説明

金属微粒子の製造方法

【課題】界面活性剤や両親媒性高分子を用いることなく形状を制御できる金属微粒子の製造方法を提供できる。
【解決手段】金属塩溶液中の金属塩を還元して所定の形状の金属微粒子とする金属微粒子の製造方法であって、前記金属塩濃度、前記金属塩溶液中への超音波照射周波数、前記金属塩溶液中への光照射、前記金属塩溶液のpH、前記金属塩溶液中の温度のうち少なくとも1条件と還元後の金属微粒子の所定の形状の予め求めた相関関係に基づき、所望の形状の金属微粒子に製造することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノスケールの金属微粒子(金属ナノ粒子)は、ナノテクノロジー分野を含む様々な分野において、大きな関心を集めている。それは、金属微粒子の持つバルクにないユニークな特性、すなわち、サイズや形状に依存した多彩な物理的性質(光学・磁気・電気・触媒特性など)の発現が大きな理由の一つである。さらには、生体用、医療用材料として活用されるようになってきたことも、その大きな要因であろう。そのため、金属微粒子のサイズ・形状を自在に制御可能な簡便な調製法の開発が求められている。さらに、近年、無毒・無害な化学薬品、環境適応性溶媒、再生利用可能な材料の使用など、グリーンケミストリーを考慮した金属微粒子合成法の開発も重要な課題の一つとなっている。
【0003】
溶液中での金属微粒子の代表的な調製法は逆ミセル法であり、有機溶媒中に形成した逆ミセルの内水相を微小反応場として、金属イオンの還元により金属微粒子が調製される。水溶液系では、界面活性剤や水溶性ポリマー水溶液中に金属イオンを溶解して、還元剤によって金属イオンを還元して、金属微粒子を調製する方法が主流である。また、金属イオンの還元には、加熱、光照射、超音波照射のような外部エネルギー印加を必要とする場合が多い。これらの方法は、溶液中に形成した金属微粒子のサイズや分散量を高度に制御する方法として既に確立している。しかし、これらの手法では、有機溶媒の使用、還元剤による副生成物、多段階操作、金属微粒子の分散安定性向上のための高濃度安定化剤の使用など、実用上、改善するべき課題が残されている。
【0004】
そこで、ポリマーやデンドリマー内に金属イオンの還元能を有する官能基を含むpoly(ethylene oxide)、diamine terminated poly(ethylene oxide)、amine−functionalized third−generation poly(propyleneimine) dendrimersやa−biotinyl−PEG−block−[poly(2−(N,N−dimethylamino)ethyl methacrylate)]を水溶液中で使用することにより、還元剤無添加での金属微粒子の合成が検討されるようになってきた。しかし、これらの方法は、新規に合成されたポリマーや高価試料の使用、高濃度の安定化剤、高温反応など、 応用展開するためには、まだまだクリアしなければならない課題を含んでいる。
【0005】
そこで近年、市販のポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド(PEO−PPO)ブロックコポリマー(PluronicsあるいはPoloxamers)を使用することにより、これまでの報告例のような還元剤の使用、外部エネルギー印加を必要としないマイルドな条件下での金属微粒子の合成法が報告された。例えば、所定濃度(0.1mM以上)のPEO−PPOトリブロックコポリマー(Pluronics)水溶液と塩化金酸(HAuCl4)水溶液を混合すると、室温でAuCl4-イオンが還元され、金微粒子が形成される。その金微粒子の形成は、溶液混合後、2時間以内に反応は終了する。すなわち、PEO−PPOブロックコポリマーが、有効な還元剤として機能するのである。さらには、PEO−PPOブロックコポリマーは、形成した金属微粒子の分散安定化剤として有効に作用することが明らかとなった。本手法は、溶媒として水を使用可能なこと、無毒かつ、既に医薬材料として実用化されているポリマーを使用していることなど、環境適応性に優れているとも言える。さらに、単純操作、市販の試料を使用している所謂“ready−to−use”の合成法であることから、経済面、実用面においても優位な点を含んでいる。
【0006】
例えば下記特許文献1のような報告がある。下記特許文献1では、2種類以上の金属イオンや金属錯体、還元剤および分散剤を含む溶液を流通させ、超音波を照射することにより連続的に粒子径の揃った金属ナノ粒子を製造することが可能になったということが開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2007−31799号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記界面活性剤やポリマー(両親媒性高分子)を用いた金属微粒子の製造方法では、実用上、金属微粒子を取り囲む界面活性剤や両親媒性高分子を除去して純粋な金属微粒子を取り出すことが必要となる。理想的には、金属イオンなどの出発原料から還元剤を使用することなく直接金属微粒子が調製され、さらには、調製された金属微粒子が界面活性剤および両親媒性高分子のような安定化剤を添加することなく、溶液中に均一かつ安定に分散されることが好ましい。すなわち、界面活性剤無添加系の金属粒子合成法が求められている。
【0009】
しかしながら、上記界面活性剤やポリマーを用いないでは金属微粒子を所定の形状に制御して製造することが難しくなる。すなわち、界面活性剤やポリマーを用いることで形状を制御できるからである。逆ミセル法のようにそのミセル内部で金属微粒子を成長させることでミセル内部の形状に合わせて生成する金属微粒子を所定の形状とすることができる。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、界面活性剤や両親媒性高分子を用いることなく形状を制御できる金属微粒子の製造方法の提供をその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、金属塩溶液中の金属塩を還元して所定の形状の金属微粒子とする金属微粒子の製造方法であって、前記還元の際に界面活性剤と両親媒性高分子ともに添加しないで前記所定の形状の金属微粒子に製造することを特徴とする。
【0012】
上記金属微粒子の製造方法であって、さらに前記金属塩溶液中に還元剤を添加させずに還元させることが好適である。
【0013】
また本発明は、金属塩溶液中の金属塩を還元して所定の形状の金属微粒子とする金属微粒子の製造方法であって、前記金属塩濃度、前記金属塩溶液中への超音波照射周波数、前記金属塩溶液中への光照射、前記金属塩溶液のpH、前記金属塩溶液中の温度のうち少なくとも1条件と還元後の金属微粒子の所定の形状の予め求めた相関関係に基づき、所望の形状の金属微粒子に製造することを特徴とする。
【0014】
上記金属微粒子の製造方法であって、前記金属塩濃度、前記金属塩溶液中への超音波照射周波数、金属塩溶液中への光照射、前記金属塩溶液のpH、前記金属塩溶液中の温度の全条件と還元後の金属微粒子の所定の形状の予め求めた相関関係に基づき、所望の形状の金属微粒子に製造すると好適である。
【0015】
上記金属微粒子の製造方法であって、前記金属塩が貴金属の金属塩であり、この貴金属の金属塩から貴金属微粒子を製造すると好適である。
【0016】
上記金属微粒子の製造方法であって、前記金属塩の濃度が10mM以下であると好適である。
【0017】
上記金属微粒子の製造方法であって、前記金属塩溶液中への超音波照射周波数が200−1000kHzの範囲であると好適である。
【0018】
上記金属微粒子の製造方法であって、略球状、略棒状、略三角板状、略六角板状のうちいずれか1つの形状の金属微粒子であると好適である。
【0019】
上記金属微粒子の製造方法であって、前記金属微粒子の粒径が2−500nmであると好適である。
【0020】
上記金属微粒子の製造方法であって、前記還元の際に界面活性剤と両親媒性高分子ともに添加しないで前記所定の形状の金属微粒子に製造すると好適である。
【0021】
上記金属微粒子の製造方法であって、さらに前記金属塩溶液中に還元剤を添加させずに還元させると好適である。
【発明の効果】
【0022】
金属塩溶液中の金属塩を還元して所定の形状の金属微粒子とする金属微粒子の製造方法について、界面活性剤や両親媒性高分子を用いることなく形状を制御できる金属微粒子の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明者は、金属塩溶液中の金属塩を還元して所定の形状の金属微粒子とする金属微粒子の製造方法について、界面活性剤やポリマーを用いることなく形状を制御できる金属微粒子の製造方法について鋭意検討した。その結果、驚くべき事に金属塩溶液中の金属塩濃度、金属塩溶液中への超音波照射周波数、金属塩溶液中への光照射、金属塩溶液のpH、金属塩溶液中の温度のうち少なくとも1条件が還元後の金属微粒子の形状を左右することを見出した。したがって、還元後の金属微粒子の所定の形状と金属塩溶液中の金属塩濃度、金属塩溶液中への超音波照射周波数、金属塩溶液中への光照射、金属塩溶液のpH、金属塩溶液中の温度の条件のうち少なくとも1つとの相関関係を予め求めておき、所望とする金属微粒子の形状を得るための、金属塩溶液中への超音波照射周波数、金属塩溶液中への光照射、金属塩溶液のpH、金属塩溶液中の温度の条件をこの予め求めた相関関係により求めることで所望とする形状の金属微粒子を得ることができることになる。すなわち、上記諸条件で金属微粒子の形態がどうなるのかの相関性(ある条件ではある形状となる)を求め、その条件を用いて所望の形状の金属粒子を製造することができる。相関関係はグラフ等公知一般のものをもちいることができる。コンピュータに記憶させておいてもよい。
【0024】
金属塩溶液中の金属塩濃度、金属塩溶液中への超音波照射周波数、金属塩溶液中への光照射、金属塩溶液のpH、金属塩溶液中の温度の条件は、できるだけ多くの条件を定めた方がよく、好ましくはこれら全条件である。
【0025】
金属塩としては、特に限られることがないが、金、銀、白金やパラジウムなどの貴金属の金属塩であると好適である。例えば金属塩としては、銅、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、クロミウム、マンガン、マグネシウム、カドミウム、アルミニウム、錫、タングステンなどを含む金属塩、溶液中でイオン(例えば、Ag+,Ag(CN)2-,AlCl4-,Au3+,AuCl4-,AuBr4-,PtCl62-,Mg2+,Mn2+,Co2+,Ni2+,Cu2+,Zn2+,Cd2+,Fe3+,Al3+,Pd2+,PdCl42-,Sn2+,SnO32-,Ga3+,WO42-)なりうる金属塩、AgAsF6,AgBF4,AgBr,AgCl,AgClO3,AgClO4,AgF,AgF2,AgF6P,AgF6Sb,AgI,AgIO3,AgMnO4,AgNO2,AgNO3,AgO3V,AgO4Re,Ag2CrO4,Ag2O,Ag23S,Ag24S,Ag2S,Ag2Se,Ag2Te,Ag3AsO4,Ag3AsO4,Ag3AsO4,Ag34P,Ag8164,KAg(CN)2,CH3CO2Ag,AgCN,AgCNO,AgCNS,Ag2CO3、AlCl312,AlCl4Cs,AlCl4K,AlCl4Li,AlCl4Na,AlC12Ti3,AlCsO4Si,AlCsO6Si2,AlCsO82,AlF4K,AlF6Na3,AlKO82,AlLiO2,AlN39,AlO4P,AlO93,Al2BaO4,Al2MgO4,Al25Ti,Al3123,Al6Bi212,Al613Si2,H4AlLi,H4AlNO82,AuBr3,KAuBr4,NaAuBr4,AuCl3,KAuCl4,NaAuCl4,HAuCl4,AuI3,Au23,HAuCl4N,AuCN、CoF2,CoF3,CoI2,CoLiO2,CoN26,CoN6Na312,CoO,CoO4S,CoSe,Co34,Co382,Co5Sm,Co7Sm2,H8CoN282,H12CoN99,H15Cl3CoN5,CoCO3、CdCl2,CdCl28,CdF2,CdI2,CdMoO4,CdN26,CdO3Zr,CdO4S,CdO4W,CuF2,CuI,CuMoO4,CuN26,CuNb26,CuO,CuO3Se,CuO4S,CuO4W,CuS,CuSe,CuTe,Cu2HgI4,Cu2O,Cu272,Cu2S,Cu2Se,Cu2Te,H8Cl4CuN2,H12CuN44S,CuCN,CuCNS、MgMn28,MgMoO4,MgN26,MgO32,MgO3Ti,MgO3Zr,MgO4S,MgO4W,Mg272,Mg382,H4MgNO4P,MnMoO4,MnN26,MnNoO4,MnO4S,H4MnO42,NiO,NiO3Ti,NiO4S,H42NiO62,H2PtCl6,H6Cl22Pt,H6Cl42Pt,H644Pt,H6Na26Pt,H8Br62Pt,H8Cl42Pt,H8Cl62Pt,H86Pt,H12Cl24Pt,H12Cl44Pt2,H1266Pt,H1442Pt,C22Pt,H6Br22Pd,H6Cl22Pd,H622Pd,H644Pd,H8Cl42Pd,H8Cl62Pd,H12Br24Pd,H12Cl24Pd,H12Cl44Pd2,H1266Pd,C22Pd,Pd(OAc)2,Pd(NO32,H4FeNO82,H8FeN282,FeCl3,C22Zn,H2SnO3,Na2SnO3,SnCl22H2O,SnO,SnSO4,SnO2,GaBr3,GaCl3,GaI3,Ga(NO33xH2O,Ga(SO43xH2O,Ga2(SO43,GaAs,GaN,GaP,GaS,Ga23,GaSe,GaSe,Ga2Se3,GaTe,Ga2Te3,GaO2H,H2WO4などを一例として挙げることができる。これらのうち好ましくは、AgNO3,KAuCl4,NaAuCl4,HAuCl4,H2PtCl6,Pd(OAc)2,Pd(NO32,Ga(NO33xH2Oなどを挙げることができる。
【0026】
金属塩溶液中の金属塩の濃度としては、特に限られることがないが、金属塩濃度が10mM以下であると好適である。
【0027】
金属塩溶液中への超音波を照射する場合については、照射周波数は特に限られることがないが照射周波数が200−1000kHzの範囲であると好適である。
【0028】
製造される金属微粒子の形状は特に限られることがないが、略球状、略棒状、略三角板状、略六角板状のうちいずれか1つの形状の金属微粒子であると好適である。
【0029】
製造される金属微粒子の粒径は特に限られることがないが、粒径は2−500nmの粒径であると好適である。
【0030】
さらに本発明者はこの金属微粒子の形状制御方法によって、金属塩からの還元の際に界面活性剤を添加しないで所定の形状の金属微粒子に製造することができることを見出した。界面活性剤を添加しないでも本法によって形状制御できるからである。したがって、金属微粒子の製造後に界面活性剤を除去することなく純粋な金属微粒子を提供することができる。
【0031】
さらには界面活性剤を添加しないで所定の形状金属微粒子の製造方法であって、さらに金属塩溶液中に還元剤を添加させずに還元させる方法(例えば超音波照射や光照射など)であると界面活性剤を添加しないで、かつ、還元剤を加えずに純粋な金属微粒子を提供することができることを見出した。
【0032】
さらに本発明者らは製造される金属微粒子の形状を略球状などの一般的に分散安定性が向上すると言われている形状の粒子にすれば溶液中の分散性向上のためのキャッピング剤や安定化剤(例えば、界面活性剤や両親媒性高分子)を使用しないで分散安定性を保持できることができ、純粋な金属微粒子を提供することができることも見出した。
【0033】
なお、金属塩溶液中の金属塩を還元して所定の形状の金属微粒子とする金属微粒子の製造方法について、界面活性剤や両親媒性高分子を用いることなく形状を制御できる金属微粒子の製造方法を提供できるが、界面活性剤や両親媒性高分子を用いることを妨げるものではない。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。なお、超音波照射は超音波照射器(三井電気精機株式会社製SD−32CP−28K、SD−32CP−200K、SD−32CP−950K)を用いて行った。また紫外・可視吸光分光(UV−vis)測定は紫外・可視吸光分光器(日立テクノロジーズ製 U−3310、透過型電子顕微鏡(TEM)観察は日立テクノロジーズ製 H−7650)を用いて行った。
【0035】
なお、今回SPRを評価の根拠としたのは、Auナノ粒子の形状や分散安定性を簡易的に観察できるためである。すなわち、貴金属はそのサイズがナノオーダーになると表面プラズモン共鳴により特定波長の光を吸収する(例えばAuなら530nm付近)。また、その吸収波長は形状にも依存し、球状なら530nm付近に、板状なら700nm以降に吸収が現れる。さらにそのピーク強度や半値幅の変化は分散安定性を反映する。
【0036】
<実施例1>
0.001mM、0.01mM、0.1mM、1mM、10mMに調製したHAuCl4水溶液に、950kHzの超音波を10min照射し還元反応を進行させた。溶液の温度は25±1.0℃、pHは3.6で行った。
【0037】
その目視観察を図1に示す。超音波照射直後のAuナノ粒子分散液は0.001mMでは透明、0.01mMではピンク色、0.1mMでは赤色、1mMでは黄橙色、0.001mMでは黄色であった。0.1mM以下ではAuナノ粒子の表面プラズモン共鳴(SPR)に起因する赤色が観察されたが、1mM以上では未反応の前駆体イオン(AuCl4-)が多数存在するため、主としてAuCl4-に起因する黄色が観察されたものと考えられる。さらにUV−visスペクトルを図2に、TEM像を図3に示す。0.001mMでは濃度が低すぎるためにSPRが確認できず、TEMでも粒子は確認できなかった。一方、0.01mM、0.1mM、1mMでは図2のようにSPRが確認でき、TEMでも図3のような粒子が確認できた。0.1mM(図3)では約40nmの球状粒子のほか、板状や棒状の粒子も確認できた。しかし、0.01mM(図3)ではそのほとんどが球状粒子であり、サイズは約15nmであった。また、10mMではSPRが確認できなかったが、数日後には沈殿が生じていたことから還元は起きていると考えられる。
【0038】
なお、高濃度側で還元反応が起こりづらいという結果となったのは、下記(1)式より前駆体イオンであるAuCl4-が多量に存在すると反応が右に進みづらくなるためであると考えられる。
【0039】
また、図4および図5にはSPR−濃度の関係を示す。図4、5によりSPRは0.2mMのときに最大となり、濃度が高くなるにつれてSPRが長波長側へシフトすることもわかった。これは0.2mM以下では下記(1)式に阻害されることなく前駆体イオンが効率良く反応し、また、高濃度になるほどAu表面上での還元反応(核成長)の割合が増すため、生成されるAuナノ粒子が大きくなるということを示している。
【0040】
【化1】

【0041】
特に0.05mM以下で分散安定性に優れている。これは0.05mMで調製した球状Auナノ粒子の粒子径が約30nmと比較的小さく、Auナノ粒子同士の衝突頻度が低いためであると考えられる。
【0042】
図11にそれぞれの濃度で調製したAuナノ粒子分散液のUV−visスペクトルを示す。
【0043】
0.06mM以上はピーク強度やピークの半値幅に大きな変化があるが、0.05mM以下はピーク形状の変化はほとんどない。0.06mM以上でSPRのピーク形状に大きな変化が見られたのは、Auナノ粒子同士の合一が起き、調製直後のものとは変わってしまったことを示している。一方、0.05mM以下でそのピーク形状にほとんど変化が見られないのは、Auナノ粒子同士の合一がほとんどないことを示している。
【0044】
また、図12のTEM像からも高濃度側(0.1mM)では粒子の合一が起きているのに対し、低濃度側(0.01〜0.05mM)では粒子一つ一つが分散していることがわかる。
【0045】
したがって、0.05mM以下は分散安定性に優れると言える。
【0046】
さらに図13にそれぞれの濃度で調製したAuナノ粒子のTEM像、粒径−分散関係のグラフ、形状−分散関係のグラフを示す。濃度が低くなるにつれて球状のAuナノ粒子の生成割合が増え、そのサイズも小さくなることがわかる。
【0047】
Auナノ粒子の形成は、溶媒中でのAu還元(核生成)とAuナノ粒子表面での還元(核成長)の二つからなる。濃度が高ければAuナノ粒子表面で還元する割合も増えるため、そのサイズは大きくなると考えられる。
【0048】
0.05mM以下では、Auナノ粒子表面での還元は少ないものと考えられ、そのサイズは約30nmとなった。
【0049】
さらに濃度を下げればAuナノ粒子表面での還元も減るので、サイズが小さくなることが予想される。実際、0.01mMでは10数nmのAuナノ粒子が得られた。
【0050】
以上により金属塩濃度は金属微粒子の形状に影響を与えることがわかった。
【0051】
<実施例2>
0.1mMに調製したHAuCl4水溶液に、周波数が28kHz、200kHz、950kHzの超音波を10min照射し還元反応を進行させた。溶液の温度は25±1.0℃、pHは3.6で行った。
【0052】
その目視観察を図6に示す。その結果、28kHzでは溶液の色に変化がなかったのに対し、200kHz、950kHzでは溶液が赤色に変化しAuナノ粒子の生成が示唆された。
【0053】
なお、200kHz以上でAuナノ粒子が生成したのは、AuCl4-を還元させるに十分な量の水素ラジカル(H・)が発生したためであると考えられる。
【0054】
そこで、異なる周波数の超音波により発生するH・の量の違いをメチレンブルー(MB)を用いて検討した。MBは下記(2)式に示しように青色の酸化体を還元することで無色の還元体になることが知られている。このことを利用して超音波により発生するH・の量を見積もることができる。
【0055】
【化2】

【0056】
その目視観察を図7に示す。超音波照射前は青色であるが、周波数が高くなるほど青色が消え、950kHzでは青色は観察できない。これは周波数が高いほどMBの還元反応が多く進んだこと示している。またUV−visスペクトルを図8に示す。これは、酸化体のMBに起因する650nm付近のピークが消えていることから高周波数ほどより多数のMBの還元反応が起き、高周波数ほど超音波により発生するH・の量が多いことを示唆する結果となった。
【0057】
次に実際に28kHz、200kHz、950kHzで調製したAuナノ粒子分散液のUV−visスペクトルを図9に、得られた粒子のTEM像と粒径−分散関係を示すグラフを図10に示す。28kHzではH・の発生量が少ないためにAu表面での還元反応(核成長)が進み、大粒子が生成したものと考えられる。一方、200kHz、950kHzでは、球状、板状、棒状のAuナノ粒子が生成しているが、そのサイズは950kHzの方が小さい。これは高周波数の方がAuナノ粒子の核が多数生成するため、最終的に生成されるAuナノ粒子が小さくなったものと考えられる。
【0058】
200kHz、950kHzのスペクトルには、等方性の粒子(球状)に起因する530nm付近の吸収と、異方性の粒子(棒状、板状(三角形、六角形など)、多面体状)に起因する700nm以降の吸収が観察された。このことは図10のTEM観察結果と一致する。図10のTEM像より調製された粒子は2nmの球状のものから、約500nmの棒状のものまである。
【0059】
一方、28kHzで調製した粒子は不定形であり、SPRは観察できなかった。これは28kHzでの調製はAuナノ粒子の核生成が少なく、還元反応の進行が遅いということを示している。
【0060】
以上により超音波周波数は金属微粒子の形状に影響を与えることがわかった。
【0061】
<実施例3>
0.1mMに調製したHAuCl4水溶液に、周波数が950kHzの超音波を8min照射し還元反応を進行させた。溶液の温度は25±1.0℃で行った。
それぞれのpHで調製したAuナノ粒子分散液の目視観察を図14に示す。またUV−visスペクトルを図15に、TEM像を図16に示す。
【0062】
図14よりpH3、pH11では調製から14日後には赤色がほとんどなくなっていた。このことから、pHの値が高いと生成するAuナノ粒子が大きくなるものと考えられる。これは図16のTEM観察結果を支持する。また、pH4〜10ではAuナノ粒子のSPRに起因する赤色が観察でき、図15よりpH5〜7において530nm付近のSPRの変化は最も少ないことから、Auナノ粒子はこの範囲で安定に存在できるものと考えられる。
【0063】
また、図16よりpH5、7の球状Auナノ粒子は約40nmであり、他のpHで調製したものより小さい。
【0064】
以上より、pHによりAuナノ粒子のサイズを変えられることがわかった。また、pH5〜7でそのサイズがより小さくなることもわかった。
以上により金属水溶液中のpHは金属微粒子の形状に影響を与えることがわかった。
【0065】
<実施例4>
0.1mMに調製したHAuCl4水溶液に、周波数が950kHzの超音波を8min照射し還元反応を進行させた。溶液のpHは3.6で行った。
【0066】
それぞれの温度で調製したAuナノ粒子分散液の目視観察を図17に、UV−visスペクトルを図18に、TEM像を図19に示す。
【0067】
図17よりいずれの温度で調製したAuナノ粒子分散液もSPRに起因する赤色が観察された。また、60℃では3日後には沈殿が生じていた。このことから、高温で調製すると粒子同士の衝突する割合が増え、合一する可能性があることが示唆された。図18より10〜40℃は板状のAuナノ粒子に起因する750nm付近のピークが確認できた。
【0068】
一方、50、60℃では、530nm付近のピークのみ確認でき、これは球状のAuナノ粒子に起因するSPRであるから板状のAuナノ粒子が存在しないことがわかり、図19からも板状のAuナノ粒子が存在しないことがわかる。
【0069】
以上より、調製温度を変えることにより球状のAuナノ粒子のみを調製できることがわかり、調製温度は金属微粒子の形状に影響を与えることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本実施例に係る目視観察の様子を示す写真である。
【図2】本実施例に係るUV−visスペクトルである。
【図3】本実施例に係る金属微粒子のTEM写真である。
【図4】本実施例に係るSPR−濃度の関係を示すグラフである。
【図5】本実施例に係るSPR−濃度の関係を示すグラフである。
【図6】本実施例に係る目視観察の様子を示す写真である。
【図7】本実施例に係る目視観察の様子を示す写真である。
【図8】本実施例に係るUV−visスペクトルである。
【図9】本実施例に係るUV−visスペクトルである。
【図10】本実施例に係る金属微粒子のTEM写真と粒径−分散関係を示すグラフである。
【図11】本実施例に係るUV−visスペクトルである。
【図12】本実施例に係る金属微粒子のTEM写真である。
【図13】本実施例に係る金属微粒子のTEM写真と形状−分散関係を示すグラフ、粒径−分散関係を示すグラフである。
【図14】本実施例に係る目視観察の様子を示す写真である。
【図15】本実施例に係るUV−visスペクトルである。
【図16】本実施例に係る金属微粒子のTEM写真である。
【図17】本実施例に係る目視観察の様子を示す写真である。
【図18】本実施例に係るUV−visスペクトルである。
【図19】本実施例に係る金属微粒子のTEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩溶液中の金属塩を還元して所定の形状の金属微粒子とする金属微粒子の製造方法であって、
前記還元の際に界面活性剤と両親媒性高分子ともに添加しないで前記所定の形状の金属微粒子に製造する金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属微粒子の製造方法であって、さらに前記金属塩溶液中に還元剤を添加させずに還元させる金属微粒子の製造方法。
【請求項3】
金属塩溶液中の金属塩を還元して所定の形状の金属微粒子とする金属微粒子の製造方法であって、
前記金属塩濃度、前記金属塩溶液中への超音波照射周波数、前記金属塩溶液中への光照射、前記金属塩溶液のpH、前記金属塩溶液中の温度のうち少なくとも1条件と還元後の金属微粒子の所定の形状の予め求めた相関関係に基づき、所望の形状の金属微粒子に製造する金属微粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の金属微粒子の製造方法であって、
前記金属塩濃度、前記金属塩溶液中への超音波照射周波数、金属塩溶液中への光照射、前記金属塩溶液のpH、前記金属塩溶液中の温度の全条件と還元後の金属微粒子の所定の形状の予め求めた相関関係に基づき、所望の形状の金属微粒子に製造する金属微粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の金属微粒子の製造方法であって、
前記金属塩が貴金属の金属塩であり、この貴金属の金属塩から貴金属微粒子を製造する金属微粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか1つに記載の金属微粒子の製造方法であって、
前記金属塩の濃度が10mM以下である金属微粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項3から6のいずれか1つに記載の金属微粒子の製造方法であって、
前記金属塩溶液中への超音波照射周波数が200−1000kHzの範囲である金属微粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1つに記載の金属微粒子の製造方法であって、
略球状、略棒状、略三角板状、略六角板状のうちいずれか1つの形状の金属微粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1つに記載の金属微粒子の製造方法であって、
前記金属微粒子の粒径が2−500nmである金属微粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項3から9のいずれか1つに記載の金属微粒子の製造方法であって、
前記還元の際に界面活性剤と両親媒性高分子ともに添加しないで前記所定の形状の金属微粒子に製造する金属微粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の金属微粒子の製造方法であって、さらに前記金属塩溶液中に還元剤を添加させずに還元させる金属微粒子の製造方法。

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図15】
image rotate

【図18】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2009−57594(P2009−57594A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225243(P2007−225243)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(591020423)株式会社新光化学工業所 (10)
【出願人】(598069939)
【出願人】(501403014)
【出願人】(507293985)
【Fターム(参考)】