説明

金属空気電池

【課題】放電の際に正極上に金属炭酸塩が生成されることを防止するとともに、電解液が正極を浸透して漏出することを防止する。
【解決手段】金属空気電池1は、金属を含むとともに放電の際に金属イオンを生成する負極3、導電性を有するペロブスカイト型酸化物、および、酸素還元反応を促進する触媒を含むとともに炭素を含まず、放電の際に酸素イオンを生成する多孔質の正極2、負極3と正極2との間に配置される電解質層4、並びに、正極2に設けられ、電解質層4に含まれる電解液に対する撥液性を有する撥液層29を備える。炭素を含有しない正極2を用いることにより、放電の際に正極2上に金属炭酸塩が生成されることを防止することができる。また、撥液層29が正極2に設けられることにより、電解液が正極2を浸透して漏出することを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属を負極の活物質とし、空気中の酸素を正極の活物質とする金属空気電池が知られている。例えば、特許文献1では、正極と負極との間に電解質含有層が設けられる金属空気電池において、電解質にイオン液体、無機微粒子および電解質塩を含有させることが提案されている。また、特許文献2では、非水電解液中に正極および負極が配置される金属空気電池において、空気中の酸素を酸素イオン伝導性の固体電解質を介して正極に供給する酸素ポンプを設けることが提案されている。
【0003】
特許文献3のリチウム空気二次電池では、正極が酸素の吸放出能を有する正極触媒、炭素材料および有機バインダ(炭素繊維等)を含有し、負極が板状のリチウムにより形成される。正極触媒としては、二酸化マンガン(MnO)やペロブスカイト型酸化物等が利用される。特許文献4のリチウム空気二次電池では、正極が炭素(C)を主体とするガス拡散型酸素電極であり、負極が金属リチウムあるいはリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な物質から形成される。また、正極は、20〜60重量%のペロブスカイト型構造を有する鉄(Fe)系の酸化物を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−66202号公報
【特許文献2】特開2009−230981号公報
【特許文献3】特開2008−112724号公報
【特許文献4】特開2009−283381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1ないし特許文献4の金属空気電池では、正極が導電性物質として炭素を含むため、放電の際に負極金属の炭酸塩である炭酸リチウム(LiCO)等が正極上に析出する。このような金属空気電池では、充電の際に炭酸リチウムを電気分解してイオン化するために大きなエネルギーが必要であるため、充電電圧が高くなってしまう。
【0006】
一方、金属空気電池では、正極が多孔質部材とされるため、電解液が正極を浸透して漏出する虞がある。電解液が漏出した場合、電池性能(電池容量等)が著しく低下してしまう。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、放電の際に正極上に金属炭酸塩が生成されることを防止するとともに、電解液が正極を浸透して漏出することを防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、金属空気電池であって、金属を含むとともに放電の際に金属イオンを生成する負極と、導電性を有するペロブスカイト型酸化物、および、酸素還元反応を促進する触媒を含むとともに炭素を含まず、放電の際に酸素イオンを生成する多孔質の正極と、前記負極と前記正極との間に配置される電解質層と、前記正極に設けられ、前記電解質層に含まれる電解液に対する撥液性を有する撥液層とを備える。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の金属空気電池であって、前記負極、前記正極、前記電解質層および前記撥液層が、同心の有底円筒状である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の金属空気電池であって、前記正極が、支持部と、前記支持部上に前記ペロブスカイト型酸化物にて形成された導電膜と、前記導電膜上に前記触媒により形成された触媒層とを備える。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の金属空気電池であって、前記撥液層が、前記導電膜および前記触媒層に対して前記電解質層とは反対側に設けられる多孔質部材である。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の金属空気電池であって、前記触媒層がフラクタル構造を有し、前記導電膜と前記電解質層との間に配置されるとともに、前記撥液層を兼ねる。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項3に記載の金属空気電池であって、前記触媒層において前記触媒が多数の島状または多孔質状に形成され、前記触媒間に前記電解液に対する撥液性を有する材料が付与されており、前記触媒層が前記導電膜と前記電解質層との間に配置されるとともに、前記撥液層を兼ねる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、放電の際に正極上に金属炭酸塩が生成されることを防止するとともに、電解液が正極を浸透して漏出することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施の形態に係る金属空気電池の縦断面図である。
【図2】金属空気電池の横断面図である。
【図3】金属空気電池の他の例の横断面図である。
【図4】第2の実施の形態に係る金属空気電池の縦断面図である。
【図5】金属空気電池の横断面図である。
【図6】第3の実施の形態に係る金属空気電池の横断面図である。
【図7】第4の実施の形態に係る金属空気電池の横断面図である。
【図8】第5の実施の形態に係る金属空気電池の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る金属空気電池1を示す縦断面図である。金属空気電池1は略円筒状であり、図1は、金属空気電池1の中心軸J1を含む断面を示す。図2は、金属空気電池1を図1中のA−Aの位置にて切断した横断面図である。図1および図2に示すように、金属空気電池1は、正極2、負極3、電解質層4および空気導入管5を備える二次電池であり、中心軸J1から径方向の外側に向かって、空気導入管5、正極2、電解質層4および負極3の順に同心円状に配置される。換言すれば、金属空気電池1は、外周に負極3が配置され、内周に正極2が配置される略円筒状である。
【0017】
正極2は、略有底円筒状の多孔質部材であり、それぞれが略有底円筒状の正極支持部21、正極導電層22および正極触媒層23を備える。金属空気電池1は、後述の電解液に対する撥液性(本実施の形態では、水系の電解液に対する撥水性)を有する多孔質の撥液層29をさらに備え、撥液層29は正極2に設けられる。詳細には、撥液層29は正極支持部21の外側面上および外底面上に積層される。また、正極導電層22は撥液層29の外側面上および外底面上に積層され、正極触媒層23は正極導電層22の外側面上および外底面上に積層される。正極2では、正極導電層22の外側面の一部において、正極触媒層23に代えて正極集電体24が設けられ、図1に示すように、正極集電体24の上端に正極集電端子25が接続される。正極2および正極集電体24には炭素(C)は含まれない。
【0018】
正極支持部21は、例えばアルミナ(酸化アルミニウム:Al)やジルコニア等のセラミック、あるいは、ステンレス鋼等の金属により形成される多孔質部材であり、本実施の形態では、正極支持部21は絶縁体であるアルミナにより形成される。正極支持部21の形成は、押し出し成形、CIP(Cold Isostatic Press:冷間等方圧プレス)および焼成、または、HIP(Hot Isostatic Press:熱間等方圧プレス)等により行われる。
【0019】
正極支持部21上の正極導電層22は、導電性を有するペロブスカイト型酸化物(通常は粉体状)により主に形成される多孔質の薄い導電膜であり、好ましくは、化学式A1−xBO(0.9≦1−x<1.0)にて表されるペロブスカイト型酸化物により形成される。本実施の形態では、正極導電層22はランタン系のペロブスカイト型酸化物(具体的には、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM:La(Sr)MnO)やランタンストロンチウムコバルタイト(LSC:La(Sr)CoO)等のAサイトにランタンを含むペロブスカイト型酸化物)により形成される。正極導電層22の形成は、スラリーコート法、水熱合成法、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学蒸着)またはPVD(Physical Vapor Deposition:物理蒸着)等により行われる。
【0020】
正極触媒層23は、酸素還元反応を促進する触媒であるマンガン(Mn)やニッケル(Ni)、コバルト(Co)等の金属酸化物により主に形成される多孔質部材である。正極触媒層23は、白金(Pt)やパラディウム(Pd)、銀(Ag)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)のような貴金属、または、これらの貴金属と上記金属酸化物との混合物により形成されてもよい。本実施の形態では、正極触媒層23はβ型(ルチル型)の結晶構造を有する二酸化マンガン(MnO)により形成される。正極触媒層23の形成は、スラリーコート法および焼成、水熱合成法、CVDまたはPVD等により行われる。
【0021】
また、正極支持部21と正極導電層22との間に配置される撥液層29は、撥水性を有する材料にて形成され、正極導電層22の形成時に高温となる場合には、高い耐熱性を有するセラミック系材料(例えば、酸化物セラミック)が用いられる。本実施の形態では、シリカ(二酸化ケイ素:SiO)やシリカ複合材料にて形成される多孔質膜が撥液層29として用いられる。また、撥水性を有していない多孔質部材に、飽和フルオロアルキル基(特に、トリフルオロメチル基(CF))、アルキルシリル基、フルオロシリル基、長鎖アルキル基等の官能基を有する物質を被覆することにより、撥液層29が形成されてもよい。
【0022】
図1および図2に示すように、負極3は、略有底円筒状の負極支持部31、および、負極支持部31の内側面上および内底面上に積層された略有底円筒状の負極導電層32を備える。負極支持部31は、金属等の導電性材料(本実施の形態では、ステンレス鋼)により形成された負極集電体であり、負極支持部31の外側面には、図1に示すように負極集電端子33が設けられる。負極導電層32は、亜鉛(Zn)やリチウム(Li)等の金属、または、当該金属を含む合金により形成された薄い導電膜であり、本実施の形態では、負極導電層32は亜鉛または亜鉛合金により形成される。負極導電層32の形成は、例えば、スラリーコート法により行われる。
【0023】
電解質層4は、水系の電解質により形成され、本実施の形態では、水酸化カリウム(KOH)を含む電解液(電解質溶液とも呼ばれる。)が正極2と負極3との間に充填される(配置される)ことにより形成される。電解質層4は、正極2の正極触媒層23、正極集電体24、および、負極3の負極導電層32に接する。電解質層4の上面は、正極支持部21の外側面および負極支持部31の内側面に接する略円環状の中蓋51により閉塞され、中蓋51の上方には、中蓋51と同形状の上蓋52が設けられて略有底円筒状の負極3の上部開口が閉塞される。なお、電解質層4に含まれる電解液は、他の水系電解液や、非水系(例えば、有機溶剤系)電解液であってもよい。
【0024】
空気導入管5は、略有底円筒状の正極2の内側に配置され、空気導入管5の下端は正極2の正極支持部21の底部近傍に位置する。空気導入管5の上端は、空気から水分および二酸化炭素を除去する除去部53に接続される。除去部53では、膜分離法または吸着により空気中の水分および二酸化炭素の除去が行われる。除去部53からの空気(すなわち、水分および二酸化炭素が除去された空気)は、空気導入管5により正極2の内側において底部近傍へと導かれ、正極2へと供給されつつ正極2の内側面に沿って上昇して正極2の上部開口から外部へと排出される。金属空気電池1では、空気導入管5が、除去部53からの空気を正極2に供給するガス供給部となる。正極2に供給された空気は、それぞれが多孔質部材である正極支持部21、撥液層29および正極導電層22を通過して正極触媒層23へと供給される。金属空気電池1では、原則として、多孔質の正極触媒層23において空気と電解液との界面が形成される。
【0025】
図1の金属空気電池1において放電が行われる際には、負極集電端子33と正極集電端子25とが負荷(例えば、照明器具等)を介して電気的に接続される。負極3では、負極導電層32に含まれる金属が酸化されて金属イオン(ここでは、亜鉛イオン(Zn2+))が生成され、電子は負極集電端子33、正極集電端子25および正極集電体24を介して正極2に供給される。正極2では、空気導入管5により供給された空気中の酸素が、負極3から供給された電子により還元されて酸素イオン(O2−)が生成される。正極2では、正極触媒層23に含まれる正極触媒により酸素イオンの生成(すなわち、酸素の還元反応)が促進されるため、当該還元反応に消費されるエネルギーによる過電圧が小さくなり、金属空気電池1の放電電圧を高くすることができる。正極2にて生成された酸素イオンは、負極3から電解質層4中に溶解した金属イオンと結合し、これにより金属酸化物が生成される。
【0026】
一方、金属空気電池1において充電が行われる際には、負極集電端子33と正極集電端子25との間に電圧が付与され、正極2において金属酸化物が分解されるとともに酸素イオンから正極集電体24を介して正極集電端子25へと電子が供給されて酸素が発生する。負極3では、負極集電端子33に供給される電子により金属イオンが還元されて負極導電層32の表面に金属が析出する。正極2では、正極触媒層23に含まれる正極触媒により酸素の発生が促進されるため、過電圧が小さくなり、金属空気電池1の充電電圧を低くすることができる。
【0027】
ところで、通常の金属空気電池の正極は、導電性を得るための炭素が主体とされ、当該炭素に酸素の還元反応を促進する正極触媒が添加されている。しかしながら、このような金属空気電池では、放電の際に生成される金属イオンが金属炭酸塩として正極上に析出し、充電の際に金属炭酸塩を電気分解してイオン化するために大きなエネルギーが必要であるため、充電電圧が高くなってしまう。
【0028】
これに対し、本実施の形態に係る金属空気電池1では、ペロブスカイト型酸化物にて形成された正極導電層22上に正極触媒層23を形成することにより、炭素を含有しない正極2を実現することができる。これにより、放電の際に正極2上に金属炭酸塩が生成されることを防止することができ、金属空気電池1の充電電圧を低くすることができる。また、正極導電層22が、導電性が高いランタン系のペロブスカイト型酸化物を含んでいるため、金属空気電池1の放電電圧を高くすることができる。さらに、正極導電層22に含まれるペロブスカイト型酸化物が化学式A1−xBO(0.9≦1−x<1.0)にて表されるものであることにより、正極導電層22が水分により劣化してしまうことを防止し、金属空気電池1の耐久性を向上することができる。
【0029】
金属空気電池1では、正極2の正極導電層22が、正極支持部21により支持(担持)される薄い導電膜であるため、比較的高価なペロブスカイト型酸化物の使用量を低減することができる。その結果、金属空気電池1の製造コストを低減することができる。
【0030】
また、金属空気電池1では、電解質層4に含まれる電解液に対する撥液性を有する撥液層29が、正極導電層22および正極触媒層23に対して電解質層4とは反対側に設けられることにより、仮に、電解液が正極触媒層23および正極導電層22を浸透(通過)したとしても、電解液が正極支持部21の内側に(すなわち、空気導入管5の近傍に)漏出することを防止することができる。さらに、撥液層29が多孔質部材であることにより、正極導電層22および正極触媒層23への空気の供給を可能としつつ、電解液の漏出(漏液)を防止することができる。
【0031】
上述のように、金属空気電池1は、負極3および正極2がそれぞれ外周および内周に配置される円筒状であるため、金属空気電池1の大型化が要求される場合であっても、負極導電層32や正極導電層22のような薄膜状の層を容易に形成することができる。すなわち、金属空気電池1の大型化に容易に対応することができる。また、負極3、正極2、電解質層4および撥液層29が、同心の有底円筒状であることにより、正極2の側面および底面の双方において電解液の漏出を防止することができる。さらに、空気導入管5により、二酸化炭素が除去された空気が正極2に供給されることにより、空気中の二酸化炭素と金属イオンとが反応して正極2に金属炭酸塩が付着することが防止される。
【0032】
金属空気電池1では、電解質層4の水系電解液に無機微粒子(フィラー)が添加されてもよい。無機微粒子としては、アルミナや二酸化ケイ素(SiO)、二酸化チタン(TiO)、ゼオライト、ペロブスカイト型酸化物等の無機酸化物が好ましく、特に、Si比が高い(例えば、Si/Alが2以上の)ゼオライト粒子がより好ましい。電解質層4の電解液が無機微粒子を含むことにより、金属空気電池1の内部抵抗が低減して電池容量が増大するとともに、金属空気電池1からの漏液が防止される。なお、後述の第2ないし第5の実施の形態に係る金属空気電池においても、電解質層に含まれる電解液が無機微粒子を含むことにより、上記と同様の効果(すなわち、電池容量の増大および漏液防止)を得ることができる。
【0033】
図3は、金属空気電池1の他の例を示す図であり、図2に対応する図である。図3の金属空気電池1では、正極導電層22は正極支持部21の外側面上および外底面上に積層され、正極触媒層23aは正極導電層22の外側面上および外底面上に積層される。すなわち、図3の正極2aでは、図2中の撥液層29が省略される。また、正極触媒層23aはフラクタル構造を有している。具体的には、正極導電層22の外側面および外底面の各面において、触媒(ここでは、二酸化マンガン)が当該面にほぼ垂直となる多数の針状に形成されており、これにより、正極触媒層23aが撥水性を有する。正極触媒層23aは、例えば、水熱合成法により形成される。
【0034】
このように、図3の金属空気電池1では、正極導電層22と電解質層4との間に配置される正極触媒層23a(の触媒)がフラクタル構造を有する。これにより、正極触媒層23aが撥液層を兼ねて電解液の内側(正極導電層22側)への移動が遮られ、その結果、金属空気電池1の構造を簡素化しつつ、電解液が正極2aを浸透して漏出することが防止される。また、正極触媒層23aにおいて、電解液と空気との界面がより確実に形成されることにより、酸素還元反応をさらに促進することができる。なお、正極導電層22の外側面の一部(すなわち、正極触媒層23aが形成されない部位)には、正極集電体24が設けられるが、正極集電体24は密に形成されるため、電解液が正極集電体24を浸透することはない。すなわち、正極触媒層23aは、不透液性の部材と共に正極導電層22の外側面および外底面の全体を覆っているため、電解液が漏出することが防止される。もちろん、正極導電層22の外側面および外底面の全体に正極触媒層23aが形成され、正極集電体24が正極導電層22の上部や内側に設けられてもよい。
【0035】
また、正極導電層22の外側面および外底面上において、正極触媒層23aにおける触媒が、多数の島状または多孔質状に形成されてもよい。この場合、正極触媒層23aの触媒上に撥水性材料がコーティングされ、触媒が露出するまで撥水性材料の表面が削られる。これにより、(例えばマイクロメートルオーダの)多数の島状の触媒の周囲、または、多孔質状の触媒の孔部が撥水性材料にて充填され、正極触媒層23aが撥水性を有することとなる。撥水性材料として、例えば、テフロン(登録商標)等のフッ素樹脂や、セラミック系材料、あるいは、飽和フルオロアルキル基(特に、トリフルオロメチル基(CF))、アルキルシリル基、フルオロシリル基、長鎖アルキル基等の官能基を有する物質が用いられる。
【0036】
このように、正極導電層22と電解質層4との間に配置される正極触媒層23aにおいて、触媒が多数の島状または多孔質状に形成される場合には、電解液に対する撥液性を有する材料が触媒間に付与される。これにより、正極触媒層23aが撥液層を兼ねて電解液の内側への移動が遮られ、その結果、金属空気電池1の構造を簡素化しつつ、電解液が正極2aを浸透して漏出することが防止される。上記正極触媒層23a(フラクタル構造を有するものを含む。)は、後述の第2ないし第5の実施の形態において採用されてもよい。
【0037】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る金属空気電池について説明する。図4および図5は、第2の実施の形態に係る金属空気電池1aの縦断面図および横断面図であり、図5は、金属空気電池1aを図4中のB−Bの位置にて切断した図である。図4および図5では、図を簡素化するために、除去部53の図示を省略している(図6ないし図8においても同様)。
【0038】
金属空気電池1aでは、電解質層4と負極3との間にもう1つの電解質層6が配置され、電解質層4と電解質層6との間に隔壁層7が配置される。隔壁層7は、薄膜状の固体電解質であり、金属イオンのみを選択的に通過させる。その他の構成は、図1および図2に示す金属空気電池1と同様であり、以下の説明では、対応する構成に同符号を付す。また、2つの電解質層4,6を区別するために、電解質層4および電解質層6をそれぞれ、「第1電解質層4」および「第2電解質層6」という。
【0039】
図4および図5に示すように、第2電解質層6は、中心軸J1を中心とする略有底円筒状であり、負極3に接する。隔壁層7も略有底円筒状であり、第1電解質層4および第2電解質層6に接する。第2電解質層6は、非水系(例えば、有機溶剤系)または水系の電解液が負極3と隔壁層7との間に充填される(配置される)ことにより形成される。第2電解質層6の上面は、第1電解質層4の上面と同様に、略円環状の中蓋51(図4のみに図示する。)により閉塞される。本実施の形態では、第2電解質層6は、上記電解液を含浸させた多孔質ポリマであり、薄膜状の固体電解質である隔壁層7は、第2電解質層6の内側面上および内底面上にて第2電解質層6により支持(担持)される。すなわち、第2電解質層6は、隔壁層7を支持する隔壁支持層でもある。また、隔壁層7としては、化学式Lil+x+yTi2−xAl3−ySi12 にて表されるガラスセラミックス(LTAP)が利用される。
【0040】
金属空気電池1aにおいて放電が行われる際には、負極3の負極導電層32に含まれる金属が酸化されて金属イオンが生成され、電子は負極集電端子33、正極集電端子25および正極集電体24を介して正極2に供給される。負極集電端子33および正極集電端子25は図4のみに図示される。正極2では、空気導入管5により供給された空気中の酸素が、負極3から供給された電子により還元されて酸素イオンが生成され、酸素イオンが第1電解質層4に含まれる水と反応して水酸化物イオン(OH)が生成される。水酸化物イオンは、負極3から第2電解質層6中に溶解して第1電解質層4へと移動した金属イオンと共に金属水酸化物となる。金属水酸化物は水溶性であるため、第1電解質層4の水系電解液に溶ける。
【0041】
金属空気電池1aにおいて充電が行われる際には、負極集電端子33と正極集電端子25との間に電圧が付与され、正極2において水酸化物イオンから正極集電端子25へと電子が供給されて水と酸素が発生する。負極3では、負極集電端子33に供給される電子により金属イオンが還元されて負極導電層32の表面に金属が析出する。
【0042】
金属空気電池1aでは、第1の実施の形態と同様に、正極2が炭素を含有しないため、放電の際に正極2上に金属炭酸塩が生成されることを防止することができ、金属空気電池1aの充電電圧を低くすることができる。金属空気電池1aでは、特に、正極2と負極3との間に隔壁層7を設けることにより、充電の際に負極3上において金属が樹枝状に析出した場合に、樹枝状に析出した部位(いわゆる、デンドライト)の正極2に向けての成長を抑制することができる。その結果、デンドライトが正極2に到達して短絡が発生することを防止することができる。また、第2電解質層6により隔壁層7を支持することにより、薄膜状の隔壁層7の設置を容易とし、その結果、金属空気電池1aの小型化が実現される。さらに、隔壁層7が薄膜状であるため、隔壁層7を厚くする場合に比べてイオン導電率が増大される。
【0043】
また、金属空気電池1aでは、第1電解質層4の電解液に対して撥液性を有する多孔質の撥液層29が、第1電解質層4と接する正極2の正極支持部21と正極導電層22との間に設けられる。これにより、正極導電層22および正極触媒層23への空気の供給を可能としつつ、第1電解質層4に含まれる電解液が漏出することを防止することができる。
【0044】
次に、本発明の第3の実施の形態に係る金属空気電池について説明する。図6は、第3の実施の形態に係る金属空気電池1bの横断面図である。金属空気電池1bでは、図4および図5に示す金属空気電池1aの隔壁層7(固体電解質)に代えて、セパレータである隔壁層7aが設けられる。その他の構成は、図4および図5に示す金属空気電池1aと同様であり、以下の説明では、対応する構成に同符号を付す。
【0045】
隔壁層7aは、セラミックや金属、無機材料または有機材料等により形成された多孔質部材であり、金属イオンを選択的に通過させる電解質を孔内に保持する。隔壁層7aの形成は、押し出し成形、CIPおよび焼成、または、HIP等により行われる。金属空気電池1bにおける放電および充電の際の反応は、第2の実施の形態に係る金属空気電池1aと同様である。
【0046】
金属空気電池1bでは、第1および第2の実施の形態と同様に、正極2が炭素を含有しないため、放電の際に正極2上に金属炭酸塩が生成されることを防止することができ、金属空気電池1bの充電電圧を低くすることができる。また、正極2と負極3との間に隔壁層7aを設けることにより、第2の実施の形態と同様に、充電の際における負極3上のデンドライトの成長を抑制し、短絡が発生することを防止することができる。さらに、第1電解質層4の電解液に対して撥液性を有する撥液層29が正極2に設けられることにより、当該電解液の漏出を防止することができる。金属空気電池1bでは、特に、セパレータである隔壁層7aの設置に第2電解質層6による支持が必要ないため、第2電解質層6の材料選択の自由度が向上される。
【0047】
次に、本発明の第4の実施の形態に係る金属空気電池について説明する。図7は、第4の実施の形態に係る金属空気電池1cの横断面図である。金属空気電池1cは、第1電解質層4と隔壁層7との間に隔壁支持層71を備える点を除き、図4および図5に示す金属空気電池1aと同様の構成を有し、以下の説明では、対応する構成に同符号を付す。
【0048】
隔壁支持層71は、セラミックや金属、無機材料または有機材料等により、押し出し成形、CIPおよび焼成、または、HIP等の方法で形成された多孔質部材であり、孔内に第1電解質層4の水系の電解液が含浸する。薄膜状の固体電解質である隔壁層7は、隔壁支持層71の外側面上および外底面上にて隔壁支持層71により支持(担持)される。金属空気電池1cにおける放電および充電の際の反応は、第2の実施の形態に係る金属空気電池1aと同様である。
【0049】
金属空気電池1cでは、第1ないし第3の実施の形態と同様に、正極2が炭素を含有しないため、放電の際に正極2上に金属炭酸塩が生成されることを防止することができ、金属空気電池1cの充電電圧を低くすることができる。また、正極2と負極3との間に隔壁層7および隔壁支持層71を設けることにより、第2の実施の形態と同様に、充電の際における負極3上のデンドライトの成長を抑制し、短絡が発生することを防止することができる。さらに、第1電解質層4の電解液に対して撥液性を有する撥液層29が正極2に設けられることにより、当該電解液の漏出を防止することができる。上述のように、金属空気電池1cでは、隔壁層7が隔壁支持層71により支持されており、第2電解質層6による隔壁層7の支持が必要ないため、第2電解質層6の材料選択の自由度が向上される。
【0050】
次に、本発明の第5の実施の形態に係る金属空気電池について説明する。図8は、第5の実施の形態に係る金属空気電池1dの縦断面図である。金属空気電池1dは、第2電解質層6が、第2電解質層6の非水系または水系の電解液を循環させる循環機構81に接続される点、および、第1電解質層4が、第1電解質層4の水系の電解液を交換する交換機構に接続される点を除き、図7に示す金属空気電池1cと同様の構成を有し、以下の説明では、対応する構成に同符号を付す。
【0051】
図8に示すように、金属空気電池1dの側部には、第2電解質層6に電解液を供給する供給口61、および、第2電解質層6の電解液が排出される排出口62が形成される。供給口61および排出口62は管路63を介して循環機構81に接続され、排出口62から排出された電解液は、循環機構81を介して供給口61から第2電解質層6に再度供給される。これにより、第2電解質層6内に電解液の流れが生じ、金属空気電池1dの充電時におけるデンドライトの発生や成長が抑制される。また、循環機構81にはフィルターが設けられており、充電時等に負極導電層32から金属の薄片が剥落した場合等、当該金属が循環機構81において回収される。
【0052】
金属空気電池1dには、第1電解質層4に電解液を供給する供給口41、および、第1電解質層4の電解液が排出される排出口42が形成される。供給口41は上記交換機構の供給機構821に接続され、供給機構821から新たな電解液が第1電解質層4に供給される。排出口42は交換機構の回収機構822に接続され、第1電解質層4から排出された電解液が回収機構822に回収される。これにより、金属空気電池1dの放電時に、第1電解質層4の電解液が金属水酸化物により飽和することが防止され、金属空気電池1dの放電時間を増大させることができる。回収機構822により回収された電解液からは金属(負極導電層32を形成する金属)が回収される。当該金属は、金属空気電池の負極導電層32として再利用されてもよい。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0054】
図1、図4、並びに、図6ないし図8の金属空気電池1,1a〜1dでは、撥液層29が正極導電層22と正極支持部21との間に設けられるが、金属空気電池1の設計によっては、撥液層29が正極支持部21の内側(中心軸J1側)に設けられてもよい。
【0055】
負極3では、負極支持部31は、必ずしも導電性材料により形成される必要はなく、負極支持部31が絶縁体により形成される場合には、負極集電端子33は、負極支持部31を貫通して負極導電層32に電気的に接続される。また、必ずしも負極支持部31は設けられる必要はなく、亜鉛や亜鉛合金により負極3全体が形成されてもよい。負極導電層32は、放電の際に酸化されて金属イオンを生成する金属を含む様々な材料により形成されてよい。
【0056】
正極2では、正極支持部21が導電性材料により形成されている場合、正極集電体24が省略されて正極支持部21の内側面に正極集電端子25が設けられてよい。また、正極導電層22がある程度の厚さを有している場合、正極導電層22を支持する正極支持部21は省略されてもよい。この場合、正極集電端子25は正極導電層22の内側面に設けられる。
【0057】
金属空気電池では、正極支持部21の材料と正極導電層22の材料(すなわち、ペロブスカイト型酸化物)とが混合されたものから導電層が形成され、当該導電層上に正極触媒層23が形成されて正極2とされてもよい。また、正極支持部21、正極導電層22および正極触媒層23の各材料が混合されたものから正極2が形成されてもよい。いずれの場合であっても、正極2が、導電性を有するペロブスカイト型酸化物、および、酸素還元反応を促進する触媒を含むとともに炭素を含んでいないため、金属空気電池の放電の際に、負極3に含まれる金属の炭酸塩が正極2上に生成されることを防止することができる。
【0058】
上記実施の形態では、正極2に接する電解質層4にて水系の電解液が用いられ、撥液層29(または、図3の正極2aにおいて撥液層を兼ねる正極触媒層23a)が撥水性を有する場合について述べたが、非水系の電解液が用いられる場合にも、当該電解液に対する撥液性を有する撥液層が正極に設けられることにより、電解液が正極を浸透して漏出することを防止することが実現される。
【0059】
上述の金属空気電池の構造は、円筒状以外の形状(例えば、平板状)の金属空気電池に適用されてもよい。また、上記実施の形態では、二次電池について説明したが、上述の金属空気電池の構造は、一次電池や燃料電池に適用されてもよい。
【0060】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせられてよい。
【符号の説明】
【0061】
1,1a〜1d 金属空気電池
2,2a 正極
3 負極
4,6 電解質層
21 正極支持部
22 正極導電層
23,23a 正極触媒層
29 撥液層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属空気電池であって、
金属を含むとともに放電の際に金属イオンを生成する負極と、
導電性を有するペロブスカイト型酸化物、および、酸素還元反応を促進する触媒を含むとともに炭素を含まず、放電の際に酸素イオンを生成する多孔質の正極と、
前記負極と前記正極との間に配置される電解質層と、
前記正極に設けられ、前記電解質層に含まれる電解液に対する撥液性を有する撥液層と、
を備えることを特徴とする金属空気電池。
【請求項2】
請求項1に記載の金属空気電池であって、
前記負極、前記正極、前記電解質層および前記撥液層が、同心の有底円筒状であることを特徴とする金属空気電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属空気電池であって、
前記正極が、
支持部と、
前記支持部上に前記ペロブスカイト型酸化物にて形成された導電膜と、
前記導電膜上に前記触媒により形成された触媒層と、
を備えることを特徴とする金属空気電池。
【請求項4】
請求項3に記載の金属空気電池であって、
前記撥液層が、前記導電膜および前記触媒層に対して前記電解質層とは反対側に設けられる多孔質部材であることを特徴とする金属空気電池。
【請求項5】
請求項3に記載の金属空気電池であって、
前記触媒層がフラクタル構造を有し、前記導電膜と前記電解質層との間に配置されるとともに、前記撥液層を兼ねることを特徴とする金属空気電池。
【請求項6】
請求項3に記載の金属空気電池であって、
前記触媒層において前記触媒が多数の島状または多孔質状に形成され、前記触媒間に前記電解液に対する撥液性を有する材料が付与されており、
前記触媒層が前記導電膜と前記電解質層との間に配置されるとともに、前記撥液層を兼ねることを特徴とする金属空気電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−104273(P2012−104273A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249938(P2010−249938)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】