説明

金属組織計測方法および金属組織計測装置

【課題】超音波を用いて非破壊により鋼材内部の微細構造を計測可能な金属組織計測方法および金属組織計測装置を提供する。
【解決手段】超音波プローブから被測定材としての金属に対して超音波を送信し、内部からの後方散乱波を計測することにより被測定材内の結晶とは異なる微細粒、または微細構造および結晶粒を計測するために、送信する前記超音波の被測定部での中心波長が、前記結晶粒の平均粒径の5倍以下であり、かつ、微細粒の平均粒径の5倍以上である超音波を用いて後方散乱波を計測し、計測した前記後方散乱波から結晶粒による後方散乱波成分を取り除き、微細粒による後方散乱波成分を抽出し、抽出した前記微細粒による後方散乱波成分から、微細粒の体積密度、数密度、及び平均粒径のうちの少なくとも一つを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて鋼材内部の微細構造を計測する金属組織計測方法および金属組織計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料の結晶粒径や微細析出物などの微細構造は、引張強さなどの材質特性に影響を与えるため、従来から微細構造の評価技術が求められている。一方、たとえば顕微鏡観察により微細構造を評価することはできるが、試験片の切り出しや観察面の研磨などに多くの労力を要することから、非破壊による微細構造の評価技術が強く望まれている。そのような背景から、特許文献1には、超音波を用いて非破壊により結晶粒径を計測する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/148655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、金属材料の材質特性に影響を与える要因は、結晶粒径のみならず、結晶粒の内部や結晶粒界に存在する結晶粒より小さい微細析出物などの微細粒の微細構造があげられる。しかしながら、特許文献1に記載されている技術によれば、結晶粒径しか計測することができない。このため、被測定材内部の微細構造を計測可能な技術の提供が期待されていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、超音波を用いて非破壊により鋼材内部の微細構造を計測可能な金属組織計測方法および金属組織計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる金属組織計測方法は、超音波プローブから被測定材としての金属に対して超音波を送信し、内部からの後方散乱波を計測することにより被測定材内の結晶粒とは異なる微細粒、または微細構造および結晶粒を計測する金属組織計測方法であって、送信する前記超音波の被測定部での中心波長が、前記結晶粒の平均粒径の5倍以下であり、かつ、微細粒の平均粒径の5倍以上である超音波を用いて後方散乱波を計測する計測ステップと、計測した前記後方散乱波から結晶粒による後方散乱波成分を取り除き、微細粒による後方散乱波成分を抽出する抽出ステップと、抽出した前記微細粒による後方散乱波成分から、微細粒の体積密度、数密度、及び平均粒径のうちの少なくとも一つを求める評価ステップと、を含むことを特徴とする。
【0007】
また、本発明にかかる金属組織計測方法は、上記の発明において、前記抽出ステップは、計測した前記後方散乱波を周波数解析し、周波数に依存しない結晶粒による後方散乱波成分を取り除くことによって、周波数に依存する微細粒による後方散乱波成分を抽出するステップを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明にかかる金属組織計測方法は、上記の発明において、前記抽出ステップは、被測定部での中心波長が前記結晶粒の平均粒径の5倍以上である超音波を送信し、結晶粒の平均粒径を測定することにより、結晶粒による後方散乱波成分を特定するステップを含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる金属組織計測装置は、超音波プローブから被測定材としての金属に対して超音波を送信し、内部からの後方散乱波を計測することにより被測定材内の結晶粒とは異なる微細粒、または微細構造および結晶粒を計測する金属組織計測装置であって、送信する前記超音波の被測定部での中心波長が、前記結晶粒の平均粒径の5倍以下であり、かつ、微細粒の平均粒径の5倍以上である超音波を用いて後方散乱波を計測する計測手段と、計測した前記後方散乱波から結晶粒による後方散乱波成分を取り除き、微細粒による後方散乱波成分を抽出する抽出手段と、抽出した前記微細粒による後方散乱波成分から、微細粒の体積密度、数密度、及び平均粒径のうちの少なくとも一つを求める評価手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、超音波を用いて鋼材内部の微細構造を非破壊で計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る金属組織計測装置の構成を模式的に示したブロック図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る超音波計測処理手順を示すフローチャートである。
【図3】図3は、図2のステップS3の詳細な手順の例1を示すフローチャートである。
【図4】図4は、図2のステップS3の詳細な手順の例2を示すフローチャートである。
【図5】図5は、図2のステップS3の詳細な手順の例3を示すフローチャートである。
【図6】図6は、本発明の実施例にかかるシミュレーションモデルの構成を示す図である。
【図7】図7は、図6のモデルによるシミュレーションにおける送信信号の波形を示す図である。
【図8】図8は、図6のシミュレーションモデルのケース1について後方散乱波を取得する手順の説明図である。
【図9】図9は、図6のモデルによるシミュレーションの結果得られた周波数ごとの散乱係数を示す図である。
【図10】図10は、図9の結果から得られた評価値と、比較例による評価値とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して、本発明に係る金属組織計測方法および金属組織計測装置の実施の形態について説明する。なお、この実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る金属組織計測装置の構成を模式的に示したブロック図である。図1に示すように、この金属組織計測装置10は、超音波プローブ1と、超音波送信部2と、超音波受信部3と、散乱波成分抽出部4と、評価値算出部5と、図示しない制御部とを有する。
【0014】
超音波プローブ1は、超音波送信部2と超音波受信部3とを有する。超音波送信部2は、被測定材としての金属の微細構造を非破壊により計測するための超音波を超音波プローブ1から送信する。また、超音波受信部3は、この送信した超音波の被測定部からの後方散乱波(計測信号)を超音波プローブ1にて受信する。なお、超音波送信部2と超音波受信部3とは、同一の超音波プローブ1に取り付けてもよいし、別体の超音波プローブ1に取り付けてもよい。また、超音波プローブ1は、単一振動子で実現してもよいし、アレイ型振動子で実現してもよい。
【0015】
散乱波成分抽出部4は、計測信号から微細粒による後方散乱波成分を抽出する。また、評価値算出部5は、抽出された微細粒による後方散乱波成分から微細粒の評価値を算出する。制御部は、処理プログラム等を記憶したメモリおよび処理プログラムを実行するCPU等を用いて実現され、金属組織計測装置10の各構成部を制御する。
【0016】
ここで、図2に示したフローチャートを参照して、金属組織計測装置10による金属組織計測処理手順について説明する。図2に示すフローチャートは、オペレータにより被測定部に対する金属組織計測指示入力があったタイミングで開始され、金属組織計測処理はステップS1の処理に進む。
【0017】
ステップS1の処理では、超音波送信部2は、被測定部に超音波を照射するとともに、制御部は、送信超音波の被測定部における波長λや強度Aなどの送信信号の情報を取得する。これによりステップS1の処理は完了し、金属組織計測処理はステップS2の処理に進む。
【0018】
なお、本発明においては、結晶粒径(結晶粒の直径)をD、微細粒径(微細粒の直径)をdとする場合に、計測に使用する超音波の被測定部における波長λが以下の式を満たすように、送信超音波の波長を決定する。
【0019】
【数1】

【0020】
ただし、上記の式(1)は通常の場合に満たされるため、式(2)を満たすことを条件とすればよい。
【0021】
ここで、λは、被測定部における超音波の波長であって、超音波の送信時の波長とは異なり、音速の違いや被測定部までの路程での減衰の周波数依存性などの要因により変化する。また、計測には広帯域超音波を使用しているために様々な波長の超音波が合成されており、その中心波長をλとする。被測定部にて受信された後に周波数解析を行なうことにより波長ごとの超音波が分離できる場合には、分離された波長がλに相当する。
【0022】
超音波の送信方向について、図1に示すように、被測定材の表面に対して所定の角度で傾けるとよい。このように傾けることにより、被測定材の表面からの反射を受信する度合いを減らすことができる。また、被測定部内で横波が発生するが、横波は縦波より波長が短く、上記の式(2)を容易に満たすことができる。ただし、被測定材の表面に対して垂直に超音波を送信する方法も本発明に適用可能である。
【0023】
また、ここでは超音波ビームを集束させることにより、被測定材の特定の領域(被測定部)にのみ超音波が強く照射されるようにしている。被測定材の微細構造が領域により異なる場合にも、本発明により特定の領域の微細構造を測定できる。ただし、超音波ビームを集束させない方法も本発明に適用可能である。
【0024】
ステップS2の処理では、超音波受信部3は、この送信した超音波の被測定部からの後方散乱波(計測信号)を超音波プローブ1にて受信して、計測信号の周波数や強度などの情報を取得する。これによりステップS2の処理は完了し、金属組織計測処理はステップS3の処理に進む。
【0025】
ここで、後方散乱波は、微小な反射体からの反射波が重なったものであり、個々の反射体からの反射を考慮することで特定できる。下記文献1によれば、超音波送信部2の振動子から球体反射体の距離をx、球体反射体の半径をr、反射体に照射された超音波の強度をAとすると、後方散乱波の反射強度Aは、以下の式を満たすことが知られている。
【0026】
【数2】

【0027】
[文献1]超音波探傷試験2001年版、(社)日本非破壊検査協会
【0028】
また、一般に、音速をcとすると、周波数fは波長λとの間に以下の式が成立する。
【数3】

【0029】
本発明においては、上記の式(3),(4)に基づいて、ステップS1において、計測に使用する超音波の被測定部における波長λを、式(1),(2)を満たすように決定した。
【0030】
そうすると、結晶粒からの後方散乱波の強度Aおよび微細粒からの後方散乱波の強度Aは、以下の式で表すことができる。
【0031】
【数4】

ただし、Cは、結晶粒と測定条件によって決まる定数であって、(D/x)に比例する。またCは、微細粒と測定条件によって決まる定数であって、(d/x)に比例する。
【0032】
また、この場合に後方散乱波として計測される波動の強度Atotalは、AとAの和で表され、以下の式を満たす。
【数5】

【0033】
ステップS3の処理では、散乱波成分抽出部4が、計測信号の情報と上記の式(6)〜(8)に基づいて、後方散乱波の微細粒による後方散乱波成分を抽出する処理を行なう。上記の式(8)からわかるように、後方散乱波の結晶粒による後方散乱波成分は周波数fに依存せず、後方散乱波の微細粒による後方散乱波成分は周波数fに依存する。したがって、後方散乱波の微細粒による後方散乱波成分を抽出する処理は、すなわち、周波数fに依存する成分を抽出する処理に他ならない。ステップS3の後方散乱波から微細粒による後方散乱波成分を抽出する処理は、以下に例示するように様々に実現可能である。
【0034】
(例1)
図3は、ステップS3の後方散乱波から微細粒による後方散乱波成分を抽出する処理を詳述した例1のフローチャートである。ステップS311の処理では、上記のステップS1で取得した送信信号の情報に基づいて、周波数解析を行って周波数fごとの強度Aを取得する処理を行なう。次いで、ステップS312の処理では、ステップS2で取得した後方散乱波の情報に基づいて、周波数解析を行って周波数fごとの強度Atotalを取得する処理を行なう。次に、ステップS313の処理では、ステップS311およびステップS312の結果に基づいて、周波数fごとの散乱係数(Atotal/A)を取得する処理を行なう。そして、ステップS314の処理では、式(8)に基づいて、Cを算出する処理を行なう。これにより、ステップS3の微細粒による後方散乱波成分を抽出する処理は完了し、金属組織計測処理はステップS4の処理に移行する。
【0035】
なお、ステップS313の処理で取得した、周波数fごとの散乱係数(Atotal/A)に基づいて、式(8)によりCを算出することも可能である。これにより、結晶粒による後方散乱波成分が抽出される。
【0036】
(例2)
図4は、ステップS3の後方散乱波から微細粒による後方散乱波成分を抽出する処理を詳述した例2のフローチャートである。ステップS321の処理では、結晶粒径Dを計測する処理を行なう。たとえば、特許文献1に記載の方法を適用して結晶粒径Dを計測する。次いで、ステップS322の処理では、ステップS321で計測した結晶粒径Dに基づいてCを算出する処理を行なう。次に、ステップS323の処理では、ステップS1で取得した送信信号の強度Aと、ステップS322で算出したCに基づいて、式(6)よりAを取得し、ステップS2で取得した後方散乱波の強度AtotalからAを減算することにより、微細粒による後方散乱波の強度Aを取得する処理を行なう。このステップS323の処理においては、周波数解析はとくに行なう必要はない。その後、ステップS324の処理では、式(7)に基づいて、Cを算出する処理を行なう。これにより、ステップS3の微細粒による後方散乱波成分を抽出する処理は完了し、金属組織計測処理はステップS4の処理に移行する。
【0037】
なお、結晶粒径Dの計測時の超音波波長λ’は、以下の式を満たすように決定することが望ましい。一般に結晶粒による散乱の影響は微細粒による散乱の影響より大きいことに加え、この場合には、結晶粒による後方散乱波と微細粒による後方散乱波の双方とも周波数に依存するため(式(4)参照)、全周波数領域において微細粒による散乱の影響を小さくすることができるため、結晶粒の測定には好都合である。
【0038】
【数6】

【0039】
(例3)
図5は、ステップS3の後方散乱波から微細粒による後方散乱波成分を抽出する処理を詳述した例3のフローチャートである。この例3は、結晶粒径Dによる後方散乱波への影響が予測できる場合に適用される。たとえば、製造条件などにより予測できる場合や、測定対象の結晶粒径がほぼ一定で測定が不要な場合などがこれに相当し、Cあるいは結晶粒からの後方散乱波の強度Aを取得可能である。
【0040】
そこで、ステップS331の処理では、結晶粒からの後方散乱波の強度Aを取得する処理を行なう。次に、ステップS332の処理では、ステップS1で取得した送信信号の強度Aと、ステップS331で取得したAに基づいて、ステップS2で取得した後方散乱波の強度AtotalからAを減算することにより、微細粒による後方散乱波の強度Aを取得する処理を行なう。その後、ステップS333の処理では、式(7)に基づいて、Cを算出する処理を行なう。これにより、ステップS3の微細粒による後方散乱波成分を抽出する処理は完了し、金属組織計測処理はステップS4の処理に移行する。
【0041】
ステップS4の処理では、評価値算出部5が、抽出された微細粒による後方散乱波成分の係数Cに基づいて、微細粒の評価値を算出する処理を行なう。評価値として、たとえば、単位体積あたりの微細粒の数(数密度)や、単位体積あたりに占める微細粒の体積(体積密度)や、微細粒の粒径などを算出する。
【0042】
ここで、数密度がNである複数の微細粒からの後方散乱波の強度Aは、各微細粒からの後方散乱波の強度aに依存する。複数の微細粒からの後方散乱波の位相が揃う場合には、AはaのN倍であることが知られている。また、複数の微細粒からの後方散乱波の位相が揃わない場合には、Aはaの√N倍であることが知られている。
【0043】
そこで、各微細粒からの後方散乱波の強度aは式(4)に従うことから、数密度N、体積密度Vである複数の微細粒からの後方散乱波の強度Aは、位相が揃うと仮定できる場合には、以下の式で表される。
【数7】

【0044】
一方、位相が揃わないと仮定すると、Aは以下の式で表すことができる。
【数8】

【0045】
上記の式(11)によれば、ステップS3で得られた微細粒による後方散乱波成分の係数Cに基づいて、微細粒の体積密度Vを評価することができる。また、上記の式(12)によれば、ステップS3で得られたCに基づいて、微細粒の数密度Nを評価することができる。さらに、上記の式(13)によれば、微細粒成分の添加量などから微細粒の体積密度Vがわかっている場合に、微細粒の粒径(微細粒の半径)rが得られる。
【0046】
以上により、ステップS4の処理が完了すると、制御部は、適宜にステップS4における評価結果をディスプレイなどに出力させ(ステップS5)、一連の金属組織計測処理は完了する。
【0047】
(実施例)
つぎに、上述した実施の形態に対応する実施例について説明する。図6に示す構成の2次元モデルにより、金属組織計測処理のシミュレーションを行なった。図6に示すように、超音波プローブ1として、超音波ビームを集束させる一探触子を用い、被測定材としての鋼の内部に、被測定部として、結晶粒を想定した直径λの球体1個の内部に、微細粒を想定した直径0.1λの球体を配置した2次元モデルについて、シミュレーションを実施した。結晶粒での反射率は10%、微細粒での反射率は100%とし、微細粒の配置条件をかえた以下の4つのケースについて、市販品の超音波伝搬FEMシミュレーションソフトを用いてシミュレーションを実施した。すなわち、ケース1では微細粒を4つ配置、ケース2では微細粒を2つ配置、ケース3では結晶粒のみで微細粒は配置なし、ケース4は結晶粒自体を配置なしとした。
【0048】
図7は、シミュレーションに用いた送信信号の波形を示す。また図8はケース1についてシミュレーションを行った結果に得られた計測信号の波形を示す。なお、ケース1の測定信号からケース4の測定信号を減算することにより、被測定材の表面での反射成分を除く後方散乱波を取得した。
【0049】
つぎに、送信信号と後方散乱波について周波数解析を行い、ケース1について周波数ごとの散乱係数A/Atotalを算出した。ケース2、ケース3についても、同様にして散乱係数を算出した。図9は、ケース1〜3について算出した周波数ごとの散乱係数を示す。図9によれば、微細粒がないケース3について、微細粒が配置されたケース1、ケース2とは周波数依存性が異なることがわかる。
【0050】
ここで、散乱係数α(f)は、上記の式(8)より以下の式を満たすことがわかる。
【数9】

【0051】
この式(14)と図9とを対照させることにより、評価値として、係数Cを得ることができる。
【0052】
図10は、本実施例により得られた評価値(係数C)の結果を示す。また、比較例として、評価値として後方散乱波の振幅(強度Atotal)を抽出した結果を示す。比較例によれば、ケース3の微細粒が配置されない場合にも、無視できない評価値が得られてしまう。これは、結晶粒による散乱も評価してしまうためである。これに対し、本実施例によれば、結晶粒による散乱の影響を受けることなく、微細粒の評価をできることがわかる。
【0053】
なお、上記の実施例では、散乱係数の計測値と式(14)と対比させることにより評価値を得たが、微細粒の評価のしかたはこれに限らない。たとえば、式(14)によれば、低周波数ではfが小さくCの影響が小さいことから、低周波数でCを求めて結晶粒を評価し、その後、高周波数でCを求めて微細粒を評価するようにしてもよい。
【0054】
以上説明したように、本発明によれば、超音波を用いて非破壊により鋼材内部の微細構造を計測することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 超音波プローブ
2 超音波送信部
3 超音波受信部
4 散乱波成分抽出部
5 評価値算出部
10 金属組織計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブから被測定材としての金属に対して超音波を送信し、内部からの後方散乱波を計測することにより被測定材内の結晶粒とは異なる微細粒、または微細構造および結晶粒を計測する金属組織計測方法であって、
送信する前記超音波の被測定部での中心波長が、前記結晶粒の平均粒径の5倍以下であり、かつ、微細粒の平均粒径の5倍以上である超音波を用いて後方散乱波を計測する計測ステップと、
計測した前記後方散乱波から結晶粒による後方散乱波成分を取り除き、微細粒による後方散乱波成分を抽出する抽出ステップと、
抽出した前記微細粒による後方散乱波成分から、微細粒の体積密度、数密度、及び平均粒径のうちの少なくとも一つを求める評価ステップと、
を含むことを特徴とする金属組織計測方法。
【請求項2】
前記抽出ステップは、計測した前記後方散乱波を周波数解析し、周波数に依存しない結晶粒による後方散乱波成分を取り除くことによって、周波数に依存する微細粒による後方散乱波成分を抽出するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の金属組織計測方法。
【請求項3】
前記抽出ステップは、被測定部での中心波長が前記結晶粒の平均粒径の5倍以上である超音波を送信し、結晶粒の平均粒径を測定することにより、結晶粒による後方散乱波成分を特定するステップを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の金属組織計測方法。
【請求項4】
超音波プローブから被測定材としての金属に対して超音波を送信し、内部からの後方散乱波を計測することにより被測定材内の結晶粒とは異なる微細粒、または微細構造および結晶粒を計測する金属組織計測装置であって、
送信する前記超音波の被測定部での中心波長が、前記結晶粒の平均粒径の5倍以下であり、かつ、微細粒の平均粒径の5倍以上である超音波を用いて後方散乱波を計測する計測手段と、
計測した前記後方散乱波から結晶粒による後方散乱波成分を取り除き、微細粒による後方散乱波成分を抽出する抽出手段と、
抽出した前記微細粒による後方散乱波成分から、微細粒の体積密度、数密度、及び平均粒径のうちの少なくとも一つを求める評価手段と、
を備えることを特徴とする金属組織計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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