説明

金属薄膜の膜特性の測定方法

【課題】 QCM(Quartz Crystal Microbalance)測定法を用いた薄膜に関する腐食速度や結着性を定量的に測定する方法を提供する。
【解決手段】 圧電振動子に50nm〜500nmの膜厚で薄膜を形成し、この薄膜に腐食性又は酸化性の物質を接触させるとともに、前記薄膜の質量変化量を前記圧電素子の物理的特性の変化を測定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜の腐食速度および結着性等の膜特性を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1や特許文献2に示されるように、一般に、金属材質の腐食測定法としては、従来からよく知られているように、重量減少測定法と分極抵抗測定法(直流分極抵抗法、交流分極抵抗法、インピーダンス法)、電気抵抗測定法とのそれぞれがある。ここで、これらの各測定法における概要を次に述べる。
【0003】
前記重量減少測定法(クーポン法または浸漬試験法とも称される)は、測定対象金属表面と同一材質の金属からなる試料試験片を腐食性の試験流体中に浸漬して腐食を進行させておき、一定期間経過(通常の場合、30日〜90日程度)後、該浸漬前後の試料試験片の腐食減量(質量差)から試験期間中の平均的な腐食速度(腐食度)を求める手段である。
【0004】
前記分極抵抗測定法は、電気化学的な分極抵抗から測定時点での腐食速度を求める手段、即ち、複数の試料試験片を相互に対極となるように腐食性の試験流体中に浸漬して腐食を進行させた状態で、該各試料試験片間に直流または交流の微弱な一定電流を通電し、該通電によって生ずる電流または電位の変化を測定することで、リアルタイムの全面腐食速度を求める手段である。
【0005】
前記電気抵抗測定法は、試料試験片を腐食性の試験流体中に浸漬して腐食を進行(該腐食に伴う試料試験片自体の断面積の減少に対応して、その電気抵抗値が増加する)させると共に、一定期間毎に該試料試験片の電気抵抗値を測定し、その測定値勾配から該当時間における平均腐食速度を求める手段である。
【0006】
しかしながら、重量減少測定法では、(a)腐食速度をリアルタイムに測定できないこと、(b)測定結果を得るまでに比較的長時間を要することなどの不利がある。分極抵抗測定法では、リアルタイムの全面腐食速度を求めることができるが、測定感度が低くて温度の影響が大であることなどの不利がある。電気抵抗測定法では、(a)腐食速度をリアルタイムに測定できないこと、(b)測定感度が低くて温度の影響が大であることなどの不利がある。
【0007】
また、これらの測定法ではある程度の大きさを持った試験片の測定は可能であるが、金属の薄膜に関しては測定することは難しい。即ち、金属薄膜の重量変化は数μgオーダーであるため、重量減少測定法では測定が難しく、分極抵抗測定法、電気抵抗測定法では、渦電流などの影響により誤差が大きくいため測定は難しい。
【0008】
【特許文献1】特開2002-286623号公報
【特許文献2】特開2004-77442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、QCM(Quartz Crystal Microbalance)測定法を用いた薄膜の腐食速度や結着性等の膜特性を定量的に測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者等は鋭意検討の結果、下記の通り解決手段を見出した。
即ち、本発明の薄膜の膜特性の測定方法は、請求項1に記載の通り、圧電振動子に50nm〜500nmの膜厚で薄膜を形成し、この薄膜に腐食性又は酸化性の物質を接触させるとともに、前記薄膜の質量変化量を前記圧電素子の物理的特性の変化に基づいて測定することを特徴とする。
また、請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の薄膜の膜特性の測定方法において、前記圧電振動子に前記腐食性又は酸化性の物質を振動させながら、前記薄膜の結着性を測定することを特徴とする。
また、請求項3に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の薄膜の膜特性の測定方法において、前記圧電振動子は、共振周波数が25MHz〜40MHzの水晶振動子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、金属製等の薄膜を蒸着等により形成した水晶発振子等の圧電素子の振動数(周波数)変化から、リアルタイムに金属薄膜の耐食性等の膜特性を測定することができる。更に、本発明では、金属薄膜の耐食性だけでなく薄膜の結着性を振動数(周波数)変化から計測することができる。加えて、金属ばかりでなく、半導体、セラミックスの薄膜に関しても本発明により測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明によれば、測定対象となる薄膜を形成した圧電素子の基準発振周波数の変化により、薄膜の腐食の進行の度合いや結着性を定量的に測定することができる。以下、金属薄膜を、圧電素子としての一例である水晶振動子に形成した例を用いて、その測定原理を説明する。
【0013】
図1に示すように、ある種の結晶では、機械的なひずみをかけると結晶内のカチオンとアニオンの相対的な位置関係が変化し、結果として両者の重心は一致しなくなり分極が生じる。この現象は圧電効果(piezoelectric effect)と呼ばれている。逆に結晶の上下に電極を取り付けて電圧を加えると、カチオンは負の電極へアニオンは正の電極へと移動し、結晶はひずみを生じることになる(逆電圧効果)。
【0014】
このような逆圧電効果を利用して水晶板の両面に電極を取り付けたものに電圧をかけてひずみを生じさせた後に印加電圧を解除すると、水晶板はずり振動を生じてから元に戻る現象を示す。このときの印加電圧を交流電場としてずり方向の共振周波数に同期させると、水晶板は発振子としてその水晶板のもつ固有振動数で共振振動させることができる。
【0015】
水晶発振子の電極上に物質が付着した場合、物質が水晶のように剛直でその付着が薄く均一であるときには、水晶板の厚みが増加したことに対応する。このような変化は揺れている振り子であれば弦の長さが長くなる変化に等しく、振り子の振動はゆっくりしたものになる。同様に水晶発振子の電極上への物質の付着は振動数の減少を引き起こす。振動数(周波数)変化ΔFと付着物質の質量変化Δmとの関係は、Sauerbrey式(数1)と呼ばれる式で表される。
【0016】
【数1】

【0017】
数1より、基本周波数F0、電極面積A、水晶のせん断応力μq、水晶の密度ρqが既知の定数であるため、振動数(周波数)変化ΔFから質量変化Δmを計算で求めることができる。
【0018】
以上のことにより、リアルタイムで金属薄膜の質量変化を測定することができるため、溶液中の金属薄膜の腐食速度を振動数(周波数)変化ΔFから算出することができる。
【0019】
本発明において、測定することができる薄膜は、金属、半導体、セラミックス等が挙げられるが、圧電素子に被膜を形成することができるものであれば特に制限するものではない。薄膜の形成方法は、金属の場合、スパッタリング、真空蒸着法などの所謂、PVD法が便利である。この他、メッキや焼き付けなどの方法でも可能である。ただし、ここに表示した方法は一例であり、本特許を拘束するものではない。半導体やセラミックス等は、金属と同じPVD法で可能であるが、この他、化学気相法(CVD法)などが便利である。尚、酸化物の場合、金属薄膜を形成後、酸化させて、酸化膜を形成させたり、窒化物の場合は、同様に金属薄膜を窒化させてもよい。また半導体の場合、半金属または絶縁体を形成後、不純物をイオン注入法で添加し、半導体を形成するなど、どの方法を用いても良い。
また、圧電素子に形成する薄膜は、50nm〜500nmとする。膜厚が薄すぎると測定誤差が大きく、厚すぎると振動ムラが発生し、測定誤差が大きくなるためである。
【0020】
本発明において、薄膜に接触させる腐食性又は酸化性物質とは、腐食性又は酸化性を有する溶液又はガスであればよい。
【0021】
また、本発明は、薄膜の結着性の測定にも使用することができる。この場合に、前記圧電振動子に接触させる前記腐食性又は酸化性の物質を振動させながら、前記薄膜の質量変化量を前記圧電素子の物理的特性の変化に基づいて測定を行うことが好ましい。
【0022】
また、前記圧電素子の共振周波数は、25MHz〜40MHzとすることが好ましい。この範囲でないと、安定、且つ、正確な測定をすることができないためである。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を示し、本発明を説明する。
【0024】
実施例1:金属薄膜の腐食速度の測定
1)水晶振動子金電極部に純度99.999%、99.99%、99.8%の鉄を膜厚200nmの厚みで真空蒸着した。
2)水晶発振装置(株式会社イニシアム製:Affinix Q4)に純度の違う金属薄膜を形成したセンサーチップをセットし、装置の測定セルに500μLの蒸留水を入れ、反応温度を25℃にセットし、蒸留水中にて振動数が安定するまで待機した。
3)各セルに1N硫酸5μLを添加し、5秒間攪拌をしてセル内の濃度を均一にした。
4)振動数変化量を計測し、モニタリングした。
【0025】
測定結果を図2に示す。図2から、鉄の純度が向上するに伴って、腐食するまでの時間が延びている。すなわち、これは純度が高いほど腐食されづらいことを示している。尚、図中純度99.999%の鉄はCH5、99.99%の鉄はCH4、99.8%の鉄はCH2で示してある。
この結果は、図3(鉄の板状ブロックを1N硫酸中に浸漬したときの、腐食に伴う重量変化である。)において、鉄の板は高純度の方が腐食されづらいことと一致している。このことから、本実施例の測定が正しく行われていることがわかる。
【0026】
実測例2:金属薄膜の結着性評価
1)水晶振動子金電極部に純度99.999%、99.99%、99.8%の鉄を膜厚200nmの厚みで真空蒸着した。
2)水晶発振装置(株式会社イニシアム製:Affinix Q4)に純度の異なる金属薄膜を形成したセンサーチップをセットし、装置の測定セルに500μLの蒸留水を入れ、反応温度を25℃にセットし、蒸留水中にて振動数が安定するまで待機した。
3)各セルに1N硫酸5μLを添加し、振動数変化量を計測し、モニタリングした。
【0027】
測定結果を図4に示す。図4から、腐食とは逆に、純度が高い方が早く重量変化が起こる。すなわち、剥離しやすいこと(結着性)がわかる。尚、図中純度99.999%の鉄はCH4、純度99.99%の鉄はCH3、純度99.8%の鉄はCH2で示してある。
この結果は、図5(実際にQCMの振動子上に成膜された鉄薄膜のスクラッチ(引っ掻き試験)の結果である。尚、図5(a)は純度99.8%の鉄、(b)は純度99.99%の鉄、(c)は純度99.999%の鉄を示す。スクラッチ試験は、RHESCA Co.,Ltd製の超薄膜スクラッチ試験機CRS−02を用いて、針の半径(r)を10μmで測定したものである。)において、鉄は高純度の方が剥離しづらいことと一致している。このことから、本実施例の測定が正しく行われていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、被着体に形成される薄膜の膜特性を極めて簡便且つ素早く測定することができるので、被膜形成装置等の広い分野で産業上利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の測定原理を示す説明図
【図2】本発明の実施例1の振動数変化量を測定結果を示す図
【図3】本発明の実施例1の振動数変化量の測定結果を確かめるための参考図
【図4】本発明の実施例2の振動数変化量の測定結果を示す図
【図5】本発明の実施例2の振動数変化量の測定結果を確かめるための参考図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子に50nm〜500nmの膜厚で薄膜を形成し、この薄膜に腐食性又は酸化性の物質を接触させるとともに、前記薄膜の質量変化量を前記圧電素子の物理的特性の変化に基づいて測定することを特徴とする薄膜の膜特性の測定方法。
【請求項2】
前記圧電振動子に前記腐食性又は酸化性の物質を振動させながら、前記薄膜の結着性を測定することを特徴とする請求項1に記載の薄膜の膜特性の測定方法。
【請求項3】
前記圧電振動子は、共振周波数が25MHz〜40MHzの水晶振動子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜の膜特性の測定方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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