説明

金属溶解酸排液の処理方法

【課題】焙焼法に代わる簡易で安価な酸洗排液処理法を提供する。
【解決手段】排液を蒸発装置6で濃縮し、濃縮液は水洗槽3の水洗排水で希釈調整して原
水とし、これを中和槽10で中和し、生成した不溶化物は沈殿槽11で分離し、分離され
た不溶化物の一部は混合槽13でアルカリと混合して中和剤を調製して中和槽に添加し、
分離された不溶化物の残部は、洗浄脱水機15で脱水して脱塩ケーキ16を得る。蒸発し
た塩化水素は冷却して凝縮槽8に回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄工場や金属材加工工場などにおける揮発性酸による酸洗工程から排出さ
れる金属溶解酸排液の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、製鉄工場や鉄材加工工場などの酸洗工程から排出される鉄材の塩酸酸洗排液は、
鉄を溶解している塩酸排液であり、噴霧焙焼法や、濃縮後に鉄源を溶解して焙焼する方法
により、塩酸の回収と酸化鉄の製造が行われている。
【0003】
例えば、特公平2−10768には、鋼材の酸洗工程で生成する廃塩酸を蒸発濃縮し、
濃縮した廃塩酸中に鉄源を溶解させて鉄濃度を高くした後、焙焼して酸化鉄を製造すると
ともに、蒸発濃縮工程で蒸発した水分と塩化水素ガスを冷却して塩酸を回収することが開
示されている。
【特許文献1】特公昭2−10768
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に例示される酸洗排液処理技術は、高品質の酸化鉄を製造できるものの、焙
焼炉を使用するため、燃料費が嵩むとともに、設備も大型になり、ダストが発生するため
サイクロン等の付随設備が必要であった。
【0005】
そこで、焙焼法に代わる簡易で安価な酸洗排液処理技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、金属材の塩酸や硝酸などの揮発性酸に
よる酸洗工程から排出される酸洗排液から金属分を分離するとともに、揮発性酸を回収
することを目的とする。
【0007】
(1)金属材の揮発性酸による酸洗工程から排出される金属溶解酸排液を蒸発濃縮して
揮発性酸を含むガス分と、残留する揮発性酸と濃縮された金属イオンを含む濃縮液とに分
離する蒸発処理工程と、前記濃縮液を、前記酸洗工程の次工程である金属材の水洗工程か
ら排出される水洗排水で希釈して前記金属イオンの濃度を希釈調整する希釈調整工程と、
該希釈調整工程の希釈調整液を中和剤で中和する中和工程と、該中和工程で生成する金属
を含む不溶化物と処理水とに固液分離する固液分離工程と、前記不溶化物の一部をアルカ
リ剤と混合して前記中和剤を調製する中和剤調製工程とを有することを特徴とする金属溶
解酸排液の処理方法。
【0008】
(2)前記ガス分は、冷却して揮発性酸を含む凝縮水とし、これを前記酸洗工程に供給
する(1)に記載された金属溶解酸排液の処理方法。
【0009】
(3)前記不溶化物は、脱水して酸化金属原料として回収する(1)に記載された金属溶解酸排液の処理方法。
【0010】
本明細書において「金属材」とは、鉄・銅等の金属の板状、線状等の形状を問わず、金
属製品全般の原材料を指す。金属材は、不揮発性の硫酸のほかに、塩酸や硝酸等の揮発性
酸による表面洗浄と水洗を経て金属製品となるが、表面洗浄のための揮発性酸による酸洗
工程からは大量の揮発性酸排液が発生するとともに、その後の水洗工程からも大量の水洗
排水が発生する。
【0011】
塩酸による鉄材の酸洗を例に挙げると、酸排液は、通常、塩酸20〜200g/Lと、
鉄(Feとして)30〜150g/Lを含んでおり、また、水洗排水は、塩酸100〜10
00mg/Lと、鉄(Feとして)100〜1000mg/Lを含んでいる。
【0012】
塩酸排液(以下単に「排液」ということがある。)は、一旦貯槽に受けて均一化を図っ
た後、蒸発装置で加熱され、含有する塩酸の大半は、水蒸気とともに塩化水素ガスとなっ
て蒸発し、排液は濃縮され濃縮液となる(蒸発処理工程)。排液は塩化鉄の結晶が析出し
ない程度に濃縮する。蒸発する塩化水素ガスは水蒸気とともに熱交換器等で冷却され凝縮
液となり、塩酸水溶液が生成する。
【0013】
上記濃縮液は、鉄材の塩酸酸洗工程の次工程である鉄材の水洗工程から排出される水洗
排水で希釈して第一鉄イオンの濃度を2000〜20000mg/L程度に希釈調整する
(希釈調整工程)。この希釈調整液は、後述する中和剤で中和する(中和工程)。中和に
より生成する鉄を含む不溶化物は、沈殿槽等の固液分離装置で固液分離し、分離水は処理
水として排出する(固液分離工程)。
【0014】
固液分離された不溶化物は、その一部がアルカリ剤を混合し、上述の中和剤を調製する
(中和剤調製工程)。この中和剤は、鉄を含む不溶化物のまわりにアルカリ剤がまぶされ
た状態になっており、これを用いて前記希釈調整液を中和すると、中和生成物が不溶化物
のまわりに析出して、固液分離性の優れた新たな不溶化物となる。アルカリ剤としては、
水酸化カルシウム、水酸化ナトリウムを使用することができる。なお、固液分離された不
溶化物の残部は脱水し、必要に応じて造粒乾燥してフェライト等の原料に供される。
【0015】
アルカリ剤と混合して中和剤を調整する際の不溶化物の量は、中和されて新しく生成さ
れる不溶化物の5〜30倍、好ましくは10〜20倍とするのが望ましい。
【0016】
前述の塩化水素ガスが冷却されて凝縮し、生成された塩酸水溶液は、サービスタンクに
貯留し、必要に応じて新塩酸を補給した後、前記塩酸酸洗工程に供給する。
【0017】
以上鉄材の塩酸洗浄の例を述べたが、銅材の硝酸洗浄の場合も同様に銅を含む不溶化物
および硝酸の回収を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
金属材の揮発性酸による酸洗工程から排出される金属溶解酸排液を蒸発処理して得られ
る金属イオンを含む濃縮液を、前記酸洗工程の次工程である金属材の水洗工程から排出さ
れる水洗排水で希釈して前記金属イオンの濃度を希釈調整した後、中和剤で中和し、中和
剤は中和で生成する金属を含む不溶化物一部をアルカリ剤と混合して混合物として添加す
るので、新たに生成する不溶化物は、緻密で脱水性に富むものとなり、簡素で安価な処理
が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係
る鉄溶解塩酸排液の処理方法に用いる処理設備の模式図である。
【0020】
処理設備は、酸洗槽2、水洗槽3、排液タンク5、蒸発装置6、濃縮液貯槽7、凝縮液
槽9、原水槽9、中和槽10、沈殿槽11、混合槽13、脱水機15およびサービスタン
ク17で構成される。なお、図1において、1は鉄材、4は製品、14はアルカリ(水酸
化カルシウム)、16はケーキ、18は新塩酸である。
【0021】
鉄材1は、酸洗槽2で塩酸洗浄された後、水洗槽3で水洗され、製品4が製造される。
酸洗槽2からは、鉄溶解塩酸排液が排出され、排液タンク5に一旦貯留される。貯留され
て均一化が図られた排液は、蒸発装置6内で加熱蒸気等の熱源(図示せず)で加熱され、
含有する塩酸の大半は、水蒸気とともに塩化水素ガスとなって蒸発し、排液は濃縮され濃
縮液となる(蒸発処理工程)。排液は塩化鉄の結晶が析出しない程度に濃縮する。濃縮液
は、濃縮液貯槽7に貯留され、蒸発する塩化水素ガスは水蒸気とともに熱交換器(図示せ
ず)で冷却され凝縮液となり、塩酸水溶液が生成する。この凝縮液は、凝縮液槽8に貯留
する。
【0022】
上記濃縮液は、水洗槽3から排出される水洗排水で希釈して第一鉄イオンの濃度を10
0〜1000mg/L程度に希釈調整する(希釈調整工程)。この希釈調整液は、原水槽
9に送給される。次に希釈調整された原水は、中和槽10で後述する中和剤で中和する(
中和工程)。中和により生成する鉄を含む不溶化物は、沈殿槽11で沈殿分離され、上澄
水は処理水12として排出する(固液分離工程)。
【0023】
分離された不溶化物は、その一部には混合槽13でアルカリ剤14(水酸化カルシウム
)を混合し、上述の中和剤を調製する(中和剤調製工程)。この中和剤は、鉄を含む不溶
化物のまわりに水酸化カルシウムがまぶされた状態になっており、これを用いて原水を中
和すると、中和生成物が不溶化物のまわりに析出して、沈殿性の優れた新たな不溶化物と
なる。分離された不溶化物の残部は洗浄しながら脱水する洗浄脱水機15で脱水し、脱塩
ケーキ16を得る。ケーキ16は必要に応じて造粒乾燥してフェライト等の原料に供され
る。
【0024】
前述の塩化水素ガスが冷却されて凝縮し、生成された塩酸水溶液は、サービスタンク1
7に貯留し、必要に応じて新塩酸18を補給した後、酸洗槽2に供給する。
【実施例1】
【0025】
[実施例1]
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳しく説明する。実施例1として、図1に示す処
理設備を用い、塩酸30g/Lおよび第一鉄イオン140g/Lを含む鉄溶解塩酸排液6L
を被処理液として実験を行った。
【0026】
排液を蒸発装置6で濃縮し、塩酸15g/Lと第一鉄290g/Lを含む濃縮液2.9L
を得た。凝縮液は3.1Lで塩酸50g/Lを含み、第一鉄イオンは含んでいなかった。濃
縮液2.9Lは、水洗排水(塩酸200mg/L、第一鉄イオン700mg/L)50.1L
で希釈し、第一鉄イオンを約16g/L含む原水53Lを調製した。原水槽9から中和槽1
0に原水を5.3L/hrで送給するとともに、沈殿槽11で分離された不溶物1.3L/
hr(固形物濃度:100g/L)と水酸化カルシウム120g/hrとを混合槽13で
混合した中和剤を中和槽10に供給して中和を行い、沈殿槽11で生成した不溶物の沈殿
分離を行った。沈殿槽11で分離された不溶物の一部は、1日に10L引き抜き、洗浄脱
水機15で脱水したところ、含水率40%、鉄分(FeO・OH)をFeとして800g含み、
塩素をClとして水分中に100mg/L含む脱水脱塩ケーキを得た。
【0027】
上記試験から示されるように、本発明によれば金属溶解酸排液から揮発性酸と酸化金属
原料を簡素な設備で回収できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、金属材の揮発性酸による酸洗工程から排出される金属溶解酸排液の処理方法
として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る鉄溶解塩酸排液の処理方法に用いる処理設備の模式図である。
【符号の説明】
【0030】
1 鉄材
2 酸洗槽
3 水洗槽
4 製品
5 排液タンク
6 蒸発装置
7 濃縮液貯槽
8 凝縮液槽
9 原水槽
10 中和槽
11 沈殿槽
12 処理水
13 混合槽
14 アルカリ(水酸化カルシウム)
15 洗浄脱水機
16 ケーキ
17 サービスタンク
18 新塩酸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材の揮発性酸による酸洗工程から排出される金属溶解酸排液を蒸発濃縮して揮発性
酸を含むガス分と、残留する揮発性酸と濃縮された金属イオンを含む濃縮液とに分離する
蒸発処理工程と、
前記濃縮液を、前記酸洗工程の次工程である金属材の水洗工程から排出される水洗排水
で希釈して前記金属イオンの濃度を希釈調整する希釈調整工程と、
該希釈調整工程の希釈調整液を中和剤で中和する中和工程と、
該中和工程で生成する金属を含む不溶化物と処理水とに固液分離する固液分離工程と、
前記不溶化物の一部をアルカリ剤と混合して前記中和剤を調製する中和剤調製工程とを
有することを特徴とする金属溶解酸排液の処理方法。
【請求項2】
前記ガス分は、冷却して揮発性酸を含む凝縮水とし、これを前記酸洗工程に供給する請
求項1に記載された金属溶解酸排液の処理方法。
【請求項3】
前記不溶化物は、脱水して酸化金属原料として回収する請求項1に記載された金属溶解酸排液の処理方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−229639(P2007−229639A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55412(P2006−55412)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】