説明

金属加工装置

【課題】STSP方による金属加工装置において、金属体に対して均一で効果的に冷却可能として、軟化領域を局所的に形成可能とした金属加工装置を提供する。
【解決手段】柱状とした金属体の所定位置を加熱する加熱部と、この加熱部に隣接させて設けて金属体を冷却する冷却部を備えるとともに、金属体の長手方向と平行とした回転軸周りに金属体を回転させる回転操作部を備えて、加熱部と冷却部とによって金属体に局部的に形成した軟化領域に、回転操作部による金属体の回転によって剪断応力を作用させて金属体の金属結晶を微細化する金属加工装置において、冷却部には、金属体に同軸状に環装した筒状のガイド管を設け、このガイド管の内部に、ガイド管の一方端側から他方端側に向けて、金属体を冷却する冷却用液体を金属体に沿って流通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属体に回転による剪断応力を加えて金属組織を微細化する金属加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の発明者の一人は、従来にない新たな金属の加工方法として、金属体を局部的に加熱して軟化させ、この軟化した部分を挟む一方の非軟化部分を他方の非軟化部分に対して回転または振動させることにより、軟化した部分に剪断応力を作用させ、この剪断応力を利用して金属体における結晶を微細化する加工方法を発明した(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特に、一方の非軟化部分を他方の非軟化部分に対して回転させることにより軟化した部分に剪断応力を作用させる加工方法をSTSP(Severe Torsion Straining Process)法と呼んでおり、このSTSP法により金属体を加工する金属加工装置をSTSP装置と呼んでいる。
【0004】
STSP装置では、円柱状の柱状体とした金属体を加工しており、金属体の長手方向に沿って金属体を冷却する第1冷却部と、金属体を加熱する加熱部と、金属体を冷却する第2冷却部とを設けて、加熱部で金属体を加熱する一方で、第1冷却部及び第2冷却部で金属体を冷却することにより、金属体を軟化させた軟化領域を局部的に形成している。
【0005】
加熱部では、高周波加熱コイル等を用いて金属体を加熱しており、第1冷却部及び第2冷却部では、水などの冷却用液体を金属体に接触させて冷却している。
【0006】
さらに、STSP装置には、軟化領域を挟む一方の非軟化部分の金属体を他方の非軟化部分の金属体に対して回転させる回転装置を設けており、回転装置で金属体を回転させることにより軟化領域の金属体に剪断応力を加えている。
【0007】
特に、軟化領域はできるだけ小さく形成することにより、軟化領域に作用する剪断応力を大きくして、金属体の結晶をより微細化可能としており、加熱部を挟んで設ける第1冷却部と第2冷却部をできるだけ近接させて配置することにより、軟化領域をできるだけ小さくしている。
【0008】
また、第1冷却部及び第2冷却部では、効果的に金属体を冷却するために、金属体に向けて水を噴射している。
【特許文献1】再表2004−028718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、生産効率を向上させるために、円柱状となっている金属体の径寸法を大きくした場合には、金属体の周囲から水を噴射して冷却した際に、金属体の周方向において水が接触している領域と、水が接触していない領域とが生じやすく、冷却効率が悪くなっていた。
【0010】
そこで、水を噴射する噴射口を増やすことにより、より均一な冷却を可能とするようにしてみたが、冷却の不均一性を完全には解消できてはいなかった。
【0011】
しかも、水を噴射口から噴射して冷却した際には、飛散した水が加熱部に達して金属体の加熱を阻害するおそれがあり、第1冷却部と第2冷却部とを近接させて配置することが困難となって、金属体に軟化領域を局所的に形成することが困難となっていた。
【0012】
本発明者らは、このような現状に鑑み、より太径の金属体に対しても均一で効果的に冷却可能として、軟化領域を局所的に形成可能とするために研究開発を行って本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の金属加工装置では、柱状とした金属体の所定位置を加熱する加熱部と、この加熱部に隣接させて設けて金属体を冷却する冷却部を備えるとともに、金属体の長手方向と平行とした回転軸周りに金属体を回転させる回転操作部を備えて、加熱部と冷却部とによって金属体に局部的に形成した軟化領域に、回転操作部による金属体の回転によって剪断応力を作用させて金属体の金属結晶を微細化する金属加工装置において、冷却部には、金属体に同軸状に環装した筒状のガイド管を設け、このガイド管の内部に、ガイド管の一方端側から他方端側に向けて、金属体を冷却する冷却用液体を金属体に沿って流通させることとした。
【0014】
さらに、本発明の金属加工装置では、以下の点にも特徴を有するものである。すなわち、
(1)加熱部と冷却部を金属体の長手方向に沿って移動させる移動手段を備え、冷却部を加熱部の移動方向側と反対側に設けたこと。
(2)ガイド管の加熱部側の端部には、金属体が挿通される挿通孔を有する第1支持体を設け、ガイド管の他方の端部には、金属体が挿通される挿通孔を有する第2支持体を設け、第2支持体に、ガイド管内の冷却用液体を吸引する吸引器に連通連結させる排出配管を接続して、第1支持体側からガイド管内に送給した冷却用液体を吸引すること。
(3)回転操作部で金属体を回転させて軟化領域に剪断応力を作用させる際に、金属体全体を回転させていること。
(4)金属体に形成した軟化領域を挟む一方側の金属体を回転させる第1回転機構部と、軟化領域を挟む他方側の金属体を回転させる第2回転機構部とで回転操作部を構成し、第1回転機構部と第2回転機構部でそれぞれ回転速度を異ならせて、金属体を同一方向または反対方向に回転させていること。
(5)第1支持体と第2支持体の間には、ガイド管に環装した筒状の外周管を設け、この外周管には、ガイド管と外周管との間に冷却用液体を供給する供給配管を接続し、ガイド管の第1支持体側の端部からガイド管内に冷却用液体を流入させること。
(6)ガイド管及び外周管を透明材料で構成可能としたこと。
【発明の効果】
【0015】
本発明の金属加工装置では、柱状とした金属体の所定位置を加熱する加熱部と、この加熱部に隣接させて設けて金属体を冷却する冷却部を備えるとともに、金属体の長手方向と平行とした回転軸周りに金属体を回転させる回転操作部を備えて、加熱部と冷却部とによって金属体に局部的に形成した軟化領域に、回転操作部による金属体の回転によって剪断応力を作用させて金属体の金属結晶を微細化する金属加工装置において、冷却部に、金属体に同軸状に環装した筒状のガイド管を設けて、このガイド管の内部に、ガイド管の一方端側から他方端側に向けて、金属体を冷却する冷却用液体を金属体に沿って流通させたことにより、冷却用液体を金属体の周方向に沿って均一に接触させることができ、金属体を周方向に均一に冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の金属加工装置は、所定長さの柱状とした金属体の所定位置を加熱する加熱部と、この加熱部に隣接させて設けて金属体を冷却する冷却部を備え、金属体に加熱部によって加熱されて軟化した軟化領域を局部的に形成し、金属体の長手方向と平行とした回転軸周りに金属体を回転させる回転操作部で金属体を回転させて、軟化領域部分の金属体に回転による剪断応力を作用させることにより金属結晶を微細化しており、本発明者らがSTSP装置と呼んでいるものである。
【0017】
特に、冷却部には、金属体に同軸状に環装した筒状のガイド管を設け、このガイド管の内部には、ガイド管の一方端側から他方端側に向けて、金属体を冷却する冷却用液体を金属体に沿って流通させているものである。
【0018】
したがって、冷却部では、ガイド管によって冷却用液体を金属体の周方向に沿って均一に接触させることができるので、金属体を周方向に均一に冷却することができ、冷却効果を向上させることができる。
【0019】
しかも、冷却用液体はガイド管によって案内されているので、加熱部の金属体に冷却用液体が飛散するおそれがなく、第1の冷却部または第2の冷却部を加熱部に近接させて配設することができ、軟化領域をより局所的に形成可能として、剪断応力による金属結晶の微細化効果を向上させることができる。なお、金属体に同軸状に環装する冷却部のガイド管は、金属体に環装状態となっていればよく、金属体の外周面からガイド管の内周面の距離が金属体の周面方向において必ずしも一様となっている必要はなく、冷却用液体をスムーズに送給可能となっていればよい。
【0020】
ガイド管の加熱部側の端部には、金属体が挿通される挿通孔を有する第1支持体を設け、ガイド管の他方の端部には、金属体が挿通される挿通孔を有する第2支持体を設けている。そして、第2支持体には、ガイド管内の冷却用液体を吸引する吸引器に連通連結する排出配管を接続して、第1支持体側からガイド管内に送給した冷却用液体を強制的に吸引することによって、冷却用液体に停留を生じさせることなく流通させて、冷却用液体による冷却効率を向上させている。
【0021】
図1は、本実施形態の金属加工装置の概略説明図である。金属加工装置は、所定長さとした円柱状の金属体Mの一方の端部を固定支持する第1チャック11と、金属体Mの他方の端部を固定支持する第2チャック12と、この第1チャック11と第2チャック12とで略水平状態に固定支持された金属体Mの中途部を加熱する加熱部となるヒータ20と、このヒータ20を挟んで設けてそれぞれ金属体を冷却する第1冷却器21と第2冷却器22とを備えている。本実施形態の金属加工装置では、第2チャック12を回転させる回転用モータ13を備え、第2チャック12側の金属体Mを第1チャック11側の金属体Mに対して回転可能としている。
【0022】
図1中、14は第1チャック11が装着された第1チャック用支持台、15は第2チャック12が回転自在に装着されるとともに回転用モータ13が装着された第2チャック用支持台である。
【0023】
ヒータ20と、第1冷却器21と、第2冷却器22は、上方位置に設けた所定形状の支持板23に吊り下げ状に装着している。図1中、23aは第1冷却器21を支持板23に吊り下げ状に装着するための連結アーム、23bは第2冷却器22を支持板23に吊り下げ状に装着するための連結アームである。
【0024】
支持板23は、金属体Mと略平行に配置した梁部24に設けたガイドレール25に沿って、金属体Mの長手方向に進退自在としている。図1中、26は支持板23をガイドレール25に装着するために設けたアームである。また、図1中、27は梁部24の一方の端部を支持する第1支持基体、28は梁部24の他方の端部を支持する第2支持基体である。ガイドレール25に沿った支持板23の移動は、例えばガイドレール25の長手方向に沿ってラックを長手状に配設し、アーム26の基端部分にラックと歯合するピニオンを設けて、このピニオンを駆動モータなどによって回転操作することによりガイドレール25に移動自在に装着した支持板23を移動可能としてもよい。あるいはガイドレール25の長手方向に沿ってスクリューロッドを設けるとともに、このスクリューロッドをアーム26の基端部分に螺入させて、スクリューロッドを回転操作することによりガイドレール25に移動自在に装着した支持板23を移動可能としてもよい。
【0025】
支持板23は、金属体Mの長手方向と平行に設けたガイドレール25に沿って進退移動することにより、金属体Mの長手方向に支持板23を進退移動させることができ、この支持板23に装着されたヒータ20を金属体Mの長手方向に進退移動可能としている。したがって、支持板23を進退移動させてヒータ20を金属体Mの所定位置に位置させることにより、金属体Mの所定位置に軟化領域を形成できるとともに、そのまま支持板23を進退移動させることによって軟化領域の位置を移動可能としている。
【0026】
すなわち、金属加工装置では、ヒータ20によって金属体Mに軟化領域を形成して回転用モータ13で金属体Mを回転させることにより、軟化領域部分の金属体に剪断応力を作用させて金属結晶を微細化するとともに、支持板23を移動させることによって軟化領域の位置を移動させることにより剪断応力が作用する部分を移動させて、長手方向に沿って連続的に金属結晶を微細化可能としている。
【0027】
図1中、29はヒータ20によって加熱された金属体Mの温度を計測するための温度検出器であって、支持板23に吊り下げ状に装着してヒータ20とともに移動可能としている。
【0028】
また、本実施形態のヒータ20は、金属体Mに巻き回して配置した高周波加熱コイルであって、高周波加熱コイルに通電する通電制御部(図示せず)と高周波加熱コイルとは所要の配線(図示せず)を介して接続している。
【0029】
図2に示すように、冷却部となる第1冷却器21及び第2冷却器22はそれぞれ同一構造とした冷却器であって、冷却用液体として水を用い、水を金属体Mに接触させて冷却している。なお、本実施形態では、第1冷却器21と第2冷却器22とを同一構造とした冷却器としているが、例えば、ヒータ20の移動方向の反対側に位置する冷却部の方だけ本発明に係る冷却器とし、他方は、従来の冷却方法を用いてもよい。
【0030】
このように、ヒータ20を挟んで第1冷却器21及び第2冷却器22を設けることにより、ヒータ20による加熱によって金属体Mに軟化領域を局部的に形成することができるが、軟化領域を局部的に形成するのは、回転用モータ13で金属体Mを回転させることによって生じさせた剪断応力を軟化領域に集中させて作用させるためであり、この目的に適うならば必ずしもヒータ20を挟んで第1冷却器21及び第2冷却器22を設ける必要はなく、いずれか一方だけであってもよい。具体的には、上述したようにヒータ20を金属体Mの長手方向に移動させる場合であって、金属M体の熱伝導の速度がヒータ20の移動速度と比較して大きくない場合には、ヒータ20の移動方向側には必ずしも冷却部を設ける必要はなく、ヒータ20の移動方向側と反対側に冷却部を設けるだけでよい。
【0031】
冷却器は、図3に示すように、金属体Mに環装した筒状のガイド管30と、このガイド管30のヒータ20側の端部に設けた第1支持体31と、ガイド管30の他方の端部に設けた第2支持体32と、第1支持体31と第2支持体32の間においてガイド管30に環装した筒状の外周管33とで構成している。ガイド管30と、第1支持体31と、第2支持体32と、外周管33は、図2に示すように、ガイド管30と外周管33とを第1支持体31と第2支持体32とで挟持して、連結ロッド34を介して第1支持体31と第2支持体32を連結することにより強固に挟持固定して一体化している。図2及び図3中、35は固定用のナットである。
【0032】
ガイド管30は、本実施形態では円筒体としており、第1支持体31側の端縁には、図4に示すように、ガイド管30の内側に冷却用液体の水を流入させる切り欠き状の流入口hを複数設けている。なお、ガイド管30は円筒形状に限定するものではないが、水と金属体Mとの接触効率を考慮した場合、円筒形状が望ましい。なお、図4では、ガイド管30に流入口hを設けた形態を示しているが、第1支持体31におけるガイド管30の当接部分に切り欠き状に溝を形成して水をガイド管30の外側から内側に導く流水路としてもよい。
【0033】
第1支持体31は、金属体Mが挿通される挿通孔31aを中央部に設けた金属製の平板体としている。特に、第1支持体31には、図3に示すように、第2支持体32側の面にガイド管30及び外周管33が挿入される凹部31eを設け、この凹部31eの底面部分をガイド管支持壁31fとして、ガイド管30及び外周管33の端縁を当接させている。なお、第1支持体31は、ヒータ20に近接させて配設されるため、第1支持体31の内部に通水路31bを設けており、図2に示すように、この通水路31bに給水管31c及び排水管31dを連通連結して冷却水を通水させて、冷却可能としている。第1支持体31は金属製に限定するものではなく、例えばセラミックス製など、耐熱性の高い材料で形成してよい。
【0034】
第2支持体32も、金属体Mが挿通される挿通孔32aを中央部に設けた金属製の平板体であって、第2支持体32の側面には、挿通孔32aと連通する連通孔32bを設けている。第2支持体32も、第1支持体31と同様に金属製に限定するものではなく、適宜の材料で形成してよい。
【0035】
外周管33は、本実施形態では円筒体としており、周面の所定位置に冷却用液体である水をガイド管30と外周管33との間に供給する供給配管36が接続される給水口33aを設けている。図3中、36aは供給配管36を給水口33aに装着するための補助具である。本実施形態では、外周管33には給水口33aを1つだけ設けているが複数の給水口33aを設けてもよい。また、外周管33も円筒形状に限定するものではなく、適宜の形状としてよい。
【0036】
給水口33aに供給配管36を接続してガイド管30と外周管33の間に供給された水は、ガイド管30の第1支持体31側に設けている流入口hからガイド管30内に流入し、金属体Mと接触して冷却可能としている。
【0037】
特に、第1支持体31では、ガイド管支持壁31fの厚みをできるだけ薄くすることによりガイド管30の第1支持体31の端部をヒータ20に近接させており、ガイド管30の流入口hをヒータ20に近接させながら第1支持体31から水をガイド管30内に流入させることにより、ヒータ20により近い部分から金属体Mを冷却することができるので、軟化領域をより局部的に形成して、剪断応力を効果的に作用させることができる。
【0038】
また、金属体Mを冷却するために用いている水で第1支持体31自体も冷却でき、金属体Mからの輻射熱による第1支持体31の熱変形あるいは破損を防止しやすくすることができる。
【0039】
第2支持体32の連通孔32bには、ガイド管30内に流入した水を吸引する吸引器(図示せず)に連通連結する排出配管37を接続して、ガイド管30内の水を吸引している。図3中、37aは排出配管37を連通孔32bに装着するための補助具である。本実施形態では、吸引器には真空ポンプを用い、排出配管37の中途部で気液分離器(図示せず)を介して、水を分離している。
【0040】
このように、吸引器でガイド管30内に流入した水を吸引することにより、ガイド管30に金属体Mの熱で高温となった水が停留することを防止して、水を円滑に循環させて冷却効果を向上させることができる。
【0041】
特に、ガイド管30は金属体Mに環装しているので、冷却用液体である水を金属体Mの周方向に沿って均一に接触させることができ、金属体Mを周方向に均一に冷却することができる。
【0042】
しかも、ガイド管30の一方端側から他方端側に向けて水を流通させているので、水が金属体Mと接触しない非接触領域が生じることを防止して、金属体Mを効果的に冷却できる。
【0043】
さらに、ガイド管30内への水の送給は、第1支持体31の凹部31eに差し入れたガイド管30の流入口hからガイド管30内へ流入させることにより、第1支持体31においてスムーズにガイド管30内に水を供給できるので、十分な量の水をガイド管30内に供給して金属体Mを確実に冷却できる。
【0044】
特に、ガイド管30と外周管33との間の空間が、吸水タンクとして利用できるので、ガイド管30内に十分な量の水を供給しやすくすることができる。
【0045】
また、吸引器でガイド管30内に流入した水を吸引することにより、第1支持体31の挿通孔31aにおける金属体Mとの隙間や、第2支持体32の挿通孔32aにおける金属体Mとの隙間から、ガイド管30内に流入した水が漏れ出ることを防止できる。
【0046】
このように、第1支持体31の挿通孔31aから水が漏れ出すことを防止できるので、ヒータ30側に水が飛散することを確実に防止して、ヒータ30による金属体Mの加熱が阻害されることを防止でき、第1支持体31及び第2支持体32を可能な限りヒータ20に近接させて配置できる。したがって、ヒータ20と第1冷却器21及び第2冷却器22とで金属体Mに軟化領域を極めて局部的に形成でき、この軟化領域に局部的に剪断応力を作用させて、金属体の結晶の微細化効果を向上させることができる。
【0047】
本実施形態では、ガイド管30と外周管33は、それぞれ透明な材料で形成している。具体的には、ガラスや耐熱性プラスチックなどを用いることができる。ガイド管30と外周管33を透明材料で構成した場合には、冷却器内部の水の移動状態を目視確認することができるので、何らかの異常によって水の供給が停止した場合に、速やかに異常を検出して対処することができる。
【0048】
他の実施形態として、図5に示すように、金属体Mの一方の端部を固定支持する第1チャック11にも回転用モータ13aを連動連結して第1チャック11を回転自在とし、回転用モータ13bにより回転自在とした第2チャック12とにより、第1チャック11と第2チャック12とで略水平状態に固定支持された金属体Mを回転可能としている。ここで、本実施形態では、第1チャック11と回転用モータ13aとで第1回転機構部を構成し、第2チャック12と回転用モータ13bとにより第2回転機構部を構成しているが、金属体Mを回転させる回転機構はこれらに限定するものではなく、金属体Mを回転可能となっていればどのように構成してもよい。
【0049】
第1チャック11を回転させる回転用モータ13aと、第2チャック12を回転させる回転用モータ13bは、金属体Mを同一方向または反対方向に回転させるとともに、それぞれの回転速度を異ならせることにより生じる差速によって金属体Mの軟化領域部分に剪断変形を生じさせている。
【0050】
例えば、第1チャック11を回転させる回転用モータ13aの出力が金属体Mを30rpmで回転させる回転出力としている場合に、第2チャック12を回転させる回転用モータ13bの出力を、金属体Mを20rpmで回転させる回転出力としている。したがって、金属体Mの軟化領域部分は、10rpmで剪断変形されており、この剪断変形による剪断応力によって金属結晶が微細化されている。また、このとき、金属体M自体は、少なくとも20rpmで回転していることとなっている。
【0051】
このように、金属体Mの軟化領域部分に剪断応力を作用させて金属結晶を微細化している際に、金属体M全体を回転させていることにより、第1冷却器21及び第2冷却器22による金属体Mの冷却によって生じる金属体Mの温度分布を、回転する金属体Mの回転軸を中心として同心円状の温度分布に近づけることができる。特に、この場合、ヒータ20による金属体Mの加熱も、金属体Mが回転していることによって均一化されるので、金属体Mの温度分布を、回転する金属体Mの回転軸を中心として同心円状の温度分布にさらに近づけることができる。
【0052】
したがって、金属体Mに作用する剪断応力の大きさの分布も、回転する金属体Mの回転軸を中心として同心円状の分布とすることができ、剪断応力を金属体Mの回転方向に安定的に作用させることができるので、金属体Mに余計な変形が生じることを抑制して、剪断変形後の形状を安定化させることができる。
【0053】
また、第1チャック11を介して回転させられる金属体と、第2チャック12を介して回転させられる金属体の回転方向を互いに逆方向とした場合には、金属体を低速回転の駆動機構を用いて回転させても最大で2倍の回転数で金属体に剪断変形を生じさせることができる。
【0054】
第1回転機構部及び第2回転機構部による金属体Mの回転速度の差の大きさは、金属体Mの材質及び径寸法に応じて適宜とすることができる。
【0055】
第1回転機構部及び第2回転機構部を設けた金属加工装置では、第1チャック11及び第2チャック12に金属体Mを装着し、ヒータ20による金属体Mの加熱の開始とともに、第1回転機構部と第2回転機構部により金属体Mを回転させている。このとき、第1回転機構部と第2回転機構部は、それぞれ金属体Mを同じ回転速度で回転させており、ヒータ20による加熱によって金属体Mに回転軸を中心として同心円状の均一な温度分布を生じさせるようにしている。なお、このとき、第1冷却器21と第2冷却器22は金属体の冷却を開始しており、ヒータ20による加熱を局部的としている。
【0056】
温度検出器29により金属体Mがヒータ20によって所定の温度まで加熱されたことを検出すると、金属加工装置は、金属体Mに沿った支持板23の移動を開始するとともに、第1回転機構部と第2回転機構部の少なくとも何れか一方による金属体Mの回転速度を変更して、第1回転機構部と第2回転機構部とでそれぞれが金属体Mを回転させる速度を異ならせ、金属体Mの軟化領域部分の剪断変形を開始する。
【0057】
支持板23の移動方向側と反対側における金属体は、第1冷却器21または第2冷却器22によってほぼ常温にまで冷却している。
【0058】
金属加工装置は、支持板23を所定の距離だけ移動させた後、ヒータ20による加熱を停止して、支持板23をさらに所定の距離だけ移動させて、ヒータ20によって加熱された金属体Mを第1冷却器21及び第2冷却器22によって完全に冷却している。
【0059】
金属加工装置は、金属体Mの冷却後、第1冷却器21及び第2冷却器22を停止させて、金属体Mを取り出し可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る金属加工装置の概略説明図である。
【図2】本発明に係る金属加工装置の要部概略説明図である。
【図3】冷却器の説明図である。
【図4】ガイド管に設けた流入口の説明図である。
【図5】他の実施形態の金属加工装置の要部概略説明図である。
【符号の説明】
【0061】
M 金属体
20 ヒータ
21 第1冷却器
22 第2冷却器
23 支持板
29 温度検出器
30 ガイド管
31 第1支持体
31a 挿通孔
32 第2支持体
32a 挿通孔
32b 連通孔
33 外周管
33a 給水口
34 連結ロッド
36 供給配管
37 排出配管
h 流入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状とした金属体の所定位置を加熱する加熱部と、この加熱部に隣接させて設けて前記金属体を冷却する冷却部を備えるとともに、前記金属体の長手方向と平行とした回転軸周りに前記金属体を回転させる回転操作部を備えて、前記加熱部と前記冷却部とによって金属体に局部的に形成した軟化領域に、前記回転操作部による前記金属体の回転によって剪断応力を作用させて前記金属体の金属結晶を微細化する金属加工装置において、
前記冷却部は、前記金属体に同軸状に環装した筒状のガイド管を備え、このガイド管の内部に、前記ガイド管の一方端側から他方端側に向けて、前記金属体を冷却する冷却用液体を前記金属体に沿って流通させていることを特徴とする金属加工装置。
【請求項2】
前記加熱部と前記冷却部を前記金属体の長手方向に沿って移動させる移動手段を備え、前記冷却部は、前記加熱部の移動方向側と反対側に設けたことを特徴とする請求項1記載の金属加工装置。
【請求項3】
前記ガイド管の前記加熱部側の端部には、前記金属体が挿通される挿通孔を有する第1支持体を設け、
前記ガイド管の他方の端部には、前記金属体が挿通される挿通孔を有する第2支持体を設け、
この第2支持体に、前記ガイド管内の冷却用液体を吸引する吸引器に連通連結させる排出配管を接続して、前記第1支持体側から前記ガイド管内に送給した冷却用液体を吸引していることを特徴とする請求項2に記載の金属加工装置。
【請求項4】
前記回転操作部は、前記金属体を回転させて前記軟化領域に剪断応力を作用させる際に、前記金属体全体を回転させていることを特徴とする請求項3に記載の金属加工装置。
【請求項5】
前記回転操作部は、前記金属体に形成した前記軟化領域を挟む一方側の金属体を回転させる第1回転機構部と、前記軟化領域を挟む他方側の金属体を回転させる第2回転機構部とを有し、
前記第1回転機構部と前記第2回転機構部は、それぞれ回転速度を異ならせて前記金属体を同一方向または反対方向に回転させていることを特徴とする請求項4に記載の金属加工装置。
【請求項6】
前記第1支持体と前記第2支持体の間には、前記ガイド管に環装した筒状の外周管を設け、
この外周管には、前記ガイド管と前記外周管との間に冷却用液体を供給する供給配管を接続し、
前記ガイド管の前記第1支持体側の端部から前記ガイド管内に前記冷却用液体を流入させていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の金属加工装置。
【請求項7】
前記ガイド管及び前記外周管は、透明材料で構成可能としたことを特徴とする請求項5に記載の金属加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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