説明

金属性セラミック粉末の製造法

【課題】 残留炭化チタン(TiC)相の発生を抑制して均質化による特性の向上を図るとともに、簡便な真空加熱合成により、チタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)粉末及びその製造方法を得る。
【解決手段】 炭化チタン(TiC)の含有量が1wt%以下であることを特徴とするチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)からなる金属性セラミック粉末並びにチタン(Ti)、シリコン(Si)、炭化チタン(TiC)の混合粉末を真空加熱することを特徴とする金属性セラミック粉末の製造法及びチタン(Ti)、炭化珪素(SiC)、カーボン(C)の混合粉末を真空加熱することを特徴とする金属性セラミック粉末の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属性セラッミク材料であるチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)粉末及びその新しい製造方法に関する。更に詳しく言えば、本発明は金属とセラッミク材料の両方の特性を合わせ持つチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)の粉末からなる金属性セラッミク材料を、チタン(Ti)、シリコン(Si)、炭化チタン(TiC)の粉末を原料として、またはチタン(Ti)、炭化珪素(SiC)、カーボン(C)の粉末を原料として、これらを混合し、真空加熱により合成する金属性セラミック材料であるチタンシリコンカーバイド粉末を製造方法及びこれによって製造されたチタンシリコンカーバイド粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属性セラッミク材料は、金属原子が規則配列する金属間化合物の格子の間に、規則的にセラミックスが存在する構造となっており、金属の特徴である高い熱・電気伝導率、耐熱衝撃性、易加工性と、セラミックスの特徴である優れた耐熱・耐酸化性を有している。
現在、航空宇宙分野や高効率ガスタービン・エンジンなどにおいては超合金や、グラファト、炭化珪素、窒化珪素、サイアロンなどのセラミックスが用いられているが、超合金では耐熱性が劣り、セラミックスの場合は加工性が悪いことが実用上の問題となっている。
【0003】
Ti-Si-C系の金属性セラッミク材料であるチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)粉末はチタン(Ti)、シリコン(Si)およびグラファイト(C)の混合粉末から固相―液相反応法、温度変動法によって合成が試みられていたが、その場合、環境に悪影響を及ぼすNaFが添加されている。
また、チタン(Ti)、シリコン(Si)およびグラファイト(C)混合粉末から燃焼合成(SHS)法も試みられた。これらの方法では、いずれもセラミックである炭化チタン(TiC)相が多量に残留して性質が劣化することが問題となっている。
【0004】
チタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)粉末は1999年に、Z.M.SunらによってTi、Si、Cを固相−液相反応で合成したが、副成物(副次的に生成する物質)であるTiC などの相が50wt%以上占めていた。また同じく1999年にZ.M.SunらによってTi、Si、Cの混合粉末から温度変動法によって合成されたが、Ti3SiC2相の含有量が83wt%に過ぎなかった。Ti、Si、Cの混合粉末から燃焼合成法によって合成した粉末の中も40wt%以上の副成物を含んでいた。
従来のTi3SiC2粉末の合成に関する文献の一覧を表1に示す。表1の右端に対応する非特許文献1〜非特許文献4の番号を示す。
【0005】
【表1】

【0006】
【非特許文献1】Z. M. Sun, Y. C. Zhou, Scripta Mater., 41, (1999) 61-66
【非特許文献2】Z. M. Sun, Y. C. Zhou. Mat. Res. Innovat., 2(4), (1999) 227-231
【非特許文献3】R. Pampuch, J. Lis, J. Piekarczyk and L. Stobierski, J. Mater. Synth. Proc. (1993) 93.
【非特許文献4】J. Lis, Y. Miyamoto, R. Pampuch and K. Tanihata, Mater. Lett., 22, (1995)163-168
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、残留炭化チタン(TiC)相の発生を抑制して均質化による特性の向上を図るとともに、簡便な真空加熱合成により、チタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)粉末及びその製造方法を得ることを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1.炭化チタン(TiC)の含有量が1wt%以下であることを特徴とするチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)からなる金属性セラミック粉末
2.加熱合成により得られた上記1記載の金属性セラミック粉末
3.チタン(Ti)、シリコン(Si)、炭化チタン(TiC)の混合粉末を真空加熱することを特徴とする金属性セラミック粉末の製造法
4.チタン(Ti)、炭化珪素(SiC)、カーボン(C)の混合粉末を真空加熱することを特徴とする金属性セラミック粉末の製造法
5.焼結温度700〜1400°C、加熱保持時間5分〜240分で、固相反応により金属性セラミックを合成することを特徴とする上記3又は4記載の金属性セラミック粉末の製造法
6.焼結温度1200〜1350°C、焼結時間120分〜180分で、固相反応により金属性セラミック粉末を合成することを特徴とする上記5記載の金属性セラミック粉末の製造法
7.炭化チタン(TiC)の含有量が1wt%以下であることを特徴とする上記3〜6のそれぞれに記載のチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)からなる金属性セラミック粉末の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、金属性セラミック材料チタンシリコンカーバイド粉末の中に残留炭化チタン(TiC)相の発生を抑制して特性の向上を図るものである。このような単相の金属性セラミック粉末の合成プロセスの確立によって、複雑形状の金属性セラミック構造物が、化合物の粉末からの焼結成形が可能になる。また、このような単相の金属性セラミック粉末を用いて強化相として複合材料の製造も可能であるという著しい効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者は今までにない製造経路を勘案し、チタン(Ti)、シリコン(Si)、炭化チタン(TiC)の粉末を混合し、真空加熱合成方法によって、第二相含有量の少ない金属性セラッミク材料であるチタンシリコンカーバイド粉末(Ti3SiC2)を製造する方法を見出した。
また、チタン(Ti)、炭化珪素(SiC)、カーボン(C)の粉末を混合し、真空加熱合成方法によって、第二相含有量の少ない金属性セラッミク材料であるチタンシリコンカーバイド粉末(Ti3SiC2)を製造する方法を見出した。
これによって得られたチタンシリコンカーバイド粉末の組織には、炭化チタン(TiC)含有量が1wt%以下である均一な組織の優れた特性を有するチタンシリコンカーバイド粉末が得られる。
【0011】
本発明の製造方法は、まず原料として用いられるチタン(Ti)粉末、シリコン(Si)粉末および炭化チタン(TiC)粉末を、またはチタン(Ti)、炭化珪素(SiC)、カーボン(C)の粉末をアルゴン雰囲気の容器で混合する。この混合時間には特に制限はなく、通常1〜50時間程度混合する。これらの粉末は、目的とするチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)の単一相になるように配合する。
この混合粉末をアルミナの坩堝に装入して、真空加熱法によって合成する。合成は真空において実施し、加熱温度は700°Cから1400°Cの範囲で行う。
焼結温度は1200°C未満では反応が十分でなく、未反応の炭化チタン(TiC)が多量に存在するので好ましくない。また、焼結温度が1400°Cを超えるとできたチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)の分解によって炭化チタン(TiC)の量が増加し、エネルギーの消費量も増すので無駄である。より好ましい加熱温度は、加熱結温度1200〜1350°Cである。
【0012】
前記加熱温度での保持時間は30分から600分間とする。加熱保持時間は焼結温度との関係で決定するが、30分未満であると、焼結反応が十分でなく、また240分間を超えても特に悪い影響はないが、省エネーの観点からこれ以上の長時間加熱保持する必要がないとしている。そして、より好ましい加熱保持時間は120分〜240分の範囲である。
【実施例】
【0013】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲で、本実施例以外の態様あるいは変形を全て包含するものである。
【0014】
(実施例1)
まず原料として用いられるチタン(Ti)粉末28.6at%、シリコン(Si)粉末28.6at%および炭化チタン(TiC)粉末42.8at%をアルゴン雰囲気の容器で24時間を混合した。これらの粉末は、目的とするチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)の単一相になるように配合したものである。
この混合粉末をアルミナ坩堝に装入して、真空炉を用いて加熱する。合成は真空において実施し、合成温度1100°C、1200℃、1210°C、1250°C、1300°C、1400°Cの6段階の範囲で、それぞれ120分間の加熱を実施した。
【0015】
加熱合成した金属性セラミック材料チタンシリコンカーバイド粉末の相組成をX線回折で分析し、顕微鏡によるミクロ組織特性を調べた。
表2は加熱保持温度1100°C〜1400°C、120分間加熱合成した金属性セラミック材料チタンシリコンカーバイドTi3SiC2相含有量を示す。1250°Cで合成した粉末の中にほぼ(Ti3SiC2)相の含有量が99%以上になっていることが分かる。
【0016】
【表2】

【0017】
(実施例2)
原料として用いられるチタン(Ti)粉末24.4at%、シリコン(Si)粉末26.8at%および炭化チタン(TiC)粉末48.8at%を実施例1と同様な方法で混合する。
この混合粉末をアルミナ坩堝に装入して、真空炉を用いて加熱する。合成は真空において実施し、合成温度1100°C、1200°C、1250°C、1300°Cの4段階の範囲で、それぞれ120分間の加熱を実施した。
また、同様の混合粉末について、焼結温度1250°Cに設定し、焼結時間30分間、60分間、120分間、240分間の4段階に分けて加熱を実施した。
【0018】
加熱合成した金属性セラミック材料チタンシリコンカーバイド粉末の相組成をX線回折で分析し、顕微鏡によるミクロ組織特性を調べた。
表3は1100°C〜1300°Cの温度範囲で2時間加熱処理によって合成した化合物粉末の中に金属性セラミック材料チタンシリコンカーバイドTi3SiC2相含有量を示す。1250°C以上の温度で合成した材料の中に99.9%のTi3SiC2相を含むことが分かる。
表4は1250°Cにおいて加熱合成の際に加熱保持時間が合成した粉末のTi3SiC2相含有量への影響を示す。120分間以上の保持時間をすれば、合成した材料の中に99.9%のTi3SiC2相を含むことが分かる。
【0019】
【表3】

【0020】
【表4】

【0021】
図1は1250°Cで2時間合成した粉末のX線回折パターンを示す。合成した粉末の中にほぼ単一な金属性セラッミク材料であるチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)相になっていることが分かる。回折角度2θが41.8度にあるTiCのメインピークが殆ど示されていなく、X線回折結果から計算すると、約0.1wt%になっていることが分かる。
図2は1250°Cで2時間合成して99.9%のTi3SiC2相を含む化合物の粉末の走査型電子顕微鏡の写真を示す。サイズ数ミクロンのTi3SiC2粉末粒子が合成できたことがわかる。
【0022】
(実施例3)
原料として用いられるチタン(Ti)粉末62.5at%、炭化珪素(SiC)粉末25.0at%およびカーボン(C)粉末12.5at%を実施例1と同様の方法で混合する。これらの粉末は、目的とするチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)の単一相になるように配合したものである。
この混合粉末をアルミナ坩堝に装入して、真空炉を用いて加熱する。合成は真空において実施し、合成温度1200°C、1210°C、1250°C、1300°C、1400°Cの5段階の範囲で、それぞれ120分間の加熱を実施した。
【0023】
加熱合成した金属性セラミック材料チタンシリコンカーバイド粉末の相組成をX線回折で分析し、顕微鏡によるミクロ組織特性を調べた。
表5は1200°C〜1400°Cの温度範囲で2時間加熱処理によって合成した化合物粉末の中に金属性セラミック材料チタンシリコンカーバイドTi3SiC2相含有量を示す。1300°C以上の温度で合成した材料の中に99.9%のTi3SiC2相を含むことが分かる。
【0024】
【表5】

【0025】
(比較例1)
比較のために、従来技術であるTi粉、Si粉及びC粉を用いて、原料として用いられるチタン(Ti)粉末50.0at%、シリコン(Si)粉末16.7at%およびカーボン(C)粉末33.3at%を実施例1と同様な方法で混合する。
この混合粉末をアルミナ坩堝に装入して、真空炉を用いて加熱する。合成は真空において実施し、合成温度1200°C、1210°C、1250°C、1300°C、1400°Cの5段階の範囲で、それぞれ120分間の加熱を実施した。
加熱合成した粉末の相組成をX線回折で分析し、顕微鏡によるミクロ組織特性を調べた。表6は1200°C〜1400°Cの温度範囲で2時間加熱処理によって合成した粉末の中に金属性セラミック材料チタンシリコンカーバイドTi3SiC2相含有量を示す。いずれの温度においてもTi3SiC2相の含有量が90%を越すことがない。また、1300°Cで最も高いTi3SiC2相の含有量が88.5%にしか達しないことが分かる。
【0026】
【表6】

【0027】
(比較例2)
比較のために、従来技術であるTi粉、Si粉及びC粉を用いて、原料として用いられるチタン(Ti)粉末50.0at%、シリコン(Si)粉末20.0at%およびカーボン(C)粉末30.0at%を実施例1と同様な方法で混合した。
この混合粉末をアルミナ坩堝に装入して、真空炉を用いて加熱する。合成は真空において実施し、合成温度1200°C、1210°C、1250°C、1300°C、1400°Cの5段階の範囲で、それぞれ120分間の加熱を実施した。
【0028】
加熱合成した粉末の相組成をX線回折で分析し、顕微鏡によるミクロ組織特性を調べた。
表7は1200°C〜1400°Cの温度範囲で2時間加熱処理によって合成した粉末の中に金属性セラミック材料チタンシリコンカーバイドTi3SiC2相含有量を示す。いずれの温度においてもTi3SiC2相の含有量が95%を越すことがない。また、1250°Cで最も高いTi3SiC2相の含有量が94.4%にしか達しないことが分かる。
【0029】
【表7】

【0030】
(比較例3)
比較のために上記表1の文献を見ると、各種プロセスによりTi3SiC2粉末合成に関する文献の実験結果において、いずれの場合もTi3SiC2相の含有量が低いことが分かる。最も良い結果でも、82.5%のTi3SiC2相を含むことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、金属性セラミック材料チタンシリコンカーバイド粉末の中に残留炭化チタン(TiC)相の発生を抑制して特性の向上を図るものである。このような単相の金属性セラミック粉末の合成プロセスの確立によって、複雑形状の金属性セラミック構造物が、化合物の粉末からの焼結成形が可能になる。また、このような単相の金属性セラミック粉末を用いて強化相として複合材料の製造も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】チタン(Ti)粉末24.4at%、シリコン(Si)粉末26.8at%および炭化チタン(TiC)粉末48.8at%から1250°Cで2時間真空加熱処理により合成したTi3SiC2金属性セラミックス粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図2】チタン(Ti)粉末24.4at%、シリコン(Si)粉末26.8at%および炭化チタン(TiC)粉末48.8at%から1250°Cで2時間真空加熱処理により合成したTi3SiC2金属性セラミックス粉末の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化チタン(TiC)の含有量が1wt%以下であることを特徴とするチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)からなる金属性セラミック粉末。
【請求項2】
加熱合成により得られた請求項1記載の金属性セラミック粉末。
【請求項3】
チタン(Ti)、シリコン(Si)、炭化チタン(TiC)の混合粉末を真空加熱することを特徴とする金属性セラミック粉末の製造法。
【請求項4】
チタン(Ti)、炭化珪素(SiC)、カーボン(C)の混合粉末を真空加熱することを特徴とする金属性セラミック粉末の製造法。
【請求項5】
焼結温度700〜1400°C、加熱保持時間5分〜240分で、固相反応により金属性セラミックを合成することを特徴とする請求項3又は4記載の金属性セラミック粉末の製造法。
【請求項6】
焼結温度1200〜1350°C、焼結時間120分〜180分で、固相反応により金属性セラミック粉末を合成することを特徴とする請求項5記載の金属性セラミック粉末の製造法。
【請求項7】
炭化チタン(TiC)の含有量が1wt%以下であることを特徴とする請求項3〜6のそれぞれに記載のチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)からなる金属性セラミック粉末の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン(Ti)、炭化珪素(SiC)、カーボン(C)の混合粉末を焼結温度1200〜1350°C、焼結時間120分〜180分で、真空加熱して合成することを特徴とする炭化チタン(TiC)の含有量が1wt%以下であり、残部がチタンシリコンカーバイド(Ti3SiC2)からなる金属性セラミック粉末の製造法
【請求項2】
固相反応により金属性セラミックを合成することを特徴とする請求項1記載の金属性セラミック粉末の製造法
【請求項3】
原料粉末をアルゴン雰囲気中で混合し、この混合粉末を真空加熱し合成することを特徴とする請求項1又は2記載の金属性セラミック粉末の製造方法

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−298762(P2006−298762A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−218349(P2006−218349)
【出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【分割の表示】特願2002−273076(P2002−273076)の分割
【原出願日】平成14年9月19日(2002.9.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】