説明

金属粉末成形品の密度測定方法及び密度測定装置

【課題】焼結冷鍛成形体の特に機械的強度の要求される部位の密度を精度良く測定できる密度測定装置を提供する。
【解決手段】圧縮成形された成形体を焼結した後の予備成形プリフォームを、冷間鍛造して得られる歯車4の機械的強度を要する歯先4aの肉厚dを計測する肉厚計測工程と、水槽10内に水没させた前記歯車4の歯先4aに超音波照射器から超音波を照射し、その反射波を測定することによって超音波の伝播時間tを測定する伝播時間測定工程と、前記肉厚値と伝播時間とに基づいて前記歯先の密度を算出する密度算出工程と、前記鍛造成形体全体の密度基準値と前記歯先の密度値とを比較して前記成形体の良否の判定を行う判定工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば歯車などの金属粉末成形品、特に焼結冷間鍛造によって成形された金属粉末成形品の内部密度を計測する密度計測方法及び密度計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の従来の多孔質の金属粉末成形品の内部密度を測定する方法としては、例えば以下の特許文献1に記載されているアルキメデス原理を利用した液中秤量法が一般に知られている。
【0003】
この液中秤量法は、液体中の物体はそれが排除した液体の重さに等しい浮力を受けて軽くなるという原理を利用したもので、金属粉末成形品全体を水槽内に没入させて、その排除された液体と空気中の前記成形品の重量差から、その液体の密度を既知として前記成形品の体積を出して密度を測定するようになっている。
【0004】
また、他の密度測定方法としては、いわゆる超音波密度測定方法がある。この測定方法は、金属粉末成形品に超音波を照射してその反射波を測定することによって伝播時間を測定し、前記成形品の肉厚と前記伝播時間に基づいて密度を測定するようになっている。
【特許文献1】特開2001−153779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液中秤量法の密度測定方法は、金属粉末成形品の全体の密度は計測できるものの、該成形品の部分的な密度計測を正確に行えないおそれがある。
【0006】
一方、前記超音波密度測定方法は、金属粉末成形品の成形過程で鍛造加工を用いるものにあっては、鍛造加工による残留応力や異方性、鍛造フロー(塑性流動)などの影響によって音速が遅くなり、前記成形品の音速と密度の比例関係式とずれが生じて、特に前記鍛造フローが発生する部位の正確な密度測定が困難である。
【0007】
すなわち、前記金属粉末成形品の成形方法として、金属粉をダイス内で圧縮成形して焼結した後に、この焼結プリフォームを冷間鍛造を行って高密度で機械的強度の強い成形品を得るものが提供されているが、前記冷間鍛造時に、成形品の一部にいわゆる冷鍛フローが発生して、該成形品の各部の内部密度が異なってしまう。
【0008】
特に、この冷間鍛造を加えた成形品は、複雑な形状が多いため内部組織に冷鍛フローが発生し易く、各部の内部密度分布が不均一になりやすい。このため、かかる冷鍛フローが発生している部位の密度測定を正確に行えないおそれがある。
【0009】
本発明はこのような課題に着目して案出されたもので、金属粉末成形品の鍛造フローの発生している部位の密度も正確に測定することができる密度測定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、金属粉を圧縮して圧粉成形体を成形し、その後、該圧粉成形体を鍛造して鍛造成形体を成形し、この鍛造成形体の密度を超音波を利用して測定する金属粉末成形品の密度測定方法であって、前記鍛造成形体の密度測定部位の肉厚を計測する肉厚計測工程と、少なくとも機械的強度を要する前記密度測定部位に超音波を照射し、その反射波を測定することによって超音波の伝播時間を測定する伝播時間測定工程と、前記肉厚計測工程で得られた肉厚値と前記伝播時間測定工程で得られた伝播時間とに基づいて前記密度測定部位の密度を算出する密度算出工程と、予め設定された密度基準値と前記密度算出工程によって求められた密度値とを比較して前記鍛造成形体の良否の判定を行う判定工程と、を備えたことを特徴としている。
【0011】
この発明によれば、金属粉末成形品として例えば歯車を用いた場合は、機械的強度が要求される(品質を保証する上で重要な部位)歯先を密度測定部位とし、前記各工程によって歯先の肉厚を測定すると共に、超音波を照射して個別的に密度を測定する。
【0012】
これによって、同一形状の歯車の歯先の密度を連続かつ大量に検査することが可能になると共に、鍛造成形体の内部組織の流れ(鍛造フロー)の影響によらずに精度の良い密度測定が可能になる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、圧縮成形された成形体を焼結した後に鍛造された鍛造成形体の少なくとも機械的強度を要する所定部位の肉厚を計測する肉厚計測工程と、前記所定部位に超音波を照射し、その反射波を測定することによって超音波の伝播時間を測定する伝播時間測定工程と、前記肉厚計測工程で得られた肉厚値と前記伝播時間測定工程で得られた伝播時間とに基づいて前記所定部位の密度を算出する密度算出工程と、前記鍛造成形体全体の最低限必要な密度として予め設定された密度基準値と前記所定部位の密度算出工程によって求められた密度値とを比較して前記成形体の良否の判定を行う判定工程と、を備えたことを特徴としている。
【0014】
この発明によれば、金属粉末成形品全体の密度を測定する前に、該金属粉末成形品の一部をサンプルとして取り出し、このサンプルの密度を個別的に測定し、その後に、金属粉末成形品全体の密度を測定して、この成形品全体の密度と前記サンプル密度とを比較して各部位ごとに密度を計測することから、該各部位の密度を正確に計測することが可能になる。
【0015】
請求項3に記載の発明にあっては、前記密度算出工程は、前記所定部位の内部組織形状に応じた密度算出値を補正値として、前記密度基準値に対して補正密度算出値を算出することを特徴ととしている。
【0016】
この発明によれば、基準となる密度値に、例えば冷間鍛造成形体の内部組織の流れ、つまり、いわゆる鍛造フローに応じた密度補正値を加算あるいは乗算することによって、複数箇所の所定部位がある場合でも、冷間鍛造による金属粉末成形品の密度を正確に計測することが可能になる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、金属粉末成形品を水没させる水槽と、前記金属粉末成形品の少なくとも機械的強度が要求される所定部位の肉厚を計測する肉厚計測器と、前記所定部位に超音波を照射する超音波照射器と、該超音波照射器から前記所定部位に発信された後の反射波を測定する探触子と、前記肉厚計測器と探触子からの出力信号により前記所定部位の密度を算出する密度演算装置と、予め設定された密度基準値と前記密度演算装置によって算出された所定部位の密度値とを比較して金属粉末成形体の密度の良否を判定する判定手段と、を備えたことを特徴としている。
【0018】
この発明は、請求項1の発明と同じく、金属粉末成形品として例えば歯車を用いた場合は、品質を保証する上で重要な部位となる歯先を所定部位とし、前記各工程によって歯先の肉厚を測定すると共に、超音波を照射して個別的に密度を測定する。
【0019】
これによって、同一形状の歯車の歯先の密度を連続かつ大量に検査することが可能になると共に、鍛造成形体の内部組織の流れ(鍛造フロー)の影響によらずに精度の良い密度測定が可能になる。
【0020】
請求項5に記載の発明にあっては、前記金属粉末成形品は、金属粉を圧縮成形により成形された圧粉成形体を仮焼結して冷間鍛造用成形体を成形し、該冷間鍛造用成形体を冷間鍛造した後に、本焼結した焼結成形体によって構成したことを特徴としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る密度測定方法及び密度測定装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
まず、密度測定の対象となる金属粉末成形品について説明する。この金属粉末成形品は、本出願人が先に出願した例えば特開2004−18958号公報に記載された焼結冷間鍛造方法によって成形されたものである。
【0023】
この焼結冷間鍛造方法の工程を簡単に説明すると、第1の仮成形工程では、金属粉を仮成形ダイス内に充填し、このダイス内で圧粉成形して図1Aに示すような予備焼結プリフォーム1(圧粉体)を形成する。本実施形態における予備成形プリフォーム1の密度は、7.0g/cm3以上がが望ましい。
【0024】
さらにこの予備焼結プリフォーム1を第2の仮焼結する。この第2の仮焼結工程は、1000℃の還元雰囲気中で行い、所定硬さの仮焼結プリフォーム2を形成する。
【0025】
次に、仮焼結プリフォーム2(冷間鍛造用プリフォーム)に再圧縮処理又は再加圧処理として冷間鍛造を施す。
【0026】
この冷間鍛造工程によって、前記冷間鍛造用プリフォーム2を鍛造ダイス内に装填して、同図Cに示すような歯車型プリフォーム3を形成する。この場合の成形圧力は、最終製品の密度によって各種選択可能であるが、密度7.5g/cm3以上の製品を得るためには、7ton/cm2以上の圧力で加圧成形(鍛造)される。
【0027】
前記冷間鍛造工程を終えた成形品は、本焼結工程において1100℃〜1300℃で焼結され、さらに熱処理工程において所定の熱処理が施される。
【0028】
これによって、焼結鍛造成形体の密度が7.5g/cm3以上の高密度組成の歯車(金属粉末成形品)4が得られる。
【0029】
なお、本実施形態においては冷間鍛造の工程の後に、本焼結と熱処理の工程を行っているが、かかる本焼結と熱処理工程を省略することも可能である。
【0030】
また、圧粉成形の密度や仮焼結工程における温度設定は使用する材料によって適宜調整をすることも可能である。
【0031】
そして、以下の一連の工程において前記高密度組成の歯車4の密度を測定する。特に、高い機械的強度が要求される前記歯車4の歯先4aは、前述したように、前記冷間鍛造時に冷鍛フローが発生し、この冷鍛フローが一定でなくなるため、従来の焼結体に対する密度測定方法では正確な密度測定ができない。
【0032】
したがって、この実施形態では、前記歯車4の所定部位として歯先4aの密度を測定対象とした。
【0033】
まず、前記冷間鍛造後に、複数の前記歯車4の一部を抜き取って、この一部の歯車4を、図2に示すような、厚さ4〜5mm程度にスライス状にカットしたサンプル材5を取り出す。このサンプル材5は、上下面を平面研磨して平行度が0.01程度に設定する。
【0034】
次に、このサンプル材5を、超音波測定方法によって全体の密度を測定する。具体的には、後述するような一連の工程と同じ工程を踏まえて密度測定するが、ここでは、簡単に説明する。すなわち、前記サンプル材5の肉厚を測定し、その後、該サンプル材5を水槽内に水没させて、その全体を超音波スキャニングして、前記肉厚値と超音波の伝播時間とに基づいて音速を算出し、密度と前記肉厚値が既知の標準サンプルを用いて図3に示す2次曲線の検量線Lを作成する。この検量線Lと測定した前記音速とによって密度を算出する。つまり、前記検量線Lを用いて音速分布データを密度分布データに変換して密度マップを創生する。そして、この検量線Lに基づいて必要密度の基準値を予め設定しておく。なお、図3のL’は、前述のような冷間鍛造を行わずに、単に焼結成形した金属粉末成形品を前述のような方法で作成した検量線である。
【0035】
次に、前記焼結冷鍛によって成形された歯車4の高い機械的強度が要求される各歯先4aの密度測定方法について説明する。
【0036】
まず、図4Aに示すように、前記各歯先4aの高さd(肉厚)を図外の肉厚測定器によって計測し(肉厚計測工程)、その後、図4Bに示すように、歯車4の全体を水槽10内に水没させて、図外の超音波照射器から前記各歯先4aの一側面に超音波を照射する。この照射された音波の表面反射(Sエコー)と底面反射(Bエコー)との間の時間差から伝播時間(TOF)を探触子11によって測定する(伝播時間測定工程)。この測定は、個々の歯先4a毎に順次連続して行われる。
【0037】
続いて、測定された前記肉厚値dと伝播時間tに基づいて音速2d/tを算出し、この音速と前記密度検量線Lから密度変換を行って各歯先4aの密度を算出する(密度算出工程)。
【0038】
次に、前記算出密度が、強度上必要な密度値として前記密度マップから求められる基準値(例えば7.7Mg/m3)と比較して歯先4aの良否を判定する(判定工程)。つまり、前記算出密度が基準密度よりも大きい場合は、良品として次工程に進み、小さい場合はNG品として払い出し廃棄される。
【0039】
このように、機械的強度が要求される(品質を保証する上で重要な部位)歯先4aを所定部位とし、前記各工程によって歯先4aの密度を測定する。このため、同一形状の歯車4の各歯先4aの密度を連続かつ大量に検査することが可能になると共に、焼結冷鍛成形体の内部組織の流れ(鍛造フロー)の影響によらずに精度の良い密度測定が可能になる。
【0040】
また、前記密度算出工程では、各歯先4aの冷鍛フローに応じた検量線データ補正値を、基準密度算出値に加算あるいは乗算して、密度分布データを補正する。かかる補正による密度分布データによって、より正確な密度測定が可能になる。
【0041】
さらに、他の密度測定方法としては、前記検量線Lと機械的強度上必要な密度値からしきい値となる音速を求めて基準値を設定し、この基準値と対象歯先4aの前記音速から判別を行うことも可能である。
【0042】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば金属粉末成形品として、歯車以外の部品などに適用することも可能であり、したがって、所定部位としても歯先以外に他の部品の機械的強度が要求される部位を対象とする。また、密度測定工程を適宜変更することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】A〜Cは本発明に係る密度測定方法に供される金属粉末成形品が成形される成形工程の概略図である。
【図2】前記金属粉末成形体の一部をスライス状にカットしたカット品の斜視図である。。
【図3】本実施形態における密度測定方法に供される検量線と、焼結成形のみによって成形された成形品の検量線を比較して示す図である。
【図4】A、Bは本実施の形態における歯先の密度測定方法及び密度測定装置を示す概略ずである。
【符号の説明】
【0044】
1…予備成形プリフォーム(圧粉体)
2…仮焼結プリフォーム(冷間鍛造用プリフォーム)
3…歯車型プリフォーム
4…歯車(金属粉末成形品)
4a…歯先
10…水槽
11…探触子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉を圧縮して圧粉成形体を成形し、その後、該圧粉成形体を鍛造して鍛造成形体を成形し、この鍛造成形体の密度を超音波を利用して測定する金属粉末成形品の密度測定方法であって、
前記鍛造成形体の少なくとも機械的強度を要する所定部位の肉厚を計測する肉厚計測工程と、
前記所定部位に超音波を照射し、その反射波を測定することによって超音波の伝播時間を測定する伝播時間測定工程と、
前記肉厚計測工程で得られた肉厚値と前記伝播時間測定工程で得られた伝播時間とに基づいて前記所定部位の密度を算出する密度算出工程と、
予め設定された密度基準値と前記密度算出工程によって求められた密度値とを比較して前記鍛造成形体の良否の判定を行う判定工程と、
を備えたことを特徴とする金属粉末成形品の密度測定方法。
【請求項2】
圧縮成形された成形体を焼結した後に鍛造された鍛造成形体の少なくとも機械的強度を要する所定部位の肉厚を計測する肉厚計測工程と、
前記所定部位に超音波を照射し、その反射波を測定することによって超音波の伝播時間を測定する伝播時間測定工程と、
前記肉厚計測工程で得られた肉厚値と前記伝播時間測定工程で得られた伝播時間とに基づいて前記所定部位の密度を算出する密度算出工程と、
前記鍛造成形体全体の最低限必要な密度として予め設定された密度基準値と前記所定部位の密度算出工程によって求められた密度値とを比較して前記成形体の良否の判定を行う判定工程と、
を備えたことを特徴とする金属粉末成形品の密度測定方法。
【請求項3】
前記密度算出工程は、前記所定部位の内部組織形状に応じた密度算出値を補正値として、前記密度基準値に対して補正密度算出値を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の金属粉末成形品の密度測定方法。
【請求項4】
金属粉末成形品を水没させる水槽と、
前記金属粉末成形品の少なくとも機械的強度が要求される所定部位の肉厚を計測する肉厚計測器と、
前記所定部位に超音波を照射する超音波照射器と、
該超音波照射器から前記所定部位に発信された後の反射波を測定する探触子と、
前記肉厚計測器と探触子からの出力信号により前記所定部位の密度を算出する密度演算装置と、
予め設定された密度基準値と前記密度演算装置によって算出された所定部位の密度値とを比較して金属粉末成形体の密度の良否を判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とする密度測定装置。
【請求項5】
前記金属粉末成形品は、金属粉を圧縮成形により成形された圧粉成形体を仮焼結して冷間鍛造用成形体を成形し、該冷間鍛造用成形体を冷間鍛造した後に、本焼結した焼結成形体によって構成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属粉末成形品の密度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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