難しい。また、線材2Aと乳剤5Aの濡れ性が悪いと、図15に示すように、線材2Aの交差部分へ乳剤5Aが浸透しにくく、ボイド5Aaが発生するため、転写物が開口部6A以外の部分にも印刷されてしまい、パターン通りに印刷することができない。
【0005】
また、金属製のスクリーンメッシュ1Aを製造する際には、潤滑油等の有機物は必要不可欠な材料であるが、油系有機物は乳剤5Aとの相性が悪く、乳剤5Aを弾いてしまうため、線材2A表面に油系有機物等の異物Eが付着(図15参照)していると、線材2Aと乳剤5Aの馴染み性が悪くなり、印刷パターンにムラが発生する。製造途中において発生する有機物や無機物等の異物Eも付着しやすいため、線材2A表面に付着する異物Eを除去する洗浄作業は不可欠である。
【0006】
また、スクリーンメッシュ1Aを、例えば洗浄ブラシ又はブラシに代わる洗浄具を用いて洗剤により洗浄しても、スクリーンメッシュ1A内部や線材2Aの交差部分に付着する異物Eを除去することが難しく、洗浄作業に手間及び時間が掛かるため、スクリーンメッシュ1A内部への乳剤5Aの浸透速度を遅くしなければならず、印刷作業に時間及び手間が掛かる。
【0007】
この発明は上記問題に鑑み、濡れ性及び抜け性の向上を図ることができる金属メッシュの製造方法及び金属メッシュの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載した発明の金属メッシュの製造方法は、金属メッシュを構成する線材表面の分子結合を、プラズマ発生手段が発生するプラズマにより濡れ性が高くなる状態に表面改質して、上記プラズマにより表面改質してなる濡れ性の高いプラズマ被膜を線材の表面全体に対して略均一に形成したことを特徴とする。
【0009】
この発明によると、線材表面の分子結合をプラズマにより濡れ性が高くなる状態に表面改質して、該プラズマにより表面改質してなる濡れ性の高いプラズマ被膜を線材の表面全体に対して略均一に形成するので、例えばペースト状の感光性乳剤、導電性を有するペースト状又は液状の転写物、気体や液体等の被接触物に付与される表面張力及び接触抵抗が小さくなり、被接触物と線材の濡れ性、被接触物の抜け性が向上する。
【0010】
上記金属メッシュの線材は、例えばステンレス、スチール等の金属で構成することができる。また、金属メッシュの網目は、目的や用途に応じて、所望する大きさ及び形状に変更することができる。また、プラズマ発生手段は、例えばエアープラズマ照射装置、グロープラズマ照射装置等で構成することができる。また、プラズマ発生時の環境としては、例えば大気圧(常圧)、減圧(真空)等の環境を設定することができる。
【0011】
請求項2に記載した発明の金属メッシュの製造方法は、上記請求項1に記載の構成と併せて、上記線材及びプラズマ被膜の少なくとも一方の表面に、上記プラズマ発生手段が発生するプラズマを衝突させて微細な凹凸を多数形成したことを特徴とする。
【0012】
この発明によると、微細な凹凸を、線材及びプラズマ被膜の少なくとも一方の表面に形成するので、被接触物に付与される表面張力及び接触抵抗が小さくなり、線材及びプラズマ被膜と被接触物の濡れ性(親性)が向上する。
【0013】
請求項3に記載した発明の金属メッシュの製造方法は、上記請求項1又は2に記載の構成と併せて、上記プラズマ被膜を、大気圧又は減圧した環境下にて上記プラズマ発生手段によりプラズマを発生させて形成したことを特徴とする。
【0014】
この発明によると、プラズマ被膜を大気圧の環境下にて形成するので、プラズマ被膜を形成する工程や装置等の構成を簡素化することができる。また、減圧した環境下にて形成すれば、環境内に存在する有機物や無機物等の異物が、例えば減圧手段の減圧力により雰囲気(例えば空気)と一緒に吸引除去されるので、プラズマ被膜が形成される部分に異物が再付着するのを防止することができる。
【0015】
請求項4に記載した発明の金属メッシュの製造方法は、上記請求項1又は2に記載の構成と併せて、上記微細な凹凸を、大気圧又は減圧した環境下にて上記プラズマ発生手段が発生するプラズマを衝突させて形成したことを特徴とする。
【0016】
この発明によると、微細な凹凸を大気圧の環境下にて形成するので、例えば減圧室内へ収容するか、減圧室内から取り出す等の手間及び作業が省け、作業の能率アップが図れる。また、減圧した環境下にて形成すれば、環境内に存在する有機物や無機物等の異物が、例えば減圧手段の減圧力により雰囲気(例えば空気)と一緒に吸引除去されるので、微細な凹凸が形成される部分に異物が付着するのを防止することができる。
【0017】
請求項5に記載した発明の金属メッシュの製造方法は、上記請求項1又は2に記載の構成と併せて、上記線材の表面全体に、上記プラズマ発生手段が発生するプラズマを接触又は衝突させて該線材表面から異物を分離除去したことを特徴とする。
【0018】
この発明によると、線材表面に付着する異物をプラズマと結合させるか、線材表面に付着する異物にプラズマを衝突させる等して、線材表面から異物を分離除去する。
【0019】
請求項6に記載した発明の金属メッシュは、金属メッシュを構成する線材の表面全体に、該線材表面の分子結合をプラズマにより表面改質してなる濡れ性の高いプラズマ被膜が略均一に形成されていることを特徴とする。
【0020】
この発明によると、プラズマにより表面改質してなる濡れ性の高いプラズマ被膜を線材の表面全体に対して略均一に形成しているので、被接触物に付与される表面張力及び接触抵抗が小さく、線材と被接触物の濡れ性(親性)、被接触物の抜け性が向上する。つまり、プラズマにより線材表面の分子結合を変化させて、濡れ性の高いプラズマ被膜に改質する。
【0021】
請求項7に記載した発明の金属メッシュは、上記請求項6に記載の構成と併せて、上記線材及びプラズマ被膜の少なくとも一方の表面に、上記プラズマを衝突させてなる微細な凹凸が多数形成されていることを特徴とする。
【0022】
この発明によると、微細な凹凸を、線材及びプラズマ被膜の少なくとも一方の表面に形成しているので、被接触物に付与される表面張力及び接触抵抗が小さく、線材及びプラズマ被膜と被接触物の濡れ性(親性)が向上する。
【0023】
請求項8に記載した発明の金属メッシュは、上記請求項6又は7に記載の構成と併せて、上記プラズマ被膜を、大気圧又は減圧した環境下にて上記プラズマを発生させた際に形成したことを特徴とする。
【0024】
この発明によると、プラズマ被膜を大気圧の環境下にて形成しているので、プラズマ被膜を形成する工程や装置等の構成を簡素化することができる。また、減圧した環境下にて形成すれば、環境内に存在する異物が、例えば減圧手段の減圧力により雰囲気(例えば空気)と一緒に吸引除去されるので、プラズマ被膜が形成される部分に異物が再付着するのを防止することができる。
【0025】
請求項9に記載した発明の金属メッシュは、上記請求項6又は7に記載の構成と併せて、上記微細な凹凸を、大気圧又は減圧した環境下にて上記プラズマを衝突させた際に形成したことを特徴とする。
【0026】
この発明によると、微細な凹凸を、大気圧の環境下にて形成しているので、微細な凹凸を形成する工程や装置等の構成を簡素化することができる。また、減圧した環境下にて形成すれば、環境内に存在する異物が、例えば減圧手段の減圧力により雰囲気(例えば空気)と一緒に吸引除去されるので、微細な凹凸が形成される部分に異物が再付着するのを防止することができる。
【0027】
請求項10に記載した発明の金属メッシュ製スクリーンは、上記請求項6〜9のいずれか一つに記載の金属メッシュにより印刷用スクリーンを構成したことを特徴とする。
【0028】
この発明によると、プラズマ被膜が形成された金属メッシュを印刷用スクリーンとして用いるので、例えば緻密な印刷パターンを形成するのに必要な粘性を有する乳剤を金属メッシュに塗布するか、金属メッシュに塗布された乳剤を除去する等して、金属メッシュ上に印刷パターンである開口部を形成する場合、乳剤と開口部の境界がストレート(直線性)に形成され、開口部の輪郭(エッジ)が鮮鋭となるので、緻密な印刷パターンを形成することができる。また、ペースト状又は液状の転写物と線材の濡れ性、転写物の抜け性が向上する。
【0029】
請求項11に記載した発明の金属メッシュ製フィルタは、上記請求項6〜9のいずれか一つに記載の金属メッシュにより濾過用フィルタを構成したことを特徴とする。
【0030】
この発明によると、プラズマ被膜が形成された金属メッシュを濾過用フィルタとして用いるので、例えば金属メッシュの網目を微細な異物の通過が阻止される程に小さくしても、流体の通過が妨げられることがなく、流体と線材の濡れ性、流体の抜け性が向上する。また、異物の通過が阻止され、流体のみの通過が許容されるため、微細な異物を流体から分離除去する濾過効果が安定して得られる。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、金属メッシュを構成する線材の表面全体をプラズマにより表面改質して、濡れ性の高いプラズマ被膜を線材の表面全体に対して略均一に形成するので、被接触物に付与される表面張力及び接触抵抗が小さくなり、線材と被接触物の濡れ性、被接触物の抜け性が向上する。金属メッシュの網目を通り抜ける際に要する時間が短くなり、印刷や濾過等の処理速度向上を図ることができる。網目を通り抜けさせる際に付与する圧力が小さくて済むので、大きな圧力を付与するための大型の装置や機器等を設置する必要がなく、装置及び機器への負荷が低減されるので、装置全体の構成を簡素化することができる。また、線材表面に付着する異物をプラズマと結合させるか、線材表面に付着する異物にプラズマを衝突させる等して、線材表面から有機物や無機物等の異物を分離除去するので、従来例のような洗浄作業が不要となり、線材表面から異物を確実に洗浄除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
この発明は、金属メッシュの濡れ性及び抜け性の向上を図ることができるという目的を、金属メッシュを構成する線材の表面全体をプラズマにより表面改質して、濡れ性の高いプラズマ被膜を線材の表面全体に対して略均一に形成することにより達成した。
【実施例】
【0033】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
【0034】
図1〜図11は、大気圧の環境下にてプラズマ処理された金属メッシュ1を、電子回路等の緻密な印刷パターンを印刷する印刷用スクリーンとして用いた例を示している。
【0035】
金属メッシュ1は、図1に示すように、ステンレス製の線材2を縦糸と横糸に用いて、平織り方法によりメッシュ状に織ったものであり、張り付け工程において、定型の金属体およびそれに準ずる製版用の枠体3に張り付けられる。
【0036】
実施例では、金属メッシュ1を枠体3に張り付けてから後述するプラズマ照射装置4によりプラズマ処理するが、例えば金属メッシュ1の線材2をプラズマ処理してから平織りするか、金属メッシュ1をプラズマ処理してから枠体3に張り付ける等してもよい。また、平織り方法に代えて、例えば綾織、朱子織、捩り織等の織り方法により金属メッシュ1を織ってもよい。また、線材2の線径や断面形状を、印刷パターンの緻密度に応じて所望する線径及び断面形状に変更してもよい。
【0037】
上記金属メッシュ1を、プラズマ照射装置4によりプラズマ処理する場合、図2に示すように、大気圧の環境下において、金属メッシュ1とプラズマ照射部4aを矢印方向へ相対移動させながら、金属メッシュ1を構成する線材2の表面全体に対してプラズマ照射部4aから出射される酸素・水素等のプラズマPを略均一に照射する。おな、プラズマ発生時の環境は、例えば真空圧(0mmHg)〜大気圧(760mmHg)の範囲に含まれる環境である。
【0038】
プラズマ照射時において、プラズマPが照射された線材2表面の分子結合を濡れ性が高くなる状態に表面改質するとともに、プラズマPにより表面改質してなる濡れ性の高いプラズマ被膜Paを線材2の表面全体に対して略均一に形成(図3の拡大断面図参照)するので、線材2の表面全体が活性化し、スクリーン印刷に適した良好な状態に表面改質することができる。
【0039】
また、線材2表面に付着する有機物や無機物等の異物EをプラズマPの分子と結合させるか、線材2表面に付着する異物EにプラズマPを衝突させる等して、線材2表面から異物Eを確実に洗浄除去することができる(図3の平面図及び部分拡大図参照)。
【0040】
プラズマ処理された金属メッシュ1に印刷パターンを形成する場合、図4に示す塗布工程において、緻密な印刷パターンを形成するのに必要な粘性を有する感光性乳剤5を金属メッシュ1に塗布するか、金属メッシュ1に塗布された乳剤5を部分的に除去する等して、印刷パターンである開口部6(又は孔部)を金属メッシュ1上に複数形成することにより、スクリーン印刷用の金属メッシュ製スクリーン1Bを製作することができる。なお、金属メッシュ1に塗布された乳剤5を除去する他の方法としては、例えば溶剤で腐食するか、切削具で切削する等の方法がある。
【0041】
金属メッシュ1をプラズマ処理しない場合、線材2表面は平滑な状態であり、線材2と乳剤5の濡れ性(親性)が悪く、導電性を有する転写物7に付与される表面張力が大きいため、金属メッシュ1に乳剤5を塗布するか、金属メッシュ1に塗布した乳剤5を除去する等して印刷パターンである開口部6を形成した場合、開口部6の輪郭(エッジ)が歪んでしまい、印刷パターンが不鮮明となる。
【0042】
また、転写物7を、輪郭が歪んだ開口部6を通り抜けさせて基板等の転写基材8へ転写した際に、転写物7の輪郭が滲んだ様に呆けてしまうので、緻密な印刷パターンを形成する作業には適さない。且つ、隣接する転写物7の間が狭くなったり、広くなったりするため、電気的影響を与えることがない間隔に隔てることが難しく、転写物7間の電気的特性が悪くなる。
【0043】
一方、金属メッシュ1をプラズマ処理した場合、プラズマPの分子が衝突することにより線材2及びプラズマ被膜Paの表面全体が分子レベルで荒らされ、線材2及びプラズマ被膜Paの表面全体に分子レベルで微細な凹凸が多数形成されるため、乳剤5に付与される表面張力が小さくなり、線材2と乳剤5の濡れ性が向上する。この結果、図5、図6に示すように、印刷パターンを形成する際に、乳剤5と開口部6の境界がストレート(直線性)に形成され、開口部6の輪郭(エッジ)が鮮鋭となるので、印刷パターンの精度が向上する。また、単位面積当たりの金属メッシュ1の表面積が大きくなっても、乳剤5と開口部6の境界をストレート(直線性)に形成することができる。
【0044】
また、導電性を有するペースト状の転写物7を、金属メッシュ1に形成された印刷パターンの開口部6を通り抜けさせて転写基材8へ転写した際に、転写物7の輪郭(エッジ)が鮮鋭となるので、緻密な印刷パターンを正確且つ確実に形成することができる。且つ、印刷パターンの輪郭が鮮鋭となり、隣接する転写物7の間が電気的影響を与えることがない間隔に隔てられるため、転写物7間の電気的特性が向上する。
【0045】
乳剤5と線材2の界面が活性化し、濡れ性が向上することによって、金属メッシュ1の線材2が交差する部分にも乳剤5が浸透しやすくなり、ボイド5aが発生することがないので、転写物7が開口部6以外の部分に転写されるのを防止して、パターン通りに印刷することができる。また、スクリーン製作時に必要とする洗浄工程、特殊な溶剤での洗浄処理等が不要となり、水洗浄のみで洗浄除去することができる。
【0046】
上記印刷パターンが形成された金属メッシュ製スクリーン1Bを用いて、所望の印刷パターンを転写基材8にスクリーン印刷する場合、図7に示す印刷工程において、金属メッシュ製スクリーン1Bを転写基材8の転写面に重ね合わせた後、目的の厚みを維持するのに必要な粘性を有するペースト状の転写物7を、金属メッシュ製スクリーン1Bに形成された膜状(又はレジスト状)の乳剤5上に供給する。また、転写に適した硬さ又は柔らかさを有するスキージ9を、膜状の乳剤5に押し付けながら矢印方向へ移動させる。
【0047】
膜状の乳剤5上に供給される転写物7を、スキージ9により乳剤5に形成された各開口部6…に対して押し込むとともに、転写物7が押し込まれた開口部6付近の金属メッシュ製スクリーン1Bを転写基材8の転写面から離間するか浮き上がらせる等して、金属メッシュ製スクリーン1Bと転写基材8の対向面間に隙間を形成する。各開口部6…を通り抜けた転写物7を転写基材8の転写面上に残存させて、転写物7を各開口部6…と略合同な大きさ及び形状に転写することにより、所望の印刷パターン通りに印刷することができる。
【0048】
金属メッシュ製スクリーン1Bを転写基材8の転写面から取り除いた後、転写基材8に転写した転写物7を加熱して硬化させる。転写物7からバインダー成分を除去し、無機フィラーを焼結して、転写物7からなる印刷パターンを転写基材8上に成形することで、金属メッシュ製スクリーン1Bを用いたスクリーン印刷作業が完了する。
【0049】
また、線材2と転写物7の濡れ性、転写物7の抜け性が向上することにより、転写物7を転写基材8へ転写する際に、印刷パターンの開口部6に対して転写物7が一定(定常的)に存在することになる。開口部6内に押し込まれる転写物7の存在が定常的になるので、転写物7の転写量、転写厚等の調整が容易に行える。
【0050】
スキージ9により転写物7を開口部6内に押し込んだ際に、開口部6内に転写物7が均一に存在することになるので、転写物7の転写量、転写時の大きさ及び形状が安定し、転写物7を開口部6と略合同な大きさ及び形状に印刷することができる。図8に示すように、金属メッシュ1の肉厚を厚くする等して、開口部6を所望する深さに形成すれば、転写物7を目的の厚みに印刷することが可能である。
【0051】
また、開口部6に露出する線材2自体及び線材2外面に形成したプラズマ被膜Paの表面全体には、プラズマ処理により分子レベルの微細な凹凸が多数形成されるので、線材2と転写物7の濡れ性が良く、転写物7に付与される表面張力及び接触抵抗が小さくなる。開口部6に露出する網目を通り抜ける際に要する時間が短くなるので、印刷処理精度の向上及び印刷処理速度のアップを図ることができる。また、精密機器の電子回路を製造する工程に適用することが可能である。
【0052】
また、開口部6に露出する網目を通り抜けさせる際に付与する圧力が小さくて済み、開口部6に露出する線材2に対して付与される接触抵抗が小さいので、線材2の直線性や間隔が変位することがなく、緻密な印刷パターンを印刷するのに適している。且つ、大きな圧力を付与するための大型の装置や機器等を設置する必要がなく、装置及び機器への負荷が低減されるので、装置全体の構成を簡素化することができる。
【0053】
また、プラズマ処理済みの金属メッシュ1を長期間放置するか、次工程へ移動又は他の場所へ運搬する等した際に、処理済みの金属メッシュ1に異物Eが再付着することがなく、プラズマ照射による効果が長期間持続されるので、プラズマ処理を再度行う必要がなくなる。
【0054】
また、大気圧の環境下にて、金属メッシュ1全体をプラズマ処理するので、真空状態に減圧される減圧室10内(図12参照)へ未処理の金属メッシュ1を収容するか、減圧室10内から処理済みの金属メッシュ1を取り出す等の手間及び作業が省け、プラズマ処理に要する時間が短くなるため、多数の金属メッシュ1を連続してプラズマ処理することができ、処理作業の省力化及び能率アップが図れる。且つ、真空状態に減圧するための減圧装置等を設置する必要がなく、製造ラインの全体構成を簡素化することができる。
【0055】
図9は、プラズマ処理による非金属性異物Eの除去試験の結果を示すグラフである。一定環境条件による一定時間処理した際の異物Eの除去率(%)を50μm〜300μm別に表示しており、50μm以下では略100%の除去率である。異物Eの成分によって除去率に差異が発生するも、除去するのに適した条件が確定できれば、定常的に除去効果が期待できる。
【0056】
図10は、転写物7に代わる液体をプラズマ処理済みの滴下部に所定の高さから落下させた際の滴定試験の結果を示し、液体の水平からの角度(θ)を測定することによって、液体と滴下部の親性(濡れ性)と疎性(非濡れ性)を数値化したものである。未プラズマ処理の滴下部に滴下された液体の角度θに比べて、プラズマ処理済みの滴下部に滴下された液体の角度θが小さくなる。
【0057】
上記滴定試験の結果を、図11に示すようにグラフ化すると、プラズマPによる処理時間が長くなるほど角度θが小さくなるので、転写物7と対応する液体と、転写基材8と対応する滴下部の親性が向上していることが明らかである。
【0058】
図12は、金属メッシュ1を、密閉型のプラズマ照射装置10Aにより減圧した環境下にてプラズマ処理する他の方法を示し、金属メッシュ1を密閉可能な減圧室10内へ収容し、減圧室10内に設けた下部電極10aと上部電極10bの間に配置する。減圧手段の一例である減圧装置11により減圧室10内を減圧して、空気や異物等が分子レベルで存在しない状態に減圧する。減圧装置11を停止した後、減圧室10内にガス供給部12から供給される酸素、水素等のプラズマ発生用ガスを放出し、電源13から供給される高圧の電力により上部電極10bに高周波電圧を印加することにより、下部電極10aと上部電極10bの間にプラズマPを発生させる。
【0059】
減圧した環境下において、プラズマPの分子を金属メッシュ1の線材2表面に接触又は衝突させるか、線材2表面に付着する異物EをプラズマPの分子と結合させる等して、線材2表面から分離除去する。また、プラズマPにより線材2表面の分子結合を表面改質して、濡れ性(親性)の高いプラズマ被膜Paを線材2の表面全体に対して略均一に形成するので、上記実施例と略同等の作用及び効果を奏することができる。また、線材2表面から分離された異物Eは減圧室10内の空気と一緒に吸引除去されるので、分離除去した異物Eが金属メッシュ1の線材2表面に再付着するのを防止することもできる。
【0060】
図13は、大気圧(図2参照)又は減圧(図12参照)した環境下にてプラズマ処理された金属メッシュ1を濾過用フィルタとして用いた例を示し、プラズマ処理済みの金属メッシュ1からなる金属メッシュ製フィルタ1Cは、金属メッシュ1Bの網目を、気体・液体等の流体Gの通過が許容され、微細な異物Eの通過が阻止されるような大きさ及び形状に形成している。また、金属メッシュ1Bを構成する線材2の表面全体に対してプラズマ被膜Paを略均一に形成し、線材2及びプラズマ被膜Paの表面全体に分子レベルで微細な凹凸を多数形成して、流体Gに付与される表面張力及び接触抵抗が小さくしているので、線材2と流体Gの濡れ性、流体Gの抜け性が向上し、上記実施例と略同等の作用及び効果を奏することができる。
【0061】
また、上記プラズマ処理済みの金属メッシュ1を濾過用フィルタとして用いることにより、流体Gの抜け性が向上し、金属メッシュ1の網目を微細な異物Eの通過が阻止される程に小さくしても、流体Gの通過が妨げられることがなく、濾過処理速度及び濾過処理能力のアップを図ることができる。また、異物Eの通過が阻止され、流体Gのみの通過が許容されるため、微細な異物Eを流体Gから確実に分離除去することができる。
【0062】
また、金属メッシュ1の網目を通過させる際に付与する移送圧が小さくても、流体Gの抜け性能が低下することがなく、大きな移送圧を付与するための大型の装置や機器等を設置する必要がなく、流体Gの移送圧を高めるための装置や機器等を設置する必要がなく、装置及び機器への負荷が低減されるので、濾過装置全体の構成を簡素化することができる。
【0063】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のプラズマ発生手段は、実施例のプラズマ照射装置4に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではなく、請求項に示される技術思想に基づいて応用することができ、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】金属メッシュの張り付け状態を示す正面図。
【図2】大気圧の環境下におけるプラズマ処理を示す側面図。
【図3】プラズマ処理後の金属メッシュを示す正面図及び部分拡大図、プラズマ被膜が形成された線材を示す拡大断面図。
【図4】乳剤の塗布状態及び印刷パターンの形成状態を示す正面図。
【図5】乳剤の境界部分を示す正面図及び部分拡大図。
【図6】線材と乳剤の濡れ性を示す部分拡大図。
【図7】金属メッシュ製スクリーンによる印刷状態を示す断面図。
【図8】開口部と略合同な転写物の印刷状態を示す断面図。
【図9】プラズマ処理による非金属性異物の除去率を示すグラフ。
【図10】滴定試験における角度の測定方法を示す説明図。
【図11】図11の角度と照射時間の関係を示すグラフ。
【図12】減圧した環境下におけるプラズマ処理を示す側面図。
【図13】金属メッシュ製フィルタによる濾過状態を示す側面図。
【図14】従来例の線材と乳剤の濡れ性を示す正面図及び部分拡大図。
【図15】スクリーンメッシュに異物が付着した状態を示す正面図。
【符号の説明】
【0065】
P…プラズマ
Pa…プラズマ被膜
E…異物
G…流体
1…金属メッシュ
2…線材
3…枠体
4…プラズマ照射装置
5…乳剤
6…開口部
7…転写物
8…転写基材
9…スキージ
10A…プラズマ照射装置
10…減圧室
10a…下部電極
10b…上部電極
11…減圧装置
12…ガス供給部
13…電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属メッシュを構成する線材表面の分子結合を、プラズマ発生手段が発生するプラズマにより濡れ性が高くなる状態に表面改質して、
上記プラズマにより表面改質してなる濡れ性の高いプラズマ被膜を線材の表面全体に対して略均一に形成した
金属メッシュの製造方法。
【請求項2】
上記線材及びプラズマ被膜の少なくとも一方の表面に、上記プラズマ発生手段が発生するプラズマを衝突させて微細な凹凸を多数形成した
請求項1に記載の金属メッシュの製造方法。
【請求項3】
上記プラズマ被膜を、大気圧又は減圧した環境下にて上記プラズマ発生手段によりプラズマを発生させて形成した
請求項1又は2に記載の金属メッシュの製造方法。
【請求項4】
上記微細な凹凸を、大気圧又は減圧した環境下にて上記プラズマ発生手段が発生するプラズマを衝突させて形成した
請求項1又は2に記載の金属メッシュの製造方法。
【請求項5】
上記線材の表面全体に、上記プラズマ発生手段が発生するプラズマを接触又は衝突させて該線材表面から異物を分離除去した
請求項1又は2に記載の金属メッシュの製造方法。
【請求項6】
金属メッシュを構成する線材の表面全体に、該線材表面の分子結合をプラズマにより表面改質してなる濡れ性の高いプラズマ被膜が略均一に形成されていることを特徴とする
金属メッシュ。
【請求項7】
上記線材及びプラズマ被膜の少なくとも一方の表面に、上記プラズマを衝突させてなる微細な凹凸が多数形成されていることを特徴とする
請求項6に記載の金属メッシュ。
【請求項8】
上記プラズマ被膜を、大気圧又は減圧した環境下にて上記プラズマを発生させた際に形成した
請求項6又は7に記載の金属メッシュ。
【請求項9】
上記微細な凹凸を、大気圧又は減圧した環境下にて上記プラズマを衝突させた際に形成した
請求項6又は7に記載の金属メッシュ。
【請求項10】
上記請求項6〜9のいずれか一つに記載の金属メッシュにより印刷用スクリーンを構成した
金属メッシュ製スクリーン。
【請求項11】
上記請求項6〜9のいずれか一つに記載の金属メッシュにより濾過用フィルタを構成した
金属メッシュ製フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−245708(P2007−245708A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2007−28097(P2007−28097)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(502090482)アサダメッシュ株式会社 (4)
【出願人】(507042132)PJT株式会社 (2)
【出願人】(507041928)ピーエスエム インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】