説明

金属担持カーボンの製造方法

【課題】垂直配向CNTやカーボンナノウォールなどのカーボン材料に均一に金属を担持させることができる方法を提供すること。
【解決手段】本発明により、第一の容器と、第一の容器とバルブを介して連通可能に接続された第二の容器を有する装置を利用する、超臨界流体を用いた金属担持カーボンの製造方法であって、(a)第一の容器に金属化合物と超臨界流体前駆体ガスを、第二の容器にカーボンと超臨界流体前駆体ガスをそれぞれ封入する工程、(b)第一の容器内の圧力が第二の容器内の圧力よりも低くなるよう第一の容器および第二の容器のそれぞれを加圧し、超臨界流体前駆体ガスを超臨界状態とする工程、(c)バルブを開いて第一の容器と第二の容器とを連通させる工程、を含む方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直配向カーボンナノチューブやカーボンナノウォールなどのカーボン材料に金属を担持させて、金属担持カーボンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非常に大きな比表面積を有するカーボン材料として、多数のカーボンナノチューブが垂直方向に配向して並んだ構造を有する垂直配向カーボンナノチューブ(垂直配向CNTとも称される)や、グラフェンシートからなる壁が一定方向に立ち並んだ構造を有するカーボンナノウォールが知られている。これらのカーボン材料は、燃料電池などの電池の電極材料などへの応用が研究されている。
【0003】
上述のようなカーボン材料を電池の電極に利用しようとする場合、白金などの金属触媒を担持させることが必要になる場合が多い。しかしながら、金属触媒の分散液を塗布するなどしても、垂直配向CNTやカーボンナノウォールに十分な金属触媒の担持を行うことは難しかった。そこで、本発明者らの一部は、特許文献1に記載されているような金属触媒の担持方法を開発した。
【0004】
特許文献1に記載の方法では、予め担持させようとする金属の化合物を二酸化炭素などの超臨界流体に溶解させ、それを基板上に形成されたカーボンナノウォールと接触させた後にカーボンナノウォールを加熱し、金属をカーボンナノウォール上に析出させることにより、金属の担持を行う。この方法は、下部の容器(反応槽100)にカーボンナノウォールを形成した基板を入れて超臨界二酸化炭素で満たす一方、バルブ210により下部の容器と接続された上部の容器(攪拌槽200)にも金属化合物を溶解させた超臨界二酸化炭素を満たし、上部の容器内の圧力が下部の容器内の圧力よりも大きくなるようにした後、バルブ210を開き、上部の容器内の金属化合物を含む超臨界二酸化炭素を一気に下部の容器に送り込む、という手順により行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−273613号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の超臨界流体を利用する方法によれば、カーボンナノウォールなどのカーボン材料への金属の担持を容易に行うことができる。しかしながら、特許文献1の手順では、ある程度の面積を有するカーボン材料に均一に金属を担持させるのが難しい。その上、余分な金属が付着してしまうことがあり、コスト高の原因ともなり得る。金属担持カーボン材料を大量生産するためには、カーボン材料に均一に金属を担持させることができる方法が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上述したような問題を検討した結果、カーボン材料に金属を担持させるための、より優れた方法を見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]第一の容器と、第一の容器とバルブを介して連通可能に接続された第二の容器を有する装置を利用する、超臨界流体を用いた金属担持カーボンの製造方法であって、
(a)第一の容器に金属化合物と超臨界流体前駆体ガスを、第二の容器にカーボンと超臨界流体前駆体ガスをそれぞれ封入する工程、
(b)第一の容器内の圧力が第二の容器内の圧力よりも低くなるよう第一の容器および第二の容器のそれぞれを加圧し、超臨界流体前駆体ガスを超臨界状態とする工程、
(c)バルブを開いて第一の容器と第二の容器とを連通させる工程
を含む、前記方法。
【0008】
[2][1]に記載の金属担持カーボンの製造方法であって、工程(c)の後に
(d)バルブを閉じた後に第二の容器を減圧し、第一の容器内の圧力が第二の容器内の圧力よりも高くなるようにする工程、
(e)再度バルブを開いて第一の容器と第二の容器とを連通させる工程
をさらに含む、前記方法。
[3](d)および(e)の工程を2回以上繰り返す、[2]に記載の金属担持カーボンの製造方法。
[4]カーボンを150〜450℃の範囲の温度で加熱することを含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の金属担持カーボンの製造方法。
【0009】
[5]金属化合物が、トリメチル(メチルシクロペンタジエニル)白金およびアセチルアセトナート白金から選択される、[1]〜[4]のいずれかに記載の金属担持カーボンの製造方法。
[6]超臨界流体前駆体ガスが、二酸化炭素および三フッ化メタンから選択される、[1]〜[5]のいずれかに記載の金属担持カーボンの製造方法。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の方法により製造された金属担持カーボン。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、均一に金属触媒を担持させたカーボン材料を製造することが可能となる。金属触媒を担持させたカーボン材料、特に垂直配向CNTやカーボンナノウォールは、燃料電池などの電池の電極材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の方法で用いる装置の一例を示した概略図である。
【図2】実施例におけるヒーター5上のCNT基板6の配置を示す図である。
【図3】CNT基板6の配置と白金担持量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の方法で用いる装置の一例を示した概略図である。便宜上、本発明の方法を図1の装置に沿って説明するが、本発明の方法で用いる装置はこれに限定されるものではない。装置は、第一の容器1と第二の容器3とを有する。図1において、第一の容器1と第二の容器3は上下に配置されているが、必要に応じて左右に、あるいは上下逆転して配置してもよい。第一の容器1内には攪拌プロペラ2が設けられている。ただし、攪拌プロペラ2は必須の構成要件ではなく、必要に応じて設ければよい。第一の容器1には超臨界流体前駆体ガスおよび金属化合物溶液の注入口が、第二の容器3には超臨界流体前駆体ガスの注入口が、それぞれ設けられている。
【0013】
第一の容器1と第二の容器3は、バルブ4を介して連通可能に接続されている。第一の容器1と第二の容器3はバルブ4を閉じた状態であればそれぞれ異なる圧力に加圧することが可能であるが、バルブ4を開いた状態では第一の容器1と第二の容器3は同じ圧力となる。
【0014】
第二の容器3の内部にはヒーター5が設けられ、その上にカーボン材料6が載置される。カーボン材料6の例としては、カーボンナノチューブ、特に垂直配向カーボンナノチューブ、またはカーボンナノウォールが挙げられる。カーボン材料6は、好ましくはシリコン、石英、SUS、アルミなどからなる基板上に形成されたカーボン材料層の形態である。なお、カーボン材料6はカーボンナノチューブやカーボンナノウォールに限定されず、筒状または壁状の構造を有しないその他のカーボンブラックでもよい。
【0015】
第一の容器1に注入される金属化合物溶液は、カーボンに担持しようとする金属の化合物を適切な溶媒に溶解させたものである。カーボンに担持する金属としては、触媒活性を有するものであれば特に制限されないが、例えば白金、パラジウム、金などの貴金属、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム、バナジウム、チタン、ニオブ、モリブテン、鉛、ロジウム、タングステンおよびイリジウムなどの卑金属が挙げられる。金属触媒としては、特に白金が優れている。
【0016】
金属化合物は、カーボン上に付着した後、加熱などにより金属を析出可能なものであれば特に限定されない。金属化合物には、金属錯体および金属化合物が含まれる。金属錯体の具体例としては、シクロペンタジエニル系金属錯体、例えば、シクロペンタジエニル配位子、メチルシクロペンタジエニル配位子、エチルシクロペンタジエニル配位子、n−ブチルシクロペンタジエニル配位子、(トリメチル)メチルシクロペンタジエニル配位子、などのシクロペンタジエニル環を有する配位子が配位した金属錯体、およびアセチルアセトナート配位子が配位したアセチルアセトナート金属錯体が挙げられる。金属化合物の具体例としては、金属の塩化物、酸化物、および硝酸や硫酸などの無機酸もしくは酢酸などの有機酸との塩が挙げられる。
【0017】
金属化合物を溶解させる溶媒は、特に限定させるものではなく、当業者であれば例えばヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系溶媒あるいはその他の溶媒から適宜選択することができる。
【0018】
超臨界流体前駆体ガスとしては、超臨界状態に比較的容易に導くことができ、かつ金属触媒やカーボン材料にダメージを与えないものであれば特に限定されない。取り扱いおよび特性上から二酸化炭素または三フッ化メタンを用いることが好ましい。
【0019】
以下、図1の装置を用いて行う本発明の金属担持カーボンの製造方法を説明する。まず、バルブ4を閉めた状態で第一の容器1に金属化合物の溶液と超臨界流体前駆体ガスとを封入する。一方、第二の容器3にはカーボン材料6をヒーター5上に設置し、超臨界流体前駆体ガスを封入する[工程a]。ここで、第一の容器1への封入操作と第二の容器3への封入操作は、いずれを先に行ってもよく、あるいは両方を同時に行ってもよい。また、第一の容器1への金属化合物の溶液と超臨界流体前駆体ガスの封入は、いずれを先に該容器内に入れても構わないが、通常は金属化合物の溶液を先に入れる。
【0020】
次に、第一の容器1と第二の容器3を加圧するが、その際、第一の容器1内の圧力が第二の容器3内の圧力よりも低くなるようにする[工程b]。次いでバルブ4を開くと、相対的に圧力が高い第二の容器3から第一の容器1へ、超臨界流体が流入する[工程c]。第二の容器3からの超臨界流体の流入により、バルブ4付近の配管などに滞留していることが多い金属化合物の溶液は第一の容器1内に逆流し、超臨界流体と十分に混合し拡散(分散)される。これにより、濃度の高い金属化合物溶液が直接カーボン材料6に吹き付けられるのを防ぐことができる。バルブ4の開放により、第一の容器1内の圧力と第二の容器3内の圧力は平衡圧となる。ここでのバルブ4の開放は比較的短時間、例えば5分未満、特に2分未満、とりわけ約1分とすることが好ましい。
【0021】
次に、所定時間経過後バルブ4を閉め、第二の容器3を減圧し、第一の容器1内の圧力が第二の容器3内の圧力よりも高くなるようにする[工程d]。減圧は、例えば容器から超臨界流体前駆体ガスを一部抜去することにより行うことができる。ガスを一部抜去することにより、第二の容器3内の超臨界流体の拡散を促すという効果も期待できる。第二の容器3を減圧した後の第一の容器1と第二の容器3との圧力差は、0.1MPa〜1MPaの範囲内、特に0.1MPa〜0.5MPaの範囲内とすることが好ましい。ただし、第二の容器3内の圧力が超臨界流体の臨界圧を下回らないようにする必要がある。
【0022】
次いでバルブ4を再度開放すると[工程e]、第一の容器1内に滞留していた金属化合物の溶液を含む超臨界流体が、第二の容器3内に流入する。この手順により、平衡圧になり第一の容器1内に残留していた金属化合物の溶液を第二の溶液3内に引き込むことができ、材料歩留まりを向上させることが可能となる。上記の工程dと工程eは2回以上、好ましくは3回以上、より好ましくは4回以上繰り返すことが好ましい。これらの工程を繰り返すことにより、さらに材料歩留まりが向上する。工程eにおけるバルブ4の開放は、第一の容器1と第二の容器3とが平衡圧となるのに十分な時間であれば特に制限されないが、例えば10分未満、特に8分未満、とりわけ約5分とすることが好ましい。
【0023】
ここで、超臨界流体を用いて金属化合物を付着させたカーボン材料6は、必要に応じてヒーター5により加熱してもよい。加熱することにより、カーボン材料6に付着した金属化合物からの金属の析出がより効率よく進行する。加熱は、150〜450℃の範囲の温度、特に300〜400の範囲の温度で行うことが好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0025】
図1に示した装置を用いて、基板上に形成された垂直配向カーボンナノチューブに白金を担持させた。ヒーター5上の垂直配向カーボンナノチューブが形成された基板(以下、CNT基板と称する)6の配置を図2に示す。ヒーター5上の100mm×100mmの領域に20mm×20mmの大きさのCNT基板6を9枚均等に並べた。各基板には図2に示したように番号を付し、下記のそれぞれの手順で白金担持を行った後、各番号の基板ごとに白金担持量を調べた。なお、下記のいずれの手順においても白金担持に要した時間は30分間であり、その間CNT基板6を360℃に設定したヒーター5により加熱した。
【0026】
1.本発明の方法による白金担持
第一の容器1に金属化合物溶液((トリメチル)メチルシクロペンタジエニル白金の3重量%ヘキサン溶液10ml)とCOガスを導入し、10.2MPaまで加圧してCOを超臨界状態にした。一方、第二の容器3にもCOガスを導入し、10.6MPaまで加圧してCOを超臨界状態にした(第一の容器内の圧力<第二の容器内の圧力)。次に、バルブ4を開いて第一の容器1と第二の容器3とを連通させ、1分間保持した後にバルブ4を閉じた[連通1回目]。さらに、バルブ4を閉じた状態で第二の容器3からガスを一部放出させ、第一の容器内の圧力(10.5MPa)>第二の容器内の圧力(10.2MPa)としてから、再度バルブ4を開いて第一の容器1と第二の容器3とを連通させ、5分間保持した[連通2回目]。その後、バルブ4を閉じて第二の容器3からガスを一部放出させた後に第一の容器1と第二の容器3とを連通させる操作を7回目まで繰り返した。連通操作と第一の容器1および第二の容器3の圧力の変化の推移を表1にまとめた。
【0027】
【表1】

【0028】
2.従来法による白金担持
第一の容器1に金属化合物溶液((トリメチル)メチルシクロペンタジエニル白金の3重量%ヘキサン溶液10ml)とCOガスを導入し、10.6MPaまで加圧してCOを超臨界状態にした。一方、第二の容器3にもCOガスを導入し、10.2MPaまで加圧してCOを超臨界状態にした(第一の容器内の圧力>第二の容器内の圧力)。次に、バルブ4を開いて第一の容器1と第二の容器3とを連通させ、30分間保持した。
【0029】
3.白金担持量の評価
9枚のCNT基板6のそれぞれの重量を測定することにより各基板の白金担持量を求めた。基板の位置と白金担持量の関係を図3のグラフにまとめた。従来法では、第一の容器1からの出口部分にあたる5番のCNT基板の白金担持量が極端に多く、またその他の基板同士を比較しても白金担持量のバラつきが多かった。これは、バルブ4部分の配管に滞留していた金属化合物溶液が直接吹き付けられたこと、また第二の容器3内での流体の拡散性が悪いためと推察される。一方、本発明の方法では、従来法によるものと比較して各基板間の白金担持量のバラつきは少なかった。これは本発明の方法により、金属化合物溶液が直接吹き付けられることが避けられたこと、第二の容器3内での流体の拡散性が改善されたことなどによるものと推察される。
【符号の説明】
【0030】
1:第一の容器
2:攪拌プロペラ
3:第二の容器
4:バルブ
5:ヒーター
6:カーボン材料(CNT基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の容器と、第一の容器とバルブを介して連通可能に接続された第二の容器を有する装置を利用する、超臨界流体を用いた金属担持カーボンの製造方法であって、
(a)第一の容器に金属化合物と超臨界流体前駆体ガスを、第二の容器にカーボンと超臨界流体前駆体ガスをそれぞれ封入する工程、
(b)第一の容器内の圧力が第二の容器内の圧力よりも低くなるよう第一の容器および第二の容器のそれぞれを加圧し、超臨界流体前駆体ガスを超臨界状態とする工程、
(c)バルブを開いて第一の容器と第二の容器とを連通させる工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属担持カーボンの製造方法であって、工程(c)の後に
(d)バルブを閉じた後に第二の容器を減圧し、第一の容器内の圧力が第二の容器内の圧力よりも高くなるようにする工程、
(e)再度バルブを開いて第一の容器と第二の容器とを連通させる工程
をさらに含む、前記方法。
【請求項3】
(d)および(e)の工程を2回以上繰り返す、請求項2に記載の金属担持カーボンの製造方法。
【請求項4】
カーボンを150〜450℃の範囲の温度で加熱することを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属担持カーボンの製造方法。
【請求項5】
金属化合物が、トリメチル(メチルシクロペンタジエニル)白金およびアセチルアセトナート白金から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属担持カーボンの製造方法。
【請求項6】
超臨界流体前駆体ガスが、二酸化炭素および三フッ化メタンから選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属担持カーボンの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により製造された金属担持カーボン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−218959(P2012−218959A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84547(P2011−84547)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】