説明

金属分散液の製造方法

【課題】アルコール溶媒中で分散安定性に優れた高濃度の金属分散液を提供する。
【解決手段】酸の存在下で、メルカプトカルボン酸及び/又はその塩を粒子表面に有する金属粒子とアルコールを含む溶媒とを混合するとエステル化が促進され、それによって生成したメルカプトカルボン酸エステルの硫黄原子が金属と強く結合し、アルキル基が外側を向いて存在するので、金属粒子はアルコールとの親和性が非常に高く、アルコール溶媒に分散する。このような金属分散液は、塗装適性に優れており、広範囲の塗装方法に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粒子を配合した金属分散液の製造方法に関する。また、その金属分散液に配合する金属粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子を配合した金属分散液は、金属粒子を溶媒に分散し、必要に応じてバインダーや分散剤、粘度調整剤などの添加剤を更に配合した、一般にコーティング剤、塗料、ペースト、インキなどの組成物を含む総称である。このような金属分散液は、その金属粒子の性質を活用して、例えば電気的導通を確保するため、あるいは帯電防止、電磁波遮蔽又は金属光沢を付与するためなどの種々の用途に用いられている。しかも、近年になって、配合する金属粒子として、平均粒子径が1〜100nm程度の金属コロイド粒子が用いられるようになり、その用途は多方面に拡大している。具体的には、金属コロイド粒子の高い導電性を活用して、ブラウン管、液晶ディスプレイ等の透明性部材の電磁波遮蔽に適用されている。また、ナノマテリアルである金属コロイド粒子を用いて、微細な電極、回路配線パターンを形成する技術が提案されている。これは、金属コロイド粒子を配合した金属分散液を、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の手法で基板上に電極や回路配線のパターンを塗布した後、比較的低温で加熱して金属コロイド粒子を融着させるもので、特に、プリント配線基板の製造に応用されつつある。更に、金属コロイド粒子は穏やかな加熱条件下においても容易に粒子の融着が進行し金属光沢が発現するため、簡便な鏡面の作製技術が、意匠・装飾用途において注目されている。このような金属分散液としては、例えば、金属コロイドの粒子表面に予めメルカプトカルボン酸を付着させた後、メルカプトカルボン酸エステルを付着させたもの、更に、その後、メルカプトカルボン酸エステルを加水分解させてカルボキシル化した金属コロイド粒子を用いたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−179754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、保護剤として用いるメルカプトカルボン酸の付着層の密度と付着効率を向上させ、保護効果をより高めることを目的としているので、金属コロイド粒子を水性溶媒中に分散させると、粒子表面のメルカプトカルボン酸やメルカプトカルボン酸エステルが加水分解した生成物が解離して電気的に非常に強い陰性を示し、水のような極めて誘電率の大きい溶媒には、優れた分散安定性が得られるが、アルコール類のような極性溶媒では十分な分散安定性が得られ難い。水性溶媒では表面張力が大きいため用いることのできる塗装機がスピンコーターなどの一部の機器に限定されてしまい、このため、水性溶媒に表面張力の小さい非水溶媒を添加して塗装性の改良を図っているが十分ではない。また、バインダー成分等を配合する場合には、水性溶媒に溶解し易いバインダー成分等を用いる必要があるなど種類の制限を生じ易い。
そこで、広範囲の塗装方法に適用できるアルコール溶媒中で分散安定性に優れた金属分散液が求められており、また、バインダー成分等の配合量を任意に設計し易くするためにも、高濃度の金属分散液が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特許文献1記載の金属粒子の表面に付着したメルカプトカルボン酸及び/又はその塩を酸の存在下でアルコールと混合させるとエステル化が促進され、それによって生成したメルカプトカルボン酸エステルが有する硫黄原子が金属と強く結合し、アルキル基が外側を向いて存在するので、アルコールとの親和性が非常に高く、アルコール溶媒に分散させることができること、このものは塗装適性に優れていることなどを見出し、本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明は、酸の存在下で、メルカプトカルボン酸及び/又はその塩を粒子表面に有する金属粒子とアルコールを含む溶媒とを混合して、金属粒子をアルコール溶媒に分散させることを特徴とする金属分散液の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明で得られる金属分散液は、アルコール溶媒中でも金属粒子を高濃度で分散安定化させることができ、使用目的に応じて、バインダー成分等を配合して塗料、インキ、ペースト等の組成を任意に設計できる。また、塗装適性にも優れており、インキジェット塗装、スプレー塗装等広範囲の塗装方法に適用できる。
本発明の金属分散液は、電気的導通を確保する材料、帯電防止、電磁波遮蔽、金属光沢を付与する材料などに用いられ、特に、塗膜の導電性を活用したプリント配線基板等の微細電極及び回路配線パターンの形成、塗膜の鏡面を活用した意匠・装飾用途に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、酸の存在下で、メルカプトカルボン酸及び/又はその塩を粒子表面に有する金属粒子とアルコールを含む溶媒とを混合して、金属粒子をアルコール溶媒に分散させることを特徴とする金属分散液の製造方法である。本発明で得られる金属分散液は、メルカプトカルボン酸及び/又はその塩の一部あるいは全部とアルコールとの反応によって生成したメルカプトカルボン酸エステルを有する金属粒子を配合しているので、アルコール溶媒中に分散し易く、低級アルコールを用いた場合に特に分散安定性が優れている。このため、金属粒子の濃度を高濃度に、例えば10重量%以上にすることができ、15重量%以上にも調整することができる。金属粒子の配合量の上限値は、使用目的に応じて適宜設定される。例えば、電極材料用途における金属粒子の配合量の上限値は、90重量%程度が可能であり、85重量%が好ましく、80重量%がより好ましい。装飾用途においてはコストの面から、より低濃度の金属粒子を用いて鏡面を呈する塗膜が得られることが望ましく、その配合量は50重量%以下であれば良く、20重量%以下であればより好ましく、15重量%以下であれば更に好ましい。尚、本発明の金属分散液は、一般に分散体、コーティング剤、塗料、ペースト、インキ、インクなどと称される組成物を包含する。
【0009】
本発明の具体的な実施形態としては、例えば、前記金属粒子と必要量のアルコールを含む溶媒及び酸を混合し、必要に応じて固液分離し洗浄した後、得られた金属粒子を前記と同種又は異種のアルコールを含む溶媒に混合して分散させて行うこともでき、また、均一に反応させられるので、メルカプトカルボン酸及び/又はその塩を有する金属粒子をアルコールを含む溶媒と酸の混合液に混合して分散させる方法か、前記金属粒子をアルコールを含む溶媒に混合した後、酸を添加して分散させる方法が好ましい。アルコールを含む溶媒又は混合液への混合方法としては湿式混合機あるいは混練機を用い、例えば、撹拌機、らせん型混合機、リボン型混合機、流動化型混合機等の固定型混合機、円筒型混合機、双子円筒型混合機等の回転型混合機などを用いることができる。また、混合の前に必要に応じて、圧縮粉砕型、衝撃圧縮粉砕型、せん断粉砕型、摩擦粉砕型等の粉砕機を用いて、金属粒子を粉砕しても良く、また、粉砕機を用いて粉砕と同時に混合しても良い。粉砕機としては例えば、サンドミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル等の湿式粉砕機を好適に用いることができる。分散が不足している場合には必要に応じて、超音波分散機等の分散機を用いても良い。混合温度には特に制限は無いが、加熱下で反応を行う場合、アルコールが蒸発し難いように、用いるアルコールの沸点以下の温度で行うのが好ましい。メルカプトカルボン酸及び/又はその塩は金属粒子100重量部に対し、0.01〜50重量部程度の範囲で存在していれば、所望の効果が得られるので好ましく、更に好ましい範囲は0.05〜20重量部程度である。また、酸は金属粒子100重量部に対し、0.1〜10重量部の範囲で用いるとエステル化が生じ易いので好ましく、更に好ましくは0.5〜5重量部の範囲で用いる。また、アルコールと混合した後の金属粒子を洗浄する場合は、混合後に金属粒子を固液分離して洗浄し、アルコールを含む溶媒に分散させても良い。
【0010】
次に、本発明の製法で用いる各成分について説明する。
(1)金属粒子
本発明で用いる金属粒子は、その構成成分、粒子径等には特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができる。構成成分としては、1種の金属であっても、合金にしたり積層するなど2種以上の金属で構成されても良い。その金属成分としては周期表VIII族(鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)及びIB族(銅、銀、金)からなる群より選ばれる少なくとも1種であれば、導電性が高いので好ましく、中でも銀、金、白金、パラジウム、銅は特に導電性が高くより好ましく、電極、回路配線パターン形成用の金属分散液に用いるには、導電性とコストのバランスから銀又は銅が特に好ましい。また、金属粒子には、製法上不可避の酸素、異種金属等の不純物を含有していても良く、あるいは、金属粒子の急激な酸化防止のために必要に応じて予め酸素、金属酸化物やメルカプトカルボン酸以外の有機化合物などが含まれていても良い。金属粒子の粒子径は、入手し易いことから1nm〜10μm程度の平均粒子径を有する金属粒子を適宜用いるのが好ましく、1nm〜1μm程度の平均粒子径の金属粒子がより好ましく、多方面の用途に用いることができることから1〜100nm程度の平均粒子径を有する金属コロイド粒子が更に好ましく、より微細な電極、回路配線パターンを得るためには、5〜50nmの範囲の平均粒子径を有する金属コロイド粒子を用いるのが更に好ましい。本発明では1種の金属粒子を用いても良いし、2種以上の金属粒子を混合して用いても良く、例えば平均粒子径が異なる2種以上の金属粒子、構成成分が異なる2種以上の金属粒子を混合して用いても良い。
【0011】
金属粒子は、公知の方法を用いて製造することができ、例えば、(1)金属を真空中で蒸発させて、気相中から金属粒子を凝結させる方法、(2)金属化合物溶液に還元剤を添加して、液相中から金属粒子を析出させる方法などを用いることができ、(2)の方法では廉価に金属コロイド粒子が得られるため、より好ましい方法である。(2)の方法において、金属粒子を製造するための原料である金属化合物は、例えば、前記金属の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩等を用いることができる。金属化合物を溶解する溶媒には、水又はアルコール等の有機溶媒、あるいはこれら2種以上の混合溶媒を用いることができる。金属化合物の溶媒中の濃度は、金属化合物が溶解する範囲であれば特に制約はないが、工業的には5ミリモル/リットル以上とすることが好ましい。金属化合物が水に難溶のものであれば、金属成分と可溶性の錯体を形成する塩素イオンやアンモニア等を含む化合物を加えて用いることもできる。
【0012】
液相での反応に用いる還元剤としては公知のものを用いることができ、例えば、(1)ヒドラジン又はその水和物、(2)ヒドラジン系化合物(例えば、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン等)、(3)アルデヒド類((a)脂肪族アルデヒド類(例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド等)、(b)芳香族アルデヒド類(例えば、ベンズアルデヒド等)、(c)複素環式アルデヒド類等)、(4)アミン類((a)1級アミン類(例えば、ブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、エチレンジアミン等)、(b)2級アミン類(例えば、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン等)、(c)3級アミン類(例えば、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等)等)、(5)アミノアルデヒド類(例えば、アミノアセトアルデヒド等)、(6)アルカノールアミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、(7)還元糖(例えば、ショ糖、トレパース、マルトース、ラクトース等)、(8)水素化合物(例えば、水素化ホウ素ナトリウム等)、(9)低次無機酸素酸(例えば、亜硫酸、亜硝酸、次亜硝酸、亜リン酸、次亜リン酸等)及びその水化物(例えば、亜硫酸水素)又はそれらの塩(例えば、ナトリウム等のアルカリ金属塩)等が挙げられ、これらを1種又は2種以上を用いても良い。還元反応は任意の温度で行うことができ、水性溶媒中で行う場合には、5〜90℃の範囲の温度であれば、反応が進み易いので好ましい。還元剤の添加量は金属に還元できる範囲であれば適宜設定することができ、金属化合物1モルに対して、0.2〜50モルであることが好ましい。添加量が0.2モル未満では還元反応が十分に進行し難いため好ましくなく、50モルを超えると生成した金属粒子の分散が不安定になり易いため好ましくない。
【0013】
金属化合物と還元剤の混合液のpHを8〜14の範囲に調整すると、金属化合物が溶媒中に均一に分散し、還元反応が生じ易いので好ましい。更に好ましいpHの範囲は8〜13であり、8〜12であれば一層好ましい。具体的には、例えば、金属化合物を含む溶媒のpHを調整した後、金属化合物を還元しても良く、あるいは、還元剤を混合した後、pHを調整しても良い。pH調整には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩、アンモニア等のアンモニウム化合物、アミン類等の塩基性化合物を用いることができる。このようにして得られた金属粒子は、溶媒のpHを5以下にすると容易に凝集するので、吸引ろ過、沈降分離等の比較的簡単な操作でろ別できる。より好ましいpHの範囲は0〜5である。ろ別した金属コロイド粒子は常法により洗浄することができ、可溶性塩類や残存する還元剤を十分に除去できる。pH調整には、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸等の酸性化合物を用いることができる。
【0014】
(2)メルカプトカルボン酸及び/又はその塩
メルカプトカルボン酸及び/又はその塩は、分子内に硫黄元素とカルボキシル基とを含む有機化合物である。本発明では前述のように、この硫黄元素が金属粒子と化学結合しているものと考えられるが、メルカプトカルボン酸及び/又はその塩が金属粒子表面に吸着又は沈着した状態にあっても良く、一部が化学結合し残部が吸着、沈着した状態でも良い。電極や配線パターンの形成に用いる場合は、低分子量のものを用いると熱分解し易く、形成後の電極、配線パターン中に残留し難いので好ましく、分子量が200以下であれば好ましく、180以下であればいっそう好ましい。そのようなメルカプトカルボン酸として、例えば、メルカプトプロピオン酸(分子量106)、メルカプト酢酸(同92)、チオジプロピオン酸(同178)、メルカプトコハク酸(同149)、ジメルカプトコハク酸(同180)、チオジグリコール酸(同150)、システイン(同121)等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。中でも、メルカプトプロピオン酸の効果が高く好ましい。また、メルカプトカルボン酸の塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
【0015】
金属粒子の表面にメルカプトカルボン酸及び/又はその塩を予め存在させるには、金属粒子を分散した溶媒中にメルカプトカルボン酸及び/又はその塩を添加し混合するか、あるいは、前記の金属化合物と還元剤とを液相中で反応させる際にメルカプトカルボン酸及び/又はその塩を存在させても製造することができる。後者の方法では還元反応の際にメルカプトカルボン酸及び/又はその塩が存在しており、より高度に分散した金属粒子が得られ、特に微細な金属コロイド粒子が得られるため好ましい方法である。このことから、金属化合物とメルカプトカルボン酸及び/又はその塩とを溶媒に溶解した溶液と還元剤とを混合して還元する方法、金属化合物とメルカプトカルボン酸及び/又はその塩とを溶媒に溶解した溶液に還元剤を添加して還元する方法などがより好ましい方法である。
【0016】
(3)酸
酸は、本発明ではメルカプトカルボン酸及び/又はその塩とアルコールとの反応を促進させる働きをするもので、無機酸、有機酸のいずれも用いることができ、100%濃度での酸度関数(H)が−5以下の強酸が好ましい。そのような強酸としては、例えば、硫酸(H=−11.9)、硝酸(H=−6.3)、弗酸(H=−10.2)、トリフルオロメタンスルホン酸(H=−14.9)等が挙げられる。中でも、硫酸及び/又は硝酸の効果が高く好ましい。
【0017】
(4)アルコール
アルコールとしては金属粒子を分散するものであればどのようなものでも使用できるが、メルカプトカルボン酸及び/又はその塩との反応を行い得るものが好ましく、反応性が高い低級アルコールがより好ましく、これが有するアルキル基の炭素数が6以下であれば、優れた分散安定性の金属分散液が得られ易いのでより好ましく、直鎖状、分枝状、環状等の種々の構造様態を制限無く用いることができる。中でも、メタノール及び/又はエタノールは効果が大きく、好ましい低級アルコールである。また、エステル化反応後に固液分離して改めて分散させる際に用いるアルコールを含む溶媒としては、エステル化反応と同種のアルコール又は異種のアルコールを用いることができるが、同種のアルコールを用いるのが金属粒子の分散安定性を保持できるため好ましい。また、本発明の効果を損ねない範囲でなら、他の溶媒を含んでも良い。但し、アルコールに水が含まれていると、生成したメルカプトカルボン酸エステルが、経時的に加水分解が進行してメルカプトカルボン酸に戻り、分散安定性が低下してしまうので、水分が5%以下のものを用いるのが好ましい。
【0018】
前記のように製造された金属分散液には、前記の金属粒子、アルコールの他に、バインダー、増粘剤、可塑剤、防カビ剤、分散剤等を、必要に応じて適宜配合することもできる。バインダーは、塗布物と基材との密着性を一層向上させることができる。バインダーとしては、溶解型、エマルジョン型、コロイダルディスパージョン型等を制限なく用いることができる。また、バインダーの樹脂種としては、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂等を制限無く用いることができる。バインダー成分の配合量は、金属粒子100重量部に対し0.01〜10重量部程度の範囲が好ましく、より好ましい範囲は0.01〜8重量部程度であり、0.01〜5重量部程度であれば更に好ましい。
【0019】
次に、本発明で得られた金属分散液を用いた電極等について説明する。
電極、回路配線パターンは、前記金属分散液を、例えば、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の方法により、基板に塗布した後、塗布物を適当な温度で加熱焼成して得られる。また、塗膜は、前記金属分散液を、例えば、スピンコート、ロールコート、スプレーコート、刷毛塗り等の方法により、基材に塗布し乾燥して得られる。あるいは、スクリーン印刷やインクジェット印刷などの印刷方法や転写方法を用いて塗膜を形成することもできる。
【0020】
装飾物品は、基材の表面の少なくとも一部に、前記の塗膜を形成したものであって、金属粒子の金属色や光沢を基材表面に付与したものである。基材表面の全面にわたって着色し光沢を付与することができるほか、基材表面の一部分に意匠、標章、ロゴマークを形成したり、その他の文字、図形、記号を形成したりすることもできる。基材としては、金属、ガラス、セラミック、コンクリートなどの無機質材料、ゴム、プラスチック、紙、木、皮革、布、繊維などの有機質材料、無機質材料と有機質材料とを併用あるいは複合した材料を用いることができる。それらの材質の基材を使用物品に加工する前の原料基材に塗膜を形成して装飾を施すこともでき、あるいは、基材を加工した後のあらゆる物品に装飾を施すこともできる。また、それらの基材表面に予め塗装したものの表面に装飾を施すことも含まれる。
装飾を施す物品の具体例としては、(1)自動車、トラック、バスなどの輸送機器の外装、内装、バンパー、ドアノブ、サイドミラー、フロントグリル、ランプの反射板、表示機器等、
(2)テレビ、冷蔵庫、電子レンジ、パーソナルコンピューター、携帯電話、カメラなどの電化製品の外装、リモートコントロール、タッチパネル、フロントパネル等、
(3)家屋、ビル、デパート、ストアー、ショッピングモール、パチンコ店、結婚式場、葬儀場、神社仏閣などの建築物の外装、窓ガラス、玄関、表札、門扉、ドア、ドアノブ、ショーウインド、内装等、
(4)照明器具、家具、調度品、トイレ機器、仏壇仏具、仏像などの家屋設備、
(5)金物、食器などの什器、
(6)飲料水、タバコなどの自動販売機、
(7)合成洗剤、スキンケア、清涼飲料水、酒類、菓子類、食品、たばこ、医薬品などの容器、
(8)表装紙、ダンボール箱などの梱包用具、
(9)衣服、靴、鞄、メガネ、人口爪、人口毛、宝飾品などの衣装・装飾品、
(10)野球のバット、ゴルフのクラブなどのスポーツ用品、つり具などの趣味用品、
(11)鉛筆、色紙、ノート、年賀はがきなどの事務用品、机、椅子などの事務機器、
(12)書籍類のカバーやオビ等、人形、ミニカーなどのおもちゃ、定期券などのカード類、CD、DVDなどの記録媒体、などが挙げられる。また、人間の爪、皮膚、眉毛、髪の毛などを基材とすることができる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0022】
実施例1
(金属コロイド粒子の調製)
金属化合物として硝酸銀50gと3−メルカプトプロピオン酸1.6gを純水220ミリリットルに溶解し、28%アンモニア水70ミリリットルを加え、pHを11.6に調整した。一方、28%アンモニア水4ミリリットルを加えた295ミリリットルの純水に還元剤として水素化ホウ素ナトリウム2.1gを溶解した。両者を30分間かけて600ミリリットルの純水中に撹拌しながら同時に滴下し、硝酸銀を還元して、3−メルカプトプロピオン酸が表面に存在する銀コロイド粒子を溶媒中に生成させた。次いで、得られた銀コロイド粒子の溶媒を、硝酸(30%)を用いて溶媒のpHを2.5に調整し、銀コロイド粒子を沈降させ、真空ろ過機で銀コロイド粒子(銀コロイド粒子1000重量部に対し、メルカプトプロピオン酸を3重量部含む。銀コロイド粒子の平均粒子径は約10nm)をろ別し、ろ液の比導電率が10μS/cm以下になるまで水洗した後、真空乾燥機にて水分を除去し、銀コロイド粉末(X)を得た。
【0023】
(金属分散液の調製)
得られた銀コロイド粉末(X)をメタノールと硝酸の混合溶媒中(硝酸は銀コロイド粒子に対し1重量%に相当)に撹拌混合して、分散させた後、30分間撹拌して本発明の金属分散液(銀コロイド粒子濃度:30重量%)を得た。これを試料Aとする。
【0024】
実施例2
実施例1において、硝酸を硫酸に替えたこと以外は同様にして調製し、本発明の金属分散液を得た。これを試料Bとする。
【0025】
実施例3
実施例1で得た銀コロイド粉末(X)をエタノールと硝酸の混合溶媒中(硝酸は銀コロイド粒子に対し1重量%に相当)に撹拌混合して、分散させた後、50℃に加温し、30分間撹拌して本発明の金属分散液(銀コロイド粒子濃度:30重量%)を得た。これを試料Cとする。
【0026】
比較例1
実施例1において、メタノールをメチルイソブチルケトンに替えたこと以外は同様にして調製し、比較対象の金属分散液を得た。これを試料Dとする。
【0027】
比較例2
(金属コロイド粒子の調製)
金属化合物として硝酸銀39.4gを純水に溶解した水溶液60ミリリットルを、表面保護剤としてクエン酸3ナトリウム2水和物262.8g、還元剤として硫酸第一鉄7水和物129.2gを、純水800ミリリットルに溶解した水溶液に、撹拌しながら20分間かけて滴下し、硝酸銀を還元して、クエン酸3ナトリウムが表面に存在する銀コロイド粒子を溶媒中に生成させた。次いで、得られた銀コロイド粒子の溶媒を、遠心分離機を用いて98000m/sで30分間遠心分離を行い、沈降分を回収して800ミリリットルの純水に再分散させ、更に、98000m/sで30分間遠心分離を行い沈降分を除去し、水性銀コロイド溶液を得た。この水性銀コロイド溶液の比導電率を測定したところ、10μS/cm以下であった。得られた水性銀コロイド溶液にアセトン800ミリリットルを添加し、銀コロイド粒子を凝集させ、再度、29400m/sで30分間遠心分離して沈降分を回収し、真空乾燥機にて水分を除去し、銀コロイド粉末(Y)を得た。
【0028】
(金属分散液の調製)
前記の銀コロイド粉末(Y)をメタノールと硝酸の混合溶媒中(硝酸は銀コロイド粒子に対し1重量%に相当)に撹拌混合して、分散させた後、30分間撹拌して比較対象の金属分散液(銀コロイド粒子濃度:30重量%)を得た。これを試料Eとする。
【0029】
評価1
実施例1〜3、比較例1〜2で得られた金属分散液(試料A〜E)を、3日間静置した後、溶媒中の固形分濃度を測定した。固形分濃度が高い程、分散安定性に優れている。結果を表1に示す。本発明の金属分散液は、分散安定性に優れていることが判る。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明で得られる金属分散液は、メタノール、エタノール等のアルコールを分散媒とし、高濃度で分散安定性に優れているので、塗料、インキ、ペースト等の組成設計を比較的自由に行え、また、塗装適性に優れ、汎用性も高い。この金属分散液は、近年活発に開発が進められている電極、回路配線パターンの形成といったナノテクノロジーの新規用途にも適用でき、また、金属光沢による意匠性、装飾性の付与などのメッキ技術の代替用途にも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸の存在下で、メルカプトカルボン酸及び/又はその塩を粒子表面に有する金属粒子とアルコールを含む溶媒とを混合して、金属粒子をアルコール溶媒に分散させることを特徴とする金属分散液の製造方法。
【請求項2】
アルコールがメタノール及び/又はエタノールであることを特徴とする請求項1記載の金属分散液の製造方法。
【請求項3】
メルカプトカルボン酸がメルカプトプロピオン酸であることを特徴とする請求項1記載の金属分散液の製造方法。
【請求項4】
酸が硫酸及び/又は硝酸であることを特徴とする請求項1記載の金属分散液の製造方法。
【請求項5】
金属粒子を構成する金属が鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、銅、銀及び金から選ばれる少なくとも1種であることを請求項1記載の金属分散液の製造方法。
【請求項6】
金属粒子が銀粒子であることを特徴とする請求項5に記載の金属分散液の製造方法。
【請求項7】
金属粒子の濃度が10重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の金属分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法によって製造された金属分散液にバインダーを混合することを特徴とする金属分散液の製造方法。
【請求項9】
酸の存在下で、メルカプトカルボン酸及び/又はその塩を粒子表面に有する金属粒子とアルコールを含む溶媒とを混合して、金属粒子の表面にメルカプトカルボン酸エステルを存在させることを特徴とする金属粒子の製造方法。

【公開番号】特開2008−127680(P2008−127680A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317726(P2006−317726)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】