説明

金属含有炭素微粒子およびその製造方法

【課題】粒子径分布が狭く、グラファイト化度の高い金属含有炭素微粒子、さらには粒子径分布が狭く、品質のよい金属含有炭素微粒子の簡便な製造方法およびその用途の提供を課題とする。
【解決手段】アクリロニトリル系単量体と親水性ビニル単量体との共重合体からなるポリアクリロニトリル共重合体などのポリマーAと異種のポリマーBを有機溶媒に混合し、エマルションを形成させた後に、ポリマーAと異種のポリマーBを有機溶媒に混合し、エマルションを形成させた後に、ポリマーAの貧溶媒接触させることにより、ポリマーAを析出させる方法で金属を含有した合成樹脂微粒子を得、その金属含有合成樹脂微粒子を炭化焼成させることを特徴とする炭素微粒子の製造方法およびその炭素微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子径分布が狭く、金属成分を含んだ機能性を発現する炭素微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素微粒子は、機械的特性、耐薬品性、耐熱性、耐摩耗性、電気伝導性に優れることから、耐熱フィラー、複合材料の強化材、充填剤等、自動車部品、電機部品、産業機械、事務機器と幅広い用途に使用されているが、近年より炭素微粒子に機能を付加させる技術として金属含有炭素微粒子が注目されている。
【0003】
金属含有炭素微粒子は、含有される金属によりその機能はさまざまであるが、例えば、金属の磁性機能を付与させることにより、MRI用の造影剤やDDS担体(特許文献1、2)、金属とカーボンを複合させることにより触媒機能を発現させ、燃料電池用の触媒として使用することが知られている(特許文献3)。
【0004】
従来から炭素微粒子は、原料であるコークス、ピッチ等を焼成後、機械的に粉砕する方法や合成樹脂微粒子を調整した後に焼成する方法などが知られている。
【0005】
コークスやピッチを焼成した炭素材料は、グラファイト化度が高い特性を有する一方、機械粉砕処理により微細化を行うため、得られる炭素微粒子の粒子径分布は広くなり、粒子形状も非球形であるという特徴を持つ。
【0006】
一方、合成樹脂微粒子を焼成した炭素微粒子としては、乳化重合などの方法を応用し、重合と共に合成樹脂微粒子を形成させたり、水中でフェノール・ホルムアルデヒド樹脂微粒子を作ったりするなどして、合成樹脂微粒子を形成させ、それらを焼成する方法などが開示されている。
【0007】
また、最も容易な方法は、合成樹脂を紡糸するなどして繊維状化し、これらを微細に切断するなどの機械的微細化を行うことで、微粉砕化し、それを焼成する方法などがある(特許文献4)。
【0008】
金属含有炭素微粒子は、これらの技術を応用することにより製造されている。
【0009】
主な具体的な方法としては、合成樹脂微粒子を作る際に、金属塩や金属微粒子を合成樹脂あるいは合成樹脂微粒子製造時に混合し、樹脂中に金属を入れ、それらを焼成することで得ている。
【0010】
これらの方法で得られる金属含有炭素微粒子は、その製造法の特長により、例えば、乳化重合系を利用する特許文献1や2などでは、制御できる粒子径の範囲が最大500nmであり、繊維から微細化する方法である特許文献3などでは、得られる形状が不定形でありかつ粒子径分布は広いなどの問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−293052号公報
【特許文献2】特開2009−292651号公報
【特許文献3】特開2009−291707号公報
【特許文献4】特開2009−295441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、粒子径分布が狭くかつ粒子径が操作性の良い範囲であり、かつ品質の良い金属含有炭素微粒子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、金属を含有した粒子径分布の狭い合成樹脂微粒子を炭化焼成することによって上記目的を達成できることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、
[1]ポリオレフィン系共重合体、アクリロニトリル系単量体と親水性ビニル単量体との共重合体からなるポリアクリロニトリル系共重合体、ポリアクリルアミド系重合体、ポリ酢酸ビニル系重合体、ポリ塩化ビニル系重合体、ポリ塩化ビニリデン系重合体、ポリアミド、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリイミドからなる群から少なくとも1つ以上選ばれるポリマーAと異種のポリマーBを、有機溶媒に混合し、ポリマーAを主成分とする溶液相とポリマーBを主成分とする溶液相に相分離する系において、エマルションを形成させた後、ポリマーAの貧溶媒を接触させることにより、金属成分を包含させながらポリマーAを析出させポリマーAの合成樹脂微粒子を製造し、その金属含有合成樹脂微粒子を炭化焼成することを特徴とする炭素微粒子の製造方法、
[2]前記ポリマーAが、アクリロニトリル系単量体と親水性ビニル単量体との共重合体からなるポリアクリトニトリル系共重合体、ポリアミドイミドから選択されたものであることを特徴とする[1]記載の炭素微粒子の製造方法、
[3]アクリロニトリル系単量体と親水性ビニル単量体との共重合体からなるポリアクリロニトリル系共重合体がアクリロニトリル系単量体100質量部に対し、0超〜25質量部の親水性ビニル単量体を共重合してなるアクリロニトリル共重合体である[1]または[2]記載の炭素微粒子の製造方法、
[4]親水性ビニル単量体が、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、スルホン酸基およびリン酸基を1種以上含有することを特徴とする[1]から[3]いずれか記載の炭素微粒子の製造方法、
[5]親水性ビニル単量体が、アミド基またはカルボキシル基を1種以上含有することを特徴とする[1]から[4]のいずれか記載の炭素微粒子の製造方法、
[6]親水性ビニル単量体が、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびアクリルアミドから選択される1種以上であることを特徴とする[1]から[5]のいずれか記載の炭素微粒子の製造方法、
[7]金属を含有したポリアミドイミド微粒子を炭化焼成することを特徴とする炭素微粒子の製造方法、
[8]グラファイト化度が0.7以上であることを特徴とする[1]から[7]いずれか記載の炭素微粒子の製造方法、
[9]数平均粒子径が0.1〜100μm、粒子径分布指数が1.0〜2.0であることを特徴とする[1]から[8]いずれか記載の炭素微粒子の製造方法、
[10]数平均粒子径が0.1〜100μm、粒子径分布指数が1.0〜2.0、グラファイト化度が0.7以上及び真球度が80以上であることを特徴とする金属含有炭素微粒子、
[11]金属が遷移金属であることを特徴とする[10]記載の炭素微粒子、
[12]金属が、コバルト、鉄、マンガン、ニッケル、銅、チタン、クロム、亜鉛から選ばれる少なくとも1種である[10]から[11]のいずれか記載の金属含有炭素微粒子、
[13]金属が磁性体金属である[10]から[12]のいずれか記載の炭素微粒子、
[14][10]から[13]のいずれか記載の炭素微粒子からなる触媒、
である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、取り扱い性が良い粒子径範囲であり、グラファイト化度が高くかつ粒子径分布が狭く、真球状の金属含有炭素微粒子を得ることができる。本発明の金属含有炭素微粒子は、グラファイト化度が高いため、導電特性などに優れ、取り扱い性に優れた粒子径を有し、粒子径分布が均一であるため、特にフィルムなどの膜状のものに塗布する場合などにおいて、塗布厚みの均一性に優れる点で望ましい。また、球状であるため、さらに塗布むらを小さくできる点で好ましい。
【0016】
これらの特性から、本発明の金属含有炭素微粒子は、樹脂やゴムへの高い分散性、充填性を示し、樹脂改質剤、導電性ゴム、異方導電性粒子、クロマトグラフィー担体、分子吸着剤、トナー、リチウムイオン電池用負極材、触媒、触媒担体、活性炭、キャパシタ用電極などに好適に用いることができる。
【0017】
また、金属成分として、磁性体もしくは磁性体となり得る金属を導入した金属含有炭素微粒子は、磁気特性を利用する診断用担体や、MRI用造影剤等にも好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明における金属含有炭素微粒子とは、炭素を母体とする微粒子に金属を含むものである。
【0020】
ここでいう微粒子とは、数平均粒子径が、0.1μm〜100μm、好ましくは0.5μm超〜50μmの範囲にある微粉のことを指し、その形状としては、球状、楕円球状、扁平状、岩状、金平糖状、不定形状などの形状が挙げられる。また、粒子内部は、中空状、多孔状であってもよい。薄膜形状のものへの塗工性の観点から好ましくは、球状、楕円状であり、最も好ましくは、球状である。
【0021】
本発明の金属含有炭素微粒子の数平均粒子径は、その上限として100μm以下であり、好ましくは、50μm以下であり、より好ましくは、30μm以下である。また、下限としては、0.1μm以上であり、より好ましくは0.5μm以上であり、さらに好ましくは、0.7μm以上であり、特に好ましくは1μm以上である。数平均粒子径が小さすぎると、取り扱い性が悪化し、大きすぎると、フィルム等の薄膜状のものに塗布する場合に異物となるため好ましくない。
【0022】
尚、金属含有炭素微粒子の数平均粒子径は、走査型電子顕微鏡写真にて、任意粒子100個を観測、直径を測定し、以下の式(1)より算出される算術平均値のことを指す。尚、写真上で観察される微粒子の形状が真円でない場合は、その長径を測定するものとする。
【0023】
本発明の金属含有炭素微粒子の粒子径分布は、粒子径分布指数で表すことができ、この粒子径分布指数は、1.0〜2.0の範囲であり、好ましくは、1.0〜1.8であり、より好ましくは、1.0〜1.5であり、特に好ましくは1.0〜1.3である。粒子径分布指数がこの範囲を超えると、樹脂等への流動性、充填性が低下し、好ましくない、尚粒子径分布指数は、以下の式(3)に従い、数平均粒子径に対する体積平均粒子径の比により算出する。体積平均粒子径は、走査型電子顕微鏡写真にて、任意粒子100個を観測し、直径を測定し、以下の式(2)により算出する。尚、粒子が真円でない場合は、直径を測定するものとする。
【0024】
【数1】

【0025】
尚、Di:粒子個々の粒子径、n:測定数100、Dn:数平均粒子径、Dv:体積平均粒子径、PDI:粒子径分布を表す。
【0026】
この際、球状とは、真球度であらわすことができ、その真球度が80以上のものが好ましく、さらに好ましくは85以上であり、より好ましくは90以上、中でも好ましくは92以上、より好ましくは95以上、特に好ましくは99以上である。真球度の上限は、100である。真球度がこの範囲であるとフィルムへ等の薄膜状のものへの塗布性が特に良好であり、また樹脂への充填性も良好であり、有用な材料になる。
【0027】
ここでいう真球度とは、走査型電子顕微鏡にて、粒子を観察し、短径と長径を測長し、任意粒子30個の平均より数式(4)に従い、算出する。
【0028】
【数2】

【0029】
尚、n:測定数30とする。
【0030】
本発明の金属含有炭素微粒子の炭素とは、アモルファス状炭素、グラファイト状炭素、グラファイト層が積層構造をとる結晶化黒鉛、sp3結合で構成されるダイヤモンド状炭素のいずれでもよく、これらは単一のものであっても、混合物でもよい。好ましくは、グラファイト状炭素、グラファイト層が積層構造を有する結晶化黒鉛またはこれらの混合物であり、より好ましくは、グラファイト状炭素とグラファイト層が積層構造を有する結晶化状態の黒鉛の混合物である。
【0031】
この際、グラファイト状炭素とグラファイト層が積層構造を有する結晶化状態の黒鉛の混合物の状態は、ラマン分光分析法のG/D比を以て、グラファイト化度として規定することができ、このグラファイト化度が、0.5以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは、1.0以上、特に好ましくは、1.2以上である。グラファイト化度が0.5未満であると炭素微粒子の純度が低下し、例えば電気伝導性、熱伝導性などが低下する傾向にある。上限については特に制限はないが、通常3.0程度である。尚、グラファイト化度は、ラマン分光分析法により、波長532nmでのレーザー光にて測定したラマンスペクトル1350±100cm―1付近に見られるラマンシフト(A)(アモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来のDバンド)、1590±100cm―1付近に見られるラマンシフト(B)(グラファイト由来のGバンド)の高さ比(B)/(A)より算出される。
【0032】
本発明の金属含有炭素微粒子における金属は、機能を付与するために含有させるものであり、周期律表に存在する金属であればいずれでもよい。目的の機能を付与しうる金属を選択すればよい。金属としてはアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、軽金属、ランタノイド、アクチノイドなどが挙げられ、特に遷移金属が好ましい。
【0033】
具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムなどのアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムなどのアルカリ土類金属、スカンジウム、イットリウム、ランタニウム、アクチニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、テケネチウム、レニウム、鉄、ルテニウム、オスニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、カドミウム、水銀などの遷移金属、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、珪素、ゲルマニウム、錫、鉛、アンチモン、ビスマス、ポロニウムなどの軽金属、ランタノイド、アクチノイドなどが挙げられる。
【0034】
これら金属は、金属単体であっても良いし、その塩であっても良いし、その酸化物であっても良い。また、これらの中から複数含有していてもよい。
【0035】
好ましくは、マグネシウム、カルシウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、オスニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、インジウム、珪素の金属、その塩または酸化物であり、より好ましくは、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛の金属、その塩、酸化物または有機金属錯体である。
【0036】
金属塩を構成する塩としては、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、スルホン酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、過塩素酸塩、炭酸塩、四級アンモニウム塩、アルコキシ塩、カルボキシル塩、四フッ化ホウ素塩、アセチルアセトナート塩などが挙げられる。なかでも 塩化物塩、炭酸塩、アルコキシ塩、カルボキシル塩、アセチルアセトナート塩が好ましい。
【0037】
有機金属錯体を構成する例としては、フタロシアニン類との錯体、シッフベース錯体、ビピリジンとの錯体などが挙げられる。
【0038】
本発明における金属含有炭素微粒子には、その目的とする機能に応じて含有させる金属量は、任意の量でよいが、機能を発現させるためには、金属含有炭素微粒子100質量部中の金属原子量は、0.05質量部から50質量部、好ましくは、0.05質量部から40質量部、より好ましくは、0.05質量部から25質量部、特に好ましくは、0.05質量部から15質量部の範囲である。
【0039】
本発明における金属含有炭素微粒子は、金属を含有させた合成樹脂微粒子を焼成することにより得ることができる。
【0040】
ここでいう、合成樹脂微粒子を構成する合成樹脂としては、ポリオレフィン系共重合体、アクリロニトリル系単量体と親水性ビニル単量体との共重合体からなるポリアクリロニトリル共重合体、ポリアクリルアミド系重合体、ポリ酢酸ビニル系重合体、ポリ塩化ビニル系重合体、ポリ塩化ビニリデン系重合体、ポリアミド、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリイミドなどが挙げられる。
【0041】
上記ポリオレフィン系共重合体としては、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリエチレン/プロピレン系等ポリオレフィン系の共重合体などが挙げられる。これらの共重合体のその他の共重合成分としては、シクロペンテン、ジシクロペンタジエンおよびその誘導体、シクロヘキセン、ジシクロヘキサジエンおよびその誘導体が挙げられる。
【0042】
ポリアクリロニトリル系共重合体としては、アクリロニトリル系単量体と親水性ビニル単量体との共重合体からなるポリアクリロニトリル系共重合体が挙げられる。アクリロニトリル系単量体の重合体単位は、下記一般式(1)で表される。
【0043】
【化1】

【0044】
この際、上記式中、R、Rは、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、エステル基、カルボキシル基、スルホン酸基等の置換基から選ばれるいずれかを示す。また、これらは同一または相異なるものであってもよい。
【0045】
このうち、好ましいものとしては、水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基であり、より好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基であり、特に好ましいものは、水素原子、メチル基である。このようなアクリロニトリル系単量体の具体例としては、(メタ)アクリロニトリル(アクリロニトリルもしくは「メタ」アクリロニトリルを総称して「(メタ)」アクリロニトリルと称する。以下同じ。)、クロトノニトリル、クロロアクリロニトリルが挙げられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。最も好ましいのは、アクリロニトリルである。
【0046】
親水性ビニル単量体としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、スルホン酸基およびリン酸基を1種以上置換した不飽和単量体が好ましく挙げられる。具体的には、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基で置換した不飽和単量体、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、メタコン酸、グルタル酸、テトラヒドロフタル酸、イソクロトン酸、ナジック酸、ブテントリカルボン酸、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、p−ビニル安息香酸などのカルボン酸基で置換した不飽和単量体およびこれらの塩、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、N−メチルビニルピリジウムクロライド、(メタ)アリルトリエチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等の第3級アミノ基、または第4級アンモニウム塩で置換した不飽和単量体、(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ビニルラクタム類などのアミド基で置換した不飽和単量体、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などのスルホン酸基で置換した不飽和単量体、(メタ)アクリル酸−3−クロロ−2−リン酸プロピル、(メタ)アクリル酸−2−リン酸エチル、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンリン酸などのリン酸基で置換した不飽和単量体が挙げられる。焼成時の微粒子間の融着を抑制できる効果が高いことから、好ましくは、カルボキシル基またはアミド基で1種以上置換した不飽和単量体、特に好ましくは、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、アクリルアミドが挙げられ、これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0047】
親水性ビニル単量体の共重合量としては、アクリロニトリル系単量体100質量部に対して、0超〜25質量部であることが好ましい。より好ましい上限としては、20質量部であり、さらに好ましい上限としては、15質量部であり、特に好ましくは、10質量部であり、著しく好ましくは、5質量部である。また、好ましい下限としては、0.1質量部であり、より好ましい下限としては、0.5質量部であり、さらに好ましい下限としては、1質量部であり、特に好ましい下限としては、2質量部である。親水性ビニル単量体単位がこの範囲よりも越える場合、炭素微粒子のグラファイト化度が低下するため好ましくなく、親水性ビニル単位を含まない場合は、球状粒子が得られない場合がある。
【0048】
本発明における、アクリロニトリル系単量体と親水性ビニル単量体との共重合体からなるポリアクリロニトリル共重合体は、上記範囲内であれば、共重合可能な他の不飽和単量体を共重合しても良い。これらは、多官能性単量体であっても良い。
【0049】
上記、共重合可能な他の不飽和単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−へキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族ビニル系単量体、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、2−メチル−3−エチルブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2−メチル−1,3−ヘキサジエン、3,4−ジメチル−1,3−ヘキサジエン、1,3−ヘプタジエン、3−メチル−1,3−ヘプタジエン、1,3−オクタジエン、シクロペンタジエン、クロロプレン、ミルセン等の共役ジエン系単量体が挙げられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0050】
共重合可能な他の多官能性単量体としては、分子内に炭素−炭素二重結合を2個以上有する単量体であり、例えば、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸メタリル、桂皮酸アリル、桂皮酸メタリル、マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、ジビニルベンゼン、エチレンジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0051】
中でも(メタ)アクリル酸アリル、マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、ジビニルベンゼン、エチレンジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましく、特に(メタ)アクリル酸アリル、マレイン酸ジアリル、ジビニルベンゼン、エチレンジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0052】
共重合可能な他の不飽和単量体の共重合量としては、アクリロニトリル系単量体100質量部に対して、0〜25質量部であり、好ましくは0〜15質量部、より好ましくは0〜5質量部である。共重合可能な他の単量体の共重合量が25質量部を越える場合、炭素微粒子のグラファイト化度が低下する傾向にあるため注意する。
【0053】
アクリロニトリルと共重合する共単量体として、親水性ビニル単量体および任意の成分としての共重合可能な他の単量体を2種以上用いる場合の組み合わせとしては、(メタ)アクリル酸メチルと(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸メチルとイタコン酸、(メタ)アクリル酸メチルと(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミドとイタコン酸、イタコン酸と(メタ)アクリル酸が好ましく挙げられる。
【0054】
ポリアミドとしては、3員環以上のラクタム、重合可能なアミノカルボン酸、二塩基酸とジアミンまたはそれらの塩、あるいはこれらの混合物の重宿合によって得られるポリアミドが挙げられる。
【0055】
具体的には、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリウンデカアミド(ナイロン11)、ポリドデカアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、非晶性ポリアミドとしては、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンとイソフタル酸と12−アミノドデカン酸の共重合体(例示するならば、‘グリルアミド(登録商標)’TR55、エムザベルケ社製)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンとドデカ二酸の共重合体(例示するならば、‘グリルアミド(登録商標)’TR90、エムザベルケ社製)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンとイソフタル酸と12−アミノドデカン酸の共重合体と3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンとドデカ二酸の共重合体との混合物(例示するならば、‘グリルアミド(登録商標)’TR70LX、エムザベルケ社製)、 4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンとドデカ二酸の共重合体(例示するならば、‘TROGAMID(登録商標)’CX7323 、デグサ社製)などが挙げられる。
【0056】
ポリアリーレンエーテルとは、アリール基がエーテル結合でつながったポリマーであり、一般式(2)で代表される構造を有するものが挙げられる。
【0057】
【化2】

【0058】
この際、芳香環上には、置換基Rを有していてもいなくても良く、置換基を有する場合その置換基数mは1以上4以下である。置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6の飽和炭化水素基、ビニル基、アリル基等の不飽和炭化水素基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン基、アミノ基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、カルボキシ脂肪族炭化水素エステル基などが好ましく挙げられる。
【0059】
ポリアリーレンエーテルの具体的な例としては、ポリ(2,6−ジメチルフェニレンエーテル)が挙げられる。
【0060】
ポリアリーレンスルフィドとは、アリール基がスルフィド結合でつながったポリマーであり、一般式(3)で代表される構造を有するものが挙げられる。
【0061】
【化3】

【0062】
この際、芳香環上には、置換基Rを有していてもなくても良く、その置換基数であるmは、1以上4以下である。置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の飽和炭化水素基、ビニル基、アリル基等の不飽和炭化水素基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン基、アミノ基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、カルボキシ脂肪族炭化水素エステル基などが挙げられる。また、上記一般式(3)のパラフェニレンスルフィド単位の代わりにメタフェニレン単位、オルソフェニレン単位とすることや、これらの共重合体とすることも可能である。
【0063】
ポリアリーレンスルフィドの具体的な例としては、ポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
【0064】
ポリスルホンとしては、一般式(4)で代表される構造を有するものが好ましく挙げられる。
【0065】
【化4】

【0066】
(式中のRは、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表すものである。)
【0067】
ポリエーテルケトンとは、エーテル結合とカルボニル基を有するポリマーである。具体的には、一般式(5)で代表される構造を有するものが好ましく挙げられる。
【0068】
【化5】

【0069】
(式中のRは、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表すものである。)
【0070】
ポリエーテルケトンの中でも、一般式(6)で表わされる構造を有するものは、特にポリエーテルエーテルケトンと称する。
【0071】
【化6】

【0072】
(式中のRは、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表すものである。)
【0073】
ポリアリレートとは、ポリエステルのうち、芳香族多価アルコールと芳香族カルボン酸からなるポリエステルのことであり、具体的には、ビスフェノールAまたはビスフェノールFと芳香族ジカルボン酸との共重合物であり、ビスフェノールA/テレフタル酸、ビスフェノールA/イソフタル酸、ビスフェノールA/テレフタル酸/イソフタル酸、ビスフェノールF/テレフタル酸、ビスフェノールF/イソフタル酸、ビスフェノールF/テレフタル酸/イソフタル酸などが挙げられ、例えばユニチカ社製 “Uポリマー”などを使用することが出来る。
【0074】
ポリアミドイミドとは、高分子主鎖骨格中にイミド結合と、アミド結合を有したポリマーであり、一般式(7)で代表される構造を有するものが挙げられる。
【0075】
【化7】

【0076】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立に芳香族、脂肪族の炭化水素基を表わし、内部にエーテル結合、チオエーテル結合、カルボキニル基、ハロゲン結合、アミド結合を有する構造団を有していてもよい。)
【0077】
ポリアミドイミドは、その主鎖に芳香族の炭化水素基を含むことが好ましく、上記RおよびR2としては、芳香族の炭化水素基であることが、より高い品質の炭素微粒子が得られる点で好ましい。
【0078】
具体的には、無水トリメリット酸とフェニレンジアミンまたはその誘導体との共重合体、無水トリメリット酸と4,4’−ジアミノビフェニルまたはその誘導体との共重合体、無水トリメリット酸とまたはその誘導体o−トリジンとの共重合体、無水トリメリット酸と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルまたはその誘導体との共重合体、無水トリメリット酸と4,4’−メチレンジアニリンまたはその誘導体との共重合体、無水トリメリット酸と4,4’−イソプロピリデンジアニリンまたはその誘導体との共重合体、無水トリメリット酸とヘキサメチレンジアミンまたはその誘導体との共重合体、無水トリメリット酸とペンタメチレンジアミンまたはその誘導体との共重合体、無水トリメリット酸と4,4’−ジアミノジシクロへキシメチレンまたはその誘導体との共重合体などがあげられる。
【0079】
ここでいう共重合体として、その構造中に置換基として、ハロゲン基、炭素数1〜4までの炭化水素基などが含まれていても良い。
【0080】
ポリイミドとは、イミド結合を有したポリマーであり、代表的には一般式(8)で表わされる構造を有するものが挙げられる。
【0081】
【化8】

【0082】
(式中、RおよびRは、芳香族、脂肪族の炭化水素基を表わし、内部にエーテル結合、チオエーテル結合、カルボキニル基、ハロゲン結合、アミド結合を有する構造団を有していてもよい。)
【0083】
特に本系においては、熱可塑性ポリイミドが好ましく、具体的には1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸無水物と4,4’−ビス(3−アミノフェニルオキシ)ビフェニル の重縮合物や3,3’,4,4’− ビフェニルテトラカルボン酸無水物と1,3−ビス(4−アミノフェニルオキシ)ベンゼンの重縮合物が挙げられる。
【0084】
本発明における上記合成樹脂の重量平均分子量は、1,000〜100,000,000、好ましくは、1,000〜10,000,000、より好ましくは、5,000〜1,000,000、特に好ましくは、10,000〜500,000の範囲である。
【0085】
ここでいう重量平均分子量とは、溶媒としてジメチルホルムアミドを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレンで換算した重量平均分子量をさす。
【0086】
ジメチルホルムアミドで測定できない場合については、テトラヒドロフランを用い、さらに測定できない場合は、ヘキサフルオロイソプロパノールを用い、ヘキサフルオロイソプロパノールでも測定できない場合は、2−クロロナフタレンを用いて測定を行う。
【0087】
金属を含有する合成樹脂微粒子(以下、金属含有合成樹脂微粒子と称す。)は、次の方法で作ることが出来る。
【0088】
このような金属含有合成樹脂微粒子は、微粒子化をしようとするポリマー(以下ポリマーA)とポリマーAの貧溶媒に溶解し、異種のポリマーBと金属成分と有機溶媒を混合し、ポリマーAを主成分とする溶液相(以下、ポリマーA溶液相と称することもある)と、ポリマーBを主成分とする溶液相(以下、ポリマーB溶液相と称することもある)の2相に相分離する系において、エマルションを形成させた後、ポリマーAの貧溶媒を接触させることにより、ポリマーAを析出させるような方法で得ることができる。
【0089】
本方法において、ポリマーAは、前記合成樹脂微粒子を構成するポリマー(合成樹脂)である高分子重合体のことを指し、本発明の粒子径分布の狭く品質のよい金属含有炭素微粒子は、粒子径分布の狭いポリオレフィン系共重合体、アクリロニトリル系単量体と親水性ビニル単量体との共重合体からなるポリアクリロニトリル系共重合体、ポリアクリルアミド系重合体、ポリ酢酸ビニル系重合体、ポリ塩化ビニル系重合体、ポリ塩化ビニリデン系重合体、ポリアミド、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリイミドからなる群から少なくとも1つ選択される金属含有合成樹脂微粒子を焼成することにより製造できる。
【0090】
グラファイト化度が高く、品質のよい金属含有炭素微粒子が製造可能であることから、アクリロニトリル系単量体と親水性ビニル単量体との共重合体からなるポリアクリロニトリル系共重合体、ポリアミド、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリイミドなどに金属成分を含有させた金属含有合成樹脂微粒子が好ましく、炭化時の粒子同士の融着が起こりにくいことから、アクリロニトリル系単量体と親水性ビニル単量体との共重合体からなるポリアクリロニトリル系共重合体、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドに金属成分を含有させた金属含有合成樹脂微粒子が特に好ましく、アクリロニトリル系単量体と親水性ビニル単量体との共重合体からなるポリアクリロニトリル系共重合体、ポリアミドイミドが最も好ましい。
【0091】
ポリアミドイミドの場合、詳細は十分に解明できていないが、高分子鎖中に環状のイミド構造とアミド構造を有することが、炭化焼成時に炭化環化しやすい構造であることから、品質のよい金属含有炭素微粒子が得られると推定され、上記の方法に限定されることなくいずれの微粒子化法により微粒子を形成してもよい。
【0092】
ここでいう、金属成分とは、上述した金属の範疇に入るものであり、その塩、酸化物、有機化合物との配位化合物などの化学的性状を持つものを含み、その形状は、粒子状、粉体状、液体状、気体状、クラスター状のものを含む。
【0093】
上記手法について、より詳しく下記に示す。
【0094】
上記において、「ポリマーAとポリマーBと金属成分と有機溶媒を混合し、ポリマーAを主成分とする溶液相と、ポリマーBを主成分とする溶液相の2相に相分離する系」とは、ポリマーAとポリマーBと金属成分と有機溶媒を混合したときに、ポリマーAを主として含む溶液相と、ポリマーBを主として含む溶液相の2相に分かれる系をいう。ここでは、ポリマーA、Bはそれぞれ有機溶媒に溶解して、上記ポリマーA溶液相とポリマーB溶液相を形成するものであるが、金属が溶解しているか否かの状態は問わない(以下、特に言及がない限り、同じ。)。
【0095】
このような相分離をする系を用いることにより、相分離する条件下で混合して、乳化させ、エマルションを形成させることができる。
【0096】
なお、上記において、ポリマーが溶解するかどうかについては、本方法を実施する温度、即ちポリマーAとポリマーBを溶解混合して、2相分離させる際の温度において、有機溶媒に対し1質量%超溶解するかどうかで判別する。
【0097】
このエマルションは、ポリマーA溶液相が分散相に、ポリマーB溶液相が連続相になり、金属成分がポリマーA溶液中に存在していることが必要であり、この際、金属成分が、ポリマーA、溶液両相に分配していてもよい。
【0098】
そしてこのエマルションに対し、ポリマーAの貧溶媒を接触させることにより、エマルション中のポリマーA溶液相から、ポリマーAが析出し、金属成分とポリマーAで構成される金属含有合成樹脂粒子を得ることが出来る。
【0099】
本方法においては、ポリマーA、ポリマーB、これらを溶解する有機溶媒、金属成分およびポリマーAの貧溶媒を用い、本方法の金属含有合成樹脂微粒子が得られる限り、その組合せに特に制限はない。
【0100】
本方法において、ポリマーAとしては、本方法が、貧溶媒と接触する際に微粒子を析出させることを要点とすることから、貧溶媒に溶けないものが好ましく、後述する貧溶媒に溶解しないポリマーが好ましく、特に非水溶性ポリマーが好ましい。
【0101】
ここで、非水溶性ポリマーとしては、水に対する溶解度が1質量%以下、好ましくは、0.5質量%以下、さらに好ましくは、0.1質量%以下のポリマーを示す。
【0102】
ポリマーBとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が挙げられるが、本方法で用いるポリマーAを溶解する有機溶媒およびポリマーAの貧溶媒に溶解するものが好ましく、なかでも、上記有機溶媒に溶解し、アルコール系溶媒または水に溶解するものが工業上取り扱い性に優れる点でより好ましく、さらに有機溶媒に溶解し、メタノール、エタノールまたは水に溶解するものが特に好ましい。
【0103】
ポリマーBを具体的に例示するならば、ポリ(ビニルアルコール)(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコール)であってもよい)、ポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体であってもよい)、ポリビニルピロリドン、ポリ(エチレングリコール)、ショ糖脂肪酸エステル、ポリ(オキシエチレン脂肪酸エステル)、ポリ(オキシエチレンラウリン脂肪酸エステル)、ポリ(オキシエチレングリコールモノ脂肪酸エステル)、ポリ(オキシエチレンアルキルフェニルエーテル)、ポリ(オキシアルキルエーテル)、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルピロリジニウムクロライド、ポリ(スチレン−マレイン酸)共重合体、アミノポリ(アクリルアミド)、ポリ(パラビニルフェノール)、ポリアリルアミン、ポリビニルエーテル、ポリビニルホルマール、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(オキシエチレンアミン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリアミノスルホン、ポリエチレンイミン等の合成樹脂、マルトース、セルビオース、ラクトース、スクロースなどの二糖類、セルロース、キトサン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セルロースエステル等のセルロース誘導体、アミロースおよびその誘導体、デンプンおよびその誘導体、デキストリン、シクロデキストリン、アルギン酸ナトリウムおよびその誘導体等の多糖類またはその誘導体、ゼラチン、カゼイン、コラーゲン、アルブミン、フィブロイン、ケラチン、フィブリン、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、アラビアゴム、寒天、たんぱく質等が挙げられ、好ましくは、ポリ(ビニルアルコール)(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコール)であってもよい)、ポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体であってよい)、ポリエチレングリコール、ショ糖脂肪酸エステル、ポリ(オキシエチレンアルキルフェニルエーテル)、ポリ(オキシアルキルエーテル)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セルロースエステル等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドンであり、より好ましくは、ポリ(ビニルアルコール)(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコール)であってよい)、ポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコールーエチレン)共重合体)、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セルロースエステル等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドンであり、特に好ましくは、ポリ(ビニルアルコール)(完全ケン化型や部分ケン化型のポリ(ビニルアルコール)であってよい)、ポリ(エチレングリコール)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルピロリドンである。
【0104】
ポリマーBの分子量は、好ましくは、重量平均分子量で、1,000〜100,000,000、より好ましくは、1,000〜10,000,000、さらに好ましくは、5,000〜1,000,000であり、特に好ましくは、10,000〜500,000の範囲であり、最も好ましい範囲は、10,000〜100,000の範囲である。
【0105】
ここでいう重量平均分子量とは、溶媒として水を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリエチレングリコールで換算した重量平均分子量を指す。
【0106】
水で測定できない場合においては、ジメチルホルムアミドを用い、それでも測定できない場合においては、テトラヒドロフランを用い、さらに測定できない場合においては、ヘキサフルオロイソプロパノールを用いる。
【0107】
ポリマーAとポリマーBを溶解させる有機溶媒としては、用いるポリマーA、ポリマーBを溶解し得る有機溶媒であり、各ポリマーの種類に応じて選択される。
【0108】
具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−トリデカン、テトラデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、2−メチルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、酪酸ブチル等のエステル系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、ヘキサフルオロイソプロパノール等のハロゲン化炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、プロピレンカーボネート、トリメチルリン酸、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸等のカルボン酸溶媒、アニソール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジグライム、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム アセテート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ハイドロゲンスルフェート、1−エチル−3−イミダゾリウム アセテート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム チオシアネートなどのイオン性液体あるいはこれらの混合物が挙げられる。好ましくは、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、非プロトン性極性溶媒、カルボン酸溶媒であり、さらに好ましいものとしては、水溶性溶媒であるアルコール系溶媒、非プロトン性極性溶媒、カルボン酸溶媒であり、著しく好ましいのは、非プロトン性極性溶媒、カルボン酸溶媒であり、入手が容易で、かつ広範な範囲のポリマーを溶解し得る点でポリマーAへの適用範囲が広く、かつ水やアルコール系溶媒等など後述する貧溶媒として好ましく用い得る溶媒と均一に混合し得る点から、最も好ましくは、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、プロピレンカーボネート、ギ酸、酢酸である。
【0109】
これらの有機溶媒は、複数種用いてもよいし、混合して用いても良いが、粒子径が比較的小さく、かつ、粒子径分布の小さい粒子が得られる点、使用済みの溶媒のリサイクル時の分離の工程のわずらわしさを避け、製造上のプロセス負荷低減という観点で、単一の有機溶媒であるほうが好ましく、さらにポリマーA、およびポリマーBの両方を溶解する単一の有機溶媒であることが好ましい。
【0110】
本方法におけるポリマーAの貧溶媒とは、ポリマーAを溶解させない溶媒のことをいう。溶媒を溶解させないとは、ポリマーAの貧溶媒に対する溶解度が1質量%以下のものであり、より好ましくは、0.5質量%以下であり、さらに好ましくは、0.1質量%以下である。
【0111】
本方法において、ポリマーAの貧溶媒を用いるが、かかる貧溶媒としてはポリマーAの貧溶媒でありかつ、ポリマーBを溶解する溶媒であることが好ましい。これにより、ポリマーAで構成されるポリマー微粒子を効率よく析出させることができる。また、ポリマーAおよびポリマーBを溶解させる溶媒とポリマーAの貧溶媒とは均一に混合する溶媒であることが好ましい。
【0112】
本方法における貧溶媒としては、用いるポリマーAの種類、望ましくは用いるポリマーA、B両方の種類によって、様々に変わるが、具体的に例示するならば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−トリデカン、テトラデカン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、2−メチルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、酪酸ブチル等のエステル系溶媒、クロロホルム、ブロモホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、クロロベンゼン、2,6−ジクロロトルエン、ヘキサフルオロイソプロパノール等のハロゲン化炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、トリメチルリン酸、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸等のカルボン酸溶媒、アニソール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、ジグライム、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、水の中から少なくとも1種類から選ばれる溶媒などが挙げられる。
【0113】
ポリマーAを効率的に粒子化させる観点から好ましくは、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、水であり、最も好ましいのは、アルコール系溶媒、水であり、特に好ましくは、水である。
【0114】
本方法において、ポリマーA、ポリマーB、これらを溶解する有機溶媒およびポリマーAの貧溶媒を適切に選択して組み合わせることにより、効率的にポリマーAを析出させて金属含有合成樹脂微粒子を得ることが出来る。
【0115】
この際、ポリマーA、B、金属成分、これらを溶解する有機溶媒を混合溶解させた液は、ポリマーAを主成分とする溶液相と、ポリマーBを主成分とする溶液相の2相に相分離することが必要である。ここでは、金属が溶解しておらず、一つの固相である場合もあるが、その相については、上記の議論における相としては参入しない。
【0116】
この際、ポリマーAを主成分とする溶液相の有機溶媒と、ポリマーBを主成分とする有機溶媒とは、同一でも異なっていても良いが、実質的に同じ溶媒であることが好ましい。
【0117】
2相分離の状態を生成する条件は、ポリマーA、Bの種類、ポリマーA、Bの分子量、有機溶媒の種類、ポリマーA、Bの濃度、本方法を実施しようとする温度、圧力によって異なってくる。
【0118】
相分離状態になりやすい条件を得るためには、ポリマーAとポリマーBの溶解度パラメーター(以下、SP値と称することもある)の差が離れていた方が好ましい。
【0119】
この際、SP値の差としては1(J/cm1/2以上、より好ましくは2(J/cm1/2以上、さらに好ましくは3(J/cm1/2以上、特に好ましくは5(J/cm1/2以上、極めて好ましくは8(J/cm1/2以上である。SP値がこの範囲であれば、容易に相分離しやすくなる。
【0120】
ポリマーAとポリマーBの両者が有機溶媒にとけるのであれば、特に制限はないが、SP値の差の上限として好ましくは20(J/cm1/2以下、より好ましくは、15(J/cm1/2以下であり、さらに好ましくは10(J/cm1/2以下である。
【0121】
ここでいう、SP値とは、Fedorの推算法に基づき計算されるものであり、凝集エネルギー密度とモル分子容を基に計算されるもの(以下、計算法と称することもある。)である(「SP値 基礎・応用と計算方法」山本秀樹著、株式会社情報機構、平成17年3月 31日発行)。
【0122】
本推算法により、計算できない場合においては、溶解度パラメーターが既知の溶媒に対し溶解するか否かの判定による、実験法によりSP値を算出(以下、実験法と称することもある。)し、それを代用する(「ポリマーハンドブック 第4版(Polymer Handbook Fourth Edition)」ジェー・ブランド(J.Brand)著、ワイリー(Wiley)社1998年発行)。
【0123】
相分離状態になる条件を選択するためには、ポリマーA、ポリマーBおよびこれらを溶解する有機溶媒の3成分の比率を変化させた状態の観察による簡単な予備実験で作成できる、3成分相図で判別が出来る。
【0124】
相図の作成は、ポリマーA、ポリマーBおよび有機溶媒を任意の割合で混合溶解させ、静置を行った際に、界面が生じるか否かの判定を少なくとも3点以上、好ましくは5点以上、より好ましくは10点以上の点で実施し、2相に分離する領域および1相になる領域を峻別することで、相分離状態になる条件を見極めることが出来るようになる。
【0125】
この際、相分離状態であるかどうかを判定するためには、ポリマーA、Bを、本発明を実施しようとする温度、圧力にて、任意のポリマーA、Bおよび溶媒の比に調整した後に、ポリマーA、Bを、完全に溶解させ、溶解させた後に、十分な攪拌を行い、3日放置し、巨視的に相分離をするかどうかを確認する。
【0126】
しかし、十分に安定なエマルションになる場合においては、3日放置しても巨視的な相分離をしない場合がある。その場合は、光学顕微鏡・位相差顕微鏡などを用い、微視的に相分離しているかどうかで、相分離を判別する。
【0127】
相分離は、有機溶媒中でポリマーAを主とするポリマーA溶液相と、ポリマーBを主とするポリマーB溶液相に分離することによって形成される。この際、ポリマーA溶液相は、ポリマーAが主として分配された相であり、ポリマーB溶液相はポリマーBが主として分配された相である。この際、ポリマーA溶液相とポリマーB溶液相は、ポリマーA、Bの種類と使用量に応じた体積比を有するようである。
【0128】
相分離の状態が得られ、且つ工業的に実施可能な濃度として、有機溶媒に対するポリマーA、Bの濃度は、有機溶媒に溶解する可能な限りの範囲内であることが前提であるが、好ましくは、1質量%超〜50質量%、より好ましくは、1質量%超〜30質量%、さらに好ましくは、2質量%〜20質量%である。
【0129】
金属成分の使用量については、相分離状態におけるポリマーA溶液相への分配量と焼成後の金属含有量を勘案し、所望の量が微粒子中に導入されるよう金属成分量を決定するが、通常、ポリマーA成分100質量部に対して、金属の原子成分量として0.1質量部から100質量部、好ましくは、0.1質量部から80質量部、より好ましくは0.1質量部から50質量部、特に好ましくは1質量部から30質量部の範囲で選択することが好ましい。
【0130】
本方法における、ポリマーA溶液相とポリマーB溶液相の2相間の界面張力は、両相とも有機溶媒であることから、その界面張力が小さく、その性質により、生成するエマルションが安定に維持できることから、粒子径分布が小さくなるようである。特に、ポリマーA相とポリマーB相の有機溶媒が同一である時は、その効果が顕著である。
【0131】
本方法における2相間の界面張力は、界面張力が小さすぎることから、通常用いられる溶液に異種の溶液を加えて測定する懸滴法などでは直接測定することは出来ないが、各相の空気との表面張力から推算することにより、界面張力を見積もることが出来る。各相の空気との表面張力をr、rとした際、その界面張力r12は、r12=r−rの絶対値で推算することができる。この際、このr12の好ましい範囲は、0超〜10mN/mであり、より好ましくは0超〜5mN/mであり、さらに好ましくは、0超〜3mN/mであり、特に好ましくは、0超〜2mN/mである。
【0132】
本方法における2相間の粘度は、数平均粒子径および粒子径分布に影響を与え、粘度比が小さい方が、粒子径分布が小さくなる傾向にある。粘度比を、本発明を実施しようとする温度条件下でのポリマーA溶液相/ポリマー溶液相Bと定義した場合において、好ましい範囲としては、0.1以上10以下、より好ましい範囲としては、0.2以上5以下、さらに好ましい範囲としては、0.3以上3以下、特に好ましい範囲としては、0.5以上1.5以下であり、著しく好ましい範囲としては、0.8以上1.2以下である。
【0133】
このようにして得られた相分離する系を用い、金属含有合成樹脂微粒子を製造する。微粒子化を行うには、通常の反応槽で実施される。本発明を実施するにふさわしい温度は、工業的な実現性の観点から −50℃〜200℃の範囲であり、好ましくは、−20℃〜150℃であり、より好ましくは、0℃〜120℃であり、さらに好ましくは、10℃〜100℃であり、特に好ましくは、20℃〜80℃であり、最も好ましくは、20℃〜50℃の範囲である。本発明を実施するにふさわしい圧力は、工業的な実現性の観点から、減圧状態から100気圧の範囲であり、好ましくは、1気圧〜5気圧の範囲であり、さらに好ましくは、1気圧〜2気圧であり、特に好ましくは、大気圧である。
【0134】
このような条件下にて、相分離系状態を混合することにより、エマルションを形成させる。
【0135】
すなわち上記で得られた相分離溶液に、剪断力を加えることにより、エマルションを生成させる。
【0136】
エマルションの形成に際しては、ポリマーA溶液相が粒子状の液滴になるようにエマルションを形成させるが、一般に相分離させた際、ポリマーB溶液相の体積がポリマーA溶液相の体積より大きい場合に、このような形態のエマルションを形成させやすい傾向にあり、特にポリマーA溶液相の体積比が両相の合計体積1に対して0.4以下であることが好ましく、0.4〜0.1の間にあることが好ましい。上記相図を作成する際に、各成分の濃度における体積比を同時に測定しておくことにより、適切な範囲を設定することが可能である。
【0137】
本製造法の目的は、炭素微粒子内に金属を含ませることにあるが、種々検討を行った結果、金属分を金属含有炭素微粒子内に効率的かつ均質に含ませるためには、金属含有合成樹脂微粒子を作るために行われる工程のうち、このエマルション形成をさせる段階で金属成分を含ませることが好ましい。
【0138】
エマルションを形成させる工程の中でも、エマルションを形成させる前段階、エマルションを形成した後の段階のいずれでも良いが、エマルションを形成させる前段階で金属成分を入れておくことが好ましい。エマルション形成の前段階で金属成分を投入したほうが、得られる金属含有炭素微粒子中の金属分散性が向上するので好ましい。
【0139】
本製造法で得られる金属含有合成樹脂微粒子は、粒子径分布の小さい微粒子になるが、これは、エマルション形成の段階において、非常に均一なエマルションが得られるからである。この傾向はポリマーA、Bの両方を溶解する単一溶媒を用いる際に顕著である。このため、エマルションを形成させるに十分な剪断力を得るためには、従前公知の方法による攪拌を用いれば十分であり、攪拌羽による液相攪拌法、連続2軸混合機による攪拌法、ホモジナイザーによる混合法、超音波照射等通常公知の方法で混合することが出来る。
【0140】
特に、攪拌羽による攪拌の場合、攪拌羽の形状にもよるが、攪拌速度は、好ましくは50rpm〜1200rpm、より好ましくは、100rpm〜1000rpm、さらに好ましくは、200rpm〜800rpm、特に好ましくは、300rpm〜600rpmである。
【0141】
また、攪拌羽としては、具体的には、プロペラ型、パドル型、フラットパドル型、タービン型、ダブルコーン型、シングルコーン型、シングルリボン型、ダブルリボン型、スクリュー型、ヘリカルリボン型などが挙げられるが、系に対して十分に剪断力をかけられるものであれば、これらに特に限定されるものではない。また、効率的な攪拌を行うために、槽内に邪魔板等を設置してもよい。
【0142】
また、エマルションを発生させるためには、必ずしも、攪拌機だけでなく、乳化機、分散機など広く一般に知られている装置を用いてもよい。具体的に例示するならば、ホモジナイザー(IKA社製)、ポリトロン(キネマティカ社製)、TKオートホモミキサー(特殊機化工業社製)等のバッチ式乳化機、エバラマイルダー(荏原製作所社製)、TKフィルミックス、TKパイプラインホモミキサー(特殊機化工業社製)、コロイドミル(神鋼パンテック社製)、スラッシャー、トリゴナル湿式微粉砕機(三井三池化工機社製)、超音波ホモジナイザー、スタティックミキサーなどが挙げられる。
【0143】
このようにして得られたエマルションは、引き続き金属含有合成樹脂微粒子を析出させる工程に供する。
【0144】
金属含有合成樹脂微粒子を得るためには、ポリマーAに対する貧溶媒を、前記工程で製造したエマルションに接触させることでエマルション径に応じた径で、金属含有合成樹脂微粒子を析出させる。
【0145】
貧溶媒とエマルションの接触方法は、貧溶媒にエマルションを入れる方法でも良いし、エマルションに貧溶媒を入れる方法でも良いが、エマルションに貧溶媒を入れる方法が好ましい。
【0146】
この際、貧溶媒を投入する方法としては、本発明で製造する金属含有合成樹脂微粒子が得られる限り特に制限はなく、連続滴下法、分割添加法、一括添加法のいずれでも良いが、貧溶媒添加時にエマルションが凝集・融着・合一し、粒子径分布が大きくなったり、1000μmを超える塊状物が生成したりしないようにするために、好ましくは連続滴下法、分割滴下法であり、工業的に効率的に実施するためには、最も好ましいのは、連続滴下法である。
【0147】
また、貧溶媒を加える時間としては、10分以上50時間以内であり、より好ましくは、30分以上10時間以内であり、さらに好ましくは1時間以上5時間以内である。
【0148】
この範囲よりも短い時間で実施すると、エマルションの凝集・融着・合一に伴い、粒子径分布が大きくなったり、塊状物が生成したりする場合がある。また、これ以上長い時間で実施する場合は、工業的な実施を考えた場合、非現実的である。
【0149】
この時間の範囲内で行うことにより、エマルションから金属含有合成樹脂微粒子に転換する際に、粒子間の凝集を抑制することができ、粒子径分布の小さい金属含有合成樹脂微粒子を得ることができる。
【0150】
加える貧溶媒の量は、エマルションの状態にもよるが、好ましくは、エマルション総重量1質量部に対して、0.1から10質量部、より好ましくは、0.1から5質量部、さらに好ましくは、0.2から3質量部であり、特に好ましくは、0.2質量部から1質量部であり、最も好ましくは、0.2から0.5質量部である。
【0151】
貧溶媒とエマルションとの接触時間は、金属含有合成樹脂微粒子が析出するのに十分な時間であればよいが、十分な析出を引き起こしかつ効率的な生産性を得るためには、貧溶媒添加終了後5分から50時間であり、より好ましくは、5分以上10時間以内であり、さらに好ましくは10分以上5時間以内であり、特に好ましくは、20分以上4時間以内であり、著しく好ましくは、30分以上3時間以内である。
【0152】
このようにして作られた金属含有合成樹脂微粒子分散液は、ろ過、デカンテーション、減圧濾過、加圧ろ過、遠心分離、遠心ろ過、スプレードライ、酸析法、塩析法、凍結凝固法等の通常公知の方法で固液分離することにより、微粒子粉体を回収することが出来る。
【0153】
固液分離した金属含有合成樹脂微粒子は、必要に応じて、溶媒等で洗浄を行うことにより、付着または含有している不純物等の除去を行い、精製を行う。この際、好ましい溶媒としては、上記貧溶媒であり、より好ましくは、水、メタノール、エタノールから選ばれる1種または2種以上の混合溶媒である。
【0154】
得られた金属含有合成樹脂微粒子は、乾燥を行い、残留溶媒を取り除くことができる。この際、乾燥の方法としては、風乾、加熱乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。加熱する場合の温度は、ガラス転移温度より低い温度が好ましく、具体的には、50〜150℃が好ましい。
【0155】
本発明の方法においては、金属含有合成樹脂微粒子を得る際に行った固液分離工程で分離された有機溶媒、ポリマーB及び/または金属成分を活用し、リサイクルを行うことが可能であることが有利な点である。
【0156】
固液分離で得た溶媒は、ポリマーB、有機溶媒および貧溶媒及びまたは金属成分の混合物である。この溶媒から、貧溶媒を除去することにより、エマルション形成用の混合物溶媒として再利用することが出来る。
【0157】
金属含有合成樹脂微粒子中に取り込まれなかった金属成分は、この混合物溶媒に含まれることから、再利用され、製造法全体を通してみた場合には、金属成分のロスにはならない。
【0158】
貧溶媒を除去する方法としては、通常公知の方法で行われ、具体的には、単蒸留、減圧蒸留、精密蒸留、薄膜蒸留、抽出、膜分離などが挙げられるが、好ましくは単蒸留、減圧蒸留、精密蒸留による方法である。
【0159】
単蒸留、減圧蒸留等の蒸留操作を行う際は、系に熱がかかり、ポリマーBや有機溶媒の熱分解を促進する可能性があることから、極力酸素のない状態で行うことが好ましく、より好ましくは、不活性雰囲気下で行う。具体的には、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素条件下で実施する。
【0160】
このようにして作られた金属含有合成樹脂微粒子は、数平均粒子径は、その上限としては、100μm以下であり、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは30μm以下である。また、下限としては、0.1μm以上であり、より好ましくは0.5μm以上であり、さらに好ましくは0.7μm以上であり、特に好ましくは1μm以上である。数平均粒子径が、小さすぎると取り扱い性が悪化し、大きすぎると得られる金属含有炭素微粒子が大きくなり、分散性の面で好ましくないことがある。
【0161】
尚、数平均粒子径は、走査型電子顕微鏡写真にて任意粒子100個を観測、直径を測定し、以下の式(1)より算出する。尚、粒子が真円でない場合は、長径を測定するものとする。
【0162】
金属含有合成樹脂微粒子の粒子径分布は、粒子径分布指数で表すことができ、1.0〜2.0の範囲であり、好ましくは1.0〜1.8、より好ましくは、1.0〜1.5であり、特に好ましくは、1.0〜1.3である。粒子径分布指数がこの範囲を越えると、粒子径分布の狭い金属含有炭素微粒子を得られないため好ましくない。尚、粒子径分布指数は、以下の式(3)に従い、数平均粒子径に対する体積平均粒子径の比により算出する。体積平均粒子径は、走査型電子顕微鏡写真にて任意粒子100個を観測、直径を測定し、以下の式(2)より算出する。尚、粒子が真円でない場合は、長径を測定するものとする。
【0163】
【数3】

【0164】
尚、Di:粒子個々の粒子径、n:測定数100、Dn:数平均粒子径、Dv:体積平均粒子径、PDI:粒子径分布とする。
【0165】
本発明で用いる金属含有合成樹脂微粒子の真球度は80以上であり、好ましくは、85以上、さらに好ましくは90以上、より好ましくは92以上であり、中でも好ましくは95以上、最も好ましくは99以上である。真球度の高い金属含有合成樹脂微粒子は、真球度の高い金属含有炭素微粒子を与える傾向にあるため、真球度が上記範囲内にあると真球上の金属含有炭素微粒子が得られやすくなるため好ましい。尚、真球度は、走査型電子顕微鏡にて、粒子を観察し、短径と長径を測定し、任意粒子30個の平均より数式(4)に従い、算出する。
【0166】
【数4】

【0167】
尚、n:測定数30とする。
【0168】
次に具体的な金属含有合成樹脂微粒子の炭化焼成方法について説明する。
【0169】
炭化焼成は、金属含有合成樹脂微粒子と反応しない物質の雰囲気下にて、金属含有合成樹脂微粒子を加熱し行う。好ましくは、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性ガスが使用される。
【0170】
加熱時の雰囲気は、フロー系でも、密閉系でも構わないが、フロー系の方が加熱により発生するガスを除去できるため好ましい。加熱時の圧力は、加圧下でも減圧下でも構わないが、通常、常圧下で行なう。
【0171】
常圧下の場合の加熱温度は、400℃以上であればよく、好ましくは800℃以上である。また、その上限は、通常3000℃であり、好ましくは、2500℃である。
【0172】
金属含有炭素微粒子のグラファイト化度は、加熱温度が高温であるほど、また加熱温度の保持時間が長いほど高くなる傾向である。好ましい加熱温度は、400℃以上、さらに好ましくは、800℃以上、最も好ましくは、1000℃以上である。
【0173】
加熱温度への昇温速度は通常20℃/min以下であり、好ましくは10℃/min以下、より好ましくは5℃/min以下である。焼成温度が20℃/minを越えると、微粒子同士が融着しやすくなる傾向にある。
【0174】
加熱温度の保持時間は、加熱温度によっても変わるが、好ましい下限としては、0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは5時間以上、特に好ましくは10時間以上、著しく好ましくは50時間以上であり、好ましい上限としては1000時間以下であり、より好ましくは、500時間以下、さらに好ましくは、100時間以下である。さらに加熱温度については、適当な温度で一定時間保持し、さらに所望の加熱温度まで再度昇温させてもよい。
【0175】
また金属含有合成樹脂微粒子を炭化焼成する場合において、上記の方法を用いることも可能であるが、以下に説明する前処理を行うことで、金属含有合成樹脂微粒子が耐炎化構造を形成し、炭化収率の向上や微粒子間の融着を抑制できることから好ましい。
【0176】
金属含有合成樹脂微粒子を酸化性雰囲気下にて加熱することにより、耐炎化構造を形成することが可能である。酸化性雰囲気下とは、酸素、硫黄等を含む雰囲気下であるが、空気下が好ましい。加熱温度は、耐炎化構造を形成すれば特に制限はないが、100〜300℃、好ましくは150〜250℃である。加熱温度が100℃未満であると、耐炎化構造が進行せず、300℃を越えると、耐炎化構造を形成する前に、金属含有合成樹脂微粒子が溶融するため好ましくない。加熱温度への昇温速度は通常20℃/min以下であり、好ましくは10℃/min以下、より好ましくは5℃/min以下である。焼成温度が20℃/minを越えると、微粒子間で融着するため好ましくない。また、加熱温度は、所定温度まで加熱した後に一定時間保持してもよい。保持時間は、加熱温度によっても変わるが、0.5〜10時間、好ましくは0.5〜5時間の保持時間で十分である。さらに加熱温度については、適当な温度で一定時間保持し、さらに所望の加熱温度まで再度昇温させてもよい。
【0177】
本発明の金属含有炭素微粒子の製造方法により、粒子径分布が狭く、グラファイト化度の高い品質のよい炭素微粒子を簡便に得ることが可能となる。本発明により得られた炭素微粒子は、粒子径分布が狭いことから、樹脂やゴムへの高い分散性、充填性を示し、さらにグラファイト化度が高いため、樹脂改質剤、導電性ゴム、異方導電性粒子、クロマトグラフィー担体、分子吸着剤、トナー、リチウムイオン電池用負極材、燃料電池用触媒、触媒担体、活性炭、キャパシタ用電極などに好適に用いられ、金属成分として磁性体もしくは磁性体となり得る金属を導入した金属含有炭素微粒子の場合は、磁気特性を利用する診断用担体や、MRI用造影剤等にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0178】
次に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。実施例中、用いる測定は下記の通りである。
【0179】
(1)重量平均分子量の測定
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用い、ポリスチレンによる校正曲線と対比させて分子量を算出した。
装置:株式会社島津製作所製 LC−10Aシリーズ
カラム:昭和電工株式会社製 KD−806M
移動相:10mmol/L 臭化リチウム/ジメチルホルムアミド溶液
流速:1.0ml/min
検出:示差屈折率計
カラム温度:40℃。
【0180】
(2)数平均粒子径、体積平均粒子径、粒子径分布の算出法
走査型電子顕微鏡(日本電子社製走査型電子顕微鏡JSM−6301NF)にて、粒子を観察、数平均粒子径を測定した。尚、粒子が真円でない場合は、長径をその粒子径として測定した。
【0181】
数平均粒子径(Dn)、体積平均粒子径(Dv)は、任意粒子100個の平均より数式(1)および(2)に従い、算出した。
【0182】
粒子径分布(PDI)は、数式(3)に従い、算出した。
【0183】
【数5】

【0184】
尚、Di:粒子個々の粒子径、n:測定数100、Dn:数平均粒子径、Dv:体積平均粒子径、PDI:粒子径分布とする。
【0185】
(3)真球度の測定
走査型電子顕微鏡(日本電子社製走査型電子顕微鏡JSM−6301NF)にて、粒子を観察し、短径と長径を測長し、任意粒子30個の平均より数式(4)に従い、算出した。
【0186】
【数6】

【0187】
尚、n:測定数30とする。
【0188】
(4)グラファイト化度
共鳴ラマン分光計(ホリバ ジョバンイボン製INF−300)に炭素微粒子を設置し、波長532nmのレーザー光を用いて測定を行い、1360±100cm−1(A)と1580±100cm−1(B)の高さ比(B)/(A)を算出した。
【0189】
(5)金属量定量分析
ICP質量分析(Agilent社製 4500)及びICP発光分光分析(Perkin Elmer製 Optima4300DV)を用い測定を行った。試料の調整は下記の通りである。
【0190】
金属含有炭素微粒子0.1gを、硫酸、硝酸で加熱分解した。この試料溶液を硫酸白煙が生じるまで加熱濃縮し、希硝酸で定容としたのちに、上記機器で定量分析を行った。
【0191】
[製造例1]
還流管、撹拌翼を備えた反応容器にアクリロニトリル99質量部とイタコン酸1質量部をジメチルスルホキシド400質量部に溶解した後、過酸化ベンゾイル0.5質量部を加え、70℃に昇温し6時間保持して重合し、ポリアクリロニトリル溶液を得た。該溶液の重量平均分子量は、530,000であった。該溶液にポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製‘ゴーセノール(登録商標)’GL−05、重量平均分子量 10,600、SP値32.8(J/cm1/2)172質量部、ジメチルスルホキシド2776質量部、フタロシアニン鉄(和光純薬工業株式会社)10質量部を加え、80℃にて加熱し、全てのポリマーが溶解するまで撹拌を行った。系の温度を室温に戻した後に、450rpmで攪拌をしながら、貧溶媒として1500質量部のイオン交換水を、送液ポンプを経由し、25質量部/分のスピード゛で滴下を行ない、粒子を析出させた。得られた微粒子を単離後、水洗し、乾燥し、フタロシアニン鉄を含有したポリアクリトニトリル共重合体微粒子を得た。得られたポリアクリロニトリル共重合体微粒子の数平均粒子径は、7.5μm、粒子径分布指数は、1.40、真球度は91であり、該金属含有合成樹脂微粒子の金属量の定量分析を行った結果、金属含有合成樹脂微粒子1g当り、4.8mgの鉄元素が含まれていることがわかった。なお、ポリアクリロニトリル共重合体のSP値は、計算法より、29.5(J/cm1/2であった。
【0192】
[製造例2]
還流管、撹拌翼を備えた反応容器にポリアミドイミド(重量平均分子量 66,000東レ株式会社製 TI 5013E−P)5質量部、ジメチルスルホキシド 40質量部、ポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製 ‘ゴーセノール(登録商標)’GL−05、重量平均分子量 10,600、SP値32.8(J/cm1/2)5質量部、フタロシアニン鉄(和光純薬工業株式会社)10質量部を加え、80℃にて加熱し、全てのポリマーが溶解するまで攪拌を行った。系の温度を室温に戻した後に、450rpmで攪拌しながら、貧溶媒として50質量部のイオン交換水を、送液ポンプを経由し、0.4質量部/分のスピードで滴下を行い、粒子を析出させた。得られた微粒子を単離後、水洗し、乾燥を行った。得られたポリアミドイミド微粒子の数平均粒子径は、6.2μm、粒子径分布指数は、1.52、真球度は、97であり、該金属含有合成樹脂微粒子の金属量の定量分析を行った結果、金属含有合成樹脂微粒子1g当り、5.2mgの鉄元素が含まれていることがわかった。なお、このポリマーのSP値は、計算法により、31.0(J/cm1/2であった。
【0193】
[実施例1]
製造例1にて作製した金属含有ポリアクリロニトリル共重合体微粒子10.0gを磁性皿に取り、マッフル炉(ヤマト科学社製、FP41)にて大気下、室温から250℃まで50分かけて昇温後、1時間保持した。その後窒素気流下、1000℃まで2時間30分かけて昇温し、金属含有炭素微粒子3.3gを得た。得られた金属含有炭素微粒子の数平均粒子径は、5.3μm、粒子径分布指数は、1.46、真球度は、90、グラファイト化度の指標である高さ比(B)/(A)は、1.13であった。 該金属含有炭素微粒子の金属量の定量分析を行った結果、金属含有炭素微粒子1g当り、17mgの鉄元素が含まれていることが分かった。
【0194】
[実施例2]
実施例1で得られた金属含有炭素微粒子の酸素還元に関する電極活性を、3極回転電極セルを用い測定した。その結果、実施例1の炭素微粒子の酸素還元活性値は、−0.23(mA/cm)であり、触媒として作用することが分かった。
【0195】
[実施例3]
試料振動型磁力計(理研電子 BHV−50HM)を用い、得られた金属含有炭素微粒子の磁化特性の測定を行った。その結果、磁場10kOeにおける磁化は1.0emu/gであり、磁気特性をもった炭素微粒子であることが分かった。
【0196】
[実施例4]
製造例2にて作製した金属含有ポリアミドイミド微粒子10.0gを磁性皿に取り、マッフル炉(ヤマト科学社製、FP41)にて大気下、室温から250℃まで50分かけて昇温後、1時間保持した。その後窒素気流下、1000℃まで2時間30分かけて昇温し、金属含有炭素微粒子4.2gを得た。得られた金属含有炭素微粒子の数平均粒子径は、3.5μm、粒子径分布指数は、1.46、真球度は、89、グラファイト化度の指標である高さ比(B)/(A)は、1.00であった。 該金属含有炭素微粒子の金属量の定量分析を行った結果、金属含有炭素微粒子1g当り、18mgの鉄元素が含まれていることが分かった。
【0197】
[実施例5]
実施例4で得られた金属含有炭素微粒子の酸素還元に関する電極活性を、3極回転電極セルを用い測定した。その結果、実施例1の炭素微粒子の酸素還元活性値は、−0.20(mA/cm)であり、触媒として作用することが分かった。
【0198】
[実施例6]
試料振動型磁力計(理研電子 BHV−50HM)を用い、得られた金属含有炭素微粒子の磁化特性の測定を行った。その結果、磁場10kOeにおける磁化は0.9emu/gであり、磁気特性をもった炭素微粒子であることが分かった。
【0199】
[比較例1]
特許文献4(特開2009−295441号公報)を参考に、炭素微粒子を調整した。製造例1で得られたポリアクリロニトリル溶液にフタロシアニン鉄10質量部を加え、この溶液を、印加電圧25kV、吐出圧力5kPa、吐出先端内口径0.31mmφ、ノズルとコレクター間距離0.20mの条件で電解紡糸し、ナノファイバー不織布を得た。得られた不織布をオーブンの中に入れ、空気雰囲気下にて室温から250℃まで50分かけて昇温後、1時間保持した。その後窒素気流下、1000℃まで2時間30分かけて昇温し、炭素化処理を行った。得られた不織布と1.5mmφのジルコニアボールをボールミルにセットし回転速度800rpmで10分間粉砕した。得られた粉砕物を105μmの篩を通し、炭素微粒子を得た。得られた炭素微粒子の数平均粒子径は、43.2μm、粒子径分布指数は、5.8と非常に分布の広いものであった。真球度は、20、グラファイト化度の指標である高さ比(B)/(A)は、0.94であった。
【0200】
金属量の定量分析を行った結果、金属含有炭素微粒子1g当り、20mgの鉄元素が含まれていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系共重合体、アクリロニトリル系単量体と親水性ビニル単量体との共重合体からなるポリアクリロニトリル系共重合体、ポリアクリルアミド系重合体、ポリ酢酸ビニル系重合体、ポリ塩化ビニル系重合体、ポリ塩化ビニリデン系重合体、ポリアミド、ポリアリーレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリイミドからなる群から少なくとも1つ以上選ばれるポリマーAと異種のポリマーBを、有機溶媒に混合し、ポリマーAを主成分とする溶液相とポリマーBを主成分とする溶液相に相分離する系において、エマルションを形成させた後、ポリマーAの貧溶媒を接触させることにより、金属成分を包含させながらポリマーAを析出させポリマーAの合成樹脂微粒子を製造し、その金属含有合成樹脂微粒子を炭化焼成することを特徴とする炭素微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ポリマーAが、アクリロニトリル系単量体と親水性ビニル単量体との共重合体からなるポリアクリトニトリル系共重合体、ポリアミドイミドから選択されたものであることを特徴とする請求項1記載の炭素微粒子の製造方法。
【請求項3】
アクリロニトリル系単量体と親水性ビニル単量体との共重合体からなるポリアクリロニトリル系共重合体がアクリロニトリル系単量体100質量部に対し、0超〜25質量部の親水性ビニル単量体を共重合してなるアクリロニトリル共重合体である請求項1または2記載の炭素微粒子の製造方法。
【請求項4】
親水性ビニル単量体が、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、スルホン酸基およびリン酸基を1種以上含有することを特徴とする請求項1から3いずれか記載の炭素微粒子の製造方法。
【請求項5】
親水性ビニル単量体が、アミド基またはカルボキシル基を1種以上含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の炭素微粒子の製造方法。
【請求項6】
親水性ビニル単量体が、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびアクリルアミドから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれか記載の炭素微粒子の製造方法。
【請求項7】
金属を含有したポリアミドイミド微粒子を炭化焼成することを特徴とする炭素微粒子の製造方法。
【請求項8】
グラファイト化度が0.7以上であることを特徴とする請求項1から7いずれか記載の炭素微粒子の製造方法。
【請求項9】
数平均粒子径が0.1〜100μm、粒子径分布指数が1.0〜2.0であることを特徴とする請求項1から8いずれか記載の炭素微粒子の製造方法。
【請求項10】
数平均粒子径が0.1〜100μm、粒子径分布指数が1.0〜2.0、グラファイト化度が0.7以上及び真球度が80以上であることを特徴とする金属含有炭素微粒子。
【請求項11】
金属が遷移金属であることを特徴とする請求項10記載の炭素微粒子。
【請求項12】
金属が、コバルト、鉄、マンガン、ニッケル、銅、チタン、クロム、亜鉛から選ばれる少なくとも1種である請求項10から11のいずれか記載の金属含有炭素微粒子。
【請求項13】
金属が磁性体金属である請求項10から12のいずれか記載の炭素微粒子。
【請求項14】
請求項10から13のいずれか記載の炭素微粒子からなる触媒。

【公開番号】特開2011−190170(P2011−190170A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34074(P2011−34074)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】