金属板材の厚板圧延機
【課題】上下作業ロール間の最大開度を大きく取ることができるとともに、強力なロールベンディング力を発揮することができ、その結果、高応答かつ強力な板クラウン・形状制御機能を付与できる圧延機を提供する。
【解決手段】板幅２５００ｍｍ以上の金属板材を圧延することができ、上補強ロールチョックから延出するアーム部が、上作業ロールチョックを抱え込む形式であって、上作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを該アーム部に配備し、下作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを、プロジェクトブロックに配備するとともに、上作業ロールにディクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを上補強ロールチョック内に配備することを特徴とする厚板圧延機。
【解決手段】板幅２５００ｍｍ以上の金属板材を圧延することができ、上補強ロールチョックから延出するアーム部が、上作業ロールチョックを抱え込む形式であって、上作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを該アーム部に配備し、下作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを、プロジェクトブロックに配備するとともに、上作業ロールにディクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを上補強ロールチョック内に配備することを特徴とする厚板圧延機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
この発明は、金属板材の圧延機に関し、特に、厚板圧延に好適な、上下作業ロール間の最大開度を大きくとることができるとともに、強力なロールベンディング力を発揮することができ、その結果、高応答かつ強力な板クラウン・形状制御機能を付与できる厚板圧延機に関する。
【背景技術】
【０００２】
金属板材の圧延作業においては、圧延板のクラウンおよび形状が重要な品質指標となっており、板クラウン・形状制御に関する技術が数多く開示されている。
しかしながら、例えば、厚板圧延機のように、板厚の大きい製品を多パスのリバース圧延で製造する圧延機では、上下作業ロール間の間隙、すなわちロール開度を圧延素材の板厚よりも大きくとる必要があり、この前提の下に、利用できる板クラウン・形状制御装置には、圧延機設備設計上の制約が課せられる。
【０００３】
例えば特許文献１は、作業ロールシフト方式の圧延機に関するものであるが、図５に示すように、作業ロールのインクリースベンディング装置６−１〜６−４が作業ロールチョック３−１、３−２に組み込まれた圧延機が開示されている。
特許文献２は、ロールクロス方式の圧延機に関するものであるが、この圧延機にも、図６に示すように、インクリースベンディング装置６−３、６−４が作業ロールチョック３−１、３−２に組み込まれている。
特許文献３にも、作業ロールシフト機能を有する圧延機が開示されているが、この圧延機では、図７に示すように、インクリースベンディング装置６−１〜６−４が、圧延機ハウジングと一体のプロジェクトブロック５−１、５−２に組み込まれている。なお、特許文献３に開示されている圧延機では、インクリースベンディング装置の油圧シリンダーがロール軸方向に複数個配備され、作業ロールシフト時に、偏加重がかからないように工夫されている。
【０００４】
なお、一般的に厚鋼板を製造するための圧延機には、図５〜７に示すようにディクリースベンディング装置が配備されていない（特許文献１〜３参照）。
これは、薄板圧延に比較して、相対的に大径の作業ロールを使用するため、同じベンディング力を付与してもロールクラウン形状の変化が小さいこと、さらには、薄板圧延機に比較して、相対的に大径の作業ロールチョック周辺の狭隘な部分に小さなディクリースベンディング装置を設置しても、制御範囲が狭く、機械構造を複雑化するだけでコストパフォーマンス的に不利であること等に起因する。
しかし、本発明に係る圧延機は、極厚板から熱延薄板に至る広範な厚さの鋼板に対応できる厚板圧延機にするため、図８に示すような薄板圧延機と同様のディクリースベンディング装置７−１〜７−４を具備させることを前提としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００５】
【特許文献１】特開昭６２−２２０２０５号公報
【特許文献２】特開平６−１９８３０７号公報
【特許文献３】特開平４−５２０１４号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
特許文献１および２に開示されている形式、すなわち、図５、６に示すように、インクリースベンディング装置６−１〜６−４が作業ロールチョック３−１、３−２に組み込まれた形式の圧延機においては、油圧シリンダーのストロークを長くとることで、大きな開度を実現することができ、さらに大容量の油圧シリンダーを組み込むことも可能となるので、厚板圧延機でも、実用的な作業ロールベンディング効果を期待できる。
【０００７】
しかしながら、作業ロール１−１、１−２は、圧延作業による損耗が激しいため、一般に、頻繁にロール交換が必要とされ、その交換作業の度にインクリースベンディング装置の油圧配管を着脱しなければならず、これによって、ロール交換時間が長くなるとともに、着脱時には、油圧配管内に微小な異物が混入する可能性が高くなる。
【０００８】
他方、引用文献３に開示されている形式、すなわち図７に示すように、インクリースベンディング装置６−１〜６−４が、圧延機ハウジングに繋がるプロジェクトブロック５−１、５−２に組み込まれている形式の圧延機では、図５、６に示す形式の圧延機の欠点を解消することができる。この形式では、プロジェクトブロックにインクリースベンディング装置を組み込むため、ロール交換作業の度にインクリースベンディング装置の油圧配管を着脱する必要がないからである。したがって、この形式は、ホットストリップミル仕上圧延機に多用されている。
【０００９】
しかしながら、この形式では、上作業ロール１−１に作用するオフセット分力等の圧延方向力を支持するのは、作業ロールチョック３−１とプロジェクトブロック５−２との接触面であるため、圧下装置を操作してロール開度を大きくしていくと、作業ロールの回転中心が該接触面の外側となって、作業ロールチョック３−１の姿勢が不安定となるので、大きなロール開度をとることができない。このため、大きなロール開度が必要な厚板圧延機では、この形式が採用されることはほとんどない。
【００１０】
上記のように、ロール開度を大きくとることのできる厚板圧延機において、応答性が高く、強力なロールベンディング装置を組み込むことのできる圧延機形式は、従来技術では存在しない。
本発明の解決すべき課題は、上下作業ロール間の最大開度を大きくとることができるとともに、強力なロールベンディング力を付与することのできる厚板圧延機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【００１１】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、上補強ロールチョックから延出するアーム部が、上作業ロールチョックを抱え込む形式であって、上作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを該上補強ロールチョックから延出するアーム部に配備し、下作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを、圧延機ハウジングの内側に突出したプロジェクトブロックに配備するとともに、上作業ロールにディクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを上補強ロールチョック内に配備することにより、以下のことが可能となることを見出した。
【００１２】
（ａ)下作業ロールチョックにかかる圧延方向力を常にハウジングで受ける構造とできること。これにより安定して下作業ロールチョックを支えることができる。
【００１３】
（ｂ）上記プロジェクトブロックに、下インクリースベンディング装置を組み込むことができること。これにより、大容量・大ストロークの強力ベンディング装置を備えることができる。
【００１４】
（ｃ）また、下作業ロールのインクリースベンディング装置をプロジェクトブロックに組み込むことで、油圧配管を固定化できる。
【００１５】
（ｆ）上補強ロールチョックから延出するアーム部に上作業ロールチョックを抱え込む方式としたことにより、分塊圧延や厚板圧延の際に、容易に大開度のロール間隙をとることができる。
【００１６】
本発明は、これらの知見を基になされたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
（１）上下一対の作業ロールと、これらをそれぞれ支持する上下一対の補強ロールを有する板幅２５００ｍｍ以上の金属板材を圧延することができる厚板圧延機であって、上補強ロールチョックから延出するアーム部が、上作業ロールチョックを抱え込む形式であって、上作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを該上補強ロールチョックから延出するアーム部に配備し、下作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを、圧延機ハウジングの内側に突出したプロジェクトブロックに配備するとともに、上作業ロールにディクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを上補強ロールチョック内に配備することを特徴とする厚板圧延機。
【００１７】
（２）下作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーが、上作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーよりも、強力・大容量であることを特徴とする（１）に記載の厚板圧延機。
【００１８】
（３）さらに、下補強ロールチョックに、下作業ロールにディクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを配備することを特徴とする（１）または（２）に記載された金属板材の厚板圧延機。
【００１９】
（４）前記（１）〜（３）の何れかに記載された厚板圧延機において、作業ロール又は補強ロールにイニシャルボディクラウン（凸型）を付与しておき、ロールベンディングによる制御範囲をインクリースベンディング側にずらしておくことを特徴とする金属板材の厚板圧延機。
【発明の効果】
【００２０】
本発明は、被圧延材の板幅が２５００ｍｍを超えることもある厚板圧延機において、大きなロール開度をとることができると共に、強力なロールベンディング力も得ることができ、応答性の低いディクリースベンディング装置を配備せざるを得ない場合であっても、これを応答性の高いインクリースベンディング装置が補償して、高応答かつ強力な板クラウン・形状制御機能を具備するため、圧延材入側板厚や圧延財温度等の圧延中に変動する外乱に対しても良好な板クラウン・形状を造り込むことが可能であり、製品品質および歩留を大きく改善することができる厚板圧延機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【００２１】
【図１】本発明に係る厚板圧延機の構造の一例を示す側面図である。
【図２】ロール胴長の短い熱延用等の薄板圧延機と、ロール胴長の長い厚板圧延機において、インクリースベンディング力を作用させた場合の圧延材−作業ロール間の面圧分布状態と、作業ロール−補強ロール間の面圧分布状態との比較を示す概念図である。
【図３】ロール胴長の短い熱延用等の薄板圧延機と、ロール胴長の長い厚板圧延機において、ディクリースベンディング力を作用させた場合の圧延材−作業ロール間の面圧分布状態と、作業ロール−補強ロール間の面圧分布状態との比較を示す概念図である。
【図４】本発明に係る厚板圧延機と従来技術に係る圧延機とのクラウン制御能力の比較図を示す。
【図５】従来技術に係る厚板圧延用圧延機の構造を示す側面図である。
【図６】従来技術に係る厚板圧延用圧延機の構造を示す側面図である。
【図７】従来技術に係る厚板圧延用圧延機の構造を示す側面図である。
【図８】従来技術に係る薄板圧延用圧延機の構造を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【００２２】
以下、図１〜８を参照して、本発明に係る厚板圧延機について説明する。
図１は、本発明に係る厚板圧延機の構造の一例を示す側面図である。当該図面に示すように、本発明に係る厚板圧延機は、上下一対の作業ロール１−１、１−２と、これらをそれぞれ支持する上下一対の補強ロール２−１、２−２を備えた厚板圧延機である。
【００２３】
そして、本発明に係る厚板圧延機は、下作業ロール１−２にインクリースベンディング力を負荷する下インクリースベンディング装置６−３、６−４をハウジング９の内側に突出したプロジェクトブロック５−１、５−２に配備し、さらに、上作業ロール１−１にディクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを上補強ロールチョック４−１内に配備して、上作業ロールディクリースベンディング装置７−１、７−２とした厚板圧延機である。
【００２４】
プロジェクトブロック５−１、５−２に上下作業ロールのインクリースベンディング装置６−１〜６−４を設け、上下補強ロールチョック４−１、４−２に上下作業ロール１−１、１−２のディクリースベンディング装置を設置することは、図８に示す熱延仕上圧延用等の薄板圧延機に多い形式であるが、この形式では、出側プロジェクトブロック５−２の上流側面と上作業ロールチョック３−１との当接面で、圧延操業時の圧延方向力を支持しているので、ロール開度を大きくするにしたがい、上作業ロールチョック３−１の回転モーメントの中心位置が前記接触面から上方へ外れていくとともに、前記圧延方向力を支持する接触面の面積が減少していく。
【００２５】
したがって、プロジェクトブロック５−１、５−２に挟み込まれる凸部分の高さを大きくしても、ロール開度を大きくするにしたがって、上作業ロールチョック３−１の姿勢が不安定となり、大きなロール開度をとることができない。
【００２６】
これに対して、本発明では、図１に示すように、上補強ロールチョック４−１が、上作業ロールチョック３−１を抱え込むアームを具備する形式を採用する。
このタイプの圧延機では、上補強ロールチョック４−１が上作業ロールチョック３−１を抱え込んでいるので、上補強ロール２−１の引き上げに伴って、上作業ロール１−１も連れ上がり、大きなロール開度をとることができる。
【００２７】
さらに、上作業ロール１−１に作用する圧延方向力は、上補強ロールチョック４−１と上作業ロールチョック３−１との圧延方向下流側当接面で受けた力が、さらに、上補強ロールチョック４−１の圧延方向下流側アームの外側面と、ハウジングウィンドウ内側との当接面がなす接触面で、最終的に受け止められる
このような構造にすれば、圧延機の圧下装置１１を操作してロール開度を大きくしても、上作業ロールチョック３−１が、上補強ロールチョックのアーム部を介してハウジングウィンドウと接触する面の面積は一切変化しない。したがって、上作業ロールチョック３−１の姿勢は、ロール開度にかかわらず常に安定して保持されることになる。
【００２８】
さらに、本発明に係る厚板圧延機では、下作業ロール１−２にインクリースベンディング力を負荷する下インクリースベンディング装置６−３、６−４をハウジング９の内側に突出したプロジェクトブロック５−１、５−２に配備している。そのため、作業ロールの組み換え作業の度に下作業ロールのインクリースベンディング装置の油圧配管を着脱する必要がなく、固定配管とすることで、精密なサーボバルブを用いた応答性の高い、かつ大容量・大ストロークのインクリースベンディング装置とすることができる。
【００２９】
また、上作業ロール１−１のディクリースベンディング装置７−１、７−２を上補強ロールチョック４−１に設置した油圧シリンダーで構成しているので、板厚約１００ｍｍ以下の圧延等、板クラウン制御が必要な場合等においては、強力なディクリースベンディング力を負荷することもでき、８００ｍｍを超える板厚の圧延材の圧延から、１００ｍｍ厚以下の厚板圧延における精密な板クラウン・形状制御を伴う圧延まで、１台の圧延機で対処することを可能としている。
【００３０】
なお、本発明に係る厚板圧延機において、下作業ロール１−２の胴部に負荷される圧延方向力は、下作業ロールチョック３−２と、プロジェクトブロック５−２との接触面によって支持される。このため、図１に示す本発明に係る厚板圧延機は、下作業ロールチョック３−２のプロジェクトブロック５−１、５−２に挟み込まれる部分の高さを大きくしている。
【００３１】
また、ロール開度は、主に上作業ロールチョックを上下に移動させることにより調整するので、下作業ロールチョックの上下の移動量は少ない。そのため、ロール開度が大きくなるにしたがい、下作業ロールの姿勢が不安定になることはない。
【００３２】
ここまでは、主に解決課題の一つである大きなロール開度を得る観点から、本発明に係る圧延機の構造について説明してきた。
次に、この構造によれば、もう一つの解決課題である強力なロールベンディング力の付与についても容易に達成することができることを説明する。
【００３３】
図１に示すように、本発明に係る厚板圧延機では、圧延機のハウジング９から、その内側方向に突出するプロジェクトブロック５−１、５−２に、大容量・大ストロークの下インクリースベンディング装置６−３、６−４を配備することができる。
【００３４】
すなわち、下作業ロール１−２の胴部に負荷される圧延方向力を、下作業ロールチョック３−２とプロジェクトブロック５−２との接触面によって支持する構造とした本発明に係る圧延機によれば、大きなロール開度をとることができるとともに、強力なロールベンディング力の付与もできる。
【００３５】
また、作業ロールの組み換え作業の度に、下インクリースベンディング装置の油圧配管を着脱する必要がない。このために、それぞれのインクリースベンディング装置６−３、６−４には、固定油圧配管を介してそれぞれの油圧制御弁に接続することができ、高応答油圧制御のためのサーボバルブを採用することができる。したがって、応答性の高いインクリースベンディング装置とすることができる。
【００３６】
この下インクリースベンディング装置の特性を活かして、作業ロール及び／又は補強ロールに、適宜の凸型のイニシャルボディクラウンを付与しておき、圧延機の特性を予め、インクリースベンディング側に振っておくことにより、ロール同長の大きな厚板圧延機であっても、ロールへのエッジマークの発生を避けながら、強力なベンディング力を負荷することができ、圧延操業時における板クラウン・形状制御幅を拡大することができる。
【００３７】
本発明に係る圧延機を用いて圧延を行う際は、板クラウン・形状制御の目的で、作業ロールにベンディング力を作用させる場合や、圧延開始時および圧延終了時のロールベンディング力の変更を、応答性の高いインクリースベンディング装置を用いることで、応答性に若干の問題があるディクリースベンディング装置の保障を行うことで、トータルのベンディング力制御を高応答化することができる。
図２に概念図を示すように、被圧延材の板幅が２５００ｍｍ以下の素材を主として対象とする熱延用等の薄板圧延機に対して、被圧延材の板幅が２５００ｍｍを超えることもある厚板圧延機は、ロール胴長が相対的に長く、同一幅の被圧延材に対して同じクラウン制御量を付与するために、同じ作業ロール−被圧延材間の面圧Ｐｗｍ分布を与えるようにインクリースベンディング力を負荷した場合、ロール胴長が相対的に短い熱延用の薄板圧延機と比較して、大きなロール撓みを必要とし、作業ロール−補強ロール間の面圧Ｐｗｂ（作業ロール曲げに対する抵抗）分布が大となって、インクリースベンディング力による板クラウン・形状制御上不利になってしまう。
【００３８】
本発明では、図３に、その概念図を示すように、補強ロールチョックに配備したディクリースベンディング装置によって作業ロールにディクリースベンディング力を作用させることにより、熱延用等の薄板圧延機に比較して相対的に胴長の長い、すなわち、モーメントアームＬｍの長い厚板圧延機の特徴を利用して、作業ロール−補強ロール間の面圧Ｐｗｂ（作業ロール曲げに対する抵抗）分布を小さい値に保ったまま、単位ディクリースベンディング力当たりの板クラウン・形状制御能力を増大している。このとき、作業ロールに、例えばロール端部での直径減少値で、１〜２ｍｍ程度の、２次曲線による適宜の凸型イニシャルボディクラウンを付与しておくことにより、予め、圧延機の特性をインクリースベンディング側に振っておくことで、ディクリースベンディング力の効果を一層増大させることも可能である。
【００３９】
表１は、インクリースベンディング装置に加え、ディクリースベンディング装置を備えた本発明に係る圧延機によって、広幅と狭幅の被圧延材を厚さ２０ｍｍから１６ｍｍへと圧下率２０％で圧延した場合の板クラウン制御能力を比較したものであり、図４は、インクリースベンディング力とディクリースベンディング力による板クラウン制御範囲を示したものである。
【００４０】
【表１】
表１及び図４から明らかなように、従来のインクリースベンダーのみを備えた圧延機と比較して、ディクリースベンダーをも具備した本発明に係る圧延機においては、板クラウン制御範囲が格段に広がっており、特に同図の（２）に示されるように、幅広ロールを用いて、幅の狭い被圧延材を圧延した場合においては、ディクリースベンディング力による板クラウン制御範囲が非常に大となっているので、前述したように、圧延機のイニシャルロールクラウンを予めインクリース側に振っておくこと、換言すれば、ベンディング力無負荷状態で、圧延機のロールがインクリースベンディング力をやや掛けた状態となるようなイニシャルロールクラウンとすることで、ディクリースベンディング力の広い負荷範囲を有効に活用することが可能となり、フラット近傍を中立点として非常に広範囲にわたって板クラウンを制御することが可能となる。
その結果、板クラウン・形状制御が問題となる熱延薄板の圧延においても、作業ロールと補強ロール間のエッジマークの発生等を抑制しながら、良好な板クラウン・形状制御能力を獲得している。
【産業上の利用可能性】
【００４１】
本発明は、鋼板の圧延、特に大開度を必要とするリバース圧延機として、また、強力な板クラウン・形状制御を必要とする圧延機として、極厚の板材から薄板に至る領域までの圧延機を提供することができる。
【符号の説明】
【００４２】
１−１ 上作業ロール
１−２ 下作業ロール
２−１ 上補強ロール
２−２ 下補強ロール
３−１ 上作業ロールチョック
３−２ 下作業ロールチョック
４−１ 上補強ロール
４−２ 下補強ロール
５−１ 入側プロジェクトブロック
５−２ 出側プロジェクトブロック
６−１ 入側上インクリースベンディング装置
６−２ 出側上インクリースベンディング装置
６−３ 入側下インクリースベンディング装置
６−４ 出側下インクリースベンディング装置
７−１ 入側上ディクリースベンディング装置
７−２ 出側上ディクリースベンディング装置
７−３ 入側下ディクリースベンディング装置
７−４ 出側下ディクリースベンディング装置
８−１ 入側補強ロールバランス装置
８−２ 出側補強ロールバランス装置
９ ハウジング
１０ 被圧延材
１１ 圧下装置
１２ ハウジングウィンドウ
【技術分野】
【０００１】
この発明は、金属板材の圧延機に関し、特に、厚板圧延に好適な、上下作業ロール間の最大開度を大きくとることができるとともに、強力なロールベンディング力を発揮することができ、その結果、高応答かつ強力な板クラウン・形状制御機能を付与できる厚板圧延機に関する。
【背景技術】
【０００２】
金属板材の圧延作業においては、圧延板のクラウンおよび形状が重要な品質指標となっており、板クラウン・形状制御に関する技術が数多く開示されている。
しかしながら、例えば、厚板圧延機のように、板厚の大きい製品を多パスのリバース圧延で製造する圧延機では、上下作業ロール間の間隙、すなわちロール開度を圧延素材の板厚よりも大きくとる必要があり、この前提の下に、利用できる板クラウン・形状制御装置には、圧延機設備設計上の制約が課せられる。
【０００３】
例えば特許文献１は、作業ロールシフト方式の圧延機に関するものであるが、図５に示すように、作業ロールのインクリースベンディング装置６−１〜６−４が作業ロールチョック３−１、３−２に組み込まれた圧延機が開示されている。
特許文献２は、ロールクロス方式の圧延機に関するものであるが、この圧延機にも、図６に示すように、インクリースベンディング装置６−３、６−４が作業ロールチョック３−１、３−２に組み込まれている。
特許文献３にも、作業ロールシフト機能を有する圧延機が開示されているが、この圧延機では、図７に示すように、インクリースベンディング装置６−１〜６−４が、圧延機ハウジングと一体のプロジェクトブロック５−１、５−２に組み込まれている。なお、特許文献３に開示されている圧延機では、インクリースベンディング装置の油圧シリンダーがロール軸方向に複数個配備され、作業ロールシフト時に、偏加重がかからないように工夫されている。
【０００４】
なお、一般的に厚鋼板を製造するための圧延機には、図５〜７に示すようにディクリースベンディング装置が配備されていない（特許文献１〜３参照）。
これは、薄板圧延に比較して、相対的に大径の作業ロールを使用するため、同じベンディング力を付与してもロールクラウン形状の変化が小さいこと、さらには、薄板圧延機に比較して、相対的に大径の作業ロールチョック周辺の狭隘な部分に小さなディクリースベンディング装置を設置しても、制御範囲が狭く、機械構造を複雑化するだけでコストパフォーマンス的に不利であること等に起因する。
しかし、本発明に係る圧延機は、極厚板から熱延薄板に至る広範な厚さの鋼板に対応できる厚板圧延機にするため、図８に示すような薄板圧延機と同様のディクリースベンディング装置７−１〜７−４を具備させることを前提としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００５】
【特許文献１】特開昭６２−２２０２０５号公報
【特許文献２】特開平６−１９８３０７号公報
【特許文献３】特開平４−５２０１４号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
特許文献１および２に開示されている形式、すなわち、図５、６に示すように、インクリースベンディング装置６−１〜６−４が作業ロールチョック３−１、３−２に組み込まれた形式の圧延機においては、油圧シリンダーのストロークを長くとることで、大きな開度を実現することができ、さらに大容量の油圧シリンダーを組み込むことも可能となるので、厚板圧延機でも、実用的な作業ロールベンディング効果を期待できる。
【０００７】
しかしながら、作業ロール１−１、１−２は、圧延作業による損耗が激しいため、一般に、頻繁にロール交換が必要とされ、その交換作業の度にインクリースベンディング装置の油圧配管を着脱しなければならず、これによって、ロール交換時間が長くなるとともに、着脱時には、油圧配管内に微小な異物が混入する可能性が高くなる。
【０００８】
他方、引用文献３に開示されている形式、すなわち図７に示すように、インクリースベンディング装置６−１〜６−４が、圧延機ハウジングに繋がるプロジェクトブロック５−１、５−２に組み込まれている形式の圧延機では、図５、６に示す形式の圧延機の欠点を解消することができる。この形式では、プロジェクトブロックにインクリースベンディング装置を組み込むため、ロール交換作業の度にインクリースベンディング装置の油圧配管を着脱する必要がないからである。したがって、この形式は、ホットストリップミル仕上圧延機に多用されている。
【０００９】
しかしながら、この形式では、上作業ロール１−１に作用するオフセット分力等の圧延方向力を支持するのは、作業ロールチョック３−１とプロジェクトブロック５−２との接触面であるため、圧下装置を操作してロール開度を大きくしていくと、作業ロールの回転中心が該接触面の外側となって、作業ロールチョック３−１の姿勢が不安定となるので、大きなロール開度をとることができない。このため、大きなロール開度が必要な厚板圧延機では、この形式が採用されることはほとんどない。
【００１０】
上記のように、ロール開度を大きくとることのできる厚板圧延機において、応答性が高く、強力なロールベンディング装置を組み込むことのできる圧延機形式は、従来技術では存在しない。
本発明の解決すべき課題は、上下作業ロール間の最大開度を大きくとることができるとともに、強力なロールベンディング力を付与することのできる厚板圧延機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【００１１】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、上補強ロールチョックから延出するアーム部が、上作業ロールチョックを抱え込む形式であって、上作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを該上補強ロールチョックから延出するアーム部に配備し、下作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを、圧延機ハウジングの内側に突出したプロジェクトブロックに配備するとともに、上作業ロールにディクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを上補強ロールチョック内に配備することにより、以下のことが可能となることを見出した。
【００１２】
（ａ)下作業ロールチョックにかかる圧延方向力を常にハウジングで受ける構造とできること。これにより安定して下作業ロールチョックを支えることができる。
【００１３】
（ｂ）上記プロジェクトブロックに、下インクリースベンディング装置を組み込むことができること。これにより、大容量・大ストロークの強力ベンディング装置を備えることができる。
【００１４】
（ｃ）また、下作業ロールのインクリースベンディング装置をプロジェクトブロックに組み込むことで、油圧配管を固定化できる。
【００１５】
（ｆ）上補強ロールチョックから延出するアーム部に上作業ロールチョックを抱え込む方式としたことにより、分塊圧延や厚板圧延の際に、容易に大開度のロール間隙をとることができる。
【００１６】
本発明は、これらの知見を基になされたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
（１）上下一対の作業ロールと、これらをそれぞれ支持する上下一対の補強ロールを有する板幅２５００ｍｍ以上の金属板材を圧延することができる厚板圧延機であって、上補強ロールチョックから延出するアーム部が、上作業ロールチョックを抱え込む形式であって、上作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを該上補強ロールチョックから延出するアーム部に配備し、下作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを、圧延機ハウジングの内側に突出したプロジェクトブロックに配備するとともに、上作業ロールにディクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを上補強ロールチョック内に配備することを特徴とする厚板圧延機。
【００１７】
（２）下作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーが、上作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーよりも、強力・大容量であることを特徴とする（１）に記載の厚板圧延機。
【００１８】
（３）さらに、下補強ロールチョックに、下作業ロールにディクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを配備することを特徴とする（１）または（２）に記載された金属板材の厚板圧延機。
【００１９】
（４）前記（１）〜（３）の何れかに記載された厚板圧延機において、作業ロール又は補強ロールにイニシャルボディクラウン（凸型）を付与しておき、ロールベンディングによる制御範囲をインクリースベンディング側にずらしておくことを特徴とする金属板材の厚板圧延機。
【発明の効果】
【００２０】
本発明は、被圧延材の板幅が２５００ｍｍを超えることもある厚板圧延機において、大きなロール開度をとることができると共に、強力なロールベンディング力も得ることができ、応答性の低いディクリースベンディング装置を配備せざるを得ない場合であっても、これを応答性の高いインクリースベンディング装置が補償して、高応答かつ強力な板クラウン・形状制御機能を具備するため、圧延材入側板厚や圧延財温度等の圧延中に変動する外乱に対しても良好な板クラウン・形状を造り込むことが可能であり、製品品質および歩留を大きく改善することができる厚板圧延機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【００２１】
【図１】本発明に係る厚板圧延機の構造の一例を示す側面図である。
【図２】ロール胴長の短い熱延用等の薄板圧延機と、ロール胴長の長い厚板圧延機において、インクリースベンディング力を作用させた場合の圧延材−作業ロール間の面圧分布状態と、作業ロール−補強ロール間の面圧分布状態との比較を示す概念図である。
【図３】ロール胴長の短い熱延用等の薄板圧延機と、ロール胴長の長い厚板圧延機において、ディクリースベンディング力を作用させた場合の圧延材−作業ロール間の面圧分布状態と、作業ロール−補強ロール間の面圧分布状態との比較を示す概念図である。
【図４】本発明に係る厚板圧延機と従来技術に係る圧延機とのクラウン制御能力の比較図を示す。
【図５】従来技術に係る厚板圧延用圧延機の構造を示す側面図である。
【図６】従来技術に係る厚板圧延用圧延機の構造を示す側面図である。
【図７】従来技術に係る厚板圧延用圧延機の構造を示す側面図である。
【図８】従来技術に係る薄板圧延用圧延機の構造を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【００２２】
以下、図１〜８を参照して、本発明に係る厚板圧延機について説明する。
図１は、本発明に係る厚板圧延機の構造の一例を示す側面図である。当該図面に示すように、本発明に係る厚板圧延機は、上下一対の作業ロール１−１、１−２と、これらをそれぞれ支持する上下一対の補強ロール２−１、２−２を備えた厚板圧延機である。
【００２３】
そして、本発明に係る厚板圧延機は、下作業ロール１−２にインクリースベンディング力を負荷する下インクリースベンディング装置６−３、６−４をハウジング９の内側に突出したプロジェクトブロック５−１、５−２に配備し、さらに、上作業ロール１−１にディクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを上補強ロールチョック４−１内に配備して、上作業ロールディクリースベンディング装置７−１、７−２とした厚板圧延機である。
【００２４】
プロジェクトブロック５−１、５−２に上下作業ロールのインクリースベンディング装置６−１〜６−４を設け、上下補強ロールチョック４−１、４−２に上下作業ロール１−１、１−２のディクリースベンディング装置を設置することは、図８に示す熱延仕上圧延用等の薄板圧延機に多い形式であるが、この形式では、出側プロジェクトブロック５−２の上流側面と上作業ロールチョック３−１との当接面で、圧延操業時の圧延方向力を支持しているので、ロール開度を大きくするにしたがい、上作業ロールチョック３−１の回転モーメントの中心位置が前記接触面から上方へ外れていくとともに、前記圧延方向力を支持する接触面の面積が減少していく。
【００２５】
したがって、プロジェクトブロック５−１、５−２に挟み込まれる凸部分の高さを大きくしても、ロール開度を大きくするにしたがって、上作業ロールチョック３−１の姿勢が不安定となり、大きなロール開度をとることができない。
【００２６】
これに対して、本発明では、図１に示すように、上補強ロールチョック４−１が、上作業ロールチョック３−１を抱え込むアームを具備する形式を採用する。
このタイプの圧延機では、上補強ロールチョック４−１が上作業ロールチョック３−１を抱え込んでいるので、上補強ロール２−１の引き上げに伴って、上作業ロール１−１も連れ上がり、大きなロール開度をとることができる。
【００２７】
さらに、上作業ロール１−１に作用する圧延方向力は、上補強ロールチョック４−１と上作業ロールチョック３−１との圧延方向下流側当接面で受けた力が、さらに、上補強ロールチョック４−１の圧延方向下流側アームの外側面と、ハウジングウィンドウ内側との当接面がなす接触面で、最終的に受け止められる
このような構造にすれば、圧延機の圧下装置１１を操作してロール開度を大きくしても、上作業ロールチョック３−１が、上補強ロールチョックのアーム部を介してハウジングウィンドウと接触する面の面積は一切変化しない。したがって、上作業ロールチョック３−１の姿勢は、ロール開度にかかわらず常に安定して保持されることになる。
【００２８】
さらに、本発明に係る厚板圧延機では、下作業ロール１−２にインクリースベンディング力を負荷する下インクリースベンディング装置６−３、６−４をハウジング９の内側に突出したプロジェクトブロック５−１、５−２に配備している。そのため、作業ロールの組み換え作業の度に下作業ロールのインクリースベンディング装置の油圧配管を着脱する必要がなく、固定配管とすることで、精密なサーボバルブを用いた応答性の高い、かつ大容量・大ストロークのインクリースベンディング装置とすることができる。
【００２９】
また、上作業ロール１−１のディクリースベンディング装置７−１、７−２を上補強ロールチョック４−１に設置した油圧シリンダーで構成しているので、板厚約１００ｍｍ以下の圧延等、板クラウン制御が必要な場合等においては、強力なディクリースベンディング力を負荷することもでき、８００ｍｍを超える板厚の圧延材の圧延から、１００ｍｍ厚以下の厚板圧延における精密な板クラウン・形状制御を伴う圧延まで、１台の圧延機で対処することを可能としている。
【００３０】
なお、本発明に係る厚板圧延機において、下作業ロール１−２の胴部に負荷される圧延方向力は、下作業ロールチョック３−２と、プロジェクトブロック５−２との接触面によって支持される。このため、図１に示す本発明に係る厚板圧延機は、下作業ロールチョック３−２のプロジェクトブロック５−１、５−２に挟み込まれる部分の高さを大きくしている。
【００３１】
また、ロール開度は、主に上作業ロールチョックを上下に移動させることにより調整するので、下作業ロールチョックの上下の移動量は少ない。そのため、ロール開度が大きくなるにしたがい、下作業ロールの姿勢が不安定になることはない。
【００３２】
ここまでは、主に解決課題の一つである大きなロール開度を得る観点から、本発明に係る圧延機の構造について説明してきた。
次に、この構造によれば、もう一つの解決課題である強力なロールベンディング力の付与についても容易に達成することができることを説明する。
【００３３】
図１に示すように、本発明に係る厚板圧延機では、圧延機のハウジング９から、その内側方向に突出するプロジェクトブロック５−１、５−２に、大容量・大ストロークの下インクリースベンディング装置６−３、６−４を配備することができる。
【００３４】
すなわち、下作業ロール１−２の胴部に負荷される圧延方向力を、下作業ロールチョック３−２とプロジェクトブロック５−２との接触面によって支持する構造とした本発明に係る圧延機によれば、大きなロール開度をとることができるとともに、強力なロールベンディング力の付与もできる。
【００３５】
また、作業ロールの組み換え作業の度に、下インクリースベンディング装置の油圧配管を着脱する必要がない。このために、それぞれのインクリースベンディング装置６−３、６−４には、固定油圧配管を介してそれぞれの油圧制御弁に接続することができ、高応答油圧制御のためのサーボバルブを採用することができる。したがって、応答性の高いインクリースベンディング装置とすることができる。
【００３６】
この下インクリースベンディング装置の特性を活かして、作業ロール及び／又は補強ロールに、適宜の凸型のイニシャルボディクラウンを付与しておき、圧延機の特性を予め、インクリースベンディング側に振っておくことにより、ロール同長の大きな厚板圧延機であっても、ロールへのエッジマークの発生を避けながら、強力なベンディング力を負荷することができ、圧延操業時における板クラウン・形状制御幅を拡大することができる。
【００３７】
本発明に係る圧延機を用いて圧延を行う際は、板クラウン・形状制御の目的で、作業ロールにベンディング力を作用させる場合や、圧延開始時および圧延終了時のロールベンディング力の変更を、応答性の高いインクリースベンディング装置を用いることで、応答性に若干の問題があるディクリースベンディング装置の保障を行うことで、トータルのベンディング力制御を高応答化することができる。
図２に概念図を示すように、被圧延材の板幅が２５００ｍｍ以下の素材を主として対象とする熱延用等の薄板圧延機に対して、被圧延材の板幅が２５００ｍｍを超えることもある厚板圧延機は、ロール胴長が相対的に長く、同一幅の被圧延材に対して同じクラウン制御量を付与するために、同じ作業ロール−被圧延材間の面圧Ｐｗｍ分布を与えるようにインクリースベンディング力を負荷した場合、ロール胴長が相対的に短い熱延用の薄板圧延機と比較して、大きなロール撓みを必要とし、作業ロール−補強ロール間の面圧Ｐｗｂ（作業ロール曲げに対する抵抗）分布が大となって、インクリースベンディング力による板クラウン・形状制御上不利になってしまう。
【００３８】
本発明では、図３に、その概念図を示すように、補強ロールチョックに配備したディクリースベンディング装置によって作業ロールにディクリースベンディング力を作用させることにより、熱延用等の薄板圧延機に比較して相対的に胴長の長い、すなわち、モーメントアームＬｍの長い厚板圧延機の特徴を利用して、作業ロール−補強ロール間の面圧Ｐｗｂ（作業ロール曲げに対する抵抗）分布を小さい値に保ったまま、単位ディクリースベンディング力当たりの板クラウン・形状制御能力を増大している。このとき、作業ロールに、例えばロール端部での直径減少値で、１〜２ｍｍ程度の、２次曲線による適宜の凸型イニシャルボディクラウンを付与しておくことにより、予め、圧延機の特性をインクリースベンディング側に振っておくことで、ディクリースベンディング力の効果を一層増大させることも可能である。
【００３９】
表１は、インクリースベンディング装置に加え、ディクリースベンディング装置を備えた本発明に係る圧延機によって、広幅と狭幅の被圧延材を厚さ２０ｍｍから１６ｍｍへと圧下率２０％で圧延した場合の板クラウン制御能力を比較したものであり、図４は、インクリースベンディング力とディクリースベンディング力による板クラウン制御範囲を示したものである。
【００４０】
【表１】
表１及び図４から明らかなように、従来のインクリースベンダーのみを備えた圧延機と比較して、ディクリースベンダーをも具備した本発明に係る圧延機においては、板クラウン制御範囲が格段に広がっており、特に同図の（２）に示されるように、幅広ロールを用いて、幅の狭い被圧延材を圧延した場合においては、ディクリースベンディング力による板クラウン制御範囲が非常に大となっているので、前述したように、圧延機のイニシャルロールクラウンを予めインクリース側に振っておくこと、換言すれば、ベンディング力無負荷状態で、圧延機のロールがインクリースベンディング力をやや掛けた状態となるようなイニシャルロールクラウンとすることで、ディクリースベンディング力の広い負荷範囲を有効に活用することが可能となり、フラット近傍を中立点として非常に広範囲にわたって板クラウンを制御することが可能となる。
その結果、板クラウン・形状制御が問題となる熱延薄板の圧延においても、作業ロールと補強ロール間のエッジマークの発生等を抑制しながら、良好な板クラウン・形状制御能力を獲得している。
【産業上の利用可能性】
【００４１】
本発明は、鋼板の圧延、特に大開度を必要とするリバース圧延機として、また、強力な板クラウン・形状制御を必要とする圧延機として、極厚の板材から薄板に至る領域までの圧延機を提供することができる。
【符号の説明】
【００４２】
１−１ 上作業ロール
１−２ 下作業ロール
２−１ 上補強ロール
２−２ 下補強ロール
３−１ 上作業ロールチョック
３−２ 下作業ロールチョック
４−１ 上補強ロール
４−２ 下補強ロール
５−１ 入側プロジェクトブロック
５−２ 出側プロジェクトブロック
６−１ 入側上インクリースベンディング装置
６−２ 出側上インクリースベンディング装置
６−３ 入側下インクリースベンディング装置
６−４ 出側下インクリースベンディング装置
７−１ 入側上ディクリースベンディング装置
７−２ 出側上ディクリースベンディング装置
７−３ 入側下ディクリースベンディング装置
７−４ 出側下ディクリースベンディング装置
８−１ 入側補強ロールバランス装置
８−２ 出側補強ロールバランス装置
９ ハウジング
１０ 被圧延材
１１ 圧下装置
１２ ハウジングウィンドウ
【特許請求の範囲】
【請求項１】
上下一対の作業ロールと、これらをそれぞれ支持する上下一対の補強ロールを有する板幅２５００ｍｍ以上の金属板材を圧延することができる厚板圧延機であって、上補強ロールチョックから延出するアーム部が、上作業ロールチョックを抱え込む形式であって、上作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを該上補強ロールチョックから延出するアーム部に配備し、下作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを、圧延機ハウジングの内側に突出したプロジェクトブロックに配備するとともに、上作業ロールにディクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを上補強ロールチョック内に配備することを特徴とする厚板圧延機。
【請求項２】
下作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーが、上作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーよりも、強力・大容量であることを特徴とする請求項１に記載の厚板圧延機。
【請求項３】
さらに、下補強ロールチョックに、下作業ロールにディクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを配備することを特徴とする請求項１または２に記載された金属板材の厚板圧延機。
【請求項４】
請求項１〜３の何れか１項に記載された厚板圧延機において、作業ロール又は補強ロールにイニシャルボディクラウン（凸型）を付与しておき、ロールベンディングによる制御範囲をインクリースベンディング側にずらしておくことを特徴とする金属板材の厚板圧延機。
【請求項１】
上下一対の作業ロールと、これらをそれぞれ支持する上下一対の補強ロールを有する板幅２５００ｍｍ以上の金属板材を圧延することができる厚板圧延機であって、上補強ロールチョックから延出するアーム部が、上作業ロールチョックを抱え込む形式であって、上作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを該上補強ロールチョックから延出するアーム部に配備し、下作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを、圧延機ハウジングの内側に突出したプロジェクトブロックに配備するとともに、上作業ロールにディクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを上補強ロールチョック内に配備することを特徴とする厚板圧延機。
【請求項２】
下作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーが、上作業ロールにインクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーよりも、強力・大容量であることを特徴とする請求項１に記載の厚板圧延機。
【請求項３】
さらに、下補強ロールチョックに、下作業ロールにディクリースベンディング力を負荷する油圧シリンダーを配備することを特徴とする請求項１または２に記載された金属板材の厚板圧延機。
【請求項４】
請求項１〜３の何れか１項に記載された厚板圧延機において、作業ロール又は補強ロールにイニシャルボディクラウン（凸型）を付与しておき、ロールベンディングによる制御範囲をインクリースベンディング側にずらしておくことを特徴とする金属板材の厚板圧延機。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【公開番号】特開２０１２−１５７８７６（Ｐ２０１２−１５７８７６Ａ）
【公開日】平成２４年８月２３日（２０１２．８．２３）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２０１１−１８４２８（Ｐ２０１１−１８４２８）
【出願日】平成２３年１月３１日（２０１１．１．３１）
【出願人】（０００００６６５５）新日本製鐵株式会社 (6,474)
【公開日】平成２４年８月２３日（２０１２．８．２３）
【国際特許分類】
【出願日】平成２３年１月３１日（２０１１．１．３１）
【出願人】（０００００６６５５）新日本製鐵株式会社 (6,474)
[ Back to top ]