説明

金属加工油組成物

【課題】アルキルフェノールエトキシレートを含有せず、実用上満足できる乳化安定性、潤滑性、消泡性が得られ、金属加工での金属イオン増加による乳化劣化の問題が低減された、金属加工油組成物を提供すること。
【解決手段】潤滑油基油に、少なくとも下記一般式(1)で表されるアルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有することを特徴とする金属加工油組成物。


[式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、nは1〜100の整数であって、n個のAOは同一であっても異なってもよい。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属加工油組成物に関し、特に切削又は研削加工に使用される金属加工油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を切削加工又は研削加工する際には、加工精度の向上、工具寿命の延長等の目的で加工油剤が使用されている。中でも加工の高速度化や高送り化による発火の危険性、油煙やミスト等による作業者の環境面での安全性、或いはトータルコストの低減といった経済面での理由から水溶性金属加工油が多用されている。金属加工油には潤滑油、極圧添加剤、金属腐食防止剤、防錆剤、防腐剤、消泡剤等が含まれており、それらの種類や配合割合は目的とする加工の材質や仕上げ精度或いは加工条件の違いにより様々な配合がなされている。水溶性金属加工油は水に希釈して使用されるため、希釈時の乳化安定性が重要である。乳化安定性が悪いと加工精度にばらつきを生じたり、機械周りが汚れてくる等不具合の原因となる。このため、水溶性金属加工油にとって界面活性剤は非常に大きな役割を果たしている。
【0003】
ノニルフェノールやオクチルフェノール等のアルキルフェノールエトキシレートは、乳化性に優れ金属加工油にも多用されているが、希釈液の泡立ちの問題があった。また、近年では環境ホルモン物質に位置づけられている。このためこれらの物質を含まない金属加工油の開発が進められている(特許文献1)。しかしながら、乳化安定性、とりわけ硬水中における乳化安定性の他、原液安定性、消泡性、潤滑性のすべてにおいて実用上満足できるものはなかった。
【特許文献1】特開2001−55595号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記問題点を考慮に入れ、アルキルフェノールエトキシレートを含有せず、実用上満足できる乳化安定性、潤滑性、消泡性が得られ、金属加工での金属イオン増加による乳化劣化の問題が低減された金属加工油組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、上記課題に最適な金属加工油組成物を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、潤滑油基油に、下記一般式(1)で表されるアルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を配合して成る金属加工油組成物である。

[式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、nは1〜100の整数であって、n個のAOは同一であっても異なってもよい。]
【発明の効果】
【0006】
本発明の水溶性金属加工油組成物は、乳化安定性に優れるため、金属加工での金属イオン増加による乳化劣化の問題による乳化安定性の劣化を低減され、金属加工油に必要な性能として、潤滑性、消泡性などにおいても実用上満足できる効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細を説明する。
【0008】
前記一般式(1)において、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表す。Rの構造には特に限定はないが、不飽和結合数は1以上であればよく、直鎖構造であっても分岐構造のどちらであってもよい。
【0009】
前記一般式(1)で表される化合物はどのような方法で製造されたものであってもよい。通常は、アルケニルフェノールの1種または2種以上に塩基性触媒下アルキレンオキサイドを付加する方法で得ることができる。
【0010】
前記アルケニルフェノールには、工業的に製造された純品又は複数種の混合物のほか、植物等の天然物から抽出・精製された純品又は複数種の混合物として存在するものも含まれる。例えば上記カシューナッツ殻等から抽出され、カルダノールと総称される、3−[8(Z),11(Z),14−ペンタデカトリエニル]フェノール、3−[8(Z),11(Z)−ペンタデカジエニル]フェノール、3−[8(Z)−ペンタデセニル]フェノール、3−[11(Z)−ペンタデセニル]フェノール等の混合物や、いちょうの種子および葉、ヌルデの葉等から抽出される3−[8(Z),11(Z),14(Z)−ヘプタデカトリエニル]フェノール、3−[8(Z),11(Z)−ヘプタデカジエニル]フェノール、3−[12(Z)−ヘプタデセニル]フェノール、3−[10(Z)−ヘプタデセニル]フェノール等の混合物が挙げられる。これらの中で、分解性が良好であるカルダノールが好適に使用できる。
※出典:独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)ホームページ
【0011】
前記一般式(1)において、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表すが、具体的にはオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。nは1〜100の整数であって、アルキレンオキサイドの付加モル数を示す。本願に係る所望の性能を得る点でnは3〜50であれば好ましく、5〜30であればより好ましい。n個のAOは同一であっても異なっていてもよく、異なる場合はブロック付加、ランダム付加のいずれであってもよい。
【0012】
本発明において使用することができる潤滑油基油には、鉱物油、合成油および動植物油脂等があるが、特に制限はない。鉱物油としてはマシン油、タービン油、スピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。合成油としては、ポリαオレフィン、ポリブテン等の合成炭化水素や二塩基酸エステル、ポリオールエステルといった合成エステル等が挙げられる。動植物油脂としては、牛脂、豚脂、魚油、菜種油、ヤシ油、大豆油、ヒマシ油、パーム油、カラシ油等を挙げることが出来る。これらの潤滑油基油は単独で使用しても良いし、或いは2種以上を混合して使用することも可能である。潤滑油基油の配合割合は金属加工油組成物の全量を100質量%とした時に5〜95質量%程度の範囲が好ましい。
【0013】
前記一般式(1)で示される界面活性剤は単独又は2種以上を混合して使用することも可能で、配合割合は金属加工油組成物の全量を100質量%とした時に1〜30質量%であり、好ましくは1〜20質量%である。この量が少なすぎると乳化安定性が悪くなり、多すぎてもより一層の効果は得られない。
【0014】
金属加工油には通常何種類かの界面活性剤が含まれており、その中でもアニオン界面活性剤および非イオン界面活性剤がよく使用されている。本発明の組成物についても以下に挙げる界面活性剤を併用することで、より乳化安定性の優れたものを得ることができる。
【0015】
アニオン系界面活性剤としては、例えばカルボン酸のアミン塩やアルカリ金属塩、或いはスルホン酸のアルカリ金属塩等がある。カルボン酸としては、炭素数8から30程度のものが一般的でカプリル酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。アミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ブタノールアミン、モルホリン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンやこれらアミンのアルキレンオキサイド付加物等があり、アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム等がある。
【0016】
また非イオン系界面活性剤としては、例えばアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0017】
上記以外にも一般に金属加工油に使用されている界面活性剤は多種あるが、本発明において特に制限はなく、これらの界面活性剤は単独で使用することも出来るし、2種以上を混合して使用することも可能である。
【0018】
前記界面活性剤の配合割合としては金属加工油組成物の全質量を100質量%とした時1〜50質量%であり、好ましくは5〜30質量%である。この量が少なすぎると乳化安定性が悪くなり、多すぎても一層の効果は期待できずかえってコスト的に高くついてしまう。
【0019】
金属加工油には上記成分の他にも加工性向上のために極圧添加剤を配合することもあり、二次性能的な面において金属腐食防止剤、防腐剤、消泡剤、水等が配合されているが、本発明の組成物についても目的に応じて適宜配合することが可能である。なお、本発明の組成物について使用する際通常は水に希釈して使用するが、その時の希釈濃度は1〜25質量%で加工条件等により適宜調整される。
【0020】
以下実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
実施例1〜5および比較例1〜5を表1に示す割合で配合を行ない実施例および比較例の金属加工油を調製し、実施例と比較例の組成物について以下の試験を行なった結果を表1中に示す。
【0022】
(1)原液安定性試験:実施例及び比較例の組成物を室温、−5℃、+60℃の温度下において7日間静置した時の原液の安定性を観察した。
判定基準:○・・・・原液の分離なし
×・・・・原液の分離あり
(2)乳化安定性試験:実施例及び比較例の組成物を水道水及び硬水(塩化カルシウム2水塩を水1Lに0.787g溶かしたもの)にて10倍に希釈し、24時間静置した時の乳化状態を観察した。
判定基準:○・・・・希釈液にオイル層なし
×・・・・希釈液にオイル層あり
(3)潤滑性試験:実施例及び比較例の組成物を水で20倍に希釈したものについて、下記の条件にてA6061とS45Cでのタッピングトルク値を測定した。
切削工具: 転造タップ M8×1.25
評価条件 切削速度:5.0m/min
回転送り:1.25mm/rev
下穴:φ7.4mm
n数:25(トルク値は25穴の平均値で評価)
(4)消泡性試験:実施例及び比較例の組成物を水で20倍に希釈したもの50mlを100mlシリンダーに入れ、20回上下に強振後、液面が見える時間を測定した。
【0023】
【表1】

【0024】
以上の結果から、本発明に係る金属加工油剤組成物は、原液安定性、乳化安定性、潤滑性及び消泡性のいずれの面でも実用上満足できる結果が得られた。特に、比較例1及び2と比較すると、消泡性において、良好な性能が得られた。よって、本発明品の組成物は、ノニルフェノールエトキシレートを使用した例よりも良好な性能が得られた。なお、本発明は、前記実施例に限らず、目的と用途に応じて使用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、下記一般式(1)で表されるアルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有することを特徴とする金属加工油組成物。

[式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、nは1〜100の整数であって、n個のAOは同一であっても異なってもよい。]
【請求項2】
前記アルケニルフェノールの1種または2種以上がカルダノールである請求項1に記載の金属加工油組成物。

【公開番号】特開2009−51882(P2009−51882A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217776(P2007−217776)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】