金属化合物を除去するための吸着剤及び金属化合物を除去する方法
有機金属性化合物の貯蔵、輸送及び供給中に発生する金属不純物を除去するために吸着剤を使用する、効果的で単純な吸着剤並びに方法を開示する。開示した吸着剤及び方法は、その輸送、貯蔵及び供給中に有機金属性化合物の分解により発生する金属性不純物又は金属性化合物の容易で効果的な除去を提供する。すなわち、開示した吸着剤及び方法は、半導体及び太陽電池において望まれる高純度の有機金属性化合物の安定な供給を可能とする。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2010年3月5日付けで出願された仮出願第61/311,063号(その全内容が参照により本明細書中に援用される)に対する米国特許法第119条(e)項に基づく利益を主張するものである。
【0002】
有機金属性化合物は、太陽電池及びフラットパネルディスプレイを製作する上で使用される透明導電性酸化物膜等の様々な目的のための材料として使用される。ジエチル亜鉛(DEZn)等の多くの有機金属性化合物は、微量水分、微量酸素、光、及び場合によっては熱の存在下で容易に分解する。その際、有機金属性化合物は金属性化合物を発生させる。DEZnの場合、分解によって、エタン/エチレンとDEZnとの蒸気圧の差に起因して、蒸気領域に蓄積し貯蔵容器内の圧力を増大させる傾向のある固体のZn及びエタン/エチレンが生成される。金属性化合物は徐々に、有機金属性化合物の貯蔵、製造設備への輸送及び供給中に、貯蔵タンク、供給施設の部材及び充填ラインに堆積する。これは、金属性化合物が製造プロセスを汚染するだけでなく、供給システムに使用される部材の停止をもたらすため、問題となる。さらに、金属性化合物は、有機金属性化合物の更なる劣化をもたらすことがある。有機金属性化合物の不安定な特性にかかわらず、半導体産業及び太陽電池産業では、高い純度を維持しながら製造設備にこれらの不安定な化合物を継続的に供給する強い要望が残っている。
【0003】
結果として、有機金属性化合物のための精製技術及び供給技術が開発されてきた。特許文献1は、活性炭によるカラムクロマトグラフィを用いたジエチル亜鉛のための精製方法を開示している。特許文献2は、昇華を用いてトリメチルインジウムから不純物を除去する方法を開示している。特許文献3は、乾燥有機金属性化合物を銅触媒又はニッケル触媒と接触させて、乾燥有機金属性化合物中に不純物として存在する酸素を除去することによって、乾燥有機金属性化合物を精製する方法を開示している。
【0004】
しかしながら、かかる精製技術を使用しても、該精製技術は、貯蔵、輸送及び供給中にタンク内に発生する金属性不純物に対処することはできない。結果として、有機金属性化合物の安定的な供給に対応する効果的な技術はこれまでに開示されていないと考えられる。より詳細には、貯蔵、輸送及び供給中にタンク及び供給施設内に発生する金属不純物を除去するのに、単純で、かつ費用対効果の大きな技術が必要とされている。
【0005】
図1及び図2を参照して、有機金属性化合物のための1つの標準的な輸送、貯蔵及び供給の技術を説明する。図1は、生産地120から消費プラント130へと有機金属性化合物110を供給するための例示的な従来技術の流通経路100の図である。生産地120は海外の生産地の場合があり、消費プラント130は国内の消費プラントの場合がある。有機金属性化合物110が生産される生産地120で輸送タンク140に有機金属性化合物110を充填する。その後、輸送タンク140を充填プラント150へと輸送する。輸送タンク140は海上輸送160により充填プラント150に輸送してもよい。充填プラント150では、有機金属性化合物110を、輸送タンク140から1つ又は複数の貯蔵タンク170a、170b及び170cへと移す。各貯蔵タンク170a、170b及び170cは様々な消費プラント180a、180b及び180cにおいて1つ又は複数の消費主体へと輸送される。1つ又は複数の貯蔵タンク170a、170b及び170cは、運搬用道路を介して消費プラント180a、180b及び180cへと輸送してもよい。
【0006】
流通経路100に関する1つの問題は、たとえ輸送前に有機金属性化合物を高度に精製しても、化合物が結局は分解して、分解された金属性化合物を発生させると考えられることである。これらの分解された金属性化合物の幾つかは有機金属性化合物中に拡散し、化合物の幾つかは貯蔵及び輸送中にタンク及び供給施設内に堆積すると考えられる。さらに、輸送タンク内の有機金属性化合物が高温(例えば60℃)で輸送される場合、分解された金属性化合物の量が増大すると考えられる。
【0007】
図2は、供給設備210から製造設備220へと有機金属性化合物110を供給する従来技術の方法200の図である。貯蔵タンク170は、貯蔵タンク170が消費プラントに輸送された後、供給設備210に連結される。その後、貯蔵タンク170内の有機金属性化合物110を、バブラー(bubbler)230等の供給タンクに移す。その後、有機金属性化合物は、当該技術分野で既知の方法、例えばバブリング供給法を用いて製造設備220に供給される。
【0008】
貯蔵タンク170からバブラー230へと液体有機金属性化合物110を移すために、キャリアガス吸気ライン(図示せず)及びキャリアガス吸気バルブ240を通じて、キャリアガス234を貯蔵タンク170内に導入し、貯蔵タンク170を加圧する。貯蔵タンク170内の圧力が上昇すると、その後、液体有機金属性化合物110がサイフォン管250を通じて輸送され、化合物が、充填バルブ260、第1の供給パイプ270、フィルタ280及び充填バルブ284を通じてバブラー230へと供給され、液体有機金属性化合物110がバブラー230に充填される。この充填システムは、空のバブラー、及び化合物が使用されてバブラー内の化合物の体積が減少した後で有機金属性化合物を既に充填しているバブラーの両方を充填することを可能とする。
【0009】
製造設備220への供給中に、キャリアガス282が、キャリアガス吸気バルブ288及びスパージャ(sparger)286を通じてバブラー230内へと導入され、その後、キャリアガス282はバブラー230内の液体有機金属性化合物224中に分散する。バブラーに導入されるキャリアガス282は、有機金属性化合物224による飽和状態となり、供給バルブ290及び第2の供給パイプ294を通じて飽和したガス混合物が製造設備220へと供給される。
【0010】
貯蔵タンク170における有機金属性化合物の分解に起因して発生する金属性化合物の、サイフォン管250、充填バルブ260、第1の供給パイプ270及びフィルタ280上における堆積は、供給システムに関する幾つかの問題を引き起こし、有機金属性化合物を製造設備に安定して継続的に供給することを困難にする。フィルタ280は分解された金属性化合物により容易に詰まることがあるため、頻繁な修復及び供給システムのそれに伴う休止時間を要する。分解された金属性化合物は貯蔵タンク170内だけでなくバブラー230内にも発生する。バブリング供給中、バブラー230内の有機金属性化合物224中の任意の分解された金属性化合物は、供給バルブ290、第2の供給パイプ294、並びに第2の供給パイプ294に取り付けられるあらゆる機器、例えば、マスフローコントローラ(mass flow controller)、マスフローメータ(mass flow meter)、及び任意の付加的なフィルタ及びバルブ(図2には図示せず)へとガス混合物と一緒に散乱し、これらの機器を詰まらせるおそれがある。したがって、有機金属性化合物を製造設備に安定して継続的に供給することは困難である。
【0011】
分解された金属性化合物によって引き起こされる上記の問題を解決するための幾つかの技術が研究されてきた。1つの技術は、典型的なステンレス鋼製の管及びタンクの表面上の水分及び酸素を低減させることによって、有機金属性化合物の分解を低減させようと試みるものである。水分及び酸素は、ステンレス鋼表面を電解研磨及び/又は高純度窒素パージプロセスに曝すことによって低減する。しかしながら、幾つかの有機金属性化合物は
分解するのに熱のみを要するため、水分及び酸素を低減させるための電解研磨及び窒素パージは十分な解決策ではない。また、この解決策には時間及び人件費がかかる。
【0012】
別の技術は、金属性化合物を低減させるために濾過を使用している。しかしながら、フィルタ上の水分及び酸素を取り除くことは依然として困難であり、多くの場合、フィルタが金属性化合物により詰まった状態となる。よって、これらの既知の技術は、有機金属性化合物中に発生する金属性化合物を低減させるのに十分なものではない。近年、これらの有機金属性化合物に対する需要が高まっているため、これらの化合物の安定な供給のための新たな解決策が、半導体分野及び太陽電池分野の者によって大いに望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−41151号
【特許文献2】特許第3303391号
【特許文献3】特許第3217854号
【発明の概要】
【0014】
太陽電池産業又は半導体産業において使用される施設の部材から金属性化合物を除去するための吸着剤を開示する。吸着剤は金属から作製され、該金属は金属性化合物に対する高い付着性を有する。開示した吸着剤は以下の態様の1つ又は複数を含み得る:
施設の部材は、貯蔵タンク、輸送タンク、供給施設タンク、供給ライン及び充填ラインを含む;
金属吸着剤の金属は、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、Cu、ステンレス鋼、及びそれらの合金からなる群から選択される;
金属性化合物は、液体有機金属性化合物の分解によって発生する;
液体有機金属性化合物は、式R1〜3−M(式中、R1〜3の各Rは独立してアルキル基であり、Mは、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、又はこれらの金属の化合物からなる群から選択される金属である)で表される;
液体有機金属性化合物は、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛、トリエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルガリウム又はトリエチルガリウムからなる群から選択される;
金属吸着剤により除去される金属性化合物は、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、それらの酸化物、それらの水酸化物、又はそれらの組合せからなる群から選択される;
金属吸着剤の金属は銅であり、金属性化合物は、ジエチル亜鉛(DEZn)の分解により発生する亜鉛である;
金属吸着剤の形状は、平板、粉末、ワイヤ、網、及びそれらの組合せから選択される;
金属吸着剤は少なくとも1つの平面を有する;
金属吸着剤は銅金網を含む;並びに
金属吸着剤は粒状スポンジである。
【0015】
また、本明細書中に開示される吸着剤を使用して、液体有機金属性化合物の貯蔵、輸送及び供給中に液体有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物を除去する方法を開示する。本方法は以下の態様の1つ又は複数を含み得る:
液体有機金属性化合物の分解により金属性化合物を発生させる液体有機金属性化合物を、金属から作製される金属吸着剤と接触させることであって、金属性化合物の少なくとも一部が金属吸着剤によって液体有機金属性化合物から除去される;
液体有機金属性化合物及び金属吸着剤をタンク又は管内に貯蔵する;
タンク又は管から液体有機金属性化合物の液体又は蒸気を供給する;
金属吸着剤の金属は、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、Cu、ステンレス鋼、及びそれらの合金からなる群から選択される;
液体有機金属性化合物は、式R1〜3−M(式中、R1〜3の各Rは独立してアルキル基であり、Mは、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、又はこれらの金属の化合物からなる群から選択される金属である)で表される;
液体有機金属性化合物は、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛、トリエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、及びそれらの組合せからなる群から選択される;
金属吸着剤により除去される金属性化合物は、M、Mの酸化物、Mの水酸化物、又はそれらの組合せである;
金属吸着剤の金属は銅であり、金属性化合物は、ジエチル亜鉛(DEZn)の分解により発生する亜鉛である;
金属吸着剤の形状は、平板、粉末、ワイヤ、網、及びそれらの組合せから選択される;
金属吸着剤は銅金網を含む;
金属吸着剤を純水に曝すこと;
純水を除去するように金属吸着剤を乾燥させること;
金属吸着剤を希酸溶液に曝すこと;
金属吸着剤から希酸溶液を除去するように金属吸着剤をすすぐこと;
すすいだ金属吸着剤を乾燥させること;並びに
タンク又は管内に液体有機金属性化合物及び金属吸着剤を貯蔵すること。
【0016】
また、本明細書中に開示される吸着剤を使用して、液体有機金属性化合物の貯蔵、輸送及び供給中に液体有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物を除去する別の方法を開示する。本方法は以下の態様の1つ又は複数を含み得る:
銅から作製される吸着剤を含有するタンク又は管内に、液体ジエチル亜鉛の分解により亜鉛粒子を発生させる前記液体ジエチル亜鉛(DEZn)を貯蔵することであって、亜鉛粒子の少なくとも一部が、銅から作製される吸着剤によってジエチル亜鉛から除去される;
銅から作製される吸着剤が銅網である;
銅網は、400ミクロン×400ミクロンの格子メッシュサイズを有する;
タンク又は管から液体ジエチル亜鉛の液体又は蒸気を供給すること;
銅から作製される吸着剤を純水に曝すこと;
純水を除去するように、銅から作製される吸着剤を乾燥させること;
銅から作製される吸着剤を希酸溶液に曝すこと;
吸着剤から希酸溶液を除去するように、銅から作製される吸着剤をすすぐこと;
吸着剤を乾燥させること;並びに
銅を乾燥させることは、銅吸着剤を窒素ガスに曝すことを含む。
【0017】
また、本明細書中に開示される吸着剤を使用して、液体有機金属性化合物の貯蔵、輸送及び供給中に液体有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物を除去する更に別の方法を開示する。本方法は以下の態様の1つ又は複数を含み得る:
金属吸着剤を純水に曝すこと;
純水を除去するように金属吸着剤を乾燥させること;
金属吸着剤を希酸溶液に曝すこと;
金属吸着剤から希酸溶液を除去するように金属吸着剤をすすぐこと;
金属吸着剤を乾燥させること;
金属吸着剤を貯蔵タンク内に配置すること;
貯蔵タンクに液体有機金属性化合物を充填すること;
液体有機金属性化合物を貯蔵タンク内に一定期間貯蔵することであって、金属吸着剤が、液体有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物の少なくとも一部を液体有機金属性化合物から除去する;
貯蔵タンクから液体有機金属性化合物の液体又は蒸気を供給すること;
金属吸着剤の金属は、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、Cu、ステンレス鋼、及びそれらの合金からなる群から選択される;
液体有機金属性化合物は、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛、トリエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、及びそれらの組合せからなる群から選択される;
金属吸着剤の金属は銅であり、金属性化合物は、ジエチル亜鉛(DEZn)の分解により発生する亜鉛である;並びに
金属吸着剤は銅金網を含む。
【0018】
本発明の性質及び目的の更なる理解のために、同様の要素には同じ又は類似の参照番号を付した添付の図面と併せて、以下の詳細な説明について言及するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】海外の生産地から国内の顧客に有機金属性化合物を供給するための従来技術の流通経路の図である。
【図2】製造設備に有機金属性化合物を供給する従来技術の方法の図である。
【図3】本明細書中に記載の実施形態による金属吸着剤を含有する、有機金属性化合物を輸送するための輸送タンクの一実施形態の図である。
【図4】本明細書中に記載の実施形態による金属吸着剤を含有する、有機金属性化合物を貯蔵するための貯蔵タンクの一実施形態の図である。
【図5】本明細書中に記載の実施形態による金属吸着剤を含有する、有機金属性化合物を供給するためのバブラーの一実施形態の図である。
【図6A】80℃で2日間加熱した後の、DEZn溶液と、本明細書中に記載の実施形態による金属吸着剤とを含有するガラスタンクの写真である。
【図6B】80℃で2日間加熱した後の、従来技術の方法に従い金属吸着剤を含まないDEZn溶液を含有するガラスタンクの写真である。
【図7A】加熱に曝しDEZn溶液に曝す前の、銅吸着剤の写真である。
【図7B】DEZn溶液の存在下において80℃で2日間加熱した後の、乾燥させた銅吸着剤の写真である。
【図7C】DEZn溶液の存在下において80℃で12日間加熱した後の、銅吸着剤の写真である。
【図8A】室温における一定期間の貯蔵後の、銅吸着剤を含むDEZn溶液を含有するガラスタンクの写真である。
【図8B】室温における一定期間の貯蔵後の、銅吸着剤を含まないDEZn溶液を含有するガラスタンクの写真である。
【図9A】DEZn溶液に曝す前の、銅吸着剤の写真である。
【図9B】DEZn溶液に曝した後の、銅吸着剤の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
半導体、太陽電池(photovoltaic)、LCD−TFT、又はフラットパネル型の機器の製造に使用される組成物及び方法の非限定的な実施形態を本明細書中に開示する。
【0021】
有機金属性化合物の貯蔵、輸送及び供給中に発生する金属不純物を除去するための効果的で単純な吸着剤を本明細書中に開示する。また、これらの金属不純物を除去する効果的で単純な方法を本明細書中に開示する。
【0022】
開示した吸着剤及び方法は、その輸送、貯蔵及び供給中に有機金属性化合物の分解により発生する金属性不純物又は金属性化合物の容易で効果的な除去を提供する。すなわち、開示した吸着剤及び方法は、半導体及び太陽電池において望まれる高純度の有機金属性化合物の安定な供給を可能とする。詳細には、開示した方法における開示した吸着剤の使用は、有機金属性化合物中に発生する分解された金属性化合物を除去し得る。
【0023】
前述のとおり、金属性化合物は、輸送、貯蔵及び供給中に有機金属性化合物の分解により発生する。標準的な技術を用いた場合、金属性化合物を効果的に除去することができなかったため、その輸送、貯蔵及び供給中に有機金属性化合物の純度を維持することは困難であった。濾過技術は、分解された化合物粒子を除去するための手段として研究されてきた。しかしながら、濾過技術は、詰まりのために定期的にプロセスを停止させフィルタを換える必要があったため、根本的な解決策ではなかった。開示した吸着剤及び方法によって、半導体産業及び太陽電池産業における有機金属性化合物の供給を妨げる以下の問題を解決することができる。
【0024】
開示した吸着剤及び方法は、輸送及び貯蔵中に発生する金属性化合物を捕捉することによってその純度を維持しながら、有機金属性化合物を輸送及び貯蔵することを可能にする。また、施設寿命及び所要のメンテナンスの間の時間を延ばす吸着剤及び該吸着剤を使用する方法を本明細書中に開示する。
【0025】
その上、本明細書中に開示される吸着剤及び該吸着剤を使用する方法は、製造設備の部材に堆積する分解された金属性化合物を大幅に低減させるため、製造設備に有機金属性化合物を供給する供給システムのためのメンテナンス費用を減らす。
【0026】
本明細書中で使用される場合、有機金属性化合物という用語は、分解反応により金属性化合物を発生させ、その化学構造中にR1〜3−M(式中、R1〜3は1つ又は複数のアルキル基であり、Mは金属である)を含有する化合物を指す。例示的な金属としては、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、又はこれらの金属の化合物が挙げられる。好適な有機金属性化合物としては、ジエチル亜鉛(DEZn)、ジメチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミ
ニウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルガリウム又はトリエチルガリウムが挙げられる。
【0027】
本明細書中で使用される場合、アルキル基という用語は、直鎖、分岐鎖及び環式のアルキルを指す。
【0028】
本明細書中で使用される場合、金属性化合物という用語は、有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物を指す。例示的な金属性化合物としては、Zn、Ca、Co、Sr、Fe、Ba、Cu、Mg、V、Cd、Mo、Pb、Ni、Al、Pt、Pd、Mn、Yb、Y、In、Gd、Er、Ga、Sm、Dy、Ce、Tm、Nd、Hf、Ho、La、Lu、Ru、Rh、Ti、Zr、Cr、Ge、Nb、Sn、Sb、Te、Cs、Ta、W、これらの金属のいずれかの酸化物、これらの金属のいずれかの水酸化物、及びそれらの混合物が挙げられ得る。好適な金属性化合物としては、Al、Ga、In、Sn、Zn、Cd、これらの金属の酸化物、これらの金属の水酸化物、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0029】
[吸着剤]
開示した吸着剤は、有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物に付着することができる金属性材料を含む。
【0030】
典型的には活性炭、ポリマー又はキレート試薬から作製される典型的な吸着剤とは対照的に、開示した吸着剤は金属から作製される。これらの典型的な吸着剤とは対照的に、有機金属性化合物の分解は、開示した吸着剤によって促されない。さらに、開示した吸着剤の付着能は、吸着剤表面上の孔を介して分解された金属性化合物を物理的に捕捉する典型的な多孔性吸着剤材料、例えば活性炭とは異なるものである。
【0031】
加えて、開示した吸着剤の表面は極めて平坦であってもよく、高い耐熱性を示すため、使用前に高温での窒素パージによって、開示した吸着剤から酸素及び水分を容易に除去することができる。開示した吸着剤は、この吸着剤が金属から作製されるため、この吸着剤上の分解された化合物を、希酸溶液及び純水の少なくとも一方を用いて除去することができることから、何度も再使用することができる。
【0032】
吸着剤は、対象の金属性化合物に付着することができる任意の金属性材料から形成することができる。例示的な金属性材料としては、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、Cu、ステンレス鋼、これらの金属の合金、及びそれらの混合物が挙げられ得る。
【0033】
金属吸着剤は、金属性化合物に付着することができる任意の形状又は形態であり得る。金属吸着剤は分割された形態であってもよい。例示的な分割された形態としては、ビーズ、ペレット、環、小板、顆粒、立方体形状、幾何学的に成型される若しくは不規則な形状、焼結材料、ワイヤ、網、又は貯蔵タンク、供給タンク若しくは供給設備の内部容積に配することができる任意の他の形状が挙げられる。金属吸着剤は一体構造形態であってもよい。例示的な一体構造形態としては、貯蔵タンク、供給タンク又は供給システムの内部容積に配することができるブロック、平板又はれんが状の塊が挙げられる。或る特定の実施形態では、金属吸着剤の少なくとも1つの表面が平面である。
【0034】
大きい表面積を有する形状を有する金属吸着剤が好ましい。分解された金属化合物を捕捉する上では、より小さな表面積を有する金属吸着剤よりも、より大きな表面積を有する
金属吸着剤がより効果的であると考えられる。メッシュ材料を金属吸着剤として使用する或る特定の実施形態では、より小さな格子メッシュサイズを有するメッシュを使用することによって表面積を増大させることができる。メッシュ材料を金属吸着剤として使用する或る特定の実施形態では、表面積がメッシュ材料のパッキング(packing)の影響を受けることがある。例えば、より密にパッキングされたメッシュ構造は、より緩くパッキングされたメッシュ構造よりも小さい表面積を有し得る。金属性化合物を物理的に捕捉する金属吸着剤は、分解された金属性化合物との付着に最も効果的であると考えられる。
【0035】
吸着剤は金属性ワイヤメッシュを含む網形態であってもよい。金属性ワイヤメッシュは、S字型に曲げられたメッシュ、すなわちディクソンパッキン型メッシュであってもよい。金属性ワイヤメッシュは銅ワイヤメッシュであってもよい。或る特定の実施形態では、ガス流からのミストの分離のための、化学プラントにおけるデミスタ(demistifier)として使用されるワイヤメッシュを使用してもよい。吸着剤の網の格子メッシュのサイズは400ミクロン×400ミクロンとすることができる。一実施形態では、吸着剤が、以下の特徴:10mmのパッキングサイズ、50番のメッシュサイズ番号、580m2/m3の表面積、96.5%の占有空間率、及び280kg/m3の密度/重量の少なくとも1つを有する銅から作製されるS字型メッシュである。
【0036】
ワイヤメッシュから作製される好適な吸着剤の網は、日本のトウトクエンジ株式会社から入手可能である。銅ワイヤメッシュから作製される好適な吸着剤の網も、日本のトウトクエンジ株式会社からディクソンパッキン(Cu)という名称で入手可能である。
【0037】
有機金属性化合物がDEZnである1つの例示的な実施形態では、銅から作製される吸着剤が、ジエチル亜鉛(DEZn)の熱分解により発生する亜鉛(例えば、亜鉛、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛の混合物)を捕捉するのに最も好適である。
【0038】
[吸着方法]
開示した吸着方法は、上記に開示される金属吸着剤を利用することによって有機金属性化合物の純度を維持しながら、有機金属性化合物を貯蔵、輸送及び供給することを可能にする。少なくとも、開示した吸着方法は、有機金属性材料の分解により金属性化合物を発生させる有機金属性化合物を、金属から作製される金属吸着剤と接触させることであって、金属性化合物の少なくとも一部を金属吸着剤により除去することを伴う。開示した金属吸着剤及び有機金属性化合物は、有機金属性化合物の貯蔵、輸送又は供給中、有機金属性化合物の輸送、貯蔵又は供給に使用されるタンク又は管内に入れられていてもよい。開示した金属吸着剤は、タンク又は施設に有機金属性化合物を充填する前、充填している間又は充填した後に、輸送タンク、貯蔵タンク又は供給施設内に配置してもよい。
【0039】
有機金属性化合物と接触させる前に、本明細書中に開示される金属吸着剤を、希酸溶液及び純水の少なくとも一方を用いて洗浄してもよい。その後、金属吸着剤を純水又は他の溶媒ですすいだ後、乾燥させてもよい。吸着剤を乾燥させるのに、窒素、アルゴン、ヘリウム又はそれらの組合せ等の不活性ガスを使用してもよい。乾燥プロセスの終点は、不活性ガスの水分含量を測定することによって検出することができる。このプロセスは、使用後の金属吸着剤を洗浄又は再生するのにも使用することができる。金属吸着剤を洗浄することによって、金属吸着剤が、金属性化合物をより効果的に捕捉して、有機金属性化合物の純度を維持することが可能となると考えられる。
【0040】
タンク又は供給施設に有機金属性化合物を充填する前に、タンク又は供給施設の表面から微量の水分及び酸素を除去するように、タンク又は供給施設を真空又はパージプロセスに長期間曝してもよい。
【0041】
[輸送タンクのための例示的な吸着方法]
輸送タンク内における有機金属性化合物の輸送及び貯蔵中に、輸送タンク内に発生する分解された金属化合物を吸着する方法の一実施形態を、図3を参照して説明する。図3は、本明細書中に記載される実施形態による金属吸着剤330を含有する輸送タンク300の一実施形態の図である。輸送タンク300は、キャリアガスを輸送タンク300内に導入するためのキャリアガス吸気バルブ340と、輸送タンク300から有機金属性化合物を移すための充填バルブ350とを備え得る。
【0042】
輸送タンク300には有機金属性化合物310が充填される。輸送タンク300は、有機金属性化合物310が生産される生産プラントにおいて充填してもよい。輸送タンク300は、生産地から消費地へと直接輸送してもよい。図1に示される流通経路と同様に、輸送タンク300は、生産地から、消費地へと輸送される1つ又は複数の貯蔵タンク内へと有機金属性化合物310が移される充填プラントへと輸送することができる。
【0043】
本明細書中で開示されるような金属吸着剤330は、輸送タンクに有機金属性化合物310を充填する前、充填している間又は充填した後に、輸送タンク300内に配置してもよい。或る特定の実施形態では、輸送タンク300を、生産地から消費地へと海を渡って輸送してもよい。図3に描かれる輸送タンク300は例示的なものであり、有機金属性化合物を貯蔵することができるあらゆるタイプのタンクを使用することができる。輸送又は貯蔵中に輸送タンク310内に発生する金属性化合物320は、輸送タンク310内に懸濁液を形成することなく、本発明の金属吸着剤330によって吸着することができる。
【0044】
金属吸着剤330を純水で洗浄した後に、上記の不活性ガスを用いて乾燥させてもよい。金属吸着剤330を、希酸溶液で洗浄し、水ですすいだ後に、上記の不活性ガスを用いて乾燥させてもよい。
【0045】
[貯蔵タンクのための例示的な吸着方法]
図4は、本明細書中に記載される実施形態による金属吸着剤430を含有する貯蔵タンク400の一実施形態の図である。貯蔵タンク400は、液体有機金属性化合物の輸送、貯蔵及び供給のために使用することができる。貯蔵タンク400に充填プラント(図示せず)において有機金属性化合物410を充填してもよく、貯蔵タンク400を消費プラント(図示せず)へと輸送してもよい(may)。その後、貯蔵タンク400を、製造設備に供給される、輸送タンク内の液体有機金属性化合物410を移すための有機金属の供給設備(図示せず)に連結してもよい。
【0046】
液体有機金属性化合物を製造設備に供給する1つの例示的な方法を、図4を参照して説明する。図4を参照すると、キャリアガス434、例えばアルゴンガスを、キャリアガス吸気バルブ440を通じて貯蔵タンク400内に導入し、貯蔵タンク400を加圧する。貯蔵タンク400内の圧力が上昇すると、その後、液体有機金属性化合物410がサイフォン管450を通じて輸送され、充填バルブ460を通じて供給設備へと供給される。
【0047】
これまでに記載した従来技術の方法では、有機金属性化合物の輸送又は貯蔵中に貯蔵タンク内に発生する金属性化合物が、有機金属性化合物と一緒に供給される。有機金属性化合物中に懸濁された金属性化合物は、供給システム(図4には図示せず)の管及び部材、例えば、貯蔵タンクから下流に配置されるバルブ、流量調整器、蒸発器、ガス流調整器及びフィルタ上に堆積することがある。分解された金属化合物が部材上に蓄積すると、部材が正常に機能しないか又は停止する結果、部材を取り外して、洗浄するか又は取り替える場合があるためシステムの休止時間を生じるおそれがある。
【0048】
図4を参照すると、本明細書中に記載の金属吸着剤430が貯蔵タンク400内に配置
されていれば、液体有機金属性化合物の輸送、貯蔵又は供給中に貯蔵タンク400内の液体有機金属性化合物410の分解により発生する金属性化合物は、本明細書中に開示される金属吸着剤430によって捕捉することができる。結果として、金属性化合物を実質的に含まない有機金属性化合物410を、サイフォン管450を通じて供給することができる。
【0049】
使用後又は使用前に、希酸溶液及び純水の少なくとも一方を含む洗浄溶液を用いて、金属吸着剤430を洗浄してもよい。金属吸着剤を不活性ガスパージに曝すことにより金属吸着剤430を乾燥させ、金属吸着剤430から水分及び酸素を除去することができる。不活性ガスパージは高められた温度(at an elevated temperature)で実施してもよい。金属吸着剤430を貯蔵タンク400内に導入する前、又は金属吸着剤430を再生するために貯蔵タンク400から金属吸着剤430を除去した後に、不活性ガスパージを実施してもよい。一実施形態では、金属吸着剤430を貯蔵タンク400内に導入する前に、金属吸着剤430を高められた温度(at an elevated temperature)で窒素ガスに曝す。洗浄及び乾燥後、金属吸着剤430は、有機金属性化合物410の輸送、貯蔵又は供給中に、金属性化合物を捕捉するとともに、有機金属性化合物の純度を維持するのにより効果的である。高純度の有機金属性化合物を供給するように、貯蔵タンク400内の液体有機金属性化合物410から金属性化合物を除去する本方法は、例示的なものであり、本明細書中に記載される金属吸着剤を使用する方法は、有機金属性化合物の純度を維持することが望ましいあらゆる状況に適用可能であることを理解すべきである。
【0050】
[バブラーのための例示的な吸着方法]
有機金属性化合物510を製造設備に供給するのにバブラー500を使用する1つの例示的な方法を、図5を参照して説明する。図5は、本明細書中に記載される実施形態による金属吸着剤530を含有するバブラー500の一実施形態の図である。バブラー500は、バブラー500内の液体有機金属性化合物510中へのキャリアガス534、例えばアルゴンの導入によりガス状有機金属性化合物を製造設備に供給するのに使用することができる。
【0051】
キャリアガス534、例えばアルゴンガスは、キャリアガスバルブ540及びスパージャ(sparger)550を通じて、バブラー500内の液体有機金属性化合物510中に導入及び拡散させてもよい。バブラー500内のキャリアガス534は液体有機金属性化合物510の蒸気で飽和され、ガス状混合物554を形成する。このガス状混合物554は供給バルブ560を通じて製造設備に供給することができる。
【0052】
これまでに記載した従来技術の方法では、液体有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物が、液体有機金属性化合物中に懸濁される。バブリングプロセス(bubbling
process)が進行するにつれて、分解された金属性化合物は、ガス状混合物とともに散乱し、下流に進む。ガス状混合物中に懸濁された分解された金属性化合物は、供給システムの部材上に堆積するおそれがある。部材としては、供給管、フィルタ、ガス流調整器及びバルブが挙げられ得る。金属性化合物が部材上に蓄積すると、部材が正常に機能しないか又は停止する結果、部材を取り外して、洗浄するか又は取り替える場合があるためシステムの休止時間を生じるおそれがある。さらに、ガス状混合物によって金属粒子が製造設備に送られると、金属粒子が製造設備を汚染して、製造設備内で実施される任意のプロセスに悪影響を及ぼすおそれがある。
【0053】
図5を参照すると、供給中にバブラー500内の液体有機金属性化合物510中に発生する金属性化合物は、バブラー500内に配置される金属吸着剤530によって捕捉することができる。結果として、バブラーにより製造設備に供給されるガス状混合物554は、金属粒子の汚染物を実質的に含まない。
【0054】
使用後又は使用前に、希酸溶液及び純水の少なくとも一方を含む洗浄溶液を用いて、金属吸着剤530を洗浄してもよい。金属吸着剤を不活性ガスパージに曝すことにより金属吸着剤530を乾燥させ、金属吸着剤530から水分及び酸素を除去することができる。不活性ガスパージは、バブラー500内への金属吸着剤530の導入前に高められた温度(at an elevated temperature)で実施してもよい。洗浄及び乾燥後、金属吸着剤530は、分解された金属性化合物を捕捉するとともに、有機金属性化合物510の純度を維持するのにより効果的である。
【0055】
バブリング供給中に、バブラー内の有機金属性化合物から、分解された金属化合物を除去する方法は、例示的なものであり、本明細書中に記載される方法は、本明細書中に記載されるバブリング供給法に限定されるものではないことを理解すべきである。本明細書中に記載される金属吸着剤を使用し得る、有機金属を供給する他の例示的な方法としては、タンク内に真空を作り出すことにより実施される蒸気供給法、アルゴンガス等の不活性ガスを有機金属性化合物の蒸気と混合することによるガス流供給法、及びその蒸気圧を増大させるように有機金属性化合物を加熱することにより実施される蒸気供給法等の方法が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下の非限定的な実施例では、開示した金属吸着剤、及び開示した金属吸着剤を使用する方法を、具体的な実施形態に従って説明する。これらの実施形態は、本発明を更に例示するために提示するものである。しかしながら、実施形態は、包括的なものであることを意図するものではなく、本明細書中に記載される本発明の範囲を限定することを意図するものでもない。特に指定のない限り、全てのパーセンテージ、部及び比率は重量を基準とする。本発明の実施例には番号を付し、一方、本発明の実施例ではない比較例はアルファベット順に指定する。
【0057】
以下に記載される実施例は、DEZnを有機金属性化合物として、銅網を金属吸着剤として、及び亜鉛を分解された金属化合物として用いて行った。DEZnは、太陽電池用の透明導電性酸化物(TCO)膜を作製するのに好ましい材料である。DEZnは、他の有機金属性化合物と同じ問題を抱えており、DEZnは、貯蔵、輸送及び供給中に自己分解して、メンテナンスの問題を招くおそれのあるZn粒子(例えばZn及び/又はZnO)を発生させるとともに、DEZnを用いて堆積した膜を汚染する。
【0058】
銅網は、400ミクロン×400ミクロンの格子メッシュサイズを有し、日本のトウトクエンジ株式会社からディクソンパッキン(Cu)という名称で入手可能である。
【0059】
[加熱試験]:
実際の作業では、かかる条件をシミュレーションするために比較例A及び実施例1についての吸着実験を高温で行うことを目的として、DEZnの蒸気圧及び流量を増大させるようにDEZnを加熱した。
【0060】
[比較例A−加熱試験]
ガラスタンク(10mL)内へのDEZnの導入前に、ガラスタンクを80℃で6時間真空吸引し、ガラスタンクから酸素及び水分を除去した。ガラスタンクに液体のDEZn(2.5mL)を充填し、露点を窒素により−50℃未満に維持したグローブボックス(glove box)に入れた。亜鉛粒子は、DEZnを80℃の温度で2日間加熱することによって発生させた。図6Bに示されるように、従来技術の方法に従って金属吸着剤の非存在下でDEZnを加熱すると、DEZn溶液内に亜鉛粒子が視認可能であった。固体亜鉛残渣は、1%のHNO3ですすがれた。
【0061】
[実施例1−加熱試験]
銅吸着剤をその中に配置したガラスタンク(10mL)内へDEZnを導入する前に、銅吸着剤及びガラスタンクをともに80℃で6時間真空吸引し、ガラスタンク及び銅吸着剤から酸素及び水分を除去した。銅吸着剤は、図7Aに描かれるような網形態のものとした。ガラスタンクに、露点を窒素流により−50℃未満に維持したグローブボックス内でDEZnを充填した。
【0062】
銅吸着剤を含むガラスタンク(10mL)に、液体のDEZn(2.5mL)を充填した。亜鉛粒子は、その中に配置した銅吸着剤とともにDEZnを80℃の温度で2日間加熱することによって発生させた。図6Aは、80℃で2日間加熱した後のDEZn溶液及び実施例1による金属吸着剤を加熱した後のガラスタンクの写真である。
【0063】
加熱後に、銅吸着剤を液体のDEZn溶液から取り出し、銅吸着剤及びDEZnをともに、60℃で真空吸引することにより別々に乾燥させると、DEZnの蒸発後に固体亜鉛残渣が得られた。固体亜鉛残渣は1%HNO3ですすいだ。図7Aは、加熱に曝しDEZn溶液に曝す前に、実施例1に使用される銅吸着剤の写真である。図7Bは、DEZn溶液の存在下における80℃での2日間の加熱後の、実施例1に使用される乾燥させた銅吸着剤の写真である。図7Cは、DEZn溶液の存在下における80℃での12日間の加熱後の、銅吸着剤の写真である。
【0064】
銅吸着剤により捕捉された亜鉛の量、DEZn中に残存する亜鉛の量、及びDEZn溶液中で亜鉛を捕捉する銅吸着剤の能力を、比較例A及び実施例1について測定し、表Iに報告した。
【0065】
【表1】
【0066】
ガラスタンク内に亜鉛粒子が視認可能である、図6Bに示されるような吸着剤を含まないDEZnの液体と比べると、図6Aに示されるように、銅吸着剤を含むDEZn液体は極めて透明である。吸着剤を含むガラスタンク内の亜鉛粒子は、目で見ることができなかった。
【0067】
図7A及び図7Bを参照すると、大きな表面積を有する銅吸着剤は、加熱後に亜鉛粒子を十分に捕捉した。図7Aに示されるように、銅吸着剤は、亜鉛粒子を捕捉する前に金属性光沢を有していたが、銅吸着剤を液体のDEZn中、80℃で2日間加熱した後、銅吸着剤の金属性光沢は低減し、図7Bに示されるように吸着剤の表面上に亜鉛粒子が視認可能であった。図7Cに示されるように、DEZn溶液の存在下における80℃での12日間の加熱後に、銅吸着剤の金属性光沢は更に低減する。
【0068】
誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)によりガラスタンク内に残存する亜鉛の量
を測定した。表1に示されるように、金属吸着剤の非存在下で80℃で2日間加熱した後、22.2mgの亜鉛粒子がDEZn中に存在した。しかしながら、同じ条件下で金属吸着剤の存在下で加熱したDEZn中には僅か1.7mgの亜鉛粒子(吸着剤が捕捉しなかった亜鉛粒子の量)しか存在しなかった。したがって、金属吸着剤は、80℃の高温(at
the elevated temperature of 80℃)でさえも、DEZn中の亜鉛粒子の拡散を90%超低減させた。その上、亜鉛粒子が金属吸着剤の撹拌によって剥がれることがなかったため、金属吸着剤上の亜鉛粒子は、金属吸着剤の金属表面に強く結合していた。
【0069】
[貯蔵試験]:
貯蔵試験の1つの目的は、DEZnを長期間室温で貯蔵した場合に、本明細書中に記載される金属吸着剤が、分解された金属性化合物(亜鉛粒子)を吸着することができることを確認することである。別の目的は、亜鉛粒子を捕捉する金属吸着剤を用いた場合に、亜鉛粒子を含まない洗浄な液体のDEZnが、図3に描かれる輸送タンク300及び図4に描かれる貯蔵タンク400等の貯蔵タンク内に発生し得ることを実証することである。
【0070】
[比較例B−貯蔵試験]
ガラスタンク(10mL)内へのDEZnの導入前に、ガラスタンクを80℃で6時間真空吸引し、ガラスタンクから酸素及び水分を除去した。ガラスタンクに液体のDEZn(2.5mL)を充填し、実際の貯蔵温度をシミュレーションするために室温(25℃)で60日間貯蔵した。
【0071】
[実施例2−貯蔵試験]
銅吸着剤をその中に配置したガラスタンク(10mL)内へのDEZnの導入前に、銅吸着剤及びガラスタンクをともに80℃で6時間真空吸引し、ガラスタンク及び銅吸着剤から酸素及び水分を除去した。銅吸着剤は、図7Aに描かれるような網形態のものとした。ガラスタンクに、露点を窒素流により−50℃未満に維持したグローブボックス内でDEZn(2.5mL)を充填した。
【0072】
DEZn及び吸着剤を含むガラスタンク(10mL)を、室温(25℃)で60日間貯蔵した。
【0073】
DEZn中に残存する亜鉛の量、及びDEZn溶液中で亜鉛を捕捉する銅吸着剤の能力を、比較例B及び実施例2について測定し、表2に報告した。各ガラスタンク内に残存する亜鉛の量はICP−MSにより測定した。
【0074】
【表2】
【0075】
表2によると、吸着剤の非存在下でのDEZn中の亜鉛粒子の量は40mg/2.5mL(DEZn)であった。しかしながら、吸着剤の存在下でのDEZn中の亜鉛粒子の量は僅か約4mg/2.5mL(DEZn)であった。したがって、本発明の金属吸着剤は、DEZn中に懸濁される亜鉛粒子を90%超低減した。
【0076】
図8Aは、25℃で60日間の貯蔵後の、銅吸着剤を含むDEZn溶液を含有する実施例2のガラスタンクの写真である。図8Bは、25℃で60日間の貯蔵後の、銅吸着剤を
含まないDEZn溶液を含有する比較例Bのガラスタンクの写真である。図8Bに描かれるように、吸着剤の非存在下でのDEZnの色は、多くの亜鉛粒子がガラスタンク内に懸濁されたため、灰色であった。他方、図8Aに描かれるように、吸着剤の存在下でのDEZnの色は60日間の貯蔵後であっても極めて透明であった。
【0077】
図9Aは、DEZn溶液に曝す前の、実施例2の銅吸着剤の写真である。図9Bは、室温で60日間DEZn溶液に曝した後の、実施例2の銅吸着剤の写真である。図9Aに示されるように、銅吸着剤は、亜鉛粒子を捕捉する前には金属性光沢を有していたが、60日間DEZnに曝した後、銅吸着剤の金属性光沢は低減し、図9Bに示されるように吸着剤の表面上に亜鉛粒子が視認可能であった。
【0078】
実施例2により実証されるように、本明細書中に開示される金属吸着剤は、輸送及び貯蔵中にDEZnをタンク内に長期間貯蔵した場合に、DEZn中の亜鉛粒子を顕著に低減することができる。さらに、上記実施例において使用されたガラスタンク内に貯蔵されたDEZnは、典型的に使用されるステンレス鋼316L EPグレードから作製される貯蔵タンク内に貯蔵されるDEZnに比べより容易に分解される。何故ならば、通常、ガラスタンクの表面上にはステンレス鋼のタンクの表面よりも多くの水分及び酸素が存在するためである。
【0079】
本発明の性質を説明するために本明細書中に記載及び例示されている詳細、材料、工程及び部材の配列の多くの更なる変更は、添付の特許請求の範囲に表される本発明の原理及び範囲内で当業者が行うことができることが理解される。よって、本発明は、上記に挙げられる実施例及び/又は添付の図面における具体的な実施形態に限定されることが意図されるものではない。
【0080】
本発明の実施形態を示し、記載しているが、それらの修正は、本発明の精神又は教示から逸脱することなく当業者が行うことができる。本明細書中に記載される実施形態は例示的なものにすぎず、限定的なものではない。組成物及び方法の多くの変形及び修正が可能であり、本発明の範囲内である。それ故、保護範囲は本明細書中に記載される実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものであり、その範囲は、特許請求の範囲の主題のあらゆる均等物を含むものとする。
【背景技術】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2010年3月5日付けで出願された仮出願第61/311,063号(その全内容が参照により本明細書中に援用される)に対する米国特許法第119条(e)項に基づく利益を主張するものである。
【0002】
有機金属性化合物は、太陽電池及びフラットパネルディスプレイを製作する上で使用される透明導電性酸化物膜等の様々な目的のための材料として使用される。ジエチル亜鉛(DEZn)等の多くの有機金属性化合物は、微量水分、微量酸素、光、及び場合によっては熱の存在下で容易に分解する。その際、有機金属性化合物は金属性化合物を発生させる。DEZnの場合、分解によって、エタン/エチレンとDEZnとの蒸気圧の差に起因して、蒸気領域に蓄積し貯蔵容器内の圧力を増大させる傾向のある固体のZn及びエタン/エチレンが生成される。金属性化合物は徐々に、有機金属性化合物の貯蔵、製造設備への輸送及び供給中に、貯蔵タンク、供給施設の部材及び充填ラインに堆積する。これは、金属性化合物が製造プロセスを汚染するだけでなく、供給システムに使用される部材の停止をもたらすため、問題となる。さらに、金属性化合物は、有機金属性化合物の更なる劣化をもたらすことがある。有機金属性化合物の不安定な特性にかかわらず、半導体産業及び太陽電池産業では、高い純度を維持しながら製造設備にこれらの不安定な化合物を継続的に供給する強い要望が残っている。
【0003】
結果として、有機金属性化合物のための精製技術及び供給技術が開発されてきた。特許文献1は、活性炭によるカラムクロマトグラフィを用いたジエチル亜鉛のための精製方法を開示している。特許文献2は、昇華を用いてトリメチルインジウムから不純物を除去する方法を開示している。特許文献3は、乾燥有機金属性化合物を銅触媒又はニッケル触媒と接触させて、乾燥有機金属性化合物中に不純物として存在する酸素を除去することによって、乾燥有機金属性化合物を精製する方法を開示している。
【0004】
しかしながら、かかる精製技術を使用しても、該精製技術は、貯蔵、輸送及び供給中にタンク内に発生する金属性不純物に対処することはできない。結果として、有機金属性化合物の安定的な供給に対応する効果的な技術はこれまでに開示されていないと考えられる。より詳細には、貯蔵、輸送及び供給中にタンク及び供給施設内に発生する金属不純物を除去するのに、単純で、かつ費用対効果の大きな技術が必要とされている。
【0005】
図1及び図2を参照して、有機金属性化合物のための1つの標準的な輸送、貯蔵及び供給の技術を説明する。図1は、生産地120から消費プラント130へと有機金属性化合物110を供給するための例示的な従来技術の流通経路100の図である。生産地120は海外の生産地の場合があり、消費プラント130は国内の消費プラントの場合がある。有機金属性化合物110が生産される生産地120で輸送タンク140に有機金属性化合物110を充填する。その後、輸送タンク140を充填プラント150へと輸送する。輸送タンク140は海上輸送160により充填プラント150に輸送してもよい。充填プラント150では、有機金属性化合物110を、輸送タンク140から1つ又は複数の貯蔵タンク170a、170b及び170cへと移す。各貯蔵タンク170a、170b及び170cは様々な消費プラント180a、180b及び180cにおいて1つ又は複数の消費主体へと輸送される。1つ又は複数の貯蔵タンク170a、170b及び170cは、運搬用道路を介して消費プラント180a、180b及び180cへと輸送してもよい。
【0006】
流通経路100に関する1つの問題は、たとえ輸送前に有機金属性化合物を高度に精製しても、化合物が結局は分解して、分解された金属性化合物を発生させると考えられることである。これらの分解された金属性化合物の幾つかは有機金属性化合物中に拡散し、化合物の幾つかは貯蔵及び輸送中にタンク及び供給施設内に堆積すると考えられる。さらに、輸送タンク内の有機金属性化合物が高温(例えば60℃)で輸送される場合、分解された金属性化合物の量が増大すると考えられる。
【0007】
図2は、供給設備210から製造設備220へと有機金属性化合物110を供給する従来技術の方法200の図である。貯蔵タンク170は、貯蔵タンク170が消費プラントに輸送された後、供給設備210に連結される。その後、貯蔵タンク170内の有機金属性化合物110を、バブラー(bubbler)230等の供給タンクに移す。その後、有機金属性化合物は、当該技術分野で既知の方法、例えばバブリング供給法を用いて製造設備220に供給される。
【0008】
貯蔵タンク170からバブラー230へと液体有機金属性化合物110を移すために、キャリアガス吸気ライン(図示せず)及びキャリアガス吸気バルブ240を通じて、キャリアガス234を貯蔵タンク170内に導入し、貯蔵タンク170を加圧する。貯蔵タンク170内の圧力が上昇すると、その後、液体有機金属性化合物110がサイフォン管250を通じて輸送され、化合物が、充填バルブ260、第1の供給パイプ270、フィルタ280及び充填バルブ284を通じてバブラー230へと供給され、液体有機金属性化合物110がバブラー230に充填される。この充填システムは、空のバブラー、及び化合物が使用されてバブラー内の化合物の体積が減少した後で有機金属性化合物を既に充填しているバブラーの両方を充填することを可能とする。
【0009】
製造設備220への供給中に、キャリアガス282が、キャリアガス吸気バルブ288及びスパージャ(sparger)286を通じてバブラー230内へと導入され、その後、キャリアガス282はバブラー230内の液体有機金属性化合物224中に分散する。バブラーに導入されるキャリアガス282は、有機金属性化合物224による飽和状態となり、供給バルブ290及び第2の供給パイプ294を通じて飽和したガス混合物が製造設備220へと供給される。
【0010】
貯蔵タンク170における有機金属性化合物の分解に起因して発生する金属性化合物の、サイフォン管250、充填バルブ260、第1の供給パイプ270及びフィルタ280上における堆積は、供給システムに関する幾つかの問題を引き起こし、有機金属性化合物を製造設備に安定して継続的に供給することを困難にする。フィルタ280は分解された金属性化合物により容易に詰まることがあるため、頻繁な修復及び供給システムのそれに伴う休止時間を要する。分解された金属性化合物は貯蔵タンク170内だけでなくバブラー230内にも発生する。バブリング供給中、バブラー230内の有機金属性化合物224中の任意の分解された金属性化合物は、供給バルブ290、第2の供給パイプ294、並びに第2の供給パイプ294に取り付けられるあらゆる機器、例えば、マスフローコントローラ(mass flow controller)、マスフローメータ(mass flow meter)、及び任意の付加的なフィルタ及びバルブ(図2には図示せず)へとガス混合物と一緒に散乱し、これらの機器を詰まらせるおそれがある。したがって、有機金属性化合物を製造設備に安定して継続的に供給することは困難である。
【0011】
分解された金属性化合物によって引き起こされる上記の問題を解決するための幾つかの技術が研究されてきた。1つの技術は、典型的なステンレス鋼製の管及びタンクの表面上の水分及び酸素を低減させることによって、有機金属性化合物の分解を低減させようと試みるものである。水分及び酸素は、ステンレス鋼表面を電解研磨及び/又は高純度窒素パージプロセスに曝すことによって低減する。しかしながら、幾つかの有機金属性化合物は
分解するのに熱のみを要するため、水分及び酸素を低減させるための電解研磨及び窒素パージは十分な解決策ではない。また、この解決策には時間及び人件費がかかる。
【0012】
別の技術は、金属性化合物を低減させるために濾過を使用している。しかしながら、フィルタ上の水分及び酸素を取り除くことは依然として困難であり、多くの場合、フィルタが金属性化合物により詰まった状態となる。よって、これらの既知の技術は、有機金属性化合物中に発生する金属性化合物を低減させるのに十分なものではない。近年、これらの有機金属性化合物に対する需要が高まっているため、これらの化合物の安定な供給のための新たな解決策が、半導体分野及び太陽電池分野の者によって大いに望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−41151号
【特許文献2】特許第3303391号
【特許文献3】特許第3217854号
【発明の概要】
【0014】
太陽電池産業又は半導体産業において使用される施設の部材から金属性化合物を除去するための吸着剤を開示する。吸着剤は金属から作製され、該金属は金属性化合物に対する高い付着性を有する。開示した吸着剤は以下の態様の1つ又は複数を含み得る:
施設の部材は、貯蔵タンク、輸送タンク、供給施設タンク、供給ライン及び充填ラインを含む;
金属吸着剤の金属は、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、Cu、ステンレス鋼、及びそれらの合金からなる群から選択される;
金属性化合物は、液体有機金属性化合物の分解によって発生する;
液体有機金属性化合物は、式R1〜3−M(式中、R1〜3の各Rは独立してアルキル基であり、Mは、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、又はこれらの金属の化合物からなる群から選択される金属である)で表される;
液体有機金属性化合物は、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛、トリエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルガリウム又はトリエチルガリウムからなる群から選択される;
金属吸着剤により除去される金属性化合物は、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、それらの酸化物、それらの水酸化物、又はそれらの組合せからなる群から選択される;
金属吸着剤の金属は銅であり、金属性化合物は、ジエチル亜鉛(DEZn)の分解により発生する亜鉛である;
金属吸着剤の形状は、平板、粉末、ワイヤ、網、及びそれらの組合せから選択される;
金属吸着剤は少なくとも1つの平面を有する;
金属吸着剤は銅金網を含む;並びに
金属吸着剤は粒状スポンジである。
【0015】
また、本明細書中に開示される吸着剤を使用して、液体有機金属性化合物の貯蔵、輸送及び供給中に液体有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物を除去する方法を開示する。本方法は以下の態様の1つ又は複数を含み得る:
液体有機金属性化合物の分解により金属性化合物を発生させる液体有機金属性化合物を、金属から作製される金属吸着剤と接触させることであって、金属性化合物の少なくとも一部が金属吸着剤によって液体有機金属性化合物から除去される;
液体有機金属性化合物及び金属吸着剤をタンク又は管内に貯蔵する;
タンク又は管から液体有機金属性化合物の液体又は蒸気を供給する;
金属吸着剤の金属は、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、Cu、ステンレス鋼、及びそれらの合金からなる群から選択される;
液体有機金属性化合物は、式R1〜3−M(式中、R1〜3の各Rは独立してアルキル基であり、Mは、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、又はこれらの金属の化合物からなる群から選択される金属である)で表される;
液体有機金属性化合物は、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛、トリエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、及びそれらの組合せからなる群から選択される;
金属吸着剤により除去される金属性化合物は、M、Mの酸化物、Mの水酸化物、又はそれらの組合せである;
金属吸着剤の金属は銅であり、金属性化合物は、ジエチル亜鉛(DEZn)の分解により発生する亜鉛である;
金属吸着剤の形状は、平板、粉末、ワイヤ、網、及びそれらの組合せから選択される;
金属吸着剤は銅金網を含む;
金属吸着剤を純水に曝すこと;
純水を除去するように金属吸着剤を乾燥させること;
金属吸着剤を希酸溶液に曝すこと;
金属吸着剤から希酸溶液を除去するように金属吸着剤をすすぐこと;
すすいだ金属吸着剤を乾燥させること;並びに
タンク又は管内に液体有機金属性化合物及び金属吸着剤を貯蔵すること。
【0016】
また、本明細書中に開示される吸着剤を使用して、液体有機金属性化合物の貯蔵、輸送及び供給中に液体有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物を除去する別の方法を開示する。本方法は以下の態様の1つ又は複数を含み得る:
銅から作製される吸着剤を含有するタンク又は管内に、液体ジエチル亜鉛の分解により亜鉛粒子を発生させる前記液体ジエチル亜鉛(DEZn)を貯蔵することであって、亜鉛粒子の少なくとも一部が、銅から作製される吸着剤によってジエチル亜鉛から除去される;
銅から作製される吸着剤が銅網である;
銅網は、400ミクロン×400ミクロンの格子メッシュサイズを有する;
タンク又は管から液体ジエチル亜鉛の液体又は蒸気を供給すること;
銅から作製される吸着剤を純水に曝すこと;
純水を除去するように、銅から作製される吸着剤を乾燥させること;
銅から作製される吸着剤を希酸溶液に曝すこと;
吸着剤から希酸溶液を除去するように、銅から作製される吸着剤をすすぐこと;
吸着剤を乾燥させること;並びに
銅を乾燥させることは、銅吸着剤を窒素ガスに曝すことを含む。
【0017】
また、本明細書中に開示される吸着剤を使用して、液体有機金属性化合物の貯蔵、輸送及び供給中に液体有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物を除去する更に別の方法を開示する。本方法は以下の態様の1つ又は複数を含み得る:
金属吸着剤を純水に曝すこと;
純水を除去するように金属吸着剤を乾燥させること;
金属吸着剤を希酸溶液に曝すこと;
金属吸着剤から希酸溶液を除去するように金属吸着剤をすすぐこと;
金属吸着剤を乾燥させること;
金属吸着剤を貯蔵タンク内に配置すること;
貯蔵タンクに液体有機金属性化合物を充填すること;
液体有機金属性化合物を貯蔵タンク内に一定期間貯蔵することであって、金属吸着剤が、液体有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物の少なくとも一部を液体有機金属性化合物から除去する;
貯蔵タンクから液体有機金属性化合物の液体又は蒸気を供給すること;
金属吸着剤の金属は、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、Cu、ステンレス鋼、及びそれらの合金からなる群から選択される;
液体有機金属性化合物は、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛、トリエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、及びそれらの組合せからなる群から選択される;
金属吸着剤の金属は銅であり、金属性化合物は、ジエチル亜鉛(DEZn)の分解により発生する亜鉛である;並びに
金属吸着剤は銅金網を含む。
【0018】
本発明の性質及び目的の更なる理解のために、同様の要素には同じ又は類似の参照番号を付した添付の図面と併せて、以下の詳細な説明について言及するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】海外の生産地から国内の顧客に有機金属性化合物を供給するための従来技術の流通経路の図である。
【図2】製造設備に有機金属性化合物を供給する従来技術の方法の図である。
【図3】本明細書中に記載の実施形態による金属吸着剤を含有する、有機金属性化合物を輸送するための輸送タンクの一実施形態の図である。
【図4】本明細書中に記載の実施形態による金属吸着剤を含有する、有機金属性化合物を貯蔵するための貯蔵タンクの一実施形態の図である。
【図5】本明細書中に記載の実施形態による金属吸着剤を含有する、有機金属性化合物を供給するためのバブラーの一実施形態の図である。
【図6A】80℃で2日間加熱した後の、DEZn溶液と、本明細書中に記載の実施形態による金属吸着剤とを含有するガラスタンクの写真である。
【図6B】80℃で2日間加熱した後の、従来技術の方法に従い金属吸着剤を含まないDEZn溶液を含有するガラスタンクの写真である。
【図7A】加熱に曝しDEZn溶液に曝す前の、銅吸着剤の写真である。
【図7B】DEZn溶液の存在下において80℃で2日間加熱した後の、乾燥させた銅吸着剤の写真である。
【図7C】DEZn溶液の存在下において80℃で12日間加熱した後の、銅吸着剤の写真である。
【図8A】室温における一定期間の貯蔵後の、銅吸着剤を含むDEZn溶液を含有するガラスタンクの写真である。
【図8B】室温における一定期間の貯蔵後の、銅吸着剤を含まないDEZn溶液を含有するガラスタンクの写真である。
【図9A】DEZn溶液に曝す前の、銅吸着剤の写真である。
【図9B】DEZn溶液に曝した後の、銅吸着剤の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
半導体、太陽電池(photovoltaic)、LCD−TFT、又はフラットパネル型の機器の製造に使用される組成物及び方法の非限定的な実施形態を本明細書中に開示する。
【0021】
有機金属性化合物の貯蔵、輸送及び供給中に発生する金属不純物を除去するための効果的で単純な吸着剤を本明細書中に開示する。また、これらの金属不純物を除去する効果的で単純な方法を本明細書中に開示する。
【0022】
開示した吸着剤及び方法は、その輸送、貯蔵及び供給中に有機金属性化合物の分解により発生する金属性不純物又は金属性化合物の容易で効果的な除去を提供する。すなわち、開示した吸着剤及び方法は、半導体及び太陽電池において望まれる高純度の有機金属性化合物の安定な供給を可能とする。詳細には、開示した方法における開示した吸着剤の使用は、有機金属性化合物中に発生する分解された金属性化合物を除去し得る。
【0023】
前述のとおり、金属性化合物は、輸送、貯蔵及び供給中に有機金属性化合物の分解により発生する。標準的な技術を用いた場合、金属性化合物を効果的に除去することができなかったため、その輸送、貯蔵及び供給中に有機金属性化合物の純度を維持することは困難であった。濾過技術は、分解された化合物粒子を除去するための手段として研究されてきた。しかしながら、濾過技術は、詰まりのために定期的にプロセスを停止させフィルタを換える必要があったため、根本的な解決策ではなかった。開示した吸着剤及び方法によって、半導体産業及び太陽電池産業における有機金属性化合物の供給を妨げる以下の問題を解決することができる。
【0024】
開示した吸着剤及び方法は、輸送及び貯蔵中に発生する金属性化合物を捕捉することによってその純度を維持しながら、有機金属性化合物を輸送及び貯蔵することを可能にする。また、施設寿命及び所要のメンテナンスの間の時間を延ばす吸着剤及び該吸着剤を使用する方法を本明細書中に開示する。
【0025】
その上、本明細書中に開示される吸着剤及び該吸着剤を使用する方法は、製造設備の部材に堆積する分解された金属性化合物を大幅に低減させるため、製造設備に有機金属性化合物を供給する供給システムのためのメンテナンス費用を減らす。
【0026】
本明細書中で使用される場合、有機金属性化合物という用語は、分解反応により金属性化合物を発生させ、その化学構造中にR1〜3−M(式中、R1〜3は1つ又は複数のアルキル基であり、Mは金属である)を含有する化合物を指す。例示的な金属としては、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、又はこれらの金属の化合物が挙げられる。好適な有機金属性化合物としては、ジエチル亜鉛(DEZn)、ジメチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミ
ニウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルガリウム又はトリエチルガリウムが挙げられる。
【0027】
本明細書中で使用される場合、アルキル基という用語は、直鎖、分岐鎖及び環式のアルキルを指す。
【0028】
本明細書中で使用される場合、金属性化合物という用語は、有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物を指す。例示的な金属性化合物としては、Zn、Ca、Co、Sr、Fe、Ba、Cu、Mg、V、Cd、Mo、Pb、Ni、Al、Pt、Pd、Mn、Yb、Y、In、Gd、Er、Ga、Sm、Dy、Ce、Tm、Nd、Hf、Ho、La、Lu、Ru、Rh、Ti、Zr、Cr、Ge、Nb、Sn、Sb、Te、Cs、Ta、W、これらの金属のいずれかの酸化物、これらの金属のいずれかの水酸化物、及びそれらの混合物が挙げられ得る。好適な金属性化合物としては、Al、Ga、In、Sn、Zn、Cd、これらの金属の酸化物、これらの金属の水酸化物、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0029】
[吸着剤]
開示した吸着剤は、有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物に付着することができる金属性材料を含む。
【0030】
典型的には活性炭、ポリマー又はキレート試薬から作製される典型的な吸着剤とは対照的に、開示した吸着剤は金属から作製される。これらの典型的な吸着剤とは対照的に、有機金属性化合物の分解は、開示した吸着剤によって促されない。さらに、開示した吸着剤の付着能は、吸着剤表面上の孔を介して分解された金属性化合物を物理的に捕捉する典型的な多孔性吸着剤材料、例えば活性炭とは異なるものである。
【0031】
加えて、開示した吸着剤の表面は極めて平坦であってもよく、高い耐熱性を示すため、使用前に高温での窒素パージによって、開示した吸着剤から酸素及び水分を容易に除去することができる。開示した吸着剤は、この吸着剤が金属から作製されるため、この吸着剤上の分解された化合物を、希酸溶液及び純水の少なくとも一方を用いて除去することができることから、何度も再使用することができる。
【0032】
吸着剤は、対象の金属性化合物に付着することができる任意の金属性材料から形成することができる。例示的な金属性材料としては、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、Cu、ステンレス鋼、これらの金属の合金、及びそれらの混合物が挙げられ得る。
【0033】
金属吸着剤は、金属性化合物に付着することができる任意の形状又は形態であり得る。金属吸着剤は分割された形態であってもよい。例示的な分割された形態としては、ビーズ、ペレット、環、小板、顆粒、立方体形状、幾何学的に成型される若しくは不規則な形状、焼結材料、ワイヤ、網、又は貯蔵タンク、供給タンク若しくは供給設備の内部容積に配することができる任意の他の形状が挙げられる。金属吸着剤は一体構造形態であってもよい。例示的な一体構造形態としては、貯蔵タンク、供給タンク又は供給システムの内部容積に配することができるブロック、平板又はれんが状の塊が挙げられる。或る特定の実施形態では、金属吸着剤の少なくとも1つの表面が平面である。
【0034】
大きい表面積を有する形状を有する金属吸着剤が好ましい。分解された金属化合物を捕捉する上では、より小さな表面積を有する金属吸着剤よりも、より大きな表面積を有する
金属吸着剤がより効果的であると考えられる。メッシュ材料を金属吸着剤として使用する或る特定の実施形態では、より小さな格子メッシュサイズを有するメッシュを使用することによって表面積を増大させることができる。メッシュ材料を金属吸着剤として使用する或る特定の実施形態では、表面積がメッシュ材料のパッキング(packing)の影響を受けることがある。例えば、より密にパッキングされたメッシュ構造は、より緩くパッキングされたメッシュ構造よりも小さい表面積を有し得る。金属性化合物を物理的に捕捉する金属吸着剤は、分解された金属性化合物との付着に最も効果的であると考えられる。
【0035】
吸着剤は金属性ワイヤメッシュを含む網形態であってもよい。金属性ワイヤメッシュは、S字型に曲げられたメッシュ、すなわちディクソンパッキン型メッシュであってもよい。金属性ワイヤメッシュは銅ワイヤメッシュであってもよい。或る特定の実施形態では、ガス流からのミストの分離のための、化学プラントにおけるデミスタ(demistifier)として使用されるワイヤメッシュを使用してもよい。吸着剤の網の格子メッシュのサイズは400ミクロン×400ミクロンとすることができる。一実施形態では、吸着剤が、以下の特徴:10mmのパッキングサイズ、50番のメッシュサイズ番号、580m2/m3の表面積、96.5%の占有空間率、及び280kg/m3の密度/重量の少なくとも1つを有する銅から作製されるS字型メッシュである。
【0036】
ワイヤメッシュから作製される好適な吸着剤の網は、日本のトウトクエンジ株式会社から入手可能である。銅ワイヤメッシュから作製される好適な吸着剤の網も、日本のトウトクエンジ株式会社からディクソンパッキン(Cu)という名称で入手可能である。
【0037】
有機金属性化合物がDEZnである1つの例示的な実施形態では、銅から作製される吸着剤が、ジエチル亜鉛(DEZn)の熱分解により発生する亜鉛(例えば、亜鉛、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛の混合物)を捕捉するのに最も好適である。
【0038】
[吸着方法]
開示した吸着方法は、上記に開示される金属吸着剤を利用することによって有機金属性化合物の純度を維持しながら、有機金属性化合物を貯蔵、輸送及び供給することを可能にする。少なくとも、開示した吸着方法は、有機金属性材料の分解により金属性化合物を発生させる有機金属性化合物を、金属から作製される金属吸着剤と接触させることであって、金属性化合物の少なくとも一部を金属吸着剤により除去することを伴う。開示した金属吸着剤及び有機金属性化合物は、有機金属性化合物の貯蔵、輸送又は供給中、有機金属性化合物の輸送、貯蔵又は供給に使用されるタンク又は管内に入れられていてもよい。開示した金属吸着剤は、タンク又は施設に有機金属性化合物を充填する前、充填している間又は充填した後に、輸送タンク、貯蔵タンク又は供給施設内に配置してもよい。
【0039】
有機金属性化合物と接触させる前に、本明細書中に開示される金属吸着剤を、希酸溶液及び純水の少なくとも一方を用いて洗浄してもよい。その後、金属吸着剤を純水又は他の溶媒ですすいだ後、乾燥させてもよい。吸着剤を乾燥させるのに、窒素、アルゴン、ヘリウム又はそれらの組合せ等の不活性ガスを使用してもよい。乾燥プロセスの終点は、不活性ガスの水分含量を測定することによって検出することができる。このプロセスは、使用後の金属吸着剤を洗浄又は再生するのにも使用することができる。金属吸着剤を洗浄することによって、金属吸着剤が、金属性化合物をより効果的に捕捉して、有機金属性化合物の純度を維持することが可能となると考えられる。
【0040】
タンク又は供給施設に有機金属性化合物を充填する前に、タンク又は供給施設の表面から微量の水分及び酸素を除去するように、タンク又は供給施設を真空又はパージプロセスに長期間曝してもよい。
【0041】
[輸送タンクのための例示的な吸着方法]
輸送タンク内における有機金属性化合物の輸送及び貯蔵中に、輸送タンク内に発生する分解された金属化合物を吸着する方法の一実施形態を、図3を参照して説明する。図3は、本明細書中に記載される実施形態による金属吸着剤330を含有する輸送タンク300の一実施形態の図である。輸送タンク300は、キャリアガスを輸送タンク300内に導入するためのキャリアガス吸気バルブ340と、輸送タンク300から有機金属性化合物を移すための充填バルブ350とを備え得る。
【0042】
輸送タンク300には有機金属性化合物310が充填される。輸送タンク300は、有機金属性化合物310が生産される生産プラントにおいて充填してもよい。輸送タンク300は、生産地から消費地へと直接輸送してもよい。図1に示される流通経路と同様に、輸送タンク300は、生産地から、消費地へと輸送される1つ又は複数の貯蔵タンク内へと有機金属性化合物310が移される充填プラントへと輸送することができる。
【0043】
本明細書中で開示されるような金属吸着剤330は、輸送タンクに有機金属性化合物310を充填する前、充填している間又は充填した後に、輸送タンク300内に配置してもよい。或る特定の実施形態では、輸送タンク300を、生産地から消費地へと海を渡って輸送してもよい。図3に描かれる輸送タンク300は例示的なものであり、有機金属性化合物を貯蔵することができるあらゆるタイプのタンクを使用することができる。輸送又は貯蔵中に輸送タンク310内に発生する金属性化合物320は、輸送タンク310内に懸濁液を形成することなく、本発明の金属吸着剤330によって吸着することができる。
【0044】
金属吸着剤330を純水で洗浄した後に、上記の不活性ガスを用いて乾燥させてもよい。金属吸着剤330を、希酸溶液で洗浄し、水ですすいだ後に、上記の不活性ガスを用いて乾燥させてもよい。
【0045】
[貯蔵タンクのための例示的な吸着方法]
図4は、本明細書中に記載される実施形態による金属吸着剤430を含有する貯蔵タンク400の一実施形態の図である。貯蔵タンク400は、液体有機金属性化合物の輸送、貯蔵及び供給のために使用することができる。貯蔵タンク400に充填プラント(図示せず)において有機金属性化合物410を充填してもよく、貯蔵タンク400を消費プラント(図示せず)へと輸送してもよい(may)。その後、貯蔵タンク400を、製造設備に供給される、輸送タンク内の液体有機金属性化合物410を移すための有機金属の供給設備(図示せず)に連結してもよい。
【0046】
液体有機金属性化合物を製造設備に供給する1つの例示的な方法を、図4を参照して説明する。図4を参照すると、キャリアガス434、例えばアルゴンガスを、キャリアガス吸気バルブ440を通じて貯蔵タンク400内に導入し、貯蔵タンク400を加圧する。貯蔵タンク400内の圧力が上昇すると、その後、液体有機金属性化合物410がサイフォン管450を通じて輸送され、充填バルブ460を通じて供給設備へと供給される。
【0047】
これまでに記載した従来技術の方法では、有機金属性化合物の輸送又は貯蔵中に貯蔵タンク内に発生する金属性化合物が、有機金属性化合物と一緒に供給される。有機金属性化合物中に懸濁された金属性化合物は、供給システム(図4には図示せず)の管及び部材、例えば、貯蔵タンクから下流に配置されるバルブ、流量調整器、蒸発器、ガス流調整器及びフィルタ上に堆積することがある。分解された金属化合物が部材上に蓄積すると、部材が正常に機能しないか又は停止する結果、部材を取り外して、洗浄するか又は取り替える場合があるためシステムの休止時間を生じるおそれがある。
【0048】
図4を参照すると、本明細書中に記載の金属吸着剤430が貯蔵タンク400内に配置
されていれば、液体有機金属性化合物の輸送、貯蔵又は供給中に貯蔵タンク400内の液体有機金属性化合物410の分解により発生する金属性化合物は、本明細書中に開示される金属吸着剤430によって捕捉することができる。結果として、金属性化合物を実質的に含まない有機金属性化合物410を、サイフォン管450を通じて供給することができる。
【0049】
使用後又は使用前に、希酸溶液及び純水の少なくとも一方を含む洗浄溶液を用いて、金属吸着剤430を洗浄してもよい。金属吸着剤を不活性ガスパージに曝すことにより金属吸着剤430を乾燥させ、金属吸着剤430から水分及び酸素を除去することができる。不活性ガスパージは高められた温度(at an elevated temperature)で実施してもよい。金属吸着剤430を貯蔵タンク400内に導入する前、又は金属吸着剤430を再生するために貯蔵タンク400から金属吸着剤430を除去した後に、不活性ガスパージを実施してもよい。一実施形態では、金属吸着剤430を貯蔵タンク400内に導入する前に、金属吸着剤430を高められた温度(at an elevated temperature)で窒素ガスに曝す。洗浄及び乾燥後、金属吸着剤430は、有機金属性化合物410の輸送、貯蔵又は供給中に、金属性化合物を捕捉するとともに、有機金属性化合物の純度を維持するのにより効果的である。高純度の有機金属性化合物を供給するように、貯蔵タンク400内の液体有機金属性化合物410から金属性化合物を除去する本方法は、例示的なものであり、本明細書中に記載される金属吸着剤を使用する方法は、有機金属性化合物の純度を維持することが望ましいあらゆる状況に適用可能であることを理解すべきである。
【0050】
[バブラーのための例示的な吸着方法]
有機金属性化合物510を製造設備に供給するのにバブラー500を使用する1つの例示的な方法を、図5を参照して説明する。図5は、本明細書中に記載される実施形態による金属吸着剤530を含有するバブラー500の一実施形態の図である。バブラー500は、バブラー500内の液体有機金属性化合物510中へのキャリアガス534、例えばアルゴンの導入によりガス状有機金属性化合物を製造設備に供給するのに使用することができる。
【0051】
キャリアガス534、例えばアルゴンガスは、キャリアガスバルブ540及びスパージャ(sparger)550を通じて、バブラー500内の液体有機金属性化合物510中に導入及び拡散させてもよい。バブラー500内のキャリアガス534は液体有機金属性化合物510の蒸気で飽和され、ガス状混合物554を形成する。このガス状混合物554は供給バルブ560を通じて製造設備に供給することができる。
【0052】
これまでに記載した従来技術の方法では、液体有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物が、液体有機金属性化合物中に懸濁される。バブリングプロセス(bubbling
process)が進行するにつれて、分解された金属性化合物は、ガス状混合物とともに散乱し、下流に進む。ガス状混合物中に懸濁された分解された金属性化合物は、供給システムの部材上に堆積するおそれがある。部材としては、供給管、フィルタ、ガス流調整器及びバルブが挙げられ得る。金属性化合物が部材上に蓄積すると、部材が正常に機能しないか又は停止する結果、部材を取り外して、洗浄するか又は取り替える場合があるためシステムの休止時間を生じるおそれがある。さらに、ガス状混合物によって金属粒子が製造設備に送られると、金属粒子が製造設備を汚染して、製造設備内で実施される任意のプロセスに悪影響を及ぼすおそれがある。
【0053】
図5を参照すると、供給中にバブラー500内の液体有機金属性化合物510中に発生する金属性化合物は、バブラー500内に配置される金属吸着剤530によって捕捉することができる。結果として、バブラーにより製造設備に供給されるガス状混合物554は、金属粒子の汚染物を実質的に含まない。
【0054】
使用後又は使用前に、希酸溶液及び純水の少なくとも一方を含む洗浄溶液を用いて、金属吸着剤530を洗浄してもよい。金属吸着剤を不活性ガスパージに曝すことにより金属吸着剤530を乾燥させ、金属吸着剤530から水分及び酸素を除去することができる。不活性ガスパージは、バブラー500内への金属吸着剤530の導入前に高められた温度(at an elevated temperature)で実施してもよい。洗浄及び乾燥後、金属吸着剤530は、分解された金属性化合物を捕捉するとともに、有機金属性化合物510の純度を維持するのにより効果的である。
【0055】
バブリング供給中に、バブラー内の有機金属性化合物から、分解された金属化合物を除去する方法は、例示的なものであり、本明細書中に記載される方法は、本明細書中に記載されるバブリング供給法に限定されるものではないことを理解すべきである。本明細書中に記載される金属吸着剤を使用し得る、有機金属を供給する他の例示的な方法としては、タンク内に真空を作り出すことにより実施される蒸気供給法、アルゴンガス等の不活性ガスを有機金属性化合物の蒸気と混合することによるガス流供給法、及びその蒸気圧を増大させるように有機金属性化合物を加熱することにより実施される蒸気供給法等の方法が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下の非限定的な実施例では、開示した金属吸着剤、及び開示した金属吸着剤を使用する方法を、具体的な実施形態に従って説明する。これらの実施形態は、本発明を更に例示するために提示するものである。しかしながら、実施形態は、包括的なものであることを意図するものではなく、本明細書中に記載される本発明の範囲を限定することを意図するものでもない。特に指定のない限り、全てのパーセンテージ、部及び比率は重量を基準とする。本発明の実施例には番号を付し、一方、本発明の実施例ではない比較例はアルファベット順に指定する。
【0057】
以下に記載される実施例は、DEZnを有機金属性化合物として、銅網を金属吸着剤として、及び亜鉛を分解された金属化合物として用いて行った。DEZnは、太陽電池用の透明導電性酸化物(TCO)膜を作製するのに好ましい材料である。DEZnは、他の有機金属性化合物と同じ問題を抱えており、DEZnは、貯蔵、輸送及び供給中に自己分解して、メンテナンスの問題を招くおそれのあるZn粒子(例えばZn及び/又はZnO)を発生させるとともに、DEZnを用いて堆積した膜を汚染する。
【0058】
銅網は、400ミクロン×400ミクロンの格子メッシュサイズを有し、日本のトウトクエンジ株式会社からディクソンパッキン(Cu)という名称で入手可能である。
【0059】
[加熱試験]:
実際の作業では、かかる条件をシミュレーションするために比較例A及び実施例1についての吸着実験を高温で行うことを目的として、DEZnの蒸気圧及び流量を増大させるようにDEZnを加熱した。
【0060】
[比較例A−加熱試験]
ガラスタンク(10mL)内へのDEZnの導入前に、ガラスタンクを80℃で6時間真空吸引し、ガラスタンクから酸素及び水分を除去した。ガラスタンクに液体のDEZn(2.5mL)を充填し、露点を窒素により−50℃未満に維持したグローブボックス(glove box)に入れた。亜鉛粒子は、DEZnを80℃の温度で2日間加熱することによって発生させた。図6Bに示されるように、従来技術の方法に従って金属吸着剤の非存在下でDEZnを加熱すると、DEZn溶液内に亜鉛粒子が視認可能であった。固体亜鉛残渣は、1%のHNO3ですすがれた。
【0061】
[実施例1−加熱試験]
銅吸着剤をその中に配置したガラスタンク(10mL)内へDEZnを導入する前に、銅吸着剤及びガラスタンクをともに80℃で6時間真空吸引し、ガラスタンク及び銅吸着剤から酸素及び水分を除去した。銅吸着剤は、図7Aに描かれるような網形態のものとした。ガラスタンクに、露点を窒素流により−50℃未満に維持したグローブボックス内でDEZnを充填した。
【0062】
銅吸着剤を含むガラスタンク(10mL)に、液体のDEZn(2.5mL)を充填した。亜鉛粒子は、その中に配置した銅吸着剤とともにDEZnを80℃の温度で2日間加熱することによって発生させた。図6Aは、80℃で2日間加熱した後のDEZn溶液及び実施例1による金属吸着剤を加熱した後のガラスタンクの写真である。
【0063】
加熱後に、銅吸着剤を液体のDEZn溶液から取り出し、銅吸着剤及びDEZnをともに、60℃で真空吸引することにより別々に乾燥させると、DEZnの蒸発後に固体亜鉛残渣が得られた。固体亜鉛残渣は1%HNO3ですすいだ。図7Aは、加熱に曝しDEZn溶液に曝す前に、実施例1に使用される銅吸着剤の写真である。図7Bは、DEZn溶液の存在下における80℃での2日間の加熱後の、実施例1に使用される乾燥させた銅吸着剤の写真である。図7Cは、DEZn溶液の存在下における80℃での12日間の加熱後の、銅吸着剤の写真である。
【0064】
銅吸着剤により捕捉された亜鉛の量、DEZn中に残存する亜鉛の量、及びDEZn溶液中で亜鉛を捕捉する銅吸着剤の能力を、比較例A及び実施例1について測定し、表Iに報告した。
【0065】
【表1】
【0066】
ガラスタンク内に亜鉛粒子が視認可能である、図6Bに示されるような吸着剤を含まないDEZnの液体と比べると、図6Aに示されるように、銅吸着剤を含むDEZn液体は極めて透明である。吸着剤を含むガラスタンク内の亜鉛粒子は、目で見ることができなかった。
【0067】
図7A及び図7Bを参照すると、大きな表面積を有する銅吸着剤は、加熱後に亜鉛粒子を十分に捕捉した。図7Aに示されるように、銅吸着剤は、亜鉛粒子を捕捉する前に金属性光沢を有していたが、銅吸着剤を液体のDEZn中、80℃で2日間加熱した後、銅吸着剤の金属性光沢は低減し、図7Bに示されるように吸着剤の表面上に亜鉛粒子が視認可能であった。図7Cに示されるように、DEZn溶液の存在下における80℃での12日間の加熱後に、銅吸着剤の金属性光沢は更に低減する。
【0068】
誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)によりガラスタンク内に残存する亜鉛の量
を測定した。表1に示されるように、金属吸着剤の非存在下で80℃で2日間加熱した後、22.2mgの亜鉛粒子がDEZn中に存在した。しかしながら、同じ条件下で金属吸着剤の存在下で加熱したDEZn中には僅か1.7mgの亜鉛粒子(吸着剤が捕捉しなかった亜鉛粒子の量)しか存在しなかった。したがって、金属吸着剤は、80℃の高温(at
the elevated temperature of 80℃)でさえも、DEZn中の亜鉛粒子の拡散を90%超低減させた。その上、亜鉛粒子が金属吸着剤の撹拌によって剥がれることがなかったため、金属吸着剤上の亜鉛粒子は、金属吸着剤の金属表面に強く結合していた。
【0069】
[貯蔵試験]:
貯蔵試験の1つの目的は、DEZnを長期間室温で貯蔵した場合に、本明細書中に記載される金属吸着剤が、分解された金属性化合物(亜鉛粒子)を吸着することができることを確認することである。別の目的は、亜鉛粒子を捕捉する金属吸着剤を用いた場合に、亜鉛粒子を含まない洗浄な液体のDEZnが、図3に描かれる輸送タンク300及び図4に描かれる貯蔵タンク400等の貯蔵タンク内に発生し得ることを実証することである。
【0070】
[比較例B−貯蔵試験]
ガラスタンク(10mL)内へのDEZnの導入前に、ガラスタンクを80℃で6時間真空吸引し、ガラスタンクから酸素及び水分を除去した。ガラスタンクに液体のDEZn(2.5mL)を充填し、実際の貯蔵温度をシミュレーションするために室温(25℃)で60日間貯蔵した。
【0071】
[実施例2−貯蔵試験]
銅吸着剤をその中に配置したガラスタンク(10mL)内へのDEZnの導入前に、銅吸着剤及びガラスタンクをともに80℃で6時間真空吸引し、ガラスタンク及び銅吸着剤から酸素及び水分を除去した。銅吸着剤は、図7Aに描かれるような網形態のものとした。ガラスタンクに、露点を窒素流により−50℃未満に維持したグローブボックス内でDEZn(2.5mL)を充填した。
【0072】
DEZn及び吸着剤を含むガラスタンク(10mL)を、室温(25℃)で60日間貯蔵した。
【0073】
DEZn中に残存する亜鉛の量、及びDEZn溶液中で亜鉛を捕捉する銅吸着剤の能力を、比較例B及び実施例2について測定し、表2に報告した。各ガラスタンク内に残存する亜鉛の量はICP−MSにより測定した。
【0074】
【表2】
【0075】
表2によると、吸着剤の非存在下でのDEZn中の亜鉛粒子の量は40mg/2.5mL(DEZn)であった。しかしながら、吸着剤の存在下でのDEZn中の亜鉛粒子の量は僅か約4mg/2.5mL(DEZn)であった。したがって、本発明の金属吸着剤は、DEZn中に懸濁される亜鉛粒子を90%超低減した。
【0076】
図8Aは、25℃で60日間の貯蔵後の、銅吸着剤を含むDEZn溶液を含有する実施例2のガラスタンクの写真である。図8Bは、25℃で60日間の貯蔵後の、銅吸着剤を
含まないDEZn溶液を含有する比較例Bのガラスタンクの写真である。図8Bに描かれるように、吸着剤の非存在下でのDEZnの色は、多くの亜鉛粒子がガラスタンク内に懸濁されたため、灰色であった。他方、図8Aに描かれるように、吸着剤の存在下でのDEZnの色は60日間の貯蔵後であっても極めて透明であった。
【0077】
図9Aは、DEZn溶液に曝す前の、実施例2の銅吸着剤の写真である。図9Bは、室温で60日間DEZn溶液に曝した後の、実施例2の銅吸着剤の写真である。図9Aに示されるように、銅吸着剤は、亜鉛粒子を捕捉する前には金属性光沢を有していたが、60日間DEZnに曝した後、銅吸着剤の金属性光沢は低減し、図9Bに示されるように吸着剤の表面上に亜鉛粒子が視認可能であった。
【0078】
実施例2により実証されるように、本明細書中に開示される金属吸着剤は、輸送及び貯蔵中にDEZnをタンク内に長期間貯蔵した場合に、DEZn中の亜鉛粒子を顕著に低減することができる。さらに、上記実施例において使用されたガラスタンク内に貯蔵されたDEZnは、典型的に使用されるステンレス鋼316L EPグレードから作製される貯蔵タンク内に貯蔵されるDEZnに比べより容易に分解される。何故ならば、通常、ガラスタンクの表面上にはステンレス鋼のタンクの表面よりも多くの水分及び酸素が存在するためである。
【0079】
本発明の性質を説明するために本明細書中に記載及び例示されている詳細、材料、工程及び部材の配列の多くの更なる変更は、添付の特許請求の範囲に表される本発明の原理及び範囲内で当業者が行うことができることが理解される。よって、本発明は、上記に挙げられる実施例及び/又は添付の図面における具体的な実施形態に限定されることが意図されるものではない。
【0080】
本発明の実施形態を示し、記載しているが、それらの修正は、本発明の精神又は教示から逸脱することなく当業者が行うことができる。本明細書中に記載される実施形態は例示的なものにすぎず、限定的なものではない。組成物及び方法の多くの変形及び修正が可能であり、本発明の範囲内である。それ故、保護範囲は本明細書中に記載される実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものであり、その範囲は、特許請求の範囲の主題のあらゆる均等物を含むものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属性化合物の貯蔵、輸送及び供給中に前記有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物を除去する方法であって、
有機金属性化合物の分解により金属性化合物を発生させる有機金属性化合物を、金属からなる金属吸着剤と接触させること、を含み、
前記金属性化合物の少なくとも一部を、前記金属吸着剤によって前記液体有機金属性化合物から除去する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記有機金属性化合物及び前記金属吸着剤がタンク又は管内に配置される、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
前記タンク又は前記管から、前記有機金属性化合物の液体又は蒸気を供給することを更に含む、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法において、
前記金属吸着剤の前記金属が、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、Cu、それらの合金、及びステンレス鋼からなる群から選択される、方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法において、
前記有機金属性化合物が、式R−M(式中、Rはアルキル基であり、Mは、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、又はこれらの金属の化合物からなる群から選択される金属である)で表される、方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法において、
前記有機金属性化合物が、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛、トリエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルガリウム又はトリエチルガリウムからなる群から選択される、方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法において、
前記金属吸着剤により除去される前記金属性化合物が、M、Mの酸化物、Mの水酸化物、又はそれらの組合せである、方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法において、
前記金属吸着剤の前記金属が銅であり、前記金属性化合物がジエチル亜鉛(DEZn)の分解により発生する亜鉛である、方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法において、
前記金属吸着剤の形状が、平板、粉末、ワイヤ、網、及びそれらの組合せから選択される、方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法において、
前記金属吸着剤が銅網を含む、方法。
【請求項1】
有機金属性化合物の貯蔵、輸送及び供給中に前記有機金属性化合物の分解により発生する金属性化合物を除去する方法であって、
有機金属性化合物の分解により金属性化合物を発生させる有機金属性化合物を、金属からなる金属吸着剤と接触させること、を含み、
前記金属性化合物の少なくとも一部を、前記金属吸着剤によって前記液体有機金属性化合物から除去する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記有機金属性化合物及び前記金属吸着剤がタンク又は管内に配置される、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、
前記タンク又は前記管から、前記有機金属性化合物の液体又は蒸気を供給することを更に含む、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法において、
前記金属吸着剤の前記金属が、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、Cu、それらの合金、及びステンレス鋼からなる群から選択される、方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法において、
前記有機金属性化合物が、式R−M(式中、Rはアルキル基であり、Mは、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Tl、Pb、Bi、又はこれらの金属の化合物からなる群から選択される金属である)で表される、方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法において、
前記有機金属性化合物が、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛、トリエチル亜鉛、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリメチルガリウム又はトリエチルガリウムからなる群から選択される、方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法において、
前記金属吸着剤により除去される前記金属性化合物が、M、Mの酸化物、Mの水酸化物、又はそれらの組合せである、方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法において、
前記金属吸着剤の前記金属が銅であり、前記金属性化合物がジエチル亜鉛(DEZn)の分解により発生する亜鉛である、方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法において、
前記金属吸着剤の形状が、平板、粉末、ワイヤ、網、及びそれらの組合せから選択される、方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法において、
前記金属吸着剤が銅網を含む、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【公表番号】特表2013−521272(P2013−521272A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555535(P2012−555535)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際出願番号】PCT/IB2011/050920
【国際公開番号】WO2011/107966
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(591036572)レール・リキード−ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード (438)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際出願番号】PCT/IB2011/050920
【国際公開番号】WO2011/107966
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(591036572)レール・リキード−ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード (438)
【Fターム(参考)】
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